情報産業石器時代の放送法に縛られた最高裁判決

最高裁は「視聴者がＮＨＫを見ない自由」を認めなかったようです。 

それを伝えるＮＨＫニュースです。

「６日の判決で、最高裁判所大法廷の寺田逸郎裁判長は、ＮＨＫの受信料について、「ＮＨＫの公共的性格を特徴づけ、特定の個人、団体または国家機関などから財政面での支配や影響が及ばないようにしたものだ。広く公平に負担を求めることによってＮＨＫが放送を受信できる人たち全体に支えられていることを示している」と指摘しました。
そのうえで、放送法の規定が憲法に違反するかどうかについて、「受信料の仕組みは憲法の保障する表現の自由のもとで国民の知る権利を充たすために採用された制度で、その目的にかなう合理的なものと解釈され、立法の裁量の範囲内にある」として、最高裁として初めて憲法に違反しないという判断を示しました。
また、受信契約に応じない人に対しては、ＮＨＫが契約の承諾を求める裁判を起こして判決が確定した時に契約が成立し、支払いの義務はテレビなどを設置した時までさかのぼって生じるという判断も示しました」（12月６日ＮＨＫ）http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171206/k10011248431000.html

両論並記なことは大変にけっこうですが、いつもこうとは限らないのがＮＨＫです。 

国民の重大関心事だった加計問題の証人喚問報道において、ＮＨＫはこちらが恥ずかしくなるほどの「報道しない自由」を発揮しました 

今日のテーマはこの報道姿勢ではないので、既報のグラフくらいにしておきましょう。 

グラフでもっとも左端がＮＨＫですが、加計問題のピークであった参考人招致の報じ方ですが、当事者中の当事者である加戸前愛媛県知事の証言をまったく報じていないのがわかります。 

まったくたいした「公共の福祉のために行う放送」で、よー言うよですが、今日は置きます。
公共放送は必要なのか｜NHKよくある質問集 - NHKオンライン 

今回の最高裁判決で首を傾げたくなるのは、合憲の根拠にしたのが「放送法」だということです。
放送法 - Wikipedia 

この法律が出来たのはなんと昭和25年(1950年）ですから、67年も前の法律です。 

恐ろしいばかりのスピードで変化している情報分野の法律が、かくも古臭く、かつ唯一の法律だというギャップです。 

だってこの時代は、コンテンツのネット配信はおろか、テレビさえないラジオだけの古典的かつ牧歌的な時代なのです（苦笑）。 

そんなラジオ時代の前近代的な情報環境の産物が、この放送法なのです。 

ＮＨＫの資料には、放送法ができた当時のNHK受信契約世帯数を865万所帯としています。
http://www.geocities.jp/yamamrhr/NHK-1.pdf 

当然のこととして、テレビの契約は影も形もありません。ないものは見れませんからね。 

実はこの3年後にテレビが登場しますが、その数はたった1400所帯でした。

テレビを持てるようになりたいというのが、昭和30年代の高度成長の原動力のようなところがあります。 

テレビはまさに「昭和の象徴」でした。私は駅前テレビなんてものを覚えています。 

テレビが大変な高値だったために、買うことのできない庶民たちは夜は子供を肩車して駅前ローターリーにある扉つきのテレビを見に行ったものです。 

上の写真なんか、正座してみている雰囲気です（笑い）。

こんなテレビがない時代の法律を、ありとあらゆる方法で視聴できることが可能な21世紀の今に適用したのが、最高裁判決の時代錯誤です。 

この放送法公布時にはテレビすらなく、その後テレビが登場した時ですら、民放はラジオ東京（ＴＢＳ）と大阪テレビ放送（朝日放送）しかなかったのです。 

つまり、この時代においては、＜ラジオ（後にテレビ）受信者＝アンテナを立てた世帯＝ＮＨＫ受信者＞という分かりやすい図式が成り立ってしてしまう、そんな情報産業石器時代だったわけです。 

この図式に則って出来た放送法が、「テレビを持つ人はＮＨＫと受信契約をしなければならない」としたのは、まさに時代の反映でしかなかったのです。 

さて今、アンテナを立てた人＝ＮＨＫ受信者でしょうか？

もちろん違います。というか、テレビ業界全体が衰退産業に区分される瀬戸際にいます。

かつて1980年代には3285万世帯あった受信契約者は、2008年には2275万と1千万人も減少していて、この減少傾向には歯止めがかかりません。

これはＮＨＫに限ったことではなく、民放も一緒です。

下図は、放送局の区別なく、テレビをつけている世帯数(HUT）の推移です。
※HUTとはテレビの総世帯視聴率Households Using Television

テレビの興隆がピークをだした1980年代から90年代には71.2％も叩き出していたテレビ業界が、いまや2017年度には59.9％ですから、まちがいなく数年後には5割を切ることはまちがいないでしょう。
http://news.livedoor.com/article/detail/13843053/

かてて加えて、今回のあまりにくだらないモリカケ騒動に、丸々10カ月間もベタ一色費やしてしまったために、テレビはもはや情報弱者だけが見る色物みたいになりかかっています。

遠からず若者は、新聞についでテレビすらごみ箱に入れてしまうでしょう。。

このレガシーメディアの衰退傾向は、あと5年以内にもっとはっきりとした形を現すと思われます。

内容を別にして、テレビで見たい番組だけＨＤに入れて好きな時間に観たりするのはいまや常識です。

私もそうしていますが、ＣＭはポンポン飛ばしますから、企業が民放のスポンサーになる意味すら怪しくなってきています。

また、マシションの共同アンテナは常識ですから、テレビを持とうが持たなかろうが、「受信者」扱いにされるのは不平等です。

では一軒一軒立ち入り調査でもしますか。

これだけ多極化しているにもかかわらず、テレビを持っているだけで「お前はＮＨＫを観たな。テレビアンテナが動かぬ証拠だ。さぁ金払え」といった一方的なＮＨＫの論理では、もはや通用しないのです。

おっと、アンテナなしのネット配信でも、受信料を取るのでしたっけね。

ＮＨＫが家捜しをしなくても、簡単に視聴しているか否かを区別する方法があります。

WOWOWやスタチャンのように、スクランブルをかけることです。

見たいコンテンツだけ、一定額を払えばいいので、そのほうがずっと「平等性の確保」になることでしょう。

私のように、朝ドラ（もう捨てかかってるぞ、てんちゃん）と面白い時の大河（今回は見ない）、サッカーと相撲中継くらいしか見ないのですから、どうぞコンテンツを単価で計り売りしてください。

このようにラジオしかないような情報産業石器時代にできた放送法自体が、いまや現状にそぐわなくなっているのです。

その意味で、今回の最高裁判決はダメです。