習近平の香港鎮圧宣言
引き続いて香港について書きます。
先日7月22日、李鵬元首相が死亡しました。
この人物がいま改めて注目されているのは、この人物こそ1989年6月に起きた天安門事件で、当時、中国共産党の実権を握っていた鄧小平氏の下で、民主化運動への武力弾圧の指揮を執ったからです。
晩年の李鵬元首相 出典不明
李は天安門事件の前年に首相となり、以後10年間の長期政権を務め、以後は全国人民代表大会委員長などを歴任しました。
彼は元来、電力関連のテクノクラートで、世界最大にして最悪の環境汚染を招いた三峡ダムの建設は彼の仕事です。
また、いわゆる「太子党」の頭目株で、自らの息子娘も電力関連の国有企業の幹部や大臣に押し込むみ、政財界で特権的地位を占めるマフィアを作り上げました。典型的な縁故資本主義です。
おそらく不正蓄財は数兆円規模に登り、その大部分は外国の金融機関に預けられていると言われています。
さて、今回の李の葬儀は厳戒体制の下に行われました。いかに不人気なのか分かります。
「【北京=比嘉清太】今月22日に死去した中国の李鵬・元首相の葬儀が29日、北京市郊外の八宝山革命公墓で行われた。1989年6月の天安門事件で民主化運動への武力弾圧に関与した李氏に対する民衆の抗議行動が起きないように、当局は厳戒態勢を敷いた。(略)
公墓周辺では多数の警察官が配置され、通行人に身分証を提示させるなど警戒にあたった。付近のガソリンスタンドは当局の指示で営業が一時中止となった」(読売7月29日)
https://www.yomiuri.co.jp/world/20190729-OYT1T50225/
そして葬儀において習はこう述べたとされています。
「中国国営の新華社通信は、追悼記事において「断固とした措置で動乱を止め、反革命暴乱を鎮めた」と李氏の「功績」をたたえている。中国共産党は天安門事件を国民の記憶から消し去ろうとしており、新華社の記事にも「反革命的暴乱」について具体的には書かれていないが、当時を知る人が読めば天安門事件のことを指していることは明らかだ」(広岡延隆 日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/072500565/
ではこの李の最大の「功績」とはいったいなんでしょうか。
それは中国本土において民主化運動の息の根を止め、代わって右肩上りの経済成長によって不満を押さえ込んだことです。
李自身は、開放改革路線に懐疑的な「保守派」でしたが、結果として共産党が主導する資本主義路線の道を作ってしまったことになります。
その意味で、李こそ「ブルジョワ的自由主義」を鎮圧し、共産党独裁下の国家資本主義を作った「功労者」ということになります。
石平氏は葬儀における習近平の発言に注目してこのように述べています。
「それが故に、李氏は現役の時でも引退してからも、国民の間では大変不人気であって争議の多い人物である。その彼が死去に際し、習近平政権から上述のような高い評価を受けたことは実に意外に思われるが、それは、習政権と習近平主席自身の政治的スタンスを表している。つまり習主席はこれで、自分自身がトウ氏や胡耀邦氏らの党内改革派・開明派よりも、李鵬氏のような保守・強硬派勢力の政治路線の後継者であることを内外に宣言したのである。
(石平のChina Watch】訃告に込めた「鎮圧宣言」)
https://www.sankei.com/column/news/190801/clm1908010005-n1.html
香港民主化デモ 出典不明
本来は李と激しい党派闘争を繰り広げてきた関係の習が、この時期に李を顕彰する理由はいうまでもなく、香港で天安門事件に継ぐ第2の民主化デモが起きたからです。
7月21日には、香港全人口700万人のうち実に200万人が参加したといわれる規模の集会が開かれ、毎週数十万人規模の集会が絶えることなく続きました。
彼らの掲げた「五大訴求」には、当初の逃亡犯条例改正案の撤回や林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の退任などに加えて、最も中国政府が嫌がる「真の普通選挙の実施」が加わりました。
これは香港民主派のかねてからの要求で 香港においては大陸政府の指名する立候補者しか事実上立候補できず、親中派だけが政権を独占する仕組みが存在したからです。
中国共産党は香港民主派の要求に、この自由選挙要求に加わったことで逃亡犯条例の撤回だけでは済まず、これが第2民主化運動まで突き進む性格だと悟ったようです。
改めて李の葬儀における習の発言をみてみましょう。
「1989年春から初夏までの政治風波(騒動)に当たり、李鵬同志は旗幟(きし)鮮明にして、政治局大多数のメンバーとともに果敢なる措置を講じて動乱を制止し反革命暴動を鎮め、国内情勢を安定化させた」
石平のChina Watch】訃告に込めた「鎮圧宣言」
https://www.sankei.com/column/news/190801/clm1908010005-n2.html
これは今までの天安門事件を記憶の彼方に追いやり、口にすることすら許さなかった中国共産党の姿勢とは大きく異なっています。
石平氏によれば、この天安門事件の命令を下した鄧小平の死去に際してすら、「政治風波」という柔らかな表現にくるんで「反革命暴乱静めた」などというそのものズバリの表現を避けてきました。
今回、習が改めて「反革命暴動乱を鎮圧」すると発言したことは、とりもなおさず第2民主化運動の様相を帯びた香港デモに対する鎮圧の意志を示したことになります。
「習近平政権はもはや、天安門の血の鎮圧を隠そうとはしない。習主席はまさに李鵬氏らの強硬路線の後継者として、共産党の一党独裁体制を守るためには今後、天安門の血の鎮圧と同様の「果敢なる措置」も辞さないことを堂々と宣言したのである。 そして、この「鎮圧宣言」が訃告の形で出されたのと同じ日、中国国防省報道官は、香港での抗議活動に対処するため中国軍が出動する可能性について初めて言及した」(石平前掲)
では、これを止められる可能性はあるのでしょうか。
それについては長くなりましたので、次回に続けます。
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香港では、自由というかけがいのない価値を守るため、命を掛けた運動が繰り広げられていますね。日本では、対岸の火事、自らの利害になんの関係もない他人事のようです。天安門事件でもそうでした。私もそうでした。
しかし、香港の運命は、巡りめぐって日本に重大な影響を与えると思います。
いつも人権にうるさい、左の政党団体は何をやってるんですかね。見苦しい存在です、本当に。
戦前の軍部と似ているなら、自滅するより暴発しますよね。日本もただでは済みませんよね。道ずれに、地獄の底に連れていかれるかもしれませんね。米国も日本が壊滅しても、中共がなくなれば、良かった良かったと思うかもしれません。後はロシアなど時間の問題かもしれません。
日本は世界平和の人柱になる憲法を持っているので、本望でしょう。
投稿: オイラー | 2019年8月16日 (金) 09時25分