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米国、イラン核合意離脱

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同時に三つのことが進行しています。 

一つ目は、米国のイラン核合意からの離脱
二つ目は、ボンペオ国務長官の二度目の訪朝と、米人拉致被害者の帰還
三つ目は、日中韓三カ国の首脳会談
 

まず、ポンペオ国務長官が、米人拉致被害者3名を連れて帰国するそうです。 

「トランプ米大統領は9日、ツイッターで、北朝鮮に拘束されていた米国人3人が解放され、訪朝していたポンペオ国務長官と共に帰国の途に就いたと明らかにした。(略)
ホワイトハウスは声明で、大統領は3人の解放を「善意を示す前向きな意思表示と見なしている」と表明。米朝首脳会談に向けた信頼醸成の動きとして評価した。長官と3人を乗せた専用機は米東部時間10日未明(日本時間同日午後)にワシントン近郊に帰着し、トランプ氏が出迎える」(時事5月9日)

 正恩が気がついているかどうかはわかりませんが、これはリビア方式の中に人権問題が含まれているということを認めたことになります。 

Photo
トランプがこだわっているのは、俗に「リビア方式」と言われるやり方です。細かい説明は過去ログでお読み下さい。
※「ボルトン、北の非核化に「リビア方式」を主張」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-6d09.html

キモは、「完全、かつ検証可能な不可逆的非核化」(CVID)です。これについてはいままで多く説明したので、今回はふれません。 

本質的に、中北韓が望む不徹底な「非核化」ではなく、核原料・製造装置・弾道ミサイルなどの徹底した検証・解体・国外搬出まで含んでいます。 

つまり、北からキレイさっぱりと、核を消滅させ、二度と金輪際作ろうと思えなくなるような処分、これが「リビア方式」です。 

そしてこの「リビア方式」には、日本のメディアはスルーしていますが、人権問題が含まれています。 

リビア方式が決定した背景には、パンナム機爆破テロやフランス航空機爆破テロがあります。 

Photo_3スコットランド・ロッカビー(Lockerbie)に落下したパンナム機の操縦室。乗客乗員259人と住民11人が死亡した(1988年12月22日撮影)。(c)AFP

米国はリビアに核廃棄を迫っただけではなく、テロに対する謝罪と賠償、その清算を迫ったのです。
 

同じく今回の北に対しも、拉致被害者を返すように言っていることは、単なる会談に向けての信頼醸成一般ではなく、テロという人権犯罪を北が清算することを求めているのです。 

同じくイランに対してもトランプは、世界各地でイスラム原理主義テロリストを操って多くのテロを働いたことを問題視しています。 

これは今回のイランとの核合意離脱を表明した演説にも現れています。この部分です。

「長年にわたりイランとイランの代理人は米国大使館や軍事施設を爆撃し、米国軍人を何百人も殺害、誘拐、投獄し、また米国市民に拷問を加えてきた。
イラン政権は自国民の富を略奪してこれを資源に混乱とテロの上に長く君臨してきた。この政権が核兵器を追求することに何の行動もとらないほど危険なことはない」
(日経5月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30241290Z00C18A5000000/

 今回ポンペオは、正恩に直接会談したと思われますが、米国は中国がいう「段階的同時並行的」非核化などは呑めないということを強く伝えているはずで、それに重ねて人権問題についても迫ったと思われます。 

その回答が米国人拉致被害者の解放ですが、今後これが日本人拉致被害者の解放の端緒となるかどうかは、いまだ不明です。 

さて、ほぼ同時にトランプはもう一枚のカードを切りました。イランとの核合意の離脱です。※「イランとの核合意廃棄と北への核対応」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/post-f05a.html 

これは選挙期間中からやると言っていたので意外性はありませんが、この北との首脳会談直前の数週間前という「時期」が重要です。 

とりもなおさず、北へのこれ以上考えられないほど強いシグナル、あるいは警告です。 

トランプが言っているのは、リビア方式と違って、不完全な査察、制限期間が終わればまた再開可能な核施設の温存、そして核搭載可能な弾道ミサイルが残っているだろうということです。

「イラン核合意は「巨大な絵空事」 トランプ大統領
さらに悪いことに核合意で設定された検査修正条項では、違法行為を防止し、感知し、制裁を与えるメカニズムが欠如しているばかりか、イランの軍事施設など重要な場所を検査する無条件の権利も要していない。この合意はイランによる核兵器開発への野望をくじくことができないばかりか、イラン政権による核兵器を装備した弾道ミサイル開発の事実を表明すらできていない」
(日経前掲)

イランは、「米国は史上かつてないほど後悔するだろう」(BBC5月7日)という表現をして、世界各地でのテロと核開発の再開を匂わせています。
http://www.bbc.com/japanese/video-44026678 

「イランは米国抜きでの核合意の温存に取り組む方針を表明した。ドナルド・トランプ米大統領はサウジアラビアとイスラエルの支援を得て、イラン政府への経済的圧力を強化すると約束している。
イランのハッサン・ロウハニ大統領は、米国抜きで核合意を維持する方法を自国の外交官が今後数週間で欧州、ロシア、中国と協議すると語った。ロウハニ氏は、イランの経済的利益に資さなければ合意が崩壊し、核開発プログラムが急拡大する可能性があると警告した」
(ウォールストリートジャーナル5月10日)
 

また、事実か否かは確認されていませんが、トランプは既にイランが核再開発プロジェクトを密かに開始していると糾弾しています。

「今日、このイランの誓約は虚偽である確証が得られた。先週、イスラエルはイランが長い間隠匿していた諜報記録を公表し、イラン政権がこれまで核兵器を開発していた事実があると結論づけた」(日経前掲)

トランプが言おうとしていることは、不完全な非核化合意をすると、必ずこういう秘密の核再開発が始まってしまうのだ、だからこういう腐った枠組みは一回壊して作り直したほうがいいということです。

この外交的妥当性はいったん置くとして(前政権の政策のチャフ台返しは褒められたことではありませんので)、いずれにせよこれは従来のオバマ以前の米国の伝統的中東路線に復帰するという宣言です。

オバマは親米国家であったサウジ、カタールを除くUAEなどのスンニ派湾岸諸国やイスラエルとの関係を軽視し、イランに傾斜した姿勢をとってきました。 

その結果が、今、トランプが離脱したイラン核合意であり、北の核の「完成」だったわけです。

そのどちらもまったく失敗じゃないか、やりなおすしかないだろう、そうトランプは叫んでいるわけです。 

イラン核合意からの離脱も、オバマがねじれさせた中東政策の捩れからの復帰でした。

一方、北に対するリビア方式による追い込みもまた、米民主党政権が数十年かけて結局、核保有一歩手前まで放置させてしまったことを総括しての最終的解決を目指すものでした。

そのように考えると、トランプが大げさな身振りでやっていることは一見ハッタリじみたスタンドプレーに見えますが、そうではないと思います。

日本の多くの元外交官評論家には不評でしょうが、私はこれを周到な計算に裏付けられた米国の伝統的外交方針への回帰だと見ます。

それについて、トランプはこのイラン核合意離脱演説で、こう述べてます。

「今日の(イラン核合意離脱)発表のメッセージは明確だ。米国は今後口先だけの脅迫はしない。私は約束をしたら守る。この瞬間にもポンペオ国務長官が金正恩との会談の準備のため、北朝鮮に向かっている。
計画が練られ、関係も築かれている。何かしらの取引が成立することを期待する。中国、韓国、日本との協力によって全ての人にとって安全と繁栄が実現するだろう」(日経前掲)

このイラン核合意離脱については長くなりそうなので、次回に続けます。

 

 

 

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コメント

イランが本当に「合意破り」をしたかどうかは不明ですが、オバマさんがした合意の内容はイランの近い将来の核保有を認めるもので、これは明らかな誤りでした。

にもかかわらず欧州はこぞってイランに投資して経済面で足を取られているので、米国の今回の処置を非難するしかないのが現実なのでしょう。

ロシアにとって長期的には米国の中東関与は面白くないでしょうが、短期的には欧州が天然ガス供給の面でイランとロシアを天秤にかけていたので、欧州側に立って米国に文句も言わんでしょう。

トランプ氏の決断が180日ルールを意識したものである可能性もありますが、核拡散ドミノを本気で防ぐ意思を示した事は意義が大きいです。
北とイランの結び付きは重視されるべきだし、北の米朝会談での出口を塞ぐためにも、日本にとって非常に僥倖だったと思います。

あわせてトランプ氏の人権についての姿勢も見せかけではなく、正恩にとっては仮に完全核放棄をやったとしても、幾多の人権侵害の重罪は逃れようがない事態を察知したと考えられますね。

米国はここに来て核放棄問題だけでなく、生物化学兵器など大量破壊兵器一般も含め人権問題までクローズアップさせ、ハードルを上げて来ています。
中共は通商問題で動きが鈍く制限されるうえ、半島の米軍縮小も見えて来るので、あえて北朝鮮側に立って「火中の栗」を拾う意味もないのでしょう。


投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年5月10日 (木) 13時24分

伝統的中東路線と言うとブッシュのような危険な香りしかしませんなあ。トランプはシリアから離脱しようとしているからブッシュと同じように調子付いてイラクのような失敗をすることはないと思いますが

投稿: 中華三振 | 2018年5月10日 (木) 17時32分

中華三振さん。もう少し中東についてまじめに考えてもらえませんか。
危険度からいえば、はるかに中東のほうが臨界点なのですよ。

今、ホワイトハウスには中東を知り抜いたマティスがいます。
彼がイラクの二の舞をさせるとお思いでしょうか?

私が言ったのは、中東の政治軸がシフトしたという意味で、かつてと同じ轍を踏むということではありません。

投稿: 管理人 | 2018年5月10日 (木) 17時39分

マティスと辞めたマクマスターはトランプ政権の重要なバランサーであることはわかっています。
軍人だから戦争屋だとレッテル貼りをしていた日本メディアの頭を割って中を見てみたいほどです。
話は変わりますが、ジョゼフ・ ユンが日本の野党やメディアみたいに日本を「蚊帳の外」と批判しているのを見るとユンが北のスポークスマンに見えて、それがまた思想を越えたコリアンナショナリズムにも見えてきます。流石に北の非核化の前に終戦協定を結ぶことには反対しましたが。

投稿: 中華三振 | 2018年5月10日 (木) 19時45分

複雑怪奇な国際情勢のことは私の単純な頭ではわかりません。琉球新報なんぞは相変わらずの「蚊帳の外」論です(ネタ元は中央の通信社か新聞社でしょうけど)。

安倍首相は早速トランプ大統領と電話会談してるし、つい先日の中東歴訪、ヨルダンの北朝鮮との断交、素人目にもすべてが連動してるとしか思えないのですがね。

中東にせよ、ロシアにせよ、北朝鮮以外に明確な敵対国がない日本の重要性はむしろ増してくると思うのですがどうでしょうか。

投稿: クラッシャー | 2018年5月10日 (木) 20時02分

クラッシャーさん

> 複雑怪奇な国際情勢のことは私の単純な頭ではわかりません。琉球新報なんぞは相変わらずの「蚊帳の外」論です(ネタ元は中央の通信社か新聞社でしょうけど)。

 新聞記者などレベルが低いですね。このブログを読んで自らの頭で考える習慣を身に着けて欲しいものです。

> 中東にせよ、ロシアにせよ、北朝鮮以外に明確な敵対国がない日本の重要性はむしろ増してくると思うのですがどうでしょうか。

 そうだと思います。日本は大和の国ですから、その本領を発揮してもらいたいですね。それには、先の大戦までの日本の歴史を新たな視点で振り返ることが必要になると思います。新聞記者さんたち、そこの勉強もしていないで、毎日の記事を書くのに忙しいのでしょうよ。

 私もありんくりんさん山路さんたちの言説についていくのに背いっぱいのときがおおいですよ。リビアのテロなど当時は酷いと思っていただけの認識しかありませんでしたね。いろいろと現在につながる一連の動きなんですね。
 

投稿: ueyonabaru | 2018年5月11日 (金) 00時49分

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