香港、中国による自由破壊に抵抗する
香港で巨大なデモがありました。
「事件を起こしたあと、香港に逃亡してきた容疑者の身柄を中国本土などに引き渡すことができるようにする条例の改正案をめぐって、これに反対するデモが9日行われ、中心部の道路が埋め尽くされるほどの市民が集まりました。
香港政府は、香港の外で事件を起こしたあと、逃げて来た容疑者について、個別に身柄の引渡し協定を結んでいない中国本土などに引き渡すことができるようにする条例の改正案を議会に当たる立法会に提出し、審議が行われています。
本会議での審議が12日から始まるのを前に、民主派の団体がデモを呼びかけました。
民主派の政党や団体は「中国の当局が事件をでっちあげ、香港で中国に批判的な活動をする人などの引き渡しを求めるおそれがある」などとして、改正に猛反発しています。
集まった人たちは「悪法を撤回せよ」「市民を中国に引き渡すな」などと声を上げています」(NHK6月9日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190609/k10011946611000.html
そのデモの風景ですが、まさに「埋めつくす」という言葉そのものです。主催者発表で103万人、警察発表で24万です。
これは97年の中国への主権移譲以来、文句なく最多です。
スペースをとりますが、あえて縦アングルでアップしておきます。その迫力がお分かりいただけるかとおもいます。
香港の人口は707万1576(2011年現在)ですから、警察発表でも35人に1名が参加したことになります。
ではこれだけの人たちが危機感を持ったのはなぜでしょうか。
身柄引き渡し条約が中国との間で結ばれる可能性が高まったからです。
「条例改正案は香港が中国などの要請に基づき、刑事事件などの容疑者拘束やその身柄を中国への引き渡しを可能とする内容。反対運動が拡大しているのは、条例改正によって、中国の国内法が実質的に適用され、香港の一般市民も中国の治安当局の取り締まり対象になる恐れがあるためだ。
香港の経済界は、自治の後退によって世界の経済・金融センターとして香港のの地位が低下することを懸念。米中貿易摩擦が激化する中、中国と同化が進むことによって香港も対中報復措置の標的となることを警戒している」(産経6月10日)
https://www.sankei.com/world/news/190610/wor1906100014-n1.html
この引き渡し条約が成立すれば、事実上、中国は国内法で香港の人たちを裁くことが可能となります。
たとえば香港には新疆ウイグル自治区の収容所列島化に対して反対する民主活動家がいますが、これは中国国内法では「国家の治安を乱した罪」となってしまい、拘束され短期の裁判で収容所送りとなります。
武装警察の手を逃れた場合でも、容疑者として指名手配され、草の根を分けても探しだされるでしょう。
中国の世界最先端の住民管理システムがものを言うことになります。
ところが、この14億人を「電子の檻」に入れたこの住民管理システムも、ひとつだけ盲点がありました。
それが香港です。
中国公安の追及は香港にまで及ばないのです。香港は、建前上の主権は中国が握っていますが、1997年の旧宗主国の英国との国家間条約で50年間は自由主義経済と民主主義制度を守ることが決められていました。
したがって、米国が米国・香港政策法で規定しているように、中国政府とは分けて捉えられる「別の地域」なのです。
いまでも香港はオリンピックなどに中国としてではなく「地域」として独自参加しています。
香港「地域」旗
従来は、民主運動家が香港住民だった場合や、あるいは香港に逃げ込めば、中国公安のあぎとから逃れることができました。
英国の置き土産の一国二制度で民主主義が保証されていたからです。
香港は香港の刑事法で判断し、拘束するかどうかを独自に判断することが可能でした。
これがこの引き渡し条約が出来てしまえば、不可能になります。
中国には近代的な法制度がありませんから、三権分立などというシャレたものは薬にしたくともカケラもありません。
政治が立法・司法のすべてに優先し、政治とはイコール共産党のことです。
欠席裁判は常態化していますから、仮に被告人が香港人だった場合も、被告人も弁護人がいない法廷で検事が求刑し、即刻裁判官が判決を言い渡してワンラです。
このような欠席裁判を裁判とは呼びません。欠席裁判は、いうまでもありませんが、権力犯罪の温床です。
今回のデモに多く参加したといわれる香港商工人たちにとって、この条約が適用されれば、中国国内の共産党がご都合主義で決めている粗雑な「商法」に抵触した場合、香港に居ても逮捕され、本土に送られることになります。
この条約が成立すれば、中国の法の支配下に香港の自由は置かれることになり、一国二制度は事実上消滅します。
1997年以来、中国共産党は目の上のたんこぶの香港をなんとか骨抜きにしようとしてきました。
50年どころかその半分にみたない時間で香港の自由が骨抜きにされたことを警戒した英国議会は、2016年に一国二制度の検証を要請しましたが、中国から拒否されてしまいました。
中国は英国に香港の民主主義の崩壊の実態を見せたくなかったのです。
この22年間は、自由を奪おうとする中国政府と、自由を守ろうとする香港の住民との闘争の歴史でもありました。
象徴的な事件は「銅鑼湾書店」のケースです。
「以後、香港は真綿で首を絞められるように徐々に自治を失い、「一国両制度」の原則が守られず、言論活動はすっかり窮屈になってしまった。
「銅鑼湾書店」事件では、習近平批判本を連続発行してきた書店のオーナー、社長、従業員ら五人が拘束された。
オーナーはなんとタイのリゾート地で拉致され、中国に連行された。主権侵害、強権政治と、抗議活動が展開された。しかし銅鑼湾書店は閉鎖に追い込まれ、批判の自由は奪われ、銅鑼湾は広報、出版活動の場を台湾へ移管するとした」(宮崎正弘6月10日)
香港言論の大黒柱だった「サウスチャイナ・モーニングポスト」は、現在は中国資本のアリババが最大株主ですし、頑固な自由主義者である頼智英が主宰するリンゴ日報も数々の暴力事件にさらされ、広告主に中国が圧力をかけたために経営的な窮地に陥っています。
台湾もそうですが、大部分のメディアは中国資本の支配下に買収されてしまいました。
https://withnews.jp/article/f0170701002qq000000000
そしてこのような中国の圧迫に反対して立ち上がったのが、香港青年たちによる2014年の雨傘革命でした。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/post-4aa2.html
その期間は実に2014年9月から79日間も続き、その間の逮捕者は、955人に達しました。
また事後逮捕も、指導的人物らが48人が逮捕されています。
香港、ガンバレ!
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コメント
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これから情報謀略戦が激しくなると思います。今まで、中国が一方的に買収したり、国家的巧妙に洗脳してましたが、米国はこの分野でも反撃に出て、民主化運動グループ、ウイグル・チベットなどの反中国独立グループに公然と協力し、またC IAや様々な工作員も総動員されると思います。
しかし、この分野は4千年の謀略技術のある中国も相当したたかだと思います。
投稿: オイラー | 2019年6月11日 (火) 07時54分
これだけ大規模のデモであるにもかかわらず、報道は控えめです。
法の問題点が理解できるような解説もほとんどない。だから香港市民が何に怒っているか、どうしてデモをやっているのか非常に分かりずらい構造になっています。
日中の関係改善に水を差すような報道を手控える方向性は、読売でさえ一致していると思います。
中共はすでに行政長官や立法府議員の選出に介入していて、それで誕生した行政府は通常手続きを無視して成立を急ぎました。
香港の民主主義にもとづく法体系は中共の独裁法に組み入れられ、裁判官の独立性は失われ、さらなる自由への弾圧は強まります。香港の独立的地位の完全崩壊も間近です。
今回のデモでは雨傘デモに比して、普段であれば香港や中国の当局と大っぴらに対立することを嫌うビジネス界や体制派にまで拡大していて、法曹界や学校・協会グループなども法案に反対しています。けれど、成立は時間の問題と思います。
安倍総理はG20において、中共問題を念頭においた国際法での新たな縛り案を提出するようですが、そういったものはすでに意味がないように思います。
もはやトランプ方式だけが残された道のようで、それでもトランプ氏がどこまで信用できるか、これもまた疑念が残り、国際社会はじめ日本が一致できない一因かと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2019年6月11日 (火) 09時20分
香港の自由が奪われることはなんとしても阻止したい。香港は中国のかすかな希望でもある。この希望の灯が消えないことを切に願う。
トランプ大統領が貿易戦争により中国をいためつけて中国の国力を削ぎ弱体化させ、共産党支配の一党独裁を終わらせてもらいたい。トランプさん良くやってくれているが、どこまでやれるのかホント期待している。
貿易戦争ではf中国が傷つくだけでなくアメリカにも害は及ぶ。邪悪な中国を倒すためにはアメリカ国民の忍耐、我慢を望む。日本も我慢してアメリカに付き合おう。
香港も未来の光明を目ざし頑張ってくれ!
投稿: ueyonabaru | 2019年6月11日 (火) 20時57分