山路敬介氏寄稿 沖縄を縛る自己決定権イデオロギー その2
山路氏寄稿の2回目です。
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■沖縄を縛る自己決定権イデオロギー その2
山路敬介
承前
■投票結果を読んでいた安倍政権、そして相変わらず気持ちの悪い「マスコミ」
私が側聞するところでは、政府自民党は国政選挙や地方選挙レベルほどの調査ではないが、主に投票率予測は掴んでいたようです。これはオール沖縄側の議員からも同じ事を聞いています。
菅官房長官は「沖縄県の条例でやる事」と言い、距離を取って「無関心」のそぶりを見せていましたが、そうではなかったようです。
投票日の前々日には型どおりとも思える「結果がいずれでも、辺野古移設には影響しない」と答え方をしていて、例のイソ子女史を憤慨せてさています。
しかし、その官房長官の発言には根拠があったと見て差し支えないと思います。
いずれにせよ、今回の県民投票を持ってしても「反対の民意」が絶対多数と解釈出来ない事は上で申したとおりですが、二紙は当然の事、朝日や毎日など旧態劣化メディアの論調は違います。
ようは、「民意=反対する比較多数に着け」というものですが、そのような考え=「民意を一種のリーダーと考えて、それを受け入れるのが民主主義だ」と安直にとらえるのは、民主主義に対する誤った認識です。
安倍政権としてはこの投票結果を「尊重」するまでの受け止め方は不要で、しかし「考慮」には入れつつ、一刻も早い普天間の危険性の除去に臨むべきだと言えます。
菅官房長官は結果をうけて、「ていねいに説明し、地元の理解・協力を得ながら粘り強く工事を進める考えに変わりはない」としてい、当然に投票前のスタンスを維持しています。
公明の山口代表は反対票が37.5%にとどまった点を指摘し、「その他の思いもかなりある結果」としつつ、「普天間の危険性の除去が20年来改まらない状況は政府の責任として極めて重大だ。移転先の現実的な近道はどこか?という事を県民に理解してもらえるよう、政府として努力してほしい」としています。
ハガティ駐日米国大使は「辺野古移設は、沖縄の負担軽減や普天間返還のための唯一の解決策」と強調し、「移転を推進するトランプ大統領の方針は一切変わらない」と答えています。
■ デニー知事は普天間の危険性除去のためにする「提案」が一切出来ないし、する心づもりもないこと
3月22日の記者会見で菅官房長官は「知事が普天間飛行場の危険性の除去や固定化を避けるためにどうするかを語らず、残念だ」と言っています。
この言葉の意味をつたえた通信社は「デニー知事が代替え案を示していないとして不満を表明した」と注釈していますが、少し穿った解釈だと思えました。
ただ、この種の事は翁長知事にも就任当初から官房長官が度々話しているので、あながち間違った解釈とは言えないのだろうと思うのですが、工事の進捗状況を考えれば、たとえ率直な知事提案があったとしても、その条件は「針の穴にラクダを通す」ほどに難しいと言わざるを得ません。
篠原章氏のブログによれば、氏はいわゆる「サンクコスト論」を用いた考え方をされていて、例えば「地上案」など、他に費用が安くあがる代替え地があれば、辺野古にこれまでかかった費用を捨ててもトータルで安価に済む方向性があり得るのではないか? と言っています。
その意味は「軟弱地盤問題」でこれからどれだけコストが嵩むか不明な事、これから先も不要な訴訟合戦が繰り広げられることが想定され、かつ期間も不明瞭な事を考えれば他所において相当な費用をかけたとしても比較原価を考えれば勝るのではないか?
むしろ滑走路長など米軍が本当に望むだけの内容を伴ったものにする事も可能では? という趣旨です。
しかし、いずれにしろ安全保障上「県内」が必須である事は明らかな大前提なので、そのような提案をデニー知事がするはずもないし、政府も「デニー知事は降りて来る」と考えているフシはありません。
いわゆる「サンクコスト論」は選択肢としての対象が俎上にある場合には議論としての有用性があるのですが、「これなら沖縄側もOKだ」という具体的場所も同意の確証もない以上、仮定の領域を往復するばかりです。
「埋め立て」に反対する人たちの中には真に大浦湾の自然破壊を理由とする人達を含みますが、今の県政与党の大概はそうではありません。
根本は安全保障観の違いによるものです。もっと言えば世界観の違いによるものでさえあります。
2月27日の県議会定例会は与党側の一般質問の日でしたが、県が掲げる新年度の目標として「沖縄のソフトパワーを生かした「平和の緩衝地帯の形成」について」が審議されています。
この事についてデニー知事は、「世界の環境を見据えたうえで、沖縄が基地の抑止力に依存しない、人と人が結び合う「平和の緩衝地帯」になる事を目指して取り組んでいく」と説明しています。
また、この日の議会では当然のように宮古島の自衛隊の配備や、石垣島のそれも否定的な議論が繰り広げられています。
このように政府と沖縄県与党のスタンスがますます乖離する環境のなか、3月1日にデニー知事が普天間の危険性の除去のために、安倍総理に生産的な提案が出来ると考える事は出来ませんし、平行線をたどるセレモニーに終わる事は必至です。
(続く)
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コメント
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> いわゆる「サンクコスト論」は選択肢としての対象が俎上にある場合には議論としての有用性があるのですが、「これなら沖縄側もOKだ」という具体的場所も同意の確証もない以上、仮定の領域を往復するばかりです。
そうだと思います。知事がシュワッブに移してくれ、ハンセンに移してくれと具体的に言ってくれれば、経費はかかろうと日本政府は提案を受け入れるべきだとも思います。
> 根本は安全保障観の違いによるものです。もっと言えば世界観の違いによるものでさえあります。
言いえて妙ですね。
> この事についてデニー知事は、「世界の環境を見据えたうえで、沖縄が基地の抑止力に依存しない、人と人が結び合う「平和の緩衝地帯」になる事を目指して取り組んでいく」と説明しています。
デニ-知事のおっしゃる通りです。しかし、それが出来ないのが現実なんですね。こちらも理想論を言わせてもらえば、中国は尖閣の日本領土を奪おうとしないようにして欲しいし、ウイグル族の人権を尊重すべきだし、共産党独裁政治すら止めて欲しいし と続きますよ。
> このように政府と沖縄県与党のスタンスがますます乖離する環境のなか、3月1日にデニー知事が普天間の危険性の除去のために、安倍総理に生産的な提案が出来ると考える事は出来ませんし、平行線をたどるセレモニーに終わる事は必至です。
おっしゃる通りです。
投稿: ueyonabaru | 2019年3月 5日 (火) 11時58分
> いわゆる「サンクコスト論」は選択肢としての対象が俎上にある場合には議論としての有用性があるのですが、「これなら沖縄側もOKだ」という具体的場所も同意の確証もない以上、仮定の領域を往復するばかりです。
そうだと思います。県側から、シュワッブではどうかハンセンではどうなのかと具体的に提案してくるのでなければ政府は決して納得しないでしょうね。
> 根本は安全保障観の違いによるものです。もっと言えば世界観の違いによるものでさえあります。
言いえて妙です。
> この事についてデニー知事は、「世界の環境を見据えたうえで、沖縄が基地の抑止力に依存しない、人と人が結び合う「平和の緩衝地帯」になる事を目指して取り組んでいく」と説明しています。
デニ-さんは理想家です。その理想は賛成ですが、世の中そんなに甘くない。中国が尖閣に侵入しない、ウイグル族を弾圧しない、共産党独裁をしない、 ということにでもなれば、理想実現の可能性も生まれる。
> このように政府と沖縄県与党のスタンスがますます乖離する環境のなか、3月1日にデニー知事が普天間の危険性の除去のために、安倍総理に生産的な提案が出来ると考える事は出来ませんし、平行線をたどるセレモニーに終わる事は必至です。
そうでしょうね。デニ-さん、次に何をするのかな?
投稿: ueyonabaru | 2019年3月 5日 (火) 20時43分
> いわゆる「サンクコスト論」は選択肢としての対象が俎上にある場合には議論としての有用性があるのですが、「これなら沖縄側もOKだ」という具体的場所も同意の確証もない以上、仮定の領域を往復するばかりです。
そうだと思います。県側から、シュワッブではどうかハンセンではどうなのかと具体的に提案してくるのでなければ政府は決して納得しないでしょうね。
> 根本は安全保障観の違いによるものです。もっと言えば世界観の違いによるものでさえあります。
言いえて妙です。
> この事についてデニー知事は、「世界の環境を見据えたうえで、沖縄が基地の抑止力に依存しない、人と人が結び合う「平和の緩衝地帯」になる事を目指して取り組んでいく」と説明しています。
デニ-さんは理想家です。その理想は賛成ですが、世の中そんなに甘くない。中国が尖閣に侵入しない、ウイグル族を弾圧しない、共産党独裁をしない、 ということにでもなれば、理想実現の可能性も生まれる。
> このように政府と沖縄県与党のスタンスがますます乖離する環境のなか、3月1日にデニー知事が普天間の危険性の除去のために、安倍総理に生産的な提案が出来ると考える事は出来ませんし、平行線をたどるセレモニーに終わる事は必至です。
そうでしょうね。デニ-さん、次に何をするのかな?
投稿: ueyonabaru | 2019年3月 5日 (火) 20時44分