NPT体制崩壊の危機
韓国の動きもありますが、あまりにも予想どおりなので、先にこちらからやってしまいます。イラン核合意についてです。
わが国は直接にイランの核の脅威下にないので、とかくペルシャ湾を通過するわが国のタンカーだけが論議の対象となっています。
ちょっと待って下さいね。それって近視眼かもしれませんよ。
脅威の方程式というのは、[脅威=意志+能力+距離]で現されますから、わがことのように思えなくて当然ではあります。
いくらイスラエルやサウジがピリピリしていようと、ヨーロッパがハラハラしていようと、米国がイライラしていようと、わが国は他人任せという部分が抜けれまん。
では他人任せにせずに、首相が外交に乗り出したとたんタンカーが攻撃を受けると、むしろメディアは「仲介外交の失敗」なんてニタニタしていました。
なるほど日本は圧倒的に遠いし、しかもイランの世界主要国で唯一の友好国ですので日本がイランから攻撃される心配はない、イランの革命防衛隊が極東まで出張してくるなんてねぇ、といったところです。
せいぜいがところ、米国が日本に対してペルシャ湾を通過するタンカー護衛を言いだすのではないか、くらいが心配の種です。
米国高官は「有志連合艦隊」構想を既に口にしていますから、遠からず日本にも参加を要請されるはずです。
あのトランプの「ニッポン安保ただ乗り論」はこの布石でしたからね。
では、もう少し視野を拡げて見ます。
今、イランがやろうとしている核武装国家への道は、実は北朝鮮の核武装と一体のものです。
世界は東と西から核問題で揺さぶられているということになります。
この両国はそれを別々に追求してきたのではなく、核開発や弾道ミサイル開発でさまざまな連携を繰り返してきました。
たとえば正恩がトランプを直接首脳会談に引っ張りだした(と思っている)長距離弾道ミサイル火星14の2段目エンジンにはイランのロケットエンジンが搭載されていたと、米国は分析しています。
火星14
「イランは北朝鮮と協力している」。トランプ米大統領は23日、ツイッターにこう投稿した。イランが同日発表した新型弾道ミサイルの発射実験に強い危機感を示した。イランと北朝鮮は核・ミサイル分野の協力を公表していないが、米欧の情報機関は両国の連携は「疑いがない事実」(西側外交筋)とみる。
米国の核不拡散問題専門家ジェフリー・ルイス氏は7月、北朝鮮メディアの記録映像の分析から、同国が同月に発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の2段目にイランの衛星打ち上げロケットと同じエンジンが使われていると結論づけた。
イランと北朝鮮は1980年代から長年にわたってミサイルなどの軍事技術協力を続けた経緯がある。イランの中距離弾道ミサイル「シャハブ3」は北朝鮮製の「ノドン」を基に開発されたとされる。イランが23日、発射実験に成功したと発表したミサイルも北朝鮮製「ムスダン」と多くの類似点が指摘されている」
(日経2017年9月26日)
https://www.nikkei.com/article/DGXKASGM25H7R_V20C17A9FF1000/
また弾道ミサイルだけにとどまらず、核開発そのものにも北朝鮮は深く関与してきました。
下の写真は、2017年にイランを訪問した金永南常任委員長とロウハニ大統領を労働新聞が報じた時のものです。
「イランの核問題は2002年、反体制派が開発している疑いがあると公表したことに端を発する。以来、北朝鮮と協力している可能性がしばしば指摘されてきた。 米議会調査局が16年に公表した報告書は、当局者の情報として、両国が00年代に「核の父」として注目されたパキスタンのカーン博士のネットワークから、ウラン濃縮に関連する設計や材料を獲得したとしている。
両国は核兵器製造や爆発実験のデータなどに関する情報を交換してきた恐れがあり、「イランは北朝鮮の核兵器開発の支援に対し、現金や石油を支払ってきた可能性がある」と指摘した。未確認ながら、イランの要人が北朝鮮の核実験を視察したとの情報にも言及している」
(産経2018年5月9日)
https://www.sankei.com/world/news/180509/wor1805090049-n1.html
この両国は今まで反米の絆で強く結ばれてきましたが、トランプとの直接対話に乗り出した正恩と、対話を拒否するイランとどこまで外交方針の一致があるのか、現時点ではわかりません。
今や問題はむしろ、この両国の核武装化によってNPT(核兵器の不拡散に関する条約・Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons )体制 が崩壊の危機に瀕していることです。
核拡散防止条約 - Wikipedia
NPT体制とは、煎じ詰めれば、国連安保理の常任理事国(P5・米露中英仏)のみが核保有する権利を独占する体制のことです。
ですから裏返せば、このP5が責任を持って核き使わないから、ほかの国は持つなということになります。
朝日2015年5月18日 https://www.asahi.com/articles/photo/AS20150511000251.html
もちろん不平等条約に決まっています。
全世界は圧倒的な核の力を持つ核保有国と非保有国に色分けされるわけですから、核を持たない国は核保有国の「核の傘」の下に入るか、丸腰のすっぽんぽんになるかの2択だけしか選べないからです。
つまりは、実質米国の陣営に属するか、中露の従属下に入るかしか選びようががありません。
ただし、大国同士がこのブログでも何回かお話してきた相互確証破壊(MAD)という千日手みたいな力関係に入ってしまったために、通常兵器を用いた戦争は起こらなくなってしまいました。
仮に戦後社会が反核運動家の言うとおり「核なき世界」だったら、第3次大戦は通常戦争として必然的に勃発したことでしょうから、核にも多少の功徳はあるのです。
冷戦が盛んだった時にはこのP5が核を独占するNPT体制でうまくいっていたのですが、冷戦が終結し中国が台頭するに至っておかしくなりました。
核保有国はいわば「警官」として世界の安全保障の守護者でなければならないはずです。
だからP5は警官の拳銃よろしく核を持つ権利が与えられていたのです。
警官は自分以外が拳銃を持とうとすると、家宅捜索をして摘発しますね。
それと一緒で、警察の銃刀法にあたるのがNPT条約であり、監視機関がIAEA(国際原子力機関)です。
この警官が責任をもって拳銃、つまり核兵器を持てるNPT体制が冷戦の終結と共におかしくなりました。
ロシア親分をやっつけた気になっていた米国親分は対テロ戦争で消耗し、それに代わって現れたのがやる気ムンムンの中国だったからです。
出典不明
なんせチャイナが目指すのは、米国に匹敵する中華帝国建設ですから、警官の義務は無視し、特権的に許された拳銃をカサに着て自国のエゴを押しつけ始めました。
たとえば南シナ海の岩礁を埋め立てて軍事基地を作り、今やミサイルや航空基地や軍港を建設するまでになっています。
そしてあろうことか、国際司法仲裁裁判所がそれを認めないと、判決を紙屑呼ばわりして従わないのですから傲慢も極まれりです。
ウクライナに侵攻したロシア軍 出典不明
原油で潤って帝国の復活を目指すロシアまでがこれを見て、ウクライナに侵攻するありさまで、これでは警官が率先して犯罪を犯しているようなもんです。
この中露がいくらNPTを守れと言っても、それはオレは無法を働いてもいいがお前はダメだ、オレの属国になれ、と言っているに等しいことになります。
中国が北朝鮮にハンドリングが効かないのは当然で、正恩に言わせれば、「習同志、あなたを模範にしているのに何でオレだけダメなんすか」といったところでしょう。
イランにしても同じで、なぜオレだけがという不条理な気分はいつも持っているはずで、国連安保理で中露が味方になってくれているので反感が米国のみに向けられているのです。
http://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=87353
またもうひとつの問題は、すっかり北とイランの影で忘れられていますが、インド、パキスタン、イスラエルも核保有国なことです。
この3カ国はNPT条約を批准しなかったために、番外地となっています。
このうちインドが核武装したのは、隣国の中国が原爆をちらつかせる恫喝外交をしたことに対しての核抑止でした。
核を持たない限り、中国の意のままになるしかありませんからね。
するとインドの宿敵である隣国のパキスタンも核保有に走りました。
おそらくインドの核保有を喜ばない中国が核技術を提供したものだと思われます。
さらに、このパキスタンから核技術がズルズルと流出し、世界に流れ出していったのです。
「6月15日、米国のワシントン・ポスト紙のが、パキスタンのカーン博士の「核の闇市場」関係者がミサイルに搭載可能な核兵器の設計図を持っていたと報じました。この記事は、米国のNGO「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のデイビッド・オルブライト所長の報告書のドラフトに基づくものです。同報告書が翌16日、ISISのサイトに載りました」
(核情報http://kakujoho.net/susp/sws_khn.html)
北朝鮮やイランが狙っているのは、この印パのような地位になることです。
一方、二度とNPT番外地を作るつもりはないというのが、米国の意志なのです。
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