もうひとつの忘れられた脅威・ロシア
日本では意識的にか、無意識にか、いつのまにか「準友好国」となってしまった国があります。
それはロシアです。
日本人は無関心なようですが、ヨーロッパにおける不変の脅威はロシアです。
プーチンは、現在進行形で、不可避な破滅コースを邁進しています。
2014年3月のクリミア侵攻から始まった旧版図奪還戦争は、リトアニア、ラトビアまで現実的な戦争の脅威として認識されるまで成長しています。
この両国はいうまでもなく、その隣国のスウェーデン政府ですら、全所帯にロシア軍が侵攻した場合や、核攻撃を受けた場合の避難手順を記したガイドブックを配布しています。
弾道ミサイルの通過に対して警報を鳴らしただけで、野党とメディアが大騒ぎする国とはえらい違いです。
ロシアによる英国における露スパイ暗殺未遂事件に際しては、欧米28カ国が結束して、プーチンのこの暴挙を非難し、露外交官の追放措置にまで及んでいます。
「英政府は、23人のロシア外交官を国外追放、あらゆるレベルの高官対話を中止、モスクワでのW杯への王室メンバーと閣僚の出席を見合わせるなどの対抗措置をとった。ロシアは関与を否定し、同じく23人の英外交官を報復として追放した。
3月15日に仏独英米首脳の共同声明、3月19日にEU加盟国外相の共同声明、3月22日にEU加盟国首脳の共同声明などが発せられている。この中から、EU首脳共同声明を以下の通りご紹介する。
欧州理事会は、ソールズベリーにおける襲撃事件に対し、最も強い調子で非難し、生命を脅かされたすべての人々に最も深い同情を表明し、進行中の捜査を支持する。事件の責任はロシアにある可能性が高く(highly likely)、それ以外の妥当な説明はない、とする英政府の評価に同意する。我々は、我々の共通の安全保障に対するこの重大な挑戦に際し、無条件に英国と連帯する」(岡崎研究所2018年4月2日)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/12332
この事件が強い非難を浴びている理由は、単に外国の主権下にある都市において自国のスパイ(二重スパイ)を暗殺しようとしただけにとどまらず、明確に国際条約で禁止されている化学兵器ノビチョクを使用したことです。
ノビチョクは神経ガスで、VXガスの6倍から8倍の威力を持つとされる非人道兵器です。
ノビチョク - Wikipedia
ちなみにこのVXガスは、北朝鮮が正男の暗殺に用いたもので、これも公衆の面前て白昼堂々と実行されています。
今回のスクリパル親子に対するだけではなく、2006年にロンドンでロシアの反体制活動家アレクサンドル・リトビネン氏もポロニウムで殺害されています。
その他にもロシア国内でのジャーナリストや反政府活動家に対しても、半ばおおっぴらに使用されたと言われています。
このリトビネンコ親子暗殺未遂事件で、欧米が結束してロシアに強い警告を送ったにもかかわらず、日本のみはそれに加わりませんでした。
他国の主権下において国際条約で禁じられている化学兵器を使用するというオプションを持つ国に北方領土問題があるからと言って、「友好」などという間違ったシグナルを送るべきではありません。
このような国際社会の大原則を破ったロシアに対しては、相応の報いを受けさせるべきであって、わが国のみが制裁破りに等しいことをすべきではありませんでした。
北方領土は国際社会においていわば「私事」に過ぎませんが、日本だけは孤立しているロシアにとって格好の制裁破りの出口になってなっています。
日本はクリミア併合に対する国際的制裁に加わったために、一気に日露関係を悪化させてしまいました。
それによって、北方領土問題を議題に乗せることはおろか、経済協力すらできない状況となってしまったわけです。
日本嫌いの15年8月にメドベージェフ首相が択捉島を訪問したことに抗議した日本政府に対してロゴジン副首相はが言った台詞がこうです。
それをなんとかプーチンとの個人的信頼関係を構築して、涙ぐましい努力で「正常化」させたのが、安倍首相です。
しかし、ロシアの暴走は止まるどころか、エスカレートし続けています。
今日は長くなりますので、別稿にまわしますが、シリアにおけるアサド政権の国民虐殺にも、ロシアとイランは深く関与していますが、日本はこれについても沈黙しました。
これでは、北の核や化学兵器について日本が制裁をしていることが、まるで「私事」となってしまいます。
国際社会には、この日本の対露政策の大甘ぶりは異様に写っているはずで、これでは日本がいくら北の核の脅威を叫んでもつや消しというべきではないでしょうか。
私は安倍首相の対露政策は、外交上の大きな間違いだと考えています。
日露首脳会談というと、パブロフの犬よろしく北方領土としか報じないメディアによって、国民は目を曇らされていますが、ロシアと語るべきはそれだけではないはずです。
ドイツは2回国を滅ぼして、やっと国際社会と強調することを覚えました。
日本も一回国を滅亡の淵に追い込んで、いかに国際社会における孤立が危険なのかを覚えました。
ならばロシアも、今一度、国を滅ぼすことをせねばならないということなのでしょうか。
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ロシアは広大さ故にか、いつも押し込まれることはあっても滅ばずに在る国だと私は思っています。中国も王朝交代があってもエリアとしては同じでしょうか。
押し込む力は記事にある通り、経済と軍事圧力のセットによる力です。周辺国全てが網をいつもキンキンに張り続けるのは限度があるのもその通りです。
解決しない問題だと承知してあの手この手でずっとやっていくものだと思います。国民世論として領土返還は強く出しておく、というのは大前提です。
投稿: ふゆみ | 2018年6月 6日 (水) 08時47分
世界地図も見ながら、つらつらと考えていたら、ユーラシア大陸に広大な領土を持つ二つの国が西と東に覇権を広めようとしているのだなあ~と。で、それぞれの国は現在正面となる国々とは色々軋轢がありますが、反対側は意外と良好な関係を維持してきたのではないかと?中国とEUの関係然り。ロシアと日本の関係然り。中国が南沙諸島、西沙諸島、尖閣等々拡張行動をとってもEU諸国の反発はあまり聞こえてきませんでした。それと同じとは言いませんが、ロシアのクリミア併合に対して日本は強烈な反発をしていません。北方領土と言う「私事」はあるのかもしれませんが、ある意味、二つの国の国際戦略に他の国がうまく乗せられているのかも?と思ってしまいました。
投稿: 一宮崎人 | 2018年6月 6日 (水) 10時24分
連投すみません。
コメント書き終えて、先日、安倍総理がEU?NATO?に日本の連絡事務所的なもの?(情報が薄くてすみません)を初めて開設したとのニュースをみました。
正規のメデイアでなくSNS上で配信された他国からの情報ですが、それって、日本がEU諸国と同盟(軍事的?)を結ぶって言うことで理解しました。安倍さんは対中国を意識してだとは思うのですが、それは同時に対ロシアでもあると言うことで、氏の外交センスの良さはすごいと思いました。
投稿: 一宮崎人 | 2018年6月 6日 (水) 10時32分
もしかしたら、日本の外交はアメリカとの関係が上手く行かない時
緊急避難的な意味でロシアに近づく傾向があるのかもしれません。
逆に言えばロシアを完全に切ってしまえば
アメリカから無視されたり、ぞんざいに扱われたり、バッシングされた場合、
「別の選択肢もあるんだぞ」カードをちらつかせることが出来なくなります。
本当はアメリカとの関係が常に安定していたら安心だし理想的なのですが。
米朝会談直前の訪米時、安倍首相は拉致の話をしたいのに、
トランプ大統領は貿易の話をするつもりとの報道を見て、
何とも言えない気持ちになりました。
投稿: 保守(戦後の) | 2018年6月 6日 (水) 12時15分
一宮崎人さんに同感です。
日本がNATO内に連絡事務所を設けることなど、これまででは考えられない進歩で「快挙」と言えますね。
これは端的には安倍総理の積極的平和主義の成果と言えますし、この発展も待ち望まれます。
この重要な件をスプートニク始めロシアでは全く報じられていないようです。
ここに日露関係の複雑な進展を見る事が出来ると思います。
また、逆説的になりますが、日露の接近がなければNATO内に連絡事務所を置く事は実現しなかったと思うものです。
日露交渉の劇的な展開は望むべくもなく、まず日本がそれなりの舞台に立たなければ進展しないので、対露非難決議に参加しない事もギリギリ我慢のしどころなのではないでしょうか。
私はむしろ、安倍政権の生き生きとした外交政策を頼もしく感じます。
しかし、このNATOのニュースを私が知ったのは、たしか先月末頃の有本香氏のラジオ番組でした。
今でも「本当に?」感があるほどのビッグニュースですが、新聞・テレビでは全くスルーで後追いもないです。
一体、何のための報道機関なのだか。
ま、それでいいかもです。
でないと、ロシア問題から日本は「蚊帳の外」などと言われかねないですから。(笑)
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年6月 6日 (水) 12時17分
ロシアは欲しければ力で盗れというスタンスですからこのままではまず北方領土が日本に還ることはないでしょうね。
唯一の機会がソ連崩壊後の混乱期でしたが機を逃してしまった。
他にあるとしたら露中の好きな一国二制度での帰属ですがそうやって無血占領したとしても露は派兵するでしょうね
投稿: 中華三振 | 2018年6月 6日 (水) 13時22分
良い意味でのバランス外交なのでしょうけど、
韓国の様に総スカンを食う危険が有りますよね。
なので、何とも言えません。
日本に取っては
インドが未来の命綱に成るかも知れませんね。
投稿: 月影 | 2018年6月 6日 (水) 23時00分
お邪魔します。
> 日本では意識的にか、無意識にか、いつのまにか「準友好国」となってしまった国があります。
>
> それはロシアです。
中国、韓国、北朝鮮、ロシア。
日本の北東にある4ヵ国のうち、反日病が蔓延していないのはロシアだけです。
反日中国人、韓国人、北朝鮮人は枚挙にいとまがないほどですが、
政府間の対立はあったとしても、政治家以外の反日ロシア人というのは、ぱっとは思い当たりません。
日本のロシアに対する嫌悪感が比較的低いのは、当然のことかと存じます。
それはさておき。
北朝鮮が刃物を持ったシャブ中のチンピラ、
中国が繁華街で幅を利かせる半グレ集団、
韓国がチンピラと半グレのパシリだとすれば、
ロシアは本物のヤクザです。
真に危険なのはロシアですが、つきあい方に注意をはらえば安全なのもロシアです。
ヤクザとの「適切な関係」がそもそも「適切」であるかというのはありますが、
暴対法も警察もない国際社会で、事実上の丸腰にすぎない日本が
「適切」を追求するのは匹夫の勇かと思われます。
日本はロシアとの対立を精鋭化させていませんが、
逆に言えばこれは、「ロシアを売る」カードを、米欧に対して温存していることになります。
安倍首相には、拉致問題を解決するためにこのカードを有効活用いただきたいものです。
あと、ヤクザではあっても正気ではあるんですよね。
ロシアは。
中国との国境紛争では妥協していますし、
日本の戦争犯罪を捏造することもしない。
シベリア出兵での村落焼棄は帝国陸軍による弁解しようもない戦争犯罪ですが、
みずからの蛮行を差し置いてその件を言い立てようともしません。
欧州基準ではダメダメなロシアでも、
亜州基準ではましなほうなんですよ。
欧州各国がロシアとの比較的良好の関係を理由に日本を非難するなら、
中国のケツの穴をなめているその舌をひっこぬいて死ねと言ってやりたいですね。
投稿: | 2018年6月 6日 (水) 23時28分
すみません。
名前を入力し忘れていましたが、
23時28分の投稿は私のものです、
失礼しました。
投稿: 七面鳥 | 2018年6月 6日 (水) 23時37分