「核を持った痩せ犬」が引き起こす核の連鎖とは
毬三氏という方から、こんなコメントをもらいました。コメント欄に返信してから本質的なことを含んでいると思いなおして、反論ということではなく考えていきます。
まずは毬三氏のコメントです。
「裁量労働制の「不可解」なデータや、森友文書の財務省書き換え疑惑などなど…
そこら辺の問題は北朝鮮有事以上に国家にとってクリティカルな問題だと思いますがね」「老骨に鞭打って記事をお書きになるなんて勿体のうございます」
「「老骨に鞭打つ」は「年をとって衰えた身を励まし努力する」という意味。 「老骨に鞭打つ」は、例えば、以下のように使います。
老骨 に鞭打って、今回のトライアスロンに参加することにしました。 このように「老骨に鞭打つ」という言葉は、語り手本人のことに使うのが正しいのです。本人が自分のことを謙遜していう時に用いる慣用句です」(「老骨に鞭打つ」の使い方を間違えると危険です。 | 美しい言葉。
というわけで、私はこれを読んだだけで、あなたと議論する気を失いました。
ですから、以下は特に毬三氏に宛てたものではありません。
ところで、比較衡量という概念があります。
平たく言えば、ものごとを重い軽いで分別する思考ツールことです。
森友や裁量労働の一件と、朝鮮半島危機はどちらが重いんでしょう。
前者はしょせんといってはなんですが、ドメスティックなことにすぎません。財務局か厚労省の官僚のミスと、それをチェックできなかった政治の責任もあるかもしれません。
一方、北朝鮮の核は人を数百万規模で殺します。
日本を核の標的にしてやる「火の海だ」と正恩はなんども言っていることですし、それだけではなく今や米国も核の標的にすると言っていますね。
しかも年がら年中、言われたほうが「脅迫疲れ」して危機意識を持たなくなるほどです(苦笑)。
自分が気に食わない国を核攻撃してやる、なんてことを公然と一国の指導者が言う国って私はかつて北朝鮮以外に聞いたことがありません。
どんなに冷戦がひどい時でも、ソ連が米国を「火の海にする」なんて言わなかったし、米国も言いませんでした。
中国もしかりです。南シナ海でやりたい放題しているようでいて、一定の「則を超えず」はかろうじてあったのです。
というのは、あたりまえですが、こんな相手国を「火の海にする」というようなことを国際社会で軽々に口走ってはいけないことなのです。
市民社会に置き換えれば、分かりやすくなります。
「殺すぞ」という行為は生命に対し害を加える旨の告知ですからから、それによる脅迫行為があれば脅迫罪が成立してしまいます。
「第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」
もし国際法に脅迫罪があれば、北朝鮮は2年以下の禁固です。
なぜ、こんな核を使った脅迫がダメかといえば、相手が本気でこの核という凶器を取り上げようとするからです。
すると、取り上げられまいとすれば自ずと戦争になります。
第2に、相手国を「火の海にする」というワードは、国際社会ではそのものズバリで最後通牒を意味してしまうからです。
最後通牒とは、この後には外交交渉は存在しない、言うことを聞くか、さもなくば戦争で決着をつけようという意味です。
北朝鮮は今まで言葉のインフレのように、過激派よろしく乱暴な言葉を叫んできました。国際社会もわが国も、妙にそれに馴れてしまって、またかという気分でいました。
今になるとその暴言を許してしまったのは、いわば極東の痩せ犬がキャンキャン吠えている、そのていどの認識だったからです。
ある意味、意外に思われるかもしれませんが、北朝鮮は「甘やかされてきた」のです。
ところが、今回はそうじゃありません。
北朝鮮は核保有国の確証を得ようと、その一歩手前の段階にいます。 しかも米国本土を「火の海にしてやる」と宣言して、そのとおりICBMを作り始めました。
国民を食わせることすらできない「痩せ犬」であることは同じですが、「核を持った痩せ犬」となりつつあるのです。
その上、今や東アジアだけの問題では済まなくなりました。核の連鎖が始まったのです。
この北の核保有を認めてしまえば、それはNPT体制(核不拡散体制)の崩壊を容認することになるからです。
核拡散防止条約 - Wikipedia
もし仮に北朝鮮が核保有国となってしまったら、世界で我も我もと核の保有に乗り出す国が後を絶たないでしょう。
核というのは、それほど万能に思える外交カードなのです。
核をチラつかせば、相手国はいくら理不尽なことを突きつけられよう沈黙せざるをえない、残念ですが、これが国際社会の裏ルールでした。
かつて毛沢東が「パンツをはかないでも核を持つ」と叫んだのは、米国の圧力に抗するためでした。
その中国が核を持てば、中国と戦争までした一方のアジアの大国であるインドもまた核保有に走りました。
すると、インドが核保有すれば、犬猿の仲の隣国のパキスタンも負けじと核保有します。
このように、核保有は連鎖するものなのです。
そこでこれ以上の無政府的な核拡散は止めようということで、先に述べたNPT条約が締結されます。
しかしこのNPT条約からの最初の脱退国が、他でもないこの北朝鮮だったのです。
そしてあろうことか、国際社会をダマくらかしてとうとうホンモノの核を、しかも米国に到達するICBMを持ったと、北朝鮮は宣言したわけです。
ただ今現在、この段階まできてしまいました。後は核保有するか、非核化を実現するかしか残っていません。
そして今後ですが、果たして北の核保有だけのことで終わるのだろうかという問題があります。
つまり、かつてインドが核を持ち、パキスタンも持ったというようなことが再び起きないのかという問題です。
北の核が容認されてしまった場合、核の連鎖現象は再び起きるでしょう。
北が核保有すれば韓国も持ちたいと言い出すでしょうし、日本でも核武装の機運が高まります。
中国がもっとも嫌がっていることが、日本の核武装であることは周知の事実です。
中東ではイスラエルは潜在的核保有国ですから、最大の敵国であるイランも持とうとし、ストップをかけられた状態です。
しかしそれが止められなければ、イランを宿敵とにらむサウジも持つでしょう。
その核の連鎖は南米大陸にも及び、仮にブラジルが持てば、アルゼンチンも対抗上持たざるを得ません。
その上にテロリストにも核が流れる可能性があります。
北朝鮮がシリアには化学兵器を、イランとは核兵器の共同開発をしていたことが知られています。
おそらく北朝鮮の核兵器技術は、新商品として中東に流出していくことでしょう。
この流出した核は、国に限らず国際テロリストの手にも落ちるのは目に見えています。
中東の兵器管理セキュリティは大甘だからです。 イラクで米国が供与した米国製兵器がテロリストにだだ漏れしたのは情けない事実です。
するとたとえば、IS残党がトラックでどこかの首都に核兵器を持ち込み自爆テロをするというシナリオも現実味を帯びるのです。
もはやその場合、核は冷戦期のような「使えない兵器」から、手軽に「使える兵器」となってしまうこととなります。
こんなことを望む人はいるのでしょうか。
先日ノーベル平和賞を取ったというのが触れ込みの某平和団体代表が日本に押しかけて、核兵器禁止条約に入らない日本は、まるで世界の敵だといわんばかりことを言って帰りました。
大いにメディア受けしたようですが、言う方角を間違えています。
今、この時期に東アジアに来たなら、核武装などまったく検討すらしていないわが国に対してではなく、核武装を強引に進める北朝鮮、あるいは世界でもっともハイペースで核弾頭を増やしている中国に対して強く抗議すべきでした。
この団体が真剣に核廃絶を考えているか、はなはだ疑わしいといわざるを得ません。
今ここで、北朝鮮の核保有を完全に止めなければなりません。
日本には国際社会の一員として、核武装に狂奔する隣国から核兵器を手放させねばならない義務があります。
それにしても、わが国が位置する東アジアにおいて、このような歴史的暴挙がなされようとしている時に、モリカケ、裁量のほうが大事だというのですから話になりません。
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天の邪鬼な私としては
少し違った見方をすると、米国・ソ連(現在ロシア)・中国と核保有国に囲まれ四面楚歌。
常に大国の顔色を伺い頭を垂れなければならない弱小国の痩せ犬にとって、国際社会の裏ルールを持ち、大国すら振り向かざる得ない核は物凄いご馳走に見えたのかもしれませんね。
核のご馳走の持つ毒も理解していたと思われる前将軍は、背後の二国とは宜しくやりつつも、正面の米国には約束を破る事は分かっていても(核を作るぞ詐欺?で)援助を引き出す等、上手く大国の波を渡っていたように思います。
しかし、黒電話将軍には小国の生き方にしか見えず、その生き方に我慢が出来ず、ご馳走の毒も分からず、核の完成に(本当に完成したかは分かりませんが)これで大国に並べると浮かれたのかもしれませんね。
投稿: 北の国から | 2018年3月 3日 (土) 07時18分
毬三氏のコメントなんぞ、一顧だにする必要もありませんね。
「無礼」も確かに「無礼」なんですが、単なる「書き捨て」であって、つまり痰を吐きに訪れただけですから、ブログ主様が反応するのは「エネルギーの無駄」ってものでしょう。
しかし、そこを「比較考量」の問題として懇切丁寧に記事に仕立てるブログ主様の誠実性というか、人間性は、不肖の私も見習いたいものと予々思うところでもあります。
でもですね、おそらく毬三氏は「アベガー症候群」の患者様なので、比較考量を説いても始まらないと思うのです。
でなければ、日本の未来を左右する朝鮮半島絡みの重大な安全保障問題よりも、「モリカケや裁量労働制のデータの方がクリティカルだ」などと申せるはずがありません。
しかし百歩譲って本当にそう思うなら、例えば一昨日の「かつて・・」さんのように、礼儀正しく「(農業者の立場から)イチゴの件についてのご見識を伺いたい」とリクエストすればいいだけの話なのです。
アベガー症候群が昂じて、晴れて「アベノセイダース」の一員になった暁には、それこそ「保育園落ちた」のも、「公務員試験落ち」ても、最後は「箸が転がっても」、世の中の事柄の全て「安倍だからダメだ~ス」で片付けられる超即席脳味噌の完成です。
つまり毬三氏は、そういう自分の脳みそにも叶うような「記事を書け!」と威圧しながら言っているだけの事ですね。
そこで、ついでだから申しますが、毬三氏のような半端な「アベガー症候群」ではなく本当の左翼ならば分かると思うのですが、安倍政権は最初から「裁量労働制」などどうでも良い事だったですよ。
上を目指して働く者は制度に関係なく成果を目指して無我夢中で働くので、「裁量制」など雇用者側の為のアリバイにすぎず、その実質は最初からありません。
安倍政権にとって大事なのは「どのようにして早期に予算を通すか」なので、そのバーターとしての「裁量労働制」なのであって、野党に食わせる疑似餌にすぎませんね。
で、政権に一番有利なタイミングで取り下げたのです。
かつての社会党とやっていた「出来合いゴッコ」の予定調和を、馬鹿な野党を尻目に一人芝居でやっただけのものです。
佐川長官の首なんかもどうでもいい話で、支持率が安定している今、ここで証人喚問に応じるなんて有り得ません。
野党は無能なので、騒ぎは放っておいても長引きます。
それなら、むしろ政権の求心力が弱まった時の為のストッパーとして佐川を温存しておいて、イザとなったら無情に切り捨てて、この前みたいにペコリと頭を下げればいいのです。
嫌な事を言うようですが、こういうタフな総理でなければ、プーチンさんや習近平と渡り合えません。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年3月 3日 (土) 10時48分
痩せ犬に核を持たせる為の資金や技術が、どんどん日本から北に流れて行くのを見て見ぬ振りしていたのは他ならぬ日本自身です。
一丁事を構えさせないように外圧はかかったことがあるとは思いますが、それこそ昨日の記事に出たナッパー氏は今世紀はその外圧かけを担う一員だったはずです。
今回、ここまで情勢が緊迫して戦闘に至らなかった場合、戦争なさそうだからというだけの理由で日本が法整備しないで野党と手打ちをして先送りをしたならば、本当に何されてもいい国ですと世界に発信することになります。
断交だとか怒ってる保守と呼ばれる人達も移民嫌いだと言ってる人達もそこをわかっているのかしら。モリカケ佐川と言ってる人達は確信犯なので論争以前です。
投稿: ふゆみ | 2018年3月 3日 (土) 21時30分
ふゆみさん
そのとおりだと思います。
宮家邦彦氏は「もはや米国は軍事攻撃をする事はなく、米朝対話により米国へのICBM凍結で結末するだろう」と述べています。
(「いずれにせよ、核は全世界に拡散する流れにならざるを得ない」とも言ってますね。)
となると、核の拡大抑止力はじめ日米同盟そのものが形骸化しますから、米朝の軍事衝突が起こらない場合よりもさらに大きな、様々な法改正と大幅な防衛力増強が必要となります。
もし、それすら日本国がやらないと言うのなら、生存のためにこそ中共の価値観や世界観を積極的にを受け入れ、自ら習近平の中華圏構想を実現するくらいの方向に舵を切らざるを得なくなるんでしょう。
投稿: 山路 敬介 | 2018年3月 3日 (土) 22時38分
まあ私は、何があってもジョンウン君は核兵器を取り下
げないと思います。大首領の沽券にかかわる、つまりは
自分の地位が危うくなるから。儒教的に最上位の人間で
すので、妥協することはすなわち最上位ではない、格下
の人間であることを自ら証明することになる。韓国の元
大統領たちより、数段悪い運命が待つことになります。
米国もそんなことは千も承知です。「旧日本帝国のように
ジワジワと追い込んでやりマス」「咬ませ犬も用意して
世論を盛り上げてから攻撃しますデス」ぐらいの事は、
思っていて当然です。やるからには最大の利益を狙うの
はアタリマエで、そうしないと米国民も怒ります。
そんな訳で、私は戦争の可能性がかなり高いと思うの
です。日本の被害もバカにならないでしょう。その時にも、
米軍機の部品が落ちただの、モリカケがけしからんだの
言うサヨク脳がいたら、私は尊敬したいと思います。
投稿: アホンダラ1号 | 2018年3月 3日 (土) 22時58分
ブナガヤさんこんにちは、HYです。今回のエントリも例に漏れず大局を見据えた内容で下手なニュースサイトより参考になります。
今思えば北朝鮮の核は2007年2月13日の六者会合での合意がなされた時から“今のようになること”が決まってしまったのかと考えてしまいます。その理屈でいえばイランの核保有も間近でしょうし、万が一北朝鮮の核が容認となればかの国は経済も産業も破綻してますから主要産業が核ビジネスという恐ろしいことに。
核ドミノどころか核パンデミックもあり得るかもしれません。
投稿者:山路 敬介さんのコメントの最後には寒気がしました。もし“生存のためにこそ中共の価値観や世界観を積極的にを受け入れ”れば皇室は廃止され日本語も使われなくなり多くの中国移民の中で日本人は少数民族になるでしょう。もちろん自由と民主主義は死に絶え“自ら習近平の中華圏構想を実現する”ために日本の技術や資本が惜しげもなく使われ侵略戦争に加担させられることになるでしょう。
そんなことになった場合、中国の対外拡張戦略は、習金平の“偉大なる野望”は東アジアや西太平洋に留まってくれるでしょうか。
投稿: HY | 2018年3月 4日 (日) 03時58分
ふゆみさんの憤りの気持ち、よくわかりますし、同意します。
投稿: やもり | 2018年3月 4日 (日) 20時39分