ホルムズ海峡タンカー襲撃事件その3
イラン革命防衛隊が疑惑をもたれているタンカー襲撃事件をジミーに書いていたところ、米軍の無人偵察機が落とされる事件が発生しました。
まずはそれから。
「イラン革命防衛隊は20日午前、イラン上空でアメリカの偵察ドローン(小型無人機)を撃墜したと発表した。
国営メディアによると、革命防衛隊は南部ホルモズガン州のクモバラク付近で、「RQ-4グローバルホーク」を撃ち落したという。
米軍はドローン撃墜を確認していないが、米中央軍のビル・アーバン海軍大佐はロイター通信に対し、「本日、イラン領空を米軍機が飛行した事実はない」とのみ答えた。
クモバラクは、海上交通の要衝のホルムズ海峡に近い。
ホルムズ海峡に近いオマーン湾では今月13日、タンカー2隻が攻撃される事件があり、米政府はイランによる機雷攻撃だと断定している。
イランは一切の関与を否定している」(BBC6月20日)
https://www.bbc.com/japanese/48701714
今回の米国のドローン撃墜位置について、イランと米国の主張が13マイル(約20㎞)離れています。
米国は領空侵犯を否定しています。
US: 25°57'42.0"N 56°50'22.0”E
Iran: 25°59’43"N 57°02’25”E
https://twitter.com/JackDetsch_ALM
真相は藪の中ですが、トライトンを使って領空侵犯はやらないでしょう。
これは別に米国がドローンを使って他国領空を侵犯しないという意味ではなく(別な機体を使って、世界中でしょっちゅうやっていますので)、あんな大きい機体ではやらないという意味です。
革命防衛隊の発表ではRQ-4グローバルホークとなっていますが、実際に撃墜されたのは米海軍の大型無人機MQ-4Cトライトンです。
グローバルホークの元祖ですが、ともかく大きい、高い、のろい。
写真を見ていただきましょう。空飛ぶクジラです。
MQ-4Cトライトン https://twitter.com/tnak0214
ね、こんなこんなバカデカイものを、それじゃなくても濃密な対空ミサイル網を持ち、米軍機を見たら撃ちたくてたまらないイランに侵入させるわきゃないでしょう。
トライトンは領空に入らなくても、警戒監視が可能な機体です。
またこのトライトンの仕事は、海軍が海洋監視用で運用していることからわかるように、公海上をパトロールすることであって、敵対国家の奥深く潜入することではありません。
例の「謎の武装集団」が小型船舶でタンカーに乗り付けた夜間写真は、これが撮ったのかもしれません。
ですから、イランの領空侵犯されたとする主張は眉唾です。
大いに目障りで、やることが丸見えですから落としたくてたまらなかったのでしょう。
ところでイランという国は、こういう外国機を撃墜したという事例を国防省が発表するのではなく、革命防衛隊(IRGC) というわけのわからないといってはナンですが、他国に類例がない軍事組織が発表をする国です。
イラン以外で、こんな軍事組織を聞いたことがありますか?
革命防衛隊は、その名称で分かるように、強烈に宗教的、かつ熱烈に政治的な軍事組織です。
一方、もちろんイランにも「イラン・イスラム共和国軍」という正規軍が存在します。
これは米軍や自衛隊と同じで国際的に「軍隊」として認知されています。
イラン革命防衛隊は正規軍並の強力な武器を与えられていて、陸海空軍もひと揃え持っていますが、だから革命防衛隊がいわゆる「軍隊」なのかといえば、はてね?です。
というのは革命防衛隊は、「イスラム党の軍隊」だからです。私兵といってもいいかもしれません。
それはこの組織の誕生をみればお分かりになるでしょう。
革命防衛隊が出来たのは、あのホメイニ師らによるイスラム革命の時でした。
その時、正規軍はパーレビ国王に忠誠を誓い、イスラム革命に反感を持っていました。
これは正規軍としては常識的判断で、革命勢力にいきなり加担してしまうような正規軍には危なくって国防なんか任せられませんものね。
特に中東では軍はもっとも強固な社会集団です。
それに対してイスラム革命勢力はイスラム僧侶に率いられた有象無象の寄せ集めにすぎませんから、革命を起こしたのはいいが、それが存続できるか怪しまれていたのです。
そこで出来たのが革命後の体制を守るための軍事組織・イラン革命防衛隊でした。
下の写真は、1979年に起きた米国大使館占拠事件の時のものですが、ここに写っている戦闘服の連中が革命防衛隊です。
どうみてもゲリラか山賊です。
ハフィントンポストhttps://www.huffingtonpost.jp/2014/11/13/photos-iran-1979-revolution_n_6150404.html
それがイスラム革命後に続くイラン・イラク戦争を経て巨大化してしまいました。
あのイ・イ戦争で、前線にホメイニ師の写真を掲げて、ろくすっぽ訓練も受けていない青年を大量に送り込んだのが、この革命防衛隊でした。
歴史的に類例を探すとすれば、ロシア革命の赤軍、あるいは中国革命の紅軍に似ていますが、これらは革命が成就した後には正規軍化していくのに対して、イランは正規軍と異なった命令系統を持った別組織の軍事組織として巨大化したのですからややっこしい。
これは革命国家イランが正規軍を信用していないために、お目付役が欲しかったからです。
ですから、内務省軍の管轄の国境管理もするし、軍警察の仕事である治安維持もおこなっています。
ここまで手を拡げたために、現在では兵力12万で陸海空軍を持ち、正規軍とほとんど変わらない装備と予算を持ってしまいました。
ただし、かつての革命のゴタゴタから誕生した性格から、正面戦よりも非正規戦、つまりゲリラ戦争のほうが性に合っているのは致し方ありません。
この辺は北朝鮮の人民軍が特殊部隊を軍団単位で持っているのに似ています。
ちなみち北朝鮮とイランは、弾道ミサイルや化学兵器、はたまた核兵器開発で切っても切れない仲です。
よくイランは親日国という言いかたをしますが、こういう日本にとって有害なダークサイドもあることをお忘れなく。
今回のタンカー襲撃事件でも、正規軍と変わらない哨戒艇に乗りながら、制服も着用せずに吸着機雷をいじっていました。
攻撃方法もこういうゲリラコマンド的なやり方がお好きです。
また、多くの革命国家がそうであるように、革命を脅威と考える周辺国家によって反革命干渉されたことから、逆に「革命の輸出」をして転覆してやろうとしてきました。
ロシアは世界規模で国際共産党組織(コミンテルン)を作りましたし、中国も東南アジア各国に共産党を扶植することに熱心でした。
イランもまたパレスチナ、レバノン、イエメン、イラクなどの反政府勢力に大量の武器弾薬を供給して、紛争をこじらせています。
シリアでは、アサドという暴虐非道な政権にロシアと共に肩入れして、いまや国を乗っとらんばかりです。
とまれ、国の中に別系列の軍事組織が2本立てである、という奇妙奇天烈な国がイランなのです。
正規軍と決定的に異なるのは、彼らはイラン政府の指揮・管理下にありません。
彼ら革命防衛隊が忠誠を誓うのは、かつてはホメイニ師であり、今はその弟子のハメネイ師に限られるのです。
よく「精鋭部隊」と評されていますが、戦闘に強いいうわけではなく、ハメイニ直属だという意味です。
ですから、今回のタンカー襲撃事件が、そのままイコールでイラン政府の国家意志なのか否かは判然としません。
推測の域を出ませんが、違うはずです。
穏健派と呼ばれる大統領流は今の革命防衛隊が、中東であまりにも多くの紛争の種を蒔いたことに困惑しています。
核開発も、トランプから売られたケンカをいたしかたなく買っているわけで、なんとか日本に仲立ちしてもらいたいという気分があるはずです。
なにがなんでも核開発驀進というのではなく、イスラエルが核保有国な以上、対抗してイランも保有するしかないだろう、という温度です。
トランプが安倍氏に期待しているのは、穏健派をこちらに引き込み、革命防衛隊のようなハネ上がり"Loose and stupid"(トランプの表現ですが)を浮き上がらせて孤立に導くことでした。
その意味で、このタンカー襲撃事件は日米にとって「敵失」に等しいミスだったともいえるわけです。
ところでこの襲撃事件を、革命防衛隊自身は否定しており、元の指揮官はこんなことを述べています。
「対テロ作戦などを担当する精鋭部隊、イラン革命防衛隊のキャナニモガッダム・ホセイン元司令官(60)は13日、首都テヘランで産経新聞の取材に応じ、日本のタンカーが攻撃された事件について、「安倍晋三首相の訪問を反イラン宣伝に利用する狙いで行われたもので、テロ組織が関与した」との見方を示した。
ホセイン氏は、米・イランの軍事的緊張を高める目的で、分離主義を掲げるイラン南東部の反政府組織「ジェイシ・アドリ」などが行った可能性を指摘。同組織は「特定の国の支援を受けていることが分かっており、軍事技術も高い」と話した。
ほかに、イランと敵対関係にあるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカーイダ系などが関与した可能性もあるとした」(産経6月13日)
https://www.sankei.com/world/news/190613/wor1906130035-n1.html
はっきり言って、偽情報です。
イラン内部の分離独立勢力である「ジェイシ・アドリ」やISの可能性はありません。
彼らはタンカーに近づいて吸着機雷を取り付ける船舶もなければ、爆発物撤去の専門技術もないからです。
ありえるとすれば、イエメンのイラン系武装組織フーシ派が、革命防衛隊から船舶と吸着機雷、そしてついでに爆発物の専門家も借りてやるくらいですが、それだとイランがやったのとなんら変わりがないことになってしまいます。
また事件後に、日本のタンカーが日章旗を掲げていなかったから日本船だと分からなかったのだと解説している人がいましたが、バカですか。
こんなことはインターネットで検索すればすぐに分かります。
したがって、今回のタンカー襲撃事件は日本をターゲットにしたテロです。
あえて名指しはしませんが、安倍氏が進めようとしていた融和路線に反対する勢力が、イラン政府とは無関係に実行したものだと考えられます。
昨日の米無人機撃墜もまた、米国との緊張が激化することを狙ったイラン内部の勢力が引き起こしたと考えられます。
かといって無人機相手だというところをみれば、戦端を切る気まではない軍事的アドバルーンといったところです。
トランプもその匙かげんを分かっていて、ツイッターで、「イランの米ドローンの撃墜はbig mistakeだが、それはLoose and stupidな分子によるもので、intentionalではなかった可能性もある」と言っています。
とうぶんの間、このようなさや当てが続くと思ったほうがよいでしょう。
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シーア派はハルマゲドンみたいなのを欲している感じがして、それが怖いです。
親米でない他のイスラム教国も、イラクに代わるリーダーとしてのイラクが核所有する事を容認しているようで、現にイランはウランの濃縮度も貯蔵量も高めると発表してます。
そうなると当然、サウジも核を持つ事になるんでしょう。
こうなった原因を福音派におもねるトランプ大統領に求める向きもありますが、脱キリスト教化した当時のオバマや欧州首脳らこそ欺瞞的だったと思います。
どっちにしろイランは核所有するつもりだったと見る他ありません。
上説のように今回の事件は日本に対するテロだった事はほぼ間違いなく、その意味は日本に「現実的判断をしろ」というメッセージという事になるでしょうか。
それにつけても自前の資源もなく、軍事力発揮の足かせもある日本にとって、むしろその事を活かした調整の仕方が出来るはずと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2019年6月21日 (金) 08時28分
訂正 二行目
× イラクに代わるリーダーとしてのイラクが
〇 イラクに代わるリーダーとしてのイランが
でした。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2019年6月21日 (金) 08時31分
U2事件のように例え領空内で偵察していたとしても否定するのだから
今回も同じようにアメリカが否定しているだけなのでは?
投稿: 中華三振 | 2019年6月21日 (金) 09時39分
宗教戦争だと考えられないこともないですね。山路さんがおっしゃるように、日本の置かれた立場から発言し行動するしかないのでしょうが、安倍さんや自民党の幹部たちは物事の核心をどれほど理解しているのかと思うことがあります。それは宗教の問題だと思うのですが、聖徳太子が仏教を日本に導入したときの覚悟を思い出すべきだと思うのですよ。聖徳太子は仏教導入後には一族郎党が殺されるということがありました。大きなことをなすときには大きな犠牲を払わねばならないことがある場合もあるわけであり、安倍さんにそのような覚悟はあるのでしょうか? 憲法改正や消費税減税もままならない男が・・・・・と思うこともありますよ。
パレスチナに住んでいたアラブ人たちが追い出された恨みは大きいいでしょう。これを解決するためには、かつて国際間で提起されたことがあるパレスチナ人とアラブの人の両国家が並立する方向しかないかと思うのです。トランプ大統領がゴラン高原をイスラエル領として認めたことなどは撤回してもらいたい。日本は、両国家が併存する方向へ具体的に動いてもらいたいな。イスラエルの核放棄もやらないといけないのではないか。
投稿: ueyonabaru | 2019年6月21日 (金) 09時51分
こういう国と国との駆け引きは、ホントにワカリマセン。お互いに
裏の裏を読んで行動しているハズなので、当時国の現場の人間
だけが「たぶん、アイツらはこういうつもりだろ?それ、次の手じゃ」
と、解ったような判らないような鞘当てをしてるのでしょう。悲しい
事に諜報機関を持たない我が日本国は、いつものように各国に
問い合わせするしかない。自前情報が無いんじゃヘタに動けませ
んわ。
確か、イランの歴史は古代ペルシャ以来で、イスラム教を受け入
れた(古代はゾロアスター教)けど、アラブではなくてあくまでペル
シャ(アーリア人)国家で、日本より古い歴史を持つとか聞いた事が
あるなと、手っ取り早くWikiで見てたら、その長い変遷の記述に頭
がクラクラしてきましたわ。バビロン捕囚のユダヤ人を開放したと
か、そんな記述もありました。
おそらく、古代から続く名門国家として、「新参のアメ公に負ける
かよってんだ」ぐらいの矜持があるのでしょう、中国4000年アルヨ
みたいに。意地と意地のぶつかり合いは、私みたいな一般の日本
人が思う以上にあるのだと思いますわ。
投稿: アホンダラ1号 | 2019年6月21日 (金) 22時51分
やはり今回の件は革命防衛隊の暴走でしたか…そういえばトランプが今回のイラン問題の件で国連安保理を招集するみたいですね。中東が一気にきな臭くなってきました。日本はなるべく関わらないほうが得策でしょう。問題はイラン問題で米国の目が中東に行き中国に対する対応が弱まることです。
投稿: 中島みゆき | 2019年6月22日 (土) 11時46分