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2018年10月

2018年10月31日 (水)

韓国徴用工判決 日韓関係は危険水域に突入した

Dsc_2020

あーあ、とうとうやっちまった、これが私の徴用工裁判の勝訴判決を聞いての正直な感想です。 

ムン・ジェインのことですから99%やるとは思っていましたが、最後の理性が1%ていど残っているかなとも思ってはいました。

ムンの師匠のノムヒョンすら、ムンとは異なった対応をしています。

「日韓国交正常化に至る外交文書を公開し、当時の確約を再確認しつつも、日本の「謝罪と賠償」の必要性を訴えた。(略))
ただ韓国政府は、「日本は何も償っていない」という協定を無視した世論にもかかわらず、国家間の合意上、「請求権問題は解決済み」との立場は守ってきた」
(産経10月30日)

このような声明を韓国政府が、判決の前に言明する可能性も残っていると思っていました。

しかしホントにホントにやっちゃうんですから、ダーっです。

日中が戦後もっとも良好な関係となり、米中が「新冷戦」に突入する一方、北の核をめぐって日中が協力を約束した時に合わせてこの判決をぶつけてくるとは、ムンは実に芸が細かい。

日韓賠償請求権協定が頭から無視されたわけですから、日本は外交原則上、大使召還は当然のこと、さらに一歩進めて、断交を視野に入れた措置が必要です。

といっても、日本の対韓国貿易はわずかで、仮に失うことになっても日本経済全体にはなんの影響もありません。

トランプがやっているように、韓国製品に懲罰的高関税をかけたり、技術移転を禁止するなどの経済制裁は議論を開始するだけで効果があります。

むしろライバル関係の韓国製品を、日本市場から駆逐できるいいチャンスです。

また、北が「火の海」にするとかねがね公言している、ソウルに支社を持つ日本企業には、政府から「在留邦人の安全確保のために」撤収を要請していただきましょう。

いうまでもないことですが、徴用工判決に応じて支払うような馬鹿な日本企業が出ないように、厳重に統制をかけるべきです。これは一企業の問題ではないのです。

韓国の国策銀行(韓国産業銀行、企業銀行、輸出入銀行)は、軒並みに日本の銀行の信用枠でやっと倒産を免れているようですが、日韓スワップを結んでやってもいいぞ、なんてありがたいお言葉もどこかで聞いた気もいたします(苦笑)。

韓国経済は周知のように崩壊に片足を突っ込んでいます。

代表的製造業のヒョンダイは7割の売り上げを失い、失業率は高止まりし、国内経済を省みないムンの無策は青年層から怨嗟の的となっています。

そして、先だってのムン訪欧で露呈しましたが、今や北の代弁者と化した韓国を支持する声は皆無です。

今まで日本が韓国に強くでられなかった唯一の理由は、この北との核との関係があったからでした。

しかしそれも今や、韓国は北の非核化に対しての障害物と化しています。

そして北の非核化を取り巻く国際情勢も激変しました。

先日の米朝会談と、日本と中国との接近です。こうなってしまっては、もはや韓国の出る幕はありません。

韓国の国際的孤立は明らかです。

もっとも強い紐帯があるはずの米国すら、トランプは露骨に北の非核化問題から、韓国剥がしをしようとしています。

おそらく今回のことについては、米国は公式には中立を保つでしょうから(同盟国間の紛争には介入しないのが米外交の基本ですから)、具体的にはなにもいわないでしょうが、これでトランプの「コリア疲れ」も極に達したことでしょう。

さて、内容についてはもうご承知でしょうが、こういうことのようです。

「■日本企業70社に賠償命令の可能性も 徴用工勝訴
日本による朝鮮半島統治時代に「強制労働させられた」として、元徴用工の韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、韓国最高裁は30日、同社に賠償を命じた2審判決を支持して同社の上告を棄却し、賠償支払いを命じる判決が確定した。これを受け、日本企業の間に不安が広がっている。同様の訴訟を抱える三菱重工業など約70社も賠償を命じられる可能性が高まったからだ。
 悪化する日韓関係は重大な経営リスクとなるため、韓国への新規投資や進出を検討する企業も及び腰とならざるを得ず、影響は広範囲に及ぶ可能性がある」(産経10月30日)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181030-00000576-san-kr

産経さん、ボケていますよ。次元がまったく違います。

日本企業の韓国進出リスクなどと寝ぼけたことではなく、二国間関係が危険水域に突入したということです。 

この判決は、当然、韓国政府の意志を「忖度しています。韓国の司法は三権分立が成立しておらず、政府の下部機関であることは周知の事実だからです。 

したがって、この時期、このタイミングでこの判決を最高裁(大法院)にださせたのは、韓国政府の意志です。 

この判決が何を意味するのかについて、韓国はむしろ日本のメディアよりよほど熟知した上でやっています。韓国自身に説明してもらいましょう。 

韓国聯合通信の記事です。

「■徴用工訴訟で日本企業に賠償命令 韓日外交戦に発展の可能性も
判決は1965年の韓日請求権協定と韓日基本条約に基盤を置く政治的妥結を真っ向から覆す趣旨のもので、旧日本軍の慰安婦問題を巡る2015年末の合意を巡りただでさえぎくしゃくしている韓日関係は、当面、行き詰まりが避けられない見通しだ。
 大法院は、日本による朝鮮半島の植民地支配は違法だとする憲法的判断に基づき、請求権協定により被害者の賠償請求権は消滅していないとの判決を下した」(韓国聯合10月30日)

http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2018/10/30/0200000000AJP20181030003500882.HTML

わかっているじゃないの。これは日韓基本条約の否認なのです。

ですから、韓国はどのような対応をとるのか、これも分かってやっています。

「判決により日本企業が被害者に賠償せねばならない状況になったが、日本政府は強制徴用被害者の個人請求権問題は韓日請求権協定で解決済みとの立場を取っているため、判決に従わない可能性が高い。
むしろ強制執行などの措置が取られれば正式な紛争解決手続きに入るとみられ、日本企業は政府の方針に従い賠償に応じない見込みだ」(聯合前掲)

 結論から言ってしまえば、韓国政府の意図はこのようなものだと思われます。 

①韓国政府は日本と正式に対立・紛争関係に入ることを宣言した
②米国を仲立ちにした対北朝鮮シフトの米韓日同盟からは離脱準備に入った
③北との融和はこれまで以上に強化する
 

Photohttp://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2018/10/...

 韓国ムン政権はかねがね言われてきたように、日韓関係の戦後の枠組みを作ってきた日韓基本条約を、韓国が一方的に廃棄することを意図していると見て間違いないでしょう。 

かくしてこの徴用工判決をもって、日韓の正常な二国間関係は完全に終了しました。あげてすべての責任は韓国政府にあります。 

Photo_4出典不明 

大事なことですから、やや長いですが、条約原文に当たって再確認しておきましょう。
財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本

「■財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定
署名1965年6月22日
発効1965年12月18日
 
第二条
両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める
1.両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。 

2.この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国 
が執った特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。
(a)一方の締約国の国民で1947年8月15日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益
(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて1945年8月15日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいったもの
3.2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」

ここで日本政府は、「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める」ことの条件として、互いに「財産、権利及び利益」の請求権を主張することができない、としています。 

忘れられていますが、日本も統治時代の財産、権利の請求権を放棄しているのです。 

それらは国や軍が所有していたものもありますが、その多くは民間資産でした。 

ちょっと日韓が放棄した請求権の額を比較してみましょう。 

Photo_2 AFP10月30日 

今回、元徴用工の主張する未払い賃金の額は、提訴した4人の1941~43年、新日鉄住金の前身にあたる旧日本製鉄に徴用されて労働を「強いられ」、その未払い賃金1人当たり1億ウォンの支払いを要求しています。 

1億ウォンは約992万円です。もちろんこれ以外に徴用工遺族が21万7千人ていどいるそうですから、総額でざっと2千億円規模です。

もちろんそれ以外の請求権もあるでしょうから、数倍としても請求額が5、6千億円を超えることはないでしょう。

これを日本が朝鮮半島に置いてきた資産と比較してみましょう。 

日本が朝鮮半島に置いてきた資産について、日本政府の試算があります。約9兆円弱ていどのようですね。

「日本が1945年当時、朝鮮半島の北朝鮮地域に残した資産総額は、現在の価格に換算して約8兆7800億円に上ることが12日、分かった。(略)
戦前に日本が朝鮮半島(北朝鮮と韓国)に残した総資産は、連合国軍総司令部(GHQ)や日本銀行、旧大蔵・外務両省がそれぞれ調査を実施している。GHQの試算では1945年8月15日時点で1ドル=15円で総資産891億2千万円。
総合卸売物価指数(190)をもとに現在の価格に換算すると、16兆9千3百億円に相当する。
 このうち、政府、個人資産と港湾など軍関連施設以外の資産は、鴨緑江の水豊ダムなど北朝鮮に残したものが当時の価格で445億7千万円。軍関連資産は16億5千万円となり、非軍事と軍事の両方で462億2千万円。総合卸売物価指数の190を掛けると現在価格で8兆7800億円相当となる」
産経2002年 913日)

このようなことを含んで、日韓賠償請求権協定に「両国の国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」とうたったわけです。

ですから、韓国がこれを一方的に廃棄することは、日本と国交断絶に陥り、かつ彼らの国際的信用が吹っ飛んで二度とこんな国との条約・合意をする国が現れるなくなるであろうことを除けば、やってやれないことはありません。

まぁもっとも、この日韓賠償請求権協定は旧日本統治下の朝鮮半島全域を対象にしています。

韓国がカネが今いるからと、北の分も取ってしまっただけのことです。(ついでに民間補償も政府がとってしまいましたが)

したがってこの条約が廃棄された場合、北は自らも日韓基本条約と同じ性格の補償を日本に求めることが可能となることになりますから、日本は対韓国だけではなく、対北との兼ね合いからも決して廃棄に応じないでしょうがね。

それはさておき、供与した援助の資金を返せとはいいません。多くは名目を変えた支援や借款の供与ですから、その性格上返還は無理でしょう。

しかし韓国が個人請求権を言い出すのなら、日本もまた朝鮮半島に残した政府・民間の資産の請求権を主張せねばなりません。

最後に日本政府の対応です。 

Photo_3ロイター10月30日 

「■毅然と対応する=徴用工訴訟の韓国最高裁判決で安倍首相
東京 30日 ロイター] - 植民地時代に「徴用工として日本で強制的に働かされた」と主張する韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟で、韓国最高裁が30日、同社に賠償を命じる判決を下したことに対し、安倍晋三首相は同日の衆院本会議で「1965年の日韓請求権協定で、完全かつ最終的に解決しており、この判決は国際法に照らしてありえない判断」と述べた。
そのうえで「日本政府として毅然として対応する」と語った。日本維新の会の馬場伸幸幹事長の質問に答えた」(ロイター10月30日)

https://jp.reuters.com/article/abe-southkorea-idJPKCN1N40QT 

 元駐韓国大使の武藤正敏氏はこのように見ています。

紛争解決するにはまず日韓で協議する。それがうまくいかなければ、第三者(第三国)を交えた仲裁委員会で協議する。これが紛争解決のメカニズム、請求権協定に入ってるわけですよね。これでうまくいくかどうかですよね。
国際司法裁判所っていうのもありますけど、韓国は拒否できますからね。だから、政府間の協議で解決するというのは、なかなか難しいんじゃないですかね」
(「プライムニュース イブニング」10月30日放送分より)

韓国が日韓基本条約を一方的に廃棄し、新たに第2日韓条約を結ぼうと夢想するのはカラスの勝手ですが、その前にぜひ日本の残した資産も清算してくださいね。

いずれにしても、ムン氏の反日を燃料とする民族意識の高揚は、ひどく高いものにつきそうです。

2018年10月30日 (火)

日中新三原則を読み解く

Dsc_6072
今回の安倍訪中は、真珠湾訪問、米国議会演説、慰安婦合意と続いたいわゆる安倍流外交でした。 

なんというのかなぁ、安倍外交はとりようでどちらにも見えるのですよ。 

今回の訪中の場合、親中路線に傾斜したと取って産経が批判し、一方同じ理由で朝日が拍手したわけです。 ほんと難球を投げる人です。

習は、下にも置かないおもてなしという、ある意味で韓国に示したようなあからさまな冷遇より恐ろしい舞台装置を用意していました。 

天安門の毛沢東肖像画前に日の丸が翻ったのですから、私もやや驚きました。 

Wor1810250034p1産経10月21日
https://www.sankei.com/world/news/181025/wor1810250034-n1.html#inline-wrap

産経が驚き加減でこう報じています。

「北京=西見由章】毛沢東の肖像画を掲げている中国・北京の「天安門」前では25日、安倍晋三首相の訪中に合わせて10対の日の丸と中国国旗「五星紅旗」が数十メートルおきに設置され、全国から押し寄せた中国人観光客の頭上で翻っていた。
 安倍首相は同日夜の李克強首相との非公式晩餐会に続いて、26日昼には李氏夫妻主催の歓迎昼食会、夜は習近平国家主席夫妻との夕食会も予定される“熱烈歓迎”ぶり。昨年12月に韓国の文在寅大統領が訪中した際、中国要人との会食が少なく「一人飯」批判が起きたのとは対照的だ」(写真と同じ)

韓国にとってはショックだったようで、「影の宗主国」中国がこともあろうに、コリアが旭日旗と並んで嫌悪する日の丸までもが、へんぽんと天安門にたなびかせみせたのですからね。 

ま、別に準国賓待遇なら当然といえば当然ですが、ムン大統領が習との晩餐会はおろか、ひとりぽつねんと飯をくわされたのにと、ワーワー韓国では騒いでいたようです。 

Img_e31b85d5f6a83b882e5b1f19332d6c1http://www.afpbb.com/articles/-/3194809?pid=206531

儀仗兵閲兵の時の、安倍氏のヘの字に結んだ口元が可愛い。 

とまれ、トランプの訪中時もそうでしたが、中国という国はやるとなると徹底しておもてなしの海に沈めてとろかしてしまおうとします。

「おお、遠方からの客人よ、世界の中心たるわが中華にはるばる詣でてくれたことを嬉しくおもうぞ」といった中国皇帝もどきのポーズをとってみせることで、格の差を見せつけるわけですからタチが悪い。

トランプも同じことを紫禁城でやられました。習がトランプを紫禁城に招いたのは、米国「皇帝」ですら自分の徳を慕ってやってくるという政治的隠喩でした。

まぁ、歴史にあまり関心がないトランプは、さほどタマゲなかったみたいですがね(笑い)。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-3eba.html

872baede2386a8479df0b7d8f0eff701共同通信

天安門の日の丸が何を意味するのか、それぞれお考えください。

そのうえに、言葉のおもてなしが被ります。 

習は会談の冒頭で、「世界の主要経済大国で重要な影響力を持つ日本」とおだてあげました。 

おー、こわ。この人物がこういう持ち上げ方をする時は、ご注意下さい。 

それを安倍氏は、こう受け流して例の三原則を出してみせます。 

「これに対し、安倍総理大臣は「日中関係を競争から協調へ、新しい時代へと押し上げていきたい。互いに脅威とはならないという合意を再確認し、自由で公正な貿易体制を発展、進化していかなければならない」と述べました」
(NHK10月27日)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181027/k10011687951000.html

 首脳会談の冒頭スピーチは、常識的には、事前に一字一句まで双方の外交当局で詰められていますから、いきなり安倍氏がこう切り出したわけではないでしょうが、食えない奴ですね、うちの首相は。 

手がこんでいることには、「競争から協調に」の実物展示を、訪中にあわせてパナソニックがしてみせています。

「安倍氏が北京に到着したその日、東京では中国の有名な火鍋チェーン企業海底撈と日本のパナソニックが両社の共同企画によるスマートレストランが28日に北京で開店するとの発表が行われていた。報道によれば、この店舗ではパナソニックのロボット技術と画像認識技術を用い、厨房のオペレーションをフルオートメーション化したとされる」
https://www.recordchina.co.jp/b656923-s0-c10-d0035.html 

パナソニックというのが肝です。旧松下電気は日本で最初に、まだ文革・4人組・第2次天安事件の混乱から立ち直っていない中国に、最初に手助けした企業でした。 

1978年に、当時副首相でありながら最高実力者だった鄧小平が、松下電気大阪府茨木市のテレビ工場を訪れた時に、出迎えた松下幸之助に「中国の近代化を手伝ってくれませんか」と頼んだことに、松下が力を貸したことから始まっています。
トウ小平 - Wikipedia

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いわば中国の開放改革路線の産婆役をしたのが松下だったわけで、後に鄧は松下に対して感謝を込めて、「井戸を掘った人は忘れない」という言葉を残しています。 

その鄧が死ぬと、すぐにそんな恩は忘れて、2012年には野田政権がやった尖閣国有化に怒った官製デモがこの松下の現地工場まで襲撃したというのですから、やってられませんわ、まったく。 

このように時の政権や情勢次第で、くるっと手のひら返しをして見せるのが中国という国です。

4a6a04d5c5591e06ecb2ba94120cee7c反日デモの暴徒に襲われたパナソニックの工場 =2012年9月15日、中国江蘇省蘇州(共同) 

ですから、今回このパナソニックが中国企業とコラボしてみせたということは、それ自体が「日中協調新時代」のシンボルだったわけです。

さて、「協調」は一般論みたいなものですから置くとして、その後に2点目として「互いに脅威とならない」と言ってしまっています。
 

率直に言って、これを読んだ私の最初の感想は踏み込みすぎだというものでした。 

おいおい、なんてことを言うのだ、現在進行形で暴力的に南シナ海に進出しては、軍事要塞を建てまくり、尖閣に公船どころか軍艦まで送り込んでいる国はどこの誰でしたっけと、思わず野暮なことを聞きたくなります。

言うまでもなく、アジアの脅威のいわば一括卸元はこの中国にほかなりません。 

そこで、逆に考えてみます。 

「脅威とならない」ということは、今まで充分に「脅威だった」ということです。 

もし完全に脅威がないてて波風立たない二国間関係ならば、あえて2番目にこんな文言を入れる必然性がありませんからね。

したがって、2番目の原則から1番目に返るとその意味が浮かんできます。

つまり日本側からすれば、「今まで中国は脅威を拡散してきたから、これを止めて国際協調のルールに従っていただきたい」という意味です。

その上で第3点めに、「自由で公正な貿易」という米国の主張ととまったく同一の文言を使った原則を要求しています。

この新三原則が出た前後に米国は 中国半導体企業JHICCに対して、技術等の輸出制限をかけました。
米、中国半導体JHICCへの製品輸出を制限 新たな火種に
https://jp.reuters.com/article/usa-trade-china-semiconductors-idJPKCN1N32N0

「[ワシントン 29日 ロイター] - 米商務省は29日、中国の福建省晋華集成電路(JHICC)に対する米国企業の輸出を制限したと発表した。同社の新型メモリーチップによって、米軍システム向けにチップを提供する米企業が脅かされる「重大なリスク」があると指摘した。
同省の声明によると、JHICCは米国の製品やソフト、技術の輸出が制限される「エンティティーリスト」に加えられた」(ロイター10月29日)

このJHICCは、中国政府が製造強国戦略の中核と位置づけた「中国製造2025」のメーン企業集団です。

日本企業は日立、富士通など多くのハイテク企業が、「脅威よりチャンス」とみて提携を開始しています。
http://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2017/06/gir/index.html

しかし中国の半導体企業は技術的限界があります。自力の技術で、半導体のマザーマシーン(生産装置製造機)、高度の検査機器、高純度のシリコンウエハーなどの核心技術を製造できないのです。

ですから米国がJHICCに対して技術移転禁止措置をとると、先だってのZTEと同様に倒産の淵に直面することになります。

また今後米国は、まだ未執行の残り2750億ドルに対しても関税をかけるとしていますので、これが行われた場合、中国のほぼすべての物品に高関税が掛けられることになります。

中国も報復関税をかけるでしょうが、一部の化学薬品や農業製品しかかけるものが残っていないと言われていますので、そもそも初めから勝負になりません。

米国の意図が、中国を国際市場のサプライチェーンから切断し孤立に追い込むことで、中国経済を干上がらせようとしていることは明らかです。

政治は政治、経済は経済という「政経分離」ではなく、「政経合一」が、中国の戦略だからです。

このような時期に、大挙して中国詣でをするとは、日本の経団連のジィさん方がなにを考えているのやら。

安倍氏はいつものように、表面だけみていると、なにをしたいのかわからなくなります。

今回の三原則も、このように読み解くと、たいへんに手がこんだ仕掛けになっていることが分かるでしょう。

今後、この三原則の内容を充填していくことになるわけですが、ただ中国に対して言えることは、あの国とは好きだろうとキライだろうとつきあって行かねばならないということです。

韓国はよく地政学上切り離せないという人がいますし、実際に明治時代の先人はそう苦慮して、合邦というやらずもがなの道を選択したわけです。

しかし、今、韓国が北と民族統一をしたいのならば、どうぞお好きにと言う心情が日本に生まれてきています。

韓国は死活問題とはなりえません。しょせんといってはなんですが、、いざとなれば一線を画せる関係なのです。

しかし中国の重さは、韓国の比ではありません。歴史的にも地理的にも、中国抜きにアジアを語ることは不可能です。

だからこそ、このパワーバランスを取るために、日本は日米同盟を安全保障の基礎に据えたのです。

韓国とは状況次第でどうとでもなる関係、中国はいやでも永久につきあっていかねばならない関係だということを念頭に置いて、安倍訪中を見ると、なるほどねと思わないでもありません。 

安倍外交とは今すぐに白か黒かで判定できるものではなく、一定の距離と時間をおいて見なければ理解できないリアリズム外交なのです。

 

 

2018年10月29日 (月)

日中スワップ再開は必要だったのか?

Dsc_6081
慰安婦合意の時にもそう思いましたが、安倍氏はいつもながら難しい球を投げる人です。 

安倍氏が習近平との会談で述べた日中三原則はこのようなものです。
日中首脳、新時代へ3原則を確認
https://jp.reuters.com/article/idJP2018102601002401?il=0

①競争から協調の関係へ
②「互いに脅威とはならない」という合意
③「自由で公正な貿易体制」の発展・進化

この新三原則は、ペンス副大統領が強い調子で演説した中国に対する「新・鉄のカーテン演説」をソフトに言い換えたものです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-cead.html

Photo_2https://www.sankei.com/politics/news/181026/plt181... 

③をとって日本のメディアは、「トランプの保護貿易主義に対して日中で自由貿易堅持をうたった」と珍しく安倍氏を褒めているとろがありましたが、なに言ってるんだか。

今の日米の共有している文脈に照らせば、これは中国が取っている不公正な商取引慣習、政府の経済活動への監視・介入、技術移転の強要などに対して釘を差したものに決まっています。

李克強に対して、ウイグルに対する人権弾圧や南・東シナ海への軍拡反対をストレートに伝えたという点は評価できます。

特筆すべきは、李に対して安倍氏が「(ウイグル自治地区の収容所や弾圧について)世界中が中国の人権問題に注目している」と述べたことです。

Photo_4BBChttps://www.bbc.com/japanese/45859761

自由主義陣営の首脳としては初めてのことで、いちばん触れてほしくない人権問題に触れられて、李は露骨に不快な表情を見せたそうです。

まぁおそらく彼以外の歴代首相ならば、習近平や李の前では借りてきた猫状態になっていたでしょうから、一定の前進であることは間違いありません。 

今まで自民・野党を問わず、日中友好の美名の下に、言うべきことを言わない関係が「友好」だと勘違いしてきた時代が、大きく変化する兆しをみせているように思えます。

ただし、これが「言った」ことだけに終わらないという担保はありません。

首脳会談ですから致し方ないとはいえ、具体的なものがパンダと日中海上捜索救助(SAR)協定の署名くらいしかないのでなんとも言えません。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006634.html

その証拠に、会談当日に中国は公船を尖閣に入れてきましたし、日本は海自を南シナ海に派遣したままになっています。

芸が細かいことには安倍氏も安倍氏で、帰国早々、中国にあてつけるようにインドのモディ首相と会談して見せています。
首相、インドのモディ氏と昼食会
https://jp.reuters.com/article/idJP2018102801001575?il=0

Sty1810280006f3https://www.sankei.com/photo/story/news/181028/sty...

とはいえ、私はこのスワップ再開を懸念しています。

それは今トランプが宣言して着々と手を打っている「新冷戦」との絡みです。 

安倍応援団のはずの産経すら、こう述べています。

「■日中首脳会談 「覇権」阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた
中国は不公正貿易や知的財産侵害を改めない。南シナ海の覇権を狙う海洋進出やウイグル人弾圧を含む人権侵害も相変わらずだ。
これでどうして新たな段階に入れるのか。米国はもちろん、アジアや欧州でも中国への視線は厳しさを増している。日本の対中外交はこの潮流に逆行しよう。
日本は、天安門事件で国際的に孤立した中国にいち早く手を差し伸べ、天皇陛下の訪中や経済協力の再開に踏み切った。だが、日中が強い絆で結ばれるという期待は裏切られた。その教訓を生かせず二の舞いを演じるのか」
(産経主張10月27日)

https://www.sankei.com/column/news/181027/clm1810270001-n2.html
 

 たかだか3兆円規模というミニサイズといえ、日中スワップ協定が再開されてしまったことの意味が大いに悩ましいところです。

ちなみに3兆円規模とはいわばお印ていどでの規模で、中国の決済の一日分にすら足りませんから、それ自体は実効性がある額ではありません。

とはいえ、現状で米国からの対中投資にブレーキがかかったような事態を、日本からの投資で埋め合わせて尻抜けにしてしまう意図が、中国側にあるのは明白で、これに乗ってしまったという印象が拭えないのです。 

このスワップは、日本企業の対中進出への政府保証枠という性格をもっています。 

事実、今回の訪中団には多くの財界関係者が随行しており、彼らの狙いが13億市場にあるのは説明する必要もありません。 

Photo_3東京新聞 会談前、記念写真に納まる(左から)経団連の中西宏明会長、中国の李克強首相、日中経協の宗岡正二会長=12日、北京の人民大会堂で(共同)

中国に大いに進出したい財界から見れば、中国の軍事拡張や人権弾圧などはどうでもいい話であって、今、中国市場でシェアを伸ばさねば、ヨーロッパ勢に食われてしまうという危機感があります。 

どうぞ東シナ海よ、穏やかに、我らの商売を安らかにやらしてください、といったところです。

財界は日本最大の隠れ親中派なのです。 

これは米国の対中「新冷戦」の宣戦布告と矛盾し、それ妨害する役割を果たしかねません。

今回、中国が日中通貨スワップというある意味で屈辱的な取り決めをしたのは、人民元が暴落する可能性がないとはいえないという予兆に怯えているからです。

SDR入りして得意の絶頂から、今や株価の暴落と同時に発生する人民元投げ売りの予兆に怯えています。

上海総合指数に顕著なように、中国経済は長い停滞期間に突入しようとしています。

大規模な崩壊は避けられるでしょうが、習の失脚から始まる政治的混乱は中国のような政治と経済が極端に合体した国にとって、大きな経済リスクとなるでしょう。

すでに危険水域に入りかかっているという観測も出ています。

そのような事態になった場合、中国の人民元を支えるのは、国際通貨である日本円しかないという皮肉な事態です。

このような事態が予想される中で、日中スワップは進出した日本企業にとって3兆円枠の政府保証となります。

また中国経済が米国との「新冷戦」に破れてクラッシュした場合、パンダ債(人民元建て債)も同時に紙屑になります。

すると、これを大量に保有している邦銀もまた破綻の危機があります。

これを日銀から中国の中央銀行にスワップ注入することで、救済できます。

この政府の意図はわからないではないのですが、私はこの日中スワップ再開には懐疑的です。

この時期、中国市場への進出すること自体がリスキーです。

既に進出した日本企業が、中国共産党の経営介入と監視下にあり、中国からの資本逃避の自由もないという、一般の国ではありえない不利益をこうむって いるのは、よく知られた事実です。

このような中国共産党の一党独裁を、外国資本にも強要するような国内経済政策を変更させねばなりません。

それにこの三原則の3がどのていどの力があるか、はなはだ私は悲観的です。

このような状況で、既に一蓮托生関係にあるドイツよろしく、中国と共に転げ落ちるつもりなのでしょうか。

私には今この時期に、ぜひともやらねばならない政策とはどうしても思えません。

メディアが言うような単純な親中路線への転換とは思いませんが、米中「新冷戦」勃発時にとるべきことなのか疑問です。

といっても、安倍氏とトランプがなんの打ち合わせもなく、訪中したとはにわかに信じがたいので、なんらかの別の意図があるとは思います。

長くなりそうなので、次回に続けます。

2018年10月28日 (日)

日曜写真館 晩秋に向かう湖岸

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2018年10月27日 (土)

ネット言論の自立を守る方法とは

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コメント欄に書きましたが、重要なことを含んでいるので、こちらに移しかえました。

「4444.3333 」さん。親切心で入れてくれたのに、すいません。

あなたが言うように、このところメディアやリベラル陣営は、執拗にネットを敵視しています。手段はあなたも知ってのとおり、ヘイト通告です。

それは事実です。いいわけがありません。言論弾圧の亜種です。

このようなことが常態化すれば、言論は自ずと萎縮していきます。自主規制してしまうからです。

私もさんざん荒らしをやられてきました。つい最近も知事選でやられました。

すべて根拠なしの同じものばかりで、読んでいもしないのに荒らし目的で来ることが歴然としているものばかりでした。

ある荒らしに、「読んでからこい」と言うと、答えが「こんな長いの読めるかよ」でしたっけね。だはは(笑い)。

しかもひとつ来ると、次々に来て炎上させようとするのですから、なんか彼らの相互の連絡でもあるんでしょうね。

中には新聞社やプロバイダーに違反通告する者も出て、困惑させられました。

だから言うのですが、こちらも防衛手段がいるのです。

私がとっているのは三つです。

第1に、記事や写真には根拠と出典を付記します。

お恥ずかしい話ですが、私もいい加減だった時期があって、攻撃の材料を与えてしまった苦い経験があります。

第2に、CatNewsAgencyさんや楽韓さんと同じように、人種差別発言的発言に対して反対していることを明確にし、コメントにも同じ対応をすることです。

中韓を批判することが、人種差別をしていいことの理由にはなりません。

ゼノフォビア(外国人嫌悪)を排することは、このサイトの理念であると同時に、それが無用なヘイト通告からわが身を守る方法でもあるからです。

第3に、マスコミと同じ広告収入に依存する体質を作るなということです。

朝日があれだけデタラメな報道を繰り返して潰れないのは、あの会社が報道以外の不動産事業で食っているからで、いまやそちらの方からの事業収益のほうが多いはずです。

これでは本末転倒ですし、他山の石とすべきですが、最近ネット言論の世界でも似た傾向が生まれています。

あるていどの広告に目くじらを立てる気はありませんが、それがないと生活できない、更新できないとまでなるといかがなものかと思います。

それでは既存のオールド・ディアと違ってただの個にすぎない私たちが、その轍を踏んでいることにはならないでしょうか。

ブロッガーがマスコミより優位に立つことができるのは、あくまでも自由にものが言える個だからではありませんか。

この個の強みを活かすためには、一定ていどはいいとしても、広告を干されると死活問題になるようなら行き過ぎです。

自由な言論を防衛するのは、自立せねばなりません。

ロシアの言い分と米国の尻抜け

029

INF条約離脱について、今回でひと区切りすることにします。 

いやどうも、昨日は居酒屋政談のようになってしまってすいません(汗)。 

大枠で私はあの見立てでそう大きくは間違っていないと思っていますが、なにぶん論証材料となるべきものが少なすぎます。 

今、分かっているのはトランプの発言と、ロシアのちゃらんぽらんの言い分だけですから困ったたものです。 

ロシアの言い分は、ロシア軍事専門家の小泉悠氏によればこのようなものです。 

●ロシアの主張する米国のINF違反
①標的用MRBM( 準中距離弾道ミサイル)だら違反
②イージス・アショアがトマホークを撃てるから違反
③攻撃力を有する長距離UAV(無人航空機)がGLCM(地上発射巡航ミサイル)に該当するから違反
 

略語ばかりですいません。この分野はチンプンカンプンの略語の迷宮のようで、訳語だけで表記するとえらく長ったらしいものになってしまいますのでご勘弁下さい。 

ちょっとロシアの言い分を検証してみましょう。

小泉氏の指摘どおり、ロシアがいう「イージス・アショアがトマホーク巡航ミサイルを発射できる」というのは言いがかりの類です。 

VslイージスアシュアのVSL(右側) 出典不明

イージスアシュアのVSL(ミサイル垂直発射装置)では、トマホークは運用できません。 

こんなことは公開情報に載っていることで、こういう煙幕を張るのがさすがはロシアです。

ここで唐突にイージスアショアが登場したのにはわけがあります。

ロシアにとって(中国も同じですが)、ある意味もっともイヤな存在がこのMD(ミサイル防衛)だからで、中露はこの技術を持っていないのです。

ロシアは、かつてレーガンにスターウォーズ計画(MD・ミサイル防衛の原型)をかまされて、その挑発を受けて立ってしまったのが運のつき。

元々宿痾のようにソ連が抱える非合理的社会主義経済がニッチもサッチもいかなくなったところに、アフガンで出血が止まらず、その上に似膨大な出費を招くMDですから、あえなく超大国ソ連すら崩壊してしまいました。

中国も研究を重ねているようですが、まったく歯がたたないのがこのMDの分野です。

まぁ考えてみればすぐにわかることですが、中露が発射する核ミサイルはMDによってかなりの確率でブロックされてしまうかわりに、米軍のそれは確実に命中してしまうのですからたまったもんじゃありません。 

つまりMDによって、相互確証破壊が不均衡になってしまったわけで,、故に中露は露骨にこれを嫌っているわけです。 

日本のイージスアシュアや韓国に配備しているTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)に、なぜ、中国がなぜあれほど神経質なのかは、このことを頭において見ると分かりやすくなるといます。 

それはさておき、あとの2点ですが、これも言いがかりです。 

①のMRBMとは準中距離弾道ミサイルのことで、これはミサイル防衛に使われるSM-6を使った迎撃実験で用いられたことがあります。 

2017年に、ハワイのカウアイ島ミサイル実験場から発射された準中距離弾道ミサイル(MRBM)を、イージス艦がSM-6で迎撃し、撃墜に成功しています。 

米軍が在庫一掃セールをして標的にして落としているくらいですから、とてもじゃありませんが、ロシアの9M729ようにただいま現在各地に実戦配備しているといったバリバリの現役ではありません。 

③の無人機ですが、これも地上発射型の巡航ミサイルだろう、こらぁということのようですが、これも言いがかりです。 

その理由は、米国は地上発射型巡航ミサイルなどを、条約を破ってまでわざわざ保有する必要がないからです。 

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潜水艦発射型巡航ミサイル 出典不明

だってそんな中ぶるミサイルを引っ張りださなくても、、INF条約枠外である空中発射型や水中発射型巡航ミサイルを、既に米国は保有しているからです。

ただし、地上発射型ではないので条約違反ではありません。ズルいといえばズルい。コスいといえばコスい。 

米国はパパ・ブッシュ時代に、戦略原潜のSLBM(水中発射弾道ミサイル)以外の全ての核を全廃してしまいました。 

空母、原潜、航空機などから、一切の海軍戦術核を撤去してしまったために、米海軍は事実上戦略原潜だけが保有する唯一の核戦力ということになっています。 

「米海軍は、1987年には3,700発以上もの戦術核兵器を保有していました。
しかし冷戦後、戦術核はその役目を少しずつ他の兵器システムに譲り始めます。対地攻撃核トマホーク(TLAM/N)用のW80-0核弾頭も例外ではなく、どんどん数を減らしていき、ついに従来の予定通り全廃されたました。
これにより、アメリカの陸軍、海軍、海兵隊から戦術核がすべて取り払われたことになります。」(海国防衛ジャーナル2013年3月18日)
http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50696649.html

よく、米国の原潜や空母を見ると、核攻撃ができるという運動家がいますが、そんなものはそもそも乗っけていないのですよ。 

実はここからが問題なのですが、米国はINF条約を維持したままこの海軍戦術核を復活させようとしています。 

それがNPR2018(2018年核態勢の見直し)で明らかになったのは、潜水艦発射型巡航ミサイルとSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に低出力の核弾頭を搭載できるように改造することでした。 
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/02/22-5e08.html

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これは、ロシアが公然とINF条約を破ってきたことに対する対抗策でした。

全面戦争覚悟の戦略核しかないのでは融通が効かないために、中露や北に足元をみられているという欠陥を、あえて核の威力を低くすることで「使える核」(ブラックだなぁ)にしようとするものです。 

バカじゃないかと思われるでしょうが、軍事はかならず力のバランスを求めるために、相手国が持てば、自分も持つという子供の喧嘩みたいなことを大まじめにすることになります。 

馬鹿げていますが、これが現実です。 

で、米国も、条約枠組みは守ったふりをして、その尻抜けをしようとしていた矢先に、トランプ御大がキレて、条約全部をチャラにすると言い出したというわけです。 

マティスのような軍事官僚はさぞかしイヤーな気分になったでしょうな。枠組みをわざわざ壊さなくったって、対策はたててますぜ、ボス、というところです。 

これでまたまたマティスの辞任への距離が縮まりました。遠からず辞めるでしょうね。 

さて、日本の対応ですが、いわゆる非核三原則の見直しが現実化することは避けられません。 

米国は、来年4月をもってINF条約の拘束から解放されるわけですが、日本がかつてのNATO諸国のように、米国の地上発射型中距離核ミサイルを現実に受け入れることが可能かという問題です。 

1980年代には、NATO諸国(英独)はむしろ進んでパーシングⅡや巡航ミサイルを受け入れました。

ひと頃日本でも話題となった、ニュークリア・シェアリングも同じ発想です。先日も記事にしましたが、これはソ連がSS20の配備を進めており、その予定された核の戦場はドイツだったわけです。 

ところが自由主義陣営唯一の核兵器保有国の米国が、中距離核を撤収させてしまったために、いざという時に裏切って逃げられるかもしれない、そんな懐疑心が出ました。

そこでヨーロッパ諸国がとった必殺技が、自らの国内に中距離核の発射基地を誘致することでした。

自ら核攻撃を受ける見返りに、米国のトリップ・ワイヤーとなって、政治的連帯を勝ち取るというある意味で捨て身の選択です。 

トリップ・ワイヤーとは猟で使う罠のことですが、外交軍事用語ではこの地点を攻撃すれば、かならずオレたちの報復を受けるからね、という仕掛けのことを指します。

韓国の非武装地帯周辺に駐留していた米陸軍第2師団は、このトリップ・ワイヤーの役割だったといわれています。(今は中部まで後退しています。米国の変化がよく分かりますね)

この場合:、ヨーロッパ諸国の脆弱な地上発射型中距離ミサイルをソ連が攻撃すれば、,それは米国の全面核報復を招くからお止めなさいというメッセージとなります。 

抱きつき心中じゃありませんが、それなりに大きな政治的決断を必要とします。

この決断をわが国がもてるのかどうか、です。

そうとうに難しいと思いますが、INF条約離脱との関係からいえば、そういうことになります。

ただし現実には、米国は先ほど述べたNPR2018(2018年核態勢の見直し)の延長線で、検討を加速化していくはずなので、日本に地上配備型中距離核ミサイル配備を要請する可性は低いと思われます。

といっても、米国の核戦力の見直しに対応し、共有していくのか、日本も真剣に考えるべき時期に入ったことだけは間違いありません。

 

 

 

2018年10月26日 (金)

米国のINF条約離脱は一位二位連合による三位潰しか?

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忘れられているようですが、元来、トランプは米露協調主義者でした。 

ロシアとは協力できる余地が多くあるのになぜ米国はロシアを敵対視ばかりするのだ、というのが、就任前からのトランプの持論だったはずです。 

ここがロシアと聞くだけで冷戦を思い出して虫酸が走るという共和党本流や、世界中にリベラルの花束を届けようという米民主党とは一味違うところです。 

ロシアン・ゲート事件の本質は、米露協調へと向かうトランプと、ロシアを主敵と定めるワシントンの政官界と米国メディアとの対立なのです。 

トランプのやることなすこと、すべて癇に触る、追放してしまえというのが、メーンストリームの考えでしょう。

Photo_2http://www.afpbb.com/articles/-/3182638

トランプからすれば、現にあれほど世界の脅威だったISを壊滅させたることができたのは、米露が協調したからだぜ、と言いたいはずです。 

IS壊滅の見返りとして、シリアのアサド政権が残ってしまうという代償を支払ってしまったために、評判はかならずしも芳しくはありませんが、トランプにとってはISを米露の力で潰したことは強烈な成功体験だったはずです。 

ですからトランプは今後も、アフガンやシリア・イラクの安定化、そして北の核問題について大いにロシアと協調したいところでしょう。 

既に実効支配が完了して久しいクリミア併合などは、なんなら譲ってもかまわないていどに考えているはずです。 

一回軍事支配が完了した地域の原状復帰には、戦争で取り返すしか手段しかないのですから、どこかで経済制裁も切り上げねばならないのです。 

経済制裁カードは大いに対露圧力として有効な手駒ですから、そうかんたんには手放す気はないにせよ、こと次第では妥協出来る余地があると思っているかもしれません。 

ただし、タダというわけにはいきません。米国の利益のためにロシアには大いに働いてもらわねば困るわけで、それが中国の覇権国阻止という大目標です。 

Photohttps://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-07-...

「なぁプーチンよ、世界第1位の米国の軍事力と、第2位のロシアが手を握れば怖いもの無しだ。このままチャイナを増長させれば、お前さんの国もいずれアジア部分は奴らのもんだぜ。な、今、阻止しておけば、お互いの利益になるじゃないか。協力できれば、おっつけ経済制裁も緩めることができるってもんだ」

まぁトランプがプーチンに言いたいことを、翻訳すればざっとこんなかんじでしょうか。 

この1位2位連合による3位潰しに、いかにしてプーチンを本気にさせるかです。 

この手段として登場したのが、INF条約離脱ではないかと私は考えています。 

さて、このトランプという人物は、よく言えば勇猛果敢、悪くいえば思いつき的な部分が残ります。 

別な言い方をすれば、歴史を動かしてやろうという気宇壮大はいいのですが、足元が拙速なのです。 

ですから、手のひらからザーザーと水がこぼれるわけです。この辺が元外交官僚の宮家さんなどにボロクソに言われるゆえんでしょうな。 

ひとことでいえば、トランプさん、あんた準備不足ですよ。 

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之氏はこのように述べています。 

「弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)脱退を2001年12月にロシアに通告し、6か月後に実行したブッシュ政権には、中間段階ミサイル防衛を米国の陸上に配備するという目的があり、既に開発を始めていた。
ところが、トランプ政権はINF条約脱退を表明しながら、脱退後に欧州・アジアに配備する地対地ミサイルを用意していない。米陸軍は、この射程でもINF条約に違反しないという兵器を研究しているものの、開発・調達の段階に至っていない」
(『NEWSを疑え!』第720号(2018年10月25日号)
 

そもそもこのINF条約は、北の核と一緒で、本来ならかつての民主党政権時にやっておくべきことで、腰が引けているからズルズルここまで既成事実化してしまった問題です。 

トランプからすれは尻拭いをする立場ですが、それだけでは面白くない、これを対中包囲シフトに使えないだろうかと考えたとしても不思議ではありません。 

いや、彼なら必ずそういう思考形式とるはずです。 

しかし、残念ながらロシアが違反しているから米国も破棄するというリアクションの立場であるために、何の準備もされていませんでした。 

たとえば、地上発射型の中距離核ミサイルが対象になっているわけですが、ではそんなもんが米国にあるかといえばないのですな、これが。

というのは、この「中距離」というのがくせもので、敵に近いために睨みを効かせるには有効ですが、逆に近すぎるために攻撃に脆いという欠点があります。

実はこれが、米国が沖縄に地上発射型の中距離ミサイルを、冷戦期の一時期を除いて配備しなかった理由です。

本来、この中距離核ミサイルの特長が生きるのは大陸です。

沖縄のような狭い島など初めから論外、日本列島や韓国ですらいかがなものかです。

やるとしても、初めから場所が分かってしまっている固定式サイロなどは話になりません。

3ミサイルの固定式サイロhttps://blogs.yahoo.co.jp/bdcxs228/34030371.html

可能とすれば、中国がやっているような道路を大きなトレーラーでガラガラと動き回れるような移動式発射装置がベストなのです。

Photo_3東風21 http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2010-09/...

今の日本列島でそんな移動式発射装置に核兵器を載せて米軍が引っ張り回したから、内閣のひとつや二つは軽く飛びます。

フィリピンという手がないわけでもありませんが、なにせ政情不安定で、ドテルテのようにいつ中国に転ぶかわからない国に、そんなものを置くわけにはいきません。

ですから、地上発射型中距離核という存在そのものを配備する軍事的合理性に欠けていたからこそ、米軍も手をつけていなかったのです。

そのかわりに取った手段が、空中発射型の巡航ミサイルです。

「セルバ統合参謀本部副議長は昨年7月18日の同委員会で、米軍はINF条約にかかわらず、艦対地・空対地ミサイルによって、中国本土の目標に攻撃のリスクを与えることができると主張した」(西前掲)

ですから、現況では政治的には大変に面白い展開を予想できるのですが、西氏も指摘するように、軍事的にはロシアにとって条約無制限状態を公然と続けられる言い訳を与えかねないリスクがあるともいえます。

とまれ、始まったばかりですので、なんともいえません。

 

 

2018年10月25日 (木)

米のINF条約脱退はロシアとの出来レースか?

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今回のトランプのINF条約離脱の真の矛先が、中国に向かっていることは自明です。

朝日はこんな社説を出しています。

核大国の米国は、核の広がりを防ぐ国際条約により核軍縮の義務を負っている。それが逆に核軍拡へかじを切るのは愚行というほかない」(朝日10月23日)

毎度の9条節ですが、正しいことも言っています。この部分です。

「米国の取るべき道は、ロシアとともに、中国なども巻き込んだ実効性のある核軍縮の枠組みづくりや信頼の醸成である」

まぁ、そのとおりなんですがね。

では、INF条約の番外地だったアジアで一番得してきた中国に、どうやって苦い水を飲ませるんでしょうかね、朝日さん。

後述しますが、中国の核戦力の実に8割までが中距離・準中距離核ミサイルなんですぜ。

「どうやって」という方法論を語らず、「核軍縮の義務」とか「人類の非核化の夢」みたいな情緒論だけでは、語ったことにはならないんですよ。

そもそもロシアがINF条約に違反した理由には、中国の影がのぞいています。

うがった見方をするなら、この条約離脱劇は「米露の出来レース」といった側面もあるのです。 

あえて強い言い方をすれば、米露の共通の脅威は中国に他なりません。

Photo産経

中露が準同盟関係であるなどという論者がいますが、とんでもない勘違いです。

猜疑心が人一倍強いこの二国が、世界最長の国境線で接しているのです。

こんな両国が核攻撃によって互いの心臓部を刺すことができる相手に、気を許すはずがありません。

かつての共産国同士だった時ですら犬猿の仲でした。現に1969年には国境線をめぐって局地戦すら交えています。
中ソ国境紛争 - Wikipedia

Photo_2珍宝島(ダマンスキー島)紛争

あくまでも対米関係において、便宜的にくっついている仮面同盟関係にすぎません。

さてロシアが密かに、というか堂々と条約破りを開始したのには理由があります。 

ロシアは、急にINF条約を破ったのではなく、その兆候はいくつか出ていました。 

岡崎研の村野将氏によれば、いまから13年前の2005年には早くも、イワノフ副首相兼国防相(当時)は、ラムズフェルド国防長官に「ロシアがINF条約から脱退するとした場合、米国はどうするか」と言って観測気球を上げています。 

また2007年には、プーチン御大自身が、「INF条約に米露以外の国も参加すべきだ」と、条約多角化の必要性を訴えました。 

これは、米露以外の国が中距離ミサイル戦力を持ち始めているために、ロシアの安全保障が脅かされているというシグナルです。 

このロシアの主張は、あながち間違いではありません。 

INF条約が結ばれた1980年代には、中距離ミサイルは米露だけ限定されていましたが、21世紀に入って世界に広範にバラ撒かれてしまっているからです。 

今やイエメンの反体制派民兵ですら中距離ミサイルを持っているありさまで、その保有国は中国を筆頭にして、エジプト、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、サウジ、韓国、シリアと世界10カ国にも及んでいます。 

しかも大部分は米国には届かないが、ロシア領内には着弾できるのですから、ロシアにすれば、「条約を遵守したあげくがこうかい」と言いたくなるのはわからないではありません。 

しかも、哀しくやロシアのミサイル・システムは攻めるぶんには滅法強いのですが、守るとなるとミサイル防衛(MD)を保有しないために、撃たれると弱いという致命的欠点があります。 

ちなみに、実はこの弱点は中国も一緒で、だから中露は揃って降りかかる火の粉を払うだけが目的のミサイル防衛に反対しているのです。 

それはさておき、これらの中距離ミサイル開発において世界でもっとも熱心だったのは中国でした。 

20013年7月に、米軍の国家航空宇宙情報センター(NASIC)から、世界の弾道ミサイルと巡航ミサイルの脅威を評価した報告書が出ています。 

その中にはこう書かれています。
海国防衛ジャーナル2013年7月11日による
http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50706458.html 

「中国は世界でも最も積極的で多様な弾道ミサイル開発計画をもち、量、種類ともに拡大中である」
https://fas.org/programs/ssp/nukes/nuclearweapons/NASIC2013_050813.pdf 

2013年時においてすら、中国の中距離ミサイル戦力の増強は明確でした。 

「現在、中国の地域核戦略の主力は、MRBMのDF-21(CSS-5 Mod1、Mod2)です。DF-21は2006年には19~50発だったものが、2011年には75~100発へと増加しています」(海国防衛ジャーナル前掲)

 そして現在の中国の中距離・準中距離ミサイルは、各種合わせて412発と推定されています。 

とくにその中でもDF-21C(東風21C)は、日本の都市と在日米軍施設を標的にしていると言われています。 

Df21DF-21(東風21)
http://www.ausairpower.net/APA-PLA-Ballistic-Missiles.html 

このDF-21Cの射程は1750キロですから、日本を狙うと同時になんなくロシア領内も標的にすることができます。 

昨日もアップしましたが、下図の赤線がDF-21Cの射程範囲です。 

400pxpla_ballistic_missiles_range

https://ja.wikipedia.org/wiki/DF-21_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB) 

ロシアにとって、米国とその同盟国(英仏)を除けば、直接にロシア領を核攻撃できる国家は唯一中国のみなのです。

これは私の憶測に過ぎませんが、ロシアにとって最も望ましい解決は、米国との中距離ミサイルの増強合戦ではなく、中国など中距離ミサイル保有国も含めた多国間INF条約ではないでしょうか。

この多国間中距離ミサイル全廃条約(新INF条約)で中国を拘束することができるならば、わが国にとっても朗報であることは間違いありません。

ただし軍拡に狂奔する中国がどこまでこの新INF条約交渉に乗ってくるかは不明です。

なぜなら、中国の核兵器は長距離弾道ミサイルも含めて全体で478発ですから、もし中国がINF条約に加わると核戦力の約8割を廃棄せねばならなくなるからです。

このような中国にINF条約の門をくぐらせるには、米露の強力な圧力以外は考えられません。

しばらくは米国の中距離ミサイル戦力の復活が開始され、米露の罵り合いの中から、国際社会が今のINF条約の重大な盲点に気がついてからのことではあります。

 

2018年10月24日 (水)

INF条約番外地アジア

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INF条約離脱問題を続けます。 訪露していたボルトンはパトルシェフ安全保障会議書記にIMF条約を離脱する旨を伝達したようです。

ロシアの態度は相変わらずで、条約違反そのものを認めずに証拠を出せと言っているようです。なかなかしぶといことです。

ボルトンはこう述べています。

「ロシアを(条約順守の)義務に立ち返らせれば条約は救えるという考え方があるが、ロシアが違反そのものを否定している以上不可能だ」と語った。ボルトン氏によると、パトルシェフ氏は会談で、ロシアの条約違反を強く否定し、「違反しているのは米国だ」と主張したという」(朝日10月23日)

今回のトランプのINF条約の離脱は、あらためて米国が差しだしている核の拡大抑止、平たくいえば「核の傘」について考えさせられることになりました。 

よくある誤解ですが、米国がロシアの核戦力に対して、「お、ロシアは核戦力を増強しているのか。ならばオレも核戦力を増強するぞ」というふうに捉えているむきがあるようです。 

ちょっと違います。ロシアが秘密のうちに開発し、実戦配備した核搭載型中距離巡航ミサイルの攻撃対象は、米国ではありません。あくまでもヨーロッパであり、日本です。 

米国には向けられていませんし、そもそも射程が500~1500キロではまったく届きません。 

ですから、ロシアの中距離核は米国の直接の脅威ではないのです。 

そもそもどうしてINF条約が結ばれたのか、考えてみればわかるでしょう。これは歴史上初めて結ばれた二国間核軍縮条約でした。 

核兵器そのものを非核化しようという北とのCVIDと性格が違うことは、その「射程」を決定する核兵器の運搬手段(ミサイル)がテーマだったことです。 

ここで単に「ミサイル」とだけ書くのは、2種類あるからです。

ひとつは、成層圏に一回飛び出して再突入してくる弾道ミサイル(BM)と、低空を低速で這うように侵入してくる巡航ミサイル(GLCM)のふたつのタイプがあるからです。 

今回、ロシアが条約破りをした9M729は、この地上発射型巡航ミサイルです。

9m72_4https://en.wikipedia.org/wiki/9K720_Iskander

INF条約には、これらの生産と実験について禁止するだけではなく、更にその担保として情報開示、施設査察まで認めています。 

ムン・ジェインのように、「北は非核化に努力しているんだから、制裁解除しようよ」なんて言っても、必ず核軍縮条約には情報開示と施設査察がワンセットでついてくることをお忘れなく。 

いやむしろ核軍縮の順番は、情報開示・施設査察があって初めて制裁の段階的解除が始まるのです。

ムンさん、ヨーロッパはINF条約を体験していますからそれを骨身で理解しています。

わかっていないのはムンさんだけですから、ヨーロッパで恥をかくのですよ。 

話を戻します。 

ではなぜ1987年12月という時期に、米ソでINF条約が結ばれたのかというこの「時期」の問題です。 

それは1970年代に、ヨーロッパ諸国が米国に不安を抱き始めたからです。 

1950年代から60年代の冷戦初期においては、米国は核優位をたもった上で通常戦力もソ連より一枚上手でした。 

こういう力関係だと、ヨーロッパは怒濤のように侵攻してくるであろうワルシャワ条約軍に対して、米国の核抑止が効いていていると信じられて枕を高くできたわけです。 

ところが、米国はキューバ危機においてソ連との密約をします。

それはキューバへの中距離弾道ミサイル搬入をしない見返りに、トルコに置いた中距離核ミサイルを「旧式だから」という理由で撤去してしまいました。

喉元のキューバの核を撤去する見返りは、米国にとっても大きかったのです。これで米国の核の傘にほころびが生じてしまいます。 

一方ソ連は、ヨーロッパ正面に中距離弾道ミサイル(IRBM)であるSS-20を配備し始めました。 

20SS20中距離核ミサイルhttp://www.military-today.com/missiles/rsd_10_pion... 

これは怖い。ヨーロッパ諸国にとって、つい目と鼻の先に「ヨーロッパ専用」の核ミサイルをつきつけられ、しかもそれに対して米国はなんの手だても打ってくれていないからです。

そりゃ米国はいいでしょうよ。SS20を発射されてヨーロッパが廃墟と課しても、大西洋を隔てて安穏としていられるんですから。

よくいう「ソ連が核攻撃しても、米国はロスやニューヨークを差し出して報復してくれるだろうか。してくれないなら、米国の核の傘はまやかしだ」という米国の核の傘についての深刻な懐疑の空気が高まりました。

実はこれがソ連の真の狙いでした。

ソ連は、米国とヨーロッパの同盟(NATO)を戦わずして分断(デカップリング)しようとしたのです。

とまれここに、西側陣営の結束に内部崩壊の可能性が生まれたのです。

そこで弱った米国は、1979年12月のNATO外相・国防会議において、ソ連を核軍縮のテーブルにつけるために圧力をかける方針を定めます。

それが米国のパーシングⅡと巡航ミサイル(GLCM)の配備でした。

201米陸軍パーシング2  地上発射型中距離核ミサイル
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20181022-00...

そしてこれが功を奏して、大変な交渉バトルの末に結ばれたのが、このINF条約でした。

米ソは1991年6月までに、米国は計846基のINF(パーシングⅠ・ⅡおよびGLCM)を廃棄し、ソ連も計1846基のINF(SS-20、SS-4、SS-5、SS-12、SS-23、SSC-X-4)を廃棄しました。

これが歴史の教訓です。軍縮は力による軍事的・外交的圧力によって初めて成立するのです。

実は当時ヨーロッパ諸国が抱いた米国の核の傘に対しての懐疑は、形を変えて今も残っています。

今、ヨーロッパでも再浮上しているのはご承知のとおりですが、一貫してINF条約の蚊帳の外の地域があったからです。

それはもちろんわがアジア地域です。

米国はINF条約によって、すべての地上発射型中距離ミサイルを全廃してしまいました。

しかしINF条約が結ばれた当時、その対象となっていない国があったのです。

いうまでもありませんが、中国と北朝鮮です。この二国は今世紀に入って、急速に中距離核戦力を開発・、配備しました。

とくに中国は史上かつてない規模の大軍拡をした結果、ずらりと「日本専用」の核ミサイルを配備にするに至っています。その保有数、種類、共に豊富です。
中華人民共和国の大量破壊兵器 - Wikipedia

21東風21http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2010-09/...

●中国の中距離・準中距離核
①東風3中距離弾道ミサイル( IRBM)                         ・・・射程3,000+ km
                                                                               保有数2
②東風21C 道路移動式 準中距離弾道ミサイル(MRBM)・・・射程1,750+ km
                                                                                保有数36
③東風21道路移動式弾道ミサイル (MRBM)              ・・・射程1,750+ km
                                                                              保有数80
④東風15 道路移動式短距離弾道ミサイル(SRBM)    ・・・射程600 km
                                                                             保有数96
⑤東風11A 路移動式 SRBM                                 ・・・射程300㎞
                                                                             保有数108
⑥東海10巡航ミサイル(LACM )                              ・・・射程3,000+ km
                                                                             保有数54
⑦巨浪1潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)                ・・・射程1,770+ km
                                                                            保有数12
⑧巨浪2SLBM潜水艦発射弾道ミサイル                   ・・・射程7,200+ km
                                                                              保有数24

その中距離弾道ミサイルの範囲を示した図が下です。

400pxpla_ballistic_missiles_rangehttps://ja.wikipedia.org/wiki/DF-21_(%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB)

このような現実がある中で、米国はINF条約に拘束されたままです。

そしてそれに加えて、本来、中距離核戦力を持てないはずのロシアまでもが持つに至っています。

「INF条約の番外地」、それがアジアだったのです。

日本はぐるりを敵対感情を持つ中距離核保有国で包囲されていて、しかもそのことに当人は気がつかないまま、「力には力の対応はいけない」なんてことを公共放送の解説者がもっともらしく言えるような国となっていたわけです。

なんのことはない、ヨーロッパはともかくとして、アジアではINF条約など影も形もなく、馬鹿正直に条約を遵守していたのは米国だけというまことに馬鹿馬鹿しいお話です。

これで米国の核の傘を信じろ、トラスト・ミーは無理というものです。

日本の中に、米国の核の傘に対しての不信感が残り続けているのは、故あることなのです。

ボルトンの訪露にあわせた記者会見で、トランプはこう記者団に述べています。

「「ロシアのプーチン大統領に対する脅しか」と問われ、「あらゆる者に対する脅しだ。(脅しの相手には)中国も、ロシアも、(私と)ゲームをしたい者はだれでも含まれる」と威嚇した」(朝日前掲)

「威嚇」とは朝日らしい厭味たらしい表現ですが、いい得て妙です。

トランプの真の標的は、ロシアを貫いて中国の核軍拡に対する「威嚇」だからです。

トランプは、かつてINF条約の交渉テーブルにソ連を引き出したレーガンの手法をそのまま踏襲しているのです。

そのためには、「我々はだれよりもずっと多くのカネを持っている。人々の目が覚めるまで我々は(軍事力を)増強する」(前掲)ということになります。

このトランプの核軍拡を、中国の核軍拡と同列に扱うわけにはいかないはずです。

長くなりましたので、次回に続けます。

■すいません。悪い癖で改題し、加筆してしまいました。

2018年10月23日 (火)

トランプINF条約離脱へ

16_015
トランプが、10月20日、レーガン政権下でゴルバチョフと結んだINF(中距離核戦力全廃条約)を廃棄する方向の検討を表明しました。
中距離核戦力全廃条約 - Wikipedia 

Reagan_and_gorbachev_signing INF条約に署名するレーガンとゴルバチョフ Wikipedia

「トランプ氏は同日、「ロシアは長年、条約違反をしてきた。我々は合意を破棄し、(条約から)離脱する」と明言した。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が近くロシアを訪問し、トランプ氏の意向を伝える見通しだ。
 条約で禁止された核弾頭も搭載可能な地上
発射型の中距離ミサイルについて、トランプ氏は「我々はこれらの兵器の開発をしなければならない」と強調した」
(朝日10月22日)

表面的に見ると、トランプは中距離核戦力の相互廃棄を「やめるわ、オレ」というのですから、例によって米国が腕っぷしに任せて横紙破りを始めたのかと思われた方もいらっしゃったことでしょう。 

実際にNHKのニュー9などでは、「力に対して力での対抗はイカン」といった、いかにも9条の国の公共放送らしいことをのたまうていましたね。 

ほー、となると、いままでの米国の抗議を歯牙にもかけずに始まった、ロシアのINF条約破りは不問に付してもいいが、核のバランスを回復するための米国のそれはいかんということになりますね。 

実際、日本のメディアはロシアの新型巡航ミサイルについては、まったくスルーしていました。

そもそも日本のメディアは、いつもながら旧共産圏には甘く、米国と自国には厳しいという非対称のスタンスをとっているから、わからなくなります。 

INF全廃条約は、射程範囲500~5500キロの核弾頭および通常弾頭を搭載した地上発射型の短距離および中距離ミサイルを廃棄するよう定めていますが、この新型の9M729巡航ミサイルの射程は1500キロを超えると思われています。 

99299M729巡航ミサイル 出典不明

INF条約違反と目されているロシア製核ミサイルは下記です。
JSF氏による
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20181022-00101377/

①SSC-8地対地巡航ミサイル  ・・・ 射程2000km~2500㎞
②イスカンデルM弾道ミサイ     ・・・短距離弾道ミサイルだが射程500km超
③RS-26ルベーシュ弾道ミサイル・・・射程5500km以下の中距離弾道ミサイル

いうまでもありませんが、ロシアの中距離弾道ミサイルの射程内には、ヨーロッパ全域と日本が納まります。 

たとえば、北朝鮮の中距離弾道ミサイルのノドンの射程は1300キロと言われていますから、日本列島がすっぽりと納まります。

Photo_2海国防衛ジャーナル http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstanc

先ほどふれましたが、オバマも2014年にロシアのINF条約破りを批判してはいるのです。 

しかし例によって例のごとく腰砕けに終わって、ロシアは開発を続行し、とうとう完成させて実戦配備してしまいました。 

2017年2月14日、ニューヨーク・タイムズ紙が米情報当局者の話として、ロシアがSSC-X-8・9M729ミサイル部隊を既に2個大隊保有しており、1個大隊はロシア南部ボルゴグラード周辺の開発実験施設に配備され、もう1個大隊は昨年12月に中央ロシアに実戦配備された、と発言したことが伝えています。 

ただし、これは西側インテリジェンスの調査によるものであって、ロシアは本来公開されるべきINF条約関連の情報を秘匿しているために確証情報ではありません。 

トランプが怒っているのは、「お前の時代にロシアを止めておけば、今、オレがこんなややっこしい条約脱退なんかしなくてよかったんだよ、このウラナリビョータンめ」ということのようです。

「トランプ氏は20日、ネバダ州で開いた支援者集会の後、「自分たちができないのにロシアは好きに兵器ができる」のを米国は容認しないと述べ、INF全廃条約について「どうして(バラク・)オバマ大統領が交渉や離脱をしなかったのか分からない」などと批判した。
オバマ前米大統領は2014年、
ロシアが地上発射型巡航ミサイルの発射実験を行った際、INF全廃条約違反だと抗議した。オバマ氏は当時、条約離脱は軍拡競争再開につながると欧州各国首脳から圧力を受け、条約に留まったと言われている」
(BBCNews10月222日)

かつてのクリントンが北の核施設を空爆しようとして腰砕けになった結果、北は核開発を続行し、とうとう実戦配備したと主張するまでに肥大させてしまったのとよく似た構図です。

米国民主党政権の負の遺産の尻ぬぐいをトランプがさせられているところまで、よく似ています。 

この時は米国は、欧州各国の首脳から反対されて条約に止まりましたが、今回、さすがに喉元にナイフを突きつけられた格好のNATOは違った対応を見せています。 

PhotoストルテンベルグNATO事務総長 スプートニク

「北大西洋条約機構(NATO)は4日、ブリュッセルで開いた国防相理事会で、ロシアによる新型の地上発射型巡航ミサイルの開発について議論し、ストルテンベルグ事務総長は理事会後の記者会見で、ロシアが中距離核戦力(INF)全廃条約に違反しているとの認識を明らかにした。
ストルテンベルグ氏は露側が「9M729」と呼ばれるミサイルの存在を最近認めたとする一方、信頼できる説明を拒否しており、各国は透明性に欠くとの認識で一致したと強調。その上で、露側を条約違反とみることが「最も妥当」とし、ロシアに対してNATO側の「深刻な懸念」に対処するよう要求した」
(産経10月5日)
 

西側自由主義陣営は、ロシアが新型9M929巡航ミサイルの配備を完了したことをもって、ロシアがINFから離脱したと見なしています。

プーチンが狡猾に離脱表明しないで、実戦配備をしているだけのことです。

核戦力は「力の均衡の論理」によって成立しています。人類は英知をもっているのに、なんて野蛮だと言わないでください。これが現実なのです。 

今日の国際社会の平和秩序は、二つの要素で保たれています。 

ひとつは「力」、すなわち軍事力であり、今ひとつは合意の積み重ねによる国際法という慣習法です。 

今回のINF条約は後者の国際条約ですが、これが破られた場合、それを守らせるには国際機関が仲介するか、さもなくば国際警察力を持つ国、つまり米国ですが、その遵守を強制せねばなりません。

国際機関、つまり国連安保理が、この掟破り常習犯の中露に拒否権を与えているために(与えないとさっさと脱退されてしまうからですが)、現実には単なる町内会の常会ていどの役割しか果たさなくなって久しいのは、ご存じのとおりです。

トランプは業を煮やして国連人権委からの脱退、分担金の減額、本部のNYからの立ち退きなどを構想していて、このまま推移すると国連脱退し、第2国連作りもあながち冗談ともいえなくなったとみられています。

といっても、実際に脱退できるのは予告期間の6カ月をみて、来年4月頃になるとみられています。

その間、米国は急ピッチで中距離核戦力を再構築せねばならなくなったわけです。

米国は完全に廃棄していたために、当座は核搭載トマホーク巡航ミサイルの復活といったことが現実的でしょうが、それはそれで大変なことではあります。

それはさておき、NHKのキャスターがしたり顔で「力に力で対抗してはイケナイ」と叫んでも、このような力学で国際社会が作られている性質上、いたしかたがありません。

つまりは、ロシアが条約の拘束から離脱した以上、INF条約の精神を守るためには自らも条約離脱をして、「力の均衡」を回復するしか道がないことになります。

これが核時代の哀しいパラドックス(逆説)なのです。

そしてもうひとつのトランプの狙いは、INFにすら加盟せずにせっせと核軍拡に励む中国を視野に入れていますが、長くなりましたので次回にします。

 

2018年10月22日 (月)

那覇市長選大敗 負けるべくして負けた沖縄自民

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消化試合のようだった那覇市長選が終わり、とりあえずこれで沖縄の選挙の季節は終わりました。 

「任期満了に伴う那覇市長選は21日投開票され、共産党や社民党などの支援を受ける現職の城間幹子氏(67)(無)が、新人の前沖縄県議・翁長(おなが)政俊氏(69)(無=自民・公明・維新・希望推薦)を破り、再選を果たした。
 城間氏は9月の知事選で初当選した玉城デニー知事の支援を受けた。与党などが翁長氏を支えており、知事選と同様の構図だった。知事選、同県豊見城(とみぐすく)市長選(今月14日)に続き、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する勢力が3連勝する形となった」(読売10月21日)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181021-00050071-yom-pol 

Photohttp://jin115.com/archives/52236404.html

ひとことで感想を言ってしまえば、負けるべくして負けたということです。 

篠原章氏がこのようにツィートしていますが、私も似たような感想です。

「那覇市長選。現職の城間幹子氏が約8万票、対する翁長政俊氏が4.2万票。ほぼダブルスコア。選挙前からから敗色濃厚だった那覇市長選に県議の椅子を捨てて出馬した翁長氏の勇気と運動員の方々の努力には敬意を表したい。ただ、県知事選に続いて那覇市長選も「普通の首長選挙」になったことは評価したい。」

翁長政俊氏とその陣営の皆さんの奮闘には拍手を送ります。

当初から敗色濃厚な後退戦に、県議の職をなげうって出馬した政俊氏は、自民県連の最後の意地をみせてくれました。
※翁長氏と書くと故翁長氏が強烈ですので、「政俊」氏と表記します。

一方、城間氏は立場は違えど優秀な政治家であることは確かで、知事にも擬せられた人物でした。

仮に知事候補となっていたら,、お菓子系候補のデニー氏よりよほど手ごわい相手となったことでしょう。 

私は内心、城間氏が出馬しなかったことを残念に思ったほどで、城間氏が相手ならば、佐喜真氏ももう少しまともな政策論議ができたかもしれません。 

彼女に勝利するには、自民の選挙体制の見直しと再構築が必要でしたが、今の沖縄県連にそのような力があるはずもありません。 

知事選のタガがはずれような組織状況のまま、首長選挙に臨んでしまったようです。

敗北を受けて、県連会長の国場氏が辞任するそうです。あたりまえです。遅すぎるくらいです。 

自民党沖縄県連会長の国場幸之助衆院議員は21日、先の県知事選敗北などの責任を取って、会長を辞任する意向を示した。那覇市で記者団に「責任は私が一番背負っている」と語った」(時事10月21日)
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12145-109290/

Photo_2国場幸之助氏  共同通信 

国場氏だけがこの間の三連敗の敗因とはいいませんが、氏の指揮官としての不適格さがこの事態を招いたことは明らかです。

選挙期間中に文春に、こんなスキャンダルを書かれる始末で、これで正俊陣営の士気が上がるはずがありません。

自民党の沖縄県連会長を務める国場幸之助衆院議員(45)。2012年に初当選し、以来3回連続当選の「魔の3回生」である国場氏が、既婚女性に対し、〈キスしたい〉などのLINEを送っていたことが「週刊文春」の取材で分かった」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181017-00009366-bunshun-pol

しかもご丁寧にも2回目です。

1回目は、県連会長に就任した4月28日の夜に那覇市内の路上で、連れていた妻以外の女性と口論になり、それを止めようとした観光客を、あろうことか殴ってしまったという愚かな武勇伝の持ち主です。 

沖縄知事選という天王山を控えた時期に、無関係な観光客と暴力汰を起こしたわけで、この段階で自民党は県連会長はおろか県連からも追放すべきでした。 

しかも笑えることには、返り討ちにあって入院(失笑)。

肝心要の知事選候補選定過程には、ずっと不在というのですから、これでは県連会長なんていてもいなくても同じようなものです。

結局、保守系候補の選考過程の不透明さが後々まで響きました。

そのうえに今回2回目のスキャンダルです。相手の女性は1回目の路上暴力事件の時に居合わせた人だったようです。

やれやれ、くだらない。

デニー氏もやっているじゃないか、などといっても始まりません。デニー氏は政治家になる前の話。国場氏は現職の県連会長就任後(というか、その当日)のことです。

痴話喧嘩を暴力沙汰にするような人物に、天王山の采配をとる指揮官としての資格はありません。この時点で自民党中央は国場氏を解任すべきでした。

良きにつけ悪しきにつけ、戦後沖縄を作ってきたた国場一族も、ここまで劣化した後継者が出てしまっては、もう長くないかもしれませんね。

県連会長辞任はあたりまえ、離党するのも当然、議員も辞職しなさい。

県連は国場氏を選挙の責任をとって辞めさせたりしてはいけません。しっかりとこの間続いた不祥事の責任を追及し、県民に事実を明らかにすべきです。

そのていどのことをしないと、ここまで堕ちた沖縄自民は再生できないことでしょう。

こんな会長の破廉恥2連発をウヤムヤにするようなら、沖縄自民はあってなきが如しの存在となったということです。

選挙の季節も一巡したことですし、沖縄自民は一から真摯に沖縄における保守とは何かから考え始めることをお勧めます。

 

 

2018年10月21日 (日)

日曜写真館 水鳥の声しか聞こえない朝

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2018年10月20日 (土)

朝日は沖縄にも「県民感情法」を作るべきだというのか

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今回の防衛省の不服申請について、出るだろうなと思っていたら案の定です。 

昨日も少しふれた朝日ですが、そのタイトルがふるっています。 

辺野古工事、政府が奇策再び 知事会談からわずか5日後
政府が米軍
普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事再開に向けた手続きに入った。移設に反対する玉城デニー氏の当選からわずか半月。安倍晋三首相と新知事との会談は1回だけで、強硬措置に踏み切った。沖縄の怒りはおさまらない」
(朝日10月17日)

https://www.asahi.com/articles/ASLBK4K6VLBKUTFK00G.html 

昨日は「奇手」と書きましたが、正しくは「奇策」ですので修正しておきますが、奇策とはこんな意味です。

「人の予想もしない奇抜なはかりごと。奇計。「奇策を講じる」「奇策妙案」」
奇策(きさく)の意味 - goo国語辞書

「人の思いもつかない」ですか、ほー。朝日はご丁寧にも前回2015年との経過比較を載せていますが、いかがなものでしょうか。前回と較べて、どこがどう「奇策」なんでしょう。 

Photo_2岩屋毅防衛大臣 https://www.jiji.com/jc/p?id=20181017155542-0028600169 

2015年のケース
・10月14日 防衛省が国交省に゙不服申請
・10月27日 国交相が県の承認撤回の効力停止
・10月29日 政府が埋め立ての本体工事に着手
2018年(今回)のケース
・10月17日 防衛省が国交相に行政不服不服審査請求と承認撤回の効力を申し立て
・10月18日 国交省、県に25日までに県の意見書の提出を要請。提出され次第審査開始。
 

2015年時は不服申請から国交省の効力停止、つまり県の訴えが退けられるまで15日間。

今回はまだ結論は出ていませんが、25日に県の意見書をもらってから1週間として11月の初めには結論が出ると見て、15、6日間といったところです。 

たぶん、国交省によって県の撤回の効力停止となった場合(99.9%そうなりますが)、直ちに工事が再開されることになります。

まったく同じタイムスケジュールです。

政府は新たに何か新しい「奇策」で臨んでいるのではなく、まったく同じスタンス、同じテンポで淡々と対応しているにすぎないのです。

ここのどこが「人の予想もつかないはかりごと」なんでしょう、朝日さん、教えてたもれ。 

そもそも行政不服審査法は、国民の行政行為に対する不服を扱うもので、国と県という行政機関同士が争うものではありません。 

地方自治法は、国と自治体が係争するという事態を想定しないのです。

そりゃそうでしょう。普天間移設は国防が国の専権事項だからなんて言う前に、米国との条約に準じる国家間合意事項です。 

移設問題のもうひとりの主役は沖縄県ではなく米国政府です。つまりは外交事案なのです。

それがいつのまにやら、まるで国内問題のように争われていますが、それはただの錯覚にすぎません。

あくまでも普天間移設問題は、本来、外交案件です。

ここを押えないから初めのボタンを掛け違ってしまい、外交権を持つはずがない沖縄県が介入するからおかしくなったのです。

故翁長氏が愛好した県外交などはその最たるものでした。

Photo_3
デニー氏も訪米するとか、多額の税金使って翁長氏のように国務省のロビーをさまようのでしょうか。まったくもう・・・。

したがって、外交案件であり、なおかつ安全保障案件である移設問題に県が介入すること自体が、「違法」とまでは言いませんが、地方自治法からの逸脱です。 

なにか深い誤解がデニー知事にはあるようですが、県は移設するしないについての権限はありません。 

何度も書いてきましたが、県知事の権限はしょせん、公水面の埋め立てに対して、環境配慮がなされているか、海を汚すような工法は取っていないか、承認時と異なった工法をしていていかなどという、極めて限定された事案に対しての技術的審査に限定されます。 

ですから朝日が「奇策」というのは、「政府が常識的にはありえないトリッキーなことをしている」という印象に導く報道です。 

それを「奇策」とまで書くのは、「強硬措置に踏み切った。沖縄の怒りはおさまらない」(前掲)からだそうです。 

朝日流にいえば、「県民感情」さえがあれば、正当な法に基づいた行政執行は無視できる、いや積極的に無視すべきだということになります。 

Photo_4朝日新聞の社旗を掲げて進む自衛艦ではない

既視感があるなぁ。先だっての韓国の国際観艦式をつい思い出してしまうからです。 

韓国は、ハーグ陸戦条約や国際海洋法といった国際法を無視して、海自に対して軍艦旗(自衛艦旗)の掲揚をするなと言ってきました。 

理由は韓国の「国民感情」を逆撫でするからだそうです。 

「韓国海軍は、済州国際観艦式に艦艇を送る日本など14カ国に対して、海上査閲の際には自国の国籍旗と太極旗(韓国の国旗)を掲げるよう要請した。
また李洛淵(イ・ナクヨン)首相は1日、「旭日旗が韓国人の心にどのような影響を与えるか、日本は細かく考慮すべき」と語った」(朝鮮日報10月5日)
 

朝日は、韓国政府とまったく同じロジックを使っていることに気がつきましたか。 

「民族感情」や「県民感情」がありさえすれば、正当な法執行をしてはならないという情緒優先主義です。 

これでは法治国家は成立しません。

デニー知事が、朝日が煽るような「沖縄の心」とか、「沖縄県民の情緒」で対決する限り、政府は逆に、韓国に対する対応と同様に普通の二者間関係にシフトしていく速度を速めることでしょう。

朝日は、韓国よろしく「県民感情法」でも作れとでもいうのでしょうか。

■[お断り ]  タイトルと本文末尾を「情緒」から「感情」に差し替えました。そのほうが意味がとおる思います。いつもすいません。

 

 

 

2018年10月19日 (金)

デニーさんの勘違いとは

056

これといって感慨もわかないことですが、デニー知事の承認撤回表明、首相との会談を経て、これにて儀式の終了ということで、次のステージに移りました。 

なんか予定調和、いや予定不調和の出来の悪いリメイクドラマでも見せられている気分です。 

防衛大臣による国交大臣に対しての効力停止の申したてがありました。朝日は「奇手」なんてことを言っていますが、本気でそう思っているならアホです。

奇手どころか、オーソドックスな法手続きの開始にすぎません。

奇手なのは、いまさらですが、権限のない日米同盟の決め事を、地方自治体が介入することのほうです。

したがって、前回の翁長氏の時と寸分違わぬ展開がまたリセットされたにすぎません。 

「米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、埋め立て承認を撤回した沖縄県への対抗措置として、防衛省が石井啓一国土交通相に対して、承認撤回の効力停止などを申し立てた。
8月の承認撤回によって止まったままの埋め立て工事を再開するための措置で、行政不服審査法に基づく。
辺野古移設反対を掲げて沖縄県知事選に初当選した玉城(たまき)デニー知事は12日、安倍晋三首相に対して翻意しない姿勢を示した。
 そうである以上、防衛省の申し立ては妥当だ。速やかに工事が再開されることを期待したい」(産経2018年10月18日)

この後にどのような展開になるのかはわかりきった話で、国交省が防衛省から要請された承認撤回の効力無効を認め、それを受けて県が裁判に持ち込むということになります。 

前回は、ここから県の口頭弁論があり、地裁判決から高裁判決、そしていわゆる「和解期間」をはさんで最高裁判決というらせん階段を昇ることになりました。 

今回はこの地裁で終わりです。

だって、既に同じ案件に関して最高裁判決がでていますから、下級審はその判例に準じて判決を出すしかありません。 

主文以外で県に配慮したことは述べるでしょうが、法の立て付けがそうなっている以上、動くことはありえません。 

どんなに遅くとも、年内には承認撤回は封じられます。 

となると、後は延々と県外の砂利がどうのとか、アンカーがどうしたというような小技を繰り出してくるしか手はないわけです。 

謝花副知事はそのいやがらせのエキスパートですから、豊富にネタをお持ちのことでしょう。 

あまりしつこいと、かねてから言ってきたように、政府は県による工事の悪意ある遅滞に対する損害賠償請求をほのめかすかもしれません。 

少なくとも、振興予算の減額ていどの「報復」は覚悟するのですね。まだ首相か「沖縄の心に寄り添う」などといっているうちが花です。 

Photo_2https://www.fnn.jp/posts/00403042CX

そういえば先日首相と会談したデニー氏が、いきなり「振興予算の増額」を言ったのが、本土では話題になりました。 

何を勘違いしているのでしょうか、この人。 

公約で「沖縄経済の自立」を言っていたから驚いたわけではありません。あれは耳に快いことを選挙向けに言っただけのことです。 

私が驚いたのは、この人が彼我の力関係を読み間違えているということです。 

さてこの間、沖縄県知事で予算に関して圧倒的に強い立場にあった知事は誰だとおもわれるでしょうか。 

仲井真知事です。 

歴史をちょっと見バックします 

2011120300003_1出典不明 

上の写真は首相就任のご挨拶に沖縄県庁を訪れた野田首相の時のものですが、知事はかりゆしルックで起立すらせずに出迎えています。 

もう一枚お見せしましょう。これは鳩山首相が仲井真知事を訪れた時のものです。 

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まるで仲井真校長に呼び出された中坊です。知事応接室は校長室かって。 

しかし、ハト氏は謝りに来るのに、ずいぶんとラフな格好ですな。まぁ、大富豪の息子で、選挙以外で他人に頭を下げたことなんかない人だからな(ぬるい笑い)。 

ハト氏は、就任前の2008年から「国外・最低でも県外」ということを述べていましたが、さすがはハト氏、自分が日米同盟を揺るがすことをやっているという自覚もなければ、もちろん一片の「腹案」があったわけでもありません。 

突如、地元に根回しのひとつもしないで「ボク、徳之島に決めちゃったもん」と言い出して、地元から大反対を受けることになったことなど、今は懐かしく思い出します(←遠い眼)。 

結局、「あそこだ、ここにするんだ」と、首相の仕事を放り出して狂瀾怒濤のダッチロールの挙げ句、わずか半年でギブアップ。 

その間に、オバマからLoopy(脳タリン)と呼ばれたことは、教科書にも乗っています(うそ)。 

で、5月23日にすごすごと県庁にやってきて、仲井真知事に「ボク、頑張ったんですけど、全部ダメでしたんで、やっぱり辺野古移設にしました。ごめんなさーい」と泣きを入れに来たのが上の写真です。 

この時期、ハト氏は「抑止力を学んだ」とか言っていましたから、この人、首相になりながら国家間合意も知らず、抑止力という概念も知らなかったようですから、確かにこりゃLoopyといわれるはずです。

それはともかくハト氏は、5月28日に日米両政府が辺野古崎地区とこれに隣接する水域を移設先とする共同声明発表し、ハト氏は訪沖後1週間後の6月4日に首相退陣と相成りました。 

いま、この移設呪縛から解き放たれたハト氏は、のびのびと「オール沖縄」と一緒に反対運動にいそしんでいらっしゃいます。 

首相として謝罪に来る時はアロハで、私人として反対運動する時は背広というアンバランスが光ります。

Photo_3出典不明 

この後に、菅直人政権が移設はやはり辺野古となって、野田氏の平謝りの写真へと続くのは、ご承知のとおりです。 

ここで歴代の民主党政権の首相のみっともない姿をお見せしたのは、ひとつにはデニー氏がこの時期他ならぬ民主党沖縄県連の一員だったことをお忘れになっているようなので、記憶回復の一助にというのがひとつです。

民主党政権として当時、彼らが決めたTPP参入表明、消費増税法、辺野古移設など、抵抗野党として都合の悪いことは、一切合切「ありません、ありません」の引き出しにしまい込んでしまいました。

デニー氏におかれましても、同様にご都合主義的記憶喪失になったようです。

それはさておき、もうひとつは仲井真知事の傲慢にすら見える様子の理由が何かです。 

仲井真氏が時の首相にこの態度をとれるのは、沖縄県の立場が政府なんぞより圧倒的に強い力関係だ、という大前提があるからです。  

「民主党さん、一回ハトさんがちゃぶ台返ししたのは、謝ったくらいでは原状復帰は出来ませんぞ」と言っているわけです。 

要は、「ハトのチャブ代返しの以前の合意水準より、いっそう要求ハードルを高くしますよ、覚悟しなさい」というボディランゲージなのです。  

実際、以後の本土政府との交渉は、一貫して「沖高政低」の気圧配置で展開されました。この力関係を作ったのは仲井真氏です。  

よく、左の人たちは「沖縄をいじめまくる本土政府」と言いたがりますが、とんでもない。2人の首相を、這いつくばらせたのは仲井真さんです。 

では、ハト氏だけがちゃぶ台返しをしただけかというとちがいます。これには延々と前史があります。

この移設問題は、実に14年間の間、あーでもないこーでもない、拒否、合意、拒否、合意という定期的波動を繰り返していました。 

その波動がいったん収束したのが、麻生政権時の2007年10月のことです。  

今まで事務処理を拒んでいた仲井真知事は「環境アセス手続きの一つとして受け取らざるを得ない」として、方法書の受け取り保留を解除を決めたのです。  

この時点の名護市長は島袋氏で、市長も苦悩の末に合意に達していましたから、この段階で、なんと初めて政府-沖縄県-名護市-辺野古現地の4者が、惑星直列に達したわけです。 

Photo_4http://sciencejournal.livedoor.biz/archives/517100...

まさに五目並べか、惑星直列かという奇跡の一瞬でした。 

簡単に経緯を整理しておきます。

・2007年10月 麻生政権-名護市移設で合意
・2009年12月 鳩山政権「国外・最低でも県外」公約
・2010年5月  鳩山氏撤回し、県に謝罪
・同年6月   鳩山氏移設についての日米合意
・同年6月   菅首相、合意継承
・2013年12月 仲井真知事埋めたて事務承認
・2014年12月 翁長知事移設反対
・2015年3月  コンクリートブロックの作業停止を指示
・同3月     農水大臣、知事指示効力停止

 ところが、2009年12月、これをたったひとりで、一瞬にしてぶっ壊したのが、先述したとおり自称「友愛の使徒」、実は破壊神であらせられた鳩山氏でした。  

そして2013年12月27日、仲井真知事は沖縄防衛局の移転に関する環境評価証明を承認しました。 

ハト破壊神が移設合意体系というガラス細工を破壊してから、ちょうど丸4年後のことです。 

当時、首相に復帰した安倍氏と仲井真氏の会談の様子が、下の写真です。

Photo出典不明 

なんだ仲井真さん背広持っているじゃないの、しかも立ってる、と新鮮な驚き(笑い)。

確認しておきますが、この時防衛局が提出した埋め立て申請は、先ほど述べたように既に2010年5月28日に、他ならぬ鳩山政権時の日米合意表明に基づいています。 

つまり、ほんとうはこの時点において、既に政治決着済みであって、あとは沖縄県内部の「県内政治」にすぎません。 

それを仲井真氏は熟知しながら、実に3年間も言を左右にしてゴネまくって、本土から妥協を取りつけたというわけです。 

これは圧倒的に強い「沖高政低」の力関係が続いていたからです。 

では、今、デニー知事がこの力関係を背負っているのかといえば、ノーでしょうな。

翁長氏の延長戦でしかない、政治手腕が未知、というかたぶんまったく期待できないデニーさんを政府が恐れる理由はまったくありません。

それが、今の力関係です。

予算編成期であるのは、かつての仲井真-安倍会談と同じですが、果たして安倍・菅両氏が、かつての仲井真氏に感じたようなものをかんじるかどうか、ご判断下さい。

2018年10月18日 (木)

日本が為替操作国だって?

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トランプ゚政権は、中国のみならず日本に対しても揺さぶりをかけてきています。 

つい先日、米国発信の世界同時株安が発生しましたが、その後に今度はムニューシン財務長官の為替条項発言で、東京市場は混乱しています。

「日本株が再び売りに押されている。世界的な株安の連鎖にはいったん歯止めがかかったが、ムニューシン米財務長官が通商協議において日本に対しても例外なく為替条項を求めると、為替の円安進行をけん制した発言をきっかけに、投資家が日本株に対して警戒感を強めている」(日経10月15日)
 

何を言ったのかといえば、こういう内容です。ムニューシンさんは、下の気のいいロバさんのような人物です。

Photoムニューシン米財務長官 Shutterstock/アフロ

ムニューシン米財務長官は13日、日本との物品貿易協定(TAG)交渉を巡り「為替問題は同交渉の目的の一つだ」と述べ、通貨安誘導を封じる為替条項を日本にも求める考えを明らかにした。日本の通貨当局には、市場への介入余地を狭めかねない同条項の導入に反対論がある。米国は円安を強く警戒しており、日米交渉の火種となる可能性がある」(日経10月13日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36461930T11C18A0MM0000/

茂木大臣は「財務大臣で対応していく」と受け流したようですが、ああいやだ、日本にまでこういう攻め方をするなんて、馬鹿じゃなかろか。 

このムニューシンの発言を額面 どおり受け取ると、自国通貨安に誘導する政府の政策がことごとくアウトということになります。 

たとえば、日本は金融緩和という至ってスタンダードな経済政策を用いて、市場に大量の円を供給することによって円安誘導をおこなっています。 

量的緩和、別名「黒田バズーカ」(←いまや懐かしい)ですね。 

別に汚い手段でもなんでもなく、中央銀行が自国通貨をどれだけ刷ろうが、国債をどれだけ買い込もうが、まったく主権の権限範囲内のことでとやかく言われる筋合いはありません。 

日本政府がやっているのは、金利を下げて、市中に通貨を大量に供給することで、事業者に金を借りやすくして、消費を伸ばそうとするものです。 

Photo_2まことにオーソドックスなデフレ脱却政策であって、結果としてそれが円安につながるのかな、ドルさんそうなったらゴメンね、でもきみだってやってるよね、ていどのことです。

あくまでも主目的はデフレ脱却という景気浮揚策であって、副次効果として円安効果もあるのかなということです。

それができないのは、ユーロのような「みんなの通貨」(共通通貨)くらいなものです。 

まぁそれゆえに、EU諸国は自国の景気対策を打てない不景気な国がたくさん生まれて、いまやユーロが怨嗟の的だというのはつとに知られた話で、まことにお気の毒なことです。 

ですから、日本政府がとっているデフレ脱却政策を、為替操作なんていわれるのは心外です。 

そもそも言っている当の米国ですらFRBが一貫してやってきたことじゃありませんか。 

景気の加熱を抑えるためにFOMC(連邦公開市場委員会)が公定金利を少し上昇のピッチを速めたために、世界同時株安となったのは、つい先日のことです。 

ルール違反を宣告されるのは、昔日本もやったことのある為替市場の直接介入です。 

これは為替市場で、財務当局が自国通貨安のために円を売ってドルを買うなんて乱暴なことをするわけで、これはアウトです。 

ちょっと前まで、中国はこの為替操作介入の常習犯でしたから、中国の為替操作と同列に並べるがごとき、ムニューシンの言い方は不適切です。 

実は米国は貿易相手国に対して、「為替操作国」に認定するという武器をもっています。 

これには3条件あります。 

①対米商品収支黒字200億ドル超過
②国内総生産(GDP)比3%を超える経常収支黒字
③GDP比2%を超える外国為替市場でのドル買い越し
 

つまり、外国為替市場で当該政府がジャブジャブとドルを買って自分の国の通貨を売り払っている額が、その国のGDP2%になったら、制裁宣告を受けるという仕組みです。

たとえば中国なら、GDPが1396兆円(18年現在)ですから、その2%といえば 約28兆円という額になります。

今まで1980年代から90年代にかけて、中国、韓国、台湾が為替操作国の認定を受けました。 今はありません。

為替操作国認定を米国から受けてしまうとどうなるかといえば 

①アメリカとの二国間協議が行われ、通貨の切り上げを要求される
②アメリカは必要に応じて関税による制裁を行うことができる
 

ね、大変でしょう。通貨を切り上げろと言われて通貨高になった上に、高関税をかけられるのですから、たまったもんじゃありません。 

特に輸出で食っているような中国、韓国はモロに効きます。 

トランプは中国には為替操作国に指定してハルマゲドンみせたるぞという脅しをかけていますし、韓国は既に「観察対象国」となっています。 

常識的には、軍事と一緒でやるぞやるぞと喚いて相手国の自粛を要求する抑止効果狙いであって、実際にやるとなると返り血覚悟のこととなります。

まぁこの「常識」が通用しないのが、トランプの凄みなんですが。

とまれ、米国が中国を冷戦対象にしたのはけっこうなことですが、日本まで巻き添えにして闇雲に弾を撃ってくるのはやめて頂きたいものです。

それにしても、財務省はもはや使い道がなくなった外国為替資金特別会計(外為特会)の20兆円はどうするんでしょうか。

財政危機を叫び、消費増税と緊縮財政が唯一の救済策と言い続けてきた財務省が、こんな巨額のブラックボックスを抱えていたらまことにシャレになりませんからね。

 

 

2018年10月17日 (水)

なぜこの時期に消費増税をするのかわからない

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安倍首相が消費増税表明しました。 

正確には、消費増税は既に決まっていたことですし、安倍氏自身も延期はないということは何度となく言ってきていますから、増税に備えてその対策を1年がかりでしろと関係閣僚に命じたということです。 

ウルトラCで再々延期かという淡い希望があった皆さん、残念でした。 

とうに法律で決まったことを、改めて表明しただけという人もいますが、自分がやる気がなくて後継政権に任せますというのではなく、自らが来年10月にやるわけです。

しかも来年には天王山と言われる改憲日程前夜の参院選が控えていますから、その重さが違います。 

安倍氏は消費税の税率10%への引き上げについては、過去2回延期してきています。 

一回目は2015年10月実施を1年半延ばし、2回目は17年4月実施を2年半先送りしました。 

座っている首相が安倍氏ではなく、麻生氏あるいは石破氏、なんだったら枝野氏でもかまいませんが、どなたが座ってもこの2回の延期は可能だったでしょうか。 

公平に見ても無理でしょうね。このお三方には財務省の財政再建の呪文が骨身に染みついていますから、2014年実施には麻生氏も反対するかもしれませんが、17年実施は避けられなかったでしょう。 

石破、枝野の両氏に至っては、積極的財政再建論者ですから「痛みを乗り越えて、子孫に借金を残さない」とかなんとかいいながら、15年に実施していたことでしょう。 

この15年の時点で、消費増税がなされた場合、GDPの6割を占める個人消費が腰折れしたままですから、デフレ脱却もへったくれもありません。

日本経済はおそらく再生の機会を失ったまま永久凍土の下です。

そのように考えると安倍氏が、政権を渡された当初から法律で実施が決められていた増税法案を二回に渡って握り潰し、とにもかくにも「デフレからの緩やかな脱出」といえるていどのところまで引き上げたということは素直に評価するべきだと思います。

ならばなおさら、なぜ自らが苦心惨憺積み上げた成果をここで壊してしまうのでしょうか。

日本経済の現況は、日銀のインフレターゲット(物価上昇目標)だったインフレ年率2%には遠く及ばない状況です。

「日本のインフレ率が一向に上昇してこないばかりか、逆に低下しつつあることが指摘できる。
6月の全国消費者物価指数(CPI)におけるコア・コア指数(変動の激しい生鮮食品・エネルギーを除く総合指数)は、4月以降、3ヵ月連続の低下で前年比+0.2%となった
」(安達誠司「インフレ率と失業率が同時に低下...日本経済、どう読みゃいいのか」)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56925 

その一方、景気指標の重要なひとつである雇用指数は劇的に改善しています。

「雇用環境の改善はとどまるところを知らず、いまだに継続中である。特に、今年に入ってから、「非労働力人口(職探しをしていない無職者)」が大きく減少している点は特筆に値する。
日本の非労働力人口は2012年12月時点では4561万人だったが、直近時点(2018年6月)では4300万人となっている」(前掲)

つまり、「デフレとはもはやいえないが、目標には到達しておらず、デフレ脱却とは言い難い」のが、現在の日本経済の偽らざる姿です。

別の言い方をすれば、日本経済は消費増税すれば、デフレスパイラルに逆戻りしかねない切所にいるともいえるわけです。

このような状況で、3回目の引き延ばしが可能かどうか、安倍氏は探っていたと思われます。

行政府の長としては、民主党政権末期の民自公による三党合意で法制化されている以上、それを行政化することは義務ですから、悩ましいところです。

一方で覚悟を決めていたとはいえ、できるなら完全デフレ脱出まで待ちたいという二律背反が、安倍氏の胸中にあったことはたしかでしょう。

Photo出典不明

そもそも消費増税に懐疑的な政治家は、自民党内にも安倍氏とあと数人しかいない希少種です。 

関係官僚の全部、自民党の9割、公明党の全部、民主党の幹部全部、財界主流の全部、新聞・テレビなどのメディアの全部、経済学者の9割が、包囲網を敷いているわけですから、絶対的極少派である安倍氏の孤独な抵抗にも限界があったということでしょうね。 

え、枝野氏が立民は増税反対ですって。がはは、反対もなにも、増税法を決めたのはあんたら民主党野田政権の時だったでしょうに。 もう忘れたんですか。

ま、あの人たちのご都合主義的健忘症は毎度のことですから放っておきましょう。 

むしろ大事なことは、なぜ「今なのか」というタイミングです。 

安倍氏は本心はどうか余人が知るよしもありませんが、かなり前から上げる決意をしていたことは間違いありません。 

だいたい増税した首相は退陣します。不人気で政権が持たないということもありますが、実際手を汚すのは、後継総理に押しつけたいというのが本音でしょう。

永田町の常識では、総理任期の間1回の増税ができたらエライと言われていて、安倍氏のように2回眼にチャレンジするというのはよほど自らの権力基盤に自信がなければできないことです。

その意味で、安倍氏が任期3年を決めたその直後にこの表明をすることは、当然、自分が手を汚しても政治生命を短くする気はない、という意味です。 

この自信がどこから来ているのか、どのような国民経済の見通しがあるのか、私にはわかりません。

またこれを責任感とか義務感とかいう表現で捉えていいのかも、正直、私には判然としません。 

2017年の総選挙の自民の公約は、「保育・幼児教育の無償化」でした。これは公明との政策協定でした。 

問題は財源で、財務省的発想ならばどこかを削るか、増税して幼児福祉に充てるということですから、そのための財源に消費税を充てよということになります。 

消費税は恒常的財源ですから、半永久的に続きます。 

景気に左右されにくく、そのうえに貧困層も富裕層からもまんべんなく取れますから、貧困層の負担が相対的に大きくなるという悪平等な性質も抱えています。 

ですから財務省としては、消費増税で労することなく年5・6兆円の税収増を見込めます。 

たしかに前回14年時の消費増税8%時と今回とでは、上げ幅が多少違っています。 

「14年4月の8%への引き上げでは、表明が13年10月1日でちょうど半年前だった。そして、前回の駆け込み需要は年明けから本格化し、14年の4月に急激な反動減が襲った。前回に比べて今回は引き上げ幅が小さいことは当然に考慮にいれなければいけない。前回に比すると今回はだいたい7割近くの上げ幅になる」
(田中秀臣「消費税率10%、安倍首相の決断で甦る「失われた3年」)https://ironna.jp/article/10936 

また、準備まで前回は半年、今年は1年ですから、対応策を取る時間はあります。 

おそらく補正予算を手厚くするために、この時期にしたと思われますが、財務省がどのていど呑むかです。 

といっても、キリがいい10%となることによる消費の冷え込みは見えていますし、軽減税率をグチャグチャいじっても、消費は心理的バイアスが強いので、これもほとんど意味をなさないでしょう。

「日銀の片岡剛士政策委員は、最近の講演で「耐久財やサービス消費はぶれを伴いながら増加しているものの、飲食料品や衣料品などを含む非耐久財消費は低迷が続いており、家計消費には依然として脆弱(ぜいじゃく)性が残っている」と指摘している。妥当な見方だろう。
しかも、問題は前回の経験でいえば、消費が一度落ち込むと、回復が長期間見られないことだ。これは現実の経済成長率の足を引っ張る。また、完全雇用の水準近くまで来た失業率の改善も、ここで再びストップするだろう。さらにはインフレ目標の達成が当面困難になるのは明白である」(前掲)
 

では、政治的になにかひとつでもいいことが思いつくかといえば、ゼロです。

メディア・野党はさんざん自分たちが煽ってきた消費増税だったにもかかわらず、来年の参院選を「増税選択選挙」として、反安倍キャンペーンに熱中することと思えます。 

もうすでにその兆候は現れていますから、来年は更に吹き荒れることが予想されます。 

この参院選で与党が敗北した場合、改憲日程は宙に浮くことになるでしょう。

最後にあえてひとつだけ望みがあるとすれば、菅氏が漏らしていたという「これで最後の消費増税となる」という意味です。

先行きが見えないために消費者は、今まで2回の延期でも消費を伸ばしませんでした。

しかし後の消費増税がないと政府が公約するとすれば、先行き不安の雲が晴れます。

そうなった場合、軽減税率などよりはるかに個人消費の後押しとなるような気がしますが、なんとも今の時点ではわかりません。

さてこんな逆風を覚悟でなぜ安倍氏が、今、消費増税の最終決断をしたのでしょうか。私ももう少し考えてみることにします。

 

2018年10月16日 (火)

最高ではないが、ベターな選択としての慰安婦合意

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消費増税、99%決まりですね。かなり前から覚悟してきたので、とうとうという感じです。 

さて、先にHYさんのコメントにお答えしておきます。

コメントは2つありますので、ひとつにしておきます。 

「あの後合意が紙屑のように破り捨てられたのはご存じのとおりです。
 憲法改正だって公明党に配慮しているから自衛隊明記にとどまっているのです。裏切られる可能性もあるのに。
国際政治的には正しくても世界世論的にはどうですか?あれから反日宣伝は治まりましたか?慰安婦像は立てられなくなりましたか?いくら合意文章に「最終的かつ完全に解決」と書いてあっても彼らには関係ないのです」
 

ご承知だと思いますが、この慰安婦合意は米国の圧力です。当時のケリー国務長官は自ら韓国と日本に強力な圧力をかけてきていました。

北との軍事的緊張の中で、米国をブリッジにした米日韓同盟が瓦解する可能性があったからです。 

それは韓国の中国シフトが明らかになったになったからで、この傾向を放置すれば、今と別なルートで中国を核とする反米反日同盟を作られる可能性があったわけです。 

離反していく韓国に緊急に手をうたねばならず、そのために慰安婦問題を反日のダシにし続ける韓国を黙らせる必要がありました。 

米国の圧力は、日本以上に韓国に向かっていて、国務長官が韓国相手に「いいかげんにしろ」机を叩いたという噂があるほどです。 

日本に対しては、とまれここで折れて米韓日関係に亀裂を走らせないようになだめてくれや、といったところでしょう。 

外交的に米国に貸しひとつということで、安倍氏は呑んだのです。 

ですから、後継政権のムンとしても、慰安婦合意は米国が仲介者ですから、グチグチ文句を垂れたり、癒し財団を潰すなどといっていますが、なかなか踏み切れないでいるようです。

HNさんは「破り捨てられた」といいますが、いません。そうムンがほのめかしているだけです。

あれは条約的意味を持つ国家間合意ですから、一方的廃棄は不可能ですから、なんとか日本も考えてくれないかということにすぎません。 

そりゃ慰安婦合意を公然と韓国政府が廃棄してしまったら、米国の面子をモロに潰しますからね。 

ムンにとっては、かつての翁長氏よろしく「重大な欠陥がある」ことを理由に、廃棄したいでしょうが、仲介者の米国が許さないだけのことです。

もちろんそれで日韓関係が変わったわけではありません。

というか、日韓関係は温度差はあっても永久にこんなものですよ。

私はシニシズム(冷笑主義)は嫌いですが、日韓関係にかんしてだけは諦観しきっています。

諦めてつきあうしかないのです。

敬して遠ざけるではなく、敬さずに遠ざける国です。

できたら、日本列島にスクリューでもつけて、ひょこりひょうたん島(知ってます?)よろしく、南太平洋にでも移動したいくらいです。

しかしそれも出来ぬ以上、浮世の義理でしかたがないからつきあっているだけのことです。

いつか南北が統一され、正恩が初代大統領、ムンが大統領秘書室長にでもなったら、スッキリするとさえ思っているくらいです。ああいかん、ニヒっているぞ。

したがって、日本にとっては、韓国政府に対して、「政府間合意を守れ」と、今の河野氏が言い続けているようなことが可能となった分だけ多少のプラスになったていどのことです。

合意がなければ、元慰安婦と抱き合って泣いて見せるようなムンなどは、待ってましたとばかりに大攻勢をかけたでしょうが、不発に終わっています。

Photo出典不明 

それはコリアが「民族」を至上の価値としているからで、その燃料に反日ほど有効な燃料は存在しないからです。

今回の国際観艦式も同じでした。今後も永久に続きます。

ただし、それはいわゆる「民族」感情の範疇で、一山口県人さんが言うように庶民はいたって普通ですよ。

過去も未来も、黒田勝弘氏のよくいう「昼は反日、夜は親日」というやつです。いかれた奴もいるでしょうが、一定範囲内です。韓国に現実に行ってみればわかります。

いったん「民族」に集合すると、極端な反日ナショナリストになる場合があるし、そうしないとあの社会では生きていけないだけのことです。

国際世論ですか。これに関しては、しかたないですね。これに対しては、無能な外務省の尻を叩いて逐次反論させるしかありません。

最近は外務省も国連人権委などでは、かつてより多少マシなことを言っているようですが。

またぞろNYなどに慰安婦像を建てると騒いでいる阿呆がわいているようですが、外国政府や自治体に対して、このような行為は合意をないがしろにするものだ、というていどのツールには使えることができるわけです。 

むしろ問題は日本人の屈折した意識のほうです。

慰安婦問題がややっこしいのは、ただ白か黒かではなく、戦後の国際秩序の枠組みを認めるのか否かということだからです。 

日本は認めたからこそ、今の日米同盟があったわけで、「正しい歴史観」(そのようなものがあるとしてですが)を持つ持たないという次元とは別なのです。 

いやならば、かつてのフランスのゴーリスト(ドゴール主義者)のように、日米同盟を止めて独自核武装を準備するしかありません。

核武装などと言うと、極端なことを言うなと言われそうですが、日米同盟を廃棄するということは、すなわち米国をも敵とすることを意味します。

必然的に独立を担保するためには核保有しか選択肢は残りません。 

何回か書いてきていますが、これは現状ではありえない外交選択です。 

核保有は議論を盛んにすべきですが、そのていどの覚悟をもってするべきです。

とにもかくにも、日本人の歴史意識と戦後的枠組みは整合していません。

よく、「大東亜戦争は勝利だった。なぜならアジア諸国民は解放されたではないか」などという人がいますが、失礼ながら自己欺瞞です。

ではなぜ、今、戦勝国の米国を盟主とする国際秩序の中軸である日米同盟の下でぬくぬくと生き長らえているでしょうか。

米国と相互補完的安全保障システムを組むことが、もっとも合理性があったからです。

故に、日本は戦前までの日本と連続的に生きておらず、屈折したのです。 

その日本人を苦しめ続ける不整合に耐えることが、今後も必要なのかどうか、その都度考えていけばいいんじゃないでしょうか。

かつての第1次安倍政権が瓦解したのは、直線的に「戦後レジームの脱却」を言ってしまったらで、そんな戦後秩序の総否定のようなことを言ってしまったら日米同盟は危機にさらされます。

に米国からは、極右扱いでした。再起してからの彼はその失敗を深く総括しているようです。

それは米国議会における大戦70周年記念演説によくあらわれています。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/post-b930.html

ですから、たぶん戦後最強の首相・外相コンビである安倍-河野氏レベルでこのていどだということくらい、わかってやって下さい。 

ほかの凡百の連中なら、目も当てられません。

考停止したような極端な米国従属となるか、さもなくば思いつき的反米に走って国を危機にさらすかのいずれです。

最後に憲法改正ですが、公明への配慮うんぬんは週刊誌情報の類です。むしろ2項改正は石破氏も唱えていました。

もちろん2項改正は、ロジック自体としては正論に決まっています。ただしそれは一種の理想論で、改憲のハードルをいたずらに高くするだけのことです。

2項改正案を国民投票にかけた場合、負ける可能性が出ます。というか、私は8割の可能性で負けると思っています。

3項加憲でさえ、この騒ぎです。負けた場合、たぶん二度と改憲が国民に問われることはありません。果たしてそれでいいのかです。

すると自民党内においても、石破氏のように「国民的議論が煮詰まって、野党が納得するまで議論を尽くそう」というリアリストの仮面を被った者が支配することになります。

彼らは議論だけやって、(実際はそれもしないでしょうが)、改憲を永久に棚上げします。

このように現実政治に「最高」はなく、よりベターなものの選択の連続なのです。 

おっと今日は消費増税について書くつもりですが、こちらが長くなってしまいました。

明日に回します。

 

 

2018年10月15日 (月)

安倍さん、一帯一路に協力なんかしないで下さいね

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安倍総理大臣が今月25日から中国を訪問し、翌26日には習近平と首脳会談をするそうです。 

どんな顔で習が安倍氏と握手してみせるのかいまから楽しみですが、そのこと自体は問題ありません。 

今まで何回か書いてきていますが、中国の行動には一種の法則性があって、日米同盟が強固になり、中国が追い詰められてくると、必ず日本に秋波を送ってきます。 

これは日米同盟を離反させたいという戦略、というか、もうこれは中華帝国の本能みたいなものです。 

だからといって、これで日中関係が永続的によくなると思ったら大間違いで、仮にトランプが中国制裁の手を緩めれば、直ちに元の反日の立場に戻ります。

ただし日本からすれば、緊張緩和によって貴重な時間を稼ぐことができるわけです。 

その間に、イージスアシュアなどの弾道ミサイル迎撃システムの充実を図れますし、離島防衛も本格的な稼働体制に入ることができます。 

ま、そんなていどのことですが、今、あちらからすり寄ってきている以上、外交的成果はとるだけ取っておかねばなりません。 

それは、首脳会談で明確に日本の国際的立場をはっきりと表明することです。 

たとえば、南シナ海での覇権を求めることをやめよとか、東シナ海のわが国領海付近での調査活動をするなとか、色々とあるはずです。 

もちろん習が、ハイ、そうしますなんて言う可愛いタマではないのは百も承知ですが、首脳会談で「言いおいた」という外交的行為自体に意味があるのです。

Photo_2http://www.asahi.com/special/t_right/TKY2012091901...

これは後日、またぞろ公船を大量に尖閣水域に入れてきたり、中国軍艦や航空機が自衛隊に対して挑発行為をした場合に、「首脳会談で止めろと言ったはずだ」というカードとして使えます。 

さて、ただひとつだけ安倍氏にこれだけは止めて欲しいことがあります。 

それは中国の一帯一路政策への協力です。 

福島香織氏はこう述べています。

「現在、日本の一帯一路へのコミットの可能性として挙がっているのは、1つが日中の企業が共同参画するタイの鉄道計画、もう1つが日本政府とJICA(国際協力機構)が共同で取り組んでいる西アフリカ「成長の環」広域開発に中国も参加しようという計画です。
西アフリカ「成長の環」経済回廊計画を日本が始めたのは、アフリカで勢力を伸ばす中国に対抗し、国連総会におけるアフリカ票を取り返すためです。
安倍政権が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、明らかに一帯一路のカウンターパートであり、米国やオーストラリア、インドと連携して対中包囲網を築く試みです」
(ウェッブVOICE10月 5日)

https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/5613

まったく安倍氏は微妙なことをやってくれるなぁ、と思います。 

Photo出典不明 

一帯一路は、習が中華皇帝としての威信をかけて始めたもので、当初は壮大な「新シルクロード」ができると大受けしました。 

ちょっと考えてみれば、あくまでも出発点は中国であって、そこから四方八方に道が伸びるわけですから、これでは「すべての道は中国に通じる」ということになります。 

言い換えれば、栄えたいと望む者は、わが大中華共栄圏に参れという中華思想丸出しのシロモノです。 

2013年当初は一帯一路の終着駅となる英国などのヨーロッパ諸国まで、諸手をあげて馳せ参じたものでした。 

日本のメディア・野党はこれを見て、AIIBに入らないと、「乗り遅れたバスになるぞ、なぜ入らぬ、イギリスだって入っておるぞ」と政府を責めたてましたっけね。
アジアインフラ投資銀行 - Wikipedia

ところが数年もたたないうちに、化けの皮がはがれていきます。 

よく中国は百年先を読んで布石するなんて聞きますが、いまや数年でボロをだしてしまうようです。

中国がやりたかったことの実態が、スリランカやモルディブで明らかになったからです。 

中国は融資先国に借りなくてもいい借金をさせて、それが払えないとカタで港を取り上げ、それを中国海軍の軍事拠点にしていくという悪徳街金まがいのことをしていたことがわかったからです。 

下の写真は、この手口で中国が作ったジブチの軍事基地です。 

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このジブチ港は、航行の要衝にありますが、ここには海賊監視活動のための米海軍や海自の拠点がありますが、これを牽制する目的だと見られています。 

さて、今回の安倍氏の対中インフラ支援は、この中国の無理無体を止めさせて融資国を保護する役割があると、政府は説明しているようです。

政府は日本が協力することによって、不法な高利を止めさせたり、プロジェクトそのものを完成させることで、貸付金が焦げつかなくなることで、当該国を救おうとするものだと述べているようです。

悪いことは言いませんから、止めておいたほうが無難です。

たとえばインドネシア高速鉄道建設などの事例で分かるように、中国は意図的に当初の見積もり額を極めて低く設定し(それで国際入札に勝利できるわけですが)、金がなきゃこちらで貸しましょうと低利借款をワンセットで出してきます。

その上に、プロジェクトを裁量する当該国の高官どもはあらかた金と女で抱き込んでありますから、大方の発展途上国はこれでコロリといきます。

まったくやれやれですが、いまだに国際社会で大ぴらにワイロ政治をやっている国は中韓くらいなもので、こういってはナンですが、国民性なのでしょうかね。

しかし現実に工事を開始してみれば、当初の見積もりは大甘でとんでもないコスト増になることが発覚します。

ところが中国にとって、こんなことは想的内なんですな。元々、できるはずもない額で受注しているのですから。

すると、とうぜんのこととして借款額を引き上げるということになり、中国に鼻薬を嗅がされている当該国の高官がそこでウンと言おうものなら、そこから国家的サラ金地獄が始まることなります。

これを断ち切るには、モルディブやスリランカのように、国民自らが選挙によって中国から袖の下を貰っているような売国政府を倒さねば解決できません。

日本が中途半端に協力して、仮に失敗すれば日本が債務を被り、成功しても大中華共栄圏の属国が今ひとつ増えただけのこととです。

どっちにころんでも馬鹿丸出しです。

仮に日本の出番があるとするなら、当該国の国民がバカヤローの政府を倒して国を建て直す時に、さまざまな手伝いをすることくらいです。

今、他ならぬ安倍氏が提唱して、日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」としてすでに米国やオーストラリア、インドと連携して対中包囲網を築こうとしています。

また日本はTPP11のリーダー国として、巨大貿易圏の牽引役をしています。

そんな時期に、一帯一路に対しての余計な手助けは無用なばかりか、それらの国に不信感を抱かせかねません。

 
 

2018年10月14日 (日)

日曜写真館 鴨さん一家の午後

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2018年10月13日 (土)

韓国による「戦犯旗」掲揚禁止要請について

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ご承知のように、韓国は国際観艦式をやるというので、ありがたくも日本に招待状を送って頂きました。 

まぁここまでは、よくある海軍同士の社交の次元の話です。

海軍同士は、国際観艦式や共同演習、そして1988年からは隔年で催している「西太平洋海軍シンポジウム」というといったことを積み重ねてきています。 

この海軍シンポはあまり日本では報道されないのですが、これは海軍の現場同士が対話して、なにか現場でトラブルがあっても戦争にしないようにしましょうという催しです。 

ここには米海軍や中国海軍、海自、韓国海軍など多くの西太平洋で活動する海軍の制服トップが参加しています。 

これがあるために、先日の中国による南シナ海での40m幅寄せ事件も、いきなり戦闘にならないていどの信頼関係はあるわけです。

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脱線しますが、あの事件は中国艦に乗っていた政治将校が命じたものだと思われています。 

共産国家においては、軍ははあくまでも党の物ですから、軍の責任者である艦長より上位に党からの政治将校が君臨しています。 

さぞかし、艦長はやりにくいでしょうが、中国軍は国軍ではなく、「党の軍隊」である以上、泣く子と地頭にはかないません精神なんでしょう。 

たぶんこの中国艦に乗っていた政治将校は、習近平の命じた南シナ海要塞死守命令に忖度して、マナーもルールも破って艦長に「幅寄しろぉ、やらねぇとお前は青海湖警備艇に飛ばすぞぉ!」とでも命じたのでしょう。(冗談です) 

なんて危ないことを。中国海軍にシーマンシップがあるなら、こんなことは恥ずかしくてできません。

このような野蛮なことをすれば、冗談ではなく衝突してしまって、戦闘が勃発しますが、それをギリギリ戦争にしないという仕組みは、この「西太平洋海軍シンポジウム」の中で作られてきました。 

これが海軍連絡メカニズムという信頼醸成システムです。

これは相互に海軍司令部同士が政府を介さずに直接連絡をとりあって、「あんた本気でやる気あるの。ないなら、あんたのとこの艦をすぐに引き離しなさいよ」というシステムです。 

それなりに有効な仕組みですが、なにぶん中国は、いざとなると艦長よりエライ政治将校がメチャクチャなことを命じますからこわい。 

ソ連海軍と米海軍は、ともかく冷戦期間が40年近くあったために阿吽の呼吸で、互いにここまでは大丈夫という見極めをして競り合っていました。 

しかし、中国海軍はポッと出の成り金海軍で、オモチャは大量に持っていますが、その正しい使い方も使うルールも学んでいないお子ちゃま海軍にすぎません。 

今、韓国大使に赴任している元太平洋艦隊司令官のハリスさんは、中国海軍に国際的なマナーとルールを学ばせようとしてリムパックに招待しました。 

しかしマナーを学ぶどころか、スパイ船を送りこんでくるわ、海自を自国艦艇に招待することを拒否するわで、以後お呼ばれしていません。

Photohttps://www.zakzak.co.jp/soc/news/181001/soc181001

さて、東アジアにはポッと出海軍がもうひとつあります。いうまでもありませんが、韓国海軍です。 

冒頭に戻りますが、韓国海軍が10年ぶりの国際観艦式をしたいというので、海自は快く参加を回答したのですが、とんだチャチャが入りました。 

自衛艦旗として使用されている旭日旗が、韓国民から「侵略・軍国主義の象徴」とみなされている「戦犯旗」だから、韓国国民の感情を考慮しして掲揚をしないでくれとのたまうたのです。 

韓国政府は、今月11日に済州民軍複合観光美港(済州海軍基地)で開かれる「2018大韓民国海軍国際観艦式」での海上査閲に際して、旭日旗を掲げないよう日本に要求した。旭日旗は帝国主義日本軍が使用していた戦犯旗だ。日本は旭日旗を海上自衛隊の艦艇の旗として使っている。
韓国海軍は、済州国際観艦式に艦艇を送る日本など14カ国に対して、海上査閲の際には自国の国籍旗と太極旗(韓国の国旗)を掲げるよう要請した。また李洛淵(イ・ナクヨン)首相は1日、「旭日旗が韓国人の心にどのような影響を与えるか、日本は細かく考慮すべき」と語った」(朝鮮日報10月5日)

おいおい、韓国は軍艦旗の意味を知らないようで、「戦犯旗」なんていうヘンな造語まで作っています。 

「戦犯旗」などはこの世界に存在しませんが、軍艦旗ならば戦時国際法上の規定があります。

軍艦には自らの軍艦旗を掲揚し、艦船が一国の主権下の「領土」だということを明示する義務があります。 

軍艦旗の概念規定をしておきましょう。

「軍艦旗(ぐんかんき、(Naval) Ensign)とは、軍隊(主に海軍)に所属する艦船であることを表章する為に掲揚する旗章である。軍艦旗を掲げる船舶は、戦時国際法国際慣習法にある軍艦としての特権を受ける」
軍艦旗 - Wikipedia

ここでいう「軍艦の特権」とは、外国の領海や入港した場合に、民艦船と違って相手国の臨検を受けないということを指します。 

軍艦は軍事機密の固まりですから、相手国の恣意的な臨検を受けたらたまったもんじゃありませんし、乗員も民間人と違った扱いを受けられます。 

また、軍艦が標識を掲げないで、領海を通航した場合、無害通航権が発生せず、敵対行為と見なされる場合があります。

国連海洋法条約第20条によれば、潜水船その他の水中航行機器については、沿岸国の領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならないとされており、国旗又は軍艦旗を掲揚すれば、潜水艦も他の軍艦に同じく、沿岸国の領海において、無害通航権を行使できる」(前掲)

ですから、韓国が日本の海自に自衛艦旗を掲げるなという要求は、お前の船を軍艦として認めないぞ、民艦船扱いにしてやる、さらには領海に入ったら沈めてやる、という意味となりかねません。(現実にはそんなことはしないと信じたいですが)

ちなみに、韓国海軍旗は下のようなものです。 

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常識がないというか、アホというか、論評を差し控えますが、韓国政府が「戦犯旗が韓国の国民感情を逆撫でするから」という理由で拒否した場合、いくつかのことが予想できます。

ひとつは、日韓関係において、韓国は「国民感情」を根拠にして、両国間の条約や取り決めをちゃぶ台かえしできてしまうということです。

今、慰安婦合意でしようとしているのは、まさにこれです。

第2に、「戦犯旗」だからと言う理由で、海自が韓国領海に立ち入ることを拒むことが予想されます。

もちろん、先程引用しましたように、国際法上領海を海自が航行することは無害通航権を主張できますが、その条件は韓国がなぜか忌み嫌う旭日旗を掲揚することが必要です。

具体的には、朝鮮半島有事が発生した場合、海自は韓国領海内で一切の活動が拒絶される可能性がでます。

たとえば、日本が朝鮮有事に際して、安保法制の「存立危機事態」と認められたとしても、「韓国民の国民感情」によって米海軍の支援義務を履行することができなくなります。

もちろん、戦火から逃げてくる日本人居留民の保護など手も足もでません。接岸はおろか、領海にすら入れないのですから話になりません。居留民は見殺しです。

このような「韓国国民感情」を理由にした幼児的な反発は前々からあったのですが、ムン・ジェイン政権となり、ことに3度目の南北首脳会談以降にそのひどさが増しました。

今のムンは、正恩の下僕です。おっと、外国元首に対してこれは失礼。もとい、メッセンジャーです。

ムンが直接に正恩から直接に言われたのではなく、まさに「忖度」したのでしょうか、彼らが狙っていることは、日米同盟の離反です。

特に朝鮮有事において、自衛隊を封じ込めて米軍を支援させないことです。

こう考えてくると、今回の韓国の「戦犯旗」要求は、一回きりのものではなく、形を変えてなんどでも出てくる性格のものだと覚悟しておいたほうがいいのかもしれません。

とりあえずイヤガラセはこれで終わりかと思っていたら、まだおまけがついていて、一粒で二度おいしい(おいしかねぇよ)

二回目は観艦式の本番では、イ・スンシンが使ったという伝説がある旗がはためいたそうです。

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「ムン・ジェイン大統領は、韓国軍の駆逐艦の甲板で、豊臣秀吉の朝鮮侵略の際に水軍を率いて戦ったイ・スンシン将軍に言及した演説をしましたが、駆逐艦には当時、イ・スンシン(李舜臣)将軍が使ったものと同じデザインだという旗が掲げられました。
この旗について韓国大統領府は「未来の海洋強国への意志を表明したもの」と説明しています」(NHK10月11日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181011/k10011667871000.html

この韓国海軍が掲げた帥子旗は、イ・スンシンが実際に使ったかどうかは歴史的にはっきりしないのですが、ま、そんなことはどーでもいいことです。

この国がおおっぴらに発信し続けている、「日本と戦争をしたい。次回は勝ちたい」という切ないばかりの悪意だけははっきりと受信させていただきました。 

それにしても、本来、海軍仲間の友好親善の場である国際観艦式でケンカを売ってくるなんて、卒業式で暴れるヤンキーみたいです。困ったもんです。

 

2018年10月12日 (金)

中国は脅威だが煽ってはいけない

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ちょっと不安になったので書いておきます。 

私は中国の脅威を煽ろうとは思いません。脅威であることは事実です。 

しかし、コメントにあったような、直ちにわが国の言論の自由を変えろといった要求を突きつけてくるわけではありません。 

もちろん中国が世界の覇権国になったら、という前提つきの話なのは分かっていますし、今後もふざけた要求をたびたびジャブよろしく出してくるでしょうが、話が飛びすぎていて現状を踏まえていません。 

まだ中国は地域覇権国に毛が生えたていどの段階であって、そんなことを他の主権国に要求できるような世界覇権国ではありません。

米国との対決は既に開始されていますが、習のもろい権力基盤がそこまでもつかどうか慎重なウォッチが必要です。 

それに米中対決といっても、米国が中国に会談を申し込みんだように紆余曲折を経て進むものです。

仮に中国が米国に代わって世界の覇権国となるにしても、英国から米国に覇権が以降するまでに2つの大戦を経て半世紀もかかっています。

覇権国のシフトとは、そのように長期間に渡るものなのです。

私は習近平はそこまでもたないし、そのはるか手前で彼の「中華の夢」はついえると考えています。 

Photo孟宏偉 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-... 

今回、世界を驚かせた孟宏偉(インターポール総裁)の拘束は、習の最大の敵だった周永康の残党の一掃と関連があると見られています。 

周永康はかつて公安系を一手に牛耳り、 薄煕来と組んで、反習クーデターを試みたと噂されました。 

結局、このクーデターは失敗し、薄の右腕だった王立軍は、米国領事館に亡命しようとしましたが、腰が引けたオバマは王の身柄を中国当局に引き待たしてしまいます。

バカですね。金正男を返してしまった田中真紀子といい勝負です。

孟は中国公安の幹部で、チャイナマネーを背景にしてICPO総裁にまで成り上がりました。

もちろん、孟が中国の国際工作の一環としてICPOに送り込まれたことはいうまでもありません。

彼はICPOの公平な責任者である以前に、中国の利害の代表者でした。 

孟は、2013年にスペインの裁判所が下した江沢民ら共産党幹部5人に対するチベット民族虐殺に関わる逮捕拘束を、ICPO中国部長として阻止したと言われています。 

Tamakichiji4jpg王健 https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/21...

また、今年7月に中国の巨大企業グループ「海航集団」の王健会長がフランスで転落死した「事故」とも、なんらかの孟は関わりもあると言われています。

直接の関与がないとしても、当時孟は在仏しており、王の不審死の原因を知り得ていたはずです。 

「海航集団」は中国の一帯一路政策と表裏の関係にある巨大企業集団であり、この政策による過剰投資が不良債権化し倒産危機に瀕したために、王健が破産手続きを準備していました。
※参考資料福島香織「海南航空集団・王健会長の突然死を巡る黒い噂」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/071000164/?P=2

しかし習から見れば、「海航集団」の破産は、即、彼の目玉政策である一帯一路政策の失敗につながるために、なんとしてでも破産手続きを阻止しようとして、孟になんらかの指令を発したのではないかという疑惑があります。 

また彼はこのような大仕事以外にも、日常的にICPOに集約されてくる各国公安の秘密情報を中国当局に漏洩していたとみられています。 

いずれにしても、孟は中国公安とそのICPO工作の裏の裏まで知り尽くした「知りすぎた男」であって、習にとっていつかは消したい人物だったようです。 

しかし本国に拉致してまでしようとした口封じが成功したかどうかは、わかりません。 

孟の妻は失踪直後からフランスで記者会見を開き、中国当局による拉致で生命の危険があると告発しています。 

そもそも中国の公安副大臣まで努めた要人が、海外派遣に妻を帯同していること自体が、亡命の意志ありと認められたと考えられています。 

とすると、孟はかつての王と同じく、中国内部事情の一次資料を大量に持ち出していることもありえるかもしれません。 

あるいは、孟のICPO工作の内容が暴露されただけで、中国の国際社会での威信は瓦解します。 

この事件が今後どのように展開するか分かりませんが、今のトランプとの対決を抱えた習にとって、こと次第では致命的な事態になることもないとはいえません。

このように中国は現況において世界的工作をしているのは事実ですが、習の権力基盤は不安定化の一途を辿っているのです。

ですから、あまり煽らないで頂きたい。 

わが国は、そのつどそのつど中国の出方を慎重に読んで対応していかねばならないのであって、「脅威を潰せ」という戦闘的姿勢だけでは、逆にこの局面を乗り切れないでしょう。 

なぜなら硬直しすぎているからです。 

ある時は協調し、ある時はきぜんとした外交の原則論をぶつけ、ある時は防衛力の誇示をちらつかせ、硬軟取り混ぜて応じていかねばなりません。

よく左の人ひとたちがいうように、「軍事ではなく外交で解決しろ」ではなく、自衛力に裏打ちされた外交が必要なのです。 

一方、わが国の内部についての「中国の長い手」の影響ですが、あるだろうが、それは蓋然性の範疇だとしか申し上げられません。

ペンス副大統領が指摘するように、中国による民主主義社会に対しての浸透工作は実在します。 

今回のペンス演説が画期的だったのは、今まで保守系論者が指摘してきたような、メディアや公権力、あるいは大学・シンクタンクなどへの中国の浸透を、米政府が認めたことです。 

ハリウッドまでが買収されて、中国を美化するプロパガンタに加担しているとペンスの指摘していますが、そうなればハリウッド映画の力を借りて、日本国民にもそのイメージが刷り込まれているはずです。 

しかし繰り返しますが、中国の「工作」がわが国内部に存在するのかどうか、冷静な観察が必要です。 

「中国の長い手」の影響をもっとも受けているはずの国境の島・沖縄においてすら、実態は闇の中です。 

青山繁春氏は中国公使館の工作をよく語りますが、ソースが不明で、彼独特の思い込みなのかどうか判然としません。 

それを強調しすぎれば、沖縄県民は外部の「工作」に簡単に乗る情けない人たちということになってしまいます。 

もしそうならば、私は沖縄に絶望するしかありません。 

このブログは、沖縄を中心としてバランスよく世間の様相や世界情勢をからめて見ていこうとするものです。 

あくまでも「見る」ことが、このブログの存在意味です。ご不満に思う方も多いでしょうが、具体的行動は一切提起しません。 

その趣旨をご理解頂いて、お読み下さい。

 

 

 

2018年10月11日 (木)

ペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説その2

     54 https://jp.reuters.com/article/column-cox-pence-on...  

 ・原文https://www.hudson.org/events/1610-vice-president-mike-pence-s-remarks-on-the-administration-s-policy-towards-china102018
・全訳Translated by Mariko Kabashima &Mahiro Shiono 2018/10/08
https://www.newshonyaku.com/usa/20181009
・動画https://reut.rs/2QxVmbi    

  ■ペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説要旨その2
2018年10月4日 米国ハドソン研究所におけるペンス副大統領の演説  要旨
 

承前 

(6)歴代の米国政権は中国の暴虐を許してきたが、これからは違う 

今までの米国政権は中国の行動を見逃したどころか、有利に導いてきた 

・米国は国防を全分野で大幅に増強する 

・空軍、,海軍、核兵器の近代化、宇宙軍、サイバー能力を増強する 

・中国製品への2500億ドルの関税は、中国の先端産業製品を中心として課していく 

(7)中国政府は米国の国内政策と政治に干渉している 

・中国は米国の広範な範囲に影響力を扶植してきた 

・中国は中間選挙に介入し、トランプを追い落とそうと企んでいる 

・中国は対中認識を変える秘密工作を行っている 

・中国政府は中国市場に参入したい米国企業に対して不当な圧力をかけている 

・中国政府は国内の外国企業に共産党組織を企業内に作ることを命じている 

中国政府は台湾やチベットについて米国企業に圧力をかけている 

中国政府はハリウッドを買収し、中国を善玉に描くように命じている 

中国政府は米国人ジャーナリストを脅迫している 

中国政府による米国の大学、シンクタンク、学者へ資金提供している 

・中国政府はプロパガンダ工作機関に数十億ドルを投資している          

                                                                                        (続く)

2018年10月10日 (水)

ペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説その1

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疑いの余地はないと思います。  

いまだメディアには米中紛争をただの貿易戦争と報じるむきがありますが、米国が意図していることは、安全保障上の戦い、すなわち「戦争」です。 

ただし、まだ熱戦とはならない前段の「冷戦」ですが。  

ペンスは「新冷戦」の開始を宣言しました。

この演説をお読みになれば、この間の米国の打つ手のことごとくが、対中包囲網の形成の意図の下に行われた戦略的攻勢なことがわかるでしょう。

よく米中経済戦争は傍観すればいい、と言う識者がいます。事実、日本国政府は米中との間を巧みに泳ぐかのような通商政策を展開してきました。

しかしもはや米国はそれを許しません。

たとえばロス商務長官は、日本とEUが米国と通商協定を結ぶに際し、「非市場経済国」との間でFTAを禁じる条項を設ける意向を示しました。

これが今、交渉中の新日米通商協定に盛り込まれるならば、日本は「非市場経済国」である中国を加盟国とするRCEPの締結ができなくなります。

同じようにEUも、中国を加えた通商条約を結ぶことができません。これはズブズブの対中強依存関係にあるドイツなどにとっては衝撃のはずです。

日本においては、対中投資を重ねた経済界と、反米親中イデオロギーに骨の髄まで凝り固まったレガシー・メディアと野党に代表されるように中国を選ぶべきだ、とする意見が主流です。

しかし安全保障面をいったん置いても(本来は安全保障と経済は切り離せませんが)、中国との自由貿易協定は危険を孕んでいます。

中国との自由貿易協定は中国に圧倒的に有利であって、日本に得ることは少ないのです。

価格競争においては、競争力は圧倒的に中国が有利であり、労働コストの大きな違いから、製造拠点は日本国内から中国に流出します。

これにより日本国内は雇用が奪われ、中国へと流出していくことになります。

企業資本においても中国が圧倒的に有利で、日本の有望技術を持つ企業は買収され、技術、人的資源ともども流出し、国内市場も先端産業を中心にして中国に支配されるようになっていきます。

さらに中国に進出した企業も、技術移転を強要されたり、利潤を母国に持ち帰ることが難しい仕組みができています。

企業内にも共産党支部を作ることが制度化されて、自由な経営ができません。

これに抵抗する日本企業には、中国政府はあらゆる手段を使って締めつけてきます。

地方政府と係争した場合、当該の企業通責任者は屈伏するまで出国が禁じられます。

中国の都合に合わせてめまぐるしく法律が変わるために、日本企業は進出下前の約束が守られなくても泣き寝入りするしかありません。

これは実際に起きたこと、ないしは現実に進行している現象です。

政経一致の共産党支配体制は、社会と経済の隅々まで行き渡っています。驚くべきことに、官民の境がないのです。

自由主義経済国である日本では考えられもしませんが、政府は自由自在に民間企業の経営に介入できます。これは外国企業も例外ではありません。

このような国と自由な経済関係を結ぶことはできないのです。

日本は自由、民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった人類普遍とされる原則を共有できる国々との経済圏を持つべきなのです。

米国が言っていることは大変にシンプルです。

あたかも関が原の合戦のように西軍につくか、さもなくば東軍について敵国となるのかを問うているのです。

中立はありえません。それは双方から敵とみなされることだからです

日本メディアがこのような重要な演説をスルーする中で、全文訳をアップされた「海外ニュース翻訳情報局海外ニュース翻訳情報局」様に敬意を評します。

ありがとうございました。

                                            ~~~~~~~~~~~

「お断り]
当初ペンス演説訳文をアップしましたが、翻訳情報局様の知的所有権を侵害する恐れがあるために、削除し要旨だけの内容に修正いたしました。申し訳けありませんでした。
(10月11日)

■マイク・ペンス副大統領による10月4日、ハドソン研究所における演説
・原文https://www.hudson.org/events/1610-vice-president-mike-pence-s-remarks-on-the-administration-s-policy-towards-china102018
・全訳ニ感謝します。Translated by Mariko Kabashima &Mahiro Shiono 2018/10/08
https://www.newshonyaku.com/usa/20181009
・動画https://reut.rs/2QxVmbi   

2出典同上 

(1)中国は、米国の知的財産を剽窃・盗用・強制移転し、それを軍事に注ぎ込んでいる 

・中国は米国の内政に干渉している 

・中国は為替操作、強制的技術移転、知的財産の剽窃、不正な補助金などの方法で不正な貿易をしている 

・中国は米国の知的財産を盗んで、先端産業9割を支配することを目指している

・中国の軍事機関は盗んだ民間技術を軍事技術に転用している 

(2)中国はアジア全域で軍事覇権を求めている 

・中国はアジア全域の同額の軍事費を支出し、陸・海・空で、米国に代わる覇権を求めている 

・中国は尖閣諸島や南シナ海で軍事覇権を拡げようとしている 

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中国は南シナ海で挑発行為を取ったが米国は撤退することはない 

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(3)中国の少数民族・宗教・人権抑圧社会 

・中国は先端技術を用いて国民を監視している 

・中国政府によるの宗教弾圧 

中国政府によるウイグル民族弾圧によって100万人の投獄者が出た 

(4)中国は一帯一路政策によって軍事拠点づくりをしている 

・中国は金を貸し、返せないとなると土地を取り上げる 

・スリランカは不要な借金を背負わされ、港を軍用目的で取り上げられた 

(5)中南米の独裁政権を援助する中国 

・腐敗したベネズエラ独裁政権に対する支援 

・中国は台湾との外交関係を断絶しろと要求している 

 

                                                                                        (続く)

 

 

2018年10月 9日 (火)

移設問題の「冷凍保存」はありえません

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HN「守口」氏からこのようなコメントを頂戴しました。 

「まともなら総理よりも知事の方が任期が長いのだから、総理にとって沖縄は「優先順位」からかなり下がったと思う。基地は、いや沖縄は冷凍保存されて次世代に先送りになるのだろう。もっとも原発再稼働すら決められない内閣のことだから、沖縄に何らかの決断をするとはハナから思ってはいなかったけど」 

そうですか。「決断せずに冷凍保存」ですか。 

つまり,現況のまま埋め立ての外周堤防だけの状態で、次のステップである土砂投入をしないままで放置してしまうということですね。 

ないと思います。なぜならそれが意味するものは、事実上の移転白紙化だからです。 

「凍結」というと聞こえはいいですが、県の言い分である、埋め立て工事の承認条件に国が不当な変更を加えたから工事を差し止めよ、という主張を全面的に国が認めたことになります。 

それは国が自らの環境対策の不備を認めて、県の言い分に屈したことです。 

というか、県は何もしないで勝ったわけですから不戦勝ですか。

そもそも承認撤回などというものは、当該の技術部局である県の土木課がはずされた席で、「オール沖縄」の延命のために政治的に作られたものにすぎません。 

こんなものを認めてしまったら、「次の総理」に渡すもクソもありません。 ここでジ・エンドです。 

そういう表現をするかどうかは別にして、それは実態として移設問題の先送りではなく、白紙撤回です。

そしていったん国が白紙撤回と決めた以上、それを「解凍」して再度覆すことは不可能です。 

したがって「次の総理」の出番はありません。

そもそも論でいえば、前々から政権が責任を引き受けずに、なぁなぁまぁまぁで「冷凍保存」していたのを、初めてまともに解決に向けて取り組んだからこそ、今のようなことになったのです。

しんどくて恨みばかり買うようなことを、安倍氏が退任した後の3年後に誰があえてするでしょうか。 

安倍氏ができるのは、安定した支持基盤をもった長期政権だからです。

そんなことを、誰でもいいですが、岸田さんがしますか?石破さんがしますか?

安倍氏はこれから「決断をする」しないではなく、既に「決断をした」からこそ、今、頭から泥をかぶっているのですよ。

移設に真剣に取り組めば、「沖縄の心を踏みにじった」「民意に背いた」と批判され、普天間飛行場の現況を放置すれば、「住民の危険にさらしたままなのか」となじられます。

成功しても失敗しても、褒められることがありません。

私は総理の政策には必ずしもすべて賛成ではありませんが、その為政者としての姿勢は称賛に値するとおもっています。

総理になる前から、口あたりのいいことばかり言っている後継候補たちが、そんなことをするわけはありません。

ですから、いくら「冷凍保存」しても無意味なのです。 今、この時期に解決しておかねばならないのです。

さて、こちらのほうが重要な意味を持つのですが、ここで工事再開を断念すれば、それは普天間飛行場の固定化を認めたと同じことになってしまいます。 

実は、それもそれで一定の合理的判断ではあるのです。 

何度も書いて来ましたが、軍事的には、「辺野古飛行場」は不完全な施設です。 

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 出典不明

小川和久氏はこのように述べています。
国際変動研究所『NEWSを疑え!』第611号 2017年8月24日号 

「①辺野古は普天間の38%の広さしかない。
②辺野古は滑走路が短すぎて、輸送機や戦闘機が飛べず、運用できるのはオスプレイとヘリコプターだけである。つまり、平時から使いものにならず、海外災害派遣にも使えない。
③有事には、滑走路が短いことだけでなく、全体が狭すぎることが問題となる。有事には米本土などから海兵隊の航空機が沖縄に集結し、たとえば普天間関係だけでも300機といった数を収容しなければならない。
辺野古は膨れあがる航空機を受け入れることも、兵員や物資を集積させておくこともできない。つまり、有事にも使いものにならない」

計画案では有事は想定されておらず、しかもC-17やC-130といった中・大型輸送機も運用できない、ヘリやオスプレイの平時運用「だけ」のものなのです。
関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/08/post-386c.html 

平時においても、米本土などからの大型貨物を「辺野古飛行場」にC17などを使って直接搬入することは出来ず、いったん嘉手納に降ろしてから、陸上輸送することになります。

今の普天間飛行場はC17の離発着が可能なので、グレードダウンです。

こんなハンパなものになったのは、「辺野古飛行場」が、国と米国、県、地元自治体、地元土木業者との間でもみくちゃにされて出来上がった妥協の産物だからです。 

妥協の産物が故に、できあがったのはどこかをいじれば、どこかが壊れてしまうといったガラス細工でした。 

私が最善の案だと思うハンセン敷地内案(小川案)をとれば、今までの各方面との合意を白紙にして一から積み上げることになります。 

そもそもどこに作ろうと、「あらゆる移転に反対」というのが、共産党・社民党・社会大衆党の立場ですから、反対されてまた20年間の繰り返しとなります。 

ですから、軍事的に非合理的であろうとなかろうと、先に進むしかないのです。 

普天間移設について詳細な著作がある森本敏元防衛大臣が、「移設は政治的に決定された」というのはそのような意味です。 

「決断」の余地を探すとすれば、それは普天間飛行場をそのまま使い続けるという前提での白紙撤回です。 

政府は、米国に対して「地元の理解がえられない状況に至った」と説明し、移設候補地の再検討を要請することです。 

今の安倍-トランプ関係なら、ひょっとしてと思わなくもありませんが、常識的にはそんなことをしてくれる道理がありません。 

このようにデニー知事を選んだということは、普天間飛行場の固定化を選んだことと同義ですから、県民に自分の選択の意味を理解してもらうためには、いいことなのかもしれません。

なお、「守口」氏のいう原発再稼働について、総理は規制委員会に丸投げしています。

総理は原発再稼働について、政治的判断を差しはさむまないのが基本方針のようです。

たぶん国にとってのプライオリティ(優先順位)が低く、現況でも徐々に再稼働施設が増えていくと思っているのかもしれません。

後の代にこのまま引き渡すというつもりでしょうか。

それはそれとして私は問題だと思いますが、日米同盟という相手国があり、かつ安全保障政策の基幹に抵触する移設問題と再稼働問題とはまったく別次元であって、一緒にするべきではないと思います。

 

 

2018年10月 8日 (月)

沖縄両陣営に「冬の時代」到来

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観光問題、有意義な討論でしたね。またやりましょう。

さて、せっかく明るい雰囲気になりかかったのに水を差しますが、あと最低で4年間、沖縄には「冬の時代」が到来します。

移設反対のみが「民意」の総取りをし、佐喜眞氏に一票を投じた31万6千の声はまるでなかったかの如く扱われます。

保守にかぎらず、現実主義的意見を持つ人にとっては、翁長時代に増す逆風の時代となります。

デニー県政は、従来の中国の領空・領海侵犯の見て見ぬふりから一歩進んで、中国から資本投資を受けるなどの具体的中国の影響圏内へ接近する動きを見せるでしょう。

大量の中国人観光客の落すインバウンドという首根っこを押さえられた県は、中国の意志に逆らうことができなくなります。

県のあらゆる行政機関が、今まで以上に左翼カラーに染め上げられるのを見ることになるでしょう。 

それは行政のみならず、司法、警察にまで及びます。警察は反基地派を野放しにし、検問すら放棄するでしょう。 

司法は反対運動に有利な判決ばかり出すようになります。 

そして移設反対以外の意見を公の場で発言すること自体が、勇気のある行動となっていくことでしょう。

に残された民主主義はあと4年間、この厳冬の時代を生き抜かねばなりません。

一方、実は勝利した革新側も同じです。

今は勝利の美酒に酔い痴れている「オール沖縄陣営」は、もうしばらくすると本土政府が知事選の敗北にいささかも揺らいでいないことに驚くはずです。 

よく勘違いされているようですが、移設は安倍政権が始めたわけではありません。

20年前の橋本政権から始まり、いたずらに時間とコストをかけて何も決まりませんでした。 

オギャーと生まれた赤子が成人式になってもまだ移設が完了していないのですから、国策とは思えません。 

よく反対派は、国が全体重をかけて「新基地」建設に邁進してきたという言い方をしますが、冗談ではありません。 

国策なら、成田のように強制代執行をかけて大量に機動隊を導入してまでも、実力で反対派を排除し、あっというまに仕上げてしまいます。

20年もかけて決まらなかったのは、政府、県ともどもいささかも本気ではなかったからです。 

稲嶺恵一元沖縄県知事はこう述べています。 

「その時々の首相、外務大臣、防衛大臣の言うことが違うわけです。(略)
こうした政治情勢に翻弄され、それが今なお、基地問題の混乱に拍車をかけているのです」(IRONNA10月1日)
 
https://ironna.jp/article/10825 

それは事実ですが、では当時容認の先駆けとなった1998年の稲嶺案を潰したのは誰だったのでしょうか。 

この稲嶺案は10年間軍用に供して、その後民間空港にするという折衷案でしたが、軍民共用ならば現実性があったわけです。 

このプランを作ったのは、稲嶺氏の右腕だった翁長氏、そしてこの折衷案的容認論を覆したのも、翁長氏その人でした。 

Photo出典不明

ただし、翁長氏には「含み」がありました。

「その認識の背景には、翁長雄志前知事時代の「実績」がある。翁長氏は辺野古移設に反対して政府と激しく対立したが、工事はこれまでと比較できないほど進んだ。27年10月に本体工事、29年4月に護岸工事に着手し、今年8月17日には埋め立てを開始できるところまでこぎ着けた」(産経10月7日)
https://www.sankei.com/politics/news/181007/plt1810070015-n3.html

翁長氏時代に、移設工事は一気に進んでいるのです。

また基地縮小計画も大幅に進んでいます。

「翁長知事時代に進んだ米軍基地の整理・縮小は、辺野古移設だけではない。
27年3月にキャンプ・瑞慶覧(ずけらん)の西普天間住宅地区(宜野湾市)の返還が実現した。
28年12月に返還された北部訓練場(国頭村など)の面積約4千ヘクタールは、本土復帰後最大規模だ。いずれも日米両政府が8年に沖縄に関する日米特別行動委員会(SACO)で合意した計画に盛り込まれているが、実現まで20年かかった」(前掲)

翁長氏は口では「あらゆる手段を使って反対」と言いながら、実は実効性のあることは何一つせずに、建設の時間的余裕を4年間も差し出したともいえます。 

そのうえ、裁判所の「和解」提案に乗って、移設反対派にとって致命傷ともいえる最高裁判決まで引き出してしまいました。

最高裁まで争うというのは一見戦闘的な姿勢にみえますが、必ず負けるのは見えていたはずで、あえてそこまで踏み込んだ翁長氏の腹は、いまや闇の中です。

ただ反原発派が高裁どまりで上告をしない戦術をとっていることを見ると、最高裁まであえて争った翁長氏には、隠れたなんらかの意図があったのではないかと、今になると思えるのは確かです。

翁長氏を神格化するのはけっこうですが、翁長氏ほど本気で反対する気のなかった県知事はいなかったのです。 

これは翁長氏が、安倍政権の本音を心得ていたからです。 

それは安倍氏が本気だということを、翁長氏が知っていたことです。 本気というのは自分の政権の代で紛争は終わりにするという意味です。

安倍氏が移設について新たに始めたことはなにもありません。移設先の辺野古にしても、埋め立て方式にしてもなにからなにまですべて過去の政権からの引き継ぎでした。

第1次安倍政権が日本政府として引き継いだことはことごとく、今、しゃらっとして過去の言動を忘れたかのようなデニー氏以下の旧民主党政権から引き継いだことばかりなのです。

ですから、安倍氏の腹心である菅官房長官が、「できることはすべてやる」と言えば、よくある政治家の政治的ポーズではなく、そのまま額面どおりに受け取ってかまわないのです。 

翁長氏は、意図したのかどうかわかりませんが、両陣営に対して緩衝材として振る舞いました。 

革新陣営には、身体を張ってあらゆる抵抗をしていますよと言い、一方、政府には実際たいしたことはできはしないんだから、振興予算を上積みしてくれと要請しました。 

片足で基地反対派に推されながら、振興予算と基地との腐れ縁を、最も知り抜いていた翁長氏でなければできない芸当です。 

この「芸当」の舞台裏で東京との密使をしたのが、安慶田副知事でしたが、それを嫌われて追い落されたとも聞きます。

とまれこの奇妙な「蜜月」は、デニー知事の誕生で完全に終わりました。

本土政府は今までのような保守系知事や、反対派の仮面をつけた保守派の翁長氏に対してのような手ぬるい配慮は無用となります。

保守系知事に対しては、彼らの存立基盤を崩すことになりかねなかっために、手ぬるい対応となりました。

たとえば保守系の稲嶺氏や仲井真氏がいくら反対を口にしても、政府はなだめて振興予算を上積みしてみせました。

それは政府が彼ら保守系知事の苦衷を察する立場だったからです。

しかし、これが表も赤く、中身も赤い知事ならば、そのような配慮は一切無用です。

以後、本音でやる気のデニー知事と、同じく本気でやる気の安倍氏がガチンコでぶつかることになります。

すぐに対話拒否などという幼稚な手段はとらないでしょが、遠からず「オール沖縄」陣営は翁長時代を懐かしむようになるはずです。

菅氏は、「完成すれば沖縄にいる米軍28,000人のうち9,000人の国外移転が決定。普天間も閉鎖して返ってくる」と桜井よし子氏に言ったそうです。

しかしこの移転計画はかなり前から存在した移転計画のことであって、あくまでも普天間基地の移設がスムーズにいった場合という前提つきの話です。

したがって、この普天間移設という大前提が頓挫した場合、沖縄の基地縮小・県外移動計画は暗礁に乗り上げます。

いや、対中関係がきな臭くなった今、部隊の去就の条件そのもの自体が大きく変化しつつあります。

移設がスムーズに進展すれば、海兵隊のグアム移転も終了していたものを、反対運動があったばかりに延び延びとなり、やがてアジア情勢の変化で沙汰止みになるかもしれないとは、なんとも皮肉な話です。

ひとつ確かなことは、米国は日本側が移転を断念したと申し出れば、二度と同様の交渉の席に座ることはないたとです。

その時、安倍氏ではなく、石破氏のように米国大統領と個人的信頼関係を築けていない人物が首相ならば、日米同盟は崩壊の淵にたたされるでしょう。

どちらが、本気で沖縄の米軍基地の縮小・移動をやる気か、口先なのか本気なのか、やがてそれが分かってくるはずです。

 

 

2018年10月 7日 (日)

日曜写真館 黄金の湖

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2018年10月 6日 (土)

よく似たハワイと沖縄の違いとは

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やや旧聞となりますが、観光客数において沖縄が海洋リゾートとして世界的な観光地であるハワイと肩をならべました。

「2017年に沖縄を訪れた観光客(前年比9・1%増の939万6200人)が、同時期にハワイを訪れた観光客を約1万3200人上回った。
沖縄の観光客は1972年の本土復帰当時ハワイの約5分の1にすぎなかったが、近年は沖縄と国内外を結ぶ直行便の就航や東アジアからのクルーズ船寄港の増加が進み、初めてハワイを超えた」(沖タイ2018年2月2日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/204012

Photo沖タイ同上より引用 

これによる観光収入は、年間約4000億円であり、沖縄県内総生産の10分の1ほどを占めており、沖縄経済は多分に海洋観光に依存しているといえます。 

ただし沖タイも指摘するように、ハワイとはその内実にそうとうに大きな開きがあります。 

観光客の滞在日数が短く、したがって落とす購買単価が低いことです。

「観光客数は沖縄が上回ったものの、平均滞在日数は沖縄3・78日(16年度)に対してハワイ8・95日(17年)。
観光客1人当たりの滞在期間中の平均消費額は沖縄7万5297円(16年度)に対してハワイは約2・6倍の1787・9ドル(17年、約19万6669円)。依然として大きな差がある」(前掲)

沖縄とハワイには似た要素があって、比較すると興味深いものがあります。

●沖縄とハワイの共通点

・人口(沖縄県 143万人、ハワイ州 142万人)
・ほぼ同緯度の亜熱帯気候
・主な農作物(サトウキビ、パイナップル、バナナ、マンゴーなど)
・本土から遠く離れた島
・併合前は歴史ある王国
・基地の占める割合が高い(オアフ島の22%は基地)

・基幹産業は観光業とそれに関連するサービス業
(琉球経営コンサルティング)

http://ryukyuconsulting.com/2017/08/08/%E6%B2%96%E7%B8%84%E3%81%A8%E3%83%8F%E3%83%AF%E3%82%A4/ 

Photo_2http://manaoki.seesaa.net/article/456709269.html 

上の図を見ると、巷間いわれる沖縄が貧しいのは、基地の重圧で苦しんでいるからだという言辞はハワイと比べると、必ずしもそうではないことがわかります。

沖縄の米軍基地面積は約10%、ハワイは22%、軍人数でハワイは沖縄の2倍強です。

基地だけを貧しいことの原因にしてしまうと、ハワイが沖縄の2倍弱のGDPがを持つ理由を説明できなくなります。

ちなみに、よくいわれる74%という数字は全国に対する比率ですから念のため。

Photo_3パールハーバー米海軍基地 出典不明

もちろん自国軍と外国軍とでは違いますが、とまれ、本土から遠隔地にあり、かつて独自の王国を持っていた歴史まで含めてよく似ており、基地のハンディまでもがそっくりだといってよいでしょう。

強いて違いをいえば、観光客の眼にどう写るかわかりませんが、沖縄には日常的光景となった反基地デモや集会と、その人たちが推す知事が座っていることくらいでしょう。 

ではどこが決定的に違うかといえば、沖タイも述べているように、ハワイの観光業は沖縄のそれと比べ圧倒的に生産性が高いのです。 

それは下のグラフをみれば一目瞭然です。 

Gdp1024x768(琉球経営コンサルティング 前掲) 

この原因は、沖タイも言うように観光客の滞在日数が短く、わーっとマスで来て、わーっとマスで帰るからです。 

1024x768png2前掲

沖縄への特徴的なアクセスとして、大型外航客船があり、那覇港、石垣港への大型観光船の入港数は激増しています。

Photo_5http://ovs.jp/news/1024.php

両港とも年間70隻を超え、国内トップクラスの旅客船港で、その観光客の多くは台湾経由で、1隻当たり1500人もの台湾観光客を迎い入れています。 

これは沖縄がアジアの中心都市だからで、その理由は米軍基地がある理由と重なります。

那覇と東京の距離は約1500キロであり、那覇を基点に同じ長さの半径の円を描くと、マニラ、ソウル、上海なども円内に入ります。

Photo_4https://www.oag.com/jp/blog/uncovering-the-aviatio...

これが沖縄が将来的にアジアのハブ(拠点)空港、ハブ港になり得る潜在力があると言われるゆえんです。

同じ理由で、ハワイには行けないが、海洋リゾートとして気軽に行ける沖縄が、アジア全域の観光客を集める理由でもあります。

しかし、この膨大な観光客を長く引き止めておくだけの魅力が、今の沖縄にはないのです。

ゴタゴタしてまとまりに欠ける那覇の国際通り、琉球王国のたたずまいを活かしきっていない南部、美しい海岸線に混み合うように建てられた高層ホテル群、どこも同じようなモール、同工異曲のマリンレジャー・・・。

これでは本土の温泉街の発想となんら変わりません。国際的観光地にしていこうというトータルな戦略が欠落しています。

やんばるの旧北部訓練場跡は、希有な手つかずの亜熱帯原生林でありながら、その跡地利用を官民で練るのではなく、高江紛争の地にしてしまいました。

ここなどコスタリカのエコツアーのような知恵が欲しいところです。

残念ですが今のままでは、沖縄は巨大な観光資産を持ちながら、観光客が1週間くらいゆったりと滞在してみたいと思わせるだけの魅力がないのです。

このように沖縄は全国人気度ランキングで常に3位以内に入る人気スポットでありながら、いまひとつ国際的観光地に突き抜けられない印象があります。

アジア全域からの集客能力も高いにかかわらず、その内実においてハワイのGDPの2分の1に甘んじている原因を考えて行かねばなりません。

その理由は、単に基地があるからだけではないのです。

デニー知事、いや玉城知事には、移設にではなく、ぜひ沖縄をハワイに比肩する観光地にすることに身体を張っていただきたいものではあります。

 

2018年10月 5日 (金)

沖縄は海底資源の宝庫だ

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今回の選挙について、篠原章氏は総括の文章を書いています。これがなんとも暗い。 

読んだ私のほうが、ただでさえ暗澹たる気分でいたところに、さらに危うく暗黒面に滑り落ちそうになったほどです(笑い)。
http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=90033238&blog_id=610475 

「基地がなくなれば豊かになる」が幻想であることは再三指摘してきましたが、基地の跡地利用計画についても事実上白紙同然です。流通や観光など既存の産業を拡大すればいいという見方もありますが、ショッピングモールやホテルが乱立しても、その行く末は知れています。
テーマパークの新設も、よほどの工夫と競争力がなければ、香港のディズニーランドのように集客に苦しむだけです。広大な普天間基地の跡地にテーマパークやカジノを造るくらいなら、防災空き地として活用したほうがまだマシでしょう。
要するに沖縄は「自立」どころか自律的な経済も十分発達していないのです。誤解を恐れずにいえば、沖縄は「他律経済」の要素が強すぎ「自律経済」もまだ道半ばなのです」
 

では、どうすればいいのでしょうか。 

篠原氏は「伝統的・慣習的な制約と補助金に縛られて、沖縄には自律的に脈動する経済が十分機能していない」、「消費者市場、労働市場、不動産市場、建設市場、資本市場にも多くの硬直的な要素が存在」する、という沖縄の社会的経済的体質そのものに根本原因があるとしています。 

私はこの一節を読みながら、では今回の選挙というリアルな現実の中で、いったいどうしたらよかったのか、とつぶやいていました。 

氏のいうことは正鵠をえていますが、それを改善するには百年河清をまつことになりはしまいか、と思ったわけです。 

さて、私は、今回、知事選でとり上げられていないことの方の中のほうに、今後の沖縄の未来を照らす何かが眠っていたように思います。 

そのひとつが資源です。 

沖縄水域の資源について、東海大学海洋学部教授・山田吉彦氏の論説があります。
(産経9月19日)

https://www.sankei.com/politics/news/140919/plt1409190002-n5.html 

よくある沖縄理解のひとつに、「資源に乏しい沖縄」というイメージがあります。 

これは復帰前の俗に言う「イモ裸足」論が典型ですが、イモを喰い、裸足で靴も買えない沖縄だから、復帰して日本に戻るのだということになります。 

ここから米軍基地に依存するしかないではないかという現実肯定的姿勢と、いや、米軍基地があるからいっそう貧しく危険なのだという反基地闘争派が生まれました。 

いずれも、「日本一貧しい沖縄」という揺るぎないイメージが、その根にあります。 

では、ほんとうにそうなのでしょうか。 

山田氏は海洋資源の観点から、まったくそれは間違っていると断言します。 

山田氏は、日本が海洋国家としての最大の生長点にあると指摘し、同時に中国のほうがいち早くそれに気がついて、さまざまな手を打ってきているとしています。 

Photo_2Google Earth 伊是名島 

沖縄近海の資源分布には驚くべきものがあります。 

「沖縄近海には魅力的な海底資源も眠っている。石油天然ガス・金属鉱物資源機構は昨年3月、沖縄本島北西約100キロの伊是名海域に金、銀、銅などの資源量が340万トンを超える海底熱水鉱床が存在していると報告した。
この海域に眠る資源を地金換算すると約5兆円になると推定される」(前掲)
 

また、伊平屋周辺海域には大規模な熱水鉱床があることが分かっています。 

Photo_3Google Earth 伊平屋 

「今年7月には、海洋研究開発機構が、その50キロほど北の伊平屋沖に大規模な熱水鉱床があると発表した。このほかにも沖縄ではいくつかの海底熱水鉱床が発見されている((前掲) 

熱水鉱床とはこのような海底資源です。

「地下の火成活動がもたらす揮発性成分に富む高温の熱水溶液が,岩石の空隙内に沈殿した鉱床,あるいは母岩の一部を交代して生成した鉱床。金,銀,銅,鉛,亜鉛,水銀,その他重要金属鉱石がこの熱水鉱床より産出する例が多い。地質構造,母岩の性質,熱水溶液の温度などにより鉱床の形態と規模は一様でない」
熱水鉱床(ねっすいこうしょう)とは - コトバンク

「金、銀、銅、鉛、亜鉛、水銀やその他重要金属」を産出する海底資源スポットが、沖縄本島から手を伸ばせば届く場所に眠っているわけです。 

かねてから知られているように、尖閣諸島周辺海域には埋蔵量豊富な油田が存在しますが、日本が日中関係を考慮して試掘を手控えているうちに、中国が既得権益を主張してしまいました。 

Photo_4出典不明

このような海底資源のみならず、沖縄は魚種によっては全国第3位の水揚げ高を誇る水産王国です。 

「沖縄県は、クロマグロ、キハダマグロ、メバチマグロの3種類に関して全国第3位の水揚げ高を誇る。希少価値のあるマグロを水揚げする県としての経済的価値の維持、資源量の保護など水産分野でも対処すべき課題は多い」(前掲) 

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http://www.okinawa-churaumimaguro.jp/maguro/

いうまでもなく、美しい珊瑚礁など観光資源は無尽蔵といっていいぼどあるのはご承知のとおりです。

田氏によれば、「沖縄は海底資源の宝庫」といっていいのだそうです。 

ただし、山田氏も指摘するように、海底重要資源はいまだ手つかずであり、漁業資源は経済価値の維持が不十分です。

同様に観光にもハワイを凌ぐ観光客を招いていながら、いまだ多くの観光インフラが整備されているとは言い難い状況です。

そのうえに、近年、その重要性に気がついた中国がの手が伸び始めようとしていますが、それは次回とします。

 

2018年10月 4日 (木)

火薬庫の上で昼寝をしている沖縄

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先日来の「ちゃあがんじゅう」氏が、こんなことを言っていました。今回は特に反論というわけでもなく、考える手がかりとして書いてみます。 彼はこう書きます。

「南シナ海で全面的な両軍の軍事衝突しても不思議ではないと煽られる。しかし、現在、沖縄県で争われている辺野古の是非とは、無関係と考えます」 

なぜ「無関係か」といえば、別の所でこう述べています。 

「自衛隊や米軍を相手にしてまでも中国がわざわざ沖縄を攻めてくるとおっしゃるのですか?全面戦争やるんですか?
デニー県知事誕生で、そのような事態99%ないでしょう」
 

おいおい、この人他人のことを「煽り」だなんだって言う前に、全面戦争って概念を知って使っているのかな。

「全面戦争」とは、尖閣だけではなく、北京も東京も、いや世界中いたるところが攻撃対象になるという意味で使われます。

要は、世界戦争のことです。
全面戦争(ぜんめんせんそう)とは - コトバンク

手段を選びませんから、核兵器や生物化学兵器も使用されます。

ですからこの人が言うような「沖縄に攻めてくる」というのは、局地戦にすぎません。

らに尖閣をめぐってならば、戦争ではなく「戦闘」です。概念を勝手に膨らませないように。

で、結局いずれにしても、米軍が沖縄を「守って」くれているから中国が攻めてこられないってわけですか。 

そうか、考えてみれば、沖縄で反基地主義を鼓吹できるのは、実は米軍がいるからでしたっけね。

Photohttps://jp.sputniknews.com/opinion/201802084554816...

沖縄の安全ベルト役の米軍に口では出て行けと言いつつ、米軍がいるから中国は攻めて来られないんだと本心では思っている、そういう矛盾した存在なんでしたっけね。

少し解説しておきましょう。 

まず米軍は沖縄を守るためにだけ駐留しているわけではありません。 

彼らが沖縄にいる理由は、東シナ海、南シア海、インド洋にかけての海洋とアジア全域の平和秩序安定のためにいるのです。 

もっとはっきり言えば、米国の「権益」の確保の為です。 

米国の権益とは、自由貿易の保証と自国民の生命・資産の保護のことです。

31http://www.kanji.okinawa.usmc.mil/units/Mef.html

具体的には、シュワブと普天間基地に駐屯する第31海兵遠征隊(31MEU)は、朝鮮半島やアジアの有事の緊急対応のためにいます。 

具体的には、自国民を戦火から脱出させ、かつ後続する陸軍のために橋頭堡を築くことが任務です。 

沖縄にいねばならないのは、有事が想定される朝鮮半島や台湾に短時間で到着できる唯一の米軍基地からです。 

312_2防衛省

また沖縄には、陸上部隊のキャンプとそれを運ぶ航空基地、そして有事の際には航空優勢を確保できる空軍がワンセットで揃っています。

県外、つまりは本土に移転しろという意見をよく聞きますし、かつて橋下徹氏が大阪市長の時に具体的検討を命じたことがありました。 

橋下氏の男気は買いますが、現実には不可能です。 

なぜなら今書いたように、①海兵隊駐屯地②それを輸送する航空基地③空軍基地の三点セットが存在するのは沖縄だけだからです。 

県外、つまり本土へ移動するとなると、空軍基地はともかくとしてシュワブ・ハンセン・普天間の三つを同時に移動させねばなりません。

そんな代替地はありえません。 

日本にとっては、米軍に「そこにいる存在感」だけで大きな意味を持ちます。

それはいみじくも「ちゃあがんじゅう」氏が言うように、中国が米軍を恐れて侵攻しないからです。 

これが「同盟関係を結ぶことによる抑止力」という安全保障の根本概念です。

「ちゃあがんじゅう」氏は辺野古移転と南シナ海での軍事摩擦は無関係と言っています。

なるほど確かに「無関係」です。

辺野古移設はあくまでも日本側がいいだしたことで、米国の「権益」からすればマイナスだからです。

辺野古移設は、本来、宜野湾市街地という過密地帯から、過疎の地に移して日米同盟を安定させようとする思惑から始まりました。

橋龍の親切心という説と、少女レイプ事件に驚愕したからとする説がありますが、どちらでも日本側からの要請だということは一緒です。

本来、移設問題は米軍にとっては軍事的にはどうでもいいことであって、エルドリッヂさんが良く言うように「辺野古に移動したいと思うマリーンはひとりもいない」のです。

ですから、米国は移設問題を反米闘争のシンボルとされていることを迷惑に思っています。

県民投票をかけてまでノーと言われるくらいなら、米軍は普天間に居続けることを言い出す可能性もないわけではないと思っています。

問題は、そのことによって20年間積み重ねてきたSACO合意による縮小計画が頓挫しかねないこと、そして普天間基地が市街地に残りづけることをどう考えるかという問題です。

もっと大きな立場では、日米の信頼関係がゆらぐこともありえないことではありません。

しかし県民が県民投票によって、「県民の総意」として移設反対を掲げた場合、政府にはふたつしか選択肢がなくなることになります。

ひとつは、「民意」を押し切って建設を続行するのか、あるいは白紙化して普天間固定に戻るのかのいずれかです。

どちらもノーなどというのは答えになりませんから、ふたつにひとつです。私にもどちらとも言えません。

私は私見ですが、後者の道、即ち移設を白紙化して普天間固定化しかないと思うようになってきています。これについては、機会を変えて詳述します。

沖縄県民はデニー知事の誕生させることによって強力に移転反対を正当化させてしまったのであって、県民投票がこれに追い打ちすれば、いかに法的正当性があろうと太刀打ちするのは、民主政体には難しいということです。

したがってデニー知事によって、普天間基地の永久固定が一気に現実味を帯びたということです。

さて、沖縄が知事選ですったもんだしている9月30日に、米中があわや衝突する寸前となりました。

「BREAKING: U.S. defense official confirms to that photos showing a close encounter between the USS Decatur and a Chinese Navy warship in the South China Sea "are legitimate," but were not released by the U.S. Navy. 

米国防総省の関係者は、南シナ海の米海軍艦艇であるUSSディケーターと中国海軍艦艇が密接な遭遇を示す写真があることは事実だと確認した。なお米海軍はリリースしていない」 

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これを報じる日経新聞(10月2日)です。 

「中国政府の発表や米CNNの報道によると米軍駆逐艦「ディケーター」は30日、「航行の自由」作戦として南沙(英語名スプラトリー)諸島ガベン礁付近で12カイリ以内の海域を航行した。
南シナ海の主権を主張する中国側は駆逐艦がディケーターの前方約41メートルまで接近し、海域から離れるよう警告した。
海軍筋によると他国の軍艦を警戒・監視する場合は2キロ弱の距離を取る。「41メートルは両艦とも衝突を覚悟せざるを得ない距離だ」。
そこで浮上しているのは、中国軍が設定していた進入を許さないラインに米軍艦が近づいたため、中国軍艦は接近のリスクを冒してでも進行方向をふさぎにかかったとの見方だ」

この記事にもあるように、中国は南シナ海に軍事要塞を作ってしまったために、防衛線が沿岸部から海洋の真ん中にまで延長されてしまいました。

その結果、中国軍の基本戦略である「接近阻止・領域拒否」(Anti-Access/Area Denial, A2/AD)ラインが、延びきった形になっています。
接近阻止・領域拒否 - Wikipedia

米国にとって、この絶海に浮かぶ軍事要塞島の補給線を断つことなど簡単なことです。

中国は日米と違って、本格的な海洋における軍事作戦をした歴史的経験が皆無なので、こんなものを作っちゃうんですね。

米海軍の「航行の自由作戦」は、それを誇示するために行っているという側面もあります。日経記事にもあるように、現地軍は司令部からここから先に入れるなという命令を受けていたようです。

しかし、本気で撃ってしまったらエライことになるわ、やらなけりゃ叱られるわでパニくってぶつけようとしたのでしょう。

危ないことを・・・。偶発的戦闘はえてして、こういう愚行から始まります。

もしこの時に、中国艦が米艦に激突したとしたら、とうぜん米国はこれを軍事攻撃があったと受け取るでしょう。

中国が領海と勝手に宣言している海域は、国際海図上はただの公海にすぎず、いかなる船舶にも航行の自由が認められている以上、米国は「公海上で軍事攻撃を受けた」と主張できます。

したがって公海上での不当な軍事挑発に対して、米軍は正当防衛する権利を有します。

ただし米軍がここで現実に反撃するかどうかは、トランプによる「高度な政治的判断」が必要です。

仮にここで戦闘が勃発しても、両軍とも制限をかけて全面戦争を回避する努力をする思われます。

通常の海軍同士なら有事のホットライン(海上連絡メカニズム)を使って、双方の司令部に攻撃する意志を確認し、局地的な戦闘で収めようと計るでしょう。
自衛隊幹部学校対中軍事危機管理(信頼醸成)メカニズムの現状 ―日米の視点から -

「ちゃあがんじゅう」氏がいうように、戦闘が始まったら即全面戦争というほど国際的危機管理体制は単純にできていないのです。 

尖閣はただの岩礁だという人がいますが、中国から見ればあそこに南シナ海に作ったような航空基地と軍港を備えた軍事要塞を作りたいことでしょう。 

すでに中国は「東シナ海合同作戦指揮センター」を設置し、空海合同作戦を展開する準備を開始しました。 

また尖閣から300㎞北西にある逝江省の島しょう部には数基の最新鋭レーダー施設を持つ航空基地さえ建設されました。 

これが実用化されれば、空自の那覇基地から尖閣まで400㎞ですから、中国は空自より早く探知し、素早く侵出することが可能となります。 

これは中国が、南シナ海に継いで、東シナ海における空海の支配権を得る意図があるとみられています。

とまれこのように今のアジア情勢は、いつ爆発してもおかしくない火薬庫の上にいるようなものだ、ということは覚えておいたほうがいいと思います。

これを「煽り」というのは勝手ですが、火薬庫の上で昼寝をしているのが今の沖縄です。

2018年10月 3日 (水)

過激なプロパガンダは諸刃の刃

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「ちゃあがんじゅう」氏という人から、こんなコメントをもらっています。 

「小澤の工作だという妄想よりも サキマ陣営は我那覇真子とそのお友達の工作活動なんとかした方がいいんじゃないの?」 

コメント欄で返そうかとも思いましたが、今回の敗因のひとつとしてSNS問題も取り上げるべきだと思っていたところなので、記事とします。 

まず、私の書いている翁長氏の「遺作」としての今回の選挙戦略の中心に小澤氏があったことは、「妄想」と決めつけるのは自由ですが、疑いようもないことです。

我那覇さんと戦後政界を動かしてきた小澤氏を同列に比較してどうするんですか。小澤さん、市民運動家と一緒にされたなんて聞いたら怒りますよ(苦笑)。

私は妄想で言っているのではなく、背後関係を押えた上で推論しているのです。妄想と推論は本質的に別物です。 

もし翁長氏がデニー氏の後ろに小澤氏がいることを知らなかったとしたら、そのほうが驚きです。

翁長氏に対しての濃密な批判者だった私からみれば、彼が徒手空拳のままデニー氏を推すことはありえないと感じました。 

翁長氏が選挙で必要なのは、デニー氏のスマートな女心をつかむような「表紙」であって、中身ではないからです。 

中身ではないと言い切ることができるのは、「自己決定権」とか「一国二制度」といった危険視されても致し方がないことを、あえて選挙戦の真っ最中に軽く言ってしまえるような不用意さがあるからです。 

慎重な政治家ならば、こんなデリケートなことは、知事となって時期が到来してから口にします。 

選挙戦で候補者が安易に言っていいことではありません。

私はこれを見て、ああこの人マスコミに甘やかされて育ったんだろうな、って思いました。

地元紙はとうぜんのこととして、全国紙もNHKもその意味を報じませんもんね。

翁長氏が存命していたら、こんな危ないことを軽いノリで口にしてしまえるデニー氏をたしなめたことでしょう。 

翁長氏は独立については、難しいと常に口を濁していました。

唯一、その口が緩んだのが国連人権委演説の時でしたが、それすらもその後、県議会で攻撃される材料を与える結果になりました。

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 「自己決定権」( right to self-determination)は、ただ住民自治を大事にしろという生易しいことではなく、「民族自決権」のことです。 

さらに民族自決権とは、帰属していた国家からの独立する権利を意味します。

そしてさらにこの概念が、「一国二制度」という概念と組み合わされると、「混ぜて使うな・危険」という言葉に発展していきます。

というのは、「一国二制度」とは、中国が民主主義諸国の主権下にある他国領土を奪うために使っている政治的レトリックだからです。 

いったん奪取してしまえば、「二制度」で保障したはずの民主主義政体を維持する約束は反故にされます。 

それは香港で露骨なまでに明らかになりました。香港の人たちは今や自らの地域代表は、北京政府の選んだ候補の中から投票するしかないありさまです。 

そして中国は、沖縄を領土であるとしています。 

つまり、デニー氏は中国と国境を接する沖縄が「独立」することを志向し、かつ、中国の影響下に入りたいという考えを持っていることになります。

牽強付会ではなく、そうとしか考えられません。

ぜひデニー氏、いや、玉城知事におかれましては、強くそれを否定されんことを希望します。 

さもないと、その口の軽さが命取りになりますよ、とご忠告しておきます。

さて、このようなデニー氏の問題視されるべき発言について、本土の右派は過激に反応しました。 

曰く「売国奴」、「反日」などなど。いつもどおりのレッテル貼りです。 

私は一貫して、デニー氏の隠し子スキャンダルについてくだらないとしてきましたし、別荘問題についても無関係という立場をとってきました。 

私は、デニー氏のナイーブすぎる安全保障観については強く批判しましたが、「反日」、あるいは「売国」というレッテルを張ったことは一度もありません。 

そのようなレッテルを貼ることで、デニー発言の中身についての批判が浅くなるからです。 

この右派のプロパガンダに対して、デニー陣営は巧みに返したと思います。 

それについて篠原章氏はこう述べています。 

「玉城陣営からも、これに対抗するようなSNS発信が行われたが、トータルでいえば玉城陣営のほうがクリーンだったといえよう。
玉城陣営からSNSで発信されるテキスト、画像、動画なども有権者の心をつかむような効果的なものが多く、これもまた玉城氏の勝利に寄与した」(IRONNA10月1日)
https://ironna.jp/article/10824?p=3 

私自身SNSで発信している者のひとりとして、今回の惨敗の一部に右派の過激なSNSのプロパガンダにあったことは事実だと思います。

一部の保守系サイトの、特にコメント欄に良く見かける、読むに耐えないような下卑た言葉を使って騒ぐ体質を改めない限り、また返す刀で「保守陣営はこんな汚い選挙をしている」という実証例にされて無党派層を逃がしてしまうことでしょう。

私はそれを危惧します。 

SNSで発信する人たちには、裏がとれない情報は流さない、個人攻撃は控えるていどのわきまえが必要です。 

特に無党派層の動向が結果を左右する昨今の選挙においては、なおさらそうです。

過激なプロパガンダは諸刃の刃です。

言っている者の鬱屈を発散するだけのような発信を続ければ、また足をすくわれてしまいます。

自重して下さい。

 

 

 

2018年10月 2日 (火)

翁長氏の「遺作」としての知事選

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今回の沖縄知事選は、典型的なポピュリズム選挙でした。

大統領選に似た仕組みの首長選挙がポピュリズムに流れるのはよくあることですが、今回この「絵」を描いた作者は翁長氏その人です。 

翁長氏の遺作がこの選挙戦だったのです。 

翁長氏の政治信条は、負け組にはつかない。彼は常に勝つ選挙しかしないというクソリアリストでした。

選挙は水物、こむずかしい争点は不要。白か黒かでけっこう。

となれば、争点を極端に単純化させて、空気をつけたほうが勝ちだ、と思っていました。

今回なら、移設イエスかノーかの2択です。

本来は島の経済や貧困対策など山ほど論点はあるはずですが、選挙に勝つためにはそれでいいのだ、リアリズム政治家はそう思ったことでしょう。

Photo_2http://www.asyura2.com/18/senkyo246/msg/701.html

そんな翁長氏が仕掛けたことは三つあります。 

一つ目は、徹底してポピュリズム選挙に徹するために、まさにあつらえたような人物を彼は選びました。

 デニー氏の甘いマスクやスマートな身のこなしと大きな知名度は、無党派層と女性票を獲得することに成功しました。

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ただし薄っぺらに見えかねないデニー氏に、翁長氏は箔をつけてやりました。

それが遺言を残すことでしたが、これによって沖縄県民の情に弱いツボを押えた上で、デニー氏を神格化された「島の義人」が権威づけしてやることができます。 

これで自分の名は死後まで残り、かつ、死後の沖縄政治まで支配することが可能となります。 

ポピュリズム選挙では、見栄えのする候補者を選ぶこと、そして敵陣営を切り崩すことが必要です。

Photo_4https://twilab.org/item/1032911427827200000

そこで出てくるのが、二つ目の小澤一郎氏の存在です。 

ペーペーだった県議の頃に仰ぎ見るようにしていた小澤氏がデニー氏の後ろ楯ならば、鬼に金棒だと考えたと思われます。 

政治の素人のデニー氏に摂政として小澤氏が影響力を持つことによって、いくつかの政治的利益が得られます。 

まず自民県連に残る小澤氏の影響力を使って、自民党の一部を切り崩すことが可能となりました。

今回の小澤氏は沖縄に潜入したきりだっだと伝えられましたが、その動きはまだ明らかになっていません。

憶測ですが、県議クラスの工作をしていた可能性があります。

かつての2014年知事選の勝因は、保守中道勢力の切り崩しでした。 

今回も、自民党支持層から17%、公明支持層からも5.4%がデニー氏に流れています。

公明党の沖縄県本は党内でも聖域と言われているそうですが、公明中央は移設反対意見が強い県本を徹底して締めたと言われています。

公明県本からも一部が流れた上に、彼らの隠語で「F票」と呼ばれる公明シンパ層が流れたという情報もあります

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14年当時は、安慶田元副知事が指揮する自民那覇市議団「新風会」が、自民を切り崩し、公明県本を味方につける工作を成功させています。 

ちなみに、こういう工作を自由にさせてしまった当時の無能そのものの自民幹事長の名を、石破茂といいます。 

石破氏にだけには、「沖縄選挙で負けたのは一地方選の問題ではない」なんて聞いたようなことは言われたくありませんね。 

それはさておき、今回もこの自公切り崩しという必勝パターンが、役どころを替えて繰り返されたのだと思います。 

一方自民は、翁長-安慶田コンビが去った後に、その空位を埋める「選挙の神様」を生み出せないままに、司令塔不在で知事選に臨んでしまったようです。 

3出典不明

そして三つ目に、小澤氏が後ろ楯になることで、共産・社民の「悪い虫」を寄せつけず、かつ野党共闘のイニシャチブをデニー知事が取ることを可能にさせました。 

当然、小澤構想の「日本版オリーブの木」の沖縄県版となるわけですが、共産党に主導権を握られてしまえば、自分と同じ「黄金の檻」となると、翁長氏は考えたのでしょう。 

しかし、小澤クラスの大物政治家が後ろ楯にいれば、おいそれとはいかない、まぁそんなところかもしれません。 

このようにこの知事選は、一から十まで翁長雄志という沖縄が生んだ一世の梟雄が作った遺作だったのです。

 

 

2018年10月 1日 (月)

山路氏緊急寄稿 沖縄県知事選の結果によせて

Photohttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180930-000000

沖縄県知事選挙の開票結果

▽玉城デニー(無所属・新)当選、39万6632票 得票率55.1%
▽佐喜真淳(無所属・新)           31万6458票  得票率43.9%
▽兼島俊(無所属・新)                    3638票 得票率0.5%
▽渡口初美(無所属・新)                3482票 得票率0.5%

県知事選挙の確定投票率 63.24% 前回・4年前の選挙と比べて0.89ポイント低

佐喜真淳・前市長が沖縄県知事選挙に立候補するため辞職したことに伴う沖縄県宜野湾市の市長選挙

●宜野湾市長選挙の開票結果
松川正則(無所属新) 当選 2万6214票
仲西春雅(無所属新)        2万975票
投票率 64.26%

言う必要もありませんが、沖縄自民の敗北であることは間違いないことです。候補者選定過程から既に負けていました。

選挙戦も、本土自民党と本土公明党の組織力に頼りきった戦いぶりで、これでは10万票と言われた差を埋めるのは難しいと観測されていました。

県連は前回の翁長ショックからなにひとつ学んでおらず、振興予算に依存しきった組織体質の変革もなされないままでした。

理念的にも、反基地派に慮った路線に終始し、移設反対・全基地撤去を掲げる「オール沖縄」に対して対抗軸を作ることができませんでした。

政府も、なにゆえの移設なのかを明確に説明せずに予算の飴玉でなだめる、という悪しき伝統の限界を知るべきです。

今回、本土自民で現地工作に奔走したのが、竹下派と二階派だったことは象徴的です。竹下派は数十年の長きに渡って沖縄利権に深く関わってきた派閥です。

可能かどうかは別にしてデニー陣営に「沖縄経済の自立」を言われてしまっては、本土政府とのパイプは色あせたものになるしかありませんでした。

ただし、デニー氏が公約していた総花的ばらまき政策である、中学生バス無料化、給食費無料化、教育費無料化などが、本土からの予算に頼らずに自主財源でどこまで可能か、お手並みを拝見します。

今回感じたのは、本土からと思われる佐喜真氏支援に名を借りたデニー候補に対する過激なディスりが横行したことでした。

デニー氏のナイーブにすぎる安全保障意識は批判に値しますが、デニー氏を「中国の工作員」呼ばわりするような発信が後を立ちませんでした。

結果、それは佐喜真氏への支持にはつながらず、逆にかえって「佐喜真陣営は汚い選挙をしている」という無党派層の反感を増大させてしまいました。

今回唯一の光明だったのは、現地の宜野湾市長選が勝利したことによって、名護市長選の勝利とあわせて現地市政とデニー県政のねじれが生じたことです。

今回、メディアや野党はうるさいほど「民意」と叫ぶことでしょうが、普天間基地と移設先の「民意」は容認ですので、言うほど単純な県民の総意というわけではないようです。

まぁ、デニー氏が負けたら負けたで、「民意とのねじれ」なんて言ったんでしょうけど。我こそは民意なりと思える人たちって無敵ですね。

以後、政府は対話相手として現地市政を選び、県は相手にしなくなると思われます。

かつて辺野古地区に直接予算配分したように、何らかの形で県をまたいで市に交付するという方法をとるかもしれません。

また、ねじれは世代間でもでているようです。

青年層は保守候補に、老年層は革新にという構図はいまや選挙の常となってきましたが、今回の知事選でも現れています。

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沖縄自民に存在意義はありません。私は、愛想が尽きました。

沖縄自民は解党的出直しをして、佐喜真氏や安里氏などの若い世代が新たに作り直すべきです。

とまれこれで今後4年間、私たちは翁長県政のカリカチュアと小澤院政を堪能できるはずです。

おそらく、何度か書いているように、就任早々に承認撤回戦術は無効化され、パーフォーマンスだけが得意のタレント知事の実体が露わにされることでしょう。

ただ、デニー氏が好んで使う「あらゆる手法を駆使して、辺野古に新基地はつくらせない」などということは、知事は運動家ではないのですから自重下さい。

山路氏の緊急寄稿を頂戴しました。ありがとうございます。

氏の、「撤回訴訟で負けた後にどのような評価が下されるのか? どう対応するのか? そこだけを早送りで見てみたい意地の悪い欲望にかられてしまいます」という部分は吹いてしまいました。

私も早送りで見たいもんです。

                                             ~~~~

                    ■,沖縄県知事選の結果によせて
                       ~佐喜眞氏は何に負けたのか? 

 

                                                                                               山路敬介

本文を記している現在(9/30 22:30)、まだ「当確」の状態なので選挙結果の全貌は明らかではありませんが、もう玉城デニー氏の勝利はゆるぎないでしょう。
 

自民党の信頼できる事前調査であってすらも、佐喜眞氏は選挙前から一度たりとも玉城デニー氏の前に出た形跡はなく、このような結果を想定される方々も多かったと思います。 

地元で汗をかいてきた私としては大変残念であり、無念でもあります。 

今後、様々な分析結果が各方面から出てくると思いますが、「今週に入ってから、佐喜眞氏支持に伸びが見られない」とは良く言われるところでした。

けれども、私の嬉しい後発見でもあったのですが、佐喜真氏本人はいたって地味ではありますが、本来的に保守政治家が持つべき要素を兼ね備えていて、「気概」や不動の気構えと「胆力」を持った本物の政治家でした。
 

私らの力不足もあり知事に押し上げられなかった事は最高に無念ですが、佐喜真氏を知り、最後まで一緒に運動出来た事はうれしく思います。

しかしそのような佐喜眞氏がなぜ、玉城氏に負けてしまったのか? これはもう簡単な理由です。
 

バーグの保守理論を引くまでもなく、保守政治家の本分は「実践的かつ妥当な政治的思慮」にあります。 

その対極として対峙しているのがポピュリズムであって、それを利用して「風」をつくるのがポピュリストたるものの立場であって、この先鋒に立つのが旧メディアです。 

(ちなみに日本で最初に徹底したポピュリズム選挙をやったのが小泉純一郎で、その手法をいち早く取り入れて民主党政権の誕生に貢献したのが小沢一郎です。)

はやく言えば、佐喜真氏は小泉以来打ち続く「ポピュリズムの風潮」に負けたのです。
 

沖縄二紙に限らず日本の旧メディアは、ある政治家の妥当な判断で行われる政治よりも、間違っている事が明らかなのにもかかわらず、自分たちが作り上げた「衆愚」によって成る政治こそが「民主主義」だと企図して宣伝活動をして来たのです。

くどいようですが、「普天間の一日も早い危険性の除去」のためには、まさに「辺野古移設」しかありません。このことは先の「取り消し訴訟」の判決でも認めるところです。
 

かつて「辺野古」決定の過程の中で、たしかに本土で手をあげる地域はありませんでした。
>けれども、沖縄では辺野古地区だけではなく津堅島をはじめ、沖縄県内の複数の地域が普天間代替え施設誘致に動いたのが事実です。

さらに辺野古に決定されるさいにおいても、地元や県が同意しなければここまで進んでいやしません。
 

このような事実をほとんどの県民は知りませんし、あるいは知っていても知らないフリをする人たちが多くいます。 

数千億円もの日本国民全体の血税を投入してでも、「一日も早い普天間基地の危険性の除去」をしなければならないという合意のあるこの時に、このような有様はもはや「反文明」です。

今後、デニー氏は貢献のあった謝花副知事を現在のまま残すでしょう。
 

本当の翁長氏の遺志を継いでいるのは謝花氏だし、実務を謝花氏が取り仕切るだけでなく知事の意思決定にも深くかかわって来るのではないでしょうか。 

また、二紙はじめ旧メディアによって豚鼻提灯が付けられるでしょうが、当然デニー氏と安倍総理の会談も行われ、しかしデニー氏にとって得られるものは皆無でしょう。

それは普天間飛行場の危険性除去について、司法の判断はすでにハッキリしているからです。
 

デニー知事の誕生による「沖縄の意思」というものが旧メディアや左派に認められたとしても、司法の判断がある以上は、安倍総理には辺野古移転しか取る道がありません。 

ですが、そこまで政府を追い込んだのは当の翁長知事その人なのです。

翁長知事の「強いキャラ」は県民の元来好むところであったようで、それは「黒」のものを「白」と言っても県内では通る馬鹿げたものでした。
 

ですが、デニー氏のようなひ弱なキャラでいて、「撤回訴訟」で負けた後にどのような評価が下されるのか? どう対応するのか? そこだけを早送りで見てみたい意地の悪い欲望にかられてしまいます。


                         

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