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「バスに乗り遅れるな」論の危険さ

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先日「蚊帳の外」で議論になりましたが、このなんだかなぁ感はどこからくるんでしょう。 

結論から言ってしまえば、「蚊帳の外」論は「バスに乗り遅れるな」論の亜種だからです。 

結局この「蚊帳の外」論者が言いたいのは、「日本は取り残されている。トランプも乗ったゾ。急いで韓国と北がハンドルを握る話しあいバスに乗れ」ということのようです。 

それに尾ひれのように、「圧力一辺倒のアベは、だからダメなんだ」と続きます。 

私は安倍氏擁護には関心がないので、後者は省きますが、どうも「蚊帳の外」論者の下心はこちらを強調したいようです。 

実はこの「バスに乗り遅れるな」論は、日本がダメ判断をする時の常套的失敗パターンなのです。 

日本人には、「世界の流れに乗り遅れる恐怖症」とでも言うべきものがあって、それがしばしば顔を出します。 

日本がかつての戦争に突入した大きな原因のひとつが、日独伊三国同盟でした。 

今回私の思い違いでなければ、「蚊帳の外」論を主張したと思う毎日新聞さんに説明していただきましょう。 

「バスに乗り遅れるな」と破滅へのバスに飛び乗ったのが戦前の日本である。日独伊三国同盟のことで、ヒトラーの独軍が欧州を席巻した勢いに幻惑され、交渉開始からわずか20日間で調印された。
勝ち馬に乗り遅れるなという意味のこの言葉だが、(略)思惑はどうあれバスは対米戦争へとひた走った」(余録 2016年10月7日)

ま、そんなことです。 

今になると結果を知っていますから、ナチスドイツと同盟を結ぶなどというのは、頭のネジが吹き飛んでいるとしか思えない選択でした。 

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当時の世界は世界恐慌の嵐が吹きすさんでいる1930年代なかばの時期でした。 

実は日本は高橋是清による「ケインズ以前のケインズ政策」をとったことで、いち早く大不況から脱しつつありました。 

にもかかわらず、世界のハデな動きに目を奪われてしまうのですな。 

当時の世界不況からの脱却を牽引したかに見えたのは、ヒトラーのナチスドイツとスターリンのソ連だけに見えました。 

実は高橋財政も、ヒトラー財政も、さらにはスターリン財政も、共通点は積極的な財政投資でした。 

これは不況の際に、大きく不足する民間消費に代わって、国が財政支出で需要を補ってやるというものでした。

是清の場合、これに金融緩和がくっつきます。

金融緩和と財政拡大、どこかで聞いたことがあるでしょう。今、平成の高橋財政をやっているのがアベノミクスですから。 

アベノミクスは当初を別にすれば、財政支出に関してはまったくダメダメで、緊縮方向になってしまっていますが、とりあえず今回は置きます。 

とまれ、当時の日本人は家の中にいたはずの青い鳥を、自らの手で絞め殺してしまいます。 

そして日本人が憧れたのは、こともあろうにナチス・ドイツでした。 

日本は地政学的に見て、ソ連との同盟は前提として成立しませんから、結局英米と協調するしかなかったのですが、はるか遠くのドイツと同盟を結んでしまったわけです。 

同盟関係は、具体的メリットがなければやる意味がありません。 

ドイツと提携することによって英米を牽制できて、日本がより安全になったというならともかく、正反対にヨーロッパ全体をナチス化する戦争をおっ始めてしまったドイツと手を組むなど、馬鹿にもほどがあります。 

それはナチス・ドイツの、ポーランド併合やフランス征服、そして独ソ戦当初の勝利に目を奪われて「バスに乗り遅れるな」と焦ったからです。 

これで日本は必然的に、ソ連まで含む列強すべてを敵に回したことになります。 

まさに四面楚歌。 

ドイツとはるかに離れた極東で、どうやったら四面すべてを敵にして勝てるんだ、というような愚かな状況を自らつくりだしてしまったことになります。 

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このドイツにすり寄って日独伊三国同盟を煽動したのが、朝日新聞と陸軍の一部でした。 

やがて彼らは全体主義的な「新体制」を作りだしていきます。 

朝日にだけは、「歴史を直視しろ」とは言われたくはありません。朝日はただの戦争協力者ではなく、戦争へ転がり込む道の推進者筆頭だったからです。

その上、戦争でドイツとの同盟がなにかの役に立ったというならともかく、犬の餌にもなりませんでした。 

軍事的に協同しようにもあまりにも離れ過ぎているからで、密かに潜水艦で連絡を保つのが精一杯ではどうにもなりません。 

これで日本が「バスに乗り遅れるな」論に警戒感を持つと思ったら大間違いで、またもやらかしたのが1990年夏の湾岸危機でした。 

この時も、世界各国が兵や金を出している状況に焦って、外務省は根拠法すらないのに「早く自衛隊を出せ」と政府をせっつくありさまでした。 

この時だしたカネが、出しも出したり110億ドルです。これだけ出してクウェートからは感謝の言葉ひとつないという無惨。 

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ちなみに出した時の与党自民党幹事長は、はい、あの小沢一郎氏でしたね。 

小沢氏はかつてこのような極端な米国ベッタリ政策をやらかして、今は左翼政治家に華麗な転身を遂げています。 

それはさておき、この時に言われたのがまたしても、「バスに乗り遅れるな」論です。 

昨今では、2015年に中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立した時に、真っ先に英国が飛び込むと、またまたメディアは一斉に「バスに乗り遅れるな」を連呼したのは記憶に新しいところです。 

Photo_4毎日新聞2015年4月3日 

AIIBがいかなる中国の戦略の下に作られたのか、その財政基盤は確かなのか、運営に透明性はあるのかなどいった検証すべきことを全部ふっ飛ばして、ともかく「今、入れ。すぐ入れ。英国も入ったぞぉ。中国様のバスに乗り遅れるな」ですからイヤになります。 

いくら中国の台頭に心奪われても、それが国益にかなうことなのか、落ち着いてかんがえたらよさそうなものです。

派手な状況が眼前に現れるたびに、日本にとって利益はなにか、リスクは何かと天秤にかけず、頭に血が登って「バスに乗り遅れまい」とするといった習癖をどうにかしないと、日本人はまた大変なスカクジを引くことになりますよ。

 

 

 

 

 

 

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コメント

歴史から学ばないのではなく、歴史からご都合のところだけをつまみ食いするのが増すゴミだから、問題なのです。

戦時の悲惨ばかり取り上げ、何故そうなったのか、流れ全部無視して、軍部が全部悪いにしてしまっています。

宮崎駿の風立ちぬすら、肝心なところは絵が描く、あたかも軍部が戦争に突き進んだかのような描き方です。

このブログのように、歴史をしっかり見極めるような姿勢の人はごく少数です。

パヨクばかりでなく、ネトウヨ系?の人も、歴史の一部だけを都合よく切り取ります。

そういう隙間で、ユダヤ陰謀史観が驚くほど広がっています。びっくりします。

ドイツははめられた。日本もはめられた。悪いのは全部ユダヤ資本と軍産複合体だ。という理屈です。

どうかしています。

投稿: かつて(以下略)… | 2018年6月 8日 (金) 06時01分

SNSで「世界は再生可能エネルギーにシフトしている。原発推進の日本は乗り遅れている」といった主張をする方々が一部にいらっしゃいます。
各国の乗客が乗った船が沈没しそうなとき、日本人を海に飛び込ませるには「他の人はもう飛び込みましたよ」と言うといい、なんて例え話があるくらいに、日本人は同調効果が大好きな人種のようです。

投稿: エントランス | 2018年6月 8日 (金) 07時52分

エントランスさんの同調効果は、まあ納得できますね。

で、かつてさん。
かつて(以下略)と名乗ってらっしゃるのなら、宮崎駿なんか元々真っ赤っかだということくらい知ってるでしょうに。

いや、宮崎駿やジブリ作品は私も大好きなんですけどね!

「風立ちぬ」なんか、
実際には病弱で酒も煙草もやらない堀越次郎が、駆け付けた恋人を抱き締めながら煙草を吸うシーンなんか「嫌煙論争」にまで発展しましたからね。

宮崎作品では「紅の豚」がフィクションの塊で、宮崎監督の自己投影そのものでした。面白かったでしょ!


夢見すぎですよ。
ガチで馬鹿馬鹿しいです。

投稿: 山形 | 2018年6月 8日 (金) 08時52分

ジブリが出版している「熱風」を一読すればどんな思想の方々が作ったスタジオか一発でわかりますね。
本業のスタッフを大量解雇した後でもこれだけは粛々と無料で刊行を続けているのですからたいしたものです。
でも創作活動を生業にするような方々は基本的にリベラルなんでそういう事を気にし出したらキリが無いですし損するので切り分けるように心がけてます。

北朝鮮への「乗り遅れ論」の行き着く先は制裁緩和と拉致問題の解決をすっ飛ばした上で経済援助をぶん捕るための方便でしかないと感じています。
マスコミ大好きの国連様で決まった制裁なのになんでこんな時には「制裁良くない」って論調が生まれてくるんでしょうね。
これで公平中立を自称してるですから笑えない冗談だとしか思えません。

投稿: しゅりんちゅ | 2018年6月 8日 (金) 10時03分

明瞭な解説をありがとうございます。
とてもすっきりしました。

「バスに乗り遅れるな」論を読んで直ちに思い出したのが小池都知事による希望の党創設に際しての、大量政治家の動きでした。
ものの見事に創設者も参加者も失敗し、国民の信頼を失いました。国民の方が賢かったのです。

つまり、どんな時代でも我々に求められているのは、自分の頭で考えろ、ということだと思います。

日本民族は千年の歴史を持っています。外国の見栄えの良さや、一時の台頭に目を奪われて、どれだけ失敗し、国家の存亡の危機に晒されてきたのでしょうか。

国防に関して、参考にすべきは有史以来、戦争を繰り返している欧州各国の国防の現実だと思います。

特に周囲を敵に囲まれている山岳国家であるスイスの強かな生き方と、
かって世界を制覇し、島国日本と同様海洋国家であるイギリスの、今は舞台から退場しつつあるように見える様から、我々は多くのことを学ぶべきだと思います。

投稿: anti付和雷同 | 2018年6月 8日 (金) 10時14分

バスに乗るにはまず、行き先を知らなければなりません。
バスの目的地は「和平」と標示されていますが、そもそもそんな場所があるのか、あったとしても道が続いているのかも分かりません。

運転手はルールや約束を守らない兄弟が二人で交代しながらハンドルを握ります。
後部座席には、隣家の境界を侵害して「ここは元々俺様の土地だ」と主張する金満家が乗っています。
今から乗ろうとしているのは、約束どころか時間すら守らない格闘技好きの元秘密警察員。
金髪の老人は、口では乗るような事を言っていますが、実際に乗るのかどうか、何を考えているのかイマチイ読めません。

そんなバスに、まだまだ子供っぽいところが抜けきらない名家の御曹司に「乗り遅れるな」とあの手この手で急かす者がいるとしたら…詐欺師以外の何者でもないでしょうね。

投稿: ゆき、 | 2018年6月 8日 (金) 10時30分

「AIIBに参加しろ。バスに乗り遅れるな!」論は当時朝日等のマスコミだけでなく国会でも当時の民主党(今となっては懐かしい名前になってしまいましたが)や共産党が大声で主張していました。
対する麻生大臣は当然ですが「中国主導だからダメ」とは一言も言わず、あくまで「参加する場合には日本国民の税金を投入する事になるから透明性やガバナンス等について問い合わせしているが、一切返事がない。だから現状では検討にも値しないのです。」と至って真っ当な答弁をしていました。
当時私は「仮にも中国がウソでも尤もらしい回答をしてきたらどうなるのだろう?」と心配していました。
ただ仮に2015年まで民主党政権が続いていれば国会審議などほぼ省略して日本は間違いなくAIIBに参加していたのは間違いありません。
2009年衆院選で民主党に投票して何度もお詫びをするハメになった私が言うのもナンですが、曲がりなりにも日本国の民主主義はマシな方に向いていると思います。

投稿: 四国田舎人 | 2018年6月 8日 (金) 11時20分

「~行きのバスに乗り遅れるな」
のスローガンは、思想的にはともかく、まだまだ国力の無い韓国がベトナム参戦した時の宣伝ですね。

で、実に『精強な』エリート部隊はかの地で何をやったのか?
精力だけはギンギンに強い『精強』だったようですけど・・・。

投稿: 山形 | 2018年6月 8日 (金) 14時07分

イラク派兵の頃がバス乗り煽りのピークだったかもしれませんね。SNSが即、ゆきさんが書かれているような眉唾な部分をバラしてしまうので、煽りの書き手が騙し通せるのはコアなアナログ視聴者のみ。とはいえ管理職や自営業社長なんかに案外バスネタに弱い層が、確かにいますね。

投稿: ふゆみ | 2018年6月 8日 (金) 17時23分

乗り遅れるな!のバスに乗り込もうとするトランプ、やはり歴史に名を残したい名誉欲?国内向けパフォーマンス?まさか北朝鮮の投資話にぐらっときたのか(汗)(まあトランプは突然「やっぱり降りるわ」ということも十分考えられますが)
そしてわが安倍総理は日米首脳会談でまたまた日本は米国と完全に一致していると。これはつまり…
そして日米とも最大限の圧力という言葉は封印、トランプは戦争終結宣言の可能性に言及、安倍総理は日朝会談もとのこと。
トランプは米朝会談で拉致問題に言及すると言っていますが、どの程度押してくれるかは未知数、まあ本来日本の問題ですから当然といえば当然なのですが…
しかし日本はアメリカ製品を数十億ドル買うんだぞ!と商売人丸出しな感じ、やはりトランプはトランプですね。このディールは日本にとってハイリスクな上に高くつきそうです。
そしてやはり最後は日本自ら拉致問題交渉するしかない、コロコロ変わるトランプに合わせて「100%米国と共にある」ではなかなか難しそうです。拉致問題は安倍総理の最優先課題としていますし、司令塔となると拉致家族に誓ったのですから、少しずつでもぜひ頑張ってほしいですね、憲法9条があっても拉致被害者奪還した前例すらありますし。

投稿: 改憲派 | 2018年6月 8日 (金) 22時44分

改憲派さんのように見る方も多いのだろうと思います。
バスがブンブン上下するデパートの屋上にあるやつだとしても、入れるのは100円玉じゃない訳ですからね。
あと、米国と100%共にある事と米国に100%吸い上げられる事は違いますから、これは相対的な利益を上げる先として厳しくもリアルに調整するべき事で、実務レベルの交渉ぶりを見ると日本は現状それなりに踏ん張っているように私には見えます。

投稿: ふゆみ | 2018年6月 9日 (土) 08時25分

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