「国連軍派遣国会合」 北の核の脅威にさらされていない国に発言の資格はない
今週になって、海上封鎖を言っていたはずのティラーソンが、こんどは「国連軍派遣国会合」をやると一方的に通告してきたようです。
日本は即座に拒否したようで、河野外相のメリハリが効いた対応です。あのオヤジ譲りのブルドック顔でうんにゃと言うと効きそうですね。
「河野太郎外相は5日の閣議後会見で、北朝鮮問題をめぐり、米国とカナダが呼びかけた国連軍派遣国会合の12月開催の打診を日本政府が拒否したことに関し、
「国連軍派遣国は北朝鮮と距離的にも地理的にも遠い国も含まれるので、もう少し参加国をしぼるべきではないかと伝えた」と述べた。
その上で、今月中旬に開かれる国連安全保障理事会を念頭に「多くの国は安保理に出席するので、会合自体が成立しないだろうと申し上げた」と述べ、国連軍派遣国会合の今月開催は見送りになるとの見方を示した。」(産経12月5日)
まったく正しい対応です。こんな時期に無関係な国を「国連軍派遣国」などという有名無実な枠組みで会議してどうするというんでしょうか。
いちおう「国連軍派遣国」を押さえておきましょう。主力は米英韓ですが、戦闘支援国として、願いましては・・・、コロンビア、エチオピア、ギリシア、ルクセンブルク、南アフリカ、タイなどなど。
朝鮮戦争 - Wikipedia
これら「戦闘支援国」は、「国連軍」だったのは大昔のお話。今やことごとく北朝鮮と国交を持ち、友好関係をもっている国ばかりです。
ティラーソンは国連安保理会合とバッティングする時期に、こんな無関係な国々をただ「国連軍」だというだけで招集して、何を話したいのでしょうか。
「いや~、朝鮮は寒かったってウチのジィさんが言ってたっけ」なんて昔話でもしますか。
そしてもっとも問題なのは、北朝鮮の核ミサイルは届かないような「核の脅威」とはまったく無縁な国々ばかりだということです。
つまりは、無関係・無関心な国々ばかり。こんな国々をいまさら呼んで何を討議しまするのでしょうか。
「そりゃ~、核はいけまへんなぁ」という総論賛成で、しかし「米国さんもほどほどにしないと、追い詰めたらあきまへんでぇ」(なぜか関西弁)という各論反対が出まくるのがオチでしょうに。
今、この土壇場の時期に、そんなことをする意味がどこにあるのでしょうか?ありません。外相のいうとおり、まさに有害無益です。
いいでしょうか、北朝鮮問題とはすぐれて核兵器問題なのです。これを忘れて議論しても仕方がありません。
これは日本が署名しなかったとして、「被爆国のくせに」と日本のメディアや野党、そして一部の国際世論からも批判された核兵器禁止条約にも通じることです。
核兵器禁止条約 - Wikipedia
この核兵器禁止条約の提案国は、コスタリカとマレーシアです。
コスタリカと聞くだけで、「おお、平和の輸出国だ」とばかりに随喜の涙を流すリベラル知識人も多いでしょうが、国連加盟193カ国のうち賛成している国は122カ国、反対している国は71カ国です。数的には賛成国が多いですね。
下のマップの青い色が賛成国です。
共通点がありませんか。そうです、ヨーロッパは米国の核とリンクしたNATOを持っていますし、英仏に至っては独自核保有しています。
アジアでも、独自核武装をしているインドとパキスタン、そして日韓のような米国の核の傘に守られている国々は不参加です。
つまり核兵器禁止条約に反対している国は、核保有国か、さもなくば揃って現実的な核の脅威にさらされている国々なのです。
では逆に賛成した諸国はどうかといえば、核保有国の核の傘には入っていません。
裏返せば核で脅しに来る敵対国が不在ですから、核の傘を差してもらわなくてもいいわけです。
つまりなんのことはない、締結国とはオレの国は核兵器なんてコワくないよっていう、
私たち日本人から見れば、「いい場所に国構えているな。こちとら仲が悪い核保有国に包囲されてっかんな。一緒にしないでおくんな」とつい江戸っ子のような啖呵を切りたくなるようなラッキーな国々ばかりなのです。
これは賛成国の位置をみると分かります。賛成国が南米とアフリカに集中していますね。幸いにも、この地域は核による脅迫がない地域なのです。
また、国のサイズもドングリの背比べです。いずれの国も経済力・軍事力が小さいので、核保有国である覇権大国と利害が対立することが稀な国々です。
有体にいえば、これらの国々はいずれかの覇権国=核保有国をむしって支援を引き出し、その代償として従属することを覚悟をしています。
このような国々を、中露北という非友好的な核保有国にズラリと囲まれているわが国の地勢学的条件と比較するほうが愚かではありませんか。
一方、核保有国同士は、互いに核兵器の使用は絶滅につながることを知っているために、核戦争につながりかねない通常兵器の戦争すら回避するようになりました。
これ自体はけっこうなことですが、第2次世界大戦後の「平和」は、皮肉にも米露が互いの核兵器を最大の脅威と認識するが故に生れたのです。
いわばふたりの巨人が、力こぶを目一杯出して腕相撲をしている状態です。
どちらも勝てないが負けない、これを「力の均衡」と呼びます。
米露の核保有国同士の戦争が起きにくいのは、この核兵器が作り出した「力の均衡」が成立しているからです。
朝鮮戦争で総司令官のマッカーサーの要求をトルーマンが蹴ったのも、同じくロシアの核報復を恐れたからです。
ベトナムで核が使われなかった理由も同じです。仮に米軍が戦術核を使用すれば、北ベトナムの背後のロシアの核報復があるという可能性を捨てきれなかったからです。
フォークランド(マルビナス)紛争
逆に、片方が核保有国で一方が非核保有国の場合、容赦ない通常兵器の二国間戦争が始まります。そのいい例が、フォークランド(マルビナス)紛争です。
サッチャーはアルゼンチンが核保有国だったら、実力奪還をあきらめたでしょう。
あれほどひんぱんに戦争していたインドとパキスタンが、互いに核保有したと同時に小競り合いていどに止まっている理由も一緒です。
最近の例をあげれば、ウクライナ紛争で米露、あるいはNATOとロシアが戦争にならなかったのは、核兵器を互いに擬していたからです。
あれほど露骨な国境線の書き換えを、結局米国とヨーロッパが容認してしまったのは、ロシアが世界最大の核保有国だからです。
そうそう脱線しますが、経済的にはズタボロで石油頼みの1次資源輸出国でしかないロシアが、なぜかくも国際舞台でデカイ顔ができるのかも、かの国が核保有国にして世界有数の軍事大国だからです。
とまれ、<核>というカードさえ握ってさえしまえは、このような世界で5カ国しかない特権的ステータスに登れる、核さえあれば金王朝は安泰で晴れて南北統一に目指せるぜ、というのが正恩です。
これがなんどかお話ししてきている、相互確証破壊(MAD)という悩ましい関係です。
一方中国が南シナ海や尖閣に軍事膨張するのは、彼らの核戦力が潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)という分野で大きく出遅れているからです。
中国は戦略原潜を、静かに着底させることのできる深く安全な海を喉から手がでるほど欲しているのです。
米中間で相互破壊確証を完成させてしまえば、もはや米国はアジア地域において張り子の虎となり、晴れて中国は地域覇権国の王座に就くことが出来ます。
仮に核兵器禁止条約が仮に全世界で発効したとすれば、地獄のような通常兵器による戦争がそこかしこで勃発することになるでしょう。
核による「力の均衡」というロジックが押さえ込んできた世界は、その蓋が吹き飛んでしまうことになり、いままで抑えられてきた大国間の通常兵器による戦争が頻発する用になるでしょう。
そしてやがてはいくつかのブロックに別れて三つ巴、四つ巴のブロック間戦争に突入するかもしれません。
このように皮肉にも、「核なき世界」の理想が、かえって世界滅亡のリスクを高めてしまうのです。
北に核を放棄させるためには、北の核にさらされる利害共有国が結束せねばなりません。
脅威にさらされていない、しかも核兵器禁止条約に賛成し、北と友好関係にある国々には,この問題に首を突っ込む資格そのものがないのです。
北を圧力鍋の中に放り込み、ギリギリと最後の圧力をかけている今、その圧力を抜くが如き動きをする米国国務長官がいるとはあきれたことです。
トランプはこの「国連軍覇権国会合」に相談をあずかっていなかったそうで、それだけでも解任させるべきです。
※ またまた大幅加筆して、写真も挿入しました。すいません。(午後6時)
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うわぁ、言い切ったあ~!
と、思いましたが・・・実際その通りです。
冷戦崩壊後にソ連からの支援が無くなった北朝鮮がこの四半世紀にどう振る舞ってきたのか、国民生活無視で3代に渡ってノラリクラリやりながらの核兵器開発ですよ。
ロシアが「お前、なんなら核ブチ込むゾ!」とでも言ってくれたら済むんですが、国際情勢的にプーチンはやらないでしょうし。親みたいな中国も脅威を感じつつもナアナアでG2どころか「どうせ『中国の夢』実現への将来の用地」ですから適当にはぐらかします。
それこそ金王朝そのものがどちらの陣営にも邪魔なのですから、とにかく潰す前提で後処理を考えるべきでしょうね。
最も脅威に晒されているのは日本と韓国なのですが、残念ながら我が国のマスコミは相撲スキャンダルやらのほうが優先だわ、韓国に至っては食料支援は続けるだとか・・・なんというお花畑。
沖縄ではこんな時に辺野古の海がぁーとかやってるよりもどう対向すべきかという急迫した状況なんですけどねぇ。
なんなら沖タイや琉新の記者が金正恩に接触して直にインタビューでもしてみてくれよと。。
北朝鮮にしても東南アジアやアフリカに重用されているように見えますが、実は逆に欲しいところを利用されているだけで旧宗主国とアメリカ嫌いなだけな連中の道具ですね。
投稿: 山形 | 2017年12月 6日 (水) 08時43分
河野外務大臣は、物怖じしないしレスポンスもいいですね。
英語もアメリカ人よりよっぽど上手い。
「ほ~、河野太郎ってのはこういう人だったのかぁ」と、何より嬉しい誤算でした。
岸田さんの姿が霞んでんでしまいましたね。
トランプさんは、ここで圧力をかけ切って北朝鮮を無血開城出来れば、本来はニクソン二号で終わるところが、JFケネデイに近づけるかも。
「圧力路線」は、私たちの目に見える以上に効いているように思われます。
大統領は「問題は中国だ」という事は少なくも良く理解しているようだし、キッシンジャーに惑わされずに一直線で進んで欲しいですね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年12月 6日 (水) 08時56分
長々とコメントつづったのに、誤操作で消えてしまった。悲しい。
河野外務大臣についてはかなり前から注目していました。メルマガとかツイッターとかニコニコとかでの発言は面白いです。リアリストで人情的なところがいいですね。この方には大いに期待しています。
管理人さんの今回の記事にも大いに同意します。国連軍派遣会議などという今頃お馬鹿な案を出したティラーソンには疑問ばかりです。
投稿: やもり | 2017年12月 6日 (水) 10時47分
目から鱗の記事でした。多くの人に読んでもらいたいです。
ところで、ロシアの平昌五輪出場禁止が決まりましたね。昨今の緊迫した情勢をみてると、平昌五輪の開催は無理だから実質的にはロシアに対する制裁にはならない、ということで便宜上厳しい裁定を下したんじゃあるまいなと穿った見方のひとつもしたくなります。
北も南も逼迫してるというにうちの県ときたら…
「沖縄・翁長雄志知事が“天唾”? 政府計画妨害も米軍基地返還遅れの「もろ刃の剣」」
http://www.sankei.com/premium/news/171206/prm1712060003-n1.html
>沖タイや琉新の記者が金正恩に接触して直にインタビューでもしてみてくれよと。。
山形さん、おっしゃるとおりで大賛成。
投稿: クラッシャー | 2017年12月 6日 (水) 14時40分
ノーベル平和賞を受賞したことで名が知れ渡ったICANのベアトリス・フィン事務局長もスウェーデン出身ですね。
それと、なぜ普段散々「ドイツを見習え」と唱えるマスコミが核兵器禁止条約に関しては反対したドイツを見習えと言わないのか。都合が良すぎる
投稿: 中華三振 | 2017年12月 6日 (水) 16時11分
ICAN=イカン!でしたっけかね。
ドイツに見習えというのも今だけでしょう。あそこ「遠いとこだから儲ければOK」で、ピョンヤンのずっと止まってた建設工事請け負ってお代はレアアースなんてこと散々やってますから。EU内では女帝のメルケルですけど、化けの皮1枚剥がせばなんともおぞましいこと。
国内経済はEU特権で持ってますが、ちなみに国防軍の惨状なんか惨憺たるもんです。唖然とするレベル。
投稿: 山形 | 2017年12月 6日 (水) 17時51分
≫「トランプはこの「国連軍覇権国会合」に相談をあずかっていなかったそう」
ここ、ポイントですね。
「トランプ大統領がブレた」ってワケではなさそうです。 やや安心しました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年12月 6日 (水) 19時17分
既に散々報道されているのでソースへのリンクは省略しますが、
トランプがエルサレムをイスラエルの首都と認めました。
中東情勢の不安定化が懸念されると同時に、
トランプが東アジアでじゃ本気になれないとふんだ北朝鮮が、
暴発するリスクが高まりました。
トランプの真意は読めませんが、
短期的には結構まずい状況にあるように思えます。
投稿: 七面鳥 | 2017年12月 6日 (水) 20時46分
>>中東情勢の不安定化が懸念される
私も同意です。イラクやサウジ、トルコといった親米国家(トルコは最近はかなりロシア寄りになっていますが)もアメリカに反発していますし。ただでさえ現在中東はイラクとクルド、レバノンとイエメンでのサウジとイランの代理対決と紛争の火種が多い今するべきではないと思います。
投稿: 中華三振 | 2017年12月 6日 (水) 23時05分
ここのコメ民さんには釈迦に説法ですが、国連なんてモン
は破れた傘のようなものでアテになるものじゃないしアテ
にしてはいけないものです。主要戦勝国がリーダーとして
世界を牛耳るつもりの組織だったのが、リーダー間の仲違
いで不幸か幸か、高尚なタテマエとは裏腹にコソ泥が暗躍
するようなシャバい組織になっています。
サヨク脳な人達とは、その高い理想をうたうタテマエから
相性が良いのか、国連至上主義の人が多くいます。国連に
全てを任せれば世界はいつまでもいつまでも平和になるの
だ、だから国連に全面的に協力しなければならない、国連
の決定は日本国のいかなる決定より上なので、無条件に
従わなければならない、とかとか主張するのです。
残念なことに、平和ボケしている人達には「そーだそーだ」
「国連はエライねぇ」とか思っている者も多い。
国連は加盟国がおのおの一票を持つという、気が狂ったよう
な制度を持っている。その加盟国もゾウからアリまであれば、
個人の自由を守る国もあれば独裁の国もあり、巨額の拠出を
する国もあればコジキ同然の国もある。株式会社なら、持ち
株数に応じた権利があるが、国連では一国一票で相対的に小国
であればある程一票が生きる。んで、中共などが小国を援助
するなどして事実上の買収が出来る。国当たりの人口で国連
の一票を算定すると、一票の格差なんてヒドイもんだ。
こんな国連を全面的に信頼するなど、共産主義を信じること
と同じくらいタチが悪い。「国連」の文字を見たらドロボーを
用心するくらいで丁度良いと思いますわ。無いよりは、まあ
あった方が良いんじゃない?そんなモンでしょう。
投稿: アホンダラ1号 | 2017年12月 6日 (水) 23時08分
>「国連軍覇権国会合」
日本にとっては途方もなく嫌な響きですね。河野大臣のようにすかさず無駄なくモニョらずに切り返す力がある政治家が出てきた事は光明です。
が、何人もの方々がお書きのように西欧はぼっと火がつけば一気に紛争のメインステージが中東に移ってしまい東亜は中国の庭という時間が設けられてしまう。
そして欧・中東・中国・米国のすべてと国境を持つロシアの価値がアップしてしまうのが痛いです。碁みたいですね。
世界が碁を打ってる時に将棋のメソッドで向かってはいけないです。
投稿: ふゆみ | 2017年12月 6日 (水) 23時34分
今日もいい内容で勉強になりました。
河野大臣、期待してませんでしたが就任来いい意味で裏切られてます。
防衛省が巡航ミサイル(最大射程500㎞と900㎞)の予算を…長妻議員は憲法違反だと喚いています。
私は少しでも北朝鮮の抑止力になればいいと考えます。
敵基地攻撃力の所持が侵略行為にあたるのか、違憲なのか、議論されるのでしょうかね。
投稿: 多摩っこ | 2017年12月 6日 (水) 23時47分