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2017年11月

2017年11月30日 (木)

北朝鮮「火星15」の発射についてその1 北の弾道ミサイルはどこまで進化したか?

Photo_4火星15

北朝鮮(以下北と表記)が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を発射しました。 

いうまでもなく、明確に国連安保理決議違反であり、しかも日本に向けた方向に撃つという許しがたい恫喝です。 

現時点で分かっている範囲で整理していきます。 国際政治への影響については明日にして、今日は分かっている範囲での技術的なことに絞ります。

今回の発射が、従来の火星シリーズと区別されるのは、北が政府声明として、「火星15」を明確に「米本土全域を打撃できる超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル」と規定したことです。 

つまり、北は米国の喉元にナイフを擬すことができるぞ、と宣言したことになります。

ではこの核ミサイルというナイフが、果たして使い物になるかどうかを検証していきます。

まず軌道は、北が政治的に米国を刺激しすきないように意図する時に使われるロフテッド軌道です。

さらに恫喝をかけたいならば、正恩は8月9日の時のように、北海道の渡島半島を通過し襟裳岬沖のオホーツク海に落す軌道を選択したことでしょう。

ロフテッド軌道にしたのは、今回は飛距離を見せつけるのが目的だったからです。

その意味では、今回の弾道ミサイル発射は衝撃的でしたが、従来の限定的エスカレーションの域に納まっているとはいえます。

ロフテッド軌道などという特殊な用語がいつのまにか日本人の耳にもなじんでしまいましたが、「高く打ち上げるため軌道」程度の意味です。 

Photoisana様ツイッターより引用させていただきました。感謝します。 

今回は高度4475km、水平距離950km、約53分飛翔でした。 

政府関係者は発射時間がわかっていたために、いつ着弾するのか53分間も待たされてイライラしたようです。

いかに高く打ち上げたか分かります。国際宇宙ステーション(ISS)は最低高度278 km、最高高度460 kmですから、無意味に高いのがお分かりいただけるでしょう。 

これを科学的目的で使えば有意義なものをと思いますが、それこそ無意味ですから止めましょう。 

この無意味に高いのは、横に撃つ普通の軌道(ミニマムエナジー軌道)に換算すれば、「憂慮する科学者同盟(UCS)のデビッド・ライト氏は、最小エネルギー軌道で発射されれば13000kmに到達」(海国防衛ジャーナル)させる目的のためです。http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50798698.html 

「火星15」の射程範囲を見るために、射程範囲を13000㎞とした「海国防衛ジャーナル」様制作の図を転載させていただきます。ありがとうございました。 

Photo_2http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50798698.html

一瞬ギョッとする射程範囲なのがわかるでしょう。北米大陸全域、ユーラシア大陸全域、アフリカの南端を除く全域が、「火星15」の射程範囲に納まります。 

これで北は弾道ミサイルの射程距離については、目標をクリアしたことになります。 

というのは米国か運用するICBMミニットマンⅢ型の射程は13000㎞ですから、ほぼ等しい距離を達成したことになるからです。 

この射程距離を可能にしたロケット・エンジンは、「白頭山エンジン」と自称していますが、澤岡昭氏によれば旧ソ連が開発したRD250のデッドコピーから発展したものだと考えられています。

Rd250
ウクライナ政府自身は否定していますが、この国は中国にスホーイ戦闘機や中古空母を売ってきたような闇武器市場の常習犯ですので、ここから流出したものだと思われます。

今回は、このロケット・エンジンを束ねて第一段ロケットの推力をあげたか、本来は二基で一対になっているRD250を一基にしたものか、いずれかだと思われます。

いずれにしても、北がただの模倣段階から、独自に高性能ロケット・エンジンを製造できるまで技術進歩したことは疑い得ません。

さて悩ましいのは、北が使っている「超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル」という表現です。

米国のミニットマンⅢ型の場合、再突入体の重量約100キロ、それを含む弾頭重量全体は317〜363㎏です。

これを通常のICBMはこれを複数発(3発)搭載し、その中にはデコイ(おとり)も含まれています。

Photo_3多弾頭ミサイルの発射から着弾まで

多弾頭(MIRV)ミサイルは一発で複数の核弾頭を放出するために、ミサイル防衛が大変に困難になります。

精度は当然甘くなりますが、新宿に落すつもりが赤羽に落ちたようなもので(お住みの方すいません)核爆弾ならどちらでも同じです。

8月29日に北が発射した「火星12」は3つに分解したことが分かっていますし、今回も3つに分解しました。

理由は判明していませんが、仮にこれが多弾頭を意味するのなら北の核弾道ミサイルの脅威度は飛躍的に高まることになります。

これに成功していたなら、北は核弾頭の小型化もクリアしたことになります。

ただし、小川和久氏はこれに否定的です。

「『超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル』という表現は、いまだ核弾頭の小型化に成功しておらず、その重い核弾頭を大推力の液体燃料ロケットで投射するのがやっと、という現実を物語ってあまりある。」(facebook)

ここで小川氏が指摘している液体燃料方式とは、燃料注入に時間がかかるために即応性を要求される軍用ミサイルには不向きです。

トロトロと燃料注入をしている間に、米国の偵察衛星に発見されてしまう可能性があるからですので、今回米国は事前に発射予定を察知し、日本政府に伝達していたと思われます。

首相が早朝にもかかわらず素早く対応できたのは、この米国からの事前伝達があったからです。

なお、必須の再突入技術については、北は達成と称していますが、決定的物証がありませんのでなんとも言えません。

ほんとうに再突入に成功したのなら、再突入体を海中から回収して調査せねばなりませんが、そのそぶりも見せないのでなんだかなぁ~という感じです。

Photo_5火星15

このように考えてくると、北は全米を射程内に収めるICBMを開発したことは確かですが、以下の点で疑問が残っています。

①「重量級核弾頭」という言い方や、軍用ミサイルにふさわしい固体燃料ではなく、従来の液体燃料を使っていることから、核弾頭小型化がなされたとは思いにくい。

②再突入技術に成功したのかは証拠がない。北はそのための弾頭回収調査をおこなっていない。

③中距離弾道ミサイルについては固体燃料化が完成したと思われるが、ICBM用の固体燃料に成功していない。

したがって結論的に言えば、飛距離だけは伸びたが、弾道ミサイルに必須の他の技術は未だ未完成であるように考えられます。

いうわけで、冒頭の「北の核ミサイルというナイフは使い物になるのか」という問いに答えるならば、現時点では竹光ではないが、ほんものの真剣としてはなまくらという域をでていない、と結論することができます。

しかしこれらがすべてがクリアされ、「核保有国」と認定された場合、同じようにICBMを実験名目であろうとなかろうと発射しようと図った場合、米国による自衛的先制攻撃を受ける可能性があります。

皮肉にも、北が「核保有国」として認められれば、もうこのような弾道ミサイルの発射はできないことでしょう。

これを「平和」と呼びたければ、どうぞそうお呼び下さい。

長くなりましたので、今回の「火星15」がもたらした政治的影響については次回に回します。

※火星15の写真が公開されたので扉写真を替え、加筆しました。

 

 
 

山路敬介氏寄稿 トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していない その3

 161
連載中に「火星15号」の発射という展開になりましたが、今回が最終回となります。 

秀抜な寄稿に感謝します。 

                  ~~~~~~~~~ 

トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していない その3
              ~ 北朝鮮問題は優れて「米中問題」でもある 
                                            山路敬介
 

承前 

■ 国務省派の正体 (なぜ「対話」は日本に不利か?)

「正体」などとは大げさなようですが、ヒラリー国務長官時代にこそ「アジアピポット戦略」を許容しましたが国務省の大勢の考え方はまだ「G2」であり、中国に対して緩やかにアジア全域の覇権の移譲を行う事が「世界の安定」と「米国の国益」に資する、との考え方を根強く有しています。

「国務省派」とは端的に言えば、「日米同盟」よりも、「米中関係を重視」する派だとも言えます。
そうした彼らが北朝鮮問題について何を言っていたか、それが何故中国と結び付くのか、ここを描きたいと思います。

スーザン・ライス(オバマ政権時の国家安全保障担当補佐官)
「北朝鮮の非核化は無理。そのための戦争を回避するために、アメリカは実利的な戦略として北朝鮮の核武装を受け入れ、伝統的な抑止力でそれを抑え、防衛力を強めるべきだ。」

ジェームス・クラッパー(オバマ政権時の国家情報長官)
「北朝鮮の核武装はそれを受け入れたうえで、コントロールする方法を考えるべきだ」

ロバート・ガルーチ(クリントン政権時の元米国務省北朝鮮核問題担当大使)
「制裁よりもまず最初に対話と交渉があるべきで、そのさい北朝鮮の核武装を容認すべきだ。北朝鮮の核武装も抑止は可能だからだ」


こうした言論に対し、現在の国家安全保担当障補佐官であるハーバート・マクマスター氏は、「明らかに北朝鮮には従来の核抑止(相互確証破壊概念)はあてはまらない。 

だから、ライス氏らの主張は間違っている。北朝鮮が一般の国家のような理性や合理性に従わない異様で無法な国家である事は明白で、米ソ間で存在したような伝統的な抑止は全く適用出来ない」と一蹴しました。

ですが、ミドルベリー国際大学のジェフリー・ルイス氏(東アジア核兵器拡散防止プログラム所長)らのグループは意気軒昂です。(そもそもこの人、本分の職責を全く果たして来なかったと思われますが)
 

「米国は現実的な方法で、たとえ公式な方法でなくとも北朝鮮が核軍事力である事を受け入れなければならない」と言い、つまり北朝鮮との間で「裏での核所有合意」をも排除するなと主張します。 

「核武装した北朝鮮を武装解除しようと試みるなど、狂気の沙汰だ。たとえ何人かの政治家にとって、その事実を認める事があまりにも彼らを無気力に感じさせるものであったとしても、だ。」と切って捨てます。

しかし、どのみち北の核所有を隠蔽しようなどと言う企ては困難な事です。沖縄相手とは違うのです。
 

北の「核開発の動機」は、そもそもアメリカからの武力攻撃に備える自衛の手段ではなく、「朝鮮半島の赤化統一」のためであって、その必要から「朝鮮半島から米軍を撤退」させる目的が発生し、さらにその目的の為に北朝鮮は万難を排し核開発に邁進したので、北朝鮮は機会を置かずに目的に着手するのは確実で、「隠蔽」はあっという間に顕在化して米国の無能が全世界に隈なく知れ渡る事でしょう。

氏の理屈は「主客転倒した理論」というか、「泥棒に縄を結わせる」式の滑稽な理論です。
 

このような理論は、演繹的に「絶対的に戦争を避けなければならない」という至上命題的地点から逆算して考えたところから誤謬が発生し、結果的に愚にもつかない「辻褄あわせ」に陥ったものでしかありません。

 

(あるいは、朝鮮半島から米軍を撤退させる事は中・朝・露の共通の利益となる事は明らかなので、そのような観点からのものかも知れません。)

ですが、氏のような東アジアの専門家が北朝鮮の核開発の意図を見誤るはずもありません。

ここで考えなければならないのは、こうした理論の裏側にあるのは「日米同盟軽視」や「米韓同盟不要論」に強く結びついているのだ、と言う事です。

この事の本質はすでに、「ありんくりん」11/13号の「北朝鮮が秘密交渉テーブルで主張している事とは」で、北核の「一部放棄」の問題として取り上げられています。 
少し引用します。

≫「はっきりと北朝鮮は秘密チャンネルにおいても「核を手放す気はないが、今後核装備の充実は考慮してもいい」」としている事。

つまり、
≫「米国に届くICBM開発は寸止めしてもいいが、開発済の中距離弾道ミサイルは保持し続ける」 という事。

≫「わが国はその射程にすっぽり入っていますから、今後北朝鮮の核の脅威の傘の下で永久に暮らし続けよ、という意味となります。」 、「逆に言えば、米国の核の傘はこれを防ぎ得ないほど無力であったということの告白ともなりますから、日米同盟は分断されることになります。」
 と、非常に重要な指摘をしています。
 

端的に言えば、対話による北核の「一部容認」で解決に舵を切りたい人たちや、国務省派の「核均衡」論者たち、ジェフリー・ルイス氏のような北核の「隠蔽」論者に至るまで、すべて日米同盟を毀損する方向に傾いているのです。

そして、中国は「今はまだ、米国とは決定的な衝突は避けなければならない」と考えて表面的には行動していますが、「G2」あるいは「太平洋の二分化」の実現、そのための(日本を含む)アジア全域に浸透する中国の「覇権国化」を必須の目標として隠しもせず、地域からの米軍の撤退を力強く目指しています。

中国の意思と動きは上記「国務省派」の意思とも合致しており、朝鮮半島問題の解決策を通しても顕著に現れていると言えます。

北朝鮮の「対話」による問題の落としどころは、ICBMの放棄と引換にした「朝鮮半島からの米軍の撤退」です。(この部分の武貞秀二氏の見解は正しいと思われます)
 

そうすると結局、国務省派や中国・北朝鮮の間ではもはや問題は解決済みで、リベラルから「伝統的米国主義」とも揶揄されるNSC派のみが抵抗しているといった図柄が見えます。 

■ トランプ大統領

ここのところホワイトハウスに繁く呼ばれているジョン・ボルトン元国連大使は、「中・露の妨害や不履行にあいながら一歩一歩進めていく経済制裁では、もはや間に合わず、軍事オプション発動を決断すべき時だ」としています。

マット・ポティンジャーNSCアジア上級部長は、「いかなる枠組みであれ、北朝鮮と公式の対話を始めると、必ずどこからか「制裁を緩めるべき」という圧力が掛かって来る。従って、制裁中にオープンな交渉をしてはならない」と国務省派を牽制しています。

トランプ大統領は、朝鮮半島問題に限らず現在の米国の窮地の原因を作ったのは、民主党・共和党にわけて考える事よりも、「(いわゆる)エスタブリシュメントたちのせいだ」と考えているようです。
 

そうした部分もあって、国務省派でないとしても上記二名のような意見に一致しているとも言えず、まして完全なNSC派とも言えないようです。 

今はただ経済制裁を中心とした「圧力」を徹底追求していく事のみに注力して、この先は予想出来ません。

制裁の成果は一にも二にも中国の動向にかかっており、そのためには「協力」という次元では最早難しく、どのように中・露を従わせるかに掛かって来ると思われます。
 

北貿易の9割を占める中国に言い訳はできず、「経済制裁は効果がない」とか、「締め付ければ暴発の危険がある」などとの主張に耳を貸すべきではありません。 

                         
                                   
                                                (了)

 

 

 

2017年11月29日 (水)

速報 北朝鮮ICBM発射

PhotoJSF氏のツイッターによるhttps://mobile.twitter.com/obiekt_JP/status/935596578944856064/photo/1

とりあえず、速報のみお伝えします。

「首相官邸 
■北朝鮮による弾道ミサイル発射事案について 平成29年11月29日

本日、3時18分頃、北朝鮮西岸より弾道ミサイルが発射され、1発が日本海の我が国の排他的経済水域内に落下するものと見られます。詳細は確認中です。また、付近を航行する航空機や船舶への情報提供を行っております。総理には、本件について直ちに報告を行い、情報収集・分析に全力を挙げ、国民に対し、迅速・的確な情報提供を行うこと、航空機、船舶等の安全確認を徹底すること、不測の事態に備え、万全の態勢をとること、この3点について指示がありました。また、政府内においては、官邸危機管理センターに設置しております、北朝鮮情勢に関する官邸対策室において情報を集約するとともに、緊急参集チームを招集し、対応について協議を行いました。さらに、国家安全保障会議、関係閣僚会議を、今後、情報の集約及び対応について協議を行う予定であります。我が国としては、このような北朝鮮による度重なる挑発行為を断じて容認することはできず、北朝鮮に対し、厳重に抗議を行いました。また、拉致、核・ミサイルといった諸懸案を解決することなしに北朝鮮に明るい未来はない。北朝鮮に対して政策の変更を強く求めました。引き続き情報収集・分析に全力を挙げ、今後追加して公表すべき情報を入手した場合には、速やかに発表することといたします。」http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201711/29_a.html

「政府関係者によると、北朝鮮から発射されたミサイルは3発で、北朝鮮西岸から発射されたとみられる。
 また防衛省幹部によるとミサイルは日本海に落下し、日本の安全保障には影響はないという。政府高官によると発射されたのは2段階の大陸間弾道ミサイル(=ICBM)の可能性がある。」(NNN11/29 4:24配信)

「29日未明、北朝鮮から弾道ミサイルが発射された。菅官房長官は午前4時過ぎに会見を行った。菅官房長官は弾道ミサイルが日本海の排他的経済水域内に落下するという見方を示したいう。」(NNN2017年11月29日 04:09)

「韓国の国防省は、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したと発表しました。
 韓国国防省によりますと、北朝鮮は29日未明、首都ピョンヤン近郊の平安南道(ピョンアンナムド)、平城(ピョンソン)付近から東に向けて弾道ミサイルを発射しました。ミサイルの種類や飛距離など詳しいことはまだわかっていません。」(2017年11月29日 04時03分
TBS

「北朝鮮の弾道ミサイル発射は3発でなく1発、それが3つに分離した模様。弾頭はロフテッド軌道で約50分飛翔、青森県深浦沖EEZに落下の模様。約50分のロフテッド軌道は、過去最高飛翔時間。更に性能進歩の可能性も。これは明確な安保理決議違反、決議に基づき制裁強化すべき。」(佐藤正久ツイッター)

とうとう、正恩がやってしまいました。

しかも飛翔距離を見ると明らかに、米本土に到達可能な火星シリーズのICBMのようです。

3発という説と、1発が分解して落下という説があります。

ロフテッド軌道を使い、刺激しすぎないようにというていどの配慮はあるようです。

とまれ、これで米朝がバックチャンネルで探っていた「対話」の可能性は、一気に風前の灯火となったことになります。

混沌とした情勢が、いっそう混沌となったことはだけは確かです。

詳細は明日の記事にします。

国会はモリカケなんぞをダラダラとやっている暇はありませんよ。

 

山路敬介氏寄稿 トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していないその2

070
山路敬介氏寄稿の2回目です。 

実は今のような手詰まり感がある時期に、朝鮮半島情勢を書くのは大変に難しいことなのです。 

どうしてもこういう展開になってほしいという潜在的願望と、冷静な分析との綱引きになりがちになるからです。 

前回、山路氏があえて「戦争という手段を用いてでも、この場面で『朝鮮半島の完全な非核化』は必ず達成されるべきだ」と書いたことは、論者として立派だと共感しました。 

えてしてテレビに出てくるような「識者」は、それを隠してあたかも客観分析のように「話あい願望」を口にします。これでは論者としては失格です。 

今日の記事においても山路氏は、一見マッドマンセオリーに見えるトランプが、実は「国際法に準拠した合法性」の遵守者であり、米国外交の正道から逸脱していないことを指摘しています。

そしてトランプが、あらゆる圧力の狭間で意思決定するしかない存在だという指摘も同感です。

これは「頭のイカレたバーバリアン」というような俗流トランプ理解とは、一線を画する見識です。

俗流と書きましたが、宮家邦彦氏のような外交専門家まで似たようなことをいうので困ります。

宮家氏のトランプ酷評を聞いていると、米国外交のメーンストリーム(私が勝手に「国務省派」と呼んでいるグループですが)がどのような眼でトランプをみているのか想像がつきます。

藤井厳喜氏のように称賛する必要はありませんが、トランプはあんがいああ見えて冷静な判断ができる政治家ですよ。

では2回目をどうぞ。

                   ~~~~~~~~~~~~
 

  ■トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していない その2
            ~ 北朝鮮問題は優れて「米中問題」でもある
 

                                            山路敬介 

承前  

■米国は何を基準に行動しているか

北朝鮮問題を解決する段取りを形成するにあたり米国(トランプ氏)が依拠しているのは、例えば国連憲章に則るような「国際法に準拠した合法性」で、これを強く意識していると考えられます。

田原総一朗氏は「国連憲章は、第六章で平和的な解決を求めている!」と叫んで机を叩きますが、北朝鮮に対してはこれまで何度も譲歩し「ウソと誤魔化し」で裏切られ続けた経緯は既に国際社会で認知されていて周回遅れの議論でしかありませんし、国連安保理事会も次の段階を許容しています。

つづく第七章では、「(それでも解決しない場合は、経過的に)経済制裁や、最終的には軍事的措置を講じる事が出来る」としています。

つまり国際法において、紛争を解決する手段として戦争そのものは「合法」が前提なのであり、そのうえで無用の戦争を起こさない事や、ひとつの紛争事案が世界大戦に波及したりなどしないように、戦争に至るまでのやるべきことを定めたものでもあるのです。

私はここのところずっとトランプ氏の一挙手一投足に目を凝らし、そこから何とか「戦争への意思の多寡」を読み取ろうとして来ました。
 

また、米国議会の動向や左右の米国識者の言い分をかき集め逐一ノートしたりしていましたが、この面でのねらいは無意味とは言えないまでも、ほとんどが時間の無駄でした。

どうやらトランプ氏は、「圧力の効果が減ぜられる」と考えた「トラック2」の動きにこそ釘を刺しましたが、議会を含めあらゆる「圧力後」に関する言論に影響力を及ぼす事は忌避しているようです。
 

その意味は、「十分な圧力さえかけられれば解決する」と考える面からでもあるのでしょうが、予断を排して合法的に国際法上許される現在の段階を厳格に遵守する姿勢を世界に見せておく重要性と、最終的な段階(武力行使)に至るまで合法性を担保しておく事が歴史の批判に耐えうる事でもあるし、民主主義国の旗手である米国の使命と考えての事でしょう。

※ ついでの話に逸れますが、こうした国際法に準拠した考え方をまさに国際法をして「紙くずだ!」と切って捨てる中国は全く持ちませんし、力の弱い他国のそれも決して尊重する事はありません。
 

中国のような独裁国家の軍隊は西側の軍隊と同じではないし、中国にとっての戦争は、外交的、平和的手段を尽くした末の「最後の手段」ではなく、軍事、外交、世論を同時併行的に攻める事を常に「徳」とします。 

日本の左派メディアは、中共の論調を引き合いに出して「外交による解決」を言いますが、とても微笑ましい限りです。 

そもそも中共における「外交」の定義とは、「小規模の戦争」まで含まれる概念だからです。 

■河野外務大臣の見解 

 
河野外務大臣は岸田外務大臣と違い、物事をはっきり言うし、発信欲も旺盛で欧米型の外務大臣だと思います。

ただ、国民を安心させるゆえか、曖昧さに含みを持たせておく技術に長けていない面もあり、そのエリート式の明るい物言いは逆にちょっと疑念を感じさせたりもします。

安倍外交の特徴は、「中国の脅威をまともに考える」という点に尽きると私は考えていますが、河野外務大臣がどれほど北朝鮮問題に関して中共が果たしている「負」の部分の役割を意識しているか。
 

米国内の二つの論理、わけても国務省の動きをどう評価し対処しているのか、この面も不安ではあります。

これまでの河野氏の発言では、まず第一に「北朝鮮問題のゴールは朝鮮半島の非核化であり、この事は中・露も含めた国際社会の一致点である」とし、つい先日も「中・露とも向いている方向は日米と全く同じ」、そして「経済制裁は着実に成果をあげている」としています。
 

また、「日本抜きで、米朝が対話に転じる可能性は全くありません。日本とアメリカは100%共にあると何回も確認しています」と言い切っています。

確かに経済制裁はじわりと成果をあげており、わけても今回の「テロ国家再指定」は、「これ以上の制裁は無意味だし、逆効果」とする中共に見舞った痛烈な一発だったと思います。

河野外務大臣が言っている事に現状ひとつのウソもありませんし、これまで北朝鮮が譲歩に転じるときは必ず米軍の軍事的圧力をともなった場合のみだった事から、取り得る「正しい方法」でしょう。

ただ、制裁や圧力がどのように北朝鮮の「完全なる核放棄」にまでつながるのか具体的にイメージ出来ない点と、米国が条件闘争に転じる可能性のない事を日米首脳間の良好な人間関係に帰すだけで安心してよいのか、ここはやはり考えずにおれません。
 

                                          (続く)

2017年11月28日 (火)

Flint_Lockさんにお答えして その2 

1015
Flint_Lockさんから反論コメントをもらいました。ありがとうございます。

私は異論との討論が好きですので大歓迎です。返事が長くなったので、記事に移しかえました。 

山路氏の寄稿はもう一本のほうです。ぜひお読みください。

さて、「裁判所で争えばよいこと」というのは、民事訴訟で決着をつけるべきという意味とは違うのですか」だそうですが、訴えられた以上、法廷で一対一でやるしかないでしょうという意味です。

そのくらいは読解してください。揚げ足取りになりますよ。 

また、Flint_Lockさんは訴訟に朝日が持ち込んだ理由を、「社会通念として許容される範囲を大幅に超える誹謗中傷については、司法によって制限されることは止むを得ない」と書いています。

う~ん、「社会通念を大幅に越える」ですか。大上段にきましたね。

まずお聞きしたいのですが、なんですか、その「社会通念」とは?

辞書を引くと「社会一般に行われている考え方」だそうですが、それは本という思想表現のみならず、書名までも当たるのですね。

おお、なんと大げさな。

たかが本の書名など、読んだ人がそれぞれの立場で判断するべきことにすぎないのではありませんか。

「報道犯罪、何言っていやがる」と思えば手にとらねばいいし、「そのとおりだ。よくぞ言った」と思えば読めばいいのです。

ある意味、今回のことはただそれだけのことですよ。それをまるで自分の立場が普遍的価値のように言ってしまうからおかしくなるのです。

おそらくあなたはまったく手にも取らないで、書名と朝日の言説のみを聞いて「そうだ、けしからん」と思った程度でしょう。違いますか。

違うなら、どうぞこの本を内容的に批判してからにしてください。

失礼ながら、書名ていどのことで「社会通念」、すなわち普遍的な社会の価値判断まで持ち出す姿勢そのものが変なのです。

正義は市民社会の中で、無数に存在します。それが民主主義社会というものです。

バラバラであって当然、しかしそれでは国として成立しないから選挙という方法で多数決を取ります。そして、ご存じのように安倍自民は圧勝しました。

好むと好まざるとに関わらず、これが現時点での「社会通念」です。朝日の報道、言説と正反対でしょう。

では翻って、安倍氏が「オレをファシストと呼ぶ奴は社会通念でゆるされない誹謗中傷だ」と言って、訴訟しまくったりしたらどう思います。

そう、間違っていますね。

安倍氏は公人であるが故に、誹謗中傷に耐えねばならないのです。

「社会通念」といった普遍的価値を自分のために都合よく使ってはならないからです。

これは朝日のような、公人に準じる巨大言論機関も一緒なのです。

このように考えてくると、私から見ればあなたのいう「社会通念」とやらは、朝日ワールドの住民の中だけに通用する無数にある中のひとつの正義を、自ら「社会通念」と呼んでいるにすぎないことがわかります。

私は民主主義社会における多数の「正義」を許容します。批判するかしないかは別にして、「あっていい」と思っています。

それを無理矢理統一させようとしたり、「オレの言っていることこそが社会通念だ。お前は黙れ」と他の考えを排除したりすると、それは全体主義への誘惑につながります。

自分は気に食わない奴の言説をつぶせていい気持ちになるでしょうが、立場が変わったら刑務所です。

この傾きは左右どちらのウイングにも存在しますから、そのどちらも私は等しく批判します。

私は他の人の価値観を許容するという意味において、「リベラリスト」(自由主義者)だと思っています。

だからなんどとなく書きましたが、訴訟という公権力に裁きを求めないで、小川氏と朝日はフェアな条件で討論するべきだったのです。

もう一回大事なことですから繰り返します。

本来は朝日が言論機関の矜恃をもつなら、紙面を使って小川氏と討論すべきです。いまでも遅くはありません。 

朝日がその場を作りさえすれば、小川氏は喜んで討論に応じるでしょう。

それを怠って、拙速な「訂正と賠償要求」をするから批判されます。

ところで、Flint_Lockさんはこのようなことも書いています。

「政府が官房機密費をジャーナリストに渡していた過去の事例が知られています」

よもやソースは日刊ゲンダイやリテラではないと思いますが、あいにく私は寡聞にして知りません。

ソースはなんですか。そのソースは、官房機密費の使途について裏が取れていて証拠を明示していますか。 

「政権と連携して活動するジャーナリスト」と言う表現もしていますが、分かって書いていますか。この表現は線引きが難しいことを、根拠なく否定しているのですよ。

「安倍首相は、報道各社の官邸キャップを集めて会合を持っていますが、これは各社の報道姿勢を統制する目的だ」とまで書いています。

驚きましたね。まったくの飛躍です。

こういう「空気」だけ批判したらなんでも言えてしまいます。

だってなんの証拠がなくても、気に食わないジャーナリストは皆、「官邸に操られた手先だ」ということになるからです。

今の日本には、政権に肉薄すればすぐに「安倍信者」と呼ばれる悪しき風潮があります。

この私ですら、何度もそう呼ばれています(苦笑)。

山口敬之氏、田崎史郎氏などのジャーナリストは、政権中枢にパイプを作ったが故に、そう呼ばれました。

その山口氏が安倍の御用記者と批判されるようになった最初の本である『総理』(文庫版)には、余人ならぬ反安倍連合の陣頭で指揮を執る週間文春編集長・新谷学氏が解説でこう書いています。

「ジャーナリストの中には山口さんのことを『御用記者だ』と批判する人物もいる。それは私に言わせればナンセンスだ。
政治記者にとって、総理大臣ほど強力なネタ元はいない。ありとあらゆる国家機密が彼のもとに集まってくる。
食い込む努力をするのは当然のことだ。会食の機会があれば進んで参加すべきだと思う。
そうした努力もせずに、安全地帯から『総理と会食して権力に取り込まれている』 などと罵るのは愚の骨頂だ。」

朝日がなぜいつも解散時期をはずし、トランプや米国の動きを読み間違えるのでしょうか。

それはかつての朝日政治部記者の中には、与党政治家へ夜討ち朝駆けをかける猛者連が大勢いたからです。

彼らは臆せずに大物政治家と渡り合い、酒を飲み語らったのです。そして秘密を嗅ぎ出して来ました。

そんな彼らに総理とメシを食うと御用記者だといわれるぞと言ってごらんなさい。「バカヤロー、デスクにしがみついて記事が書けるか。政治部は人事部じゃねぇんだ」と怒鳴られたことでしょう。

今の朝日の記者たちは記者業のイロハのイである「足で稼がない」ために、現場に行ってしつこく嗅ぎ回リません。

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ですから、森友学園小学校用地がいかなるいわく因縁のある土地なのかわからないまま疑惑追及をやってしまっています。

あの土地はいくつもの団体の利権が絡んでいる複雑な背景のある土地で、だからいままで買い手がつかなかったのです。

籠池氏が補助金絡みで開校を焦っていたから、財務省にボラれたのですよ。

加計も同じです。

早い段階で前川氏だけをソースにするような偏った情報構成をするのではなく、加戸前愛媛県知事から取材していれば、時系列で獣医学部の申請事情が理解できたはずです。

自分で取材しないから、森友で会計検査院から値引きは不透明だなどといわれると鬼の首をとったように浮かれるわけです。

欣喜雀躍している朝日には申し訳ないのですが、あれはただの財務省のチョンボ。

財務省がチョンボをしてこの事件を引き起したのは、かなり前から分かっていたことで、「ああ、やっぱりそうなのね」ていどの話です。

首相が森友に有利に計らうような指示をした証拠がどこかにあるなら、朝日さんどうぞ提示ください。

まぁ、官邸が機密費バラまいて、官邸キャップ集めて懇談しても、この半年以上、新聞・雑誌、テレビがモリカケ一色、安倍バッシング一色になったわけですから、なんという官邸の無力な言論工作なことよ。 

というわけで、Flint_Lockさんの論は、官邸が言論工作をして、小川氏はそのエージェントだといわんばかりの論調であって、失礼ながら飛躍・短絡・憶測に基づいているものに思えます。 

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さてFlint_Lockさんが、慰安婦問題を実証的にとらえようと努力していることは好感できます。

戦争中のことですから、むごいことや、行き過ぎは当然ありえたと思いますし、旧兵士たちの戦記には慰安婦の実態がよく書かれていますので、一読されたらいいと思います。

そこには心温まる話もあれば、悲惨な話もあります。 

ただし、朝日の慰安婦論争は、その慰安婦の実態という次元を巡って展開されていません。 

慰安婦問題がかくも大きな問題となった理由は、「日本軍が強制連行した」という点です。

諸外国も例外なく軍隊周辺には、慰安婦、ないしは類似の職業の女性がいました。

性病の蔓延、兵士による民間婦女子への暴行を防止するには、管理売春を実施するしかなかったからです。

ドイツなどは、日本が学んだと言われるほど酷似した慰安婦制度をもっていました。フランスもしかりです。

米国は清教徒主義のために、慰安婦制度がありませんでしたが、そのために戦地で多くのレイプ事件を引き起こしたり、性病で部隊活動が麻痺すなるという事態を引き起こしています。

このように慰安婦制度は、世界各国で管理売春制度がない国のほうが珍しかった時代でしたから、戦地でもそれを利用しただけのことです。

しかし、慰安婦報道がなぜ世界であれだけ騒がれたのかといえば、それはあくまでも「軍が直接に武力を用いて民間女性を拉致して売春婦に仕立てた」という一点にあります。

強制連行したと吉田清治の偽証は、その発端の植村記事から数年後に秦郁彦氏の済州島現地調査で嘘だとバレました。

しかしそれにもかかわらず朝日は、吉田証言が虚偽だと知りながらその後もシラっとして20数年間に渡って千数百の記事を書いたのです。

したがって、これをはずして論じても無意味です。

私は小川氏のようにモリカケを、「戦後最大級の報道犯罪」だとは必ずしも思っていません。

それは朝日が犯したもうひとつの巨大な罪である慰安婦報道こそ、その名に値するとかんがえるからです。

あれこそが字義どおりの意味である、「実際になかったことを故意に事実のように仕立て上げること」によって作り上げられた捏造報道です。

ところで、ともかく朝日は大人げがありません。古い朝日の読者としては、いつからそうなったのだと慨嘆したくなるほどです。

少年だった私が社説を書き写したノートを作っていた頃の朝日は、横綱相撲でした。こんなセコイ訴訟で批判者をつぶそうとはしませんでした。

今や高山正之氏の「朝日は安倍を呪詛した」という片言隻句を取り上げて、「弊社は呪詛などしていない」だから、苦笑しました。

この伝で言えば、「朝日は馬鹿なことを書くな」と書けば、「弊社は賢いので、馬鹿ではない。名誉毀損だ」とでもいうのでしょうかね(笑い)。 

「呪詛」ていどの語句が名誉棄損にあたるのなら、批判的修辞は一切使えないことになります。

一種の朝日流ポリティカルコレクトです。

こうしてどんどんと言論領域は狭まっていきます。 

たとえば「素粒子」あたりか、いつものように「声」の投稿や「識者の声」に言わせればよかったものをと思います。

それをいきなり相手と掲載社に文書で訂正要求だしたらシャレになりません。 

まるで子供の口喧嘩並の低レベルです。まともな言論機関のやることではありません。 

朝日のような言論機関のリーダーを自認する存在が、こういう幼稚かつ非言論的手段を用いた「反批判」をするかぎり、言論界は訴訟沙汰を恐れてもの言えぬ社会になっていきます。

私はそれを憂いています。 

ふゆみさん。私は大昔、書店回りを生業にしていましたからなんとなくわかりますが、訴訟沙汰になった本や著者は店長が忌避します。

回収の可能性が残るし、抗議を受けるかもしれないからです。

またトラブルになった著者を起用することにためらう出版社も多いでしょう。 

大家なら宣伝になりますが、小川氏ていどのステータスだと微妙なところです。

ですから、朝日の今回の所業は言論のみならず実害が大きく、おそらく朝日はそこまで計算に入れていますから、なおさら許せないのです。

冒頭部分を大幅加筆しました。(午後5時)

 

 

山路敬介氏寄稿 トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していないその1

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山路敬介氏から寄稿を頂戴しました。ありがとうざいます。 

3回にわけて掲載させて頂きます。 

              ~~~~~~~~~~~~ 

       ■トランプ大統領は北朝鮮への武力行使を決断していない その1
            ~ 北朝鮮問題は優れて「米中問題」でもある
 

                                             山路敬介 

 
米軍と北朝鮮との武力衝突があるのか、ないのか。
 

この事ばかりに非常な感心が持たれますが、そもそも「北核」の本質とは何か?  

朝鮮半島の「非核化」がなぜ日本にとって死活的に重要なのか? そうした視点で語られる機会があまりにも少ないと言わざるを得ません。 

 
米国が「あらゆる選択肢が机上にある」とするのは当然です。
 

マスコミやほとんどの日本国内の知識人は、常に「外交」と「戦争」を相対する二元論でしか語る事ができず、武力行使の可能性を語った瞬間に「対話」や「外交」による解決を声高に言い、結果的に戦争を常に「外交の敗北」として、それゆえ「絶対悪」としてしか位置づける事が出来ない点で間違っています。

福島瑞穂氏や志位委員長は「圧力」でなく「対話」や「外交」で解決せよと言いますが、具体的にどのように「対話」や「外交」によって解決し得るのか言う事が出来ません。
 

要するに彼らは、日本は北朝鮮に積極的に譲歩し「北が核保有国になるのを認めよ」と言っているに過ぎません。 

けれど、それはそれでひとつの選択肢です。

しかし、それで将来の日本がどうなるのか? そこを言わない限り彼らに対しては「無責任で卑怯な政治家である」と言うしかありません。

私はあえて思い切って言いたい。

戦争という手段を用いてでも、この場面で「朝鮮半島の完全な非核化」は必ず達成されるべきです。 

その場合あるいは日本にも数十万と言われる被害が想定される由ですが、それでも比較考量の結果で考えるべきで朝鮮半島が非核化がなされなかった場合の、将来に生きる私たちの子孫である日本国民が非常な長きにわたり背負い込むであろう「負」よりも幾分もマシだと思うからです。 

「今は譲歩しておいても、あとで取り返すチャンスがあるはずだ」との議論もあるでしょうが、ここで踏みとどまらなければ中国のアジア奪取という大きな流れは将来においても食い止めようがありません。 

米国にとっては無責任に感じる事でしょうが、日本には戦争する事は出来ません。 

せめて日本は、「米国が軍事オプションに出るならば、日本政府は全面的に支持・支援する」を宣言すべきです。

すでに北朝鮮は日本に向けた核搭載ミサイルは完成させています。
 

ここ二ヶ月間、北朝鮮は米国に向けた核付きICBMの実験は手控えていますが、その間に何もしていないわけではなく、出来る事をしているのです。 

それは、22日の共同電によれば「(必要な)技術的な部分に時間をかけている」(防衛省関係者)のであり、潮匡人氏によれば「(日本向けの)ノドンの量産体制に入っている」という事です。  

可能性としてですが、この事は何を示すのか。 

もし、これからも引き続き核搭載型ICBMの実験・開発を凍結し、ノドンなどの中距離ミサイルの量産体制に特化したとしたら、日米同盟に与える影響は如何なるものになるか。

韓国の情報院は「12月中のICBMミサイル発射実験の兆候が見られる」としています。
そうでなくては困るのが、日本の本当の姿なのではないでしょうか。
 

米国はいまだ武力衝突によらずとも、選択肢は持っています。

それだけにトランプ氏には朝鮮半島危機を奇貨にして、何か別の事を達成する余裕を感じさせる場面さえあります。

日本はそもそもが既にノドンの危機に覆われているのですが、米国は違います。
 

トランプ氏は米国民に対して「北朝鮮の核の危機に晒される事はない」と約束しているのであって、日本はそこに便乗するしかないのです。

安倍総理の言う「日米関係は100%ともにある」とか、「日米関係は有史以来強固であり、その立場は揺るがない」というのは一応そうでしょうが、それは安倍政権とトランプ政権の間で言える事です。
 

それでなくとも中共の「対話」提案や、国務省派の「現方針の切り崩し」の危機があるのであり、例えば中共政府提案の「対話」による事態の引き伸ばしに組みすれば、やがては日米両政府の政権が変わり、安倍氏の言う事が水泡に帰す事になるのは必須です。

ところで、米国はその「準備」と「圧力」には怠りないものの、トランプ大統領の実際の行動を見る限り少なくとも「武力攻撃ありき」ではなく、武力攻撃が「決定された事」でない事も明らかです。
 

巷間、報道されるような内容と違い、私はトランプ氏が今のところ(もちろん紳士とは言えませんが)、かなりマトモな大統領だと思っています。 

                                         (続く) 





2017年11月27日 (月)

Flint_Lockさんにお答えして 朝日がしたことは言論統制です

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Flint_Lockさんからコメントを頂戴しています。

「戦後最大級の報道犯罪」というタイトルは、もはやジャーナリズムの枠を外れており、名誉毀損そのものだと思います。「捏造」ならば分かりますが。提訴せざるを得ない状況を導いた、著者ならびに出版社の姿勢に、問題があるのではないでしょうか。」

あなたは私の記事を読んでいますか。  

私は小川氏の本の書名、さらには内容そのものに関しては、初めから「関係がない」と言い切っていますよ。  

私は小川榮太郎氏の「言論」を弁護するために記事を書いたのではなく、小川氏の「言論行為」を守るために書いたのです。 

言論行為と言論内容は区別すべき別次元のことです。  

これをゴッチャにすると、気に食わない奴の言論は潰して当然という考え方につながっていきます。 

これは左右の別なく存在する考え方で、私はそれを批判し続けてきました。

左は「○○ヘイトだ」とレッテルを貼れば黙らせられると思い、一方右は「工作員だ」と言えばどんな民族差別的なことを言っても許されると勘違いしています。

まったく不毛です。

今回、私は朝日という社会的比較強者が、圧倒的に非力な小川氏というひとりの市民を、司法権力に訴えて「威嚇」する行為そのものを批判しています。  

社会的比較強者が、一市民を威嚇的に訴訟という手段を使って沈黙させることをスラップ訴訟(恫喝訴訟)だと書き、その定義も丁寧に行ったつもりです。

今回の朝日の行動は、まさにスラップ訴訟の定義どおりでした。  

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Flint_Lockさん、逆を考えてみると分かりやすいと思います。  

たとえば仮に、産経が「産経はアベポチ」と書いた文筆家と出版社に、「事実に基づかない名誉毀損だ。わが社は犬ではない。訂正と賠償金を要求する」と通告したとしたらどうでしょうか。  

この場合も、私はまったく同じことを言います。

産経さん、それは言論の自由の上に成立している言論機関としての自殺行為だ、みっともないから止めろ、紙面で反論しろ、と。

では新聞社ではなく政府や議員が批判される度に、名誉毀損で批判者を訴えたらどうなるでしょうか。  

これは民間の言論機関のレベルではなく、さらに危険なことです。 

公人の名誉は、みずからが公権力が故に一定のタガがはまってます。  

名誉毀損訴訟は刑法230条にありますが、その2項で例外規定を設けています。

刑法230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

この刑法230条2項は、実は言論の自由を縛らないために作られた条項で、名誉毀損の罪が及ばない例外規定は以下です。

①事実の公共性
②公益目的
③公務員、または公選された者は例外
④真実性の証明

「公務員又は公選による公務員の候補者」とは、いわゆる役人、または議員(候補者)を指すと考えられています。 

さらに議員と役人によって作られる政府も含むと考えられますから、「公共の利害」に合致する限り名誉棄損で罰することは難しいのです。  

だから、政府はいくらボロクソに書かれても、名誉毀損で訴えることはほとんどありません。 

もし、政府は朝日に対してこの刑法230条2項の縛りがなければ、この社が20数年間行ってきた膨大な慰安婦報道に対して数十兆円の賠償を求めてしかるべきでしょう。

慰安婦報道は、一政治家の名誉を棄損したなどという次元ではなく、日本国と日本人の名誉を棄損し、さらには日韓関係に永遠に埋まらない断絶を作ってしまったのですから。

実際私は、日韓合意の前まで「真実性の証明」をめぐって、あえて政府は朝日を提訴すべきだとおもっていました。 

あれこそまさにモリカケなどかわいく見えるような、「戦後最大級の歪曲報道」そのものでしたから。  

政府が反撃できないことをいいことに(※)、朝日はいまだ自社の犯した誤報(というより捏造報道ですが)に対して謝罪広告を行っていません。※訂正要求ならできますから念のため。

本来なら、欧米・韓国の大手紙すべてに全面広告で謝罪広告を打つべきです。

ですから、韓国は日韓合意を遵守せず、サンフランシスコの慰安婦像のようなことがくりかえされます。

また、ワシントンポストのアダム・テイラー記者に大阪市がらみで、「 元慰安婦が声を上げて以来、日本の悪行は世界中で認知された。日本だけ例外」などと書かれることになります。

Photo_3

では、今回の朝日の提訴はどうかんがえるべきでしょうか。  

当然ながら、小川榮太郎氏は公人ではありえません。ただの一個人です。  

ですから①②③は問題なく、④の「真実性の証明」のみが争われることになります。  

「真実性の証明」がなされた場合、免責となります。今回の朝日の提訴はこれを巡って争われることなることでしょう。  

では一方朝日新聞社は公人であるか否かは、微妙です。首相夫人の昭恵さん以上に難しいボーダーです。  

朝日新聞は世論形成に、自らも認めるように、新聞という全国2位の紙媒体を持ち、さらにはテレ朝というマイクまで握っている「第4権力」とまでいわれる巨大な存在だからです。 

私は朝日などの巨大言論機関・企業は、「民間でありながら権力に等しい」存在だと思っています。  

だから、私は「朝日さん自制しなさい。あなたは準公人なのですよ」と言いたいのです。  

今回のことが言論機関ではなく、製造業だったらどうだろうかと考えると、いっそう分かりやすいかもしれません。 

ジャーナリストが、とある製鉄会社、あるいは自動車会社が製造検査を「捏造」したと報じたところ、その会社から名誉棄損で民事訴訟されたというわけです。 

朝日という会社の「製品」は記事ですからね。自分の社の製品を批判されると訴える会社ってなんなんでしょうか。私の言いたいことはシンプルです。

もし朝日の今回の名誉棄損の提訴のようなふるまいが出来るのなら、社会は大企業の提訴と賠償金要求に屈してなにも言わなくなるでしょう。  

Flint_Lockさん、それこそが民主主義社にとって、危険ではありませんか。

言論には言論で対置しなさい、公権力を介在させるまねは言論機関の自殺ですよという以上でも以下でもありません。  

朝日は恥ずかしくなったのか、「訂正」だけに書き換えたようですが、民事訴訟に持ち込むということは、すなわち裁判官の判断に一冊の本の善し悪しの価値判断の軸足を持ち込むということです。  

これは民主主義社会にとって、大変に危険なことです。そんな権限を司法権力に持たせるべきではありません。  

なぜなら、それは公権力が言論の統制を可能にしていく下地を作るからです。 

権力が言論の正否を司どる社会、これを私は全体主義社会と呼びます。 

それこそ、かつての朝日言論人が戦ってきたものではなかったのでしょうか。

最後になりますが、小川氏は朝日を逆提訴するようです。

私は法廷に言論を持ち込むことは避けるべきだというのが持論ですが、売られたケンカは買う、火の粉ははらうということのようです。

朝日は軽く法的措置をにおわせれば恫喝に屈すると思ったようですが、甘かったですね。

出版社は2刷の腰巻きにデカデカと「朝日、名誉棄損で提訴!」と乗せるでしょうから、かえって藪蛇でした。

その上、足立議員や高山正之氏にまで同じことをしているようですから、どこまで朝日は墜ちたら気が済むのでしょうか。
 

 

2017年11月26日 (日)

日曜写真館 蒼天の下のエアショー

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2017年11月25日 (土)

朝鮮半島有事の邦人国外脱出は絶望的だ 

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日韓に動きがあります。 

首相がムンジェイン大統領に、公明党の山口代表を特使として送りました。

「(ムン大統領が)北朝鮮を対話に引き出すために国際社会と結束して最大限の圧力を加えていると強調し、山口代表も同意しました。
 公明党・山口那津男代表:「圧力を高めて、北朝鮮側から考え方を変えて話し合いをしたいと。こういう対応を引き出すことが大切」
 山口代表は日本が議長国を務める日中韓3カ国の首脳会談の早期実現を要請し、文大統領は中国の習近平国家主席にも早期の開催を働き掛けたことを明らかにしました。」(テレ朝11月24日)

Photohttp://www.sankei.com/politics/photos/171123/plt17...

もちろん、北朝鮮に対する共同の圧力をかけることがメーンテーマになるでしょうが、日本側としては早急に協議せねばならないのは朝鮮半島有事の際の邦人保護計画です。

こればかりは、勝手に日本だけで決めるわけにもいかず、高度な政治的判断を伴う案件になっています。

すでに日本側は、自衛隊と米軍との間でNEO(非戦闘員退避行動・Non-combatant Evacuation Operations)の計画案は存在しています。

基本計画の概要は

①有事発生から最低72時間は避難所に退避。
②安全が確認された時点で、ピョンテク(平沢)などの米軍基地に集合し、陸路でソウルから400㎞離れたのプサン(釜山)に移動。
③釜山から対馬に軍艦でピストン輸送。
④対馬から民間の移動手段で本州へ移動。

問題は②のピョンテクからプサンまでの陸路400㎞です。東京からに換算すれば、北は岩手県の盛岡市、西は兵庫県の神戸市ほどの距離です。

ラッキーならば、米軍家族に紛れ込んで脱出できる可能性もゼロではないでしょうが、当然ですが米国は自国民を優先します。

Photo_3米軍の非戦闘員退避行動訓練

2003年のやや古いものですが、米国のNEO計画の概要はこうです。

「移送する対象は、米軍家族、政府関係者その他12万5000人。これを航空機で国外に退避させる。
具体的には、まず3000メートル級滑走路を備え、1日5000人(望ましいのは1日9000人)の収容能力がある主要空港を確保し、これをメインとして使い、同時に予備として、その他の空港も確保する。航空機は軍用・民間のどちらも使うことになっていた。
空港の防衛には陸軍または海兵隊の各1個大隊を配備し、NEOの安全を確保するために、特殊部隊も投入する。空港までの輸送をおこなうのは現地業者または米軍で、この段階での課題は、いかにして混乱を最小限に抑えつつ、迅速で遺漏のない避難指示を伝達するかだと強調されていた。」
(静岡県立大学グローバル地域センター・小川和久)

最良なのはピョンテクから、空自の輸送機でピストン輸送することですが、韓国政府が認めるとも思えない上に、紛争地域に自衛隊を出すこと自体、国内法に抵触する可能性があります。

政府は苦肉の策として、オーストラリアやカナダと「避難有志連合」を考えているようです。http://www.sankei.com/world/news/171025/wor1710250...

空自単独の場合、仮にピョンテク基地に飛べたとしても、空自は海外への戦力投射を否定されているために、5万5千人もの人を輸送する輸送機がありません。

空路がダメなら陸路ですが、本来は当該国の承認を受けて軍隊が陸路で邦人保護に向かうのが国際常識です。

この場合、駐留はしないなどいろいろの細かい条件をつけられますが、歴史的にみてさほど珍しいケースではありません。

不可能ならば、外務省が大量の車両部隊を編成して5万5千人といわれる在留邦人を脱出させるべきです。

かつて日揮のアルジェリア駐在員らがテロリストに襲撃されて7名が殺害された際、外務省は現場邦人の国外脱出を怠りました。
アルジェリア人質事件 - Wikipedia

対照的に中国は、現場付近にいた中国人を大量の車両を雇って、瞬時に国外脱出させました。

ちなみに中国の避難処置は迅速、かつ徹底していて、東日本大震災・福島事故の時も、数日間で中国人は日本から姿を消しました。

それにひきかえわが外務省は、有事には邦人すら保護しようとしない無能官庁だということを、韓国旅行に行かれる人は肝に命じたほうがいいでしょう。

あの官庁は一回潰して、領事と外交儀礼機能だけにしてしまったほうがいいかもしれません。

それはさておき、自衛隊は来られず、外務省は「危険地域ですからプサンにまで避難してください」と口で言うだけで、助けには来ません。

少人数でしたら大使館に入れてくれるかもしれませんが、なにせ5万5千ですから。

結局のところ在留邦人は、自己責任でプサンまで、避難民をかきわけながら、自力脱出をすることになります。

道路は避難民で機能していないでしょう。火災や暴動、略奪の修羅の巷になっていることは容易に想像がつきます。

しかも車両は使えない可能性が高いので、徒歩で東京から神戸までの距離を歩いていけ、ということになります。

子連れの家族にとって、プサンまで到達できる可能性は極めて低いといわざるを得ません。

運良くプサンにたどり着いた人々も、そこにはわが国の艦船はいません。

③でただ「軍艦」とだけ書いたのは、海自艦艇がプサン港に接岸できる保証がないからです。

自衛艦旗を見ただけで、「軍国主義だ」と叫ぶ国にですから。

となると、米艦に乗せてもらうしか方法はありませんが、それも先ほどの空路と同じで米国人が優先です。

いままで邦人退避に対して、韓国政府は自衛隊の上陸を拒んできました。例によって「国民感情」だそうです。

朴槿恵大統領の時代、上陸そのものは認めるとする合意を取り付けたものの、条件として議会の承認がつけられていて、有事の際に韓国議会がまともに日本人保護など議論してくれるとも思えません。

ですから、それが認められる可能性は限りなくゼロです。

このように考えてくると、朝鮮半島有事の際の邦人保護は絶望的だと思われます。

首相はムンとの直接階段で風穴を開けようとするでしょうが、蟷螂の斧となりそうな気配です。

ですから、韓国在留邦人や観光客の方々は、有事の際にどうするのか、国は助けてくれないということを前提にして家族と避難計画を練っておくべきでしょう。

私はむしろあえて国外脱出を考えずに、自宅の地下室などに避難し続けているほうが安全だと思います。

また来年に入ったら、韓国旅行など不要不急の訪韓は控えるほうがよろしいかと思います。

それにしても、こんなできない尽くしの邦人避難を法制化したにすぎない安保法制を、「憲法違反だ。立憲主義を壊す戦争法案だ。叩き斬ってやる」と絶叫していた人たちのことを遠い昔のことのように思い出します。

こんなにも早くそれが現実味を帯びるとは・・・。

 

2017年11月24日 (金)

なぜ中国は北朝鮮向け原油パイプを締められなかったのか?

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北朝鮮に入る石油のルートは、基本的にふたつしかありません。 

最大のルートは、中国パイプラインの豆満江ルートです。 

何回か記事にしましたが、中国は豆満江を越えて、パイプラインを敷設しています。 

丹東市「金山湾油タンク」から出発し、馬市村の輸油ステーションを経て、加熱・加圧された後に豆満江を越えて対岸の北朝鮮・平安北道義州郡の烽火化学工場に送られて製油されています。 

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このルートを使って、北朝鮮への石油製品の大部分は輸出されています。

中国は口では、「現時点での北朝鮮核実験は米政府への『平手打ち』となり、そうした行動は中国が北朝鮮への石油輸出を制限することにつながる可能性がある」(環球時報2017年4月12日)などといいながら、いっかな石油製品パイプのコックを締めてきませんでした。 

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上のグラフに北朝鮮の動向を重ねてみます。 

2013年2月には3回目の核実験が行われましたが、むしろそこから石油製品輸出は右肩上がりに伸びています。 

2016年1月には4回目の核実験が行われましたが、まったく石油輸出輸出には歯止めが掛からず、その2月後の3月の国連制裁決議などど吹く風とばかりに伸び続けて、2016年9月の5回目核実験以後も伸び続けています。 

したがって、中国の北朝鮮への輸出は国連制裁決議にしたがっていれば減らねばならないはずが、むしろ順調に推移しています。

 

Photo_4
上のグラフで2015年に北の対中国貿易の伸びが落ちたのは、経済制裁とは関係なく、中国経済の減速が原因です。 

中朝両国の貿易関係は、北が極端なまでに中国に依存している構造が成立しています。それを示したのが下のグラフです。 

Photo_5
上のグラフを見れば、北朝鮮貿易は2015年には実に9割までが中国に依存しているのかわかります。 

北の中国への貿易関係は、2016年対北輸出が32億ドル、輸入が27億ドルですから、北にとっては5億ドルの貿易赤字ですが、この赤字はどのようにして埋めているのでしょうか。 

一般的には貿易赤字そのものは経済不調を意味しません。日本のように経済全体が好調ならば、輸入も一緒に伸びるからです。 

しかし、北のように中国にだけ極端な貿易依存をしていて、しかも同じ国に対して毎年5億ドルちかい赤字を作り続けるとなると話は別です。 

この謎解きを、田村秀男氏はこう説明しています。

「不足分は中国からの借り入れでまかなう、つまり中国の金融機関による融資で補うわけで、正恩氏直結の企業や商社、銀行は中国の金融機関との協力関係を保っている。正恩氏を締め上げるつもりなら、融資を止めることが先決なのだが、現実はほど遠い。」(産経2017年2月25日)

中国はこの不均衡状態を放置するどころか、むしろ促進してきたのには理由があります。

中国が典型的な過剰生産不況に苦しんでいるからです。

鉄鋼は一部の溶鉱炉を強制的に止めねばならないところまで追い詰められ、自動車は滞貨の山、太陽光パネルも膨大な在庫の山を作っていまや捨て値で売りさばいている始末です。 

このような中国の過剰生産恐慌一歩手前の状態が、AIIBや一帯一路構想のように、なりふり構わない海外への輸出攻勢をかける最大の原因となっています。 

ですから、対北貿易も例外ではありませんでした。ともかく売りたいから、中国は北への融資を垂れ流してきたのです。 

国連制裁決議の明白な違反ですが、自動車や鉄は民製品だ、食料は人道的な輸出だとばかりに、雪崩のように輸出したわけです。 

金には色はついていませんから、この中国金融機関の対北融資の多くは、弾道ミサイルや核開発へと流れ込んだことでしょう。 

中国は北への石油パイプラインのコックを締めれば、北の経済が崩壊してしまい、自国の金融機関が振り出した巨額の融資が一気に焦げつくのを恐れています。

ここに、「唇と歯の血盟」などという共産主義イデオロギーとは無関係の、中国と北の経済における相補関係、いや共犯関係ができ上がっているのです。

さて先日のトランプのテロ支援国家指定によって、北との経済関係を結ぶ金融機関は米国との取引関係から排除されることになりました。 

「アメリカのトランプ大統領が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことを受け、アメリカ財務省は21日、北朝鮮と取引のある中国人の実業家1人と中国の貿易会社など4社のほか北朝鮮企業9社と北朝鮮籍の船舶20隻を新たに制裁対象にしたと発表した。」https://www.houdoukyoku.jp/posts/21889 

さて、冒頭の豆満江ルートが正面玄関なら、第2ルートは船舶によるものでした。 

北は、第3国の国旗を偽装した貨物船で密輸していたのが分かっていますが、それも含めて、米国の厳しい監視下にあります。 

下のGPSマップが現在の北周辺における船舶状況の位置情報です。北朝鮮の海岸線には、船舶が存在していないことがわかります。

Photo藤原かずえ氏による 

一隻だけ停泊している船は、北朝鮮のヴェッセルRYE SONG GANG号で積載量わずか3000トンのタンカーだそうで、ウラジオストックから出港したものだそうです。 

この洋上で受け取る側「RYE SONG GANG1号は、10月19日洋上で石油の受け渡ししている様子が、米国の偵察衛星によって撮影されて公開されています。 

Photo_6https://www.houdoukyoku.jp/posts/21889 

米国は正面からは3隻の原子力空母に揃い踏みさせ、ひんぱんにB!を飛ばし、そして真綿で首を締めるように中国の対北貿易・金融取引を制裁対象にしました。

今後、これを受けての正恩の動きを冷静に観察せねばなりません。

※改題しました。いつもすいません。

■写真 うちのバカワンのたろーです。頭は悪いが愛嬌よしです。

 

2017年11月23日 (木)

朝日は「物言えぬ社会」を作りたいのか

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朝日新聞が小川榮太郎氏に謝罪と賠償を求めて訴えました。

理由は小川氏の新著、『徹底検証「森友・加計事件」朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』が名誉毀損にあたるということのようです。

朝日の2017年11月21日の広報部長と弁護士名による申し入れ書は、こちらから読むことができます。
http://www.asahi.com/corporate/info/11207014

小川氏の著書が、「事実に反し名誉・信用を毀損する」ということのようで、重箱の隅をつつくようにして長々と15カ所をとり上げています。

私は本書を読んでいる最中ですので、本書とその朝日の批判自体についての論評はおきます。

というのは今回の問題のありどころは、そこにないからです。

朝日が長々と述べている論点は、小川氏と朝日が一対一的に裁判所で争えばよいことであって、私の関心はそこにはありません。

日本一の高級紙を自認する朝日新聞社が、スラップ訴訟を手段にして一文筆家の言論を封殺をしたことこそが問題なのです。

スラップ訴訟とは、「批判的言論威嚇目的訴訟」のことです。

「スラップ( SLAPP、恫喝訴訟、威圧訴訟、批判的言論威嚇目的訴訟)は、訴訟の形態の一つで、大企業や政府など優越的地位を占める者(社会的にみて比較強者)が、個人・市民・被害者など、公の場での発言や政府自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない者(社会的にみて比較弱者)を相手取り、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こすものをいう。」
スラップ - Wikipedia

朝日が何を考えてこのような手段に出たかは知る由もありませんし、興味もありませんが、まさに上記のウィキのスラップ訴訟の定義がそのまま当てはまってしまいます。

スラップとは、”strategic lawsuit against public participation”の頭文字をとったもので、直訳すれば「公的参加に対する戦略的訴訟」と言う意味となります。

これは社会的に比較強者と言われている大企業、政府、自治体などが、自らに対する批判を封じ込めるために、訴訟に持ち込む方法のことです。

スラップ訴訟として成立するためには、4ツの基準があります。

①提訴や告発など、政府・自治体などが権力を発動するよう働きかけること
②働きかけが民事訴訟の形を取ること
③巨大企業・政府・地方公共団体が原告になり、個人や民間団体を被告として提訴されること
④公共の利益や社会的意義にかかわる重要な問題を争点としていること

(デンバー大学教授ジョージ・W・プリング・ペネロペ・キャナンプリングとキャナン”SLAPPs:Getting Sued for Speaking Out”Temple University Pressによる)スラップ - Wikipedia

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では今回の朝日の提訴について、このスラップ訴訟4基準に照らして検証してみます。 

第1の、提訴によって「公権力の発動」を求めているのかという点ですが、朝日は提訴に持ち込み司法権力の判断を求めています。 

現在は訴訟自体は口にしていませんが、それを匂わせることによる「威嚇」効果によって謝罪と賠償を引き出そうとしているわけで、そうとられても致し方ないはずです。

言論には言論で対応すべきというのは、民主主義の言論の自由原則の大前提であって、自分を批判したからといって提訴に持ち込む方法自体がおかしいのです。 

要は、文句があるなら、卑しくも言論機関なら口で言えということです。 

批判される度に公権力の介入を求めるならば、公権力による言論空間の支配を許すことに繋がっていくからです。 

それこそが朝日が批判して止まない、「言論統制社会」そのものなのではありませんか。 

そして第2に、「民事訴訟」という手段をとっているかですが、まさに取っています。

朝日は紙面で反論すれば済むことを、批判者に対して謝罪しなければ名誉毀損と損害賠償請求という民事訴訟に持ち込むことで、それを威嚇目的に使っています。 

社内に法務部があり、お抱え弁護士を持ち、潤沢な時間と資金を持つ巨大企業と違って、文筆家はただの一個人にすぎません。 

私も当ブログの記事を気に食わないとして、某大企業に名誉棄損として法的措置を取ると威嚇されたことがありました。 

小川氏がツイッターで、「大新聞からのしかかるようにして15項目の抗議を受けると、組織の後ろ盾がまったくない弱小個人の私としては大変な重圧を受けた」と述べられているのは、よく理解できます。 

この批判者に対して「のしかかるような重圧」を与え、口を封じることこそ、このスラップ訴訟の真の目的なのです。

第3の「社会における比較強者」かという点は、馬鹿馬鹿しくて比較してみる気にもなれません。

公称700万部、築地にそびえ立つ巨大ビルを構え、日本第2の大新聞社と、ひとりのペンによって生きる文筆家では較べるのも愚かです。

Photo_2小川榮太郎氏

第4に、「公共の利害」に関わっているのは明らかです。

本書のテーマが朝日の社長の女性スキャンダルを暴いたようなものならいざ知らず、本書のテーマは、国会で野党が最大の追及テーマとしたモリカケ問題です。

特に加計問題は、朝日の前川文書の「スクープ」から大火となりました。どこが火元であるのかは、問いただすまでもないことです。

朝日さん、批判にブチ切れるのは勝手ですが、頭を冷やして自分が今やっていることこそが、「物言えぬ社会」への敷石だと知りなさい。

2017年11月22日 (水)

米国、北朝鮮をテロ支援国家指定

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米国がテロ支援国家に再指定しました。これで米国は後2枚のカードを残すのみとなりました。 

ひとつは国連安保理の金融封鎖、もう一枚は軍事オプションです。 

2枚目の軍事力行使は決定的なカードなために、事実上米国はあと国連の金融制裁カード1枚を残すのみとなりました。 

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一方11月20日、トランプに尻を叩かれて北朝鮮に向かった宋濤・中共中央対外連絡部長は、訪朝を4日間で切り上げて帰国しました。
宋濤 - Wikipedia 

宋濤は、李洙墉・朝鮮労働党副委員長と会談した模様と伝えられています。李副委員長の主催で盛んな宴会が開かれたようですが、どのような収穫があったのかは公表されていません。 

また宗は習近平の特使として訪朝しているわけで、親書をたずさえていた可能性もあるにもかかわらず、正恩は顔すら見せないという非礼を働いています。 

一部のコリア・ウォッチャーには、これで「中朝交渉が本格稼働する」という見方もありますが、私はこの見方に否定的です。 

むしろこれはうがった見方をすれば、中国にとって最後まで粘り強く説得を続けたが、北朝鮮はまったく耳を貸さなかったというエクスキューズに使うための訪朝だったと思われます。

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米国は独自制裁として中国の北朝鮮と金融取引をする銀行や、移動式弾道ミサイル発射機(輸送起立発射機・上写真)を北朝鮮に輸出している武漢三江航天進出口公司へ経済制裁を加えてきました。

武漢三江航天進出口公司は、中国宇宙航空宇宙局と中国航空宇宙局の子会社で、中国共産党中央軍事委員会直轄の国有企業でもあります。http://www.soundofhope.org/gb/2017/10/31/n1224062.html

つまり、北朝鮮の移動式弾道ミサイル発射機の輸出は、中共中央軍事委員会の指示、ないしは黙認の下で北朝鮮に輸出されたことになります。

旧瀋陽軍区を経て、多くの弾道ミサイルや核爆弾の部品が北朝鮮に輸出されたと考えられています。

この移動式弾道ミサイル発射機は、いままで16輪の長距離弾道ミサイル用が16両、中距離用の10輪が10両あることが確認されています。

ちなみに、この移動式発射機は、大型タンクローリーからも作れることから、北朝鮮は2009年に神戸の在日朝鮮人企業を使って2台を密輸出したことがわかっています。

なお、この武漢三江航天進出公司は、堂々とピョンヤンに支店を構えています。 

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さて、テロ支援国家について押さえておきましょう。

テロ支援国家に指定されると、北朝鮮と北朝鮮人との取引が一切禁止され、取引を
行った場合、米国との貿易・金融取引も禁止されます。

「テロ支援国家に指定されると該当国に対する合衆国政府の各種禁輸措置がとられ、武器を始めとする輸出入規制や経済援助に対する規制がかけられる。また、国際金融機関の融資についても、合衆国政府が融資に反対するようになるため、その活用も行えなくなる」
テロ支援国家 - Wikipedia

かつて米国は南イエメン、イラク、キューバ、リビア、北朝鮮をテロ支援国家に指定しましたが、いずれも現在は解除されていますが、現在テロ支援国家に指定されているのは、イラン・スーダン・シリアの3か国。

北朝鮮は、今回再指定されたことになります。

前回の指定時には、先代がこの指定の軛に苦しんで、解除してもらうためにIAEAの核査察を受けると言わざるをえないところまで追い詰められました。

もっともそのあと、例によってちゃぶ台返しをして、査察官を追い出しましたがね。

今回、再指定されたことに対して「米国のNHK」ことCNN(バノン命名)は、テロ支援国家指定はおかしいと言っていますが、外国で空港という公衆の場でVXという毒ガス兵器を使って殺人をしたのは、もう立派なテロでしょうに。

また拉致被害者についても、トランプの胸のうちにあるはずです。

この再指定によって、以下の項目が制裁対象となります。

1.米国軍需物資リストに含まれる品目と技術の対北輸出
2.米商務省統制品目リストに含まれる二重用途(軍事用及び民間用)使用品目及び技術の無許可輸出
3.対外援助法、農水産物開発法、平和奉仕団法、輸出入法による対北支援
4.国際金融機関による対北借款供与
5.戦利品の移転
6.米国に輸出される商品への関税免除
7.米財務省関連規定により許可を得ていない米国民の北朝鮮政府との金融取引
8.北朝鮮で得た法人及び個人所得に対する税制の特恵

再指定で制裁対象になるのは、武器禁輸、経済援助の禁止、金融取引の規制などの措置です。

米国は北との取り引きがある193社の中国企業のリストを保有しており、これらの企業の対米取り引きに対して事実上禁止につながる制裁を科して行くものとみられます。

また米国は北と外交関係がある160か国に対して協力を要求します。

したがって、抜け穴だらけの国連安保理決議以上の効果を持つと思われます。

しかも解除するしないは、国連安保理決議と違って、米国独自制裁ですから、米国の腹ひとつです。

特に、米国を最大の輸出相手国とする中国にとって、ドル決済不能という事態は絶対に避けねばならないわけで、たぶん今回の特使派遣はそのことが背景にあったと思ってよいでしょう。

というわけで、米国にとってこのテロ支援国家指定は、これ自体が北朝鮮、あるいはその後ろ盾だった中国との交渉カードとなります。

2017年11月21日 (火)

日馬富士暴行事件を考える

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朝鮮半島情勢を、論点を整理しながら書いていますが、え、飽きたって(苦笑)。

はい、私もやや飽きていますので、今日は相撲の話などしましょうか。 

私がうんざりするのは、今回もまたメディアがフェークニュースを拡散する手法を使ったことです。 

警察の発表も待たずに、下の写真のようなずっと前の貴ノ岩の眼の周りにアザがある写真をいまだに使ったりするのは、典型的な印象操作です。 

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伝わる話もすべてが伝聞にすぎないのに、モンゴルにいる貴ノ岩の兄の「証言」とやらがまるで目撃情報のように伝わりました。 

この写真と貴ノ岩の兄の「証言」が、初めの診断書にあった「右中頭蓋底骨折、髄液漏れ」と共に報じられた結果、貴ノ岩=重傷、日馬富士=悪玉という先入観の刷り込みが行われてしまいます。 

印象報道とは、初めに圧倒的な画像と情報をぶつけて、視聴者をひれ伏させ、一定の方向に誘導することです。 

加計問題では、こんな写真が朝日(5月17日)の一面トップに踊りました。 

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この「ご意向」という部分だけが切り取られた写真に朝日は、「加計学園の新学部『総理のご意向』文科省に記録文書」という見出しでバーンと出したのです。http://www.asahi.com/articles/ASK5K0494K5JUTIL08N.html

続いて、他ならぬこの文書のリーク元であった前川前事務次官自身が「あれはホンモノです」とかいいながら登場して、ここぞと朝日は倒閣キャンペーンを社運を賭けて展開したのは、ご承知の通りです。 

ところが、この加計疑惑とやらはまるで蜃気楼のようなもので、近寄れば近寄るほど実体が見えないガスのようなものだったと分かってしまいました。 

さて、暴行事件に話を戻しましょう。 

この「頭蓋底骨折、髄液漏れ、全治2週間」は、診断書を出した当の診断した医師から「疑いに過ぎない。九州場所に差し支えはなかった」という証言が出て、重傷説はほぼ完全に否定されてしまいます。 

全治2週間というのは怪我をした10月26日~11月8日の2週間という意味であって、11月12日からの九州場所への出場はまったく問題なかったということになるからです。 

ですから、初めに5日間入院していたのは、検査も含めて大事をとったということです。 

ただし、暴行事件翌日の10月27日の松江巡業には、貴ノ岩は参加し、勢を寄り切ってみせるなど元気な姿を見せているからやややっこしくなります。 

Photo_3 10月27日、暴行翌日の松江巡業時の貴ノ岩

この翌日の写真は何枚か動画も含めて記録されていますが、顔面のアザや頭部の裂傷は確認できません。 

伝えられるような10針縫った、医療用ホチキスで縫合したというのは、少なくとも画像記録からはわかりません。 

もっとも力士は髪を結い上げますから、隠れることはありえるるでしょうね。 

しかし、いずれにしても髪に隠れてしまうていどの裂傷だったと考えたほうがよさそうです。

なお、もし裂傷が確認されれば、それは平手や拳で殴ったものではなく、なんらかの鈍器を使った可能性が浮上します。 

力士は格闘家ですから素手でも凶器とされますが、さらに鈍器を用いた場合、日馬富士は絶対的窮地に立たされることになります。

では、今なお貴ノ岩が休場しているのはなぜでしょうか。 

おそくらは彼を騒動の渦中に置きたくない、という貴乃花親方の親心、うがって言えば政治的配慮ではないかと推測されます。 

仮病という言い方は言い過ぎですが、怪我によるものとは関係ないとみたほうがいい思います。 

率直に一相撲ファンとして言わせていただければ、この貴乃花親方の対応はいただけません。 

日馬富士の相撲人生どころか、その社会的生命すら奪いかねないこの事件で、一方の当事者である貴ノ岩を隠してしまうが如き動きはいかがなものでしょうか。 

伝えられるところでは貴乃花親方が巡業部長でありながら、相撲協会にこの件を報告するのが遅れたのは、協会による隠匿を恐れたからだと伝えられます。

ならばいっそうのこと、自身も貴ノ岩を「隠匿」するのは止めた方がいいでしょう。 

相撲協会への報告の遅れについては、たしかに貴乃花親方の動きには奇妙な感じがつきまといます。 

というのは、貴ノ岩が元気な姿を見せた10月29日の福山巡業の直後に早くも鳥取県警に被害届けを出しているからです。 

時系列で貴乃花親方の動静を確認します。

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10月25日:秋巡業で鳥取市入り。その夜、日馬富士が貴ノ岩に暴行
10月26日:鳥取市の巡業(鳥取巡業)に参加
10月27日:松江市の巡業(松江巡業)に参加
10月28日:広島市の巡業(広島巡業)に参加
10月29日:福山市の巡業(福山巡業)に参加。貴乃花が鳥取県警に被害届を提出
11月2日:貴ノ岩が田川市役所に表敬訪問。相撲協会が事件を把握
11月5日:貴ノ岩が福山市内の病院で受診。「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」と診断され、9日まで入院
11月10日:貴ノ岩が診断名を公表せず協会に休場を届け出る
11月12日:九州場所開始。貴ノ岩は初日から休場
11月13日:日本相撲協会に診断書を提出
11月14日:日馬富士が謝罪。伊勢ケ浜親方が暴行を認める

疑問に残るのは、貴乃花親方が鳥取県警になんという被害届けをだしたのでしょうか。

巷間伝えられるようによもや階段から落ちたでは受理されないでしょうから、加害者不明で届け出たのか、あるいは日馬富士を名指しして届けたのだと思われます。

ならばこの時点で、貴乃花親方は伊勢ケ浜親方のみならず、相撲協会との戦闘モードに突入していたことになります。

ならば、事件にする気があって被害届けを出したにもかかわらず、被害届後4日も後になってから相撲協会に報告書を提出したのか理解に苦しみます。

隠匿される危険性を恐れたという説は、わからないではありませんが、どうもなにか落ち着きが悪いというか、ムズムズします。それだけでしょうか。

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この4日間に一体何が起きたのか、憶測にすぎないとお断りした上で、考えてみます。

この10月25日~10月29日の時点で、伊勢ケ浜親方は当然、日馬富士から暴行当夜の様子を聞いていたはずです。

日馬富士がどう報告したか分かりませんが、伊勢ケ浜親方は軽傷であって事件性が薄いと判断し示談を考えて、秘かに貴乃花親方に打診したのではないでしょうか。

そしてにべもなく断られます。

貴乃花親方は、これを相撲協会の差し金が裏にあると考えて、いっそう依怙地になります。

貴乃花親方からすれば、部屋のフラッグショップである愛弟子が怪我をしたのですから、うやむやにするなんてとんでもないといった気分であろうことは想像できます。

この「依怙地モード」に入った時の貴乃花は、かつて実兄や実母と絶交してしまう時の、彼の気性の激しさを思い出していただければお分かりになると思います。

あの戦闘モードに入った貴乃花は、世間を敵に回そうが、相撲協会とバトルをくりひろげようが、一切損得を省みない断固非妥協の人になってしまうのです。

改めて言うまでもないことですが、日馬富士の暴行自体は許されるべきことではありません。

しかし、このような依怙地で突っ張る貴乃花親方を見ていると、痛ましさと同時に、かつて彼の力闘に胸を熱くしたひとりの相撲ファンとして複雑な心境になります。

※扉写真を代えました。日々黙々と鍛練する砂まみれの力士への敬意と応援を込めて。

2017年11月20日 (月)

北朝鮮の「内在的意志」とは

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日本において不思議なことには、これだけ北朝鮮危機が叫ばれながら、正恩の情念の道筋が、実は南北統一に根ざしていることをほとんど見ないことです。 

よくしたり顔のコメンテーターたちが、「北朝鮮に体制護持さえ保障すれば、正恩は交渉に乗って来るんですよ。それを軍事的圧力をかけて戦争を煽って話しあいを拒んでいるのが戦争屋のトランプと安倍なんです」と言うのを聞きませんでしたか。 

戦争屋うんぬんは陳腐ですが、この北朝鮮の過激さがどこからくるのかを考えてみるのはいいことでしょう。

実は先日の記事でも書きましたが、この体制護持のためという分析は、米国務省も似たような考え方をしているようです。

しかし、この体制護持のためだとすると、既にティラーソンは体制の温存を保障しているわけで、ならばなぜ北朝鮮が協議に乗ってこないのかが説明できません。

その理由は簡単です。米国が会談の前提に核の放棄を置いているからです。

つまり北朝鮮の言い分は、「国体を保障するのはあたりまえ。核保有も認めよ」なのです。

だから、まとまらない。

ところで一方、NSC派の分析根拠は、北朝鮮という国が一般の独裁国家と別次元の、「ひとりの父親」に従属する朝鮮民族優越論にあるとする点です。 

北朝鮮には強固な内在的論理が存在するのであって、国際関係論一般で語ってはわからなくなるのです。 

この点を見ないと、さきほどのコメンテーターのように北朝鮮の核武装の目的は米国を直接交渉に引っ張りだすことにあって、その目的は金王朝の護持なのだという見方につながっていくことになります。 

北朝鮮という特異な国家を、一般の独裁国家と混同しています。

よくある独裁国家とは、たとえばフセインのイラク、アサドのシリア、カダフィのリビアです。年来の米国の敵だったが故に、米国内でも一緒にするような人が圧倒的です。

本当にそうなのでしょうか? 

フセインたちには大アラブ主義はあったかもしれないが、それが戦争の目的ではありませんでした。 

イラクのイランやクェート侵攻のような対外戦争はありましたが、それは北朝鮮のような人種的イデオロギーとは関係のないただの領土拡張主義でした。

決定的に北朝鮮とその他の独裁国家を区別する点は、グロテスクなまでに肥大した朝鮮民族純潔主義に基づく南北統一論なのです。

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静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之氏は「セキュリティ・アイ」(2017年11月16日)で、北朝鮮の国内宣伝の専門家であるブライアン・マイヤーズ博士(釜山・東西大学校準教授)の分析を紹介しています。 

マイヤーズはこう述べています。

「この「民族的使命」の分析は、北朝鮮が国内で宣伝しているイデオロギーに基づいている。
それは「朝鮮民族は純血であるがゆえに高潔であり、したがって、親のような指導者の下でなければ、悪に満ちた世界で生きていくことができない」という、昭和戦前・戦中期の日本の影響を受けた「偏執病的・人種的ナショナリズム」であり、共産主義とも儒教とも、外国へ宣伝している主体《チュチェ》思想とも異なるという。」

(Myers, The Cleanest Race: How North Koreans See Themselves ─ and Why It Matters (New York: Melville House, 2010).

このマイヤーズの「偏執病的・人種的ナショナリズム」という指摘は、(戦前・戦中の日本と並べるのは止めていただきたいものですが)、ともすれば共産主義の変種、あるいは儒教主義国家として北朝鮮を理解しがちな私たち日本人を驚かせます。 

Photo_3韓国を釜山にめがけて進撃する北朝鮮人民軍戦車

金日成はこの思想で北朝鮮社会を「一色化」し、さらに1950年6月に朝鮮半島全域を「一色化」しようと試み、挫折を味わいました。 

未完に終わった朝鮮戦争と呼ばれる「一色化戦争」は終わったわけではありません。あくまでも未完であって、いまはただの停戦状態にすぎないのです。 

この先代たちが挫折した一色化事業の完遂こそが、正恩の内在的意志です。 

そのための核武装であり、そのための弾道ミサイルなのです。 

さて、ここで北朝鮮による「一色化」をブロックし続けてきたのは、いうまでもなく在韓米軍、およびその策源地である日本でした。

別な言い方をすれば南北の分断を固定化し、北と南の国家をまるで地勢学的には「島」のような存在にしたのが、在韓米軍だともいえます。

その結果、韓国は歴史上初めて大陸勢力から遮断されたことによって日米の支援を受けて経済的繁栄を享受することができました。

Photo_5金大中と金正日

その一方、金大中からムン・ジェインに至る歴代の韓国の左派政権は、北朝鮮コンプレックス丸出しで、北にすり寄るのが習性でしたが、それは正統な朝鮮半島の国家はむしろ北朝鮮だと考えていたからです。

それゆえ、彼らは戦時統制権を韓国に移譲するという名目で、在韓米軍を排除しようと試みてきました。 

マイヤーズはこれについてこう述べています。

「北朝鮮の宣伝は、米軍さえ南から撤退すれば、北朝鮮の旗の下での統一は不可避となり、実現させなければならないと、常に強調してきた。
この予測は先軍政治の本質を規定し、莫大な犠牲の動機となってきた。
米軍撤退後の韓国は(北より豊かなうえに)ナショナリズムの基準でも北と同等になり、北朝鮮のほうが正統な国家だと主張する根拠がなくなるので、なおのこと北朝鮮が乗っ取らなければならなくなる。
それゆえ、米軍が撤退すれば、北朝鮮は、短期間の国家連合を経るのかはともかく、偉大な民族的使命(北朝鮮による統一)の完成に努めるほかない。」

(B. R. Myers, ”North Korea, Nuclear Armament, and Unification,” 個人サイトSthele Press, 7月3日, 同21日更新.(北朝鮮、核武装、統一)

Photo_2マイヤーズ著『最も清らかな民族──北朝鮮人は自分たちをどう見ており、それはなぜ重要か』韓国語版題名は『なぜ北韓は極右の国なのか』 写真は西氏による 

上写真のマイヤーズの著書の書名にある” The Cleanest Race”、「もっとも清らかな民族」という背筋が寒くなるような民族的ナルシズムの台詞は、「親のような指導者」である金日成の発言にあるものです。

金日成が抱き抱える人民軍兵士の恍惚とした表情こそ、いまムン・ジェインの顔の下に隠されたものなのです。

北朝鮮の米国と差し違えんばかりの過激化の根には、朝鮮半島を金日成主義で一色化するという民族的使命がある以上、その保証を核に求めるのは彼らの立場に立てば当然のことなのです。

だから北朝鮮は核を手放さず、手放さない以上協議は始まらないのです。

2017年11月19日 (日)

日曜写真館 石の花

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2017年11月18日 (土)

北朝鮮に対する米国内の二つの考え方

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今、北朝鮮情勢の判断をめぐって、微妙に保守論客の意見が別れつつあるのは、皆さまもお気づきかと思います。 

①すぐに軍事オプションが勃発するだろう派・・・上念司氏
②来春以降になるだろう派・・・末延吉正氏、長谷川幸洋氏、藤井厳喜氏、高橋洋一氏、山口敬之氏
 

上念さんは、やや過敏に米軍の、特に空母の動向に反応しすぎる傾向がありますので、失礼ながら割り引いて聞くべきでしょう。 

さて、私はといえば、申し訳ありませんが「わからない派」です。 

少なくとも、メディアが無責任に流しているような北朝鮮の先制攻撃はありえません。 

おそらく狙って来るとすれば、米国の地球半分の軍事行動の根拠地である横須賀軍港にたいする中距離弾道ミサイルによる核攻撃でしょうが、それをした瞬間、正恩はゲームオーバーです。 

これは米国の全面核報復の対象になることによって、本来の正恩の目的だったはずの「南北統一」の目標が消滅してしまうからです。 

そもそも、統一するもなにも北朝鮮という国が存続するかどうかさえわからなくなります。 

正恩くん、米国を甘くみないほうがよろしい。あの国は普段は口だけですが、ほんとうに殴られたらその十倍でなぐり返してくる国ですよ。
Photo_6ティラーソンとマティス

私がわからないと言ったのは、現在、米国内で二つの考え方が対立しているからです。その力関係次第なのです。
 

北朝鮮に対する対応の分裂のひとつは、私が「国務省派」と呼んでいる米朝協議派です。 

ティラーソン国務長官がその代表的な人物だと思われますが、米国は軍事的威嚇を自制して、軍事行動は極力避け米朝がテーブルを持つべきだという意見の人たちです。 

先日の記事で書いたバックチャンネルを、ほんとうの交渉の舞台に格上げしようという考えです。 

北朝鮮の核については、いきなり放棄しろから始めるとなんの協議もできないので、とまれ今は核実験や弾道ミサイル実験を凍結してくれれば応相談という立場です。 

この立場には、口にこそ出しませんが、北朝鮮の核を容認してもいいという含みがあります。 

これに対して、私が「NSC派」と呼んでいるマクマスター大統領補佐官やマシュー・ポッティンジャーNSCアジア担当上級部長などがいます。 

Photo_5マクマスター大統領補佐官

マクマスターは8月13日、ABCテレビのインタビューでこう述べています。

「北朝鮮は自国民に対し口にしがたいほど残虐で、近隣諸国にも脅威を与え続けているので、古典的な抑止論は通用しない。」

また この発言が米国内の安全保障専門家が相手国の国内政治は核抑止とは関係がないという批判にたいしてもこう答えています。 

9月18日、ニューヨーカー誌とのインタビューの発言です。

「ソ連より北朝鮮を抑止するほうが難しい。それは北朝鮮の言動は、米国を威嚇して同盟国・韓国を放棄させ、おそらく第二次朝鮮戦争への道を開く意図を示しているからだ。」

Photo_4ポッティンジャーNSCアジア担当上級部長

一方、ボッティンジャーはウォールストリートジャーナル紙の中国特派員だった時に、環境汚染を続ける工場に抗議する住民を取材して当局に逮捕されたという肝っ玉履歴を持った人物です。

http://www.news-postseven.com/archives/20170225_494740.html

提灯記事を書くのが北京特派員の仕事だと思っている、どこぞの国の大手紙は味噌汁で顔を洗いなさい。

ティラーソンやマティスが東アジアを熟知しているとは言い難いのに対して、ボッティンジャーは中国語にも堪能でアジアをよく知悉する人物です。知日派だとも言われています。 

ボッティンジャーは5月2日、笹川平和財団が米国でひらいた安全保障フォーラムではこう述べています。

「北朝鮮は数十年前から通常戦力で米軍の進攻を抑止できているので、この目的だけでは核開発を説明できない。
そして、北朝鮮にとって核兵器は在韓米軍撤退、米韓同盟解消、朝鮮半島の統一といった、他の目的のために米韓を脅迫する手段である。」

このように「NSC派」は、北朝鮮の目的を米国を核による威嚇ですくませて、韓国で熟しかけている親北派を使って統一を果たすことだと見抜いています。 

クリストファー・ヒル元東アジア・太平洋担当国務次官補は悪名高い、北朝鮮宥和派でしたが、昨今はこのようなことを言い出して驚かせています。 

6月20日のヒルの発言です。

「北朝鮮の狙いは、米国をパートナーの韓国から切り離し、金正恩の条件で朝鮮半島を統一できるようにすることだ。」

どうしたんだ、ヒルさん。蛭とまでいわれたあなたが、いきなりまともになるなよ(笑い)。

整理しておきましょう。 

まずは、北朝鮮の核開発の目的に関する「国務省派」の考えはこうです。 

①北朝鮮が在韓米軍撤退を求めるのは米軍の進攻を恐れているからであり、自衛的な性格だ。彼らの真の目的は体制護持である。
②したがって、ミサイル防衛を強化しながら、北朝鮮との具体的協議に臨み、体制護持をカードにして譲歩を引き出せばよい。
③米国は韓国から段階的に在韓米軍を撤退させていっても、朝鮮半島の安定は保たれるだろう。

一方、NSC派はこう考えています。 

①北朝鮮は金日成以来の南北統一イデオロギーを堅持している。
②その南北統一イデオロギーとは、「朝鮮民族は純血であるがゆえに高潔であり、したがって、親のようなひとりの指導者の下でなければ、悪に満ちた世界で生きていくことができない」というウルトラ・ナショナリズムと人種的優越主義である。
③したがって、米国が体制護持を提案しても、それを米国が北朝鮮の南北統一路線を容認したと解釈される可能性がある。
④その場合、朝鮮半島は極めて不安定になる。

どちらの判断が妥当なのかという判断はお任せします。

ただし、現在の米国政界では国務省派が圧倒的で、議会でも圧倒的です。

そしてトランプの国内基盤は不安定で、NSC派はいまだ少数です。 

ですから、米国は煮え切らないのです。

 

 

2017年11月17日 (金)

スリーパー・セルはそこにいる

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ふゆみさんがおっしゃるように、スリーパー・セルの活動は当然あるでしょう。スリーパー・セルとは直訳すれば休眠細胞のことですが、テレビドラマにもなったみたいですね。 

豪邸に住みレクサスに乗ったセレブ夫婦が、実は秘密破壊工作員だったというお話です。 

Photo

 潜伏破壊工作員、あるいは潜伏テロリストといったところです。 

あたりまえですが国籍も持ち、いつもは表面上まったく一般市民と同じ暮らしをしているわけで、社会的地位もあったりします。 

日本人の私たちには、どこかお話の世界のように感じますが、実在します。

実際に旧ソ連はかつての冷戦期に、多くのスリーパー・セルを米国や欧州に埋め込んでいました。 

彼らはいわゆるスパイではありませんから、諜報活動にはタッチしませんので、FBIなどのスパイ・ハンターの眼にも止まりにくいというやっかいな存在です。 

その上に「セル」、つまり細胞と呼ばれるくらいに独立して潜伏しているために、他にどのような同類のスリーパー・セルがいるのか、当人たちにも知らされていないわけです。 

ですから仮にひとりが捕まっても、芋づる式に組織が壊滅することはありません。 

では彼らはいったい何のためにスリープしているのでしょうか。それは有事の際の破壊工作です。 

いっそうお話じみてくるので恐縮ですが、事実旧ソ連のスリーパー・セルの実態は一部が冷戦後に解明されていますが、彼らの任務は米国内の軍事基地、道路、通信、港湾、空港などの生活インフラの破壊、そしてエネルギー・インフラの破壊などであったとされています。 

彼らは、有事において本国からの暗号指令ひとつで、あらかじめ定められた目標を淡々と破壊に向かいます。 

ある会社経営者は冷蔵庫からC4爆薬を取り出し、ある芸能プロダクション社長は犬小屋の下の密封コンテナから銃器とRPG7を取り出します。 

そうですね、オーム真理教のシナリオを思い出して下さい。

彼らの台本によれば、麻原教祖がゴーサインを出せば、信徒は働いている豚骨ラーメン店の冷蔵庫からサリンを取り出し、倉庫から自動小銃を教徒のコマンドに配って大規模テロをする手はずだったのです。

スリーパー・セルもまた同様に、武器類をゴルフバッグに詰めて、レクサスに乗り定められた目標に向かうことでしょう。

冷戦期のスリーパー・セルの日本における実態は公表されていませんが、わが国にも埋め込まれていたと考えるのが妥当でしょう。 

なぜなら、わが国は米軍の世界最大の策源地だからです。米軍は日本を根拠地にして、地球の半分の軍事力を展開しています。

日本は歴史的に朝鮮半島との交流が長いために、国内にはスリーパー・セルを潜伏させる諸条件は充分すぎるほど揃っています。 

名指しは避けたいのですが、朝鮮総連はかつて拉致事件において「土台人」と呼ばれる彼らの組織リソースを提供したことが分かっています。
土台人 - Wikipedia
 

北朝鮮が日本国内にスリーパー・セルを埋め込もうと考えた場合、この総連系リソースを使わないと考える方が不自然です。 

ただし、これは裏をとりようがない憶測だとお断りしますし、在日朝鮮人・韓国人一般をそのような眼で見るべきではありません。 

では、仮に日本にもスリーパー・セルが潜伏しているとして、なにが攻撃目標になるでしょうか。 

かつての冷戦期の旧ソ連のそれを参考にすれば、横須賀基地の攪乱もありえないことはないでしょうが、それ以上に危険度が高いのはなんの防備もないソフトターゲットです。 

空港・鉄道・道路・橋などの交通インフラ、火力発電所や水力発電、石油精製基地などのエネルギーインフラ。 

通信施設、電磁記録保管所などの電力・通信インフラが、最大のターゲットになります。

渋谷、新宿などの繁華街のテロもありえるでしょう。 

新幹線は防ぎようがないので、トンネルに差しかかるあたりで爆破された場合、大惨事になります。 

そして書くことも憂鬱ですが、なによりここをターゲットにされるともっとも困る施設が原発です。

Photo_2原子力関連施設警戒隊の訓練風景 

本来、原発がソフトターゲット(警備の薄い施設)であっては困るのですが、わが国では残念ながら1900人といわれる原子力関連施設警戒隊が警備しているに留まっています。
原子力関連施設警戒隊 - Wikipedia 

これでもかつてよりましで、2002年のFIFAワールドカップ以前はただの民間ガードマンでした。 

この原子力関連警戒隊はH&K機関拳銃などで武装しています。

また、「原子力発電所は自衛隊によって重要防護施設に指定されており、有事が発生する危険性が高くなった場合は内閣総理大臣の命令により中央即応集団もしくは方面総監が指定した部隊が出動し警備に当たる。」(ウィキ) 

上の写真は2013年5月11日に行われた原発警備訓練時の写真だろうと思われますが、2013年5月12日付けの産経新聞によれば、このような想定でした。

原発の正門にテロリスト三人を乗せた乗用車が猛スピードで接近。完全武装で待ち構える銃器対策部隊に手榴弾を投げ込むなど強行突破を試みて銃撃戦になる。

応援の指示を受けた千葉県警のSATを乗せたヘリが到着。

隊員がファストロープでテロリストの背後に降下、拳銃を乱射し抵抗するテロリスト二人にMP-5短機関銃で応戦し、肩を撃ち抜き取り押さえる。残る一人は抵抗を諦めて両手を上げる。

Photo_3

失礼ながら、想定が甘い。甘すぎます。

日本の警備陣は、国内の過激派か、それに毛が生えたような拳銃や小型爆弾ていどで武装するテロリスト程度しか想定していないのです。

日本警察特有の発想ですが、これでは重武装したスリーパー・セル集団の攻撃、それに呼応した北朝鮮特殊部隊をまったくブロックできません。

これはSATが弱いからではなく、彼らには「警察比例の原則」が課せられているからです。

素手には素手、ピストルにはピストルというわけですが、相手が初めから戦争行為をする目的で侵入した軍事組織だった場合には通用しません。

上の写真で警察犬が登場するのも、あくまでも逮捕するという司法行為が大前提になっているからてす。

ですから、テロリストが手榴弾を投げると、「武器を捨てなさい」などとのどかなことを警告しています。

これらは諸外国ではありえない対応で、爆弾を投げる者は、原発に限らず即時射殺されても文句はいえません。

米国やヨーロッパの警察特殊部隊なら、躊躇なくそうするでしょう。

スリーパー・セル、あるいは北朝鮮特殊部隊は、警備陣にRPGを数発発射し、機関拳銃で数百発の弾をばらまきます。

おそらくSATていどの警備部隊では、警告を発する余裕すら与えられずに、瞬時にして全滅し、原発は短時間で占拠されることになります。警備犬など出る幕すらありません。

占拠された後になってから、自衛隊に防衛出動が下命され、特戦群(特殊作戦群SFGp)が投入されるでしょうが、占拠されてからでは遅すぎるのです。

それ以降は想像にお任せします。全電源ブラックアウトにするかもしれないし、作業員を楯にして立て籠もって警察と自衛隊を引きつけておくかもしれません。

いずれにしても、わが国は米軍の後方支援や難民対策どころの騒ぎではなくなることだけは確かです。

相手方が「戦争」を仕掛けてきているのに、平時の警察活動の延長で対処しようとするのどかな国。それがわが国です。 

2017年11月16日 (木)

北朝鮮の緊張緩和は「稲刈り戦闘」のためかもしれない

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七面鳥さんのおっしゃるとおり、どこかで記事にした記憶がありますが、5月と8月に軍事的緊張を作ってしまうと飢餓を作ってしまうのです。 

5月は田植え、8月稲刈り。北朝鮮は田植え戦闘・稲刈り戦闘(「戦闘」が好きだね)とか称して軍や都市労働者まで動員しますから、ここで軍事動員かけると米の生産がボロボロになります。 

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上の写真がその「田植え戦闘」なるものですが、労働集約型と呼ぶのも馬鹿馬鹿しい動員ぶりで、こんなに単位面積に人を投入すればかえって荒れるんじゃないかと心配になるくらいです。 

ミサイル作るなら、田植機やトラクターを作れよと言いたくなりますが、言っても無駄か。 

それはさておいても、下級兵士が飢餓線上にあるとの報道はかねてから伝えられています。

「金正日政権は、軍隊を最優先にし、軍隊を中心に体制運営をして行こうという「先軍政治」を掲げていた。金正恩氏を後継者に決めた新体制も、この「先軍路線」の継承をするとしているが、肝心の兵士たちが飢えに苦しんでいる。
軍隊に栄養失調が蔓延しているというのは20年以上も前から指摘されてきたことであり、その証言と報告は枚挙にいとまがない。北朝鮮では「軍に入隊することは飢えること」というのが社会常識になっている。(略)
人民軍兵士たちを撮った写真を見ていただきたい。窪んだ目は虚ろで、焦点も定まらないように見える。頬骨は浮き出て、細い首で何とか支えている頭は、彼らには重過ぎるように見える。軍服はぶかぶかだ。何人かはすっかり虚脱してしまい、うつむいたまま全く動かない者もいる」

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2011年7月平安北道 キム・ドンチョル撮影 アジアプレス・ネットワーク http://www.asiapress.org/apn/author-list/ishimaru-jiro/1_85/

今回逃げてきた38度線部隊の北の兵士も30㎝の寄生虫持ちで、極度の貧栄養だったようです。

「患者の腹腔内糞便および寄生虫による汚染が非常に激しい状態であり、寄生虫感染の場合、致命的な合併症を誘発する場合があるとイ教授は診断した。
イ教授は患者の病歴が分からない状態とし、栄養も不足し未知の感染が存在する可能性を排除できないと注視している。」(
WoW!Korea11月15日)https://news.nifty.com/article/world/korea/12211-201472/

38度線にはそれなりにエリート部隊をはりつけているはずで、相当に兵士の飢餓も進行しているとみたほうがいいようです。 

軍隊には優先して補給を与えているはずですが、核武装とミサイル部隊の一点豪華主義政策によって、一般のロジ自体が崩壊してしまっているようです。 

正恩が8月から9月にかけて民生重視路線に切り換えたのは、米国との絡みもさることながら、「稲刈り戦闘」をせねばならない、文字通りの背に腹はかえられない事情があったのかもしれません。

思えば、正恩は焦りすぎています。このようにわずか1年間で超大国との関係を極端に悪化させてしまえば、当然その副作用はきます。

れはまず国内経済の破綻、なかでも長年の宿痾であった農業生産の崩壊から開始されるでしょう。

当初はボディブローのように効き、やがて死病になるかもしれません。

私は安国寺恵瓊が本能寺の10年前に予言したという、この言葉を思い出してしまいました。

「候て後、高ころびにあおのけにころばれ候ずると見え申候」

米国は正恩のペースにはまって焦る必要はありません。

なぜ正恩が過激なのか、その理由をかんがえることです。

それは北朝鮮という失敗国家に余裕がないからです。

金がない、食料がない、そして石油もない。それゆえ、時間がない、体力がないのです。

だから1年間という短期で、「核保有国」を宣言せねばならないのです。

きっちりと同盟を固めて十重二十重の経済封鎖が完了すれば、自ずとかの国は核を抱えたまま枯れ死にするでしょう。

2017年11月15日 (水)

北朝鮮の核施設破壊のためは地上部隊を投入するしかない

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もう少し北朝鮮情勢について書いていきます。 

日本ではえてして航空機や巡航ミサイルによる空爆で、決着がつくと思っている人が相当います。 

保守系論客でもいまだに数千発のミサイルが、瞬時にして北朝鮮核施設を破壊し去るだろうと言う人もいます。 

これが外科的精密攻撃(サージカル・ストライク)過信症候群と私が呼ぶものです。

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 この春あたりまで私もありえると思っていましたが、残念ですがいまや私は考えを変えました。 

米国は軍事圧力をかける場合、空母打撃群やB!Bを飛ばしたりするといった方法を好みますから、「そうか空爆で済むんだなぁ、日本への影響は最小に留まる」と日本人はぼんやりと考えてしまいそうになります。 

たぶんこのサージカルストライクを前面に出すことで、戦争の影響を軽く見せようという意識的な印象操作はあると思います。 

もちろん米軍はプロですから、こんな空爆で全部カタがつくなどとはまったく考えていません。 

いままで空爆だけで決着した戦争は皆無なのです。 

湾岸戦争、イラク戦争、ボスニア・ヘルツゴビナ紛争、アフガン、イラク、ことごとく地上部隊を派遣せねば終わらず、派遣すれば泥沼化するということの繰り返しを、米国は経験してきています。 

さてトランプのアジア歴訪と前後して、ペンタゴンは議会の軍事行動の選択肢についての質問趣意書に回答を送りました。

答えたのは、マティス国防長官に替わって部下のデユモント少将(統幕副議長)です。文書自体は機密指定ですが、フロリダ州の「タンパ・ベイ・タイムズ」とワシントンポストが報じています。

 「核兵器ならびに核設備の完全破壊には地上軍の投入が必要となる」

またワシントンポスト(11月4日)、”Securing North Korean nuclear sites would require a ground invasion, Pentagon says”(「北朝鮮の核施設を確保するには地上侵攻が必要だとペンタゴンは言う」という記事を流しています。

”The Pentagon report is clearly stating that attacking North Korea is not viable because of the entrenched and dispersed nature of their nuclear deterrent.
Read between the lines: "Not possible to neutralise the DPRK nuclear deterrent by air and missile strikes alone."
 

(仮訳)「ペンタゴン・レポートでは、核戦力が分散しているため、北朝鮮攻撃は実行可能ではないということが明らかになっている。
『北朝鮮の核抑止力を空爆とミサイルで無力化することは不可能だ』」

ここでペンタゴンは明解に空爆とミサイルでは、核施設を破壊できないと断言しています。 

では、どうするとペンタゴンは言っているのでしょうか?

”The only way to locate and secure all of North Korea’s nuclear weapons sites “with complete certainty” is through an invasion of ground forces, and in the event of conflict, Pyongyang could use biological and chemical weapons, the Pentagon told lawmakers in a new, blunt assessment of what war on the Korean Peninsula might look like.”

(仮訳)「北朝鮮のすべての核兵器の位置を『完全かつ確実』に把握して確保するための唯一の方法は、地上軍の侵攻であるが、ピョンヤンが侵攻部隊に対して生物化学兵器を使用することができることが、ペンタゴンの判断を遅らせていると議員に語った。」

これは軍事専門家が常識として経験してきたことを、改めて表明したものにすぎません。 

結論から言えば、米軍は北朝鮮の核施設を壊滅させるためには、大規模な地上兵力を北朝鮮領内に投入する必要があります。 Photo_3その理由は、北朝鮮の核施設は地下や山中に巧妙に隠蔽されているためです。 

その多くは衛星の偵察によって確認されていますが、把握されていない施設もあるでしょうから、それをまさに文字通りひとつひとつ潰していかねばなりません。 

この進攻部隊に対して、北朝鮮が生物化学兵器を使う可能性すらあるとペンタゴン・ペーパーは述べています。 

つまり、弾道ミサイルを発射前に潰すのは至難の業だという事実を覚えて下さい。

たとえば、湾岸戦争時の「スカッド狩り」が参考になるでしょう。 

当時米国は素早くイラク上空の航空優勢を確保し、延べ数千機の作戦機を惜しげもなく投入しました。 

米軍は空爆用の戦闘機を空中に待機させながら、対地用早期警戒管制機「E-8ジョイントスターズ」で地上をくまなく監視し、スカッドを搭載した移動式弾道ミサイル発射機(TEL)を発見次第に容赦なく空爆しました。 

また同時に英米軍は大量の特殊部隊を、イラク領内に潜入させています。

Photo_2スカッド・ハンターで投入されたデルタプォース 

にもかかわらず、イラクのミサイル発射を押さえきることはできなかったのです。 

結局、イスラエルに向けて発射されたスカッドは約40発、サウジアラビアやバーレーンなどに向けて撃たれたものまで含めると約90発が発射に成功しています。 

砂漠のように平坦な砂漠で監視しやすいイラクですら、この有様なのです。 

ましてや山岳地帯が多い北朝鮮の国土では、至難を極めることが容易に想像できます。

20061212_northkorea_2
次に見ておかねばならないことは、北朝鮮人民軍は自由主義社会の軍隊と根本的に違う性格を持っているということです。 

独裁国家の軍隊は、独裁者とその少数の側近のみが指揮権を握っている「独裁者の軍隊」なのです。 

部隊には政治委員がくまなく配属され、指揮官以上の権力を持っています。 

また部隊と部隊の横の繋がりは、独裁者へのクーデターを起こす可能性があるために厳しく禁じられています。

このような「独裁者の軍隊」は、指揮系統から分断されても活動を継続できます。 

ですから、米軍が最初に標的にするであろう指揮・通信司令部や指揮系統を破壊されても、与えられた任務を続行し続けることでしょう。 

通常の軍隊はここで現場部隊はどう活動すべきか、上級司令部に問い合わせるために混乱するでしょうが、こと北朝鮮人民軍はそのようなことはありません。 

黙々と、彼らは規定の作戦計画を実行するだけなのです。 

仮に初期に米軍が正恩の「斬首作戦」に成功し、それを世界に発表したとしても、現場部隊はそれを無視し、規定の作戦遂行に全力を尽くすでしょう。 

あるいは、私は人民軍現場部隊は、万が一正恩が殺された場合は、その報復プログラムを実施することを命じられているとさえ思っています。

このように北朝鮮軍は頭脳をつぶされても、手足だけが自律的に生き残る構造になっている異形の軍隊なのです。

そうである以上、軍事オプションは仮に現実に実行するとなると、米国が経験するもっとも困難、かつ長期に渡る戦争になると予想されます。 

この文脈で、中国が米国の空爆は容認するが、地上軍の侵攻は容認しないと条件をつけている意味をかんがえるべきなのです。

 


 

2017年11月14日 (火)

米朝会談の可能性が浮上

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私は、北朝鮮の思惑と、米国国務省派の思惑が奇妙な一致をする可能性があると思っています。

米紙ワシントン・ポスト電子版(11月9日)が、このような記事を乗せていると共同が伝えています。

「国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が、北朝鮮が核・ミサイルの実験を60日間凍結すれば、米朝対話に応じる考えを10月末に示していたと報じた。米政府当局者はティラーソン国務長官の考えと一致すると指摘している。
北朝鮮が最後に実験したのは9月15日。北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。
ただ『60日』は北朝鮮側から凍結の意思表示を受けてから数え始めることにしており、北朝鮮側の連絡を待っているという。」(太字引用者)

ユン特別代表とは、下の写真で植村隆元記者のような風貌をした人物です。

Photo

彼は60日間正恩がおとなしくしていれば、交渉に乗ってやってもいいというわけです。弾道ミサイル発射や核実験の凍結が条件だということです。

ここでユン特別代表はあくまで核武装にまつわる「実験の凍結」だけを交渉のテーブル作りの条件にしていて、従来の米国の基本方針だったはずの核放棄は口にしていません。

そしてこれはユンの個人的な考えではなく、国務省上層部とティラーソンの考えと一致しているとWPは書いています。

それに呼応したかのように、この間、正恩は約2カ月間に渡って奇妙な沈黙を続けています。

口撃はあいかわらず、「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」とか、「日本列島を沈める」などと過激なマッドマンセオリーを貫いているようですが、行動は抑制されています。

平壌の街が平穏だという報道はしばしばされており、正恩はしばらく行っていなかった地方の農村に視察旅行をしているようです。

Photo_2http://app.yonhapnews.co.kr/yna/basic/articleJapan...

また民生品である、靴や化粧品工場の「指導」に出かけたとの動静もあります。 

もっとも緊張が高まったこの春にはまったく民生関係の視察をしていなかったので、意識的に農業や経済を重視している姿勢を見せようとしているように思えます。

またこの10月7日には、朝鮮労働党大会が開催されました。

「北朝鮮が7日の朝鮮労働党中央委員会総会で指導部の大幅な人事を断行したことについて、国連制裁など包囲網が狭まる中、外交・経済の立て直しを急ぐ狙いとの分析が韓国で出ている。」(読売10月12日)

意外なことに、ここで新たに政治局員に抜擢されたのは、李容浩外相や、経済の専門家とみられている太宗秀氏ら9人でした。

そもそももっとも緊張が高まったこの3月などは、正恩は「斬首」を恐れて米韓軍事演習時期の14日間は消息不明でした。

そして隠れ家から、弾道ミサイル実験を頻繁に命じるようになります。

そしてこの2カ月間、北朝鮮は軍事的挑発を手控えて、経済重視、民生重視の顔を見せています。

この現象をどのように捉えるべきでしょうか。

いくつか可能性が考えられます。

まず第1に、北朝鮮が核武装化に当たって、なんらかの技術的障害にぶつかったケースです。

具体的には、核実験場の崩落事故によって核実験が一定期間できなくなったとも考えられます。

あるいは再突入技術や、弾頭の小型化が未達成で、なんらかの技術的ネックを抱えているのかもしれません。

第2の可能性としては、逆に北朝鮮の言い分のように「核保有計画が完了した」場合です。

にわかには信じられませんが、彼らはこう述べています。

「われわれの国家核戦力の建設は既に、最終完成のための目標が全て達成された段階にある」(10月28日 「労働新聞」) 

そして第3に、経済制裁が効いているか、あるいは効きつつあるのかもしれません。

特に米国が近々に出すと言われているテロ支援国家指定は、北朝鮮の大きな財源であるブラックマネーまで含めて凍結される可能性があります。

これらいずれもありそうでいて、なさそうでもあります。決定的な情報が不足しているからです。

ですから、彼らがわずかに国際社会に出している細いアンテナである秘密交渉テーブルでの言動が重要なのです。

いずれにしても、この方針転換の意志が秘密交渉の場で、米国側に直接伝えられた可能性があります。

そして米国務省派は、それを慎重に見極めながら、まんざらでもないというところでしょうか。

ユン代表は、北朝鮮が「対話に乗るという意思表示をしてから60日間」という言い方をしているので、もし北朝鮮が公式に「対話」を宣言すれば、それを起点にして2カ月以内に米朝会談が開かれる可能性もでてきました。

とまれ、私たちは「軍事攻撃があるはずだ」、逆に「対話しかない」と予見を持って情勢をながめないようにしたほうがよさそうです。

2017年11月13日 (月)

北朝鮮が秘密交渉テーブルで主張していることとは

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ティラーソンとトランプの間に対北政策の齟齬があるのかということを問われれば、私は微妙ですが「ある」と考えています。 

問題となったのは、ティラーソンの8月7日の発言です。

「米国務長官は7日、北朝鮮が一連のミサイル発射実験を中止すれば米国は北朝鮮と話し合いをする用意があると述べ、対話のドアは開かれているとの姿勢を示した。 」(ロイター8月7日)

これは国連の8月5日の制裁決議を踏まえてのものです。

「アメリカ政府は北朝鮮の政権交代を目指さず、政権崩壊も求めない。朝鮮半島再統一の加速は求めず、38度線の北に米軍を派遣する口実も求めていない」と述べた上で、「アメリカが対話を望んでいるということを、北朝鮮がいつか理解することを望む」(ニューズウィーク日本版8月4日)

いままで具体的に「対話の条件」を言ってこなかったために、驚きをもってうけとられ、米国有力メディアは一斉に、「アメリカが対話のドアを開けた」との見方を伝えました。 

Photo_2
これに対しての北朝鮮の反応ですが、直接の言明はないものの、まぁ、想定内です。

「これについて北朝鮮からの直接的な反応はないものの、米国が攻撃を仕掛ければ、北朝鮮は米国を「ひどい目に遭わせる」と表明。北朝鮮は、米国が北朝鮮への敵対的な政策を維持する限り、核開発プログラムを交渉のテーブルに乗せることはないとのこれまでの姿勢を改めて示した。ただどのような行動をとるのか具体的には言及しなかった。」(同上)

「ニューズウィーク日本版」(8月4日)は、遠藤誉氏の論説を掲載しています。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8131.php 

ここで注目されるのは、遠藤氏が米朝が「2トラック外交」をしているということを明らかにしたことです。 

遠藤氏のソースは2016年8月28日、ワシントンポストは「Inside the secret U.S.-North Korea 'Track 2' diplomacy(米朝秘密トラック2外交)」です。 

この記事でワシントンポストは、水面下において米朝が頻繁に接触している事実を暴露しました。 

ただしお含みおき願いたいのは、このWPの記事が2016年月というオバマ政権末期に書かれたものだということです。 

おそらく現在でも国務省が継続しているでしょうが、トランプがこれに重きを置いているのかははなはだ疑わしいと思えることです。

それはさておき、トランプ就任は2017年1月ですから、既に彼が就任する以前から国務省サイドではこのような「2トラック外交」をしていたことになります。 

ではその内容ですが、このようなものであったと、遠藤氏は述べています。 

「ワシントンポストの情報によれば、2011年に金正恩政権が誕生して以来、平壌(ピョンヤン)(=北朝鮮)は一連の「トラック2外交」を通してワシントンと連携を保ち続けているとのこと。
「トラック2外交」であるにもかかわらず、北朝鮮は常にハイレベルの外交官をこういった会議に派遣してきた。
アメリカ側の参加者はすべて元政府高官か朝鮮半島問題や核問題の専門家たち。その意味では北朝鮮の方が力を入れているということができる。
会談場所は主としてベルリンかシンガポールで、北京ということもあった。」

少し説明を付け加えれば、「トラック2外交」とは、外見上は緊張関係のある両国関係を打開するために、正面ドア以外に、もう一つの秘密のドアを作っておく外交手法です。 

俗にいう「水面下の交渉」ですが、正面ドア(トラック1外交・Track 1 Diplomacy)が、国務省の外交官や政治家によることに対して、秘密のドア(トラック2外交・Track 2 Diplomacy)は引退した政治家、軍人、学者などが私的な肩書で接触することを指します。 

北朝鮮はこの「秘密のドア」がことのほか好きなようで、米国が引退した政治家や学者を派遣したのに対して、「北朝鮮は常にハイレベルの外交官をこういった会議に派遣してきた」(前掲)そうです。 

このハイレベルの高官とは、北朝鮮外務省の北米副局長だった崔善姫(チェ・ソンヒ)などであると推測されます。 

Photo_3崔善姫北米副局長

ちなみに神保謙氏によれば、彼ら北朝鮮の外交関係者の多くは米国留学組であり、英語が堪能なことはむろんで、物腰も大変に洗練されおり、米国外交にも精通しているそうです。
 

「エリンギ政権」だなどと侮る人がいますが、こういうバックドア・トラックでは微妙な交渉も継続できるのが北朝鮮のもうひとつの顔なのです。 

興味深いのはこの部分です。

「米韓研究所の核問題研究家であるJoel Wit(ジョエル・ウィット)氏は「北朝鮮は主に停戦協定を平和条約に持っていくことに強い関心を持っている。彼らは核兵器計画を、平和条約を交渉する中で検討することを願っている」と言う。
2016年2月にベルリンで開催された「トラック2外交」に参加し、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)氏(同年5月から外相)と話し合ったウィット氏は、「ピョンヤンは対話を受け入れるシグナルを出している」と述べている。」(前掲 太字引用者)

また具体的に核について、北朝鮮はこう述べています。

「2016年6月には北京で北東アジア協力対話に関する米朝の非公開会議があり、北朝鮮の代表として出席した北朝鮮外務省の北米副局長だった崔善姫(チェ・ソンヒ)氏(2017年から局長)は「ピョンヤンは現有の核資産を放棄することはないが、しかし今後継続して核装備を拡充していくことに関しては話し合いの余地がある」と述べている。」(前掲)

つまり、北朝鮮は現行の朝鮮戦争の停戦協定をさらに一歩進めて、正式な平和条約に発展させる協議を行い、その場で核についても「対話」しようじゃないか、ということのようです。 

この「平和条約」は、日本でリベラル人士が手放しで喜びそうな表現ですが、隠された意味は二つあります。 

ひとつは、はっきりと北朝鮮は秘密チャンネルにおいても「核を手放す気はないが、今後核装備の充実は考慮してもいい」という言い方をしていることです。 

米国に届くICBM開発は寸止めしてもいいが、開発済の中距離弾道ミサイルは保持し続けるということです。 

わが国はその射程にすっぽり入っていますから、今後北朝鮮の核の脅威の傘の下で永久に暮らし続けよ、という意味となります。 

逆に言えば、米国の核の傘はこれを防ぎ得ないほど無力であったということの告白ともなりますから、日米同盟は分断されることになります。 

第2に、米韓軍事同盟を根拠とする在韓米軍は、北朝鮮側から停戦協定違反の疑義をもたれていることです。 ※追記で「誰から疑義をもたれているのか」の主語を挿入しました。

北朝鮮は、中国と安保条約を結んでいますが、中国軍を駐留させてはいません。 

これを根拠として、北朝鮮は金日成時代から一貫して、「朝鮮半島からの一切の外国軍隊の撤退」を主張してきました。

したがって北朝鮮の思惑どおり「平和条約」を締結すれば、在韓米軍は撤退せざるをえないことになります。

この秘密チャンネルの北朝鮮のオファーを米国が呑むと、スーザン・ライスの言ったとおりの「核凍結」という美名の下で、現況の核保有を認めた形で状況を固定化することにつながっていきます。

このふたつの状況が東アジアに現出するなら、北朝鮮は東アジア全域を射程にした核ミサイルを保有しつづけたままで、日米同盟は分断されて弱体化し、在韓米軍はグアムの線まで撤退することになります。

韓国はこのような状況の中で、ムン主導で高麗連邦構想を現実のものとしていくでしょう。

端的にそれは、「核を持った赤い朝鮮半島」の出現です。 

私はティラーソンが、この伝統的な国務省の「戦略的忍耐」外交に回帰する傾向があると感じています。

トランプはあくまでも「核放棄こそが唯一の交渉の条件」としていますから、ティラーソンの解任騒動も考え合わせると、微妙に両者の考えはズレ始めていることは確かなのかもしれません。

 

 

2017年11月12日 (日)

日曜写真館 花よりひょうたん

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いつも花ばかりなので、たまにはカボチャなどとおもいましたが、ヒョウタンでした(すいません)。

巨大ピーナッツに見えるのはひょうたん。ズッキーニはカボチャの仲間です。

今日はひさしぶりの日曜日。北の核など忘れて、まったりと司馬遼太郎漬けになるつもりです。

司馬ワールドから帰ってくると、トランプも安倍も習やムンすら歴史上の人物に見えてくるから不思議ですね。

あ、そうそう今日は九州場所の初日です。楽しくつらい15日間の始まり。

2017年11月11日 (土)

習が仕組んだ「乾隆帝コード」

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中国というのは面白いですなぁ。 

 

仕掛けをいろいろと仕組んで、大舞台を楽しませていただけます。もちろん、トランプ訪中のことです。 

 

悪く言えば陰湿、よく言ってあげればメタファー(暗喩)ですから、ほとんど報じられないままです。 

 

今回、習が仕組んだのは「乾隆帝コード」です。

 

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まず習が初めにトランプを連れていったのが紫禁城です。上の写真は、皇帝が臣下を侍らせた太和殿前の広場で撮影されています。 

 

下の映画『ラストエンペラー』にも登場しましたので、ご記憶の方も多いでしょう。 

 

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この太和殿こそ、世界の中心を意味する「中華」の、そのまた中華。中国皇帝が、世界の真ん中で権力を叫んだ場所です。 

 

習はここを貸し切りました。こんなまねが今の中国で出来るのは、彼しかいないでしょう。

 

最初のお茶は宝蘊楼でした。ここは皇帝の宝物殿です。

 

午後5時30分からは、紫禁城内の王室公演施設である暢音閣で京劇公演を観覧。ここも皇帝専用の劇場でした。

 

そこでやった出し物は、毛沢東主義者の習なら『革命的京劇・白毛女』でもやるかとおもいきや、唐の玄宗と楊貴妃の悲恋『貴妃吹奏』だったようです。

 

ついで晩餐会は建福宮で行われました。ここは清の前世紀の皇帝である乾隆帝が鎮座していた王宮です。

 

というわけで、習のおもてなしはコテコテの皇帝尽くしですが、この紫禁城で最長の支配者だったのが乾隆帝でした。

 

乾隆帝は在位と退位した後の太上皇帝だった時期を合わせると、実に64年間に渡って、中華帝国の主人でしたが、これは中国皇帝として最長の支配期間となります。

 

その間、10数回の遠征に成功し、最大の版図を築き上げました。

 

さて、習が自分を何になぞらえているのか見えてきましたね。

 

いうまでもありません。中国皇帝、それも乾隆帝です。

 

ところで、この紫禁城に招かれた外国首脳は、中華人民共和国建国以来最初です。

 

これが「乾隆帝コード」(暗号)です。中国の隠された意志だとお考えくださってもいいでしょう。

 

 

ところでかつて習は、前にも一度米国にこの皇帝コードをしかけたことかあります。

 

それは2014年3月のことです。

 

この時、ミシェル・オバマは娘を連れて中国に訪問しました。もちろん中国の招きがあったことはいうまでもありません。それが上の写真です。

 

当時、オバマは核セキュリティ・サミットで、習になんとかプーチン批判に加わってくれることを懇願していました。

 

習はムニャムニャといいながらこう誘います。

 

「あ、そうそう大統領夫人は私が訪米した時にいらっしゃらなかったですね。どうですか、娘さんと一緒に中国においでになりませんか」

 

もちろん憶測ですが、これに似たことを言われたのは確かでしょう。

 

さて、これはどのような「皇帝コード」でしょうか。

 

中国の外交当局者は苦笑いしながら、こう言ったそうです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-6fdb.html

「パンダ外交というより、古代中国で頻発していた『人質外交』のように受けとめている。春秋戦国時代の中国においては、王や諸侯が隣国に自らの子供を預けることが行われた。『もしわが国が裏切ったら自分の子供を殺しても構わない』というわけだ。
今回、オバマ大統領は中国に対して、まさに『人質外交』のカードを切ってきた。これはオバマ大統領からの『中国との友好関係構築は本気だ』という強いメッセージと受けとめた。」(近藤大介氏による)

習は今回のトランプの紫禁城訪問に、二つの「皇帝コード」を仕込みました。

 

ひとつは、米国「皇帝」ですら自分の徳を慕ってやってくる。

 

今ひとつは、自分は乾隆帝のように死ぬまで「赤い皇帝」として中国を支配する気だ。

 

ちなみに、米中首脳会談自体は中身が乏しかったようですが、この場で習が言ったのはまたぞろこのようなことのようです。

 

「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」。
http://www.sankei.com/world/news/171110/wor1711100007-n1.html 

 

これはかつて大航海時代のスペインとポルトガルよろしく、太平洋を二分割しようという意味です。

 

もろちろんこれに乗ると、南シナ海、東シナ海はおろか、ハワイ近海まで中国の内海となります。

 

つまりは、紫禁城で飯を食わせて、世界を二分しようぜ、というわけです。気宇壮大というか、なんともかとも。

 

今の情勢で、北朝鮮に眼を奪われるのも致し方ありませんが、中国が北朝鮮に具体的に介入するということの裏には必ず、朝鮮半島を自国の支配下におこうとする意志があることをお忘れなく。

 

なにせ、米国大統領に「乾隆帝コード」を仕掛ける国ですからね。

2017年11月10日 (金)

自ら詰んでしまったムン・ジェイン

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朝鮮日報は韓国新聞界で最大部数を誇る新聞ですが、11月6日付け社説で、こんな嘆き節を漏らしています。http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/11/06/2017110600955.html

「トランプ大統領が韓国にやって来る7日からの2日間には100件以上に上る集会の届けが行われているが、そのほとんどがトランプ大統領の来韓に反対する反米的なものばかりだ。
米国なしに朝鮮人民軍の動向さえ把握できず、また長射程砲による攻撃もまともに防げない国で、これほど見境のない動きが国民の間から出てきているのだ。
これはこの国の国民が勇敢だからなのか、あるいは愚かなだけなのか、もはや分からなくなってしまった。」
 

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上の写真はその反米デモの折りのものですが、星条旗を燃やしています。首脳が訪問する時に、最高にフレンドリーな接遇ですな。 

同盟国の国旗をやたらに燃やすと、同盟解消の理由にされかねませんよ。 

さて朝鮮日報はこの社説で、韓国特有の「なんでも日本と比較しないと気が済まない」癖を全開にしています。 

トランプ訪日が見せつけた、日米関係がかつてない緊密な状態にあることが朝鮮日報には、かなりショックだったと見えて、社説はこう繋げています。

「今、世界で米国の力を最もうまく活用すべき国は日本ではなく韓国だ。
まず何よりも北朝鮮の核問題を実際に解決できる国は米国以外にない。また東アジアで厳しい緊張状態が続く中、韓国を覇権欲なしに守ってくれる国も米国だけだ。ところが日米両国は米英関係を思わせるほど最高の親密さをアピールしているのに対し、韓米関係は非常に形式的で儀礼的なものへと変わりつつある。」

「米国の力をもっともうまく利用すべきは国は、日本でなく韓国だ」ですか。なにをいまさらですが、気がついただけでもえらい。

韓国は既に米国外交にとって不良債権なのですから。 

ムン・ジェインには外交方針らしいものはありません。口では「バランサー外交」と言っているようですが、それは下の写真のような状態を示しているだけです。 

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まことに米中韓の関係が、如実に現れてしまった興味深いワンショットです。

これは今年のG20会合のコンサート会場で撮られたものですが、トランプはムンから握手を求められてもシカトしています。

すり寄るムンに露骨に不快感を現すトランプ、それを冷やかな眼で見る習、まさに現在の韓国を象徴するような画像です。 

実はこの時期、ムンはパク・クネ時代に冷えきった中国とよりを戻そうと涙ぐましい奮闘努力をしていました。 

しこった原因は、例の戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)導入を巡る中国の激怒です。

韓国国内でも、THAADの導入を巡って、地元の星州で反対運動が起きていました。 

反対派の言い分は、BBCJapan(2017年11月8日)でご覧いただけます。
http://www.bbc.com/japanese/video-41896434  

この星州での反対派の運動は猛烈に既視感のあるもので、2枚同時に並べます。どちらがどちらか、一瞬間違うほどです。

集会のスタイルだけではなく、言い分までそっくりです。

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反対派の言い分は、韓国内で「従北派」と呼ばれる親北朝鮮派の言い分とまったく一緒で、「米国の介入反対」というものです。

つまりは、在韓米軍撤退、米韓同盟廃棄ということで、これを実行すればどの国がもっとも喜ぶか考えなくとも分かりますね。

この従北派の主張に媚びを売ったムン政権に対して、米国は突き放しました。

「どうぞご随に。在韓米軍は規模縮小して、有事統制権などはお返しします。次は撤兵ですかな」ということをほのめかしたたために、今度はムンは慌てて引き止めに入るという蛇行運転ぶりでした。

結局、右往左往したあげく、本来4基でチームを作らねばならないTHAADがその半分に減らされたままという中途半端な状況で頓挫したままです。

この完全撤去ではなく、半分にするというあたりが、いかにもですね。米国にも媚びを売り、中国にも媚びを売る忙しさ。自らが招いたこととはいえ、ご苦労さん。

そしてトランプ訪韓前に、いわずもがなのことまでムンは口走っていました。

日本との慰安婦問題を楯にして、「日韓は軍事同盟ではない」という発言です。

これは後述しますが、ムンが中国との関係修復の3条件のひとつとして呑んだもののひとつです。

「韓国の聯合ニュースは5日、9月の米ニューヨークでの日米韓首脳会談の際、韓国の文在寅大統領が「米国と韓国は(軍事)同盟を結んでいるが、日本は同盟相手ではない」と発言したと報じた。韓国大統領府高官の話として伝えた。トランプ米大統領は「理解する」と応じたという。安倍晋三首相の反応は報じていない。」(産経11月6日)
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/171106/soc1711060020-n1.html

このトランプの「理解する」の意味を誤解しないで下さい。

れはムンがそういう考えだということを「理解した」という意味で、よく外交上使われる表現です。

もちろん「それでOK」という意味ではありません。

そもそもこの日韓慰安婦合意は、北朝鮮との緊張が高まる中、三国の連携に危機感をもった米国が仲介して結ばせたものです。

ご存じのとおり、韓国はこの合意をまったく無視していますが、今度もまた慰安婦問題を理由にして米韓日の結束もないと言ってしまうあたり、さすがです。

もちろん今回の晩餐会のサプライズゲストの元慰安婦にハグさせたのは、この流れで見なければわかりません。

下の写真を見ると、ムンとイ・ヨンスはあらかじめハグのシナリオがあったようですね。

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「安倍に一泡吹かせる」(中央日報)ということより、なぜ韓国は米韓日の結束ができないか、それは全部日本が悪いからだと、米国に向けてアピールしているのです。

毎度のことですが、韓国は内政の混乱の責任逃れを、無関係な日本の責任論に転化し、被害者ヅラして乗り切ろうとします。

その結果、状況が好転するどころか、いっそう状況をこじらせる悪循環に陥ります。

ムンは自称「バランサー外交」を唱えていますが、それを発案したのは盧武鉉時代の秘書室長だったムンでした。

ムンはこんなことを述べています。

「米国との関係を重視しながら中国との関係も一層堅固にするバランスのよい外交を目指したい」

東アジア共同体という意味不明の構想をぶちあげ、普天間移設問題をちゃぶ台返しをして日米同盟に打撃を与えた某国首相によく似ています。

そういえば、ムンはハト氏にそっくりですな。

この男はそれを実践し、中国の要求を丸呑みして関係修復にこぎつけるという「成果」を上げます。

中韓合意は以下です。

①米国の弾道ミサイル防衛システムに参加しない。
②日米韓の安全保障協力を軍事同盟に発展させない。
③THAADの追加配備はしない。

この内容をもう一歩進めると、有事統制権の韓国軍への移譲、在韓米軍の撤去という中国の大目標に到達する一歩手前です。

つまりは韓国はもうアッチの陣営の国なのね、という理解でいいのかと言えばそうでもないところが、さすがムン、やっぱりムンです。

ムンはトランプ訪韓を控えて、今度は逆に舵を切って防衛力の強化に向けてミサイル弾頭重量制限を解除することで合意してしまいました。

「米韓の「ミサイル指針」に基づき、韓国は射程800キロメートル、弾頭重量500キログラムまでのミサイルしか保有できない。ただ、北朝鮮の脅威増大に対応し、弾頭重量の制限を外した。両国首脳は9月にニューヨークで開く国連総会に合わせて会談することでも合意した。」(日経2017年9月5日)https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM04HBI_U7A900C1FF1000/

その上、原子力潜水艦と先端偵察機能の獲得・開発に向けた協議も直ちに開始するそうで、米国が売ってくれるかどうかは分かりませんが、今度は米国の力と軍事技術を借りたいということのようです。

あ~、頭がクルクルする。まさに東アジアの風見鶏。 

米韓会談でも、建前としてはムンは制裁強化といっていますが、ちょっと前に800万ドルの北朝鮮への人道援助を言ったばかりで、マティスが怒っていました。

今度は、トランプが米韓会議で、「必要であれば米国と同盟国のために比類なき戦力を投入する。北の独裁者に対してメッセージを伝える」と言ったのに対して、ムンは「いかなる場合でも朝鮮半島での武力行使は許されない。韓国の事前の了承を得ることなく軍事行動を起こしてはならない」と述べたそうです。

先ほどの中韓合意を合わせてみると、ムンが何を考えているのかよく分かるでしょう。

いつまで通用しますことやら。 

冒頭の朝鮮日報社説は、このようにムン政権に警告を鳴らしていますが、「何故こうなったのか」って言われても、そりゃあなた方韓国メディアが太鼓を叩いてパククネを引きずり降ろしたからでしょうって。

「このままだとトランプ大統領は北朝鮮問題で何か行動するときはまず安倍首相と相談するようになり、韓国とは完全に順序が入れ替わってしまうだろう。
これは安倍首相の一言が米国の対北朝鮮政策に大きな影響を及ぼすことを意味する。なに故このような状況になってしまったのか到底納得できない。」

いずれにしても、もう手遅れです。

 

2017年11月 9日 (木)

呪詛の「燃料」を欲しがる運動家たちに利用されたイ・ヨンス

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元慰安婦証言の多くに言えることですが、最初の証言が、数年後には変化し、さらに変化していくごとに過激になっていきます。

証言のゆらぎそのものは半世紀以上前のことでもあり、老齢もありますからありえることですが、イ・ヨンスの場合、もっとも重要な初発の部分であるはずの「なぜ慰安婦になったのか」という出発点が変化しているのです。

李容洙 - Wikipedia 

なぜここが重要かといえば、この慰安婦問題においては、「日本軍が朝鮮女性を狩り集めて慰安婦にした」という、国家、あるいは軍の直接関与が指摘されたからです。

もう少しこまかく言えば、当時日本の統治下にあった朝鮮で、日本が軍を使って戦時であっても平時の市民生活を営む朝鮮女性を拉致して慰み物にし続けたということです。

主語はあくまでも「日本」、ないしは「日本軍」が、です。

これがそこらの民間の売春斡旋業者の仕業なら、人間の住むところ古今東西ありとあらゆる場所にある、ありふれた話だったわけです。

これだけなら風俗斡旋のオジさんにダマされた気の毒な女性、以上でも以下でもありませんでした。

ところが、日本軍、つまりは日本政府という一国の政府が、当時「国内」だった朝鮮で婦女子に銃剣を突きつけてさらったとなると大違いです。

国内で軍を使って、兵隊用売春婦を徴用する国ということになります。

常識的に考えて、自分の国で兵隊用娼婦を銃剣をつきつけてまで募る国など考えられもしませんが、それがあったとしたのが、朝日新聞でした。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-319f.html

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朝日新聞は学徒動員の勤労挺身隊を、軍用慰安婦だと報道しました。

しかも、朝日は日本軍が暴力的に村に押し入って、木刀で女性を叩きながら連れ去ったと記事にしました。

ソースは後に朝日自身が詐話師と認めた吉田清治という男ですが、朝日は無検証でこの男の「証言」を大々的に広めたわけです。

もちろん根も葉もないでたらめで、学徒の勤労動員と、慰安婦はまったく別な存在で、意図的に混同したのです。

これが有名な慰安婦誤報です。いや、誤報というより捏造という名に値します。後に朝日は社長の謝罪にまで追い込まれます。

しかし、それに至る20数年間、日本は「軍を使って慰安婦を狩り集めた暴虐非道な国」という汚名をかぶることになります。

この濡れ衣はいまだ晴らされず、今に至っています。

これについては多くの記事を書いていますので、お暇でしたらお読み下さい。 
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-0aec.html

さて、イ・ヨンスの60代の証言です。長いですが、重要なので引用します。これがオリジナル証言です。

「1944年夏のある日、酒屋をやっていた友達(キムプンスン)のお母さんが「今のような苦しい生活をしている必要はないじゃないか。私の言うところに行けばご飯がたくさん食べられ、豊かな生活ができる」と言いました。
ですが私は「嫌だ」と言って飛び出て来ました。それから何日かたったある日の明け方、キムプンスンが私の家の窓をたたきながら「そうっと出ておいで」と小声で言いました。私は足音をしのばせてそろそろとプンスンが言う通りに出て行きました。母にも何も言わないで、そのままプンスンの後について行きました。(略)
行ってみると川のほとりで見かけた日本人の男の人が立っていました。その男の人は四十歳ちょっと前ぐらいに見えました。国民服に戦闘帽をかぶっていました。その人は私に包みを渡しながら、中にワンピースと革靴が入っていると言いました。(略)
それをもらって、幼心にどんなに嬉しかったかわかりません。もう他のことは考えもしないで即座について行くことにしました。大邱から私たちを連れて来た男が慰安所の経営者でした。」

この最初の証言には、慰安所に連れていった男が「慰安所を経営している男」だと書いてあります。 

軍や兵隊などどこにも登場しません。

イ・ヨンスは、「国民服に戦闘帽の男」から、「もっと豊かになれる、綺麗な服や靴が貰える」と言われて「もう他のことを考えないで即座について行ってしまった」のです。 

気の毒としかいいようがありませんが、イ・ヨンスは、このような若年の女性を売春業に誘惑する悪質売春業者に騙されて家出したのです。 

しかもこの初めの証言では、挺身隊対策協議会(挺対協)に対して行われたもので、日本は関与していませんので、オリジナル証言といってもいいでしょう。 

すくなくとも、イ・ヨンスが運動に関わる以前には、詐欺にあって売春業になったのだと言っていたことを記憶に留めて下さい。

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これが2000年代に入ると、彼女の立場が変化するに従って、証言も大きく変化します。

では、どのようにイ・ヨンスは変化したのでしょうか? 

おそらく、60歳代(1900年代)までのイ・ヨンスは、自身が述べているように「顔を上げて歩けない。誰にも話せなかった」境遇で生きて来たのだと想像されます。

経済的にも、多くの元慰安婦とおなじように困窮していたと想像されます。

なぜなら富裕層になっていたなら、自身の過去は封印するからです。

ところが、「従軍慰安婦」運動によって、いきなり彼女は運動界の英雄に祭り上げられます。

「強制連行の生き証人」「日帝暴虐の語り部」という新しいポジションが彼女に与えられたのです。

しかも70歳代になってからです。以後、この「救済」にイ・ヨンスは忠実に従うことになります。

そこでは彼女は今までのように、「顔を上げて歩けなかった」どころか、多くの聴衆の前で悲劇のヒロインとしてふるまうことが出来るようになります。

そして、日本政府を糾弾してこのように叫びます。

「日本国の総理が私の前にひざまずいて公式謝罪し、賠償しなければならないし、そうすることが日本の子孫たちが平和に住めるようになる道だ。」

また、自分の証言に異論を唱える日本人に対してはこう言っています。

「犬同然なやつらよ、私は朝鮮の娘だ。お前らが踏み付けてからもお詫びしない理由は何か」「慰安婦を名乗る女性が死ぬことだけを待つ汚い人間たちの前で、私は絶対死なないでしょう。200年生きて、彼らの末路を私が見るつもりです。」
(「日本よ聞きなさい。強制慰安婦のお婆ちゃんの叫び」)

日韓合意以後も、さらにハイテンションでこう叫んでいます。

「慰安婦像を東京のど真ん中にも建て、その前を行き交う日本人が申し訳なかったと頭を下げるようにする。」

韓国人特有の火のような激しい言葉遣いは差し引くとしても、われわれ日本人には憎悪の火炎放射器で焼かれたような気分になります。

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このような発言を繰り返しながら、イ・ヨンスは「従軍慰安婦」運動の中心的運動家として韓国だけに止まらず、日本にも運動団体の招きでたびたび訪れ、米国にも訴えに出かけるようになります。 

そこでの証言は当初の、「詐欺に合って家出した」という部分が消え、日本軍による直接の強制連行が登場するようになります。 

また、レイプなどはあたりまえ、殴る蹴る、丸太で殴打する、メッタ切り、電気ショック、それによる流産などという悪夢のような血なまぐさい凄惨な描写が加わります。 

証言を拾っていきます。ほぼ似たようなものですから斜め読みしてくだすってかまいませんが、年齢の部分にご注意ください。

14、15、16と三種類あります。

・2002年6月26日、共産党機関紙「しんぶん赤旗」の証言
14歳で銃剣をつき付けられて連れてこられた」「拒むと殴られ、電気による拷問を受けて死にかけた」
 

・2004年12月4日、”12・4全国同開催「消せない記憶”集会での証言
「1944年、16歳の時に「軍服みたいな服を着た男」に連行され、台湾へ。移動中の船の中で、日本の兵隊たちに繰り返し強姦される。台湾では、日本軍「慰安婦」としての生活を3年間強制された。「慰安所」では1日に何人もの兵士の相手をさせられ、抵抗すると電線のようなもので電流を流されたり、丸太で叩かれたりの暴行を受けた。」
 

・2006年10月13日、”上田知事の「従軍慰安婦」否定発言を問う県民連絡会”集会後の記者会見での証言
15歳で韓国・大邱の家から軍人に拉致され、台湾まで連れ去られ、敗戦で解放されるまでの3年間も慰安婦をさせられた。」
 

・2007年2月23日日朝協会主催の「イ・ヨンスさんのお話を聞く会」の証言
「15歳のとき、小銃で脅され、大連から、台湾に連行され新竹海軍慰安所で特攻隊員の慰安婦とされた。」
 

・2007年3月1日、上田清司埼玉県知事と面談後の記者会見での証言
16歳のとき、台湾で特高に口を塞がれて連れて行かれた。」
 

・2007年4月28日、ハーバード大学で行った講演での証言
「16歳の時に強制連行され、2年間日本兵の慰安婦をさせられた」「日本兵に足をメッタ切りにされ、電気による拷問を受けた。」

以下この調子でほぼ毎年のように運動団体の招きで日本を訪れ、「強制連行の生き証人」として訴えるようになります。 

イ・ヨンスは日韓の運動家たちにとって、もっとも重用された元慰安婦であったことは疑い得ません。 

言い換えれば、運動家サイドの暗黙の要請に従って、イ・ヨンスは自身の証言を変質させたのです。

もっとも新しい2012年9月には、こう述べています。

2012年9月12日、”日本軍「慰安婦」問題の解決を求める市民の会”が主催した講演会の証言
「15歳のときに、自宅で寝ていたところを日本軍によって連行されました。帰りたいと言うと「言うことをきかなければ殺す」と脅され、軍靴や棒で顔や体に暴力を受けました。各地を日本軍とともに転々とし、17歳で父母の元に帰るも、「また捕まるのではないかと思うと、顔を上げて歩けない。誰にも話せなかった。」

この証言などは、「日本軍と転々とした」とありますが、台湾の中を「転々とした」のでしょうか。 

おそらく当時多く出ていた慰安婦証言の中で、南方や東南アジアの慰安所にいた者の証言に影響されたのだと思います。 

そもそも、イ・ヨンスが1944年10月に「強制連行」されて行ったという新竹の慰安所は1年前の1943年11月の新竹空襲で消失していました。

連れて行かれるもなにも、新竹に慰安所はなかったのです。

憶測の域を出ませんが、彼女がいたのは新竹、ないしは「船に日本兵が来た」とあるところから基隆、花蓮などの港近辺の売春施設にいた可能性もあるかもしれません。

どこに連れていかれたのか、ほんとうはそこでどのように暮らしていたのかは、いっさいの証拠が欠落したうえに、当人の証言が大きくブレるので真相はわかりません。

一方、運動団体側は、イ・ヨンスが過激な日本叩きをすることをほくそ笑んでいました。

本来、元慰安婦に同情し、その境涯を支援したいと思うなら、具体的に解決方法を探るべきです。やるべきことは山ほどあるでしょうに。

しかし、運動家の多くが欲していることは、具体的な改善でもなく反日運動でした。

そこに日本があるかぎり百年、千年先まで呪ってやる。だから、真実などくそくらえ。要るのは、呪うための「燃料」としての呪詛だけだ、というわけです。

つまりは、自分たちが政府を糾弾する「燃料」として、元慰安婦を政治利用しているにすぎないのです。

の意味で呪いの「燃料」だけを欲して、元慰安婦の境遇の改善を省みない挺対協に対して、イ・ヨンス自身がこう批判しているのは、まことにもっともなことなのです。

「当事者(元慰安婦)の意見も聞かず、日本との協議を拒否している」「日本が話し合おうといっているのに。会わずに問題が解決できようか」「なぜ自分たちの思うままにやるのか分からない。」
元慰安婦が支援団体「挺対協」批判 「当事者の意見聞かない」「事実と異なる証言集出した」 産経新聞

  • 1993年にソウル大学「挺身隊研究会」で元慰安婦聞き取り調査をおこなった、安秉直教授は2006年にこう述べています。
  • これを結びとします。
  • 「強制動員されたという一部の慰安婦経験者の証言はあるが、韓日とも客観的資料は一つもない」「無条件による強制によってそのようなことが起きたとは思えない。
    日本のケースは「自発性」であって、現在の韓国における私娼窟における慰安婦をなくすための研究を行うべきだ。
    共同調査を行った韓国挺身隊問題対策協議会は慰安婦のことを考えるより、日本との喧嘩を望んでいるだけであった。」

    2017年11月 8日 (水)

    韓国晩餐会 メーンディナは独島エビ サプライズゲストは元慰安婦

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    韓国での晩餐会のメーンディナは独島エビ、 サプライズゲストはイ・ヨンス(李容洙)氏なる元慰安婦で、当日に発表されたものです。 

    このような国賓を招いた晩餐会は、外交プロトコルによって詳細なチェックを積み重ねていくものですから、文字通りサプライズだったのでしょうね。 

    ひょっとして慰安婦像くらい椅子に座らせておくかと思ったので、案外これでもムン・ジェインとしては紳士的にふるまったつもりかもしれません。

    元慰安婦にトランプ氏に抱きつかせるという演出つきで、このワンショットが欲しかったのでしょうね。

    米国大統領が慰安婦を公式に認めたゾ、ってわけですか。 これからこの1枚は使いまわされますぞ。

    Photo
    動画で見るとこの元慰安婦が強引に抱きつこうとして、トランプ氏がちょっと待ってというように腕をだしているんですが、まぁどうでもいいや。 

    慰安婦合意を仲介したのが、米国だということを完全に忘れていますな。

    このイ・ヨンスなる人物のうさん臭さは有名で、彼女の証言なるものは全編から香ばしいフェークアロマがモワモワと立ち上っています。 

    彼女の証言なるものは東亜日報に乗っていますので参照してください。
    「安倍首相の演説の時、目の前に座らせてほしい」 慰安婦被害者が米紙と会見
    元「従軍慰安婦」、イ・ヨンスさんが証言 ルモンド東京支局長、フィリップ・ポンス氏が取材し報道

    イさんによると、1944年秋になんと14歳で自宅に押し入った日本兵に強制連行されてしまいます。 

    まずは14歳という部分ですが、当時の朝鮮は管理売春制度でしたから、「貸座敷娼妓取締規則」というのがあって17歳未満の者は娼妓にはなれませんでした。
    1940(昭和15)年 朝鮮総督府編纂 「朝鮮法令集覧 昭和15年版上巻」

    まして日本兵が直に自宅から引っ張り出すというのは、100%ありえません。 

    市民生活が営まれていた銃後の韓国で、そんなことをしたら立派な犯罪ですから、その日本兵は陸軍刑務所行きです。 

    当時はそんな面倒なことをしなくても、娼妓を斡旋する女衒(ぜげん)は大勢いました。事実イさんの強制連行証言は信憑性が疑問視されています。

    このように証言は変化しています。
    李容洙 - Wikipedia

    1993年には、「 (16歳の時)もう他のことは考えもしないで即座について行くことにしました。大邱から私たちを連れて来た男が慰安所の経営者でした。」
    (「証言・強制連行された朝鮮人軍慰安婦たち 韓国挺身隊問題対策協議会」 明石書店)

    それが2002年6月26日では、「14歳で銃剣をつき付けられて連れてこられた。」
    元「慰安婦」へ補償を.  しんぶん赤旗. 2008年12月6日)

    ちなみに、「慰安所の男」が60歳代の証言、強制連行が70歳代です。あなたはどちらを信用しますか?

    Photo_2イ・ヨンス氏 

    年齢も14、15、16と3種類の証言があります。

    老化による記憶違いはあるでしょうが、最初の慰安婦になった動機という最重要な箇所が軍による強制連行と女衒によっての家出とふたつあっては、証言そのものが崩壊してしまいます。

    そしてイさんは1944年10月に、台湾新竹の日本海軍の特攻隊基地に連れて行かれて慰安婦にされたと言っています。 

    残念ながら、特攻隊がフィリピンから台湾へ移動したのは1945年1月10日のことです。当時特攻隊自体が台湾には存在しませんでした。 

    また特攻隊が台湾から出撃したのは、1945年4月1日から5月29日の2カ月間にすぎませんし、そもそも慰安婦施設は遊廓ですから、軍事施設内に置くことは絶対にありえませんでした。

    下のマンガは、フランス・アングレーム漫画祭の韓国政府公式出展作品ですが、日本官憲が強制連行して、少女をレイプしています。

    イさんもこのように証言しています。

    「性関係を拒否すると、手首に電気ショックの拷問をするなど暴行や虐待を受けた」

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    よく「従軍慰安婦」という当時なかった呼称で呼ばれるために誤解を受けますが、前線からはるかに離れた街で営業していたのです。 

    イさんは「船で慰安婦をしていて、日本兵が通った」と言っていますが、これもありえません。

    これでは船の上に慰安所があったことになってしまいます。

    当時の台湾の軍用遊廓は9カ所指定されていて、もちろん船上遊廓などはありませんし、新竹にも慰安所はありませんでした。
    1930(昭和5)年 日本遊覧社 「全国遊廓案内」 台湾地方 

    というのは新竹の慰安所は、1943年11月の新竹空襲で消失し、44年1月には撤去されていたからです。

    つまり、新竹の慰安所などには行きたくても行けなかったのです。

    またイさんは「当然ある朝、日本兵がいなくなった」と言っていますが、1946年時点で、日本軍は千名以上残留していました。 

    というのは帰りたくても船がことごとく撃沈されてしまったので、大変な船舶不足だったからです。 

    この船が絶対的に不足している時代にも、イさんは1947年まで「船上遊廓」で働いていたといいますから、なかなかファンタスティックです。 

    そもそも戦後2年間も、解体した日本軍相手の慰安婦をしていたわけでしょうか。

    というわけで、トンデモ証言の宝庫の元慰安婦証言でも、ズバ抜けてトンデモ性が高いのがこのイ・ヨンスさんなのです。

    最初に名乗り出たことで有名な金学準氏は慰安婦であったことは間違いのないところでしたが、イ氏に関しては疑問符がいくつもつくのです。

    それにしても、肝心な米韓首脳会議は通訳をいれてたったの25分間だったそうで、通訳時間を除けば実質10分程度だったようです。 何も話せませんね。

    トランプ氏からすれば、韓国になにも期待していないので、こんなもんです。

    それにしても、国賓を招いての晩餐会のメニューが独島エビ。サプライズ・ゲストは元慰安婦。

    約二時間の予定でしたが、50分余りで終了。挨拶などを考えた場合、ほとんど口にせず切り上げたものと思われます。(異説あります)

    ムンさん、 北の核の脅威に立ち向かっていくことがメーンテーマのアジア歴訪で、「日本とは同盟関係ではない」そうで、そんなことを米国大統領に言ってどうなるんでしょうかね。

    トランプさん、内心、バッカじゃねぇのと思ったことでしょう。

    あくまでも反日、いつでもどこでも相手が誰でも反日。この国には反日以外出し物はないんでしょうか。

    ま、いつものことだから、いいか。未来永劫やってなさい。

    ■関連記事はカテゴリー「慰安婦問題」に沢山ストックしております。よろしければどうぞ。
    「クマラスワミ報告書その2 捏造された慰安婦証言」

    http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-d3cf.html  
    「クマラスワミ報告書その1 国連の名の下に行われた人民裁判」
    http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/post-51a9.html

     

    ■謝辞 イ・ヨンス氏の経歴についての資料は、 「陽炎之会@野の花」様にご教示いただきました。ありがとうございます。

    2017年11月 7日 (火)

    政府、朝鮮総連の活動を凍結か?

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    トランプ氏が拉致被害者家族と面談しました。 

    「拉致被害者の家族とトランプ大統領は、6日午後2時過ぎから約30分間面会した。大統領は一人ひとりと握手し、被害者の写真を手にとって、じっと見つめる場面もあったという。」(日テレ11月6日)

     いままでも米大統領としては面談していますが、いわば民主国家の盟主としての外交儀礼以上ではありませんでした。 

    今回の面談が異なるのは、このようなことを述べていることです。 

    「トランプ氏は共同記者会見でも拉致問題に触れ、「いまスポットライトが当たっているので、これからとても良い運が向いてくる可能性もある。
    もし
    金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長が多くの人たちを帰せば、多くの特別なことの始まりになる」と指摘。拉致問題の進展が北朝鮮情勢を打開するきっかけになり得るとの見方を示した。」(朝日11月7日) 

    トランプ氏とメラニア夫人は、黒服を着ることで、心の痛みを現しています。 

    そしてそれだけに止まらず、正恩に対して明瞭に「拉致被害者を返せ。いま返せば情勢が好転するかもしれないぞ」と言っています。

    Photo

    上のトランプ氏との面談で横田早紀江さんが手にしているのが、下の写真です。

    右端であどけない笑顔を見せているのがめぐみさん、男の子の一人が拓也さんです。上の写真で母親の後ろに付き添っている青年です。

    今は家族会の中心メンバーとしてがんばっています。

    私は涙が溢れました。

    Photo_4
    日本では久しく、「拉致がテロである」という事実が忘れられていました。

    13歳の少女を海岸から袋に詰めて拉致することを現すのに、テロ以外の言葉は見当たりません。

    しかもこの拉致は、個人やテロ組織がしたものではないことが、多くの欧米のテロと異なっています。

    北朝鮮の国家指導者が企図し、配下の国家機関に命じ、在日支援組織が協力した「軍事作戦」として遂行されたものです。

    このようなものを、私たちは正確に「国家テロ」と呼ばねばなりません。更に言えば侵略行為と呼んでもかまわないかもしれません。

    しかも被害者は疑われる者までふくめると868名に達します。https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H07_S4A900C1CC0000/

    ところが立憲民主の辻元清美国対委員長は、2001年11月にこのような発言をしています。

    「北朝鮮には(戦後)補償を何もしていないのだから、そのことをセットにせず『九人、十人返せ』ばかり言ってもフェアじゃない。」
    「国交正常化の中では、戦後補償が出るでしょう。日本は、かつて朝鮮半島を植民地にして言葉まで奪ったことに対して、北朝鮮には補償も何もしていないのだから、あたり前の話だ」(カフェグローブ・ドット・コム)

    また2009年春、拉致被害者家族会が訪米した際に、このようなことをオバマ政権北朝鮮政策担当者から言われたとされています。

    「岡田克也氏、前原誠司氏の二人は最近、米国で『日本が拉致問題にこだわることが、核問題解決の障害になっている』という趣旨の発言をしている。
    日本は拉致より核を優先させると政策転換したのか。オバマ政権はそう認識し始めていて、拉致問題を重視するよう主張してきた私たちの立場はないが…。」

    この3人に共通するのは、拉致を国家犯罪と捉えておらず、北朝鮮の核開発問題と絡めて考えていないことです。

    今回トランプ氏は、北朝鮮をあらゆる方法を使って万力のように締めつけながら、拉致問題を交渉の俎上に乗せようとしています。 

    おそらく拉致問題は、米国が進めているテロ支援国家指定を判断するに際しての、正男暗殺と並んでの大きな材料となると考えられます。 

    また、同時に安倍首相は、「北朝鮮の35団体・個人の資産凍結」を発表しました。 

    北朝鮮の核開発に、在日朝鮮人科学者の多くが関与していたことが発覚しています。 

    しかも勤務先は国立大付属の公的研究機関で、日本の研究施設を使い、その成果を北朝鮮の大量破壊兵器に転用していました。 

    たとえば、徐錫洪(日本名・住友清太郎)は東大工学部卒で、その後、東大生産技術研究所に入所し、ロケットエンジンの研究で米国の動力機械学会賞を授賞しています。 

    徐はたびたび訪朝し、スカッド・ミサイル系列の改良に携わっていたとされています。 

    また徐が東大生産技術研時代の後輩に同名の徐判道(兄弟説あり)がいますが、この男は北朝鮮の金剛原動機の副社長です。

    こちらの徐はノドン・ミサイルの開発に従事していたようです。 

    日本には在日朝鮮人科学者で作る「科協」という組織があります。
    在日本朝鮮人科学技術協会 - Wikipedia 

    「科協は在日朝鮮人科学者らの親睦組織。5人には関西の国立大の原子力研究機関に在籍する研究者が含まれていることも判明した」(共同=中國新聞) 

    この5名は再入国禁止措置を課せられた在日朝鮮人科学者のことです。 

    彼ら以外にも多数の原子力・ロケット関連の在日朝鮮人技術者が北朝鮮の核開発に関与していたことが疑われています。 

    そしてその多くは国立大、あるいは国立研究所に在籍していました。 

    つまり日本は税金を使って、北朝鮮の核ミサイル・核爆弾作りを支援していたことになります。これが現実です。

    私たち日本人は自らの頭に降って来る北朝鮮の核ミサイルを作ることに、間接的であれ支援してきたのです。

    Photo_5朝鮮総連本部

    2013年以降は朝鮮労働党統一戦線部の傘下の第225部(旧対外連絡部)の指導を受けて活動している。同国に対する朝銀信用組合の不正送金には朝鮮総聯関係者の関与が疑われ、北朝鮮による日本人拉致問題の追及も進む中、拉致事件をはじめとする日本国内における同国の非合法活動(スパイ、不正送金、麻薬拳銃売買等)にも、数多くの朝鮮総聯関係者が深く関与していたといわれている。」
    在日本朝鮮人総聯合会 - Wikipedia

    このように総連は、麻薬密輸、拳銃密売、不正送金、拉致幇助、スパイ浸透、大量破壊兵器技術の流出などの重大な犯罪の温床となっていました。

    朝鮮総連は政府からなんの干渉も受けないどころか、一部の地域では系列学校や総連施設に公有地を提供されるなどの優遇措置や補助金すらもらっていました。

    これは総連と在日朝鮮人たちが、日本の戦後の歪みのエアポケットに入ってしまったからです。

    パスポートを見ると渡航に「北朝鮮を除く」と書いてありますが、これは日本が北朝鮮を国家として認めていないためです。

    そのため日本政府は公式には、「日本に北朝鮮公民は居住していない」という建前をとってきました。

    もちろんフィクションです。

    朝鮮総連は公式には、自分たちはサンフランシスコ平和条約で日本国籍を失ったために母国に帰国できない朝鮮人であり、その在日互助組織が朝鮮総連だという立場をとってきました。

    しかし、実態は知ってのとおり、総連構成員のほとんどすべてが北朝鮮国籍とパスポートの所持者であり、総連と総連関連団体は北朝鮮対外連絡部の直接支配を受けていました。

    また総連は堂々と領事業務であるパスポート発行もしていました。

    このことから総連を、日本の自治体の多くが「見なし大使館」として錯覚し、優遇することにつながってきました。

    しかしいま、今ここに至って、このような虚構をいつまでも続けるべきではありません。

    総連と朝鮮籍の扱いをどうするかも含めて、いずれ明確にせねばならなかったのですから。

    今日に詳細を発表するそうです。注視目しましょう。

    最後に少し私の思いみたいなものを付け足しておきます。

    私は、青年時代に金大中氏の救出運動の末席につらなっていました。

    その時代、私は数多くの在日の人たちと知り合います。欠けた茶碗で濁酒を呑み、怪しげな臓物料理を突つき合いました。

    今は彼らと連絡も取れません。

    しかし彼らひとりひとりの人なつっこい顔、人間臭い表情を今でもよく覚えています。

    そのような彼らへの温かい記憶が故に、北朝鮮の脅威と在日問題をひとつのこととして書くことを躊躇わせることとなってきました。

    しかし、もはやそのような悠長な時期ではないようです。

    私は民族差別を憎みます。同時に民族愛に名を借りた核による脅迫も憎みます。

    2017年11月 6日 (月)

    トランプ大統領を歓迎することが北朝鮮への圧力になるのです


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    新潟ローズさんからこんなコメントをもらいました。初めはコメント欄にいれましたが、大幅に加筆して記事にしました。
     

    コメントはこうです。

    「アメリカ大統領補佐官を安倍首相直々で熱烈な歓待をしましたが、日本側の首相補佐官の和泉氏はトランプ大統領からここまでの歓迎を受けるでしょうか?
    安倍さんは首相というより総督がふさわしいでしょうね。」

    う~ん「総督」ですか。この言い方は控えめですが、対米従属論の一種ですね。  

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    米国が宗主国で、日本が属国。植民地の統治を任されている本国が任命した「総督」が安倍氏というニュアンスですね。  

    では、宗主国の大統領が植民地ごときに、経済使節団を引き連れてきますか?

    「植民地」との貿易赤字で、「本国」の王様が乗り出しますか?それでは植民地のほうが富んでいるということになりますよ。

    その昔、レーニンという人が書いた『帝国主義論』には、植民地は本国の有り余った商品の捨て場だと書いてありましたが、いま本国の過剰生産を外国に押しつけているのは中国くらいです。

    AIIB、一帯一路など中国の国際経済政策は、すべて国内の過剰資本の処理として作ったものです。

    もちろん、外国に押しつける背景には軍事力が必要ですから、まさに古典的帝国主義国とは中国のことです。

    おっと、脱線しました。

    米国は「本国」の個人消費が強力だから、「属国」からモノを買うわけで、それは米国の強さの現れなのです。  

    米国の最大の魅力は、その旺盛な個人消費のパワーです。  

    中国も日本もEUも、米国消費者が気持ちよく買ってくれるから、お得意さんを大事にします。

    かくて「本国」のドルは基軸通貨(決済通貨)として世界に還流し、われらが「植民地」も潤すわけです。 

    まさにWinWinの関係です。

    トランプさんと安倍さんが仲がいいのは、個人的にケミストリーが合うというだけではなく(それも重要ですが)、日本と米国がこのWinWinの関係にあるからです。 

    しかし下の写真見ると、日米同盟がかくも親密な同志的関係になったのは歴史上初めてではないでしょうか。悔しかったら、ムン・ジェインさんマネしてみなさい。

    Photo_3
    このような経済的相互性が、実は主要国間の戦争を防いでいるのです。
     

    戦争をすれば、自国の経済も大打撃を受けてしまいますからね。

    経済大国は約一国を除いてすべてが民主国家ですから、これほど大きな戦争の「抑止力」はありません。

    民主国家間で戦争が起こりにくいのはそのためです。 

    あの軍事大国のロシアですら、天然ガスを景気よく買ってくれるEUとは戦争したくないのです。

    経済大国で世界で唯一それがよくわかっていないのは、われらが隣国の中国くらいです。

    なぜなら一党独裁・ひとり独裁という、古代的統治体制ですから指導者の政治的思惑を最優先できてしまうからです。 

    というわけで、米国は自由貿易の絶対的守護神であらねばなりません。 

    トランプさんはここがよくわかっているのか、やや不安なフシがあります。 

    いまだに「アメリカ・ファースト」とか言ってNAFTAやTPPを嫌ったり、古臭い日米経済摩擦をまたぞろ言い出したりして困ります。 

    米国の貿易赤字はその旺盛な消費力の現れ、つまり景気がいいということなんですから、神経質にならなくていいんですよ、トランプさん。

    米国の軍事力もまた、米国のこの世界の自由貿易体制を支える物理的パワーとして存在するのです。  

    これを国際安全保障インフラと呼びます。日本も日米同盟でその柱の一本を支えています。 

    日本はNATO諸国と較べても、その貢献度と双務性は群を抜いています。

    トランプ゚さんも就任前には「安保ただ乗り論」を言っていましたが、考えを変えたみたいで、けっこうなことです。 

    自由貿易を保障するためには、国際交易海域である南シナ海を自国の軍事基地化することなどもってのほかです。 

    それを許せば、南シナ海は中国の私的な海になるからです。 

    尖閣諸島も南シナ海とつながっていますから、中国はただの岩礁が欲しいのではなく、東シナ海とそれから続く太平洋への出口を自分の私的な海にしたいのです。 

    ちなみにその出口は、宮古海峡です。

    いかん、この調子で説明していたら終わらない(汗)。 

    Photo

     閑話休題。ところで、私も新潟ローズさんのおっしゃることは、気分としてはわからないではないのですよ。  

    佐藤優氏も朝のラジオで、「補佐官ごときに首相が接待するのは間違いだ」みたいなことを言っていました。  

    外交プロトコール(外交儀礼)では、首相が補佐官ごときを会席料理で接待するのはイカンということでしょうね。  

    そこまで卑屈になるのかと言いたいのでしょう、佐藤さん。  

    わかりきった話ですが、彼女はただの補佐官ではありません。米国中枢の政策決定に直接関与できる重要な位置にいる人物です。  

    大統領に直接に表裏で進言できるのは、イバンカさんだけなのです。 

    家族だから利権を配ったというならともかく、そのようなふしはないわけです。  

    トランプさんはイバンカさんという人物の能力を見込んで、補佐官にしたのでしょう。 

    実際のところ、ワシントンの政治的反逆者であるトランプさんにとって、信じられるのは優秀な娘しかいなかったということでしょうけどね。 

    それに仮に家族を補佐官にしたことが問題であろうとどうしようと、それは米国の内政問題です。 

    それに日本は関知できませんから、素直に歓待するだけです。  

    つまらないことに、眼くじらをたてないようにしましょう。

    いま、日本でトランプさんを大歓迎すること自体が、北朝鮮の独裁者へのなによりもの圧力になるんですから。  

    それにしても、自分の露払いにイバンカさんという、まことに日本人好みの清楚かつ知的な美女を送り込んできたのは驚きました。

    ほんとうにいた、動くバービー人形!(笑い)

    これで日本人のトランプさんに対する印象がいっぺんに変わりました。トランプさん、やりますなぁ。 

     

    2017年11月 5日 (日)

    日曜写真館 花の肖像

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    2017年11月 4日 (土)

    訪日直前のトランプのブラフ

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    トランプがFOXテレビで述べたのは、こういうことです。
    The Ingraham Angle 11/2/17 - Fox News Today November 2, 2017 - PRESIDENT TRUMP INTERVIEW 

    「トランプ大統領は米FOXニュース(Fox News)のインタビューで、『日本は武士の国だ。私は中国にも、それ以外に聞いている皆にも言っておく。北朝鮮とこのような事態が続くのを放置していると、日本との間で大問題を抱えることになる』と語った。
    その一方で、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は北朝鮮問題で『相当素晴らしい』働きを続けており、『中国はわれわれを助けてくれている』と持ち上げもした。」(AFP=時事11月3日)

    https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171103-00000034-jij_afp-int

    これをこのアク禁男は、「アメリカは何もしない事が明らかになりました。トランプは安倍が何とかしてくれるだろうとゆうレベルの軽いノリです」だそうです。 

    Photo

     苦笑するきゃない水準ですね。なにが「アベがなにかしてくれるという軽いノリだ」っての(爆)。

    アク禁男はなにも知らないようで、日本が半島有事で代理戦争するみたいに解釈しているようです。もう笑うしかないですな。 

    ロシアンゲートで背中に火が着きかけている時に、トランプが本国を開けて「軽いノリ」でアジア歴訪するかどうか、少しは自分の頭で考えなさい。 

    山路さんも書かれていますが、あんな発言はちっとも珍しくない言い方です。 

    あれはトランプの持説である、日本の核武装容認論にすぎません。 

    トランプに限らず、このような言い方はなんどとなく米国高官が伝統的に使ってきた中国に対する「核ドミノ論」による圧力です。 

    北の核を容認するなら、日本と韓国は核武装するだろうし、米国も反対できないというロジックです。 

    このブラフがけっこう中国には効いたようです。 

    たとえば中国メディアは、「日本には実験なしで核兵器開発できる能力がある」「日本の高度の科学技術力では短期間に核実験なしで核兵器開発が可能だ」と書いています。 

    この記事の結びには、中国の日本に対する警戒心がよく現わされています。

    「日本が核兵器を保有した場合については『西太平洋地区、とくにわが国の安全に対する重大な脅威』、『アジア太平洋地区での核軍拡競争を刺激』、『日中関係が悪化』、『日本の右翼勢力が、これまで以上に遠慮なく侵略の歴史を否定』と指摘。偶発的理由による「突発事態」の可能性も増大するとの見方を示した。
    論説は、日本の核兵器についての動向に「強い関心を持ち続けねばならない。絶対に警戒を緩めてはならない」と主張した」(サーチナ2015年8月11日)
    http://news.searchina.net/id/1584694?page=1

    自分が世界最大の軍事膨張をしておきながらよー言うよと思いますが、まぁ中国さん、ご心配には及びません。
    関連記事 日本は核兵器を開発できるか?その技術的難点とは 

    日本の核武装化の最大のネックは、国民のコンセンサスが取れるかです。改憲に劣らず相当に困難でしょう。 

    ただ、最近石破氏が三原則見直しを主張しましたが、案外国民は平静でしたから、空気が変わりつつあるのかもしれません。
    http://www.asahi.com/articles/ASK964TRKK96UTFK00G.html

    かつての記事で私は、仮にに取れたとしても、NPTから脱退して孤立化の道を歩まねばならないこと、技術的には兵器級プルトニウムを保有しないこと、そして核実験が国内では不可能なことを上げました。

    Npt外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics...

    ただし、もし日本が核武装の道を歩むのなら、唯一解決方法が存在します。 

    それはズバリ、米国の容認です。 

    実はNPT条約には第10条に脱退規定があります。
    核兵器の不拡散に関する条約

    「各締約国は、この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合には、その主権を行使してこの条約から脱退する権利を有する。」

    日本が現在置かれている状況は、まさにこの第10条が規定する「異常な事態が自国の至高の利益を危うくしている」状況そのものです。 

    「取るに足らない日本列島を核爆弾で海に沈めてやる」「日本はもはやわれわれのそばに置いておけない」(朝日9月14日)
    http://www.asahi.com/articles/ASK9G3V7SK9GUHBI015.html

    これは精神異常者の発言ではありません。2014年9月13日の北朝鮮の準外交組織であるアジア太平洋平和委員会の公式な発言です。

    「平和委員会」がこんなことを言うというのも、あの国らしくブラックジョークですな。

    いや、あれは北流の過激修辞学だと妙な弁護をする人がいますが、そういう形を変えた無関心がここまで北を暴走させたのです。

    ですから誠心誠意その言葉を、核攻撃予告として真に受けてやりましょう。

    北は日本本土を核攻撃する意志を隠そうともしておらず、その手段は既に有しています。

    つまりわが国は、「自国の至高の利害」である国民の安全が著しく北の核によって脅かされていると主張することはむしろ常識であるといってよいでしょうし、国際社会もそれを肯定せざるを得ないと思われます。

    ただし、中韓は別にしてですが。

    米国が日本の核武装をやむを得ざる措置として容認するなら、日本の核武装の可能性は急速に高まります。

    なぜなら、わが国の核兵器は、北の核と違ってわが国を核攻撃の目標としている国だけに向けられているのは自明だからです。

    旧ソ連圏の諸国のように、核爆弾を闇市場に流出する可能性はゼロですし、核で国際社会を脅迫することなど考えられもしません。

    世界でこれほど「礼儀正しい核武装国」はないはずです。

    そして技術的にも、米国が容認しさえすれば原子炉級プルトニウムから兵器級プルトニウムを分離濃縮するプラントなど技術的には容易です。

    最大のネックだった実験場も、米国からシミュレーション・モデルを供与してもらえればスパコンが処理してくれます。

    投射手段としては、宇宙好きの私としては個人的には絶対にこんな軍事転用などしてほしくしくありませんが、固形燃料ロケットのJAXAのイプシロンがあります。

    再突入技術もはやぶさで保有していることが証明されました。

    あとは投射プラットホームですが、移動式起立発射機(TEL)で当分間に合わせて、そのうちそれ用の潜水艦でも作るのですな。

    つまり好むと好まざるとに関わらず、日本は国民的コンセンサスと米国の容認という二つの条件が揃えば、短期間で核保有国になりえます。

    前者はともかくとして後者についてトランプは、就任前から日本の核武装は容認するそぶりを見せていました。

    この流れで考えた場合、トランプは習にこういうメッセージを発したと見るべきです。

    「習よ、いつまでもグダグダしていると日本が核武装するぞ。米国はそれを容認するぞ。一定の技術も供与するぞ。日本が本気になったら北なんかより何十倍もコワイぞ。いいのか」

    これは疑う余地なく中国、いや習その人に対する外交ブラフです。 

    今、米国が中国に期待しているのは、合意に基づいた「役割の誠実なる実施」です。 

    中国を通して米国が北に対して圧力をかけてもらう仲介者の時期は、かなり前に終わっているのですから。

    2017年11月 3日 (金)

    トランプの最後通牒の旅

    635
    前回も述べましたが、北朝鮮半島情勢の関心は既に、「軍事オプションをやるかやらないか」ではなく、「やった後にどうするのか」という<戦後処理>に問題は移っています。 

    今回、トランプは経済使節団を大勢引き連れて来ますが、非関税障壁がどうのとか、薬価がどうしたなどというやくたいもないことは官僚が裁いて下さい。 

    これはトランプの国内支持者向けアピールにすぎず、真の日米首脳会談のテーマは朝鮮半島有事とその<戦後処理>です。 

    安倍首相とNSCには、日々膨大な量の情報が入っています。 

    その情報の次元は、官僚の持つセキュリティクリアランスにとどまらず、トランプに許可されて米軍トップから首相に直接にもたらさた高次の情報も含まれています。 

    おそらく日本の首脳がこれほど膨大、かつ詳細な米軍の動向情報にふれたのは、歴史上初めてだったと思われます。 

    もし首相が総選挙で敗退し、別な人物がその座にすわった場合、信頼関係は一から作り直しせねばならず、日本は朝鮮有事に蚊帳の外に置き去りにされたことでしょう。

    Photo_3https://news.biglobe.ne.jp/economy/1019/jbp_171019_1244567448.html

    山口敬之氏の前掲論考には、首相がわずかに見せたその片鱗を紹介しています。

    「10月8日に日本記者クラブ主宰で行われた党首討論の場で、安倍は北朝鮮情勢を巡ってこんな発言をした。
    『ダンフォード統合参謀本部議長、そして太平洋軍司令官にも会いました』
    そして、少し躊躇うような表情を見せた上で、こう述べたのである。
    『陸軍の参謀総長、マーク・A・ミリー氏にも会いました』
    安倍があえて米陸軍に言及したのは、マティスの陸軍の演説とは無関係ではない。
    半島有事はもはや『武力行使が行われるのか行われないのか』という次元ではなく、『北朝鮮は崩壊するかしないか』でもない。
    終戦後に治安維持や占領、そして暫定統治といった、陸軍や国際文民組織の活動が想定されているような、トランプの言葉どおりの『完全崩壊』とその後の対応までが視野に入っているのである。」

    この時期に、首相が集中的に多くの米軍トップと話し合っていること、特に陸軍トップと頻繁に会談していることの重大な意味分からず、質問はモリカケばかりというメディアの堕落ぶりはいまや底無しのようです。

    もっともこの時安倍氏は、内心こんな低レベルの相手でよかったと思っていたかもしれません。突っ込まれていたら、しゃべれないことばかりですから。

    Photo_2
    それはさておき、9月29日、国防長官・ジェームズ・マティスはこう述べています。

    「大統領が軍事的選択肢を必要だとした場合に、確実に実行できる準備を整えておかねばならない。」

    これが山口氏が先ほどの引用でふれた「マティスの陸軍での演説」です。

    マティスは閣僚で、もっとも軍事オプションに慎重な人物として知られています。

    トランプがなにを言おうとブラフでしかない場合が大部分ですが、ことマティスが言えば違います。 

    なぜなら、彼は米軍最高の頭脳を持つ軍事のプロ中のプロだからで、いったん戦争が起きれば死ぬのは彼の部下たちだった兵士たちだからです。 

    この時、マティスが使った言葉が”readiness”でした。もっと正確に言えば、”state of immediate readiness”です。  

    この概念は、軍事用語としては「即応態勢」、あるいは「有事即応態勢」と訳します。

    そして、この発言の相手は誰だったでしょうか。メディア?選挙民? 

    いえ、陸軍の現役将星を多く含む米陸軍協会年次総会の場でした。

    つまりここでのキイワードは「陸軍」なのです。 

    実はいままで半島有事には、陸軍には出番はないと思われていました。 

    確かに陸軍第2師団は駐留していますが、その任務はトラップだといわれており、北が攻撃することを抑止するのが目的でした。

    海軍と空軍は、サージカル・ストライク(外科的精密攻撃)で核施設、ミサイル施設、司令・通信網を破壊し、海軍特殊部隊が斬首作戦を担い、一部に海兵隊が投入され、陸軍は後方を固めるていどと考えられていました。 

    山口氏はこう述べています。

    「陸軍が活躍するシナリオは、むしろ総合戦闘終盤の面的支配、そして北朝鮮の体制崩壊後の占領業務だ。
    『陸軍としてできることをやろう』
    決して大言壮語しないマティスが、北朝鮮壊滅の仕上げを担う陸軍幹部にこう呼びかけた。アメリカが描いている半島有事のスケールが、はっきりと示されたのだ。」

    私自身この部分を読んで、強い衝撃を受けました。 

    正直に告白すれば、まず仮にトランプが軍事オプションを選んだとしても、マティスとマクマスターが交い締めにしでもそれを止めるだろうと思っていたからです。

    第2に、仮に実力行使を選んだとしても、それはトマホークや空爆を主体とするサージカル・ストライクていどで終了するだろうとも考えていました。

    私の情勢認識が浅かったのかもしれません。

    米国は中国まで含んだ北朝鮮の打倒とその戦後処理まで視野に入れており、その協議それ自体を正恩への最終圧力としている可能性が高くなりました。

    軍事専門家の鍛冶俊樹氏は、中国が「核施設攻撃はわが国が行う」と米国に伝えたという未確認情報を出ています。

    それがもし真実ならば、中国もすでに米国との「占領地」でのパワーバランスを考慮している段階ということになります。

    いずれにせよ、トランプの最後通牒の旅がこの日曜から始まります。 

    2017年11月 2日 (木)

    米中秘密合意と北朝鮮有事

    017

    私は北朝鮮に対しての米中合意は、ほぼでき上がったと考えています。 

    トランプが今回中国に行くのは、その詰めのためで、いうまでもなくその前段の訪日は盟友である首相との最終打ち合わせです。 

    いかなる形になるか予断を許しませんが、好むと好まざるとに関わらず、この米中会談で北朝鮮に対する対応と、「戦後処理」の枠組みが決定するでしょう。

    言い換えれば、この米中による「戦後処理」の枠組み協議自体を最後の圧力として、北朝鮮に態度変更を促すということです。

    いわば米国流瀬戸際戦術ですが、これが効かなかった場合は、もう1回国連制裁決議を出して大義名分を国際社会に告知した後に、戦力集中し軍事オプション開始となるしかなくなります。

    この国連決議は正当性の担保となります。

    米国にとって最良はかつての朝鮮戦争のような「国連軍」の大看板でしょうが、そこまでは難しいので多国籍軍(有志連合)でしょう。

    いずれにせよ、戦力集中には数カ月以上かかりますが、米軍、特に空母打撃群の動静がわからなくなった新月の日が始まりです。

    その時期については、大統領の胸の中にあります。いったん発動されれば、トランプは大統領戦争権限法の枠内に納まる短期間で戦闘を終了させます。
    戦争権限法 - Wikipedia

    戦争権限法の定めでは、「大統領は事後48時間以内の議会への報告の義務、60日以内の議会からの承認が必要」とされています。米国議会は強い権限をもっており、今は反トランプ勢力が優勢です。

    ランプとしては内政的にも、長引かせるわけにはいかないのです。

    戦後の枠組みは、論理的にはこの3つしかありません。

    ①金正恩を排除した上で、北朝鮮という国家自体は存続させる
    ②南北を統一させる
    ③北朝鮮を周辺各国で分割統治する

    ①が米中日露韓すべてにとって最良ですが、③と被って「誰が」ということを問われます。

    ②は韓国のムン政権にそんな力がない以上、ただの空論。

    ③はもっともありえそうな気がしますが、国連を主体にすると船頭多くして船山に登ることでしょう。

    結局、軍事的に北を実効支配する者が、もっとも強い発言権を握ることになるでしょう。

    後述しますが、中国が協力的にみえるとしたら、それは「戦後」のヘゲモニーを握りたいからです。

    さて先日も引用しましたが、山口敬之氏のWill最新号の『安倍総理の”どす黒い孤独”』は、私たち日本が置かれた国際情勢の怜悧な分析となっています。

    この山口氏の論考を参考にして、この「米中密約」を見ていきます。 

    <米朝対立>が、本来は<米中対立>という大きな絵のひとつのピースでしかないことがよくわかります。 

    まずは、トランプと習が初めて会談した、今年4月6日にまで時間を巻き戻してみましょう。 

    Photo_6
    まだるっこいようですが、時系列を追ってお話していきます。そうしないと米中密約の成立した背景とその意味がわからなくなります。

    米中密約のいきさつはこうです。 

    この時、トランプは晩餐会の席上でトマホークを撃ち込んだと、習に耳うちしました。憎い演出です。 

    このあたりが、トランプが彼らしいディール(取引)を発揮した真骨頂でした。

    その時デザートを食べていた習は、数分間沈黙したまま、あろうことかそれを容認してしまいます。 

    この習という男がいかに内弁慶で、とっさの判断ができない人物なのか暴露された瞬間でした。 

    それはさておき、そのときトランプはトマホークで本気度を演出しつつ、米中の貿易不均衡と、北の核開発について百日時間をやると習に言い、習もそれを呑んだわけです。 

    百日の期限は7月中旬ですが、その前に中国はこれをホゴにしようとしました。 たぶん、中国には党大会前の党派闘争が強くしこっていたようです。

    Photo_9
    6月21日に行われた米中戦略対話にはズラっとトップが並びました。

    中国側からは外交トップで知米派の楊潔篪(ようけつち)国務委員、人民解放軍トップの房峰輝(ぼうほうき)統合参謀部参謀長ですが、結局彼らが出したカードはスカでした。
    楊潔チ - Wikipedia
    房峰輝 - Wikipedia

    「中国はもう北朝鮮に介入しない」 

    これは北に対して中国はなにもしない、いままでどおりに好きにさせるという意味です。席上トランプは、机を叩いて怒ったと伝えられます。 

    そりゃそうだ。首脳間の約束をチャラにするというのは、常識ではありえないことだからです。首脳間の約束事は、国家間条約に準じる重みがあるのです。

    国家間の約束事は、どこかの国の首相のように「トラスト・ミー」などとおちゃらけた発言をして済まされることではありません。

    ここから百日待ってあげたトランプの逆襲が始まります。

    1週間後に米国は「中国を最悪の人身売買国家」と認定し、その2日後に台湾への15億ドルの武器供与を決定し、中国の丹東銀行がマネーロンダリングに関わったとして取引停止を通告しました。 

    明確なリベンジです。約束を違えるなら、殴り返すという「怒りの鉄拳」論理ですが、好きか嫌いかは別にして、これが国際社会の掟なのです。 

    しかし、このトランプの「怒りの鉄拳」はまだ本気ではありませんでした。 

    中国にとっての奥の院の国営中国銀行や、人民解放軍系列の金融機関は寸止めしたからです。 

    つまりトランプは、習にこう言ったことになります。「サシでした約束を守れ。もう一回考え直してこい」。 

    そして米中間の外交関係者による舞台裏での外交交渉が開始されます。 

    そして約束の百日目の7月に、新たな密約が完成します。 

    第1に、1961年に結ばれた中朝安保条約(中朝友好協力相互援助条約)2項の自動参戦条項を中国は使わない。 

    中国は北を米軍が一定の枠内で攻撃しても関知しないということです。日本でいえば日米安保を廃棄するような重みがあるとお考え下さい。 

    正恩が米国を火の海にしてやるといった狂人同然の口をきけたのは、中国という後ろ盾があってのことなのです。

    いざとなれば米国は中国軍がかつてのように鴨緑江を越えて来ることを恐れて手を出さないだろうというのは、正恩にとっても大きな保険だったはずですから。

    これで、北は安全ベルトを切られたも同然になりました。 

    第2に、中国はこの見返りとして二つの条件をつけます。

    ひとつが、正恩の排除は認めるが、北の体制は継続すること。 

    二つ目は、習の続投が決まる中国共産党大会まで待ってほしいという、御家の事情でした。 

    われわれからすれば、ただのコップの嵐ですが、彼らは命がけなのです。

    ちなみに先の米中戦略対話に代表として出席した房峰輝も、中央軍事委員会のメンバーでありながら胡錦濤派として粛清されてしまいました。

    この合意を受けて出たのが、環球時報8月10日の社説です。 

    この中で中国はこう言っています。 

    「中国は北に対する米国の報復攻撃には中立を保つ。「中国は北に対する米国の報復攻撃には中立を保つ。しかし、米国が朝鮮半島の政治的版図を変えようとするなら断固阻止する」 

    ①米国が北朝鮮の核ミサイル関連施設を攻撃することは容認する。
    ②北朝鮮への地上部隊の侵攻や、北朝鮮政権の転覆は容認しない。

    Photo

    直ちにその4日後、ティラーソン国務長官はマティス国防長官との連名でこうアンサーしました。 

    「米国は非武装地帯の北側に駐留する意図はない」 

    この言葉はまさに正恩なき後の朝鮮半島のあり方について、米中が合意しているといういうことです。

    ですから、習が望んだ2番目の条件である10月の中国共産党大会が終了しさえすれば、この「米中密約」は現実化の段階に入ることになります。 

    つまり米国が軍事オプションを取る取らないかという段階では既になく、取るとしたらいかなる戦略を選択するか,「戦後」はどうするのか、という時期になっていると見るべきなようです。 

    ただし、このような米中の戦後枠組みまで協議するという恐怖によって、なんらかの協議の場に北朝鮮を引きずり出すという平和解決の可能性はわずかながら残されています。 

    ただし、その場合も核凍結はありえず、放棄が絶対条件となりますが。 

    それにしてもこんなデリケートな時期に、よりによって核武装化の中核施設である地下核実験場が大事故を起こすとは・・・!

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    正恩の運も尽きかけているのかもしれませんね(苦笑)。

    それとどーでもいいですが、このように切迫した状況下でも、国会で立憲民主党、希望の党、民進党が合同でモリカケ追及チームを立ち上げるという構想も浮上しているようです。

    やれやれ、中国共産党の党派闘争がコップの嵐なら、こちらは杯の泡ですな。

    長くなりそうなので、この続きは次回に。 

    2017年11月 1日 (水)

    速報 北朝鮮核実験場で大事故発生

    6200
    snsnさんの寄稿はもう一本のほうです。ぜひお読みください。

    さて今日は速報のみアップします。 

    北朝鮮でいままで核実験場として使われてきた豊渓里(プンゲリ)で、大規模落盤事故が発生したようです。

    「■北朝鮮 6回目の核実験後に大規模崩落 200人死亡か
    北朝鮮が先月に6回目の核実験を強行した後、実験場の地下坑道で大規模な崩落事故が起き、200人余りが死亡した可能性があることが分かりました。

     北朝鮮消息筋によりますと、先月10日ごろ、北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)の核実験場で、地下坑道を造る工事中に崩落事故が起きました。作業員約100人が巻き込まれ、さらに救助中にも崩落が発生し、合わせて200人余りが死亡した可能性があるということです。
    先月3日に実施された6回目の核実験の爆発で地盤が緩んだことが原因とみられます。韓国の気象庁は「核実験場がある山の下に60メートルから100メートルの空洞ができているとみられる」という見方を示し、今後、核実験をした場合、放射性物質が漏れ出す可能性があると指摘しています。」(テレ朝10月31日)

    公表された空中写真によると地表に亀裂が入り、断層が形成されています。この断層は地下の爆心地と連結しているようです。

    この亀裂を介して放射性物質が空中に拡散したり、地下水へ流出する可能性は高いと思われます。

    下の空中写真で見ると、核実験の坑道沿いに断層が走ったことがわかります。

    Photo_3時事通信より引用

    北朝鮮で10月13日午前1時41分ごろ、萬塔山から10キロ離れた場所でマグニチュード(M)2.7の地震が発生しています。

    これは度重なる地下核実験のために山疲労症候群(タイアード・マウンテン・シンドローム)と呼ばれる地殻の変化が生じたものだと思われています。

    Photo_5北朝鮮が水爆実験を行ったと主張する同国北東部・豊渓里にある核実験場の実験前後の比較写真。左側は実験前、右側には実験後の土砂崩れとみられる痕がある(左は2017年9月1日、右は2017年9月4日入手、資料写真)。(c)AFP PHOTO/Image courtesy of Planet AFP 

    「山疲労症候群は岩に囲まれた地域で行われる地下核実験による影響を表す呼び名で、実験により周りの岩場は広範囲にわたってひび割れ、雨水や地下水などを透過しやすくなることを意味しているという。」(AFP 2017年10月18日)
    http://www.afpbb.com/articles/-/3147236

    どうもこれが核実験場の大規模落盤事故と関連があるのではないか、と米国の専門家はみています。
    http://www.38north.org/2017/10/mtmantap101717/

    「米国の北朝鮮専門メディア「38ノース」が17日(現地時間)、「山疲労症候群(Tired Mountain Syndrome)」の可能性を提起した。この用語は冷戦時代に核実験場として使われた場所の岩石物質の性質が核実験の影響で大きく変化する現象を示す。
    38ノースは6回にわたる核実験で、萬塔山一帯の地盤が極めて弱くなり、大規模な陥没や山崩れにつながりうる点を指摘した。実際、海抜2205メートルの萬塔山頂上付近にある34ヘクタールの広さの地域で最大4メートルほど崩れている事実が商業用人工衛星写真分析で明らかになった。ワシントン・ポスト(WP)は20日(現地時間)、地震学者であるコロンビア大学のポール・G・リチャード教授の言葉を引用して「核爆発が北朝鮮の地中応力(地層の力)を刺激した」と説明した。 」

    http://japanese.joins.com/article/665/234665.html?servcode=500&sectcode=510

    これでこの間、なぜ北朝鮮が弾道ミサイル実験を手控えていたのか分かってきました。

    被害状況を北朝鮮が公表するわけもありませんが、常識的に見て豊渓里施設は壊滅的被害を受けて使い物にならなくなっているとみられます。

    おそらく現地は大量の放射性物質による被曝をしており、哀しいことに落盤に合った作業員はもとより、救助隊からも多数の急性被曝患者が出るでしょう。

    新たに地下実験施設を別な場所で作るとなると数年がかりですから、これで当分の期間核実験は不可能になったと考えられます。

    北朝鮮の核兵器開発は、弾道ミサイルに搭載するための小型化技術を獲得していないとみられているので、これにも影響が出ることはありえるでしょう。

    また作業員100名が事故にあったとされていますが、その中に核実験関連の科学者・技術者が含まれていた場合、正恩の核保有国計画にとって手痛い打撃になることは間違いありません。

    この時点では、今後この核実験施設事故がどのように朝鮮半島情勢に関わるのか分かりませんが、中国との「北朝鮮処分」を話あうとみられているトランプのアジア歴訪と時同じくして起きたこの事故に因縁めいたものを感じてしまいます。

    Photo_4http://www.tenki.jp/particulate_matter/

    なお日本に対する影響ですが、PM2.5の拡散図をみると、現時点では心配はなさそうです。

    snsn氏寄稿 アベノミクスの課題とリスク その3

    033

    今回で完結となります。

     

    前回の(2)戦後の北朝鮮共同統治事業の後半部分です。

                 ■アベノミクスの課題とリスク その3
                                                  snsn

    承前

    私の考えでは、共同統治は安倍さんから積極的に提案することが良いと思っています。

    狙いは二つあります。一つは日本国内での投資先がない現状において企業の生産拠点の北朝鮮移転と投資、例えば鉄道、通信、エネルギーなど日本が得意とする多くの分野があります、まあ経済的メリットですね。

    当初は支援も必要でしょうが、東ドイツのケースを見ても長期的には投資回収は可能だと思います。

    もう一つは、なんとしてでも拉致被害者を無事に全員奪還することです。
     

    安倍さんはおそらく拉致被害者に対して政治家として相当な責任感を持っていると思います。

    しかしながら北朝鮮の国土を消滅させるような戦闘行為が起こってしまえば、拉致被害者も巻き込まれます。

    そのため北の中枢の体制のみを転覆させ、人民を安全に保護する必要があります。
     

    国際関係論の篠田英朗氏もいう通り中露と共同統治事業を合意できている、それが非公式に伝わることでこのシグナル自体が北への強力ななプレッシャーとなります。

    北朝鮮人民は現体制よりも共同統治政府の方が好ましいと思えば、亡命、自発的武装解除などが起きる可能性があり情報漏洩含めて内部から北朝鮮体制が崩壊する可能性があるでしょう。


    最小限の武力衝突で体制を転覆することができれば、戦後の経済的メリットと拉致被害者の奪還の確実性が高まるでしょう。

    毎年20万人の移民受け入れの検討について政府の発表がありました。

    私としてはもともと大規模な移民受け入れには賛成できませんが、共同統治国からの移民(難民ではなく)であれば厳密な審査の上で管理は可能であると思います。

    少子化対策にもなるでしょう。

    また拉致被害者が向こうで家族を持っている場合に、無理やり引き剥がすことは人道的に問題がありますので、家族については希望によって正規の移民というスキームを活用することが望ましいでしょう。

    以上<戦時下>と<戦後>を深読みをしてみましたが、、、さてどうなるでしょうか?


    今回の記事はここで終わりにいたします、お読みいただきありがとうございました。

                                                 (了)

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