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2018年11月27日 (火)

北方領土に米軍が進駐することを拒否できる前例がある

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北方領土交渉のネックふたつめについて考えていきましょう。 

それは北方領土を返せば、必ず米軍が北方領土に進駐してくるだろう、なぜなら、条約で「全土配備」は認めているからだ、という疑問でした。 

まずは、時事(11月23日)です。 

やや長いですが、米軍配備、すなわち日米安保条約が北方領土交渉のネックになっているという主張が整理されています。 

「日本政府関係者によると、ロシア側が譲らない条件としているのは、引き渡し後の2島に米軍基地を造らないという確約だ。(略)
日米安全保障条約上、米側は日本の同意を前提に、日本国内に米軍施設・区域を設置できる。ロシア側に「基地は置かない」と言うのは、北方領土が安保条約の例外になることも意味する。
沖縄県・尖閣諸島防衛では日本の施政下にあることが、米側に「尖閣は対日防衛義務の範囲」と表明させる根拠になっている。
尖閣で安保条約適用を求め、北方領土は例外扱いにすることには、米側が難色を示すのは必至だ。了承しても、例外であることを理由に有事の尖閣防衛から手を引くリスクもはらむ」

このロジックはプーチンが言い出したものです。

「プーチン氏がこだわっているとされるのは、外務省が冷戦下の73年に作成した秘密文書『日米地位協定の考え方』だ。これを特報した琉球新報の報道によると『「返還後の北方領土には(米軍の)施設・区域を設けない」との義務をソ連と約することは、安保条約・地位協定上問題がある』との趣旨が記されている」(朝日11月16日)

この朝日のネタ元の琉球新報報道とは、同社の元記者だった前泊博盛氏の『憲法より大事な地位協定入門』です。

この前泊氏の本は2013年に出版されていますから、憶測ですが、ロシア大使館あたりが買ってプーチンに教えたのかもしれません。

佐藤優氏もことあるごとに、前泊氏と同趣旨のことをしゃべっていましたが、これの元ネタも前泊氏のようです。 

要約すれば、こんな内容です。 

①外務省は国民に知らせない極秘文書を持っていて、その中に米軍は無条件に「全土配備」する権利を持っていると記されてある。だから、日本政府の了解を得れば、北方領土にも駐屯することが可能だ。 

②日本政府が拒否すれば、「安全保障条約の例外」を作る気かと米国に怒られ、そうなると、尖閣防衛にも「日米安保の例外」だといわれるかもしれない。 

③ロシアは防衛線の前線に米軍基地を置かれることは許さない。だから、北方領土は返らない。 

とまぁ、こんなリクツです。砕いて言えば、こうなります。 

「日ソ共同宣言に戻っても無意味だよ、だって安保があるじゃん。
あそこには米軍がどこにでも基地作れるって書いてあるのさ。
だから、安保条約がある限り返還なんかムリムリ。ロシアは北方領土を餌にして平和条約を先に結ばせようとしているだけで、アベはそれに乗せられているんだ」

 つまり、朝日や琉新からみれば、アベは米国従属の安保を大事にすれば、国民悲願の北方領土は返ってこない、北方領土返還で手柄をたてようとすると、今度は本尊の安保にヒビが入る、ざまぁみそ漬け、というところでしょうか。 

ところが安倍氏は、昨日もふれたように、この主張をあっさり退けてしまいます。

「首相周辺はこの文書を改めて分析し、『当時の外務省職員の個人的見解』と判断。ロシアとの間で『2島に米軍は置かない』と確認することは同条約上も可能と結論付け、首相や谷内氏ら複数のルートで日本側の考えを伝達した」(朝日前掲) 

2986744_2谷内正太郎NSC局長 スプートニク 

おそらく首相と谷内NSC局長は、当該文書を調査したのでしょう。 

これは前泊氏が明らかにしているように、「日米地位協定の考え方」という文書で、書いたのはロシア大使などをしていた丹波實氏です。 

この文書は前泊氏がいうような「秘密文書」という仰々しいものではなく、ただの内部マニュアルで、聞かれたらこう答えろという内容です。 

ですから安倍氏にいわせると、そんなことは外務省の内部資料であって政府の公式立場ではない。ただの「外務省職員の個人的見解」にすぎない、というわけです。 

では、この「秘密文書」は正しいことを言っているのでしょうか。

この文書を書いた外務省の人間は、外務官僚のくせにドイツの統合時の「ドイツ最終規定条約」第5条1項をご存じなかったとみえます。 

『NEWSを疑え!』第727号(2018年11月19日)で、小川和久氏はこう述べています。

「 同盟条約の適用地域の一部には米軍を配備・展開しないことを、米国と同盟国が旧ソ連・ロシアに保障した例として、ドイツ最終規定条約(東西ドイツ、米ソ英仏の6か国で締結)の下記の条項を紹介した。
ドイツは1990年10月3日の再統一と同時に、米国を含むNATOの北大西洋条約を全領土に適用される一方、旧東独地域では現在に至るまで米軍が活動せず、1994年まではロシア軍が駐留していた

ドイツ最終規定条約とは、ドイツ降伏、東西冷戦による分断を経て、ドイツ統一時にドイツ占領4カ国(米英露仏)と東西ドイツが結んだ、国境線などを確定した条約のことです。
ドイツ最終規定条約 - Wikipedia 

実はこの条文の中で、NATOは統一後のドイツ全土に対して適用される一方、米軍は旧東独地域には駐屯しないとされました。 

参考までに、ドイツ最終規定条約の当該部分全文を欄外に転載しました。特に北方領土との関係で重要なのはこの5条1項です。 

「5条(1) ドイツのこの地域には、外国軍、核兵器及び運搬手段は駐留も展開もしない」 

これは米軍のみならず、外国軍すべての「展開」にまでおよんだもので、いうまでもなく、ロシア(当時ソ連)が無用な警戒心を起こすことに配慮したものです。 

ちなみにこの枠組みを作ったのは、当時米国NSCソ連東欧部長(後に国務長官)のコンドリーザ・ライスです。 

Image3ブッシュ大統領(右端)とゴルバチョフ書記長の会談を準備中の コンドリーザ・ライス氏(中央、1990年9月9日、ヘルシンキ大統領宮殿 『NEWSを疑え!』第727号(2018年11月19日)より引用させていただきました。 

小川氏はライスが、"ermany Unified and Europe Transformed"(ドイツ統一と欧州の変革)という著述の中で、このドイツ最終規定条項の交渉過程を詳述しているのに、外務省の当該部局が知らないはずがない、と指摘しています。 

外務省はドイツ最終規定で、米軍基地の東ドイツ展開が拒否されたことを知りながら、北方領土交渉部局に知らせてなかったと思われます。 

それは北方領土交渉官のひとりだったはずの佐藤氏がまったくこの条約に言及せずに、前泊氏に引きづられて地位協定うんぬんの発言をしているのでわかります。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/35340

それにしてもこの人、ドイツ最終規定条約も知らないで、よく外務省情報主任分析官なんかしていたものです。

それはさおき、戦後処理の一環として行われた国境の変更交渉において、ドイツは旧東ドイツ領土への米軍の進駐を認めずに処理したという前例があるわけです。

とうぜん、わが国の戦後処理である北方領土交渉においても、これは重要な前例となりえるます。

このようにドイツ統合時の前例を見ればわかるように、北方領土への米軍進駐は拒否できるし、そうすべきです。

とうぜん、米国はこのドイツ最終規定条約を知っていますから、日本が拒否したからといって日米同盟が瓦解するわけでもなんでもないのです。

                                                  ~~~~~~~ 

●ドイツ最終規定条約
第4条(訳注・ソ連軍撤退の期限) (1)ドイツ連邦共和国、ドイツ民主共和国及びソ連の政府は、現在のドイツ民主共和国及びベルリンの領域におけるソ連軍駐留の条件及び期間並びに1994年末までに完了するこの軍隊の撤退の実施について、本条約第3条第2項におけるドイツ連邦共和国及びドイツ民主共和国の約束(訳注・統一後の軍縮)の実施と関連して、統一ドイツとソ連が条約で決着すると表明した。
 

(2)フランス、英国及び米国の政府はこの声明に留意する。 

第5条 (1)(訳注・ソ連軍撤退完了まで旧東独地域にはドイツ軍のうちNATO指揮下にない部隊だけが駐屯し、第三国の軍隊は駐留も活動もしない)  本条約第4条に合致する、現在のドイツ民主共和国及びベルリンの領域からのソ連軍の撤退が完了するまで、この地域には、ドイツの他の地域でドイツ軍が配属されている同盟構造に、統合されていない、ドイツの地域防衛部隊だけが駐屯する。この期間は本条第2項の規定によるほか、第三国の軍隊はこの地域に駐留せず、いかなる活動もしない。 

(2)(訳注・その間、米英仏軍はベルリンに残留する)  現在のドイツ民主共和国及びベルリンの領域にソ連軍が存在する間、フランス、英国及び米国の軍隊は、ドイツの要請があれば、統一ドイツ及び各国の政府の合意に基づいてベルリンに駐留を続ける。(後略) 

(3)(訳注・ソ連軍撤退後の旧東独地域には外国軍を配備しない)  現在のドイツ民主共和国及びベルリンの領域からのソ連軍撤退完了後は、ドイツの他の地域のように同盟構造に配属されたドイツ軍隊を、核兵器運搬手段を除いて、この地域に配備することができる。(訳注・核・非核両用兵器に関する規定を省略)ドイツのこの地域には、外国軍、核兵器及び運搬手段は駐留も展開もしない。

第6条  統一ドイツが同盟に属し、それに伴うあらゆる権利及び責任をもつ権利は、本条約に影響されない。 

※訳出 小川和久氏前掲による

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コメント

 「『日米地位協定の考え方』が、一外務省職員の個人的見解だった」、とする安倍総理の見解には無理があると思います。
外務省は、良かれ悪しかれ外務省はそうした考えに基づいて長年行政して来たのだし、国民の中にはそれで安心を得た人たちも少なくありません。

ですのでこれは、「解釈変更」と同等のものでしょう。
それでこの「「解釈変更」が日米間でなぜ可能になったのか?」 は、安保法制で曲りなりにも集団的自衛権を認めた事の効果です。

今後どのように交渉が進むのか予測できない点が多いですが、プーチン氏にしても(米軍基地はともかく)日米安保の適用範囲外とする主張は出来ないんでしょう。
だからこそ国後や択捉島における軍事基地をあらかじめ充実させて来たのだろうし、先行二島に自衛隊基地も置かないというのであれば、実質的に日本側の施政権も担保されない心配があります。

ロシアとの平和条約締結は様々な理由で必要な事は明らかなので、私は安倍政権の政策を支持します。
「二島先行」だとか「四島一括」とか、語弊をおそれずに言えば「どうでもいい話」で、問題はそういう所にないのじゃないでしょうか。

北方領土への米軍進駐の拒否を含めて、世の中何でも
交渉事であり、その都度丁々発止で自分達の有利になる
ようにもっていく、それが国と国との付き合いというもの
です。トランプ親ビンも、常にディールディールとやかましく
吠えています。

外務省は事ナカレで、しんどい仕事はしたくないので、
「無理っす、無理っす」と言っているだけというのが、
身も蓋もない事実だと思いますわ。ロシア方面と米国
方面係の、仲も風通しも悪いのが目に見えます。

こういう仕事は、マークシート塗りつぶしが得意という
者より、交渉事が得意で好きという人材を登用しないと
無理ですわ。ざっくばらんな人柄でマッカーサーさんと
も気が合って、日本を危機的状況からテイクオフさせた
元外交官、吉田茂。そのような豪胆な人物が現在の外務
省内にもいて、冷や飯を食わされているとしたらアホら
しいですわ。

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