英米仏軍のシリア化学兵器工場攻撃は「警告」だ
4月14日、シリアのアサド政権に対して英米仏軍がミサイル攻撃をしました。攻撃は成功したと発表されています。
それを報じるBBC News(4月14日)です。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12519
「大統領発表に続き、ジェイムズ・マティス国防長官とジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長が国防総省で記者会見した。会見でダンフォード議長(海兵隊大将)は、3つの標的を爆撃したと説明した。
(略)
シリア国営テレビは、政府軍は10基以上のミサイルを迎撃したと伝えた。マティス長官は記者団に、撃墜された報告はないと述べた。大統領は攻撃継続の用意があると表明したが、国防長官は攻撃の第一波は終了したと述べ、「今のところ、これは一度限りの攻撃で、非常に強力なメッセージを相手に伝えたと思っている」と述べた。
(略)
ダンフォード議長は、米国はロシアの人的被害を「軽減する」標的を意識的に選んだと述べた。一方で国防総省は、空爆対象をロシアに事前通知した事実はないと説明している。
テリーザ・メイ英首相は英軍が参加していることを確認し、「武力行使に代わる実用的な選択肢がなかった」と述べた。一方で首相は、英米仏連合による攻撃は、シリアの「体制変換」を目指したものではないと慎重な姿勢を示した」
・ダマスカスの科学研究施設(生物化学兵器の製造に関わるとみられる)
・ホムス西部の化学兵器保管施設
・ホムス近くの化学兵器材料保管・主要司令拠点
下の写真は、シリア・アサド政権最大の後ろ楯となっているロシアのスプートニクからの映像です。破壊されたプラントが写っています。
https://jp.sputniknews.com/middle_east/201804154782414/
「国営シリア・アラブ通信(SANA)は「被害は物的被害のみ」と伝えた」(スプートニク4月14日)
米軍の攻撃は4月14日午前3時55分に開始され、東地中海に展開している米海軍の3隻のイージス艦から、巡航ミサイルトマホークが約100発発射されたそうです。
また、空爆には遠距離からの精密攻撃(スタンドオフ攻撃)が可能なB1爆撃機も投入されました。
英軍はキプロス島の基地から、トーネード戦闘機4機が参加し、空中発射型巡航ミサイル・ストームシャドーを発射しています。
一方フランス軍はフリゲート艦4隻とミラージュ戦闘機、ラファール戦闘機を出撃させました。
ドイツは攻撃自体には参加していませんが、素早く支持表明を出しています。
このように国際社会が一致してシリアの化学兵器工場を攻撃したのは、直接にはアサド政権が4月7日に首都・ダマスカス近郊のドゥーマという町で、化学兵器を使用したからです。
米国高官は被害者の瞳孔の収縮などの特徴から、塩素系ガスだけではなく、サリンなどの神経系ガスも使われた述べています。
ロシアは攻撃を受けたのは民需品だったといっていますが、破壊された工場の瓦礫を撤去している作業員が防護服を着用している姿も目撃されています。
https://www.jiji.com/jc/d4?p=bbs116-jpp026732575&d...
日本のメディアは、いまだアサド政権が毒ガスを使っている、いないというレベルの発言を繰り返していますが、ロシアとアサド政権のプロパガンダを信じる者をのぞいて、国際社会でもはやそれを疑う者は皆無です。
長年シリア内乱をウォッチしてきた黒井文太郎氏は、このように述べています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuroibuntaro/20180415-00084007/
「米英仏の三か国は明確に「アサド政権が化学兵器を使った証拠がある」と断定しています。ただし、その証拠は公開していません。オモテに出せない機密情報があるのかどうかはわかりません。
報じられているかぎりでは、「被害者の血液と尿から神経ガスを含む化学兵器の痕跡が見つかった」(4月11日「ワシントン・ポスト」)などの情報があります。
また、被害の様子が撮影された画像、さらに多数の目撃証言があります。世界保健機関(WHO)は「500人程度に毒物による症状がある」としています」
またこの3カ国のシリア攻撃を、米国とロシアの陣取り合戦のように評する人がいますが、それは間違いです。
「海外の主要メディアの報道では、この「どちらが真犯人か?」はほとんど議論になっていません。
「当然、アサド政権によるもの」が前提で、議論はむしろ「攻撃は充分だったのか?」「この後はどうすべきか?」となっています」
「公開情報・画像を詳細に分析した検証サイト「Bellingcat」の4月11日の記事「2018年4月7日のドゥーマにおける公然の化学物質攻撃に関する公開情報調査」では、以下の情報が提示されています。
▽アサド政府軍の2機のMi8ヘリがダマスカス郊外のドゥマイル軍事空港からドゥーマ方面に向かったのを、化学兵器攻撃から約30分前に目撃されている。▽アサド政権のMi8ヘリは、これまでも塩素ガス投下に使用されてきた。
▽2機のMi8ヘリが化学兵器攻撃直前にドゥーマ上空に現れていた」(前掲)
既に4月4日には、トランプはシリアからの米軍撤退の準備を指示しており、その3日後に化学兵器は使用されていることから、 米国がシリア内戦にこれ以上の介入の意志がないと見込んでのアサドの暴走だと考えられます。
一方昨日、シリアの旧宗主国のフランス・マクロン大統領が、「アサド政権が化学兵器を使用した証拠を掴んでいる」とTVインタビューで発言しました。
シリア内部に強力な情報網を持つフランス大統領の発言だけに、信頼性は高いと思われます。
おそらく、これらの毒ガス使用の証拠は、英米仏独などの首脳には開示されているはずで、いつもはこのような米国の攻撃に慎重なメルケルが、直ちに支持声明を出したことでも、それはわかるでしょう。
ドイツが攻撃に不参加だったのは、ガラス細工のような連立与党の社民党(SPD)内部に慎重論があったためです。
伝統的に社民党には反米親露的体質がありますので、今回ロシアのプロパガンダを信じた議員も多かったと思われます。
このように考えてくると、この英米仏の攻撃は内戦において自国民に無差別化学兵器攻撃を仕掛けるという言語道断のアサド政権に対する「警告」だと捉えるべきでしょう。
テリーザ・メイが言うように、「武力行使に代わる実用的な選択肢がなかった。シリアの体制変換を目指したものではない」という言葉を信じてよいかと思います。
当然のことですが、このような人道的目的以外にも外交的動機が存在します。
それはアサド政権の後ろ楯になっている、ロシアに対する強い警告です。
現在、英国は元スパイ襲撃事件で断交一歩手前の状況です。
フランスもまた、ロシアからのサイバー攻撃を日常的に受けている上に、国内の極右勢力の資金源のひとつとされ、EUからの脱退・分断工作がなされているとされています。
欧米諸国が一致してロシア外交官の追放に踏み切ったことは、記憶に新しいことです。
このような緊張した欧米vsロシア関係を直接の戦争に拡大しないために、マティスは慎重に証拠固めと各国への説得に当たったといわれています。
仮に、米軍の攻撃によって、ロシアが大量に派遣しているロシア人民間軍事会社やアドバイザーなどに死傷者が出た場合、米露の限定戦争もありえただけに、慎重に慎重を期したと思われます。
現実に心配されていたロシア人の被害はなく、ロシアも新式防空ミサイル・システムS400や旧式のS300すらもシリアには供与しなかったようです。※ロシア軍が管理していていたが、今回は発射しなかった。
ですから巡航ミサイルを7割落としたというのは、ロシアの流しているデマ宣伝にすぎません。
7割どころか、英米仏の紅海・アラビア湾・地中海の三方向からの飽和攻撃に対して、シリア軍のロシア製の対空兵器は、かすることさえできなかったと言われています。
ロシアはシリアの毒ガス使用や無差別都市攻撃について、一貫して嘘八百を流してきていますので、ロシア発信のシリア情報には、ひとまず眉に唾をつけて読んで下さい。
それにしても、国際社会が米露戦争に緊張していたときにも、日本メディアだけがモリカケ祭り一色。新文書がここにもあそこにも、だからなんなの。
まったくたいしたものです。鏡の国にでも住んでいるようです。
シリア報道自体が乏しいので、明日も続けます。
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報道でもあるように、今日シリア入りしたOCPWの調査後でも良かったのでは?との疑問が残りますけど。国際的認識では既に「アサド政権側が化学兵器を使用した」という認識で一致しているようですね。
アメリカは上手く根回ししてメイとマクロン(どっちも旧勢力と違う革新的政権だけど最近評判悪い)を引き込んだもんだとも思いましたが、イラク戦争時と違って「確実な証拠を示す何か」があるということでしょう。
現地映像では少なくとも何らかの迎撃ミサイルが上がってはいましたが、少なくともシリアやロシア政府が言うように「あらかた撃墜した」は嘘っぱちですな。
さて、ロシアはどうするやら。
切れるカードはあるんでしょうかね。当然ながらイランが同調してますけど。
投稿: 山形 | 2018年4月16日 (月) 07時08分
馬淵睦夫氏が、シリアへの今般の攻撃については、シリア政府によるものではなくて西側の自作自演だと述べています。数日前に、チャンネル桜でたしかにそのように馬淵氏は言っておられました(昨日確認のため再度同チャンネルで調べましたが探せませんでした)。
馬淵氏はロシアに好意的であり、グロ-バリズムであるネオコンへの反発が強い方のようですね。馬淵氏の情勢分析がありんくりんとはかい離があり、どうしたもんかと思案中でおります。従来、馬淵氏へは親近感があり、今後彼の過去の記事などを再読し学んでみようかと思っていた矢先に今回の攻撃でした。
馬淵氏を、皆さんはどのように見ておられますか?
どうぞご意見を聞かせてください。
投稿: ueyonabaru | 2018年4月16日 (月) 08時04分
馬淵睦夫か。
ああ、そんな人いましたねえ。程度。
すぐに思い出せるレベルでは、なんとなくテレビ映えする当たりの良さそうな小物ポピュリスト。
てなイメージです。とっくに忘れてました。
投稿: 山形 | 2018年4月16日 (月) 08時10分
山形さん、そんな「小者」ではありませんよ。
さてueyonabaruさん、馬渕睦夫氏とはキューバ大使のときに現地でお会いしています。大変に情熱的な外交官でした。
思想的スタンスは高山正之氏と共著があるように、かなり過激な反米グローバリズム系保守論客の方ですので、今回もその見方から、「反アサド派の自作自演」みたいなことをおっしゃったのだと思います。
思想的にうんめんというより、今回は明確なアサドがやったという証拠がいくつもありますから、馬淵氏の「西側陰謀論」は成り立たないでしょう。
それにこの毒ガスだけではなく、アサドは自国民に対する都市住民まるごとの虐殺といった、いくつもの残虐非道の積み重ねがあります。
300万を超える膨大なシリア難民の大部分は、このアサドの大虐殺から逃れるためのものでした。
その上に去年に次いで2回目の毒ガス使用ですから、制裁を受けても致したかたないでしょう。
彼にはロシアの後ろ楯がなくなれば、国際法廷で裁かれてしかるべき人物なのです。
馬淵氏が反米なのはけっこうですか、ロシアのプロパガンダを鵜呑みにしているのは頂けません。
投稿: 管理人 | 2018年4月16日 (月) 10時41分
原油価額が値上がりしている折でもあるので、ロシアもそう過激な手は打って来ないと思います。
また、今回の攻撃にあたっては、トランプ氏とプーチン間において電話のホットラインが何度も活用されていたようで、その結果としてロシアに十分配慮した攻撃になったのだと考えられるので大丈夫でしょう。
それよりも北朝鮮が今回の件をどう見るか?
トランプ氏は「48時間以内に~」とか言って、実効性ある対処が出来なかったら?と考えていたので、まず安心しました。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年4月16日 (月) 11時37分
ueyonabaruさん
馬渕氏その人がどうのではなくて、その言っている事に一々リテラシーを働かせなくてはならないのだと思います。
馬渕氏のグローバル世界論(陰謀論?)だって、その結論はともかくとして考え方には半分くらいは得心が行きますし、ロシアLOVEな人だと理解していれば、それはそれで様々な有益な情報を入手出来るので有難い存在かと。
馬渕さんの特に、専門外の国内政治やアジア情勢の見方は納得出来る部分が多いと思っています。
あらゆる情報は「受け手次第」、と言ったところですかね~。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年4月16日 (月) 11時54分
あ、失礼しました。
もちろん何の調べもせずに率直に過去の「印象」を述べたまでです。また、質問されたueyonabaruさんに含むところもなく素直な感想でした。
そうですか。管理人さんは馬淵氏と直接会ったことがあるのですね。。私ら一般人なんてテレビや新聞のような今や腐りまくったマスコミを通してしかしりませんから。。それも数年前から見かけてませんし。
私は馬淵氏の印象は良くないけど、別にロシア嫌いでは無いです。じゃあプーチンがどうかと言われると「アイツはヤバイ」ですけど。。
ちょっと話はズレますけど、マスコミの毎月の内閣支持率アンケートで必ずある反対の選択肢「人柄が信用できないから」って、いくらなんでも汚くありません?
かなり親しい友人とかでもその政治家としての人柄なんてどれだけ分かるんだよ!?と。
むしろ極めて日本的で曖昧な嫌な選択肢ですが支持理由が「他に適任がいないから」に、自分も入ってしまうのがむず痒いです。
投稿: 山形 | 2018年4月16日 (月) 11時56分
今回の米英仏によるシリア攻撃に対し朝日新聞は「無責任な武力行使」と非難しました。その理由は「化学兵器使用の証拠がない」「国連安保理の同意もない」とし、国際法上正当性に疑問がある、だそうです。
同じように日本共産党も攻撃に正当性はないと批判しました。そして当然のことのようにこの攻撃にロシアが反発しましたが、同調する国は中国、ボリビアだけだったとか。
ここで”平和主義”で共同歩調をとる、朝日新聞や日本共産党に問いたいとのは「それでは、どうすればいいの?」
化学兵器使用の証拠を調べ国連で話合いなんでしょうが、つまるところ平和を”祈る”しかなくなります。オバマ元大統領の戦略的忍耐の結末を思い出しますね。
私もどうすべきなのか、正直よくわかりませんが、黙って見ているわけにはいかないので、とりあえず「そんなことは止めろ!」と一発ぶん殴るくらいはすべきと思います。
古来より自然を恐れ,世の平穏を祈る文化は日本にもあり、当然、宗教的な意味を含め欧米にもあります。しかし、「祈る文化」の無い(捨てた)国がありました。中国、ロシア、北朝鮮、そして日本共産党です。
平和を祈る文化の無い国だけが、武力攻撃を非難ですか。「自分はやるが、相手には許さない」なんでしょうが、なんだか国際政治のメカニズムがよくわかりません。
投稿: 九州M | 2018年4月16日 (月) 14時12分
https://youtu.be/VWN9ZZmrDNs
馬渕睦夫さんの西側自作自演説はチャンネル桜でなくDHCのこちらだと思います。
投稿: しぇりー | 2018年4月16日 (月) 14時58分
ありんくりんさん、皆さん、ご回答まことにありがとうございました。ここ(このブログ)は大変ありがたいものだとつくずく感じました。
さらに、しぇり-さんにはご丁寧にも当方の勘違いもご指摘もいただき感謝いたします。馬淵さん、勉強してみます。
投稿: ueyonabaru | 2018年4月16日 (月) 16時53分
ueyonabaruさん、すみません、ご丁寧なお返事のコメントをいただいてたのに、今気づきました。私は拉致問題解決を願い日々拙い活動をしていましてこちらの『農と島のありんくりん』ブログを普段愛読させていただいております。管理人さんの御考察はじめコメント欄もよく読ませていただいていつも学ばせていただいております。本当にありがとうございます。感謝申し上げます。
投稿: しぇりー | 2018年4月19日 (木) 00時55分