完成しつつある国際社会の中国・北包囲網
少し前のコメントにNATOに連絡官の派遣がとりあげられていたので、トータルに見ておきます。
日本のメディアは例によってほとんどスルーしていますが、今年の6月1日から3日にかけてシンガポールで始まった通称シャングリラ・ダイアローグ(アジア安全保障会議)に、NATOのNo2・ガテマラー事務次長が出席しました。
そもそも、このシャングリラ対話を主催しているのは、なんとはるか離れた英国国際戦略研究所(IISS)という由緒深いシンクタンクです。
国際戦略研究所 - Wikipedia
英国の有名なシンクタンクが、アジアでNATO諸国と日米の防衛相を集めて「対話」を持つということ自体、たいへんに面白いことです。
シャングリラというちょっとステキな名前は、開催会場のホテルの名前です。
実は2002年から毎年開催されて、今回で13回目になります。
ちなみに、自由主義陣営だけが呼ばれているというわけではなく、毎回中国もお招きに預かって南シナ海の軍事要塞化などで非難を浴びているようです。
さて昨日、ドイツとの同盟は距離があまりに遠いので、大戦中には協同作戦ひとつまともにできなかったと書きましたが、今はややその姿を変えています。
地域的な経済・軍事的脅威が世界的な影響を与えてしまうからで、一国一国の努力だけではなんともならないことが増えすぎたからです。
このシャングリラ対話は、防衛大臣クラスが集まって平場で議論して、誤解があれば解き、直すべきところは直していこうじゃないか(ちょっと違うか)という精神で行われています。
今年のシャングリラ対話では、大きく取り上げられたのは二つでした。
ひとつは北朝鮮の核の問題、そして南シナ海における中国の軍事要塞化でした。
日米からは、マティス国防長官と小野寺防衛大臣が出席し、北と南シナ海の現状を説明し、大きな関心を呼びました。
そしてただの「対話」から一歩進めて、英国のガビン・ウィリアムソン国防大臣はこのように述べています。
「中国の行動は国際法に明らかに抵触し、航行の自由を脅かしている。英国海軍は三隻の艦船を派遣する」
またフランスも、フローレンス・パルリ国防大臣も、「公海を航行するに問題はなく、フランス海軍は南シナ海で作戦を展開する」と述べました。
実はこの英仏艦隊のアジア派遣は、去年のメイ首相の訪日でもふれられていたことで、英国はその意志を鮮明にしたことになります。
「英海軍の史上最大級の新空母クイーン・エリザベスは、2020年に運用開始の予定だ。日本政府関係者は「英海軍は空母を中国が海洋進出を強める南シナ海に派遣し、日本や米国との共同演習などを通じて牽制(けんせい)する」と説明。米軍による「航行の自由作戦」に参加する可能性もあるという。英国としては、海軍力の象徴である空母を派遣することで、欧州連合(EU)離脱後の孤立化を避け、アジア地域への関与をアピールする狙いがあるとみられる」(朝日2017年8月31日)
英海軍空母クイーン・エリザベス
フランスは空母シャルル・ドゴールを送ってくる可能性もあり、そうなった場合、英仏米の空母、そして海自による共同訓練が南シナ海で行われるかもしれません。
実現すれば、これ以上の国際社会の警告はないと思われます。
一方、ヒール役に徹している観がある中国海軍幹部は、今回も迎え撃ってやるとでもいわんばかりの口調で、こう言っています。
「中国は合法的に領海の安全を保全しているのであり、12海里の中国領海に侵入があれば、行動に出る」
よー言うよ、です。
この南シナ海の中国の横暴極まる人工島建設と軍事基地化については、国際法の裁きは既に下りています。
2016年7月に、ハーグ仲裁裁判所が明快に中国の言い分を退けており、中国がそれを認めずに、軍事基地化に邁進しているというだけのことです。
現況で、中国はこの人工島の港湾、滑走路を完成し、電波設備やミサイルを配備し終え、先日にはとうとう念願の爆撃機を発進させたようです。
南シナ海上空のH6k爆撃機
「中国人民解放軍が、南シナ海の島に長距離爆撃機を着陸させることに初めて成功したと発表した。南シナ海を巡っては、人工島の軍事拠点化を進める中国に対し、近隣諸国や米国が警戒を強めている。
人民解放軍は18日、核の搭載が可能な「H6K」を含め、複数の爆撃機の離着陸を成功させたと発表した。どこの島で行ったのかは明らかにしていない。今回の作戦について、地域的リーチの拡大、機動力の向上、攻撃能力の強化を目指す一環と位置付けている」(CNN5月31日)
今、中国は執拗に提訴国のフィリピンのドゥテルテのほっぺたを札束で叩いているようですが、それによって国際法が曲げられるものではありません。
この流れの中での、NATOとの連携強化の一環としての連絡官派遣です。
NATO-日本との連絡は冷戦期から続けられてきましたが、この間、それを踏まえて、英仏豪の各政府と、武器弾薬を相互提供し軍事作戦の後方支援も可能にする「物品役務相互提供協定」(ACSA)を締結しています。
フランスやカナダとは作業中ですので、追っつけ交渉が終了するとみられます。
いままでは、これらの国と共同訓練などをする場合、一回一回協定をむすばねばなりませんでしたが、これらを平時からACSAを結ぶことで、スムーズに行うことができます。
逆に、自衛隊が相手国と共同訓練する場合の施設利用もスムーズに行くようになりました。
これは日米同盟につぐ「準同盟」関係とでもいうべきものです。
あくまでも日米同盟が主軸であることにはかわりありませんが、より多角化して太平洋-オセアニア-インド洋に拡がる広域の「友軍」関係となっています。
これらは安保法制によって集団的自衛権が一部容認されなければ、不可能でした。
おそらくは、インドとも同様の協定は結ばれると思いますので、完成すれば中国の横暴を包み込む大きな同盟の環が完成することになります。
ちなみに既に韓国は、去年、この西側の安全保障ネットワークには乗りませんと、中国に誓紙を入れてしまっています。
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NATO内事務所のニュースはオールドメディアは全スルーでしたね…。
囲われる側の中国も全力で情報戦中です。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180609-00000009-jij_afp-int
ハッキングやサイバー攻撃はディフェンスが難しいと聞くので、互いに漏れ合っているのでしょうが、日本の潜水艦力の情報も常に世界中から狙われているはずです。
しかし、写真を見るたびに思うのですが、この南シナ海の基地は台風や地震に耐え切れるのかしら。
中国の夢の実現につぎ込んだ資金は回収し切れずに破綻し、し世界の皆であそこをまた盗って食う
投稿: ふゆみ | 2018年6月 9日 (土) 10時47分
途中送信してしまいました(汗)
清朝末期のように盗って食うのを欧米は狙っているようにも思えます。
投稿: ふゆみ | 2018年6月 9日 (土) 10時48分
> あくまでも日米同盟が主軸であることにはかわりありませんが、より多角化して太平洋-オセアニア-インド洋に拡がる広域の「友軍」関係となっています。
> これらは安保法制によって集団的自衛権が一部容認されなければ、不可能でした。
> おそらくは、インドとも同様の協定は結ばれると思いますので、完成すれば中国の横暴を包み込む大きな同盟の環が完成することになります。
協力国に感謝! 安倍さんよくやっている!
投稿: ueyonabaru | 2018年6月 9日 (土) 13時04分
沖縄の地政学的な重要性がますます高まりそうですね。ホワイトビーチや浦添市に移転予定の軍港にNATO諸国やオーストラリア、インドの艦船が寄港したりする日が来るのでしょうか。石垣島や宮古島も有事に備えて拠点整備するべきでは。下地島空港なんかもいつで使えるように整備しておくべきでしょう。身の安全は無防備無抵抗で確保できるものではありません。
オールドメディアや一部野党は中共の内外での横暴を何故スルーできるのか理解しかねます。 (日本が動かないように)むしろ協力してんのか?と言いたくなります。
投稿: クラッシャー | 2018年6月 9日 (土) 15時55分