香港人権法成立後はどうなるのだろうか?
香港人権法が成立しました。香港の未来にとってきわめて重要な曲がり角となるはずです。
「ワシントン=永沢毅、北京=羽田野主】トランプ米大統領は27日、香港での人権尊重や民主主義の確立を支援する「香港人権・民主主義法」に署名し、同法は成立した。ホワイトハウスが発表した。香港に高度な自治を認める「一国二制度」が機能しているかどうか米政府に毎年の検証を義務付けるのが柱。成立を受け、中国政府は28日に発表した声明で「重大な内政干渉だ」と反発。報復措置を発動する考えを示した」(日経11月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52701890Y9A121C1000000/
トランプが署名するかどうかはらはらさせただけに、素晴らしいことです。
まぁトランプとしては署名を拒否しても、議会に戻されて3分の2で成立してしまいますから、抵抗しても無駄だ、やるならカッコつけてということでしょうがね。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52701890Y9A12
https://www.oita-press.co.jp/1002000000/2019/11/28...
たいへんに素晴らしいことです。
これを急速に悪化する人権状況に追随するべく、通常の手続きを省いた緊急手続きで通過させ、全会一致で可決した米国議会に敬意を表します。
すでに人権調査は先行して開始されており、選挙の惨敗を見て今後さらなる力づくの弾圧を準備しているはずの中国にとっても、大きな抑止効果が生まれるはずです。
ただし民主化の前途はきわめて厳しいとみるべきです。
議席数においては、452議席の85%を民主派が獲得しましたが、それは小選挙区一人区制度で勝ったほうが総取りできたからです。
しかし総得票数においては、民主派が167万票だったのに対し、親中派は123万票で、6対4の力関係ですから、地滑り的勝利といっても約4割の市民は民主派への批判票に投じているわけです。
中国が投票結果を読み間違えたと先日書きましたが、彼らの票読みで勝利確実と出たのは一面で間違っていないとも言えると同時に、この4割の親中層を過大に評価しすぎたともいえます。
中国はこの間の状況のイニシシャチブを握ってきたのが一貫して民主派であるという政治のダイナミックスを忘れてしまったために、静的に香港情勢をみていた結果ともいえるかもしれません。
宮廷内闘争にそのエネルギーの大部分を消費してしまい、まつろわない大衆を力づくでねじ伏せた経験しかない中国共産党にそれを求めるのは無理というものですが。
それはさておき民主派に投じた市民も、独立を望んでいるわけではなく、余りにひどすぎる警察暴力に怒っているだけにすぎないともいえます。
今後、彼ら失うものを持つ階層を納得させるだけの説得力を、民主派が持たねばなりません。
あたりまえですが、香港を破壊し尽くして勝利してもなんの意味もないのです。
実はいまやその守るべき香港の魅力が急激に落ちています。
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/474926
抗議デモが始まったのは今年6月以降ですが、以来香港は観光客が訪問するにはふさわしくない戦場となってしまいました。
観光客は激減し、ホテルや飲食店や小売店は悲鳴を上げています。
また、投資の格付けが落ちたために、アジアの金融センターとしての地位も崩壊しつつあります。
不動産取引は低迷し、むしろ香港人が外国に逃げて行くほうが目立つようになりました。
この傾向は危険で、民主派がこのまま暴力路線をとり続けた場合、中国につけ入る隙を与えかねません。
元来、香港には中国、特に地続きの深センとの商取引で潤ってきた階層が多く存在します。
彼らの多くは大陸出身で、香港人という自覚に乏しく、彼らが強固な親中派の地盤を形成しています。
彼らからすれば、この6月からはヒドイ目に会い続けてきたという恨みがあるでしょう。
ですから民主化を見る時、このような階層とその支持者が半分存在し、彼らは政治と経済の安定を欲しているということを絶対に忘れないほうがいいのです。
一方中国は人権法をにらみつつ、いままでの血の弾圧路線を修正しないでしょう。
共産党にとって方針修正は自らの誤りを認めたことなり、それは党の権威の失墜につながるからです。
だからいかに現実とそぐわなくても、香港市民の怨嗟を招こうとも、犠牲者の山を作ろうとも、逮捕者だけの収容所をつくらねばならなくなったとしても、知ったことかとばかりに叩き潰そうとするでしょう。
それが共産主義で、彼らはその流儀でやってきました。
ただしあくまでも香港行政庁と香港警察を使っての間接統治でやるしかないことが、中国の弱いところです。
これがウイグルやチベットといった内陸部ならば、外国記者の眼がとどかないことをいいことにナチスばりの民族浄化政策を大規模に展開できました。
世界の眼が集まっている香港ではそれができないところが中国の悩みで、ウィグルならば6月の初めのデモが起きた時点で、武装警察が自動小銃を乱射させて屍の山を築いているはずです。
逆に言えば、今や中国政府の暴力装置と化してしまった香港警察の中に、中国の命令に背く部隊が現れた場合、一気に情勢はひっくり返ります。
中国は自ら引き下がることが難しい位置にいます。
既にかつての香港の国際金融センターとしての魅力は暴落しているのですから、かまうことはない一気にカタをつけるとばかりに弾圧路線に邁進する可能性も高いと思います。
これに民主派がさらなる火炎瓶で応えるならば・・・。
やめていただきたい。香港の友人として心から忠告しますが、これ以上の破壊は、4割の安定を希望する穏健派市民層を中国につけてしまうことになりかねません。
今後民主派が勝利する可能性が残されているとすれば、有力国に仲介してもらうことです。
適任は英国です。英国はかつての香港の宗主国で一国二制度という折衷案を呑んだ当事国ですから、責任をとっていただかねばなりません。
英国に仲介に入ってもらうためには、香港独立論を封じなければなりません。
米国もやる気ならできないことはありませんが、なにせかんじんのトランプの腰が引けています。
今回の人権法でも署名しないという観測が一部ではささやかれていたほどです。
これはトランプが米中貿易協議で中間的妥協をしたいという気持があって、この時期中国ともめるのは得策ではないと考えられたからです。
トランプはこういう自分の大統領選にらみのディールを打つからいまひとつ信用できないのですが、これに対して議会のほうが強硬でした。
ぶっちゃけトランプにとって香港は票にならない、ただそれだけのことです。
理念保守のペンスなら違ったでしょうが、とまれよくも悪しくも彼はそういうタイプなのです。
彼の票田であるラストベルトや中西部の農村地帯ではホンコン、フェア?ですから、票になるのはあくまでも中国との関係です。
制裁を長引かせれば景気を減速しますからいったん締め、中国製IT製品をブロックしつつ、逆に米国産の大豆やメイズ(飼料用トウモロコシ)を中国に大量に買わせる、これがベストのはずです。
だから香港問題に手を出して中国を刺激するには得策の時期ではない、そう考えていたと思われます。
しかしこのトランプの思惑は、議会によって拒否されました。
議会は大統領の弱腰を強く批判し、今回の法案を推進したのは共和党のマルコ・ルビオなどの共和党保守派で、トランプからすれば次の共和党内での指名にぜひ取り込んでおきたい層です。
一方、ルビオは、ウィグル問題と香港問題をリンクさせて捉えており、人権問題という中国最大のネックをぐいぐいと締めつけようとしています。
また、民主党は元来グローバル民主主義派が多いということもある上に、香港を見捨てようとするトランプの姿を浮きださせるためにも人権法を推進する側に回りました。
つまり、米国は珍しく香港をめぐる対中強硬姿勢で一枚岩となったのです。
それにしても、かつて大量にいた議会やメディアのパンダハガーたちは、いったいどこに消えたのでしょうか。
民主党は人権法で中国と対峙し、あのNYタイムスですら11月16日にはウィグル人権抑圧の中国内部文書を暴露してしまいました。
これは大きなスクープで、「米国の朝日新聞」ですらやる時はやります。
世界の世論はやっとウィグルと香港が、中国の全体主義のもたらした共通の産物だと気がつき始めました。
「竹のカーテン」と戦っている最前線は韓国などではなく、香港だという認識が共有されつつあります。
気がついていないのは、わが国政府くらいなものです。
国賓で招くのはもはや変えられないとしても、これこそが外交カードではないのですか、安倍さん。
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