このままやってよいのか、米朝首脳会談
なぜこの時期にやるのか、私にはトランプの意図がまったく見えません。
今の時期はおかしなパーフォーマンスをする時ではなく、「待つ」時だからです。
出典不明
1回目のシンガポール会談について、私は肯定的な評価をしました。
関連記事「シンガポール会談は、新しいトランプ・トラップか?」
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-7896.html
それは制裁を緩めることなく締め上げつつ、正恩に北朝鮮という壊れかけた国家の「逃げ場」を作ってやるという意図があったと考えました。
おそらくトランプは、田舎の王にこう言ったと思います。
このシンガポールを見なさい。ここはかつてきみの国といい勝負の開発独裁国家だったのだが、いまは世界有数の先進都市国家となっている。個人GDPではすでに日本を抜き、ITは世界最先端だ。こんな国に、きみが望むならなれるんだよ。
このまま核武装国家になるというなら、米国は軍事的に完膚なきまでに叩き潰すしかなくいよ。
よく考えなさい。ろくに国民に食わせられないような貧困国家のまま、核武装化を続けて焼け野原になるのを選ぶか、国を思い切って開いて自由主義経済を大胆に取り入れるか。
後者なら、われわれ自由主義陣営は資金もアイデアも提供しよう。ただし核を捨てるというのが唯一の条件だ。
そうすれば、きみの体制も保証し経済制裁も解こう。どうだね、悪い取引ではないはずだが。
さて、それから半年以上が経過しました。残念ながら、状況はいささかも変化していません。
北は、核を放棄するそぶりすら見せていません。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-8c0c.html
一方、北の経済はいっそう逼迫していると伝えられています。
龍谷大学教授・李相哲氏はこのように述べています。
(産経2019年1月22日)
https://special.sankei.com/f/seiron/article/20190122/0001.html
李氏は国連の経済制裁は、確実に効いているという見立てをしています。
制裁は、半年一年たって遅れて効果を発揮するものです。
国連は今まで実に9回の制裁決議をしてきましたが、北は動じませんでした。
中国国境からの食料密輸や、瀬取りによる原油密輸でなんとか凌げたからです。
ところが2017年12月の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を受けた安保理制裁決議第2379は、北の数少ない資金源であった産業機械や運搬用車両の輸入を全面的禁止、国連加盟国に対する北朝鮮労働者の受け入れの2年以内のゼロは効果を現しました。
次いで、米国と中国の経済戦争によって、唯一の後ろ楯であった中国さえもが露骨に制裁破りをすることに消極的になりました。
中国は去年6月くらいまでは半ば公然と瀬取りをしていたのですが、このまま継続すれば自分まで米国の経済制裁を受けるとわかったからです。
https://www.excite.co.jp/news/article/EpochTimes_34358/
「中国も韓国も国連制裁を無視してまで大規模支援に乗り出しにくい状況だ。当局は「自力更生と艱苦(かんく)奮闘」を呼びかける講演会を行い、引き締めに走っているが、限界がくるのは間違いない」(李前掲)
そして日米豪英などの国連加盟国による瀬取り監視の徹底によって、北は確実に追い詰められています。
2018年6月21、22日北朝鮮タンカーと国籍不明船。のちに中国国旗を掲揚した(防衛省撮影)
https://www.excite.co.jp/news/article/EpochTimes_34358/
「政府は2019年1月24日、北朝鮮船籍のタンカーが18日に東シナ海の公海上で船籍不明の小型船舶に横付けし、ホースを接続しているのを確認したと発表した。洋上で物資を積み替える「瀬取り」の疑いがあるとして国連に通報し、関係国と情報を共有した」(時事1月24日)
この瀬取り監視活動の主力は海自でした。.海自は全力で日本海の瀬取り監視をおこなっており、世界でもっとも多くの瀬取りを摘発しています。
この一幕にあのクァンゲト・デワンとの一件があったのです。
ちなみに韓国海軍・海警は自分の庭先で演じられている瀬取りにはまったく無関心であるどころか、いまや幇助の疑惑すらもたれるありさまです。
瀬取りに協力していたことが発覚すれば、韓国も国連制裁の対象になってもおかしくはありませんのにね。ま、その時は「人道的援助だ」なんて言うんでしょうな。
このように厳しい経済制裁と瀬取り監視の効果はようやく1年たった今、北に有効な打撃を与えつつあります。
ですから対北制裁は、蒔いた種からやっと芽を出し始め、今はあと半年1年で収穫期に入ろうという時期であって、間違っても緩和を模索すべき時ではないのです。
その結果、唯一の金づるだった対中輸出が激減しました。
「対北制裁は確実に効いている。
中国の税関によれば、昨年1月から11月までの北朝鮮の対中輸出総額は1億9175万ドルで前年の12%に満たない水準だった。ここにきて北朝鮮の輸出総額はピークをつけた2016年の十数分の1以下に落ち込んだ。
(李相哲前掲)
この結果、国家の中核の正恩の取り巻きどもが逃亡を開始ました。
この国は彼らノーメンクラトゥーラ(共産党支配下の特権階級)に贅沢品を配れないことには、政権が持たないのです。
「金正恩氏が体制維持のために必要とする統治資金は最低でも年間30億ドルとされる。政権中枢の幹部たちの忠誠心を買うために贅沢(ぜいたく)品を購入し、核とミサイル能力を高めるため関連部品を輸入、住民統制に欠かせない最先端通信、監視設備の調達や在外公館の維持に外貨は不可欠だ。
金正恩氏の統治資金を管理する労働党39号室の元幹部は、亡命先のソウルで「昨年、金正恩は制裁解除を見込んで父から受け継いだ統治資金の残りを使い果たしたはずだ。外貨は底をついただろう」と話す」 (李相哲前掲)
ばかな話ですが、個人崇拝に頼っているこの国にとって、国民が飢えようと死のうといささかも困りませんが、国民を監視している取り巻きどもが忠誠を誓わないことには、正恩は枕を高くして寝れないのです。
そのために、金王朝は、国家財政とは別に個人資産をプールする秘密口座の運営のために「労働党39号室」を作っていました。
李氏によれば、この「労働党39号室」の元幹部は「もうこの資金は使い果たした」と証言したそうです。
このように金の切れ目が縁の切れ目といった危機的状況を受けて、エリート外交官の亡命が相次いでいます。
たとえばヨーロッパの外交拠点であり、海外の贅沢品漁りや、食料援助を呼び込む世界食糧計画(WFP)の窓口をしていたイタリアの大使代理が亡命しました。
チョ・ソンギル・在イタリア臨時代理大使http://bunshun.jp/articles/-/10307
「昨年11月に駐イタリア北朝鮮大使館のチョ・ソンギル臨時代理大使が現地で姿をくらました。金一族に近い一握りの高官家庭出身のチョ氏は、現在米国への亡命を希望しているとされるが、事実なら示唆する意味ははかりしれない」李前掲)
この他に10人もの外交官の亡命が起きているそうです。沈もうとする船からは太ったネズミから逃亡を始めるものなのです。
特に海外に居て国際情報に接することが可能な外交官や情報関係者は、あんがい冷静に北の運命を観察しているものなのです。
「次に、住民に動揺が広がっている。昨年秋のWFP報告書によれば、北朝鮮住民の40%が栄養不足状態に陥っている。
1日2食、最低限の食事に切り詰めても今年は60万トン以上の食糧が不足する。200万人以上の餓死者を出したとされる1990年代の「苦難の行軍」時代の再来も囁かれている。金正恩氏は就任当初、「わが人民が2度とベルトを締め付けないようにする」(2012年4月)と公言したが、約束は守れていない」(李前掲)
ですからこの食料援助の窓口をしていたチョ・ソンギル臨時代理大使の亡命は重大な意味を持つのです。
https://courrier.jp/news/archives/124376/
このように見て来ると、なぜこの時期に正恩が第2回の米朝首脳会談を持つことを要請したのか、透けて見えるはずです。
正恩は明らかに行き詰まっています。そしてその打開策をトランプに直接求める気です。
李氏はせいぜい可能な北の譲歩を、このように読んでいます。
「米国の要求を一部受容する態度を見せる可能性もある。
新年の辞で「核をこれ以上つくらない」と表明したとおり、核施設の一部を解体、核活動は凍結し、米国に届くICBMを廃棄するかわりに米国に終戦宣言を含む「平和体制構築」(18年6月12日の米朝共同宣言第2項)の約束履行を求める可能性はある。
既に保有している核の扱いについては触れないつもりだろう」李前掲)
私もこの李氏の読みは大いにありえる可能性だと思います。
ICBMの廃棄とごくごく一部の核施設の解体のまねを代償にして、一気に国交回復の前段である米朝平和宣言にまで進む心づもりかもれません。
そもそも初めからそのていどの譲歩しか正恩はする気がなかったし、なにがなんでも核と弾道ミサイルの温存は譲る気などなかったからです。
おそらく正恩は、1回目会談を成功体験と総括しているはずで、2回目もトランプが喜ぶリップサービスでくすぐりながら懐に飛び込んでやれば大甘のトランプジィさんはイチコロさなどとうそぶいているかもしれません。
とまれ正恩にとって、皮肉にも今やトランプだけが頼りの綱なのですから。
仮にトランプが、ここで1回目のようなどうにでも取れる玉虫色の決着をしたならば、CVIDはおろか、わずかの非核化措置すら永遠にありえないことは確かだと思われます。
日本は米国に対して、同盟国として明確にCVID以外の選択肢はないと主張せねばなりません。
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もう長年対米敵視を公言していたキム王朝が、今やトランプしか頼りが無いってのも・・・なんとも不思議な事態です。
で、そのトランプさんも何やってんだか・・・
どうせなら
「壁の建設は諦める」と言って一旦予算通してから
「その代わりに来年は堀を造る!」
くらいの、トンチの効いた奴は側近におらんのかね。。
サウジアラビアですらカタールと断交してから運河建設して隔離なんていうアイデアが出たのに(効果は知らんけど)。
投稿: 山形 | 2019年1月28日 (月) 06時21分
まぁ、滅多な事はなかろうと思います。
ただ、情報戦略と言いますか、旧マスコミを通じて流れて来るような、恣意的にも見えるトランプ大統領の切り取られた一挙手一投足を眺めているだけの人ですと、そもそも今日の記事のような現状認識にもたどり着いていないんじゃないですかね?
そこでトランプ氏独特の個性から憶測され、また国境塀の件などがあり、米側が何らかの譲歩をするのではないか?と心配される事になっているような感じです。
それにしても、ここで会談の必要などないハズの事は明らかなので、単なる人気取りのイベントにとどまればいいですが、世論を焦って拙攻にならなければいいなあと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2019年1月28日 (月) 14時50分
CVIDこそが唯一の道と提案すべき、というのに同意します。
とはいえ、年末年始のいつだかにルトワック氏のインタビューで指摘されていた、
核の無い半島統一朝鮮は核を持つそれより日米両国にとって最悪
というのが私の頭から離れないのも確かです。
投稿: ふゆみ | 2019年1月28日 (月) 23時36分