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2018年5月

2018年5月31日 (木)

北は核を諦める気などない

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なにか北朝鮮問題の専門サイトになりかかっているのでコワイ。もちろん違いますが、当面はお許し下さい。

さて、いくつか情報が入ってきています。
 

私がもっとも信頼するに足る北情報と考えているデイリーNKの記事です。このサイトの強さは、北内部に協力者がいることで、貴重な内部情報を伝えてくれます。
https://dailynk.jp/ 

あたりまえの話ですが、情報の積み重ねから国際関係が見えてきます。特定のロジックから導き出される結論があって、そこから演繹されるものではないのです。 

ですから、情勢認識に善し悪の価値判断を押しつけるべきではありません。こうあるべきだという価値判断と、こうであるとする客観情勢認識は別次元なのです。 

たとえば仮に私が、「北は核を手放さないだろう」と言ったとしても、それは北の核を肯定することでもなんでもありません。 

麻生氏はこう言ったというので叩かれているようです。

「麻生副総理兼財務相は30日、東京都内で開かれた自民党議員のパーティーであいさつし、北朝鮮が進めてきた核開発に関連し、「『俺のところは核で武装する以外に手がない』と思う北朝鮮の感覚の方が、少なくとも戦略外交とかをいうときは正しい」と述べた」(読売5月30日)

この麻生発言のどこが間違っているのでしょうか。まったくそのとおりで、北は趣味で核をもっているのではなく、それが正しい外交戦略だと考えているから保有に突き進んでいるのです。 

北は核を手放す気は毛頭ありません。それを大前提にして米朝首脳会談を考えるべきで、妙な期待感は持たないほうがいいと思います。 

その手放さないという傍証の一つに、北が核実験を放棄したわけでもなんでもないことをデイリーNKが報じています。 

Wor1805250039p8
何回も書いてきているので説明は控えますが、プンゲリ核実験場爆破は三流の政治ショーにすぎません。 

それどころか、北の幹部はこううそぶいていています。

「北朝鮮政府のある幹部は20日、この実験場について、「すでに廃棄されていたもの」だと指摘。爆破については「金正恩時代の核戦略システムの完成を宣言するイベントでしかない」と述べたという」
(2018年5月18日
「8月までに戦争準備が完了する」北朝鮮幹部が語る )

日本のメディアはまんまと引っかかって、一面に大きく「北、核実験放棄」と書き立てました。まったく馬鹿としかいいようがありません。 

Photo_2朝日新聞4月22日

 こんな感じでしょうか。 

北は核のない平和な世界を望んでいる。そして圧力一辺倒の日米に対して平和攻勢をしかけている。この核実験場爆破は、この平和外交そのものなのだ。日本も平和と話し合いのバスに乗り遅れるなぁ(棒)。 

これに似た解説は、うんざりするほどメディアでお聞きになったことでしょう。 

裏返しに保守系論客の中には、北は追い詰められていて、もはや核放棄しか生き残る道はないということを言う人もいます。

楽観に過ぎます。追い詰められているのは確かですが、中国の動き次第では延命もありえますし、仮に会談もの別れになった場合に、いかにして北の核を軍事力でとりあげるのか、不透明です。

それどころかデイリーNKによれば、「新たな核システムの完成記念式典だ」というのですから、いささか驚きます。 

「この幹部によれば、北朝鮮には豊渓里のほかにも、小型化された核実験に使える施設があるという。それと目されているのは、江原道(カンウォンド)板橋(パンギョ)郡の梨上里(リサンリ)から、隣接する黄海北道(ファンヘブクト)谷山(コクサン)郡の新谷(シンゴク)貯水池(1965年完成)を結ぶ水路だ。
「2013年から朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊が動員されて滅悪(ミョラク)山脈を貫いて建設した」(同幹部)
トンネル水路が山脈を縦に貫いているため、貯水池の水門を閉じて水を抜けば、核兵器の実験ができるという」(前掲)

北が2013年から軍を動員して建設しているのはカンウォンド・パンギョ郡のリサンリから、隣接するファンヘブクト・コクサン郡のシンゴク貯水池を結ぶ水路に、新たな核実験場を建設していると言われています。 

「トンネル水路が山脈を縦に貫いているため、貯水池の水門を閉じて水を抜けば、核兵器の実験ができるという」(前掲) 

また北の戦略司令部には、小型原発が建設されているようです。 

場所は、正恩の両江道(リャンガンド)三池淵にある別荘で、この別荘は山を貫いて地下司令部に繋がっています。

そこに小型原発を設置する目的はひとつしかありません。

すなわち、米国の軍事攻撃によって正恩の司令部が外部電源がブラックアウトした場合に備えているのです。いいかえれば、核戦争の準備です。

「両江道(リャンガンド)三池淵にある金正恩氏の胞胎(ポテ)別荘は、山脈を貫いて建設した地下司令部とつながっている。そこに小型原子炉を設置すれば、それをエネルギー供給源として、金正恩氏の司令部は米国から核攻撃を受けても生き残り、核兵器で反撃する余裕も持てるとのことだ」(前掲)

デイリーNKも述べているように、「ここで述べられているような情報は裏付けを取ることがほぼ不可能であり、どの程度まで信じて良いものか判断に迷う部分が大きい」のは事実です。

北は核に関する情報は一切公開していないために、必然的に伝聞となります。

ただし、ここから聞こえてくる北朝鮮軍の幹部の声は、「核戦略システムは完成した」という認識であり、また正恩が地下深く作られた戦時司令部に小型原発まで用意しているという認識なのです。

デイリーNKの記事はこう締めくくっています。

「そもそも、米朝対話や南北対話は成功が約束されているわけではない。不調に終わり、情勢がより悪化する懸念もある。そのとき、自分だけが「丸腰」であることを、金正恩氏が簡単に受け入れるとは思えない」(前掲) 

米国のCIAがレポートを政府に出したと、米国メディアは報じています。そこにはこうあるそうです。

「CIA報告書はトランプ氏が首脳会談中止を表明した数日前に回覧された。閲覧した当局者らによれば、正恩氏が非核化に難色を示す一方、北朝鮮は事前協議で在韓米軍の完全撤収を求めていないと指摘。首脳会談でもそうした要求はないと予測しているという」
(時事5月30日)

https://article.auone.jp/detail/1/4/8/6_8_r_20180530_1527659771960696

また有名な北朝鮮分析サイトの「38ノース」はこう述べています。

「北朝鮮分析サイト「38ノース」の研究者たちの見方によれば、米朝の対話が再び軌道に乗る可能性は大きくないが、対話が動きだした場合も、北朝鮮の選択肢は以前より増えている。
「(北朝鮮の)立場が強くなった」と、38ノースの創設者であるジョエル・ウィットは述べている。「北朝鮮は、首脳会談が物別れに終わったり、トランプ大統領が一方的に会談を取りやめたりした場合に備えて、しっかり『プランB』を用意していた。今の北朝鮮は、中国、ロシア、さらには韓国とも良好な関係を築いている。以前のように最大限の圧力をかける路線に戻れると思っているなら、米政府は状況を見誤っていると言わざるを得ない」
(ニューズウィーク5月29日)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180529-00010001-newsweek-int

この「38ノース」のウイット氏の意見は、中国が後ろ楯になって、中国経済圏が延命手段になるというもうひとつのシナリオです。

これによって米国はこれ以上の圧力を封じられると見るわけですが、一理ありますが全面的には同意しかねます。

しかし、会談が決裂した後が、霧の中であることだけは確かなようです。ああ、ユーウツだ。

 

2018年5月30日 (水)

正恩が最も恐れるものは

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正恩は父親の影を追っています。 

親父の正日もまた、「偉大なる国父」たる日成との葛藤の中から、正日流統治を作り上げました。 

このような独裁国家において、新たな王が権力を継承する場合、必ずせねばならないことがあります。 

それは父親に仕えていた重臣たちの粛清です。 

重臣たちは、前王の権威の名において自分たちの権力を守ろうとします。

彼らにとって若き王の権威などまつり上げるだけにすぎず、今までどおりの先代流の統治方法に固執するでしょう。 

新王はこれを叩きつぶさないことには、自分の権力を確立できません。正恩はこれを権力継承と共に開始し、数百人に及ぶ粛清を生み出しました。

粛清というのは、左遷するのではなく文字通り殺すのです。

粛清の頂点は、チャン・ソンテク(張成沢)という叔父にして事実上の北のナンバー2でした。 

チャンを粛清するに当たっては、わざわざ党大会を選び、幹部たちの目前で連行し、わずか4日後に党幹部の前で機関砲でバラバラにして、死体は犬の餌にされました。 

チャンは部下であった2人の男の処刑台の横に座らされ、20ミリ機関銃で処刑された部下の大量の肉片と血がチャンの頭から降り注いだそうです。

チャンは気絶し、蘇生させられてから、彼自身が処刑台に据えられたそうです。

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彼をこんな残虐なやり方で抹殺したのは、新王が権力を掌握したことを臣民に知らしめるためのみせしめでした。 

このチャンの粛清は、彼の党と軍の部下たちだけにとどまらず、中華文化圏特有の九族に及びました。 

九族とは直系の九9親等をさしますが、現実には関わった多くの人たちをも巻き込んだ大粛清劇であるのが一般的です。 

チャンの姉と夫のチョン・ヨンジン(全英鎮)駐キューバ大使、甥のチャン・ヨンチョル(張勇哲)駐マレーシア大使、及び彼の20代の息子2人も、ピョンヤンに召還されて相次いで処刑されています。 

また、チャンの2人の兄(故人)の息子や娘、孫まで探し出して処刑するという徹底ぶりです。 

かくして、チャン・ソンテクの党と軍の人脈、そして直系親族は全員が処刑されました

え、チャンの妻が殺されていないのはなぜだって?それはチャンの妻が父・正日の妹だったからで、それもチャンの女癖の悪さを嫌ってとうに逃げれています。

だから、叔母に気をつかうことなくチャンを処刑できたのです。

実兄の正男の暗殺も同じ文脈で、彼の直系親族は皆、潜伏を余儀なくされています。国外であっても、北の「長い手」を恐怖しているのです。 

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一説によれば、チャン・ソンテクは中国と共謀してクーデターを起こして、正恩を抹殺する計画だったと伝えられています。 

それが成功した場合、逆のことが起きたでしょう。正恩はもとより、党・軍の支持者とその九族は粛清されていたはずです。 

さて、このように見てくると、正恩が恐れているのは、米国だけではないとお分かりになるでしょう。 

むしろ直接的な恐怖は、国内に存在します。あれだけ大量の粛清を出しながら、その根は刈りきっていないと、この男は考えているはずです。 

また各地の党・軍にもぐり込んで息をひそめて機会を狙っていると思うはずです。この根は枯れません。 

なぜなら、彼らの背後には隣の大国が控えているからです。 

中国の傀儡であるチャン・ソンテクによる権力掌握を目前にして挫折しましたが、今でも機会あらば北を完全な支配下に置くことを諦めたわけではありません。 

現在、中国は北との1400キロに及ぶ長大な国境線沿いに軍を展開しています。 

元防衛研究所主任研究官の川上高司氏によれば、国境線に配備された軍は北国内における戦闘に必要なものだとされています。 

管轄の北部戦区(旧瀋陽軍区)には東部の部隊も編入されていて、それらを黄海経由で北に上陸させることも可能だと言います。 

中国軍は、仮に北国内でクーデターが起こり内乱状態になった場合、直ちに中朝友好協力相互援助条約に基づいて「平和維持軍」として、侵攻を開始するでしょう。

あるいは、米国が会談が決裂して軍事力行使をする場合も、中国軍が北に侵攻する密約のひとつくらいは、米国と結んでいても不思議ではありません。

米国には北に陸上部隊を投入することは避けたいはずですから、それが可能な国は中国しかないからです。

おそらく中国軍が北の主要部分を制圧するまで、そう時間はかからないはずで、北朝鮮という国は地上から姿を消します。

ですから、北にとって米国の軍事力行使は、中国の陸上侵攻も想定せねばならない事態となりえるわけです。

正恩がなぜ、米国との対決を前にして中国に泣きついたのか、また遠隔地を会談場所に設定できないのかという理由がここにあります。

正恩に取って米朝会談はあくまでも、拒否するトランプを引っ張りだして、「大いなる勝利」で回収せねばならないのです。

もはやこの目論見は半分失敗していますが、ならば、会談でなにがなんでも「大いなる勝利」をもぎとらねばならないと考えているはずです。

もなくば今度粛清されて、機関砲でバラバラにされて犬の餌になるのは自分のほうだからです。

■写真 赤いしゃくなげが縮小すると思いのほか汚かったので、ブルー・ローズに差し替えました。

 

 

 

2018年5月29日 (火)

ボルトンとポンペオの温度差につけ込んだ北朝鮮

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昨日から私は、なぜ北はあのような米国を怒らせて会談中止と言わせるようなことをしたのか、考えていました。 

ひとつの理由として考えられるのは、正恩がネゴシエーターとしては未熟なことです。 

彼の親父のしたたかさにを知る者にとって、キム・ゲグァン(金桂官)第1外務次官とチェ・ソンヒ(崔善姫)外務次官に、今この時期にあんな罵倒語を言わせて会談離脱を匂わせてはダメです。 

結果はご承知のように、トランプ中止書簡の翌日には腰砕けになってしまったわけで、その理由にこの両名の暴言が上げられる始末です。 

では、このふたりが言っていたことを、もう一回確認しておきましょう。 

5ae49699e52d4c5db4a349a8ef185d7f金桂官(キム・ゲグァン)外務次官

まず、キム・ゲグァンから。
 

「ボルトンをはじめ、ホワイトハウスと国務省の高位官僚は『先に核放棄、後に補償』方式を触れ回りながら、リビア核放棄方式だの『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『ミサイルの生化学武器の完全放棄』だのという主張を厚かましく繰り返している」
「米国が圧力ばかりかけるのでは米朝首脳会談に応じるか否か、 再検討せざるを得ない」

 非難対象はボルトンの言った「リビア方式」だとわかります。 

次ぎにチェ・ソンヒです。 

「「北朝鮮の崔善姫外務次官は24日、ペンス米副大統領が米メディアに「北朝鮮がリビアの轍(てつ)を踏むことになる」と語り、合意に応じなければ体制転換もあり得ると示唆したと批判。
米国がわれわれと会談場で会うか、『核対核の対決』で会うかは、全面的に米国の決心と行動に懸かっている」と述べ、米国をけん制していた」
 

ほぼ同じ内溶で個人名がペンスに変わっただけです。 

Dzct7rpvqaalid3_2ポンペオ国務長官とボルトン補佐官

訪北したポンペオに対しては、逆に丁寧な言葉遣いで褒めていることと対照的です。 

このように相手陣営の一部を褒めそやし、一部を激しく非難する場合、その理由は米国側交渉団の分断にあると考えられます。 

北にとって、ボルトンが主張している「リビア方式」だけは呑めない、もっと段階的な非核化で落とせないかと言っていることになります。 

この「リビア方式」は、「完全・検証可能・不可逆的非核化」(CVID)と完全にイコールではないことにご注意下さい。 

あくまでもCVIDは「リビア方式」の一部なのです。 

リビアで米国が実施したのはCVIDだけではなく、他の大量破壊兵器、非人道兵器の永久放棄、テロに対しても謝罪と賠償も求めています。 

整理しておきます。 

・CVID・・・完全・検証可能・不可逆的非核化
・リビア方式・・・CVID+化学・生物兵器の廃棄+テロの放棄と賠償
 

ボルトンが目指すものは、ただの「完全非核化」ではなく、核兵器の原料・製造施設・配備基地といったすそ野、そしてそれに関わった約6千名といわれる人的資源である核専門家の国外退去まで含んでいます。 

核専門家や核原料・製造施設を残せば、必ずまた作るという経験則に則っています。

またテロの放棄として、日本人拉致についても米朝会談で取り上げると言い続けているのがボルトンです。

家族会と6回も面談し、強い義憤をもらしていた心優しき強面こそこの人物でした。

では、このボルトン路線で、ホワイトハウスが一致しているかといえば、おそらく違うでしょう。 

Photoサラ・サンダース報道官  思わずごめんなさいと言ってしまう怖さ 

ボルトン氏の主張するリビア方式についてのサラ・サンダース報道官の発言です。

「自分はいかなる議論においてもその部分は見ていない、従ってそれ(リ ビア方式)が我々の目指す解決のモデルだという認識はない」
 

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ポンペオの立場は明確には分かりませんが、微妙にボルトンと異なっていることが予想されます。 

それは訪北して拘束者を解放した後に、このようなことを述べているからです。

「ポンペオ長官は11日(現地時間)、ワシントンで韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官と会談した後、共同会見でこのように明らかにした。
  ポンペオ長官は「金正恩(キム・ジョンウン)委員長が正しい道を選択すれば、北朝鮮には平和と繁栄で満たされた未来があるだろう」と強調した。これは米朝首脳会談の開催を控えて、北朝鮮が核さえ放棄すれば米国の積極的な経済支援が保証されるという点を具体的に表現したものであり、注目される。
  特にポンペオ長官が最近、訪朝して金正恩委員長と2回目の会談をしたという点で、北朝鮮の非核化と米国の北朝鮮体制保証および経済支援などをめぐり金委員長とビッグディールがあったのではという見方も出ている。ただ、ポンペオ長官は「北朝鮮が核を保有しないということを保証するには強力な検証プログラムが要求されるだろう」と述べた」(中央日報5月12日)

http://japanese.joins.com/article/323/241323.html

う~ん、微妙ですね。「キム氏が正しい道を選べば、繁栄を手にするだろう」と言う意味は、非核化をしさえすれば経済制裁は解除し、支援もしようと言うことになります。 

検証した後という条件はつけていますが、正恩に甘い幻想を持たせることを言った可能性も捨てきれません。 

この微妙な亀裂、というより温度差につけ込んだのが北でした。 

だからキム・ゲグァンが、 「我々はボルトン氏への嫌悪感を隠しはしない」と言ったのです。 

そして、得意の瀬戸際戦術で会談離脱を示唆して自爆したわけですが、その背景にあるもう一つの要因が、5月16日に訪中した北の経済視察団員と習との会談です。

152656503241_20180517中国を訪問した北朝鮮労働党親善参加団一行が16日、北京人民大会堂で習近平・中国国家主席(前列中央)と共に記念写真を撮っている/聯合ニュース 

「朝鮮労働党中央委副委員長であるパク団長は習主席に、両国の最高指導者の重要な共同認識の実行▽中国の経済建設と改革・開放の経験を学習▽経済発展にまず力量を集中する新しい戦略路線の貫徹に積極的役割▽朝中友情のための新しい貢献が訪問の目的だと明らかにしたと「中央テレビ」は伝えた。これに対し習主席は参加団に「朝鮮の経済発展と民生改善を支持し、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が党と人民を国家情勢に符合する発展経路に導くことを支持する」と答えた」(中央日報5月17日)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/30611.html

この訪中団には、北の全ての「道」(県)と市の代表が参加し、「中国の経済 建設と改革開放の経験に学び、経済発展に役立てたい」(新華社5月17日)との談話を発表しました。

今回、北の開放・改革経済へのシフトは本気です。経済は既に底を打っており、対中貿易も激減している中、中国の支援を受けつつ経済を建て直すしか方法はないからです。

このように見てくると、北の妙な空威張りの背景に、正恩の2回の訪朝、そして今回の経済使節団の訪中があることは間違いないでしょう。

冒頭の自問である「なぜ正恩は米国を怒らせることをしたのか?」という問いに答えれば、中国の経済支援が明確になり、しかも政治的にもバックアップしてくれると踏んだからです。

ただしその北の期待に、中国か十全に答えられるか否かは、米中貿易戦争の真っ最中ですから、微妙です。

中国はこの米朝交渉は引っ張れば引っ張るほど、南シナ海などてやりたい放題が出来ると読んでいますが、 経済制裁をかけないとZTeへの制裁が解除されないことになるからです。 

とまれ正恩の青さから、つい図に乗ってしまってトランプの盟友のペンス副大統領まで誹謗し、会談を流してもよいなどと口をすべらしたことは痛恨の失敗でした。 

この発言が伝えられた5月23日夜にトランプに電話をして、会談中止を進言したのは、他ならぬボルトンだったようです

一方、ポンペオはこれを「交渉妨害だ」として不満を漏らし、翌日、韓国康京和外相への電話して「北朝鮮との交渉を継続する明確な意志」(韓国側発表)を伝えたそうです。

この微妙なひびをトランプがどう埋めて行くのか注目です。

■写真 ヒマラヤの青いケシ

 

 

 

2018年5月28日 (月)

ポーカーvs伝統芸

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トランプは彼が好きなポーカーのゲーム手法を応用しています。名前からしても、トランプですからね(笑い)。 

私はポーカーをしたことがないのですが、大変に知的で集中力を要するゲームだそうです。 

勝つ秘訣は、ベット(賭)をしてレイズ(掛け金をつりあげる)ことだそうです。慎重になりすぎると、弱いプイイヤーだとみなされて、小突き回されることになります。 

タイミングを計って、ベットとライズを集中して投じることが必要です。 

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今、トランプは、正恩を相手にベットしてライズしています。

この数日の経過を整理してみましょう。
 

①5月24日夜・トランプ会談中止書簡公表
②24日夜徹夜会議し姿勢変更
③25日朝 北、韓国に一切の格式抜きで南北会談を要請
④25日午後 韓国直ちに受諾。その旨をアメリカに伝達
⑤25日夕 トランプ、会談に再び再開をほのめかす
⑥25日夜 第2次南北首脳会談
⑦25日 トランプ、6月12日もありえると発言
⑧26日 会談結果発表・米朝実務者協議再開・南北閣僚級会談再開
⑨27日 北、米に会談再開を要請

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 「【ワシントン=永沢毅】トランプ米大統領は25日、中止を発表した米朝首脳会談を巡って北朝鮮との協議を続けていることを明らかにした。ロイター通信によると、サンダース大統領報道官は「もし会談が6月12日でも、7月12日に開かれても、私たちは準備ができる」と表明。再調整に前向きな立場を示した。
 サンダース氏は「大統領は本当の解決策を欲している。北朝鮮がその気なら、こちらも対話の用意がある」とも述べ、北朝鮮に非核化に向けた譲歩を促した。トランプ氏はこれに先立ち、ホワイトハウスで記者団に「今も私たちは北朝鮮と話している。(当初の予定通り)6月12日に開く可能性すらあり得る」と述べた。
 これに関連し、マティス国防長官は「米朝首脳会談について良い知らせがあったかもしれない。外交当局がうまくやれば元通りになるかもしれない」と述べ、協議の進展に期待感を示した。
 一方、国務省のナウアート報道官は「会談のための会談はやるつもりはなかった。開くからには結果が出なければいけない」と指摘。首脳会談を実現するには、完全な非核化へ北朝鮮が前向きな動きをみせる必要があるとの認識を示した」(日経5月26日)

第2回南北首脳会談は1回目の華々しさは消し飛んで、さぞかしお通夜のような雰囲気だったと思われます。

米国は2回目会談の直前に韓国政府に電話をしてきて、おかしな妥協をするなと釘を刺したそうです。

そして米国が会談を中止(延期)すると表明したのが24日夜ですから、わずか4日もたたずにギブアップという醜態をさらしたことになります。
お気の毒にも、一時的に正恩を奮い立たせた中国も、ZTEをめぐっての貿易戦争中でお取り込み中で、頼りにならなくなりました。 

「北朝鮮国営テレビ「キム委員長 米朝会談に確固たる意志」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180527/k10011454721000.html
北朝鮮の国営テレビは、26日に行われたキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長と韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領の首脳会談を映像とともに伝え、キム委員長が「米朝首脳会談に対する確固たる意志を表明した」として、韓国との対話を通じてトランプ大統領との首脳会談を実現させたい姿勢を強調しました。(略)
そのうえで、キム委員長が「来月12日に予定されている米朝首脳会談のために多くの努力を傾けてきたムン大統領に感謝の意を示し、歴史的な米朝首脳会談に対する確固たる意志を表明した」として、来月12日という日付を具体的に示し、トランプ大統領との会談に強い意欲を示しました。
さらに、キム委員長は「米朝関係の改善と朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制を構築するために今後も積極的に協力していこう」とも述べたということで、米朝首脳会談の開催に向けて韓国に協力を求めました。
また、今月16日に予定されていたものの北朝鮮側が一方的に中止した南北の高位級会談を、来月1日に開催することで双方が合意し、これに続いて軍事当局者会談や赤十字会談を推し進めるとしていて、韓国との対話を通じてトランプ大統領との首脳会談を実現させたい姿勢を強調しました」(NHK5月27日)

まさに全面降伏で、しかも本会談をする前にチップをごっそりと持っていかれたようなものです。 

正恩とムンは、これによって完全に主導権をトランプに奪われました。 

トランプは余裕しゃくしゃくで、こんなことを言っています。 

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「6月12日の開催もありうる。北がやりたがっている。われわれもやりたい。どうなるか様子を見よう。北朝鮮側と今、話している」 

かつて韓国中央日報が得意気に掲載し、日本では野党議員が拡散した政治マンガをもう一回アップしておきましょう。 

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そぞろ惨めさが際立ちます。今や、ハンドルを握るのはトランプ、助手席には首相、正恩は後部座席で縮こまり、習、プーチンなどは車外、必死に後ろを走るのがムンというところでしょうか。 

そもそも、気の毒ですが米国にも北にも圧倒的国力差がない韓国が仲介などできるはずがないのです。

米国から会談中止を教えられたのも米国メディアの報道からだったというのですから、ムンのショックはいかばかりか。

政権与党派のハンギョレ新聞(5月29日)も、こう失望を隠しません。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180526-00030685-hankyoreh-kr

「最大の問題は、北朝鮮核問題解決のために最も緊密に協力しなければならない同盟国の韓国を徹底的に締め出した点だ。
大統領府は事前にいかなる(米国から)暗示も受けられなかったと伝えられた。発表時点は、文大統領が朝米の終盤の神経戦を鎮めるためにホワイトハウスを訪問し帰国してから24時間も経たない時点だった」

ところで、トランプは北の交渉術を、わが国の首相から直伝されていたと思われます。 

基本は3ツですが、この複合技できます。今回もそうでしたね。 

①協議を離脱すると脅迫して、相手の譲歩を誘い、有利に運ぼうとする瀬戸際戦術。
②罵詈雑言を吐きまくって、妥協がいかに困難かと思わせる北流ライズ・アップ作戦。
③いかにも融和を望んでいるように見せかけるインチキ平和ショー。

 今回は、正恩はキム・ゲグァン(金桂官)第1外務次官に、ペンス副大統領を「政治的マヌケ」と罵ってみたのは②で、首脳会談を止めてもいいと言いだしたのは①です。

そして、プンゲリを「爆破」して見せたり、米国人拘束者を解放したのは③です。

こんな親父譲りの陳腐なプレーで勝てると思ったのが愚かです。

まだまだ鍛え方が足りない正恩は、トランプが書簡を公表する翌日には恐慌に陥って、格下と思っていたはずのムンにすがりつくのですから。

大丈夫か、正恩。墓の下でジィさんと親父が怒り狂っているぞ。

ま、第2回南北首脳会談の内容自体は空疎で、論評に値ましせん。

本会談を目の前にしてなんの担保もなく、具体性のかけらもないまま 抽象的に「朝鮮半島の完全な非核化を」と言われても困ります。

ムンは、本気でまとめたいなら、ここぞと正恩に、その時期・方法・範囲などの明確化を迫るべきでしたが、このふたりは二人三脚ですから、ま、望むべくもありませんが。

それにしても、正恩から、「トランプチームのクォーターバックを潰してこい」と言われ、そのとおりやると、今度は「潰せといったのは、思い切り当たってこいという意味だ。バカヤロー」と罵られるとは、キム・ゲグァン惨め!

ああ、どこかの大学のアメフトチームみたいですな。

米国が流したんだからお土産を持っていくのは米国のほうだ、などと言う外交官出身評論家もいるようですが、正反対だと思いますよ。

それにしても、正恩やムンを天高く持ち上げて、「外交天才」だの「トランプを引きづりまわしている」だのと言っていた人たちは、今なんて言っているのでしょう。

2018年5月27日 (日)

日曜写真館 クレマチス イン パープル

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2018年5月26日 (土)

トランプ・トラップ

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地上波全局が、6時のニュースに詐欺容疑者の保釈風景を中継(!)するような異様にのどかなわが国とは無縁に、世界は激動しています。 

さて、トランプは会談中止(延期)という大技をかけた後に、こんどは「やってもいいかも」と言い始めています。

「【ワシントン共同】米朝首脳会談の中止を北朝鮮に通告したトランプ米大統領は25日、記者団に対し、北朝鮮側との協議は続いていると述べた。会談中止の再考を求めた北朝鮮高官の声明を「生産的」と評価。米朝間で日程の再設定を模索する動きが出てきた。
トランプ氏は当初予定された6月12日も排除しなかった。完全非核化へ圧力を維持しながら金正恩朝鮮労働党委員長の出方を見極める方針だ。
トランプ氏は「何が起きるか見てみよう。12日もあり得る。彼らも望んでいるし、われわれも望んでいる」と語った」(共同5月24日)

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 このトランプの新たな発言を引き出した北の対応が傑作です。

たぶん委員長閣下から、「トランプを本気で怒らせてどーする気だ。お前は三池淵炭鉱送りだ」とでもいわれたんでしょうか(苦笑)。 

こんなに早く腰砕けになる北を初めて見ました。

今までのペンスをつかまえて「政治的まぬけ」と呼んだり、「核対核の対応」という戯れ言を引っ込めて、神妙にこんなことを言い始めました。

「【ソウル=恩地洋介】北朝鮮の金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官は25日午前、トランプ米大統領が米朝首脳会談の中止を表明したことに関して「我々はいつでも向かい合って問題を解決する用意がある」とする談話を発表した。
首脳会談の中止を回避するため、米側に譲歩する可能性を示唆した。朝鮮中央通信が伝えた。
談話はトランプ氏の書簡について「突然の会談中止の発表は予想外で非常に遺憾だ」と強調。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長は会談の準備にあらゆる努力を傾けてきた」と指摘し「大胆で開かれた心で米国に時間と機会を与える用意がある」と訴えた。敵対関係を改善するためにも「首脳会談が切実に必要」との認識を示した。
金桂官氏は16日の談話で「トランプ政権が一方的な核放棄を強要するなら、朝米首脳会談に応じるかどうかを改めて考慮せざるを得ない」と表明していた」(日経5月25)

Photo_22015年7月、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(右端)と金桂官氏(中央)=(朝鮮中央テレビ=聯合ニュース) 

なにが「突然の中止は遺憾」ですか。 

おいおい、先に会談を中止してもいいと言いだしたのは、他ならぬキム・ゲグァン第1外務次官だったのではなかったのでしょうか。 あれはイキガリたったのでしょうか。

政治的健忘症にかかったキムさんに、思い出させてあげましょう。つい10日前5月16日のキム次官の発言です。 

「金外務次官は談話の中で、トランプ政権が「我々を追い詰め、核兵器を放棄するように一方的に強要するのであれば、我々は協議にはもはや関心を持たず、来る朝米首脳会議に応じるかどうかを再考せねばならない」と述べた」(AFP5月16日)
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 これは朝鮮中央通信での発言ですが、北という国は内弁慶ですな(笑)。 

そんなことを会談1カ月前に会談の事務方責任者が言ったら、もうこれ以上事前協議は無意味だという外交シグナルになることくらいわからないんでしょうか。 

米国は韓国とは違うのです。つまらないブラフが効く相手かどうか、相手を見てから言うことです。 

その上にあのオバチャン次官の暴言と来ましたから、こりゃ会談なんてやるだけ無駄とトランプが考えても無理なからぬことです。 

オバちゃんは前北米局長で、英語ペラペラの知米派が売り物でしたが、それであのていどですか。

オバマとトランプの違いもわからないようで、よく会談準備ができるものです。

米国はこんな北の暴言を待っていた節すらあります。

ですからそれを受けてのトランプの会談中止の発表の方は、北と違ってただのブラフではありません。 

トランプは先日の正恩への書簡を、マティスと相談してから書いたと述べています。 

この部分を日本のメディアはスルーしていますが、今、ホワイトハウスの関係閣僚で唯一戦争に反対しているのが国防長官のマティスです。 

マティスは北との戦争で、米国は足を取られるべきではない。もっと大きな中東という火薬庫の爆発に備えるべきだと判断しています。 

彼と相談して会談を中止したのなら、マティスは国防長官として最悪の事態、すなわち北の核施設への限定空爆に備えねばならないということについて、なんらかの合意を与えたのかもしれません。 

ですから「マティスとの相談」とは、北攻撃の本格的スタンバイが始まったともとれるのです。

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また、北のプンゲリ核実験場の「爆破」当日に、この発表をしたのは、偶然でもなんでもなく、こんな子供だましの政治ショーなど片腹痛いと、トランプは言っているのです。

「(米政府)高官は北朝鮮が核実験場の廃棄への国際監視団の立ち会いを認めなかったことで、さらに信頼が損なわれたと指摘している。
「(国際監視団を立ち会わせる)約束はほごにされた。代わりに記者団が招待されたが、(核実験場の廃棄が)完了したという科学的証拠は大して得られなかった」
「(核実験場の廃棄が)事実であれば良いが、真相は分からない」 (AFP5月24日)

北が米国人拘束者を解放したのも同じく、米国の譲歩を引き出すためのめくらましです。 

日本のメディアは、北は真剣に話しいで解決を目指している、蚊帳の外は日本だけだ、と言い続けてきましたが、真逆です。 

北の話合いは煙幕にすぎず、中国をバックにつけた北に対して、どうせ米国は何もできまいと読んでいました。 

ですから、トランプのメンツがつぶれない程度の飴をふたつばかり投げた、それがプンゲリ「爆破」と米国人拘束者の解放です。 

このいずれも、正恩は先代正日の成功体験をパクっています。

プンゲリ爆破はかつての先代が排気塔を爆破したことのまね、相手国を活字化できないような言葉で罵るのも伝統芸、会談を止めると言い出すのも六カ国協議でおなじみの瀬戸際外交、拉致被害者を少しだけ返すのも先代譲り。

なんのことはない、全部パクり。髪形以外のオリジナリティ・ゼロです。

気の毒ですが、北のやり口は皆、読めちゃうんですよ。

北の手口を知り尽くした安倍氏がトランプの対北アドバイザー役をやっている限り、そうそう簡単に引っ掛かりゃしませんよ。

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ですからトランプはその都度、ツイッターでいいぞいいぞと乗せられたふりをしながら、北との間合いを詰めていったと思われます。 

米国が目指すのは、使用不能の核実験場の「爆破」などではなく、「完全・検証可能・不可逆的非核化」の一点だからです。 

これを読み間違えたのは、北にとって致命的でした。

トランプの言う非核化は、オバマの口先非核化とは本質的に違うのですから。

「高官は北朝鮮側がシンガポールで行われる予定だった米国側との準備会合を無断欠席したことに言及し、「信義誠実の深刻な欠如」と指摘した。「米国側はひたすら待ったが北朝鮮側は姿を現さなかった。北朝鮮側は連絡すらよこさず、われわれに待ちぼうけを食らわせたのだ」(AFP前掲) 

すでにムンの訪米時には、トランプは会談中止を決意していて、閣僚レベルには言っていたはずです。 

トランプは訪米3日前のムンに対して電話し、「なぜ、私に伝えたあなたの個人的な確信と北朝鮮の公式談話内容は相反するのか」、と述べています。
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ムンはさぞかし青ざめたことでしょうね。コッチにいいこと、アッチにいいことを言ってノーベル平和賞をゲットする目論見がバレてしまったんですらね。 

ちなみに、ムンがノーベル賞を欲しがっているのはあながち名誉心だけではなく、貰ってしまえば米国の軍事オプションを封じることが出来るからです。 

とまれムンが、自分の夢に酔うようなムン・ウォーカーにすぎないことを、トランプは冬季五輪の時にはっきりと見極めていたようです。

ですから、この6月5月22日の時点で会談は止めてもよいと匂わせています。 

「トランプ大統領は文在寅・韓国大統領との会談前に記者団に対し、北朝鮮の非核化が来月12日に開催を予定する首脳会談の開催の条件との考えをあらためて表明」
Trump suggests historic summit with North Korea could be delayed

今回の会談中止で、米朝の対立軸が鮮明になりました。

それは完全・検証可能・不可逆的非核化」を呑むか呑まないか、それ以外ありえないということで、その方法論にはアプローチの仕方はまだまだあるということです。

ところで勘違いしていただきたくないのですが、私はすぐに戦端が切られるとは考えていません。 

6月12日に開催してもいいかもね、とトランプが言ったのは北の屈伏を誘うトラップです。

次に北が、会談を再開するように打診するなら、それはお土産が必要で、それは米国の要求を丸飲みするしかない、ということです。

おそらく、米国は最低でも6月12日前後までは北の打診を待つでしょう。

そしてシンガポールあたりで非公式の事務折衝くらいは開かれる可能性がありますが、その時がほんとうの切所です。

 

2018年5月25日 (金)

速報 米国米朝会談を中止と発表

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トランプが6月12日に予定されていた、米朝首脳会談を中止すると発表しました。 

「延期」であって、開催されることに含みをもっていますが、トランプは北に対してより高いハードルを用意したことになります。 

この米国の要求に応じられなかった場合、最悪の場合、核の使用もあり得ると強く警告しています。 

「あなたは自分の核戦力について語るが、米国の核兵力はあまりにも大規模で強力で、私はそれが決して使われずに済むことを神に祈っている」(トランプ書簡) 

今まで北は約束されていた事前会談を一方的に流してみたりしていましたが、トランプが中止の理由としたのは「直近のあなた方の声明に表れた激しい怒りとあらわな敵意」だったようです。

米国の逆鱗に触れたのは、チェ・ソンヒ(崔善姫)外務次官のこの発言だったようです。 

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チェ・ソンヒ

「北朝鮮の崔善姫外務次官は24日、ペンス米副大統領が米メディアに「北朝鮮がリビアの轍(てつ)を踏むことになる」と語り、合意に応じなければ体制転換もあり得ると示唆したと批判。
米国がわれわれと会談場で会うか、『核対核の対決』で会うかは、全面的に米国の決心と行動に懸かっている」と述べ、米国をけん制していた。
ポンペオ国務長官は24日、上院外交委員会の公聴会で、北朝鮮の最近の発言を「残念に思う」と強調。また、北朝鮮側から返事もなく、首脳会談の準備ができなかったと明らかにした。ロイター通信によると、米政府当局者は、ペンス氏批判が中止判断の決定打になったとの見方を示した」(時事通信5月25日)

_101255025_91dd95175ed04e23a3d050ac北から「まぬけ」と言われたマイク・ペンス副大統領 

あろうことか、チェは会談を3週間切った5月24日に、マイク・ペンス米副大統領の言動を「まぬけ」と非難したうえで、外交が失敗した場合には「核による最終対決」とまで言ってしまったようです。 

チェは北外務省の北米局長だったはずで、ユン特別代表らとバックチャンネルでの秘密交渉をしてきた責任者だったはずです。 

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何をのぼせたのかチェは、先日のキム・ゲファン第1外務次官のこのような発言を追認した上で、決定づけてしまいました。

「ボルトンをはじめ、ホワイトハウスと国務省の高位官僚は『先に核放棄、後に補償』方式を触れ回りながら、リビア核放棄方式だの『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『ミサイルの生化学武器の完全放棄』だのという主張を厚かましく繰り返している
「これは対話を通じて問題を解決しようとするものではなく、本質において大国に国を丸ごと任せきりにして、崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳高い我々に強要しようとする甚だ不純な企てだ」
「われわれは、朝鮮半島の非核化の用意を表明し、そのためには米国の敵視政策と核脅威による恐喝を終わらせることが先決条件になると数度にわたって明言した」(時事5月16日)

 今回チェは、北朝鮮政府は米国に対話してほしいと「お願いなどしないし、会談に出席するよう説得もしないと述べた」(BBC5月24日)そうです。 

やんぬるかな。この時期に会談相手国の高官を罵倒し、核による対応まで口にするとは、職業外交官としてはありえない所業です。

職業外交官は、人民軍軍人が「ワシントンなど焼け野原にしてやる」みたいなことを言ったら、「いやー、うちの軍には過激な奴がいて困りもんですよ。ついてはこんな馬鹿を暴発させないために、そちらも少し妥協をよろしく」と、やるのが商売なはずです。

それを外交官自らが、「副大統領は馬鹿間抜け」、「核対核で対決」なんて放言してはおしまいです。

「核による最終決戦」という言葉を口にするようでは、もはや外交官としての適格性どころか正気さえ疑われます。

私たち日本人は、北の「火の海としてやる」的な、ヤクザまがいの下品で過激な言葉遣いに慣れっこになっていますが、会談を数週間先にして、このようなむき出しの好戦的言葉を使うべきではありません。 

さて、米国の立場はシンプルそのもので、「完全・検証可能・不可逆的非核化」(CVID)に絞られていると言ってよいでしょう。 

それに対して北の目的は、制裁解除と体制保証です。 

米国は、北が核放棄しないかぎり、制裁解除はないし、体制保証もありえないとする立場です。 

どうやらにわかには信じがたいことですが、北は今やっている茶番の核実験場の爆破ていどで済ませたいと考えているのかもしれません。

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このプンゲリ核実験場の坑道の入り口などいくら爆破してみせても、いつでも崩落した岩をどかせば使用可能となりますし、そもそも去年9月に崩落して使用不能となっていることは、中国すら指摘していることです。 

ほんとうにこれを核実験の永久的停止の担保にしたいのならば、米国の専門家による坑道内の放射性ガスの採集や、坑道の現状の実証見聞をさせてから入り口を爆破させるべきでした。 

これを北が拒否したのは、坑道のガスを分析すれば、核爆弾の威力が推定可能だからです。

今回、外国取材陣に対しても、線量計の持ち込みさえ禁じているところから、予想以上に北の核の威力は小さいのかもしれません。

ちなみに、北の核は虚像だとする説も存在します。

それはさておき、あわてて爆破に走ったのは、米国による実地検証をされるとまずいことがあるからだと見られても致し方ありません。

実験場の爆破前検証は米国が議題としていたはずで、こんなことすらクリアしていないとすると、北は長距離核の廃棄についてすらも、なんの前進もしていてかった可能性があります。

もちろんその場合、中距離核の廃棄など論外で、これでは交渉になりません。

だから、トランプはサジを投げた形にしたのです。

ネックはおそらく「体制保証」の内容だろうと思われます。では、北が要望しているのはなんでしょうか?

それは「軍事的脅威の除去」と「体制保証」のセットですが、その「軍事的脅威」が何を指すのか不透明です。

大きく取るなら、在韓・在日米軍はもちろん,グアムや米本土の長距離核戦力、水中発射核戦力まで廃棄の対象となりえるからです。

いうまでもなくそのようなことを、米国が呑むはずがありません。

米国が言っているのは、「核放棄するなら体制打倒は求めない」ということでしかなく、それは積極的に北の体制を倒す軍事攻撃はしない、という意味です。

私は、それに在韓米軍撤退を加えるならば、新たな交渉の展開があり得るとしましたが、米国がどのように考えているのかは不明です。

これでボールは北に投げ返されました。北がベタ折れしない限り、米朝首脳会談はないし、したがってその後には軍事力行使しかオプションは残らないことを、正恩は思いいたすべきです。

とまれこれで、モリカケにうち興じているような日本のメディアの融和ムードは一気に消し飛び、まったく先が読めなくなりました。 

                                               ~~~~~ 

現時点(5月25日午前3時)の時点では、情報は限られていますが、情報を整理しておきます。 

「■トランプ氏が米朝会談「中止」伝達 「現時点では不適切」
【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米大統領は24日、6月12日にシンガポールで予定されていた米朝首脳会談を中止すると表明した。トランプ氏から北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に対する書簡をホワイトハウスが公開した。米朝関係は対話解決への機運から一転し、緊張状態に再突入する恐れが高まった。
 トランプ氏は書簡で、北朝鮮が最近、米国に対して「猛烈な怒りと露骨な敵意を示してきた」と指摘した上で、「現時点では会談を行うのは不適切だと感じた」としている。
 トランプ氏はまた、「いつの日か会えることを楽しみにしている」とし、将来の会談に含みを残した。
 トランプ政権高官が23日明らかにしたところによると、ヘイギン大統領首席補佐官代理らホワイトハウス当局者は今週末にシンガポール入りし、北朝鮮政府当局者と首脳会談の議事進行などを含めた詳細について協議する予定だった。トランプ氏は、週末の実務協議を踏まえ、会談を予定通り実施するかを判断するとみられていた。
米紙ワシントン・ポストによると、米朝の実務者級協議をめぐっては、今月上旬にもシンガポールで同様の会合を設定したにもかかわらず北朝鮮の代表団が姿を見せず、ホワイトハウス内部で北朝鮮への不信感が広がっていた。
 ポンペオ国務長官も23日、下院外交委員会の公聴会で証言し、「(北朝鮮との間で)悪い合意という選択肢はない」と指摘。「適切な交渉ができないのであれば丁重に立ち去る」と述べていた」(産経5月24日午後11時)

https://www.sankei.com/world/news/180524/wor1805240053-n1.html

 書簡は、従来のようなツイッターではなく、正式に直接キム・ジョウウンに充てている形式で、自筆のサインも添えられています。 

以下のような内容です。

おどろくほど平易で、親しい年少の友人にでも送ったような書き方で、文学的香気すら漂わせていますから、かえってコワイともいえます。

「シンガポールで6月12日に開催予定となっていた、双方が長いこと求めてきた首脳会談に関する最近の折衝と協議へのあなたの時間、忍耐、努力に本当に感謝する。会談は北朝鮮によって要請されたと伝えられていたが、それは我々には全く関係のないことだ。私はあなたと会談に参加することを非常に楽しみにしていた。
 残念なことに、直近のあなた方の声明に表れた激しい怒りとあらわな敵意に鑑み、私は現時点ではこの長く計画してきた会談を実施するのは不適切だと感じる。
よって、この書簡をもって、双方のために、しかし世界にとっては損害となるが、シンガポールでの首脳会談は実施しないと表明する。
あなたは自分の核戦力について語るが、米国の核兵力はあまりにも大規模で強力で、私はそれが決して使われずに済むことを神に祈っている。
 私はあなたと私の間で素晴らしい対話が築かれつつあると感じていた。
そして究極的には、重要なのはその対話だけだ。
いつの日か、私はあなたと会うことを非常に楽しみにしている。
一方、(米国人の)人質解放に感謝する。彼らはいま家で家族とともにある。素晴らしい意思表示で、非常に感謝している。
 この最も重要な首脳会談について考え直すことがあったら、遠慮なく私に電話するか手紙を書いてほしい。世界、そして特に北朝鮮は、永続する平和、素晴らしい繁栄と富の大きな機会を失った。この逃した好機は歴史における真に悲しむべき瞬間だ」(日経5月25日)
 

We greatly appreciate your time, patience, and effort with respect to our recent negotiations and discussions relative to a summit long sought by both parties, which was scheduled to take place on June 12 in Singapore.

We were informed that the meeting was requested by North Korea, but that to us is totally irrelevant.

I was very much looking forward to being there with you.

Sadly, based on the tremendous anger and open hostility displayed in your most recent statement, I feel it is inappropriate, at this time, to have this long-planned meeting.

Therefore, please let this letter serve to represent that the Singapore summit, for the good of both parties, but to the detriment of the world, will not take place.

You talk about your nuclear capabilities, but ours are so massive and powerful that I pray to God they will never have to be used.

I felt a wonderful dialogue was building up between you and me, and ultimately, it is only that dialogue that matters.

Some day, I look very much forward to meeting you.

In the meantime, I want to thank you for the release of the hostages who are now home with their families.

That was a beautiful gesture and was very much appreciated If you change your mind having to do with this most important summit, please do not hesitate to call me or write.

The world, and North Korea in particular, has lost a great opportunity for lasting peace and great prosperity and wealth. This missed opportunity is a truly sad moment in history.

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2018年5月24日 (木)

北を「核保有国」にした韓国の太陽政策の罪

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保守(戦後の)さん、私もこのニューズウイークの記事『韓国にもイスラエルにも──トランプは交渉の達人ではなく「操られる達人」』という記事は読んでいます。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10208.php 

私の認識とはほとんど正反対ですね。 

このダニエル・レビ(米政策研究所アメリカ・中東プロジェクト会長)という人は名前からするとユダヤ系のようですが、ユダヤ系に多い反トランプのリベラル派のようです。 

レビ氏の認識は、米国のリベラルにありがちな、米国流民主主義の価値観でアジアを見ています。 

ですから、ムン・ジェイン、あるいは韓国そのものについて具体的に認識が大変に浅いと感じました。 

レビ氏によれば、「文は韓国のリベラルで現実主義的な勢力の出身」というのですから、失礼ながら失笑させられました。 

これではムンが太陽政策の後継者にして、その完成者であるという歴史の背景が抜け落ちてしまっています。 

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キム・デジュンが太陽政策の創始者でしたが、この融和政策は平和をもたらすどころか、首脳会談を開いてもらうために北に送金した約30億ドルの資金が、結果的に北の弾道ミサイルと核開発となってしまいました。 

また人道支援の名目で送った食料は、ほんとうに飢餓に苦しむ国民には渡らず、軍隊に優先的に配給されました。

開城工団や金剛山観光開発という太陽政策の経済政策で投じられた資金も、結果的に弾道ミサイルと核開発に消えました。

その意味で、今、私たちは太陽政策の「成果」を目の当たりにしているともいえます。 

それは北に弾道ミサイルと核開発をする時間の猶予を与えただけではなく、経済制裁を影に日向にネグレクトすることで、資金や部品を集める手助けをしました。

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かくしていまや、北は「核保有国」と公然と自称し、叔父を高射機関銃でバラバラにし、実の兄を白昼堂々VXガスで毒殺するキム・ジョウウンというポケット・モンスターを生み出しました。 

ところがあろうことか、韓国国民は北の核開発が最終段階に達しているにもかかわらず、北の核の脅威を忘れ去り、ムンという太陽政策の継承者を選んでしまったのです。 

韓国民も、北の核が北東アジア最大の脅威だということくらい頭では分かっているはずです。 

そして、その現実の脅威に対して、トランプがなぜ北に対して軍事的・政治的圧力をかけ続けているのか、おぼろにでも分かっていたはずです。 

にもかかわらす、「頭で考えずハートで考える」と言われる韓国民は、パク憎しのあまりこの時期最も選んではならない指導者を選びました。 

それがニューズウィークが「リベラルな現実主義者」と称賛する、北にとってこれ以上ないほど与しやすい者はいないムン・ジェインだったわけです。 

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ムンが、ノムヒョンの最側近(大統領室長)であったことは有名です。 

ムンについて、在韓ジャーナリストの竹嶋渉氏の『盧武鉉の「生き写し」韓国新大統領、文在寅の末路が目に浮かぶ』の中でこう紹介しています。
https://ironna.jp/article/6532

やや長いですが、ムンの履歴がよくわかりますので引用します。 

「文氏は1953年に盧氏の出身地に近い慶尚南道巨済の貧家に生まれた。釜山の高校を卒業後、慶煕大学校法学部に入学。75年、朴正煕政権に反対する民主化運動にかかわった容疑で逮捕された。
大学を卒業後、82年に弁護士となり、盧氏が当時運営していた法律事務所に入所、80年代中盤の民主化運動に取り組んだ。
2002年の大統領選挙では釜山地域の選挙対策本部長を務め、盧氏が当選した後には青瓦台(大統領府)入りし、2007年には大統領秘書室長となっている。2012年の国会議員選挙で初当選、2012年の大統領選挙に立候補するも朴槿恵前大統領に僅差で敗れた。その後、朴氏が弾劾辞職した後、朴氏糾弾の世論の追い風を受け、今般大統領に当選した。
 これだけ見ても盧氏と文氏の経歴が瓜二つであることが分かるだろう。二人とも韓国南西部の慶尚道出身。貧しい境遇から身を起こし、ともに司法試験に合格、法曹界を経て政界入りしている。
保守色の強い地域の出身でありながら、二人とも民主化運動に参加し、「人権弁護士」として知られ、後に進歩系政党から大統領に立候補して当選している。ここまで似通った経歴を持った二人であるから、当然、新大統領の今後の行跡を予測するうえで、盧氏の行跡は大いに参考になるのである。
文氏にとって盧氏は法律事務所の共同運営者であり、民主化運動の同志でもあり、側近として国政を補佐したわけでもあるから、政治的信条においても大きな影響を受けていることは容易に想像できる」

これが、「ノムヒョンの生まれ変わり」とまで評されている、ムンジェインという人物です。

ではノムヒョンが北の核開発をどのように捉えていたのか、言行録から見てみましょう。 

・「北が核開発をするのは、先制攻撃用ではなく防御用だ」(2006年5月30日)
・「(核実験について)こんな小さな問題」(2006年10月10日)
・「北朝鮮はカンウォンドのどこかでハムギョンプクドに向かってミサイルを打ち上げている。そのミサイルが韓国に飛んでこないのは明白な事実ではないか。戦争は起きないという話だ」(2006年12月22日)
・「(北が弾道ミサイル実験をするのは)米国に譲歩を要求する政治的行為であり、それは世界中が知っている」(2007年7月15日)

このようなノムヒョンの太陽政策に助けられて、北は2006年7月から7発もの弾道ミサイル実験を行いました。 

このミサイルは中距離ミサイルで、日本に対してのものだと言われています。 

すると国内外から批判に対して、日本が騒ぎすぎだと言い放ちました。

むしろノムヒョンにとって、北は同胞。この世で最も憎いのは日本。

ならば北が日本を核攻撃できるようなミサイルを持つこは、米国の眼があるので拍手こそしないものの内心は頼もしい限り・・・、この辺が「太陽」派の本音だったことでしょう。

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このような太陽政策の完成形であるムンは、更に一歩進んで南北融和から「高麗連邦」を構想しています。 

この構想もノムヒョンのコピーです。ノムヒョンは朝鮮戦争を、本来なら「侵略」と呼ぶべきなのに、あえて「内戦」と呼んでいます。 

これは「朝鮮」という一国内部での内乱だという見方で、韓国では北の影響下にある親北派の表現です。 

つまり北と韓国は同一の国家が、たまたま分裂状態でいるにすぎないという認識です。 

ここから北はわが韓国を核攻撃するわけはない、やられるのは日本だけだ、という妙に確信じみた認識が生まれます。 

さらには、北の核を本気で心配していていために、この問題で騒ぐのは米国や日本だけにすぎず、北にプレッシャーをかければ、北の反発を招くから反対だということになります。 

いったいどちらの味方なのやら。

NW記事には、「韓国は、北朝鮮への先制攻撃をほのめかすトランプの発言を、自国の安全保障にとって致命的になりかねない脅威と受け止めた」という一節がありますが、ムンにとっての「脅威」とは北の核ではなく、北に対する米国の攻撃の方なのです。

その理由づけに、いつも出てくるのが「ソウル火の海」論です。

こんなことはわかりきった話で、数十年前から米国は首都の中部移転を勧めています。 

「米軍当局は、そのソウルが「火の海」になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である面が大きいからだ」
「韓国政府は過去40年にわたり、これらの防衛努力を一切行ってこなかった。ソウル地区には「シェルター」が3257ヵ所あることになっているが、それらは地下商店街や地下鉄の駅、駐車場にすぎず、食料や水、医療用具やガスマスクなどの備蓄は一切ない。アイアンドームの導入についても、韓国はそのための資金をむしろ対日爆撃機に注ぎ込むことを優先する始末だ」(NW2018年1月9日)
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/01/post-e3ab.html

いくら警告され続けても首都を中部に移さず、それどころかかえってソウルへの人口集中を続け、危機が高まれば高まったで米国に泣きついて軍事攻撃の足絡みをする、これか一貫して保革を問わず韓国の流儀でした。 

覆水盆に返らずですが、1994年にクリントンが北の核施設を爆撃していれば、今の核の脅威事態が存在しなかったのです。 

このように考えてくると、北を「核保有国」に仕立ててしまった責任の多くは、韓国にあるともいえるでしょう。

それを忘れて、レビ氏のようにムンのお芝居を褒めたたえても議論にならないのです。

■写真  いまの季節はアサザの満開時期です。

 

 

2018年5月23日 (水)

北の「体制保証」の要望に答える担保とは

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昨日の続きは中段の~~以下からお読み下さい。 

ムン・ジェイン閣下の雲行きが怪しくなりました。米朝双方からお前の言っていることは信じるに値しない、と言われ始めたようです。 

北からはこのクソ馬鹿、無能扱いされたことは既報しましたが、こんどはトランプからも、お前の言うことは信じられん、と言われる始末です。 

Photohttp://www.wowkorea.jp/news/korea/2018/0522/10212970.html

「米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は20日(現地時間)、米政府関係者の話として「トランプ大統領は16日、北朝鮮外務省の金桂冠(キム・ゲグァン)第1次官が首脳会談の中止に言及したことに驚き、怒りをあらわにした」と報じた。
さらに「危険を冒して首脳会談を推進するのかをめぐり、ブレーンたちを質問攻めにした」とも報じた。同紙はまた、トランプ大統領が前日に行われた文大統領との電話会談で「なぜ北朝鮮の談話の内容は、南北首脳会談後に文大統領が伝えてくれた内容と相反しているのか尋ねた」と書いた。
 トランプ大統領は南北首脳会談の翌日の4月28日、文大統領と75分間にわたり電話会談を行った。このとき青瓦台(韓国大統領府)は「トランプ大統領は『完全な非核化を通じて核のない韓半島(朝鮮半島)をつくるという実現目標を確認したことは、全世界にとって非常に喜ばしいことだ』と評価した」と伝えた。NYTはこの韓米電話会談について「文大統領が米国に来るまで待っていられない、というトランプ大統領の心理状態を示すものだ」と指摘した。」(朝鮮日報5月21日)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/05/21/2018052103072.html

 トランプは南北首脳会談の翌日の4月28日に、ムンを電話で呼び出して75分も会談内容を問い詰めていたようです。 

その場でムンは会談で、正恩が「完全非核化の意志がある」と答えてしまっています。それでとりあえずトランプは、そりゃ世界にとってメデタイことだと答えました。 

ところが、ご承知のように北の外務次官が5月16日に、そんなことは言っていないとやってしまったわけです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/05/post-8d4d.html 

「先に核放棄、後に補償』方式を触れ回りながら、リビア核放棄方式だの『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『ミサイルの生化学武器の完全放棄』だのという主張を厚かましく繰り返している」
「我々を追い詰め、核兵器を放棄するように一方的に強要するのであれば、我々は協議にはもはや関心を持たず、来る朝米首脳会議に応じるかどうかを再考せねばならない」(AFP5月16日)
 

北は公式に、米国の言うようなリビア方式の非核化の意志などない、会談を流してもいいぞ、と述べたわけで、正恩も首脳会談で言質を取られるようなことは一言も言っていないはずです。 

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それをこの「外交天才」は、脳内翻訳して世界に発信したんですから、罪が深い。 

トランプは訪米前段のムンとの電話会談で、「なぜ北朝鮮の談話の内容は、南北首脳会談後に文大統領が伝えてくれた内容と相反しているのか尋ねた」(朝鮮日報前掲) そうです。

わずか一カ月もたたないうちにバレるようなことを、いやしくも一国の元首が言ってしまうところが、ザ・コリア、これぞコリアですね。 

韓国特有の両属性全開というわけで、コッチにもいい顔、アッチにもいい顔、結局コウモリであることがバレて、双方からフルボッコにされる、という情けない顛末です。 

こういうことが起きると、かえって状況を刺激し、米朝双方共に硬化します。 

こんどは米国が会談を流してもいいぞ、と言い始めました。 

まずは、ペンス副大統領の怒りの一撃です。

「【ワシントン=黒瀬悦成】ペンス米副大統領は21日、FOXニュースの報道番組に出演し、北朝鮮が米朝首脳会談を中止する可能性に言及したことに関し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ大統領を翻弄できると考えているとしたら「大きな間違いだ」と警告した。
 ペンス氏は米朝首脳会談について、「北朝鮮が韓国を通じて非核化の意思を表明し、対話を求めてきたから応じた」と指摘した上で、米国が求めているのは「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」だと改めて強調した。」(産経5月22日)
http://www.sankei.com/world/news/180522/wor1805220013-n1.html

米国の国家安全保障の専門家であるハリー・カジアーニスは、ムンがトランプに「首脳会談を救う」と述べたことに対して、「私は米朝首脳会談は死んだ思う。両サイドはあまりにも離れている」(FOXPence: 'No Question' Trump Still Willing to 'Walk Away' If North Korea Summit Goes South(FOX NEWS insider9)と述べています。

まぁトランプが、丸々ムンのいうことを信じたとは思えませんから、米国政府の「怒り」は交渉の一部だとかんがえるのが妥当でしょう。 

米国は改めて「完全・検証可能・不可逆的な非核化」以外、北の回答はありえないと、北に明言したわけです。 

この部分を米国が譲ることはほぼありえないでしょう。ここまで強いアプローチした以上、米国が譲歩するとは考えられません。 

                                            ~~~~~~~~~ 

■昨日の続きはここから 

さてここで昨日の私の自問自答に戻るのですが、どこにどうやって落とし所を設定するか、です。 

整理すれば、こういうことになります。 

①米国は北の完全非核化を譲歩する気はない。
②北は、現況では完全非核化を呑むつもりはない。
③米朝会談を流した場合、消去法で軍事オプションしか解決手段がなくなる。
④米朝会談決裂の場合も③と同じ。
 

軍事オプション以外の方法としては、長距離核だけを廃棄させて、中距離核は以後の協議に任せる「封じ込め」が、おそらく国務省の考えだと憶測されます。 

この場合、同盟国日本はもちろんのこと、米国にとっても世界戦略の策源地を、北の核の脅威下に置き続けることになります。 

そして、今までの六カ国協議で明らかのように、北は絶対に約束を履行しないでしょう。 

この思考方法では、いずれの方法をとっても、結局、戦争になるしかありません。

その時期が会談直後か、中距離核を残した場合は、将来、米朝軍事衝突が起きた場合に日本は核攻撃を受ける可能性が残ります。 

ここで多くのコリア・ウォッチャーは、その深い専門知識が故に思考停止に陥ってしまっています。 

ではここで観点を変えてみましょう。北の立場から見るとどうなるかです。 

北には米国と軍事衝突する気持ちはありません。また、韓国を軍事侵攻する予定もありません。 

それが、北の消滅に繋がることくらい分かっているからです。 

ならば北の言う「体制保証」とは、金王朝の護持を指すと考えるべきです。 

米国は既に北に対して、体制に手をつけないということを言っていますが、その担保がない以上、そんな口約束なんか信じられるかというのが、北の言い分です。 

2在韓米軍陸軍第2師団

ならば北に「体制保証」の担保を与えればよいだけです。 

それは韓国で不良資産になりかかっている米陸軍第2師団と、ふたつの空軍基地を撤退させることです。 

空軍基地は対中対応で残しておいても意味があるでしょうが、フル編成(大分、イラク・アフガンに抽出されていますが)の陸軍第2師団は塩漬けと化して久しい存在です。 

私が塩漬けと呼ぶのは、北からの侵攻がほぼ考えられないにも関わらず張り付けられていて、しかも対北以外に使い道がないからです。
第2歩兵師団 (アメリカ軍) - Wikipedia 

韓国は間抜けにも駐留経費の半分以上出しているぞ、などと言っているようですが、在日米軍はマルチに使えますが、在韓米軍は韓国防衛の単目的なのです。

駐留経費もさることながら、国防費削減の折りに、こんな大きな軍事的リソースを塩漬けにするわけにはいきません。

米軍もそれをよく分かっていて、在韓米軍を縮小していますが、米軍内にはさっさと戦時統制権を返還しちまって、こんな反米デモはかりの韓国から出て行こうぜ、という気分が濃厚にあると聞きます。 

それはさておき、北にとって「体制保証」の前提は、「朝鮮半島の非核化」が前提だと言い続けていますが、それは米軍基地に核が再搬入されることを恐れているからです。 

在韓米軍基地には核保管庫もありますし、ただ核の有無は公表しなだけのことです。 

米国は、現在政策的に朝鮮半島に核を持ち込んでいませんが、いつでも政策が変更されれば持ち込むことは可能です。 

また通常戦力においても、北など足元にも及ばない軍事力を在韓米軍はもっています。 

これが正恩の恐怖の根源です。 

だったらこの「恐怖の種」を取り除いて正恩の気を楽にしてやればいいのです。 

一方、在韓米軍が晴れて撤退できるには、こちらも担保が要ります。

それが北は二度と絶対に韓国に侵攻しませんということを条約化した「米朝平和条約」、及び「朝鮮戦争平和条約」の締結です。

それが締結されれば、米朝国交樹立、大使交換、大使館設置などの一連の外交正常化措置がなされます。

いままで米国が出している飴は、経済制裁解除と経済支援ですが、それに加えて以下の「体制保証」の担保を与えることになります。

その追加担保を整理しておきます。

①在韓米軍撤退
②米朝平和条約・朝鮮戦争平和条約
③米朝国交樹立などの外交正常化措置

この三つはパッケージです。ひとつがかけても成立しません。在韓米軍を撤収させて、米朝平和条約が成立していなければ無意味だからです。

そして言う必要はないでしょうが、「完全・検証可能・不可逆的非核化」が唯一の条件なのはいうまでもありません。

正恩がこれもイヤなら、もう処置なしです。

どこかの地下司令部で、核弾頭つきバンカーバスターのターゲットになることを恐怖して一生を送る未来しか残らなくなります。

 

 

 

 

 

 

2018年5月22日 (火)

米国が在韓米軍撤収を交渉材料にする気だとしたら

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昨日の記事を脱稿してから、考えるともなく考えていました。 

選択肢は、ほんとうにこれだけなのだろうか。 

先日の記事で、「米朝会談の4つのシナリオ」を上げてみました。
関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/05/post-edc1.html 

・[シナリオ1] 北朝鮮が受諾した場合・・・非核化の解決。核査察・解体・撤去の開始
・[シナリオ2]  条件つき非核化の場合・・・対話延長か?
・[シナリオ3 ]北朝鮮が拒否した場合・・・①軍事攻撃②経済制裁強化③海上封鎖
・[シナリオ4] 会談自体を流す。

これがほとんどのコリア・ウォッチャーが言う最大公約数です。

実はこのいずれのシナリオにも、ひとつ大前提があります。

思い込みと言い換えてもけっこうですが、それは米国が現在の東アジアの勢力図を刷新する気がない、というものです。 

つまり、日米同盟が基軸となって、方や米韓国盟があり、そのふたつが米国をブリッジにして対中・北と対峙しているという構図です。 

私は、仮に米国がこの構造を放棄する気なら、先に上げた4つのシナリオは根本的に成り立たないと思い当たりました。 

あくまでもこのシナリオは、米国が同盟国である日韓を防衛するというのことが当然だとする前提に立っているからです。 

ここでひとつの問いです。では、米国がそう思わなくなっていたとしたらどうしますか? 

いえ、先走らないで下さい。米国が日本と同盟関係を捨て去ることは、米国が巨大な島国国家になって、米本土に閉塞した時のことです。 

それは現時点ではまったく考えられません。

米国が覇権を捨て去る時が、日米同盟の終了の時であって、逆に言えば世界の半分(その中には中東とアジアが含まれますが)に戦力投射できる策源地としての日本の戦略的位置は米国にとって必要不可欠な存在だということてす。 

では、もうひとつの同盟国である韓国はどうでしょうか。 韓国の戦略的意味は薄弱で、駐留しているのは純粋に北の侵略をブロックするためにいるのです。

ですから、日本にいる米軍がアジア本社だとすれば、韓国はその出張所ていどの位置づけでしかありません。

率直に言いましょう。憶測の域をでませんが、私は米国は韓国を捨て去る気であると感じています。 

韓国という国家は、南北統一の流れの中に消えていき、北主導の「高麗連邦」がそう遠からずできる、今はその過渡期にすぎないと、米国が観察している節があります。 

パク・クネ政権は、THAADで例の「3つのノー」という重大な裏切りを働きました。

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パク・クネはTHAADの配備をこれ以上しないと中国に約束したばかりか、日米間の防衛協力を軍事同盟に発展させないとまで約束してしまいました。

現況で軍事同盟として機能しているものを、こともあろうに仮想敵国の圧力に屈して同盟者の米国の了解なく責務を放棄したわけです。 

ミァシャイマーはこのような韓国のことを、経済的には独立していても政治・外交で支配されている「半主権国家」というような表現をしていますし、ルトワックに至っては守る義理はもうないという言い方すらしています。

このようなことを仕出かしても、自分がなしたことの愚かしさに気がつかず、自分の存在は米国にとっても意味があるから平気さぁとぬけぬけと思う、それが韓国という国の耐えられない軽さです。 

米国はこの時点で、韓国を同盟関係から「準同盟関係」にまで引き下げ、さらにはその放棄すら念頭に置いたと思います。 

それは米国にとって、THAAD配備は巷間いわれるように、中国内部の弾道弾発射を探知する目的だけで始めたわけではないからです。 

それだけなら、日本にあるMD探知網で対応可能です。 

あえて韓国内にTHAAD配備を振ったの東アジアミサイル防衛システムを作ることで、同盟関係を再構築する気だったからです。 

いわば、米国は韓国に同盟のストレス・テストを仕掛け、韓国は保守政権であったにもかかわらず見事なまでにそれを裏切ったことになります。 

そして一連の親北派によって計画されたとされるろうそくデモによってパク・クネは失脚し、北に対するシンパシーを隠そうともしないムン・ジェイン政権が生まれます。 

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ここで米国は、韓国を防衛する意義をほぼ完全に喪失したと思います。 

ならばもう、在韓米軍将兵を駐留させておく理由はないではないか、反米運動の標的になってまで韓国にいる意味があるか、米国はそう思ったはずです。 

問題が残るとすれば、米国が同盟国を「捨てた」と国際関係の中で認識されることです。これは覇権国の威信に関わりますから、是非とも避けたいところでしょう。 

ところがそれを回避する唯一の方法があります。 

それが朝鮮戦争の終結宣言、そして米朝平和条約の締結です。 

これが成立すれば、北が韓国を侵略することはあり得ない以上、米韓同盟を維持する必然性はなくなり、在韓米軍は自動的に撤退の運びとなります。 

この米国のオファーは、北にとっても、その後ろ楯に復帰した中国にとってもたまらなく魅力的なはずです。

なぜならこれこそが、中国と北が口を揃えて言う「北の体制保証」「朝鮮半島の非核化」という要求に答えたことになるからです。 

その場合、北が米国の要求する「完全・検証可能・不可逆的非核化」を拒否する理由は完全に消滅します。 

また北にとって国内向けにも、米国を会談に引き出して、平和条約と左韓米軍撤退という大戦果を引き出したことを大いに喧伝できるでしょう。 

つまり正恩のメンツも立つのです。

このように考えてくると、米国がギリギリまで圧力鍋の中で北を煮詰めて、最後の最後に在韓米軍撤退と北の完全な核の放棄をバーターにする可能性はあると、私は思います。

これについてはもう少し続けます。 

 

2018年5月21日 (月)

トランプ政権の新閣僚シフトが意味するもの

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米朝会談まであと3週間を切りました。この時期、恒例のさや当てが盛んに行われています。 

トランプは、この間やっと共和党内をまとめきった自信の現れか、いままで共和党主流派から押しつけられてきた閣僚人事を自分の考えが行き渡るように切り換えています。

米国は「頭の硬い」マクマスターを解任し、ボルトンを補佐官に据え、融和方針に傾斜していたティラーソンの首を切って、前CIA長官のポンペオを国務長官に起用しました。
 

そして新たなCIA長官には、「ラングレーの鬼女」(私の命名)ことジーナ・ハスペルをCIA長官に指名しました。
ジーナ・ハスペル - Wikipedia

トランプが嫌いなCNN(5月18日)はこう報じています。 

「ハスペル氏はCIAで33年のキャリアをもち、そのうち32年は秘密工作を担当した。元情報当局者の幅広い支持も得ている。
一方、一部の民主党議員や人権団体などは、同氏がブッシュ政権時代にテロ容疑者の拘束や過酷な尋問に関与したことを問題視していた」

https://www.cnn.co.jp/usa/35119395.html

 PhotoBBC  ジーナ・ハスペルCIA長官

彼女はタイにおけるテロ容疑者の拷問に関わっていたとされています。
 

NYタイムズは、このように述べています。 

「2002年、秘密工作員だったハスペルは、2人のテロ容疑者への拷問を監督し、タイにあった極秘の収容所で撮影された残忍な尋問の録画テープを(証拠隠滅のために)破壊する命令に関与していた」と指摘している」 

一方、ハスペルは、議会の承認を受ける際に、以後今までのような「強化された尋問」はしないと議会に一札入れたようです。ということは、やってたんですな(苦笑)

「ハスペル氏の承認に賛成した民主党議員の一人、マーク・ワーナー議員(バージニア州選出)は、ハスペル氏がいわゆる「強化された」尋問手法を決して使うべきではなかったと後悔していたと指摘。今後はたとえ大統領が強く要求したとしても、そのような尋問は決して行わないとハスペル氏が誓ったことを、自分の判断理由に挙げた。
ワーナー議員は議決前の演説で、ハスペル氏について「大統領に何を言われても反対することのできる、そして反対するだろう人物だと確信している」と評価。「この大統領がもし、拷問回帰など違法なことや非道徳的なことを命令しても、権力に向かって真実を語ることができる人だと思う」と述べた」(BBC5月18日)

 ボルトン-ポンペオ-ハスペルの新閣僚人事が指し示すのは、疑う余地なく従来の国務省主導の外交政策を放棄したということです。 

北に対する国務省の外交方針は、特別代表をしていたジョセフ・ユンに代表されます。 

「日米外交筋は「ユン氏は米政権で最も北との対話重視のニュアンスを出していた」と語る。北朝鮮への挑発を繰り返すトランプ大統領に不満があったとみられている。
ユン氏は昨年9月15日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した直後、核実験やミサイル発射を60日間行わなければ米朝対話に応じる考えを伝えていた。だが、北朝鮮が挑発行為を控えていた中、トランプ氏は11月20日に北朝鮮のテロ支援国家再指定を発表。北朝鮮側がユン氏とのチャンネルを重視しなくなったとの見方もあり、12月上旬には元国務省情報調査局北東アジア室長のジョン・メリル氏が北京で北朝鮮と極秘接触した」
(産経3月1日)

https://www.sankei.com/politics/news/180301/plt1803010038-n1.html

Photo_4ジョセフ・ユン(右)とビクター・チャ( 松井大阪府知事と植村隆氏みたい)

このユンは去年の早い時期から、北欧が介在したバックチャンネルを使って北との水面下との交渉の責任者でした。 

「北朝鮮との極秘協議を主導したのは米国務省情報調査局のジョン・メリル=元北東アジア室長。「トラック1.5」と呼ばれる官民合同の意見交換会の形をとったとされる。北朝鮮側の出席者ははっきりしないが、対話の再開条件や枠組みなどについても協議したとみられる。
直後の12月12日にティラーソンは講演で「前提条件なしで北朝鮮との最初の会議を開く用意がある」と発言した。メリルらの報告を踏まえ、対話再開に向けたシグナルを北朝鮮側に送った可能性もある。
米朝間では、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表と北朝鮮外務省の崔善姫米州局長も度々接触しているとされる」(産経1月4日)

 おそらく去年秋頃から韓国の冬季五輪を使っての北と韓国の融和路線に並走するようにして、北との秘密接触が行われたようです。

この動きは日本のメディアの「日本だけ蚊帳の外」論として、安倍叩きの絶好の材料となったことは記憶に新しいことです。 

たとえば代表的な「蚊帳の外」論はこうです。 

「米国はとっくに北との対話に向かって動いており、今回の南北高官級会談の開催という新展開も、米韓中露さらにカナダも含む国際的な対話醸成努力の成果と見ることもできる。そうしてみると、米国を盟主と崇めてその斜め後ろに控えて、韓国を叱咤激励しつつ北に対する国際包囲網を作り上げているというのは、日本だけが思い描いている虚像で、実は朝鮮半島問題の対話による解決のための国際的包囲網が作られつつあって、そこで包囲されているのは唯一人、対話を拒否している日本なのである」
(高野孟「日本だけが蚊帳の外。北朝鮮問題の対話路線に乗り遅れた安倍官邸」2018年1月18日)

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高野氏たちにはお気の毒ですが、「日本だけが描いている虚像」は、実は逆に「日本メディア・野党だけが描いている虚像」でしかなかったことが、彼らが否定したくてもできないほど明らかになったのが、今回の新人事です。 

今や北との融和路線を閣内で唱えているのは、かつて就任した際に「軍人内閣」だと騒がれたマティス元海兵隊大将だけというのも皮肉です。 

そして更に追い打ちをかけるようにして、空席だった米国の駐韓国大使に、ハリー・ハリス太平洋軍司令官(大将)が指名されました。
ハリー・B・ハリス・ジュニア - Wikipedia

あまりこれを強調すべきではないと思いますが、ハリスは母親が日本人で横須賀生まれです。ただし2歳で米本土に移住しています。

パイロット出身で、実戦経験もあります。

また多くの米国の将官に共通するように、ハーバード、ジョージタウン、オックスフォード大学などの大学院で学んでいます。

見た目はまるで日本人で、ユンやチャが見た目はコリアというのと対照的ですね。

Photo_5ハリー・ハリス新駐韓国大使(現米海軍太平洋軍司令官) 

「トランプ米大統領が18日(現地時間)、対中国・対北朝鮮強硬派のハリー・ハリス米太平洋司令部司令官を駐韓米国大使に指名した。
ホワイトハウスはこの日、ホームページを通じてトランプ大統領の主要人事内容の中でハリス司令官の指名を知らせた。米上院承認聴聞会を通過すれば駐韓米大使として公式的に赴任する。駐韓米国大使はトランプ大統領の就任から16カ月以上にわたり空席だった。 
ハリス司令官はその間、北朝鮮に対して強硬発言をするなど「対北朝鮮強硬派」に分類される。トランプ大統領が6月12日の米朝首脳会談を控えてこうした人事を決定したのは注目を引く」(中央日報5月19日)

http://japanese.joins.com/article/528/241528.html

 実はトランプ政権は就任してから1年たっても、駐韓大使を指名できないでいました。 

いままで、最有力と見られて、韓国からアグレマン(内定合意)まで取っていたのがビクター・チャです。

「米政府はチャ氏を駐韓米国大使に内定し、昨年12月には韓国政府にアグレマン、すなわち任命同意を要請して韓国政府は直ちに承認手続きを完了していたことが分かっている。アグレマンまで受けた大使内定者を指名しないのは非常に珍しい」(中央日報1月31日)
http://japanese.joins.com/article/091/238091.html?servcode=A00&sectcode=A30  

さきほど上げた国務省のユンとチャには共通した考えがあって、いわば「封じ込め」派で、このような考えです。 

戦争となれば、ソウルは火の海となる可能性があるし、日本も無事では済まないだろう。在韓米国人も危険にさらされる。 

ならば、同盟国を危険にさらす軍事攻撃はしないほうがよい。中国やロシアと協調して、北の核拡散を防ぐほうが現実的だ。

ユンやチャの考えは、米国国務省の主流の考えかたで、日本でも元外交官評論家や国際政治学者では三浦瑠麗氏などが同様のことを述べています。

ひとことで言えば、秘密裏に対話を継続しつつ圧力を強化していくところまでは、トランプと一緒ですが、米朝首脳会談で北と決定的に決裂した場合の「次の段階」が異なります。

国務省派と仮に名付ければ、彼らの「次の段階」は交渉は継続しつつよりいっそう強い国際協調による「封じ込め」を選択するでしょう。 

一方、新たなトランプシフトの「次の段階」はひとつしかあり得ません。

・・・それは軍事行動です。

 

2018年5月20日 (日)

日曜写真館 立てばしゃくなげ

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2018年5月19日 (土)

北から愛想づかしされた韓国の悲哀

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つい数週間前までノーベル平和賞最有力候補とまでオダてられていた、ムン・ジェイン閣下の雲行きが怪しくなりました。 

ブルームバーグ(5月17日)です。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-05-17/P8VBU56K50XU01 

「国営朝鮮中央通信(KCNA)は17日に英語で発表した声明で、韓国当局者は「無知無能な集団であることをさらけ出した」と非難。韓国当局は「北朝鮮最高指導部の尊厳と体制を、人間のクズどもが国会の場で傷つけるのを容認した」と続けた。 
その上で、韓国との「閣僚級会談の中止に至った深刻な状況が解決されない限り、韓国の現政権と再び交渉の場で向かい合うのは断じて容易ではない」と警告した」

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とうとうムン閣下は北から、「無知無能の人間のクズ」呼ばわりされたうえで、「南北閣僚級会談が吹っ飛んだ理由を考えてこい。それまでは次の会談はない」と愛想づかしされてまいました。 

この間の昨日取り上げた北のキム・ゲグファン外務次官の発言は、内容もさることながら、今までムンに言わしていたことを、ダイレクトに北の外交当局が公式に発言し始めています。 

つい最近までこんな感じだったのが、なぜか大昔のような気がするから奇妙なもんです。 

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まぁ、一言で言えば、ムンは北にとってもう用済みだということですね。 

北にとってムンは、米国を直接対話に引っ張りだすためのフック(釣り針)でした。 

北はとうに韓国が、軍事的にも政治的にも脅威ではないと見切っています。 

韓国の繁栄は、北の存在によって大陸から遮断された地政学的意味での疑似「島国家」になったことによります。 

また、冷戦期は反共最前線国家がゆえに、大規模な米軍駐留や日本からの経済支援を受けてきました。 

南は民族分断の甘い汁をひとりで吸ってきた。この偽りの繁栄は、オレたちが居たからだろう、コノヤローと正恩は言いたいのです。 

この北の鬱屈した感情は、北が韓国を吸収して「統一国家」とすることでのみ、解消されます。 

北の眼からみれば、世界最強の米国とサシで渡り合っているのは自分だけであって、日本はトランプのゴマすり、ムンなどはパシリにすぎないと考えているはずです。 

ですから、冬季五輪を最大限に使い、米国を引き出せばもうムンなどはもはや邪魔だからさっさと目の前から消えてしまえ、ということです。 

またそのうち高麗連邦でもテーブルに乗るようなら、声かけてやるからな、てなもんかもしれません。 

一方、韓国は南北統一のバラ色の夢に酔いしれていました。

「与党「共に民主党」が6月の地方選挙に合わせて出した公約には23件の対北朝鮮事業が盛り込まれている。直接的な経済事業ではないものもあるが、費用が伴うものが多い。開城(ケソン)工業団地再稼働と金剛山(クムガンサン)観光再開のように韓国政府が「圧迫カード」として使わなければならないものから豆満江(トゥマンガン)地域の南北中ロ共同開発計画のようにさまざまな国の同意を得なくては始められない事業まで混ざっている」(中央日報5月16日)
http://japanese.joins.com/article/425/241425.html 

この火付け役はムンです。ムンは南北の統一を念頭に置いた共同事業ブロジェクトを考えていました。 

それが、ムンが正恩に直接USBメモリで手渡したとされる「韓半島新経済地図」です。 

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「韓半島新経済地図が実現されると、ガス代が今の4分の1に減り、日本の輸出物流を吸収するなどの経済的利益が非常に大きいという分析が出た。新経済地図は先月27日、南北首脳会談の際ムン・ジェイン大統領がキム・ジョンウン北朝鮮国務委員長に渡したリムーバブルストレージデバイス(USBメモリ)に込められたものと伝えられた。
キム・ジンヒャン開城工業地区支援財団理事長は2日、 tbsラジオ「キム・オジュンのニュース工場」に出演して新経済地図の実現した効果を説明した。
新経済地図はファンソベルト(木浦-仁川-個性-て-新義州-大連)、環東海ベルト(釜山-浦項-雪岳山-原産-羅津及び先鋒-清津-ロシアのウラジオストク日本新潟を含む)、国境地域のベルト(仁川-江陵-咸興)で構成されている。これらを接続すると、「H」字型となる。 」(韓国日報5月2日 ブログ楽韓様訳による)

実はこれはかねてから韓国内にあった構想の焼き直しです。かなり前からシべリア原油を極東に持ってくるプラン自体はありました。

D0007923_2232167現在、第1段階の建設工事が行われている(ジェトロ資料より)

うまく行きませんでしたが、父親の正日は当時の大統領だったメドベージェフと、北経由のパイプラインの協議をおこなっていますし、ロシア-中国のパイプラインは現実化しています。

プーチンは売れれば、どこだっていいので、もちろんこの朝鮮半島ルートも検討しています。

韓国としては京義線を延長させて、開城工業団地を経て中国にまでつなげ、さらに東海線も延長させてシベリア鉄道につなげるという計画です。 

つまり一方で中国が進めている一帯一路に乗って西に鉄道を伸ばし、方やロシアからはシベリア原油パイプラインをヨーロッパをつなげるラインを作ろうというものです。 

もちろん、鉄道とパイプラインはワンセットですから、ユーラシア大陸を横断する巨大なエネルギー・物流ルートができるぞ、マンセーイということのようで、まことに気宇壮大ではあります。 

0000297575_002_20180503044915403_3韓半島新経済地図

なるほど確かに、北朝鮮との障壁がなくてって自由往来できるようになれば、晴れて疑似「島国家」から脱して大陸につながることは確かです。

かくして韓国は凡ユーラシアルートの中継拠点として栄え、太平洋側からも日本のヨーロッパ便を吸収し、まさにユーラシア大陸の21世紀の扉となるあろう!ジャジャーン♪(音楽高まる)

日本はヨーロッパへの窓口となったコリアに頭をすりつけて、どうかコリア様、これを使わせて下されと土下座するであろうな、おー気持ちいい、というところでしょうか。 

かつての日本は、東京駅から門司、玄界灘を渡って、朝鮮半島経由で旧満州、中国にいけましたし、シベリア鉄道に乗り換えればヨーロッパまでも鉄道だけでいけたのですから、まんざら絵空ごととも思えません。 

ちなみに母は戦前、このルートで東京駅から切符を買って、父の赴任先だった北京に行っています。 

ま、ムン閣下のバラ色の夢を壊すようでナンですが、そうはならんでしょうね。

だって、今の日本は特に鉄道便でヨーロッパに輸出する必要はないんですよね。船便もあれば、航空便もありますもんで。 

D0007923_2214935日本エネルギー経済研究所資料より

もそも我が国には、かねてからロシアのサハリンからダイレクトに北海道経由で原油パイプラインを伸ばそうという案もあります。

諸事情で実現には至っていないのですが、建設されれば、別に朝鮮半島ルートよりはるかに近距離で原油の輸入が可能となりますので、別に韓国の手を煩わせる必然がありません。

それはさておき、このようにヒートする一方の韓国を尻目に、北からは「無知無能、人間のクズ」呼ばわりですから、まことにお気の毒です。 

北にとって、このような「融和ムード」はカッコつきです。それはかならず南から北へのヒト・モノ・カネの移動を伴うからです。 

ムンの構想に乗ろうものなら、南からハデハデのKポップや映画が流れ込み、資本主義の匂いをムンムンとさせたエゲつなさでは世界指折りの韓国商人たちがなだれ込んで、北の豊富な鉱物資源や安い労働力を食い散らすことは目に見えている、そう正恩は考えているはずです。

正恩は改革開放経済をやると中朝会談で習に言ったそうですから、それなりにやる気はあるのでしょう。

「正恩氏の発言は、米朝首脳会談で体制保証の確約が得られれば、非核化と経済再建に同時に取り組む意思を示したものとみられる。
正恩氏は習氏に、非核化への意欲を示しつつ「私は今後、改革・開放政策を採用する」と表明した」(読売5月19日)
https://news.nifty.com/article/world/worldall/12213-20180518-50148/

しかしそれはあくまでも対中貿易のお話です。同民族の韓国のイニシャチブで開放改革したら、金王朝はお終いです。 

あくまでも北にとっての「統一」とは、北が圧倒的なヘゲモニーを握っての統一であって、このようなものではありません。

というか、今の北にとって、統一に浮かれるどころではありません。南北融和はトランプを呼び込むあくまでも大道具にすぎません。

米朝首脳会談を実現した以上、もうムンには用はない、それが北の今の意志だということのようです。

 

2018年5月18日 (金)

北が米朝会談を流すと言い始めたが・・・

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北が米朝会談を拒否すると言い出しました。なかなか面白い展開です。 

「米が核放棄強要なら首脳会談「再考」 北朝鮮外務次官
【5月16日 AFP】(更新)北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)第1外務次官は16日、米国が北朝鮮に核兵器の放棄を一方的に強要するなら、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ米大統領の首脳会談を取りやめると警告する談話を発表した。国営の朝鮮中央通信が伝えた。
 金外務次官は談話の中で、トランプ政権が「我々を追い詰め、核兵器を放棄するように一方的に強要するのであれば、我々は協議にはもはや関心を持たず、来る朝米首脳会議に応じるかどうかを再考せねばならない」と述べた。
 朝鮮中央通信は同日これに先立ち、米韓合同軍事演習を非難した上で、この日予定されていた南北閣僚級会談を中止すると表明。米国に対しても「この挑発的な軍事騒動を踏まえ、予定されている朝米首脳会談の運命について熟慮しなければならない」と警告していた。
 米国は北朝鮮に対して「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」を求めているが、北朝鮮はこれまで、どういう譲歩をするかについて公には一切示していない
 金外務次官は「我々はすでに朝鮮半島の非核化に向けた用意があると表明しており、米国が我が国に対する敵視政策と核による脅威を終わらせることが先決だと繰り返し明言してきた」とも指摘。
 また、北朝鮮の核放棄の具体的道筋について「リビア方式」を主張するジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)を非難し、「リビアやイラクの運命を我が国にも押し付けようとする極めて邪悪な試み」だと断じた」(太字引用者 AFP5月16日)
 

Ok___1
このキム・ゲグファンは、よく名前が出てくる北の外交畑のトップですが、北の外交部は党、つまりは正恩が絶対的に優越するために、日本の外務省と比較すべきではありません。 

しかし、米朝の水面下での交渉で何がデッドロックになりかかっているのかが分かって興味深いと思います。 

それは一つ目は、停戦協定交渉時によくある「どちらが先か」論です。米国が主張する非核化が先か、経済制裁解除が先か、です。 

米国はボルトンが言う「リビア方式」が完了してから、経済制裁を解除するつもりでいます。

ボルトンはクソミソに言われています。

キム次官に言わせると、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」なんてとんでもない、オレらはお前らの言うこと聞いて下水管で殺されたリビアのカダフィみたいにはならんぞ、ということのようです。元気のいいことです。

CVIDについての正式な北の見解を聞いたのはこれが初めてです。聞く限り完全拒否のようです。

「ボルトンをはじめ、ホワイトハウスと国務省の高位官僚は『先に核放棄、後に補償』方式を触れ回りながら、リビア核放棄方式だの『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』だの、『ミサイルの生化学武器の完全放棄』だのという主張を厚かましく繰り返している
「これは対話を通じて問題を解決しようとするものではなく、本質において大国に国を丸ごと任せきりにして、崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳高い我々に強要しようとする甚だ不純な企てだ
「われわれは、朝鮮半島の非核化の用意を表明し、そのためには米国の敵視政策と核脅威による恐喝を終わらせることが先決条件になると数度にわたって明言した」(時事5月16日)

米国は軍事的圧力と経済制裁の二本立てで、ここまで北を追い詰めました。 

ではどちらが重いのでしょうか?キム次官はこう述べています。 

まず経済制裁、あるいは経済支援についての言及と思われる箇所です。

「米国はわれわれが核をあきらめれば経済的補償と恩恵を与えると騒いでいるが、われわれは一度たりとも米国に期待をかけて経済建設をしてことがなく、今後もそのような取り引きを絶対にしないだろう」(朝鮮中央通信5月16日)

なんと、北は経済支援なんていらない、とのたまうていることになります。 

こりゃたまげた。ひょッとして考えすぎかもしれませんが、日本に対して言ったのだとすると、なおさら興味深いものがあります。 

ただし、今の経済制裁については「敵視政策をやめろ」で一括されているのかもしれないので、経済支援とは別枠かもしれません。 

つぎに軍事圧力ですが、こんなことを言っています。 

「われわれは既に朝鮮半島非核化の用意を表明したし、そのためには米国の朝鮮敵視政策と核による恐喝をけりをつけることがその先決条件になるということを、数回にかけて明らかにしてきた」 (同上)

北はここで彼らのいう「非核化」の意味は、米国の北敵視政策の放棄と核の脅威の除去だと言っています。 

北の「非核化」とは相互に非核化を図るというもので、北を非核化をさせたいなら、米国も北の要求を呑めということを言っているわけです。 

前者の「米国の対北敵視政策」とは、伝統的に在韓米軍と米韓合同軍事演習を指しますから、北がその撤退を言い出していることが分かります。 

これに対して安倍氏は強くトランプに止めるようにと日米首脳会談で説いたとされますが、トランプは元々在韓米軍撤退論者でしたから、この縮小、ないしは撤退も取引材料に使いたいのは山々でしょうね。

北にとっても、その後楯に復帰した中国にとっても、在韓米軍撤退は魅力的提案には間違いないでしょう。

後者の「核による恐喝」とは、意味不明です。 

というのは、米国はとうに韓国から核を撤去しています。今後の配備予定があるならともかく、そのようなものはありません。 

何をどうしたいのか、具体的に指摘しないと、ひょっとして米国本土のICBMか、潜水艦発射SLBMか、はたまたグアムのB2のことかと、いくらでも拡大解釈が可能です。 

北はどうやら、既に自分は一人前の「核保有国」なのだから、米露核軍縮協議の北朝鮮バージョンをしろと言っているのかもしれません。 

ちなみにこんな核軍縮協議なんぞを始めると、半世紀はかかります。 

そもそも膨大な核ミサイルを保有する米露なら核軍縮協議にも意味がありますが、せいぜいが多めに見ても数十個しかなく、しかも投射手段も満足に完成していないような北相手に、米国がうなずくはずがありません。 

北の核技術は米露を高級車とするなら、電動アシストつき自転車の段階になったかならないかていどなのですから。 

高級車を何万台も持っている米国が、ママチャリと交換に応じる道理がありません。

いや、待てよ、ミニットマン数十発と北の核全部の等価削減なら、米国にとってお安いご用かもしれませんがね(笑い)。

いずれにしても、核と核原料、その製造装置がどこにあって、どのような状態なのかを国際機関に開示せねばなりません。この核査察が核軍縮交渉の大前提だからです。

米国の核の脅迫を排除したいなら、自分の国も核査察を受け入れねばならないのです。軍用核兵器の査察が可能なのは米露中の軍人専門家だけです。

外国軍人が自由に国中を走り回り、自由に査察するのです。これが認められなければ話になりません。

独裁国家としては、けっこうハードルが高そうですが、大丈夫でしょうか、北さん。

というわけで、いままでムンから「任せなさい!北の非核化の意志は硬いですよ」という妙に甘ったるい伝言を聞かされ続けてきただけに、北の言っていることが直接に聞けて大変にけっこうでした。

このようなことをこの時期に、北の外交官トップが言うところを見ると、まだまだ合意のはるか前のようです。

 

 

 

2018年5月17日 (木)

「ポスト翁長」時代に望まれるものとは

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こういう言い方をするのはまだためらわれますが、「ポスト翁長」を考えねばならない時期に来ているのは万人の目にも明らかです。 

基本的には、かつて書いたシナリオを大きく変更する必要はないようです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-f4c0.html 

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さて、翁長氏には蛮勇の破壊者の側面があります。それは保革双方に対してです。 

翁長氏がまず破壊したのは、利権とポスト配分にあぐらをかいていた沖縄保守でした。 

その根っこには、米軍基地があってこそ振興予算が島に流入するという隠微な関係がありました。 

このような中から、基地と振興予算をめぐる利権の温床が生じました。このように基地をリアルな安全保障問題としてとらえられないような「眼の曇り」が、保守内部にもあったのです。 

沖縄県管轄地域が国際紛争の現場となる可能性があるにもかかわらず、沖縄保守、いや自民党沖縄県連と名指ししてしまいますが、驚くほどその危険性に鈍感でした。 

それは沖縄保守県政において、離島防衛に対しての意識が生まれず、尖閣から宮古・八重山を経て沖縄本島までの巨大な空間が、安全保障の空白地帯として残ったままだったことでも分かります。

島の自民はむしろ反対派がハネてくれれば、それを口実に予算がぶんどれる、ていどの隠微な読みがあったような気がします。

これは本土の55年体制において、社会党が反安保闘争を激化させれば、政府が米国からの要求に言い訳が立つと考えていたような阿吽の関係に似ています。

かつて翁長氏が寝返るに際して「基地を押しつけるならカネはいらない」と言ったことを、私はほほぉという気分で聞いたことを思い出します。 

また、朝日とのインタビューの中で、「革新は戦ったことで精神的に満足している。政治家は結果だ」と言ってのけた時には、思わず拍手すらしそうになりました。 

まことにそのとおりで、翁長氏は沖縄の宿痾が「基地とカネ」にあることを喝破していたことになります。 

ならば、その利権の構造の中心にいたがゆえに、その汚泥の臭みを最も知り抜いた翁長氏が、オスプレイ反対・辺野古移転阻止を戦ったらどのようなことになるのか、私の関心はそこにありました。 

私は、翁長氏が左翼好みの美辞麗句を言いながら、面従腹背をするのを待ちわびていたのです。 

どこで自民党県連では実行不可能な腹芸を繰り出すのか、待ち焦がれていました。 

特に、一昨年の裁判所が仲介した実に10カ月にも及ぶ「和解」期間において、いかなる寝業を見せてくれるのか、心密かに期待していたものです。

この翁長氏への「期待」は、何度か記事にしました。 

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結果は、ご承知の通りです。菅官房長官が毎月定期的に沖縄に通って来るという、これ以上ない機会がありながら、指をくわえていたのです。

翁長氏がこの10カ月間に紛争の解決に向けて、何か能動的に動いたという記録はありません。ただ、反対派と同じ怒りと怨念を、本土政府にぶつけたにとどまりました。 

こんなことなら革新知事にもできます。それはなぜでしょうか?

理由ははっきりしています。翁長氏が共産党を甘く見たということです。 

共産党はいかなる状況にあっても基本方針の変更を拒むことでこそ、純粋な「革命党」でありえるという秘密に気がつかなかったことです。 

このような「革命党」を自らの手足としてしまえば、翁長氏に選択の自由は存在しません。

翁長知事が言えるのは、わずかにオスプレイ反対と移転阻止の二つだけだったのです。 

翁長氏には「オール沖縄」が降ろしてくる方針を、そのまま実施する以外になにも出来なかったはずです。 

2016122301政府の北部訓練場返還式典を欠席して参加した反対派集会での翁長氏と稲嶺前市長

知事という「黄金の檻」に閉じ込められた共産党の操り人形、それが翁長氏でした。 

翁長氏が「基地を押しつけるならカネはいらない」と吠えたことは、弊履のごとく捨て去った自民党県連に対するあてつけだったでしょうが、それは一面の真理です。 

ただし翁長氏の致命的欠陥は、ひどい経済オンチだったことです。おそらく氏には、県の経済とは基地利権だていどの理解しかなかったはずです。 

翁長県政は、自らの構想と力で沖縄経済を刺激し、浮揚させることをしませんでした。 

この傾向は翁長氏が飛び込んだ革新陣営においては更にひどく、彼らはまるで「資本主義を憎んでいる」ようです。

この体質は、共産党が主力だということと、自治労、沖教組という食いっぱぐれがない「親方日の丸」の人たちがその中心だったためです。

たとえば伊波洋一氏などが選挙公約で、県最低賃金の倍増と言いだした時には失笑しました。

景気の浮揚を伴わない政治的賃上げでは、地場産業は軒並み破綻するのは目に見えています。今の韓国のムン政権と同じです。

経済を活性化させる中から、失業率を地道に減らしていき、そのことによって起きる労働力不足による賃上げを展望するのでなければ、絶対にうまくいきません。

そういう彼らが「独立」を叫ぶのは笑止です。

もし本気で「独立」を希求するなら、それは与えられるものではなく、自らが自分の足で経済を支えることができてこそ初めて獲得できるものです。

独立とはとりもなおさず、強い自前の経済力をもつことであり、大国の干渉に負けない自前の軍隊を持つことのはずなのですが、彼らはそのいずれも忌避してきました。

今の琉球独立派は、北京で会合を持つような人たちにすぎません。

「翁長時代」は、このような左翼陣営に権力を握らせたらどのような結果になるのかを明らかにしました。

このように考えてくると、「ポスト翁長」時代があるとすれば、基地とカネという旧弊な構造から自由にな人物が望ましいと思います。

 

 

2018年5月16日 (水)

翁長知事 すい臓癌ステージ2と公表

Wst1805150058p2産経5月16日より引用

翁長知事が退院し、病状についての正式な公表がありましたので、そのまま転載いたします。

写真を見ると、氏の頬のやつれ具合はあきらかで、痛々しい思いでした。

腫瘍はすい臓癌ステージ2です。欄外に引用しましたが、ステージ2は以下の段階です。 

「がんの大きさが2cm以下で膵臓の内部にとどまっている。がんから近い第1群のリンパ節に転移を認める。またはがんの大きさが2cm以上で膵臓の内部にとどまっている。リンパ節の転移を認めない」 

ステージ゙2は、リンパ節からの他臓器への移転は認められない段階で、5年後生存率は18.2%です。

知事は任期を全うするとしていますが、2期めの出馬については明言を避けました。

常識的に考えて、2期め4年間の任期を全うできる可能性は極めて低いからだと考えられます。

自民党は月内に候補者を選定する予定ですので、なんらかの影響があると思われます。 

とまれ、退院おめでとうございます。無理をなさらずにリハビリにお励みください。

関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-f4c0.html  

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産経新聞5月16日 

ステージ2の膵がんと診断 早期の公務復帰意欲も秋の知事選対応は曖昧 

大変お久しぶりでございます。大変ご心配をおかけしました。きょうは手術、病理検査と退院についてということでご報告をさせていただきたいと思います。 

先月から県民の皆さまにご心配をおかけをいたしております。私が受けました手術および病理検査の結果と退院についてご報告をさせていただきます。 

まず経過報告ですが、4月6日、7日と精密検査を行い、膵臓の腫瘍と診断を受けました。 

その他の臓器も検査を行いましたが、腫瘍はありませんでした。腫瘍にもいろいろありますので、診断を確定させるため手術的治療が必要と考えました。 

4月23日に富川(盛武)副知事、謝花(喜一郎)副知事から記者会見をさせていただいた通り、4月21日、土曜日、浦添市の浦添総合病院において、伊志嶺朝成先生執刀で手術を受けました。 

手術は予定通り行われ、腫瘍部を切除し病理検査の結果を待ちました。手術の翌日からは退院に向けたリハビリに取り組み、順調に回復したことから、当初の予定より早く本日、5月15日に元気に退院をさせていただいております。 

今回また膵臓のですね、腫瘍、膵がんということで、また新たな課題であるわけでありますけれども、私からすると冷静に受け止めながら、これから治療に向けて全力を傾けて頑張っていきたいなあというふうに思っております。 

それから他にも転移があったということでありますけれども、膵臓周囲のリンパ節の中に1つ確認をされまして、手術で切除をされたと聞いております。 

これから定期的に通院をいたしまして、抗がん剤治療も合わせて検査、観察をしていきたいと思っております。 

ステージという質問でございます。まあ手術も前の会見でも説明をいたしましたけれども、切除した腫瘍は、大きさが約3センチでございまして、ステージは2と説明がございました。 

退院が早まった理由でありますけれども、むしろ少し遅くなった理由は連休が入ったもんですから、少しですね、まあ数日ではありますけれども、少し遅くなりました。 

あとは私が退院をして公務に徐々に慣れ親しんでいきながら、しっかりと任期を全うするためには病院のほうである意味で丁寧に入院をしたほうがよかったのか。 

あるいは退院をいたしましてこのように初日から記者会見をして、私からご説明をするなりをやりながら、これからの1日、1日を、公務をですね、しっかり果たせるように。 

あるいはまた、しばらくは自宅と県庁と言いますか、仕事の割り振りがあろうかと思いますが、徐々に徐々に仕事の中身をですね、増やしていってということも含めると、今日のほうがよかったのではないかということで、先生のほうも病気が回復するという意味でも、それから私の仕事に理解を示すという意味でも、今日という日が退院という意味ではふさわしいのではないかということで、今日という日になったわけであります。 

 --今回の検査結果を受けて1期目を全うする考えに変わりはないか。秋の知事選に出馬する考えはあるか 

はい。まあ、あの、この病気があるにかかわらず、これまでの1年間というのは、私が知事選挙に出馬するかというようなご質問等は本会議でもいろんなところで受けたわけであります。 

私はそのたんびに1期の4年間、1日、1日、しっかりと公務をやることで県民のですね、判断に委ねたいというような気持ちも含めて、私からすると出馬というよりも1日、1日のですね、公務についてやっていきたいと思っております。 

ですから、こういう退院をして、これからのことでありますけれども、今は幸い、今、流動食等々で体力回復がまだでありますけれども、しかしここ数日、ぐんと元気になってまいりましたので、公務をしっかりとこなしていく、これが私のですね、今、一番の眼目でありまして、まずはそれをしっかりする中で私の負託に応えていきたいというふうに思っております。

膵臓がんステージ別の治療法 | がん治療を分かりやすく

 

ステージ5年生存率症状
ステージⅠ40.5% がんの大きさが2cm以下で膵臓の内部にとどまっている。リンパ節の転移を認めない。
ステージⅡ18.2% がんの大きさが2cm以下で膵臓の内部にとどまっている。がんから近い第1群のリンパ節に転移を認める。またはがんの大きさが2cm以上で膵臓の内部にとどまっている。リンパ節の転移を認めない。
ステージⅢ6.3% がんは膵臓の内部にとどまっている。がんから少し離れた第2群のリンパ節に転移を認める。またはがんが膵臓の外へ出ているが、第1群リンパ節までにとどまっている。
ステージⅣa1.6% がんが膵臓の周囲の主要な血管や臓器を巻き込んでいる。
ステージⅣb

がんから離れた第3群リンパ節や、離れた臓器に転移を認める。

2018年5月15日 (火)

小西議員への「暴言」事件からシビリアン・コントロールを考える

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後味の悪い事件がありました。 

小西洋之参議院議員に暴言を吐いたとして、空自の三佐が処分されました。 

この自衛官が、30代で統合幕僚監部勤務という重責を担っていたことから、事態がメディアで大きく取り上げられました。

「防衛省は8日、小西洋之参院議員に「国益を損なう」などと暴言を吐いたとして、統合幕僚監部の3等空佐を内部規定に基づく訓戒処分とした。品位を保つ義務を規定した自衛隊法に違反したとしたが、より重い懲戒処分にはしなかった。小西氏が当初から主張した「おまえは国民の敵だ」との発言も3佐は一貫して否定しているという。
防衛省によると、3佐は4月16日夜、国会議事堂周辺をジョギング中に遭遇した小西氏に暴言を浴びせた。「国のために働け」「ばかなのか」「気持ち悪い」などの発言もあり、政治が軍事に優先するシビリアンコントロール(文民統制)を逸脱したとして問題化。防衛省は小西氏に謝罪する一方、3佐から事情を聴き、経緯の解明を進めていた。
自衛隊法58条は隊員に常に品位を重んじ、自衛隊の威信を損するような行為をしてはならないなどと定めている」(産経5月8日)

今回、防衛省は当該自衛官を伴っての現場再現聞き取りまで行っており、通り一遍の臭いものには蓋的なお役所仕事ではないと思います。
自衛官聞き取り全文https://www.sankei.com/politics/news/180424/plt1804240032-n1.html

三佐は「国民の敵」などと言っていていないと一貫して主張しており、苦慮した防衛省は自衛隊法第58条の「品位」で処分をしたようです。 

三佐は西部方面航空隊司令部に左遷されました。会社員なら東京本社中枢から大阪支社に飛ばされたというようなもので、おそらく彼の未来は30代にして断ち切られたと思われます。 

ここで私が憂鬱な気分になるのは、この事件の報道において、当の小西氏は言うに及ばず、メディアが一斉に「シビリアン・コントロールへの暴挙」といったトーンで報じたことです。 

これはメディアの自衛隊の日報が見つからなかったことをとらえて「シビリアン・コントロールへの挑戦」という論調とも重なり、さらには改憲論争における「憲法に自衛隊を書き込まないからこそコントロールできる」という石川健治東大教授らの見解とも共通します。 

ちなみに石川氏はこう述べています。

「戦後日本において、きわめて有効に機能した軍事力統制のメカニズムの、全部ではないにしても不可欠のピースをなしていたはずなのです。それが、自衛隊の正統性を正面から認めようという今回の提案によって、すべて一気に立ち消えてしまうということになります」(「「安倍9条改憲」はここが危険だ(前編))
http://webronza.asahi.com/politics/articles/2017060500003.html

まるでシビリアン・コントロールという護符を貼らねば、戦争をしたくてたまらない自衛隊が暴走してすくにでも対外侵略でも始めるようです。 

ではほんとうに軍は好戦的で、それを統制して戦争をくい止めているのが文民(シビリアン)政府なのでしょうか? 

シビリアン・コントロールというのは、軍が独立した統帥権を持つのではなく、あくまでも政府の統制下に位置づけるという統治の基本を述べただけのものにすぎません。

いちおう概念を定義しておきましょう。

「文民統制・シビリアンコントロール(Civilian Control Over the Military)とは民主主義国家における軍事に対する政治優先または軍事力に対する民主主義的統制をいう。すなわち、主権者である国民が、選挙により選出された国民の代表を通じ、軍事に対して、最終的判断・決定権を持つ、という国家安全保障政策における民主主義の基本原則である」
文民統制 - Wikipedia

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上の写真(ウィキ)は、米海軍司令官交代式で、文民の海軍長官に敬礼して迎える新旧海軍大将です。

このように海軍長官は米海軍と海兵隊を指揮下に置きます。そし海軍省は国防長官の下にあり、国防長官は大統領の指揮下にあります。

この考え方の裏には、歴史的にシビリアン(文民)が軍を抑えなければ、軍は暴走してしまう、という強い危惧があったのは事実です。 

逆にいえば、シビリアン・コントロールさえしっかりていれば、軍が自ら戦争をすることはない、だから戦争は起きない、ということになります。 

日本においては、戦前の関東軍の暴走によって戦争に突入してしまったという苦い記憶が強く働いていました。 

これが、戦後生まれの自衛隊を「軍」と認めない「平和憲法」を生み出し、国際的にはありえない極度に強い統制を常態化してしまいました。 

事実は、戦後の自衛隊は、対外膨張を図るどころか、文民政府が国際社会でいい顔をするためだけに派遣するPKOにおいても、制服組は強い懸念を抱いてきました。 

民主党政権下に決められた南スーダンPKOなど、送り出すシビリアンの作った「PKO5原則」は、まったく現地状況にそぐわず、隊員を危険な状況にさらしました。 

それが今になって、日報があるだのないだの、そこに「戦闘」と書いてあるからどうのと、シビリアンの無責任をさらけ出しただけです。 

海外においても、軍がシビリアンの統制からはずれて、戦争に引きずり込むという事例はありそうでいて、意外と少ないのです。 

たとえば、よく軍が戦争を起こした事例で取り上げられることの多いフランスのアルジェリア戦争は、現地派遣軍の独立への怒りが原因があったとされています。 

しかし戦争を決断したのは、あくまでも選挙で選ばれた文民政府でした。

むしろこのように強い戦争への意志を軍が持つことのほうが、極めて例外的なのです。 

フォークランド紛争においても、英軍がアルゼンチンの軍艦を撃沈したことが原因のように言う説もありますが、強く開戦を主張したのはシビリアンのサッチャーでした。 

むしろ英国軍は、大西洋を横断するような遠距離戦力投射に対して消極的だったのです。 

ベトナム戦争の泥沼を開始したのは、米国民主党政権のケネディでした。 

また米国が戦後二度目の戦争の泥沼にはまったきっかけとなった2003年のイラク戦争は、強く反対する米軍中枢を「世論」の声を押し被せるようにして戦端を開いたものでした。 

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2006年のイスラエルによる第二次レバノン戦争でも、戦争を求める文民政府に対して、強く反対したのは国防軍や現地司令官たちだったのです。 

地上侵攻を命じる文民の首相と国防相の背中を押したのは、ここでも「世論」でした。 

当時のイスラエルのメディアは、国民に戦争を煽り、国民の大多数は戦争を求めていたのです。

今のホワイトハウスで、トランプに歯止めをかけているのが、海兵隊大将で歴戦の猛者であったマティスであるのもあながら偶然ではありません。

このように見てくると、戦争は必ずしも軍によって引き起こされるものではないということです。 

むしろ戦後に起きた多くの戦争の事例を見ると、逆だと分かります。

その多くは、敵への懲罰を望むメディアが「世論」を煽動した結果、選挙で選ばれる文民政府も戦争を叫ばざるをえなくなり、結局は渋る軍を戦争に向かわせたのです。

ですから、日本特有の「好戦的な軍」vs「平和を望む文民政府」という二項対立はほとんど意味をなさないのです。 

では、ひるがえって今回のことを簡単に考えてみます。 

小西議員はいままで、散々自衛隊に対して侮辱的な言辞を履いてきたことで有名です。

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幹部自衛官に暴言を吐かれた、これはシビリアンコントロールに対する暴挙だと叫び立てた小西議員は、2015年9月30日のツイッターでこのようなことを言っています。

「自衛隊員は他国の子供を殺傷する恐怖の使徒になるのである」

批判を受けて小西氏は、翌10月1日にはツイートを削除して新たに書き込んだのがこれです。

「安倍総理の安保法制により、自衛隊の集団的自衛権行使を受ける国の子供達は自衛隊員を『恐怖の使徒』と思うだろう。違憲立法から自衛隊員を救わなければならない」

論評にも値しない暴言です。自衛隊を「子供を殺す恐怖の使徒」と呼ぶなど、常識では考えられません。

これについて小西氏は説明も謝罪もしておらず、言い放しのようですが、国会議員とは何を言っても許される高貴なお仕事のようです。

このような、何かことか起きれば、悪いのは必ず自衛隊のほうだとする風潮があるなら、このような事件はまた別の形で起きてしまうことでしょう。

 

2018年5月14日 (月)

日本は拉致問題を「蒸し返した」のか?

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たぶんこれから米朝会談の開かれる6月12日まで、毎日のようにメディアから玉石混淆の情報が垂れ流されると思います。

心しておかねばならないのは、その大半が意図的に流された情報操作だということです。
 

たとえば、つい最近も拉致問題がらみで、ふたつばかり北から情報が流されてきました。 

ひとつはこんなものでした。

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「北朝鮮の朝鮮中央通信は12日、日本人拉致問題に関する論評を報じ、安倍晋三政権が「すでに解決した拉致問題を再び持ち出し騒いでいる」と牽制し、「全世界が朝米首脳会談を歓迎しているときに、朝鮮半島の平和の流れを阻もうとする稚拙で愚かな醜態だ」と非難した」(産経5月12日)

要は、北は非核化交渉に拉致という人権問題は一番痛い腹だから、持ちだすんじゃねぇと言いたいようです。 

というのは、北はわが国だけではなく世界各国から拉致しまくっていますから、世界がこの問題に注目することを極度に恐れているのです。 

だから、日本だけのことにしたい、ましてやこれをリビア方式とやらで、国内の人権問題にまで拡大されたらたまったもんじゃないぜ、これが北のご意見のようです。

「朝鮮半島情勢を巡る対話の流れを受け、安倍晋三首相も拉致・核・ミサイル問題を包括的に解決し、過去を清算して日朝国交正常化を目指す方針を掲げているが、論評は拉致問題は既に解決済みとする従来の立場を繰り返し日本をけん制した」
(共同5月12日)

https://this.kiji.is/367967055959934049 

拉致問題は、先代が「解決済み」なはずだ、それを蒸し返しやがってというのが、北の公式見解です。 

おやおや、日本は終わっているはずの拉致問題を使って「平和を阻む」勢力にされてしまいましたね(苦笑)。 

そして北はこんなことも言っています。

「4月27日の南北首脳会談で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長に日本人の拉致問題を提起した際、金委員長が「なぜ、日本は直接言ってこないのか」と語っていたことが、FNNの取材で明らかになった。
政府関係者によると、南北会談で文大統領から、日本が拉致問題の解決を求めていることを伝えると、金委員長は「韓国やアメリカなど、周りばかりが言ってきているが、なぜ日本は、直接言ってこないのか」と語ったという。
拉致問題に関する金委員長の発言が明らかになるのは、これが初めて。
この発言は韓国側から伝えられたもので、政府は、金委員長の発言の真意を慎重に見極めることにしている」(FNN5月10日)

https://www.fnn.jp/posts/00391688CX  

韓国政府からの伝聞は、眉がピチャピチャになるくらいご用心くださいと前に書きましたが、この情報も「ムンが聞いた」というていどの話です。裏をとりようもありません。 

そもそも日本は、拉致問題が「解決済み」などということに、一度たりとも合意したことはありません。 

そして日本政府が「真意を見極める」もなにも、わが国は2014年5月に拉致被害者の調査継続することで合意した「ストックホルム合意」を結んでいます。 

そんなことも知らない野党は、鬼の首でも取ったように、こんなことを言いだす始末です。

「「日本は直接言ってこない」 もし真実なら、我が国政府は何をしてるんだということになる。そもそも、今、日朝間に、拉致問題解決に向けた交渉ルートは存在しているのか。今後の国会審議の中で確認のうえ、問題提起していきたい」
(玉木雄一郎国民民主党共同代表5月10日ツイッター)

この人、モリカケの時にも思いましたが、典型的な高学歴低知能じゃないでしょうか。仮に「交渉ルート」があったとしても、それは非公式な水面下での接触です。 

それを国会で追及されて、政府が「はい、これが非公式ルートです」なんて言うはずがありません。 

たぶんまともに拉致問題を考えたことすらないと思いますから、玉木さん、ストックホルム合意以降の流れなんて知りませんよね。

Photoストックホルム会談http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kp/page1w_00008...

いい機会ですから、5名を奪還した後の拉致問題の進展について簡単におさらいしておきましょう。 

2002年9月、北は小泉-金正日会談において5名の拉致被害者を解放させる一方、残りの被害者をいいかげんな「死因」で闇に葬ろうとしました。 

Prm1603010003p2産経2016年3月1日https://www.sankei.com/premium/news/160301/prm1603010003-n1.html 

この証拠として渡された横田めぐみさんの「遺骨」と称するするものが、科捜研の調査の結果まったく別人のものだと分かるなど不誠実を極めました。 

これに対する国民の怒りを背景にして、日本政府が継続調査の実施と、拉致被害者全員の帰還を要求して行われたのがストックホルム会談です。 

正恩が「蒸し返し」というのは、2回目の日朝会談で5名返したことで終わっているという意味です。

ならばどうして2014年の時点で、日朝共に「蒸し返し」に合意しているのでしょうか。

「解決済み」ならば、応じる必要はなかったはずです。

しかもこのストックホルム合意を結んだ両国首脳がかなり前の政権だったらいざ知らず、共に現政権の安倍氏と正恩との間での合意です。 

このストックホルム合意の成立プロセスについては、西野純也慶応大学教授の詳細な研究が存在します。
第9章 日朝協議の再開、合意、そして停滞 拉致問題再調査をめぐる日本の ... 

また概要については、外務省のHPに載っていますので参照ください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000040352.pdf 

そして北と日本はこのような合意を結んでいます。

「1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地 の遺骨、残留日本人、日本人配偶者 、拉致被害者 拉致被害者及び行方不 明者を含む 全ての日本人に 関する調査」で合意した」(前掲外務省) 

しかしご承知のように、この帰還への淡い期待は大きく裏切られることになります。

「日朝双方が相手への不信感を高めていたにもかかわらず、日朝政府間では水面下の接触が続いたようである。報道によれば、日朝両国は2015 年に入ってからも複数回にわたり非公式協議を行っていた。
日本側は、非公式協議のなかで、拉致問題に関する再調査の報告を繰り返し求めたという。
つまり、「圧力」論の高まりの中でも、日本政府が「対話」を維持する姿勢には変化がなかったことになる」
(前掲西野論文第9章4「制裁論の高まりと合意履行の停滞」)

ストックホルム合意移行も、なしのつぶての北に対して日本政府は翌年15年からいくどとなく第三国における非公式会談の場で、調査報告を求めてきています。 

「そして2014 年10 月末の平壌への日本政府団派遣以来、日朝間では公式の政府間協議は開かれていない。再調査委員会の立ち上げから1 年が経過した7 月2 日には、北朝鮮側は、「全ての日本人に関する包括的調査を誠実に行ってきたが今しばらく時間がかかる」旨の連絡を日本側にしてきた」
(前掲西野論文)
 

つまり日本はストックホルム合意を遵守して、国連制裁を除く拉致問題に対しての独自制裁を段階的に緩めてきました。 

それに対しての北の答えが、2015年7月の「今しばらく再調査には時間がかかる」というトボケたものだったわけです。 

実はこの「回答」の前に、北は3月に弾道ミサイル実験を日本海に向けて行っていますが、日本側はそれを非難しながらも北との協議自体は地道に継続しています。 

そしてむしろ、「日本側が望む拉致問題の再調査を含む報告を北朝鮮側から受け取るため、水面下で日朝協議を繰り返し行っていた」(西野前掲)のでした。 

以後、日本政府はあきらめることなく、あらゆる場とチャンネルを使ってストックホルム宣言の遵守による拉致被害者の再調査の報告と解放を働きかけています。

もちろん交渉主体だった外務省の力不足など(主体は警察庁にすべきでしたが)、こちら側の問題点はあったのは事実ですが、それは北が「解決済み」という理由とは別次元のことです。

ですから拉致問題は日本が非核化交渉に便乗して、「蒸し返し」ているわけではなく、西野氏が指摘するようにストックホルム合意以降、北の誠意を信じて制裁を段階的に解除しているのです。

よく野党・メディアが安易に言うような、「圧力一辺倒」といった単純な軌跡を描いたたわけではないのです。

二国間関係の流れにおいては、日本と北はストックホルム合意に則って再調査を合意し、北の回答引き延ばしにも応じて、働きかけを継続しながらその報告を「待っている状態」なのです。

ただし、拉致被害者家族会は、また偽装された「証拠」を渡されて調査終了とされることを警戒して、「北朝鮮による報告は再び嘘だらけの恐れがある。

だからこそ、家族は再調査から1年を迎える7月を前に、報告書ではなく、被害者の帰国だけを求め」る方針に切り替わっています。

そしてこの3年間のあいだに、日本の制裁緩和を見定めたように、北は核武装を大いに進めてしまいました。去年などは一体どれだけの弾道ミサイルを発射し、核実験を続けたのでしょうか。

このような暴挙によって、あたかも非核化と拉致問題がひとつのテーマのようになってしまいました。

別に日本が絡めたのではなく、北が勝手に自分の都合で絡めてしまったのです。

北は日本が再び北の核に対して制裁を強めたことによって、ストックホルム合意は廃棄されたと公言しているようですが、手前勝手なことよ。

北が言うようにほんとうに「解決済み」なら、なぜストックホルム合意で再調査委員会を立ち上げることに合意したのか、そこから考えてみることです。

そしていったんは約束どおり制裁緩和した日本が、なぜ再び制裁強化せざるを得なくなったのか、その理由に思いを致してみることてす。

北が隠そうとするのは、拉致被害者は多数生存しているからにほかなりません。

それを北の言い分をそのまま受け取って、非核化と絡めるなとか、直接に言ってこない日本政府がおかしい、などというのは、北の言い分そのものです。

丸飲みしてはいけません。

 

 

 

2018年5月13日 (日)

日曜写真館 今日は初日です

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今日から大相撲です。長い長い15日間が始まりました。

私のひいきは半分が休場。わが崖っぷち横綱はまたもや休場。下半身が元の悪い癖になっています。次の名古屋場所も同じなら、引退です。

その上高安も・・・。途中からでも出てこいよ。

いきなり遠藤を鶴龍にあてんでください(悲鳴)。一枚目の背中は遠藤関です。

2018年5月12日 (土)

米朝会談の4つのシナリオ

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手練のコリア・ウォッチャーである鈴置高史氏が、米朝会談について3つのシナリオを出しています。
「米朝首脳会談、6月12日にシンガポールで開催」日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/050500174/ 

「鈴置:大きく分けて3つの展開を予想できます。「米朝首脳会談、3つのシナリオ」をご覧下さい。首脳会談でトランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)委員長に対し「つべこべ言わずにまず、非核化しろ。見返りはその後だ」と要求するのは確実です。
 いわゆる「リビア方式」です。2003年12月19日にカダフィ大佐が非核化を受け入れると、米英の情報機関は直ちにリビアに入り、核関連施設を米国に向け運び出しました。翌2004年3月には全ての作業を終えるという早業でした。
 トランプ大統領の要求に金正恩委員長が素直に応じれば、平和のうちに北朝鮮の核問題は解決に向かいます。シナリオ①です。
 ただ、北朝鮮が素直に核を放棄するとは考えにくい。金正恩委員長がリビア方式を拒否し、トランプ大統領が席を蹴る可能性が高い。
 そうなれば米国は空爆など軍事力による解決を選ぶか、少なくとも経済制裁と軍事的な圧力を強化するでしょう。シナリオ③です。
 もちろん、金正恩委員長だって空爆されれば、あるいは経済制裁を強化されるだけでも相当に困ります。そこで、「核を放棄するから体制を保証して欲しい」などと様々の条件を付けて対話が決裂しないように持って行くでしょう。これがシナリオ②です」

 鈴置氏が便利なチャートを作ってくれました。

    ●米朝首脳会談、3つのシナリオ
                             米国、リビア方式での非核化を要求
                               ↓                                ↓
                    北朝鮮が受諾                 北朝鮮が拒否
                               ↓                                 ↓
①米国などによる核施設への査察 ②米朝対話が継続③米国軍事行動・経済軍事圧力

整理しておきましょう。 

シナリオの前提は、米国が北に「リビア方式」を突きつけることです。これはほぼ確実で、その別バージョンはありえるでしょうが、基本原則は譲らないでしょう。 

・[シナリオ1] 北朝鮮が受諾した場合・・・非核化の解決。核査察・解体・撤去の開始
・[シナリオ2]  条件つき非核化の場合・・・対話延長か?
・[シナリオ3 ]北朝鮮が拒否した場合・・・①軍事攻撃②経済制裁強化③海上封鎖
 

残念ですが、私は米朝が[シナリオ1]で妥結する可能性は大変に低いと思います。 

北が言う「体制保証」、あるいは「安全保障の確保」とは、他ならぬ核兵器を保有することだからです。 

つまり、[シナリオ2」は一見ありそうですが、そこで北が言ってくる条件は、今、述べた「体制保証」以外に考えにくいので、結局は同じです。 

つまり米朝交渉の基本は、イエスノーの2択から動かないという冷厳な事実です。 

もちろん北も軍事攻撃を受けたり、さらなる経済制裁を受けたら破局なのは目に見えていますから、中国や韓国にすがりついているわけですが、もうひとつの米国包囲網があります。 

それがこの記事で鈴置氏が述べている、「トランプ悪玉」「正恩平和の使者」「日本蚊帳の外」というイメージ戦略です。 

思い出して欲しいのですが、冬季五輪前後から異常な速度で、南北首脳会談でピークを迎えた「南北融和」という臭いお芝居が世界に流されました。 

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そして先日は世界卓球で、突然南北チームが結成され、日本と対戦するという常識ではありえない手を使って、日本を敵視することで南北融和を演出しようとしました。 

お気の毒にも惨敗しちゃいましたけどね(苦笑)。憎っくき日本に勝っていたら大騒ぎだったでしょうにね。残念。 

これはどんなイメージ形成を狙ったのでしょうか? 

まず第1に、叔父を14.5ミリ対空機関砲でバラバラにして、死骸を犬に食べさせたり、実の兄をVXガスで暗殺するような正恩が、実は心優しき「平和の人」だった、笑顔はチャーミングじゃんという好感度アップ戦略です。

韓国では言うに及ばず、正恩は今やちょっとしたスター扱いです。

日本でも安藤某キャスターが「ジョウウンさん、イメージと違って優しそう」なんて言っていましたっけね(苦笑)。

第2に、このような南北が和して平和を志向しているにもかかわらず、朝鮮半島に戦火をもたらす凶悪な米国と、その腰ぎんちゃくの日本という構図です。 

下のマンガは中央日報の英語版のものですが、非核化と書かれた車のハンドルを握るのはムン、助手席には正恩、トランプと習もちょこなんと後部座席に収まり、もうひとりはプーチンでしょうか、とまれひとり安倍氏だけがモリカケの足かせで「蚊帳の外」でジタバタという絵柄です。

悪意とナルシズムが籠もってるなぁ(笑い)

この間、日本のメディアが散々流したこの「日本蚊帳の外」論は、安倍憎しで目がくらんで北の宣伝にまんま乗ってしまった悲しき姿です。 

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 このマンガが言いたいことは、南北融和の道こそが非核化へ至る道なのだというプロパガンダです。 

同様のことを、北も言っています。(朝鮮中央通信5月6日)
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ftype=document&no=11176

「米国はわれわれが核を完全に放棄する時まで制裁・圧迫を緩めないと露骨に唱えて朝鮮半島に戦略資産を引き込み、反朝鮮「人権」騒動に熱を上げるなど、朝鮮半島情勢をまたもや緊張させようとしている。
歴史的な北南首脳の対面と板門店宣言により、朝鮮半島情勢が平和と和解の方向へ進んでいる時、相手を意図的に刺激する行為はようやくもたらされた対話の雰囲気に水を差して情勢を原点に逆戻りさせようとする危険な企図にしか見られない。
米国がわれわれの平和愛好的な意志を「軟弱さ」に誤って判断し、われわれに対する圧迫と軍事的威嚇を引き続き追求するなら、問題の解決に役に立たないであろう」

北が言いたいことは、米国はリビア方式や人権問題だなんて言い出して、朝鮮情勢が平和と和解の方向へ進んでいる時に水を差すな、と言っているわけです。 

ここで北は、韓国まで引き込んで「南北朝鮮」という平和同盟を作って見せ、「南北平和同盟」が一丸となって戦争を望むトランプと戦っているというイメージを作り出そうとしています。 

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これは大当たりしたイメージ戦略なようで、ムンにはノーベル平和賞なんて話が降って湧いているようです。 

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とまれ、今、北と韓国が進めているのは、ナショナリズムとパシフィズム(平和主義)の混合物を、米国の進める「完全かつ、検証可能な非核化」にぶつけようとしていることです。

「民族融和」という本来はコリア民族固有の問題を、 北の非核化という国際問題にまで敷衍して、その糖衣で米国をくるもうとしています。

このことによって北が狙っているのは、ぬらりくらりと[シナリオ2]の交渉延長を引き出すことです。 

そのために、まずは現在進行している事前交渉で一項目ずつ値切りまくっているようです。 

「査察方式をめぐる隔たりだ。米国はIAEAを含む視察団がいつでも疑わしい施設を調査できるよう要求している。特に豊渓里(プンゲリ)核実験場の閉鎖方法をめぐり「先にIAEAの徹底的な事前検証、後に廃棄」を要求する米国と、これに反対する北朝鮮の意見が調整できないという話が出ている。
北朝鮮が今月中に閉鎖すると約束した豊渓里核実験場の処理は北朝鮮の非核化措置の第一歩だ。それだけに徹底的な事前検証をした後に閉鎖すべきだというのが米国の強い要求だ 」(韓国中央日報5月9日)

プンゲリ核実験場という既に閉鎖が決まっている核施設の査察ですら、「先にIAEAの徹底的な事前検証、後に廃棄」を主張する米国と、それに抵抗する北とが対立しています。 

ましてや、現状で実戦配備している核ミサイル基地、核製造施設、核物質の査察について、いかに北が強固な抵抗するかは考えなくてもわかります。 

軍事用核兵器とその正続施設を技術的に査察できるのは、IAEA査察官の肩書を持った米国、ないしは中国、ロシアの軍人技術者しかいないのですから当然です。

先祖代々受け継いできた神聖不可侵の独裁王国を、外国軍人が自由に査察して回るなど、正恩にとってしに等しい苦役のはずですから。

そして、米朝会談を延長交渉に持ち込み、その中でイラン核合意のような核の全廃ではなく制限で手を打つことを米国に迫るという戦術かもしれません。 

果たしてあと1カ月で対立点を合意にもちこめるかどうか、私は絶望的な気がしてなりません。

その場合、CSISのビクター・チャ韓国部長が言うような可能性も捨てきれません。

「一方、最近の米戦略国際問題研究所(CSIS)フォーラムでビクター・チャ韓国部長は「(米朝首脳会談の)場所と時期の発表をめぐる議論が長くなれば、会談自体が延期になったり取り消しになる可能性がある」と指摘した」(前掲)

となると、シナリオ4として「米朝会談は開かれない」もつけ加えねばなりません。

 
 
   

 

2018年5月11日 (金)

北が目指すのはイラン核合意の北バージョンだ

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米朝会談の日程が決まりました。ちょうど1カ月後の、6月12日シンガポールです。 

正恩が10年前に払い下げされたロシア政府専用機キム・ダイナスティ号でくるのか、見物です。相当にボロイ機体ですから、途中で落ちないでね。 

正恩のことですから、落ちて死んだら核報復しろくらい言い残してそうでコワイ。旅のご無事をお祈りします.。 

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英国フィナンシャル・タイムス(FT)は、このような皮肉な記事を書いています。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53044?utm_source=editor&utm_medium=mail&utm_campaign=link&utm_content=top

「金正恩氏のようにごく短い期間に変身を遂げた政治指導者は、たとえ存在していたとしてもまれである。
長い間、核戦争を決意した向こう見ずな男として風刺の対象になってきたにもかかわらず、今では、東アジアを70年間不安定にしてきた紛争に幕を引こうとする平和の人になっている。
この際、残酷で容赦ない政治体制の責任者であることや、核爆弾製造のために数え切れないほど多くの北朝鮮国民が飢えていることなどは気にしない、ということだろうか」

そしてFTはこんな予想を述べています。

「金王朝が三代にわたって究極の体制保障策として追求してきた核兵器開発プロジェクトを北朝鮮が果たして放棄するだろうか、という疑問だ。トランプ氏の気を引くうえで役に立つことが立証された以上、断念する理由などない。
また、金正恩氏が非核化を約束する場合、それはおそらく期限の定めのない、多国間の核軍縮交渉に参加したいという意味なのだろう。北朝鮮の核爆弾は米国、ロシア、中国などの国々の爆弾とともに、次の世紀まで続く交渉で席を得るということだ」

FTによれば、今世紀いっぱい続くだろう核軍縮交渉のテーブルを要求している、との見立てです。 

イギリス人らしく夢も希望もないディストピア的予想ですが、まぁ北が考えそうなことではあります。 

北がこの間盛んに「非核化はやるけど、それはあくまでも一気にではなくて段階にゆっくりとだ」と言っているのはこのことです。 

今、北が「非核化なんかヤダもん」と身も蓋もないことを言ってしまえば、盟友ムン・ジェインがガックリするだけではなく、米国に軍事攻撃をしないという理由がなくなります。 

ですから、できるだけ時間をかけてダラダラ戦術でやるというのが、北の思惑なのでしょう。 

できるなら、FTも言っていたような、「各国間核軍縮に参加したい」などというとぼけたことも言い出すかもしれません。 

そして正恩が目指すは、イラン核合意の北バージョンといったところです。

しかし北に核軍縮交渉に席を与えるていどが落とし所なら、そもそもトランプは米朝会談など、恥さらしなだけですからやらないでしょう。 

トランプが主張しているのは、一貫してCVIDです。つまり、「完全かつ検証可能で不可逆的」な核廃棄です。 

イラン核合意を英仏独の反対を押し切ってまで離脱したのも同じくCVIDです。その意味では、トランプは一貫した考えで核拡散に対応しているといえます。 

トランプがなぜイラン核合意を離脱したのか、考えてみると分かりやすくなります。 

このイラン核合意は、確かに大変に問題点が多い条約でした。 

728_41_nenpyo_i外務省http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics...

条約の隅々まで非核化を徹底するのではなく、限定して制限するという発想に基づいて作られています。 

たとえば、イランは核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産しないといいますが、15年後には許されるわけです。 

条約発効が2015年ですから、2030年までイランは辛抱すればいいだけとなります。 

また、10トンあった貯蔵濃縮ウランを300キロに削減し、1万9千基あった遠心分離機を、10年間で6104基に限定するというものです。 

言い換えれば、核製造装置・核原料は制限を受けているだけで、イランはしっかりと持っていることになります。 

Bnvo884_3g0z2_m_20171013125435http://jp.wsj.com/articles/SB127855127739611734641... 

よくこんなことで主要国が妥協したなと思うような内容のザル条約ですが、なんといっても最大の問題は、弾道ミサイルです。

「米国が主張する最も重要な項目は、イランによる弾道ミサイル開発を制限することに「失敗」した点だ。非核ミサイル開発の継続を許したことで、この合意による核開発制限が期限切れとなった場合、イランはすぐに核弾頭を搭載することが可能だと批判派は指摘している」(ロイター5月9日)
https://jp.reuters.com/article/iran-us-deal-idJPKBN1HG14O

「欧州諸国がいかなる懲罰的な対応を取ろうとも、イランが、ミサイルの射程距離に表面的な「上限」を設ける以上のミサイル開発規制に同意することは考えにくい。(イラン政府はこれまで、射程距離2000キロを超えるミサイル開発を自粛すると示している。これは、何らかの軍事衝突が起きた場合に、イスラエル中心部や中東地域の米軍基地を狙える射程だ。) 」(前掲)

整理しておきます。イラン核合意の問題点はこんなことです。 

①イランの弾道ミサイル能力を認めている。
②製造装置・核原料については制限を受けているだけにすぎない。
③条約失効後には、イランの核開発に歯止めがなくなる。
 

そしてこの危惧の背景には、イランが中東各地、特にシリアに革命防衛隊を派遣して中東の覇権国になろうとしているという観測があります。 

特にこれを警戒しているのが、イスラエルとサウジで、共に立場は違えど、条約失効後にイランが核ミサイル保有国となることを恐れています。 

トランプに言わせれば、イラン核合意は目先の痛みを取るだけの対処療法のようなものです。

彼はきっとこう言いたいのでしょう。

10年の失効後とは2025年だ。もう目の前だぜ。そうなったらもうイランを止める奴はいない。イランは公然と中東で唯一の核保有国になるんだぞ。それでいいのか、諸君!」(もちろんイスラエルが核保有国なのは公然の秘密ですが) 

今後、米国が離脱しても、英仏がイランの核合意を維持するというTPP11のような予想も一部でなされていますが、無理だと思われます。 

マクロンも、核合意の欠点は弾道ミサイルの容認にあることを分かっていて、それを条約改定に持ち込みたいと考えているようですが、ダメでしょう。 

なお、よく知られた事実ですが、このイランの弾道ミサイル技術は北が提供したもので、北はシリアには毒ガスを提供しています。

このように北は、武器の国際ブラックマーケットにおける核と毒ガスの卸元なのです。

それはさておき、イラン核合意維持派が苦戦を免れないのは、米国が独自で制裁をかける能力を持っているからです。

おそらく遠からず、イランと取引する金融機関への制裁などといった強力な手段で締めつけを開始することでしょう。 

原油輸出に関しても、核合意以前の禁輸措置が取られると思われます。

これに対してイランは激怒して、核の再開発やテロなどの強硬な対応策を打ち出すはずで、こうなってしまえば、もはや改定交渉をすること自体が不可能です。

一度低い条件で折り合ってしまうと、後からそれを高くすることは不可能に等しいのです。

これは北についても同じで、米国が同じ轍を踏むとは思えません。

これは世界の原油マーケットを一時的に押し上げるでしょうが(既にその兆候は見えていますが)、それもサウジなどの湾岸諸国の増産と、米国産シェールガスの増産で、そう長続きはしないはずです。 

ちなみに、ロシアはイランと、シリアアサド政権支援をめぐっての準同盟国のはずですが、この原油価格上昇という願ってもない天の贈り物を歓喜して迎えるはずです。 

このように考えてくると、北との非核化交渉は、FTがいうような甘ったるい交渉にはならないと私は思います。

※改題しました。いつもすいません。

2018年5月10日 (木)

米国、イラン核合意離脱

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同時に三つのことが進行しています。 

一つ目は、米国のイラン核合意からの離脱
二つ目は、ボンペオ国務長官の二度目の訪朝と、米人拉致被害者の帰還
三つ目は、日中韓三カ国の首脳会談
 

まず、ポンペオ国務長官が、米人拉致被害者3名を連れて帰国するそうです。 

「トランプ米大統領は9日、ツイッターで、北朝鮮に拘束されていた米国人3人が解放され、訪朝していたポンペオ国務長官と共に帰国の途に就いたと明らかにした。(略)
ホワイトハウスは声明で、大統領は3人の解放を「善意を示す前向きな意思表示と見なしている」と表明。米朝首脳会談に向けた信頼醸成の動きとして評価した。長官と3人を乗せた専用機は米東部時間10日未明(日本時間同日午後)にワシントン近郊に帰着し、トランプ氏が出迎える」(時事5月9日)

 正恩が気がついているかどうかはわかりませんが、これはリビア方式の中に人権問題が含まれているということを認めたことになります。 

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トランプがこだわっているのは、俗に「リビア方式」と言われるやり方です。細かい説明は過去ログでお読み下さい。
※「ボルトン、北の非核化に「リビア方式」を主張」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-6d09.html

キモは、「完全、かつ検証可能な不可逆的非核化」(CVID)です。これについてはいままで多く説明したので、今回はふれません。 

本質的に、中北韓が望む不徹底な「非核化」ではなく、核原料・製造装置・弾道ミサイルなどの徹底した検証・解体・国外搬出まで含んでいます。 

つまり、北からキレイさっぱりと、核を消滅させ、二度と金輪際作ろうと思えなくなるような処分、これが「リビア方式」です。 

そしてこの「リビア方式」には、日本のメディアはスルーしていますが、人権問題が含まれています。 

リビア方式が決定した背景には、パンナム機爆破テロやフランス航空機爆破テロがあります。 

Photo_3スコットランド・ロッカビー(Lockerbie)に落下したパンナム機の操縦室。乗客乗員259人と住民11人が死亡した(1988年12月22日撮影)。(c)AFP

米国はリビアに核廃棄を迫っただけではなく、テロに対する謝罪と賠償、その清算を迫ったのです。
 

同じく今回の北に対しも、拉致被害者を返すように言っていることは、単なる会談に向けての信頼醸成一般ではなく、テロという人権犯罪を北が清算することを求めているのです。 

同じくイランに対してもトランプは、世界各地でイスラム原理主義テロリストを操って多くのテロを働いたことを問題視しています。 

これは今回のイランとの核合意離脱を表明した演説にも現れています。この部分です。

「長年にわたりイランとイランの代理人は米国大使館や軍事施設を爆撃し、米国軍人を何百人も殺害、誘拐、投獄し、また米国市民に拷問を加えてきた。
イラン政権は自国民の富を略奪してこれを資源に混乱とテロの上に長く君臨してきた。この政権が核兵器を追求することに何の行動もとらないほど危険なことはない」
(日経5月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30241290Z00C18A5000000/

 今回ポンペオは、正恩に直接会談したと思われますが、米国は中国がいう「段階的同時並行的」非核化などは呑めないということを強く伝えているはずで、それに重ねて人権問題についても迫ったと思われます。 

その回答が米国人拉致被害者の解放ですが、今後これが日本人拉致被害者の解放の端緒となるかどうかは、いまだ不明です。 

さて、ほぼ同時にトランプはもう一枚のカードを切りました。イランとの核合意の離脱です。※「イランとの核合意廃棄と北への核対応」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/post-f05a.html 

これは選挙期間中からやると言っていたので意外性はありませんが、この北との首脳会談直前の数週間前という「時期」が重要です。 

とりもなおさず、北へのこれ以上考えられないほど強いシグナル、あるいは警告です。 

トランプが言っているのは、リビア方式と違って、不完全な査察、制限期間が終わればまた再開可能な核施設の温存、そして核搭載可能な弾道ミサイルが残っているだろうということです。

「イラン核合意は「巨大な絵空事」 トランプ大統領
さらに悪いことに核合意で設定された検査修正条項では、違法行為を防止し、感知し、制裁を与えるメカニズムが欠如しているばかりか、イランの軍事施設など重要な場所を検査する無条件の権利も要していない。この合意はイランによる核兵器開発への野望をくじくことができないばかりか、イラン政権による核兵器を装備した弾道ミサイル開発の事実を表明すらできていない」
(日経前掲)

イランは、「米国は史上かつてないほど後悔するだろう」(BBC5月7日)という表現をして、世界各地でのテロと核開発の再開を匂わせています。
http://www.bbc.com/japanese/video-44026678 

「イランは米国抜きでの核合意の温存に取り組む方針を表明した。ドナルド・トランプ米大統領はサウジアラビアとイスラエルの支援を得て、イラン政府への経済的圧力を強化すると約束している。
イランのハッサン・ロウハニ大統領は、米国抜きで核合意を維持する方法を自国の外交官が今後数週間で欧州、ロシア、中国と協議すると語った。ロウハニ氏は、イランの経済的利益に資さなければ合意が崩壊し、核開発プログラムが急拡大する可能性があると警告した」
(ウォールストリートジャーナル5月10日)
 

また、事実か否かは確認されていませんが、トランプは既にイランが核再開発プロジェクトを密かに開始していると糾弾しています。

「今日、このイランの誓約は虚偽である確証が得られた。先週、イスラエルはイランが長い間隠匿していた諜報記録を公表し、イラン政権がこれまで核兵器を開発していた事実があると結論づけた」(日経前掲)

トランプが言おうとしていることは、不完全な非核化合意をすると、必ずこういう秘密の核再開発が始まってしまうのだ、だからこういう腐った枠組みは一回壊して作り直したほうがいいということです。

この外交的妥当性はいったん置くとして(前政権の政策のチャフ台返しは褒められたことではありませんので)、いずれにせよこれは従来のオバマ以前の米国の伝統的中東路線に復帰するという宣言です。

オバマは親米国家であったサウジ、カタールを除くUAEなどのスンニ派湾岸諸国やイスラエルとの関係を軽視し、イランに傾斜した姿勢をとってきました。 

その結果が、今、トランプが離脱したイラン核合意であり、北の核の「完成」だったわけです。

そのどちらもまったく失敗じゃないか、やりなおすしかないだろう、そうトランプは叫んでいるわけです。 

イラン核合意からの離脱も、オバマがねじれさせた中東政策の捩れからの復帰でした。

一方、北に対するリビア方式による追い込みもまた、米民主党政権が数十年かけて結局、核保有一歩手前まで放置させてしまったことを総括しての最終的解決を目指すものでした。

そのように考えると、トランプが大げさな身振りでやっていることは一見ハッタリじみたスタンドプレーに見えますが、そうではないと思います。

日本の多くの元外交官評論家には不評でしょうが、私はこれを周到な計算に裏付けられた米国の伝統的外交方針への回帰だと見ます。

それについて、トランプはこのイラン核合意離脱演説で、こう述べてます。

「今日の(イラン核合意離脱)発表のメッセージは明確だ。米国は今後口先だけの脅迫はしない。私は約束をしたら守る。この瞬間にもポンペオ国務長官が金正恩との会談の準備のため、北朝鮮に向かっている。
計画が練られ、関係も築かれている。何かしらの取引が成立することを期待する。中国、韓国、日本との協力によって全ての人にとって安全と繁栄が実現するだろう」(日経前掲)

このイラン核合意離脱については長くなりそうなので、次回に続けます。

 

 

 

2018年5月 9日 (水)

政府「財政収斂基準」を導入か?

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政府があのEUでも失敗した「財政収斂基準」なるものをやる気のようで、検討に入りました。 

これは明確に、来年の増税のシグナルととっていいでしょう。

そして消費増税後に必然的に生じるはずの増税不況に対しても、財政収斂基準を楯にして、政府の財政拡大で補うことはしないぞ、という予告宣言のようです。 

財政再建原理主義の財務省や与党政治家のプッシュでしょうが、これをまともにやれば、日本経済は消費増税と財政規律主義にバインドされて失墜すること必定です。 

それを報じる読売新聞(5月9日)です。 

「政府は、2021年度の財政収支の赤字額を名目国内総生産(GDP)の3%以内にすることを新たな財政再建目標として掲げる検討に入った。 
目標達成へ向け、高齢化による社会保障費の伸び(自然増)を19年度から21年度まで毎年5000億円程度ずつ、計1・5兆円程度に抑える方向だ。
 6月にもまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込む。
 財政収支の赤字額には、過去に発行した国債(借金)の利払い費も含まれている。内閣府によると、18年度の財政赤字額は対GDP比で4・4%程度になる見通しだ。欧州連合(EU)は加盟国に、GDPに対する財政赤字の比率を3%以下にするよう求めており、日本も同水準の目標を掲げることにした」

まずはEU加盟の条件とされた、収斂基準なるものを簡単に押えておきます。
収斂基準 - Wikipedia
 

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①物価が加入検討の前年の消費者物価上昇率が、EU加盟国の中で最も消費者物価上昇率の低い3カ国の平均値の±1.5%以内であること。
②政府財政が、年間財政赤字額の対GDP比が3%以下であること。
③為替レートが、ERMの正常変動幅を維持していること。
④ 政府長期債における利回りが、EU加盟国の中で最もインフレ率の低い3カ国の政府長期債における利回りの平均から2%以上乖離しないこと。

「マーストリヒト条約の収斂条件」
http://currencyeye.web.fc2.com/ch1/pg3.html

日本が検討し始めた財政収斂基準は、このEUの収斂基準の②の財政部分をコピーしたものです。

そもそも収斂基準全体が、元来がヨーロッパの特殊事情から生まれたEU特産品にすぎません。

EUは、ヨーロッパを単一の大きな「国」に見立てて、国境の壁を取り払っていこうとする統合理念から生まれました。 

まぁ、今から見れば大脳皮質の産物で、やったほうがよかったのかどうか、はなはだ疑問ですが、ともかくやっちまったんだから仕方かありません。 

問題は多々ありました。

ヒトの自由を保証すれば、東欧圏から西欧にドドっと有能な人材が集まってしまったり、テロリストも一回EUのどこかに入ってしまえば、どこに行こうと自由です。 

また、関税自主権を撤廃したために、国内でバランスよく持っていたさまざまな産業や農業が危機にさらされました。 

特にギリシア危機で明らかになったのは、盟主ドイツが押しつける緊縮財政でした。 

これは放漫財政だったギリシアにも問題か多々あるのですが、ギリシアに言わせれば、こんな緊縮財政を押しつけられたら、不況から立ち直れるはずがないだろうということでした。 

本来、このような財政破綻に遭遇した国がやるべきことは、通貨の切り下げです。

意識的にやらないでも、デフォールトするでしょうから、通貨は投げ売られて通貨安になります。

しかし危機こそ活路で、ここぞと通貨安にすれば、輸出品が安くなりますから、おめでとうこれで国際競争力が回復するというわけです。 

このようなオーソドックスな景気回復政策が、ユーロという共通通貨があるためにできなくなりました。 

お気の毒にも、かつての自主通貨のドラクマなら、ギリシア中央銀行が独自に運用できますが、共通通貨のユーロはヨーロッパ中央銀行(ECB)がコントロールしているもんですから、まったく融通が効きません。

このように、国家ごとの独自景気対策が不可能というのが、このユーロシステムの宿命的、かつ致命的欠陥なのです。 

この時に出てきた大きな壁が、冒頭にでてきてなんと日本も導入を検討しているという「財政収斂基準」なのです。 

ユーロは西欧の狭い範囲、つまり独仏などの経済がしっかりした国の中でやっているぶんには問題がなかったはずです。 

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しかし、よしゃあいいのに、スペイン・ギリシアなどのデキンボーの国などを入れたあたりから、目算が狂ってきました。 

なにせギリシアなんか、財政帳簿を国がゴマかすというスリリングなことをする国ですからね。 

本来なら、ハナからユーロになんか加盟させなきゃよかったわけで、メルケルの拡大欲が裏目に出ました。 

あ、そうそう、EUとユーロは別ですから。ヨーロッパ連合(EU)に加盟しても、共通通貨のユーロを使うか使わないかは独自に判断可能です。

ですから、英国は賢明にもEUには入っても、ユーロは拒否して、あいかわらずポンドを使い続けていましたから、ブリグジットも比較的容易でした。

それはさておき、メルケルは決して親切心でギリシアを加入させたのではなく、関税障壁なきギリシアに雪崩のような輸出をジャブジャブするために入れてやっただけのエゴだったのですがね。 

しかもメルケルは、ドケチでした。もちろん個人の資質ではなく、モンスター財政規律主義だったのです。 

金満なくせに、出るものはベロも出したくないという落語の大家みたいに、店子の加盟国の財政を締めまくったのです。

113033ヨーロッパ中央銀行(EUB)

ヨーロッパ中央銀行(EUB)に、ドイツの息がかかった総裁を据えて、ガッチリ監視して収斂基準からの逸脱を監視していたわけです。

このギリシア危機の時のメルケルの書いた処方箋も、想像どおりギリシア政府にギチギチと財政緊縮と公務員削減を求めたものでした。

経済危機と財政緊縮を同時に受けたら、国民に浮かぶ瀬もありません。

ギリシアにとどまらす、この財政締めつけがあまりにひどすぎて、盟友のフランスまでもが悲鳴を上げてユーロ離脱を叫ぶ右派が台頭したり、自分のお膝元のドイツですらメルケルの評判は地に落ちました。 

よく移民問題だけがとりあげられますが、その社会背景には政府の財政投資不足による公共インフラの老朽化、安全保障の危機など慢性的なひずみがあったからです。 

ベルリンなどは道路が穴だらけでも補修する金がなく、連邦軍は戦闘機の大半が整備できずに使用不可能といったていたらくです。 

というわけで、ヨーロッパですら見直したほうがいいんじゃないか、という声が大きくなっている財政収斂基準なんぞを、なんで痩せても枯れても独立国家日本が採用せにゃならんのか、私には理解できません。 

日本の現在の財政赤字GDP比は、 -9.53%(2010年)~ -3.45(2018年)で推移していますので、仮にEUの財政収斂基準の3%を適用しても、日本の財政は楽勝で下回っています。 

それを18年度が4・4%になりそうだから、収斂基準を作って締めるということのようです。おいおい。

まったく度し難い緊縮病患者たちですが、与党内部は石破氏、岸田氏、野田氏など主立った総裁候補が全員ガン首並べて緊縮財政派だから、ちゃーならんさです。

こんな財政ドケチの彼らが政権を取ったら・・・、ああ、朝からエンギでもない。

※イラン核合意からの米国離脱については明日になります。

 

 

2018年5月 8日 (火)

北の「一億年早い」発言について

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mos7さんの意見をめぐって昨日盛んなコメントの応酬があったようで、けっこうなことです。 

ま、自分の議論を展開しないで、「パヨク以下のお花畑」なんていう、それこそしょーもないレッテル張られても、議論になりませんからね。 

そもそもここに来る常連投稿者に「お花畑」な人はいないんじゃないでしょうか。お花畑ほどこのブログに似つかわしくない言葉はありません(苦笑)。 

この人のいくつかのコメントを読ましてもらいましたが、 あながち皮肉というわけでもなく、素直な人だなと感じました。 

特に彼への反論と言うわけではなく、考えてみましょう。

日本のメディアによくある傾向ですが、mos7さんは正恩がナニを言った、朝鮮中央通信がこう言ったというだけで、それをそのまま額面どおり受け取ってしまっています。 

そういう意味で、mos7さんは大変にナイーブというか素直です。

たとえば、北が「一億年早い」という暴言を吐いたことについて、ちょっと考えてみることにしましょう。 

では、その情報ソースを当たってみましょう。 

「北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞(電子版)は6日、北朝鮮が核を放棄するまで制裁や圧力を継続するよう主張している日本について、「1億年たっても、(北朝鮮の)神聖な地に足を踏み入れることはできない」と批判する論評を掲載した。
 韓国の文在寅大統領は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談後、安倍晋三首相と電話会談し、正恩氏が「日本と対話の用意がある」と表明したと伝えている。同紙は、日本が米韓と連携して日朝対話を模索している一方、圧力継続を訴えていることについて、「日本は心を入れ替えろ」と非難した」(時事5月6日)

 まずこの発言媒体が、朝鮮労働党機関紙・労働新聞だということがポイントです。 

共産国家の場合、その発言が載った媒体、そしてその記事の肩書を注目しておかねばなりません。 

中国の場合、環球時報で言ったらこちらの様子見のためのアドバルーンを上げたなと観測しますし、人民日報でも肩書があるかないか、どのセクションのどの立場が言っていることか注意して受け取る必要があります。

さて今回の「1億年早い」発言ですが、私にはまた言っているなぁ(あくび)、ていどにしか感じませんでした。 

あれは純粋に国内向けのプロパガンダです。 

労働新聞は国民向けの宣伝装置で、もし、本気で日米との交渉に文句をつけたいのなら、朝鮮中央通信で外交部か党・政府の幹部の署名入りで公表します。

テレビなら、あの独特の口調でおなじみのオバチャンアナかな。

だから、この「1億年早い」発言は、そのまま受け取る必要はまったくありません。 

北が今進めている米朝会談をどう国民に納得させるか、それなりに独裁国家でも気を遣うんですよ。

だって今まで米国を「火の海にしてやる」と言って息巻いていたのに、急に握手して話合いで、いかなる形であっても「非核化」を言わにゃあならんのですから、独裁者もつらいのです。

また核は「神聖な剣」だったはずですから、え、手放しちゃうの、負けちゃったのという国民の動揺をおさえねばなりません。

慢性的飢餓に加えて、政権がウソを言ったことがバレれば、国民がどう思うかは想像がつきます。

それが即反乱に繋がるかどうかは別にして、独裁者にとって嬉しい事態ではないはずです。

だから、正恩が今一番心配しているのは、トランプと自国民なのです。

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それはさておき、この発言は日本に対してだけ向けられたものです。 

北が言いたいことは、「日本よ、お前は米国とつるんで圧力をかけているが、とんでもないことだ。お前はすっこんでいろ」という勇ましいお言葉ですが、米国にではなくその同盟国の日本に言っているのがやや情けない。 

この台詞は、韓国や日本の野党・メディアが盛んに言っている「蚊帳の外」論を盛り上げることを意図しています。 

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上のマンガは有田芳生議員がツイッターで出して評判になったものですが、英語に騙されて一瞬欧米のものかと思いましたが、なんのことはない、韓国・中央日報英語版のものだったというお粗末でした。 

そういえば、「非核化」(Denuclearization)と書かれた車の運転席でハンドル握っているのは、ムンですよなぁ(爆)。

有田氏はこうツイートしています。
 

「歴史的な南北首脳会談から米朝首脳会談へ。安倍政権はいまだ圧力を強調するだけで時代精神から取り残されている。いまは緊張緩和局面への「関与」が流れなのだ」 

はい、これが典型的な「日本はこの融和情勢の中で孤立している」というジャパン・パッシング論です。 

米国との連携を断ち切り、圧力を止めて融和のバスに乗り遅れないようにしよう、というわけですが、これやって誰が一番得をするんでしょうか? 

言うまでもありませんが、北です。対話はして欲しいが、圧力を止めてくれ、核は手放したくないが、制裁解除はしてくれ、なーんて虫がいいことを考えているのが北です。 

そもそも勘違いしている人が多いのですが、「蚊帳の外」も中もないのです。 

あと数週間後に、たぶんシンガポールで開かれるであろう米朝会談で、「蚊帳の中」なのはトランプと正恩のふたりだけです。 

それは当初は、板門店が会談場所かと言われていたのを米国が拒否したことからも透けて見えます。 

板門店で、米朝が南北首脳会談の二番煎じをやったら、随喜の涙を流して手柄顔をするのはムンに決まっているからです。 

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この会談場所の選択を見ただけで、トランプが南北首脳会談などオードブルていどにしか考えていず、米国は板門店宣言なるものにいささかも拘束される気などないということが分かります。 

ですから、日本からしてみたら、今できることは、実は大変に限られています。

それは今回のような、あの手この手で仕掛けてくる北の日米同盟分断工作に、ぜったいに乗らないことです。

分断工作は北からとは限りません。中韓も仕掛けてきます。

日中韓参加国首脳会談で、韓国は米国と歩調を取る気はないと早々と言ってきました。

「【ソウル聯合ニュース】韓国青瓦台(大統領府)は7日、東京で9日に開催される韓日中首脳会談で3カ国共同宣言とは別に採択する方向で推進している特別声明について、「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)との表現は入らないと重ねて伝えた。
青瓦台の高官は聯合ニュースの取材に「特別声明には(先の南北首脳会談の)『板門店宣言』を支持するという内容のみを盛り込むのがわれわれの立場だ」と述べた。韓国はこうした内容の草案を中国と日本に回している。ただ、日本政府は特別声明でCVIDに触れることを望んでいるとされる」(聯合5月7日)

米国が主張するのは、「完全、かつ検証可能な不可逆的非核化(CVID・Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)ですから、韓国は表面的には米国に追随する顔をしつつ、現実には北が望む線で妥協させようとしています。 

それが「不完全、かつ検証不可能な可逆的非核化」です。これについての説明はいいですね。 

要は、凍結するのは長距離核だけで中距離核は温存し、検証は極力制限して、いつでも核保有国宣言に戻れるように、一時ダマくらかす、これが北とムン韓国、そして中国の共通の考えです。 

日本は日本の国益の立場を明確にするしかありません。それはリビア方式の非核化の徹底化と、それに含まれる人権問題の解決です。 

米国は、リビア方式の協議に際して、リビアのパンナム機爆破テロなどの責任を追及し、その謝罪と賠償を求めたと言われています。 

今回も、人権問題でしっかりとした回答をださない限り、一歩も日本は動きようがないのだ、ということをはっきりさせておく必要があります。 

mos7氏は、「推測ですが、(北は)安倍政権の案は飲まないということでしょう。一億年云々の後に、心を入れ替えろとも言ってる事からして、今の案では飲めないから別の案に返れと言う事でしょう」と書いています。 

またこうも書いています。 

「推測だが、安倍政権は拉致被害者を全員返した後でお金が云々の伝言を伝えたのではないかと思う、それにたいし金正恩はNOと言った訳だ。ネチネチ細かい事に拘って、自分自身で積極的に平和に導こうとする戦略が全くない。安倍には器量がない、器が小さい」 

憶測の上に憶測を重ねてはダメでしょう。客観分析ではなく、ただの主観にすぎなくなりますからね。 

拉致被害者全員の帰還の後に支援は、あたり前すぎるほどあたり前です。

食い逃げ常習犯のやり口を熟知していますから、今回も食い逃げされる気はありませんからね。

で、「別の案」とはなんですか?そのようなものがあるならば、ぜひご教示願いたいものです。 

お気の毒ですが、そんなものはありません。いまさら人権問題、すなわち拉致問題を議題にしないことは、米国にとってもありえません。 

すでにトランプは、会談の事前交渉で人権問題を出してしまっているからです。 

それは北が、「人権問題を出すなら白紙にするぞ」と息巻いているので分かります。 

では、今ここに至って、米朝会談において「北のおっしゃるとおり心を入れ換えましたので、トランプさん、人権問題はパスして下さい」なんて、やってみるとしましょう。 

大爆笑では済みませんよ。以後、日本政府のいうことにまともに耳を傾ける国は世界からいなくなります。

ですから私には、拉致問題を「ねちねち細かいこと」というmos7氏の認識は、おおよそ日本人のものとは思えないのです。

私はこのかたのナイーブさをかならずしも批判しません。それは日本人一般の傾きだからです。

しかし、この拉致問題を「細かいこと」と言い切ることに、大きな抵抗を感じました。

mos7さん、拉致問題とはそんなに日本人にとって軽く考えてもいいことなのでしょうか?

私は13歳の少女が、袋に詰められ、泣き叫びながら船倉に爪を立て、異国で筆舌に尽くしがたい思いで生きてきたこと、いや、今でも生きていることを忘れたくはありません。

拉致なんて「平和」という大事の前の小事だ、なんて言ってしまったら、TOKIOの松岡風にいえば、「そんな甘えが許されるなら、平和なんて来なくてもいい」と私は思います。

このように初めのボタンをかけ間違えると、最後のボタンまで意見がズレてしまうということです。

とまれ、米朝首脳会談まであとわずかです。北がああ言った、こう言ったで、一喜一憂しないようにしましょうね。

ひょっとしたら、しないというシナリオもあり得ますから。

 

 

2018年5月 7日 (月)

トランプ、在韓米軍削減を表明か?

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野党が審議拒否という名のストライキ闘争を止めるそうです。 

麻生氏の首を取ることが目的だったはずで、辞任や更迭の可能性が極小な以上、このストライキ闘争は完敗と言うことになります。 

そもそも言論の府である国会において、ストライキという広義の意味での「実力闘争」が許されるのか大いに疑問ですが、労組だって17日間ぶち抜きストやったら指導部の何人かは解雇も含む厳重処分でしょう。 

17日間も職場放棄しておいてなんのおとがめないとは、まことに国会議員とは極楽商売ですな。 

厳重処分が無理なら、せめてこんな愚かなストライキがやり得にならないように、これらの議員諸氏の歳費に関しては、ぜひとも一般社会のようにノーワーク・ノーペイ原則で処理していただくことをお願いします。 

さて、世界とは無縁な場所で回っている国会とは別次元で、在韓米軍について、先月の末から今月の初めにかけて、その撤退を示唆した発言がトランプとマティスから相次いでありました。 

まずは、マティスからいきましょう。 

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「南北首脳会談で年内に韓国戦争の終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換するためにアメリカや中国を交えた協議を推進すると合意したことを受けて、アメリカのマティス国防長官は27日、平和協定が締結される場合、韓国駐留アメリカ軍の存在も討議の対象になるとする見解を示しました。
CNN放送やロイター通信によりますと、マティス国防長官は27日国防総省で、ポーランドの国防長官と会談した後、記者団に対し、韓国駐留アメリカ軍の削減の可能性について、「手続きにもとづいて交渉を始める必要がある」と述べました。
マティス国防長官は、北韓問題について、「今は楽観論が支配的だ。1950年代以降一度もなかったチャンスが訪れた」と評価し、韓国駐留アメリカ軍の削減については「同盟国や北韓との対話の一部となるだろう。この問題は外交レベルで調整が進められることになる」と語りました」(韓国KBS4月28日)
「アメリカのマティス国防長官は先月27日、アメリカ国防総省で記者団から今後の北韓との交渉次第で韓国戦争の「休戦協定」を「平和協定」に転換する際の韓国駐留アメリカ軍の取り扱いを問われ、「同盟国と最初に議論し、当然北韓とも議論する課題の一つだろう」と述べ、将来的に議論の対象になる可能性を示しています」(同5月3日)

続いてトランプです。 

「アメリカのニューヨーク・タイムズは現地時間の3日、複数の消息筋の話として、トランプ大統領が米朝首脳会談を控え、国防総省に韓国駐留アメリカ軍の削減を検討するよう指示したと報じました。
消息筋は、「韓国駐留アメリカ軍の縮小は、北韓の核兵器をめぐる金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との首脳会談でトランプ大統領が交渉カードとして使用する意図ではない」と述べたということです。
そのうえで、「韓半島の平和協定は、現在、韓国に駐留しているおよそ2万8500人のアメリカ軍の必要性を低下させるものになり得る」との見解を示したということです。
トランプ大統領の指示について、国防総省やほかの機関の官吏は当惑しているということです」(韓国KBS5月4日)

KBSの情報ソースのNYタイムスにあたっておきます。(MAY 3, 2018)https://www.nytimes.com/2018/05/03/world/asia/trump-troops-south-korea.html

"Reduced troop levels are not intended to be a bargaining chip in Mr. Trump’s talks with Mr. Kim about his weapons program, these officials said. But they acknowledged that a peace treaty between the two Koreas could diminish the need for the 28,500 soldiers currently stationed on the peninsula. 

兵器削減計画について、トランプ氏とキム委員長との交渉では、削減された軍のレベルが交渉の材料になることは考えていないという。 しかし、彼らは、南北間の平和条約が、現在、半島に駐留している2万5,500人の兵士の必要性を減らす可能性があることを認めている。 

"His latest push coincides with tense negotiations with South Korea over how to share the cost of the military force. Under an agreement that expires at the end of 2018, South Korea pays about half the cost of the upkeep of the soldiers — more than $800 million a year. The Trump administration is demanding that it pay for virtually the entire cost of the military presence. 

これは、在韓米軍のコストをどのように分担するかについての韓国との緊張した交渉と一致する。 2018年末までの合意によって、韓国は在韓米軍維持費の約半額である年間8億ドル以上を支払う。 トランプ政権は、軍事的存在の全費用を実質的に支払うことを要求している。 

The directive has rattled officials at the Pentagon and other agencies, who worry that any reduction could weaken the American alliance with South Korea and raise fears in neighboring Japan at the very moment that the United States is embarking on a risky nuclear negotiation with the North. 

この(トランプの)指示は、ペンタゴンや他の機国家機関の関係者らを動揺させ、米韓同盟を弱め、北朝鮮との間で危険な核交渉に乗り出した時だけに、日本などの近隣諸国の懸念を高めてしまう懸念がある。」

これに対して、ワシントン・フリー・ビーコンはこう報じています。
http://freebeacon.com/national-security/pentagon-nyt-story-false-trump-not-asked-plan-reduce-troop-numbers-south-korea/

Pentagon: ‘NYT Story Is False,’ Trump Has Not Asked for Plan to Reduce Troop Numbers in South Korea 

ペンタゴン:「NYTの物語は偽である」、トランプは韓国の兵力削減計画を求めていない。
フォックス・ニュースの記者ルーカス・トムリンソンのツィート 

"Pentagon: "The NYT story is false. The President has not asked the Pentagon to provide options for reducing American forces stationed in South Korea. The Department of Defense's mission in South Korea remains the same, and our force posture has not changed," statement says" 

国防総省は、「NYタイムスの報道は虚偽であり、大統領はペンタゴンに在韓米軍の削減オプションを提供するように要求などしていない」と述べ、韓国における防衛任務には変化がないと述べた。 

これを見るとトランプは否定していますが、冒頭のマティスの削減交渉への言及や、以下の日米首脳会談において、トランプか安倍氏に行ったとされる発言から、「全部真実ではないが,一部は本当」のようです。

「アメリカのトランプ大統領が、先月、日本の安倍首相と会談した際、韓国駐留アメリカ軍の削減や撤退の可能性に言及していたことがわかりました。
日本のメディアが関係筋の話として5日、報じたところによりますと、先月アメリカのフロリダ州パームビーチで行われた日米首脳会談で、
トランプ大統領が韓国駐留アメリカ軍を削減したり撤退したりした場合の影響について、安倍首相の意見を求めたということです。
これに対して安倍首相は、東アジアの軍事バランスを崩すことへの懸念を示し、「日本政府は韓半島有事の際、アメリカ軍の対応能力が弱まることを警戒している」と述べ、反対する意向を示した
ということです。」
韓国KBS5月5日)
 

同じ内容は読売も追随していますから、信憑性は高いと思われます。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20180505-OYT1T50004.html?r=1 

米国が在韓米軍を削減、ないしは撤退する意志があることは、隠れもない事実です。 

つまり米国は北との交渉テーブルには材料として乗せないが、その結論次第では在韓米軍を削減する方向にあるということのようです。

米国にとって、朝鮮戦争が終結宣言を出し、国連軍が解体されれば在韓米軍はいる意味を失います。

その場合、韓国政府の出方第では、在韓米軍自体を朝鮮半島から撤退させる可能性もあります。

現状ではムン政権は在韓米軍撤退について否定していますが、大統領補佐官はこんなことを言って物議をかもしました。

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「文大統領の外交ブレーン、文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官が米外交専門誌への4月30日の寄稿で「平和協定が締結されれば、在韓米軍の駐留を正当化するのは難しい」と主張したことに野党などが強く反発。文正仁氏の解任を求める声も上がった。大統領府側は文正仁氏に文大統領の言葉を伝え、苦言を呈した。」(産経月2日)

ムン補佐官は大統領の師匠筋の人物ですから、たぶんこれが大統領の本音だと考えていいでしょう。

仮に米朝会談において、米国がリビア方式の非核化を飲ませたとした場合、その後に来る流れは朝鮮戦争停戦協定、米朝平和条約、そして在韓米軍の急激な削減だと考えられます。

その場合、在韓米軍なき統一朝鮮という事態が大いにあり得ることを想定して、備えておかねばなりません。

2018年5月 6日 (日)

日曜写真館 朝、太陽の再生

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2018年5月 5日 (土)

米国は米国人拉致被害者の解放だけで満足してはならない

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「アメリカ、トランプ大統領の側近は3日、北朝鮮で拘束されている3人のアメリカ人が近く解放されるとの見通しを示し、進展があるのか注目されます。
アメリカのトランプ大統領の側近で、現在は大統領の弁護士も務めるジュリアーニ元ニューヨーク市長は3日、「FOXニュース」の番組に出演し、「きょう、とらわれの3人が解放される」と述べ、北朝鮮で拘束されたままの3人のアメリカ人が解放されるとの見通しを示しました。
この発言について、ホワイトハウスのサンダース報道官は記者会見で、「北朝鮮が3人を解放すれば、米朝首脳会談を前に誠意を示すものとなる」と指摘する一方、政府の当局者ではないジュリアーニ氏がこの問題をめぐり発言した理由について、回答を避けました」
(NHK5月3日)

ジュリアーニはトランプの側近というわけではありませんし、ロシアン・ゲートでトランプ・サイドの弁護士を買って出た人物ですから、米国人拉致問題との関わりは不明です。 

米国が北に対して、国籍を問わず拉致被害者を返せと言っていることはほぼ間違いないことで、その交渉が米国人解放だけはまとまったていどのことでしょう。

未確認情報では、日本の拉致被害者も数名解放するという情報もありますが、真偽不明です。 

とまれ拉致被害者「全部の解放」を交渉している時に、「米国籍だけの解放」を喧伝すれば、これで拉致問題は終了なのかという認識が生まれてしまいます。 

今回のジュリアーニの一件は、それを狙って北がリークし、国際外交に鈍感なジュリアーニが引っかかったような気がします。 

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上の写真は、北を旅行中にささいな罪で1年半に及んで拘束され、解放後に米国で死亡したオットー・ワームビア氏です。 

「ワームビアさんは2016年に北朝鮮を旅行中、ホテルにあった政治宣伝ポスターを盗もうとしたとして拘束された。今年6月に健康状態の悪化を理由に解放されたが、米国に帰国した際には意識不明の状態で、数日後に死亡した。
北朝鮮は、ワームビアさんがボツリヌス菌に感染したと説明し、虐待を否定したが、米国の医師らは感染した形跡はなかったと述べた」(BBC 2017年9月17日)

 ワームビア氏は昏睡状態で帰国しており、なんらかの脳の障害を受けたと推測されています。

北は自国内で死亡するとやっかいなことから、あわてて送還を決めたと見られています。 

「ワームビアさんの髪の毛はそってあり、目が見えず、耳が聞こえない状態で、腕と脚は「完全に変形していた」といい、足には大きな傷があったという。フレッドさんは、「誰かがペンチを使って彼の下の歯並びを変えたようだった」と語った。」(前掲)

 ワームビア氏以外に3名の米国人が拘束されており、米国は北との大きな交渉テーマだとしています。 

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 トランプは、5月3日のツイッターで、「前の政権は北の労働収容所から解放できなかったが、今回は期待して欲しい」と流しており、交渉はそうとう進んでいると思われます。 

米国人の拉致被害者が解放されるのはおそらく間違いないと考えられますが、問題はすべての拉致被害者の解放がどれだけ進むかです。 

日本の拉致被害者は、警察が把握しているだけで883名(平成29年度警察白書)と言われています。 

政府が認定している拉致被害者は17名(12件)です。 

その中には、わずか13歳で連れ去られた横田めぐみさんや、北が自ら明かすまで日本側が把握していなかった当時19歳だった曽我ひとみさんも含まれています。 

Photo警察の数字と政府の数字には866名もの差があり、日本政府は17名の全員帰還を交渉するのではなく、883名の同胞の解放を要求するべきです。 

拉致被害者は日本国内から北の工作員によって拉致されており、これは明白な主権侵害であり、さらに強い表現を使えば「侵略」と言って差し支えないでしょう。 

事実、救う会は「拉致は侵略である」と定義しています。 

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このように書くと、すぐに排外主義だと決めつける論調がありますが、とんでもないことです。 

国民の生命・財産を守るのは基本的人権のイロハのイであり、国家が国民に約束する国民保護の大原則だからです。 

したがって、拉致被害者全員の救出は、日本政府の重大な責務なのです。 

ところで、米国は自国民の拉致を「テロ」と位置づけていますから、拉致被害者の解放なくしてテロ支援国家指定を解除することはありません。 

仮に米国の望む「全面的・不可逆的・検証可能な非核化」がなされたとしても、拉致問題が解決しないうちは、国連制裁は核だけがテーマですから段階的に解除されるとしても、テロ支援国家指定はされないと思われています。

テロ支援国家指定による独自制裁は、①武器や関連装備の輸出・販売の禁止、②経済援助の禁止③多方面にわたる金融取引の制限が上げられます。

特に③の金融制裁は、今、正恩が多くの隠し講座に隠匿していた個人的財源を完全凍結するところまで進んでいると考えられています。

このために、正恩は今までのように国民の飢餓をよそに豪奢な生活を楽しむわけにはいかなくなったようです。

このへんが北のすり寄りの遠因だと考えられています。

北の非核化と並んで拉致問題は極めて重要な問題で、これを分けて捉えてはならないのです。

おそらく日本は、非核化と拉致の問題が解決すれば、平壌宣言に則って一定額を支援する用意があります。

一説で、1兆円ともささやかれていますが、支払うこと自体はいたしかたないとしても、そこから拉致被害者の人権侵害に対する補償を差し引くべきでしょう。

2018年5月 4日 (金)

米国と北が今、膝詰め交渉していることは何だろうか

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こんなニュースが入っています。 朝日新聞(5月3日)はこう報じています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180503-00000006-asahi-int 

「6月初めまでに開かれる見通しの米朝首脳会談に向けた両国の事前協議で、北朝鮮が、米国が求める手法による核の全面廃棄に応じる姿勢を示していると米朝関係筋が明らかにした。
また、北朝鮮は核兵器の査察にも初めて応じ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄も行う意向だという。ただ、核廃棄に向けた期間や北朝鮮への見返りでは意見の違いが残り、協議や会談の行方によっては予断を許さない状況だ。
 同筋によれば、米中央情報局(CIA)当局者や米核専門家計3人が、4月下旬から1週間余り訪朝。北朝鮮側との協議で、首脳会談合意にこうした内容を盛り込む見通しになった。
 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は南北首脳会談でも、米国が求める完全で検証可能、不可逆な方法によって廃棄に至る非核化措置を受け入れる考えを示したという。米国は国際原子力機関(IAEA)を中心とした非核化措置を進めようと、すでにIAEAとの調整を始めているといい、日本にも協力を求める見通しだ」
 

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よく読むとたいしたことを言っているわけではないにせよ、私としては現時点ではなんとも言えません。 

そもそもこの記事では長距離核には触れていますが、日本が注目している中距離核には触れていません。

情報ソースが朝日という、決して米政府内部情報に強いとは思えないところだというのも引っかかります。 

特に、朝日が提携しているNYタイムスやCNNはトランプ政権と真っ向敵対関係にありますし、彼らすら抜いていないのに朝日が抜くということはちょっと考えにくいと思います。 

ちょうど今の日本で、朝日があまりにも過激な反政権姿勢をとったために官邸内部や自民党中枢から取材がほとんどできていない現状と一緒で、一体この「米朝関係者」の「米」とは誰を指すのでしょうか。 

またこの「米朝関係者」の「朝」が北政府関係者であった場合は、今くらい攪乱情報を投入するにうってつけの時期はありません。 

これが仮に韓国であった場合、いっそう信用できません。 

なぜなら、韓国政府筋が「北がこう言っていた」という伝聞で伝える情報は、韓国政府の願望が投影されていて、ほんとうに北が言ったことが歪められている可能性があるからです。 

北は先だっての南北首脳会談を見ればわかるように、巧妙に言質を与えることを回避しています。 

北は韓国に対してあえて誤解を呼ぶような表現をリップサービスして、それをムンが増幅して世界に発信するというパターンです。 

このように考えてみると、失礼ながらこのグッドニュースを額面どおり受け取ることはためらわれます。 

ただし昨日、山路氏が指摘されたように、そうとうの所まで煮詰まってきていることは事実ではないかと思います。 

おそらく北は「非核化」には総論賛成各論反対という立場であることは、おとといの王毅国務委員(副首相級)兼外相・正恩会談でも疑う予知がありません。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6281258 

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その理由は、これ以上経済制裁が長期に及ぶと、北の経済全体が本格的に瓦解する可能性が出たことです。 

中国が本格的に制裁に乗り出したために、現況で輸出入の9割近くを北は喪失している状態で、核ミサイル開発を継続することは物理的にも困難です。 

北の核ミサイルは公表されていませんが、(形式によっても違うでしょうが)米国のピースキーパーの価格から1基でおおよそ70億から100億円と見られています。 

これは、対中輸出がわずか10億円にまで激減した北が、今後、気楽に週刊弾道ミサイルを撃てる状況でなくなったことは事実です。 

また北経済の専門家は、この1基のミサイルで北の国民配給量のほぼ2カ月分に相当するという説もあります。

ミサイル撃つなら、その金で国民にメシを食わせてやれというのが、国際社会の常識です。

電力不足も深刻です。 

夜、電気がともっているのはわずかにピョンヤンだけです。 

下写真はNASAが2014年2月に撮った東アジアの夜景ですが、まるで北だけがブラックホールのような闇に包まれています。 

お愛嬌のように、一カ所ポツンと点いている場所がピョンヤンです。 

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北の水力発電と火力発電の比率は、6対4でしたが、水力発電は設備の老朽化と、河川の干ばつによって稼働率が2014年で3割を切っています。 

一方火力発電は、石炭の多くは輸出に振り向けられている上に、肝心の原油が途絶してしまっては回しようがありません。 

結果、工場は軒並み電力不足で開店休業状況だと伝えられています。 

となれば北としては、なにがなんでも経済制裁を解除させ、経済支援を得て原油や食料を調達し、寧辺原発を軍用から民需に回すしか残された方法はないのです。 

このように考えてくると、北が今、米国と膝詰めの折衝をしているテーマが透けて見えてきます。 

まず新たな核開発を放棄することに合意できても、作ってしまった現有の核ミサイル・核原料・核施設の処分です。 

北としては既存の核については、国際機関の監視の下に「保管」できないかということを主張している可能性があります。 

北は核保有こそ金王朝の「体制保証」の要と考えていますから、現実の軍事的合理性を離れて、固執しているはずです。 

よく世間には、「北の体制保証なんか簡単じゃないか。北を潰す気は米国だってないんだから、してやんなよ」と気楽に言う人がいますが、北が言う「体制保証」の担保は核保有なのです。

ちなみに米国も「北の体制保証を認める」と言うような場合もありますが、それは文字通りの意味で、核保有とは切り離して使っています。

「非核化」や「体制保証」などおなじ言葉を使っていても含む意味が米朝で違うことがよくありますので、ご注意下さい。

またこの「保管」を、朝日記事がいうように「IAEAの非核化措置」を受け入れて認めたとすると、経済制裁解除で一服した数年後に先代がやったようなIAEA査察官を追放して核保有復活というちゃぶ台返しが可能となるからです。 

第2に、先程述べた寧辺原発の民間転用をIAEAの保証措置(セーフガード)の監視の下で稼働を認めさせることです。

それはさておき これも、いつ何時ちゃぶ台返しをされるかわからない前歴の国ですから、米国が簡単に首を縦に振るとは思えません。 

第3に、今まで何度も触れてきたので短くふれますが、中距離核についてです。これをハズせば、日本への脅威は固定化されてしまいます。

第4に、経済制裁解除のタイミングです。米朝首脳会談合意と共に解除か、さもなくば核の解体・廃棄・搬出が完了されたことをもって解除時期とするかです。

後者にした場合、制裁解除は1年ほど先になります。 

識的には一気に制裁解除をやるべきではなく、何度かに分けてということになるはずです。

初回は交渉成立時に、2回目はIAEA査察受け入れ時に、3回目はその終了時に、4回目は解体・撤去時にということにでもなるのでしょうか。

今この時期、北はさまざまな観測気球を打ち上げて、自由主義陣営の世論の動向を探ろうとしているはずです。

「トランプはしょせんアメリカ・ファースト。長距離核さえ廃止できれば、中距離核や拉致には無関心だ」などというフェークを流して、日米同盟の分断を企むかもしれません。

ですから、私たちもしっかり吟味していかねばなりません。

 

2018年5月 3日 (木)

「震え上がった」のは北のほうです

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改憲派さん。危惧はわからないではありません。私など悪いシナリオなら、何本でも書けてしまいます。むしろそっちのほうが得意なくらいです。(笑い) 

おっしゃるように、最悪はトランプが裏切り、日本に到達しうる中距離核を「段階的削減」で日和ってしまうことも、可能性としては、ありえないわけではありません。 

朝日はこんなことを伝えています。

「北朝鮮の労働新聞(電子版)は30日付で、北朝鮮が20日に決めた核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射中止などの措置をめぐる米政府の反応を非難した。朝鮮中央通信も27日、同様に米国を非難。20日の措置が対米交渉カードだった可能性が強まった。
 労働新聞の30日付記事は、20日の措置を「核兵器のない世界の建設に寄与しようとする立場の表れ」と主張。北朝鮮の核放棄まで圧力を維持するとする米国の姿勢を「我々の積極的で誠意ある平和愛好的な努力に対する愚弄、冒瀆」と非難し、「米国に必要なのは礼儀をもって相手を尊重することだ」と強調した。
 専門家の間では、北朝鮮が米朝首脳会談を待たずにICBM試射中止を決めたことについて「なぜ急いで譲歩するのか」「米朝合意に北朝鮮が望む見返りを盛り込むための譲歩では」などの指摘が出ている」(朝日4月30日)

これを読んで、天木直人氏は「安倍首相を震え上がらせたに違いない北朝鮮労働新聞の記事」と題して、こう書いてありました。たぶんお読みになりましたね。
http://www.asyura2.com/18/senkyo243/msg/818.html 

「この記事を見て私は驚いた。米朝首脳会談を前にしてこんなに米国を非難して大丈夫かと。これを見たトランプ大統領は怒り出して、米朝首脳会談が台無しにならないかと。
しかし、そうはならないと私は思い直した。
なぜか。北朝鮮は非核化を決めている。その事はポンペイCIA長官(当時)を通じてトランプ大統領にも伝わっている。
だからトランプ大統領は非難されても怒らない。逆に言えば、米朝首脳会談は予定通り行われ、成功することを北朝鮮は知っているからこそ、北朝鮮は正論で米国を非難したのだ。
いや、けん制のメッセージを送ったのだ。すなわち、北朝鮮はトランプ大統領の要求通り非核化すると決めた。
そのことによってトランプ大統領の功績づくりに貢献する」
 

いつもの天木節ですが、既に米朝は話がついているという、いわば米朝密約説です。 

ここから天木氏の想像というか、妄想は進んでわが国にまで及んでいます。こういう調子です。 

「困るのは安倍首相だ。この労働新聞の記事を読んで、さぞかし震え上がっただろう」 

そして例によって例のごとく「安倍外交の失敗」を批判して終わりますが、別に安倍氏は「震え上がって」などいないと思いますよ。 

だって、この労働新聞の記事は、せっかく北が「平和の使者」を演じているのに米国がなんだそんなもんとばかりに突き放したことに、北が「震え上がった」からです。 

「震え上がった」のは、むしろ正恩のほうなのです。 

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この牽制球ていどの北の融和策は、中国からも同じように扱われています。 

中国は「核実験場廃棄は毛針か「金正恩vs中国」論争の怪」(日経5月1日)だとも言っていますから、米国の突き放しよりいっそうシビアです。 

毛針ですか。これはきつい。 

中国も米国もプンゲリ核実験場は、既に去年の9月に崩壊し使用不能なことを熟知しています。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-5d96.html 

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 北朝鮮が水爆実験を行ったと主張する同国北東部・豊渓里にある核実験場の実験前後の比較写真。左側は実験前、右側には実験後の土砂崩れとみられる痕がある(左は2017年9月1日、右は2017年9月4日入手、資料写真)。(c)AFP PHOTO/Image courtesy of Planet AFP 

北はろくな地質調査もしないで、3つの坑道で2006年から16年まで実に5回も核実験をしてきました。 

その結果、山疲労症候群(タイアード・マウンテン・シンドローム)という地殻変動が起きて大崩落となったようです。 

いや、まだ別に坑道はあるぞと北は言っているようですが、こんな地殻変動を起こしたような山で、また同じ核実験をすれば結果は見えています。 再び大崩落です。

この使い物にならない核実験場を閉鎖したことを、朝日などのメディアは大々的に一面トップで「核実験停止」と書き立てました。 

しないんじゃないの、できないのです。本質的に別なことですからね、朝日さん。 

とすれば、正恩が派手に打ち出した措置はことごとく子供だましの「毛針」だということになります。 

こんな他愛もないない疑似餌に引っかかるほど、米中はお人好しではありません。

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そこで、正恩がかんがえついた次の一手が、南北首脳会談で登場した「朝鮮半島の非核化」という、取りようによってはどうとでも取れるわけのわからない概念でした。 

これは「北の非核化」という核心部分から、論点をズラすことが目的です。 

そして同時に、中国の言っている「段階的・同時並行的」非核化提案と、すり合わせることにあります。 

これは簡単に説明すれば、「段階的」とは北が長距離核の実験を凍結し、中距離核は段階的に廃棄していくというものです。

一方、「同時並行的」とは、北のみならず米国も北を対象とした核を廃棄することです。 

これが、北と中国がいう「非核化」です。 

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では天木氏は、「北が非核化の意志があるとポンペオを通じて米国に伝えた」といいますが、ではいったいその「非核化」の中身とはなんなのでしょう。 

そこがいちばん肝心要の問題で、天木氏はその核心部分にふれていません。 

そりゃあ確かに、正恩は「非核化」を口にしたことでしょう。約束もするでしょう。 

ではそれが果たして、米国が求める「非核化」と同じなのかどうか、そここそが問題のはずです。 

米国が求めている「非核化」とは、一貫して2005年6月の六カ国会合の合意の遵守です。 

先日記事にしましたが、もう一回おさらいしておきます。

●北の2002年の六カ国会合での合意事項
①検証可能な非核化
②すべての核兵器開発計画の廃棄
③NPTとIAEA保証措置への復帰
 

米国が言っている「完全、かつ検証可能な非核化」は以上の内容なのです。別名リビア方式とも言います。 

特に問題となるのは、「検証可能な」という部分です。六カ国会合合意文書にある「NPT・IAEAの保証措置」です。
外務省保証措置http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/kyoutei.html 

IAEA保証措置を押えておきます。 

「IAEA保障措置協定は、原子力が平和的利用から核兵器製造等の軍事的目的に転用されないことを確保することを目的として、IAEA憲章に基づき、IAEAが当該国の原子力活動について実施する査察を含む検認制度である保障措置を規定する協定である」(前掲)

 「査察を含む検認制度」と明記されています。つまり、北が自己申告で「非核化しました。核持っていないです」ではダメなのです。 

これは具体的になにかといえば、検証のための査察・核物質・核製造施設の撤去解体、そして国外搬出という一連のリビア方式です。 

ボルトンはこの専門家です。 

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ここまで北が譲歩したのなら、米朝が密約しようとなんだろうと、日本が「蚊帳の外」で「日本の外交敗北」だろうと大歓迎です。 

交渉は事実上、拉致問題をのぞいて妥結したも同然だからです。 

ありえるでしょうか。現時点では、まずありえないでしょうね。 

今になって日本にできることは、限られています。 

米朝会談をできる限り支援することと、それが失敗した場合に備えることです。

不安定な中東を米国に代わって仲介の労をとることで、後顧の憂いなく北に向き合ってもらうことです。 

その他には、日中韓首脳会議で、中韓両国の圧力の継続と拉致問題に釘を指すことていどです。 

とまれ、米朝会談前に日朝会談をしたのなら、北は間違いなく「拉致被害者を返すから、非核化をオレのいう線でまとめてくれ」と首相に言ったことでしょう。 

この二者択一に入られるのが、最も困った事態でした。

しかし、これは賢明にも、米朝会談後と設定されたために回避できました。

最後に拉致と非核化を切りはなせというご意見ですが、ここまで煮詰まっている北の非核化交渉から、拉致問題をはずせば、それは日本の一国的利害にとどまってしまいます。

米国も協力しようがありませんから、いままでと同じように日本だけの特殊テーマで終わってしまうことでしょう。

拉致問題の行き詰まりはさまざまな理由がありますが、家族会の大変な努力にも関わらず、ネックは国際社会が無関心だったことです。

日本国内ですら、拉致問題を右翼のテーマとする傾向が見られます。

オバマは人権派を気取りながら、家族会と立ち話しか許そうとしませんでした。

それに対してボルトンは6回も家族会と面談してきています。

トランプもまた、ホワイトハウスで涙ぐまんばかりにして家族会の話に耳を傾けたと聞きます。

ここが拉致問題の最大の山場です。

ここを逃せば、国際社会の関心も薄れ、もう二度と拉致被害者の帰国の糸口はないと私は思います。

 

2018年5月 2日 (水)

拉致と非核化の解決はワンセットだ

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お見舞いありがとうございます。昨日は薬を飲んで、半日寝ておりました。なかなか一日休めない因果な稼業です、と愚痴ったところで昨日お約束した日朝会談を考えていきましょう。 

安倍首相は訪問先のヨルダンでこのように述べています。

「北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「日本と対話の用意がある」と南北会談で表明したことに関し、首相は「わが国の方針は一貫している。日朝平壌宣言に基づいて諸懸案を解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を目指す」と述べた」(時事5月1日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180501-00000119-jij-pol

では、そもそもなぜ日朝会談をするのか、ということから押えておきましょう。 

テーマは三つあります。 

第1に、拉致問題の解決
第2に、北の非核化
第3に、平壌宣言履行
 

これらを意識してかしないか、バラバラに論じる傾向があります。

メディアにはびこっている 北の非核化のために平壌宣言を履行しろなどという愚論は、ものごとの順番が逆です。

非核化が実現され拉致を解決できて、初めて平壌宣言を根拠として、支援が可能になるのです。

拉致問題解決は、北の非核化と切っても切り離せない問題であるにもかかわらず、これだけで単独で論じられて、例のトランプ頼みの「蚊帳の外」論がまかり通っています。 

国連安保理の経済制裁は、確実に北を追い詰めています。 

何度か記事にしていますが、これは最大の支援国だった中国が国連制裁を本格化させたことが、大きく影響しています。 

従来の国連制裁は実に10回も行われましたが、その内実はゆるゆるで、軍需品や贅沢品などに限られていました。 

しかし2017年8月、9月、12月の3回の制裁は、大きく踏み込んでガソリンなどの石油製品の輸出似上限を設け、年間10億ドルの利益を上げていた北の海外労働者輸出を制限しました。 

その結果、制裁前の2016年比で、北は実に輸出の9割を失い、ガソリンなどの輸入は9割を失いました。 

北は海外の貿易関係者に、ともかく原油を買いつけてこいとの指令を発したと言われています。 

この時期から、公海上で北のタンカーが頻繁に沖合で瀬取りするのが観察されています。 

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 ちなみにこれを発見したのは、海自のP3Cで、今はこの監視活動に日米に加えてカナダ、豪州までもが参加しています。 

まさに国際社会の万力の手で、北は苦吟しているのです。 

その結果、北は中国に北近海の黄海側水域漁業権を3000万ドル、同じく日本海側を4500万ドルで売らざるをえないところまで追い込まれています。 

このために日本近海まで北の漁船が漁にでざるを得なかったのです。まさに蛸が窮して、自らの足を食い始めたようです。 

このような国連制裁決議こそ、日米が共同で強く押し進めてきたもので、この粘り強い積み重ねに中国が同調せざるをえなくなったとみるべきでしょう。 

「圧力一辺倒ではダメだ」という人たちは、北が融和攻勢をする背景にこの日米を主力とした強い圧力こそが国連制裁決議の強化をもたらし、そして今の状況を切り拓いた事実を知るべきです。 

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ですから、あくまでもこのような文脈の中で、中北首脳会談があり、南北首脳会談が開かれ、そしてさらには米朝首脳会談も用意される状況になったのです。 

ムンジェインは「ノーベル賞はいらない。欲しいのは平和だ」なんてボケかましていますが、それをお膳立てしたのは他ならぬ日米だったのです。

これは断じて一般的な北の融和攻勢ではなく、ましてや叔父と実兄を殺害した正恩が突然平和の使徒に改心したからではありません。 

妥協する以外に北が生き延びる方法がなくなったからにすぎません。 

では、この北の窮状の背景を押えた上で、拉致問題を考えてみます。 

古い格言に、問題が進展する条件として「天の時、地の利、人の和」というものがありますが、初めてこの三つの条件が今、日本の掌中にあります。 

「天の時」は今説明した通りですが、北は今だかつてなく追い詰められた状況にあることです。 

外交交渉においては、意地の悪い言い方ですが、交渉相手が困った時こそこちらの好機なのです。 

次に「地の利」ですが、これは日本の首脳がピョンヤンに直接訪問するというチャンスが、小泉氏以降まったくなかっことを考えると、北が日朝首脳会談を了承したことの重みがお分かりになるだろうと思います。 

「人の和」は、トランプとボルトンという米国外交の柱が拉致問題に強く心を痛めており、自国の拉致被害者のみならず、日本の拉致被害者の救出を会談で交渉議題として出すと明確に言い切ってくれたことです。 

これは長年にわたる家族会と、安倍首相の粘り強いトランプへの説得のたまもので、それを「米国頼み」と言って異様に卑しめる気持ちが理解できません。 

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一方家族会は、3月29日にこのような要請を安倍氏に伝えました。 

「1 米朝首脳会談で、トランプ大統領に金正恩に対して全被害者の一括帰国を迫るように、強く求めよ。
2 全被害者の一括帰国実現なしに国際社会の対北制裁を緩和することのないように全力を尽くせ。
3 南北、米朝首脳会談を最大限活用し、全被害者の一括帰国を実現せよ」

この家族会の要請は、まさに拉致問題と非核化がリンクして解決されるべきだということを表しています。 

ボルトンがこの時期、マクマスターと交代した最大の理由は、マクマスターが通常戦の専門家であっても、非核化プロセスに関しては詳しくなかったことです。 

ボルトンは余人をおいて他にはいないほど、リビア非核化を知悉した人物です。 

したがって、この時期にトランプがボルトンを任命した理由は、リビア方式、すなわち核原料・施設・核基地の査察・撤去・搬出をやり抜くという、米国の意思表示以外ありえません。 

今、現在進行形で、CIAと北の統一戦線部との間で、事前交渉を煮詰めているはずですが、打ち切り判断が出ていない以上、北はそうとうに妥協していると見られます。 

この念押しが、米朝会談でなされるはずです。 

そのためにトランプは餌として、いくつかのオプションを北に提示するはずです。(たぶんもうしているでしょうが) 

一つ目は、国連の制裁解除
二つ目は、北の体制保証としての米朝国交正常化=米朝平和条約締結、朝鮮戦争の本格的平和条約締結
三つ目は、疲弊しきった北への資金協力
 

これらはワンセットでパケージされている可能性があります。 

米国は前二者については請け負うことでしょうが、最後の支援に関しては拒否するはずです。米国に北を助ける義理はないからです。 

それを引き受けるのが日本です。 

ここでやっと出てくるのが、日朝平壌宣言です。平壌宣言にはこうあります。

「双方は、核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。
朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを2003年以降も更に延長していく意向を表明した」

http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html

平壌宣言が有名無実化してしまったのは、「核問題、ミサイル発射を2003年以降まで延長する」という日朝合意を北が一方的に反故にしたからでした。

ですから、北が核開発とミサイル実験を停止するなら、日本は支援をする用意はあるのです。

事態は急速に進んでいます。あと1カ月ですべてが決まります。

 

2018年5月 1日 (火)

六カ国会合で定義された「朝鮮半島非核化」とは

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風邪を引きました。喉の痛みで声がでません。頭の中に鉛でも入れたような気分ですが、指は動くのでできるところまでやってみます。 

南北首脳会談がいかなるものであったのか、日本人には一部メディアをのぞいて少し分かってきたようです。 

実におかしな「歴史的会談」なのですよ、あれは。

「非核化」こそがテーマなはずなのに、正恩の口からはひとこともその言葉はありませんでした。 

というか、会談そのものがなんのために開かれたのかといえば、非核化だったはずです。 

それが大前提で、だから国際社会が注目したわけですね。 

ところが、非核化のための会談の結論が非核化だというのですから、なんのことやら。別な言葉に置き換えてみましょう。そのおかしさがわかります。 

「和平会談の結論が和平」では、意味をなしません。同義反復ですからね。

南北首脳会談によって 非核化が進むどころか、かえってかつての「非核化」の合意より後退してしまっています。

高橋洋一氏の興味深い指摘がありますので、かつての6カ国協議での確認文書の文言をみてみましょう。

いまよりはるかに突っ込んでいます。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55516

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 外務省「第4回六者会合に関する共同声明」(2005年9月19日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/6kaigo/ks_050919.html
 

「1.六者は、六者会合の目標は、平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化であることを一致して再確認した。
朝鮮民主主義人民共和国は、すべての核兵器及び既存の核計画を放棄すること、並びに、核兵器不拡散条約及びIAEA保障措置に早期に復帰することを約束した。」
 

要点を書き出しておきます。 

●北の2002年の六カ国会合での合意事項
①検証可能な非核化
②すべての核兵器開発計画の廃棄
③NPTとIAEA保証措置への復帰

 米国が北に無理難題を吹っ掛けているかのようにいう人もいますが、これは既に16年前に北が国際社会と約束したことの蒸し返しにすぎないことが、一読すればお分かりだと思います。 

もし正恩政権がまともな正統政権ならば、国際合意は政権が代わっても継承されねばなりません。 

この外務省の「六者会合共同声明」文書には、もうひとつ興味深いことが記されています。 

それは今、問題となっている、「朝鮮半島の非核化」を定義している部分があるのです。

アメリカ合衆国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認した。
大韓民国は、その領域内において核兵器が存在しないことを確認するとともに、1992年の朝鮮半島の非核化に関する共同宣言に従って核兵器を受領せず、かつ、配備しないとの約束を再確認した」

かつて北は六カ国会合で、「朝鮮半島の非核化」の定義を、「米国が朝鮮半島に核兵器を持ち込まないこと」と、「韓国が領域内において核兵器が存在しないこと」としてしまっているのです。 

これが「朝鮮半島の非核化」の国際的合意に基づく定義です。ここには「朝鮮半島領域内」と明確に記されています。 

その後、北は2006年に初の核実験を強行し、09年、13年と核実験を重ねました。 

そして正恩政権となっては、今や日常茶飯事です。 

だからと言って、北の正統政権が国際社会と結んだ協定を覆したのは北の勝手。協定における決め事まで一緒に消滅したわけではありません。

北は、いったんこの六カ国会合で合意した2002年のラインまで戻って、そこから始めるべきなのです。

自らがチャブ台返しをしておきながら、合意そのものをグズグズにして、まるで2002年合意がなかったかのように都合よく解釈しているのが北です。

何度か書いているように、おそらく北は米朝交渉において、「朝鮮半島の非核化」を、ギリギリまで拡大解釈してくるでしょう。 

それは、現状で米国は六カ国会合の約束どおり、韓国には核を配備していないし、近隣の米海軍艦艇にも核は搭載されていないからです。 

しかし、遠く朝鮮半島水域から離れて、米本土周辺海域には北を照準したSLBMが存在しますし、グアムにはいつでも北を核攻撃することが可能なB-2が配備されています。 

しかしこれは、「朝鮮半島の非核化」とは地理的には無関係だ、「朝鮮半島の非核化」とは純粋に北の非核化のみを指すと、米国は突っぱねることが可能です。 

また、南北会談において米国、中国を交えた4者会談の開催で合意したとのことですが、これは南北共に当事者能力がないことを白状してしまったも同然です。 

共同宣言文では、「わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則」といいながら、かつてのコリアの歴史どおり、朝鮮半島でいくら戦争が起きても、コリア民族が当事者能力を欠くために、戦闘そのものも後の戦後処理も他人任せという歴史をくりかえしてしまっています。 

また、この共同宣言文には、「冷戦の産物である長い分断と朝鮮戦争」と書いていますが、間違った認識です。 

あの朝鮮戦争は、北が大国を巻き込んだ、小国が大国を大戦争に導いたという歴史的に希有な例なのです。

分断の悲劇を冷戦一般にすり替えていますが、それは歴史の歪曲です。分断の原因は、正恩の祖父である金日成の仕業だと特定できます。 

1950年に北の戦車隊が南を蹂躙して開始された朝鮮戦争は、米国と中国が介入して、というか介入せざるを得なくなって3年後に休戦協定が結ばれました。 

韓国軍は哀れほど弱体であり、戦闘の主体は米軍が主力を努める国連軍と、中北との戦争でした。 

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したがって休戦協定には、韓国はまったく登場しません。韓国軍もいるにはいましたが、あくまでも国連軍のワン・オブ・ゼムにすぎません。

・金日成、朝鮮人民軍最高司令官
・彭徳懐、中国人民志願軍司令員
・クラーク国連軍総司令官
・南日 朝鮮人民軍代表兼中国人民志願軍代表
・ウィリアム・K・ハリソン・Jr 国連軍代表
 

ですから、南北で終戦協定を結ぶことは不可能で、共同宣言文どおり、「南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していく」必要があります。 

現状でこのような4カ国協議をするなら、必然的に非核化をテーマから外すことは不可能でしょう。 

あんがい「朝鮮半島の非核化」について、米中の足並みが揃う可能性も捨てきれません。 

それは米中共に、「核を持った統一朝鮮」など望んでいないからです。 

この4者協議がいつになるのかは分かりませんが、共同宣言文では「休戦協定65周年となる今年」と言っているところから、今年後半のどこかだと考えられます。 

米朝首脳会談がトランプによれば「3、4週間後」ですから、いずれにしてもそれ以降となります。

トランプも、米朝会談が不発な場合、より厳しい海上封鎖をしながら4カ国協議に場を移すというシナリオもないわけではなさそうですが、なんとも言えません。

日朝会談については、長くなりそうなので、別の記事とします。

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