米朝水面下での交渉内容伝わる
米朝首脳会談について、このような北朝鮮との議論が水面下で進行していることを、読売新聞(1月27日)が伝えています。
残念ながら、なぜか読売が電子版で出していないために、神保謙慶応教授のツイートから編集して引用させていただきます。
https://twitter.com/kenj0126
「米朝段階的非核化を議論 北、開城事業容認要求 米、非核化へ柔軟姿勢
1月18日のポンペオ・金英哲会談、1月19日~21日のスウェーデンでの米朝実務者協議(19-21日)で、段階的非核化についての議論が進んだ。【第1段階】として米側は北朝鮮に
①ICBM開発凍結と廃棄
②寧辺核施設廃棄と検証
③豊渓里実験場査察
④東倉里ミサイル発射場査察を求める。.一方...北朝鮮は米側に「相応の措置」として
①開城工業団地、金剛山観光、鉄道連結事業を制裁の例外として除外する
②石油と金融部門に対する国連制裁緩和
米側は①を前向きに検討するが、②(石油・金融制裁)に言質を与えていない」
神保氏はこう評しています。
「ポンペオ長官が最近「米国の安全」を強調していたことから、米側が取引可能な措置を前倒しする妥協に傾く兆候は出ていた。米国は第2段階交渉でより包括的な非核化を継続協議すると言うだろうが、北朝鮮は制裁緩和のインセンティブを得て交渉を引き延ばす、となりそう」
Kim Jong Un expressing “great satisfaction” at Trump’s letter to him.
ソースはいわゆる「関係筋」ですから、たぶん韓国に入っている米代表団のリークだと思われます。
内容的には神保氏の分析どおりだと思います。
北は経済緩和を狙って小さな譲歩はしても、肝心な非核化の本体ではゴニョゴニョ言いながら遅滞戦術をとるつもりでしょう。
また驚いたことには、米中会談もベトナムで同時に開催するかもれません。
「トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、2月27・28両日にベトナムの港湾都市ダナンで会談することを検討している」(ブルームバーク2月4日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-02-03/PMCUYI6VDKHS01
米中は3月1日の期限切れをまえにして、なんとか譲歩を探りたい習が、会談を押し込んだようです。
同時開催となった理由は、現時点ではわかりません。
一方、米朝のほうは、前回合意した「非核化」の具体化ですが、この関係筋の内容が本当だとすると、制裁緩和と長距離核の開発凍結、査察受け入れです。
米国のビーガン北朝鮮担当特別代表は、CVID方式での北朝鮮の非核化については譲歩するつもりはないと明言していますが、これについてホワイトハウスとは温度差があります。
読売の記事によれば、米国は「長距離核の撤廃」という表現を使っているようですが、それがほんとうならば、これはただの米国に到達可能な長距離核を撤廃するという意味でしかありません。
そもそも長距離核ミサイルは再突入や核弾頭の小型化というハードルをクリアしておらず、未完成なはずで、それをして「開発の凍結」と呼んでいるとすれば、日本に届く中距離核は温存されてしまいます。
これでは日本が最も危惧する中距離核は残ったままゲームオーバーとなりかねません。
あくまでもCVIDのCは核の「完全(Complete・包括的)」廃棄のことであって、長距離核だけ廃棄すればこと足りるようなLimited(限定的)なものではないはずです。
実はこれについてポンペオ国務長官は、あいまいな表現を繰り返しています。
「ときに「永久的(Permanent)かつ検証可能で不可逆的な非核化(PVID)」と言い間違えて混乱を引き起こしてきた」(ニューズウィーク2018年6月12日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/cvid.php
「包括的」なら意味は鮮明で中距離核も含みますが、「永久的」ならば不可逆的(Irreversible)と重複します。
そうなると最後のDである非核化(Denuclearization)の意味も、どこまでを指すのかぼやけてきます。
というのは、シンガポール会談でもっとも憶測を呼んだ部分がこの「非核化」という言葉で、合意文書では「朝鮮半島の非核化」という表現にしてしまっていることです。
合意文書冒頭部分のパラフレーズにはこうあります。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-a36b.html
「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を提供することにコミットし、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化(complete denuclearization of the Korean peninsula)への強固でゆるぎないコミットメントを再確認する」
この「非核化」の条件は「朝鮮半島が非核化され、北朝鮮にとって安全が保証されたという意味だ、と正恩は解釈したはずです。
ブッシュ時代の北との交渉代表であったビクター・チャはこの部分の解釈について、去年6月の議会証言でこう言っています。
「北朝鮮は非核化という言葉を「北朝鮮に対する脅威がもはやなくなった将来のいずれかの時点で、朝鮮半島から核兵器をなくしてもいい、という意味で使っている」と指摘する。
米軍が駐留部隊を撤退させること、そしてアメリカが、北朝鮮が核で抑止しなければならないような敵対的な軍事行動をやめることがその条件だ」(NW前掲)
このチャの解釈に従えば、正恩はただ米国が軍事的攻撃をしないと表明するだけでは納得せずに、核を保有している可能性がある在韓米軍の撤退まで含んで「非核化」と言っていることになります。
実際には在韓米軍に核兵器は配備されていませんが、空軍基地にはかつての核爆弾の保管施設が残されており、B-2などを使った核攻撃はいつでも可能です。
ですから、韓国の米軍基地は撤去しろ、在韓米軍は撤退しろという北の主張につながっていくわけです。
しかしこの北の要求に、直ちにトランプが乗る心配はないと思います。
現時点で北が求めているのは、首を締めつつある石油と金融に対する経済制裁を少し緩めてくれという段階であって、一挙に在韓米軍の撤退まで要求するとは思えないからです。
トランプに常に在韓米軍を撤退させたがっているのはとうぜん正恩は知っているでしょうが、現時点でトランプ御大相手にこのカードを切るとは思えません。
ところで少し視野を拡げてみましょう。実は北の非核化のプレイヤーは三カ国あります。米中露です。
この三カ国は共に北の核の射程範囲にあるが故に利害を共有しており、非核化という総論には賛成ですが、その方法論と「非核化後」の思惑がまったく違います。
考えられるシナリオとしては、ロシアが原発を餌にしてロシア圏に取り込むか、中国が経済援助と中朝安保条約に基づいて核の傘を差し伸べて中国圏に組み込むことです。
こういう二カ国の思惑がある中で、在韓米軍撤退を宣言することは、米国が非核化以後、朝鮮半島には干渉しないということを宣言したことに等しいことになります。
それは東アジア情勢の主導権を、中露に渡すことにつながりかねません。
マティスなら必ずそう考えるはずで、ボルトンなどの専門家にとって在韓米軍は米国の朝鮮半島におけるプレゼンス(政治・軍事的存在感)そのものの消滅を意味しているのは自明のことだからです。
これだけ重い撤退カードを正恩が米国に要求するならば、当然のこととして北も最大限の見返りを用意せねばなりません。
ニョンビョン(寧辺)核核製造施設のIAEAによる直接立ち入りによる検証と、プンゲり(豊渓里)核実験場の同じく査察と廃棄、トンチャンリ(東倉里)ミサイル発射場査核製造施設とミサイル実験場の査察と廃棄などは、当然すぎるほど当然の条件です。
これを廃棄しなければ、北はまたまた核兵器を再生産することが可能だからで、この部分で米国が譲歩するとは思えません。
とはいえ、これすらも現状は悲観的です。
「アメリカの情報機関を統括するコーツ国家情報長官は、議会上院の情報委員会で北朝鮮について証言し、(略)
われわれは、北朝鮮が核兵器と核の製造能力を完全に放棄する可能性は低いと現在、分析している。指導部が体制維持のためには核兵器が極めて重要だと考えているからだ」と述べ、北朝鮮が核を放棄する可能性は低いという分析を明らかにしました」
(NHK2019年1月30日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190130/k10011796011000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001
さらには現在北が保有している長距離核(もどき)と、実戦配備されているとされる中距離核については、最低でも長距離核の廃棄ていどは呑まねばなりません。
中距離核は攻防になるでしょうが、最低でも長距離核を廃棄しなければ、いくらトランプでも国内に説明できません。
逆に言えば、北のCVIDを引き出すためには、米国も最大限の見返りとして在韓米軍撤退カードを与えるしかない、とも言えます。
この在韓米軍撤退問題については、韓国も絡んでいますので、次回とします。
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CVID方式で北の核をなくして米側の望む通りに進むかということは、実現性には疑問があっても日本の誰でも望むことであった。しかし、どうもその実現性は当初の目論見通りにいきそうにもない。
しかし、今ただちに日本にミサイルが撃ち込まれるなどの危険はあるかというと、これは疑問である。北朝鮮が中国とどのような交渉をしているのか、また、韓国とどのように相談しているかは分らない。
しばらく時間がかかるかも知れない。
もう一つ、今後の事態を左右するものとしてロシアと日本の関係がどうなっていくのかがあると思う。日本がロシアとの強力な関係が創れるのであれば事態は大きくかわるのではないだろうか。まずロシアとの平和条約締結、そしてついには安保条約の締結という具合に進むのであれば事態は日本の安全の方向へ進んでいくのではないか。これを期待したい。
アメリカだけでは心もとないので、さらにロシアをこちらの味方にはできないか。それの可能性については分からないものがあるが、今後の外交の目標点はそこにこそあるのだろうと思うのだ。
(素人の推理です)
投稿: ueyonabaru | 2019年2月 5日 (火) 00時30分
「CV22オスプレイ、横田基地から嘉手納基地へ暫定配備 地元の反発必至」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/381154
リリース文で第18航空団司令官ケース・カニングハム准将は「嘉手納基地におけるCV22の訓練受け入れは重要である。また、日本国防衛のための責務、そして自由で開かれたインド・太平洋地域の安定と安全を確実にするという共通の責務を果たすため、嘉手納基地は即応要件の維持を通して重要な役割を担っている」とコメントした。
このコメントは北朝鮮情勢と関係ないとは思えないのですが…
「自衛隊に抗議 港湾労働者400人規模スト 沖縄で無期限、物流停滞の恐れ」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/380761
現場を視察しようとしたが、「県から立ち入りを禁じられた」このままでは港の安全や安心が守られない」と話している。
「県から」立ち入りを禁じられたと書かれています。県民、国民の安全より己のイデオロギー優先とゲロってるようなもんです。
投稿: クラッシャー | 2019年2月 5日 (火) 00時46分
クラッシャーさん。米軍は沖縄と本土基地をひとつのものとして考えています。
沖縄の地元紙が勝手に線引きしているだけで、米軍は統合して運用しています。
空軍のオスプレイは、海兵隊のオスプレイと任務分担が異なっています。
海兵隊のそれがいわばトラックであるのに対して、空軍のそれは特殊改造した襲撃用車両です。
実は嘉手納に「ナイトストーカーズ」という特殊作戦用ヘリ部隊が駐留しています。これについては書いたことがあります。
この部隊の任務は、特殊部隊を乗せて、ピンポイントで降下させて、敵の中枢をえぐることです。
たとえば台湾有事、たとえば朝鮮半島有事などを想定しています。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-2.html
米軍は現況ヘリで運用しているこの部隊を、横田のオスプレイと互換することを考えているはずです。オスプレイは「ナイトストーカーズ」が使っているMH-60特殊戦ヘリコプターよりはるかに高速で積載量も大きいですから。
そのための嘉手納での訓練です。
朝鮮情勢とは直接関係はありませんが、ないともいえません。
日本人が勝手に南北融和、朝鮮情勢雪解けと考えているだけで、米軍はいささかも北への軍事的圧力を緩めたわけではないからです。
自衛隊の中城湾での事件は、やっているのは港湾労組ですが、とうとう自衛隊にまで牙を剥くようになったのかと憂鬱な気分になります。
投稿: 管理人 | 2019年2月 5日 (火) 03時54分
管理人さん、ありがとうございます。
考えてみると当然ではありますが、米軍は在日米軍を分け隔ているわけではなく、俯瞰して運用しているわけですね。沖縄側は沖縄を特別視したがりますが。
ところで、港湾労組のスト初日で頓挫したみたいですよ。
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/381335
おそらく苦情が多かったのでしょうね。今や県民の大部分に自衛隊アレルギーはありませんし、小売業にまで影響が及ぶようではこのまま続けても反発が強まるだけでしょうしね。
投稿: クラッシャー | 2019年2月 5日 (火) 19時06分