香港「覆面禁止法」始まる
香港でまた発砲による負傷者がでました。今度もまた痛ましいことに14歳の少年です。
「香港では1日、九竜半島・セン湾で警察が実弾を発砲。高校2年の男子生徒が左胸に被弾している。
少年は病院に搬送され、意識はあるという。
星島日報(電子版)によると、非番の警察官1人が路上で複数のデモ参加者に囲まれて殴打されて拳銃の実弾を発射し、少年に命中した」(産経10月5日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191005-00000505-san-cn
また、キャリー・ラム(林鄭月娥) 行政長官が、「緊急法」(緊急状況規則条例)を根拠に、議会をとおさずに長官権限で「覆面禁止法」を施行しました。
「香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は4日、諮問機関、行政会議の臨時会合を開き、「緊急状況規則条例」(緊急法)を発動し、デモ参加者のマスク着用を禁止する「覆面禁止法」を緊急立法で制定した」(産経前掲)
この「覆面禁止法」で、キャリー・ラムは伝家の宝刀である「緊急法」を初めて抜いたことになります。
これは既に8月27日の記者会見の時点でやると言っていたことでしたが、抑止効果が望めないこことから、とうとう本当に抜いてしまいました。
まったくラムは馬鹿なことをしたものです。
せっかく北京政府の意志に反して移送法を白紙にしたのですから、妥協の道を探るべきでした。
一回抜いた刀は元のサヤには納まりません。
このような明らかなデモ潰しを計ったようなものをブツけられては、民主派もラムもろとも行くところまで行くしかなくなるではないですか。
これで妥協の道は断たれました。まったく香港にとって不幸なことです。
この緊急法は、香港法令241条を基にして、「緊急状況が認められるとき行政長官および行政会議が立法会をへずに制定できる法律で、行政長官と行政会議が、公衆利益に合致すると判断すれば、いかなる規則を設けることもできる」という内容です。
民主主義国家においても、似たような緊急事態法を持つ国は少なくありませんが、それは大規模災害などを想定してのことです。
しかし香港の場合、根本的に諸外国と違うのは、内乱あるいは暴動を想定していることです。
これは「いかなる規則も設けられる」という取りようによって無限の権限を行政長官に与える条項で、敷衍すれば緊急法を使えば戒厳令さえ実施することが可能となります。
それを裏付けるように、8月27日の会見でもラムは記者からの質問に答えて、「暴乱を押さえるためならいかなる手段も取りうる」と言い放っています。
たぶんラムはこの覆面禁止法にどれだけの市民が従うかを見て、次のステップに進むはずです。
具体的にはこの緊急法を使っての、移動の制限、財産の没収、通信の遮断、逮捕、拘束、駆逐などに関する新法規を登場させるでしょう。
また他の国と違うのは中国が絡むことです。
緊急法による戒厳令が実施された場合、当局による恣意的な逮捕・監禁、大陸への移送が可能となります。
特に大陸への移送は、そのまま中国の国内法による処罰を意味します。
これこそが民主派がいままさに戦っている移送法(犯人引き渡し条例)そのものであって、ラムは移送法を白紙にするといいながら、別の形でやるということになります。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20191004-OYT1T5033...
改めて押えておきたいのですが、香港に与えられているのは、唯一政治表現の自由(集会・デモ・言論)だけにすぎません。
肝心要の選挙権がないのです。ここが一般の民主主義国との決定的ちがいです。
民主派が5大要求に「自由選挙」を入れていることからも分かるように、行政長官も議会も共に民主的プロセスを経ずに選ばれており、行政トップの行政長官は中国政府が指名した議員しかなれません。
議会(行政会議)も同様に親中派が独占できる選挙方法によって、民主派はごくわずかです。
よくデモ隊が火炎瓶を投げている、鉄パイプを持っている、あれじゃあ撃たれても文句は言えない、ということをしたり顔で言う人がいますが、このような非民主的なシステムを無視して、一般的に言ってもらっては困ります。
選挙を通じて、いくらでも自分が支持する人を議会に送れる国と、その道が断たれている香港とを比較すること自体が間違っているのです。
念のために言っておきますが、前から書いてきているように私はデモの暴力化には強く反対です。
その理由は、中国の武力介入の可能性を高め、一般市民や国際社会から遊離することを恐れているからです。
しかし今の香港においては、デモ以外抗議の手段がないために、暴力化してしまう必然性があるのです。
暴力は相互的なものです。
一方的にデモ隊が過激化したというのは正しくなく、ヤクザまがいの蛮行を働く香港警察に対抗して過激化の道をあゆんだのです。
マスクも同じです。
私は、一般論としてはデモ行進における覆面は異様だと思っています。
デモで顔を隠す行為は、自分の政治行為の結果を引き受けない無責任な行為だからです。
ただしこれもまた、民主主義が健全に存在する国の一般論にすぎません。
このような民主主義の一般論が成立するためには、デモによる警察当局の不当な拘束・監禁・事後逮捕などを受けないことが保証されていなければなりません。
これが保証されない香港の場合、デモに参加する市民は自己防衛として顔を隠す権利を持っています。
今回、香港当局が覆面禁止条例を作った理由は、暴徒化に対する抑止効果を狙ったのではなく、デモ参加者の本人特定をすることによって、デモ自体に参加することを妨害するためです。
http://toychan.blog.jp/archives/52689069.html
既に香港警察は、中国の開発した監視システム「天網」を利用しています。
「天網」は顔認証システムですが、これを使えば警察当局が監視カメラと連動して写った人物を特定し、リストアップすることが可能です。
これは既に大陸全土で人権侵害のために利用されていて、製造したのはウィグル弾圧で悪名高きファーウェイやZTEなどの中国通信2社です。
「北京在住の人権活動家 胡佳氏:「デモや集会などが起きた時、全国に密集する数千万台のカメラから成る『天網』監視システムが収集した画像から、顔を識別できます。政府は誰がデモに参加したかなどを知るために、こうした情報を集めているのです。警察は監視用車でリモコンで操作できるビデオカメラでその情景を撮影し、即時にその映像を送って、彼らが誰なのか身元を判別し、取り締まるのです。
イギリスBBCの記者は貴州で天網システムを試しました。記者は警察に自分の写真をブラックリストに入れさせた後、公安に指名手配されているようにシミュレーションを行いました。すると、警察は僅か7分で記者を見つけました。
顔の識別機能付きの監視カメラの開発業者は、カメラは顔を捉えるとすぐさまその人物の身分証明書に連結され、過去1週間の行動や、運転する車、親族、誰とよく会っているかなども分かると述べています」(上写真と同じ)
つまり、この覆面禁止法とは、200万人以上とみられる中国に服従しない市民をリストアップし、今後緊急法をエスカレートさせて戒厳令を実施した場合に、彼らを簡単に逮捕・拘束・移送できるビックデータを作るために作ったのです。
米国議会において、香港人権法が委員会で可決され、10月にも本会議で可決され、トランプが署名することで発効する予定になっています。
その法案は、香港での人権弾圧に対する調査、香港での人権侵害に加担した人物や企業への制裁(米国入国禁止や金融制裁等)が入っています。
また、この調査によって人権弾圧が行われていると判断された場合、香港に与えられている特別な地位(税免除や中国本土とは異なる入国管理など)を廃止する制裁が可能ですから、香港を窓口にする中国企業のドル調達はいっそう困難になります。
それにつけてもわが国の腰の重いことよ。
発砲事件がふたつも起きても、国会で全会一致で香港に対して非難決議の一つも上げられないのでしょうか。
なにより安倍首相が、習の訪日うんぬんで香港民主派を見殺しにするなら、かつての第2次天安門事件において真っ先に制裁から脱落して今の中国を作ってしまった轍を踏むことになります。
安倍さん、百年後悔しますよ。
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コメント
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日本は半分くらい乗っ取られていつるんじゃないですかね。中国は利権操作の神様ですからね。それに、欧米文化に拒絶感がある民族的な組織もあるように思います。科学の暴走より人間の善良が必要だと思う人は、儒教・仏教・道教などの精神を基底に持つ国には多いかもしれません。
それに、中国が民主国になり米国と仲良くなったら、日本は完全に解体され、今の民族的な人たちはパージされるかもしれません。
隠れ大アジア主義者のような人も多いと思います。
利権で貴族化している官僚さんは、中共に親近感があるんじゃないでしょうか。中共は利権のパラダイスだと思いますので。
投稿: オイラー | 2019年10月 5日 (土) 09時16分
はじめまして。いつもありんくりんさんのブログを拝読し、勉強しております。覆面が出来なくなるとすれば、デモ隊は街中の監視カメラを破壊していくのではないでしょうか?もっともそのような破壊行為が香港(ひいては中国)でどのような刑罰に処されるのか解らないのですが。。。
投稿: 上海蟹大好き | 2019年10月 5日 (土) 12時20分