独自核武装はやってやれなくはないが、そう簡単なことではない
昨日のコメントを読むと独自核武装についての意見があったので、あらためて核武装について考えてみましょう。
私は、「やってやれなくはないが、そう簡単なことではない」と考えています。
核武装するためには、国内世論の支持をうけねばなりませんし、NPT条約といった政治的問題もありますが、それについては今回は考慮からはずします。
どうでもいいからではなく、逆にあまりにも大きすぎるテーマだからです。何回か扱ったテーマですが、技術的なことに絞って見ていこくことにします。
さて、今の北の非核化を見ても、ひとことで核武装といってもいくつかの要素があることに気がついておられると思います。
まず第1に、核爆弾を作れる核物質がなければ話になりません。
第2に、核弾頭が実際に想定どおりの性能かどうか証明するために核実験せねばなりません。
第3に、弾道ミサイルを発射する潜水艦が必要です。
ほかにも付随して、再突入や戦略原潜の保有など、いろいろたくさんの問題がありますが、今日は3ツだけを取り上げます。
まず第1の核物質についてですが、「原発に詳しい」と事象していた管直人元首相は、かつて川内原発前の宣伝カーの上で、こんなアジ演説をしていました。
「原子炉はもともと核兵器製造に使うプルトニウムを作るために開発されたものだ。そして70年前にプルトニウム型原爆が長崎に落とされたのだ。
私はプルトニウムと人類は共存出来ないと考えている。そうしたプルトニウムを新たに生み出すこと自体が人類を危険に晒すことだ。原発がプルトニウムを作ったんです」
バッカじゃなかろか、この人は。この人は、軍事用原子炉と商業用原子炉が炉の構造自体からして違っていることを知らないようです。
核兵器に使用できるプルトニウムは、純度90%台後半の高濃度Pu239だけです。
https://www.dreamstime.com/pu-radioactive-plutoniu...
一方、民生用原発から出るプルトニウムはPu240で、これはそのままでは軍事転用はできません。
よく何発分のプルトニウムというガサツな言い方をメディアはしますが、商用プルトニウムと軍用プルトニウムは別物です。
この軍事用プルトニウムであるPu239を、日本は保有していません。
世界の核分裂性物質の量 - 核情報によれば、日本の軍用プルトニウムの保有量は文字どおりゼロです。
反原発・反核論者たちは、「日本がプルトニウム備蓄して核爆弾を作る気だ」と主張していますが、ナンセンスです。
http://kawasakiakira.at.webry.info/201507/article_14.html
それは「できる」というだけで、軍事的合理性を考えない妄論です。
日本が国策として核兵器を作るとなると、中国や北朝鮮の中距離核を抑止しうる同等のものが必要です。
そのためには、たとえば米軍が運用しているMk85核爆弾は約8メガトンですから、その程度の破壊力が必要となります。
原発の副産物として作られるPu240は不純物が多く、不発の確率が非常に高いために、これを濃縮して軍用Pu239するためのプラントが必要です。
このプラントが日本にはありません。作ればいいのですが、そのためには立地確保から始めなければなりませんから、10年単位の時間が必要でしょう。
たかだかといってはナンですが、代替航空施設を作ろうとしている辺野古ですから、地元と20年間もめているのですから、推してしるべしです。
私は兵器級プルトニウムを作る濃縮プラントを作ることは、技術的にはそう難しくありませんが、政治的にはかぎりなく無理だと思っています。
核爆弾自体はちょっと優秀な理系大学生がクラブ活動で作れるていどの技術レベルですが、仮になんとかして核爆弾を作ったとしても、次の壁は本当に爆発するのか検証をせねばならないことです。
モノがモノだけに、作りましたでは終わらないのです。その威力や爆発特性などを実際に爆発実験せねばなりません。
そこで第2の核実験の壁が立ちはだかります。
核実験をしないと、予定されたスペックどおりの性能がでるのか、不具合がないか検証できません。
考えるまでもなく、日本国内に核実験場などができる場所はありません。
日本は狭すぎるのです。それが広大な砂漠を持つ米露中との大きな違いです。
もちろん、フランスなどのように海外県でやるという暴挙はできませんし、外国が貸してくれるはずもありません。
ひとつだけ抜け道があります。それはすべての実験を、スパコン上の仮想実験をすることで代替することです。
実際に、中国はそれを心配しているようです。
http://news.searchina.net/id/1584694?page=1
コンピュータ・シミュレーション核実験とは、臨界前核実験のことで、実際の核爆発を伴わずにバーチャルにやってしまおうということで、既に核保有国は実用化しています。
技術的には可能です。ただし、核実験のコンピュータシミュレーションでやるとしても元種が要ります。
米国やフランスはスパコンで臨界前核実験をシミュレートする技術を持っていますが、それは既に実際の実験をして入力する諸元データーを持っているからです。
その実データーを得るためにフランスは、世界中の轟々たる批判を尻目にムルロワ環礁で核実験を強行したのです。
ムルロワ環礁核実験https://www.jiji.com/jc/d2?p=bom001-00564977&d=011...
日本にはこの元種に当たる実データがありません。もちろん米国ですらこんな物騒なものを貸してくれるはずもありません。
ですから、日本に世界一のスパコン技術があろうとなかろうと、商用プルトニウムがあろうと難しいのです。
ただし、実験段階を飛ばして実戦配備という手もあることはありますが、そんな実際に爆発するかしないかわからないようなものは、大戦末期ならいざ知らず、現代では笑い物になるだけでのことです。
日本が作らねばならないのは、負けそうになってヤケッパチで作るものではなく、あくまでも「平時の抑止力」なのです。
第3に核弾頭の小型化や再突入技術をクリアしたとして、その運搬手段について考えてみましょう。
弾道ミサイルについては、日本は世界最高水準のものを既に持っています。だからすぐに独自核武装ができると思ったら大間違いです。
H2もイプシロンもそのままでは使えないのです。
というのは日本の国土は縦深が浅い国です。日本列島は前線から後方までの縦の線が極端に短いために、弾道ミサイル基地を隠しておくことが難しい地形です。
双方が核を保有している関係において相手方は、まずこちらの核報復能力を奪いにきます。
つまり敵が第1撃でねらう目標は核ミサイル基地ですが、これを地上で隠す場所は日本にはない以上、海に潜って水中から発射する水中発射弾道ミサイル(SLBM)を開発するしかありません。
その潜水艦は、深海深く沈潜し、静かに命令を待つ性格ですから、息が短く搭載能力に余裕がない通常動力型潜水艦は不適です。
したがって戦略原潜が必要です。
戦略原潜http://d.hatena.ne.jp/masousizuka/20101216/1292486...
これもやってやれないことはないでしょうが、未知の領域ですから10年単位で考えねばなりません。
同様な理由で、大型空母も同じです。大重量の航空機と搭載物を射出するために蒸気カタパルトが必須です。
この蒸気カタパルトを製造し運用する技術は米国しかもっていません。よしんば売ってもらえたとしても大量の電気が必要です。それをまかなえるのは原子炉しかありません。
ですから、大型空母は必然的に原子力空母となってしまいます。米国の12隻の空母が揃って原子力空母なのはこの理由からです。
日本でも米国のような空母を欲しがる人がいますが、原子力空母が持てるかどうかちょっと考えればわかりそうなものです。
日本が国策として独自核武装をするということは、単独の核爆弾を作ればいいということではなく、その実験方法、原子力潜水艦などとトータルに考えねばならない問題なのです。
このように考えてくると、昨日書いたように自民党国防部会が「検討を開始」することはできますし、それはそれで一定のブラフにはなりますが、実際には極めて困難である私は思います。
白けさせてすまないのですが、ひとり独裁国が発射する核ミサイルを防ぐためには、現実的にはMDイージス艦か、イージス・アショア、ないしはTHAADしかありません。
政治的には非核三原則という時代遅れの虚構から醒めて、「持ち込ませる」ことを真剣に政治日程に載せるべきです。
私は自主防衛力は強化するべきだと思っていますが、かくほど左様に 「戦後」が作った壁は厚く複雑なのです。
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悪い想定を。
爆破実験せずに使われた核兵器があります。しかも一般に言われる物より小さい。そして材料が変わったらどうなのか。こちらの方が壁は低い可能性ありです。
投稿: 安兵衛 | 2019年2月16日 (土) 16時08分
私は、独自核武装に賛成です。率直に言って、なぜ独自核武装に
反対する人が多いのか不思議でなりません。人類史上第3発目の
実戦核も日本上空で炸裂させられるのを防ぐ為に、最も有効な手段
だと思われるのが独自核だからです。核抑止力については、第二
次世界大戦後に核保有大国間での全面戦争が起っていないことで、
かなり信頼できます。キューバ危機の時には、米ソともキンタマが縮
み上がったことでしょう。もしもの事を起こせば、ボタンを押した指導
者は、敵味方両国の市民から八つ裂きのリンチを受けることになる。
何故なら、核全面戦争においては、先にボタンを押した者が悪いの
は明々白々だから。毛沢東を越える大量虐殺者として、人類の歴史
に刻まれます。ヒトラーなど可愛いベイビーです。
それなのに独自(次点で米国核を拝借)核武装に反対する人って、解
りません。他に何か現実的な良い方法があるんでしょうか?
投稿: アホンダラ1号 | 2019年2月16日 (土) 22時33分
アホンダラ1号さん。私も核を容認しています。現実的には、日本は中国と北の核に対応するには、米国の核の傘に入るか、核報復能力を持つしか選択肢かありませんから。
そして米国は東京を核攻撃された場合、ロスを犠牲にしてまで報復してくれるかはなはだ信頼に欠けるからです。
ただ、独自核武装への道は世上いわれるように2年か3年などということはなく10年単位だということです。
安兵衛 さん。具体的には私はそのような核兵器を知りません。記事にもかきましたが実験しなくてもかまわないのです。
ただし、そのようなものは信頼性がないということです。
すべての兵器がそうであるように、実戦配備するまでに長い時間をかけて徹底的に実験をします。
核兵器も同じだと言うことにすぎません。
投稿: 管理人 | 2019年2月17日 (日) 03時18分
ニューメキシコで実戦前に唯一の実験を行われたのは長崎と同じく爆縮型原爆です。それに対してガンバレル型は一度も実験が行われておりません。核分裂連鎖反応はそれだけ簡単に起こせる、起こし得るんです。
いつぞやバケツ処理で初期臨界を起こしたバカな組織がありましたね。
核に関して臨界量という言葉がありますが、これは材質によっても違います。ウラン235よりも少ない臨界量を持つものはいくつもあります。
爆縮型の利点は威力を高めることと効率化できる事、そして核融合連鎖反応につなげられる事です。それ以外であっても目的に見合う方法があるならば使われる事は考えられます。現在の技術からすれば、たかが半世紀以上前の技術という視点も常に忘れてはならないと思うのです。
投稿: 安兵衛 | 2019年2月17日 (日) 07時49分
なるほど゙。勉強になりました。ありがとうございます。
たしかに仰せのようにまったく違う発想で核兵器を作ることは可能でかもしれませんが、私が書いているのは一般論ではありません。
今の日本で可能かどうか、その現実性を考えていることをお忘れなく。
歪んだ戦後秩序の中で、軍隊や軍事技術一般さえ悪魔の如く叩かれ、商業原子炉さえ新規の建設が認められる可能性がゼロの国でそれが可能かということです。
あるいは今、どこかの国立研究所で、あなたがいうようなタイプの核兵器を研究しているのなら、10年後くらいにできるかもしれませんね。
そして同時並行で水中発射弾道ミサイルとその発射原潜を研究開発していたら、これも10年後くらいにはできるでしょう。
残念ですが、この三つはすべてわが国には存在しません。したがって、失礼ながら、あなたのおっしゃることは一般論にすぎません。
投稿: 管理人 | 2019年2月17日 (日) 09時04分
安兵衛さん。
ああ、核爆弾のキモの技術である「爆縮」を使わなければ確かに広島型(ガンバレル式)の核爆弾は可能ですね。
他にはかつてイギリスの「カラー名称シリーズ」でのバイオレット何とかがそうでした。(マニアックだなあ!)
で、小型化とは何ぞや?と。
爆縮ならソフトボールかグレープフルーツ大で起爆装置がつくれますけど、ガンバレル型は巨大になりますよ。
「核分裂を伴わないダーティーボム」ならスーツケースサイズで都市での自爆攻撃に有効なテロが出来ると言われてますけど、あれは核爆発させずに放射性物質をばらまくものです。ミサイル等に載せる「弾頭」にはなり得ません。
冷戦崩壊時に旧ソ連からの核物質の流出が危惧されていたのは、この可能性です。
それでさえ元は半世紀近く前から指摘されている古い技術ですけど。。
いずれにせよ、国家の存亡をかけるようなMAD戦や報復に使えるシロモノではありませんね。。全くわけが分かりません。
投稿: 山形(改装工事中) | 2019年2月17日 (日) 11時26分
> 第1次世界大戦でドイツの潜水艦による無差別攻撃から連合国の民間輸送船を護衛した旧日本海軍『第二特務艦隊』の海軍兵曹を追悼する英国人大学生、ジェッド・グラントさん(左)と在英日本大使館の野間俊英防衛駐在官(右)=15日、英南部ドーセット州ポートランド島の英海軍基地の「英連邦墓地」(岡部伸撮影)
> 【ポートランド島(英国)=岡部伸】第一次世界大戦で同盟国英国の要請を受け、マルタを拠点にドイツの潜水艦による無差別攻撃から連合国の民間輸送船を護衛して、「地中海の守護神」と呼ばれた旧日本海軍「第二特務艦隊」の海軍兵曹が停戦後、帰国を前に英南部ドーセット州ポートランド島の英海軍基地内で不慮の水死をして100年目にあたる15日、在英日本大使館の野間俊英防衛駐在官ら日英の海軍関係者らが追悼式を行った。
> 同基地内の「英連邦墓地」に、「原田浅吉海軍2等兵曹」の墓碑があり、地元に住む英国人大学生、ジェッド・グラントさん(22)から昨年9月、鶴岡公二駐英大使に「『原田兵曹』が逝去して来年100周年だが、何らかのお供えをしたい。彼は忘れられていないことを日本の遺族に知らせてほしい」とのメールが送られた。
上はサンケイの記事からです。これを読むと、欧米人でも、過去の事実を十分に長く記憶し、故人の功績を忍ぶという心情があることが窺われるのですが、韓国人や中国人にそのような心持が全然ないということがあるのでしょうか? そんな筈はないとしか思えませんが、この頃の韓国のやることは・・・・・?
投稿: ueyonabaru | 2019年2月17日 (日) 20時40分