沖縄で米軍機を日本が整備するのは意味がある
テレジアという人から、このようなコメントをもらったので記事でも答えておきます。
「米軍の正式な発表では「操縦士の人為的なミス」であり「操作手順を間違えていた」と日本政府などに伝えたそうです。
どこに大韓航空の整備不良の話が出てるのでしょう」
はい、確かにあなたのようにメディアだけ見ている限りは、「小学校校庭に落ちた」と、「おびえる市民たち」といったことしか報じられていません。
私から見れば、失礼ながらずいぶんと薄っぺらな報道だなと感じたので、その背景を探ることにしました。
なるほど今回の事故原因は直接には、パイロットが脱出ハッチのレバーを押してしまったことによる誤操作です。
これだけ見ると、いわゆる人為ミスの範疇に分類されてしまいます。
しかし実は危機管理上、人為ミスで済ましてしまうのは、もっとも安易な事故原因の出し方なのです。
対策としては要は「気をつけよう」ですから、マニュアルを上書きして、講習会のひとつでもして、脱落した脱出ハッチの安全索の検査を徹底し「よろしいですね、皆さん。気を引き締めていきましょう」でおしまいです。
まぁ、現場としてはこんなていどしかやることがないわけです。
だって、たかだかと言う言い方は児童に当たる可能性もあったので語弊がありますが、機体そのものやエンジン本体の事故ならともかく、窓枠の誤操作にすぎませんからね。
翁長知事は怒っているようですが、米軍はくだんのCH53Eを数日の飛行停止だけにとどめて、わずか数日後に訓練を再開しました。
https://www.jiji.com/jc/d4?p=fal016&d=d4_zz
飛行再開に翁長氏が県民の安全を声高に要求するなら、米軍に対する要求はつまるところこのふたつしかなかったはずです。
①CH53Eは事故を多発する老朽機だから早期に退役させよ。
②米軍は整備を外注化せずに、軍内部で責任をもって行え。
ところが翁長氏ときたら、例によって「米軍基地撤去」という政治的方向に話を持っていきたがるので、肝心の米軍機の安全性は放置されることになります。
これでいいのでしょうか。米軍はお家の事情、県知事は反米だけ、日本政府は腰が引けている、これでは米軍機の事故の歯止めになりません。
真剣に米軍機の事故を憂慮するなら、米軍の整備状況そのものにメスを入れねば、また別の形で事故が起きます。
最大の原因は、米軍の予算削減による整備・管理不門の削減と外注化です。
これは日本もこの20年間のデフレ地獄においてさんざん経験したことで、米軍もその轍を踏んでいるにすぎません。
経営体がコストカットを至上課題にすると、まず安全部門からカットします。
2012年に起きた笹子トンネル天井崩落事故は、道路公団が民営化されて生まれたNEXCO中日本が、笹子トンネルの老朽化を知りながら、補修点検に手抜きをしたため起きました。
天井を固定するボルトを、打音検査によってチェックすべきところを、目視だけで済ませてしまったために破損に気がつかなかったのです。
笹子トンネル天井板落下事故 - Wikipedia
この間の米軍の多発する事故を見ていると、笹子事故と似たパターンを感じます。
NEXCO中日本はトンネル天井の老朽化を、4年前に起きた同じ吊り天井タイプの関門トンネル事故で知り得ていました。
同様にCH53Eは、とうにスクラップにしてくず鉄にしてしまうのがふさわしい機体だということは、とうぜん米軍が一番よく知っているはずです。
同じタイプの機体を使っていた海自は、とっくに退役させて部品取りに米軍に提供しています。
海自は大型ヘリの必要性がなかったので退役させたのですが、米軍は戦略上、重輸送ヘリがなければ困る局面が多いために、いまだ現役を張らせています。
後継機の開発が遅れているために代替機がないわけですが、それは米軍の都合です。いいかげん接受国の迷惑も考えてほしいと思います。
またNEXCO中日本は、事故の後に「崩落現場付近約110mを除く範囲で、アンカーボルト11,613カ所のうち、ボルトの緩みや欠落などの不具合が1,211カ所見つかった」、(Wikipedia)にもかかわらず、2000年以降一度も打音検査をしなかったことがわかっています。
一方、米軍も整備予算削減のために、整備の一部を外注化していることは昨日記事にしました。
念のために書き添えますが、米軍が民間に全部丸投げにしているわけではありません。米海軍・海兵隊の航空機整備にはレベルが3ツあります。
①「0レベル」・・・飛行隊で行われる日常整備
②「中級整備」・・・整備補給中隊でのエンジンや可動部などの点検・整備
③「デポレベル」・・・航空機を分解したり、オーバーホールする高度の専門技術が必要とされる整備
これらを統括するのが、岩国に移動したばかりの「西太平洋航空機整備センター」(FRC-WP)と呼ばれる組織です。
KALがどのていどのレベルまで整備に携わっているのか資料がありませんが、おそらく①の「0レベル」ではないでしょうか。
とまれ、仮に「0レベル」だとしても、安値に目が眩み、よりによって世界でも事故率がボトムと評価されているKALに整備を委託させるというのは、わが国の安全保障上も問題です。
それも朝鮮半島有事が現実性を帯びる中で、米軍は有事を想定した厳しい訓練を続けている状況で、ほんとうにこれでいいのでしょうか。
せめて外注するというなら、わが国の優れた航空機整備技術を用いるべきです。
私はその意味で、山路氏の提案を支持します。検討に値する大変に面白いプランだと思います。
米軍機整備なら長い経験を持つ「日本飛行機」(日飛)という会社があります。おそらく世界でも指折りに高い航空機整備技術を持つ企業です。
日本飛行機 - Wikipedia
日飛は自衛隊の整備の一部も請け負っており、高い信頼性をもっています。下写真は鮮明でなくて恐縮ですが、日飛工場で整備されているF/A-18E/Fです。
「アメリカ海軍機・海兵隊機の整備は、1953年の航空機修理契約締結以来、半世紀以上の実績を誇り、現在では全整備台数の約8割を占める整備根幹事業となっています。
NIPPIは進化する米軍機の技術に対応し、整備技術の高度化に取り組み、主力戦闘機F/A-18E/F型(スーパーホーネット)や対潜ヘリコプターSH-60F(オーシャン・ホーク)など最新鋭の機体も含め、多機種の整備を行っています。
また、厚木飛行場に隣接する航空機整備事業部での整備に加え、国内米軍拠点各地にNIPPI整備スタッフが出向して整備に当たる『オンサイト整備』を提供し、時間短縮、コスト削減などを達成しています。」(日本飛行機HPより )
http://www.nippi.co.jp/aircraft/usa.html
今まで山形などに分工場を展開しており、なぜ沖縄にないのかが不思議なくらいです。
この「日本飛行機」の沖縄工場を作れば、沖縄の青年の航空機整備技術を習得することにつながります。
沖縄にはそうとう数の米軍機が駐留していますから潜在需要はあると思いますし、在韓米軍の需要も期待できるかもしれません。
破格の安値を提示しているKALに負けないために、その差額をなんらかの国家補助で補填すれば、入札でも勝機はあります。
それが可能ならば、沖縄経済の最大の欠陥である製造業不在の解消にもつながることでしょう。
その意味で、地場の製造業創出としての補助金支出の意味あいも期待できます。
また、沖縄を中国の軍事膨張から守るためには、現時点で米軍を「引き止める」必要があります。
勘違いしている人が多いようですが、米軍は沖縄で「新基地」を作って増大する気などいささかもありません。
辺野古移設による「新基地」は、あくまでもわが国の国内事情にすぎません。
米軍は世界的に明瞭に撤収のトレンドにあります。米国は沖縄に固執していません。
いつまでもあると思うな、親と基地なのです。
シュワブもハンセンも一年中定員の1万数千などいやしません。がら空きです。
米軍にとって沖縄は、駐留する必然が急速に薄れつつある地域になりつつあります。
この朝鮮半島情勢が落ち着くところに落ち着けば、おそらくは5年、遅くとも10年、15年先というスパンで、ハンセンは米軍にとって弾薬・装備類だけ事前備蓄する場所となり、陸自の水陸機動団の分遣隊が入ることでしょう。
普天間も陸上部隊の空洞化に伴って、反米軍感情の強い沖縄に居続ける理由を失うかもしれません。
皮肉にも辺野古の代替施設ができる頃には、米軍がそれを欲するかどうかは分からないのです。
このような大きな流れの中で、沖縄での日本による米軍機整備を考えることは意味あることだと私は思います。
現時点では極端なことを言うなと言われるでしょうが、米軍はやがて、そう遠からず沖縄から姿を消していきます。
それは反基地闘争の勝利ではなく、米国が歴史的セットバック(後退)期にあるからです。
それは数十年の幅で進行するでしょうが、その時になお、彼らが「沖縄は横須賀に並んで必要だ」ということを認識させておく必要があります。
横須賀は抜きんでた日本の整備技術によって米海軍に必要不可欠な整備拠点となりました。
理由は簡単、本国以上,ときにはそれ以上の整備を受けられるからです。
艦船のみならず厚木の日飛に飛べば、艦載機は米本土と同等、あるいはそれ以上のメンテを受けられたのです。
このふたつの整備拠点によって、横須賀と厚木は米海軍にとってなくてはならない存在となったのです。
この沖縄版ができないかと、私は考えています。
仮に在沖米軍が撤収したとしても、沖縄に来れば高度の整備が受けられるということは、実働部隊がいればなおさら、それが去った後も整備拠点として米軍の戦略の中にゴチック活字で書き留められることになるはずです。
復帰後、日本政府はさまざま先端産業の研究所や予算誘導を持ち込んできましたが、肝心の地元の反応 が鈍く、ことごとく失敗したのは大久保潤『幻想の島』にも述べられています。
製造業がないに等しい地域で、いきなり先端産業に行けというのは無理があるのでしょう。
まずは整備という製造業の基礎の基礎を置く、というのもあながち間違いではないかもしれません。
軍用機のみならず、沖縄の新たな産業として軍用・民間を問わず航空機整備を置くのも面白いのではないでしょうか。
それを特区で保護し、アジア全域の航空会社を相手にするも面白いでしょう。
アジアの航空会社は一部を除き、事故率ワーストに名を連ねています。
彼らにとっても飛行機でひとっ飛びの沖縄にいけば、日本の高度の整備を受けられるという提案は魅力的ではないかと思います。
※大幅に加筆しました。(午後3時)
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検索して見つけましたが、米軍の沖縄・嘉手納基地に配備されているF-15戦闘機と三沢基地のF-16戦闘機も、韓国で整備されているようです。
F-15整備に関する記事
http://www.datacraft-news.com/ontopics/338.html
「米空軍の発表によると、日本の嘉手納米空軍基地に配備されているすべてのF-15戦闘機は今後5年間にわたり韓国の大韓航空が補給処整備(デポ・メンテナンス)を執り行うことで、正式な調印がこの9月21日にロビンス米空軍基地内で取り交わされた。」
「今回の契約の特長は従来からの米国政府(米空軍)管理に基づく装備品契約から、契約業者(大韓航空)が全面的に装備品管理を請負うパートナーシップ契約に変更された点にある。」
「韓国は米国に倣い軍用機の整備事業に早くから乗り出していたこともあり実際はほぼひとり勝ちであったといえよう。たとえば米国ボーイング社は韓国政府との間で同国が保有するF-15KのPBL契約を締結したが同社は韓国の現代グロービス社による装備品や代替パーツのSC(サプライチェーン)を採用し展開していくとした。」
装備品も含めたトータル管理ということで、武器輸出に厳しい制限を掛けていた日本が2011年当時は入札に参加できなかった可能性も考えられますが、軍用機の整備ということでは米軍とほぼ一体になっている韓国の方が一日の長があったってことですかね。
投稿: ひこ~ | 2017年12月21日 (木) 16時48分
> 彼らにとっても飛行機でひとっ飛びの沖縄にいけば、日本の高度の整備を受けられるという提案は魅力的ではないかと思います。
沖縄がアジアの航空機整備の一大拠点となるというのはホントに夢のある望ましい沖縄の未来です。日米が米韓より強い関係ができればそれも可能でもあるでしょうね。
北朝鮮の帰趨が決まれば、将来の東アジア情勢も見えてきそうですが、現在は北朝鮮のことが気になってしょうがありませんね。金正恩よ、無血開城してくれと願うばかりです。
投稿: ueyonabaru | 2017年12月21日 (木) 19時10分
昨日の記事にコメントして、よく見たら今日の記事が出てました
こちらにも貼り付けておきます
さて、沖縄での航空機整備についてですが、民間機整備事業については進出が決まっています
http://www.mrojpn.co.jp/
現在は伊丹ベースですが、数年後には那覇空港に移転する計画です
これをモデルケースにして三菱重工が那覇に出てCH系の整備を受託していければ良いですね
沖縄県はこの様な将来性のあることにもっと真剣に取り組むべきでしょうが、沖縄政治家の皆様を見ていると難しいのかと
投稿: スナフキン | 2017年12月21日 (木) 22時17分
本記事はさらにブラッシュアップされて、ついに永久保存版になりました。
私、大概の関係専門家でもここまで的確に解説された例もあらず、彼らをして嫉視させる域に達していると確信しました。
正直、素晴らしい記事です。(拍手喝采!)
今回の事故は無関係ですがKALのような韓国企業は外国企業と競るような場合、バカ値で受注して結果的にクオリティを犠牲にする例が後を断ちません。
最近の日本企業も長引くデフレ不況の中、厳しく律していた自己基準を曖昧にして信頼を失いましたが、国際基準を割り込むような例は殆どありません。
物理的安全面以外でも、米軍関連産業や物品の製造やメンテナンスなどは我が国の安全保障政策と切っても切れない関係ですね。
その事が良く分かる記事でした。
そして、米軍の予算が逼迫しているならば、そこを国費で一部賄ってでも、これらを日本国内で出来るようにする事が日本の安全保障に寄与する事になります。
その対象が日本国民の血税を無闇に投入される事が許されてしまっているような沖縄であるならば、これは一石二鳥三鳥もあります。
ただ、沖縄の政治家はおバカなので、こういう事を案出する能力もなく、翁長知事の為政の目的は「県民の幸せ」にはありませんので、無理ですよね。そこは痛く承知してます。(号泣)
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年12月22日 (金) 05時35分