トランプの対中第3次経済制裁発動とムンジェインの訪朝
ムン・ジェインが訪朝し、正恩と抱擁しあっているという気持ち悪い写真を世界に流しているちょうどその時に、トランプは対中第3次関税制裁を発動しました。
正恩の千代丸のような腹がつかえて、がぶり寄りみたいになっています(失笑)。旧ソ連圏では、ヤニ臭いオヤジたちが頬ずりしてキスまでしていましたから、ま、いいか。
まずはムンと正恩の方から見てみますか。
「ソウル=水野祥】韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は18日、北朝鮮の首都平壌(ピョンヤン)で、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と今年3回目の南北首脳会談を行った。会談は19日も行われる。北朝鮮が表明している「完全な非核化」について、文氏が正恩氏から具体的な措置を引き出せるかどうかが焦点となる。
会談は平壌の朝鮮労働党本部で、18日午後3時45分から2時間行われた。平壌共同取材団によると、正恩氏は会談冒頭、「文大統領の絶え間ない努力で北南(南北)関係、朝米(米朝)関係が良くなった。歴史的な朝米会談のきっかけを見つけてくれた」と語り、6月に行われたトランプ米大統領との首脳会談を成果と強調した。「朝米間で、さらに進展した結果が出せると思った」とも述べた。
これに対し、文氏は「新しい時代を開こうとする金委員長の決断に謝意を表する。豊かな結果を残す会談とし、全世界の人に平和と繁栄の成果を見せたい」と応じた。(読売9月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=cEWYjNMmoAA
経済使節団よろしく財界トップをなんと200名総ざらいで連れていくそうですから、これはもう公然たる国連制裁決議に対する正面きっての挑戦です。
恍惚とした表情のムンには気の毒ですが、何を「合意」しようと、北の非核化の進展には何の関係もありません。
そもそも米国とサシで交渉しているというのが自慢の正恩にとって、パシリのようなムンに非核化の言質など与えるはずがありません。
「陸・海・空のすべての空間で一切の敵対行為中断」がキモのようですが、勝手に終結宣言もどきを出してしまっては、国連軍や米韓同盟をどのように考えているのか疑われます。
それともさっさと在韓米軍には、撤退してもらいたいってことなのでしょうかね。
米朝間でなにも決まらないうちから、米韓合意もないままに勝手に踏み込むのでは、はっきり言って米朝交渉のノイズにすぎません。
ムンが気がついているのかどうかわかりませんが(たぶんナルシストのムンは気がついていないでしょうが)、なぜほぼ同時にトランプが対中経済制裁に踏み切ったのか、考えてみる必要があります。
この南北会談と対中第3弾経済制裁は無関係ではありません。
さて、トランプの対中関税第3弾はこのような内容です。
「第3弾を発動すれば計2500億ドル分となり、中国からの年間輸入総額(約5千億ドル)の半分に相当する。多くの米国企業は「コストが上昇して最終消費者の負担も増えて需要が落ち込む」として反対意見を出してきた。中国は米国産の液化天然ガス(LNG)など600億ドル分に5~25%の関税を課す報復リストを公表済みだ。米中をまたがるサプライチェーンを構築した日本企業にも影響が広がるのは必至だ。
米政権は3月、中国の知的財産侵害に対して計500億ドルの制裁関税を課すと表明した。追加関税で圧力を強めながら、米国企業に対する技術移転の強要や、ハイテク産業への巨額補助金をやめるよう求めてきた」
(日経9月18日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35454050Y8A910C1000000/?n_cid=DSPRM1489
中国が報復した場合、第4弾として対米輸出全額以上の2670億ドルに関しても関税を用意するとしています。
一方、中国は報復関税として600億ドル相当を発動するぞと強気を装っていますが、当初の予測より低いのは、米国から中国への輸出の多くは畜産飼料だからです。
これに高関税をかけると中国人の主食の豚肉を直撃して食品全体に及び、インフレを招く恐れがあるからです。
これで中国は米国に対抗するカードがないことを、自ら暴露してしまったことになります。
このトランプの対中経済戦争の目的は、いくつかあります。
ひとつめは、中国の自由貿易原則の破壊に対しての懲罰です。
たとえば、不当な進出企業への技術移転強要や、先端産業の輸出補助金、為替操作介入の停止などですが、いずれもあたりまえすぎるほどあたりまえの要求で、今まで親中のオバマが腰が引けていただけのことです。
ふたつめは、安い賃金と市場を求めて中国へ逃げていった米国産業に米国内に引き戻すことです。
これは、グローバル・サプライチェーンから中国を外すことを意味します。
サプライチェーンについて押えておきましょう。
「チプサイチェーン(供給連鎖管理)とは、物流システムをある1つの企業の内部に限定することなく、複数の企業間で統合的な物流システムを構築し、経営の成果を高めるためのマネジメント手法である。
なお、この場合の「複数の企業間」とは旧来の親会社・子会社のような企業グループ内での関係に留まらず、対等な企業間で構築される物流システムもサプライ・チェーン・マネジメントと呼ばれる」
サプライチェーン・マネジメント - Wikipedia
たとえば北海道の停電のために北海道からのサプライチェーンが切断されて、本州の企業も一緒に止まる工場が多く出ました。
このようにひとつの製品を作るまでに多くの企業が連鎖して物流を作ることで、今の製造業は成り立っています。
日本でも万単位の企業が、中国にサプライチェーンを持つようになりました。
米国も同じで、熱に浮かされたように中国にサプライチェーンを移動させてしまった結果、米国産業の空洞化現象が生じました。
もっともその影響を受けた米国においては、こんなことが起きています。
「世界最大の市場規模を誇るアメリカも、グローバル化により製造業の空洞化を招いた。そのため、ベンチャー企業が開発した新しい商品を作ろうにも、生産どころか試作品すら作れない状態が見られる。
主な工場の移転先は中国。電子機器、家具など広範な産業が海外へ移転した結果、設備等の生産能力、そして人材等の品質管理能力は大きく失われた」
空洞化 - Wikipedia
トランプはラストベルト(錆びついた製造業地域)の代弁者として、製造業を本国に呼び返すことをしていますが、この中国の関税攻撃によるサプライチェーン外しはこの一環です。
おそらく、これが最も中国経済に打撃を与える結果となるでしょう。
なぜなら、端的にこれは外国資本の中国からの撤退を招くからです。 習が言う「中国の夢」、すなわち中華帝国台頭の夢は、外国企業に技術と資金を投資させることで成り立っていました。
つまり、借り物の土地の上に建つ巨大ビルこそが、中国経済なのです。この原資である外国資本が本国に逃げ帰ってしまったらどうしましょう。
企業は人件費が安く、かつ貿易関税が低く設定されているからこそ中国に進出しているわけで、そのメリット転じてダメージになれば、本国に回帰するのが一番だとドライに判断することでしょう。
まだ米中経済戦争初期ですので、影響は限定的です。
「サウスチャイナ・モーニングポスト(9月19日)によれば、在中国の米企業は「ここで生産して米国へ輸出している関係上、深刻な悪影響が出るし、高関税を理由に米国へ工場を復帰するという考えはない」と答えた企業が過半です。
しかし、一方で、在中EU商工会議所は「米中関税戦争に巻き込まれて、相当の影響がでている。世界的なサプライチェーンが機能しなくなる」と事実を認めつつ、「すでに5・4%の中国で生産、販売してきたEU企業が、中国から撤退したか、撤退を準備中である」とした」
(宮崎正弘の国際ニュース・早読み2018年9月19日)
一方、早くも日本企業にも影響が現れています。
「米中貿易摩擦の激化を受け、三菱電機とコマツが中国での生産の一部を日本に移管したことが分かった。米国が中国に対する制裁として発動した追加関税の悪影響を回避する。東芝機械など追随するメーカーもある。米中対立の長期化を見据え、生産体制を見直す動きが広がってきた。
三菱電機は8月、中国の大連工場でつくり、米国に輸出していた工作機械の生産を名古屋製作所(名古屋市)に移した」
(サンケイビズ9月17日)
けっこうなことです、と言っておきましょう。
一時的には、日本企業はダメージを受けるでしょうか、中長期的には国内の製造業を活性化させ、雇用をもたらすことになるからです。
次いでトランプは、中国がもっともいじられたくない人権問題も攻撃の対象にすると思われます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35440120W8A910C1FF8000/
この人権問題については大きなテーマなので別記事で扱いますが、今まで知っていながら知らないそぶりをしてきた国際社会が、初めてチベットやウィグル、そして劉暁波の「虐殺」問題を真正面から受け止めねばならなくなりました。
劉暁波 - Wikipedia
出典不明 武装警察による弾圧.
まさにトランプによる水も漏らさぬ対中包囲網です。おそらく長期間ナヴ.ァロが練り上げてきたに違いありません。
関連記事「トランプとナヴァロは米中経済戦争で何を目指しているのか?」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/post-3f30.html
この包囲網を絞り上げることで、中国の北に対する動きを完全に封じ込めてしまいました。
ではなぜこの時期に対中経済戦争を始めたのでしょうか。それについて、愛知淑徳大学の真田幸光教授はこう述べています。
「ドルの威力です。基軸通貨であるドルを使った決済を米政府に妨害されたら、グローバル企業はやっていけません。
前回お話しした「中国へのいたぶり」も、根はここにあります。 もし人民元が基軸通貨に育っていたら、ドルを使っての脅しは効きません。
「ドルを決済に使わせない」と言われた世界の企業は「じゃあ、人民元を使います」と言い返せばよくなるのです。 基軸通貨にならないよう、米国は今のうちに人民元を叩く必要があります。米中が覇権争いを始めた以上、当然の話です。両雄は――ドルと人民元は並び立たないのです」
(日経ビジネス9月17日)
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/091300193/
真田氏が言うように、中国元は既にIMFのSDR入りしていますが、中国はSDR通貨の義務である為替の自由化や資本移動の自由といった国際金融のルールを無視し続けてきました。
それどころか中国は、一帯一路構想の下に貧乏国に二国間融資を行い、中国の依存度を高めることで覇権拡大を着々と進めています。
あぶなく食い物にされかけたマレーシアのマハティールはこう言っています。
このまま国際金融における中国の無法を放置できないと、トランプは判断したと思われます。
現時点ならこの中国の意図を潰す力が米国には残っている、逆にいまを逃せば覇権国のヘゲモニーを奪われる可能性がある、と考えたのでしょう。
このような文脈の中に今回のトランプの経済戦争の宣戦布告を置くと、中国による北の保護を不可能にするという、もう一つの目的が浮かび上がってきます。
トランプからすれば、ムンなどという雑魚はどうでもいいように、正恩も同様です。
ガラクタの軍隊を抱えて、国民を食わせることもできず、家臣団すら統御できていない世界最貧国の王様など、小うるさい奴だと思っても怖い道理がありません。
そもそも自慢の自称ICBMも、核弾頭を積んで米国に到達できるかどうか実証されていない上に、基礎的な大気圏再突入技術も確立されていないと米国は見ています。
脅威度の優先順位でいえば、中国、イランに次ぐていどの小者にすぎません。
ですから最大の脅威の中国を相手にする片手間で、中朝共に封じ込めようとしています。
このような米国の意志を知ってか知らずか、奇しくも米国の対中経済制裁第3弾の発動と同じ日に、訪朝してしまったムンの運の悪さが光ります。
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コメント
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文在寅政権はホント「状況が読めない」と言うか、イタイ政権です。
最悪のタイミングでの訪朝となりました。
左翼政権でありながら、同時に極度の民族主義である欠点がそのまま出ましたね。
トランプ氏は文大統領を全く信用していないだけでなく「文政権に対する深い懸念」、「文政権は事実上、米国の意図とは反対の方向に進んでいる」、は米政権共通のコンセンサスになってます。
韓国政府はしょせん北朝鮮の手足であって、一口で言えば「従北」で、その北朝鮮は米中の間で揺れているのが現在地点でしょう。
それなら米国とすれば、いま拙速に北朝鮮をいたぶるよりも、米中経済戦争の帰趨を見せつけながらの方が効率が良いと考えるのが自然です。
トランプ政権は、正恩から「中華という重し」を取り除いてやれば、その事が非核化への近道になると考えている考えているのでしょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年9月19日 (水) 11時53分
中国から外国企業が撤退すると、どのような損失が中国に発生するかという点について自分なりに考えてまいりました。
中国は、外国企業が中国に存在することにより、まず、固定資産税が中国に入るでしょう、さらに、法人所得税が中国の国庫に入る筈です。これらが、外国企業が撤退することによりなくなってしまうわけですから、中国政府にとっては大きな損失となるでしょうね。それよりも、もっとおおきな中国の損失は、雇用が失われることなんでしょう。企業の出費の一番は人件費ですからこれの消失は中国にとっては大きな痛手でしょう。外資様様ですよ。
外資に頼り経済発展させてきた中国、外国企業が撤退すれば中国人が自ら埋め合わせしていかねばなりません。それには相当な努力が要るだろうと思うのです。ある程度の年数もかかるでしょう。中国、それができるのか? 資本主義の良いとこどりで経済成長し、結局増長してしまい、アメリカに挑戦しようというのはいただけない話だ。
予算の多くを軍事費に使い南シナ海に軍事要塞をいくつも造り上げました。航空写真でそれら基地を見るたびに、私は中国の異常さを感じるのです。トランプ大統領がこんな中国を容認しない態度を見せてくれたことを、私は称賛したいのです。トランプは正常だと言いたい。
中国は、軍事支出を大きく減らして民生に予算を投入すべきだ。中華の夢はその後にすべきだ。ウイグル人を苛めてはいけない。
投稿: ueyonabaru | 2018年9月19日 (水) 14時19分