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2018年2月10日 (土)

米国の「核体制見直し」の対象は北朝鮮です

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この2月2日に米国の今後5~10年間の米国の核戦略の指針となる「核体制の見直し」(NPR・Nuclear Posture Review)を発表いたしました。 

肝は二つです。

ひとつめは、小型核を再び巡航ミサイル(SLCM)に搭載するということ、二つ目は自国、あるいは同盟国に対する攻撃があった場合に使用するとしたことです。 

色々な議論が起きていますが、朝日はお約束の論調です。
※朝日社説 「米国の核戦略 歴史に逆行する愚行」
https://www.asahi.com/articles/DA3S13345084.html?ref=editorial_backnumber 

佐藤優氏も似たようなことを、2月8日ニッポン放送朝ラジで述べていましたね。

氏は例の荘厳な口調で、「これは軍産複合体のための軍拡であって、これが民間テロリストや紛争国家にトリクルダウンして拡散していく危険なもの」と決めつけました。 

トリクルダウンは元来が経済学用語で先行して豊かになる階層から富がより下の階層に「滴り落ちる」現象のことですが、佐藤氏はテロリストが先端軍事技術をブラックマーケットで手にする、という意味で使っているようです。 

核兵器技術が漏洩したのは、ソ連崩壊以降のウクライナですが、佐藤氏は米国がかつてのウクライナのような崩壊国家になって核技術を漏洩させるという意味で使っておられるのでしょうか。 

次に「軍産複合体のため」と仰せですが、巡航ミサイルに小型核を搭載する技術は枯れた技術です。 

米国にとって何ら新しい技術的ブレークスルーは必要としませんし、核弾頭製造によって儲かる企業は一握りにすぎません。 

とてもじゃないが、軍拡によって景気を刺激する軍事ケインズ主義にはなりえないでしょう。
軍事ケインズ主義 - Wikipedia

今回のトランプの「核体制の見直し」の標的は、北朝鮮とロシアに対応したものです。 

背景にあるのは、ロシアがINF条約(中距離核戦力全廃条約)に違反する地上発射型巡航ミサイルを開発配備した疑いです。
中距離核戦力全廃条約 - Wikipedia

そもそもこのINF条約は、ヨーロッパ全域を射程に入れるソ連の核ミサイルが大量配備されたことによって、欧州での核戦争の危険性が現実化したために米ソ間で結ばれました。

なぜって?

ソ連のこの中距離弾道ミサイルは米国には届かないが、ヨーロッパには届くわけですから、ソ連は米国との全面戦争は避けながらヨーロッパを核で脅すことができるようになるからです。

ここで言われる核は、ICBMなどに搭載されている長距離・大威力の核と、戦場使う小型戦術核との中間の中距離・中規模威力のものを指します。

これは「戦域核」と呼ばれています。

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スッタモンダの結果、米ソは互いの本土を狙う戦略核戦力(射程5500キロ以上)と、射程500キロ未満以外の、中距離核戦力(戦域核)は全廃してしまおうということで手打ちしました。

つまり、長距離と近距離は残して、中距離は禁止しようということですね。

ちなみに日本にニュークリア・シェアリングを導入せよと主張している人たちは、北朝鮮、ないしは中国へ発射できる弾道ミサイルを米国に日本へ配備させろと言っています。

むりです。なぜならこれは500キロ以上の戦域核(中距離核)ミサイルの範疇に入ってしまって、INF条約に引っかかるからです。

やりたいなら、航空機搭載型しかありません。

また独自に核保有するとしても、(日本は締結していませんが)このINF条約との関係を問われるでしょう。

それはともかく、これが1988年8月に発効したINF条約です。

ところが近年、ロシアはINF条約に反して、SS-C-8地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を開発してきました。

条約では、配備することはおろか製造試験すら認められていないのですから明確な条約違反だろーと、米国は怒りました。

ロシアは、「なに言ってやがる、そんな事実はない。お前のイージスアショアのほうがよほど危険だ」などと説得力を欠いた反論をしましたが、米国は「よーくわかった。方針転換する」と決めてしまったようです。

これが今回の新しい「核態勢の見直し(NPR:Nuclear Posture Review)」です。

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今回の「見直し」で特徴的なのは、ロシアとの核軍縮協定で全廃していた海軍の戦術核兵器を復活させたことです。

え、今は米国海軍は核を搭載していないの、と驚かれる諸兄。

していません。空母からもイージス艦からも核兵器はすべて廃棄処分されました。

おっと、ひとつだけ例外を忘れていました。戦略原潜の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)だけは、長距離ですので条約に抵触しないために残してあります。

廃棄されたトマホーク巡航ミサイルの核攻撃型も、2012年までは保管していましたが、いまはこれもすべて廃棄しています。

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ですから、再度作ることになりますが、もともと6年前まで保有していたのですから、改良を加えるにしてもそう困難なことではありません。

ではなぜ、いまの時期に「見直し」を言い出したのでしょうか。

米国の中間選挙目当てにトランプが、「オレはやわなオバマとは違うぜ」というところを見せつけたかったという国内事情もあるでしょうが、それだけではありません。 

もちろん一貫して米国の主敵の座を譲らない、ロシアに対する対抗措置であるのはあたりまえです。

今回、この時期にということを考えると、私にはこの「見直し」の最大の眼目は、北朝鮮にあると思っています。

北朝鮮は、核施設や弾道ミサイル発射基地、司令部、正恩の隠れ家などを深深度に設置しています。

おそらく数十メートル地下に、コンクリートで固めて要塞化していると憶測されます。

米国にはバンカーバスターを保有していますが、確実に仕留めたいと思う中枢施設に対してはバンカーバスターでは役不足です。
地中貫通爆弾 - Wikipedia

そこでこの「見直し」です。改良された新たな小型核を搭載した巡航ミサイルは、バンカーバスターのようにコンクリート壁を食い破って爆発します。

その威力は通常弾頭とは比較になりませんし、地下核爆発なために地上を汚染することも避けられます。

そして、これは北朝鮮がいかなる方法で米国、同盟国を攻撃しようと、相応の覚悟をしておけという意味です。

このNPRはこう述べています。誰に対して言っているのか、考える必要はないでしょう。
https://admin.govexec.com/media/gbc/docs/pdfs_edit/2018_nuclear_posture_review_-_final_report.pdf

"Accordingly, the United States will maintain the range of flexible nuclear capabilities needed to ensure that nuclear or non-nuclear aggression against the United States, allies, and partners will fail to achieve its objectives and carry with it the credible risk of intolerable consequences for potential adversaries now and in the future."

「したがって、現在そして将来的に潜在的な敵が米国、同盟国、およびパートナーを核兵器または通常兵器に攻撃、侵略しても、その目標を達成することができず耐え難い結果を招くという高いリスクを確実に負わせるような、柔軟な核戦力を確保することがアメリカに必要である」

正恩が妹をピョンチャンに送ったのは、この米国のメッセージに背筋が薄ら寒くなったためです。

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コメント

佐藤優の件の放送をたまたま聞いていましたが、言ってる事が天木直人でしたね。

名護市長選前日には琉球新報の自身のコラムで、「争点は辺野古移設問題だ!」と二紙の音頭そのままでブチあげ、創価学会系の潮誌では読んでるこっちが赤面したくなるほど池田大作を礼賛してる。
朝日文化人になろうとしてなれず、ネトウヨから沖縄左翼まで引っ掛け廻して愛猫とともに売文人生を謳歌したい腹なんでしょう。

「トリクルダウン」と表現したのも、用語使用例として誤り。
米国の小型核の所持開発が即ち、米国からの直接的・必然的なテロ国家等への「技術の均霑化」につながるワケではありません。

また、新しい開発技術に基づくものではないので、「軍産複合体の為」とか言うのは陰謀論の類でしょう。


河野大臣が言うように、今回のトランプ政権の核指針は「高く評価」されるべきです。
河野大臣はこれまでの大臣には珍しく、国会でも良く説明してます。
いわく、「従来の大型の核はもはや大国からは使用されないと見切られており、抑止力にならない」、「核指針は同盟国に対する拡大抑止への関与を明確にしている」としています。

小型核によって先制使用の可能性に道を開いたのも、明らかに北朝鮮を念頭に置いたもので、作戦の幅を広げます。
日本国として「歓迎」するのは当然です。

河野太郎大臣の国会での説明、いいですよね。
きっぱりはっきりわかりやすい。

対露・対北朝鮮へのものであるという具体的な話を、河野外相が自身のブログでもかなりの分量で書いていますね。
https://www.taro.org/2018/02/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AE%E6%A0%B8%E6%88%A6%E7%95%A5%E8%A6%8B%E7%9B%B4%E3%81%97.php
今朝の本記事と併せ読むと、情緒的な大手メディアのふりかけを頭から払うのに役立ちます。いつもありがとうございます。

> 正恩が妹をピョンチャンに送ったのは、この米国のメッセージに背筋が薄ら寒くなったためです。

 北朝鮮への対応なんですね。金正雲が危うくなったということになります。

 河野大臣のブログも読みました。小型核兵器の使用が現実のものになりそうですね。すこし恐怖感があります。これまで威勢のいいことを言っていた私も、現実に核兵器が使用されそうになると緊張してまいります。

 核抑止力というのは厳しいものだなと思わざるを得ません。

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