F35の事故が起きましたが、どうぞ冷静に
空自の最新鋭機が墜落し、現時点ではパイロットは見つかっていません。危険な夜間の訓練で、ミッション・アボート(mission abort 任務中止)を宣言した後の事故でした。
パイロットのご無事を心からお祈りいたします。事故原因については詳細が発表されていませんので、またわかりましたら記事にするかもしれません。
CNN https://www.cnn.co.jp/world/35135550.html
「三沢基地所属の航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F35が太平洋上で消息を絶った件で、防衛省は10日、同機が墜落したと明らかにした。同機は9日、三沢基地から他のF35戦闘機3機とともに訓練飛行に出発したが、東約135キロの太平洋上で通信が途絶えた。防衛省によれば、10日午前、機体の残骸の一部が発見された。
捜索チームが尾翼の一部を回収した。日米が行方不明となったパイロットの捜索を続けている。
日本は昨年12月までにA型105機、B型42機の調達を決めた。不明機を含む三沢基地の十数機は先月末に運用を開始したばかりだった。
昨年9月には米海兵隊のF35Bがサウスカロライナ州で墜落した。米国防当局は燃料管の不具合が原因との見方を示し、F35の運用を一時的に停止して検査を実施した」(CNN4月10日)
また、大規模な捜索を日米が連携しておこなっています。グアムのB52までが捜索に加わったのには驚きました。
これはB52が暗視能力のあるAN/AAQ-33スナイパーポッドを装備しているからと、夜間長時間の捜索が可能だからです。
「今回墜落したF-35Aは、アメリカ国外で組み立てられた機体で初めて墜落した機体でもあるため、原因追求のために日米はなんとしても機体を発見、回収したいのが本音でしょう。実際、米軍も捜索に艦艇や航空機を投入しており、過去の自衛隊機墜落でここまで米軍が捜索に加わったのは記憶にありません」(石動 竜仁)
https://news.yahoo.co.jp/byline/dragoner/20190411-00121862/
落ちたのは三沢基地の東約135キロのEEZで、相当に深い深度に沈んだと思われます。回収は難航するでしょうが、空自は意地でも引き上げをするでしょう。
「空自によると、機体は水深約1500メートルに沈んでいる。引き揚げは難航が予想され、回収できたとしても、機体の部位によっては保全上、公表されない可能性もある。米軍は三沢基地の哨戒機P8ポセイドンと横須賀基地(神奈川県)配備のイージス艦「ステザム」を現場に派遣し、捜索に協力している。墜落現場付近にロシアや中国の軍用機や艦船が接近しないか警戒する目的もあるとみられる。」(時事4月12日)
危惧としては、ロシアや中国がサルベージして最新鋭機の機密を調べることですが、「今回のF-35Aは海に墜落したとみられていますが、その場合は衝撃かショートによって電源が絶たれるでしょうから、既に機体から重要なソフトウェアは消えている」と思われます。(石動前掲)
さて、いくつかの疑問について考えてみましょう。
ひとつは当然この事故がどうして起きたのかということでしょうか、なんとも言えません。情報が不足しているからです。
考えられる可能性としては、空間識失調(バーティゴ)をパイロットが起こしたのではないかという説です。
このF35の訓練に3機が出たという報道がありますから、おそらくなんらかの夜間における空中戦の訓練をしていたものだと推定されます。
きわめて危険な訓練です。
なぜなら、パイロットは水平線が見えない状況、言い換えれは、昼と違って空と陸の区別が突かない漆黒の闇の中を飛んでいるからです。
その場合、パイロットは視界情報がないわけですから、身体の感覚と実際の姿勢が乖離したままになることがあります。
空間識失調 - Wikipedia
この現象は濃霧などの悪天候や夜間に起きます。
去年2月には、浜松基地の救難ヘリが空間識失調と思われる原因で墜落しました。
「航空自衛隊浜松基地(浜松市)の沖合で2017年10月、空自のUH60J救難ヘリコプターが墜落し4人が死亡した事故について、空自は機長が機体の態勢を正しく把握できなくなる「空間識失調」に陥ったことが原因とする調査結果を公表した。
空自によると、事故機は離陸から約10分後、異常な速さで降下を始め、約45秒後に墜落した。この間、墜落回避の操作は一度も行われていなかった。
空自は機長が空間識失調に陥ったと推定。高度が低いことを伝える警報音に対応できなかったことや、高度計などを十分に確認していなかったことが原因と判断した。(日経2018年2月18日)
また夜間には、星空と地上の光源の違いがわからずに、気がついてみたら背面飛行していたり、上昇するつもりで降下してしまうことがあります。
http://pilot-sunaga.com/post-1842
浜松の救難ヘリのパイロットはレスキュー・パイロットとして十分にベテランでしたし、今回のF35事故のパイロットも全国の空自から選抜されて新鋭機を任され、今回も編隊長を努めていました。
レスキューパイロットは、ヘリパイロットで最高の腕と経験が備わっていないと任されませんし、今回のF35パイロットも40代の三佐で「飛行時間約3200時間のベテラン、F35の飛行時間は約60時間」(時事前掲)でしたから、共に教官クラスの腕だったはずです。
それでもなお、事故はあり得るのです。
なぜなら、戦闘機パイロットはぎりぎりまで機体の性能を絞り出すような訓練をしないと、実際の役には立たないからです。
夜間だからといって外国軍隊が来ないということはありません。
だからいついかなる状況が起きようと日本を守るために万全を尽くさねばなりません。
そのために自衛隊はあるわけです。
かつて空自のF15Jのパイロットだった人は、このように今回の事故について述べています。
「航空機はどうしても事故が起きるのです それは自動車や電車等と同じ だから事故を起こさないようにみんなが最善の努力をする 戦闘機はより厳しい環境で性能範囲ぎりぎりで飛行する事もある だからパイロットは訓練し、自身の技量や機体不具合には非常に敏感 完璧な機械は存在しないと思っています」
https://twitter.com/FlyTanuki
先日にも書きましたが事故は起こり得ます。だから機体の整備を万全に整える努力をするし、パイロットも高い技量を要求されます。
しかし、それでもなお防ぎようがない事故が起きたとしても、地上への被害がない海上で訓練を行っているわけです。
またよくある誤解に、F35はスティルス戦闘機だからレーダーに写らないから、そんなものが飛んでいたら民間航空機が危険だというも気がありますが、間違いです。
F35は通常の訓練やスクランブル時には、あえて3箇所にレーダー反射板をつけて「見える」ようにしています。
https://twitter.com/masa_0083
メディアや一部団体はこの事故でF35に「危険機」というレッテルを貼ると思われますが、冷静になってパイロットの消息と事故報告を待つべきです。
« 万国津梁会議のメンバーでバレたデニー知事の「対案」の中身 | トップページ | ダメ大臣は説明能力がない »
自衛隊員の日夜のご勤務、ありがとうございます。
投稿: ueyonabaru | 2019年4月11日 (木) 11時55分
パイロットの3佐が見つからない(涙)
カーボンコンポジット製の尾翼が浮かんでるのが確認されたようですが、機体は海の底でしょうね。
4機で上がってますから、2対2の夜間空対空戦闘の訓練かと思われます。
壊れかたから超低空ASM発射訓練との憶測も出ていますが、135キロ沖でのことではそれでは墜落時には三沢のレーダーでは映らないかと。。
「訓練中止」宣言から機影が消えるまでの時系列なども発表されていないので、まだなんとも言えません。
バーティゴもありえますし、何らかの機体・エンジン等またはソフトウェアのトラブルの可能性が起きた可能性が高いのでは?と。
いずれにしても情報不足ですので、私も憶測の域です。
これまでF-35は昨年海兵隊のB型が着陸ミス以外に墜ちていませんので、A型の墜落は初になります。
世界中でF-16やF-18の更新に導入されつつある機体なので、衝撃はおおきいですね。
原因究明が待たれます。。
ただし、機密の塊のような代物なので「政府や自衛隊は情報を隠してる!」なんて批判はすべきではありませんね。
投稿: 山形 | 2019年4月11日 (木) 16時15分