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2019年9月

2019年9月30日 (月)

台湾とオーストラリアの孤立防止は日米の役目だ

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日本での扱いは小さかったのですが、中国がソロモン、キリバスと相次いで国交を結びました。
これで同時にこの2国は、台湾と国交を断絶したことになります。

「ニューヨーク共同】中国は27日、台湾と断交した南太平洋のキリバスと外交関係を回復し、ニューヨークにある中国の国連代表部で国交樹立の文書に署名した。21日にも、台湾と断交した南太平洋のソロモン諸島と国交を樹立。習近平指導部は10月1日の建国70年で、台湾統一実現に向けた外交成果としてアピールする方針だ。
 中国の王毅国務委員兼外相は署名式後の記者発表で「一つの中国を堅持することが大勢であることを示した」と強調。中国は国連総会に合わせて国交を結ぶことで、中台は不可分の領土とする「一つの中国」原則に対する国際社会の支持の広がりを演出した」(共同9月27)

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https://this.kiji.is/550412821715764321

「台湾は16日にソロモン諸島と断交し、20日にキリバスと断交した。台湾の外交部長・呉ショウ(金へんに利のつくり)燮によれば、ソロモン諸島は30年続いた台湾との関係を、中国から5億ドルをうけとって断ったらしい。また、キリバスは民航旅客機購入のために資金援助をするように台湾に求めたのに対し、台湾側が商業ローンを提案したら、キリバス側から拒絶され、中国に乗り換えられたという。
中国はキリバスに旅客機数機と商業用フェリーの購入資金をポンと出したという。呉外交部長は会見で、台湾は長年援助をしてきたのに、大変遺憾だ、と恨み節しきりだった」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.34 2019年9月23日)

そして世界でも、台湾と国交を持っている国のほうがわずかとなりました。

「2016年に台湾の蔡英文政権が発足して以降、台湾との断交を決めたのはキリバスが7カ国目。台湾と外交関係を維持するのはわずか15カ国になった」(ニューズウィーク9月20日)

さてここで、ちょっと立ち止まってみましょう。
ヨーロッパ諸国は北朝鮮、韓国の2国と同時に国交をもっている国も珍しくはないですね。
中国と国交を結ぶことまではいいとしましょう。日本も角栄氏のおかげで先走って結んだ歴史がありますしね。
しかし1945年10月25日に、台北で日本側の安藤台湾総督が降伏文書に署名した相手は、中華人民共和国ではなかったのです。
そりゃやりたくてもできませんよ。だって中華人民共和国が建国されたのは1949年10月1日のことですから、地上に存在しない国と署名を交わせませんもん。

ですから、台湾の実効支配は日本統治の終了と共に中華民国(ROK)に引き継がれ、今に至っています。
ただし後に問題として残ったのは、戦後の国境の線引きを決めた1952年のサンフランシスコ条約とそれを基にしてできた53年の日華平和条約にも、台湾島の処遇は明記されていなかったことです。

なぜでしょうか。それは蒋介石が支配していた時期においては、「ひとつの中国」という虚構を共に後生大事にしていたからです。
この「ひとつの中国」論というのは、勝った中国共産党が持っていても不思議はないのですが、破れて台湾に逃げ込んだ国府側も同様な考えを持っていました。

ちなみに今の台湾においても、大陸から逃げてきた人たち(外省人)を中心とする国民党は、いまだ「ひとつの中国」論を捨てていませんから、かつて血で血をあらう内戦までした仲であるにもかかわらず、中国共産党政府と妙に平仄があっています。
前総統の馬英九は国民党でしたが、なにかにつけ中国の代弁者に見えたのはそのせいです。

そういえば私が台湾を初めて訪れたのは蒋経国統治時代の末期でしたが、その時書店で売られていた地図には、堂々と首都南京と書かれてあり、台北はただの暫定首都と記されていたのにたまげたものです。
そして街のそこかしこには「大陸反攻」というスローガンが書かれていました。
当時は台湾に各省の代表が集まって、中国全土の統治について議論するという全人代もどきのことまでやっていました。

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ウィキ

上が国府(ROC)が考える中国地図です。claimed by ROC (国府が主張する) という青色で塗りつぶされています。
面白いことには台湾はfreearea of ROCとありますから、国府にとっての台湾の処遇の複雑さがかいま見られます。

中国は幾度となく台湾侵攻を企てましたが、 富田直亮らの白団と呼ばれる旧日本軍将官らの指導によって国府軍を建て直し、そのつど退けられています。

大事なことは、一度として台湾を中華人民共和国が実効支配した時期がないということです。
もしこのまま蒋介石一族が台湾を統治していたならば、中国大陸の代表を主張するふたつの政府のままだったはずです。
しかし台湾は李登輝の登場によって大きく変化します。
台湾は「大陸から逃げ込んだ残党たちの島」から、台湾島とその周辺の島々を実効支配する民主主義国家へと大きく変貌したのです。
つまり
台湾と大陸政府との関係は、民主主義を愛する大陸に服従しない人々と、ひとつの共産主義独裁国家に飲み込もうとする者たちとの対立となったのです。

ですからよく誤解されているように、台湾が「独立する」というのは中華人民共和国から独立するという意味ではありません。
そのようなことなら、台湾、すなわち中華民国は共産中国以前に「独立」して誕生しており、以後一貫して独立を維持し続けています。
したがって、台湾の人たちが「独立」と呼ぶ場合、中華人民共和国の一部ではなく、台湾が大陸に干渉されずに独立した主権を確立し続けるという意味です。

もう少し付け加えると、逃げ込んできた蒋介石が持ち込んだ「中華」「中国」という呼び方を実態に合わせて変更し、台湾島及びその周辺の島々の法的帰属を明確にすることです。

「台湾の公的な場で使用されている「中国中華China)」という呼称を「台湾(Taiwan)」へ置き換え、台湾の存在を「中国の一部」から「中国とは別個の地」に代えることを目標としている。特に2002年5月11日に実施された運動は、2002年が運動の啓蒙年であったことから、511台湾正名運動と呼ばれている」
台湾正名運動 - Wikipedia

このように考えると、台湾についてソロモンやキリバスなどの新たな国交樹立国は、なにも台湾と断交に及ぶ必要はなかったのです。
かつての日米が苦肉の策としてとったように、中国は承認するが、台湾の領有に関しては「中国側の意見は聞いたが、同意はしていない」という対応でよかったのです。
米国は中国と国交を結びましたが、台湾関係法を作って防衛義務を定めていますし、日本も日本台湾交流協会という政府出先機関を置いています。
メロモンと日米とは力関係が違うとはいえ、断交までするとは残念です。

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さて長くなりましたのではしょっていきますが、ソロモン諸島は南太平洋島嶼国として一番人口も多く、面積も広いために、ソロモンとの外交が断交となった時点で、この地域の島嶼国家がドミノ式に断交していくのは必至と見られています。
残るのはパラオ、ナウル、ツバル、マーシャル群島の4カ国で、残るのはかつての日本統治のよしみをいまでも大切に思ってくれているパラオくらいとも言われていますが、チャイナマネーの札束・ワイロ攻撃にいつまで立ち向かえるかどうか。

この地域は、米軍がフィリピンから撤退した後には広大な軍事的真空地帯となっています。
サモアから西側は、米海軍の力が及ばず、オーストラリアがかろうじて守っている海域です。

この地域こそ、かつてオーストラリアと米国の連絡を遮断しようとして軍を進めて自滅した旧日本軍のルートでした。

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http://murasaki-syoumeidan.com/solomon-guadalcanal/

青線が連合軍の通商路、赤線が日本軍の遮断作戦で、緑色で囲んだ円がソロモン諸島 黄色で囲んだ部分が有名なガダルカナル島です。
ガダルカナルは今はソロモンの首都となっていますが、ここが先の大戦の天王山となったのは、このソロモン諸島が米国や日本とオーストラリアの海上連絡線を断ち切る位置にあるからです。
それは今も変わりません。
この海貿易ルートを切断されれば、オーストラリアは鉄鉱石や石炭を輸出できず、機械、自動車部品、原油などの輸入ができなくなります。
オーストラリアの経済 - Wikipedia

ですから、今や太平洋を二分すると宣言した習にとって、この南太平洋諸国を取ることの意味は、単に台湾との国交を切断して孤立化させるだけにとどまらず、オーストラリアをも孤立化させ、中華共栄圏の東端としてしまう野望があるからです。

これら財政基盤が貧弱な南太平洋諸国に、中国は街金よろしくジャブジャブとカネを貸し付けていますが、いったん返済出来ないとなったらスリランカで起きたような借金のカタに港を百年租借することなど平気のヘイザでするでしょう。
するとそこに中国は海軍基地を作り、南シナ海の要塞島とを結ぶ広大な太平洋海上権益圏を形成するかもしれません。

日本にとって、これらの南太平洋の国々を中国に抑えられていくということは、決して他人事ではないのです

 

2019年9月29日 (日)

日曜写真館 秋の桜です

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青空に染まらずに咲きます

010 春の桜さんと花の形が似ているでしょう

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うす紅の秋桜が秋の日の何気ない陽溜りに揺れている・・・、って百恵さんが歌ってましたね。ただコスモスって読んでましたけど

070 夕暮れの中でも微笑んでいます

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まだ日本に来て百年ですけど、日本の国の花、桜さんの名前を頂戴しました

063 アキザクラはタフです。痩せた土地でも咲いて、倒れても踏まれても根を生やします

 

2019年9月28日 (土)

人為的炭酸ガスだけでは説明できない

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温暖化人為的二酸化炭素説というのは、多くある気候変動説(おそらく10くらいはありますが)のひとつくらいならほどがいいと思っています。
人為的温室効果ガスも影響しているでしょうね、という程度なら私もそのとおりだと素直に思います。 

ところがIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によって二酸化炭素説王朝が成立し、他の説を「粛清」すると、二酸化炭素だけですべての気象変動を説明できるような錯覚が生まれました。 
この
IPCCという科学者の国際団体は、1998年の設立趣旨でこう謳っています。
http://www.ipcc.ch/pdf/ipcc-principles/ipcc-principles.pdf
「人間が起こす気候変動の(クライメイト・チェンジ)リスクの科学面と影響、対策を考える」
ここには「気候変動」とはありますが、その原因を温暖化とだけは書いていません。
当然です。初めから結論を決めた科学などはありえないからです。

IPCCの報告書は、科学面・影響・対策の分野に分かれていますが、なんと言っても「科学面」の知見がその大本です。
「気象変動」という限りは、当然寒冷化の可能性も含まれた多様な議論が保証されるべきですが、そうではありません。
初めから結論が人為的炭酸ガス説でガッチリ固まった「科学的団体」なのですから、白けた自己矛盾です。

私はIPCCの人為的炭酸ガス温暖化説は「根も葉もある間違い」 だと考えています。
たしかに人為的温暖化は存在します。
これだけ人類の経済的社会的営為が広範になると、その影響は無視できません。
しかし炭酸ガスだけで、地球の気候変動をすべて説明しようとするにはあまりにも無理があります。
地球の気候は周期的に変動し続けていますが、その理由を右肩上がりに増大する人為的炭酸ガスひとつで説明しようとするから無理がでるのです。

たとえばなぜ、他の太陽の活動や海洋の周期を視野に入れようとしないのでしょうか。
おそらく私は人為的温暖化と、周期的寒冷化が綱引きをしている状態が現代ではないかと思っています。

しかしIPCCは、温暖化の原因を過度に人為的炭酸ガスのみに求めた結果、その対策もまた炭酸ガス排出規制に一面化され、ともかくなんであろうと炭酸ガスさえでなきゃいいんだろうというようになりました。

その上に排出権という利権までもが設定されるに至って、グリーン利権すら出来ました。
グレタ・トゥンベリさんの背後には、グリーン利権に群がる投資家や金融機関、政治家がわんさか群がっていることがわかっています。
でもなきゃ、16歳の子供がヨットで大西洋を横断してひとり国連総会に乗り込むなんできるわきゃありませんもんね。
おっと待てよ、あの子港の中で酔って、すぐに降りてどこかの海軍の船に乗り移って、戻ってから飛行機で行ったじゃなかったっけか。ま、どっちでもいいや。

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温暖化対策のためのCOP(気候変動枠組条約」の締約国会議) には、毎回グリーンピースなどの世界中の環境NGOが集結してプレッシャーをかけるのですが、温暖化対策の特効薬はこれら環境NGOの願望に背いて、皮肉にも彼らが憎悪する原発なのです。
ところが
世界は福島事故以降にもかかわらず、原発大増産期に入っています。
中国は
15年ていどかけて41基の原発を新設し、さらにそこから20基が増設され、さらにまた増やそうとしています。

私は反原発派がなぜ世界一の原発大国・中国を無視して脱原発を語るのか、理解に苦しみます。
同じように、脱炭素を叫ぶ子供十字軍が、炭素排出大国・中国を無視して日米を標的にしたがるのかわかりません。

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それはさておき、中国はこの10年で世界一の原発立地国となり、ヨーロッパ、米国も新規建設に入っていますし、発展途上国は建設予定が目白押しです。
中国にとって炭酸ガスは、日本のようなエコが目的ではなく、ダイレクトに国民の健康を阻害する最大の原因のひとつとなっているからです。
ドイツやイタリア、あるいは日本は、世界の例外的存在にすぎないのです。
そしてこの原発増設の理由づけとなっているのが、IPCCの地球温暖化対策です。

さてこのIPCCの中心的な指導者 地球温暖化の主唱者のひとりに英国のフィル・ジョーズ教授(英国CRU所長)と米国のマイクル・マン教授(マサチューセッツ大学)がいます。
マイクル・マンは、この地球温暖化・CO2説の卸元のような人物です。
後世、この地球温暖化・CO2説がどのように審判されるか私には皆目わかりませんが、いずれにせよ、ゴチック大文字で刻印されるべき人であるのは間違いありません。

 マンはこの一枚のグラフにより世界を揺るがしました。あまりにも有名なホッケースティック曲線です。

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何やら心電図のようですが、西暦1000年から2000年にかけての千年単位の気象変化を記録したものです。
グレイに塗った部分は無視してくださってかまいません。濃い青線を左から追っていくと20世紀後半、すなわち人工的な炭酸ガスが増大し始めた時期から、ロケット花火よろしくそ~れドーンとばかりに温度が急上昇することが赤線で示されています。
これがホッケースティックに似ているというので、ホッケースティック曲線と言います。

 これぞ、揺るがぬ地球温暖化の人為的な証拠というわけで、この図はIPCCの「気象変化2001」にデカデカと掲載されました。
マンは若手の気象学者で、主に気象代替指標といって年輪などを使って1000年~1980年代までの気象変化を調べていた人でした。
このホッケースティック曲線は1998年に発表されたのですが、これが2001年のIPCCという国連機関の公式文書に登場するやいなや、大騒動に発展しました。
政治的に利用されたからです。

まず、米国のクリントン大統領、というよりゴア副大統領というべきでしょうが、米国政権の公認の資料となりました。
当時の「クリントン政権と、IPCCが気象変動に関してほしがっていたお手軽な答え」(S・フレッド・シンガー元米国海洋・気象諮問評議会副委員長)を与えてしまったからです。

言っちゃあなんですが、このホッケースティック曲線はいかにも素人受けしそうなシロモノです。専門家が自分の知見を分かりやすく書くというのは、あんがい大変なものなのです。
だから、このとき地球環境に警鐘を鳴らしたいIPCCにとって抗いがたい誘惑があったのでしょう。
彼らは国民大衆が一発で納得する「決め手」を欲していたのです。それがいかに怪しげな誇張に満ちたものであろうとも。

もちろん専門家集団のIPCCは、このマンのホッケースティック曲線が科学的に怪しいことは重々承知していたはずです。
知らなかったなどということは言わせません。
なぜなら1995年にIPCC自身が作成した「気象変動1995」の図22には、このようなグラフがしっかりと掲載されているからです。


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上図をマンのフッケースティック曲線のグラフと比べて下さい。これは気象学の素人でも分かりますね。
マンのグラフでは1000年からの気象変動がほとんどなく異様に安定しています。ありえません。
もちろんこれはデタラメで、実はIPCC自らが採用した上図のほうが本物なのです。

マンは意図的に、中世の農業発展を支えたといわれる中世温暖期と、その後にやって来るテムズ河も凍ったという小氷河期をあえて無視しました。
中世温暖期に至ってはなんと現代より温度が高いから、マンはあえて無視したのです。

これこそがIPCCがもっとも悩ましい問題としていたことなのです。
そりゃそうでしょうとも。中世が現代より温度が高かったらシャレにもなりません。
中世に火力発電所や石油内燃機関はありましたか?二酸化炭素をボンボン出す工場は?
小泉ジュニアがステーキが好きと言って批判されている牛のゲップは?

中世にも牛のゲップくらいはあったでしょうが、中世温暖期、さらにはローマ温暖期といわれる紀元前200~紀元600年の古代ローマ時代の温暖期、日本では縄文期が温暖であったことが知られています。

また極地における氷床コアボーリングによって二酸化炭素とメタンを調査したデータもあります。
The Vostok Ice Core: Temperature, CO2 and CH4
http://euanmearns.com/the-vostok-ice-core-temperature-co2-and-ch4/

それによると、赤線の気温が左端の現代より2万3千年前に同じていどであり、1万3千年前、3万3万年前には高かったことすら分かります。

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つまり、過去にも地球は温暖化していたことがなんどもあります。
そしてそれは炭酸ガス一般との相関関係はあるかもしれませんが、1万3千年前に火力発電所があるわけないので(あたりまえだ)、人為的CO2増大とは無関係だとわかります。

いや、そもそも本当に温暖化しているのか、という声すらも米国では上がっています。
というのは、米国では、田舎はちっとも暑くはねぇぞ、むしろ,年々再々寒くなってきたくらいだ、そりゃ都市部の話だろう、という声が高くなってきたのです。

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だいたい気象観測地点というのは、大都 市の気象台にあるもので、まともにヒートアイランド現象を受けてしまいます。
一方、田園地帯は樹木が豊富なために、植物が余分な水分を葉から蒸散させて、気化熱を奪っているために涼しいことは知られています。

都市部は自動車が一台50Wのヒーターとして換算できるといわれるほど、自動車もビルも人もひしめき合っています。ビルが放射しているエアコンの放熱現象は、局地気象を変えてしまうとすら言われているそうです。

このテキサスとアーカンソー州の気温変化をみるかぎり、米国でも田園地帯はやはり気温が横ばいか、むしろ低下しているのがわかります。
このような国民大衆の素朴な疑問に火を注いだのが、米国の気象観測ポイントについての調査でした。
アメリカ海洋大気圏局(NOAA)は全米各地に気温観測ステーションを設置していますが、アンソニー・ワッツ氏の調査によると、本来はヒートアイランド現象を避けるために田園地帯や平原に設置されていなければならないはずの気象観測ステーションが、なんとこともあろうにアスファルトの路上や、あるいはびっくりすることにはエアコンの排熱ダクトの下にあったりした例が続出したそうです。

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そしてワッツ氏によれば、このような不適切な設置箇所は、全米の観測ステーションの実に89%にも及んだそうですから、大部分の測定値の信憑性すら疑われることとなりました。ワッツ調査は下記のサイトからPDFでご覧になれます。
「Is the U.S. Temperature Record Reliable?」By AnthonyWatts, SurfaceStations.org,・ Chicago, IL: The Heartland Institute, 2009.
 

 NASAのゴダード宇宙研究所(GISS)は、都市化はその周辺の地域のデータも勘案しているので考慮済みだと主張しますが、上の写真を見る限り、はなはだ眉唾モノでしょう。
そもそもそんな「勘案」なんかするくらいなら、都市部での観測データを初めから排除すればいいだけの話ではないですか。

この観測ステーションに対する疑惑は、米国のみならずわが国にもあります。東京の気温は大手町にある気象庁で採りますが、この気象庁の観測ポイントは林立するビル群の中にあります。

「日本の真ん中「東京」の平均気温が、12月から低くなる。気象庁は12月2日から、「東京」として発表している気温や降水量の観測地点を、現在の気象庁本庁(東京都千代田区大手町)から同区北の丸公園に移転する。同じ区内で約900メートル移るだけだが、周辺環境の違いから、最低気温の平年値が1・4度下がり、熱帯夜の日数は半分以下になる見込みだ」(産経2014年10月30日 下写真も同じ)
https://www.sankei.com/premium/news/141024/prm1410240012-n1.html

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たった観測ポイントを900メートル移動しただけで、東京の年間平均気温が1.4度下がるというのですから、おいおいです。
下図の大手町と三宅島の気温を比べたデータからも、それがうかがえます。

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そして、この観測地点疑惑に、クライムメート事件におけるデータ改疑惑がそれを増幅しました。
それは観測当局が、都市部のヒートアイランド現象を補正するとして、フィル・ジョーンズ教授のCSUようなデーター改竄をやっていたのではないかというものです。

フィル・ジョーンズ率いるIPCCは、二酸化炭素のみの影響を過大に評価するために意図的に太陽活動の及ぼす影響は炭酸ガスのわずか7%にすぎないとして切り捨てました。
まさに科学の名を借りた異端審問裁判と言ってよいでしょう。

今後地球は太陽活動の低下傾向が観測されているため、マウンダー極小期(1645~1715年)のような寒冷期が到来する可能性すらあると思われます。 

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しかし仮に寒冷化となった場合でも、現在進められている低炭素化社会化、つまり化石燃料の節約、資源の有効活用と循環再利用システムの社会的実現は、そのまま有効な処方箋となりえます。

つまり皮肉なことには、誤った原因説であったが、その社会的対策としては誤りではなかったということになります。
そして寒冷化のほうが温暖化よりはるかに恐ろしいのです。
日本に限って言っても、歴史的な大飢饉は必ず寒冷化によってもたらされています。
農業技術がすすんだ今でも、寒冷化によって茨城以北の米作は壊滅的な打撃を受けることでしょう。
食物の端をかじっただけで捨てている飽食の時代は終わり、もうひとつの別な時代が始まろうとしているように私には思えてなりません。

ですから私たちが今後なすべきは、炭酸ガスさえ削減できればいいというようなトンチンカンな方向ではなく、寒冷期の農業生産の縮小、生物資源の激変に耐える準備が必要なのです。
生物資源、農業資源、人的資源まで含むトータルな地球資源の確保と保全、再利用化がキレイゴトでなく、人類という種が生き延びるためにリアルに必要な時代が来るかもしれません。
その時に人間が古くから頼りにしていた豊富な化石燃料を排除してしまったとしたら、寒冷期が来ずとも背筋が凍ります。

 

 

2019年9月27日 (金)

地球環境の危機はセンセーショナリズムを排して見ねばならない

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2013年に書いたいくつかの記事をまとめて編集し再載します。

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あらかじめ言っておきますが、私は地球温暖化問題は、科学者が団結して地球の脅威と立ち向かって成功した運動だったという評価をしています。
確かに排出権取引など利権がらみのネガティブな部分はありましたが、温暖化対策として取り組まれた低炭素社会や省エネ社会は素晴らしい功績だったと思っています。
その意味で、私は懐疑派の人たちがいう「温暖化詐欺」という言い方には賛成しかねます。

この対策は、仮に結論が温暖化ではなく、寒冷化であったであったとしても充分に対策たり得ると思っています。
ただし脱炭素化を急ぐあまりに火力発電を敵視するようなことは、非現実的だと思っています。
脱炭素化は社会に損害ででないように、漸進的にゆっくりとやらねばならないんですよ。
スウエーデンの脱炭素子供十字軍が言うようにやったら、脱炭素なって人類文明は滅びます。

さて地球温暖化が現代のコモンセンスとなるにあたって、元米国副大統領アル・ゴアは広告塔として見事な働きをしました。
彼こそが地球温暖化のファイアスターターを務めたのです。
彼の著書でしる『不都合な真実』は、地球温暖化のバイブルとして国際世論をみごとに動かしました。
あまりにみごとすぎて、ノーベル平和賞まで受賞したほどです。
 

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https://www.cinemacafe.net/article/2017/10/28/5353...

しかしその結果、彼の言説はそこら中で誇張、歪曲、捏造を繰り返し、かえって地球温暖化問題を批判にさらす結果になりました。
たとえばゴアは、海水面上昇について彼はこんなことを言っています。

「グリーンランド、あるいは南極が解ける、割れて海に流れ込むと世界中の海水は6.5~7m上がる。いやそれどころか最悪、12~14mにもなります」

そして『不都合な真実』で紹介されるのは、北極で溺れるホッキョクグマ、北極の轟音をたてて大きく崩れる氷河、永久凍土の上で溶けて傾いだ家、毎年後退するキリマンジェロの冠雪、大型ハリケーンなどといったセンセーショナルで素人でも分かりやすい絵でした。
いかにも元ジャーナリストです。どう切り取ったら衝撃的かツボを心得ています。

彼の話の影響力は、ハーバード大卒、元ジャーナリストにして前米国副大統領&ノーベル平和賞、知的な語り口、ついでにアメコミ的なハンサムというイヤミなまでのハイスペックも手伝って、すさまじい影響力発揮しました。

瞬く間に世界中のマスコミが飛びつき、誰もが否定したらバチが当たるというような「不都合な真実」になっていったわけです。
今の青年は生まれた時から温暖化の危機を子守歌に育って、.疑ってはならない定理として子供の時から刷り込まれてきたはずです。

すると人の心理というのは面白いもので、破滅願望でもあるんでしょうか。
ゴア自身が一方で、6.5mと言っているのに、テレビが伝える時には、この最大値14mだけ
を一人歩きさせます。

いわくバングラデシュは全水没、ペキンも水没、ミクロネシア諸島も全水没・・・、彼の説を基にしたハリウッド映画『ザ・デイ・アフター・トモロー』まで作られて、地球温暖化のために大津波に会ったあげくカチカチになるというストーリーです。
ちなみにあの映画の温暖化を信じない副大統領がチェニー元副大統領のソックリさんだということに気がつきましたか(笑)。。そして大ヒット。 さしずめいまならトランプさんそっくりがでてくるでしょう。

それはさておき、こんな地球温暖化フィーバー(死語)の光景を作ったのが、マスコミであるのは間違いがないことです。
放映されたNHKスベシャルを単行本化したものをご覧ください。帯のトーンなど「もう手遅れなのか」ですよ。もう手遅れなら、そもそもこんな番組なんか作る必要もないだろうに。

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公共放送が大絶叫している地球温暖化CO2説はあくまで未だ科学的な定説のない「仮説」にすぎません。異論も多く存在します。
しかし、NHKは異説を一切ない「全世界の科学者の合意された意見」であるかのように扱います。
このへんは、あのトゥンベリさんがよくいう「世界の科学者が一致した地球温暖化」というセンスにそっくりです。
というかNHKのようなメディアが彼女みたいな人を育てたのですが。

番組は視聴者にコンピュータ・シミュレーションでこれでもかというあざとい映像をお茶の間に見せていきます。
大洪水、天変地異、飢餓、疫病・・・しかしこれはあくまで電脳上で「予測」された、しかも100年先の「最悪の予測」でしかないのです。
下の番組のCGは、温暖化して海水面が上がったNYにカテゴリー4のハリケーンが来たと想定したものです。

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もちろんNHKは周到にナレーションでそのような説明はしているようです。
しかし、現実に番組を見ていた視聴者の記憶に残ったのは、たぶん上のようなカタストロフ(破局)のシーンだったはずです。

上のような映像が流れたとして、それを検証しようと思う視聴者が実際何%いるのでしょうか?
たぶん番組を見たまま、その説明を忘れてショッキングな映像のみで地球温暖化問題を「理解」します。
だいたいビデオにとって、繰り返し見るようなことをしない限りそれがあたりまえなのです。
しかし、しっかりと番組の「地球温暖化は大破局を近い将来に招く」という制作意図は伝わったのです。

このようにして多くの明らかな誤りの情報がマスコミから流れていきました。
他にも、TBSは100年後に6.4°の温度上昇があると、IPCCの1.8~°4°という予測より大幅に大きな数字を流しました。完全な誤報です。
読売新聞も100年先と注釈せずに、地球温暖化が進めば、「日本の9割の砂浜がなくなり、渡り鳥の干潟もなくなる。農漁業に大きな影響が出る」と報道しました。
この1m海面上昇の根拠は、地球温暖化仮説の最大値58㎝に高潮時を足したというような数字なのです。
しかも100年先の!

こんなものもあります。科学誌の『ニュートン』2008年別冊号に載った図です。

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もちろん科学誌ですから、最大値のみを出すことはせずに、いくつかのシナリオを載せています。
薄い緑色が海抜ゼロメートル地帯で、次にその周りを取り囲む薄い青色が、面が59センチ上昇した場合のゼロメートルです。
そして一番外にある濃い青は、同じく59㎝上昇した場合の満潮時+高潮時にゼロメートル地帯です。
これによる被害予測は、東京で322㌔平方キロ、東京の人口は415万人に減少します。

ただしこれはもまた例によって2100年、あくまでも約100年先の予測数値だということをお忘れなく。
この温暖化による海面上昇説が正しいとしても、実際には突然起きるものではなくジリジリと毎年1.4㎜という㎜刻みで上昇するわけですから、民主党政権ならいざ知らず100年間なにもしないでボーっとしていることはありないでしょうね。

第一、地球温暖化説のバチカンであるIPCC の予測値ですら平均38.5㎝なのです。
たぶん、このゴアの14m説に一番ぶったまげたのは、他ならぬIPCCであったと思われます。
地球温暖化を宣伝してくれてありがたいが、話を盛るなよ、と科学者たちは内心そう思ったでしょうね。

こんな素人のヨタ話と一緒にされてはたまらん、とでも言いたげなIPCCの報告は、ゴア14m説の翌年の2007年に発表されました。これがIPCC第4次報告書です。
このIPCC第4次報告書の最小予測値18㎝、最大予測値59㎝です。

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最小予測値の場合、小波ていどでしかありません。しかも年間の上昇は1.4㎜というさざ波レベルです。
もはや爆笑問題の次元の話です。

その差を図式化したのが下図です。(図 ビョン・ロンボルグによる) 約600倍! こういうのを誇張的トンデモ表現といいます。

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最後に、気象庁が測定している日本海沿岸の海水準(1971年から2000年)29年間のデータがありますが、上昇トレンドは測定されていません。 Photo_6

ですから、地球温暖化による海水面上昇でハルマゲドン、という説には科学的根拠がないといわざるをえません。

にもかかわらず私たちが心動かされたのは、アル・ゴアが『不都合な真実』で紹介した北極で溺れるホッキョクグマの姿、北極の轟音をたてて大きく崩れる氷河、永久凍土の上で溶けて傾いだ家、毎年後退するキリマンジェロの冠雪などといったセンセーショナルで素人でも分かりやすい絵でした。 

これらの「不都合な真実」は、残念ながらほぼすべてが歪曲、ないしは誇張です。 
しかし、それを知ってか知らずか、マスメディアはその「絵」を煽りました。そして国際世論が出来上がっていったのです。このような手法を印象操作といいます。

印象操作とは、論理を積み上げていくのではなく、ぱっと見た目の分かりやすい画像をなどを使うことで、見る人を支配することです。
さんざん使いまわされたのがホッキョクグマでした。

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さて、この写真は『不都合な真実』の中にある有名な写真です。 
アラスカ沖で砕氷船から撮られたもので、たぶんこのホッキョクグマの2頭の生存は厳しいだろうなと哀しい気持にさせられます。 
そしてこれがCO2の増大による地球温暖化説の証拠の一枚として人の心を大きく揺さぶりました。 

ゴアの「『不都合な真実』にはこうあります。

「1970年代、北極の氷冠はかなりのスピードで縮小をし始めました。これは、ホッキョクグマにとっては悪い知らせです。ホッキョクグマはアザラシを追って氷盤から氷盤へと移っていきます。 
多くの氷が溶けてしまったために、クマたちはこれまでよりもずっと長い距離を泳がなくてはならなくなりました。
次の氷盤にたどりつく前に、おぼれ死んでしまうホッキョクグマもでてきたのです。こんなことはこれまでなかったことです」(『不都合な真実』P86:87) 

私は動物が好きなので、このテの報道には極端に弱いので、湾岸戦争時のイラク軍による原油の海への放出による原油まみれになった水鳥の写真には怒りがこみ上げてきました
許せん、イラク!こらフセイン、ここに来て座りなさい、という気分に誘導されたのです。 

この原油まみれの水鳥の写真は、湾岸戦争とはまったく関係のない画像であったことが後に分かってしまいます。 
それを仕掛けたのは、米国大手広告代理店で、米国政府から依頼されていました。世界の人たちに米国の戦争が正しいと分からせる決め手の一枚だったのです。 

この手法を米国政府中枢にいたゴア元副大統領が知らぬはずがありません。彼はこの分かりにくい地球温暖化説を、分かりやすい紙芝居にして見せたのです。 
ホッキョクグマという北極圏の帝王を使って、その絶滅を訴えることで地球温暖化を説いたわけです。まことに見事なプレゼンテーション戦略だといえるでしょう。ただしインチキの。 

これが皆んな溺れ死ぬとは尋常ではない。世界野生動物基金(WWF」も「ホッキョクグマは歴史上の動物になる」といい、英国「インデペンデント」紙も「ホッキョクグマは動物園でしかみられなくなる」と叫びました。 
わが国のメディアに至っては調査能力欠如ですから、てもなく右へ倣えでした。 
かくして世界中でホッキョクグマは、地球温暖化の悲劇のシンボルに仕立て上げられてしまいました。 

結論からいいましょう、ご安心ください、絶滅してはいません。 

まずはこの表をご覧下さい。(図 ビョルン・ロンボルグによる) 

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 表の左側の横軸の最初の起点には1980とありますが、これは1980年を表します。 
縦軸が頭数です。お分かりのとおり、1980年にはわずか500頭に過ぎず、乱獲により絶滅寸前であったということが見て取れます。 
ちなみに当時は海氷の融解は観測されていません。あくまで人為的な乱獲が原因です。 
これが保護政策の結果が出て、5年後にはハドソン湾だけで一気に1500頭まで回復していきます。 

以後1990年代からはほぼ横ばいという安定した状態が続いています。減少トレンドの線が引かれていますが、1980年代の絶滅の危機からは大幅に増加していると言っていいでしょう。 
今上げた2005年850頭という数字は、あくまでも北極圏のハドソン湾地域のみの数字です。他にいくつものホッキョクグマの棲息地があります。 

ホッキョクグマは餌を追ってかなり広範囲に移動します。 
ホッキョクグマの総個体数は、北極圏というそれでなくとも厳しい自然の中で、おまけに広域に拡がっているために諸説あるようですが、おおむね総数2万5千頭(坪田俊男・北海道大学院教授・クマ生態学)という説が妥当なようです。 

少なくとも絶滅しそうだというデーターはありません。そう言っているのはマスコミと一部の環境保護団体だけです。 
それはこの北極圏で生活し、猟をしているイヌイットが年間なんと400頭ものホッキョクグマを狩猟していることでもわかるでしょう。 
イヌイットは合衆国政府が禁猟方針を打ち出したことに強く反発しています。もし絶滅寸前ならば、年間400頭もの狩猟はできないはずですから。 

またホッキョクグマは泳ぎも達者で、ゴア氏の本の写真を撮った後に、たぶん水に飛び込んで泳ぎだしたはずです。 
なにせ、ホッキョクグマは4日間泳ぎ続けて平均154.2キロ泳いだという記録があるのですよ。 
ちなみに泳法は犬かきとか。150㎞というと、東京から越後湯沢まで泳いでいっちゃったことになります。
というわけで、みすみす溺れ死ぬようなやわなタマではありません(笑)。
ホッキョクグマはヒグマの親戚、北極の帝王はタフなのです。
 
保護することは充分に必要ですが、絶滅危惧せねばならないことはないのです。

私たちは、地球環境の危機を危機としてとして正確にとらえるためにこそ、センセーショナリズム(煽り)を排して見る必要があるのではないでしょうか。

 

 

2019年9月26日 (木)

脱炭素をしたドイツの現状


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トゥンベリさんのような文革の紅衛兵タイプに極度に弱い日本のメディアは、イチコロで参ってしまって、絶賛の嵐です。
少女、エコ、北欧と日本人好みの三拍子で、まるでエコのジャンヌ・ダルクのように持ち上げています。
彼女のバックには、西欧の再エネ利権を牛耳る投資家会社や金融機関、不動産会社なんかがついているんですが、こんなことは見ないんだろうな。
彼女のちょっと知られたくない背景についての英文記事をみつけたので、明日アップするかもしれません。

小泉ジュニアすら、トゥンベリさんの言葉を「重く受け止める」なんて言っていましたっけね。
ホントに、この人親父譲りで軽い。なにも考えちゃいない。受けねらいとカオだけ。
ジュニアときたら、記者から「石炭は温暖化の大きな原因だから脱石炭火力に向けてどうする」と聞かれて、即座に「減らす」と答えたのはいいんですが、じゃあどうすんの?
原子力の3割はかつてカン政権が切りましたが、それでもなんとかなったのは火力発電があったからです。
石炭を削減するというのは炭酸ガスを発生するからでしょうから、石油はほぼ石炭と同じくらい出しますし、天然ガスも半分ていどの量を排出します。

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つまり化石燃料なら炭酸ガスをだすことには変わりはないのです。
出さないのは再エネだけ。(ただし、プラントの製造過程で出しますが)
ならばジュニア率いる環境庁は、日本の電源を再エネだけにして、化石燃料をやめる方向で検討するということなんでしょうか。
ご冗談を。原子力なき日本の電源の9割を孤軍奮闘して支えている火力を削減したら・・・、オーマイガッドです。
原発ゼロどころか電源ゼロになっちゃいますが、ちっとは考えてモノを言って下さい。

もう少し詳しく説明しまししょう。
石炭は人類にとって付き合いの長いエネルギー源です。
改良に改良を重ねて、ぜんそくなどの健康被害を引き起こす大気汚染物質(NOx、SOxなど)の約9割を除去することができるようになりました。
ただ炭酸ガスだけは宿命的にカット仕切れません。
石炭ガス化複合発電(IGCC)という次世代の高効率石炭発電を導入したとしても、石油発電と同じくらいのCO2排出になる程度です。
またCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)という地下に炭酸ガスを注入する技術も実験が進んでいますが、埋却用地が少なかったり、埋める時にまたエネルギーを使ってしまうなどの問題がでています。

さて昨日も書きましたが、福島事故1年前の2010年に、日本の電源の3割を占めてた原子力を、カンの一声でいまだ大部分は止まったきりです。
申請している原発の許可が下りるのは、いつの話になるやらさっぱり見えません。
この失われた3割の電源の代わりに増えたのが、当然のことですが火力発電のための化石燃料と呼ばれる石炭、天然ガス、石油などでした。

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上の円グラフで2010年と14年を較べると、一目で日本が火力発電大国になってしまったのがわかりますね。
原因は原子力をいきなりゼロにしたからです。
この「いきなり」ということが問題なのです。

私は原子力は未完成の技術だと思っていますから、なくしてしまったほうがよいと思っています。
ただしそれをいきなりやると、麻酔をかけないで開腹手術をしてしまうようなもので、患者はショックで確実に死にます。
ですから原子力の恩恵を被った時間と同じくらいの時間をかけて、徐々に消滅さていくしかありません。

たぶん原子力がなくなるまでの過渡期は、半世紀では済まないと思います。
その間、どうするのでしょうか。だましだましやるんです。
具体的にいえば、いま規制委員会が再稼働を認めたものから動かして電力供給の基盤を強化して、疲弊しきった電力会社の財務内容を良くしながら、炭素排出が少ない火力発電や常温核融合などの新たな技術による電源に置き換えていくのです。

反原発主義者の人たちは必ず東電処罰論ですから、なにかといえば電力会社は巨悪だから潰せと口走るんですが、電力会社潰したら誰がベラボーに時間とカネがかかる原発の廃炉をするんでしょうか。そこまで考えてモノ言っていますか。

なんかスッキリしないって、あたりまえです。日本は世界屈指の工業国なのです。電気は産業の主食です。
発電の周波数品位さえ製造業が問題としているのに、年がら年中停電を起こしているようなことじゃあ安心してモノづくりができません。

現実の例をメルケルおばさんが脱原発してしまったドイツに見てみましょう。
ドイツ産業界は、EU域内輸出で好況にもかかわらず、自国の電力不足と不安定に嫌気をさして国外逃避を始める所が出てき始めました。 
ドイツ商工会議所のアンケートによればこのような恐ろしい結果がでています。 

・瞬間的な停電や電圧の変動などを恐れている企業      ・・・60%
・電力供給の不安定さから既にドイツ国外へ工場移転した企業・・・9%
・移転計画中                               ・・・6%

なんとEUでただ一国景気がいいはずのドイツから7割近い企業が逃げ出したか、逃げ出す準備をしているのがわかります。
ドイツの経営者の弁です。

「ドイツ経済紙が2011年12月29日に明らかにしたところによると、産業需要家の団体であるVIKのシュヴィヒ会長は「(福島第1原子力発電所の事故を契機とした脱原子力をはじめとする)エネルギー政策転換により、ドイツの電力供給の信頼度が低下している」と述べ、それにより「複雑な生産工程における安定性が脅かされている」との警鐘を鳴らした。
ドイツの電力供給の信頼度については、3分以上継続する停電をまとめた統計でみると、停電時間は1軒あたり年間約15分となっており、国際的にも高い水準が維持されているとみられてきた。 
しかし、3分以下の停電や電圧変動は増加しており、産業需要家に及ぼす影響は大きくなりつつある」
(電気事業連合会2012年1月20日) 
 

電力供給が不安定は、原発止めてキャンドルライトを灯そう、では済まないのです。
だって、勤めている自分の職場がなくなっちゃいますからね。

では経営者が警鐘を鳴らすドイツの電源別構成をみてみましょう。こんなかんじです。

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ドレスデン情報ファイル https://www.de-info.net/kiso/atomdata01.html

原子力はゼロを叫ぶ割には、なくなったわけではなくしっかりと11.7%もあって、日本以上に原発を温存しているのがわかります。
このへんのドイツ人の原発を半分止めただけで、原発ゼロを言ってしまえるという政治的修辞力は天才的です。
それはさておき特徴的なのは石炭も13%もあることで、これはドイツが歴史的に国内に豊富な炭鉱を持っていたからです。
カナダやオーストラリアも同じように国内に豊かな炭鉱を持ちますから、いくら脱炭素だといわれても電力には各国の歴史的事情というものがあるのですよ。

再生可能エネルギー(再エネ)が政府が力こぶを入れただけあって、実にジャーン35.2%です。
ただし 再エネの最大の泣きどころは、火力や原子力と違って恒常性がないことです。
だって、しょせん吹く
風や太陽といった天候頼みですから、発電への貢献度がゼロの時も20%の時もあります。 

電力別推移を見たグラフが、日本の九州電力の例ですが下です。


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2017年4月30日の九州地方の電力の需要と供給 資源エネルギー庁HPhttps://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_syuturyokuseigyo.html

真夏は電力供給の余裕を現す予備電力がギリギリとなるのですが、暖房や冷房の需要が少ない春や秋、それも工場が休みになっていることの多い休日などは、電力需要は年間のピーク時の半分程度になります。
しかも春の昼間というのは、天候に恵まれれば、太陽光発電が年間でもっとも発電する時です。

上図は2017年4月30日の九州地方の電力の需要と供給を示したものですが、太陽光発電によって昼間には最大で需要全体の約7割をまかなうことができた時間が出ると、火力発電所は出力を絞ったり、あるいは揚水発電所の水をくみ上げることで電力需要を人工的に作り出しています。
太陽光発電のケツ持ちをしている揚水発電は、昼太陽光が作りすぎると電気をわざわざ使って水を汲み上げて貯めておき、太陽光発電が発電しない夜間や朝などに落下させて水力発電をします。
まことにご苦労なことで、優雅な風車とか太陽光パネルのグリーンな外ヅラは、こういった火力や揚水発電などが地味に支えているというわけです。

ドイツの場合、日本にはない隠し芸があります。
それは
ヨーロッパは国際送電網を持っていることで、EU域内において電力はただの貿易商品にすぎませんから、国境を超えて売り買いされているということです。
つまり足りなきゃ買えばいいし、出来すぎたら売ればいいのです。 
 

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熊谷徹『脱原発を決めたドイツの挑戦 』より引用

ドイツは隣国に原発大国フランスがありますから、いつでも気持よく売ってくれます。
その結果、フランスやチェコからの輸入電力が増えて、これらの国が脱炭素国のドイツへの電気輸出をあてこんで原発を新設するという笑い話のようなことが起きました。 
ただし再エネのベストシーズンの春などは、売るほど再エネが電力を作ってしまうために、ドイツの再エネは周辺国から悪評がさんざんですが。
ま、こういお隣の迷惑を省みずに、ある時はナチズムに、ある時はエコへと独善できちゃうのが、世界に冠たるドイツのドイツたるゆえんなんでしょうがね。

それはともかく、ドイツは脱原発まで電力輸出国だったために、ドイツの産業界も国民も自分の国が停電するなどということは考えてもいませんでした。 このへんは日本と同じです。

今はまったく違ってきています。2012年2月の厳冬期に、ドイツでは暖房機需要で大規模停電を引き起こすところでした。
また
ドイツではこの3年間で、電圧や周波数の変動、瞬時の停電などが30%ほど増加しました。 
このていどで済んだのは、政府がハンブルクの鉄鋼所の操業に停止命令を出したためと、急いで旧式な石炭発電所を動かしたからです。
このへんも゛福島事故以後、慌ててスクラップ同然の火力発電を稼働させた日本と一緒です。
考えてもほしいのですが、ドイツはわが国のように原発事故を起こしたわけてもなんでもなく、半数の原発を止めて再エネを増やしているだけの話なのですよ。
しかし
それで、日本でいえば政府が新日鉄が操業を緊急停止させる事態となってしまったわけです。
ちなみにいったん高炉の火を落とすと、再稼働まで長い時間がかかり、製鉄所は大損害を受けます。
 

再エネの大きな欠陥は、自然条件だけではなく蓄電技術がともなっていないことです。

「再生可能エネルギーのような供給に不安定な電力への依存度を高めれば、問題は大きくなる一方だ。電力を貯蔵できれば問題は解決するかもしれないが、現時点では大量の需要に対応できる蓄電技術は実用化までほど遠く、コスト的にも論外だ」(フリッツ・バーレンホルト(再生可能エネルギー会社RWEイノジーCEO)

「精密な製造装置を使用する企業では、ほんのわずかな電圧変動や100分の1秒単位の瞬間停電でも、大きな損害が出る。
ノルスク・ハイドロ社のドイツハンブルグ工場の例では、電力が1ミリ秒(1000分の1秒)の瞬断で製造装置がストップし1万ユーロ=100万円の被害額。昨年来からの合計では50万ユーロ=5000万円を越えている」。
(シュピーゲル 2012年2月24日)

バックアップ用の発電所をいつも再エネに合わせて調整するため動かしたり、止めたりしているために、電力会社にとってはコストが膨らみ、政府は冬の度に薄氷を踏むような思いで電気をやり繰りせねばならなくなりました。 

「ドイツの電力供給の信頼度については、3分以上継続する停電をまとめた統計でみると、停電時間は1軒あたり年間約15分となっており、国際的にも高い水準が維持されているとみられてきた。 
瞬間停電が3分以下の停電や電圧変動は増加しており、産業需要家に及ぼす影響は大きくなりつつある。
 
世界3位のアルミメーカーで、ドイツ国内14カ所で工場を稼働しているノルスク・ハイドロ社(本社・ノルウェー)は、2011年12月27日に電力系統規制庁のクルト長官に宛てた書簡で、2011年には同社のドイツ国内の工場で度重なる停電を経験したほか、2011年7月20日には電圧変動により約20万ユーロの被害を被ったと報告している」
(電気事業連合会2012年1月20日) 

かくしてその結果が先述したドイツ製造業の国外逃避です。
わが国の脱原発派は、このドイツの政策をそっくりコピーして、さらにはドグマの域にまで高め上げてしまいました。
頭の悪い理科系宰相のカン政権は、まんまドイツ方式を直輸入し、原発全面停止をしたうえに、代替をFIT(全量固定価格買い取り制度 )で国民からぼったくりましたから
眼も当てられません。
 

トゥンベリさんは、こんなドイツの現状も日本の例も知らないで、叫んでいるんでしょうね。          

 

2019年9月25日 (水)

原発ゼロとは火力発電を増やすことだとわからない人たち

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 9月23日のニューヨークの国連本部における「世界気候行動サミット」で、スウエーデンの女の子が登場しました。
グレタ・トゥンベリさんですが、この人の演説を日本のメディアは「少女涙ながらに訴え」みたいな調子で報道しています。
メディア
は早くも次のノーベル平和賞候補だといい始めるありさまです。やれやれ。
子供が考えが足りないことを言ったら、大人はたしなめてやらにゃならんのですよ。

この子は、そこらへんの子供ではありません。バリバリの環境運動のプロです。

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https://www.businessinsider.jp/post-199316 国連サミットで発言するグレタ・トゥンベリさん。顔がコワイよ。

この16歳の少女は脱炭素のために学校でストライキをした子です。やりますな。

「トゥンベリさんが「未来のための金曜日(Fridays for Future)」活動 —— または、彼女の掲げるボードにスウェーデン語で書かれている「気候変動のための学校ストライキ(School Strike for Climate)」 —— を始めたのは2018年、生徒たちに学校を休んで、気候変動のための行動を政府に求めようと呼びかけた。
11月にはスウェーデンの国会議事堂の外で2週間にわたるストライキを行い、政府に対し、炭素排出量を年間15%削減するよう要求した」(ビジネスインサイダー 上写真と同じ)

あるいは、その名も「炭素排出量ゼロ」(a zero-carbon vessel) と云う名のヨットで大西洋を横断したりもしています。
普通の中学生にできることではありませんから、どこかは知りませんが大きなスポンサーがついたのでしょうね。
大西洋横断からこの国連サミットまでスケジュール化されていたようで、脱原発・脱炭素化運動はいい「名子役」を得たものです。

彼女の台詞もまたハッタリに満ちたものでした。居並ぶ世界の首脳を前にしての発言などこうです。

「あなたたちはわたしたちを失望させています。でも、若い人たちはあなたたちの裏切りを理解し始めています。未来の世代の全ての目があなたたちに注がれています。わたしたちを失望させることを選ぶなら、わたしたちは絶対にあなたたちを許しません」

ほー許しませんか、こういう言われ方をすると、別にキミに許してもらわなくてもいいんだけど、こういう自分だけが「若者の代表」って言い方はウヌボレがすぎるんじゃないの、と憎まれ口のひとつも叩きたくなります。
こういう単純な思い込みから出てくる決めつけは、軽いめまいすらします。
こういうリアルな社会や経済を無視して、自分の主義主張を絶対善としてしまうのは思春期にありがちな偏りなんですが、まるでかつての高校全共闘か、紅衛兵みたいです。

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https://www.bbc.com/zhongwen/trad/chinese-news-462...  公開つるし上げをする紅衛兵

知識も不十分だし、判断力もしっかりと確立されたとは言い難い16歳くらいでは、ひとつのイデオロギーに染まると、紅衛兵運動のようなマスヒステリーに容易に陥る場合があります。彼らの多くは中高生でした。

トゥンベリさんの怒りは、火力発電を増やしたため今回環境サミットで演説すら許されなかった米国や日本にもっぱら向けられているような気もしますが、だとすればとんだ筋違いです。
中国に向けなさい。中国はシャラとして太陽光パネルや風力発電の拡大と輸出に力を入れていると力説していますが、それはただのゴマカシにすぎません。
この国こそ、紛うことない
世界最大の二酸化炭素排出国であり、かつ重金属汚染排出国であって、冬のペキンは二酸化炭素の分厚いスモッグに覆われます。

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https://gendai.ismedia.jp/articles/-/46847

世界の3割の二酸化炭素を排出しているこの国を脱炭素化しないことには、地球温暖化阻止などただの絵空事にすぎません。

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http://jccca.org/global_warming/knowledge/kno03.ht...

さて、トゥンベリさんが注目を浴びたのに対して、世界のメディアからどーでもいい扱いを受けたのは小泉ジュニアでした。
スターであることを宿命づけられている(と当人が思っている)ジュニアには、ほろ苦の国際デビューじゃなかったのかな。

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なんせ得意のパパそっくりの演説はできないし(といっても英語うまくないしね)、注目されたのはもっぱら「セクシー」と言ったの言わないのでは寂しい限りです。
もちろんあの意味は、性的な意味ではなくて、クールていどの意味ですから、まぁつまんないことで騒がないで下さい。

問題はむしろ、この人が持論の原発ゼロを達成するには火力発電を増やさねばならないというトレードオフの関係が分かっていないことです。

分かっていないから、現行の日本のエネルギー政策でなぜ火力が増えてしまっているのか、を海外に向けて説明できません。
これがただの個人の政治家なら不勉強だなで済ませることなんですが、環境大臣として国連行ったわけですから、自分の担当部門を海外で説明できないようじゃ困るんですよ。

原発はいまほとんど動いてはいません。菅直人政権の置き土産がいまだに絶大な後遺症を残しているからです。
現在の原発の稼働状況です。

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https://mainichi.jp/articles/20190309/k00/00m/020/...

電源別に福島第1事故前と現在を比較してみましょう。

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https://denki.insweb.co.jp/saiene-hatsudenhiritsu....

上のグラフを見ると、2011年と2016年の推移はこのようなものです。

電源比率の推移
・原子力                              9.7%⇒1.7%

・化石燃料(石油・石炭・天然ガス)79.6%⇒83%
・再生可能エネルギー              2.7%⇒7.8%

日本のエネルギーは今や8割が化石燃料に依存しているのです。
強依存と言われても仕方がないし、だから国連環境サミットでも発言さえ許されないという屈辱を味わったわけですが、その原因はなんでしょうか。

理由ははっきりしています。原発を止めたからです
反原発派が代替エネルギーとして期待していたのは再生可能エネルギー(再エネ)ですが、FIT(全量固定価格買い取り制度 )という無茶苦茶に消費者を搾り取る制度を作りながら、5.5倍ていどの増加に止まりました。

小泉ジュニアに忠告しますが、脱炭素化の論理の前提になっている化石燃料の代替が再生可能エネルギーだという迷信からいいかげん醒めたほうがいい。
※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-8f2d.html

再生可能エネルギーは、はまる所を得れば素晴らしいエネルギーです。
ただし風力の強い北海道で出来た電力を短い送電網で消費出来るならば、という条件があってのことです。
 
それを津軽海峡を越えて大消費地の関東まで運ぼうなどとすると、海峡を渡る送電ケーブルの大増強をしたり、長大な距離の送電網を延ばさねばならなかったりして大変なコスト高になってしまいます。 

その上、電力自由化政策で発送電分離をしてしまいましたから、すぐに儲かりそうな小売りだけにはわらわらと新規参入増えましたが、地味で儲からないくせに、メンテナンスの塊のような送電部門には新規参入者は現れませんでした。
で、どうなったのでしょうか。
風が気持よく吹いて風車がグルグル回ってくれる北海道から、本土に送電できる送電網を敷いてくれる奇特な送電業者はついぞ現れませんでした。
ですから、FITの甘い言葉に釣られて再生可能エネルギーに参入した発電業者は、泣く泣く送電網コストを一部負担したり、計画全体の見直しを迫られている始末です

おまけに再エネをむりやり増やすためカンさんが作ったFITとは、要するに、「電力需給や原料需給とはまったく関係なく、市場価格より高く買うことを義務づける」というおおよそ自由主義経済の国とは思えない制度です。 
初年度は42円という驚天動地の世界最高値がついたので(※)、砂糖にむらがる蟻のように海外からさえメガソーラーに集まってきました。 ※現在のドイツFIT買い入れ価格22円
さすがに25年度は見直して37.8円にまで落としましたが、それでもなんと風力の2倍です。 
これが電気料金を直撃し、デフレ下の国民を締めつけました。

経済産業省の電気料金の平均単価推を参考に作られたグラフを見てみましょう。

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一般家庭で電気料金をどのくらい支払っているのかというと2014年の8月では8,509円で震災時の2011年3月から比べると36%も上昇しているのが分かります。

そして皮肉にも再エネを増やそうとすると、
再エネ発電所のバックアップが足りなくなってしまったのです。 
中学生にも気がつきそうなことを脱原発派は忘れていたのですが、太陽光は夜には発電しないし、曇りや雨となればただの箱です。風力は風がなければただの巨大ウチワにすぎません。
そうなると、発電しなくなっている時は、一体だれが発電しているのでしょうか?はい、そのとおり。火力や水力、原子力などの既成の電源です。 

しかしこういう場合もありますよね。午前中は風がなくてゼンゼン発電してかったものが、午後晴れたらブンブン発電するようになるとすると、今度は電気が余ってしまいますね。 
しかし気をつけよう、風車は急に止まらないのです。再生可能エネルギーは発電を抑制できないために、送電会社は全量出来た電力を買う(買電)することを義務づけられています。 
となると、いままで一生懸命止まっていた風力発電の穴を埋めていた火力発電所は、その瞬間に停止・調整を命じられてしまいます。

毎日この調子です。
再エネが動くと火力は止まる、再エネがへたれるとまた出番、というわけです。
このように一日何回もの稼働、出力調整・停止・再開を繰り返すのが日常的なことになってしまいました。
地球温暖化主義者には悪者扱いにされ、地道に日本のエネルギーを支え続けているのになんてひどい仕打ち。 

このように再エネ、つまり脱炭素エネルギーと火力発電は、どちらか一方を追求することでもう一方が犠牲となるという相反したトレードオフの関係なのです。
ですから、小泉ジュニアは国連で堂々と、火力が増えたのは原発を止めているからで、脱原発は炭素化の王道だろう、だ、文句あっか、と主張してくればよかったのです。

 

2019年9月24日 (火)

海外悪性伝染病は国が管理すべきだ

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もう少し海外悪性伝染病について続けます。
今回は江藤農水大臣のワクチン決断で一息ついた形になっていますが、現代において海外から(狭く言えば中国、韓国ですが)侵入する強力な伝染病について阻止体制が整ったわけではありません。
問題は先送りされています。

今回の豚コレラやかつての宮崎口蹄疫、あるいはトリインフルなどの特徴は、余りに感染速度が速く、旧態依然たる防疫指針では対応しきれていないということでした。

もはや地方自治体では対応出来ず、処理しきれないのは明白です。
結局各県がそれぞれの対応をしてしまい、有効なひとつのシステムとして機能していませんでした。

モデルとなるのは英国です。
かつての英国はヨーロッパにおける家畜伝染病大国でした。
言っちゃナンですが、今の中国か韓国のようなもので、いったん発生すれば当該国はおろか近隣諸国にまで感染をひろげて世界規模のパンデミックを引き起こすという迷惑国でした。
たとえば、有名なところでは口蹄疫、BSEなどがあります。

この原因は公共事業費の削減です。
英国の場合、サッチャーの事業仕分けでした。
伝染病予防はなにも起きなくてあたりまえ、日常的には国民の眼にふれませんから、恰好の予算削減の対象にされます。
国は国家財政を緊縮させて「小さな政府」を作りたいために、本来国としてやるべき全国規模の防疫を、地方自治体に移管させました。
結果、政府の省庁、各地方自治体がバラバラの意志で動いた上に、不十分な予算で初動制圧できなくなった結果、全国的パンデミックとなっていき、ヨーロッパ中から袋叩きに合うはめになります。

その反省から生まれたのが、2001年に作られた「英国口蹄疫緊急対策」でした。
この冒頭に書かれているのは、 英国における海外悪性伝染病は「国が直接に対策に当たる」ことです。
なんだあたりまえじゃん、と思わないこと。
日本は今でも国は指針は出しますが、やるのは地方自治体ですからね。

001_edited1「英国口蹄疫緊急対策」マニュアル NHKクローズアップ現代「口蹄疫初動はなぜ遅れたのか」(2010年6月7日放映)以下図版は同じ
http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=63680187&blog_id=610475

「英国口蹄疫緊急計画」と日本の防疫体制を比較しながら検証してみましょう。
まず最初の農家からの通報からいきましょう。

農家からの通報の流れ
・英国/ 農家⇒英国農水省(DEFRA・デフラ)の通報窓口
・日本/ 農家⇒地元民間獣医⇒県家畜保健衛生所⇒国立動物衛生研究所(動衛研)⇒県

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英国は口蹄疫などの海外悪性伝染病の緊急対応窓口を常にオープンしています。
日本なら自治体の家保に通報するところですが、いきなり農家から国単位の窓口に通報できるという点が根本的に異なっています。

日本は台風や地震でも明らかになりましたが、建前上の救援は一義的には自治体で、手にあまったら国です。
しかし地方自治体は財政基盤が弱いためにヒトモノカネの三要素が足りていませんから、常に国をあてにしています。
国も国で家伝法などの指針は作って大枠は決めていますし、いざとでったら手もカネもだすのですが、その境界が曖昧です。
あいまいだから、初動時にうまくまわらなくなります。

宮崎口蹄疫の場合、第1頭目が単独で出たために、第2頭めが出るまで16日間の間があき、その段階まで口蹄疫の可能性のまま留保されることになってしまいます。
農家は速く確定してほしいと要求しますが、県の腰は重く、結局、東京の動衛研にウィルスを送り、そこからの回答が戻って確定されるまで実に20日間も浪費ししてしまいました。
この初動の致命的遅れがすべてを決定しました。

そして次に発生した事例が海外悪性伝染病であると確定された場合、英国ではどのような対応をとるのでしょうか。
第2に、この緊急対応の流れを比較します。

確定後の情報共有の流れ
・英国 /通報を受けた英国農水省⇒家畜衛生局、保健省、外務省、警察、国防省、首相官邸など30箇所以上の関係組織に緊急連絡し、緊急会合を開催。
・日本/
動衛研⇒県、農水省消費・安全局(宮崎口蹄疫当時)※ただし、現在は首相官邸に連絡。

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英国が確定と同時に招集したのが、農水省家畜衛生局は当然として、防衛、外務、そして首相官邸まで招集がかかります。
とくに外務と防衛まで声がかかるのがすごいですね。
外務はEUがらみでの対応となるからですが、防衛は英国にかぎらず米国も同じで、感染症は狭い意味で殺処分を軍隊に頼むからだけではなく、国民の安全保障にダイレクトに関わるからです。

一方日本では、その時の農水大臣の資質によって左右されます。
かつての赤松氏のようなボンクラが座ると悲劇になりますし、経験豊かな江藤氏なら素早く動くでしょう。
しかしこれでは困るのです。システムは属人的であってはならないからです。

政府に国として対応するという意志がないために、農水省の中ですら通報は安全局に止まり、ましてや他の省庁に通報するなどは農水官僚の頭をよぎることさえなかったはずです。
ですから赤松敵前逃亡事件が発生するのであって、
これを政治的に批判しても意味がありません。
なぜなら、それを可能としてしまった硬直した防疫システムを見ねばならないからです。

かくして、宮崎口蹄疫事件においては、官邸にはおろか、ウィルス封じ込めのための道路の管理統制をする警察、空港などの消毒体制に権限を持つ国交省はわれ関せずでした。
ましてや、殺処分の主力となるはずの防衛省はカヤの外。
このように宮崎口蹄疫事件における初動において、日本には政府がなかったも同然だったのです。

一方、英国口蹄疫緊急対策計画のシステムがもっとも力を注いでいる点は、この省庁間、首相官邸との一刻も早い「情報の共有」です。日本になかったのは、単に口蹄疫の現場での検出を可能とする簡易機材だけではなく、いかに政府が情報をいち早く共有し、時間単位で進行する口蹄疫を撲滅するために国家を上げて動く危機管理体制そのものだったのです。

英国の口蹄疫緊急対策のもっとも重要な考えは、「数時間以内の初動制圧」です。このことを可能にするために英国はその障害となる要素をひとつひとつ解決していきました。

第3に緊急対応をみます。
●緊急対応
・英国/農水省から緊急即応処理チームを投入。
・日本/家保が受け持つが、能力を超えた場合は自衛隊に災害派遣を要請。

まずバラバラであった責任や権限体系を国が一元化しました。
さきほど述べたように口蹄疫と疑われる牛が出た場合、国への通報窓口に直接にコンタクトできるシステムが確立され、英国農水省の口蹄疫対策即応チームと処分チームが現地に飛びます。
そして判定がクロだとなった段階で移動禁止・殺処分が開始されます。

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下の写真は、要員と機材を載せたコンボイです。常時待機しています。

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いちいち日本と比較して恐縮ですが、宮崎の場合、処分を誰がするのか、獣医師か、当該農家か、はたまた県職員か、自衛隊かでもめました。
一般の県職員は大型家畜の殺処分は勿論初めてで役にたたず、家保、獣医師は全国に応援依頼してもまだ数が足りず、自衛隊を災害派遣してもらい、更には全国から民間の獣医師ボランティアが大勢手弁当で駆けつけてなんとか凌ぐありさまでした。
一方、英国は逡巡なく英国農水省が緊急投入した専門チームがこれにあたります。

同時進行で、国は農水省、首相、閣僚、官僚など関係30組織に口蹄疫の緊急速報をかけます。そして確定判定が出た段階で、「中央危機管理委員会」が立ち上がり、国内のすべての牛の移動は即時凍結されます。

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実は、このときに動いているもうひとつの緊急対策ブロックがありました。それが査定人グループです。英国においては国が指名した査定人グループが常設されているのです。

そこで第4に殺処分される家畜の査定について比較します。
査定
・英国/査定人が殺処分と同時に訪問。
・日本/国が提示

査定人は常に最新の家畜相場を把握した査定のプロです。
日本の東国原宮崎県知事のように殺処分に当たって当初は「財産権があるので処分は難しい」とゴネ、数日後には事態に慌てふためいてとんでもない補償金額を口走って混乱に輪をかけてしまうような失態が起きないために、国があらかじめ選んだ査定人を選任してあります。

口蹄疫が確定されたと同時に公定査定人は農家を訪れ、補償金額の取り決めをして処分が直ちに行われるようにセットします。処分にかかる費用も国が負担します。

このように確定判定-処分-査定の三つのフェーズが同時に進行しているわけです。
逆に言えば、この三つが揃わなければ初動制圧は困難だということになります。
2007年の口蹄疫発生時にはこのマニュアルが実地に検証されたのですが、確定から処分官僚・終息までかかった時間はわずか12時間でした。

 

2019年9月23日 (月)

豚コレラワクチン接種認められる

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国がやっと豚コレラのワクチン接種を認める方針に切り換えたようです。

江藤大臣は「われわれの予想を超える事態に直面し、13万頭以上の殺処分となり、大いに責任を感じている。防疫指針しかり、衛生管理基準しかり、あらゆるものを検討したい。私だけでできることではなく外部有識者などの意見も十分うけたまわりたい」と述べ、農林水産省として午後、豚コレラについての対策本部を開いてワクチンの接種に踏み切る方針を正式に決めたうえで、改めて説明する考えを明らかにしました。
三重県の鈴木知事は20日午前、記者会見し、「ワクチン接種に踏み出す方針転換を国が図ってくれるのは評価しないといけない」と述べました。
そのうえで、実際のワクチン接種の進め方について、鈴木知事は、「地域への丸投げは国家レベルの危機事案に対処する方法ではないと思う。できるかぎり急いで、国、自治体、生産者をあげて取り組むようなワクチン接種にしてほしい」と述べました」
(NHK9月20日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190920/k10012091331000.html

今回の江藤大臣の決断は妥当です。
ワクチン接種する以外、感染拡大を阻止する術はありません。

決定をした農水大臣は、2010年に自らの選挙区において未曾有の口蹄疫禍を経験した江藤拓氏であったことは幸運でした。
江藤氏は就任と同時に決断をしていますから、おそらく早くオレを大臣に指名しないかと思っていたことでしょう。

宮崎口蹄疫に関しては、あまりにも沢山の記事を書きすぎて(書きも書いたり、ざっと330本!)、自分でもどう整理したらいいのかわからなくなるくらいです。もし関心がおありならカテゴリー「口蹄疫問題」をご覧下さい。発生から終了まで逐次追跡しております。
ご存じの方は波線から下に飛んで下さい。

                                                   ~~~~~

宮崎口蹄疫は巨大な傷跡を残しました。
宮崎口蹄疫の原因は多々ありますが、ひとことで言えば
、伝染病制圧を指揮統制すべき者が欠落し、自治体の防疫能力に限界があったために初動が遅れに遅れたことです。
台風もそうですが、家畜伝染病が発生した場合、それを鎮火する責任は一義的には地方自治体にあります。
宮崎口蹄疫の場合は宮崎県が責任をもって、初発が出た時点で直ちにサーベイランス(発生動向調査)を行い、確定して陽性ならば殺処分を行わねばなりません。

ところが確定が遅れた上に、初動の殺処分が極めて遅れました。
時系列で見てみましょう。なぜ日単位の時系列で見るのかは、口蹄疫の際立った特徴が三つあるからです。

①異常に早い感染力と感染速度。
②治療薬がない。また予防ワクチンが設定されていない。
③防疫方法は殺処分しか現状では認められていない。

これら三点の口蹄疫の特徴があるため、いったん初期防疫に失敗した場合、燎原の火のように燃えるものがなくなるまで燃え盛ります。
人間はこの燃え盛る疫病に対して、いわば破壊消防のように高価な和牛や豚を殺処分、つまり殺して防ぐ殺処分しか方法はなくなります。

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ウィキ https://ja.wikipedia.org/wiki/2010%E5%B9%B4%E6%97%...

時系列で宮崎口蹄疫の前半を追ってみます。

●3月31日 都農(つの)町の農家で水牛3頭に下痢の症状があり、動物衛生研究所海外病研究施設(東京都小平市)で遺伝子検査を行い、陽性と判明。初発と認定されるも、実は川南町ではその前の22日、農家から役場を通じてよだれや発熱の症状を示す牛がいると、宮崎家畜保健衛生所(宮崎市)に連絡があった。3頭に症状がみられ、うち1頭が陽性。でした。つまり、微弱な感染が3月中旬頃から見られていた。

●4月9日~17日、口に水泡がある牛を獣医師が発見。
●4月20日 宮崎県が口蹄疫発生を報告。一切の国産牛肉は輸出が不可能となる。農水省も確認。
4月21日 本来この時点であるべき政府・農水省からの指示や支援策が現地に来ないことで、宮崎県はパニックになる。宮崎現地の備蓄消毒薬が在庫切れになる可能性がでる。
4月25日 殺処分の処分対象千頭を突破。過去の2000年時をはるかに凌ぐ最大規模になることが明らかになりる。初動制圧失敗。

この時点で既に25日間も経過していますが、家畜伝染病は初めの24時間で殺処分せねばなりません。
初動で資金とマンパワーを一挙に投入して、一気に沈火せねば、後は水漏れのようにそここから感染ルートが伸びてネズミ算的に手がつけられなくなるからです。
発生後役1カ月で、殺処分対象が千頭となったということは、それだけ順番待ちをしている疑似患畜がいるということであって、パンデミックに既になっているということです。

●4月27日 東国原知事が陳情。政府、野党自民党(当時)に対策本部設置。
ただし、鳩山首相はまったくの無関心。最後までハト氏はこの無関心を貫く。

この当時の民主党政府の無能さは眼を覆うばかりで、対応に動いているのは農水副大臣(後に大臣)の山田氏ひとりで、肝心の大臣の赤松氏は4月30日にはカリブ海へと外遊するあり様でした。
かくして口蹄疫発生国の担当大臣が指揮官敵前逃亡という異常事態となります。

赤松氏については論評すらしたくありません。民主党うんぬんではなく、唾棄すべき最低男です。
この人は、5月に帰ってくると、その足で行ったのは民主党候補選挙応援ですから、念がいった大馬鹿者です。
後に山田氏が大臣、篠原氏が副大臣(現地対策本部長)になって民主党政権の汚名を少しでも回復させるべく奮闘しましたが、政府与党内はひたすら無関心をきめこみ、まさに孤軍の様相を呈しました。
原子力事故にしても口蹄疫にしても、政権の揚げ足取りだけしかしてこなかった連中が政権を取るとこういうことになります。

●4月28日 川南町の県畜産試験場の豚5頭に感染。同試験場の豚486頭が殺処分に。
県なんと試が感染ハブとなっていることがわかりました。感染ハブとは感染を拡大する中心センターという意味です。
しかも防疫のモデルとならねばならない県試ですから目も当てられません。
初動の失敗、確定の遅れ、殺処分の停滞と合わせて、宮崎県には強く反省してもらわねばなりません。
ここで、
牛感染が豚にも感染するという牛豚共通感染症になるという最悪の事態となりました。

●4月30日 移動・搬出制限区域を宮崎・鹿児島・熊本・大分の4県に拡大。
宮崎県周辺の県はレッドアラート体制に突入し、以後宮崎県東部は孤立していきます。
●5月1日 宮崎県知事、自衛隊に災害出動を要請。もはや前代未聞の激甚災害となりました。

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ざっとここまでが発生から一カ月あたりの初動段階です。
後に現地に入った山田大臣に対する東国原知事の不毛な要求闘争があり、更に殺処分は遅れ、ワクチン接種して感染を遅らせながら、殺処分するといった事態にまで発展しましたが、後半は略させていただきます。
後に、獣医のために家畜伝染病でやってはいけない教訓集を作るとしたら、そのいい教科書となるでしょう。

                                                          ~~~~~~

さて話を豚コレラに戻します。
今まで豚コレラを記事にしてこなかったのは、感染ルートが明確でなく、原因が分からなかったからです。
たとえば、関東に豚コレラ侵入した9月13日
埼玉県小鹿野町の事例は、同時期に秩父市の養豚場においても感染が確認されています。
この両農場は南西におよそ5.5キロ離れた場所で、この二つをつなぐ接点がありません。
一方、推定可能なケースが今年2月の愛知県の事例です。 


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田原市の養豚場は、6日にが確認された同市内の別の養豚場から5キロ離れている。同じ食肉処理施設を利用していたことから、監視下に置かれていた。愛知県は、13日に新たな感染が見つかった養豚場で飼育している1000頭余りの殺処分に着手した。 昨年秋以来確認された1~7例目のは、すべて岐阜県南部に集中。周辺で野生イノシシの感染例が多くみられることなどから、イノシシがウイルスを媒介したとの見方が有力だ」(時事2019年02月13日 地図も同じ)

子豚の出荷は重要な感染ルートですが、野生のイノシシが関わっていると見られています。

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農水省 豚コレラについてhttp://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/

中国、韓国の口蹄疫や豚コレラははことごとく畜舎の外に感染を拡大し、野生の偶蹄類に感染を広げています。
こうなってしまった場合、野生のイノシシを一頭残らず捕獲して殺処分することは不可能です。
したがって、伝染病が在野化した場合、もはや打つ手は唯一、低毒性のワクチンを打って軽く感染させることによって免疫抗体を上げるしか方法はありません。

ここで問題となるのは、防疫そのものの問題ではなく、食肉としての商品性です。
ワクチンは軽く感染させることになるので、国際獣疫事務局( OIE )から認定を受けている「ワクチン未接種清浄国」というランクから転落します。

Index46

農水省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k...

OIEが設けたカテゴリーは、①ワクチン未接種清浄国②ワクチン接種清浄国③発生国というカテゴリー分類でした。

2010年当時の日本は今まで①だったものが③の感染国に転落したわけです。
これを殺処分という破、壊消防で切り抜けられれば、①に戻れますが、ワクチンを使って防ぐと接種していることで、②となって、貿易上の不利益がうまれるのです。
というのは、今まで非清浄国やワクチンを使っている国々からの輸入は、家畜伝染病があるから制限をかけることができたものを解禁せねばなくなるからです。
つまり輸入圧力が増大するということです。

また輸出に関しても、日本は黒毛和牛を世界中に輸出して、和牛ブランドを確立しましたが、この第2弾として国産豚肉も準備していた矢先に足元に火がついてしまったわけです。

ところがやや驚かれるかもしれませんが、元々日本は豚コレラのワクチンは使っていたのです。
その辺を正直に語る江藤大臣です。
江藤農林水産大臣臨時記者会見概要 9月20日
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/190920_2.html

江藤大臣: 思い切ったことを言わせていただきたいと思います。御批判もあるかもしれませんが、私は今59歳です。日本はですね、2006年まで豚コレラのワクチンを接種しておりました。ですから私の人生の大半の時間は、ワクチンを接種した豚肉を食べて、成長して今、健康であります。
 ですから、ワクチンを接種するとですね、なんかその豚危なくなるんじゃないかという気持ちをですね、消費者の方々が持つのはこれは間違いですから」

江藤氏の言うとおり、日本は2009年まで豚コレラのワクチンを使っていました。
その後、制圧したというのでワクチンを接種しなくなっただけのことで、日本は輸出を考えない時期にはワクチン接種国だったのです。
ですから戻るだけのことで、特に新しいことではありません。

江藤氏の決断の背景には、豚コレラより更に恐ろしいアフリカ豚コレラという強力なものが後ろに控えていることも絡んでいます。
このアフリカ豚コレラはアフリカで猛威をふるい、中国にも飛び火したことが確認されています。
しかも豚コレラと違ってワクチンがありません。

トリインフルも口蹄疫も、そして豚コレラもアジアにおける発生源の大元は中国です。
防疫関係者から中国は防疫のブラックホールと呼ばれ、防疫はあってなきが如しである上に、ありとあらゆる家畜伝染病の博物館と化しています。

Index49

農水省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k...

この中国からの家畜の密輸、あるいは渡り鳥、野生動物を媒介して北朝鮮や韓国に伝染を広げていきます。
韓国は全土くまなく家畜伝染病に侵されきった土地と化しています。
しかもいまや野生のイノシシなどにまで常に感染が存在しているという状態ですから、伝染病が抜けるということがありえません。
しかも韓国は移動禁止となっても患畜を売りさばくために移動させたり、当局が生きたまま生き埋めにするといった日本ではありえないような杜撰なことを平気でやっています。

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https://togetter.com/li/91069

本来ならば、韓国からのヒトの移動も制限をかけるか、空港で消毒ブースを通すなどといった予防措置をとりたいのです。 
韓国が勝手に輸出管理規制で逆ギレして旅行禁止してくれたので、大助かりです(笑)。
このままずっと来ないでくれると、畜産農家は嬉しい限りではないでしょうか。

このような世界有数の家畜伝染病発生国に包囲されたわが国ですから、このままワクチンひとつ打てないとなると、ブロックする手段を自ら捨てたに等しいことになるわけです。
今回認められたワクチン接種は豚コレラだけですが、口蹄疫、トリインフルまで検討課題としていただきたいものです。

※扉写真差し替えました。すいません。

 

2019年9月22日 (日)

日曜写真館 秋のひょうきん者たち


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  巨大ピーナッツではありません

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仲良きことは美しきかな と書き込みたくなります

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農家の軒にぶら下げたくなります

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のどかな秋の陽に似合います

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なんといっても私たちが秋の主役です

2019年9月21日 (土)

東電刑事訴訟判決

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東京電力の旧経営陣に対して起こされていた刑事訴訟について、東京地裁の判決がでました。

判決で、東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、裁判の大きな争点となった原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて「津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘しました。
そのうえで、「原発事故の結果は重大で取り返しがつかないことは言うまでもなく、何よりも安全性を最優先し、事故発生の可能性がゼロか限りなくゼロに近くなるように必要な措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられないわけではない。しかし、当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としておらず、3人が東京電力の取締役という責任を伴う立場にあったからといって刑事責任を負うことにはならない」として無罪を言い渡しました」(NHK9月19日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190919/k10012089251000.html

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東京電力の勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69) NHK前掲

争点は、判決文が言う「旧経営陣3人が巨大な津波の発生を予測できる可能性があった」か否かでした。
指定弁護士は、2002年に国が公表した『地震予測の長期評価』を根拠に「福島第一原発に最大 15.7m の津波が来る」との情報を当時の経営陣が2008年3月に報告されていたが、これをあえて無視した、と主張しました。

判決では、この大地震と津波の予見可能性の観点から否定しました。
常識的判断です。
なぜなら、この国の「長期評価」には具体的な根拠がなく、多くの専門家からも疑問視されていたものだからです。

実はこの津波は予見できたとする意見は、繰り返し繰り返し登場してきています。
これは東電処罰論の一角をなす議論でした。
東電処罰論には3ツのパターンがあります。

①予備電源が津波を被る前に地震で破壊されていた。
②地震による
大津波を知りながら、予見して対策を打たなかった。
③東電は職員が事故処理を放棄して撤収した。

③に関しては、朝日が流した真っ赤な嘘八百で、吉田所長証言が出るに至って完全否定されました。
後に朝日は社長の全面謝罪に追い込まれます。
①の原子炉が地震で破壊されたとする説は、政府事故調査報告書で否定されており、規制委員会も事故報告書で正式に否定しています。
地震で壊れたのではなく、あくまでも外部電源がブラックアウトし、予備電源までもが津波で水没し、全交流電源が停止してしまったために起きたのです。

当時官邸で指揮を執っていた菅直人首相がマネージメント能力を喪失していた様は、多くの事故報告書で厳しく批判されています。
また当時官邸に呼ばれていた原子力専門家の斑目氏や、今回起訴されている東電・武黒氏などが、菅氏のパワハラに屈伏してしまったためにまともな助言を出せずに、あろうことか菅氏の言うがままに吉田所長が行っていた原子炉の海水冷却を止めようとすらしました。
ら指揮中枢がまともな指揮を執りさえすれば、水蒸気爆発は避けられ、これほど大規模な事故につながらなかった可能性があります。

最大の事故原因は、非常用予備電源がノーテンキにも平地につけられていたことです。
福島第1原発のジェネラルエレクトリック社製マーク1では、非常用電源が米国と同じ仕様で平地にあったために、外部電源とバックアップディーゼル電源がほぼ同時に破壊されてしまいました。
予備電源が同時に破壊される事態を、東電が予知できたかできなかこそが、真の争点なのです。

これは事故前に強烈に原子力業界を支配していた「空気」である「安全神話」に由来しています。
なにせ、当時福島第1原発の設計段階で「全交流電源喪失という想定外は起こり得ない」と規制機関であるはずの
原子力安全委員会が明言してしまったのですから話になりません。

1990年8月30日、原子力安全委員会が出した文書にこのような文言があります

「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用電源設備の復旧が期待できるので考慮する必要はない」
(「発電用軽水炉型原子炉施設に関する安全設計審査指針」より)

つまり、安全委員会は初めから安全対策を「全交流電源喪失なんてあるわけないから考えなくていい」、と言ってしまっているところから始めているのです。
ちなみにこの指針を作ったのが、当時原子力安全委員会の委員長であり、皮肉にも事故時に官邸で指揮を執っていた斑目氏でした。

外部電源の全ルートが止まる可能性があるということは、当時においても決して絵空事ではなく十分に予見可能だったはずです。
それは先日の千葉大停電時に多くの電柱が倒壊したばかりか50メートルもの鉄塔さえ倒壊したことでわかります。
ならば予備電源ひとつが頼りのはずですが、海岸際にありながら津波の可能性にすら眼をつぶっていたために平場に設置してしまったのです。

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福島第1原発 出典不明

上の写真を見ていただければ、海岸の真ん前にあるのがわかります。
いちおう堤防がありますが、10メートルを超える津波には役にたちませんでした。
下の写真は福島第1の構内に流れ込む津波の様子です。

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出典不明

そしてたちまち設備を水没させて行く様子がわかるのが下の一枚です。

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出典不明

予備電源の水没対策はあきれるほど簡単です。
施設の屋上に持っていき、水密構造にしておけばよかっただけのことです。カネもかからなければ手間も要りません。
改修というのも大げさで、数日の工事で済んでしまうでしょう。
これをしなかった東電経営は強く批判されるべきです。

また、そもそも福島第1は設置地表から15メートル掘り下げて建設されました。
地質が脆かったために岩盤まで掘り下げたいということと、取水・排水が容易となるというのが理由でしたが、仮に通常どおり地表に建設しておけば津波ははるか数十メートル下の崖を洗っただけで済んだはずでした。

同じ津波を浴びた女川原発が高台を削らずにいたために助かり、福島第2は予備電源が水密構造になっていたために助かったことなども考えると、建設用地を15m削って予備電源を水密構造にしなかったのは明らかに津波が来る可能性を甘く想定した判断だと言われても仕方がないでしょう。 

この二つの点において、東電の責任は追求されてしかるべきですが、では、今回裁判で争われた福島第1を襲った10メートルを超える大津波を予見できたかどうか、という地震予知の問題となると、筋違いとしかいいようがありません。

まず、大前提として地震は絶対に予知できると言っている専門家がいるとすれば、その人の言うことには眉に唾をつけたほうがいいでしょう。
ハッキリ言って、東日本大震災を前もって予見できた人など皆無だったし、熊本や北海道地震すら予知できた者は皆無だったのです。
地震が起きた後にしたり顔で地震専門家がどこそこプレートがなんじゃらというのは後知恵にすぎず、起きたから分かったにすぎません。
予見できたというのはただの幻想にすぎません。

元国立極地圏研究所所長の島村英紀氏は著書『地震予知はウソだらけ』の中でこのように述べています。


「地震の予知は短期の天気予報と違う。それは地震は、地下で岩の中に力が蓄えられていって、やがて大地震が起きることを扱える方程式は、まだないからである。つまり天気のように数値的に計算しようがないのである。その上、データも地中のものはなく、地表のものだけである。これでは天気予報なみのことができるはずがない」

このように地震学者の島村氏ですら、予知が不可能と断言しています。
地震予知とはいわば占いの一種のようなものですから、「予知できたはずだ」ということを前提にするのはいいかげんやめたらいかがでしょうか。
まったく建設的ではありません。

しかも、東日本大震災は元地震予知学会会長の島崎邦彦氏が告白するように、地震予知「理論が根本から間違っていた」ような事態でした。
地震学会の常識では、宮城県沖のような「古いプレート」は沈み込まないとされていたからです。
にもかかわらず、大きく沈み込んでマグネチュード9の大地震を引き起こしました。
これを事前に「予知」し得たのは、日本で極めて少数の専門家しかいませんでした。

そのひとりが産業技術総研の活断層・地震研究センターの岡村行信氏で、氏は、佐竹健治氏らの『石巻・仙台平野における869年の貞観津波の数値シミュレーション』を参考にして、マグネチュード8.5クラスの地震が、仙台よりさらに南に、つまり宮城沖まで来る可能性を指摘していました。(※「地震・津波・地質・地盤合同ワーキンググループ」第32回会議・09年6月24日)  

しかし、これをもって地震学会全体が警告を発したかというとまったくそういうことはなく、2011年3月11日午後2時46分の運命の時間まで、誰しも考えもしなかったわけです。 
この岡村氏の説を根拠にして、東電は貞観(じょうがん)地震を知っていながら無視したという批判がなされ、さらに朝日が流した東電撤退論が重なって東電=悪玉論へと肥大化していきます。  

さて、東電は、この貞観地震について無視していたわけではありませんでした。東電の政府事故調への証言によると、東電はこのような津波の調査をしています。 

まず、2006年9月に安全委員会の耐震設計審査指針が改定されました。  
2002年7月の地震調査委員会は、三陸沖から房総沖にかけての日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの地震が起きた場合、福島県沖で10m超の地震津波を想定していました。
東電は福島第1、第2、女川(※女川は東北電力管轄)などの原発に津波が到達する可能性を探るために、現地の地質学調査を実施しています。  

それによると、2009年から10年にかけて、東電は福島県内の5箇所で貞観地震の津波堆積物現実に調査しており、南相馬市で高さ3mの地点では地震による堆積砂が見られたが、4m地点ではなかったために、貞観地震の津波は最大で4m以下と推定されました。  
ちなみに貞観地震を念頭において過去に十数メートルの大津波があったという人もいますが、正しくは4メートルです。

これでわかるように、東電は貞観地震の津波の影響調査をしており、それが数百年のスパンの周期であるために、すぐに対策を立てる必要のある危険とは判断しなかったのです。  
869年に起きた貞観地震の周期は、推定で約1100年という超長期スパンです。  

東電はこれを無視したと言って非難されているわけですが、11世紀スパンの周期ですので、何十年も、時には百年単位の誤差が生じてあたりまえで、30年以内の確率は0.1%でした。 
東電が0.1%の確率を想定していなかったと言って、どうして責められねばならないのでしょうか。

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吉田所長は政府事故調の証言で津波対策についてこう述べています。

「それが10(メートル)だと言われれば10(メートル)でもいいし、13(メートル)なら13(メートル)でもいいんですけれど、こう言う津波が来るよという具体的なモデルと波の形をもらえなければ、何の設計もできないわけです。ちょっとでもというのは、どこがちょっとなのだという話になるわけです」

吉田氏が言うように、津波の「波源の場所、波の高さ、あるいはその形状などが、施設の設計に使えるように具体的にモデル化されていないでは具体的対処をしようがないではないか」、という指摘は企業のリスク管理としては間違っていません。
企業は計量化できる脅威に対して、それを排除するための対策を構築するものだからです。
いつか、どこかに、規模すら不明なものが「来る可能性がある」と言われても、企業としては対処しようがないのです。 

私の結論としては、東電が最善であったかといえば、おそらくノーです。
東電にとって対策の取りようはいくつかあり、それをしなかったのは問題視されるべきです。
しかし津波については、判決の言うとおり「原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」のです。

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菅直人首相、枝野幸男官房長官、仙谷由人官房副長官

また、東電旧経営陣が裁かれるのなら、当時官邸にいて事故処理に失敗した菅直人元首相とその側近たちの責任もまた法廷で裁かれるべきでしょう。
 
首相であり対策本部長だった菅首相、官房長官であった枝野氏、所轄の経済産業相だった海江田氏などもまた法廷に召還されるべきです。
ところが誰ひとりとして罪を裁かれることなく、いまは口をぬぐっていち早く反原発に転向して東電を糾弾している姿を見るとなんとも言えない気分になります。

 

 

2019年9月20日 (金)

トランプがボルトンを切った訳とは


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「トランプの暴走」という表現をメディアは好みますが、違うんじゃないかなとこのところ思うようになっています。
トランプは「迷走」などしておらず、一貫して「トランプ」なのです。
彼にとって閣僚はいわば使い捨ての駒のようなもので、本気で彼らの言う政策を実行する気はありません。
彼のディールにとって必要なら使うし、不要ならマティスやマクマスターのように辞任を求めるし、公然と楯突いてくるようなボルトンならば追い出すだけのことです。

私はトランプは暴走して核戦争も辞さないどころか、通常兵器による軍事介入すら喜ばない「平和な紳士」だと思っています。
たとえば朝鮮半島海域に3隻の空母を並べて見せるのも、北朝鮮を交渉の場に引きずりだすための仕掛けだったのであって、その巨大な軍事力を行使する気など初めからありませんでした。

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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-...

ボルトンを補佐官という強面を中枢に据えて見せたのも、おい正恩坊や、おとなしく会談に出てこないと痛い目に会うぞ、ということを分かりやすく伝えたかったからであって、ボルトンの主張する「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)というパーフェクトゲームをやる気は元々なかったのです。

ただ、交渉開始前には、ディールのハードルを目一杯高くしておかねば値切られてしまいますから、思い切り高い要求を突きつけたのであって、本気でボルトンが望んだ完全非核化など夢物語にすぎないと、トランプは冷めた頭のどこかで考えていたことでしょう。
だから、第1回直接会談で「朝鮮半島の非核化」という絶対に呑んではならない文言を呑んでしまい、これで北朝鮮の非核化とは在韓米軍の撤退とイコールだということを公式に認めてしまいました。

トランプにとって韓国はいわば67年前の朝鮮戦争が残した不良債権そのものであって、早くこんなものは処分してしまいたいはずです。
完全編成の陸軍第2師団を対北朝鮮対応だけの目的で韓国に貼り付けおくことは、彼ならずとも馬鹿馬鹿しい軍事的リソースの濫費でしかありません。
第一、在韓米兵にとって韓国は居心地の悪い国ナンバーワンなのです(日本は米兵にとっていたい国のトップですが)。
ましてや、受け入れ国が手を替え品を替えて嫌がらせを仕掛けては追い出しにかかっているわけですから、米国ならずとも馬鹿馬鹿しい限りで、トランプからすればいかにスマートに米国のメンツを保ったままで撤退するかが関心事だったと思います。

最低でも2022年の戦時統制権返還時までには、在韓米軍は引き上げさせたかったと思います。
戦時統制権はよく話題になるテーマですが、軍隊の編成・指揮権を意味し、ハッキリ言えば韓国軍は米軍の言うがままに動け、勝手に動くなという権限です。
この権限に基づいて、米軍は韓国軍の要所要所に連絡将校という形でお目付役を配置しました。
勝手に北進されたり、クーデターを起こされてはたまらないからです。

それそもこんなヘンな形になったのは、朝鮮戦争時に、大統領の李承晩が敵前逃亡をするなど韓国軍が悲惨なまでに使い物にならなかった祟りです。
米国は以来、軍事的に韓国を全く信用していないし、米韓合同司令部の形で、自分の指揮下に置いておきたいと思ってきました。
話が逸れますが、よくネットには韓国軍が対馬に攻めて来るということを言う人がいますが、韓国軍が戦時統制権を握られているかぎり、米軍がそんなことを許可するはずがありませんから無理です。
やる気なら別枠の特殊部隊(特戦団)か海兵隊を使うかしかありません。
実際に、軍事政権時に起きた光州暴動の鎮圧には特戦団を投入しました。
ですから、現実問題として韓国の日本攻撃は、特殊部隊や海兵隊を使ってやればできるが、そのていどの小部隊の攻撃しかできないということになります。

話を戻します。
まぁ韓国からすれば屈辱的な半主権状態にあったとも言えるわけですから、しつこく返せ返せと言い続けてきました。
で、返還に合意したわけですが、裏を返せば韓国軍みたいな者の指揮下に在韓米軍が入る気などみじんもないということです。
米国には外国軍人の指揮下に米軍将兵を千人以上置いてはならないという法律までありますから、戦時統制権の返還イコール在韓米軍は自動的に消滅ということになります。

では在韓米軍が完全撤退してしまうのかといえば、それは米韓合同司令部の枠内だけのことで、国連軍は埒外ですから、米軍は一定数の軍人を国連軍名義で駐屯させることができます。
国連軍司令官は米軍人ですから、その権限で韓国軍を統制することも不可能ではありません。

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一方、逃げる準備は着々と整えられていて、在韓米軍はいまかつてのワイヤートラップの位置であったソウル以北から、半島中部のピョンテク(平沢)のキャンプ・ハンフリーズに集中させています。
上の地図を見ると、この位置まで在韓米軍司令部、国連軍司令部、第8軍司令部を下げた意味が分かると思います。
ちなみにどうでもいいですが、この図は米軍出所ですが、シー・オブ・ジャパンって書いてありますね。韓国さん米軍に抗議しなくっちゃ。なんせイケアの店内地図にすら噛みついたもんなぁ(笑)。

それはさておきピョンテク移動が意味することは、北朝鮮が38度線に集中させているロケット砲や大砲の射程外に出てしまうということです。
いままでは北朝鮮は南進しようとすれば、38度線のすぐ南に駐屯していた米軍第2師団に引っ掛かってしまい、自動的に米国と交戦状態になってしまいます。
このような自動参戦戦略をワイヤートラップと呼びますが、中部のピョンテク移動が意味するものは、もう米軍は韓国の楯の役割はしない、という意味です。

その上、頭が不自由なムン政権はソウルにある米軍施設のヨンサン(龍山)基地 の返還まで求めたようで、どうせやくたいもない反米民族主義を鼓吹したいのでしょうが、正気の政府ならやりません。
だって首都ソウルに米軍基地を置いてある意味は、 ここに米軍がいることによるワイヤートラップ効果を狙っていたのですから。
ソウルを「火の海」にすれば、米軍も自らの頭上に降ってくる砲弾を浴びねばなりませんからね。
ですから、ムンがヨンサン基地撤去を求めたことは、自分から頭を差し出してソウルを撃ってくれと頼んでいるようなもんです。

ちなみに沖縄に米軍基地があるのも、同じワイヤートラップ戦略ですから念のため。
沖縄に米軍がいることによって中国や北は攻撃すれば、自動的に米軍も攻撃してしまうことになりますから、ためらいます。
米軍がいるから抑止が効いた状態でいられるわけです。自衛隊だけならためらわず撃ってきます。
だからヒダリの人たちがよく言う「米軍がいるから戦争になる」のではなく、「米軍がいるから戦争にならない」のです。

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さて冒頭のトランプに話を戻します。
トランプからすれば、北朝鮮が再び南進しないと約束し、米国に届く長距離弾道ミサイルを撃たなければ、一定の核施設を閉鎖すれば、多少の核保有は認めてやってもいいと考えていているフシがあります。
これらの不安定要因があるから米軍はいつまでも韓国に駐留せねばならないのであって、それさえなくしてしまえば、米軍が韓国に駐留する意味はなくなるからです。

ところが頑固な哲人軍人のマティスはぜったい同盟解消に繋がるようなことには賛成しなかったし、ボルトンに至ってはかつての成功体験のリビア方式の焼き直しであるCVIDに固執しやがって、オレの華麗なディールをジャマしやがる、この頭の堅い奴らめ、とトランプが思っていても不思議はありません。

海野素央明大教授はこう述べています。

「北朝鮮との核・ミサイル交渉において、ボルトン氏は「負の存在」になりました。トランプ大統領は、ボルトン氏解任後に行われたホワイトハウス記者団とのやり取りで、同氏が北朝鮮との交渉の場で「リビア方式を持ち出したのは大きな誤りであり、これで交渉が後退した」と明かしました。
リビアのカダフィ政権は、核を全面的に放棄した後に制裁を解除する「リビア方式」に応じました。しかしその後、政権は崩壊しました。体制維持を最優先する金正恩朝鮮労働党委員長にとって、リビア方式は到底受け入れられない手法です」
(WEDGE Infinity9月15日)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/17364?page=2

まぁそうでしょうね。
トランプ御大の口から直接に、ボルトンが進めてきたCVIDを「リビア方式をもちだしたのは間違いだった」とまで言われてはホワイトハウスにいる場所はありませんもんね。
正恩にとってボルトンがいることによって体制護持の約束が阻まれていると考えるでしょうし、第2回会談を破綻させたのはこのボルトンの野郎のせいだ、と大いに憎んでいたことでしょう。
一方、それが北との妥協点だと考えていたトランプにとって、もはやボルトンは目障りだったのです。

いまのトランプの頭の中を占めているのは実にシンプルで、再選の二文字です。
かつてトランプにとってボルトンという「強硬」の記号をホワイトハウスに置くことで御利益はありました。
米国と敵対する諸国は軍事オプションも辞さないとするボルトンがトランプに耳打ちすることを恐れていました。
だから、ボルトン流の正論がトランプ外交となった時期もあったのですが、これでは交渉がなにひとつまとまりゃしないぜ、どうすんだ成果なしと国民から言われるぞ、とトランプ翁は心配を始めたのです。

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https://webronza.asahi.com/national/articles/20161...

それは再選の大統領選挙が1年先に迫ったからです。
米国大統領は2期でワンセットと考えていますから、何かなんでも再選を勝ちとらねばなりません。
当選した2016年の米大統領選挙で、トランプは海外に駐留している若い米兵を本国に戻すと支持者に約束しました。
この公約の一丁目一番地を、トランプはまだ履行できていません。

ですから外国からの米軍撤退の完遂に無理筋でも目鼻をつけねば支持者にどのツラ下げて出るんだ、という思いに駆られているようです。
実際に、共和党の支持基盤の中西部でも米軍撤退の希望は強いのです。

「これまでに筆者(海野氏)は、中西部オハイオ州シンシナティなどで開催されたトランプ集会に参加して支持者を対象にヒアリング調査を実施してきました。彼らは軍事介入に否定的で、駐留米軍撤収に肯定的です。仮に18年にもわたるアフガン戦争に終止符を打つことができれば、トランプ大統領は来年の選挙においてかなりの政治的得点を稼ぐことができます。
 例えば、民主党大統領候補とのテレビ討論会で、トランプ大統領はジョージ・W・ブッシュ元大統領とバラク・オバマ元大統領ができなかったアフガン戦争を終わらせ、自分は「偉業」を達成したと強調して、相手候補にノックアウトパンチを浴びせることができるかもしれません。アフガニスタンからの米軍撤収はトランプ大統領の再選戦略に組み込まれています」
(海野前掲)

このトランプ再選の悲願ともいえるアフガン撤退のためにトランプは、キャンプデービットにタリバンの代表を呼ぼうとして、ボルトンと激しい口論になったといわれて います。
ボルトンはいま米軍が撤退すればアフガンまた元のタリバンが残虐な支配をし、軍閥と内戦を続ける修羅の国に戻ると見ています。
その意見はまったく正しいのですが、これはトランプの再選戦略にはまったく敵対するものだったわけです。

イランもしかりで、ボルトンが主張したイランへの攻撃などトランプからすればとんでもないことで、火種をこれ以上増やして米兵を外国で殺すのか、ということになります。



「米メディアによれば、ボルトン氏はトランプ大統領がイランとの核問題に関してロウハニ大統領と会談をして、関係を築くことにも反対の意を表明しました。来年の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で議長役を務めるトランプ大統領がプーチン露大統領のサミット復帰を提案すると、ボルトン氏はこれにも反対の立場をとりました」(海野前掲)

もうこうなると、ボルトン路線はことごとくトランプの方針とぶつかるわけで、とうとうトランプは切れたのでしょう。
そのように考えてくると、トランプはある意味で変わっていません。
彼は一貫して自分の都合に合わせた「駒」を選んでいるだけで、それがその時その時で変化しているにすぎないからです。

私の見立てが間違っていることを祈ります。

 

2019年9月19日 (木)

サウジを攻撃したイラン強硬派の意図

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サウジの石油基地攻撃について、追加情報が上がってきました。
サウジは突貫工事で今月以内に元の生産量に戻すと言っています。
慶賀の至りで、これで国際経済の影響は最低限となりました。

といっても、シェールガスが実用化され、いまやトランプをして「わが国にはタンカーなんか一隻もないぞ」と豪語している世界最大の産油国・米国にとって、サウジが燃えようとどうしようと痛くもかゆくもありません。

それにしてもタンカーが一隻もない事を自慢できる大国は強いですなぁ。
中東に全面依存している中国と大違いです。
したがって、米国にとってかつての湾岸戦争時のように原油の安定供給を念頭に置く必要がなくなりました。
それにつれて中東は米国にとって、オレにとってあんまり関心ないやで済むテーマになりつつあります。
覇権国としての責任上、トランプ以外はおおっぴらに言いませんが、サウジはもはや米国にとって重要な戦略的価値を失っているのです。

それにしても今回、世界の軍事専門家たちを呆れさせたのは、サウジがみすみす最重要施設である産油基地を、25基もの巡航ミサイルと軍用ドローンで攻撃され、それに小指一本抵抗できなかったことです。
なんだ、中東最強と自称してきたサウジの防衛力ってこんなもんだったのか、と多くの人がそう思いました。
もっともサウジのために弁護してやれば、小型で低空を飛んで来るドローンはレーダーに引っかかりにくい上に、撃墜も難しいのですがね。
巡航ミサイルは低速で回避行動がとれない低速ジェット機にすぎませんから、それなりに対処できますが、ドローンとなると登場したのが近年ですから,まだ撃墜方法は確立していないかもしれませんね。
防衛したい施設周辺にジャミングを張っておくかするしかないのかな。
まぁムハンマドさんは、このあまりの国軍の無能ぶりに怒って、そこら中を蹴飛ばしたのではないでしょうか。

さてこのサウジ攻撃は、イランから発射されていることが突き止められています。
使用したのはその残骸から新型のデルタ翼の軍事用ドローンと巡航ミサイルであることが分かっています。

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JSF氏ツイッター

上の写真はイランの自爆用ドローンに似ていますが、新型のようです。

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JSF氏ツイッター

もう一枚の写真はイランのQuds(コッズ)-1巡航ミサイルです。
これはイラン製の最新鋭地対地巡航ミサイルですが、オレがやったと名乗り出ているイエメンのフーシ派ゲリラが製造できるはずがなく、もちろん供与したのはイランです。

推測飛行ルートも分かってきました。
米国専門家のマイケル・エレマン氏は、発射地点はフーシ派のイエメンではなく、そのものずばりペルシャ湾北部のイラン南部から発射されて南下し、クェートを経て施設の西側から攻撃したとみています。

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では、これだけすぐバレる攻撃をなぜイランはとったのでしょうか?
逆説的にいえば、バレてかまわなかったからです。
その理由は、この攻撃によって、誰が最も利益を得るかを考えれば自ずと回答がでます。
首謀者はイラン強硬派です。

イランはいわば二重権力になっています。
ハメネイ師とロウハニ大統領です。
下の産経(2019年6月12日)のイラン国内関係図を見てください。

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https://www.sankei.com/world/news/190612/wor190612...

最も上位にあるのは赤丸がついているハメネイ師です。
ロウハニ大統領と違って選挙で選ばれていませんから、国民は辞めさせるわけにはいきません。
国会などというややっこしい民主的手続きも不要です。

一般国の元首に相当しますが、他国のそれが権威的存在であるのに対して、なんと軍隊を二つも握っていて牽制し合わせています。
国軍と革命防衛隊(IRGC)の指揮・統帥権、さらには警察・司法もハメネイの掌中にありますから、なんだ絶対的独裁者じゃん、ということになります。

黒井文太郎氏の説明によれば、このハメネイは細々としたことまで決めているわけではなく、実際に決定権を行使しているのは、彼を補佐する側近集団「最高指導者室」であり、そのなかの安全保障政策担当「最高指導者軍事室」(室長ムハマド・シラジ准将)です。
その最高指導者軍事室の指揮下に「イラン軍事参謀総長」(現在はモハマド・バケリ少将)が指揮する国軍最高指導部が置かれています。
今回イランがかかわったのなら、このシラジ准将が企画立案の責任者のはずです。

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日経

また一方の強大な軍事勢力である革命防衛隊や、民間人を取り締まる司法も同様にこの「最高権威」の下に属しています。
逆に言えば、大統領という世俗権力が掌握できるのは、経済や社会の純粋に民間の部門にのみ限定されていると言っていいでしょう。
とりあえず外交権は内閣が持っていますが、それさえも政府とは無関係に革命防衛隊がそこかしこに軍事介入したり、工作員を浸透させたりしていて引っかき回していますから、存在感は希薄です。

国軍と革命防衛隊は、比喩が正しいかどうか分かりませんが、ナチスドイツにおける国軍と親衛隊の関係に似ています。
革命防衛隊はナチス親衛隊(SS)から発展した武装親衛隊(Waffen-SS) のようなもので、国軍並の装備と兵員を抱えています。
このいかにも革命国家らしい組織は、イラン革命の時に故ホメイニ師の親衛隊として発足しました。

ナチスで言えば初期の突撃隊(SA)時期に革命の荒事を一手に引き受け、1979年に権力を握った後は反ホメイニ狩りの急先鋒として親衛隊化しました。

そしてイラン・イラク戦争(1988年~88年)で、前線に国民を動員する働きをし、優先的に予算を与えられて国軍をしのぐ軍事勢力として武装親衛隊化しました。

実はイラン革命の指導者たちは国軍がパーレビのものだったためにまったく信用しておらず、革命防衛隊を対抗勢力に仕立て上げて、国軍の監視をさせるつもりだったようです。
この関係はいまだに変わらず、国軍と革命防衛隊はいまでも水と油、犬と猿の仲です。
現在この革命防衛隊は、ハメネイ最高指導者が君臨する「最高指導者室」の直系です。

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https://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/190613/wor19...

かつてはテヘランの米国大使館占拠などもやり、かなり長期に渡ってパレスティナのヒズボラやイエメンのフーシ派などのテロリストに対する資金・武器供与や軍事軍連、果ては直接にシリアアサド政権の軍事支援にまで関わっています。
いまや中東最凶の団体として、米国からテロ団体指定のお墨付きまで得ています。
先日の日本タンカー襲撃事件もたぶん革命防衛隊の仕業であることが濃厚です。

ロウハニ大統領はまったくこのイランの国軍・革命防衛隊の指揮権を持っていません。
ペルシャ湾で日本タンカーが襲撃されても、へぇーってなもんだったでしょう。

やや説明が長くなりましたが、この普通の国にはないイラン特有の国内勢力図がわからないと、今回の事件は理解できなくなります。
というのは、常識的にかんがえると、なぜ「いまの時期にサウジを攻撃するのか」がわからないのです。

攻撃のタイミング自体に、大いに怪しむべき点がある。攻撃が行われたのは、まさにドナルド・トランプ米大統領が今月下旬の国連総会の場でのイラン大統領もしくは外相との外交交渉を可能にするため、厳しい対イラン経済制裁の若干の緩和を検討していた時だった。
フランスも、まさにこうした若干の関係改善に向けて、精力的な働きかけを行っていた。 しかし、突然始まった外交的動きを好ましく思わない勢力も多い。
そのうち一部は、動き始めた外交プロセスを停止させるような危機を生み出すため、ミサイルを活用できる立場にある。恐らくこれが、週末の出来事の説明になると思われる」(ウォールストリートジャーナル9月17日)
https://jp.wsj.com/articles/SB12696131808382783557304585555240552165732?mod=WSJ_article_EditorsPicks_3

トランプは現在イランと「前提条件を作らない」直接交渉しようと考えていました。
相手はもちろんハメネイではなくロウハニです。そのためにイラン制裁を緩めてもいいというシグナルを送っていて、その一環が強硬派と言われたボルトンの解任でした。
また日本も、ロウハニを通じて仲介を準備している直前でした。
日本タンカーの襲撃など、安倍氏が訪問した矢先でした。

この緊張緩和の動きを壊したい連中、即ち強硬派が、今回のサウジ攻撃を仕掛けたのです。
ウォールストリートジャーナルはこのように指摘しています。

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http://agora-web.jp/archives/2033648.html

「容疑者リストの筆頭に挙げられるのは、イラン政府内の強硬派だ。国際社会のみならずイラン国内でも、多くの人々は、オバマ前政権下でまとめられたイラン核合意からの離脱をトランプ氏が決めたことを危機と捉えた。しかし、イラン国内の一部強硬派は、これを好機と受け止めた。
 イラン革命防衛隊の指導者を含む強硬派は、そもそも核合意を好意的に受け止めていなかった。むしろ核合意が廃棄されれば、核および弾道ミサイル開発の取り組み強化の論理的根拠になると考えている。

 またイランの強硬派は別のことも知っている。米国との外交的なダンスをやめることに加え、サウジの石油施設を攻撃すれば、欧州とアジアの指導者たちを怖がらせ、米国の経済制裁に対する何らかの救済措置を引き出せるかもしれないことだ」(WSJ前掲)

ハメイニに率いられた革命防衛隊などのイラン強硬派は、イラン核合意を邪魔者だと考えていました。
こんなものがあるからイラン悲願の核武装ができないのだ、軟弱モンがオバマにだまされやがって、核さえ握ればイスラエルを海に蹴落とし、サウジを叩き潰し、中東の覇権国となれる、これが強硬派の本音でした。
そこにトランプが別な思惑でイラン核合意を壊すと言い始めたので、皮肉にもトランプと平仄が合ってしまったわけです。
 

 

2019年9月18日 (水)

トリチウム水が「汚染水」だって?

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まずはこれから。
さっそく茂木外務大臣が、小泉環境大臣の例の「汚染水を出させない」発言を打ち消しています。

「福島第一原子力発電所にたまり続けている水の処理をめぐり、韓国が日本の対応を批判していることについて、茂木外務大臣は韓国に、科学的根拠に基づき主張するよう求めるとともに、国際社会には透明性をもって丁寧に説明していく考えを示しました」
(NHK9月17日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190917/k10012085811000.html

まったく常識的発言で、これで事実上小泉ジュニアのフライング発言は否定されたことになります。
というのは、日本国政府が公式に対外的に発信することのほうが、所管外の新米大臣が記者会見で述べた「持論の開陳」などよりはるかに重いからです。

松井大阪知事もかつての橋下氏の震災瓦礫処理の時の行動を想起させる発言をしました。

福島第一原発でたまり続ける処理済みの汚染水をめぐり、大阪市松井一郎市長(日本維新の会代表)は17日午前、市役所で記者団に「政府が科学的根拠を示して海洋放出する決断をすべきだ」と述べた。大阪湾で放出する可能性についても「持ってきて流すなら、(協力の余地は)ある」と述べたが、大量の水を大阪まで運ぶのは困難で、実現可能性は低そうだ」(朝日9月17日)
https://www.asahi.com/articles/ASM9K3RL0M9KPTIL006.html

朝日は「実現可能性は低そうだ」などとイヤミを垂れていますが、ならばこの「大量の汚染水」はいつまで貯めておけるのでしょうかね。
福島第1のタンク群が貯蔵可能な域をはるかに超えていることは、事故処理の「実現可能性」を大いに低めているのです。
そこを見ないで、なにが大阪に持って来るのが「実現可能性が低い」ですか。
そこじゃないだろう、問題は。

松井市長は、多くの首長が尻込みして発言しないなかで、いわば一石を投じる覚悟で言ったのですよ。
かつての震災瓦礫処理をめぐって、被災地自治体の処理能力をはるかに超えたためにSOSを出している時に、よしわかったオレのところでも協力するよ、と言って一肌脱ごうとしたかつての石原都知事や橋下知事を思い出しました。

あの時、彼らは口では「被災地がんばれ」だとか「絆」などと口にするくせに、自らも泥をかぶらねばならないこととなると一転して尻込みする多くの自治体と違って、文字通り身体を張って被災地と連帯しようとしました。
結果、強い反対運動に遭遇したのですが、その時もたじろがずに焼却場付近の放射線量データーを公開し続け説得に当たりました。
その良き大阪の伝統を松井市長は受け継いでいるようです。


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https://www.asahi.com/articles/ASM2M01KFM2LULBJ01S

さて「処理水」の現況はこうです。

福島第1原発の処理水の保管用タンクは既に900基を超え、2022年夏ごろに満杯になる見通し。薄めて海に放出することが、最も現実的な手段とみられているが、風評被害を懸念する漁業関係者らの反発は根強い」(日経9月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49622460Q9A910C1CR8000

ちなみに日経は「処理水」と記していますが、NHKや朝日はあいかわらず、「汚染水」という表現を平気で使っています。
朝日には反原発運動家もどきは掃いて捨てるほどいるのに、科学記者はいないのですか

「汚染水」はいうまでもなく、科学的に正しい表現ではありません。
「汚染水」というふうに表現してしまえば、まったく放射性物質を除去していないマンマ放射能で汚染された排水というイメージですが、まったく違います。
少し筋を追って説明します。

まずなぜ原子炉はとうに止まっているのに、「処理水」が出続けているのでしょうか。その量は1日なんと300トンから600トンという膨大な量となっているのは事実です。


「東京電力福島第1原発で発生する汚染水が1日300トンから600トン程度に増加していることが18日、分かった。汚染地下水の海洋流出を防ぐ海側遮水壁の完成後、岸壁に近くトリチウム濃度が高い井戸「地下水ドレン」の水位が想定を超えて上昇。くみ上げて原子炉建屋に移送する量が増えたのが原因という」
(河北新報(2015年12月19日)

Photo河北新報前掲

水の出所は3カ所です。

①原子炉の冷却系の循環水
②汚染水貯蔵タンクからの漏水
③流入する地下水

あいにく福島第1原発は、山系から湧きだす豊富な地下水がある場所に建てられています。
しかも地表を15メートルも掘り下げて建設されたために、いっそう地下水が湧きだすことになりました。
平時はそのまま海に流せばいいだけのことですが、事故処理となると大きな問題となりました。
それは地下水の出る
3ルートが、事故を起こした原子炉や瓦礫と接触して、濃度の差があっても放射性物質を含んでいる可能性があるからです。

ではどうするかといえば、ひとつは施設手前に井戸を掘ってバイパスルートを作ること、施設を囲む凍土壁を作ってブロックすることでしたが、いずれもあまりうまくはいきませんでした。
あまりにも流入量が多いからです。
地下水の8割から9割は施設地下に流入しいわゆる「汚染水」となってしまいました。

止められなければ、放射性物質を除去するしかテはありません。
そこでこれを、ALPS(アルプス・多核種除去装置)を稼働させて、放射性物質を取り除いて浄化する仕組みを作りました。
事故処理のみならず、廃炉の日まで原子炉の冷却は止めるわけにはいかないので、完全廃炉の日までALPSを稼働させ続けねばなりません。

よくある誤解ですが、再稼働停止の仮処分を出したある裁判官などは、再稼働を止めれば「安全」だと勘違いしていたようですが、原子炉と使用済み燃料は、運転停止しようと事故処理中だろうと、休みなく冷却し続けねばなりらないのですよ
ですから、この冷却水は半永久的に止められません。

 ごこで「汚染水」処理の切り札として登場したのが、いま述べた多核種除去設備 (ALPS) です。

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東京電力HP  http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/genkyo/fp_cc/fp_alps/index.html

既にこのALPSは稼働しています。

A系は2013年3月30日より開始(6月16日に停止)、B系は2013年6月13日より開始、C系は2013年9月27日より開始」(東電前掲)

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東電前掲

このALPSは大変に高性能な除去装置で62種の放射性物質を除去しますが、唯一の例外がいま問題となっているトリチウムです。

「既に設置している水処理設備では、放射性物質のセシウムを主に除去しているが、セシウム以外の除去が困難であった。多核種除去設備(ALPS)ではセシウムを含む62種の放射性物質(トリチウムを除く)の除去が可能となっている」(東電前掲)

下図は対策会議のデータです。全部ND(検出されず)です。

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・γ核種(45核種)・・・検出限界値(ND)未満にまで除去
・β核種(8核種)・・・5核種までが検出限界値(ND)未満にまで除去
・Sr-89(ストロンチウム)、Sr-90、Y-90(イットリウム)については、告示濃度以下

しかし、唯一例外がありました。
それがトリチウムです。これだけはどうしても除去できないのです。
つまりはこのALPS浄化装置が除去できない唯一の核種がトリチウムである以上、汚染水問題は詰まるところ、トリチウム水の問題ということです。

トリチウムは三重水素で、要するに水素です。
水素の同位体ですから、人体の中では水素(H3) の化学形である「水」の形をとっています。(※炭素結合形態もあります)
それが福島第1の処理現場では、地下水に含まれているのですから、言ってみれば「水の中に水がある状態です。

もう少し細かく言えば、トリチウムは、毎日宇宙から地球にふりそそぐ放射線が空気中にある窒素や酸素とぶつかり、日々あらたに作られるもので、空気中や海水中に普通に含まれています。
中性子を2つ持つ水素の同位体であり、ガンマ線を出しますが、非常に小さな力しかなく、人体に与える影響はミニマムで、ヨーロッパのミネラルウォーターには含まれているものが多く、フランスなどにはその含有基準すらあります。

とくに流出した「汚染水」を飲まなくても、既に地上生物の体内の水にはトリチウムが含まれていて、およそ1ベクレル/ℓだといわれています。
当然人体も被曝事故を起こさなくても、トリチウムを微量持っています。
WTO飲料水ガイドラインが10000ベクレル 処理水660ベクレル 人の体内に元からあるのが100ベクレルです。
よくオセン水をだしたいなら飲んでみろ、という人が反原発運動家にはいますが、いいですよ。、飲みましょか(笑い)。

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図  自然放射線による日本人の平均被ばく量2.1mSv/年の内訳

そして、毎日オシッコで10日間ほどで、体外に排出されています。
このようにトリチウムは、水や大気に取り込まれて存在します。
ただし「存在」していても、セシウムやストロンチウムのように特定の食物や内臓諸器官に残留せずに、水や大気に混ざって存在しているところが、他の放射性物質と大きく異なる点です。

これは大気圏上層で、一次宇宙線という高エネルギーによって生成されて地上に降り注ぎ、その過程で二次放射線に含まれる中性子が窒素(空気)と反応してトリチウムが生成されるからです。
この量はバカバカしく多く、127.5京といわれており、海、湖、川など以外にも水蒸気にも含まれています。
要するに、人類の生存圏のありとあらゆる「水」に含まれるといっていいでしょう。

韓国や反原発派の人たちにいわせれば、このトリチウムがある限り放射能汚染水としてドバァ~と毎日でているので、「事故は収束していない」ということのようです。
韓国は自分の国の原発でもトリチウムを毎日排出しているくせに、ナニ言ってンのか。
豆腐の角に頭をぶつけてしまいなさい。

では、「反原発の巨人」・小出裕章さんにご登場ねがいましょう。
※小出裕章ジャーナル2014年12月13日http://www.rafjp.org/koidejournal/no101/


「ALPSが動いたとしても、取り除けない放射能というのはありまして、例えばトリチウムという名前の放射性物質はALPSは動こうと、他の浄化装置が動こうと、全く取り除けません。ですから、結局そのトリチウムに関しては、何の対策もとりようがありませんので、いつの時点かであれ「海に流す」と必ず彼らは言い出します」

前述したとおり、小出さんに言われなくてもALPSでもトリチウムは除去できません。
しかし例によって、運動家的学者特有の、「嘘は言っていないが、隠していることがいっぱいある」という類の言辞です。
小出さんはトリチウムなんか飲みたければ飲めるくらい安全なことをよく知っているはずです。
それを知っていながら伏せて、危険性だけをことさら叫ぶ、フェアじゃないですね。
だから運動家はイヤだ。

運動家たちにすれば、ホントのことを言えば、せっかく福島事故で盛り上がった反原発運動は一区切りつけねばなりません。
福島第1事故をめぐる反対運動は事実上終わったのですから、いったん総括したらいかがですか。
しかしそれを認めたくないためにいつまでも半永久的にやっていたい、だから
、「汚染水が止まらない以上、福島第1はまだ危険な状態なんだ。なにがアンダーコントロールだぁ」と叫びつづけにゃならんのです。
ああ、虚しい。ああ馬鹿馬鹿しい。これで国民の共感を得られると思っているんでしょうか。

よく反原発派は、「東電が嘘をついて放射性物質を海に流して汚染を拡大しようとしている」という言い方をします。
これを聞いて福島漁協が風評被害を恐れて、処理水を流すなという抗議をしています。
風評がこわいと福島漁協はいいますが、おちついて見て下さい。
そんなことをいまでも言っているのは、一部のサヨクメディアと運動家たちだけなのですよ。

 このようなトリチウムは基準以下にまで下げた「告示濃度」にまで希釈して海に排出する以外、いかなる解決方法もありません。
小泉さん、あんた責任者ヅラしてダメ出しするなら、どうぞ他の方法を教えて下さい。
漁協の人とノドグロを食べる前に、少しは勉強してから言えつうの。

「多核種除去設備は、汚染水に関する国の「規制基準」のうち、環境へ放出する場合の基準である「告示濃度」より低いレベルまで、放射性核種を取り除くことができる(トリチウムを除く)能力を持っています」(東電前掲)

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念のために書き添えますが、タンク内の排水はすべて告示濃度ではありません。
告示濃度1倍未満の正常の処理水が23%、5倍未満が34%、10倍未満が21%、100倍未満が16%、100倍以上が6%となっています。
これについても、東電は黙って流してしまおうというわけではなく、その事実を認めた上でもう一回ALPSで二次処理をすると述べています。

当社は、多核種除去設備等の処理水の処分にあたり、環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、②の基準値を満たすようにする方針」と、もう一度『多核種除去設備(ALPS)』に通す方針を示しています」(東電原型)

とまれ、いま経済産業省の委員会で審議されているようですので、落ち着いてその経過を注視すればいいだけのことです。

2019年9月17日 (火)

イラン、サウジ石油施設を攻撃する


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9月14日、サウジのブキャクとクーライスの油田地帯。アブカイク精油工場という世界最大の石油施設が攻撃を受けました。
今までも陸上からアルカイーダが自爆テロをしたことはありましたが、失敗に終わっています。
今回は、10発のドローン、ないしは巡航ミサイルによって、炎上させることに成功し、操業を途絶させています。

サウジアラムコ(石油公社)によると、ブキャクは、原油精製プラントとしては世界最大であり、打撃は当初予想されたより深刻なようです。

「イエメンのイスラム教シーア派武装組織フーシ派によってアブカイクの石油施設を攻撃されたサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコは、早急な石油生産回復への楽観を後退させつつある。事情に詳しい関係者が述べた。
フーシ派の攻撃によって世界の石油供給の約5%が途絶され、原油価格は過去最大の値上がりとなった。アラムコは当初、数日以内に相当量の原油生産を再開できると見込んでいたが、現在では想定以上の時間を要する可能性があると、同関係者が述べた」(ブルームバーク9月16日)

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アルジャジーラ 9月14日、何者かの攻撃を受けて炎上するサウジアラビア東部アブカイクの石油施設

この原油施設では、1日に原油700万バレルを石油製品に変え、パイプラインでペルシャ湾と紅海にある積み出し港へ送出しています。
クーライス油田は日産100万バレルで、埋蔵量はサウジアラムコによれば200億バレルと世界最大級です。

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クーライス油田

位置関係は下の地図をご覧下さい。
サウジとイランという共に天を戴かざる宿敵同士が、ペルシャ湾ひとつ隔てて向かい合っているのがわかります。
皮肉にもこの憎悪を募らせている両国は、生命線を共通させています。
それが、ペルシャ湾付近に展開する原油基地とその石油積み出し港、及びペルシャ湾タンカールートです。
また今回ドローン(あるいは巡航ミサイル)が発射されたのはイラクではないかという情報もありますが、イラクからサウジの原油施設は指呼の距離にあります。

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攻撃を受けたサウジアラムコの施設ではサウジアラビア国内での生産量の半分、 世界全体の 5%を担っており、 当初、サウジからの原油輸出が半分になるとの情報も飛び交いましたが、IEAは直ちに鎮静化に走りました。

「国際エネルギー機関(IEA)は14日、サウジアラビア東部の国営石油会社サウジアラムコの石油施設2カ所が無人機による攻撃を受けたことに関連し、当面の原油供給には問題がないとの見解を明らかにした。「十分な量の商業在庫がある」としている」(産経9月15日)

このIEA声明にもかかわらず、国際原油価格は高騰しました。
下図のように現在、ヨーロッパ原油価格のの指標となる北海ブレント、米国の指標WTIはいずれもハネ上がっていて、当面世界の原油高基調は避けられないと思われます。
下図は右端が切れていますが、クリックすると今週の高騰がわかります。

いままで原油市場が軟調だっただけに、意外とサウジはイランを罵倒しつつ、内心ほくほくしているかもしれませんがどんなものでしょう。
もっとも大喜びするのは、原油一本のモノカルチャーで国を支えているロシアです。

日本への影響も当然でるでしょうが、日本の場合、石油調達の大部分は契約調達であって、時の市場価格とかならずしも連動しません。
一方わが隣国の韓国は、スポット買い中心のために、国際市場価格上昇をモロに受ける事になります。
今、そうとうに経済を悪化させているかの国にとって、さらに悪い影響がでるのは避けられないと思われます。

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「サウジアラビアの石油施設への攻撃を受け、原油価格が急上昇した。国際的な指標原油の北海ブレント原油先物は16日、一時19%も上昇。原油急騰による物価上昇が景気を冷やすおそれもあり、各国で株価が下落した。トランプ米大統領は15日、原油の供給不安を和らげるため「必要に応じ、戦略石油備蓄を放出することを承認した」と表明した」
(日経9月16日 上グラフも同じ)

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ムハンマド皇太子

サウジはムハンマド皇太子が経済改革を進めている真っ最中なために、大きな痛手とはなるでしょう。
彼は皇太子ながら事実上のサウジのトップですが、ハンサムな男ですが(関係ないか)、よく言ってあげれば「リスクを恐れない大胆な性格」、悪く言えば強権的かつ独裁的な性格です。
彼は、野心的な改革を断行すると同時に、自らを批判するジャーナリストに対しては、トルコ国内まで追いかけて暗殺したりしています。
今後、ムハンマドはフーシ派とその後ろ楯であり、今回ドローン(ないしは巡航ミサイル)を提供したことが確実視されているイランに対して厳しい反撃に出ると思われています。

それにしてもサウジ軍はイラン国内で無差別爆撃で民間人を多く殺すことには有能ですが、最重要施設に向けてワラワラと飛んできたドローンにはまったくお手上げだったわけで、ムハンマドの怒りを買うことは避けられないことでしょう。

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イランは否定していますが、犯行声明を出したフーシ派はイランが作った反政府軍事組織であり、それにはイランの特殊工作部隊「コッズ部隊」が手を貸しているといれています。
今回の攻撃がドローン だった場合、民間用のホビー用ドローンではなく、爆薬が搭載可能な軍事用ドローンであり、ましてや巡航ミサイルならばイラン以外の国が提供するということはありえません。

今回が「コッズ部隊」といったハネ上がり分子だけの独走なのか、それとも政権中枢や国軍まで了承してのものか、現時点ではわかりません。

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イラン・イスラム革命防衛隊 http://parstoday.com/ja/news/world-i52547

ロウハニ大統領は軍事指導系統からはずされている、という黒井文太郎氏の分析もありますので紹介しておきます。

「誰が現在のイランの対外戦略を決めているのか?
最終的な決定権者はもちろんハメネイ最高指導者だ。しかし、最高指導者が細かいところまですべていちいち指示しているわけではない。実際に決定権の多くを行使しているのは、いわばイスラム保守派=軍部連合とでも呼ぶべき陣営だ。
ハメネイ指導者がトップに君臨し、それを補佐する側近集団「最高指導者室」があって、そのなかに安全保障政策を担当する「最高指導者軍事室」(室長はムハマド・シラジ准将)がある。
最高指導者軍事室の下には「イラン軍事参謀総長」(現在はモハマド・バケリ少将)という役職が置かれ、このポストが事実上の軍部トップ。その指揮下に、イラン国軍とイスラム革命防衛隊、警察治安部隊がある」(ビジネスインサイダー)
https://www.businessinsider.jp/post-198848

また今や国軍と並ぶ大きな軍事力に成長した革命防衛隊は、ハメイニ最高指導者が君臨する「最高指導者室」の直系です。

「革命防衛隊は、イスラム保守派の牙城だ。故ホメイニ最高指導者の親衛隊として発足し、イスラム革命の担い手と位置づけられた。1979年の革命直後の混乱期には反ホメイニ陣営を粛清する働きをしたが、その後イラン・イラク戦争(1980〜88年)を通じて優先的に予算を投じられ、巨大な軍隊に成長した」(黒井前掲)

なお、米国は上の19箇所の着弾跡(フーシ派の主張するドローン個数とは違いますが)の衛星写真を公開しており、「臨戦体制をとる」と言っています。
こごし、トランプは軍事的手段には消極的なことは知れ渡っており、おそらく軍事攻撃はしないと思われます。
ボルトンなら限定攻撃を進言したでしょうがね。
その証拠に、トランプはイランのロウハニ大統領との直接会談の線も捨てていないようです。
ということは、トランプがロウハニなどの政権中枢は、今回のテロ攻撃と無関係であると考えて、イランを分断しようとしているとも受け取れます。

「【9月16日 AFP】サウジアラビアの石油施設へのドローン(無人機)による攻撃に関し米国はイラン関与との見解を示したが、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は依然、イランのハッサン・ロウハニ(Hassan Rouhani)大統領との会談を望んでいる。ホワイトハウス(White House)が15日、明らかにした」(AFP9月16日)

 なお、日本の原発もドローン攻撃受けたら炎上するぞなんて、ここぞとヨタを飛ばしている者もいるようですが、ご期待にそえませんが、原発にはそんな可燃施設はありませんし、格納容器と建屋で二重に防護されている原子炉にドローン攻撃しても無駄です。

 

2019年9月16日 (月)

千葉停電 倒木処理を簡単に言うな

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千葉県の広域停電の復旧が遅れています。
その理由は明らかで、今回の台風が予想を遥かに超えて樹木や電柱をなぎ倒していたからです。
そのために多くの箇所の架線が寸断されています。

私も自宅と農場につながる村道に樹木が多数倒れて、道を遮断してしまいました。
たまたま架線は別な場所を通っていたために電気は約2日間の停電で事なきを得ましたが、井戸が止まって水も出ず、かつての東日本大震災のミニ版となるところでした。
もちろん千葉は私の所の比ではありません。

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https://tr.twipple.jp/t/af/1172748705738264576.htm...

ノンフィクション作家の柳原三佳氏はこう述べています。

「13日の午後、私は久留里から鋸南町まで山越えをするつもりで走っていたのですが、とにかく無数の大木が、これでもかというほど根元からなぎ倒され、または途中から折れ、道路が寸断していました。 そして大木はいたるところで電線に引っ掛かっています。
すでに倒木の多くは、通行の邪魔にならないよう切断されていましたが、それでもまだ道路上にせり出している状態です。
また、途中、いたるところで道路が通行止めになっていました。その先にはさらなる危険があるからなのでしょう」

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「倒されていたのは大木だけではありません。肝心の電柱もいたるところで折れたまま、13日の時点でもさまざまな場所で行く手を阻んでいました」(柳原氏前掲 写真も同じ)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20190914-00142591/

倒木の処理の難しさは、その多くが山間地で足場が悪い斜面であることです。
かしいでしまった倒木は、片方をロープで何人かで支えて、別な側からチェーンソーで慎重に切断せねばなりません。
さもないといきなり重い樹木が倒れてくるからです。
そして慎重に横たえてから、寸断してひとつひとつ運び出さねばなりません。

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https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/...

そしてもうひとつやっかいなことは、法的な問題です。
倒木といっても私有物である以上、所有者が存在します。
民有地の樹木の適正管理について(平成26年7月4日回答) | 千葉 ... によれば、台風などによる倒木の処理については、このような規定があります

「個人所有の敷地内に生えている樹木は、個人の所有財産であり、所有者に管理責任があります。市には個人の所有財産について適正管理を指導する権限がないため、所有者に対し指導を行うことができません。
よって今回のご相談内容については、直接所有者の方にご相談いただきますようお願いします」

法的建て付けでは、樹木の所有者が自力でやれ、ということです。
ここを案外多くの人は分かっていません。

まず第1に、今回の災害復旧において倒木が遮断した道路の管理責任は地方自治体にあります。
よくテレビなどで、「東電の見通しが悪かったために千葉県民は塗炭の苦しみにあえいでいる」などと言っている者がいますが、よく考えてみなさい。
いいですか、道路の管理・復旧は地方自治体にある以上、その復旧義務は一義的には地方自治体にあるのはとうぜんです。
東電は通行する車両と同格の一般使用者にすぎません。
一般利用者が、勝手に私有物の樹木が地方自治体管轄下の道路にかかったからといって処理するわけにはいかないのです。

ですから、東電をつかまえてこんなことを言われても、なに見当違いなこといってるのかです。

社説 停電の長期化 「想定外」ではすまない
(東電は)房総半島の山間部などで倒木の多さに手間取ったというが、見通しが甘かったと批判されても仕方がない。
 復旧後には、大規模停電の原因や、なぜ復旧作業に時間がかかったのかを、厳しく検証する必要がある」
(朝日社説9月13日)
https://www.asahi.com/articles/DA3S14175820.html

台風による大風によって敷地内の樹木が倒れるかどうかを想定するのは、一義的には土地所有者です。
道路にかかった樹木があればあらかじめ処理しておくていどはできるかもしれませんが、それすらそうとうに無理筋です。
今回の台風は前日までまったく平穏でいきなり風雨がひどくなって、見る見るうちに大災害となったのですから、なおさらです。

東電の私有地なら東電が処理すればいいのですが、東電私有地など倒壊した鉄塔周辺などの極わずかだったはずです。
よもや50メートルの鉄塔が倒壊するなんて、気象専門家のだれひとり予想しなかったわけです。
ですから朝日のように、倒木の一本も切らない奴に「想定外では済まない」と言われてもね。

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https://www.sankei.com/affairs/news/190912/afr1909...

さて復旧は二義的には、県及び市町村です。
「災害を予見すべきだった」と朝日が言うならば、その批判は千葉県が受けるべきです。
ただし、朝日が安直に言うほど簡単に予見できたとはまったく思えませんし、地方行政が乏しい予算でできることは限られています。
仮に百歩譲って大災害を予見できたとしても、地方自治体には、ましてや土地所有者には膨大な樹木や電柱を撤去できる物理力がありません。
今回も主力となったのは、いつも頼もしい陸上自衛隊と全国各地から集まった電気事業連の支援部隊1500人だったのです。

この処理部隊も勝手に動くわけにはいかず、地方自治体の要請という形を受けて活動しています。
倒木処理の権限も自治体経由で土地所有者から取ってやっと動けるわけです。

今回の千葉県停電報道でメディアがよく言っていたのが、平地の都市部での停電と比較してみせて、いかに千葉停電が遅れているかを強調することでした。
つまり、停電発生数と復旧時間を安直に比較して、千葉が遅い、東電はたるんでいる、なぜ予見できなかったのか、という流れです。

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上のテレビが使ったグラフでは、初日に千葉が98万軒、他の地域(大阪)が168万軒あったが、5日後には他の地域では解消されたか、千葉は同じ5日後でも19万軒残っているぞ、東電はたるんでいるというわけです。
あのね、平野部のしかも人口密度がまるで違う大都市の大阪と千葉を較べて、復旧戸数が違うとか、復旧時間が遅いなんて言ってもまったく無意味なの。

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KGNさんツイッートより引用 上も同じ

上の図を見て頂きたいのですが、左側が都市部、右側が郡部です。
修理するのはどちらもたいへんですが、平野部の人口密集地帯は道路が寸断されても復旧は容易で、修理部隊のアクセスも楽です。
それに対して郡部は、復旧ポイントに行くまでの道路が長いうえに、アクセス道が山間部を走るために各所で寸断されて修理にたどり着けないこともしばしば出ました。
しかも一軒一軒が離れているために、家屋と家屋の間も架線が切断されていたりしますから、復旧戸数がおのずと少しずつになります。

これらを一切無視して朝日さん、東電は予見できたはずだぁ、果てはこれまた筋違いの架線地中化などを提案するに至っては馬鹿丸出しです。
朝日はこんなことをもっともらしく吹いています。

「長期的には電線の地中化が有効な対策である。コストはかかるが大規模停電の影響と復旧費用を考えれば、国も電力会社も無電柱化に力を入れる時だ」(朝日前掲)

馬鹿をつかまえて馬鹿ですか、といってもしかたがないですが、朝日さん、地中化になんてなりませんよ。
無電柱化がヨーロッパや韓国で進んでいるのにわが国は遅れているから、今回の大停電になったんだぁ、なんて平気で言っている人がいますが、それは地震がない国のことです。
ひとたび地震が起きればそこら中が液状化するわが国で、地中化なんかしたら、電柱なら簡単に切れた箇所が眼でわかるものを、各ブッックごとに掘り起こして修理箇所を探し出さねばなりません。
千葉は地震のたびに液状化現象が発生するのを忘れましたか。
仮に無電柱化して地震が起きたら、地中はグニャグニャのゲル状ですから、送電網は各所で寸断されて復旧はいつになることやら。
まぁ朝日なんかはそうなったらなったで、「地震は予見できたはずだ。東電はぁ」ってやるんでしょうがね。
気楽な商売だこと。

とまれ、一生懸命復旧に励んでいる人たちの背中を撃たないで下さい。

 

2019年9月15日 (日)

日曜写真館 ひたむきな力士たち

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じっと土俵を見つめます


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ちょっと可愛いかも

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安定した余裕です

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この人は孤高です

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人柄がいいんです
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彼は仲間を作りません

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兄弟子なき後、日本人横綱に一番近かったのはあなたです

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さようなら、最後まで全力で走りきりました。小さな巨人でした


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 日本人になられたそうで

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あと一週間。勝ち越して下さい

2019年9月14日 (土)

小泉進次郎新大臣のポピュリズム政治家らしい船出

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小泉進次郎大臣があまりにもポピュリズム政治家丸出しの船出をしたので、ネット界が騒然となっています。

「進次郎氏は12日、東日本大震災で被災した福島県の漁業関係者と面会し、東京電力福島第1原発の汚染水浄化後の処理水をめぐり原田義昭前環境相が「海洋放出しかない」と述べたことについて、「率直に申し訳ない」と謝罪した。 こうした一連の言動をめぐり、容認派と反対派からネット上で批判・注文が殺到している。
 今月下旬には、米ニューヨークで開かれる国連総会の環境関連イベントにも出席し“国際デビュー”を果たす予定だが、政治家として真価が問われるポストのようだ」(ZAKZAK9月13日)

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https://www.fnn.jp/posts/00423940CX/201909121908_C

就任早々、これですか。まぁクソミソに言われてもしたかがないですね。
原田前環境相のこの発言を完全否定しています。

原田義昭環境相は10日の記者会見で、東京電力福島第1原子力発電所放射性物質トリチウムを含んだ処理水について「所管を外れるが、思い切って放出して希釈するしか方法がないと思っている」と述べた」(日経9月10日)

原田氏が「トリチウム水の海洋放出しかない」という常識的なことを、所管をはずれるがと予防線張っておそるおそる言ったわけですが、いわば置き土産です。
これを就任たった2日で、こんな置き土産はいらねぇとばかりに(かわいくないね)消火してしまっただけではなく、漁協にまで謝罪に行って完全鎮火すると言ったそうです。
おいおい、いきなりこれかい、といったところです。

問題は3点あります。
ひとつめは、大前提としてこの人には福島第1の「汚染水」(この表現どうかしてくれ。トリチウムはミネラルウォーターにも入ってるぞ)ことトリチウム水処理について発言する権限がないことです。
この権限を持つのは経済産業省であって、管轄外の大臣がこのような発言をすること自体、ただの失言では済まず、経産大臣の後の判断を縛ることになる越権行為です。

知っていてやったなら大臣がなに者かを知らない無知蒙昧、優しく言ってやってもずいぶんと迂闊な話です。
一方、同じ反原発派でも、河野太郎氏は防衛大臣として、管轄外のマスコミの誘導質問には一切答えません。
大臣が個人的人気取りで所轄外のことにいちいち口出しして調子のいいことを言っていたら、内閣なんてただの学校のホームルームです。

第2に、この発言はただ経済産業省への横紙破りをしだけに止まりません。
なるほど環境省は原子力規制庁を外局として持ち、更にその傘下に原子力行政の心臓部である原子力規制委員会を持っていますが、環境大臣には何の指導権限も与えられていません。
規制委員会は外形的には環境省傘下にありますが、「3条委員会」として独立性を担保されているからです。
「3条委員会」とは、中央省庁の機構などを定めた国家行政組織法の第三条二ある、庁と同格の独立した行政組織を言います。
たとえば有名なのは、国家公安委員会公正取引委員会など七つあります。

これらの委員会は強い独立性を与えないと、時の政治家に介入されてねじ曲げられてしまう可能性があるために、あえて強い独立した権限を付与されているわけです。
ですから進次郎さんが、いくらオレは規制委員会の上にある環境省トップだぞといきまいてみても、規制委員会委員長は淡々と、はいそうですか、あなたのお考えは承りましたが、関係なく仕事をやらしていただきます、と答えることでしょう。
つまり原子力行政について事実上なんの権限もないんですよ、進次郎さん、あなたには。

第3に、ただ残念ながら、世間はそう受けとめないということです。
「原発を止める」というのは父親と一緒で、パパも粗雑な反原発論を吹きまくって往年のファンまでがっかりさせてきましたが、小泉ジュニアはパパとは違って在野の暇人でもなければ、ただの政治家でもなく、あくまでも
大臣だということです。
とうぜんのこととして、大臣が謝罪にするということと、在野のパパが叫ぶのとはまったく次元が違うのです。

いかに所轄違いで権限ナッシングであっても世間はそう取りません。
なんとなく環境大臣なんだから、権限があって言っているように聞えちゃうんですよ。
その現役大臣が前大臣のトリチウム水放出発言を否定してしまったら、これは政府は金輪際二度とそれを考えないと述べたに等しいことになりますし、ましてや福島漁協に謝罪に行くとまで言ってしまったら、原子力行政の仕組みなんか知るはずのない大多数の国民は、そうかその方針で政府はやるんだと錯覚してしまいます。

進次郎さんはポピュリスト政治家らしく、無責任で感覚的にモノを言います。
ポピュリストは大向こう受けすることを言って人気をとることを、本能的にやっちゃう哀しいサガの人種なのです。
パパ小泉は、いみじくも国民は難しいことはわからないから、短いワンフレーズで言えということを信条としていました。
ジュニアはアノ顔で決意を眉根にこめて、父親譲りのメリハリの効いた演説に乗せて言うわけですから、インパクトあるんだよな。
しかし、内容はスカですから、言った以上は責任を取ってもらいます。

第4に、その「言った責任」とは、すなわち代替案を提示するということです。
じゃあ、どうすんのよ、シンジローさん。そこまで言わないと、環境大臣としては言ったことにならないんですよ。
トリチウム水を国際法(ロンドン条約)に従って適切に海に排水しないと、近々にタンクは満タンとなって行き場を失い、事故処理はその時点で頓挫します。
これは事故以前から日本は、いや世界中の原発が通常業務としてやってきたことで、なにを今さらです。
つまりは進次郎さんが言った汚染水は出させないという発言は、一見福島漁民に寄り添っているように聞えますが、実は風評を拡散しているのとなんらかわりありません。

野党政治家なら口当たりのいいことを「言ってみました」で済みますが、いま進次郎さんの立場は環境行政のトップです。
言ったらそれに伴う実行についてきちんとした別の計画を国民に提示せにゃなりません。
大臣は野党ではないのです。

「小泉進次郎環境相は11日夜、環境省内で行った就任記者会見で東京電力福島第1原発事故を踏まえ、原発について「どうやったら残せるかではなく、どうやったらなくせるかを考えたい」と述べた。2030年度に再生可能エネルギーの電源比率22~24%を目指すと掲げた政府のエネルギー基本計画に関し、さらに比率を拡大すべきだとの認識を示した」(毎日9月12日)

この発言を聞いただけで、この人が今までいかに原子力問題をまじめに考えてこなかったのがわかります。
脱原発について、私はこのブログでほぼ1年かけて淡々と記事(カテゴリー「原子力を真面目にやめる方法」参照)にしてきましたので、これを読んで下さいね、でおしまいにしたいくらい幼稚です。

「どうやったら残せるのかではなく、どうやったらなくせるのか」ですって(苦笑)。
あなた、反原発運動家と同じこと言っているね。
現実に「なくす」ためには、減らしながらなくすしかないんですよ。
つまり一定数の原発を残しつつ段階的に長期間かけて「なくす」のが、もっとも合理的な回答なのです。

短めに言いますが、脱原発するためには、社会にいかにダメージをあたえないでするための経済的側面、そして今まで積み上げてきた使用済み燃料をどう処分するのか、最低でもこの2点について回答しないと話にならないのです。

このテーマは始めると長くなるので、過去記事をご覧いただくとして、一点だけ指摘しておきます。
原発を止めるということは、すなわち火力発電の比率を高めることなのです。
既存のエネルギー基本法でも、2030年に再エネを16%から24%にするためには火力を56%でキープせねばなりません。
この火力を微減させるためには、再エネを20%台にして、原子力を今の3%からかつての水準に近い20~22%にまで増やさねばならなりません。

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そして再エネを倍にすればどうなるのでしょう。これには実例があります。脱原発を宣言したイタリアとドイツです
この両国は再エネを日本の倍もっていますが、電気料金はこのありさまです。

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https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/source/pdf/Y17504.pdf

上図の薄い緑色が再エネですが、ほぼ独伊が倍であるのがわかります。
図を横切るように上昇する黒線が家庭用電気料金を現していますが、日本は現在中位の電力料金で済んでいますが、再エネを2倍にすると30円/kWhに跳ね上がって世界でも電気料金上位の国となります。
この第2次日独伊三カ国同盟は止めるべきです。
つまりそれでなくても福島事故以降、菅政権が原発ゼロにした祟りで、上りつづけている電気料が更に国民生活を直撃するということです。
経済と生活に打撃をあたえての脱原発など本末転倒です。

そのうえ進次郎さんは国連の地球温暖化会議にぬけぬけと行くと言っているようですから、地球温暖化のためには火力をバンバン削減せねばなりません。
火力
がもっとも二酸化炭素をだすのは、分かりきったことだからです。
仮に原子力ゼロの上に、原発なき後に主力電源の重責を背負っている火力まで止めてしまうと、日本は工業国家であることを止めるたけではなく、文化生活も止めることになるでしょう。

つまりは進次郎さんの言っていることは、ただの空論のキイレイゴト、あるいはただの偽善です。

蛇足ですが、育休とるとか言って、とらないのは古いとか言っているようですが、なぁに言ってんだか。
大臣は、国民が育休を取れる仕組みを作ることが仕事で、てめぇひとりが取ってどうすんの。
国民の付託には休日はないんですよ。
しかも大臣は休んでも賃金は丸々保証されるかもしれませんが、国民は所得はガタ減り、それどころか復帰したら机がないかもしれないんですぜ。
ならどうするのか、そこをかんがえるのが為政者の仕事で、自分だけとって「国民はオレを見習って休め」ではシャレになりません。
これも厚労省の管轄なんだけど、ま、いいか。

とまれ進次郎さんは、大臣がどのような仕事なのかまったくおわかりではないみたいです。
そこからのようですから、彼を高く買っていられる菅さんは、どこかでキッチリと叱ってやって下さい。
本気で総理をめざすなら、まずはそこからです。

 

2019年9月13日 (金)

旭日旗についてIOC見解が出る

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あまりうるさいから、書いておきます。
なんですか、あの旭日旗が戦犯旗だのどうだのって。
え、なんだって?旭日旗はナチ党のハーケンクロイツですって。
ハッキリ言ってあげましょう。あんた、イッちゃってるよ。

ただ国内でワーワー言っているぶんには、はいはい永久に言ってなさい、といった気分でしたが、オリンピック・パラリンピックという国際的行事にまでモンスタークレームをつけてくるに至っては、無視するわけにはいかなくなりました。

この韓国のヤクザもどきのいいがかりについて、日本側は一貫して馬鹿言ってんじゃないよ、という対応をしてきました。

「橋本聖子五輪担当相は12日の記者会見で、韓国政府が来年の東京五輪・パラリンピックの会場などで旭日旗の使用禁止を求めていることについて「旭日旗が政治的な宣伝になるかということに関しては、決してそういうものではないと認識している」と述べた。大会組織委員会も旭日旗に政治的意味はないとの立場で、会場への持ち込みを禁じない方針を示している」」(時事9月12日)

この橋本新大臣の言い方は、立ち上がりだけにそうとうにセーブした言い方で、「旭日旗は政治的な宣伝になることはない」ですか。
あたり前だろうって。
これについて提訴されたIOCはうるさくなったのか、橋本さんよりもっとハッキリと答えをだしました。

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IPCアンドルー・パーソンズ会長 https://www.asahi.com/articles/DA3S13198414.html

「国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長は12日、東京パラリンピックのメダルデザインが旭日旗を想起させるとして大韓障害者体育会が問題視している件について、「伝統的な日本文化の要素を扇に反映したデザインであり、全く問題ない。大会組織委員会に見直しを指示するつもりはない」と述べた」(時事9月12日)

チャンチャン、はい韓国さんこれで投了ですよ。
いいですか、このパーソンズ会長の言い方はあなた方にとってちゃんと逃げ道も作ってある名裁きなんですよ。この部分です。

「また、パーソンズ会長は、東京大会の会場などで旭日旗の持ち込みを禁止するよう求める書簡を韓国側から11日に受け取ったことを明らかにした。その上で「これはあくまで政治問題。スポーツと政治を混同するつもりはない。断固としてその方針を貫く。大会とは無関係だ」と話し、韓国側の要請には応じない姿勢を示した。」(時事前掲)

会長はこの旭日旗問題は、純然と「韓国の政治問題だ」という言い方で、そちらの国内でやるぶんにはいかほどでもどうぞ、と言っているのであって、国際スポーツ協議大会の場に国内政治を持ち込むなと一線を画しているだけなのです。
ね、韓国さんよかったね、旭日旗の価値判断については判断を避けているのですよ。

国際パラリンピック委員会が言っているのは、放射線状のデザインがなんでも旭日旗に見えるという「旭日旗神経症」については、ダメと言っているだけです。
今回、韓国が言っていることのひとつは、旭日旗の持ち込み以外にパラリンピックメダルが旭日旗=戦犯旗だから禁止しろということでした。
どんなもんかいちおう見てみますか。

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はい、このメダルが旭日旗に見える人、手を挙げて。その人、眼科を受診しましょうね。
旭日旗はこのような旗です。

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似ているというなら朝日新聞の社旗などまんま旭日旗ですが、韓国は同盟軍の朝日にはなにも言いません。
朝日はソウル支局では掲揚していないそうです(プっ)。
ネチズンには、、もし旭日旗が禁じられたら朝日社旗を大量に振ってやるぞ、なんて人もいたかもしれませんね。

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ご承知のように、日本海軍が軍艦旗として創設以来使用してきたもので、それ以前から伝統的に日本では使われてきました。
戦後は海自に受け継がれて今に至っています。
この旗と上のパラリンピックメダルのデザイン的共通性はただ放射線状だというだけのことで、放射線状デザインは日が昇る様子をイメージしたどの国にも昔からある普遍的なデザインに属します。
今回のメダルデザインも扇をイメージしたもので、別に軍艦旗をシンボライズさせたわけではありません(決まってんだろう)。

韓国は今や世界中の放射線状デザインについてクレームをつけまくって撤去させています。
いや、いつもながらこの暗い情熱はなんなんすかね。
佃煮にできるほどたくさん例があるのですが、ひとつだけ紹介すれば、米国ロサンゼルスの高校にある体育館に描かれた米国人画家による絵のケースです。

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これに韓国系米国人団体が猛抗議して、撤去せよ、しないで大騒ぎになりました。
はい、もう一回お聞きしましょうね。上のロスの壁画が旭日旗に見える人。目薬の中で眼ん球をよく洗ってくださいね。

ちなみに、日本海軍と苛烈な戦いを経験している米海軍は、この旭日デザインが大好きで、よく登場します。
米国から「戦犯旗」といわれるなら、いつ日本海軍が戦犯、つまりは戦争犯罪をしたんだという具体的な議論にもなりますが、なんせあーた、韓国は当時日本ですぜ(笑)。
ちなみに
戦後の海自に旭日旗を許したのは、他ならぬかつての最強の敵だった米国海軍ですから、念のため。

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実はこの旭日旗=戦犯旗という言いぐさは、根が浅いのです。
あまり韓国人が騒ぐので、戦前の日本が統治時代に、韓国人が嫌悪する旭日旗を強制的に押しつけてきた歴史がアル、なんて勘違いをしている向きもあるかもしれませんが、2011年1月25日AFCアジアカップ2011準決勝「日本対韓国戦」に突然登場して以降のことです。
たった8年前からこのことなのです。

この試合で奇誠庸(キ・ソンヨン)が得点した際に、国際スポーツ試合にあるまじき相手国侮辱行為を働きました。
なんとまぁ、いい歳をして猿顔をしてみせたのです。
我々日本人としては怒るというより、この猿男のあまりの下品さと低能ぶりに感嘆すらしますな(苦笑)。

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猿男のとった侮辱行為に対して日本サッカー協会は強く抗議しましたが、当のキはこうツイートして居直りをきめこみます。

観客席の旭日旗を見て涙が出ました。私も選手の前に大韓民国国民です」

なに、言ってんだか、育ちきらない猿坊や。
たしかキミはスコティッシュ・プレミアリーグで、東洋人であることを差別されて猿まねをされたことがあったよね。
これは人種差別行為に当たるとして英国でも大問題となったわけですが、それを今回は自分がやれば愛国心だから許されるということだね。ご都合主義なことを。
自分がやられてイヤなことは他人に対してやらないもんだよ。
やれやれ、いつもの反日無罪ということです。

これは日本に対する侮辱行為を、歴史問題にすり替えて合理化するいつもの手口ですが、これがなんとに韓国サポーターはやんやの喝采を浴びることになりました。
「いやあれはリッパな愛国敵行為で旭日旗に復讐しただけ」という意見が大勢を占めるようになったっていうんですから、むしろその方に驚きます。

この猿男が見たというのが旭日旗で(実はスタジアムの写真を詳細に観察してもみあたらないんですがね)、以降、旭日旗は戦争犯罪の旗、すなわち戦犯旗という韓国にしかない新概念にあいなったわけでした。
理屈と膏薬はどこにでもつく、反日とファビョはどこにでもつく、というお粗末の一席が今回改めて国際的に否定されたのは、まぁあたりまえではありますが、いいことには違いありません。

どーでもいいですが、この猿男は新婚旅行に日本に来ており、猿の惑星探検のつもりだったのかもしれません。
あるいは、黒田勝弘氏が言う「昼の反日・夜の親日」なのかもしれませんけどね。

なお、私はだからといって、対韓国戦にむやみと旭日旗を持ち込むのはお勧めできません。
あくまでも旭日旗は軍艦旗(自衛艦旗)という軍事的な色彩が強いものだからです。
スポーツ大会に軍事的なトーンが強いものを持ち込むんでしまっては、まるでスポーツ大会を戦争の代用品にしているような勘違いをもたらします。
特にサッカーの国際試合は、ヨーロッパではまさに戦争の代用品だった歴史が存在するために、スポーツに対して軍事的色彩を持ち込むことについて見る目が厳しいということを覚えておいたほうがよいでしょう。

旭日旗は勇ましい図柄ですから、特に海軍ファンでもなくても振りたくなるのはわからないではありませんが、韓国への怒りのシンボル旗として無闇やたらと振られたら、対北で三カ国連携を堅持している海自からしてれば複雑な気分になるでしょうから。

 

2019年9月12日 (木)

千葉大停電 感情的に騒いでも復旧は早まらない

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毎度毎度のことですが、千葉の大規模停電などがあると、定番のように遅れた責任は政府の責任だとか、人災だとか言う野党議員や文化人が出ます。
たとえば立憲民主の某議員のツイートは、
「組閣よりも千葉県への大規模支援を。 政府、マスコミの対応を見ていて苛立ってきます。 何のために行政はあるんだ! 」とか、蓮舫さんなんかは「今日組閣する必要があったのか」なんて言っているようです。

ただの感情論にすぎません。こんな時に政府の責任を言い立ててなんになるんでしょうか。
かえって災害時の正確な情報の伝達を妨げ、混乱を助長するだけです。

災害時における行政対応の大枠さえ知らないで言っているようですから困ります。
災害対策基本法を一回くらい読んでから言って下さい。
災害復旧の主体はあくまでも県、あるいは市町村にあります。

いちおう押えておきます。

「災害対策基本法 第四条 
都道府県は、基本理念にのつとり、当該都道府県の地域並びに当該都道府県の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施するとともに、その区域内の市町村及び指定地方公共機関が処理する防災に関する事務又は業務の実施を助け、かつ、その総合調整を行う責務を有する」
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail/336AC0000000223_20160520_428AC0000000047/0?revIndex=3&lawId=336AC0000000223&openerCode=1#33

この条文の主語は都道府県で、ここが防災計画を作り実施し、かつ、消防・警察、市町村行政と調整をしろと書いてあります。
国はこの後方支援の役割にあたります。
今回は、官邸は台風が関東上陸コースを予測された段階で対策を立ち上げています。
時系列でいえば、総理官邸は台風が来る3日前の9月6日11時15分に情報連絡室を設置し、その時点で関係省庁は既に動き始めています。

内閣改造とたまたまぶつかってしまっために、内閣改造のショーのために対策が遅れたから人災だ、なんて言いたいようですが、その批判はあたらないのがおわかりになるでしょう。
アレはアレ、コレはコレなのです。

内閣改造で台風災害がおそろかになっているという馬鹿なことを言っていますが、救援時に中央にできることなんかないのです。
あえて言えば各官庁の調整くらいなもので、それすらも災害対応で多忙の地方官僚に中央から「どうしてますか。状況を教えてください」なんて問い合わせが増えて仕事の邪魔なだけです。

日本版FEMA(緊急事態管理庁)を作れという声は常にこういう時には起きるもので、それも一理あるのですが、いまの様な状況で何をするんだろう?
中央から人を送っても、電力復旧のような専門性が要求される分野には、既に後述するように電気事業連から1500人規模の大規模な専門家による支援部隊が行っていますしね。
給水や風呂などは、自衛隊がとっくにやっています。来ても邪魔なだけです。
災害現地に人が来るというのは、その人のための食糧、宿舎、サニタリーなとが増えること意味しますから、来て欲しいのはその自給可能な自衛隊だけです。
そもそも今回は水害型ではないので、そんなに人はいらないんですよ。

また被災者の中に、アベが韓国ばかり叩いているからこうなったんだなんて訳のわからないことを言っている人もいましたが、もう見当外れも極まれりです。
外交問題と災害を混同して、アベを呪えば電気の開通が早くなるんでしょうか。
私も今回の台風で真上を通過されましたから、約2日の停電を経験しましたが、そのていどのわきまえはありますがね。

「森田知事は、農林水産業への被害が極めて大きいとして、県の担当者に対し速やかに政府に支援を要請するよう指示しました」と述べました」(NHK9月11日)

ここで森田知事が言っているのは、直接的な人員派遣ではなく、おそらくその後の復旧・復興などの予算措置についてではないでしょうか。
というのは、国がこのような災害に際してできるのは、災害後の復旧・復興局面での激甚災害指定などだからです。
激甚災害制度は、国民経済に著しい影響を与えるような激甚な災害から復旧するにあたり、自治体の財政負担を軽減するために、公共土木施設や農地等の災害復旧に必要な費用に関して国庫補助の嵩上げを行うものです。
つまり、激甚災害指定とは、今のような救援・復旧が目的ではなく、災害復旧・復興が対象なのです。 

千葉県の動きを時系列で見ると、台風が直撃したのは9日未明ですが、台風の通過に伴って千葉県は10日4時に自衛隊要請しました。
もう多くの国民は理解していますが
、自衛隊は都道府県首長の要請がなければ動けないのですよ。
首長の要請が遅れたために自衛隊という最大の復旧力を初動で使えなかったのは阪神大震災の悲劇的教訓でしたが、今は多くの首長はすぐに要請を出すようです(あたりまえだ)。

「9月10日04時00分に空自中部航空方面隊司令官に対し、04時30分に陸自第1空挺団長に対し千葉県知事から災害派遣要請。15時25分に陸自第1師団長に対し、神奈川県知事から災害派遣要請。11日06時00分に陸自第1空挺団長に対し、千葉県知事から災害派遣要請あり」(河野太郎ツイート)
https://twitter.com/konotarogomame

自衛隊の救援活動については陸自東部方面隊のツイートをご覧下さい。いつもながら、自衛隊なかりせばわが国はどうなったのかと思うばかりです。
https://twitter.com/JGSDF_EA_PR

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千葉県は朝4時に自衛隊に要請し、9時に災害対策本部設置しました。

さてこのような大規模停電になった最大の理由は、台風による倒木や送電線や電柱が予想をはるかに超えて倒壊していたことにあります。
東電は当初、決められた対策指針に沿って、多重化された送電網で迂回ルートを作ろうとしました。
しかし実際に現場に入ったところ想像を超えた倒壊状況で、迂回ルートを設定できない地域が大規模に発生しました。

「一般的な停電では、損傷した部品の取り替えだけで済む。だが、台風をはじめとする大きな自然災害の場合、部品取り替えに加え、倒木の撤去などの作業が加わる。電線が建物に接触したケースでは、電線の引き離し作業も必要になる」(産経9月11日)

特に君津火力発電所近くの送電鉄塔2基が倒れたことにより、送電が発電所近くで切断されたことが大きく響いたようです。
下写真右側隅に倒れた鉄塔が写っていますが、こんな大きなものが倒れるなんていかにすさまじい強風だったのか分かりますね。

「東京電力によりますと、千葉県君津市の長石付近で送電線の鉄塔が2基倒壊しているということです。
高さはそれぞれ、45メートルと57メートルで比較的大型のものです。東京電力によりますと倒壊は台風の影響とみられるとしています。
鉄塔が倒壊した送電線は、主に千葉県内に電気を供給しているということで、現在、東京電力が詳しい被害の状況や停電への影響など調べています。復旧の見通しはたっていません」(NHK9月9日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190909/k10012071111000.html

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それでも当初は11日中の復旧を予定していましたが、それが更に延び延びになっていきます。

その理由は、悪いときには悪いことが重なるもので、台風が通過した翌日の復旧作業の真っ最中に今度は落雷が発生して、復旧作業を中断させたうえに、落雷被害の復旧まで重なってしまいました。
これによって当初予想の作業量予測を遥かに超える膨大な作業量となってしまったようです。

東電は9日の段階で、既に電力各社に応援を要請していました。

「千葉県内で大規模停電が続く中、電力大手各社が復旧に向けた要員や、電力供給のための電源車などの応援派遣を拡大させている。台風通過直後の9日に、各社が応援を表明。
この時点では、合計で約1300人、電源車46台を派遣するとしていたが、東京電力側からの追加要請もあり、11日午後の時点で派遣要員が計2400人、電源車150台と大幅に増やしている。 関西電力が11日に、協力会社を含めた358人の追加派遣を発表したほか、九州電力も約100人を追加増員した。各社ともに電力復旧の支障となっている倒木などの伐採に従事できる要員も派遣している」
(産経9月11日)

なお、この応援規模は近年最大規模のもので、北海道地震時を上まわっているそうです。
電気事業連のツイートをみると、これだけ短時間にこれだけ大量の専門家を現場に投入できる業界はないでしょう。
率直に脱帽します。
やれ徹夜して作業しろとか、東電の人災だなどと軽薄にいう者は、この数字を噛みしめてから言ったほうがいいでしょう。

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2019年9月11日 (水)

ボルトン更迭される


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驚くべきニュースが飛び込んできました。
トランプがジョン・ボルトンを解任したそうです。まだ飛び込んできたばかりですので、私も情報を収拾している段階で、速報としてアップしておきます。

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http://japan.hani.co.kr/arti/international/33006.h...

「【ワシントン時事】トランプ米大統領は10日、ツイッターで、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を更迭したと明らかにした。
 「ボルトン氏の多くの提案について意見が異なった」と指摘。「彼の任務はホワイトハウスで不要になった」と述べた。後任は来週指名する。トランプ氏は9日、ボルトン氏に更迭を通告したという。トランプ氏と強硬派のボルトン氏は、北朝鮮やイランとの対話やアフガニスタンからの米軍撤退などをめぐって意見対立が表面化していた」(時事9月10日)

ボルトンとポンペオの間には確執が伝えられていました。

「公式な会議を除いてほとんど口もきかない状態が続いているといい、政権の今後に影響が出る可能性がある。
2人はこれまでも摩擦が指摘されることがあったが、最近は「全面的な対立」に発展しているという」(時事9月8日)

今回のボルトン更迭には国務省が動いたと言われています。
ボンペオとボルトンは閣内で完全な対立関係となっていて、この間ボルトンは重要な会議からはずされていたようです。
その理由がふるっていて、ボルトンが機密情報を漏らしているだろうという疑惑を言う者が「ホワイトハウス高官」にいたからだと言われています。
この「高官」とはたぶんポンペオでしょう。

ボルトン氏はこのところ、政策決定の蚊帳の外に置かれる場面が目立つ。ワシントン・ポスト紙によると、8月16日に政権幹部がアフガニスタン和平への対応を話し合った際、出席者のリストには当初、ボルトン氏の名前はなかった。「和平案に反対し中身をリークする」(高官)ことが懸念されたためとされる。
 CNNによれば、この動きを主導したのは国務省だった。政権の要のマルバニー大統領首席補佐官代行も、自身のチームに安全保障の専門家を置くなど「ボルトン外し」に加担している。これに対しボルトン氏は巻き返しを図り、アフガン和平などで大統領に対し、批判的な意見具申を続けているという」(時事9月8日)

トランプのツイートです。

....I asked John for his resignation, which was given to me this morning. I thank John very much for his service. I will be naming a new National Security Advisor next week.

私は昨夜、ジョン・ボルトンに対し、もうホワイトハウスには不要だと伝達した。私は彼のアドバイスの多くに強く反対しており、政権内外にもそのように考える人が多い。私はジョンに辞任を求めたところ、今朝、辞表を受け取った。ジョンが職務で尽力してくれたことを感謝したい。国家安全保障アドバイザーは来週指名するつもりだ。

巷間言われてきたことは、ボルトンが直言タイプだということです。
彼は諫言を厭いません。
トランプはかつてこれ以上の国防長官は望めないと思われるジェームス・マティスを解任した原因は、トランプに同盟の重要さを直言したことによって軋轢が生じたからだと言われています。
マティスは米国は自由主義陣営のリーダーとしての責任の上に米国の利害があると見ますが、トランプは米国の一国的利害こそが大事で、同盟諸国はもっと応分の負担をするべきだと主張しました。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20180...

ちなみに、就任したボルトンがマティスに挨拶に行ったところ、「あなたのことは悪魔の化身だと聞いている。あなたのことをお待ちしていた」というブラックユーモアでもてなされたそうです。
このふたりの路線もそうとうに異なっていましたから、マスィスにとってなんでよりによって、という心理があったのでしょうね。

それはさておき、ポンペオが柔らかにトランプと接して軋轢を回避し、側近の地位を確保していったのに対して、ワンマン社長タイプのトランプから見ればボルトンはうるさいご意見番として煙たがられていたようです。

こういうキャラ的な問題がそのまま政権内の確執になってしまうのが、トランプ政権のウィークポイントです。
トランプはかつてと較べればそうとうに練れてきてはいますが、いまだ共和党を支配しきったとはいえず(再選候補にはなるでしょうが)、ワシントンのオーソドックスな既成官界、政界からは激しく遊離した存在であることにはかわりありません。

ですから、彼は既成概念を打ち破った思い切った外交交渉が出来る代わりに、いつまでたっても一匹狼的な性格から自由ではありませんでした。
それがトランプ政権の強みであり、同じ理由で弱点なのです。

さてこのボルトンとポンペオ両者の軋轢は、ボルトンの強硬策に常に反対してきた国務省派にとってすこぶる好都合なことでした。
国務省が進める軍事的オプションを回避してスティタスクォ(現状維持)を図ろうとする方針にとって、すぐにダンビラを抜きたがる(と国務省には見える)ボルトンは一刻も早く排除したい存在でした。
国務省やリベラルメディアはボルトンを「壊し屋」と呼んでいました。
このように見ると今回の更迭劇のシナリオを書いたのは、ポンペオと国務省だろうと推察されます。

もうひとつは、トランプ社長との微妙な路線対立です。
ボルトンは原則派に属します。
口から出した言葉は、なんらかの形で実行しようと考えるタイプです。
これはトランプがえてして、ボルトンのよう強硬策を口にしても、それは必ずしも本心ではなく、相手の妥協を引き出すためのただのブラフ、あるいはディール(取引)であることと対照的です。

たとえば、先日のイランによる無人機撃墜事件の時にも、ボルトンはイランの軍事施設を報復すべきだと主張したようです。

「米紙ワシントン・ポスト(電子版)は15日、中東への空母派遣など対イラン強硬策を進めるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)らに対し、「トランプ大統領が不満を抱いている」と報じた。米・イラン間の緊張の高まりが軍事衝突につながると危惧する声も出ており、トランプ氏は外交解決を望み、イラン指導部と直接交渉したいと考えているという」(時事5月19日)

トランプにとってイランに対する軍事カードはあくまでもカードにすぎず、イランにかぎらず中東には深入りしたくないというのが本心でした。
それはトランプが中東かへの介入を批判して当選したからで、彼からすれば公約の一丁目一番地だったからです。

「トランプ氏は、泥沼化したイラク戦争(2003年開戦)を「避けられた大失策」と批判し、中東の米軍撤収を目指してきた経緯がある。ポスト紙は「トランプ氏は新たな戦争に巻き込まれるのを懸念しており、より好戦的な補佐官らの姿勢に対する強力な重しになっている」と指摘した」(時事5月16日)

「(ボルトンは)イラク戦争を支持した張本人でもある。イラクが大量破壊兵器を製造し国際テロ組織「アルカイダ」系の武装勢力を匿っているという疑惑が誤りだったと判明しても、戦闘継続を主張した。トランプ政権で大統領補佐官に就任して以降は、冷戦下の米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約(INF)の破棄や、イラン核合意からの離脱を促進した」
(ニューズウィーク2月1日トム・オコーナー) 

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https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20190...

北朝鮮に関しても同様で、トランプは大向こう受けする派手なディールを好み、正恩との直接交渉をやってのけました。
これは是非が別れるところで、北朝鮮のようにトップに権力が集中した独裁国家相手だとひょっとしてひょっとするかもしれませんが、正攻法ならありえないような場の雰囲気で動かされかねない危うさもあります。

私は2回の直接会談は薄氷の上の綱渡りだったと思っています。
トランプは手柄欲しさに「北朝鮮の非核化」とすべきところを、「朝鮮半島の非核化」で合意してしまいました。
危ない、危ない。「朝鮮半島非核化」って、北朝鮮にとって在韓米軍の撤退を意味しているんですぜ。
このように米国が譲ったにも関わらず、北朝鮮は完全非核化はおろか、なにひとつお土産を持ってきませんでした。
オンボロの核施設ともう使っていない核実験場の廃棄では話になりません。

この失敗に終わりかねない直接会談に歯止めをかけたのがボルトンでした。
会談に出席したボルトンがうんにゃと言ったと言われています。

しかしこのボルトンは既に板門店における正恩との会談において同席を許されていませんでした。
こいつがいるかぎり北朝鮮はオレのディールに乗ってこない、こいつをクビにすことは北への次回会談へのシグナルになる、たぶんトランプはそう考えたのでしょう。
ボルトンを毛虫のように嫌っていた正恩は、このボルトン解任のニュースをさぞかし手放しで喜んでいることでしょう。
たぶん次回会談は年内に開かれるでしょうが、ボルトンなき会談がどのようなものとなるか、ゾッとしません。

今後の最悪なケースを考えると、ボルトンが主体となって進めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)は神棚に祭られてしまう可能性がでてきました。
米国にとって、米本土に届く長距離核さえ封印すれば、このままズルズルと短距離弾道ミサイルを容認し続け、日本を目標とした中距離核については事実上の容認をする可能性が濃厚となりました。

また黒井文太郎氏によれば、アフガニスタン問題で、トランプがタリバン代表を呼んで直接会談をするという計画があり、ボルトンは強く抵抗しその際に激しい口論となったようです。
結局タリバンとの会談は流れましたが、これが直接に辞任のきっかけとなったそうです。

トランプは直接会談が好きだねぇ、あの男、よほどディール力に自信があるのか、みさかいなくやりたがりますが、裏方の長期間のきちんとした積み上げがないところでボス交渉をしても結果は得られません。
かえってつまらない妥協を呑むだけの結果に終わり、ひいては同盟国の不信をよぶだけに終わります。

最後にボルトンは拉致被害者の家族と親身に接してきた人であり、ホワイトハウスで拉致についての日本の立場を代弁できる数少ない理解者だったことから、大変に残念なことです。

 

2019年9月10日 (火)

ムン閣下の絶望超特急

 

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さてさて、よもやとは思ったんですが、やっちゃいましたね。
チョ・グクを法相任命してしまいました。

「【ソウル=桜井紀雄】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、公約に掲げた検察改革の推進役として、家族をめぐる疑惑の捜査が進む最側近を法相に任命する前代未聞の人事を断行した。
検察による強制捜査に対し政権や与党の幹部が「検察改革潰しだ」と反発する一方、渦中のチョ・グク氏は疑惑が晴れず、政権と検察が対立する中での異例の法相就任となった。 「私が任命されたのは、未完の課題だった法務・検察改革を仕上げるべきだという意味だと考える」。チョ氏は9日、法相就任のあいさつで文氏が託した検察改革への決意を強調した」(産経9月9日)

1iwit ここで産経が「前代未聞の人事」と驚くのはむりないところで、ムン閣下が正常な判断力を維持していたならば、フツーしないよね。
私はこのムン閣下のチョを法相にするかどうかがバカ判定器と思っていましたから、ムン様やはり黒光りするようなルーピーのようです。

よほど世間をなめているのか、 それとも勇気凛々瑠璃の色かのいずれかです。おそらく両方でしょう。
強行突破というのは、政権末期に現れる特徴的な政治選択です。
本来、一定の謝罪としかるべき処分をして世論を鎮静化してから捲土重来すればいいだけのことなのに、ともかくその前の危機対応で眼の前真っかっか。
イケイケと突っ走りさえすれば、40%ギリギリで維持している左翼シンパの鉄板支持層は「ムン様命」と着いて来るさと思っているのでしょうね。

朝日新聞が慰安婦謝罪をした後もあいもかわらずファーレフトしているのは、部数激減で経営難になると逆に左派鉄板読者だけでも固めておきたいという心理が生まれるからです。
バランスのいい記事なんか書いていたら、彼らにも見捨てられますからね。
かくして朝日の場合、いっそう朝日らしい「角度がついた」、つまりはバイアスかかりまくりの記事ばかりとなります。
ムン政権も窮すれば、いっそうムン政権らしくハチャメチャになるというわけです。

ただ、あくまでもこれは延命策にすぎず、強行突破なんて政権の政治選択の幅が極端に狭まります。
もう元に戻りたくても戻れないからです。
本来政権を余裕をもって運営するには、シナリオを複数用意しておくべきです。
なのに世論が怒っていようと、反対だろうと、ともかく力でねじ伏せちゃおうというわけですから、当然どこかで反動がきます。
今回なら弱体の野党は頼りないとしても、いっそう検察は対決姿勢を強め、疑惑の徹底解明に走るに決まっています。
検察としてはそうしないことにはチョ新法相に「改革」されてしまいますからね。

たぶん全力でチョ一族の大掃除をしているはずで、韓国富裕層で、裏口入学、贈収賄、インサイダー取引、懲兵回避なんか当たり前すぎて話題にもならないくらいですから、まだまだ出ることでしょう。
法相が指揮権なんか使おうもんなら、さぁどうなりますことやら(わくわく)。

ム ン閣下は自分の支持層さえ固めれば政権が維持出来ると思っているはずです。
それはここに来て一気に野党自由韓国党との支持率の差が縮まってきたからです。

時系列で政党支持率推移を並べてみましょう。
2018年5月の政党支持率です。左青の与党・共に民主党が右赤の野党・自由国民党を36ポイントと圧倒的に差をつけているのがわかります。
ピョンチャン五輪の熱気冷めやらぬ頃で、「外交天才」の名をほしいままにして、キラキラしていた時でしたなぁ(遠い眼)。
このくらい野党を突き放していれば、大統領制の強みをいかんなく発揮し、ムン閣下は好き勝手に政権運営しました。

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それが暗転するのはムン閣下のキラキラのトリックがバレた今年に入ってからです。
外交はメチャクチャです。頼みの北からはクソミソに罵られ、日本との関係は氷河期、米国とも氷河期前段、経済はもうズタボロ破綻寸前ですから、ムン閣下は青瓦台の別棟にある大統領離れに閉じ籠もってヒッキーになってしまっています。
オーイ大統領閣下、どこにいるんだーいと、彼に面会できるのはごく限られた人間だけとなっているとのことです。

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なぜか政権に有利な数字が出るといわれているリアルメーターですら1.6ポインまで差が縮まってしまいました。
このへんになるとムン閣下は反日くらいしか政権浮上の手段がなくなってきます。
そこで本来は継続しようとしていたGSOMIAをばたん場でチャブ台返しするという愚行に走り、米国を激怒させます。
ま、ムンさんはGSOMIAの意味なんてゼンゼンわかっちゃおらず、かつては中国とも結ぼうなんて言ったこともある人ですがね。
いや分かっていないというよりも元々反対なんです、この人。野党時代は反対運動の旗振っていた人でしたから、

「朴槿恵前大統領が崔順実氏に機密情報を漏らした疑惑が報じられ、退陣を求める声が広がりはじめていたのである。当時、文在寅現大統領が顧問を務めていた「共に民主党」は、協定にある韓国が入手した情報を日本に伝えるという部分を取り上げ、大統領解任要求に利用。国民は意義と内容を理解しないまま59%が反対した」
(ニューズウィーク8月26日号佐々木和義)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/gsomia-5.php

そして今回のチョ法相任命強行となりますが、チョはこんなことを言っているようです。

「チョ氏は2日の記者会見で疑惑への関与を否定。会見は休憩時間をはさみ3日未明まで約11時間行われた。チョ氏は「周囲に厳格でなかったことを深く反省する」と疑惑の道徳的側面について謝罪した。一方で法的責任については「知らなかった。法的に問題はない」と否定し続けた」(産経9月3日)

これだけ身内から疑惑が噴出しているのに、「法的には問題ない」ということですが、ならば側近疑惑で死ぬまで牢獄につながれそうなパククネなんてどうなるんでしょかね。
しかもその時に批判の急先鋒にたったのが、他ならぬご当人のチョグクですから、シャレにならへんわ。
これだけ疑惑のたまねぎ男と化してもなお
チョがやりたいのは、ブラックユーモアのようですが、検察改革だそうです。
自分が検察に猛烈に追求されている時に、法相がその検察を「改革」したいからと就任を強行する、なんのために法相になりたいのか、わかりすぎるくらいわかって困ります。


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https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190905...

一方、迎え撃つ検察は徹底抗戦の構えのようです。
まずは法相就任前の先制攻撃とばかりに続々とガサ入れし、チョの妻を在宅起訴まで持ち込んでいきます。
叩けば埃が出放題の韓国有産階級ですから、出るわ出るわ、いまはファンド会社にまで飛び火しています。
てたぶんこんなもんじゃ終わらないことでしょう。

チョ氏の法相としての適性を審査する国会の人事聴聞会と前後し、検察は2度、社会を驚かせた。最初は8月27日に娘の大学不正入学疑惑など一連の疑惑に絡み、大統領府への報告もなしにソウル大など数十カ所を家宅捜索したことだ。 次いで聴聞会が開かれた今月6日、娘の進学に有利になるよう大学総長の表彰状を偽造したとして、大学教授である妻を在宅起訴したことだ。時効が迫っていたためだが、事情聴取もない極めて異例の措置だ。 
チョ氏の法相就任を阻むかのような捜査に与党や政府首脳が「政治的だ」と相次ぎ非難。大統領府高官が疑惑を打ち消そうとすると、最高検が「捜査介入をやめるよう」苦言を呈した。こうした検察の強気の姿勢は7月に就任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長のパーソナリティーによると指摘されている」(産経9月9日)

この指揮を執るユン・ソクイル(尹錫悦) 検事総長というのがなかなかユニークな人で、権力に媚びる体質が強い官僚の世界にあって、「オレは人には忠誠を誓わない」と言う人です。
かつてパク政権時に、
検察上層部の反対を押し切って情報機関の大統領選介入事件の捜査を進めたために見事地方に左遷せされたという向こう傷の男で、朴、崔両被告の疑惑事件では現政権によって捜査チーム長に一躍抜擢されました。
これであっぱれ国民的スターとなり、ムン閣下は自らの検察改革の看板としてソウル中央地検トップ、次いで検事総長と異例の大抜擢を行いました。
ちなみに、いまや狩られる立場となったチョは当時ユンに、「いつまでも心に残る」とラブツイートを送り、ムン閣下など7月に検事総長に任命した際に、わざわざユン検事総長をかたわらに呼んで言った台詞がふるっています。
「大統領府でも与党でも生きた権力に厳しく臨んでほしい」だったそうです(苦笑)。

はい、ユン検事総長は、ムン閣下の熱い期待を満身に浴びて、「大統領府の生きた権力」と戦っておりますですよ。

 

 

2019年9月 9日 (月)

香港独立だって?

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名無し氏からこんなコメントをもらいました。入れる場所がまちがっていますので、次回は宜しく。

「香港で最近捕まり、いまだに逮捕されているアンディさんが日本保守に1番近い思想らしいHongkong独立派であり,尖閣は日本だと言ってくれる香港デモ独立派のアンディさん。

顔は、1番ゆうめいで最近逮捕されてもすぐに釈放されたアグネスさんは、残念ながら最初からなぜかシールズと仲良くこれから山本太朗やシールズとの対談も反日てれびが演出を計画しています

沖縄を独立させたい共産主義勢力+山本太朗+シールズ+パヨク+アグネスが
これから日本で大々的にメディア応援の中で共闘し全面に出そう計画を日本の反日派がテレビを使い計画中」

 

せっかく入れてもらってこういうことを言うのもナンですが、日本の政局にはなんのつながりもありませんし、アグネスさんが山本と親しかろうとそうでなかろうと、関係ありません。
なぜなら、彼女は一個人だからです。

これでアグネスさんが行政長官だったとしたら、それなりにその影響を考えておく必要がありますが、一個人でなにをどう言おうと無関係です。

彼女が尖閣をどう思っているかも、まったく関係ありません。

 

一言ご忠告しますが、政治情勢を見るときに自分の政治的クローンを探すのは不毛だから止めたほうがいい。

異なった地域で、異なった運動をしている人を捉えて、うちの国の誰それと懇意だから、パイプがある、なんて言ってもなんか意味がありますかね。

また「香港独立」ですが、私が一番警戒している潮流です。
もし、「香港独立派」が大多数を占めた場合、北京政府はためらいもなく武力弾圧のカードを切るからです。
そのへんの按配については細かく書いたつもりなんですが、読みとばしましたかね。

政治的に「正しい」ことと、政治的に「正しい判断」であることは別次元なのです。
政治的に正しいことも、出す時を間違えたら弾圧を呼び込むだけです。
「香港独立」は、5大要求にも書かれなかったように香港民主派で圧倒的多数というわけではなく、むしろ少数派にすぎません。

大多数の市民にとって、一国二制度をしっかりと堅持できればよいのであって、「その先」にあるだろう香港の分離独立は危険極まる選択だと感覚的に分かっています。

 

香港が分離独立したらどの国が承認しますか。
米国はしませんよ。
つきあいの古い台湾さえも台湾関係法でかろうじて守っているくらいで、いま台湾を承認してしまったら北京政府に侵攻の口実を与えるからしないのです。

運動は一時の感情の高まりで解決できるわけではありません。
「香港独立」がなまじ「正しい」が故に、いま独立を言い出してしまっては元も子もなくなります。
元も子も亡くなるというのは、自由主義国の反権力デモと、香港のデモはまったく別次元だからです。
政治的自由が確立されている国で、ワーワー叫んでも、そんなものは分厚い民主主義の脂身に吸収されてしまいますが、香港はむき出しの中国の暴力と対峙しているのです。
アグネスさんがシールーズと仲がいいというのは初耳でしたが、よしんばそうだとしても、あんな甘ったれたいくえにも保護された運動のどこが気に入っているんでしょうか。

シールズは負けても平気です。かれらにとって青春の記念にデモのひとつもして、あとは就職してサラリーマンやるだけのことですから。
一方香港の民主派の戦いは、文字命をかけることあり、命を張って戦うことです。
負ければ、事後摘発を食って移送法が通っていれば本土の収容所送りです。
厳しさは天と地の違いがあります。
だから香港の戦いは人の心を打つのであって、シールズ如きお坊ちゃんお嬢ちゃんデモと一緒にしてもらっては困ります。

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https://oyakochoco.jp/blog-entry-2056.html

さて「香港独立」ですが、考え方としてもナンセンスな主張です。
それは台湾を見れば分かるでしょう。
慎重に蔡英文台湾政権は「独立」を避けて通っています。
もちろん現在の台湾政権は台湾独立派ですが、おくびにも出しません。
その理由は北京政府がこのように言っているからです。

「[北京 24日 ロイター] - 中国国防省報道官は24日、この日公表した国防白書について会見し、台湾の独立に向けた動きがあれば戦争も辞さないと表明した」
https://jp.reuters.com/article/china-taiwan-usa-idJPKCN1UJ09R

このように北京政府が言っている時に、あえて「独立」などと言う必要はないばかりか、挑発することによって、台湾侵攻を速める働きすらあります。
台湾政府ができることは、さまざまな手段で仕掛けてくる中国への統合策動を、ひとつひとつ丁寧に潰していくことだからです。
地位としては大変に不安定ですし、先日南太平洋諸国が中国に切り崩されたように、常にピンと張ったロープの上を歩いているようなものです。

台湾独立はこのロープを大きく揺らすようなまねをすることです。
香港も同じです。
香港民主派がどのような政治的未来を掴むか分かりませんが、それは多くの妥協の産物であって、すっきりとした解決などはこの世に存在しないのです。

 

2019年9月 8日 (日)

日曜写真館 極楽ツァーにようこそ


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蓮の花を東南アジアからの人がわざわざ見にくるそうです

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極楽ツァーにようこそ

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砂糖で作ったお菓子みたいです

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よく蜂が花粉の中をころげまわっています

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2019年9月 7日 (土)

どこでキャリー・ラムは間違ったのか?

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先日のキャリー・ラム行政長官の移送法撤回の背景について情報が入ってきましたので、紹介しておきます。
ちなみに私は今までキャリー・ラムと表記してきましたので一貫させますが、漢語で林鄭月峨。広東語で「林」はラムと発音するそうです。

なおこの今日の情報源は、「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」令和元年(2019)9月6日号です。

宮崎氏によれば、ラムは北京政府の最終的了承なしに撤回を公表した可能性があるそうです。
私は当然、北京政府の高いレベルの了解なしに撤回のゴーサインはだせないと思っていましたが、ラムが協議したのは香港の出先機関である
国務院香港マカオ弁事処主任の張暁明との間だけだったようです。
会合を持ったのは香港に隣接する深セン近辺ということです。

「条例撤回に関して、中国側の返答がなかったことから、撤廃黙認と読んだらしい」(宮崎前掲)

このあたりの前後関係はわかりませんが、もしそうならラムはかねてから完全撤回について、北京政府の了解を得るべく打診していたことになります。
おそらく7月に移送法は死んだというような表現をしているところから、ラムの腹は撤回で定まっており、それについて北京政府の承認待ちだったと憶測されます。

面白いのは、このラムの要請について北京政府が回答していないと思われることです。
おそらく習は一時期武力鎮圧やむなしに傾いていたはずです。これは、ラムと協議した弁公室責任者の張がこう言っていたことでもわかります。

「国務院香港マカオ事務弁公室が香港政財界500人を深センに集めて行った会議で、張暁明主任が「鄧小平が今の香港をみたら、北京が介入すべきだと判断したはずだ」とかいったらしい」(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO,29 2019年8月19日』 )

この時期、習は強硬姿勢をみせる反面、長老との北戴河会議で「部隊(軍隊および武装警察)を動かす必要はない」 という発言をしたとも伝えられています。
結局、長老たちの反対(太子派は香港に利権をもっていますから)や米国の強い圧力もあってか、
部隊を動かす必要はないが、厳格な刑罰と峻厳な法令によってできるだけ早く乱を平定し、寸土も譲らず」と命じたといいます。
つまり、現行の香港の法律枠内で中国弁公室(中連弁)が事実上の指揮下に置いている香港警察部隊を使って、できる限り多くの民主化活動家を逮捕し、これを暴動罪という重罪を適用して監獄送りにする、それでダメなら緊急法を使って戒厳令、という弾圧強化路線に落ち着いたということのようです。

一方、宮崎氏によれば、

「この間、キャリー・ラムが部下に命じたのは二つの暴動の収拾方法を教訓に出来るかという調査だった(サウスチャイナ・モーニングポスト、9月5日)」

ラムが参考にしたのは暴力的封じ込め路線です。これには英仏の事例を参考にしているようです。

「第一は、2011年にロンドンのトッテナム地区で発生した暴動。これは警察官が黒人の容疑者射殺に端を発して暴動となり、商店への略奪がひろがり、失業中の若者多数が参加し、合計五名が死亡、多数が負傷した。人種差別型暴動としてはロスアンジェルス暴動に似ている。
キャメロン政権(当時)は、徹底した厳罰で臨み、SNSで暴動を煽った若者にも禁固四年という厳罰で臨んで力で封じ込めた。
第二は昨秋から毎週土曜に行われたフランスの「黄色ベスト」「黄色ジャンパー」デモ、スタイルは香港の抗議方式に似通っている点もあるが、物価高のための賃上げと、マクロン大統領の辞任を要求していた。
フランス政府は譲歩せず、自然消滅を待った」(宮崎前掲)

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AFP

背景は異なりますが、英仏の事例に共通するのは自然発生的に生まれて、SNSを使ってデモ参加を訴える抗議方式です。
香港の民主化運動が、この英仏の「SNSスタイル」に影響を受けているのはいうまでもありません。

しかし大きく英仏のケースと異なるのは、民主主義政体の国と違って、香港が対する中国は基本的人権、市民的自由の概念そのものが存在しない前近代的国家です。
このような国から間接支配を受けている香港においては、英仏とは比較にならない厳しさで「SNSスタイル」をとらざるをえませんでした。
たとえば、集会の呼びかけは勿論のこと、集会場へ行く手段も鉄道を使った場合、それを後に警察にトレースされないためにカードを一切使わずに現金に徹することも申し合わせたと聞きます。
これはキャッシュレス方式が北京政府の常時監視下に置かれているからで、その使用状況を当局がチェックすれば参加者の動きが筒抜けになってしまうからです。
このへんがなんやかや言っても、甘ったれた日本や英仏の反権力デモと一味違うところです。

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また、雨傘運動の挫折を教訓にして、公然指導部を置きませんでした。
これが功を奏して、香港政府は特定の活動家を狙い撃ち逮捕することによって運動を終息に向かわせることが不可能となってしまいました。

ただし、指導部を置かなかった功罪はでました。
デモ指導部不在なために、香港政府が交渉相手を失ってしまったことです。
一般的に運動においては、権力側と反政府側がなんらかのパイプを作ってやりとりをして落し所を探り合うものですが、それが効かなくなりました。

結果として、運動は一部のボスによっていい加減な手打ちをせずに非妥協的に進んだのはよかったのですが、解決の道が互いに見えなくなりました。

運動内部は一枚岩ではなく、中国共産党打倒を叫ぶ急進的な部分と、一国二制度を堅持できればよしとする穏健な部分が混在してしまいました。
結局、まとまり切れないまま、デモの最大限要求として5大要求となってしまったわけです。

運動は右肩上がりで永遠に続くものではなく、必ず爆発・停滞・鎮静化の循環を辿ります。
しかし運動は盛り上がっている時期には急進的な主張が力を占めます。
ですから本来は押したり引いたりして前に進まねばならないにもかかわらず、香港の民主化デモは前へ前へという一本調子でここまできてしまいました。

必ず運動は一種のエネルギー体である以上、いつか必ず衰退するのは避けられない宿命です。
であるが故に、いまだ運動が力強く、しかも北京政府が国慶節という人質をとられている状況の時に、運動の果実をもぎとって置かねばなりません。
この時期に行政長官辞任と新たな普通選挙による選出という枠組みをしっかりと獲得しておくことが大事だと、私は老婆心ながら考えます。
あとの逮捕者の赦免などは、今後の力関係でどうにでもなるものであって、今、真正面に掲げるべきなのかどうか疑問です。
今はラムの辞任とワンセットで、警官の暴力の検証と謝罪・補償という成果を得て、いったん終息を計るべです。
香港の民主化運動の皆さん、多くを望むとすべてを失いますよ。

それはさておき、かくして今回の移送法反対運動は、100万人規模のデモが毎週のように続く前代未聞の大爆発を遂げながらも、一つの頭を持たない不定形のアメーバーのようなエネルギー体へと成長したわけです。
これは既成左翼政党や労組に指導され、資金を提供されていた韓国の「ろうそくデモ」とは、本質的に別次元のものです。

さてここでラムが間違ったのは、香港の民主派が英仏を手本にしたのはSNSを利用することくらいで、彼らの暴動型デモなどではなかったことです。
香港民主派のモデルは、明らかに同じ中国の圧力と戦っている台湾の「ひまわり運動」でした。

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「台湾の民衆はひまわり学生運動を強固に支援し、医療チームなどを組織し外国語に堪能な人は翻訳チームも組織し、外国メディアに忽ちにして翻訳文を交付、義援金は遠く海外からも集まっていた。
支援集会には50万人があつまるという民衆のうねりを目にして、馬英九政権は平穏な解決を目指した。
このスタイルが、二年後の2016年に香港に伝播し、あの「雨傘革命」に繋がったのだった」(宮崎前掲)

ラムは、香港の民主化デモを英仏と同じような暴動タイプに求めてしまったために、暴力的に弾圧して大量逮捕すれば鎮静できるという誤った方針を導き出してしまいました。
本来ラムが鎮静化のモデルとするべきは、「ひまわり運動」時の台湾政府の取った方法でした。
すなわち、暴力的弾圧を捨て、法案を撤回することで妥協を図り、自然鎮静するのを末べきでした。

しかし愚かにもラムは、中国弁護公室の言うがままに、警備責任者を香港警察で最も凶暴な人物に替え、彼に文字どおり血の弾圧をさせることで乗り切ろうとしました。
それが昨日の記事で見た結果です。
香港警察は市民の支持を失い、ラムは孤立しました。
多くの香港市民はこの香港警察の狂態を見て、彼らが暴力をみさかいなく振るうおそるべき集団と見なし、自らもデモに参加するようになって行ったのです。

 

2019年9月 6日 (金)

Freedom HKG !

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香港は絶対に勝たねばならない戦いです。
なぜなら、民主派が勝たねば、その後に来るのは血の弾圧とウィグルのような超監視社会が到来するからです。
ここが自由主義国の反政府運動一般と香港民主化運動が決定的に異なる点です。

ムン・ジェイン政権を作った「ろうそくデモ」に歓喜し、これこそが民主主義だと叫び、現地にまで応援に行ったような日本のリベラルは、どうして沈黙しているのでしょうか。
なぜならいま、香港で戦われている戦いは、他ならぬ彼らが常日頃至上の価値の如く言っていた基本的人権を防衛する戦いだからです。

思えば香港市民が求めているのは、ほんとうにつましい権利です。
たとえばそれは紙に書かれているような崇高で抽象的なことではなく、自由に集会示威行進をする権利、不当に警察に逮捕されたり、警棒で乱打されない権利、拳銃で撃たれない権利、催涙弾で失明しない権利なのです。 

周庭氏によれば、このわずか3か月で自殺者8人、失明3人、親北京派のナイフによる襲撃で重傷者2人、逮捕者1000人超、起訴100人超、負傷者無数だといわれています。
周庭 Agnes Chow Ting (@chowtingagnes) | Twitter

警官の暴行はスマホで撮影され、直ちに世界に配信されて、ほぼリアルタイムで見ることができます。
ウィグルやチベットならばとうに中国政府は治安軍を投入し戒厳令を敷いたことでしょう。
しかし、香港には今だ自由の旗が翻っています。
警官の暴力も即座にSNSで世界に拡散します。
世界の眼こそが民主派の最大の武器なのです。

 

警官の暴力は今や統制が効かなくなっています。
警官は警棒を抜き、催涙弾を発射し、時には拳銃すら抜きます。
警棒を安易に抜くこと自体が日本ではありえないことですが、あろうことか香港警察はデモ隊の頭部を狙って打ちすえています。
しかもかつての日本のように過激派相手ではなく、デモから帰宅しようとしているなんの罪科のない一般市民に対してです。

下の写真は地下鉄構内で起きた警官隊による無差別暴行事件です。
これは犯罪です。警官の衣を着た暴力団です。

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ぜひ彼らの度はずれた暴虐ぶりをユーチューブでご覧頂きたいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=wxT6zp_HWSQ

「香港警察の治安部隊と機動隊は8月31日夜10時半ごろ、抗議者を拘束するために、香港地下鉄の旺角駅や太子駅などに入った。立場新聞などによると、太子駅の構内に止まっている電車内に進入した警官隊は、警棒で乗客らの頭を狙って殴打した。また電車の外にいる警官らは、乗客に催涙スプレーを噴射した。警官からの突然の襲撃に、市民らは悲鳴を上げた。頭から血を流す負傷者もみられた。同駅構内で、10人以上の市民が拘束された」(大紀元2019年9月2日 )
https://news.livedoor.com/article/detail/17020379/

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すなわち香港が求めているのは、一般的な自由ではなく、人が人してとして自由に生きるための最低限の権利であって、それは自由主義社会の「空気」のようなものです。
この「空気」を奪おうとしているのが香港行政府であり、それを命じているのは中国政府です。
この戦いに対して私たち自由主義社会の市民が座視するなら、それは享受している自由が与えられたものでしかないことを白状しているようなものです。
自由とは、香港市民のようにもぎ取るもの、自由に生きていく権利を絶対に手放さないことを決意した時点から始まるのです。

香港の若者のツイートです。
https://twitter.com/FreedomHKG

The bill was just one of the issues that triggered this Political and Humanitarian crisis.
"Everyone realized that if today students are beaten, tomorrow, anyone can be beaten as well."
法案は、この政治的および人道的危機を引き起こした問題の1つにすぎません。
「誰もが、今日の生徒が殴られれば、明日は誰もが殴られててもよいことに気づきました。」

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Secondary students singing "Do You Hear The People Sing" instead of the Chinese national anthem during the school Inauguration ceremony. They remained silent when the school anthem was played & chanted slogans afterwards.
学校の就任式で、中国の国歌の代わりに「Do You Hear The People Sing」(※レ・ミゼラブル「民衆の歌」)を歌う中学生。 学校の歌が演奏され、その後スローガンが唱えられたとき、彼らは黙ったままでした。

Do You Hear The People Sing

Do you hear the people sing?
Singing a song of angry men?
It is the music of a people
Who will not be slaves again!
When the beating of your heart
Echoes the beating of the drums
There is a life about to start
When tomorrow comes!


民衆の歌が聞こえるか?
怒れる者たちの歌う声が
それは民衆の歌う歌
二度と奴隷にはならぬ者の歌
胸の鼓動が
太鼓の響きと重なって
明日が来れば
新たな暮らしが始まるのだ

いま、この歌を歌う権利を持つ者は、香港市民だけです。
https://search.yahoo.co.jp/video/search?rkf=2&ei=UTF-8&dd=1&p=Do+You+Hear+The+People+Sing&st=youtube

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さて、いま香港における民主化闘争は厳しい局面を迎えています。
行政当局は融和のエサを投げています。
キャリー・ラム(林鄭月娥) が昨日の記者会見で受けた質問です。

「また香港公共放送RTHKの記者は「市民の恐怖心を払拭するため、政治的責任はいつ取るつもりですか。いつになれば進んで辞任するのですか。いつになれば警察を制止するのですか」と詰め寄った」(AFP8月13日上写真も同じ)
https://www.afpbb.com/articles/-/3239740

この記者の質問のように、今や焦点は法案撤回などにはなく、行政長官の責任の取り方とその後の新長官の選出方法に移っています。
行政長官が辞めねばならないのは、あまりにも当然のこと。
キャリー・ラムはその非道と無能の報いを受けるべきです。
しかしただ辞めるだけではなく、このような大量の警察の暴力によって大量の負傷者を出したことについて、誰がどのような責任を取るのかを明らかにしてから辞めねばなりません。

そのために第三者検証機関による実態の解明が図られるべきで、警官隊暴行事件について、①命令下された経過と責任の所在、②現場責任者、③現場警官の状況、③暴行状況、④被害者状況、⑤責任者及び実行者の処罰など多方面から香港政府の政治責任は問われねばなりません。
その検証機関を、ラム行政長官は責任をもって設置すべきです。

また、自らの辞任の後の行政長官をどのようにして選出するのかについて、その枠組みを作らねばなりません。
今までのように長官職が中国政府が指名する人物しかなれないのではなく、普通選挙によって公正に民主的に選出されねばなりません。

「行政長官は選挙委員会による間接選挙によって選出されるが、任命するのは国務院中央政府の行政府)である。そのため、香港政府について理解するには、国務院など中央政府との関係を理解する必要もある」
香港特別行政区政府 - Wikipedia
港政府トップの行政長官は現在、1200人からなる選挙委員会で選出される。この人数は有権者の6%に過ぎず、その構成はもっぱら中国政府寄りだ。
立法会の70議員全員が香港の有権者に直接選ばれているというわけではない。議席の大部分は、親中派の議員が占めている。有権者によって選ばれた議員の中には、忠誠の誓い(「中華人民共和国香港特別行政区への忠誠」というもの)を正しく述べることを拒否したり、「香港は中国ではない」と書かれた旗を掲げたりしたことで、議員資格を剥奪された者もいる」(BBCニュース )

民主化デモは5つの要求を持っていますが、この中で移送法撤回と並ぶ重要さがあるのは、この行政長官の普通選挙の実施です。
これが保証されないかぎり、今後もまた香港政府は、中国政府の命じるままに一国二制度を定めた香港基本法を破壊する法案をなんどでも出してくることでしょう。
この繰り返しを断つには、まずは行政長官の民主的選挙を確立せねばなりません。

あれやこれや要求する段階は過ぎました。
5つの要求を並列するのではなく、行政長官の普通選挙を高々と掲げて勝ち取るべきです。

Freedom HKG !

 

2019年9月 5日 (木)

ラム行政長官、白旗を半分掲げる

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昨夜また香港から大きなニュースが飛び込んできました。
キャリーラム(林鄭月娥)行政長官が白旗を掲げたのです。ただし、半分だけですが。

「香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は4日、「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回したと発表した。姿勢を転換させて長引く混乱を収拾したい考えだが、混乱緩和に役立っても終止符を打つには至らない可能性がある。
長官はこの日、香港の議員や中国立法府の香港代表など体制側の政治家との会合の後にテレビ演説し、撤回を表明した。政府の行動について独立調査を行うとも述べ、抗議参加者に対する警察の対応を検証することもあらためて約束した。一方、一部のデモ参加者に対する暴動罪での起訴取り下げなど他の要求は受け入れられないと言明した」(ブルームバーク9月4日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-04/PXAMYM6K50XY01

ここでラムが言っていることは
①移送条例(逃亡犯条例)は完全撤回する。
②行政府と警察の行動は検証する。
③暴動罪は取り下げない。

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ブルームバーク前掲

このラムの言っている法案撤回という妥協線は、かねてからリークれており、おそらく近々公表するだろうと思われていた線です。
いわゆるToo Little, Too Late です。遅すぎて、小さすぎます。

ラムはあれだけ周囲に辞めたいと言ってきたのですから、せめて辞任するていどのことは言うべきでした。
おそらくラムはこの撤回案を習に打診しているはずですが(というか勝手に言えるはずがありませんから)、拒否されたのだと思われます。
もはやラムは中国政府にとって政治的アイコンとなっており、彼女の気持とは無縁な力学で香港情勢は回転しています。

おそらく中国政府は国慶節を目前にして、このようなシナリオを考えているはずです。

①まずラムに移送法案撤回を言わせて、デモの穏健派をなだめてみせ、中国が融和に乗り出したと思わせて鎮静化させる。
②こうして穏健派と急進派が分離を開始したら、急進的な部分に対しては容赦ない警察の暴力で黙らせ、逮捕すれば重罪適用する。
③国慶節と一帯一路サミットといった重大イベントが終わって、なお民主化デモが燃え盛るなら「緊急法」を使って戒厳令を敷き、民主派を実力で一掃する。
④ほとぼりの冷めたところで、別の名称で移送法を親中派議員に再度提案させ、中国支配を安定させる。

ラムが言う収拾をしたいのなら、同じ法案撤回を遅くとも7月中に出しておけば、こんなことにならなかったはずでした。
「もう廃案になった」などと意味不明のことを言っていた時が引き際でした。
あの時期に一挙に法案完全撤回してしまえば、香港市民はいまのように「その先」を見ずに、本案の枠内で終わったのです。

しかし、優柔不断の習が決断がつかないまま事態はみるみるうちに進行してしまい、民主化デモは驚くべきことに100万人単位の規模を維持してしまいました。
香港市民はほんとうの敵はラムや法案ごときではなく、中国政府の独裁体制そのものにあることを知って知ってしまったのです。

民主派が単なる法案撤回から、「その先」にある逮捕者に対する恩赦・行政長官や立法府の自由選挙、そして香港独立まで視野に入れた段階になって、今さら移送法案撤回なんて言い出しても、無意味とまではいいませんが、鎮静効果は望めないでしょう。
こんな時期になって、最高責任者にぼやかれても、困るのです。

「「過去2カ月に起きたことは香港の人々に衝撃を与え悲しませた。われわれは皆、香港のことを心配し、現在の行き詰まり状態と不安な時期を脱する方法を見つけたいと望んでいる」と長官は語った」(ブルームバーク前掲)

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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49270160R30C1...

では、これで収拾されるでしょうか。もちろんノーです。

「改正案の正式撤回を受けて抗議が収束するかどうかはまだ分からない。正式撤回は活動家らが掲げる5つの主要な要求の1つにすぎない。要求はほかに、警察の暴力に対する独立機関の調査や逮捕者に対する恩赦、普通選挙の実施などがある。
  民主派の議員、クローディア・モー氏は長官の発表後の会見で「長官の譲歩は小さ過ぎ、遅過ぎだ。ダメージはすでに生じた。香港の傷口からはまだ血が流れている」と述べた。民主化活動家らのオンラインフォーラムで抗議行動を組織するのにも使われるLIHKGでは、「5つの要求のうち2つに応じると言う。受け入れられるか?」との書き込みに、15分未満の間に415の否定の反応があった」(ブルームバーク前掲)

民主化デモの5要求はこのようなものです。

① 改正案の完全撤回
② 行政府のデモを「暴動」とする見解の撤回
③ デモ参加者の逮捕、起訴の撤回と釈放
④ 香港警察の暴力の中止と調査・責任追及
⑤ キャリーラム行政長官の辞任と、長官選挙の民主的実現

今回ラムが呑んだのは①のみで、④は検証するとだけ言っていますが、その方法も期日も明らかにされていません。
たぶんお手盛りのメンツでテキトーなものをでっち上げてお茶を濁すのが中国流です。

特に重要なのは⑤のラムが辞めた後のことです。(彼女は辞めざるをえないでしょうから)
自由、かつ民主的選挙の実施による行政長官選挙が、実施されるか否かが最大の焦点となります。
これが保証されない限り、なんどでも同じことは繰り返されるわけですから。

もちろん中国政府は自由選挙を認めることは、共産党支配を否定することと同義語だと考えています。
絶対に認めないでしょう。
したがって、ここが真の正念場になります。

次の土曜と日曜日は、ラムの辞任と警察暴力の謝罪、逮捕者の解放、そして自由選挙を求めて再び数百万のデモが香港に溢れることでしょう。

今や香港は中国共産党にとって「第2のウィグル」と化しつつあります。

 

2019年9月 4日 (水)

追い詰められた習とラムの最後の目論見とは

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韓国のドタバタのおかげで、香港にふれられませんでした。
自分で自分の尻尾を追いかけてグルグル回っているんですから、こりゃ永久運動になるわな。

まぁ私たち日本人としては、いつまでもひとりで勝手にやってろと思ったほうがいいんじゃありませんか。

さて、韓国なんぞより大事なのは香港です。
一帯一路サミットと国慶節を直前にして、時間が圧縮されています。
いくつかの動きがでています。

キャリー・ラム行政長官に動きが出しました。
ひとつはラムが辞めたいと言っている音声が出たようですが、この時期に辞めたら中国が妥協したととられますから、そんなことを中国が許すはずがありません。
たぶんラムは自由香港の人間として良心に恥じるのでしょうが、ここまでこじらせた責任の半分はこの人にあります。
今、そんなことを言うこと自体がアリバイ作りであって、ほんとうに謝罪したいなら、習にたてつけとまで望みませんから、せめて配下の香港警察の暴力をやめさせるくらいしてください。
辞めるのはそれからです。

またYahoo! ニュースは「中国態度を軟化か」というタイトルを配信していますが、習に妥協策が打てればたいしたもの。
そんな芸当ができないような硬直した男だから、長老にはいじめられるわ、デモは押さえられないわ、国慶節まで1カ月を切るわで苦しんでいるんでしょうに。
配信記事をよく読んでみましょう。

「 中国政府は香港の抗議参加者らへの論調を和らげ、平和的なデモ集会は法の下で認められていると言明した。一方で、混乱の引き金となった直接民主制への要求は却下した。
3日北京での記者会見で、香港を担当する中国当局者らは、火炎瓶を投げるなどして警察と衝突する暴力的な抗議者と、平和的に市内を行進した一般の人々の区別を明確にした。また、林鄭月娥キャリー・ラム行政長官への支持を表明し必要ならば緊急法を発動できると述べるとともに、経済支援も約束した」(ブルームバーグ9月3日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-07962465-bloom_st-bus_all


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なにが「軟化」なもんですか。真逆です。ミスリードしないでいただきたい。
「経済支援を約束」ですって、バカバカしい。
いままでさんざんぱら香港から甘い汁を吸ってきたのは、どこの国だったのでしょうかね。

ここで中国政府(中国国務院香港・マカオ事務弁公室)が言っていることは、民主化デモの分断にすぎません。
揚報道官が、「学生や生徒を含め多くの香港市民は平和的にデモに参加した。法を破り暴力的な犯罪を行った」と言っていますが、
9割以上の穏健な市民デモについてはどうかといえば、先日31日のデモ申請が不許可になったように、やはりダメでなのです。
もっとも香港人たちは、「散歩」と称して大量に街頭を歩き回りましたがね。

それどころか、民主化デモの中心メンバーをどんどんと逮捕しています。

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「黄之鋒、周庭(アグネス・チョウ)らアイコン的二人のほか、主席の林朗彦も拘束された。黄之鋒と周庭は、6月21日の警察本部を取り囲むデモに参加したことなどについて、「批准されていない非合法デモに参加するよう大衆を扇動した」「批准されていないデモを組織した」「明らかに批准されていないでもに参加した」などの容疑が賭けられているという。
黄之鋒は2014年の雨傘運動のリーダーの一人であり、雨傘運動に参与したことで今年2か月服役し6月17日に模範囚として予定より早く出所したばかりだった。
また香港大学学生会会長の孫暁嵐が7月1日の立法会突入、占拠とその際の破壊行為の容疑で逮捕された」
(福島香織の中国趣聞 NO.31:香港の自由のために;豚肉高騰問題)

上の写真がアクネス・チョウ(周庭)です。日本語はペラペラで、民主化運動のスポークスウーマンとしてよく来日して訴えています。
中国政府の代弁者をやっているアグネス・チャンとの新旧アグネス対決を見たいもんです。
彼女はデモではなく、ただ歩いているところを逮捕されました。世界から強い批判を浴びて、今は釈放されたとのこと、よかったですね。

この中国政府が言っていることを裏返せば、急進的な部分に対しては今まで以上に容赦ない暴力的弾圧を加えて全員牢獄に叩き込んでやる、移送法が出来ればお前らはまとめて大陸の収容所送りだ、と言っているだけのことです。
その言い訳に火炎瓶などを持ち出しているにすぎません。

むしろここで重要なのは、キャリー・ラム(林鄭月娥) 行政長官が、8月27日の記者会見で香港法令で定められている暴動など非常時などに対応のために緊急的に制定できる「緊急法」(緊急状況規則条例)の立法すると言い出したことです。
この緊急法は、香港法令241条を基にして、「緊急状況がみとめられるとき行政長官および行政会議が立法会をへずに制定できる法律で、行政長官と行政会議が、公衆利益に合致すると判断すれば、いかなる規則を設けることもできる」という条項です。

ここで問題なのは三つあります。
ひとつはこの緊急法の立法主体が、民主派デモが自由選挙を要求していることでもわかるように、中国政府が指名した議員しかなれない仕組みで選ばれたのがこの行政長官と行政会議だということです。
したがって、中国政府の操り人形たちが作るようなものということです。

二つ目は、緊急法は「いかなる規則も設けられる」という恐るべき表現をもった条項で、これを恣意的に解釈すれば戒厳令ですら敷くことが可能となります。
事実、ラムは
記者から緊急法立法について質問されると「暴乱を押さえるためならいかなる手段も取りうる」と言い放っています。

「(緊急法は)具体的には、移動の制限、財産の没収、通信の遮断、逮捕、拘束、駆逐などに関する新たな規則を作ることができる」(福島前掲)

この緊急法が実施された場合、戒厳令期間中においては市民的自由は完全に剥奪され、当局による恣意的な逮捕監禁、そして大陸への移送が可能となるでしょう。
いわば移送法の先どりです。

三つ目に、揚報道官は笑止にも一国二制度を否定するとのたまうています。よく言うよ、です。

「中国国務院香港・マカオ事務弁公室の楊光報道官は、「学生や生徒を含め多くの香港市民は平和的にデモに参加した。法を破り暴力的な犯罪を行い、『一国二制度』の根底を否定しようとする人々とは全く違う」と語った」(ブルームバーク前掲)

一国二制度を移送法(犯人引き渡し条例)によって根底から覆そうとしているのが他ならぬ中国政府であることは世界中が知っています。
知らされていないのは中国国民だけです。それをシャラとして民主化デモが一国二制度を否定しようとしているとは、どの口でいうのでしょうか

改めて確認するまでもないでしょうが、民主化デモが要求しているのは、英国統治下で保証されていた集会・結社・言論・示威の自由といった基本的人権を守れということです。
中国が、定められた半分にも満たない期間で、なし崩し的に骨抜きにし、とうとう香港の司法の独立にまで毒牙にかけようとしたから、香港市民は怒ったのです。
 

現在、民主化デモは50年間の一国二制度期間が終了する前に、香港で自らの未来を決定する投票をすべきだという議論がでてきています。
それはそうでしょう。仮に50年間立ったとしましょう。
中国政府は香港市民にきっとこう言うにちがいありません。

さぁ明日から香港市民諸君は栄えあるわが中国人民共和国の正式な一員となった(万雷の拍手)。
え、なになに選挙?自由選挙という言葉はわが国の辞書にはない。
デモをしたい?何、言っているか。許されるのは、官許デモだけだ。
結社の自由だって?ふざけるのもいい加減にしろ。共産党以外全部禁止に決まっているだろう。
通信の自由?ふざけるな。すべて当局の監視下に置き、不穏なものについては発信者を逮捕する。
言論の自由?はは、何それ?

こういう香港の未来が見えているから、その時代を生きねばならない青年たちを中心にして民主化デモが起きたのです。
そしてその延長上に出るべくして出たのが、「香港独立論」です。
今、この時期に出すべき要求としてふさわしいかどうかは別にして、私は当然の要求であると思います。

全人代で香港暴乱規定を出すことが出来なかった習近平は、ラムに対して10月1日の国慶節までになにがなんでも鎮静化しろと厳命したと言われています。
習は国慶節前の治安軍投入は避けたいと思っているはずです。だからそれに代わる香港が独自判断で発動できる「緊急法」を使いたいと考えています。
これに必要なのは「法を破った暴力的な犯罪」行為です。つまり火炎瓶を投げたり、バリケードに火をつけたりするような逸脱した行為です。

「BBCによれば、市民の平和的「散歩」が行われる一方で、数百人規模の(ある程度の暴力容認派)勇武派デモが立法会や政府総部の周辺を包囲、警官との衝突のさいに、火炎瓶を投げ、投石し、バリケードに火をつけたりするなどした。(略)
一方、湾仔付近で香港警察の標準装備である拳銃Glock 17を腰につけた私服男性が火炎瓶を投げている様子が目撃され写真も撮られており、私服警察がデモ隊に紛れ込んでデモの激化を内側から扇動しているのではないかと疑われている。
現地からの情報では、この“ニセ警官”の投げた火炎瓶は延焼しなかったという。メディアが報じている湾仔などのバリケードの放火は、デモ隊が警察の攻撃をかわすために、行ったという」(福島前掲)

このように投げられた火炎瓶は、ことごとく警官隊の手前の路上で炎上しており、本気で投げたのではなく「ある目的」をもって投げたと推測できます。
それは中国による自作自演の狂言です。
事実火炎瓶を投げる男の腰には、警官が使用しているクロック17拳銃が納まっていました。

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このように自作自演で過激デモを演出し、それを理由に「緊急法」を発動する。
そしてそれを戒厳令につなげる。
これが追い詰められた習とラムの最後の目論見です。

 

2019年9月 3日 (火)

ムン様、ヤケのヤンパチ

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また韓国かとおもわれるでしょうが、申し訳ない、ムン様がヤケのヤンパチになられてしまったので書かないわけにはいかなくなりました。

ムン・ジェインは中央突破するようです。

びっくりしたことには、「懐刀」とか「ムンの紅衛兵」といわれた民情首席秘書官のチョ・グク(曺国 ) が居直ってしまいました。
私はここで世論と妥協すると思っていたのですので驚きました。
なんせ廃棄する予定がなかったGSOMIAを突如2日前になって無理筋で廃棄したのも、このチョに対する矛先を日本に向けさせる思惑があったと言われていますから、いかにチョの司法相就任をムン閣下が重視していたのか、知れようというものです。
ちなみに、ムン様はチョを大統領首席補佐官に据えて、自分の後継にする心づもりだったようです。
自分もかつてノムヒョンの時に同じようなポジションでしたからね。

さていまや国民から、「タマネギ男」の愛称を奉られてしまって、チョには次から次に疑惑が湧いて出る始末です。
正直、どうでもいい気分ですが、おなじように側近のスキャンダルで牢獄暮らしをしているパククネの側近チェ・スンシルと比較してみましょう。
今日はやや週刊誌風になるのでお許しを。

  • チェ・スンシルの娘→乗馬のアジア大会で金メダルも取得の実力と言われていたが、名門梨花女子大に不正入学。
  • チョグク氏の娘→高校生でわずか2週間のインターンで実験論文筆頭執筆者となり、名門高麗大学に無試験入学。

韓国の学歴社会は文句なく世界一で、どこの大学を出たかで一生が決定されます。
出身大学でその後の全人生が決定されてしまいますから、親子共々命をかけているようです。
一流大学に入ればめでたく財閥企業に就職してエリートに、もっと優秀で親が金持ちなら米国留学で帰国せず、さもなければ若年層の3割と言われる失業者の仲間入りというわけです。

ですから、幼児の時から猛特訓に励み、めざせソウル大、行け高麗大、梨花大一直線、といった受験養成ギブスで固めた思春期をすごさせられるんですからたまりません。

だからこそ有力者の子弟だから無試験で入ったなんて許せない、社会的に制裁しろ、という国民感情が爆発したようです。

裏口入学されたほうの高麗大の連中もおさまりません。
在校生はもちろん、卒業生まで飛び込んできて大規模な糾弾集会があったようです。

慌てた大学当局は「ほんとうなら入学を取消しますから」と言ったといいますが、もう卒業しているんですが。

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https://ameblo.jp/sapporo-mmm/entry-12510820431.html

この怒りは父親の出身大学超名門ソウル大(ちなみに日本が作った大学なんで、「積弊払拭」で廃校にしてね)にも飛び火して、こちらでも大規模集会が開かれたそうです。

ついで、チョの娘が大学時代の成績が悪いのに、2回落第して6回奨学金をもらっていたというので、更に大炎上。
奨学金というのは、学力優秀か、さもなくば貧しくて向学心がある者に与えられるのですが、
パパ、大金持ちだもん、豪邸住んでいるもん、ポルシェ乗っているもん、ということのようです
もうこのへんになると勝手にやってくれというかんじですが、従来の保守層だけではなく「ろうそくデモ」の主役だった青年層にも反ムンの火の手が移ったかもしれません。

チョ・グクはバリバリの主体思想派で、北朝鮮への信仰心を隠そうともしていませんでした。
まぁ、日本にもよくいる田園調布左翼なんでしょうね。
ただチョの場合、かつて「我が家は必要ない、奨学金は苦しい人に分配されるべき」「奨学金は成績よりも経済状況を中心に考えなければいけない」なんてキレイゴトを書いていましたし、このような不正を摘発するのが彼の職務ですから、いかがなものかということになります。

そもそもパククネを牢獄に落とした原因となった側近チェ・ソンシルの娘チョン・ユラの不正入学を、これでもかと糾弾し、学歴社会も気持ちよく批判していたのが他ならぬこのチョでしたから、シャレになりませんやね。
これを揶揄して、韓国社会で言われたのが「チョロナンブル」(自分がすればロマンス、他人がすれば不倫)でした。
ま、日本でもよくヒダリの人がやるダブスタですね。

その上に、今度は息子のほうの 徴兵 逃亡疑惑がでてきてしまいました。
このチョ・ウォンという息子は5回連続で 徴兵 を忌避しています。いや6回だろうと世論はかしましいこと。

そりゃそうです。青年期という1年も惜しい年代に28歳までに2年間も徴兵に取られるんですから、たまったもんじゃありません。

先進国はおしなべて志願制になっていますが、韓国は対北との関係からいまだに徴兵制をとっています。

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しかも韓国軍は、かつての帝国陸軍教育を受けた連中が作ったために、旧軍以上のいじめとしごきの巣窟だと言われていて、年中行事のように自殺者や営内乱射事件を起こしています。
オリンピックでメダルを取ると徴兵免除をもらえると言われていますから、いかに若者にとって徴兵が重荷なのか分かります。
それを有力者の息子だからといって5回逃げたんですから、若者が怒るまいことか。

またこの息子は既に30近いのですが、いまだ国籍選択をしておらず二重国籍のままです。
ということは、いざというときには米国籍に切り換えて国外逃亡も可能ということになりますから、今は海外渡航禁止措置がとられているようです。

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チョ・グクと ムンジェイン https://www.fnn.jp/posts/00047969HDK/201908291700_...

というわけで、全身疑惑のタマネギの皮まみれとなったチョ・グク(曺国 ) が記者会見をしましたが、これが定められた議会の聴聞会の代わりということのようです。
聴聞会なしでも法的にはいいことはいいようですが、これだけ疑惑が湧いて出て、なにひとつ具体的釈明もなしに法務大臣就任はさすがにないでしょう、とはひとごとながら思いますね。
日本だったら国会前がヤメロコールで大変な賑わいとなって、下手すると内閣がひとつ飛びます。

このお二人は法曹出身で、ことのほか民主的ルールにはうるさいと思ったのですが、逆でしたね。
こともあろうに疑惑の中心人物を、司法相にしちゃうんですから、こりゃ泥棒が縄をなうのたとえどおりです。
先だって司法の手入れを受けたばかりの人物が、自分の上司となるんですから検察もたまらないでしょうな。
ま、これで死なばもろとも、というわけです。

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ユン・ソクユル https://www.fnn.jp/posts/00047969HDK/201908291700

後は検事総長のユン・ソクユル(尹錫悦)のやる気次第ですが、かつてのようにパククネに反骨を見せたようにいくかどうか。
呼び戻したのが他ならぬムン様ですからね。あまり期待しないほうがいいでしょう。

今後ですが、中央突破してしまった以上、妥協の道を自分で塞いでしまったことなりますから、仮にムン様がお辞めになるときはパククネのように政治裁判で有罪・牢獄行き確定、というルートが決定しました。

かくてムン様の支持率はうなぎ下がり。とうとう不支持が5割を超えて、まだまだ上昇する勢いのようです。

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ハフィントンポスト

これで、いっそうムン様は、国民の眼を逸らせるべく反日反米に励むことになり、いっそう四面楚歌の墓穴を深く掘ることになっていくことになるでしょう。
ああ、うっとおしいこと。じぶんの国だけのことにしておいてくれと心から思います。

 

 

 

2019年9月 2日 (月)

李氏朝鮮に戻ろうとする韓国の宿命

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九州Mさんからこのようなコメントを頂戴していますので、ここからいきます。

「現段階での日本のとるべき戦略は「韓国をしっかり北朝鮮サイドに追い込むこと」だと思います。そうして、国際的に分かりやすい日本と朝鮮半島との構図を作ればいいのです。ムン大統領はこれに、とてもふさわしい相手だと思います。そうすれば、いかようにも料理できます。衆目前に、朝鮮半島丸ごと。
向こう100年ほど見れば、今、中途半端なことはすべきでないと思います。「敗戦国としての日本」から切り替わる、最大のチャンスのような気がするのです。戦争の汚名返上にはそれなりの覚悟が必要と思います」

おそらく九州Mさんが言うように、朝鮮半島には一つになろうとするベクトルが働いています。
それは否定できません。
ただし、ムンにはその力はないし、彼の性急な南北融和路線は、肝心の北朝鮮から鼻であしらわれています。

正恩が欲しいのは、一定の核を保有したまま経済制裁から逃れることであって、せいぜいが開城工業団地の再開か金剛山開発程度であって、いまはそんな戯れ言につきあうほどのんきではありません。
正恩にとって祖父の遺言は重荷であって、小なりといえどカッチリとまとまった金王朝国家を強くするていどが目標にすぎません。
自由選挙があたりまえで、なにかというと街頭に走り出て旗を振り回してデモをするような「ブルジョワ自由主義」にかぶれた南の連中を統治下に置きたいなどとは望んでいないでしょう。

北朝鮮が「南北融和」を望んでいないことについて、楽韓さんが面白い論考を紹介していました。

「首領独裁式経済とは、政治権力が経済制度と政策、資源配分を一方的に決める体制をいう。独裁体制は経済を発展させるよりも停滞した状態を好む。
なぜなら経済が成長して人民の生活水準が高まれば、政治的な自由を要求することになり、独裁の存続を脅かすからだ。ただ、韓国・日本など周辺国との安保競争のため、人民が政権に挑戦できる潜在力を抑えるレベルでの経済成長を望むということだ。
この論理によると、南北が力を合わせて日本の経済的優位を越えるまで経済が成長することを望む中長期「南北平和経済」構想に北朝鮮政権は同意しないと解釈できる」(中央8月31日)
https://japanese.joins.com/article/144/257144.html

これは統一研究院という政府統一部に属する政府系シンクタンクの論文だそうですが、私もよく言ったと感心しました。
まったくそのとおりで、北にとって至上の価値は金家の独裁維持です。
人民が飢えて死のうと、万年飢餓線上だろうと知ったことではありません。
こういう人民の飢餓を考えないで政権を運営できるという北の異様さがわからないと、北という国がわかりません。

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北にとっての脅威は、「偉大な指導者」とその取り巻きたちの支配が崩れることだけであり、人民を豊かにしてしまえば中間層が生まれ、やがて韓国のようなろうそくデモが自分たち支配階級に牙をむくかもしれません。
だから、中国が勧めた開放改革も頑として拒否してきたのであって、ムン如き愚か者が言う南北統一して、豊かになろうなどというたわごとなど論外なのです。

しかし、それにもかかわらず、朝鮮半島には一つになろうとするベクトルが、宿命的に強く働いていることは事実です。

ではここでいい機会ですから、私たちは朝鮮半島が、日本とはまったく異なった自然条件・地政学的位置にあることを押えておきましょう。
私たちは四方を海という自然要害に囲まれている国土を前提にして考えてしまいますが、置かれた地理的条件で民族性や国家の有り様までもが異なったものなります。

さて「朝鮮半島」というひとつの概念でくくられた時代は、近代・現代では李氏朝鮮と日本統治時代しか存在しません。
それ以外の時代において、朝鮮半島は分裂した状態が常態でした。
朝鮮民族は常に分裂し、内部での闘争にその大きなエネルギーを費やし、その時々で政権内部の各勢力が外国を引き込んで闘争に明け暮れたあげく亡国。
最後には属国化してやっと安定することを繰り返していくわけですが、なぜなのでしょうか?

その理由を宮家邦彦氏は、月刊「文春」9月号『徴用工裁判は李氏朝鮮への回帰である』の中でこう述べています。

「朝鮮半島はユーラシア大陸の東端に位置し、周辺を中国・ロシア・日本という強国に囲まれてきました。また自然要塞がなく、戦略的縦深と呼ばれる地理的厚みに乏しいために、常に外部からの侵略にさらされてきました」(宮家前掲)

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朝鮮半島は、かつて北朝鮮が38度線を超えて侵攻を開始した時、瞬く間に南端の釜山まで包囲することが可能なほど厚みのない構造です。
これは負ければどんどんと奥地へと逃げることが可能だった広大かつ深い縦深を持つ中国とはまったく違います。
中国大陸では国府軍も南京を追われると重慶に逃げることが可能でしたし、紅軍も追われるとどんどんと奥地の辺境に逃げていくことが可能でした。
こういう地理的条件を縦深が深いと呼びます。
一方、朝鮮半島にはまったく逃げ場がありません。後ろはすぐに玄界灘、東西は険しい山岳地帯で遮られて交通も容易ではありません。
逃げるにしても東の回廊を海まで逃げるか、山岳地帯でゲリラにでもなるしかないわけですから、これほど守るにふさわしくない地形はありません。
いわば伊豆半島を大きくしたようなものです。

このような地理的条件を与えられた朝鮮民族は、どのような民族性を作ってきたのでしょうか。

「地政学的にみて非常に脆弱なこの地域で民族が生き残るには、外国とむやみに戦わず、最も強い国家に取り入ることが最も現実的な選択肢となります。事実、高麗や李氏朝鮮は、歴代中国王朝に朝貢し、冊封体制に組み込まれることで生き残ってきたのです」(宮家前掲)

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中華皇帝に対する朝鮮王の三跪九叩頭の礼

朝鮮はときどきで最も強力なヘゲモニック・ステート(覇権国)の
属国となるのが、気の毒ですが運命づけられていると言ってよいでしょう。2千年の長きに渡って宗主国は中華帝国でした。現代においては日本であり、それが衰退した後には米国の事実上の保護国となり、今に至っています。
中華帝国が完全に版図に組み込まなかったのは、荒廃した土地にうま味がなく、かつその難しい民族性に辟易していたからです。

では、この朝鮮民族の難しい民族性とはなんでしょうか。

「(朝鮮は)中国に完全に飲み込まれないよう、面従腹背するとことも必要でした。朝鮮半島の王朝は、いわば『振り子』のように、周辺の強国の間を行ったり来たりしてがらバランスを取り、生き延びる外交を行ってきたのです」(宮家前掲)

パク・クネが見せた「こうもり外交」、ムン・ジェインが言う「バランサー外交」、あるいは北朝鮮の3代続く金王朝が得意とする「外国を手玉に取る」というと聞えがいいですが、要は強国に対して面従腹背することでサバイバルしようとする外交こそが、伝統的朝鮮半島の外交のあり方なのです。

こういう二国に仕える国のことを両属国家といいます。
日本では琉球王国がそれに入ります。

北朝鮮における金王朝の教条である「主体思想」は、外国に支配されず民族が主体性を持つということを謳ったとされているがゆえに、金日成の抗日闘争伝説(嘘ですが)と並んで、韓国人の根深い北朝鮮コンプレックスの根源となっています。

それはさておき、現代の韓国の地政学的状況はどのようなものでしょうか。

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http://www.kyoritsu-wu.ac.jp/nichukou/sub/sub_gens...

現代朝鮮半島は、北朝鮮の軍事侵攻によって二つに分断されました。
この北朝鮮の侵略は金日成の強引な主張から発したもので、むしろソ連や中国が突き合わされたという「小国がたいこくうせんそうに導く」という珍しい形をとりました。
よく冷戦が引き裂いた朝鮮民族の悲劇といういい方を彼らは好みますが、事実は分断した張本人は金日成です。
とまれこの朝鮮戦争が作り出したのが「1953年体制」で、以後、東アジアの冷戦構造として今に至るも存続しています。

この中で、韓国は米国によって保護され、一方北朝鮮はなんちゃって共産国家の道を歩みました。
日韓基本条約が結ばれたのは、この「1953年体制」が堅牢だったからであって、韓国は地政学的には、従来の半島国家の性質から初めて解放され、海洋勢力(シーパワー)に組み込まれた島国家となりました。
これが以後の韓国の経済発展の背景となります。

韓国は日本から請求権協定に基づいて巨額の資金を供与され(渡された個人請求はぜんぶ経済建設に注ぎ込んだのですが)、米国を盟主とする自由主義陣営の一角で、共産主義の防波堤の役割を果たすことの代償としてここまでの発展をえることができました。

ところが21世紀に入り、世界状況が激変します。
それは、いくつかのことが世界で同時に起きたからです。
ひとつめは、米国が衰退したことで世界秩序が壱奇異に不安定化したことです。
二つめは、グローバル経済のうま味をたっぷりと享受して中国が勃興たことです。
そして三つ目に、その間隙を縫うようにして、北朝鮮もまた核保有を完成しようとしたことです。

「韓国にとって中国は2千年以上も宗主国でした。対等する中国に対し、まずは関係を改善しなければならない。
一方、北朝鮮が核を保有してしまった以上、南北分断の現状を軍事的に解決することは難しくなりました。
東アジアの1953年体制は、崩壊し始めたのです」(宮家前掲)

21世紀初頭において顕著だったのは、この自由主義陣営の衰退でした。
盟主米国は打ち続く中東、アフガンに足をとられて疲弊し、オバマは「世界の警官を辞める」とまで口にするありさまでした。
このような世界秩序のガタつきは、世界各所に現れました。
EUは移民で揺らぎ、ブレグジットで混乱し、ロシアはその隙間を狙うようにウクライナに侵攻し、中国は内陸に支配する部分がなくなったために南シナ海へと大規模な軍事膨張を図りました。
イランは核開発を諦めたわけではなく周辺地域に手を出しています。

このような世界秩序のタガがハズレかかった状況の中で、韓国が選んだのが朝鮮半島のの「主体」を取り戻すということでした。

「韓国も、外交の舵を大きく切りました。このような世界情勢の変化は、韓国から見れば、東アジアにおいて主体性を取り戻すチャンスといえます。
北朝鮮と統一し、再び李氏朝鮮時代の姿に戻って振り子外交を繰り広げ、強国のあいだでバランスをとりながら東アジアで存在感を発揮する、そんなシナリオが現実性を帯びてきたわけです」(宮家前掲)

これがコリアン・ナショナリズムの歴史的に見た姿で、韓国からみればこれが「国益の最大化」ではないかと宮家氏は見ています。
好むと好まざるとにかかわらず、朝鮮半島は一つになろうとしています。

ただし、その時はいまではないでしょう。
くりかえしますがムンにはその力はないし、自分の頭の上のハエをおうことで精一杯です。
北朝鮮も現時点でそれを望んでいるわけではなく、中国も距離を置いています。
したがって、今後米国が韓国にどのように対応していくのか次第で、韓国の未来は決定されます。
米国が韓国を不良資産として切り離せば、ムンに力があろうとなかろうと「統一」の道は近づきます。

その時問題となるのは、どこの核の傘に入るかです。
三つ考えられます。
①中国の核の傘
②北朝鮮の核の傘
③米国の核の傘

私は②の「核を持った統一」は周辺国のどこも望まないために、それを承認しないでしょう。
すると中国か米国かのいずかですが、なんとも言えません。
中国に依存しようとするなら、米国はこれを認めないからです。

このようによく馬鹿なメディアは「日韓関係最悪に」などと言っていますが、ほんとうに重要なのは米韓関係なのです。
だって、いままで日韓関係はA little badだったのが、いまやworstになったってことだけじゃないですか。

わが国にできることは少なく、万が一に備えて玄界灘・対馬ラインに防衛線が下がった状況について考えて手を打っておくこと、1953年体制をできるかぎり守ろうとすること、そのために韓国が日韓基本条約を揺るがせることを許さない、ということくらいです。

 

 

2019年9月 1日 (日)

日曜写真館 天女の羽衣伝説

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ある日、奥間がいつものように森の川に行くと、きれいな女の人が水あびをしていて、近くの木の枝には、見たこともないようなきれいな着物がかけてあった。

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あまりの美しさに奥間は、その着物をそっと取ると家に持って帰って、くらの中にかくしてしまった。

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そして、知らんふりをして森の川にもどると、着物をなくして困(こま)っている女の人に、「どうしたんですか」と声をかけた。

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すると女の人は、「この木の枝にかけておいた私の着物がなくなっているのです」「それなら、私の家はすぐ近くにあるから、いっしょに行きましょう。そしたら着物をかしてあげますよ」と言って、女の人を家に連れて帰って着物をかしてあげたって。

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実は、きれいな女の人は、天女だったのです。着物のように見えたのは、天女の羽衣で、それがなければ天女は天に帰ることができません。

羽衣をなくして、天に帰ることができなくなった天女は、奥間と結婚することにしました。
しばらくすると、天女は二人の子どもを生みました。

ある日、天女が家の中にいると、庭の方で、ないている弟のために姉が子守り歌をうたうのが聞こえてきました。

その子守り歌の中で、なくしたはずの羽衣が、くらの中にかくされていることを知った天女は、「行かないでー、お母さん」とないてお願いする子どもたちに心を残しながらも、天女の羽衣を着て、天に上っていったんだって。
二人の子どものうち、女の子は按司(あじ)の奥さんになり、男の子は察度(さっと)という立派な琉球国の王様になったってさ。

http://rca.open.ed.jp/city-2000/minwa/story7.html

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