海上臨検はなにを意味するのか?
米韓が大規模な合同軍事演習を開始しました。もちろんこのまま軍事攻撃に移行できるぞというブラフです。
一方ティラーソンは「国際社会は実施中の国連制裁に加え、北朝鮮に出入りする物資の海上輸送を阻止する必要がある」として事実上の海上封鎖を宣言しました。
それを報じる産経(111月29日)です。
「北朝鮮による11月29日の弾道ミサイル発射を受け、米政府が打ち出した新たな対北 圧力をめぐり、日本政府が対応に苦慮している。ティラーソン米国務長官が北朝鮮に対する海上封鎖ともとれる追加措置の必要性を訴えたが、日本政府は憲法上の制約から参加できない可能性があるためだ。安倍晋三政権はトランプ政権とともに圧力を強化する方針を掲げるが、これと矛盾する事態となりかねない。『ティラーソンが何を目指すのか分からない。日本にはできないこともある』 外務省幹部は30日、困惑の表情をかくさなかった。」
海上封鎖はオーソドックスな米国の取る非軍事的圧力のひとつです。
海上封鎖 - Wikipedia
キューバ危機における海上封鎖 ソ連の貨物船の上空を偵察飛行するアメリカ軍哨戒機 ウィキ
有名な海上封鎖の事例としては1962年10月から11月にかけてのキューバ危機があります。
キューバ危機
これはソ連が米本土と目と鼻の先のキューバに、核兵器搭載可能な中距離弾道ミサイルを持ち込んだことが発覚したことから始まっています。
当時ソ連はICBM競争において劣勢に立たされて、焦っていました。
そこでソ連がとったバクチが、米国の内海とでもいうべきキューバに共産政権が成立したことを幸いに、キューバと軍事協定を結び、キューバに大規模な核戦力と地上部隊を送り込むことでした。
これが「アナディル作戦と」呼ばれる秘密協定でした。
この秘密協定によって、ソ連がキューバに送り込んだ戦力は、中距離弾道ミサイル(IRBM)24基、準中距離弾道ミサイル(MRBM)36基、地上兵力4個連隊合せて1万4000名、軽爆撃機「イリューシン」(Il-28)42機、戦闘機(MiG21)40機、その他地対空ミサイル72基などといった大規模なものでした。
最終的にキューバに派遣された人員は4万5234名で、このうち海上封鎖が始まった時点で3332名はまだ公海上の輸送船の中でした。
このキューバに持ち込まれた核戦力は、直接ワシントンを標的にすることが可能で、米国は容認できるものではありませんでした。
これは今の日本に向けられている中距離弾道ミサイルと一緒で、数十分で着弾するために市民が避難する時間的余裕がほぼゼロのため防ぎようがありません。
いまなら警戒衛星と連動するミサイル防衛システムがありますが、当時はそんなものはありませんでしたので、米政府は深刻な核攻撃の脅威として受け取りました。
その時、この話を聞いた大統領夫人のジャクリーヌの言葉が残されています。
「核シェルターに入らなければならない時、私がどうするか、知らせておくわ。もし事態が変化したら、私はキャロラインとジョンJRの手をつなぎ、ホワイトハウスの南庭に行きます。そして勇敢な兵士のようにそこに立ち、全てのアメリカ人と同じく運命に立ち向かいます。」
キャロラインとは、前駐日大使ですね。
いかに米国人が現実に頭上に降って来る核ミサイルの脅威として、キューバ危機をうけとっていたのかがわかるでしょう。
この時、米政府が悩んだ最大の理由は、キューバとの地域戦闘が、ベルリンやトルコに飛び火し、ソ連との全面核戦争につながりかねないということでした。
「この段階で封鎖と空爆の2つの選択肢が残っていたが、実際は二者択一ではなく、海上封鎖から空爆へという考えと、どちらにせよ最後はキューバ侵攻へという考えで、このエクスコム会議(国家安全保障会議執行委員会)に出席していたメンバーの大半は最後は侵攻する必要があることを理解していた。」(ウイキ)
(エクスコム - Wikipedia)
このキューバ危機においても、米政府内で慎重派の国務省派と、空爆も辞さないとする統合参謀本部という二つの考え方が現れます。
この両派はシナリオを作って論戦をしましたが、結局、「ロバート・ケネディの『会議で空爆と結論を出しても大統領は受け入れないだろう』との意見が通り、海上封鎖を実行し事態が進まない場合は空爆実施という折衷案がまとまった」(同上)ようです。
そしてこの答申を受け取ったケネディは、このように決断します。
「(1)まず封鎖から始めて必要に応じて行動を強めていくか、(2)まず空爆から始めて最後は侵攻を覚悟するか、という2つの選択肢を基幹としてそれから派生する分枝の問題が提示された。その後にケネディはまず封鎖から着手すべきとして、空爆と侵攻を主張するメンバーにそういう作戦がその後に絶対に採られないことではないと解してよろしいと言葉を続けた。」(同上)
そして、1962年10月24日、歴史的にもっとも有名な米軍によるキューバ海上封鎖が行われることになるわけですが、この後幾多の経過を経て、10月28日、フルシチョフは折れて、キューバから核ミサイルを全面撤去します。
キューバ港からミサイルを運び出すソ連の貨物船米軍機の機影が写っている。(アメリカ空軍の偵察機が撮影/1962年11月)ウィキ
この事例は米国外交のゴールドスタンダードとされています。
当然、外交評議会メンバーだったティラーソンは熟知しているでしょうし、案外共和党主流の伝統的外交を踏襲しているトランプもよく分かっているはずです。
今、この時点で米国が海上臨検を国連安保理で通し、それに基づいて海上封鎖を断行すると言ったことは、キューバの事例を参考にかんがえるべきでしょう。
つまり、米国は海上臨検の次を考えてカードを出したのです。
もし海上臨検において、北側が一発でも弾丸を発砲したり、実力でブローケード(封鎖)を突破しようとするなら、次のカードの次元に突入することになります。
言う必要もないでしょうが、それは軍事オプションです。
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コメント
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日本とすれば、臨検に参加するなら自衛隊が出動するには現状が「重要影響事態」である事を宣言しなければ出来ませんが、そこまでは少々解釈に無理があるのではないでしょうか。
それよりもこのさいの問題は、この臨検が「国連軍の枠組みで行われる事」をどう解釈すべきか? ではないでしょうか。
私は最初、その狙いをトランプ氏による「中・露外し」くらいにしか思いませんでしたが、そうではなく、今は国務省派のワナにように感じられます。
国連軍で動くとなれば、いずれ「国連軍会合」は避けられず、そこでは危機に直接関係のない国々(カナダやフィリピン・エチオピアに至るまで17カ国もの見解を汲む必要が出て来るでしょう。
そこでは国際法違反の北核の問題だけに留まらず、枠組み上、朝鮮戦争の行きがかりを斟酌する論理にならざるを得ないし、当事国が広がり発言権が拡散する中で中共の息がかかった国々も相当数あるはずで、そこにこそ最早圧力よりも「対話派」であるティラーソン氏の狙いがあると思います。
今や「圧力」を無にしかねない「対話」は日本政府の最も警戒すべき点であり、国連軍会合をしきりに提唱するティラーソンは、日本にとって早く更迭してもらわないとマズイ人物でしかないです。
トランプ大統領がどこまで知らされ、どういうふうに考えているのか、ここにこそ安倍=トランプラインの濃密さが生かされるべきところです。
日本外交にとって非常なピンチです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年12月 5日 (火) 09時18分
臨検というか、現在の漁船?等の着岸状況を考えれば、海自には日本海に展開してもらって、接岸を防ぐべきです。結果的に米軍臨検のサポートにもなるでしょうが。
投稿: かつて… | 2017年12月 5日 (火) 12時57分
かつてさん。お気持ちは分かりますが、それは海保の仕事の領分です。
漁船が発砲して海保を攻撃したりして、政府が海上警備行動の発令した場合しか対応できません。
むしろ海保の予算や人員を一県警並から、飛躍的に増加させることのほうが有効ではないでしょうか。
追加情報です。
デイリーNK12月5日http://dailynk.jp/archives/100944
「在韓米軍の家族の帰国がすでに決定」との情報…北朝鮮との衝突に備え
(略)米共和党のリンゼー・グラハム上院議員が3日のCBSニュースのインタビューで、米国と北朝鮮の軍事衝突が近づいているとの認識を示し、「在韓米軍の家族を韓国国外へ退避させ始める時が来た」と述べていた。今後、米国政府が取るべき方針として主張した形だが、実際にはすでに帰国は決まっており、グラハム発言はそれを知った上で「口がすべった」ものだというのが情報源の説明である。(以下略)」
投稿: 管理人 | 2017年12月 5日 (火) 17時25分