ムン閣下の「非核化への包括的アプローチ」とは
「【ソウル時事】韓国の文在寅大統領が25日、平昌冬季五輪の閉会式出席のため訪韓した金英哲朝鮮労働党副委員長ら北朝鮮高官代表団との会談で、朝鮮半島の非核化を実現する必要性を強調したことが分かった。韓国大統領府当局者が26日、記者団に明らかにした。
詳しい発言内容は公表されていないが、聯合ニュースなど複数の韓国メディアによると、非核化に向けた具体的なロードマップ(行程表)にも言及した。
文大統領はこれまでに、北朝鮮の核・ミサイル活動の凍結を当面の目標とし、第2段階として完全放棄を目指す「段階的、包括的アプローチ」を打ち出しており、この2段階構想を説明したとみられる」
(時事2月25日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018022600304&g=prk
平昌オリンピックスタジアムの平昌冬季五輪の閉会式文在寅(ムン・ジェイン)大統領(中央左)、イヴァンカ・トランプ大統領補佐官(中央右)、北朝鮮朝鮮労働党の金英哲(キム・ヨンチョル)中央委員会副委員長(後列右)2018年2月25日AFP/WANG Zhao http://www.afpbb.com/articles/-/3164056
やれやれ、大騒ぎして制裁破りのキム・ヨジョンや、キム・ヨンチョルがきたり、はたまた美女軍団とやらが来たにしては、なんともしまらないムンの北朝鮮への「新提案」です。
「非核化へのロードマップ」ときましたね。かつての民主党政権か、今の立民党の原発ゼロのロードマップよろしく名称だけ聞くと、なんか出来ちゃいそう(笑)。
昨日、NHKが米韓合同軍事演習をすれば、北が反発してミサイルを撃ち、戦争になるようなことを報じていたと聞きましたが、メディアは今の朝鮮半島危機のパワーバランスを読み間違っています。
ひとことでいえば、圧倒的に米国が北朝鮮を土俵際まで追い込んでおり、北は待ったをかけさせてくれぇと叫んでいる状況です。
正恩が、閉会式に人もあろうに天安沈没事件とヨンピョン島砲撃事件の主犯であるキム・ヨンチョルを送った意味は、私にはひとつしか思いつきません。
金英哲
「閉会式にわが国で最も凶悪な手下を送った。何卒、穏便に済ませたいと望むわが国の指導者の真意をお汲み取りくだされ」
絵柄としては、トランプ保安官の前でホールドアップしたといったところですが、参ったふりをして隙を狙って眼に砂をかけてやるくらいのことは企んでいるはずです。
今、北が渇望しているのはムンが仕掛けた「米朝対話」以外にありえません。
ヨジョンを送ったのはそのための瀬踏みだとすれば、ヨンチョルの役割は、ムンの口から正式に冒頭の「対話によるロードマップ」とやらを言わせることでした。
こればっかりは、北の口からは言えませんから、ぜひとも仲介者ヅラしたムンに言わせる必要があったわけです。
さて、トランプはキワモノ呼ばわりされていますが、実はオーソドックスな正攻法で北を締め上げています。
去年12月には国家安全保障戦略を策定し、翌1月には国防戦略、そして2月には新核戦略を公表しました。
この「核体制見直し」(NPR)については『「米国の「核体制見直し」の対象は北朝鮮です』という記事にしてありますので、よろしければご覧になって下さい。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/22-5e08.html
これは決してトランプが個人の思いつきで言っているのではなく国防総省との緻密な練り上げの結果です。
したがって、充分に短期間で実行可能となるリアルな戦略であるが故に、正恩は恐怖したのです。
そして一方で、国連制裁決議を積み重ね、いまや第2段階の徹底した経済制裁に進もうとしています。
「瀬取り」阻止を理由とした海上封鎖が実施されれば、北はあらゆる密輸入も密輸出も不可能になります。
抵抗しようものなら、それ自体が軍事攻撃の口実を米国に与えることになります。
米国は米国本土への直接の脅威とならなければ、一定の核武装は許容した可能性がありました。
中距離弾道ミサイルノドンは、現況でも充分に日本を射程に納めていますが、その放棄を米国が真剣に考えたことはありませんでした。
オバマ流「戦略的忍耐」で充分に対応可能だと考えたからで、米国との全面戦争になる日本への核攻撃をするほど、正恩が馬鹿ではないと思っていたからです。
この段階で正恩は、核開発を停止しておけばよかったのです。
しかし「米本土を火の海にする」と言い出して、現実に火星14、15を打ち上げてしまっては投了です。
米国は伝統的に、自国領土への攻撃をきわめて重く考える国です。
かつての日米戦争の発端となった真珠湾攻撃、キューバ危機、対テロ戦争のきっかけとなった9.11同時テロ、すべて米本土、ないしは領土が直接の攻撃対象となったものだということを思い出して下さい。
そんな国に対して、言うに事欠いて「米本土を火の海にしてやる」と言ってしまってはもうシャレになりません。
正恩は米国を本気にさせたのです。
正恩は遅まきながら、やっとこの事実に気がついたようですが、脳味噌がゆるいムンは理解が足りていないようです。
ですから、ムンの「包括的アプローチ」には、第1段階の「北朝鮮の核・ミサイル活動の凍結を当面の目標」とすると言いながら、どのように「凍結」が検証されるのか、ムンは明らかにしていません。
核開発凍結を検証するには、北朝鮮国内をIAEAなどの国際機関の査察官が、一切の制限なしに調査活動する自由が認められねばなりません。
いかなる秘密研究施設であろうと、軍事基地であろうと査察官は立ち入って、無制限に調査する権限を認められねば核開発の「凍結」の担保たりえないのです。
今の北が、そんなことを許すはずもありません。
したがって、よしんば米国がこの「包括的アプローチ」を呑んだとしても、北は絶対に呑まないでしょう。
ところで、時事はムンの「新提案」だけを伝えていますが、米国の対応も伝えねばバランスを欠きます。
即座に米国は、浮かれ気味のムンにこんな釘を刺しています。
「【ワシントン=黒瀬悦成】米ホワイトハウスは25日、北朝鮮代表団が韓国の文在寅大統領との会談で米国と対話する「十分な用意がある」と表明したことに関し、「非核化に進む第一歩であるかを見極める」とする声明を発表した。
声明はまた、米国と韓国および国際社会は「北朝鮮との対話は、非核化という成果を伴うものでなければならないとの立場でおおむね合意している」と指摘した上で、「北朝鮮が非核化するまで最大限の圧力をかける路線を維持しなければならない」と強調した」
(産経2月25日)
http://www.sankei.com/world/news/180226/wor1802260003-n1.html
つまりは、米国は北が非核化の担保を入れれば、話あってやってもいいということです。
それは先ほど述べたように、核開発の放棄宣言と、それを検証する実効措置のことなのです。
最近のコメント