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2018年3月 1日 (木)

ジョセフ・ユンとビクター・チャの辞任は、対北融和派の一掃だ

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昨日のコメントにありましたジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表の辞任ですが、とうぜんの流れだと思います。 

結論からいえば、いままで国務省内部にあった隠微な対立が、米朝交渉派の一掃で決着がついたということです。 

少し前の2月2日には、アグレマン(※)までされていたジョージタウン大学教授ビクター・チャの韓国大使案が取り消されました。
http://japan.hani.co.kr/arti/international/29696.html
※外交使節団の長(大使もしくは公館の長としての公使)を派遣するに当たって事前に接受国に求める同意。 

したがって辞めたというのではなく、むしろ国務省からも切られたと言い換えるべきだと思います。 

ユンは今回の辞任を受けて、このようなことを述べています。 

「ユン氏はこの日報道が出た後、韓国メディアとのインタビューで「トランプ政権と政策的な違いがあって離れるのではない」とし「南北対話もうまく進んでいて、北米対話も始まろうかという時になったので、担当者を変えるのもよいのではないかと考えた」と強調した。
だが「トランプ大統領に近い方、近くで仕事をしている方が代表をされたらどうだろうかと考えた」と述べ、含みをもたせた。ユン氏はまた「米朝対話に対し、非常に希望的に見ていて〔韓半島(朝鮮半島)状況を〕楽観的に見ている」と付け加えた」(中央日報2月28日)

http://japanese.joins.com/article/092/239092.html 

Photo韓国の金本部長(左)と植村隆記者みたいなジョセフ・ユン米代表 聯合http://japanese.yonhapnews.co.kr/Politics2/2016/12/05/0900000000AJP20161205002300882.HTML

さらにロイター(2月27日)はこう報じています。 

「ユン氏は米メディアに対し、退任は個人的な決断だとし、ティラーソン長官から慰留されたと説明。「このタイミングでの退任は完全に自分自身の決定だ」と述べた。CBSのインタビューには「北朝鮮は核・ミサイル実験をやめた」と語った」
https://jp.reuters.com/article/northkorea-missiles-diplomat-idJPKCN1GB0EP

ユンの情勢認識は、①南北対話もうまく進んでいる、②北米対話も始まろうとしている、③北は核・ミサイル実験を止めた、です。 

おいおいユンさんよ、願望でものを見るなよと言いたくなります。NSCから、ドリーマー(夢追い人)呼ばわりされるのもむべなるかなです。 

ユンは、ここで今回の五輪における南北会談を肯定した上で、北は核・ミサイル開発を止めたのだから、すぐにでも米朝会談をすべし、といっていることになります。 

いつ北が核・ミサイル開発を止めたのでしょうか。にわかには信じがたいほどの間違った認識です。

ほんとうにロイターが伝えたようなことを言っていたなら、33年間も米外交官をやっておきながらコリアのファンタジー愛好癖はかくも強いのかと驚かされます。

ユンのこの種の対北融和発言は、今に始まったことではありません。

去年秋から冬にかけて韓国が北との秘密接触をピョンヤンでしていた時期には、それを援護射撃するように、こんなことを言っています。 
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-1ae7.html

「国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が、北朝鮮が核・ミサイルの実験を60日間凍結すれば、米朝対話に応じる考えを10月末に示していたと報じた」
(ワシントン・ポスト2017年11月9日)

おそらく、ユンとこのピョンヤンに秘密使節を派遣したチョ・ミョンギュン(趙明均)統一相とは、なんらかの意志疎通があったと考えられます。 

これは推測の域をでませんが、チョの対話相手は、北の外務次官のハン・ソンリョル(韓成烈)外務次官だったろうと思われます。 

Photo_3ハン・ソンリョル(韓成烈)外務次官

ハンは北の生え抜きの外交官でスウェーデンなどにもパイプをもっており、仮に米国が外交接触する場合、最も適任の人物だと言われています。 

つまりユン-チョ-ハンという三者は、北朝鮮は非核化を前提にした対話には応じないと言い、一方米国は非核化を前提としない対話には応じないという膠着状況を、北がひとまず核・ミサイル発射を自重することで打開しようとしていたと考えられます。 

そして、五輪を奇貨として南北会談に持ち込み、対北雪解けを世界にアピールし、一挙に米朝会談に持ち込むという落とし所を考えていた節があります。 

ただしこの思惑は、他ならぬ北が11月29日、1月3日に相次いでICBM実験をしたことで、あえなく瓦解しました。 

この北のミサイル発射時点で、米国国務省内部ですらユンの持論であるミサイル実験さえ凍結すれば、核放棄を前提とせずに無条件に米朝会談をしようという考えはほぼ完全に否定されます。 

Photo_2ビクター・チャ  松井知事みたい。

それはユンと同じ対北融和派のビクター・チャが韓国大使内定を取り消されたことで分かります。

チャはかねてからの対北対話派であり、いわゆる「鼻血戦略」に反対の意志をもっていました。

「彼は「鼻血戦略という言葉は、ホワイトハウスでや行政府のどこでも使わない」とし、「ここ数週間、鼻血戦略に関するマスコミの報道で困っている」と話した。彼は「私と同僚たちは今日の朝も、鼻血戦略という言葉がどこから出てきたのかという話をした」とし、「我々は一度もそのような言葉を使ったことないからだ。我々が使用したことはない」と話した」(ハンギョレ2月2日)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/29696.html

チャがひとりの外交専門家として軍事オプションに反対ということはありえることです。しかし、当該国の大使とすることは、米国が軍事行動をとらないと宣言することと同義だと受け取られます。

特に北は必ずそう考えます。

それでは米国が選びうる「最大限の圧力」シナリオを、自ら狭めるることになってしまいます。これはマズイとホワイトハウスは考えたのでしょうね。

私は人が悪いので、ホワイトハウスとチャが否定すればするほど、マクマスター大統領補佐官、ポンペオCIA長官、そしてNSCアジア担当専任補佐官ポッティンジャーらが主張する鼻血戦略(ブラッディ・ノーズ)の実施される可能性が強まったと思えます。

それはエドワード・ルトワックが主張するような限定的核施設攻撃です。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/01/post-e3ab.html

 ルトワックはこう述べています。

「アメリカが北朝鮮に対する空爆を躊躇する理由として、成功が極めて困難だから、というのも説得力に欠けている。北朝鮮の核関連施設を破壊するには数千機の戦略爆撃機を出動させる必要があり不可能だ、というのだ。
しかし、北朝鮮にあるとされる核関連施設はせいぜい数十カ所で、そのほとんどはかなり小規模と見てほぼ間違いない。合理的な軍事作戦を実行するなら、何千回もの空爆はそもそも不要だ」
(ニューズウィーク2018年1月9日)

かつて私は、ルトワック翁のこの提案はホワイトハウスから拒否されるだろうと書いたのですが、どうもそうとだけはいえなくなってきたようです。

 

 

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コメント

願望で物を見て(見せようとして)いるのは、日本の報道放送機関も同じですね。
ことある事に北朝鮮の対話を強調し、米国が対話に消極的なように印象操作しといるように、私的には見えます。
もう少し公平に情に流されず客観的な報道放送をしてほしいものです。

 他所では決して見られない見事な分析に敬意を表します。 

記事では正確にビクター・チャ氏を「対北融和派」として認識・表現されてますが、日本の報道や識者の間ではこれまで「対北強硬派」として紹介されて来ました。
ホントはブッシュ時代に「北核を温存させた戦犯」なのに、です。
日本の報道は朝鮮日報、中央日報にすら遥かに及ばないようです。
分析も、からっきしです。

ジョセフ・ユン=ビクター・チャ=趙明均(統一相)=韓成列(北外務次官)、それに加えて北米局長だった崔善姫まで含め、米国の政策を左右するために手を入れる一本の線がつながった感がありますね。

ジョセフ・ユン氏の悔し紛れの繰り言と一連の流れを見ていると、外交の方も凄まじいチキンレースが存在していて、米外交の政権内部にまで食い込んだ韓北合作での「一本のレール」の敷設がすでに完成されつつあった、という事でしょう。

一昨日ユン氏の辞任の発表があり、昨日は崔善姫氏の次官就任の発表がありました。
このタイミングの一致も偶然じゃありませんね。
言うまでもなく二人はワームビアさん救出のシンボル的な盟友で、米朝関係を北核を抱いたままのソフトランディングに導くための千両役者たちだったのでしょう。

ところがユン氏が失脚し、にもかかわらず崔善姫氏を予定通り昇格させたところを見ると、これはもう正恩の米国に対する「哀訴」に他なりません。
「アイゴー作戦」への転換か? と思います。

しかし、米国はそれまでの過程が困難であればあるほど覚悟は固くなり、侮辱にも敏感です。その結果、目的の100%以上までやり過ぎるくらい完膚なきまでやる性質がありますから、正恩はすぐにも国際社会にむけて「北核全廃宣言」を出した方が得策と思います。
かつて日本は「戦争」それ自体やめさせてもらえませんでした。

鼻血作戦は高い現実味を帯びてきました。
しかし、作戦はソウルを「火の海」にする事はないのだろうと考えられます。
その意味は、作戦そのものの完成度もあるのですが、何よりも正恩の戦う意思が沮喪しつつある事が明白だからです。

 ありんくりんさんや山路さんの文章を新聞に掲載したらどのような反響があるのだろうかと考えたりします。実に専門家のものと思われる見事な記事となるのではないでしょうか。新聞社の諸君がもっともっと勉強してこれぐらいの言説を書いてもらいたいものです。

 沖縄の新聞社の諸君には自己自身の研鑽の結果から出てきたような深い内容、個性的なものが少ないですね。もっぱら通信社配信の記事を中心にして記事を書いているのでしょう。彼らの文章は感情的であり彼らの頭の中はアホンダラさんがご指摘のように、左翼脳になっております。文章はうまいのですが、平和、軍隊反対、平等主義などでいっぱいになっており、左翼脳から抜け出ることは決してできません。左翼脳を守ることが最も大事なのですね。現実を理解するためには、左翼脳一辺倒ではだめなんです。
 

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