豚コレラワクチン接種認められる
国がやっと豚コレラのワクチン接種を認める方針に切り換えたようです。
「江藤大臣は「われわれの予想を超える事態に直面し、13万頭以上の殺処分となり、大いに責任を感じている。防疫指針しかり、衛生管理基準しかり、あらゆるものを検討したい。私だけでできることではなく外部有識者などの意見も十分うけたまわりたい」と述べ、農林水産省として午後、豚コレラについての対策本部を開いてワクチンの接種に踏み切る方針を正式に決めたうえで、改めて説明する考えを明らかにしました。
三重県の鈴木知事は20日午前、記者会見し、「ワクチン接種に踏み出す方針転換を国が図ってくれるのは評価しないといけない」と述べました。
そのうえで、実際のワクチン接種の進め方について、鈴木知事は、「地域への丸投げは国家レベルの危機事案に対処する方法ではないと思う。できるかぎり急いで、国、自治体、生産者をあげて取り組むようなワクチン接種にしてほしい」と述べました」
(NHK9月20日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190920/k10012091331000.html
今回の江藤大臣の決断は妥当です。
ワクチン接種する以外、感染拡大を阻止する術はありません。
決定をした農水大臣は、2010年に自らの選挙区において未曾有の口蹄疫禍を経験した江藤拓氏であったことは幸運でした。
江藤氏は就任と同時に決断をしていますから、おそらく早くオレを大臣に指名しないかと思っていたことでしょう。
宮崎口蹄疫に関しては、あまりにも沢山の記事を書きすぎて(書きも書いたり、ざっと330本!)、自分でもどう整理したらいいのかわからなくなるくらいです。もし関心がおありならカテゴリー「口蹄疫問題」をご覧下さい。発生から終了まで逐次追跡しております。
ご存じの方は波線から下に飛んで下さい。
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宮崎口蹄疫は巨大な傷跡を残しました。
宮崎口蹄疫の原因は多々ありますが、ひとことで言えば、伝染病制圧を指揮統制すべき者が欠落し、自治体の防疫能力に限界があったために初動が遅れに遅れたことです。
台風もそうですが、家畜伝染病が発生した場合、それを鎮火する責任は一義的には地方自治体にあります。
宮崎口蹄疫の場合は宮崎県が責任をもって、初発が出た時点で直ちにサーベイランス(発生動向調査)を行い、確定して陽性ならば殺処分を行わねばなりません。
ところが確定が遅れた上に、初動の殺処分が極めて遅れました。
時系列で見てみましょう。なぜ日単位の時系列で見るのかは、口蹄疫の際立った特徴が三つあるからです。
①異常に早い感染力と感染速度。
②治療薬がない。また予防ワクチンが設定されていない。
③防疫方法は殺処分しか現状では認められていない。
これら三点の口蹄疫の特徴があるため、いったん初期防疫に失敗した場合、燎原の火のように燃えるものがなくなるまで燃え盛ります。
人間はこの燃え盛る疫病に対して、いわば破壊消防のように高価な和牛や豚を殺処分、つまり殺して防ぐ殺処分しか方法はなくなります。
ウィキ https://ja.wikipedia.org/wiki/2010%E5%B9%B4%E6%97%...
時系列で宮崎口蹄疫の前半を追ってみます。
●3月31日 都農(つの)町の農家で水牛3頭に下痢の症状があり、動物衛生研究所海外病研究施設(東京都小平市)で遺伝子検査を行い、陽性と判明。初発と認定されるも、実は川南町ではその前の22日、農家から役場を通じてよだれや発熱の症状を示す牛がいると、宮崎家畜保健衛生所(宮崎市)に連絡があった。3頭に症状がみられ、うち1頭が陽性。でした。つまり、微弱な感染が3月中旬頃から見られていた。
●4月9日~17日、口に水泡がある牛を獣医師が発見。
●4月20日 宮崎県が口蹄疫発生を報告。一切の国産牛肉は輸出が不可能となる。農水省も確認。
●4月21日 本来この時点であるべき政府・農水省からの指示や支援策が現地に来ないことで、宮崎県はパニックになる。宮崎現地の備蓄消毒薬が在庫切れになる可能性がでる。
●4月25日 殺処分の処分対象千頭を突破。過去の2000年時をはるかに凌ぐ最大規模になることが明らかになりる。初動制圧失敗。
この時点で既に25日間も経過していますが、家畜伝染病は初めの24時間で殺処分せねばなりません。
初動で資金とマンパワーを一挙に投入して、一気に沈火せねば、後は水漏れのようにそここから感染ルートが伸びてネズミ算的に手がつけられなくなるからです。
発生後役1カ月で、殺処分対象が千頭となったということは、それだけ順番待ちをしている疑似患畜がいるということであって、パンデミックに既になっているということです。
●4月27日 東国原知事が陳情。政府、野党自民党(当時)に対策本部設置。
ただし、鳩山首相はまったくの無関心。最後までハト氏はこの無関心を貫く。
この当時の民主党政府の無能さは眼を覆うばかりで、対応に動いているのは農水副大臣(後に大臣)の山田氏ひとりで、肝心の大臣の赤松氏は4月30日にはカリブ海へと外遊するあり様でした。
かくして口蹄疫発生国の担当大臣が指揮官敵前逃亡という異常事態となります。
赤松氏については論評すらしたくありません。民主党うんぬんではなく、唾棄すべき最低男です。
この人は、5月に帰ってくると、その足で行ったのは民主党候補選挙応援ですから、念がいった大馬鹿者です。
後に山田氏が大臣、篠原氏が副大臣(現地対策本部長)になって民主党政権の汚名を少しでも回復させるべく奮闘しましたが、政府与党内はひたすら無関心をきめこみ、まさに孤軍の様相を呈しました。
原子力事故にしても口蹄疫にしても、政権の揚げ足取りだけしかしてこなかった連中が政権を取るとこういうことになります。
●4月28日 川南町の県畜産試験場の豚5頭に感染。同試験場の豚486頭が殺処分に。
県なんと試が感染ハブとなっていることがわかりました。感染ハブとは感染を拡大する中心センターという意味です。
しかも防疫のモデルとならねばならない県試ですから目も当てられません。
初動の失敗、確定の遅れ、殺処分の停滞と合わせて、宮崎県には強く反省してもらわねばなりません。
ここで、牛感染が豚にも感染するという牛豚共通感染症になるという最悪の事態となりました。
●4月30日 移動・搬出制限区域を宮崎・鹿児島・熊本・大分の4県に拡大。
宮崎県周辺の県はレッドアラート体制に突入し、以後宮崎県東部は孤立していきます。
●5月1日 宮崎県知事、自衛隊に災害出動を要請。もはや前代未聞の激甚災害となりました。
ざっとここまでが発生から一カ月あたりの初動段階です。
後に現地に入った山田大臣に対する東国原知事の不毛な要求闘争があり、更に殺処分は遅れ、ワクチン接種して感染を遅らせながら、殺処分するといった事態にまで発展しましたが、後半は略させていただきます。
後に、獣医のために家畜伝染病でやってはいけない教訓集を作るとしたら、そのいい教科書となるでしょう。
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さて話を豚コレラに戻します。
今まで豚コレラを記事にしてこなかったのは、感染ルートが明確でなく、原因が分からなかったからです。
たとえば、関東に豚コレラ侵入した9月13日埼玉県小鹿野町の事例は、同時期に秩父市の養豚場においても感染が確認されています。
この両農場は南西におよそ5.5キロ離れた場所で、この二つをつなぐ接点がありません。
一方、推定可能なケースが今年2月の愛知県の事例です。
「田原市の養豚場は、6日に豚コレラが確認された同市内の別の養豚場から5キロ離れている。同じ食肉処理施設を利用していたことから、監視下に置かれていた。愛知県は、13日に新たな感染が見つかった養豚場で飼育している1000頭余りの殺処分に着手した。 昨年秋以来確認された1~7例目の豚コレラは、すべて岐阜県南部に集中。周辺で野生イノシシの感染例が多くみられることなどから、イノシシがウイルスを媒介したとの見方が有力だ」(時事2019年02月13日 地図も同じ)
子豚の出荷は重要な感染ルートですが、野生のイノシシが関わっていると見られています。
農水省 豚コレラについてhttp://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/
中国、韓国の口蹄疫や豚コレラははことごとく畜舎の外に感染を拡大し、野生の偶蹄類に感染を広げています。
こうなってしまった場合、野生のイノシシを一頭残らず捕獲して殺処分することは不可能です。
したがって、伝染病が在野化した場合、もはや打つ手は唯一、低毒性のワクチンを打って軽く感染させることによって免疫抗体を上げるしか方法はありません。
ここで問題となるのは、防疫そのものの問題ではなく、食肉としての商品性です。
ワクチンは軽く感染させることになるので、国際獣疫事務局( OIE )から認定を受けている「ワクチン未接種清浄国」というランクから転落します。
農水省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k...
OIEが設けたカテゴリーは、①ワクチン未接種清浄国②ワクチン接種清浄国③発生国というカテゴリー分類でした。
2010年当時の日本は今まで①だったものが③の感染国に転落したわけです。
これを殺処分という破、壊消防で切り抜けられれば、①に戻れますが、ワクチンを使って防ぐと接種していることで、②となって、貿易上の不利益がうまれるのです。
というのは、今まで非清浄国やワクチンを使っている国々からの輸入は、家畜伝染病があるから制限をかけることができたものを解禁せねばなくなるからです。
つまり輸入圧力が増大するということです。
また輸出に関しても、日本は黒毛和牛を世界中に輸出して、和牛ブランドを確立しましたが、この第2弾として国産豚肉も準備していた矢先に足元に火がついてしまったわけです。
ところがやや驚かれるかもしれませんが、元々日本は豚コレラのワクチンは使っていたのです。
その辺を正直に語る江藤大臣です。
江藤農林水産大臣臨時記者会見概要 9月20日
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/190920_2.html
「江藤大臣: 思い切ったことを言わせていただきたいと思います。御批判もあるかもしれませんが、私は今59歳です。日本はですね、2006年まで豚コレラのワクチンを接種しておりました。ですから私の人生の大半の時間は、ワクチンを接種した豚肉を食べて、成長して今、健康であります。
ですから、ワクチンを接種するとですね、なんかその豚危なくなるんじゃないかという気持ちをですね、消費者の方々が持つのはこれは間違いですから」
江藤氏の言うとおり、日本は2009年まで豚コレラのワクチンを使っていました。
その後、制圧したというのでワクチンを接種しなくなっただけのことで、日本は輸出を考えない時期にはワクチン接種国だったのです。
ですから戻るだけのことで、特に新しいことではありません。
江藤氏の決断の背景には、豚コレラより更に恐ろしいアフリカ豚コレラという強力なものが後ろに控えていることも絡んでいます。
このアフリカ豚コレラはアフリカで猛威をふるい、中国にも飛び火したことが確認されています。
しかも豚コレラと違ってワクチンがありません。
トリインフルも口蹄疫も、そして豚コレラもアジアにおける発生源の大元は中国です。
防疫関係者から中国は防疫のブラックホールと呼ばれ、防疫はあってなきが如しである上に、ありとあらゆる家畜伝染病の博物館と化しています。
農水省 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k...
この中国からの家畜の密輸、あるいは渡り鳥、野生動物を媒介して北朝鮮や韓国に伝染を広げていきます。
韓国は全土くまなく家畜伝染病に侵されきった土地と化しています。
しかもいまや野生のイノシシなどにまで常に感染が存在しているという状態ですから、伝染病が抜けるということがありえません。
しかも韓国は移動禁止となっても患畜を売りさばくために移動させたり、当局が生きたまま生き埋めにするといった日本ではありえないような杜撰なことを平気でやっています。
本来ならば、韓国からのヒトの移動も制限をかけるか、空港で消毒ブースを通すなどといった予防措置をとりたいのです。
韓国が勝手に輸出管理規制で逆ギレして旅行禁止してくれたので、大助かりです(笑)。
このままずっと来ないでくれると、畜産農家は嬉しい限りではないでしょうか。
このような世界有数の家畜伝染病発生国に包囲されたわが国ですから、このままワクチンひとつ打てないとなると、ブロックする手段を自ら捨てたに等しいことになるわけです。
今回認められたワクチン接種は豚コレラだけですが、口蹄疫、トリインフルまで検討課題としていただきたいものです。
※扉写真差し替えました。すいません。
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災害対策専門組織、生物・化学防疫専門組織、ただ研究をするだけでなく、相当の国家予算を投入して、緊急時の指揮命令権を持ち、実際の災害地で展開できる実戦能力のある官庁が必要だと思います。
米国原子力規制委員会には実戦部隊がおり、緊急時に宣言すると指揮命令権が付与されるようです。
行政法上の強制執行は、行政庁の判断で行われると思いますが、どうしても政治判断になると思います。専門家集団の迅速な対応が必要だと思います。
生物防疫は、安全保障上の重要案件だと思います。
投稿: オイラー | 2019年9月23日 (月) 10時11分
ようやくですね。
1年早く中京地域でワクチネーションしてたら封じ込めてたでしょうに。これ忘れて「今頃になってやっとですか」なんて言う養豚業者の声だけ取り上げて政府批判する通信社やマスコミのダメっぷり。
業者さんには悪気は無い。本当に同情します。「清浄国ステータス」が欲しいヤバイ業界が力を持ってたりするのが畜産業界。
もうたった9年前の口蹄疫事件すら忘れたのかと。。
民主党政権で宮崎県知事は東国原さんでした。
当時は新人で農政政務官だったのは舟山康江さんですね。本来現場実務を預かるはずなのにゴールデンウィークで「テメエの足元が大火事なのに、カリブに出掛けた赤松大臣同様にデンマークの養豚視察」とやらに国費で出掛けちゃいました。全く恥ずかしい人達です!
あんな連中が国政に就いてたというのが最悪でした。
宮崎口蹄疫事件は私がこちらのブログにたどり着いた原点でしたが、まあ私もまだまだ無知で無茶苦茶なコメントもしてました。ずいぶん昔に感じますね。
各地のブランド競争もいいですけど、大局を見ないと・・・
投稿: 山形 | 2019年9月23日 (月) 10時38分
https://www.agrinews.co.jp/p48777.html
ワクチン摂取対象のカウントや量の確保など課題山積ですが、なんとか養豚を守って切り抜けてほしいと願っています。
貼ったリンク先の記事に「防疫指針を改定するには今後、接種する地域や接種の順序、接種した豚の流通規制をどうするかなどを定める必要がある」とありました。
うちは紙版も取っているのでもっと濃い紙面も素人なりに読んではいるのですが、流通規制の改定なしだとワクチンで命を守った豚の出荷先が県内のみ?になるように読めます。
輸出はともかく大都市に流通しなければ成り立たないですよね…。
調整に時間を費やしているうちに発生域拡大とならないよう、大臣の指揮力に期待します。
中国は備蓄豚肉を放出する程、アフリカ豚コレラダメージが来ているようです。
韓国からの人数は減りましたが中国との行き来は多いままで、ホント空港で消毒ゲート作って欲しいですね…。
投稿: ふゆみ | 2019年9月24日 (火) 01時24分