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2019年9月21日 (土)

東電刑事訴訟判決

1810-036

東京電力の旧経営陣に対して起こされていた刑事訴訟について、東京地裁の判決がでました。

判決で、東京地方裁判所の永渕健一裁判長は、裁判の大きな争点となった原発事故を引き起こすような巨大津波を予測できたかについて「津波が来る可能性を指摘する意見があることは認識していて、予測できる可能性が全くなかったとは言いがたい。しかし、原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」と指摘しました。
そのうえで、「原発事故の結果は重大で取り返しがつかないことは言うまでもなく、何よりも安全性を最優先し、事故発生の可能性がゼロか限りなくゼロに近くなるように必要な措置を直ちに取ることも社会の選択肢として考えられないわけではない。しかし、当時の法令上の規制や国の審査は、絶対的な安全性の確保までを前提としておらず、3人が東京電力の取締役という責任を伴う立場にあったからといって刑事責任を負うことにはならない」として無罪を言い渡しました」(NHK9月19日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190919/k10012089251000.html

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東京電力の勝俣恒久元会長(79)、武黒一郎元副社長(73)、武藤栄元副社長(69) NHK前掲

争点は、判決文が言う「旧経営陣3人が巨大な津波の発生を予測できる可能性があった」か否かでした。
指定弁護士は、2002年に国が公表した『地震予測の長期評価』を根拠に「福島第一原発に最大 15.7m の津波が来る」との情報を当時の経営陣が2008年3月に報告されていたが、これをあえて無視した、と主張しました。

判決では、この大地震と津波の予見可能性の観点から否定しました。
常識的判断です。
なぜなら、この国の「長期評価」には具体的な根拠がなく、多くの専門家からも疑問視されていたものだからです。

実はこの津波は予見できたとする意見は、繰り返し繰り返し登場してきています。
これは東電処罰論の一角をなす議論でした。
東電処罰論には3ツのパターンがあります。

①予備電源が津波を被る前に地震で破壊されていた。
②地震による
大津波を知りながら、予見して対策を打たなかった。
③東電は職員が事故処理を放棄して撤収した。

③に関しては、朝日が流した真っ赤な嘘八百で、吉田所長証言が出るに至って完全否定されました。
後に朝日は社長の全面謝罪に追い込まれます。
①の原子炉が地震で破壊されたとする説は、政府事故調査報告書で否定されており、規制委員会も事故報告書で正式に否定しています。
地震で壊れたのではなく、あくまでも外部電源がブラックアウトし、予備電源までもが津波で水没し、全交流電源が停止してしまったために起きたのです。

当時官邸で指揮を執っていた菅直人首相がマネージメント能力を喪失していた様は、多くの事故報告書で厳しく批判されています。
また当時官邸に呼ばれていた原子力専門家の斑目氏や、今回起訴されている東電・武黒氏などが、菅氏のパワハラに屈伏してしまったためにまともな助言を出せずに、あろうことか菅氏の言うがままに吉田所長が行っていた原子炉の海水冷却を止めようとすらしました。
ら指揮中枢がまともな指揮を執りさえすれば、水蒸気爆発は避けられ、これほど大規模な事故につながらなかった可能性があります。

最大の事故原因は、非常用予備電源がノーテンキにも平地につけられていたことです。
福島第1原発のジェネラルエレクトリック社製マーク1では、非常用電源が米国と同じ仕様で平地にあったために、外部電源とバックアップディーゼル電源がほぼ同時に破壊されてしまいました。
予備電源が同時に破壊される事態を、東電が予知できたかできなかこそが、真の争点なのです。

これは事故前に強烈に原子力業界を支配していた「空気」である「安全神話」に由来しています。
なにせ、当時福島第1原発の設計段階で「全交流電源喪失という想定外は起こり得ない」と規制機関であるはずの
原子力安全委員会が明言してしまったのですから話になりません。

1990年8月30日、原子力安全委員会が出した文書にこのような文言があります

「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用電源設備の復旧が期待できるので考慮する必要はない」
(「発電用軽水炉型原子炉施設に関する安全設計審査指針」より)

つまり、安全委員会は初めから安全対策を「全交流電源喪失なんてあるわけないから考えなくていい」、と言ってしまっているところから始めているのです。
ちなみにこの指針を作ったのが、当時原子力安全委員会の委員長であり、皮肉にも事故時に官邸で指揮を執っていた斑目氏でした。

外部電源の全ルートが止まる可能性があるということは、当時においても決して絵空事ではなく十分に予見可能だったはずです。
それは先日の千葉大停電時に多くの電柱が倒壊したばかりか50メートルもの鉄塔さえ倒壊したことでわかります。
ならば予備電源ひとつが頼りのはずですが、海岸際にありながら津波の可能性にすら眼をつぶっていたために平場に設置してしまったのです。

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福島第1原発 出典不明

上の写真を見ていただければ、海岸の真ん前にあるのがわかります。
いちおう堤防がありますが、10メートルを超える津波には役にたちませんでした。
下の写真は福島第1の構内に流れ込む津波の様子です。

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出典不明

そしてたちまち設備を水没させて行く様子がわかるのが下の一枚です。

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出典不明

予備電源の水没対策はあきれるほど簡単です。
施設の屋上に持っていき、水密構造にしておけばよかっただけのことです。カネもかからなければ手間も要りません。
改修というのも大げさで、数日の工事で済んでしまうでしょう。
これをしなかった東電経営は強く批判されるべきです。

また、そもそも福島第1は設置地表から15メートル掘り下げて建設されました。
地質が脆かったために岩盤まで掘り下げたいということと、取水・排水が容易となるというのが理由でしたが、仮に通常どおり地表に建設しておけば津波ははるか数十メートル下の崖を洗っただけで済んだはずでした。

同じ津波を浴びた女川原発が高台を削らずにいたために助かり、福島第2は予備電源が水密構造になっていたために助かったことなども考えると、建設用地を15m削って予備電源を水密構造にしなかったのは明らかに津波が来る可能性を甘く想定した判断だと言われても仕方がないでしょう。 

この二つの点において、東電の責任は追求されてしかるべきですが、では、今回裁判で争われた福島第1を襲った10メートルを超える大津波を予見できたかどうか、という地震予知の問題となると、筋違いとしかいいようがありません。

まず、大前提として地震は絶対に予知できると言っている専門家がいるとすれば、その人の言うことには眉に唾をつけたほうがいいでしょう。
ハッキリ言って、東日本大震災を前もって予見できた人など皆無だったし、熊本や北海道地震すら予知できた者は皆無だったのです。
地震が起きた後にしたり顔で地震専門家がどこそこプレートがなんじゃらというのは後知恵にすぎず、起きたから分かったにすぎません。
予見できたというのはただの幻想にすぎません。

元国立極地圏研究所所長の島村英紀氏は著書『地震予知はウソだらけ』の中でこのように述べています。


「地震の予知は短期の天気予報と違う。それは地震は、地下で岩の中に力が蓄えられていって、やがて大地震が起きることを扱える方程式は、まだないからである。つまり天気のように数値的に計算しようがないのである。その上、データも地中のものはなく、地表のものだけである。これでは天気予報なみのことができるはずがない」

このように地震学者の島村氏ですら、予知が不可能と断言しています。
地震予知とはいわば占いの一種のようなものですから、「予知できたはずだ」ということを前提にするのはいいかげんやめたらいかがでしょうか。
まったく建設的ではありません。

しかも、東日本大震災は元地震予知学会会長の島崎邦彦氏が告白するように、地震予知「理論が根本から間違っていた」ような事態でした。
地震学会の常識では、宮城県沖のような「古いプレート」は沈み込まないとされていたからです。
にもかかわらず、大きく沈み込んでマグネチュード9の大地震を引き起こしました。
これを事前に「予知」し得たのは、日本で極めて少数の専門家しかいませんでした。

そのひとりが産業技術総研の活断層・地震研究センターの岡村行信氏で、氏は、佐竹健治氏らの『石巻・仙台平野における869年の貞観津波の数値シミュレーション』を参考にして、マグネチュード8.5クラスの地震が、仙台よりさらに南に、つまり宮城沖まで来る可能性を指摘していました。(※「地震・津波・地質・地盤合同ワーキンググループ」第32回会議・09年6月24日)  

しかし、これをもって地震学会全体が警告を発したかというとまったくそういうことはなく、2011年3月11日午後2時46分の運命の時間まで、誰しも考えもしなかったわけです。 
この岡村氏の説を根拠にして、東電は貞観(じょうがん)地震を知っていながら無視したという批判がなされ、さらに朝日が流した東電撤退論が重なって東電=悪玉論へと肥大化していきます。  

さて、東電は、この貞観地震について無視していたわけではありませんでした。東電の政府事故調への証言によると、東電はこのような津波の調査をしています。 

まず、2006年9月に安全委員会の耐震設計審査指針が改定されました。  
2002年7月の地震調査委員会は、三陸沖から房総沖にかけての日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの地震が起きた場合、福島県沖で10m超の地震津波を想定していました。
東電は福島第1、第2、女川(※女川は東北電力管轄)などの原発に津波が到達する可能性を探るために、現地の地質学調査を実施しています。  

それによると、2009年から10年にかけて、東電は福島県内の5箇所で貞観地震の津波堆積物現実に調査しており、南相馬市で高さ3mの地点では地震による堆積砂が見られたが、4m地点ではなかったために、貞観地震の津波は最大で4m以下と推定されました。  
ちなみに貞観地震を念頭において過去に十数メートルの大津波があったという人もいますが、正しくは4メートルです。

これでわかるように、東電は貞観地震の津波の影響調査をしており、それが数百年のスパンの周期であるために、すぐに対策を立てる必要のある危険とは判断しなかったのです。  
869年に起きた貞観地震の周期は、推定で約1100年という超長期スパンです。  

東電はこれを無視したと言って非難されているわけですが、11世紀スパンの周期ですので、何十年も、時には百年単位の誤差が生じてあたりまえで、30年以内の確率は0.1%でした。 
東電が0.1%の確率を想定していなかったと言って、どうして責められねばならないのでしょうか。

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吉田所長は政府事故調の証言で津波対策についてこう述べています。

「それが10(メートル)だと言われれば10(メートル)でもいいし、13(メートル)なら13(メートル)でもいいんですけれど、こう言う津波が来るよという具体的なモデルと波の形をもらえなければ、何の設計もできないわけです。ちょっとでもというのは、どこがちょっとなのだという話になるわけです」

吉田氏が言うように、津波の「波源の場所、波の高さ、あるいはその形状などが、施設の設計に使えるように具体的にモデル化されていないでは具体的対処をしようがないではないか」、という指摘は企業のリスク管理としては間違っていません。
企業は計量化できる脅威に対して、それを排除するための対策を構築するものだからです。
いつか、どこかに、規模すら不明なものが「来る可能性がある」と言われても、企業としては対処しようがないのです。 

私の結論としては、東電が最善であったかといえば、おそらくノーです。
東電にとって対策の取りようはいくつかあり、それをしなかったのは問題視されるべきです。
しかし津波については、判決の言うとおり「原発の運転を停止する義務を課すほど巨大な津波が来ると予測できる可能性があったとは認められない」のです。

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菅直人首相、枝野幸男官房長官、仙谷由人官房副長官

また、東電旧経営陣が裁かれるのなら、当時官邸にいて事故処理に失敗した菅直人元首相とその側近たちの責任もまた法廷で裁かれるべきでしょう。
 
首相であり対策本部長だった菅首相、官房長官であった枝野氏、所轄の経済産業相だった海江田氏などもまた法廷に召還されるべきです。
ところが誰ひとりとして罪を裁かれることなく、いまは口をぬぐっていち早く反原発に転向して東電を糾弾している姿を見るとなんとも言えない気分になります。

 

 

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コメント

ごく常識的な判決だったと思います。もちろん経営者としての事故の責任があるのは言うまでもありません。しかし、刑事事件として個人を罰するには「故意」又は「重大な過失」が刑法の必要要件ですから、これが証明されねければ無罪になるのは当然のことです。

千葉の台風被害でゴルフ場のネットが倒壊し、近隣の住宅に大きな被害が出ました。しかし、これが天災である以上、同じように「故意」又は「重大な過失」がなければゴルフ場の経営者に、住宅の保障義務はありありません。

福島の原発事故においても、大地震による被害ですので、本来は東電に保障義務はなかったはずです。それでも東電は事故の責任があるとして、住民等への被害保障を“自主的に”しているのではないでしょうか。

それと東電は株式会社という法人です。会社は倒産すればそれでお終いで、経営者や株主も倒産すれば責任関係は終了します。個人においても自己破産すればすべての負債はチャラになります。

東電にも、また水俣病の原因企業であるチッソ(株)にもいえるのですが、会社経営者にとってもっとも簡単なのは、黙って倒産させることでした。

チッソは会社を存続させ、半世紀過ぎた今でもその収益で被害者への償いを続け、また水俣市の経済の中核として貢献しているのです。チッソが倒産していればどうなっていたか、誰にもわかることです。

東電への恨み辛みの気持ちも十分にわかります。しかし、このあたりの基本はしっかりと抑えておく必要があると思います。

今日のTBS報道特集でこの裁判を取り上げるみたいですね。
どのような報道になるのか注視したいと思います。

今日のTBS報道特集でこの裁判を取り上げるみたいですね。
どのような報道になるのか注視したいと思います。

東電の非常用電源設置も上の事後対応もクソでしたが、この判決は妥当だったと思います。世論も怒涛の東電悪玉論に流れることはないようです。

善悪の対象を作り出して糾弾し鉄槌を下す者を止める力が、ほんの少しですが日本に生まれつつあるのでは。
福島の処理水についても、行政や各種団体は勇気を持って国民の理性に訴えかける姿勢をキープして欲しいです。

妥当な判断だと思います。

東電は責任を賠償のカタチであらわしており、これからも企業としての社会的責任や使命を全うしていこうとする姿勢は評価されるべきです。

今回の判決要旨をみる限り、本記事のとおり結局のところ「有罪」を構成するに足りない内容でした。
けれど、(ある人々にとってみれば不足はありましょうが)東電はまず自ら積極的に補償に応じています。

なので、たとえ有罪になったとしても、その過失度合いにもよりますが、まず執行猶予が付くものと考えていました。

私も前々から本日の記事の通り、全電源喪失という笑い
話のような事態が、福島第一原発の事故の第一原因だと
思っていました。大地震や大津波などは、キッカケに過ぎ
ませんわ。根本的なリスク管理が、丸出ダメ夫だったので
す。ちなみに、彼は野比のび太よりもダメな漫画キャラです。

で、一級戦犯がデタラメな経産省のお役人様で、せいぜい
二級戦犯が東電です。東電は矢面に立たされてカワイソウ
です。まあ、事実上の独占企業として暴利を上げて偉そう
にしていたので、叩かれるのは因果応報な部分も強いとは
思いますが・・  事実として、今回の判決の通り無罪なの
は当たり前ですわ。

官民問わず団塊世代以降は、大学入学試験で高得点を取
った者が、給料が良く福利厚生が手厚く年功序列型の組織
に入り、プロパー社員がそのまま経営者になるような社会
構造になりました。これを長く続ければ、旧大本営にクリ
ソツな組織になります。下々の現場に丸投げするので(さら
に下請け孫請けへ丸投げされる)、現場の実状に疎くなり、
突発的なアク・インシデントが起こると、もう当事者能力を
失っているので、勝手にトンチンカンになります。

しかし、建前上はエリートなので「すまん、実はワシ阿保な
んよ、誰か専門家に判断をゆずるわ、ワシは首でええわ」
と引き下がれずに、墓穴を深くしてしまう。

返す返すも、管理人さんの書いているように、電源一つが
生きていれば、なんにもなかった事故です。そのコストは、
現在払いつつあるコストに比較すると、恐ろしく小さくて無視
できる程です。そしてこの事は、この原発事故をもマッチポ
ンピングしている一本抜けた朝口新聞の結果論的ご都合
非難ではなく、現場に精通している真のプロフェッショナル
な管理者がいればごく普通に気がついた事だと思いますわ。

「やべ、このフローじゃ、津波来たらアウトじゃん、一つのカゴ
に全てのタマゴが載っかってるわ」 「おい、変圧器買って、
屋上へ載せとけ! 100Vから400Vに昇圧な」「予算? ウチ
儲かってんじゃん」 とかとか。

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