西日本大水害 真備町の小田川決壊は予想されていた
今回の西日本大水害でもっとも大きな被害を出した倉敷市真備(まび)町の小田川について、あの決壊した部分は改修予定に入っていたことがわかりました。
この真備町一帯だけで1200ヘクタールが浸水し、約3500人が避難しています。現在も懸命の復旧がなされていますが、冠水状況が続いています。
それを伝える朝日新聞(7月8日)です。やや長いですが、引用します。
https://www.asahi.com/articles/ASL7956K2L79PTIL02N...
「住宅地が大規模に冠水した岡山県倉敷市の小田川の決壊は、高梁川との合流地点付近が湾曲して水が流れにくくなっているため、水がたまって、上流側の水位が上昇する「バックウォーター現象」が原因とみられると専門家は指摘している。水害の恐れが高く、河川改修の工事が計画されていた。岡山大の前野詩朗教授(河川工学)は「改修後であれば洪水は防げたかもしれない」と話した。
前野さんによると、家の2階部分まで浸水した倉敷市真備町は、地区の東側を高梁川、南側を小田川に囲まれている。川の合流地点は湾曲しているうえ、川幅も狭く水が流れにくい。流れなくなった水は勾配が緩やかな小田川のほうにたまりやすく、決壊したとみられるという。一度浸水すると排水されにくく、浸水地域の水位が高くなりやすい。倉敷市が作ったハザードマップでも、今回浸水した地区のほとんどを2階の屋根ぐらいまで浸水する5メートル以上と予測していた。
国土交通省の資料によると、合流地点付近では1972年や76年などにも浸水が起きている。前野教授は「今回は過去最大級の被害だ」と話す。国交省によると、洪水を防ぐため、高梁川と小田川の合流地点を、湾曲している部分よりも下流側に付け替えて水を流れやすくする工事が計画されていた。今秋には工事用道路の建設を始める予定だったという。合流地点を下流に付け替えることで、小田川の水位が数メートル下がることが想定されていた」
つまり小田川がここで決壊したのは、高梁川との合流点に当たっていて、その部分が狭くなっていたために推量が制限されて、急激な流水量の変化に対応できなかったためにでした。
これをボトルネック現象と呼びます。
倉敷市はこの小田川-高梁川合流点の危険性を充分に知っており、国交省に改修を10年間に渡って再三要請していた曰くつきの地点でした。
国交省もこの地点の危険性を見逃していたわけではなく、2014年3月には改修工事予算をつけるための計画段階評価をしています。
『平成26年度予算に係る河川事業の計画段階評価』(国土交通省HP)
この評価文書をご覧いただきたいのですが、最上段が「治水安全度」、つまりは目的ですので、やらねばならないという合意は明確にあったと思われます。
次ぎに、真っ先に検討対象になったのは2番目の「コスト」です。「完成までに要するコスト」には4種類あって、①410億円②350億円③420億円④280億円となっています。
「実現性」という欄には、その問題点が記されていますが、最大の問題は立ち退きを要求される160戸の所帯に対する補償だったことがわかります。
下の航空写真を見ると立ち退き予定地域には、多くの住居があるのがわかります。この住宅の立ち退きと新たな住居の選定などがネックだったようです。
結局、採択されたのは以下の文書に記されています。
『平成26年度予算に係る河川事業の新規事業採択時評価』(国土交通省HP)
ひとつ上の計画段階評価で最も安い④の280億プランが2014年(平成26年度)に予算がついたことがわかります。
最もコストが削減されたといっても、上の航空写真で見える膨れた部分の更に上から、改修を始めて下流まで伸びる大規模なものです。
工事期間は、2016年から2028年ですから、12年間に及ぶ大規模なもので、「今秋には工事道路が開始される予定」(朝日前掲)だったようです。
しかし自治体が2014年以前に危険を認識し、国も改修合意したにもかかわらず、まだ工事道路すら出来ていなかったというのが現実だったわけです。
なぜでしょうか?
理由は明らかです。緊縮財政のために予算が削減されたためです。
この倉敷市小田川のようないつ決壊しても不思議ではない川を、なんと12年もかけてトロトロと工事すること自体が異常なのです。
このような明らかな危険箇所は、単年度予算でチビチビするのではなく、建設国債を使って一気に改修してしまうべきでした。
日本には豪雨があれば決壊する河川、山津波を起こす可能性がある山は無数にあります。
そして今回のような異常豪雨は今や常態化し、待ったなしなのです。
治水は国が国民の安全と財産を守るための根幹事業です。全国的に危険箇所を徹底的に洗い出し、その財政措置を含めて抜本的に見直さねばなりません。
それを怠れば、また多くの人の命が奪われます。
このような状況の時に、豪雨の前夜、自民が宴会をしていた、いや立民もやっていただろう、という低次元なことに、お願いですから眼を奪われないで下さい。
この西日本大水害が教えることは、そんなところにはないのですから。
謝辞 ニッポン放送飯田浩司氏にご教示いただきました。感謝致します。
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民主党系野党にとっては、「事業仕訳」で削りまくった部分なので言いにくいのかもしれないけど、こういうところで踏み込んでいかないと奴の存在意義はないと思うんですけどね。
飲み会批判していた蓮舫は自分たちも飲み会やっていたという伝統のブーメラン芸やらかしているけど、突っ込む場所が的外れ過ぎでしょ。
投稿: ednakano | 2018年7月12日 (木) 09時15分
ここの場所は江戸時代から水害被害に遭っていた場所で、洪水対策事業もそれこそ50年前から
上に上がっていたようですね。それが今に至るも進まないのは予算もそうですが、それ以上に
住民の反対運動が原因と。
http://www.sanyonews.jp/sp/article/748479/1/?rct=area_syuyo
30年間もめて迷走挙句の果てに事業変更、それで予算獲得まで10年。その間に倉敷市のベッド
タウン化して、更に人口が増えたと。何か東日本大震災時と同じ事を聞いた感じ。
http://www.cgr.mlit.go.jp/okakawa/kouhou/takahashi_asesu/doc/gaiyo.pdf
今回のことは既にとっくに予想、いや「予言」されていたに等しいのにねえ。ヘタに自然を守ろ
うとした挙句「自然」のなすがままにされちまって、国交省担当事務所の人は「何でおれらが居
るときに洪水起こりやがるんだ」と心の中では憤懣やるかたないでしょう。
投稿: 守口 | 2018年7月12日 (木) 11時59分
守口さんが触れていますがこのような立ち退きが絡む案件になると必ずごねる方々が出てきますね。
中には単なる銭ゲバもいますが、高齢者などは引越しによるコミュニティの断裂をもっとも恐れるのでこのような人らと怪しげな保護団体が結びつくともう収集が付かない状態になってしまいます。
また最近は所有者不明の空き家や土地などの問題もあるのでこれらを迅速にクリアに出来る法案整備も必要になってくると思います。
どっちにしろ過ぎてしまった些細な事をいつまでも喚き散らす前に、今回の経験を今後どう活かして災害を未然に防いでいくのか?
といった身のある議論をするように国会に促すのが野党本来の役割のハズなのですけどね…
投稿: しゅりんちゅ | 2018年7月12日 (木) 13時05分
先ほどまでBSフジの防災に関する番組を見ておりましたが、実に説得性のあるもので大変に勉強になりました。
スーパ-堤防というものがありますが、私も含め多くの方々がそれを誤解をしているのではないのかと思いました。海抜0メ-トルと言われる東京の下町エリアでもス-パ-堤防を造ることにより水害が防げるというのです。下町を流れる河川で堤防決壊があればその被害は甚大であり防災施設(ス-パ-堤防)の建設費よりも上回るほどだとのことです。
公共工事を全開して栽培対策事業を実施すべきだと思いました。それには、建設国債を増発する必要がありますが、政府がプライマリ-バランスというおかしな考えにとらわれている限りはこれの実現はできないでしょうね。
出演者は、片山さつき氏、藤井内閣参与、あと、二名の人土木工事の専門家の方々でした。勉強になった。
投稿: ueyonabaru | 2018年7月13日 (金) 22時13分
栽培は災害の間違いでした。
投稿: ueyonabaru | 2018年7月13日 (金) 22時15分