北朝鮮「火星15」の発射についてその1 北の弾道ミサイルはどこまで進化したか?
火星15
北朝鮮(以下北と表記)が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を発射しました。
いうまでもなく、明確に国連安保理決議違反であり、しかも日本に向けた方向に撃つという許しがたい恫喝です。
現時点で分かっている範囲で整理していきます。 国際政治への影響については明日にして、今日は分かっている範囲での技術的なことに絞ります。
今回の発射が、従来の火星シリーズと区別されるのは、北が政府声明として、「火星15」を明確に「米本土全域を打撃できる超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル」と規定したことです。
つまり、北は米国の喉元にナイフを擬すことができるぞ、と宣言したことになります。
ではこの核ミサイルというナイフが、果たして使い物になるかどうかを検証していきます。
まず軌道は、北が政治的に米国を刺激しすきないように意図する時に使われるロフテッド軌道です。
さらに恫喝をかけたいならば、正恩は8月9日の時のように、北海道の渡島半島を通過し襟裳岬沖のオホーツク海に落す軌道を選択したことでしょう。
ロフテッド軌道にしたのは、今回は飛距離を見せつけるのが目的だったからです。
その意味では、今回の弾道ミサイル発射は衝撃的でしたが、従来の限定的エスカレーションの域に納まっているとはいえます。
ロフテッド軌道などという特殊な用語がいつのまにか日本人の耳にもなじんでしまいましたが、「高く打ち上げるため軌道」程度の意味です。
isana様ツイッターより引用させていただきました。感謝します。
今回は高度4475km、水平距離950km、約53分飛翔でした。
政府関係者は発射時間がわかっていたために、いつ着弾するのか53分間も待たされてイライラしたようです。
いかに高く打ち上げたか分かります。国際宇宙ステーション(ISS)は最低高度278 km、最高高度460 kmですから、無意味に高いのがお分かりいただけるでしょう。
これを科学的目的で使えば有意義なものをと思いますが、それこそ無意味ですから止めましょう。
この無意味に高いのは、横に撃つ普通の軌道(ミニマムエナジー軌道)に換算すれば、「憂慮する科学者同盟(UCS)のデビッド・ライト氏は、最小エネルギー軌道で発射されれば13000kmに到達」(海国防衛ジャーナル)させる目的のためです。http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50798698.html
「火星15」の射程範囲を見るために、射程範囲を13000㎞とした「海国防衛ジャーナル」様制作の図を転載させていただきます。ありがとうございました。
http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50798698.html
一瞬ギョッとする射程範囲なのがわかるでしょう。北米大陸全域、ユーラシア大陸全域、アフリカの南端を除く全域が、「火星15」の射程範囲に納まります。
これで北は弾道ミサイルの射程距離については、目標をクリアしたことになります。
というのは米国か運用するICBMミニットマンⅢ型の射程は13000㎞ですから、ほぼ等しい距離を達成したことになるからです。
この射程距離を可能にしたロケット・エンジンは、「白頭山エンジン」と自称していますが、澤岡昭氏によれば旧ソ連が開発したRD250のデッドコピーから発展したものだと考えられています。
ウクライナ政府自身は否定していますが、この国は中国にスホーイ戦闘機や中古空母を売ってきたような闇武器市場の常習犯ですので、ここから流出したものだと思われます。
今回は、このロケット・エンジンを束ねて第一段ロケットの推力をあげたか、本来は二基で一対になっているRD250を一基にしたものか、いずれかだと思われます。
いずれにしても、北がただの模倣段階から、独自に高性能ロケット・エンジンを製造できるまで技術進歩したことは疑い得ません。
さて悩ましいのは、北が使っている「超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル」という表現です。
米国のミニットマンⅢ型の場合、再突入体の重量約100キロ、それを含む弾頭重量全体は317〜363㎏です。
これを通常のICBMはこれを複数発(3発)搭載し、その中にはデコイ(おとり)も含まれています。
多弾頭(MIRV)ミサイルは一発で複数の核弾頭を放出するために、ミサイル防衛が大変に困難になります。
精度は当然甘くなりますが、新宿に落すつもりが赤羽に落ちたようなもので(お住みの方すいません)核爆弾ならどちらでも同じです。
8月29日に北が発射した「火星12」は3つに分解したことが分かっていますし、今回も3つに分解しました。
理由は判明していませんが、仮にこれが多弾頭を意味するのなら北の核弾道ミサイルの脅威度は飛躍的に高まることになります。
これに成功していたなら、北は核弾頭の小型化もクリアしたことになります。
ただし、小川和久氏はこれに否定的です。
「『超大型重量級核弾頭の搭載が可能な大陸間弾道ミサイル』という表現は、いまだ核弾頭の小型化に成功しておらず、その重い核弾頭を大推力の液体燃料ロケットで投射するのがやっと、という現実を物語ってあまりある。」(facebook)
ここで小川氏が指摘している液体燃料方式とは、燃料注入に時間がかかるために即応性を要求される軍用ミサイルには不向きです。
トロトロと燃料注入をしている間に、米国の偵察衛星に発見されてしまう可能性があるからですので、今回米国は事前に発射予定を察知し、日本政府に伝達していたと思われます。
首相が早朝にもかかわらず素早く対応できたのは、この米国からの事前伝達があったからです。
なお、必須の再突入技術については、北は達成と称していますが、決定的物証がありませんのでなんとも言えません。
ほんとうに再突入に成功したのなら、再突入体を海中から回収して調査せねばなりませんが、そのそぶりも見せないのでなんだかなぁ~という感じです。
火星15
このように考えてくると、北は全米を射程内に収めるICBMを開発したことは確かですが、以下の点で疑問が残っています。
①「重量級核弾頭」という言い方や、軍用ミサイルにふさわしい固体燃料ではなく、従来の液体燃料を使っていることから、核弾頭小型化がなされたとは思いにくい。
②再突入技術に成功したのかは証拠がない。北はそのための弾頭回収調査をおこなっていない。
③中距離弾道ミサイルについては固体燃料化が完成したと思われるが、ICBM用の固体燃料に成功していない。
したがって結論的に言えば、飛距離だけは伸びたが、弾道ミサイルに必須の他の技術は未だ未完成であるように考えられます。
というわけで、冒頭の「北の核ミサイルというナイフは使い物になるのか」という問いに答えるならば、現時点では竹光ではないが、ほんものの真剣としてはなまくらという域をでていない、と結論することができます。
しかしこれらがすべてがクリアされ、「核保有国」と認定された場合、同じようにICBMを実験名目であろうとなかろうと発射しようと図った場合、米国による自衛的先制攻撃を受ける可能性があります。
皮肉にも、北が「核保有国」として認められれば、もうこのような弾道ミサイルの発射はできないことでしょう。
これを「平和」と呼びたければ、どうぞそうお呼び下さい。
長くなりましたので、今回の「火星15」がもたらした政治的影響については次回に回します。
※火星15の写真が公開されたので扉写真を替え、加筆しました。
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