翁長氏の「すい臓癌後」を考える
翁長氏がすい臓癌(※)であることが公表されました。
※追記 良性腫瘍の可能性も残されています。
知事は早期の公務復帰を述べていますが、常識的に考えてそうとうの無理があり、政治復帰を急ぐあまりかえって健康に障害がでることもあります。
さて、今後について少し考えてみたいと思います。
まず、前提として押えておくべきは、翁長氏はこれによって知事候補とはなりえなくなったことです。
翁長氏は現在68歳、政治家としては決して老齢には入りませんが、胃癌に次いですい臓癌が分かった場合、今後、激務である政治生活を継続することには無理がありすぎます。
翁長雄志 - Wikipedia
http://www.sankei.com/affairs/news/180109/afr1801090017-n1.html
当人がその気であっても、家族や周囲が許さないでしょう。
では、反翁長陣営が有利になったのかといえば、まったく違うと思います。
翁長氏はこの病によって、批判することが難しくなった「聖なる場」に登りました。
「病」は、その人のさまざまな間違い、失敗をも浄化する働きがあるからで、以後、沖縄において翁長氏を批判することには慎重にならざるを得ない雰囲気が生じるはずです。
これは反翁長陣営にとっては、大変にやりにくい状況が生まれてしまったことになります。
翁長県政のどこが間違いだったのか、なにが行き過ぎだった のかを明らかにしていく議論をせねばならない今、その口が重くなるのは避けられないでしょう。
また、翁長氏がこのまま辞任するなら6月にも知事選ということになりますが、翁長氏はその道はとらないでしょう。
おそらく副知事を代行を立て、知事という権威を維持しながら次の知事候補選びに影響を与えると思われます。
なぜなら翁長氏という人物は、善きにつけ悪しきにつけ、バイタリティある泥臭い野心家です。
彼は、本土では勘違いされていますが、無思想な人物です。誹謗しているわけではなく、右でもなけれは左でもないという意味です。
そこが同じ「オール沖縄」陣営でも、伊波洋一氏や糸数慶子氏、あるいは山城博治氏とは根本的に異なるところです。
彼らの思想と行動にはコミュニズムがありますが、翁長氏にはそれはありません。 強いて言えば、愛郷者たらんとしていたでしょう。
有名な話ですが、2001年5月に自民党の全面支援で那覇市長に当選した翁長氏が、まっさきにしたのが市庁舎に日の丸を掲揚することでした。
この時、彼が.日の丸を振った理由はひとつでした。本土政府からその報酬を得ることです。
以後彼は、本土政府の沖縄側受け皿として、自民党県連大幹部の経歴を重ねることになります。
2014年11月、翁長氏が仲井眞知事を裏切って左翼陣営に走ったのは、思想故ではなく、端的にこのままでは知事になれないと踏んだからです。
当時、翁長氏は63歳。仲井眞氏は右腕の自分に知事を禅譲すると思い込んでいたにもかかわらず、その思いが断たれたと感じたからでした。
そして今ひとつ転向した理由は、当時の沖縄を覆っていた空気です。
それは鳩山首相の作った「最低でも県外」の夢が断たれた怒りと、まだ抵抗の術はあるのではないかとする気分が支配的でした。
まさに空気で、翁長氏が丸々3年半かけて、その方途は実はまったくないことなど、本土政府との交渉を重ねてきたはずの老練の政治家に、それがあらかじめわからないはずはありません。
それにもかかわらず、なぜ翁長氏はその袋小路にみずから飛び込んでいったのでしょうか。
理由は、あんがい簡単です。先程述べたように翁長氏が泥臭い野心家であったからです。
その野心家のリアリスティックな眼から見れば、仲井眞氏の承認もまた行政官としての理想論でしかなく、今の県の雰囲気に真正面から対決しては、ぜったいに敗れると踏んだのです。
勝てない勝負には乗らない。政治家は当選してバッチをつけてなんぼというのが、翁長氏の信条だったはずです。
知事選に勝つには、このポスト鳩山の「最低でも県外」の流れに乗るしかないじゃないか、そのためには、保守だとかなんとか言っていないで、共産党、社民党らと手を結ぶ以外なにがあるんだ、これが当時の翁長氏の考えでした。
だから、翁長氏は那覇市長選では日の丸を、そして知事選では赤旗を振ったのです。
しかしやがてこの場当たり的な政治選択は、翁長氏をがんじがらめにして、ミイラ取りがミイラになるようにして知事という「黄金の籠」の捕らわれ人となっていくのは、ご承知のとおりです。
それはさておき、当時はこのように絶対反対の交渉ハードルを高くすれば、本土政府は更に譲歩を重ねて補助金交渉も楽に進むという現実的思惑もあったはずです。
そして、翁長氏はこの知事選に勝ったわけです。
そのような翁長氏にとって、長引かせて嫌がらせ的政策を小出しにすることこそが、権力の持続の秘訣だったはずです。
ここには小川和久氏が期待する腹芸など入り込む余地など皆無です。
つまり、翁長氏は移転問題を解決する気などそもそもなかったのです。
移転問題の泥沼化こそが翁長氏の目指すものであって、これが左翼陣営の利害と一致しただけのことです。
長くなりましたので、続きは明日にします。
※改題しました。
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翁長氏、要約すると自分の利のためならば、沖縄や日本がどうなろと知った事では無い。
と言う方なのでしょうか。
沖縄県知事戦がどの時期になるかはわかりませんが、次の知事は、沖縄や日本の事を考えるまともな知事が当選する事を願わずにはいられません。
投稿: 北の国から | 2018年4月12日 (木) 07時41分
自分の母親の死因がすい臓がんだった。位置的に手術が難しく、体力がなかったので、抗がん剤治療だったが、徐々にな威力を失って朽ちるように亡くなった。
翁長知事に対して個人的には賛同できない行動が尾かったですが、健康第一に過ごされたほうがいいと思います。
投稿: ednakano | 2018年4月12日 (木) 09時22分
二期目の出馬断念は事実上はっきりしたものの、「任期を全うしたい」とする知事の心情は個人的には良くわかります。
ですが、10日午後の記者会見において「仮に悪性癌だった場合の進退への影響は?」で始まる質問文脈の中で、「県政への影響」を問われ、「基地問題にかかわらず、両副知事、部局長や担当とすべての分野で、私の方向性を理解頂いている」としています。
続いて「重要事項では知事が支持を出すのか?」との質問に対し、「体力を温存し、重要なところは相談して行きたい。公舎で資料を落ち着いて読みながら、職員には直接(公舎へ)来て貰うか、電話で話をするか、色々な方法がある」としています。
この知事の答えが今回の手術に絡んでの限定的なものなのか、悪性と診断された後の治療と任期を並行させて行う意志を示したものなのか、そこはハッキリと分かりかねるところです。
もし、後者であるならば、いささか県民をバカにした言説です。
悪性であるなら即刻、辞任すべきであって、いかなる猶予も許されるべきではありません。また、「病気と向き合い、与えられた任期を頑張りたい」というが、「知事、ご冗談がすぎます!」と言いたい。
悪性でないとしても術後も静養が必要な状態が続く事が予定されるならば、潔く職を引きべきです。知事職は生徒会ではないのです。
「お気の毒に」とか、その種の心情は問題ではありません。
公職者として県民の負託に十分応えられない体調でありながら、知事という最重要な職にグズグズ居座られても県民が困るのです。
職員や副知事もなべて県民に奉仕するためにあるのであって、知事の手足替わりなのではありません。あまったれるな!と言いたい。
もともと知事は出馬当時から健康問題を取りざたされ、ごく最近でも二期目に関しての質問のさいにも、常に「体調は万全」と繰り返して来ました。健康の重要性は十二分に意識されていたのです。
これからの公職者の規範となるような、早めの「英断」こそが、今の知事に可能な「県民の負託」に応える道であるはずです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年4月12日 (木) 10時01分
気がついておられると思いますが、山路氏のおっしゃることとはまさに正論で、今日私が書いた辞任拒否・代行→隠然たる支配→後継選びに介入というシナリオは、あくまで翁長氏だったらそう考えてもおかしくはない、というものです。
投稿: 管理人 | 2018年4月12日 (木) 15時22分
翁長氏が政治理念の根本が権力欲か県民を思っての使命感であるかは残り任期の身の振り方で判断できるかと思います。
翁長雄志はひとりの人間としての晩節をどう描くのか
願わくば後者であって欲しいと思います。
投稿: しゅりんちゅ | 2018年4月12日 (木) 15時26分
私が考える事と、ブログ主さまが記事でおっしゃりたい事の結論は完全に一致しているものとして記事が読めました。
翁長氏は骨の髄まで政治的人間であるにすぎず、その本質は徹底した政局屋です。
いまだオール沖縄側の後継者が決まりそうもないので、そのための時間的猶予を県民に乞うているのが会見の意味です。
この辞任しない時間的空白のなかで、自分の方針を引き継ぐ候補に「禅譲」という形式に持って行き、自らの力と存在の意義を最大化しつつ、自分の勢力の継続として確保して行きたいのが本心です。
このように、政局や政争だけに終始する翁長という人間のやり方の犠牲になるのは、常に「県民」です。
このような場合ですので、言ってる私の方が非情のように見えるかもしれませんが、これまでの翁長氏の政治人生を概観すれば、これが結論です。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年4月12日 (木) 20時02分
>「病」は、その人のさまざまな間違い、失敗をも浄化する働きがあるからで、以後、沖縄において翁長氏を批判することには慎重にならざるを得ない雰囲気が生じるはずです。
たしかにそうなんですね。 企業家が事業に失敗したら、ついには病気になるというのはよくあることです。同じですね。病人を人は痛めつけようとはもうしないのです。
それにしても翁長さんは何のために知事になったのでしょう。何かご本人の理想があってのことでしょうか。単に、本土への反感なのでしょうか。また、この方の親中の姿勢はどこから来るのでしょうか、謎ですね。
翁長氏は、心内の当初親日の心情が反日の心情に変化したように私には見えましたね。これも謎のような感じです。
もしも今回の病気で引退するようなことであれば、その後は静かに静かに隠遁し、一切政治発言などしないことだ。そうでなければ、私の翁長氏への反発心がまた起こる。しかし、これは難しいのかもしれない。
投稿: ueyonabaru | 2018年4月12日 (木) 20時27分
比べるような話ではないのですが。
ついこの間までがんで入院していた溝口善兵衛・島根県知事の例も有りますので、在職したまま入院治療しても、それはそれで構わないと思います。
まあ、溝口氏は年度末で仕事に余裕があったから入院したらしいですが、復帰早々に地震ですから、ストレスで体調を崩さないか心配ですけれど。
仕事よりも治療を選んでほしいとは思いますが、翁長氏の影響力を考えれば、辞任してしまうと基地反対派の過激な行動の抑えがきかなくなる可能性もある。
どちらにしても、これでまた一歩、県民投票へ近付いたんじゃないかな。
それはそれとして。
沖縄の皆さま、麻疹がはやっているそうです。十分にお気を付けください。
ゴールデンウィークまでにおさまればいいのですが……。
投稿: 青竹ふみ | 2018年4月12日 (木) 20時53分
憶測に成りますが、
安倍首相が同様な状態に陥れば、
メディアは「辞任しろ」と連呼する様に思えます。
翁長氏がメディアを身方に付けているかどうかだと思います。
投稿: 月影 | 2018年4月12日 (木) 22時41分
青竹ふみさん
過去の沖縄県知事の場合においても、西銘順治氏が胃がんの摘出手術を行って入院・復帰しています。
ただ、翁長氏の場合には仮に悪性であった場合、最も根治しずらい膵臓癌である事、残り任期が5ヶ月余りという状況を考慮するならば、おっしゃるような島根県知事の場合も上述の西銘氏の場合も比較にならず、闘病しつつ県政を司るという選択肢は常識的にはあり得ません。
翁長氏は悪性であった場合でも「根治を目指す」とし、それは一人の人間の立場からは当然であるとしても、データ的に回復への確率が少ない中で、職員に負担をかけ県政全般を暗くしつつ知事職に留まり続ける事は、知事として適切な判断ではありませんし、そうする事に「何の意味があるのか?」、もっと言えば「知事の狙いは何か?」を私たちは良く考えなければならないのです。
投稿: 山路 敬介 | 2018年4月13日 (金) 00時15分