謝花副知事の承認撤回は違法故に無効です
謝花副知事、とうとうやってしまいましたね。さんざん「オール沖縄」に尻を蹴飛ばされたからでしょうか、またまた承認撤回だそうです。
「県の担当者が31日午後、防衛省沖縄防衛局を訪れて承認撤回を通知した。通知後に県庁で記者会見した謝花喜一郎副知事は、撤回の理由について〈1〉サンゴやジュゴンの環境保全対策に問題がある〈2〉海域に軟弱地盤がある可能性が判明――などと主張した。
謝花氏は「違法状態を放置できない」とも語った。
これに対し、小野寺防衛相は同日夕、防衛省で記者団に「非常に残念だ。必要な法的措置を取る」と述べた。承認撤回で失われた埋め立て工事の法的根拠を回復させるため、政府は近く、撤回処分の執行停止を裁判所に申し立てる。併せて、撤回処分の取り消し訴訟を起こす予定だ。辺野古移設を巡る国と県の訴訟は6件目となる」(読売8月31日)
またか、といった感じで、これで国と県の訴訟沙汰は6回目となります。いいかげん、こんな政治的な意味しかもたないなまくら弾は撃たないほうがよろしいかと思います。
行政マンだった謝花氏は、結果なんかとうに分かっていますね。分かっていなければ馬鹿か、行政マン失格です。
なんどとなく書いてきているのですが、2016年12月20日の県が全面敗訴した最高裁判決で決着はついています。
経緯をみておきます。
今回の謝花副知事の承認撤回はモーレツに既視感があります。上の年表を見れば、何回同じことをしているのかと私が思ってしまうのが分かるはずです。
訴訟沙汰6回、うち承認拒否が今回で2回目です。
前知事が死去する前まで「辺野古疲れ」という言葉がささやかれていましたが、当然です。
これをもう一ラウンド、8年やるというんですから、なんともかとも。
そもそも前回翁長知事が、第三者委員会まで作って承認撤回をした理由はなんでしたか。
今回と同じ環境保全策だったはずです。
なんだ今回とまったく同じじゃありませんか。
あの時も第三者委員会というお手盛り機関を使って、仲井真知事時代に承認を審査した元県土木建築課の職員をつるし上げました。
しかし最後まで、第三者委員会は土木課に対して瑕疵があることを認めさせることはできなかったわけです。
だって、あると言っているのは活動家だけ。そんなものは専門家から見ればないんですから。
土木課の職員が瑕疵がないと主張したということは、県は瑕疵がないと主張していることを意味します。
それを翁長氏は、むりやり土木に素人の弁護士による第三者委員会なるものを作ってねじ伏せたのです。
もちろん承認拒否のために人選した、ハナから結論ありきの機関でした。
職員たちは、個人としてこのヒアリングに望んだわけではありません。あくまでも県の職員として、「県の意見」を述べているのです。
そしてその職員の上長にして、県を代表する行政官は、他ならぬ翁長氏その人です。
「県の意見」を否定しようとする県知事。こんな大笑いな矛盾はめったに見られるものではありません。
なにせ「県の意見」たる職員の陳述を、県の最高責任者自らが否定しているのです。いったい、沖縄県という自治体のガバナンスはどうなっているのでしょうか。
今回も似たようなものです。主管したのは、土木とはまったく関係ない総務部でした。
「承認撤回に向けて行政手続法にのっとって開催された今月9日の聴聞は、県総務部行政管理課長が中立の立場で聴聞を主宰した」(琉球新8月30日)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-793414.html
なぜ土木工事案件なのに、当該部局がはずされているのですか。それは土木課が専門性をもった担当官として防衛局と同じ意見だからです。
また、そもそもこのような謝花副知事の承認撤回は、行政官として与えられた職務権限を大きく超えた越権行為で、それこそ「違法行為」そのものです。
知事不在状況における職務代行者は、なるほど副知事です。
しかし職務代行者である以上、国との紛争が予想されるような重大案件を決裁することはできません。
これは「沖縄県事務決裁規程」に明瞭に示されています。
沖縄県事務決裁規程
総務部行政管理課が主管しておきながら、こんな決裁規定すら読みもしなかったようです。
呆れたことに沖縄県の行政ガバナンスは、政治的意図で恣意的に解釈できるものなのでしょうか。
なるほど職務代理決裁でも、代行者決済は知事と同じ効力を発生すると書いてあります。
「第3条 この訓令に基づいてなされた専決及び代理決裁は、知事の決裁と同一の効力を有するものとする」
しかし謝花氏はそのすぐ後の第4条を読まなかったようです。ここには重大事項については「専決留保」するとはっきり書いてあります。
●(重要事項等の専決留保)
第4条 専決者(この場合は副知事)は、この訓令の定めるところにより、専決することができる事項であっても、次の各号のいずれかに該当するときは、上司(この場合は知事)の決裁を受けなければならない。この場合において、決裁を求められた者が更に上司の決裁を受ける必要があると認めたときは、その決裁を受けなければならない。(1) 事案の内容が特に重要であり、上司の指示を受ける必要があると認められるとき。
(2) 取扱上異例に属し、又は重要な先例になると認められるとき。
(3) 疑義若しくは重大な紛争があるとき又は処理の結果重大な紛争を生ずるおそれがあると認められるとき。
(4) あらかじめその処理について、特に上司の指示を受けたものであるとき。
今回の国を相手とした承認取り消しは明らかに(1)の「事案の内容が特に重要」、あるいは(2)「取り扱い上異例に属し、重要な先例」に該当することは、いうまでもありません。
そしてそれを執行した結果、(3)「疑義もしくは重大な紛争」が生じたのは、前回の翁長氏がした第1回目の承認撤回紛争でよく分かっているはずです。
最高裁まで行ったような事案は、「重大な案件」そのものです。
だから職務代行者たる副知事は(4)「上司の指示を受け」る必要があるわけですが、謝花氏の上司たる翁長氏は既に死去して指示を与えることは不可能です。
このような沖縄県事務決裁規定が存在するのは、行政事案と政治事案を明確に区別せねばならないからです。
日々処理すべき行政事案を、上長が不在だからと言って滞らせるわけにはいきませんから、職務代行者の部下が処理することはまったく正当な事務処理です。
しかし、政治的な重大案件は別次元です。
だから、事務規定にはわざわざ「重大事項専決留保」条項を設けて、勝手に代行者が決めるのは留保しろと書いてあるのです。
それは選挙によって選ばれた政治家がするべき「政治的案件」だからです。
百歩譲って翁長氏が存命で、複数の公人の前で、副知事に対して「これこれをしてくれ」と依頼したならば、まだ合法性が担保されるでしょう。
いやその翁長氏ですら、政権末期に重大政治案件を実施することは明文化されていませんが、ルール違反です。
政権末期には大事なことは決定しません。もし自分以外の人物が知事に就いた場合、新政権を拘束してしまうからです。
ましておや、副知事なら言うも愚かです。
翁長氏は死去と同時に知事を失職したわけで、謝花氏は現況で上司不在な状態です。
したがって、謝花氏の承認撤回は沖縄県事務決裁規定のすべての項目に反する違法行為です。
さて、このような謝花氏がどうしてこの知事選直前にこんなことをやりだしたのか、理解に苦しみます。
承認撤回を争点にしたいのでしょうが、ならば今月末の知事選の結果を待って、次期知事がすればよいことです。
こんな駆け込みで、その上に職務権限違反が濃厚な副知事がする必要はありません。
国もその間、土砂投入工事はしないと言っている以上、急ぐ理由がわかりません。
仮にデニー氏が勝利すれば、彼が新知事としてやればいいだけのことです。
考えてみれば、むしろ今回の承認取り消しは、国にとってはラッキーな暴走だったかもしれません。
違法にされた行政措置は無効だからです。
違法を承知で職務代行者がした場合、国は直ちに訴訟に持ち込み、確実にその事務規定違反を突けるからです。
結果、最高裁判例とこの事務規定違反の二つの理由で、デニー「新知事」は登場早々に敗訴してしまいます。2回敗訴した場合、3回目はもはや冗談です。
その場合、デニー新知事は「万策尽きたから、妻と座り込む」のでしょうか。知事が運動家と同じことしてどうするのか、なんて言っても無駄でしょうね。
就任早々、「伝家の宝刀」のはずがとんだ竹光だったことがバレてしまいそうなデニー氏。進むも地獄、退くも地獄のようです。
※謝辞 沖縄県行政規定については、篠原章氏のご教示を頂戴いたしました。感謝いたします。http://hi-hyou.com/archives/7824
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読んでて「聴聞」が「醜聞」に見えてしまうほどのグロテスクさです。
事務屋の副知事さんも次期知事候補も、沖縄県民の生活をまるで考えていないのですかねえ。。
基地だけじゃなかろうに・・・そんなことで一点突破されても皺寄せが来るのは県民だというのに。
投稿: 山形 | 2018年9月 1日 (土) 07時03分
> 土木課の職員が瑕疵がないと主張したということは、県は瑕疵がないと主張していることを意味します。
当時のことを思い出します。県土木課の職員たちは己の主張を曲げませんでした。偉いです、あっぱれです。翁長知事は部下の仕事を否定したことになります。良くない上司ですね。
デニ-さん、沖縄県知事にはなりなさんな。苦労多くして成果少なし になりますよ。
投稿: ueyonabaru | 2018年9月 1日 (土) 11時10分
損害賠償などの派手な要素に隠れがちでしたが、なるほどこのような観点から見れば「撤回」は致命的な一手ともなりうる愚手だということですね。
それにも関わらず断行したという事は法を犯してでも国と県の対立構造を演出しないとオール沖縄側への集票、下手をすれば支援組織すら纏まれない状況にあるという事なのでしょうか?
そうでなければここまでのリスクを冒してまで行う手段ではないと思うのですが…
今回の撤回に関しても土木課は早々に難色を示し明確な意志表明をしていましたし、シュワブ周辺の埋立てる必要が無くなったところは工事を行わないなど今回もいい仕事をしていると感心しています。
投稿: しゅりんちゅ | 2018年9月 1日 (土) 12時28分
自分で調べて、自分で考える人ならもう撤回は無理だと判断するはずです。ただ新聞の報道を鵜呑みにする人たちは、沖縄県が故翁長知事の意志を継いだと思うでしょうね。完全な選挙用のパフォーマンスです。
このような印象操作は特に沖縄のマスコミの得意とするところです。一定の集票効果はあると思います。
国も知事選前は動きにくいですね。
公明、維新を合わせた保守と革新の鉄板票がほぼ互角。
弔いと言う意味では、革新にプラス。
小沢一郎や枝野幸男の存在は革新にマイナス。
直近の首長選挙は保守の連勝。特に当事者の名護市の保守勝利は、保守にプラスになります。
最後まで分からないですね。
投稿: karakuchi | 2018年9月 1日 (土) 13時38分
埋立は自然破壊なので、不要ならすべきでは無いと思いますが、反対派の主張に「この美しい海を埋め立てるなんて」なる意見は、美しくなきゃ埋立可って一種の身勝手?さが感じられます。
加工貿易で成り立ってる日本は全国津々浦々の埋立地に建てた工場の製品で外貨稼ぎ、原料や食料輸入して国として成り立ってますが、それぞれの地域にも本来豊かな自然が有った筈で、それを物質的豊かさと引き換えたと思われます。北九州市など戦前時点で自然の海岸など殆ど無かった。
沖縄へ米軍基地集中は問題と思いますが、逆に上記工場(製鉄所、化学工場等素材産業の環境汚染はエグい)等の負担余り無いし、最近の沖縄(全体で無いの解ってますが)の主張は失礼ですが、他県人に一定の不快感与えかねない一方的な物感じてしまいます。
投稿: Si | 2018年9月 1日 (土) 14時01分
ふと気になったのですが
前知事が存命中に「撤回に関する判断とその時期は副知事両名の判断に全て委任する」といった一筆を残していたとしたらそれは死後も有効になるのでしょうか?
遺言音声も持ち出してくるぐらいですから、これくらいの準備はしていそうです。
投稿: しゅりんちゅ | 2018年9月 1日 (土) 14時26分
「政治判断」ではなく「行政行為」だと強弁していますが、これは全くの詭弁ですね。
聴聞を一回で終えたのも致命的です。
二紙お抱えの成蹊大武田真一郎教授ですらも、この時点での「撤回」は「勝ち目がないだけでなく、裁判所は早期判決が下されるだろう」としています。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年9月 1日 (土) 15時37分
初めてコメントさせていただきます。
沖縄知事選が話題になっているため個人的に調べていたところ、このブログにたどり着きました。
初歩的な質問で申し訳ないのですが、なぜ辺野古移設は必要なのでしょうか?
私は今、色々なサイトで「実はこうだ」「あれはデマだ」等と意見を見てきて、正確なことが分からなくなってしまっています。
(ブログ主様は、ソースを明確に示していらっしゃるため、正確性の高い情報を得られると考え、このような質問を書き込まさせていただきました。
時間等がないようであれば、スルーしていただいて構いません。)
投稿: hatsu | 2018年9月 1日 (土) 16時29分
hatsuさん、過去ログの沖縄問題というカテゴリにここに要約しきらないくらいの読み応えで、何年分もの検証記事があるので是非ご一読くださいな。
このアドレスコピペででなければ、スマホならスクロールして下の方に、パソコン表示なら右側にカテゴリ区分あります。
http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/610475/515571/category/21950983
投稿: ふゆみ | 2018年9月 1日 (土) 16時35分
katsuさん
宮城安秀名護市議が、昨年宜野湾市我如古(がねこ)公民館で行った講演ビデオです。ご参考までに。
https://www.facebook.com/ginowannews/videos/1918823541778263/
投稿: 宜野湾くれない丸 | 2018年9月 1日 (土) 19時02分
しゅりんちゅさん
遺言状というのは普通財産分与でよく出てくるものですね。これは、死者に財産というものがある場合、死後にこれを遺族などへ分配することをあらかじめ死者(故人)が決めておくものです。
沖縄県知事の遺言があるとすれば、これを残された関係者が実行するかどうかは法律的には定めはないのでしょう。ですから、残された者たちが協議して決めるということになるのでしょう。そのような理解をしていますが・・・。
翁長知事が、後継者を決めたもの(文書、録音)はないのではないか? 後継者まで考えておく余裕はなかったのではないか?
投稿: ueyonabaru | 2018年9月 1日 (土) 19時59分
それにしても、謝花副知事が怯えているように見えるのは私だけでしょうか。
仮に、翁長知事の遺言があったとしても、法的問題は別でしょう。仲井真前知事も仰っていますが、法的に瑕疵が無ければたとえ知事とて拒否することは出来ない。
出来ないことをやれと遺言したのなら、出来ないことは出来ないでしょう。
投稿: karakuchi | 2018年9月 1日 (土) 21時18分
まさかと思ったがやったか。
投稿: ななし | 2018年9月 1日 (土) 21時36分
ueyonabaruさんへ
よくよく考えればそのような有効なモノが存在するのであればとっくに公表しているでしょうし、無いと言う事は玉砕バンザイとばかりに決裁に踏み切ったのでしょうか、本当に正気の沙汰ではありません。
今朝になって翁長夫人の最後の半年の様子を語るインタビューが掲載されていましたが「ここまで良く頑張った」と言う思いよりも「こんな体調でまともな状況判断ができていたのだろうか?」という不安の方が大きく感じられました。
この記事を含めて元知事を語る際にかつて辺野古移設推進派だった過去について全く触れないというのもあまりに狡い。
投稿: しゅりんちゅ | 2018年9月 1日 (土) 22時56分
ヤレヤレだぜー、と思いましたわ。もう知事選で白黒が
つかないと何も始まりませんやね。
なんやらウソ臭い遺言でポッと出馬のデニーさんという
方が知事になれば、おそらく実力・手腕が無いと思われ
るので、沖縄は経済を含めてさらにヨレヨレの袋小路に
突入して、沖縄の一般の人達も一向に発展しない島を見
ながら「ヤレヤレだぜ」と脱力感に浸りそう。
それでも、保守(実際は昔ながらのムラ世帯ジミン)もダラ
しないというかナァナァのズブズブなので期待できない
のでしょうねー、日本の縮図をさらに煮詰めて濃くした
ような状況ですわ。私が若い沖縄人で少しでもビッグに
なるぜと野心があれば、沖縄を変えるなんて思わずに東京
大阪などへサッサと出ますわ、イナカの面倒はゴメンです。
将来を決めるという知事選なのに、この閉塞感は天にも
届きそうです、地元沖縄では一般の人達は盛り上がって
いるのでしょうか? ヤレヤレは本土ド地方民の私だけ?
投稿: アホンダラ1号 | 2018年9月 1日 (土) 23時13分
今後も翁長知事関連の報道は増えるでしょうね。
これってもう事前運動のレベルです。
投稿: karakuchi | 2018年9月 2日 (日) 07時54分
アホンダラ1号さんに大賛成です!
投稿: ueyonabaru | 2018年9月 2日 (日) 08時14分
田舎では現職死去に伴って、側近であった副知事が出馬してあっさり当選なんてことがよくありますけど・・・
謝花氏がそれこそ
「私こそが故翁長先生とオール沖縄の正当な後継者である!」
と宣言して堂々と出馬していれば、法的にはアウトですけど印象や見た目は随分と違ったものになっていたことでしょう。
現実的に無理だったんだろうことは分かります。
ま、あんなオドオドして仕方無くやってる感アリアリでは、政治家の器じゃ無かったということですね。
オール沖縄という虚像の中で事務屋で泥臭くなんとか生き抜いてきただけだったんだと。
それにしても謝花さん、見事に貧乏籤引かされましたね。進むも戻るも立ち止まるのも地獄じゃないですか!ちょっと同情します。
投稿: 山形 | 2018年9月 2日 (日) 08時19分
ふゆみさん、宜野湾くれない丸さん
ありがとうございます。
参考にさせていただきます。
投稿: hatsu | 2018年9月 3日 (月) 00時51分