なぜ中国は北朝鮮向け原油パイプを締められなかったのか?
北朝鮮に入る石油のルートは、基本的にふたつしかありません。
最大のルートは、中国パイプラインの豆満江ルートです。
何回か記事にしましたが、中国は豆満江を越えて、パイプラインを敷設しています。
丹東市「金山湾油タンク」から出発し、馬市村の輸油ステーションを経て、加熱・加圧された後に豆満江を越えて対岸の北朝鮮・平安北道義州郡の烽火化学工場に送られて製油されています。
このルートを使って、北朝鮮への石油製品の大部分は輸出されています。
中国は口では、「現時点での北朝鮮核実験は米政府への『平手打ち』となり、そうした行動は中国が北朝鮮への石油輸出を制限することにつながる可能性がある」(環球時報2017年4月12日)などといいながら、いっかな石油製品パイプのコックを締めてきませんでした。
2013年2月には3回目の核実験が行われましたが、むしろそこから石油製品輸出は右肩上がりに伸びています。
2016年1月には4回目の核実験が行われましたが、まったく石油輸出輸出には歯止めが掛からず、その2月後の3月の国連制裁決議などど吹く風とばかりに伸び続けて、2016年9月の5回目核実験以後も伸び続けています。
したがって、中国の北朝鮮への輸出は国連制裁決議にしたがっていれば減らねばならないはずが、むしろ順調に推移しています。
上のグラフで2015年に北の対中国貿易の伸びが落ちたのは、経済制裁とは関係なく、中国経済の減速が原因です。
中朝両国の貿易関係は、北が極端なまでに中国に依存している構造が成立しています。それを示したのが下のグラフです。
上のグラフを見れば、北朝鮮貿易は2015年には実に9割までが中国に依存しているのかわかります。
北の中国への貿易関係は、2016年対北輸出が32億ドル、輸入が27億ドルですから、北にとっては5億ドルの貿易赤字ですが、この赤字はどのようにして埋めているのでしょうか。
一般的には貿易赤字そのものは経済不調を意味しません。日本のように経済全体が好調ならば、輸入も一緒に伸びるからです。
しかし、北のように中国にだけ極端な貿易依存をしていて、しかも同じ国に対して毎年5億ドルちかい赤字を作り続けるとなると話は別です。
この謎解きを、田村秀男氏はこう説明しています。
「不足分は中国からの借り入れでまかなう、つまり中国の金融機関による融資で補うわけで、正恩氏直結の企業や商社、銀行は中国の金融機関との協力関係を保っている。正恩氏を締め上げるつもりなら、融資を止めることが先決なのだが、現実はほど遠い。」(産経2017年2月25日)
中国はこの不均衡状態を放置するどころか、むしろ促進してきたのには理由があります。
中国が典型的な過剰生産不況に苦しんでいるからです。
鉄鋼は一部の溶鉱炉を強制的に止めねばならないところまで追い詰められ、自動車は滞貨の山、太陽光パネルも膨大な在庫の山を作っていまや捨て値で売りさばいている始末です。
このような中国の過剰生産恐慌一歩手前の状態が、AIIBや一帯一路構想のように、なりふり構わない海外への輸出攻勢をかける最大の原因となっています。
ですから、対北貿易も例外ではありませんでした。ともかく売りたいから、中国は北への融資を垂れ流してきたのです。
国連制裁決議の明白な違反ですが、自動車や鉄は民製品だ、食料は人道的な輸出だとばかりに、雪崩のように輸出したわけです。
金には色はついていませんから、この中国金融機関の対北融資の多くは、弾道ミサイルや核開発へと流れ込んだことでしょう。
中国は北への石油パイプラインのコックを締めれば、北の経済が崩壊してしまい、自国の金融機関が振り出した巨額の融資が一気に焦げつくのを恐れています。
ここに、「唇と歯の血盟」などという共産主義イデオロギーとは無関係の、中国と北の経済における相補関係、いや共犯関係ができ上がっているのです。
さて先日のトランプのテロ支援国家指定によって、北との経済関係を結ぶ金融機関は米国との取引関係から排除されることになりました。
「アメリカのトランプ大統領が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したことを受け、アメリカ財務省は21日、北朝鮮と取引のある中国人の実業家1人と中国の貿易会社など4社のほか北朝鮮企業9社と北朝鮮籍の船舶20隻を新たに制裁対象にしたと発表した。」https://www.houdoukyoku.jp/posts/21889
さて、冒頭の豆満江ルートが正面玄関なら、第2ルートは船舶によるものでした。
北は、第3国の国旗を偽装した貨物船で密輸していたのが分かっていますが、それも含めて、米国の厳しい監視下にあります。
下のGPSマップが現在の北周辺における船舶状況の位置情報です。北朝鮮の海岸線には、船舶が存在していないことがわかります。
marinetraffic.com/en/ais/details…
一隻だけ停泊している船は、北朝鮮のヴェッセルRYE SONG GANG号で積載量わずか3000トンのタンカーだそうで、ウラジオストックから出港したものだそうです。
この洋上で受け取る側「RYE SONG GANG1号は、10月19日洋上で石油の受け渡ししている様子が、米国の偵察衛星によって撮影されて公開されています。
https://www.houdoukyoku.jp/posts/21889
米国は正面からは3隻の原子力空母に揃い踏みさせ、ひんぱんにB!を飛ばし、そして真綿で首を締めるように中国の対北貿易・金融取引を制裁対象にしました。
今後、これを受けての正恩の動きを冷静に観察せねばなりません。
※改題しました。いつもすいません。
■写真 うちのバカワンのたろーです。頭は悪いが愛嬌よしです。
« 朝日は「物言えぬ社会」を作りたいのか | トップページ | 朝鮮半島有事の邦人国外脱出は絶望的だ »
中国はパイプラインの栓を閉めるのでしょうか?今日の記事によれば、それをしてしまうと中国自身の経済もかなりおかしくなる。かと言ってそのまま放置すれば、対米貿易と言う中国の、文字通りドル箱が怪しくなる。かなり綱渡り的状況判断ですね。石油が止まれば、北はかつての日本みたいに打って出る可能性大な気がします。
最近よく耳にする年末危機説も信ぴょう性が出て気がします。今朝のラジオニュースで、政府が在韓邦人の緊急時輸送について検討に入ったというのを聞きました。
それもかなり具体的に検討するみたいですので、いよいよ戦争前夜の様相なのかな?と一人妄想しております。
投稿: 一宮崎人 | 2017年11月24日 (金) 10時55分
以前の記事や皆さんのコメントを見ていると、トランプ氏が中国に向けてプレゼントした「28兆円の商談」が、見せ掛けだけの大きな釣り餌だったような気がしてきます。
北朝鮮よりもアメリカを相手にした方が儲けられるよ。
損したくなければ北朝鮮にもっと圧力を掛けるんだよ。
でないと、この商談も全部パーになっちゃうよ。
それでもいいの?
…という感じでしょうか。商売人らしい、と言えるのかな。
石油が止まるとなると、まずは一般人の暖房が止まるでしょう。
小船で日本へ流れついた朝鮮人のニュースがありましたが、秋田・山形・新潟・富山、その辺りに逃亡者が来るかもしれませんし、あるいは破壊工作員が上陸なんてこともあるかもしれない……というのは不安を煽りすぎですかね。
そういえば、習主席はトランプ氏に「友、遠方より来たり」と言ったそうですが。
文在寅大統領は「遠くの家族よりも近くの友人」に会うために、早く来日したいと言ったそうです。
遠くの家族って誰のことなんでしょうね(笑)
投稿: 青竹ふみ | 2017年11月24日 (金) 16時55分
青竹さん、おひさしぶりです。あの28兆円商談は、契約にハンコを押して、あるいは契約が進んでいる案件ではなく、あくまでも中国得意の白髪三千丈の類ですから(笑い)。
脱北者によれば、平壌以外の地方は、とうに一家一電球があたりまえになっています。
石油で暖を取るという「贅沢」はとうにできず、トウモロコシのガラを燃やしているとも聞きます。
こういう言い方はひどいかもしれませんが、一般国民の大部分は経済制裁で日常生活が急に落ち込むことはないはずです。
一般の北国民がまともな生活ができるためには、正恩政権に去ってもらうしかないのです。
受けるのは、平壌に住める党・軍・政府の幹部などの家族などの一部特権階級に限られると思います。
そして市民生活以上に石油が止まると困るのは、石油がなければただの鉄の箱となる軍隊です。
ちなみに記事の末尾に紹介した北のタンカーが入った港は、北海軍基地の港です。
というわけで、石油を中国が締められればきわめて有効に、正恩とその取り巻きの党・軍・政府を締め上げることができます。
またテロ国家指定による経済制裁は、ただ石油ばかりではなく、いままで世界から集まってきた危ない人たちのアンダーグラウンドのマネーも止めます。
金一族や側近たちの海外口座も見つけ次第容赦なく凍結するでしょう。
このような中で、拉致被害者の奪還をはたさねば後がありません。
ところでムンに「友人」だと言われると鳥肌がたちますが(苦笑)、「遠くの家族」とはもちろん北のことですよ。
ムンからすれば、かつての選挙公約のように当選後すぐに北に行くことが不可能になったので、日本にでも行くかていどの話です。
彼は3ツのノーを中国に差し出していますから、日本なんかに来ていいのかな。
私たちからすれば、有事の韓国からの邦人退避が最大の問題です。
だから公明党の山口氏に行ってもらったということです。
投稿: 管理人 | 2017年11月24日 (金) 17時36分
青竹ふみさん。
うん、しゃれになりません!が、今回は恐らく大和堆の漁場を目指して北から大量に出港したという漁船かと(工作員が紛れ込んでたとしても驚きませんが)。接岸したのも目立つ本荘マリーナですし。
金日成時代はガチで拉致潜入部隊が来てましたよ。
当時は大したことだとは思って無かったですけど、80年代庄内の浜でよく知る人の部下のOLさんが行方不明になって、「日本の物ではない」真鍮製の謎の猿轡が見付かったり。
今回の本荘辺りから新潟県北部の海岸線なんか良く知ってて「あそこの岩が昼寝にちょうどいい」とかハマッてたのが90年頃ですから。もしかしたらオレも!?です。
そのうちの1つのすぐ側で実は同時期に不審な男のグループが目撃されていたとニュースに出たのが小泉訪朝後でしたから、テレビ見てて真っ青になりました!
過疎が進んでるので、監視の目も緩んでます。
投稿: 山形 | 2017年11月24日 (金) 19時25分
>管理人さん
なるほど、石油はもう一般まで出回りませんか。
国境近辺の村では、見栄を張るために最新の自転車に乗ったりして誤魔化しているというが、もう中国人観光客とかに見せられる小芝居も余裕が無いのかな。
1980年代の中国と同じだから、て理由で同情する中国人が居ましたけど、同情からくる「人道的支援」がどうなるか。
そういえば、中朝友誼橋も工事を理由に10日ほど閉鎖すると言う話も有りましたし、商人の出入りも厳しくなると、石油以外にもじわじわと締め付けられるようになるでしょうね。
文大統領が日本に来るのは、朝鮮戦争の時のように「亡命政府を置くための土地の確保」だったりして(笑)
国は統一されても政治家はクビチョンパでしょうからね。
>山形さん
そういえば、うちの会社のOBは金沢とかあちらの出身ですから、似たような事を言っていたような気がします。
能登半島は昔も今も最前線とか。
今調べたら、北朝鮮銀座なんて言葉も有るんですね。怖いわ……。
投稿: 青竹ふみ | 2017年11月24日 (金) 19時59分
情報を付け加えておきます。
北は食料危機がはじまっているようです。これから冬越えをし、食料を食べきって、しかも畑に何もない春を迎えることになります。
デイリーNKです。
「トウモロコシは北朝鮮の主要穀物だが、国連が2001年以来で最悪とする干ばつの影響により、その依存度がさらに高まっている可能性がある。
コメほど人気はないが、より安価なトウモロコシ輸入量は、北朝鮮で収穫が危ぶまれている年に増加する傾向にある。
中国当局が公表したデータによると、今年1月から9月にかけて、中国は北朝鮮に4万9000トン近いトウモロコシを輸出。2016年の輸出量はわずか3125トンだった。」
投稿: 管理人 | 2017年11月25日 (土) 05時13分
20年前なら日本にたかってきたんでしょうね。
実際KEDOではコメを大量に送ってますしね。
それにしても石炭は売るほど出るんだから、まともな途上国だったら(しかも共産主義)家庭に均等配分するはずでしょうに。。
投稿: 山形 | 2017年11月25日 (土) 06時45分