日中スワップ再開は必要だったのか?
慰安婦合意の時にもそう思いましたが、安倍氏はいつもながら難しい球を投げる人です。
安倍氏が習近平との会談で述べた日中三原則はこのようなものです。
日中首脳、新時代へ3原則を確認
https://jp.reuters.com/article/idJP2018102601002401?il=0
①競争から協調の関係へ
②「互いに脅威とはならない」という合意
③「自由で公正な貿易体制」の発展・進化
この新三原則は、ペンス副大統領が強い調子で演説した中国に対する「新・鉄のカーテン演説」をソフトに言い換えたものです。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-cead.html
https://www.sankei.com/politics/news/181026/plt181...
③をとって日本のメディアは、「トランプの保護貿易主義に対して日中で自由貿易堅持をうたった」と珍しく安倍氏を褒めているとろがありましたが、なに言ってるんだか。
今の日米の共有している文脈に照らせば、これは中国が取っている不公正な商取引慣習、政府の経済活動への監視・介入、技術移転の強要などに対して釘を差したものに決まっています。
李克強に対して、ウイグルに対する人権弾圧や南・東シナ海への軍拡反対をストレートに伝えたという点は評価できます。
特筆すべきは、李に対して安倍氏が「(ウイグル自治地区の収容所や弾圧について)世界中が中国の人権問題に注目している」と述べたことです。
BBChttps://www.bbc.com/japanese/45859761
自由主義陣営の首脳としては初めてのことで、いちばん触れてほしくない人権問題に触れられて、李は露骨に不快な表情を見せたそうです。
まぁおそらく彼以外の歴代首相ならば、習近平や李の前では借りてきた猫状態になっていたでしょうから、一定の前進であることは間違いありません。
今まで自民・野党を問わず、日中友好の美名の下に、言うべきことを言わない関係が「友好」だと勘違いしてきた時代が、大きく変化する兆しをみせているように思えます。
ただし、これが「言った」ことだけに終わらないという担保はありません。
首脳会談ですから致し方ないとはいえ、具体的なものがパンダと日中海上捜索救助(SAR)協定の署名くらいしかないのでなんとも言えません。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006634.html
その証拠に、会談当日に中国は公船を尖閣に入れてきましたし、日本は海自を南シナ海に派遣したままになっています。
芸が細かいことには安倍氏も安倍氏で、帰国早々、中国にあてつけるようにインドのモディ首相と会談して見せています。
首相、インドのモディ氏と昼食会
https://jp.reuters.com/article/idJP2018102801001575?il=0
https://www.sankei.com/photo/story/news/181028/sty...
とはいえ、私はこのスワップ再開を懸念しています。
それは今トランプが宣言して着々と手を打っている「新冷戦」との絡みです。
安倍応援団のはずの産経すら、こう述べています。
「■日中首脳会談 「覇権」阻む意思が見えぬ 誤ったメッセージを与えた
中国は不公正貿易や知的財産侵害を改めない。南シナ海の覇権を狙う海洋進出やウイグル人弾圧を含む人権侵害も相変わらずだ。
これでどうして新たな段階に入れるのか。米国はもちろん、アジアや欧州でも中国への視線は厳しさを増している。日本の対中外交はこの潮流に逆行しよう。
日本は、天安門事件で国際的に孤立した中国にいち早く手を差し伸べ、天皇陛下の訪中や経済協力の再開に踏み切った。だが、日中が強い絆で結ばれるという期待は裏切られた。その教訓を生かせず二の舞いを演じるのか」
(産経主張10月27日)
https://www.sankei.com/column/news/181027/clm1810270001-n2.html
たかだか3兆円規模というミニサイズといえ、日中スワップ協定が再開されてしまったことの意味が大いに悩ましいところです。
ちなみに3兆円規模とはいわばお印ていどでの規模で、中国の決済の一日分にすら足りませんから、それ自体は実効性がある額ではありません。
とはいえ、現状で米国からの対中投資にブレーキがかかったような事態を、日本からの投資で埋め合わせて尻抜けにしてしまう意図が、中国側にあるのは明白で、これに乗ってしまったという印象が拭えないのです。
このスワップは、日本企業の対中進出への政府保証枠という性格をもっています。
事実、今回の訪中団には多くの財界関係者が随行しており、彼らの狙いが13億市場にあるのは説明する必要もありません。
東京新聞 会談前、記念写真に納まる(左から)経団連の中西宏明会長、中国の李克強首相、日中経協の宗岡正二会長=12日、北京の人民大会堂で(共同)
中国に大いに進出したい財界から見れば、中国の軍事拡張や人権弾圧などはどうでもいい話であって、今、中国市場でシェアを伸ばさねば、ヨーロッパ勢に食われてしまうという危機感があります。
どうぞ東シナ海よ、穏やかに、我らの商売を安らかにやらしてください、といったところです。
財界は日本最大の隠れ親中派なのです。
これは米国の対中「新冷戦」の宣戦布告と矛盾し、それ妨害する役割を果たしかねません。
今回、中国が日中通貨スワップというある意味で屈辱的な取り決めをしたのは、人民元が暴落する可能性がないとはいえないという予兆に怯えているからです。
SDR入りして得意の絶頂から、今や株価の暴落と同時に発生する人民元投げ売りの予兆に怯えています。
上海総合指数に顕著なように、中国経済は長い停滞期間に突入しようとしています。
大規模な崩壊は避けられるでしょうが、習の失脚から始まる政治的混乱は中国のような政治と経済が極端に合体した国にとって、大きな経済リスクとなるでしょう。
すでに危険水域に入りかかっているという観測も出ています。
そのような事態になった場合、中国の人民元を支えるのは、国際通貨である日本円しかないという皮肉な事態です。
このような事態が予想される中で、日中スワップは進出した日本企業にとって3兆円枠の政府保証となります。
また中国経済が米国との「新冷戦」に破れてクラッシュした場合、パンダ債(人民元建て債)も同時に紙屑になります。
すると、これを大量に保有している邦銀もまた破綻の危機があります。
これを日銀から中国の中央銀行にスワップ注入することで、救済できます。
この政府の意図はわからないではないのですが、私はこの日中スワップ再開には懐疑的です。
この時期、中国市場への進出すること自体がリスキーです。
既に進出した日本企業が、中国共産党の経営介入と監視下にあり、中国からの資本逃避の自由もないという、一般の国ではありえない不利益をこうむって いるのは、よく知られた事実です。
このような中国共産党の一党独裁を、外国資本にも強要するような国内経済政策を変更させねばなりません。
それにこの三原則の3がどのていどの力があるか、はなはだ私は悲観的です。
このような状況で、既に一蓮托生関係にあるドイツよろしく、中国と共に転げ落ちるつもりなのでしょうか。
私には今この時期に、ぜひともやらねばならない政策とはどうしても思えません。
メディアが言うような単純な親中路線への転換とは思いませんが、米中「新冷戦」勃発時にとるべきことなのか疑問です。
といっても、安倍氏とトランプがなんの打ち合わせもなく、訪中したとはにわかに信じがたいので、なんらかの別の意図があるとは思います。
長くなりそうなので、次回に続けます。
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今回の通貨スワップはODAの廃止と親中派の二階氏の顔を立てただけのもので
「最低限の経済協力は結んだけどこの中国の状況でさらに市場に足を突っ込みたいならそれこそ自己責任で、むしろ大怪我しないように対策立てた方がいいと思うよ」というメッセージが見え隠れしているようにも感じます。
経済協力に関してはスワップの3兆円以外は一帯一路やAIIBといった具体的な名前も金額もなく「お互いに協力・公平に」と漠然とした宣言だけで、その影で東シナ海での海上救助の取り決めを進めるなど万が一の事態に備えた準備もしているあたり、日韓合意の時のように巧妙な仕掛けが隠されているのかとも勘ぐってしまいます。
今回を持ってして中国にすり寄ったというのはあまりに早計で外交はその後の結果でこそ本質が見えてくるものだと思っています。
トランプ訪中から今に至る状況など最たるものです。
投稿: しゅりんちゅ | 2018年10月29日 (月) 08時33分
ブナガヤさんこんにちは、HYです。
米中新冷戦に入ったからと言っていきなり対中硬化と言うわけにはいきません。大洋を隔てた先にある米国と違い近海で隣接する日本は中国と直接衝突する(Hot Warsになる)リスクが高いのですから。南シナ海を手中に収めつつある現状では中国はいつでも日本の首を絞めることができます。
根っこは日韓合意と同じで、ニコニコ顔で多少の妥協はしつつも従来の線を越えない合意です。即ち日本政府としての一帯一路への協力は明言しない、AIIBにも入らない(民間レベルではする)と言う事です。まぁ、日本の首相はこれが限界です。破られることが確実であろう「互いに脅威とはならない」合意や「自由で公正な貿易体制」の言質を得ただけでも及第点でしょう。ベストでなくベターです。
日中スワップは合意を担保するいわば貢物のようなものです。日韓合意における10億円と同じです。実際日韓スワップ再開の動きもありましたしね。軍事力のない日本には金を出すことでしか外交力を発揮できないのです。
投稿: HY | 2018年10月29日 (月) 10時02分
久しぶりにお邪魔します。
これで尖閣は安泰ってことで、沖縄サヨクは、「中国の脅威は無くなった」と言いまわすのでしょうか?
それとも、中共は相変らず「尖閣圧力は保持し続ける」のでしょうかね?
沖縄自民は、どんなに状況が変わっても「何とも言わず・無反応ですから・どうでも好い」のでしょうかね?
「沖縄自民党県連の役員全員辞職という建議も出されている」よーですね・「シャンとした体勢をつくらないと、沖縄は変わらない」って気がしますが・・・
投稿: amai yookan | 2018年10月29日 (月) 11時46分
> このスワップは、日本企業の対中進出への政府保証枠という性格をもっています。
ここの意味は、日本企業が中国で投資していてドルあるいは円での支払いができない場合にスワップで得た日本円で支払いをできるようにするということなのでしょうか?
>今回、中国が日中通貨スワップというある意味で屈辱的な取り決めをしたのは、人民元が暴落する可能性がないとはいえないという予兆に怯えているからです。
そのような感じがありますね。韓国は日本とスワップ協定を結んでいないと思いますが、中国がこのような状況では中国は頼りにならず日本とのスワップを結びたいと思うのでしょうね。どうなるのか?
>メディアが言うような単純な親中路線への転換とは思いませんが、米中「新冷戦」勃発時にとるべきことなのか疑問です。
そうですね。安倍さんのやり方はわかりにくい。
投稿: | 2018年10月29日 (月) 18時44分
上は、ueyonabaruでした。すみません。
投稿: ueyonabaru | 2018年10月29日 (月) 18時45分
安倍訪中の成果を評価するのは、今の時点ではとても難しいと思います。
はっきりしている事は、この訪中における敗者は韓国であり、北朝鮮であるという事だけでしょう。
安倍は狡猾です。ほとんど「日本人ばなれ」しています。
件の「三兆円」は現在ある在中日本企業を助ける額にしかならず、トヨタなどは米国によって遠からず軌道修正を迫られるでしょう。 トヨタ関連の報道が真実なら、ですが。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2018年10月29日 (月) 22時26分