日本学術会議 「9.1報告」の画期的意義
日本における最も権威ある学術団体である日本学術会議が、福島第1原発事故の子供に対する影響について「9.1報告」を公表しました。
今なお、反原発運動家、自主避難者、そして朝日、毎日、東京などのメディアを中心として、「フクシマはチェルノブイリだった」とか「甲状腺ガンが激増した」という風聞が後を断ちません。
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「特定の集団の不安が孤立化、先鋭化してきている」(「9.1報告」)傾向は今なお続いています。
どうしたことかこの人たちは、特定秘密法、安保法制、共謀罪、モリカケ、そして今の北朝鮮との対話派と完全にダブってしまっています。
それはさておき、このような悪質なプロパガンダは、復興を目指す福島県民に対して深刻な影響を与えました。
「9・1報告」はこう記述しています。
「ソーシャルメディアを介して、チェルノブイリ原発事故の再来とか、チェルノブイリや福島で観察されたものとして、動植物の奇形に関するさまざまな流言飛語レベルの情報が発信・拡散され、「次世代への影響」に関する不安を増幅する悪影響をもたらした。実際に、県民健康調査や長崎大学が川内村で実施したアンケート調査では、回答者の約半分が「次世代への影響の可能性が高い」と答えている。
また平成25(2013)年1月に福島県相馬市の医師が市内の全中学校で放射線の講義を行い、その後アンケート調査を行った結果、女子生徒の約4割が「結婚の際、不利益な扱いを受ける」と回答した。」
相馬市の女子生徒たちがアンケートの4割に、「将来結婚で差別される」と答えたことに愕然とさせられます。
反原発運動家たちは、福島の住民に甲状腺ガンのような次世代への影響がでると主張しました。
それが嵩じると、某女性作家のように「フクシマには子供を行かせない」と叫んだり、某女性歌人のように沖縄まで自主避難してしまったり、果ては某漫画原作者のように「フクシマから逃げることが勇気だ」などと声高に主張するあり様です。
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おそらくそのような言説は、あなたもどこかで聞いたことがあるはずです。
実はこのような流説に対して、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)やIAEA(国際原子力機関)、WHO(世界保健機関)などの関連国際機関や、福島県立医科大学などが緻密な報告書を出して全面否定しています。
科学界や医学界では、発見された甲状腺がんが、原発事故に伴う放射線被曝によるものではないということは既に結論づけられています。
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しかし、科学的客観報告の積み上げが整った6年後の現在も、原発事故当時の煽り報道は訂正記事を載せられないまま、あたかも「真実」のように流布されています。
このような状況に対して、最終的決着をつける意味でも、今回の日本学術会議の「9.1報告」は画期的な意義があります。
報告書は長文なために、一部を抜粋して掲載いたしました。ぜひ原文にあたられることをお勧めします。
■福島民友新聞【9月7日付社説】放射線と復興/不安にこたえる情報発信を 2017年09月07日 08時32分
http://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20170907-202074.php
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日本学術会議・臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会
子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題(抜粋)
-現在の科学的知見を福島で生かすためにー
2017年9月1日http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h170901.pdf
P15 「3) 福島原発事故による子どもの健康影響に関する社会の認識
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、福島原発事故による公衆の被ばく線量とリスクの評価を行い、甲状腺がんについては、最も高い被ばくを受けたと推定される子どもの集団については理論上リスクが増加する可能性があるが、それ以外の影響(先天性異常や遺伝性影響、小児甲状腺がん以外のがん)に関しては、有意な増加は見られないだろうと予測している。」
「① 次世代への影響に関する社会の受け止め方
胎児影響は、福島原発事故による健康影響の有無がデータにより実証されている唯一の例である。福島原発事故に起因し得ると考えられる胚や胎児の吸収線量は、胎児影響の発生のしきい値よりはるかに低いことから、事故当初から日本産科婦人科学会等が「胎児への影響は心配ない」と言うメッセージを発信した。
これはチェルノブイリ事故直後、ギリシャなど欧州の国々で相当数の中絶が行われたことによる。福島原発事故から一年後には、福島県の県民健康調査の結果が取りまとめられ、福島県の妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認された。
そして死産、早産、低出生時体重及び先天性異常の発生率に事故の影響が見られないことが証明された。専門家間では組織反応(確定的影響)である「胎児影響」と生殖細胞の確率的影響である「遺伝性影響 (経世代影響)」は区別して考えられており、「胎児影響」に関しては、上記のような実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている。」
P16 「福島原発事故後、主にはソーシャルメディアを介して、チェルノブイリ原発事故の再来とか、チェルノブイリや福島で観察されたものとして、動植物の奇形に関するさまざまな流言飛語レベルの情報が発信・拡散され、「次世代への影響」に関する不安を増幅する悪影響をもたらした。実際に、県民健康調査や長崎大学が川内村で実施したアンケート調査では、回答者の約半分が「次世代への影響の可能性が高い」と答えている。
また平成25(2013)年1月に福島県相馬市の医師が市内の全中学校で放射線の講義を行い、その後アンケート調査を行った結果、女子生徒の約4割が「結婚の際、不利益な扱いを受ける」と回答した。
こうした回答の割合は時間経過や継続的な授業の実施により下がる傾向が見られている。もし全国でこうした誤認が浸透しているのであれば、誤った先入観や偏見を正す必要があり、次世代への影響の調査や、正しい情報発信を継続して行う必要性があると考えられる。」
P16 (福島で甲状腺ガンが増加したという風聞に対して)
我が国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い小児甲状腺がんが発見されている]。
これは一方が健常児の全数調査(悉皆調査)、他方は病気の徴候が出現して診断を受けたがん登録という異なる方法でのそれぞれ異なる結果であり、本来比較されるべき数字ではない。」
P17 「平成28(2016)年12月末日までに185人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定され、このうち146人が手術を受けたという数値が発表されている。
こうした数値の解釈をめぐりさまざまな意見が報道され、そのたびに社会の不安を増幅した。福島県県民健康調査検討委員会は、中間とりまとめにおいて、これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、放射線の影響とは考えにくいと評価した。」
P18「③ 放射性セシウムと発がんに関する社会の受け止め方
ア 外部被ばく由来
「事故由来の放射性セシウムによる被ばく量で言うと、内部被ばくに比べ外部被ばくの方がはるかに大きい。」
「子どもの被ばくを心配し、転居を選択した自主避難者の中には、経済的不安や家族内の問題(家庭内別居や意見の不一致)、転居先のコミュニティへの不適応と言った問題(例:避難先でのいじめ)を抱えている場合もある。こうしたデメリット因子は、健康影響への懸念の度合いと同様、個人、地域、事故後の経過時間による差が大きく、一概に子どもの外部被ばくとのトレードオフを議論することは難しい。」
P19 「イ 内部被ばく由来
「実際に流通する食品を収集して行うマーケットバスケット調査や一般家庭で調理された食事を収集して行う陰膳調査の結果を見る限り、食品中の放射性セシウムから人が受ける放射線量は、現行基準値の設定根拠である1mSvの1%以下であり、極めて低いことが明らかとなっている。
こうしたことから、現在行われている学校給食の検査には、被ばく低減の効果はほとんどないと言える。」
P19 「④ 福島原発事故による子どもの健康リスクの相対値
ア チェルノブイリ事故との比較
「ベラルーシ、ウクライナの避難者のうち14歳以下に限って言うと、99%以上が50mSv以上の被ばくを受けた。」
「福島原発事故では、甲状腺等価線量が高くなる可能性がある地域で小児甲状腺簡易測定調査が行われ、その結果、50mSv以上の被ばくと推定されたのは、検査した子どもの0.2%であった。」
P19~20 「イ 日常生活における被ばく線量やリスクとの比較
「福島県の県民健康調査によると、事故から4か月の間に受けた外部被ばく線量の中央値は0.6mSv(県全体)、ホールボディカウンターによる内部被ばく検査では被験者の99.9%が預託実効線量1mSv未満であった。これらは、日本人が1年間に自然界から受ける外部被ばく線量の平均値(0.63mSv)や経口摂取による内部被ばく線量(0.99mSv)に比較的近い。」
「また国立がん研究センターによると、高塩分食品や野菜不足と言った食習慣や非喫煙女性の受動喫煙は、100mSvの被ばくと同程度の発がんリスクを持つとある。従って、5年間で100mSvの追加被ばくによって算定される生涯がん死亡リスクの0.5%の増加を、疫学研究により検証するのは難しい。」
P23「3 提言に向けた課題の整理
「一方、福島原発事故による追加被ばくに関しては、科学的事実が蓄積され、実際の被ばく線量が明らかにされつつあるものの、子どもへの健康影響に関する不安がなかなか解消されない。
そこで、被ばく低減効果の大小にかかわらず、社会から強く要望があった場合は、防護方策を強化する方向で対応してきた。
その結果、社会全体に関して言えば、健康不安は鎮静化の方向に向かっているが、その分、自主避難者、大規模な甲状腺超音波検査で甲状腺がんが見つかった子どもや家族など、特定の集団の不安が孤立化、先鋭化してきている。
また放射線防護の原則に従うと、容認されうると判断される程度の検出限度以下の放射線リスクが、必ずしも被災者にとって理解・容認されてはいない現状も明らかになってきた。」
以下、諸提言については報告書をご覧下さい。
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まさに画期的な報告でしたね。まあ事象を冷静に見ている人にとっては当然の結論ですが、これで科学的に決着がついた意義は大変大きい。
それにしても今回大手マスコミの扱いがあまりにも小さくて、東大名誉教授のコンピューター科学者坂村健氏もマスコミ批判しています。
http://news.livedoor.com/article/detail/13643995/
相変わらずのマスコミ体質には怒りを覚えます
坂村さんの2年前のコラムのこの言葉を全マスコミ関係者は真剣に受け止めよ!
「事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべきだ」
投稿: snsn | 2017年9月23日 (土) 08時23分
本記事にもsnsnさんのコメントにも100%同意見です。
ツイッターで拡散される中、何日経っても大手マスコミが取り上げる様子もないのに心底愛想が尽きました。
こういう生活そのものにとって大切な情報を勝手に反原発のくびき扱いして取り上げない者が、情報取捨選択の自由で開き直るのであれば「大手」の看板を持つ資格はないのです。
アルジャジーラとCNNとFOXを比べるような自由を、私達から奪っています。
投稿: ふゆみ | 2017年9月23日 (土) 09時15分
今日の記事は最高です。「ありんくりん」さんならではのお仕事でした。原発問題をコツコツと研究・調査された結果ですね。敬意を表します。
それにしても、マスコミのだらしない報道姿勢は嘆かわしいものです。(いつの日か、立派なマスコミになれますように!)そうでないと、日本国が滅びます。
日本学術会議は左翼の牙城だったイメ-ジがあります。最近、変化してきたのでしょうかね? ここがシッカリしてくれれば、日本の将来もすこし明るくなりそうです。
投稿: ueyonabaru | 2017年9月23日 (土) 10時57分
私はYouTubeの動画でこのニュースを知りました。
殆どのマスコミがほっかむりを決め込む中、玉石混交ながらネットは有益です。
さあ、このニュースを聞いて武田邦彦や雁屋哲はどういう反応を見せるのか。
まさかマスコミ同様ほっかむりは通りませんぜ。
投稿: 右翼も左翼も大嫌い | 2017年9月23日 (土) 15時07分
事実上のマスコミ(地上波・大新聞)の総元締め、昔で言
うところの内務省である総務省が諸悪の根源です。コイツ
らと来たら国民の知る権利を奪っては、その見返りにマス
コミに天下っていますから・・
官僚制社会主義である日本は、自由なマスコミ市場がない
ので、資本主義をとる先進諸国のようにエグイ報道までも
自由に報道できません。記者クラブの名の下の統制報道で
あるのは、耳にイカが出来るほど聞かされています。
マーケットで視聴者・購読者の希望が聞き入れられず、
事実上の官統制下での押し売り情報しか無いのでは、多
くの国民にとってテメエで考える自由さえ奪われているに
等しいです。さらに勝手にゼニまでふんだくるNHKなど、
押し込み強盗に等しいですわ。
官に既得権を守られたマスコミなど、有名暴力団の傘下
のチンピラと同じです。報道する権利を独占しているの
で、無実の一般企業・一般人を泣かせてゼニにしても平気
ですね。コイツらに期待する方がどうかしているんです。
『福島の放射悩デマ』で、「御免なさい、ウソをついて
儲けてしまいました」と、謝罪するワケありませんやね。
投稿: | 2017年9月23日 (土) 16時49分
UNSCEAR報告の時と同じような(或いはもっと酷いかも)状況ですね
snsnさんが紹介された坂村氏の言葉を借りると『医術』を伝えず『呪術』のみをまことしやかに広めるマスコミはカルト教団の広報同然なのではないでしょうか?
投稿: 須山 | 2017年9月23日 (土) 21時59分
それにしても長かった。
ようやくここまで来た、って感がありますね。
でも、このニュースは本来トップ級にも関わらず、今だ既存マスコミは避けています。
続いて安倍政権はそろそろ、菅直人元総理が公表したチェルノブイリ並みの汚染程度を修正すべきですね。
そうしないと欧州での認知が進みません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年9月23日 (土) 22時57分