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2019年12月

2019年12月31日 (火)

今年もありがとうございました

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今日で今年の更新を終わります。
皆様、本年中はありがとうございました。心から感謝いたします。

山中に暦なしとはよく言ったもので、私には師走も元旦もない生活ですが、やはりだからこそ区切りは大事にせねばと思っております。
めんどくさい中国や、わけのわからない韓国、それ以上にもはや錯乱の域に達して共産党とも合流したいという我が野党諸氏もいますが、そんなことは忘れて、私にとって元旦とはなんといってもサッカー天皇杯です。
あの元旦の清冽な空の下、しかも新国立競技場のこけら落としでわがチーム(もちろん鹿島です)の戦いをみれるとは、至福。

明日こそ仕事は早めに切り上げて、まったりと天皇杯に浸りたいものです。
明日は賀詞の後は、北が正月早々弾道ミサイルでも発射しないかぎり4日までお正月休みをとらせていただきます。

正恩さん、元旦くらいお静かに。
皆様よい年をお迎え下さい。      

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さて、朝鮮労働党中央委員会総会が、なにもこんな押し迫った時にせにゃならんのかという時期に開かれています。
勝手に自分で今年一杯と期限を切った米国の「よい返事」に対するものだと思われます。
米国がこの時期に北に色好い返事などする道理がありませんから、このまま越年して彼らが作ったタイムリミットは破綻します。
今のところ中央委員会総会では、これというものは出てきませんが、おそらく米朝首脳会談以前の状況に回帰するだろうと思われています。

これまたとうぜんのことです。
北には核を手放す意志は毛頭ないし、核こそがあの国の「主体」を守る唯一の保証だから、新たな方針なんか出しようがないのです。
一部で噂されている正恩の失脚でもあれば話は別ですが、出てもせいぜいが一昨年へのスパイラルです。
ただ2回目に同じ緊張路線を踏むと、こんどは首脳会談での解決というテは使えませんから、さてどうなりますことやら。

そもそも核拡散問題は世界の安全保障体制に影響しますから、米国だけでウンヌンすることはできません。
そのために国連決議が積み重ねられたわけで、北はいわば「ボス交」をしようとして失敗したことになります。
国際社会はNPT体制の維持、すなわち短距離核もふくめて新たな核武装の禁止が建前ですから、それから逸脱するトランプの交渉の風情がおかしいのです。

辞めたボルトンが言うように北には核放棄という選択肢がない以上、このまま時間が経過すればそれは北にとって有利に働きます。
すなわち、長距離核の完成と中距離核の充実に時間がさけるからです。
今回の中央委員会総会で何を言ってくるのかわかりませんが、第2次チキンゲームとなる可能性が高いような気がします。

となると、今回は北が勝手に期限を切ったわけですから、今度は国際社会の側が期限を切ったらいいのではないかと思います。
いつまでもダラダラと北の都合に言いぐさにあわせたり、ましてやトランプの大統領選のスケジュールに拘束される必要はありません。
この間の一連の弾道ミサイル実験はあきらかな国連制裁決議違反ですから、これに対しての追加制裁として期限を切った核開発の放棄か否かを突きつける時期なのです。

核拡散はただの話し合いでは答えは出ないのです。
この問題で新たな進展がありましたら休日でも更新いたします。
年末にくだらないことやってんじゃないよ、まったく(ぶつぶつ)。
 

 

 

2019年12月30日 (月)

中朝の腐れ縁とは

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「通りすがりのおっさん」さんにはけっこう丁寧に説明したつもりなんですが、中朝関係は「生かさず殺さず」のニュアンスを理解しないとわかりません。

中朝関係は通常の二国間関係とはまったくちがうのです。いろいろな経済データから見ていきましょう。
まず二国間関係の基礎をなす貿易において、北は92.5%を中国に依存しています。もはや依存しているというレベルではなく、「従属している」と評するほうがふさわしいほどです。

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https://twitter.com/nikkeivdata/status/90496563172

当然といえば当然ですが、世界最貧国に近い北と世界第2位の経済規模を持つ中国との関係で、北は一方的に貿易赤字を作っています。


・2016年中国の対北輸出・・・32億ドル
・同        対北輸入・・・27億ドル
△北の貿易赤字      ・・・5億ドル
『中国の対北朝鮮石炭輸入と石油製品輸出』 田村秀男
http://www.sankei.com/premium/news/170225/prm1702250016-n1.html

次に両国の貿易推移を見ます。
2006年以降、国連の制裁決議が度々採択されていますが、中国は馬耳東風とばかりに貿易を盛んにした結果、北経済は順調に伸びていて、驚いたことには2016年には「高度成長」すら実現しています。
まぁ、出発点が世界のボトムでしたから「高度成長」といってもタカが知れてはいますが、当時平壌には富裕層が出現したという報道も出ましたね。
北のGDPの伸びのグラフと並べると、中国への輸出量が増えれば経済が成長するという相関関係がわかります。

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住友商事グローバルリサーチ https://www.scgr.co.jp/report/survey/2017110829044

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住友商事グローバルリサーチ前掲

この北の経済成長の秘密が韓国との開城(ケソン)工業団地などの経済投資によるドル稼ぎと、中国の資源開発による鉱業の伸びです。

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https://www.afpbb.com/articles/-/2937079

「04年に操業を開始した開城工業地区は、05年は韓国企業18社・生産額1,491万ドルであったが10年には120社を超え、15年の生産額は5億ドルを上回り過去最高額を記録した。北朝鮮人労働者は靴下、腕時計、制服などの生産に従事し05年は6千人ほどであったが09年には4万人を超え11年以降は5万人を超えた。従業員の賃金はドルで支払われるため外貨を獲得でき北朝鮮にとって大きな収益になったようだ」
『北朝鮮経済と北朝鮮リスクによるマクロ経済的影響』住友商事グローバルリサーチ 片白理恵子

北と韓国がなにかにつけケソン工業団地を再開させろ、国連制裁からはずせ、と叫ぶのはこの現金収入が大きいからです。
もちろんそれには政治的思惑もありましたが、北にとってケソンは外国への労働者派遣以外での数少ないドル収入源ですし、韓国にとっても安価な賃金で働かせることができる経済特区だったからです。

一方中国は、資源投資を盛んにし、炭鉱やレアメタルの鉱山開発とそれを積み出す港湾・鉄道などのインフラ整備をしました。

「インフラ整備欧米諸国等が制裁を強化する中、貿易を円滑化するため北朝鮮国内に橋、港湾、免税地区などを建設しインフラ整備を行った。15年には北朝鮮の石炭を中国・遼寧省へ運搬するため遼寧省丹東と北朝鮮との国境に近い遼寧省瀋陽との間に高速鉄道を開設した」
(住友商事前掲)

このように見てくると、今の北を延命させてきた主役が中国、脇役が韓国だとわかるでしょう。
中国は北を制裁する気などいささかもなく、国連制裁決議などどこの国の話かといわんばかりの対応をし、韓国は北の安い労働力を使って甘い汁を吸いつつ、北のドル稼ぎに貢献できたというわけです。

では北は中国との貿易赤字5億ドル(2016年)をどうやって解消させていたのでしょうか。
よく誤解されているように、中国は景気よくチャイナマネーをバラまく足長オジさんではありませんから、下心があります。

貿易赤字の補てん手段は、まず石炭や海産物などの現物バーターを使います。
石炭・レアメタルなどの鉱物資源は張成沢時代に鉱区の開発権を押えています。
ちなみに張が正恩からもっとも厳しく糾弾されたのは、鉱物開発権を中国に渡して私腹を肥やしたからのようです。

また、北はに中国にEEZの漁業権を譲渡してしまっています。
北の漁船が頻繁にEEZの大和堆(やまとつい)に押し寄せるのも、自分のEEZを売り払ってしまったからです。
北が主張するEEZは大和堆の外縁に延びている部分があり、北は日本の取り締まりをぬって多くの漁船団で荒し回ったことは記憶に新しいことです。

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https://wedge.ismedia.jp/articles/-/11385?page=2

また、こういう手口を使っていたことも分かっています。

「不足分は中国からの借り入れでまかなう、つまり中国の金融機関による融資で補うわけで、正恩氏直結の企業や商社、銀行は中国の金融機関との協力関係を保っている」(田村前掲)

この中国金融機関とは瀋陽軍区(現「戦区)」の軍、あるいは国営金融機関を指します。
ここを通じて北
系列の企業や商社に表向きには民生品貿易の形をとって融資をしてきました。
しかしそのカネが市民のためのバスに使われようが、弾道ミサイルに使われようが、金に色はついていませんから、
北はそれをいいことに、瀋陽軍区系列の銀行を経由して、武器の売買をしてたのです。

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出典不明

さてここで登場したのが、中華帝国の中の「国家内国家」である瀋陽軍区です。
瀋陽軍区は朝鮮系中国人が多いこともあって、北を半ば公然と支援してきました。

瀋陽軍区は中国陸軍の7割の戦闘部隊を擁し、1個軍が約10万人で構成される機械化軍団は中国軍全体で5個ありますが、うち4個軍が瀋陽軍区に配備されています。
なぜこのような手厚い扱いをうけているのかといえば、瀋陽軍区が二つの戦略正面を持っているからです
ひとつはかつてダマンスキー島で局地戦にまで発展した対露との長大な国境線が含まれており、いまひとつは朝鮮戦争正面で北を挟んで米軍と対峙しているからです。

しかしそれにもかかわらず、唯一配備されていない装備があります。それが核兵器です。
その理由は歴史的に旧満州地区には強い反北京感情があるためで、 仮に内戦状態となった場合、瀋陽軍区が北京に核ミサイルを照準してくる可能性があるからだと言われています。

「特に最精強を誇り、機動力にも優れる《瀋陽軍区》は、習国家主席にとって目障りどころか、政治生命すら左右する「超危険な存在」であった。否、軍制改革後も、《北部戦区》と名前を変えたに過ぎず、今もって「瀋陽軍区」のままの、依然「超危険な存在」と言うべきだ」(産経2017年8月14日野口裕之)
https://www.sankei.com/premium/news/170814/prm1708140006-n1.html

一方、瀋陽軍区は、北京の指令には面従腹背を決め込んで、北にさまざまな戦略物資を供与し、さらには弾道ミサイルのサンプルまで渡していたと言われています。
弾道ミサイルに搭載する核についても、北と一心同体で協力してきたとも噂されています。
それは核開発に成功すれば、瀋陽軍区も核兵器を「共有」できるからです。
このへんについては裏をとりようがありませんが、おそらく事実だと思われます。

このような瀋陽軍区の動きを北京は見て見ぬふりを続けてきました。
なぜなら、中国は北が「中国のナイフ」としてふるまっている間は、外交的に大いに利用できるからです。

北朝鮮はミサイル実験と核実験をやりたい放題やってきたわけですが、その間中国はこれを止めるどころか、原油や原子炉部品を売り続けてきているのをみればわかります
具体的に、中国からの石油製品輸出と、北朝鮮からの石炭輸入貿易量・中国からの石油製品輸出推移と国連制裁を重ねてみます。

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中国の対北朝鮮石炭輸入と石油製品輸出 田村秀男による
http://www.sankei.com/premium/news/170225/prm1702250016-n1.html

国際社会がなんと叫ぼうと、国連が制裁を決議しようと馬耳東風。常任理事国の中国が堂々と北朝鮮に石油を売りつける一方、石炭を買い続けており、むしろ増やし続けていることがわかります。


「16年の中国からの対北輸出は石油製品が前年比26%、鉄鋼製品9%、自動車は45%各増と急増している。背景には中国の過剰生産があるはずだ」(田村秀男 グラフと同じ)

中国の2015年の対北朝鮮輸出の主要品目です。

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この中国の主要輸出品を見ると国連制裁などあったのかと思えるほどです。
中国は北朝鮮に対して、電子機器、原子炉、輸送機器、原油、医療、食料など、ほぼすべての戦略物資を供給していることがわかるでしょう。
これで北朝鮮が「制裁」に音をあげる道理がありません。

また先述したように、北の資金移動はすべて瀋陽軍区系列の企業と銀行を経由して行われています。 
北朝鮮の輸出品はミサイル、武器類、麻薬などですが、その代金は中国系銀行か中国企業を通してロンダリングされて決済されています。

また生命線の原油も瀋陽軍区からパイプラインで運ばれていました。

E9a6ace5b882wikimapiarev4thumbnail2http://kazuohage.sblo.jp/article/164902193.html

中国側馬市村のパイプライン基地(赤丸)から鴨緑江を越えて供給パイプが、対岸の北朝鮮側金山湾油タンク(青丸)に延びているのがわかります。 
ちなみにこのパイプラインの位置は、かつての朝鮮戦争時の中国義勇軍渡河の位置と同じです。
この原油供給パイプラインこそが、まさに北朝鮮の命綱ですが、それを握っているのが瀋陽軍区なのです。

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北朝鮮の新義州と中国の丹東を結ぶ橋 聯合ニュース

もちろん経済的には、遼寧省などの隣接地域は北を一体の経済圏にしており、いまだに盛んなに生活物資の密貿易が行われています。
この交易をしているのは朝鮮族ですが、彼らと北とのつながりは血縁的にも商業的にも強力です。

このように中朝関係は、長い間かけて作られてきたいわば腐れ縁です。
キレイに言ってあげれば、一種の共生関係といってもいいかもしれません。
互いに手の内を知って、その嫌らしさもよく知り、相互に軽蔑しあい、互いに憎悪しあっていて、その気になれば相手を叩きのめす力をもちながら、表向きはニコニコと握手してみせる、そんなヤクザ同士のような関係です。
それ故、中国は反米カードで使えるとなれば急に友邦となり、てこずるなら突き放しても見せますが、韓国相手のように「イヌのしつけ」はしません。

こういう関係が理解できれば、北の核兵器の意味はわかるはずです。
北の核はこの関係の担保であって、この腐れ縁が温存されるかぎり北京には発射されず、「中国のナイフ」として利用できる、そう中国は思っているのです。
一方北にとっての核兵器は、中国が鴨緑江を渡河して攻め込んでこないための最大の「担保」なのです。
もちろん表立っては「友邦」と称していますが、ほんとうのことを言ったらシャレにならないからにすぎません。

※年末の更新について
明日大晦日まで通常の更新を致します。
元旦の賀詞を除いて2日、3日は正月休みとさせていただきます。
通常更新は4日(土)からとなります。

 

 

2019年12月29日 (日)

日曜写真館 冬を迎える湖畔

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水上の林があります016

とんびには年の瀬は関係ありません

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水上の林の先には漁師さんの仕事場が見えます

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連なった電柱の先は湖です

 

2019年12月28日 (土)

韓国憲法裁、苦し紛れの慰安婦合意判決を出す

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韓国憲法裁が馬鹿な判決を出したようです。

「韓国の憲法裁判所は27日、慰安婦問題をめぐる2015年12月の日韓合意について、元慰安婦らが憲法違反だと認めるよう求めた訴訟で、裁判官の全員一致で訴えを却下した。合意は、条約締結の手続きを踏んでいない「政治的な合意」にすぎず、元慰安婦らの法的権利が消滅したともいえないため、憲法裁の審判対象ではないと判断した」(産経12月7日)
https://www.sankei.com/world/news/191227/wor1912270021-n1.html

苦し紛れというか、玉虫色の内容です。訴えられたのは2016年で3年前ですから、こんな玉虫一匹出すのに何年かかっているんだと思います。
この判決はただ結論から逃げたというだけの内容です。
これだけかかったのは、韓国司法が時の政権と同調しているからで、その時の政権の按配でグラつくのです。

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おそらく3年前のムンちゃんイケイケの時代に判決を出していたら、「徴用工」判決のようにすっきりと原告団の言い分を認めて違憲判決を出していたはずです。
ところが実際に慰安婦財団を解体させ、「徴用工」裁判で日韓請求権協定を廃棄し、その上日米韓国三カ国連携の要だったGSOMIAまで廃棄するという反日三点セットを三段お重よろしく豪華絢爛にやったら、四面楚歌の有り様です。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashikosuke/20

日韓関係が氷河期に入ったのは万人が認めるところですが、米韓関係も史上最悪、中国様とも似たようなもんで、北からは罵詈罵倒の嵐とポンポン短距離ミサイルを撃たれる情けない有り様です。
よくもまぁこれだけまんべんなく外交関係をダメにしまくったね、と拍手のひとつもしたくなります。
さすが並の人ではできません。まことに「外交の天才」です。
ものの見事なまでの外交の完全破綻、おまけに経済破綻ですから、となるともはや頼りは鉄板の支持層の3割です。
ここでファイト一発とばかりに、この3割の鉄板さんをくい止めるために違憲判決を出させて、景気づけしようという気分もないわけではなかったかもしれません。

ただし、それをやったらこれ以上こじれようがないほど冷えきった日本がどんな報復に及ぶか、いくら鈍いムン閣下でも分かろうというものです。
困った韓国憲法裁は、ムン政権の窮状に忖度して「憲法裁の審判対象ではない」と統治行為論もどきのことを言って破局を回避する一報で、 慰安婦合意には「法的拘束力はない」なんて政権のメンツが保たれるようなことも同時に言っています。

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それにしても何、これ?慰安婦合意には法的拘束力がないですって、ご冗談を
韓国憲法裁さん、頭大丈夫。日韓両国が取り交わした正式の合意は、条約に準じるのですよ。
韓国司法が認めようとどうしようとそんなことはそちらの国の内部事情。条約は国内法を超越するのです。
韓国憲法裁はウィーン条約すら読んだことがないのでしょうか。

■条約法に関するウィーン条約
「第27条 当事国は、国内法を、条約の義務を行わない理由としてはならない。

百歩譲って、これから合意をするというなら批准しなければいいだけのことですが、既に双方が批准して相手国が条約義務を執行済みの合意がどうして覆るのでしょうか。
条約文言にもあるように「最終的かつ不可逆的」に終了してしまったことを、「違憲」だという理由で覆そうなんてできるわけがありません。
日本はしなくてもいい謝罪から始まり、慰安婦財団の設立と、それを通じての10億円の支払いまで速やかに完了させています。
それをムン政権が政権に就くやいなや、一瞬で財団を解体に追い込み、事実上この合意をつぶしたのですから、リッパな条約やぶりです。
思えばこれがムン閣下の国際法破りシリーズ第1弾でした。

そしてその後はご承知のように「徴用工」判決で大型地雷を爆発させ、それを取り繕うとしていっそう悪手に走り、とうとう「高い塔の男」となって鉄仮面をつけさせられる一歩手前となってしまったわけですが、自業自得とはこのことです。
いまでもあのムン閣下の貼りついたような笑顔は鉄仮面みたいですが。

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https://bunshun.jp/articles/-/9869

ボクやったことは正義だから間違っていないけど、やり方がちょっと性急だったかな、とりあえずこれ以上の正面衝突についてはボクの力では収拾不可能になるから回避しようっと。
これがこの間、盛んに秋波を送っているムン閣下の基本姿勢です。

慰安婦合意が違憲だなんてやられたら、ムン閣下は持論である「韓国流三権分立論」に基づいて正式に慰安婦合意を廃棄せにゃならなくなります。
これはいわば第2次「徴用工」判決ですから、日本は二度目の公然とした国際法違反に対して、厳しい報復をせねばならなくなります。

いいですか。今は報復してもいいのに、とりあえず韓国が日本企業の資産を現金化するまで猶予を与えているだけなのですから。
正式に国家として報復するとなれば、大使召還などの外交関係の断絶、信用状の取消しなどの金融制裁、輸出規制などのメニューは既にできていますから、それを粛々と実施することになります。
そうなったら日韓関係は、朝日が泣こうが喚こうがノーリターンです。
そして韓国経済は完全に止めを刺され、すべては永久凍土の下に埋もれることになります。

これを温めて直して元の日韓関係に解凍するとなると、ムン閣下が辞任したくらいでは済みません。
ムン閣下のした反日3点セットについて、韓国政府が日本政府に正式に謝罪するていどのことをせねば、なにも始まりません。
しかし生憎、いくら次が保守大統領となったとしても、今のような国論二分状態では、そこまでの「温め直し」はできないでしょうから、いずれにしてもノーリターンです。

そこで韓国憲法裁は、一見世界の常識である統治行為論もどきに「憲法裁の審判対象ではない」としながら、その一方で「元慰安婦らの法的権利が消滅したともいえない」から「具体的な権利・義務が生じたとは認められない」なんて頭がどうかしちゃったの、としかいいようがないことを言い出したわけです。

「日本政府が韓国政府に求めてきた合意履行の義務を骨抜きにするような判断といえ、最高裁によるいわゆる徴用工判決で悪化した日韓関係にさらなるマイナス影響を与える可能性がある。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、日本からの10億円で設立した基金を解散させ、合意を事実上白紙化している」(産経前掲)

やれやれです。韓国憲法裁はあれだけ日本側に対して義務を要求した慰安婦合意がなんの権利義務も発生しないですって。
もはやそりゃよかったね、としかいいようがありません。馬鹿は相手にしたくありません。

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AFP

さて、話題をかえます。「通りすがりのおっさん」様から質問を頂戴しました。

「中国を大嫌いな北をもし怒らせて自分(中国)と戦争にでもなったら、あるいは金王朝政権の転覆を下手に画策して失敗でもしたら(万が一)核が飛んくるかもしれない。 
そんなことにでもなったら大事なので、触らぬ神に祟りなしでそっとしておこう。 わがままも聞いてある程度の面倒はみてやろう。
そうして今の貧乏な状態のままいつまでもそこにいて(韓国と対峙)くれれば御の字だと。
ーそういうことですか?」

そんなにわかりにくいかな。簡単に考えればいいのですよ。
第1の前提として、北が核を手放さないことです。
第2に、その理由は北が中国を大嫌いだからです。
この二つが判ってくると、朝鮮問題は違って見えますよ。

これはルトワックも指摘していますが、北は核を手放してしまったら、その瞬間中国の属国になってしまうことを骨身に徹して分かっています。
この中国に対するヒリヒリするような危機感は、唯々諾々と中国から「三不の誓い」を呑まされてしまったようなムン閣下には逆立ちしてもわかりません。
おそらく正恩がこの間メチャクチャにムン閣下を罵倒している一つの理由は、この中国に対する警戒心のなさがイラつかせるのです。
お前な、国家の基幹の安全保障をチューゴクが言うがママにしたらどないなるんねん、属国やぞ、そないなもん。
おのれは、昔の李王朝にもどりたいんかい、ボケカス。
わしらはおのれの国と違って米帝に守ってもらっておらんのじゃ、痩せても枯れても一本どっこの土俵入の気構えなんじゃ。
と、馬鹿は馬鹿なりに筋目の正しい馬鹿であります。

ちょっと美化しすぎたかなとは思いますが、北が韓国のような国なら、朝鮮戦争終了後に一部の中国軍を残してもらって、在韓米軍のような役割をしてもらうという選択肢もありえたのです。
しかし金日成はかつての宗主国である中国軍の駐留を一切認めませんでした。
それはそんなものを認めれば、必ずそれを後ろ楯にして延安派が巻き返しを計るのが見えていたからです。
キムは駐朝中国軍の代わりに、「パンツをはかないでも原爆を持つ」という毛沢東ばりの核武装路線を選びまた。
その意味で、彼らの核は大国支配拒否のシンボルでもあるのです。
泣きわめく三歳児のような韓国をみていると、北が好きになりそうでコワイ(苦笑)。

それはともかく、とまぁこのように表面的には友好国、いや中朝安保で繋がった同盟国という顔をしながら、内心はお前の言うように絶対にならんからな、というコアの部分を持っている北に対して中国は韓国に対してしたような「犬のしつけ」ができなかったのです。
そんなことをして正恩を追い詰めたら、窮鼠猫を噛むとなりかねないからです。

北は核兵器が政治的武器だと承知しています。
仮にほんとうにこの核兵器を使うとすれば、地下何十メートルに作られた最高司令部で「殿、ご落城でございます。お腹をお召し下さい」と聞かされた時だけです。
ですから、平時は弱者の恫喝用兵器なのです。

では逆に中国にとって都合がいい順番からシナリオを並べてみますね。
あくまでも「中国にとって」で、北の国民の幸福とは無関係ですから念のため。

①正恩を祭り上げて張成沢のような親中国派の指導部が成立
②正恩派を放逐した親中派の支配
③正恩が支配する最貧国

①は張が実際に中国が後ろ楯となって実行しようとしましたが、直前に漏れて失敗したと言われています。
「とおりすがり」さんがいうように「触らぬ神に祟りなし」どころか、実際はやっていたのです。
これが成功していれば、北は改革開放経済となって、いまのような密輸ではなく経済的にも晴れて中華圏に繰り込まれることになります。
この場合、正恩一族は温存され、権力なき元首として祭り上げられます。
この方法だと三代続けた「白頭山の革命の血脈」支配をいじらずに比較的スムーズに展開するように見えます。
この張のクーデターは、正恩を若造と甘くみくびったためにあえなく失敗しました。おそらく相当数いたはずの親中派は根こそぎ粛清されたはずです。
これからわかるのは、正恩はおとなしく祭り上げられるタマではないということです。
これ以降、今までにも増して人民軍に対する締めつけは強くなり、いまでは正恩が海外に行くときには指揮官たちは拘束され厳しい監視下におかれるそうです。

②は正恩を追放して、クーデターが成功したケースですが、そもそも3代目が同意して権力委譲するわけはありませんから、軍を二分しての内戦を覚悟せねばなりません。
その場合、臨時革命政府の形式で、中国に中朝安保に基づく派兵を要請することになります。
中国軍が大挙して鴨緑江を渡り、中国特殊部隊は核兵器を一刻も早く押えようとすることでしょう。
発射スイッチを押させないために、中国版斬首作戦もありえます。

このようなことを中国は軍事的にはやってやれないことではありませんが、「現状の力による変更」ですから米国の承認、ないしは黙認が必要不可欠です。
さもないと、ロシアのクリミア併合と一緒の扱いを受けて、国際社会の制裁対象となりかねません。
米国は正恩を排除することには同意できても、中国軍が侵攻するとなると北をまるごと中華圏に繰り入れるということですから拒否するでしょう。
軍事的には可能でも、政治的には極めてリスキーな選択です。

となると、現状ではかねてからそうであったように、「生かさず殺さず」が一番だということになります。
つまり「解決しない」という解決です。
死なない程度には密輸させてやるから、あまり無茶すんじゃねぇぞ、といったところですか。
それがどこまでいきますやら、天のみが知るです。

 

 

2019年12月27日 (金)

ロシアの調子は国際原油価格をみればわかる


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朝鮮半島を考えるときに、もっとも見えにくい東アジアもうひとりの登場人物がいます。
それはロシアです。
東アジアでの存在感は希薄ですが、なにかいい介入のネタがないか、カネになるものはないかと常に眼を光らせているというお方です。

さていきなりですが、ロシアはなにで食っているかご存じでしょうか。
原油です。
ロシアにはありていに言って、他になにも売るものがないと言ってさしつかえないでしょう。その意味で、サウジやUAEなどの中東産油国以上の原油依存国なのです。
中東諸国は今は金融業が大きいですから、ロシアほどモノカルチャーではなくなっています。

ウラジーミル・プーチンは、1998年のロシア金融危機で打撃を受けた経済を建て直し、大きく経済成長させましたが、それは原油・天然ガスの輸出に徹底的に依存したからです。
そのためにプーチンはガスブロムなどの大手石油関連公社を垂直統合させ、独占体制を作り上げ、そこに国が集中投資しました。
元来、天然ガスと生産量は世界2位の石油の生産量を持っていたために、この生産体制の再編により、ロシア政府の財政収入の半分はいまや石油・天然ガス輸出収入に頼っています。
ロシアには原油以外に輸出して外貨を稼げる商品がありませんから、もはや原油なくしては生きられない石油中毒体質というわけです。

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プーチン支持率はやや低下傾向にあるもののいまだにすさまじい高さを誇っていますが、その理由は一にも二にもロシア経済を発展させたからです。
ロシア経済はプーチンが首相になった1999年から7%程度の経済成長を続けています。
ソ連崩壊による国家存亡の危機とその後の金融危機から、一転して中国並の高度経済成長に突入したのですから、国民が民主主義を踏みにじられようと、言論を抑圧されようと、はたまたイランと結託して中東で火遊びをしようと、つい支持してしまうのはわからないでもありません。
え、西側の制裁を招いてしまったウクライナですか。あれは民族主義をくすぐる材料にこそなれ、マイナスにはなりません。

これはプーチンひとりの手柄というより、原油国際市場がプーチンが政権を握ったあたりから見る見るうちに急騰したからです。
下図はロシアの経済成長と国際原油価格との相関関係を見たものですが、グラフ赤線の原油国際市場価格に注目してください。
国際原油価格は1999年あたりからバレル20ドル台からぐんぐん上昇を続け、2005年にはとうとう倍以上の50ドル台に乗せ、2008年にはとうとう100ドル一歩手前という異常な高価格にまで達しています。
いやー、ロシアにとってはたまりませんなぁ。経済成長率も落ち込みがひどかった分、政権掌握翌年の2000年には8%を叩き出し、以後おおよそ7%台前後を推移しています。
この時期にプーチンはガタガタになったロシア軍を再建して、再び米国と並ぶような精鋭な軍隊に建て直しています。
ソ連帝国を再建し、西側をギャフンといわしてやる、これが彼の政治的理念のすべてです。

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前掲

と、ここまではイケイケだったのですが、上図の後の時代をみると2014年はこんな暗転が待ち構えていました。

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2014年後半以降、原油価格が急落し、ルーブルは急落し、政府収入をそれに頼っていたためにロシアは財政危機に直面します。
まぁそののちに国際市場価格が持ち直していまはなんとか凌いでいますが、この石油と国家経済が連動してしまうというシンプルさが、ロシアの大きな特徴だといえるでしょう。

要は、ロシアは国際原油価格が良いときは鼻柱が強く、低迷すればいきなり弱気になっちゃうのです。中国とは別の意味で、ロシアも分かりやすい国だともいえます。
ですから、ここのところの原油価格をみればロシアの調子がだいたい想像ついてしまいます。

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【原油(WTI原油先物)チャート】 https://www.matsui.co.jp/market/report/stock_info/201801_01.html

直近は下図ですが、現在のWTI価格はバレル60ドル近辺でもみあっている展開となっているようです。

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https://news.livedoor.com/article/detail/9594772

60ドルはひとつの指標ラインでここを超えると、買いが入って40ドルあたりまで下げるという上限ラインです。
こういう時期に北方領土交渉をしても厳しいでしょうな。やるならソ連崩壊直後か、2016年あたりだったかもしれません。

ま、それはともかくロシアは2本のパイプラインを作ると言っています。
ひとつはノルドストリーム2と呼ばれるロシアと欧州を結ぶ石油パイプラインです。


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https://www.asahi.com/articles/photo/AS20171218000

もう一本は、シベリアから中国への初の天然ガス・パイプラインです。

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https://togetter.com/li/1438394

このうちのロシア、ドイツなどの欧州諸国を結ぶノルドストリーム2について、米国は激しく反対し、もしやるなら国防権限法を使って制裁するぞとまで言っています。
一方、シベリアと中国を結ぶパイプラインにはいまのところ沈黙を保っています。
この温度差はどこからくるのでしょうか。

というところで、ああいかん、前置きが長すぎて紙数が尽きてしまいました。次回に回します。

 

 

2019年12月26日 (木)

北朝鮮の潜在的最大脅威は中国だ

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正恩がクリスマスプレゼントをするぞなんて吹いたもんで、まさかねとは思いつつ気にはしていました。
結局は、正恩サンタは現れなかったみたいですが、長距離弾道ミサイル用と見られるロケットエンジンのテストをしました。
これだけでじゅうぶんに国連制裁決議違反ですので、制裁強化をする口実になりえます。

そもそも12月22日はクリスマスプレゼントどころか、2017年12月の国連制裁決議の目玉まであった「収入を得ているすべての北朝鮮労働者の送還」を求めたタイムリミットでした。
中国はカエルのツラになんとやらといった風情で、シャラっとこのタイムリミットを無視しました。

「北朝鮮の核やミサイル開発の資金源を断つため、国連は制裁決議で各国に対し、22日までに北朝鮮の労働者を送還するように求めています。ただ、北朝鮮の友好国・中国では依然として多くの労働者がとどまっていて、北朝鮮の外貨獲得を黙認する形になっています」(NHK12月22日)
「北京の外交筋は「中国の決議履行状況は各国の外交官やメディアが見ている。米国を刺激するような明白な決議違反はないだろう」と話す。実際、中国政府は労働ビザの新規発給や更新を止めたとみられる。だが中国政府の強調する決議順守が形式的で、北朝鮮の資金源遮断までは踏み込んでいないフシがある」(東京12月22日)

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東京新聞

東京の記事にあるようにおそらく中国はビザの新規発給・更新はしないものの、現に働いている北の労働者にたいしては黙認するかまえのようです。
また今までとは別枠で「実習生」名目での受け入れを盛んにしているようです。

北朝鮮から海外に渡って働く労働者は約10万ともいわれ、米国務省の推定では中国で5万人、全世界で十万人の北朝鮮労働者が年約550億円規模のカネを稼いでいます。
わかりきったことですが、これこそが北にとって最大の資金源で、ポンポン撃っている弾道ミサイルの資金源はこれです。
したがってこのパイプを遮断せぬかきり、北は今後もクリスマスプレゼント作りに精出せるという仕掛けです。

中国は北を本気で干上がらせる気はありません。国連制裁を遵守しないどころか、むしろ制裁を緩めて北との「貿易往来の強化」をしろとまで公然と言い出す有り様です。

「すでに中朝両政府は労働者の送還期限後を見据えて協議しているとみられる。六月に習近平国家主席が初訪朝して金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談し、経済や民生分野での交流促進を確認して以降、訪朝した中国高官は「人員と貿易往来の強化」(遼寧省政府トップ)や「領事交流の促進」(外務次官)などについて口々に言及する。
 十六日には中国はロシアとともに、北朝鮮への制裁緩和を求める決議案を安保理各国に配布した。北朝鮮労働者の送還撤回も含まれる」(東京前掲)

一方、ロシアは国連制裁を守る方向で既に動いています。

「ロシアにはおととし12月の時点で3万人余りの北朝鮮の労働者が登録され、人口の少ない極東地域を中心に建設業や農林水産業の現場で働いていました。
しかし、国連の制裁決議が採択されるとロシアは順守する姿勢を示し、去年12月の時点では1万1500人ほどに減り、ことし3月の時点では4000人ほどにまで減ったと見られています。今月に入るとウラジオストク空港とピョンヤンの空港を結ぶ便が大幅に増便され、連日、多くの荷物を抱えた北朝鮮労働者が帰国していました。
北朝鮮の労働者が帰国した影響で、ウラジオストクでは中央アジアや東南アジアなど別の国の労働者を代わりに雇い始めた現場や一時的に建設が止まった現場もあるということです」(NHK前掲)

このように中露で温度差が出たのはなぜでしょうか?よくある通俗的解説はこのようなものです。

「北朝鮮が対米交渉の期限を年末に指定して挑発を強める中、中国は北朝鮮の後ろ盾として振る舞い、米国への外交カードとする狙いもあるとみられる」(東京前掲)

違うでしょうね。
北と首脳間交渉が成立している以上、中国に借りを作ってまで口ききをしてもらう必要はありません。
むしろ米国は中国の制裁のザル状況を熟知しており、北労働者の送還決議を守らない中国に対して国防権限法などを使って制裁できてしまいます。
つまり北への圧力は中国の手にはなく、いまや米国の中国に向けたカードに転化しているのです。

中国が北に甘い最大の理由は、ダイレクトに核ミサイルで中国中枢を狙えるからです。
北の弾道ミサイル実験は、常に地球の自転方向に打ち上げて日本海に落とすというパターンのために、逆向きの西にも撃てるたことをつい忘れがちですが、発射地点から射程の円を描いてみればすぐにわかります。
中国の首都北京、北方艦隊の拠点青島、工業の拠点天津などはすっぽりと北の核ミサイルの射程内にあります。

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読売

ちなみに北の弾道ミサイルはこのようなものですが、ほぼすべての弾道ミサイルが中国を射程に納め、かつ、核兵器を搭載可能であることがお分かりになるとおもいます。
しかも中距離弾道ミサイルがこのような目と鼻の先で発射された場合、日米のMD(ミサイルディフェンス)ですら迎撃が困難でしょう。
ましてMDを一切持たない中国にとって、北の弾道ミサイルこそがもっともリアルなリスクなのです。

KN-02 短距離(SRBM) 射程160km
スカッド(C,ER)「火星」短距離(SRBM) 射程500km
ノドン「木星or火星7号」準中距離(MRBM) 射程1300km
テポドン1号「白頭山1号」中距離(MRBM) 射程2000km TEL(移動型)
ムスダン「?」中距離(MRBM) 射程3000km TEL(移動型)
テポドン2号「銀河2号,3号」大陸間(ICBM) 射程6700km 地下サイロ発射型
KN-08「?」 大陸間(ICBM) 射程6000-9000km TEL(移動型)
テポドン2B号 大陸間(ICBM) 射程8000km?

北朝鮮の立場になってかんがえれば決して不自然ではありません。
北は陸続きで中露と接しています。

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実際に、中国は朝鮮戦争時には当初前線に投入された部隊だけで20万人、後方待機部隊を含めると100万人に達する中国正規軍を北に送り込みました。
下の写真は鴨緑江を歩いて渡河する中国軍ですが、このように容易に北を陸上から大規模な地上軍で侵攻できるのは、世界広しといえど中国しか存在しません。

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Wikipedia

これがいかに北にとって悪夢なのか、彼らの立場になればわかるはずです。
朝鮮戦争のみならず、現代においても中国は常に北中枢内部に親中派を扶植して、金王朝の交代を画策していると正恩は思っています。
金王朝は中国派(延安派)との残忍な党内闘争に勝ち抜いて成立したものです。
金日成は満州派でしたが、当初党内でもっとも強力で軍にも強い力を持っていたのが延安派でした。
彼らは満州で日本軍から逃げていただけの経験しかない金日成たちとは異なり、国共内戦を経験した猛者揃いでした。
延安派は個人崇拝で権力を固めようとする金日成を批判し主導権を握ろうとしますが、逆に根こそぎ粛清されてしまいます。
つまり、金王朝は中国の影響力と戦って生まれた政権なのです。

「朝鮮戦争の時点で、すでに朝鮮労働党に対抗しうる政党は存在しませんでした。朝鮮戦争停戦後に注目すべきなのは、労働党内部の派閥闘争の激化です。南労党派の一掃後も、延安派、ソ連派は存在しました。スターリンの死後、ソ連でスターリン批判が始まったことで、延安派・ソ連派は金日成批判を始めます。これでいっきに対立が深まりました。
金日成は粛清を行いましたが、ソ連や中国の介入があり、粛清には時間がかかりました。延安派は中国の、ソ連派はソ連の影響力がありましたから、両国は彼らを救おうとしたわけです。金日成はこれを跳ね除け、徐々に有利な状況を作りだし、最終的に両派を一掃します。1960年には満州派による朝鮮労働党の支配体制が確立しました」」
北朝鮮の独裁的な軍事体制はなぜ崩壊しないのか 宮本悟×荻上チキ

いまでも北は、中国との物資のやりとりを通じて党内に多くの中国派を抱え込んでいます。
彼らの頭目がチャン・ソンテク(張成沢)という正恩の叔父にして事実上の北のナンバー2でした。 
チャンを粛清するに当たっては、わざわざ党大会当日を選び、幹部たちの目前で連行し、わずか4日後に党幹部の前で機関砲でバラバラにして、死体は犬の餌にされました。 
チャンは部下であった2人の男の処刑台の横に座らされ、20ミリ機関銃で処刑された部下の大量の肉片と血がチャンの頭から降り注いだそうです。
チャンは気絶し、蘇生させられてから、彼自身が処刑台に据えられたそうです。

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彼をこんな残虐なやり方で抹殺したのは、新王が権力を掌握したことを臣民に知らしめ、中国にへつらう奴らは皆殺しだと宣言するためでした。
まさに古代王朝の粛清劇のような惨劇が展開されたといいます。
処刑はチャンの党と軍の部下たちだけにとどまらず、中華文化圏特有の九族に及びました。
 
九族とは直系の九親等をさしますが、現実には関わった多くの人たちをも巻き込んだ大粛清劇であるのが一般的です。 

チャンの姉と夫のチョン・ヨンジン(全英鎮)駐キューバ大使、甥のチャン・ヨンチョル(張勇哲)駐マレーシア大使、及び彼の20代の息子2人も、ピョンヤンに召還されて相次いで処刑されています。 
また、チャンの2人の兄(故人)の息子や娘、孫まで探し出して処刑するという徹底ぶりです。 

逆に仮にこのチャンのクーデターが成功していた場合、正恩派との内戦になり、チャンは当然中国軍に平和維持軍の名目での介入を要請するでしょう。
金王朝はその場合文字通り跡形もなく消滅しますが、崩壊する可能性はこのクーデターによる中国軍介入のシナリオだけしか私には思いつきません。
したがって北にとっての潜在的脅威のナンバーワンは遠く離れて地続きでもない米国ではなく、ダントツトップが中国、次いでロシアなのです。

このことは米国もよく分かっているし、中国はなおさらリアルに理解しています。
ですから生かさず殺さず世界最貧国のまま、韓国との干渉地帯となってくれている今がもっともいいのです。

このように考えてくるとなぜ中国がほんとうに北を絞め殺してしまうことになりかねない労働者送還をネグレクトし、むしろ「中朝貿易を活発にする」と言い出しているのか分かると思います。

 

 

 

2019年12月25日 (水)

三カ国サミットが終わりました

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中国という国は分かりやすい国です。強い者には弱く、弱い者には強いのです。
習近平は、日本と韓国双方と個別に首脳会談をしたあとに三カ国サミットをし、日本には李克強が直々に安倍氏を案内して史跡巡りをするそうです。
ムン閣下はそのままお帰りだそうです。

ムン閣下は盛んに習に尻尾をふって甘えてみせましたが、実に冷淡な対応だったようです。
なんとウィグルや香港問題はあなた様の内政の問題でございます、とまでいっちゃったと中国からばらされてしまいました(苦笑)。

「だが、会談直後、中国メディアが韓中首脳会談の内容を「速報」として先に報道しながら論争が始まった。「文大統領が、香港と新疆問題について『中国の内政』だと明らかにした」という内容だった。韓国政府が公式に中国側に回ったという趣旨だ。特に香港問題は米国と中国が対立する敏感な外交および人権イシューだ。
中国中央電視台(CCTV)は午後2時20分ごろ(現地時間)、「韓国は、香港の事務にしても新疆に関連した問題にしても、すべて中国の内政だと認識している」と文大統領が言及したと報じた。中国共産党機関紙「人民日報」も同じ内容をタイトルに選んでSMS(ショート・メッセージ・サービス)速報として伝えた。中国外交部の耿爽報道官は午後の記者会見で該当の報道に対して論評を求められると「この表現は事実に符合する。彼は基本的な事実を述べた」とし、報道が事実である趣旨で答えた」(中央日報12月24日)
https://japanese.joins.com/JArticle/260834

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中央日報

韓国政府は否定していますが、ホスト国の外交部の報道官がこの容認発言を認めてしまっていますから、まちがいなく言ってしまったのでしょうね。
いまさら驚きはありませんが、それだけではなく、ムン閣下が限韓令を止めて下さいとお願いしたところ相手にされず、逆にTHAADで学習から「妥当に解決しろ」と釘を刺されたようです。
限韓令とは「THAAD事態以降、現在も進行している団体旅行の制限などのことですが、まぁ韓国が今日本におやりになっている「限日令」を中国からズッとやられているということです。
中国が言う「妥当に解決しろ」の意味は、「三不の誓い」を守れという念押しです。

「習主席はTHAAD問題に関連して「妥当に解決されるよう願っている」と言及し、文大統領は「韓国政府の立場は前回と変わりない」と答えた。文大統領は6月の韓中首脳会談当時、「THAAD問題は非核化が成し遂げられてこそ解決することができる部分」と話していた」(中央日報12月24日)
https://japanese.joins.com/JArticle/260830


「三不の誓い」を中央日報に説明してもらいましょう。

「中国は2017年10月、いわゆるTHAAD合意後、韓国が▼THAAD追加配置不検討▼米国のミサイル防衛(MD)体系への不編入▼韓日米軍事同盟発展不可--という韓国政府の立場にもTHAAD関連の制裁を緩和していない」(中央前掲)

ひとことでいえば主権の放棄です。外国に安全保障についてアレをしてはならないとか、日米韓同盟に参加するなとか言われる筋合いはありません。
これを韓国が呑んだ時点で韓国の中国の属国の地位に逆戻りしたということです。
つまり李王朝への回帰です。

当時英国エコノミストはこのように評していました。いわく「犬アプローチ」

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"IT IS China’s least edifying diplomatic strategy, and it is certainly not from “The Analects” of Confucius or from Sun Tzu’s “Art of War”. Call it the doghouse approach. If China does not like what you are doing, it bullies you until you change. If you don’t, it punishes you by putting you in the doghouse. If you still refuse to change, it pulls you out again after a suitable term of punishment, pretends all is normal, and expects you to be grateful."

これは中国の最も外交的な外交戦略であり、(略) それを犬小屋アプローチと呼びます。 中国があなたがしていることを好まない場合、あなたが変わるまであなたをいじめます。また犬小屋に入れて罰します。 それでも変更を拒否する場合は、適切な罰則期間が経過した後、再びあなたを引き出し、すべてが正常であるふりをし、感謝することを期待しています。
South Korea is making up with China, but a sour taste remains(The Economist

意にそぐわなかったら、変化するまで圧迫し、それでも言うことをきかない場合、あるていど時間をおいてから正常だよといってやって感謝させてしまう、おもわずなるほどね、と思ってしまいます。
さすが異民族支配のプロの英国ならでは解説です。
中国はまさにこのとおりのことをして韓国をいじめ続け、米国に配慮してTHAADを撤去しないとみるや再び引き出して頭を軽くなでてやるということです。
とおからず、韓国は従順な属国に完全復帰することでしょう。

さてこのように中国は異民族支配には巧妙な「犬のしつけ」をしますが、いったん独立の気概を見せた国に対してはもう少し丁重なおもてなしだったようです。
今回の首脳会談では、安倍氏に対して習は香港とウィグルに対しての弾圧を「しゃべらせ」ました。
下写真がその時のものですが、こういうときの両首脳の顔っておもしろいですね。ニカニカ笑うと双方ともに国内からなんだその態度はふざけんな、とやられますが、かといってしかめつらもできないので、このようななんともいえない顔で握手だけはしました、ということになります。
たぶん、来年来る時はもう少しニカニカするんじゃないですか。こなくていいですが。

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「会談後の記者会見で大鷹正人外務報道官は、香港をめぐって安倍首相が中国に引き続き自制を求め、事態の早期収拾を望むと表明したことを明らかにした。
安倍首相の発言に対して習主席は、香港は「国内問題」であるとの立場を繰り返したとされる。
また大鷹報道官によると、両首脳は北朝鮮と朝鮮半島の非核化についても協議。習氏は対北制裁緩和を提案する中ロによる国連(UN)決議案への支持を求めたという。
さらに安倍首相は、新疆ウイグル自治区における人権問題にも言及し、中国政府が透明性をもった説明をすることを望むと述べたと、同報道官は話している。(AFP12月24日)
https://www.afpbb.com/articles/-/3260897

首脳が何をしゃべるのかは事前に事務方が相当程度まで詰めます。
会談の後に共同宣言が予定されているならな、その文言の一字一句まで双方で詰めきります。
ですから、安倍氏が直接の首脳会談の場で習に「言った」という意味は、中国が今回それを容認したということです。

安倍氏と習氏の会談は2016年にも短時間ながらありましたが、その時はこんなかんじでした。

「首相と習氏の会談は、以前は設定自体が難航した。旧民主党政権による尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化の影響などもあり、平成28年9月に2人が中国・杭州で会談した際は「30分の会談のために日中の事務方が直前に5時間協議しても、なかなか日程が決まらなかった」(日本政府関係者)。中国側が「東シナ海問題に触れれば会談開催が危うくなる」などと条件を付けてきたためだ。
時は過ぎ、首相は今回の会談で尖閣周辺での中国公船の挑発や人権問題にも切り込んだ。会談に同席した岡田直樹官房副長官は「率直かつ建設的な議論を行うことが可能になった」との認識を記者団に示した」(産経12月23日)

では安倍氏は習に国賓招待をカードにして「国内世論の納得が得られない」と尖閣、香港、ウィグルという苦い薬を3ツ飲ましたのですが、今後どうなるのでしょうか。
残念ですが、どうにもなりません。
その理由は日本はまだまだ弱く、中国の約束ほどアテにならないものはないからです。
中国は、南シナ海でも国際海洋条約を破って国際司法裁判所からアンタの負けといいわたされてもシカとした国です。
いままでさんざん合意文書や共同声明はつくられましたが、決してその内容を遵守しようとはしませんでしたし、、いったん都合が悪くなるか、自国の戦略的目的実現のチャンスの到来と見れば、あっさりとクズ箱に投げ捨てています。

両国関係の基礎となる日中友好平和条約にある覇権条項など、とうの昔に反故です。
そういう国が相手と思わねばなりません。
ましてや会談でこちらが言い分を「言った」ていどとなると、その有効期間はその会議の時間だけにすぎません。

最悪は媚びへつらうことで、ムンのように浮ついたリップサービスを並べれば並べるだけバカにされて「犬のしつけ」をされてしまいます。
わが国でも、民主党政権時には事前になんの戦略性もなく国有化をして怒りを買ってうろたえたかとおもうと、尖閣漁船衝突事件時には犯人をしらべもないで送り返しています。
こういう愚行をすると、たちまち「犬のしつけ」をされて大規模反日暴動をうけ、その後は口もきいてもらえないといった時期が続きます。
ですから中華皇帝に対して、日本は常に毅然と日本の言い分を述べ、彼に日米同盟という最強のカードを忘れさせないことです。

 

 

2019年12月24日 (火)

日韓首脳会談があってもなにも変わらない

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今日あたり、ムン閣下はあれほど熱望したうちの国の首相と会談にこぎつけたようです。
結果は既に見えていますが、とりあえずおめでとうね、と言ってやったほうがいいのかな。
「文在寅(ムン・ジェイン)大統領と安倍晋三首相が24日、中国成都で首脳会談を行うと、韓国の青瓦台(チョンワデ、大統領府)が20日発表した。今回の韓日首脳会談は成都で開催される韓日中首脳会談を機に行われる。
青瓦台の金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長はこの日の会見でこのような日程を説明した後、「15カ月ぶりに開催される2国間の首脳会談であり、これまでの厳しい両国関係を考えると開催自体に大きな意味があるといえる」と述べた」(中央日報12月20日)
キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長にかかると、「会えた」というだけで、「会談では日本の対韓輸出規制や韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)などの懸案を議論するとみられる。青瓦台関係者は「首脳同士が会えばモメンタム(動力)が生じるのでいつも少し進展があるものだ」(聯合前掲)そうです。
せっかく喜んでいるのにナンですが、ないない。
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金鉉宗・青瓦台国家安保室第2次長 聯合ニュース
この妙に楽観的なことを言っているキム・ヒョンジョンこそGSOMIAをぶっ壊した張本人です。
事実上の青瓦台のナンバー2、あのシルバーヘア(白髪と呼ぶな)が美しいカン・ギョンファ外相を押し退けて外交関係はこの男が仕切っています。
で、この人物がムン閣下に、「ボス、GSOMIAカードは使えますぜ」というトンデモ進言をしてしまったために、ご存じのような米韓関係の氷河期突入が決定してしまったわけですが、その時の発言。

「金次長は「われわれは米国と十分に意思疎通・協議し、米国はこれに対して希望通り延長されなかったことに失望したと考えている」としながら、「だが重要なのは、この機会が韓米同盟関係をさらに一段階アップグレードできるきっかけになることだ」と述べた」(韓国聯合ニュース8月23日)
あれだけ米国要人から厳しい警告を受けていていながら、GSOMIA廃棄が「一段と米韓関係がグレードアップできるきっかけとなる」と言っているんですから、どういう頭脳構造になっているのか、普通の政府なら更迭されても文句はいえない重大な失敗です。
今回の日韓首脳会談は「進展のモメンタム」になるかといえば、その可能性はかぎりなくゼロです。

こんな分析をキムが政府に伝えるものだから、当該の産業通商資源相ソン・ユンモ(成允模)までもが、12月22日「日本の輸出管理が一部見直されただけでは不十分」と記者に語ったというニュースが伝わってきました。

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日テレ
おいおいまだ会ってもいないうちからもうゴールを設定してどうするの、相手国との会談を無意味に拘束するばかりか、引っ込みがつかなくなるでしょうが。
「韓国の成允模産業通商資源相は22日、日本の経産省が20日に韓国向けの半導体材料の輸出管理の一部を見直したことについて、次のような認識を示した。
成允模産業通商資源相「日本の措置で若干の進展があったと評価されるが、輸出規制の根本的な問題解決には不十分だ」また、成氏は「7月前の状態への回復とホワイト国への復帰が本質的な要求事項だ」とした上で、「実質的な対話の進展を期待し最善を尽くす」と述べた。
午後、中国・北京で行われる日中韓の貿易担当相会議に梶山経産相と成氏も出席する予定」(日テレ12月22日)
http://www.news24.jp/articles/2019/12/22/10566403.html

ソン大臣も現状分析からして間違っています。
「日本の措置で若干の進展があった」ということはなにを捉えて言っているのかといえば、現在輸出規制管理が強化されたレジストの輸出審査方式が、「個別審査」から「特定包括許可」になったということだけの話です。
これを「規制緩和したぞ、日本は折れてきている」と韓国はとったわけです。
いや、なりませんって。どうしていつもいつも願望を現実とすり替えてしまうんだろう、この国は(ため息)。

「ホワイト国」から落ちて一回ずつ審査することになったのですが、これだと日本側の事務手続きが膨大になってしまうのです。
経済産業省からしても、一回の取引について多くの人員を割いて審査していたら、事務手続きが遅滞する一方です。
別に日本は貿易管理を透明性をもってやってくれと言っているだけで、遅らせることに意味をもたせているわけではないのです。
わが国は淡々と事務処理しているだけで、どこかの国と違ってイヤガラセに国をかけていませんからね。
ですから、ひとつの企業が「目的用途に合致している取引」をまじめにしている、裏取引はしていないと分かれば、元の「特定包括許可」にもどしてやってもいいよ、ということです。
そのかわり、抜き打ち検査をしたり、予告なしの文書提出などは要求するからね、ということです。
そこで違反事項が見つかれば、元の個別審査に戻して締めていく、ということになります。
ところが、ソン大臣は「ホワイト国に戻せ、それが本質的解決だ」なんて言ってしまったわけで、こんな輸出管理なんて内政上の案件に外国政府からそんなことを言われる筋合いはありません。
あくまでも決定するのは日本ですし、日本からの要求にまともに答えているとは言えない韓国からとやかく言われても困ります。
元経済産業省貿易管理部長・細川昌彦 (中部大学教授)はこのように述べています。
「(3年半ぶりに日韓の輸出管理を巡る対話) で、日本側にはどうしても押さえておきたい点が2つあった。
第1は、先般の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)延長問題と輸出管理の問題をリンクさせず、輸出管理の世界だけで完結させること。
第2は、輸出管理の運用は各国が自分で判断して決めることで、相手国と交渉するのはなじまないことだ」

細川氏が述べているように、あくまで輸出管理の主権は当該国にあります。
韓国は今まで杜撰な審査方法で、日本から
兵器転用な可能な物質が韓国に輸出された後、忽然と消えて中東の国に現れ、それから転売されてイランに渡ったと見られる案件が複数あります。
どうやら、韓国はイランと原油と大量破壊兵器の素材を交換していたらしいという疑惑すら もたれています。
そしてどうやら、イランは再び核兵器を持つつもりのようです。

ですから、日本は核兵器を持とうとする国、イランや北朝鮮に対して、その素材となるような3品目に関しては「輸出管理規制」をするとしたのです。
これを日本のメディアは短絡して「禁輸」と捉えてしまいました。
しかも「徴用工裁判への報復」という勝手な憶測までつけて報じたために、韓国が日本製品不買からGSOMIA廃棄騒動まで引き起こし、韓国の安全保障体制に大きな打撃を与えてしまったわけです。
「徴用工」裁判はただの「背景」にすぎません。
毎度のことながら罪深いことよ、日本メディア。

ですから輸出禁止するしないといった大げさな次元の話ではなく、一定の輸出手続きの基準を満たしているかどうかを審査するというだけの手続き上の問題だったのです。
貿易管理部門を強化するなり、文書構築を締め直すなりすれば対応できるいわば技術的問題にすぎなかったものを、わざわざwtoに貞操するぞとやってみたり、米国に泣きついてみたりしたあげくが「ええい、安全保障上の理由って言うんなら、GSOMIAを廃棄してやる」ですから、まるで子供の自傷行為です。

いまでもテレビで「輸出規制」なんて平気で言っているコメンテーターかいますから、おさらいしておきましょう。
たとえば
日本には多くの航空会社が乗り入れていますが、ある特定の国に向けて渡航禁止を政府が命じることが、この「輸出規制」です。
一方「輸出管理」とは、搭乗手続における手荷物検査やパスポート審査などのセキュリティ強化のことです。
今まで日本は、韓国に対して「ホワイト国」、つまりイミグレなし国待遇としていたのですが、あまりに輸出管理が杜撰で大量破壊兵器を作る材料をアブナイ国に流している疑いが濃厚だったので、これを止めて普通の国と同じような輸出管理をしますよ、というただこれだけのことです。
なんせ3年以上も、経済産業省が韓国に対して輸出管理について話あいましょう、文書を見せて下さいとお願いしても、答えひとつ寄越さなかったんですからね。
それをいまになって、協議しろはないもんです。

一方、韓国は日本が徴用工判決に対して報復しているという間違った理解がベースにあるために、米国にすがろうとしました。
米国は冷やかな対応をとりました。そりゃそうです、当該国の内政に当たる輸出管理をどうのこうの言われても困るし、そもそも日本側の考えは事前に米国へ伝えてあったからです。

この日本の輸出管理規制は中国、イラン、北朝鮮などの大量破壊兵器を製造している国に対して向けられているワッセナー・アレンジメントを根拠にしています。
ワッセナー・アレンジメントを作った国こそ、他ならぬ米国です。
ですから、これを根拠に「ホワイト国」から通常国にした日本の措置をもっともよく理解して支持していたのは米国なのです。

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https://slidesplayer.net/slide/11345001/

このワッセナー・アレンジメントは多国間の紳士協定でしたが、米国はそれでは不十分と見て作ったのが、さらに強力な輸出管理規制でした。
たとえば2019年に作られた国防権限法(NDAA)や米国輸出管理改革法(ECRA によって、
米国はいままでの武器類だけではなく、その部品、製造機械、関連技術、AIなどまで含んだ輸出管理規制措置が取れることになりました。
ファーウェイへの強い輸出管理規制がこれに相当します。
このような米国の輸出管理規制と、日本が韓国へとった輸出管理規制はまったく同根同質です。
したがって、米国へすがった韓国がすげなくされるのはあたりまえすぎるほどあたりまえだったのです。

では今回の首脳会談はどうなるでしょうか。わかりきっています。
韓国は人治の国で、しかも米国大統領を凌ぐ権限を持つと言われる韓国大統領と、日本の首相を混同しています。
わが国には、当該大臣の頭越しに輸出管理規制緩和を命じる権限は首相にありませんから、首脳会談でどうのこうのということ自体がお門違いです。
しかも最新の世論調査でも7割の国民が輸出管理規制強化に賛成しているのに、今そんなことを首相がやったらブーイングの嵐でしょうね。

とまれ韓国があくまでも「ホワイト国」に復帰するのが悲願ならば、細川氏が指摘するようなことをすればよいだけのことです。

「もちろんこの場で措置撤回の要請をするのは韓国の勝手だ。しかしあくまでボールは韓国にあることを忘れてはならない。韓国が輸出管理の問題を改善しない限り、何も事態は変わらない。
いわゆる「ホワイト国」に戻るために指摘されているのは、韓国政府の輸出管理の審査担当者の数が極端に少なく、体制が脆弱である点だ。他国と比べた場合の法制度の不備も指摘されている。こうした指摘に対して、韓国も人員を5割増やして拡充するという。良い方向に向かっていることは確かだ。
 しかし単に審査の人数を増やせばいいのではない。審査には専門知識が必要で、素人がすぐにできるものではない。しかも韓国では本省の役人はわずかで、外郭団体や他省庁の多くの人員が含まれている。はたしてそれで輸出品の最終用途の確認など、機微な審査まできしっかりとできるようになるのか。法制度も不備を直して実効的になることが大事だ」(細川前掲)

細川氏が述べるように、「輸出管理の世界で完結するべき」で、「輸出管理は交渉で決めるものではない」のです。

 

※冬になりましたので、模様替えをしました。寒そうかな。

 

 

2019年12月23日 (月)

山路敬介寄稿 応募工問題は国際司法裁判所で決着をその4

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          応募工問題は国際司法裁判所で決着を        ~橋下徹氏らの言説から~
                                                                                 山路敬介



■ 実は韓国側には請求するものなど無かった請求権協

韓国とは何でしょうか? どのような出自で生まれた国か、日本人はそうした経緯を正しく理解する必要があると思います。言うまでもなく、朝鮮半島は1945年まで日本国の領土でした。日本の敗戦にともない、単に「日本から分離独立した地域」というのが国際法上の位置づけです。
この事は非常に重要で、つまり、もちろん「戦勝国」ではありませんし、植民地被害国というような位置づけでもないのです。もともと国際法や国際関係に植民地被害に対する賠償というような慣習法はなく、しかも連合国がそう規定したのは当然で、当時の朝鮮半島には植民地解放運動など気運もなく、内鮮一体となって日本の戦争遂行に一致協力体制が増進していた事実のとおりの判断でした。

よく話に出て来る上海臨時政府などというものもあるにはありましたが、数十人規模の覚束ないもので、内紛ばかり起こしている銭ゲバ集団にすぎませんでした。李承晩など目先が効いた方で、いち早く袂を分かってハワイに逃げましたから利口なものです。もちろん、こういった匪賊集団が国際社会の認知を受けられるはずはなく、当の国民党政府ですらも認めていません。

余談ですが、この上海独立臨時政府なるものは、1944年に国民党から三民主義を採用するように求められています。財政は中国丸抱えで、軍隊は中国軍の一部となり、国是まで中国と共有する手はずでした。韓国憲法では、このようなものの法統をついだのが現在の韓国だというのです。

この「日本国から分離独立した地域」という地位こそが、請求権協定の枠組みを決めました。
ですから、康京和外相ら韓国外務省が「我が国はサンフランシスコ平和条約に参加していないので、その取り決めは関係がない」と言ったところで、これは空しい響きにしかなりません。

もちろん、当時の李承晩政権はこのような枠組みや流れは承知していたので、被害賠償ではなく、財産返還に対する請求を計画しました。それが「八項目の要求」というものです。しかし、それも詐欺的欺瞞に満ちていて、金・銀を返せと言っても、そいうものは日本との商行為の対価であったので、当然に認められるところとなりませんでした。

そうした中で日本政府も最初から算定に含めて認めたのが、被徴用者未収金や補償金でした。それに細々したものを足して7000万ドルが上限の提示額となったのです。(それを今になって再度よこせと言っているのですから、お笑いです)

しかし、それでは十数年続いた交渉でもあり韓国側も国民の手前、困ってしまいます。日本としては54億ドルにも上る在韓資産を米軍に放棄させられているので、それ以上に情を出す必要もないのですが、今後の事もあるのでやむなく経済協力金として無償3億ドルと有償2億ドルを与え、韓国側は請求権資金を受け取るというカタチにしました。

計5億ドルとは、そういう性質の金なので、池田信夫氏などは「つかみ金」(ゆえのない金)と言ってさげすむのです。

■ 35年で5億ドル? フィリピンは三年で5億5千万ではないか。

これも良く聞く韓国人の戯言ですが、韓国は35年間占領されて5億ドルにすぎず、フィリピンなど三年程度の占領で5億5千万も賠償された、というものです。

上で述べましたように、もともと韓国に賠償というようなものを支払う理由はありませんし、フィリピンの場合は戦争の賠償金です。日本は朝鮮半島を軍事占領していたわけではなく、合意のもとに批准・調印された正式な条約で併合していたのです。当時の国際社会もこれを認めています。

当時の韓国では天候不順で多数の餓死者が出たりして、100万人の日韓合邦嘆願書が出たりしていました。寄らば大樹じゃないですが、そいういうようなものだったでしょう。

■ 結語
 平和条約の締結の前提には、それまでの両国間の過去一切の行きがかり、問題点がすべて解決したとするのが国際法の常識です。ですから、韓国大法院のいうように「植民地清算がまだだ」とか、「これは別口だ」と言うような主張は通用しないのです。

唯一例外はナチスの蛮行のように民族撲滅を企図したようなケースだけですが、たとえ人民の死傷や財産の損害を招来したケースであっても、そのような例をナチスの場合と同じように例外的に見る国際慣習法は今のところ成立していません。

国際法の権威である山手治之教授によれば、「「完全かつ最終的に解決した」とは、韓国及びその国民が、どのような根拠に基づいて、日本国及びその国民に請求しようとも、日本国およびその国民はこれに応じる法的義務はないという事である」と述べています。

最後に橋下氏に賛同できる部分も付け加えますが、橋本氏は国際司法の場における判断について、日本に有利な判決になるだろうと予測しています。

「(個人の請求権が残っているとしても)日本の裁判所と同じように、「日本側に対しては裁判で実行することはできない」という話で終わる。米連邦裁判所の例も、ギリシャ住民の例も、最終的には個人の請求権は退けられました」、「ここで韓国に主張を認めてしまえば、例えばサンフランシスコ講和条約などの世界中の和解条約が、全部吹っ飛んでしまう。世界中で個人の賠償問題が吹き上がってきて、戦後秩序が崩壊してしまいます。国際司法はやはり、自国政府が自国民に補償するという原理原則徹底し、相手国側への請求は退けます」
(文藝春秋11号 106P)

全面的にその通りだと思います。
条約解釈の大原則のうちの一つに「有効性の原則」があることは古くから学説や判例で認められている。
有効性の原則とは、「およそ物事は、これを無効ならしむるより有効ならしむるを以て可とす」との法格言に基礎をおいている。
条約法条約31条は「条約の解釈は~用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」と規定するが、この条の起草にあたった国連国際法委員会は、ここでいう「誠実」な解釈とは有効性の原則を意味するとしている。(萬歳寛之早大教授 ジュリスト30号 p72)
                                                                                                                                           (了)


                   文責 山路敬介


   

2019年12月22日 (日)

山路敬介寄稿 応募工問題は国際司法裁判所で決着をその3

 

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応募工問題は国際司法裁判所で決着を   ~橋下徹氏らの言説から~
                                                                                 山路敬介

■ 韓国との条約締結に瑕疵はない    
橋本徹氏によれば、「日韓基本条約を締結した1965年当時の韓国政府は真に民主的な(完全な状態で国家を代表せる)政府と言えたのか? そうでないなら、そうした相手方と締結した条約そのものの有効性が問われるのではないか」と指摘しています。
橋下さんはしょっちゅう言う事が変わるので、いまはそう考えていなかも知れませんが、誤りは誤りなのでその点を述べたいと思います。

橋下氏の理論に従えば、正恩ひきいる北朝鮮とは金輪際平和条約を結ぶ事などあり得ませんし、中国のような政治形態を持つ独裁国家とも不可能だという事になります。橋下さんにはぜひ件の論理を用いて「北朝鮮とのストックホルム合意は無効」と言っていただきたいです。

橋下さんは、えせリベラル的親韓派の口車にのせられて口がすべっただけなんでしょう。要は軍事政権下の代表格である朴正煕時代のやった事を全否定したがる連中があり、手もなくそういう連中の代弁者となってしまったのだと思います。

朴正煕は1961年にクーデターによって国家再建会議議長に就任して実権を掌握しましたが、1963年には民主制に基づく選挙によって第5第大統領に選出されています。日韓基本条約は最初日本側は「合意」とするだけで止める意向でしたが、朴正煕大統領の要望で条約に格上げしたものです。
その事によって日韓両国とも各々の国会での批准が必要になり、すべて民主的な手続きと同意を経たうえで批准書の交換をしています。

ちなみに米国はクーデター直後から朴政権を正式に認めていたし、自由主義陣営としてベトナム戦争のに参戦したのは1964年からです。1965年に締結された日韓基本条約の有効性が問われる、などと言う事は夢にもありません。
もちろん、康京和外相も李洛淵首相も請求権協定の有効性を認めています。ただ、これを「遵守している」と誤った事を言っているだけです。橋下氏はなぜ韓国政府が言ってもいない誤謬を言うのでしょう。

■ 人質外交は韓国も北朝鮮と同じだった
 少し前に良くテレビに出ていた高初輔弁護士は、「当時の最貧国並みであった韓国と、国力に格段の差があった日本政府との間での条約交渉はフェアではなかった」として、成立過程からの日韓基本条約の有効性に疑義を呈しました。

まったく的外れです。条約交渉は13年にもおよび、その内容を示す現在私たちが知る事のできる資料だけをもってしても、緊迫感ある応酬が繰り広げられていた事がわかります。韓国側は日本側担当者の一言にダダをこね、担当者が変わるまで5年間も交渉をボイコットした経緯もあり、日本側にたいしてきわめて高圧的な態度でのぞんでいたのです。

さらに特筆すべきは、韓国側が日本の漁民を拉致人質にして日韓交渉を進めた事実のある事です。公海に勝手にラインを引き、それを超えた日本の漁師を拿捕して抑留した漁民を人質にとって非常識な要求をし、日本はそれに屈して不利な条件を呑んだという経緯もあります。

交渉が不利になりそうになると刑に服させていた漁民を刑期が終わった後も釈放せず止めおくという、まさに北朝鮮もどきのやり方でした。
そのくせ韓国から日本への不法移民は引き取りもせず、日本にとどまる事を飲ませたのですから、単なる野蛮以上の非人間的行為をやりながら交渉の材料として活用たことは、日本人として決して忘れるべきではありません。

そして、結果をみれば明らかなように、日本側の過重な譲歩があって初めて成し得た条約内容である事が明白であって、高弁護士は何をどう勘違いしたものか、事実をないがしろにしないで頂きたいものです。 

■ 大法院判決の論点は請求権協定により個人請求権が消滅したか否かではない
 橋下徹氏はじめ赤旗新聞、弁護士有志の会の人たちなど口をそろえ、請求権協定によっては「個人請求権は消滅していない」と言います。しかし、かの大法院判決は請求権協定によって個人請求権が消滅したかしないか、など言ってはいません。論点が違います。

大法院が言っているのは「徴用工の慰謝料は請求権協定の埒外だ」と述べているのです。
だから、李格淵大統領は安倍首相との会談時に「韓国はこれからも日韓基本条約を守る」とぬけ抜けと言ったのだし、韓国外交部は記者にサ条約の該当条項を指摘されると、「その条項と判決(韓国)の立場は関係がない」と言っているのです。

橋下さんはじめ韓国寄りの識者の方々はまず、大法院判決で言っている事が正当か否かを吟味して評価すべきです。それとは切り分けて請求権の有無の議論を述べないと全く不誠実だと言うより仕方ありません。

 

(この回でおさまらなかっので、もう一回延長して明日で完結します)

 

日曜写真館 闇の中のキャンドルの列

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灯火が闇の深さを計るようにどこまでも続きます

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ひとつひとつの願いが闇に浮きだしています

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似ているようで、ひとつひとつが皆違う顔なのです

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闇に浮かぶキャンドルをみると、なぜか今年あったことが思い出されてしまいます

 

2019年12月21日 (土)

山路敬介氏寄稿 応募工問題は国際司法裁判所で決着を その2

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 応募工問題は国際司法裁判所で決着を   ~橋下徹氏らの言説から~
                                                                                 山路敬介

■ 橋下徹氏の欠点は、さながら「問題解決」だけを指向する事
 少し前の事になりますが、SNS上で百田直樹氏や有本香織氏などと橋下氏が靖国問題で論争になった事があります。令和の時代になったのだから、出来れば陛下に靖国にご参拝頂きたいと考えるのは私も同様です。橋下氏の正直な見立てのように、靖国問題はイコール中・韓問題である事も100%同意できます。

ですが、そのために橋下氏が目指すところはA級戦犯の分祀であったり、国立追悼施設の新設なのです。要は橋下氏は中・韓に文句を言われないためにこそ、そういう施策が必要だと言っているのですね。
私は特に熱狂的な靖国信者ではないので、そのような論もわかる事はわかります。しかし、それで問題が解決すると考える橋下氏の「軽さ」には辟易します。国会で戦犯身分から回復した旧A級の人たちを分け隔てるなら、少なくも結果面で確実な担保が必要でしょう。

いったいどこの誰が、責任持って中・韓とこの手の約束事の実効性を将来まで担保し得ると言うのでしょうか。分祀なり新追悼施設が出来たとして、ふたたび陛下の参拝がかなわなくなった時の弊害は今度こそ取り返しのつかないものになるでしょう。
橋下氏は日本人の心の問題を左右する事に味をしめた中・韓の行先を、それでも「友好」だと思い込めとでも言うのでしょうか。

アホンダラ1号さんがコメントでいい事を言っています。

「日本人の感覚では、「争い」は大変に遺憾なことであって、可及的速やかに「和」を持たなければならないと、そういう風に考えがちです。韓国などとの外交においても拙速に過ぎる「和」を求めて自縄自縛みたいになり、フェイク新聞屋にエエように書かれたりしてしまっています。日本も強面のタフネゴシエーターとなって「争い(非暴力の)上等!」を旨とするぐらいになって欲しいです」

全く同感です。日本人はもう、中・韓との軋轢や争い事は「常態」として受け入れてしまうべきです。そのうえで、個々の事案によって協力すべきは協力すれば良いだけの話です。
橋下氏の対中韓への過剰配慮は主に歴史認識の誤謬から来ているものでしょうが、大きく言えば国家観が欠如した結果なのでしょう。大阪を愛すると同じ程度に、日本国をも愛して頂きたいと思うものです。

■ ポイントは「対抗措置」か?
 それでありながら橋下氏は「まず、韓国企業の在日財産を差し押さえるべき」と極端な事を言います。その理由は「目には目を」の体で、過激と思えるくらいの対処をした諍いを経てこそ、「お互いこんなバカな事はやめよう」となって、その後には真の友好関係を構築できるという、橋下氏一流の喧嘩道にもとづくもののようです。
まぁ、わからなくもないのですが、しかし、韓国と同じ汚い土俵にまで下りて行く必要もない事ではないでしょうか。目標は協定で決められた仲裁委員会の設置や、国際司法裁判所での決着一本にしぼるべきです。そして、そのための国際社会の賛意を得る事の方が、韓国との友好関係などよりもはるかに重要だし価値のある事です。

いづれ日本企業資産の現金化がなされれば、日本政府も対抗措置を取らざるを得ません。「対抗措置」とは違法性阻却事由の事です。違法性阻却事由とは、韓国の国際法違反に対して日本が国益のために、他の国際法に違反して韓国から損害の回復を図る事が出来る、とした国際法に準拠した正当な措置です。その場合の日本の国際法違反の違法性は阻却され、違法とは見做されないという意味です。

ですから、橋下氏のいう事も一つの方法には違いありません。過激すぎるとも思いません。
しかし、韓国企業が違法をおかしているわけではなく、韓国政府の国際法違反を問題としているケースなのです。それに、「日本の違法性が阻却される」といっても、どこまでも過剰な対抗措置がゆるされるわけではありません。

この問題の解決は長く続くと予想され、そのため第二第三の対抗措置が必要になってくるので、適宜に関税等を使った対抗措置の方が額も算定しやすく使い勝手も良いでしょう。
そうなると、お互いに対抗措置の応酬になるのは見えています。日本は対抗措置を繰り出しつつ対抗措置での勝ち負けを競うのではなく、国際社会に向けてあくまで条約に基づいた仲裁委員会の判断や国際司法裁判所での決着を主張しつづけるべきです。
条約で決められた解決策それ自体を受け入れたくない韓国側と、どちらが国際社会の納得を得る事ができるか、そういうベクトルで進めていくべきです。つまり、相手にするのは韓国でなく、国際社会だと言う事です。

 ■ 「今日から君はスミス」と言われたら
旧聞になりますが10/5の朝日新聞によれば、絶対に総理にしてはいけない人物NO.1の石破茂氏は、 「なぜ韓国は『反日』か。もしも日本が他国に占領され、(創氏改名政策によって)『今日から君はスミスさんだ』と言われたらどう思うか」と発言しています。

石破氏はかなり日本と朝鮮半島の歴史を勉強していると自負していて、それでいてこの体たらくとはどういう事でしょう。おそらく韓国の歴史教科書でも用いて学習しているのでしょう。結論からいえば、日本が朝鮮人に氏名を強制した事実はなく、そういう政策もありませんでした。

一族同門の呼称があっただけの朝鮮において、家の呼称である「氏」を新たに設けようとしたのが創氏です。従来の金や李の姓をそのまま氏にしたい人は届け出をする必要はなく、実際にそうした人たちは少なくありません。伝統的な姓や本貫も戸籍から消されてしまったわけではありません。

これを日本の場合に例えれば江戸時代の人別帳から、より文明的な明治の戸籍制度に変更させたほどのものです。まず女性配偶者の姓だけでなく名も記載されるようにし、姓名が与えられなかった奴婢の戸籍も作らせました。さらに総督府は出生・婚姻・死亡など記載する近代戸籍へと整備したのです。

改名は進歩的な知識人層が多く行ったものの、全体として一割にも届いていません。これを強制と言うのならば何を任意というのか、それが不思議です。
日本人ふうに改名した知識人層の動機は、内地人と朝鮮人の差別をなくしたり、日本帝国の中で朝鮮民族の地位を上げるためにあり、改名は自らの固い決心にもとづいた結果です。「君は今日からスミスだ」などと言われて改名するような人たちではありませんでした。石破の発言はそういう意味できわめて侮辱的です。

石破のような粗雑な歴史の理解の仕方が、今日の日韓関係を危うくした元凶の一つと言えます。石破の友好関係というものは「相手の認識に合わせる事」にあるので、今の中・韓・朝の国々にとってはまさにありがたい「役に立つバカ」という事になるでしょう。

もうひとつ石破の根底にあるのは、植民地=悪という薄っぺらい公式的理解です。それで思い出すのは、先の大法院判決で応募工が受けた被害認定の根拠について、「(日帝の)不法支配下において、原告らが精神的苦痛を受けた事は経験則上明らか」としている事です。
そうしたいい加減な被害認定をする裁判官は法匪と言わざる得ないですが、もし石破が総理であったなら、そこにずっぽりと収まるアホな同調姿勢を示していた事でしょう。

李承晩や朴正煕の頃の反日と今の反日、岸信介らの時代の親韓と今の親韓は本質的に違います。終戦に向け朝鮮半島の日本同化は右肩あがりで進んでいて、その最中に突然敗戦が訪れたのです。李承晩は日本人化した朝鮮人たちを国のためにまとめ上げ、統治するために反日を利用しなければならない面もありました。
吉田茂は朝鮮半島には冷たい感じだったですが、岸信介や佐藤栄作などは反共の砦とした価値だけでなく、そうした反日政策の意味を理解して許容していた面があります。
石破らの親韓姿勢にはおもねりと同調しか感じられず、マスコミなど国内的な評判を気にして事を荒立てたくないというだけの怠惰しか感じられません。

■ 西松建設判決は二重基準か?
2007年に判決があった中国人徴用工が起こした西松建設事件訴訟において、最高裁は中国人側の請求を認めませんでした。しかし、その傍論で「和解による救済がのぞまれる」とういう趣旨の意見が付き、西松建設は和解に応じて二億数千万円を原告側に支払っています。

橋下徹氏はこの裁判を指して安倍政権の「請求権協定で解決済み」とする主張に反論しています。橋下氏ではないですが、これを韓国人差別と見る向きもありました。ですが、この中国人たちのケースと今回の韓国人募集工を同列に並べる事はできません。

西松訴訟の被害者は「徴用工」と言うよりも、そのほとんどは戦争捕虜です。当時の国際法でも戦争捕虜を働かせること自体は違法ではありませんが、給金など無いに等しいものでした。中国政府は日本との平和条約締結の際に中国国民の請求権をすべて放棄しています。ですが、原告らは中国政府からの金銭は受けた事がなく、それまで原告被害者には補償が行われていません。

対して、韓国政府は日韓基本条約に基づいて韓国人の請求権を日本から一括して受け取っていて、実際にその資金や別途の手当てによって、韓国政府は二回も補償を実施しているのです。

橋下氏の耳は「条約で決められているから不可能」という紋切り型の対応として安倍総理の言葉を誤って聞いてしまったに過ぎないのでしょう。けれど、中国人徴用工の場合もそうですが、まずは支払いの義務は認めていないのです。

韓国側は大法院の判決により、法的義務として日本企業の支払いを求めている事案です。そうであれば日本政府は「請求権協定で解決済み」と言うしかありません。また、日本国として、韓国側の条約上の違法をまず正す行動を取らなくてはならないのが当然の事です。

そのうえで日本企業が「見舞金でも払うか」というのならそれでもいいし、全くその意志がないのなら、それはそれまでと言うだけの事です。

(次回完結)

 

2019年12月20日 (金)

山路敬介氏寄稿 応募工問題は国際司法裁判所で決着を その1

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       応募工問題は国際司法裁判所で決着を   ~橋下徹氏らの言説から~
                                                                                 山路敬介


 最近の韓国の反日政策や言動は多くの日本人の理解はもちろん、日本人の寛容的精神の枠をこえています。エスカレートする何かに取りつかれたような際限のない反日、それらが韓国民自身の安全や国民経済を犠牲にしてまで行なわれる幾多の不合理を我々は見ています。
当然の事のように破られる国際約束や法的枠組みを逸脱する在り様は、もはや驚きや怒りを通り越して、多くの日本人をして逆に冷静な観察眼と集中力をもたらせている結果になっているようです。

ところで今の韓国政府の反日的政策はこれまでの要求型と違い、ねらいは「挑発」そのものにあるようです。反日種族主義の中で朱益鍾教授は「問題を利用して、韓日関係を破綻させるのが目的」(P323)とし、その真意を「韓・米・日の協力体制を崩す事」としています。
少なくも被害者第一主義だとか、いわゆる正義の実行という格好のよい表面的な動機ではない事は、もはや誰の目にも明らかでしょう。

ゆえに、もし日本側が節を曲げていったん譲歩したとしても、それで何か根本的な解決が出来るといった事はありません。一方、後にあげる橋下氏案のような過剰な攻撃的反応はさけるべきで、それでも国際社会の理解を得つつ、毅然とした対応が求められるところです。
このような場合、現段階では「ていねいな無視」対応こそが距離感を整えるだけでなく、理性的な対応のための唯一の方法論だと思います。
日本政府は挑発に乗らずにいかに韓国を国際舞台にのせるか、国際司法の場に引き出せるか、そういう意志を強く持って臨んでいるものと思われます。
しかし、それには日米だけでなく難物の中国の協力も必要かも知れません。そこにも陥穽がひそんでいる可能性もありますが、とりまく状況は日本側にとって悪くはないと考えます。

鈴置高史氏は、文政権ら進歩派の描く未来像を朝鮮半島だけでなく、中国東北部まで含めた朝鮮民族の勃興を図る「大コリア構想」とも見ていて、「南北融和」はそのための「国民への言葉を変えたメッセージ」と言います。
到底達成不可能だし、ただのファンタジックな妄想を相手にしているだけのようですが、非常に平仄が合う洞察だと思います。
韓国人好みのストーリー性もあります。「北は核を持ち、南はその為の潜水艦を作る。現実に軍事費は飛躍的にのび、済州島には「対日用」とわざわざ断り付きの仮装をして空軍基地を作ろうとしている」とは、統一を見据えた場合には現実味があるのではないでしょうか。

日本ではちっとも報道されませんが、たとえば百済や高句麗史の帰属をめぐる問題、渤海國の歴史理解など、中国との領土問題に発展しかねない歴史認識軋轢を韓国は複数かかえています。そのほとんどが中国側の認識が正しいように思いますが、歴史を政治目的に歪曲する中共なればこその鋭敏な反応も示しています。

歴史上、東アジア地域のガンは常に朝鮮半島でした。日本の歴史家はよく「朝鮮半島は大国に翻弄されてきた」と言いたがりますが、「朝鮮は常に大国間の火種となって来た」と理解した方が真実に近いです。そうした点は中国も理解しているようにみえます。
韓国の反日の原因は教育によるところが大きく、それも80年代から激しくなっています。これから反日は縮小していく見込みはなく、逆に増大していくでしょう。
西岡力氏や韓国保守派の洪榮氏が「病根は文在寅」というのは、当座の問題にすぎません。反日は韓国政権の左右にかかわらず、国家の正当性に関わるイデオロギーなので、これからは韓国と適切な距離を保つ事に留意する時代になると思います。

また、韓国の政治状況からみて、自由韓国党など保守陣営が次の国政選挙や大統領選に勝つ見込みは今のところありません。それ以前に保守が一本にまとまる事が困難でしょう。
文政権は憲法の自由民主主義から「自由」の文言をはずす事には失敗しましたが、あきらめたワケではありません。経済崩壊など、なにか決定的な事がないかぎり進歩に有利な選挙制度改革が行われ、検察改革にことよせて高位公職者捜査処のようなゲシュタポ法も成立して民主独裁が決定的になるでしょう。

前置きが長くなりました。応募工問題に関して、河村建夫氏はじめ親韓派御推奨の文喜相議長案についてですが、12/3の外交防衛委員会における外務省答弁では、「韓国の国際法違反の状態を是正することにはならない。解決策にはならないことから受け入れられない」と述べています。めずらしく曖昧さのない良い答弁でした。

また、韓国は12/24の日韓首脳会談で日本の輸出管理強化が解かれるがごとくのストーリーを展開し、例によって朝・毎などがそれに同調する報道をしています。ですが、そのようなプレゼントはあり得ません。韓国のキャッチオール規制には法的根拠がないままなので、日本政府としては対話以上どうしようもありません。部分合意であるとか前向きな対話を続ける、といったところで終わるでしょう。

一方、韓国側の主張によれば40日とか一か月との期限を切った条件付GSOMIA暫定延長との事ですが、再破棄など出来ようはずがありません。もともと米国の圧力に屈して破棄方針を覆したのですから、そのような事態はおよそ想像も出来ません。
アベマTVでの対談などによれば、橋下徹氏はGSOMIA延長は日本の輸出管理強化の解除とバーターだったと捉えているようで、かつ日本の輸出管理強化は「徴用工問題」への報復だったとしています。

そのうえで今回の会談で旧ホワイト国復帰や三品目の管理強化が解除されざるを得なく、最初から報復だと宣言しなかった点で日本は貴重なカードを失なったとしています。
橋下さんは弁護士らしく法的知識を駆使した切れ味の鋭い保守派の論客と見られがちですが、どうも言っている事に一貫性がなく、認識的にも論理的にも破綻するケースが多いようです。
今回は主に出来るだけ「応募工問題」にしぼって、この橋下氏の言論をガイド役にして「国際司法裁判所でも日本側が不利」という言論や、石破茂氏のいい加減な言論など考察して行きたいと思います。

なお、今回の三品目の輸出管理強化やホワイト国除外が日本側からなされたのは、タイミング的に「応募工問題の報復」と言った指摘は橋下氏だけでなく、木村太郎氏も言っております。その根拠は「タイミング」しかないのですが、一方で応募工問題などで信頼関係が損なわれて来た事も根本要因としてあります。
私の推測ではありますが、これはやはり日米共同作業でしょう。少なくもしっかりした意思疎通のうえでの措置です。最近の米国の方針を見ていると、安全保障に関わる物品の輸出に非常な神経を砕いています。
上念司氏は、ココム(対共産圏輸出規制)のような政策もあり得るのではないか、としています。そのような中、機微物品の行方も調査出来ないような韓国への管理強化は当然としても、そういう流れを受けた政策であったのではないでしょうか。

                                                                                                                                                      (つづく)

 

2019年12月19日 (木)

ツバルは沈んでいるか?

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この記事は2008年9月に書かれたものを原型として加筆修正しております。
おもえば、これは私の温暖化懐疑論シリーズ最初のものでした。
いまでもそうですが、当時保守論陣はこのテーマに総じて無関心だったことを記憶しています。
地球環境テーマというのが、いかに対抗軸をつくりにくい性格なのかわかります。

それから10年。
いささかも状況はかわらないどころか、いっそう深刻になっています。
これを書いた時はただの「大予言」の類でしたが、いまや世界の経済に打撃を与えるモンスターへと「進化」してしまいました。
しかし、ここまでなっても日本においての反撃は微々たるものです。
昨今でもグレタがどうしたのこうしたのという現象レベルに終始し、腰を据えた検証作業は遅々として進んでいません。
そんな風潮に一石を投じるべく過去記事を再録した次第です。

 

人為的炭酸ガス温暖化論者はこう言います。どこかで必ずお聞きになったはずです。

ツバルは先進工業国のCO2排出のためにおきた海面上昇で沈没の危機にある。
海水面上昇によってバングラディシュは国土が沈み、東京もまたほとんど全域が沈没する。
オランダの国土は温暖化により55%が既に海抜ゼロになっている。
北極は後退し続け、そこに住むホッキョクグマは絶滅寸前の危機に瀕している。
ヒマラヤの氷河は2035年までに消滅し、キリマンジェロの冠雪は毎年溶けている。
アマゾンの熱帯雨林はこのままだと40%消滅し、アフリカの農業も生産は20年後に半減する、いわく、北米大陸を襲う巨大ハリケーンは温暖化が原因である。

・・・・そのほか黙示録的災厄の情報が山ほどお茶の間に届けられました。

朝日新聞は例のしたり顔で「科学者がこれほど強いメッセージを国際政治に送ったことがあろうか」(2007年11月24日)とまで激賞し、IPCCの第4次評価報告書はノーベル平和賞まで受賞しました。

ところがIPCCはその「予言」のうちアマゾンの熱帯雨林、アフリカの農業生産、ヒマラヤの氷河後退、そしてオランダの沈下について自ら、「科学的根拠はなかった」、「ミスだった」と認めています。
残りの北極における氷河後退、ホッキョクグマの絶滅危惧、ツバルの沈下、キリマンジェロの冠雪後退などに関しても、現地で観測する科学者たちから異論が多数出ており、撤回する日は遠くないでしょう。

地球温暖化説を唱えるIPCCは、北極やヒマラヤの氷河が溶けているだけではパンチに欠けると思ったのか、既に海水面上昇で南太平洋の島々が沈下して住めなくなっている、難民が沢山でるぞと叫びました。
この話は、やがてオランダは水没,東京も半分水没、バングラディシュ水没と、どんどんと尾ひれ、腹ビレ、背ヒレがついて膨らんでいきます。

その最初の人間の住む地域の水没の例としてIPCCが訴えたのが、「沈み行くツバル」でした。
いつの間にかツバルは、地球温暖化の悲劇のシンボルになっていたわけです。環境省はHPで大きくツバルが載せています。
環境庁HP 「進行する地球温暖化」http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h19/html/hj07010100.html

そこにはこのような記述があります。

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「IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書によれば、20世紀を通じた海面水位上昇量は約0.17(0.12~0.22)mとされています。熱による海水の膨張や氷床の融解が主な原因として指摘されています。
南太平洋諸国では、既に多くの海岸沿いの地域が海岸侵食・水没の危機に瀕しています。
ツバルは、南緯5~10度に点在する9つのサンゴ礁から成る面積わずか26km2の島嶼国で、約1万人の国民の半分が首都フナフティに住んでいます。
フナフティのある平均標高1.5m以下のフォンガファレ島では、近年、潮位が高くなる1~3月に、浸水被害が激しくなっていると言われます。海岸線に並ぶヤシの木の一部は、海に投げ出されるように倒れています」

ではほんとうに温暖化による海水面上昇によってツバルは沈んでいるのか、具体的に見ていきましょう。
結論から言いましょう。していません。
上がったのは海面ではなく、逆にツバルが珊瑚礁の圧壊で沈んだのです。

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SPSLCMP(South Pacific Sea Level and Climate Monitoring Project)

まずは上図のオーストラリア政府SPSLCMP(South Pacific Sea Level and Climate Monitoring Project)のデーターをご覧頂きたいのですが、ツバルでは1mどころかわずか75㎜の海水面上昇しか計測されていません。
この記録は、ツバル近海のフナフチ環礁で1993年5月から2006年5月までの13年間の記録の累積の総計です。

つまり表の右から2番目のトレンド(傾向)の毎年の観測数値を13年間分足してみると75㎜となったというわけです。
1年間に75㎜だとすると、確かに危険な数字ですが、あくまでも13年間の総計です。1年にすると1㎝にも満たないわけです。
ですから、このデーターの見出しの書き方は、やや誤った印象を私たちに与えてしまいますので、ご注意のほどを。くどいですが13年間のトータルの数字です。

もうひとつグラフを出しましょう。オーストラリア気象庁の公表データがあります。これは1993年からツバルの首都フナフチを測ってきた16年間のデータです。

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どう見ても横ばいです。これを見てどうしてツバル周辺海域で海水面上昇が発生したといえるのでしょうか。 

次に3枚目にハワイ大学の観測記録を載せておきましょう。
これも1977年から99年までの23年間の計測データですが、上昇は0.9㎜で1㎝にも満たない数値です

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科学の世界では、複数の公的機関が10年以上の長期で継続して計測したデータが、一致して同じ結論を出した場合にはそれを有意として扱います。

ところでTuvaluを英文で検索するといくつかの英文の論文にヒットしますが、その中でサリー・バリューナス博士の「ツバルは沈んでいるのか?」という論文をご紹介します。 
Tuvalu Really Sinking?: Man-Made Problems, Sallie Baliunas and Willie Soon, Pacific Magazine, February, 2002

この論文はふたつに分けられ、前半でツバルの海水面のデーターを見ています。そして後半はその原因を考えています。博士は、ポセイドン観測衛星の記録から海水面は約10㎝落ちていると報告しています。 
また1978年以来の潮位記録から、1997年~98年のエルニーニョ(4年に一回発生します)には約30㎝も潮位が落ちているそうです。 

このようにエルニーニョは、太平洋を取りまく島々の海流や気圧に大きな影響を与えている最大のものです。  
また博士は、オーストラリアの潮位観測の責任者であるウオルフガンシェーファーさんの意見も取り上げています。
この中でシェファーさんは「海水面の上昇があるという観測データーはどこにもない」と断言しています。
 

このように見てくると、どう考えても13年間で最大58㎜、最小で0.9㎜ていどの海面上昇でひとつの島の沈下が引き起こされると 考えるほうが無理があります。 
1㎝にも満たない海面上昇で、いかに海抜1mのツバルといえど果たして海に沈むでしょうか?
考えるまでもなく、ありえません。

ツバル沈降の主要な原因は隆起珊瑚礁の浸食です。
これは沖縄にも見られる現象で、沖縄の八重山の先島に行くと、隆起珊瑚礁が少しずつ削られていくのが目でみえる地点がいくつかあります。
これは別に隆起珊瑚礁のみならず、海岸淵の岩場に行ってみれば同じような浸食が見られます。
海の潮位が上がったのではなく、逆に島が沈んだのです。
こういう浸食地点を図れば、年間70㎜ていどの浸食などザラでしょう。

ツバル沈降の原因について、大阪学院大学教授で、太平洋諸島地域研究所理事の小林泉先生は以下のように指摘しています。このミクロネシアを知悉した小林先生のご意見は、私にもしごく妥当かと思われます。

①日本より稠密な人口密度が、狭いツバルの、しかももろい隆起珊瑚礁を圧壊している。
②アメリカ型の生活スタイルの定着によりペットボトルなどのゴミの散乱など島の環境破壊が進んでいる。
③滑走路の水没は、かつての米軍のいいかげんな工事のためである。

また、この調査をしたSPSLCMPのプロジェクト・マネージャーのフョリップ・ハル氏は、このような海水面上昇は10年ではまだ短く、20年以上といった長期の観測が必要であると語っています。

また、原因として、エルニーニョなどの異常気象を挙げています。
2002年のオーストラリア政府の発表によると、1978年~2001年の期間に、ハワイ大学とAustralian National Tidal Facility (NTF)の共同研究では、データーの欠損を認めつつ、ツバルの首都フナフチ環礁での海面上昇は約1㎜程度であり、危惧する必要はないという意見を出しています。

沈下面積が増えるツバルの皆さんには大変に言いづらいことですが、公平に見て、島民の苦難とは別に、その原因は地球温暖化にはないと思わざるを得ません。

なぜこんなばかなことが起きたのでしょうか。それについて海水面研究の世界的権威であるストックホルム大学メルネル教授はこう言っています。

「第3次、第4次IPCC報告書には海水面上昇の専門家がひとりもいなかった。報告書を書いたのは、現地の観測者ではなく、ただのコンピュータ計算屋があらかじめ決まった南太平洋諸島水没モデルにあわせてモデルを作っただけだ」

なんのことはない、その原因は、IPCCがもったいぶって出した報告書づくりの過程で、ツバル現地で計測していた人間はおろか海水面の研究者がひとりもいなかったからです。
まったくひどい話です。
このような現場で長年観測をしてきた科学者の知見を無視して、コンピュータのモデル計算だけで済ますという悪しき体質がIPCCの気象屋にはあるようです。
そのために、局地観測者や海洋観測者の中はIPCCに強い不信感を持っている人が多いようです。

たとえば、オーロラ観測の第一人者であるアラスカ大学赤祖父俊一教授や海水面研究の第一人者ストックホルム大学メルネル教授は共に、地球温暖化説の強い批判者です。

IPCCはほんとうにツバルで観測したのではなく、世界の海水面の推定平均上昇0.17mをツバルの標高から引いて騒いできたのです。
IPCCが描いた初めに結論ありきのデマゴギー、それがツバル水没危機の正体です。

実はIPCCはいまさら引っ込みがつかないのです。
彼らは、多くの科学者の批判を受けて第4次評価報告であげた事例の多くを修正し続けてきましたが、もはやこの説は科学とは無関係に一人歩きしてCOPなどという国際的枠組みまで作られてしまいました。
IPCCからすれば、いまさらいやーあれはプロパガンダでした、まちがいだらけでしたから取り下げさせて下さい、とは言えないのでしょうが、よく科学者としての良心が痛まないものです。

 

2019年12月18日 (水)

人為的炭酸ガス説の怪しさ

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炭酸ガスが地球を金星のようにくるんで、温室みたいにしてしまうというのが温室効果ガス説です。
さらにこの炭酸ガスが、工業化によるもので20世紀になって初めて登場した人類の脅威だとするのが、炭酸ガス人為説です。
ご承知のように、いまや疑うことを許さない絶対真理と化した存在です。
すこしでも疑うと、16の子供から「あたしたちの未来を殺すのか」「政治家たちを処刑の壁の前に立たせろ」とまで罵られることになります。

いきなり脱線しますが、今話題となっているグレタ嬢の発言ですが、こんなものです。
"We will make sure they, that we put them against the wall, and that they will have to do their job and to protect our futures. "
この"put them against the wall"は、ヨーロッパ社会ではアウシュビッツの処刑の壁の前に立たせろという意に解釈されます。
というか、それ以外に解釈のしようがないそうです。

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アウシュビッツの処刑の壁 https://twitter.com/ynwataiga/status/1109082251248

グレタ嬢がこのトリノ処刑発言の後に、ドイツ鉄道で床に座らされたと書いて写真までツイートしたために、まるでいまでもユダヤ人の輸送もどきをしていると思われてしまったドイツ鉄道が、「いやお嬢様は、一貫して一等車にお乗りしでしたよ」と柔らかく反論したのです。

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なんのことはない上のツイート写真はやらせらしく、じつは一等車にお乗りのようで、大西洋ヨット横断といい、いったい誰がこれを支払ったのでしょうか。

ま、いいか、話を戻します。
CO2が海洋や植物に吸い込まれることを、自然界の緩衝作用といいますが、いったいどのくらいの時間かかって吸い込まれているのかも大事なポイントです。
 
というのは、海洋や植物に吸収されるまでに長い時間がかかるのです。つまりですね、今この世界にあるCO2は、ただいま現在のものではなく、過去に由来して蓄積しているのです。
この蓄積期間にも説がいろいろとあるようですが、最短で5年間、長いもので200年間という学者もいるそうです。
 

このCO2が自然界に吸収されるまでの期間を、「滞留時間」と呼びますが、これを最短の5年間ととると、モロに人間の活動によるという証明となります。
 一方、200年ととると、真逆に人間の活動とはなんの関係もないということになってしまいます。 

では、5年~15年間の短期滞留期間説を取るとすれば、CO2が気温上昇の疑惑の真犯人扱いですから、思い出されるのが、CO2と気温上昇がパラレルで上昇するという、あのホッケースティック曲線です。 

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最大の地球温暖化の根拠とされた資料でした。ちなみにこれを採用したのは、マイケル・マンの盟友であり、クライメイトゲート事件の主役であるCRSのフィル・ジョーンズ教授です。 
しかしあいにくと、このホッケースティック曲線には大きな誤りがありました。最大の誤りは、19世紀以前の気温をほぼ一定だとしてしまったことです。
これでは10C~14Cの中世温暖期は無視され、19世紀の小氷河期もなかったことになってしまいます。

実はそのことはいまやIPCCですら認めているのです。ただし小声で。

「だがIPCCの第5次評価報告書(2013年)の示した過去の温度のグラフでは、中世(1000年前後)の温度は、現在とあまり変わらない高さまで上がっている。(略)
政策決定者向け要約では(略)
In the Northern Hemisphere, 1983-2012 was likely the warmest 30-year period of the last 1400 years (medium confidence). Continental-scale surface temperature reconstructions show, with high confidence, multi-decadal periods during the Medieval Climate Anomaly (year 950 to 1250) that were in some regions as warm as in the late 20th century.

訳 「北半球では、1983年から2012年の30年間は、過去1400年間で最も暖かかった可能性が高い」「幾つかの地域において、中世気候異常(950年から1250年)の内の数十年間は、20世紀末期と同じぐらい暖かかった(高い確信度)」となる。(略)
ホッケースティック曲線の発表の後、古気候を巡った論争が起きて、結局、IPCCはホッケースティック曲線の使用を止め、最新の第5次評価報告書では北半球において中世の温暖期(今のIPCCの言葉では中世気候異常と呼ばれているけれども)が存在したことが明記されている」(『中世は今ぐらい熱かった:IPCCの最新の知見』杉山大志IPCC第6次評価報告統括代表執筆者)

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上図のIPCC(2007) 第4次評価報告書においてはホッケースティック曲線は消滅しています。
つまり20世紀に入って特異な気温上昇が見られたという説は、科学的信憑性が低いとIPCC自身が認めているということになります。

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また上のグラフは、中世温暖期は地球規模で見ても、中世の温暖期は現在よりも暖かかったとする複数の温度再現研究結果をまとめたものです。
中国においても同様の中世温暖期があったことが記録に残っています。

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また、このホッケースティック曲線が衝撃を与えた20世紀からの極端な気温上昇の中にも、下図のように1940年から1980年まで続いた「寒冷期」が存在します。
そういえば思い出しました。1970年当時の世界の気象学会はどんな警鐘を鳴らしていたのでしょうか。「来る小氷河期に備えよ!」でしたっけね(苦笑)。
そのわずか20年後に真逆ですか、まさに「君子ハ豹変ス」の見本ですな。 

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それはさておき、上の地球の気温変化グラフに、下図のCO2の排出量グラフを 重ねてみましょう。1940年~1980年にかけて、大気中のCO2濃度に低下が見られたのでしょうか、下図をご覧ください。

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 一目瞭然ですね。1940年のCO2排出量は50億トン弱、1980年には180億トン弱、つまり3.6倍になっているにもかかわらず、実際には寒冷期が来ているのです。
これをどのように、CO2の増大が地球の気温上昇につながったと整合性をもって説明するのでしょうか。 

下は極地における氷床ボーリングによる二酸化炭素とメタンの資料ですが、左端の現代と2万3千年前を較べれば同じだとわかります。
さらには1万3千年、3万3千年前にも高い時代がみられます。

The Vostok Ice Core: Temperature, CO2 and CH4
http://euanmearns.com/the-vostok-ice-core-temperature-co2-and-ch4/
 

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CO2は20世紀以前にも大量に存在しました。あたりまえです。突然20世紀になって登場したわけでもなんでもありません。
たとえば、日本の古代縄文期、古代ローマ時代、そして中世など、人類がこの地球上に現れてからもなんどとなくその増大をみました。現在のCO2濃度以上の時などザラなほどです。 

ではCO2増大と気温上昇には相関関係があるのでしょうか?そう、確かにあるにはあります。
ただし、一般に流布されているように「CO2増大によって気温上昇が起きた」のではなく、その真逆のプロセスによって、ですが。 

それでは次の図をご覧ください。 

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上図の破線がCO2です。実線が気温です。一見パラレルですが、よく見ると面白いことに気がつきませんか。そうです、CO2の増大は気温上昇した「後」に発現していることが分かります。 
この現象はちょうどサイダーを温めるとブクブクと炭酸の泡が出てくるように、海水面の温度上昇により海水に含まれていたCO2が空気中に放出されるからです。 

現在の気温ですとCO2放出が支配的ですが、0.6℃低下するとCO2濃度の上昇は止まるとの説もあります。 
つけ加えれば、CO2は自然界からも放出されており、人間活動由来なのは、そのうちたかだか3%しかないのです。 
このように考えると、大気中の質量比0.054%にすぎないCO2が、その6倍もの0.330%の質量比をもち、5.3倍の温暖化効果をもつ水蒸気より温暖化効果があるというのは不自然ではないでしょうか。 

なんらかの原因で地球が温暖化した結果、海水温が上昇し膨大な水蒸気が発生し、それに伴ってCO2も放出されたと考えるのが素直だと思われます。 
また、そのCO2排出量のわずか3%ていどしか人間由来でないとすれば、人間活動由来のCO2「こそ」が地球温暖化の主犯であると決めつけるのは、あまりに飛躍がありすぎるように思えます。 

私は人為的炭酸ガスが増大していることは事実だと考えていますし、それが温暖化の一因となっていることも確かだろうと考えています。
また歯止めのない工業化が自然環境を破壊していることも事実だと思っています。
さらに
現在なにかしらの複合的原因で、地球温暖化が進行する時期に当たっていることも事実だとおもいます。
ここまではいわゆる地球環境派と一緒です。

ただしここからがちがうのですが、地球温暖化の原因とおもわれるのは、太陽黒点の変化などたぶん片手の指の数では足りないほど存在します。
そのうち黒点の変化説はこのようなものです。

太陽の黒点の数はガリレオの時代から観測されています。黒点数と地球の気候に相関があることは以前から知られていました。
黒点数はおよそ11年の周期で変動していますが、17世紀のマウンダ―期とよばれている時代にはほとんど黒点がありませんでした。

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太陽黒点数の変動 「気候変動とエネルギー問題」深井有

この時期にはロンドンのテームズ河が冬に凍り、氷の上でスケートをする絵が残されています。19世紀初めにも黒点数の少ないダルトン期があり、それ以降現在まで黒点数は上昇傾向にあります。
黒点数の変動周期と地球の平均気温をプロットしたのが下図で、太陽黒点と地球気温は
相関性を示しています。

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黒点数と平均気温の相関  深井前掲

つまり太陽の黒点が減り、その周期が伸びると地球は寒くなり、その反対は暖かくなるのです。
しかしこの太陽黒点の変動だけでも説明しきれず、宇宙線による変動説(スヴェンスマーク説) や地球規模の海流の変化など諸説があります。

これらをバッサリ切って視野に入れない、議論すらさせないでは、あまりに非科学的というもんではありませんか。
にもかかわらずその原因を一面的に人為的炭酸ガスのみに求めていき、経済や社会生活に大きな打撃を与えかねない現在の信仰にも似た風潮には疑問をもたざるをえません。

現在のグリーンファンドなどは巨額な資金を運用しており、いまや世界経済にも影響を与えるまでになっています。彼らの野望とこの人為的炭酸ガス説は無縁とは考えにくいのです。

 

 

2019年12月17日 (火)

では、どうやったら原子力なしでCO2削減ができるというのか

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小泉大臣の父親は有名な反原発運動家でいらっしゃいます。
初めは引退しての暇つぶしの手慰みかととおもいましたが、どうやらど真剣のようで、その血が進次郎氏にも遺伝してしまったようです。

小泉パパは再稼働反対だそうです。
再稼働反対というのは、安全性を規制委員会から認められても原発絶対反対、段階的削減にも反対という意味です。
20%を越えていたエネルギー基盤を、40年くらいかけて徐々に減らし、別な電源に替えていくためには、一定の数の原発を動かす必要があります。
だからこそ、廃炉にするためにも、「悪の電力会社を潰せ」などという一部脱原発活動家の暴論は止めにしてほしいものです。

もし、本気でそんなことをすれば、電力会社は新たな電源の開発投資が不可能になる上に、廃炉資金を捻出することができなくなります。
ではその原発ゼロの20%超の穴はどうするのかといえば、小泉翁は再生可能エネルギー(再エネ)だそうです。

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小泉翁はこう言っています。  


「今こそ原発をゼロにするという方針を政府・自民党が出せば一気に雰囲気は盛り上がる。そうすると、官民共同で世界に例のない、原発に依存しない、自然を資源にした循環型社会をつくる夢に向かって、この国は結束できる。 」
(ハフィントンポスト 2013年10月2日
 

ああ、まるでマックのセットメニューだ!
ところが、実はこのふたつは本来、なんの関係もない別次元のテーマなのです。  
再エネは、もっとも古典的なエネルギー源として古くからありました。

中世にはほぼ今の原型を完成させていますが、産業革命で大部分はすたれつつも、地域にしぶとくしがみついて生き抜いてきました。  
それが改めて再注目されたのは、1979年のスリーマイル島事故以後の脱原発運動の盛り上がりからです。 
当時は反原発運動といっていましたが、若き日の私もその一翼を担っていました。
この中で再生可能エネルギー(再エネ)、当時の言い方では「市民エネルギー」という言い方を好んで使っていましたっけね。  
その言葉のニュアンスどおり市民が、「裏庭で自分の家のエネルギーくらいは作ってみせる。その分原発はいらないんだぜ」という気持ちが込められていました。  

飯田哲也氏の初期の本には、1986年のチェルノブイリ原発事故以後のスウェーデンで同じような、地域で市民が知恵と金を出し合って風車を建てていくエネルギー・デモクラシーの様子が描かれています。  
世界中で私のように、市民が日曜大工で怪しげな「エネルギー発生装置」を作ったり、市民ファンドで風車を作っていたのです。 

さて、言うまでもなくこのようなある意味牧歌的な再エネは、今では「神代の時代」の昔語りにすぎません。
なぜなら、今や脱原発運動は、裏庭どころか再生可能エネルギーを社会全体の代替エネルギーと位置づけてしまったからです。  

結論から言いましょう。私はかつての再エネの実践者の経験を踏まえて、それは不可能だと断言します。 
再エネは元々そのような近代工業国家規模のエネルギー源ではなく、地域の生活や生産に密着した「もうひとつのエネルギー源」でしかないからです。 

発電規模のケタが違う再エネを「飛躍」させようとすれば、必ず別の矛盾を引き起こします。 
それは反原発運動の意識の延長で国家規模の、しかも世界で屈指の工業技術国の代替エネルギーを再エネに据えてしまったドイツの経験が物語っています。  

ドイツではいくら優遇策であるFIT(全量・固定価格買い上げ制度)に厖大な金をつぎ込んでも再エネは07年時点で最大で16%にしか伸びませんでした。 (下図参照) 

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熊谷徹

ちなみにその内訳は、風力発電が4割、バイオマスが3割、水力が2割、太陽光が1割未満です。  
驚かされるのは、太陽光は再エネの代表選手のように思われているものの、実は全エネルギー源の0.2~0.4%(2010年現在)にすぎないことです。
 一方、ドイツは原発を暫時停止(完全停止していません)することによって、低品質の硫黄酸化物の多い国内石炭火力発電が49%にも増えてしまいました。 

皮肉なことには脱原発政策によって化石燃料シフトが起きてしまったのです。 これによってドイツの炭酸ガス排出量は一挙に増えています。 

実はわが国もまったく一緒でした。わが国はある意味ドイツより過激な「全原発停止検査」ということを初めてしまったからです。
なんの法的根拠もなく、ただのカン氏の「お願い」で、全原発ストップですから呆れたもんです。
結果がこれです。火力発電一色となりまなした。

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2013年度のエネルギー源別の発電電力量の割合http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035081.html

[追記]コメントで新しい数字を頂戴しましたので追加いたします。

2018年度の実績値 → 2030年度の計画値
原子力 6% → 20-22%
石炭 31% → 26%
LNG 38% → 27%
石油 7% →  3%
再エネ 17% → 22-24%(*再エネは水力を含む)
出所:
・ 2018年度エネルギー需給実績(速報値)
・ 第5次エネルギー基本計画(2018年7月発表)

化石燃料を主体とした発電を続ける限り、わが国は二酸化炭素を削減することは不可能なのが分かるでしょう。
原発を止め、9割弱を化石燃料に依存している現状では、パリ協定目標を達成することは不可能です。
つまり、エコ政策を突き進もうとして二酸化炭素ガス削減するためには原発を一定割合で組み込まねばならず、組み込んだら今度は反原発派から「危ない原発反対」とやられるという二律背反になってしまうわけです。
反原発派の運動家諸氏にどうやったら原発を止めたままで、CO2削減できるのかお聞きしたいものです。

特に2008年からの2年間の二酸化炭素の排出量の増加は危険視されています。脱原発よって環境が確実に悪化したのです。  
2009年の国連気象変動サミットにおいて、鳩山元首相が国際公約してしまった1990年比で2020年までに25%温室効果ガスを削減するという目標年になってしまいましたが、原子力発電なくしてどのようにするのかはまったく不透明です。
(*CO2削減率問題については過去ログをご覧ください。)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/12/post-a3c7.html 

下図を見ると、1997年の京都議定書以降も、CO2は増加の歯止めがかかっていないのが現状です。
京都議定書 - Wikipedia

 

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Warming_chart01化石燃料などからのCO2排出量と大気中のCO2濃度の変化出典:電気事業連合会「原子力・エネルギー」図面集2010http://www.jnfl.co.jp/recruit/energy/warming.html

このように京都議定書は失敗し、パリ協定もまた実行が疑問視されていることは確かです。
それ以前の1990年に8%削減という政府目標を立てた時ですら、そのために原発を9基増設し、当時60%台だった稼働率を一挙に81%にまで引き上げ、太陽光も20倍にする、と試算されていました。 

また、2009年時点で、政府は電力に占める原子力の割合を当時の30%から2030年には50%にまで引き上げる計画を立てていました。 
とうぜんのこととして、それらの計画は3.11以後、完全に白紙になりました。 
ここで、ではどうやったら原子力なしでCO2削減ができるのか、という問題に直面せねばならなくなったわけです。 

当座の間、新エネルギーで現実的に供給体制に入っているものはありません。
存在するのは、唯一化石燃料のみです。
福島事故当時から数年間の電力は、今まで稼働を止めていた旧型火力発電所を再稼働したものによって補われていました。
事故前の2010年11月時点で原発は230億キロワット時を発電し、電力需要の30%を超えて供給していました。 
それが事故後の2011年11月には70億キロワット時と3分の1以下に減少し、10%を切りました。それが現在2012年5月時点ではゼロです。 

では、火力発電の増加ぶりを見ましょう。2011年11月時点で、363億キロワット時であったものが、493億キロワット時と35%増大し、2013年には電気供給量の実に80%を占めるまでになっています。 
脱原発の世論の流れによって、皮肉にも日本は今や8割を化石燃料に依存するCO2大国に生まれ変わってしまったと言っていいでしょう。 

この状況が続くのならば、1990年比25%削減など夢のまた夢であって、大量の排出権購入を考えない限り、わが国は外国に排出権購入で膨大な富をむしりとられ続けることになります。 
つまり、原子力をゼロを実現すれば、片方の地球温暖化阻止という環境問題を犠牲にせざるをえず、温暖化阻止のために炭酸ガスを削減使用と思うと原発を一定範囲内でうごかすしかないのです。
今回のCOP25で明らかになったのは、このようなパラドックスが現実のものとなったことです。

  

 ※お断り また元のフォントサイズにもどしました。大きいと読みやすくはあるのですが、やたら面積をとってしまうし、なんとなく冗長です。

 

2019年12月16日 (月)

小泉大臣、恥をかく

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小泉進次郎大臣が恥をさらしているようです。

「「日本の存在高まった」と小泉氏 石炭祭りと日本批判を自嘲
 スペイン・マドリードでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)に参加した小泉進次郎環境相は15日、帰国前に会場で報道陣に「交渉成立に向けて積極的に貢献し、日本のプレゼンス(存在感)が高まった」と成果を強調した。
 小泉氏は9日に現地入りし、11日の閣僚級会合で演説した。二酸化炭素の排出が多い石炭火力発電を巡り批判の的になり「冒頭は石炭祭りだった」と自嘲気味に話した。批判は日本への期待の裏返しだとも主張した。
 一方で合意を目指し各国閣僚らと30回以上、会談を重ねたと積極姿勢をアピールした」(共同12月15日)

なぁにが自嘲ですか。こんなCOP25になんかでたら、必ず化石燃料の使いすぎ批判の十字砲火を浴びること覚悟の上だったはずで、「自嘲」などしてナンの足しになるのでしょうか。

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共同

日本はありがたくもかしこくも、化石賞などを頂戴してしまいました。

「【マドリード共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は3日、地球温暖化対策に後ろ向きな姿勢を示した国に贈る「化石賞」に日本など3カ国を選んだと発表した。日本は、梶山弘志経済産業相が同日の閣議後記者会見で、二酸化炭素(CO2)の排出が特に多く、温暖化を悪化させる石炭火力発電の利用を続ける政府方針を改めて示したのが理由。
スペイン・マドリードでの気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)の会場で発表した。同ネットワークは、世界は脱石炭にかじを切りつつあると指摘し、日本の方針は「パリ協定を軽視し、人々を危険にさらすものだ」と厳しく批判した」(共同12月4日)

やれやれ、まるで日本吊るし上げ大会ですが、小泉さん、なぜちゃんとした説明をしてこないんですかね。
日本とヨーロッパとは違った条件に置かれていること、そしてなによりも化石燃料が増大したのは原発を止めているからだという事実、この2点を大臣として説明しないでどうするんです。

●EUにおいて2030年までの石炭火力廃止宣言を提出した8カ国
・フランス               ・・・22年まで
・イタリア、アイルランド・・・25年まで
・スペイン、オランダ、デンマーク、ポルトガル、フィンランド・・・30年まで

国際環境経済研究所所長山本隆三氏『石炭火力で分断されるEUの温暖化目標』によれば、 EU諸国の2018年時点の石炭火力の発電量比率は下記の通りです。
この廃止宣言を提出した8カ国のいずれも石炭火力比率が相対的に低い国々ばかりです。

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山本隆三 欧州諸国の火力発電比率
※ 2018年実績値 出所:国際エネルギー機関(IEA) http://ieei.or.jp/2019/08/yamamoto-blog190826/

ここにトリックがあります。
典型的なのはフランスです。どうしてこの国が石炭火力の比率をわずか1.9%などという法外な数に押えられているのか、そりゃ簡単です。原発大国からです。
のグラフは福島事故以前のものですが、白い部分に着目してください。
フランスは原子力に訳8割強依存していますから、そりゃ石炭火力は少なくて当然です。
一方日本は原子力24%、石油27%というバランスのいい比率でしたが、一挙に原子力がゼロとなりました。
だから、その代替エネルギーで石炭火力が増えたのです。

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2013年9月15日に大飯発電所4号機が停止してから足かけ2年、日本は48基全ての原発が凍結状態になっていました。 
今稼働しているのはわずかに9基です。

2018年7月12日時点で新基準にパスして再稼働にこぎ着けているのは、大飯(関西電力)、高浜(関西電力)、玄海(九州電力)、川内(九州電力)、伊方(四国電力)の5発電所の9基。一方で、19基の廃炉が決まった。(略)
政府は2018年7月に閣議決定した第5次エネルギー基本計画で「2030年度に原発による発電比率を20~22%にする」としている。そのためには30基前後の原発の稼働が必要だが、実現までの道のりは遠く険しい」
(日本の原子力発電マップ 下マップも同じ)
https://www.nippon.com/ja/features/h00238/

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日本社会はエネルギーの基盤となるベース電源の実に3割弱相当を喪失したために、大きななしわ寄せを受けました。
現状日本は9割、化石燃料依存です。
下の2枚のグラフを見てください。紫の原子力がグラフ右端では消滅して、替わりに火力のピンク色が激増しているのがわかりますね。
これが、「原発ゼロ」のリアルな結果です。

 

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 (図電源別発電電力量構成比 - 電気事業連合会

代替電源は化石燃料以外に道はなく、主にLNG(液化天然ガス)に頼ったために、2011年から14年までで既に12.7兆円もの国富が海外に流出したとみられています。
私たちは家庭用電気料金の方に目が行きがちですが、実は家庭用向け電気料金は政策的に安く設定されていますので、ほんとうの電気料金値上げの負担はむしろ産業部門に重くのしかかりました。

電気料金は民主党政権が始めた「原発実質ゼロ」政策のために右肩上りの上昇を続けました。
下図を見ると、化石燃料コストと電気料金値上がりが、同調しているのがわかります。

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   (図 東電HP) 

この原因は、ひとえに電力会社が原発を停止し、燃料コストを増大させたからです。
原発を止めてしまった以上、代替エネルギーの選択肢はふたつしかありません。
一つは化石燃料を主体とするか、もうひとつは再生可能エネルギーに頼るかしかありませんでした。

再エネがもっとも光り輝いて見えた時期でしたが、それはただの偽薬にすぎませんでした。
いまでも毎日新聞などはチャラっとこんなことを書いています。

「だが、日本のエネルギー基本計画が規定する将来の電源構成は、石炭に過度に依存している。(略)
 基本計画を見直し、温暖化対策に真剣に取り組む姿勢を示すべきだ。基本計画は30年の原子力への依存度についても「20~22%」と明記するが、再稼働が困難な現状から目をそらすものだ。再生可能エネルギーの活用にかじを切る時だ」(毎日社説2019年2月13日)
https://mainichi.jp/articles/20191213/ddm/005/070/021000c 。

毎日のご託宣では、化石燃料を止めて再生エネに切り替えよ、さすればニッポンは救われるであろう、とのことです。
こんな記事を事故直後の8年前ならいざしらず、いまでも平気で書ける神経がわかりません。
馬鹿も休み休みいいなさい。いつまで同じことを言っているんですか。結果は既に見えたんですよ。
脱原発を決めた民主党政権は、FITという全量固定価格
買い取り制度を作りましたが、促進のためにベラボーな高額買い取りをしたために太陽光バブルが発生し、太陽光発電を中心として再エネ発電設備の導入は飛躍的に伸びました。 

 ※ここに入っていた2枚のグラフとその説明部分は筆者の間違いでしたので、削除します。

しかしメガソーラーの合計の最大出力は、定格で2万kWていどで、発電実績はさらにそれよりはるかに低い数値でなのす。
立地や設備によっても異なりますが、10分の1、あるいは8分の1とか言われています。
再エネで言う定格出力とは、「精一杯ガンバレば、これだけ発電が可能ですよ」、というスペックにすぎず、実際の発電実績ではありません。

なんと笑えることには、再エネには「旬」があるのです。


・潮汐発電(満潮と干潮の海水面の高低差で発電)・・・満潮、または干潮の一日数分から数十分間だけ
・風力発電(風力によってプロペラを回して発電) ・・・風が吹いている時だけ
・太陽光発電(太陽エネルギーで発電)       ・・・太陽が出ている時だけ

再エネの宿命的体質は、このようにその瞬間「だけ」の一時的な発電量にすぎないのです。これが決定的に他のエネルギー源と異なるところです。
こんな恒常性がない電源は、一定の電力を安定的に発電する必要があるベースロード電源にはまったく適していません。
それを知ってか知らずか
、「再エネを30%にするぞ」とか、「いや全部まとめて再エネだぁ」とか、はたまた毎日みたいに「石炭火力やめて再エネでいけぇ」などという景気のいいことを言う人たちがいますが、頭のネジが吹き飛んだとしか思えません。

日本においては、石油発電と原発はこちらを選べばアチラが立たずというトレードオフの関係なのです。
ここが決定的にヨーロッパとは異なる点です。

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ドイツがとった「脱原発」の方針は二つでした。
ひとつは火力発電所の大増設計画です。
ドイツ環境諮問委員会の資料によれば、現在計画中の石炭火力発電所により1000万キロワット、そして天然ガスによる火力発電所で更に1000万キロワットを補填する計画です。
このうち石炭火力発電所は2013年までに早期完成させ、天然ガスのほうも2020年までに竣工させるという計画をもっています。
この計画を立てた時点でドイツは、脱原発を選んだ代償としてCO2の排出削減という環境政策を捨てたことになります。
ドイツはとの思いで火力発電を建てたとおもったら、こんどはCOPで石油火力を捨てろですから、踏んだり蹴ったりです。
まぁ、自分でやったことですからしょうがないですが。

ドイツはそれでもなんとかやっていけました。
なぜなら、もうひとつのセフティネットがあったからです。
それはドイツには欧州送電網がついているからです。
下の図をみるとヨーロッパ地域において電気はただの貿易品だとわかります。
電気をお互いに融通しあって、電気に色はありませんから、その電気が原発由来か再生エネ由来か消費者にはまったく判別できないのです。
最近ヨーロッパでの流行りは、由来を明らかにして付加価値をつける商法が登場しているほどです。当然再エネのほうがお高い。

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熊谷徹『脱原発を決めたドイツの挑戦 再生可能エネルギー大国への道』

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上図のように互いに融通しあっているからこそ、ヨーロッパでは脱原発や脱化石発電が可能だったのです。
つまり原発依存国や石油発電をしている国から、電気を買えばいいだけのことだからです。

このように書くとかならずドイツは脱原発をしても電力輸出国だという人がいますが、それはあくまで一時的なことで、ドイツのエネルギー・ネットワーク庁の責任者はこう明解に言い切っています。


「今多くの人は、ドイツが数週間フランスに電力を輸出したと喜んでいます。しかし2011年全体でみれば、ドイツはフランスに対してかつての電力輸出国から輸入国へと転落しています。都合のいい数字ばかりではなく、事実を見つめるべきです。」(フランクフルター・アルゲマイネ紙)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/post-6147.html

つまりドイツは大きなヨーロッパ送電網の中に位置しており、電力が余剰の時は旧東欧諸国に輸出し、不足した場合は火力発電所を調整してもらっています。
その上にロシアからは天然ガスのパイプラインが走っていますから(だからドイツはロアに強く出られません)、十重二十重にエネルギーのバックアップは万全なのです。

まさに大陸の強みです。こればかりは島国の日本はまねできません。
だからメルケルには脱原発ができたし(半分ですが)、火力依存もスムースだったわけです。
いまドイツが脱石油でもたもたしているのは、国内に炭鉱を抱えているために、社会政策上一気にゼロというわけにはいかないからです。

そのヨーロッパですら、石油火力の削減については大きく分裂しました。

「ドイツとイタリアが名を連ねていないことが話題になった。
 その後、ドイツのメルケル首相は5月中旬にベルリンで開催された環境関連会議の場で、ドイツは2050年純排出量ゼロをいかに達成するかを議論すると発言し、自国で設定していた2050年に2005年比80~95%削減目標を引き上げることに言及した。
 ドイツが支持の姿勢を示したものの、6月20、21日に開催されたEU首脳会議で提案された2050年ゼロ目標にエストニア、ポーランド、チェコ、ハンガリーの4カ国が反対したため、まとまらなかったと報道された。
 4カ国とも石炭をはじめとした化石燃料の比率が高い。また、下図の通り、ハンガリー以外の3カ国は1人当たりのCO2排出量が相対的に多く、ゼロ目標達成は困難と判断したものだろう」(山本前掲)

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山本前掲 1人当たり温室効果ガス排出量
※ 2017年実績値 出所:欧州連合(EU)統計

ヨーロッパでは8カ国も脱石油発電をしたと報じられていますが、その舞台裏では原発依存国から電気を融通してもらったり、東欧各国のように従来どおりの石油依存を続けている国ありとさまざまなのです。

ですから小泉先生におかせられましては、お父上のスットンキョンな脱原発論の強い影響下にあるとおもわれますが、今脱炭素・脱火力発電をするためには、原子力と火力発電はトレードオフの関係だということにさっさとお気づき下さい。
脱原発して火力発電切るなんて100%むりです。
現実には社会をきずつけないように配慮しながら、折り合いをつけるかないのですよ。
さもないと、「セクシー」といったり「子供が生まれる」とか、わけのわからないことでお茶を濁すことだけが達者になりますよ。

あ、それと世界で一番炭酸ガスだしているのは中国だかんね、そこもよろしく。
チャイナはこういう時だけ「うちは発展途上国だ、別枠だ」(よくいうよ)と言い出すんで、そこんところもね。

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https://www.jccca.org/global_warming/knowledge/kno...

とまれ、大臣として行っているんで、個人の進次郎で行ってるんじゃないからね。

 

2019年12月15日 (日)

日曜写真館 銀杏が散ると冬です

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寒風に金髪を揺らす巨人のようです

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この銀杏の小道を行くと牧場に出ます

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やがて散って冬に耐えます

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子供のころは銀杏がエンガチョでした

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黄金色の銀杏が散るとすっかり冬です

 

 

2019年12月14日 (土)

英国保守党大勝、ブレグジット確定

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ボリス・ジョンソン首相が賭に勝ちました。過半数を悠々と確保し、32年ぶりの歴史的大勝です。
前任者のメイ首相が、ねじれのために苦労し、その打破のために選挙に打ってでて敗北を喫し、更に求心力を失うという悪循に入った状況を、一気に解消した
ことになります。
いかに英国民がブレグジットでヨレヨレだったかのかわかります。

イギリス総選挙は12日午後10時(日本時間13日午前7時)に投票が締め切られ、与党・保守党が下院(定数650)で過半数議席を獲得した。来年1月31日までのブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を目指すボリス・ジョンソン英首相は、「我々の『ひとつの国』保守政権は今夜、ブレグジット実現へ強力な信任を得たようだ」と述べた。保守党にとって1987年以来の大勝となった」(BBC12月13日)
https://www.bbc.com/japanese/50766470

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BBC

●午前8時半(日本時間午後4時半)の時点での政党別獲議席得数
・保守党・・・364議席(47増)
・労働党・・・203議席(59減)
・スコットランド国民党(SNP)48議席(13増)
・自由民主党は11議席(1減)
・北アイルランド民主統一党(DUP)は8議席(2減)
・その他が15議席(2増)

労働党はコービン党首が議席を確保したものの、大きく後退しました。こちらは歴史的惨敗でコービン党首は辞任する見込みです。
コービン党首は、労働党内からもその左翼路線に対して強い批判がでていました。

ウィルソン議員はツイッターで、「労働党首脳陣が、敗因をブレグジットのせいにするのは、うそだらけのナンセンスだ」と批判。「ジェレミー・コービン氏のリーダーシップの方が大きな問題だった。それ以外が原因だなど、妄想だ。有権者の戸別訪問では、党幹への評価は鉛の風船のようにひどいものだった。労働党の首脳陣は責任をとる必要がある」と述べた」
「労働党は、長年の支持基盤だったイングランド北部や中部で大きく後退した。何十年と、あるいは1918年以来、労働党が勝ち続けたかつての炭鉱町などで、次々と保守党新人が勝ち、スー・ヘイマン影の環境相や、ジェニー・チャップマン影のEU離脱担当相など、党幹部が次々と議席を失った」(BBC前掲)

この選挙は、争点不明で週刊誌ネタしか火種がない日本と違って、すこぶるスッキリした構図でした。
ブレグジット断固推進のジョンソン率いる保守党と、残留のためにもう一度国民投票をしろというコービン率いる労働党の対決でした。

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ことの発端は、あのデコ助(失礼)のデービット・キャメロンという名前だけカッコイイバカ(またまた失礼)が、自分が残留だったので自信たっぷりに国民投票で上書きしようとしたことから始まりました。
結果はご承知のようにブレグジットの勝利に終わりました。
負けが判明した時のキャメロンの顔があまりおもしろいので貼っておきます。

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https://kinyu1.com/post-1211/

じつはこのキャメロンとジョンソンは、同じ保守党内で両極を成していました。
育ちがよくは見えないジョンソンですが、イートン校からオックスフォードというエリート街道を進んでおり(彼の演説のキングスイングリッシュを聞けばわかるでしょう)、その後輩がキャメンロンでした。
よくあることですが、学校の
先輩後輩でも仲がよくないようで、立場はまったく異なっていました。

ジョンソンは英紙のEU特派員時代から「ブリュッセルのクソ官僚ども」と罵りまくっていて、政治家になるや初めはマイルドにEU改革を唱えていましたが、やがてテンションが上がって過激な離脱を主張しはじめました。
一方キャメロンは、中国すり寄り路線を進めながら、英国はEUにしがみついてこそ浮かぶ瀬もあれと考えていました。
現時点で強い者に媚び従うという意味での現実主義者のようです。

このふたりはキャメロンがやった国民投票で激突します。

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https://www.asahi.com/articles/ASJ6X5SXSJ6XUHBI028...

このブレグジット国民投票の結果はなかなか面白いものです。

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NYタイムス ブレグジット地域別

英国全体では残留派が48%、離脱派が52%で、離脱派がわずかに上待ったのですが、地域別では北アイルランド、スコットランド、そして金融センターであるシティがあるロンドンでは残留派が優勢でした。
これはスコットランドは、仮に独立が達成された場合、その受け皿にEUになってほしいという下心があるからです。
今回の選挙でもスコットランド独立派が票を伸ばしました。
またアイルランドの場合は、北アイルランドとアイルランド本国との国境が、離脱するとまた今までどおりの厳重なものに戻ってしまうからです。
EU離脱すると国境検問が復活し、同じ島内でEU加盟国と非加盟国が共存するという分断が生じてしまいます。
逆に、
離脱するとなると、今は治まっている北アイルランドのアイルランド統一派であるIRAがまたテロをやらかすのではないかという心配も現実にありました。

 

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ロンドンのシティは、世界的な金融センターで、恥ずかしながら今の英国はもう製造業で食ってはいません。
主要産業は金融業なのです。
ですからシティはヨーロッパの金融センターとして君臨するだけではなく、チャイナマネーを呼び込むのに熱心でした。
キャメロンのパンダハガーはここから生まれています。
というわけで、英国の銀行や金融業はおしなべて残留派でした。

ウェールズやイングランドで離脱派が勝ったのは、伝統的産業が没落し、不況に苦しむところに多くの移民が押し寄せたからです。

さてEUとひとことでいいますが、ふたつの要素があります。
ひとつは、ユーロという共通貨幣で、もう一つはシェンジェン条約です。
ユーロは、今までの個別主権国の貨幣を捨てて、ユーロという共通貨幣に移行するものでしたが、じつはこれで得したのはドイツだけ、他の諸国は盟主ドイツ好みの緊縮財政を強いられたあげく、独自の景気浮揚策が打てないという致命的欠陥が暴露されています。
エマニュエル・トッドなど皮肉たっぷりに「いまあるヨーロッパはドイツ的ヨーロッパだ」と言っているほどです。
ただし、英国はしぶといことにユーロには参加しませんでした。

今ひとつはシェンゲン協定です。
こちらは国境を自由に行き来できるとする規定で、どこかの加盟国に入獄できれば、あとはフリーパスで国境を超えられるという考えようによってはトンデモな条約です。
なにせ主権国が国境管理を捨ててしまうのですからシャレになりません。
これによってヨーロッパ域内に大量の難民が流入し、ISなどのテロリストも入り放題となってしまいました。

これに対しての国民の怒りは鬱積し、ついには残留派のキャメロンも無視できなくなって国民投票に踏み切るわけです。

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https://kinyu1.com/post-1211/

離脱派の主張はこのようなものでした。

■EUの一員ではなく国家としてのイギリスの主権を取り戻したい!
■EUから貰えるお金よりEUへ出すお金の方が多くて損だ!(EU拠出金問題)
■移民の社会保障制度のフリーライドは許さん!
■EUの規制のせいで自国の企業が儲けられない!
https://kinyu1.com/post-1211/

このような離脱派の主張は、主に移民に仕事を奪われている低所得者層の国民や、不況で苦しんでいる地域に支持されました

今後ですが、これで英国は大陸とのしがらみから離脱することになりますが、そうことは単純ではありません。

というのはEU側は今までと同様の基準を守れる事を条件に、離脱を認めているからです。

「EU当局者は、英国がEUを離脱した翌日に、英国との関係に関する交渉を始める構えだと述べている。双方は、英国が労働や環境などに関してEUの基準の多くに従うことを条件に、「関税ゼロ、クオータ(割当枠)ゼロ」の協定を目指すことで合意している。
英国には、離脱協定をめぐる分裂を再現するようなトレードオフが生じる。現行の貿易パターンを壊さないようにするため、EUとの緊密な経済関係を望むのなら、英国は多くのEUの規則や規制を受け入れなくてはならない。その規則や規制内容に、英国はもはや関与できない。より離れた関係を望むのなら、現在行われている国境を挟んだ商業活動は混乱するだろうが、英国は経済をどう管理するかについて自分で選択できるようになる」(ウォールストリートジャーナル12月14日)
https://jp.wsj.com/articles/SB11405409923491164573304586075193891761366

ただし、ブリッセルの扉が閉ざされると同時に別の扉も開かれることになります。

「一方で、開かれるドアもある。EU加盟国としての束縛から解放され、英国は貿易協定の交渉を開始できるようになり、経済面で独自の規則を設ける余地が拡大する」(WSJ前掲)

これが米国や日本、アジアなどとの海洋国家間の新たな扉です。
かねてから英国はTPP加盟を打診してきていますから、実現の可能性があります。
またとうぜん安全保障においても、米国とファイブアイズ 、そして日本との共同が模索されることになるでしょう。

 

2019年12月13日 (金)

オスプレイ不起訴は当然だ

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オスプレイ不時着事故が不起訴になりました。当然です。

「米軍普天間飛行場所属の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが2016年に名護市安部の海岸で墜落大破した事故で、那覇地検は11日付で不起訴処分とした。中城海上保安部が9月24日、氏名不詳のままオスプレイを操縦していた機長を書類送検していた。
  外務省の川村裕沖縄担当大使は10月の県議会議員との面談で、米側が米国内のプライバシー保護法を理由に操縦士らの氏名提供を拒んでいたことを明かしていた。【琉球新報電子版】

この記事をすっと読むと、なんらかの不正行為を感じて中城海保が捜査し、検察に書類送検したが、地検がオスプレイが「欠陥機」であることを政治的に握り潰したようにも聞えます。
記事末尾に、米軍がパイロットの氏名を公表してなったことが、これと関係あるかのような一行を書きくわえることで、真実を隠蔽したい米軍と日本政府が・・・、という妄想を喚起したいようです。

一般的な事件は警察が捜査を開始しますが、今回は海上だったので海の警察である海保が担当しました。
警察は犯人と疑う人から逮捕して捜査を行う、というイメージが大きいかもしれませんがそうではありません。

事件が軽微な場合、あるいは犯罪性がないものについては逮捕や拘束はしません。今回はそのケースです。
海保は事故として調査しているので、その結果の調査書類を検察官に送ったので「書類送検」と呼ばれただけです。
そして検察もこの事故に違法性がなかったので不起訴にしました。
ですから海保が書類送検という手続きをしたというだけで、不起訴になることはほぼ決まっていたのです。

またこういった事故においてパイロットの名前を公表していないのは米国の慣例であって、日本の場合にも見られます。
こういう米軍がらみの事故があると、必ず政治利用する人が大量に出ます。 
特にオスプレイにおいてはあたりまえのように「欠陥機」報道がなされるのが通例でした。
この人たちは、民間機が同じことをやってもなんの「抗議の声」もあげないのに、米軍だ、自衛隊だというと急に色めきます。
このオスプレイ事故においても、事故経緯すら明らかになる前から青筋を立てて「欠陥機に抗議」ですから、人としていかがなものでしょうか。

とくに当時の沖縄海兵隊のローレンス・ニコルソン司令官がこう言ったというので、鬼の首でもとったような騒ぎになりました。
地元紙は当然ですが、当時
江川紹子氏などまでが、事故原因がわかる前からこの調子でした。 


「人的被害がなかったのは「神に感謝すべき」と言われても、なんであなた方の神に感謝しなきゃなりませんの?ということでわ。自分たちの価値を押し付ける会見は逆効果。異文化への配慮がまったく見られないところに、これからトランプ的傲慢が華々しく展開されるのでは、という懸念を抱く」

江川さん、なにが異文化を理解しない、ですか。
江川氏は原因がなにもわからないうちから、あたふたと「申しわけありませんでした」と謝罪し、そのくせその後は音無の構えで居直り、まともな事故報告書ひとつ出さないような首里城火災事件時の美ら海財団のような態度がお望みのようです。
トランプ的傲慢ですって(失笑)。
この人の脳内で、米軍=悪=悪人トランプという図式で連想ゲームをしているだけのことで、こ
れでジャーナリストというのですから呆れます。

20190601191459

ニコルソン氏の発言はこうです。


"The pilot made a decision to not fly over Okinawan homes and families. He made a conscious decision to try to reach Camp Schwab…and land in the shallow water to protect his crew and the people of Okinawa."
パイロットは、沖縄の家庭や家族の上を飛行しないことを決意した。彼はキャンプシュワブ沖合にたどり着こうと強く決意した。・・・そして乗員や沖縄の人々を守るために浅瀬に着陸しようとした。

この文脈の中で、ニコルソンはパイロットの勇気に「感謝しよう」といったのです。
これが居直りに聞えるか否かは、パイロットがいかにしてあの浅瀬まで傷ついた機体を引っ張っていったのか、なぜそういう判断をしたのか、そしてどのようにして見事な不時着水をなし遂げたのかを知れば分かるはずです。

この事故は事故報告書によれば、気流の突然の乱れによって給油機側のホースを、オスプレイのプロペラ(ローターブレード)が切断してしまい、それがプロペラにダメージを与えたうえにホースがブレードに絡みついてしまったために、左右の回転が不均等になり、強い振動が発生したためのようです。
オスプレイのプロペラは左右が連結されていますから、すごい振動だったと推測されます。
事故原因は当初からニコルソン氏が公表していました

”the rotor blades struck the refueling line, damaging the aircraft”
「ロータブレードが燃料補給ラインに衝突し、航空機に損傷を与えた。」
 

 

Proxy
朝日新聞12月14日http://www.asahi.com/articles/ASJDG5QJGJDGTIPE02Y.html

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出典不明

このような事故は今までも他機種でも起きていますから、オスプレイ特有のものではありません。
もちろんオスプレイはすべての双発機がそうであるように、片肺といって片一方のエンジンだけで飛行もできますし、着陸もできます。
※参考資料
http://booskanoriri.com/archives/2565
http://kinema-airlines.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/ceo-11d5.html

その場合、損傷を受けた側のエンジンは通常の手続きとしてフェザリング(Feathering)という措置をします。 
このフェザリングは、動力系からプロペラを切り離してペラピッチもゼロにして抵抗を最小にする措置のことです。
しかしこの事故時はプロペラにホースが絡まるという最悪のケースだったためにそれができずに、機体全体に及ぶような強い振動を発生させたようです。 
当然のこととして平常の飛行は無理です。 

 

Ospraypit001http://tsubotch.cocolog-nifty.com/skymonologue2/20...オスプレイ操縦席 左が機長席

ちなみにこれは夜間の給油訓練でした。
おそらくパイロットは暗視ゴーグルを装着して飛行していたとおもいますが、きわめて危険な訓練でした。

このように書くとそんな危険な訓練はするなとか、沖縄上空でやっていたのが問題だという声があがりそうですが、米軍は緊急時に備えて沖縄に駐留しているのであって、緊急時に昼も夜もありません。
夜間でも飛行距離や滞空時間を延長したい場合には、夜間給油も実施するのが常識です。
またこのような訓練を行う空域はあらかじめ定められていて、民家がある地上上空では決して行われません。
この事故も本島西海岸の海上で発生しました。 

この状態で普天間基地、ないしは嘉手納基地に帰還できるか、機長は即座に回答を出さねばなりませんでした。 
選択肢は三つしかありません。


①あくまでも基地に帰還を目指す。
②すぐに海に不時着水する。
③できるだけ陸に近い所まで飛行させて不時着(水)させる。
 

パイロットの第一志望は、とうぜん①の基地への帰還だったでしょう。
②も不可能ではありませんが、夜間の海面への不時着水は、機体の損傷箇所から瞬時に浸水が始まるために脱出時間が短く、クルーの死亡率が高いのです。
そこで③が選ばれるわけですが、水深が浅く救助が速やかに行われる海域まで機体を飛行させねばなりません。

しかもここにもうひとつ重要な判断要素が加わりました。
事故地点から普天間飛行場や嘉手納基地に到達する最短距離は、地上を飛行せねばならなかったのです。
傷ついた機体を
びっしりと住宅が立ち並んでいる地上を飛ぶリスクを、機長は取りませんでした。
彼女はもっとも困難な選択肢を選びます。

それは本島を横断する飛行ルートを選ばずに、西海岸沿いにぐるりと辺土名岬を迂回し東海岸を南下してうるま市海岸にいたるルートです。

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これは地上の民家の上には機体を落とさない、という世界共通のプロフェショナル・パイロットの矜持がなければとらなかった選択でした。
我が身かわいさの操縦士なら、一刻でも早く飛行場に到達しようと、本島上空を縦断する直線コースを選んだからでしょうから。
ここにこの無名のパイロットの仕事への誇りをかんじます。
ニコルソン氏が「感謝するべきだ」といったのは、日本人よありがたく思えという意味ではなく、彼女の傑出したプロフェショナル精神に対してなのです。

しかしこの決断は貴重な時間を操縦士から奪いました。
おそらく東海岸うるま市に接近した時点で、機体はもはやこれ以上飛行できなくなっていたかもしれません。
そこで、操縦士は最後のアプローチに取りかかります。
それが着水です。

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琉球新報

不時着水は大変に高度な技術です。 
突っ込み角度が深ければ、機首から突入することになり、大破し生存は見込めません。 
逆に浅ければ、機尾から接地して胴体がバラバラになります。 
また、正確な水平状態を維持しないと、傾けば翼から傾くようにして大破します。 
速度がつきすぎれば、堤防に頭から衝突します。

正しい不時着(水)の模範が、「ハドソン川の奇跡」のサレンバーガー機長が操縦したUSエアウェイズ機(1549便)の例でした。 

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映画でご覧になった方も多かったと思いますが、バードストライクでエンジンが停止し、飛行場に戻ることを断念し、市街地に落とさないために、ハドソン川に不時着水しました。 
まったく今回のオスプレイの事例と同じです。 

このハドソン河着水時の諸データは以下の通りです。(カッコ内はメーカーの示す値)
おそらくこのピッチ角と速度以外で着水したならば、大破したでしょうから、ほぼこのデータどおりであると推測できます。


・速度125kt(118kt)
・ピッチ角:9.5度 (11度)
・ロール角:0.4度
・経路角:マイナス3.4度(マイナス1度)
・降下率:12.5fps [750fpm](210fpm)
・迎角:13~14度
 

不時着水ですから、衝撃をなるべく抑えるために、通常の着陸角度よりも浅い角度で着水したのではなく、機首上げ操作で降下率を抑えながら操縦していたようです。 
しかし、推力がないために降下率が大きく、まぁよくこれできれいに水上に滑りこんたものだと関心させられます。
参考資料http://flyfromrjgg.hatenablog.com/entry/miracle_on_the_hudson 

このピッチ角11度というのが重要で、この角度が浅くても深くても機体は大破して、多くの死傷者を出すことになります。 
今回の事故において、機体は機首から破断し主翼ももげてていますが、機体全体はきれいなままです。 
この大破の原因は、一説ではクラシャブル構造であるとか、海岸の岩場に事故後にぶち当たっって流されたためだという説もありますが、はっきりしたことは不明です。

しかしおそらくこの女性操縦士はピッチ角11度で海側から海岸にアプローチし、118ノットちかくまで速度を落としてピタリと機体を水平に着水させたとものと思われます。
称賛に値する見事な腕です。

このパイロットの名前は事故当初から公表されていませんでした。
その後、女性飛行士で、熊本地震の時にも長駆フィリピンから救援に駆けつけたひとりだったと分かっています。
ニコルソン氏は自分の部下の仕事を正確に理解し、バッシングせんものと身構えているメディアに対して「防風林」となってくれました。
氏名を公表しないのは、こんな状況で公表することが当該操縦士にとって著しい社会的不利益になるからにすぎません。
むしろこれが米国内ならば、この操縦士は英雄として遇されたことでしょう。
私も、地元紙とは違う意味で、この見事な仕事をなし遂げた女性操縦士の名前を知りたいと思います。

 

 

2019年12月12日 (木)

バランスシートで見る米韓同盟の崩壊

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トランプが韓国には5倍の駐留経費負担を要求しています。

トランプに言わせれば、同盟が双務的ではないということですが、果たしてどうでしょうか。
政策提言シンクタンクの笹川平和財団が、先だっての10月に「日米同盟は不公平か?」と題したパネル講演会を開きました。
ここには米国となんらかの形で同盟を結んでいる
アジアと欧州の6カ国・地域の対米同盟を比較した結果が報告されています。
興味深いのは、これをバランスシート形式でまとめたことです。

「2018年度、笹川平和財団安全保障研究グループでは、ポーランドの「カシミール・プラスキー財団」との協力により「同盟国のバランスシート」事業を行い、アジアと欧州における同盟国6か国の米国との関係における強みと弱みを分析した「比較論文」と、それを反映した「バランスシート」を作成した」
(パネル講演会「日米同盟は不公平か?」ーアジアと欧州の同盟を比較するー(2019.10.24開催)
https://www.spf.org/spfnews/information/20191108.html

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このような見方をすることで、オレの国はこう思う、だけではなく米国にとってどうなのか、米国から見た「資産」と「負債」が釣り合っているのかいないのかがわかります。
このシンポで取り上げられた「資産」と「負債」
の項目はこのようなものです。

・「資産」の項目
①共通の脅威認識
②地政学的位置
③米軍との相互運用性
④軍事以外の協力関係
⑤同盟を維持する意志

・「負債」の項目
①当該国の固有の紛争に巻き込まれる懸念
②当該国の固有の政治事情の制約
③同盟への財政負担の制約

このシンポには取り上げられていないのですが、米国との同盟が破綻したケースとして歴史書に載りそうな韓国の場合をみてみましょう。
すでにバランスシートは
大きく崩れていますが、韓国政府だけはそれに気がついていないようです。

そもそも「資産」の第一位にある①「共通の脅威認識」が乖離し始めています。
当然ですが、同盟とは、共通の対象国があってこそ結ばれるものです。
共通の仮想脅威が失われれば、同盟を持つ意味はなく、それなりのしっぺ返し
を覚悟せねばなりません。

②の韓国が地政学的要衝であるという点がポイントですが、敵に寝返ってしまってはオセロの駒が逆になって、一気に「負債」の項目と化してしまいます。

③の「米軍との相互運用性」では、いままで米国の武器体系に従ってきたのに、いまや独自兵器体系へと移行し、輸出まで狙って米国と競合しています。
米国は大前提の「脅威の共通認識」が崩れ始めた韓国との共同訓練を打ち切ろうとしています。

④の「軍事以外の協力関係」にいたっては、サムスンに典型的なように韓国企業は米国企業のシェアをダーティに削り続けてきたという苦々しい認識を、米国は持っているはずで、これも「負債」の項目行きです。

⑤の「同盟を維持する意志」に至っては、ムン政権要人が「共通の脅威」であるはずの中国の核の傘に入りたい、北と融和して統一したいというようなことまで口走るありさまです。

「もし、北朝鮮の非核化が行われていない状態で在韓米軍が撤退したら、中国が韓国に『核の傘』を提供し、その状態で北朝鮮と非核化交渉をするという案はどうだろうか?」(文正仁大統領安全保障補佐官 朝鮮日報(日本語版12月5日)

では続いて韓国の「負債」の項目を見ましょう。
まず①「当該国の固有の紛争に巻き込まれる懸念」ですが、GSOMIAやレーダヒ照射事件で明らかになったように、韓国は日本に対してファナティックな反日政策を取り続けています。
今や韓国にとって日米韓の三カ国連携どころか、あからさまな「仮想敵国」こそ日本です。

米国からすれば、裏切りの意志を示さなかった前政権時までなら仲介の労をとらないではありませんでしたが、いまや匙をなげています。
日韓軍事衝突という事態を日本側から惹起することはありえませんが、韓国は民族の「恨」を晴らすために機会を狙っているかにすら見えます。
これは日米韓国三カ国連携で、中国・北朝鮮と対峙しようという米国にとって許しがたい裏切りの所業のはずです。

②の「当該国の政治事情の制約」ですが、韓国は変形な「直接民主主義」が公然となされる国です。
正統な政権を街頭デモで倒すことが常態化し、議会制民主主義が機能していません。

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崔章集(チェ・ジャンジプ)高麗大学名誉教授

崔章集(チェ・ジャンジプ)高麗大学名誉教授は、2019年12月9日の「運動圏民主主義は全体主義と似ている」とした講演でこのように述べています。
今の韓国にも、まともな知識人がいることに胸をなで下ろした次第です。

「崔教授は、1980年代に民主化を主導していた、いわゆる「運動圏」勢力が主軸になっている現与党に対し懸念の声を上げた。崔教授は「(かつての)運動圏の学生が(現在の)韓国政治を支配する『政治階級』になった」として「軍部独裁を『絶対悪』と規定していた過去の経験に基づき、『民主主義対権威主義』『善と悪』など、イデオロギーの形で民主主義を理解する傾向がある」と語った。
その上で「結局、多元的統治体制としての民主主義が抜け落ちて直接民主主義を真の民主主義だと理解し、全ての人民を多数派の『総意』に服従するよう強制する枠組みは、全体主義と同一の政治体制になっている」と指摘した。386(1990年代に30代で80年代に大学に通った60年代生まれの世代)運動圏の政治家について「もはや進歩といえるかどうか疑問」とも語った」(朝鮮日報12月10にに)
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/12/10/2019121080094_2.html

このような自省が見られない限り、韓国の民主政治の崩壊現象には歯止めがかからないことでしょう。
私はそうとうに悲観しています。

最後の③の「当該国の財政負担」ですが、韓国はいまでもたっぷりと出しているという勘違いをしています。
下のグラフをご覧ください。

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韓国は米陸軍第2師団を、もっとも危険な38度腺すれすれのワイヤートラップの位置に置かせていました。
米軍を北が攻撃すれば同盟が機能して自動参戦となるわけですが、よくもまぁここまで頼りきりになっていたものです。
それでいて日本の半分ほどしか駐留経費の負担をしてこなかったのですから、米軍がどう考えてきたのか推して知るべしです。

日本はアジア全域から中東までの地球の半分をエリアとする第7艦隊に母港を提供し、米海軍の海外最大の石油ターミナルと弾薬庫も日本にあります。
また沖縄には有事即応部隊として、海外に展開する唯一の海兵隊基地も置いています。
つまり米国にとっての日本はいわばアジア本社のようなもので、日本なくしては米軍の世界戦略が成立しません。
 
それに対して韓国は、米国が世界各地に持つ前線のひとつにすぎません。
言ってみればただの出張場で、米軍人が米韓合同司令部の指揮権を握っていたのは当然ですが、いまや一転、戦時統制権は返せ、在韓米軍は南北統一の敵だと言い切っています。
文正仁補佐官は9月9日、講演でこのように述べています。

「韓米同盟を生かそうとして、南北関係がダメになっている。北関係で最大の障害物は(在韓米軍を指揮する)国連軍司令部だ。国民が実態を知れば、『司令部は撤退せよ』と言うはずだ」(中央日報・日本語版、11月26日)

このように「資産」筆頭の「共通の脅威認識」からしておかしくなり、ムン政権は「三不の誓い」までして日米同盟には協力しないと中国に一札入れてしまいました。
中国にはラブコールを送り、北とも片思い路線を貫いていますから、米国から5倍くらいの駐留経費の増額を迫られてもまだバランスシートは回復しないことでしょう。

このように検討してくると、韓国への駐留経費5倍要求は、同盟のバランスシートが大きく「負債」に傾いた結果としての米国のペナルティ要求だと考えられます。

 

2019年12月11日 (水)

北のどん詰まりの恫喝と日本がすべきこと

 

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朝鮮半島は南北ともどん詰まりのようです。
北朝鮮は長距離弾道ミサイルのエンジン・テストとおもわれる実験を再開しました。

CNNは5日(現地時間)、「北朝鮮の西海衛星発射場(東倉里発射場)で、以前はなかった動きが見られる」として、「人工衛星や大陸間弾道ミサイル(ICBM)を打ち上げるためのエンジンの燃焼実験を北朝鮮が再開することもあり得る」と報じた。CNNは、民間衛星企業「Planet Labs」が撮影した衛星写真で、東倉里ミサイル発射場の前で新たに大型の船積みコンテナが捕捉されたことを活動再開の根拠として提示した。米国ミドルベリー研究所で東アジア核不拡散プロジェクトのディレクターを務めるジェフリー・ルイス氏は「これは、今後長距離ミサイルや人工衛星の発射に乗り出すこともあり得ることを示す深刻な兆候」と、CNNに語った」(朝鮮日報12月5日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191207-00080007-chosun-kr

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朝鮮日報

政府高位当局者は9日、「北朝鮮は3日、イ・テソン外務省米国局長名義で『クリスマスプレゼントが何になるかは米国の選択にかかっている』と威嚇した」とし「イ氏の談話から4日後に北朝鮮がエンジン燃焼実験を行ったが、これは予想よりも速いペース」と話した。
この当局者は「北朝鮮は2017年にも3月18日エンジン〔白頭(ペクトゥ)〕燃焼実験から4日後にミサイルを発射したことがある」とし「北朝鮮が今年初めに東倉里ミサイル発射場〔北朝鮮は西海(ソヘ、黄海)衛星発射場〕を整備し、先月から人工衛星打ち上げ準備を進める様子を見せており、韓米の対応によっては北朝鮮が予告したクリスマス以前に『行動』に出る可能性があり」と付け加えた」(中央12月10日)

人工衛星だろうか、ICBMだろうが区別する必要はありません。
どちらもほぼ同じ技術で作られていますし、再突入するかしないか、目標に誘導できるか否かだけの差しかありません。
今回のエンジンテストに使ったロケットエンジンは、その双方に使えますし、そもそも国民にメシをくわすことすらできない国が宇宙開発もなにもあったもんじゃありません。
これは米国東海岸を射程とする「火星15」(射程1万3000キロ)ミサイルに搭載するための白頭山エンジンのテストです。

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ロイター

上の写真は2016年に行われた西海での新型エンジン実験の写真ですが、北は今回のエンジンテストで、「火星15」に匹敵するロケットエンジンを準備しているぞと恫喝したいようです。
同時に米朝交渉を放棄するぞ、とも言い出しています。

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「北朝鮮の金星(キム・ソン)国連大使は7日、非核化は米国との交渉のテーブルから外されていると主張するとともに、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難した欧州連合(EU)加盟国を「米国の飼い犬の役割」を果たしていると批判した。
金大使は声明で、米国が北朝鮮に求めた「持続的かつ実質的な対話」は国内の政治的アジェンダを都合よくすり替えるための時間稼ぎだと断じた」(ブルームバーク12月8日 上写真も)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-12-08/Q269R3DWRGG701

もはや痛々しいですね。
普通の外交官は、本国がメチャクチャなことを言ってきてもなんとか最後まで外交交渉を継続できるように図るのが仕事なんですが、「もう交渉テーブルからはずれた」のだそうで、ならばもう外交官なんかいりませんから、さっさと荷物をまとめて帰ることです。
ちなみに正恩が白馬で白頭山を駆けると重大発表だそうで、いったいいつの時代だって、古代かって(苦笑)。
こういう神格化がいかにもいかにもです。

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https://www.sankei.com/world/news/191016/wor1910160019-n1.html

分析する必要もありませんが、これは北の「最後のお願い」です。
これ以上ボクを追い詰めるとキレちゃうぞ、ICBM発射しちゃうぞということのようで、とんだ困ったくんですね。
米国はそんなことは百も承知で、このていどの恫喝は頭から無視しています。

「オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は8日、CBSのインタビューで、北朝鮮が核実験の再開を準備している可能性があるかとの質問に対し、「そうだとすれば過ちだ」と指摘。「(核実験を再開すれば)同国にとって良い結果にはならないだろう。北朝鮮が約束と違う道を選択すれば、米国には多くの手段がある」と述べた」(ニューズウィーク12月9日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13561.php

トランプは、うるせぇなと言わんばかりに、「すべてを失う」とツイートしました。
分かりやすくていい。

そもそも年内と勝手に期限を切ったのは北であって、米国はまったく合意していないのですから、一方的に設定された期限なんぞ守る義理はありません。
それに今回使われた西海発射場は、米朝首脳会談で6月に廃棄すると合意した施設ですから、明白な合意違反です。

トランプ米大統領は昨年6月に開いた金委員長との初会談後、北朝鮮がミサイル施設1カ所の廃棄を約束したと記者団に述べた。その後、米当局者の話から、廃棄を約束したのは西海衛星発射場であることが分かった。
首脳会談後、専門家らは衛星写真を基に、同発射場で一部の主要設備が廃棄されているとしていたが、物別れに終わった2回目の米朝首脳会談後、北朝鮮が同発射場の復旧を進めていることを示す映像が明らかになっていた」
(ニューズウィーク前掲)

もちろん、いまさら言うのも野暮ですが、国連制裁決議違反なのはいうまでもありませんが、米国は短距離に関しては容認する姿勢を見せていました。
しかし、これが日本・グアムを標的とする中距離、あるいは米本土を攻撃する長距離となると話は違います。
トランプは12月3日、ロンドンで開催中の北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加してこんなことをのたまうています。

「わが国の軍事力は強力だ。私はこれを使用する必要がないことを望むが、必要なら使用する」
(韓国聯合ニュース日本語電子版12月4日 )

まぁ常識的にはやらないでしょうね。
というかいまの大統領選しか頭にないようなトランプにはなにもできません。
彼は海外米軍の撤退を公約にしていましたから、なにがなんでも海外展開している米軍部隊を米国に引き上げたいのです。
そのために独裁者アサドにシリアを明け渡し、クルド族を裏切ってシリア撤退を決め込んだのですから。

そんなトランプが、航空攻撃だけで決着がつくはずがない北への攻撃なんぞ、するわきゃありません。
そもそも山中の洞窟陣地に隠蔽されているミサイル基地をどうやって潰す気でしょうか。
偵察衛星は万能ではありませんよ。
やるなら、かつての中東・シリア戦争と同じように特殊部隊を降下させて、目標をひとつひとつ指示せねばなりません。
となると新たな地上軍の派遣につながりますが、今のトランプにそこまで踏みきれるでしょうか。

思えば、ボルトンを右腕にしていた頃のトランプには凄味がありました。
ほんとうにやるかもしれない、ひょっとしたら軍事攻勢をするのではないか、コイツはクレージーだからやりかねん、これが彼のディールのチップだったわけです。
右腕にこん棒を持っていてこそディールは成立するもの。
いまの腰抜けトランプがいくら軍事攻撃をほのめかしても誰も信じません。
となるとなんのことはない、かつてのマッドマンセオリはもはや無効で、北が弱者の恫喝なら、トランプも強者の恫喝をしているだけのことにすぎないのです。

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米空軍偵察機RC-135S コブラボール。計測機器の関係で片方の主翼が黒く塗装されている(写真:MDAA)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55985

米国が今できることは
米軍の核兵器監視用偵察機・RC-135S コブラボールとRC-135V/Wリベットジョイントを飛ばして警戒監視を強めていくていどのことです。
「コブラボールが作戦中に収集するデータは、国家安全保障問題担当大統領補佐官、国防長官、戦略軍司令官に直接伝達され、アメリカの安全保障における最高レベルの意思決定に直接反映される最重要情報の1つとみなされている」(北村淳)そうです。

さらに北がこれ以上の恫喝を続けて、実際に火星ミサイルを撃つか、核実験を強行した場合、次のステップである海上封鎖にすすむと思われます。
このていどはできます。しかしこのていどならオバマだってやりましたがね。

仮に海上封鎖した場合、世界最大の北への密輸ルートがある日本に対して強い圧力がかかるはずです。
元国連制裁パネルだった古川勝久氏はこう述べています。やや長いですが、一部を引用します。
日本の対北朝鮮政策 - 日本国際問題研究所

「北朝鮮の非合法ネットワークには日本も関わっており、日本企業や日本国内居住者が関与した国連制裁違反容疑事案が複数、確認されている。
北朝鮮の非合法活動の深化
「最大限の圧力」にもかかわらず、北朝鮮による制裁逃れは依然、継続している。米政府の発表資料や国連専門家パネルの2019 年3 月5 日付け年次報告書(S/2019/171)等によると、制裁にもかかわらず、北朝鮮は今日に至っても、世界各地で石油や石炭など、国連制裁で禁輸物資に指定された物品の密輸を大規模に展開しており、中国やロシアなど海外に設けた北朝鮮の拠点を通じた資金洗浄などの不正行為も続いている。
さらに世界各地で北朝鮮はサイバー攻撃も展開しており、制裁網を回避しながら大量の物資の不正な輸出入行為を繰り返しているうえ、大量の外貨を獲得している模様である。
国連専門家パネルは、北朝鮮によるグローバルな非合法ネットワークを用いた制裁逃れの数々の事件について報告している。一連の制裁違反事件を分析すると、これらの事件は主に次の分野に類型できる。
① 海運・企業ネットワークを用いた密輸の巧妙化と世界規模の資金洗浄の継続
② サイバー攻撃による巨額の外貨奪取
各々について、北朝鮮による制裁逃れの具体的な手法について以下に整理する。
海運・企業ネットワークを用いた密輸・資金洗浄の巧妙化
北朝鮮は今日においても数多くの国々と政治・経済・軍事面で協力関係を維持するのみならず、中国とロシア、東南アジアをはじめ、欧州、日本、韓国などにも活動拠点や外国人協力者を確保している」

「また、瀬取りは大規模に展開されていたようでもある。国連専門家パネルは、一度に5万7 千バレル強もの大量の石油製品(取引額は6 億円以上)が瀬取りされた大胆な密輸事件についても報告している。
以上の情報を総合するならば、日本の海上自衛隊をはじめ、欧米などの多国籍の海軍艦船による監視にもかかわらず、瀬取りは絶えることなく行われ、北朝鮮は大量の石油製品を調達してきた模様である。
事実、アジアプレス・ネットワークのデータによると、北朝鮮国内のガソリンやディーゼル油等の価格は、2018 年を通じてほぼ安定しており、2019 年1 月~ 4 月初めまでの間、ガソリンやディーゼル油のキロ当たりの市場価格はむしろ低下したことすら報告されている。
北朝鮮が他にも不正調達を行っていた可能性を考えれば、国連制裁にもかかわらず、北朝鮮は一定規模の経済活動を維持できるだけの石油製品を不正に取得したものと推測される。日本や欧米等の艦船が瀬取り容疑の現場を写真に収めて、関係国が国連安保理などに報告するだけでは、制裁違反に対する抑止効果は限られていた、ということになる」


古川レボートは長いですが、ぜひご一読をお勧めします。

このような実態について日本の公安当局・外事警察は知っていると思われますが、拉致被害者を人質にとられている状況で、手がだせないでいました。
しかしことここに至って、日本が北朝鮮の延命装置の一部と化しているのは明白で、これ以上の放置は国際社会に対しての背信行為です。
長年に渡って北の工作拠点であった朝鮮総連の処分も含めて決断すべき時でしょう。
これができるのは強い保守政権だけであって、今をおいてないと思われます。

 

2019年12月10日 (火)

中村さんと「防風林」

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昨日の中村哲暗殺事件のテーマをもう少し続けます。いくつかに切り分けられると思います。

ひとつめは、中村さんのアブガンの実践がいかなるものだったのかという、事実を知ることです。
ふたつめは、中村さんの平和思想と死との関係です。「平和憲法」との関係と言ってもいいかもしれません。
みっつめには、どうしたら非業の死を防げたのか、という現実の政策の問題です。これはPKOやISAFなどの国際警察活動と民間NGOとの関係と言い換えられます。

ひとつめについては、昨日の記事でも引用させていただきましたが、ペシャワールの会の会報を読むことをお勧めします。
中村さんがいかに大きな視点でアフガンの国作りを考えていたのか、よくわかります。
特に私は中村さんが、欧米NGOなどによくありがちな人権や男女同権に着目したのではなく、「水」に注目したことを素晴らしいと思いました。
欧米型のNGOはえてして西欧型民主主義を移植することが途上国支援だと思っているようですが、切実にその国の民が欲しているのは「いかに生きるか」の術なのです。
その意味で中村さんの支援事業は、その国の民が本当に豊かで健康的に暮らせるようになるには何が必要なのか、という本質に切り込んでいます。
ペシャワール会 会報・歳時記

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191206/k1001220...

ふたつめですが、護憲派が一様にいわば平和憲法のガンジーが死んだという礼賛調で、返す刀で日本の為政者をくさすといういつものパターンだったことには、特に驚きませんでした。

あの界隈の人たちの、なんにでもアベを持ち出す政局好きはいまに始まったことではないからです。

一方、一部の在特会系サイトには、テロ特措法時の中村さんの発言を切り取って批判をしていたことにはうんざりしました。
怒りすら感じたといえば大げさでしょうか。
中村さんの実践をまったく見ずに、憲法観だけで裁断してなにがわかるというのでしょうか。
彼が何を目指して血の滲むような努力をしてきたのか、どうして自分の実践を平和憲法と重ねてしまったのか、それを考えないと中村さんの死は犬死になってしまいます。

私は日本のいわゆる「平和憲法」の単純な批判者ではありません。
現行9条が現実にそぐわない空理空論になっていることは3歳の幼児でも分かることですが、むしろ改憲した後になにがしたいのかが明確にならない改憲論は片手落ちです。
自衛隊の地位を書き込めばオシマイではないはずで、そこからなにをするのかをもっと議論すべきなのです。
ひとつの考え方として、私は篠田英朗氏が提唱するように、前文にある「国際社会で名誉ある地位」を積極的に求めるためになにができるのかを積極的に問うて行くべきだと思っています。

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https://lineblog.me/dnjbig6668/archives/2059637.ht...

さてここで中村さんの実践との接点が見えてきました。そこで三つ目です。
中村さんは徹底した非武装中立主義者でした。その意味で、9条の精神の体現者だったといえます。
ただし日本国内で日本国家に十重二十重に守られながらそれを叫ぶのと、アフガンのようないつどこから銃弾が飛んでくるかわからない土地で、丸腰でそれを実践するのとは、まったく別なことだということです。

前者はただのフラワーガーデンに住む平和主義者にすぎませんが、中村さんのそれは最後は自らの死と引き換えにした重い行為でした。

中村さんの言葉が残されています。

「憲法は我々の理想です。理想は守るものじゃない。実行すべきものです。この国は憲法を常にないがしろにしてきた。インド洋やイラクへの自衛隊派遣……。国益のためなら武力行使もやむなし、それが正常な国家だなどと政治家は言う。私はこの国に言いたい。憲法を実行せよ、と」 (12月5日 毎日 )

平和憲法は実践するものだという考えについては、私はまったく同感です。
しかしそれが後半の平和構築否定に短絡してしまっているのは違和感があります。
平和憲法と平和構築のふたつは対立する概念ではないのです。

「平和憲法」は神棚に祭り上げおくものではありません。使うものです。
すりきれるほど「平和憲法」を使い倒しながら、その不具合を検証し、修正をかけてよりよいものにしていくものです。

では戦後の日本が「平和憲法」の精神を、「国際社会で名誉ある地位を占める」まで高め上げたでしょうか。
否です。米軍にたっぷりとおもいやり予算を配分し、基地を提供しただけではありませんか。
「平和憲法」は怯懦の言い訳に堕してしまいました。
給料と作戦費用以外は全部日本が出して、いわば米軍を傭兵にしていただけです。
まぁ、向こうさんからすれば、日本列島を丸ごと策源地にできることで充分にペイしていたんですから、痛み分けですが。

それはさておき、「平和憲法」の精神が、中村さんのような人たちの手によって国際的には体現されてきたのは一面の事実なのです。
彼らが国家不信となるのは心情的には分からないではありません。
重武装で外国軍隊がアフガン現地に来られてしまえば、自分たちまで同類と見なされて危険がかえって増す、来るなというのは理解できます。
中村さんは一貫してPKOにすら反対してきました。
そしてタリバンすら哀悼声明を出したように、この凶悪な集団とも信頼関係を築こうとして、それに一部成功しました。
すごいことだと思います。並の理想主義者にはできないことです。

ただし「信頼」を武器としてだけで安全を確保することには、限界があるのです。
アフガンにおいて水の確保こそが死活問題であり、さまざまな勢力が軍閥となって水争いをしてきた歴史があります。
このような中で、きれいな水を豊富に確保できる仕組みを建設していけば、とうぜんその分配について利害対立が生じるのは必然です。
今回の彼の暗殺は、この利害対立に巻き込まれたからだろうという説もあります。

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https://www.news-postseven.com/archives/20191207_1...

またテロリストは貧困と差別を温床とします。
国が豊かになっていけば、テロリストの苗床は枯れていくのです。
テロの温床が干上がることに恐怖した勢力がいたことも事実でしょう。

いずれにしても中村さんの死を前にすると、「信頼」だけを頼りにして安全を確保することには限界があったのだと思わざるを得ません。中村さんは、同時多発テロ直後の2001年10月13日に開かれた衆議院の「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会」に参考人として参加しました。
彼の持論はアフガンにおいて、いかなる
軍事組織も介入すれば「暴力の連鎖を生む」という考え方でした。
同じ参考人として出席した小川和久氏は、いちどじっくりふたりきりで話したかったとしながら、こう述べています。

国連の平和維持活動(PKO)などに軍事組織を派遣することが国際的には「防風林(ウインドブレーク)」として位置づけられており、参考人意見陳述のときの私の考えと同じだということが裏づけられたことでした。
いかに復興支援をしようとしても、内戦に近い状態が続き、武装勢力が跳梁跋扈するところに、いきなり医療、農業支援などの関係者を送り込んでも、命を落とす危険性が極めて高いことはいうまでもありません。
最初のステップとしては、武装勢力を引き離し、安全地帯を創り出すだけの強制力を持った軍事組織を投入し、「防風林」の役割を果たさせることが不可欠というもので、それが世界に共通する平和構築の基本的な考え方です。
中村さんの「語録」に滲み出ているのは、軍事組織=悪という先入観です。むろん、平和構築に派遣される軍事組織と国家間などの戦争に投入される軍事力の編成・装備・運用などの違いを知っている人の考えではありません」
(小川和久 『NEWSを疑え!』第821号(2019年12月9日特別号)

小川氏はこう結んでいます。

「参考人同士として会ったとき、ひょっとしたら、私は控え室で中村さんに問いかけたかもしれません。
いくらアフガンで井戸掘りをしようとしても、安全地帯を創り出すことが物事の順序というものではないですか』
中村さんは反論などせず、あの穏やかな笑顔を浮かべたまま、無言で下を向いたような気もしています」

小川氏も指摘するように、中村さんはそれがわかっていたような気がします。
しかし、彼の母国はアフガンの「防風林」になって、彼を守ろうとはしなかったし、仮にそう政府がうごいたとしてもそれに最も抵抗したのは「平和憲法」の崇拝者たちだったでしょう。
結局、政府はアフガン政府支援をしながらも、中途半端なかたちのまま投げ出しています。
また現実にそれが可能となれば、中村さんは「平和憲法」の持つ軍隊アレルギーのために拒否したことでしょう。
ここに悲劇的なすれ違いがあります。

それはもっとも献身的に平和構築を実践しながら、自らの「防風林」すらも悪として拒絶した中村さんと、それをすることにあまりにも怯懦なわが国のあり方だったような気がします。

 

 

 

2019年12月 9日 (月)

中村医師倒れる

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中村哲医師が凶弾に倒れました。
常に声を荒らげずにおだやかに語る人で、まさに実践の人でした。
現代の生きている、今現在戦い続けていた偉人の死でした。
中村医師の非業の死に際して、心からご冥福をお祈りします。

4日、アフガニスタン東部で何者かの銃撃を受けて亡くなった中村さん。
一緒にいた運転手と警備担当者あわせて5人も死亡しました。
現地の報道によると、最初の銃撃のあと頭をあげた中村さんに、犯行グループは「まだ生きているぞ」などと叫びながら再び銃撃を加えたということです。
「僕はてっきり政治難民だと思っていたが、干ばつ難民だった、半分以上が」
100の診療所よりも1本の用水路をー。
現地での医療活動を通じて清潔な水の重要性を痛感した中村さんは、「井戸の掘削」と「用水路の整備」に奔走してきました。
これまでに掘った井戸の数は約1600本。
福岡市の面積の半分にあたる1万6000ヘクタールの農地を灌漑し、約60万人の人々の生活を支えています。
危険と隣り合わせのアフガニスタンで、中村さんは現地の人々との信頼関係が何よりの安全対策だとして、途切れることなく支援にあたってきました。
アメリカの同時多発テロを受けた自衛隊の現地派遣が論議された際には、参考人として国会に招致され「自衛隊の派遣は有害無益で、百害あって一利無しだ」と訴えました。
「戦争プロセスには一切関わらないという宣言だけでいい」
政治の事情や国際情勢に左右されることなく、人々の暮らしの再建を第一に考えた中村さんの取り組みは、国の内外で高く評価され、2013年には福岡アジア文化賞を受賞。
そして、2018年はアフガニスタンの国家勲章を受賞しました。
そして、4日も中村さんは農業用水路の建設現場に向かう途中、凶弾に倒れたのです」(テレビ西日本12月5日)

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中村医師は井戸を掘ることで、治水という国作りの根幹に手を貸してきました。
日本における先日の台風禍で分かるように、治水という概念はアジア・アフリカにおいてきわめて重要な概念です。
荒ぶる河を治めることができて、初めて世の中は平和に暮らせるのです。

アフガンではいい水は希少です。すぐに幼児が飲める水、怪我をした人の傷口を洗える清潔な水が手に入りにくいのです。
なぜでしょうか。それは水質が悪いからです。
水問題とは水の質と、治水に集約されます。

日本でも台風が来るとすぐに大水が起きて、大きな爪痕を残します。
それは
日本の河川が外国人学者をして「滝のようだ」と言わしめた水源の山系から急速度で海へとほとばしる急流だからです。
私はアフガンが望めるパキスタン領にまで行ったことがありますが、その
河川は恐ろしいまでの急流で、河岸を削りとっていました。
その水量は豊富ですが、利用できないのです。

中村氏はよい意味で日本人らしい発想でアフガン復興に取り組みました。
日本人が長い暴れ川とつきあってきた歴史の中で培った治水技術を、どうやってアフガンの人たちのために根付かせるのかに取り組んできたからです。

治水は水流をコントロールするだけではだめです。
いくら護岸工事で河岸を固めても、水流の運動エネルギーが弱い部分から堤を決壊してしまうからです。
日本人が考えたのは、暴れ川の水に逆らわず、徐々に河川周辺の田んぼに逃がしてやる方法でした。

信玄の霞堤などが典型ですが、堤を防ぐという役割だけではなく、農地に水を呼び込む用水路と組み合わせることでダーッと来る大水の時の奔流を、両脇の堤防に少し隙間を開けていくつもの水路から田んぼに流していきます。
すると急流の運動エネルギーは減殺され、かつ、呼び込まれた水(上流の有機質を大量に含んで水ですが)によって田畑を潤すことかできます。
 

「信玄堤は、増水した河川のエネルギーを内側に押し込めるのではなく、あらかじめ堤防を分断させてエネルギーを分散させる方法である。400年前、武田信玄は、堤防に切り込みをつくらせて、増水した川の水を湿地や田んぼ、遊水池に流れだす仕組みにした。切り込みが斜めになっているので、雨がやめば、川の外に分散した水は再び元の川に戻っていく。(フォーブス)
https://forbesjapan.com/articles/detail/30203

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https://togetter.com/li/1416707

田畑、特に水田は
川の水の量とバランスをうまくとりながら、水を溜めたり、放出したり出来ます。
多い時には田んぼの堰を切り、少なくなればまた堰を作るということが簡単に出来ます。
 
※信玄堤詳細
武田信玄の総合的治水術 32号 治水家の統(すべ):機関誌『水の ...

 

水田と併設して小規模な溜め池を作れば、田んぼでオーバーフローした水はそこで溜めることも可能です。
このような田んぼの自在な水の貯水と放出機能により、川の水の量を一定に保つことが可能です。
 
日本の田んぼの畦は平均30㎝で、そこに水を溜めたり、放出したりすることができます。 
下手なダムより水が張られた田んぼの貯水量のほうが多く、全国でおよそ81億トンだと言われています。
この貯水量は治水用ダム貯水量の実に、3.4倍にも登ると言われています。

仮にこれを、社会インフラの整備事業単体でとらえれば、数千億円の投資が必要となるでしょう。
しかも、今日本で新たなダムを作ることは事実上不可能です。田んぼはコメ生産を行いつつ、水利事業を行う多目的な存在なのです。

ヒマラヤ山系から流れだす雪解け水は、急流となりインダス河水系としてアフガンを通過していきます。
治水をおこなわなければまさに「通りすぎていく」だけであって、アフガンは干ばつと洪水しか知りませんでした。

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東京新聞 2016年11月、アフガニスタン東部ジャララバード郊外で、日本の技術を利用して整備された用水路の前に立つ「ペシャワール会」の医師中村哲さん=共同

中村医師が支援医療から治水にと向かっていったのは素晴らしい方向でした。
そのきっかけについて中村医師はこう述べています。

「今考えると、予兆は1990年代後半から進む井戸水の涸渇でした。ダラエヌール、ダラエピーチのPMS診療所が井戸の再生を繰返しています。水位下降に抗しえず、離村が本格化したのが2000年以降でした。
地下水位は場所によって異なりますが、総じて下降を続けました。水位が低下したまま安定してきたのは2004年頃からでしたが、ダラエヌールを例外に、旧に復することは遂にありませんでした。ソルフロド郡、アチン郡では地下80~100メートルに留まっているものさえあります。こうして2006年までに、同地域で1600ヵ所の飲料水源を確保したものの、大半は三回、四回と再掘削を繰返してきました」
会報121|ペシャワール会|中村哲医師

中村医師は、生きるという視点から支援医療に関わり、更に水を得るために井戸を掘って水源を確保することに尽力しました。
しかしその地下水も、水位が低下し続け、空井戸となってしまう場所が続出し、ついには井戸を放棄する地点も出たようです。

アフガンが直面していた水問題について中村医師はこう述べています。

「降れば激しい集中豪雨で局地的に大被害を起こし、他方で降らない地域は乾燥してしまいます。つまり、広範囲に小分けされて降っていた夕立が、限られた地域に集中して鉄砲水や洪水となって、一挙に地表から消え去ることを意味します。
この傾向は日本でも同じですが、絶対的降雨量が極端に少ないアフガニスタンでは、地域によっては致命的な乾燥化をもたらします。 また、森林に覆われる日本列島と対照的に、強い陽ざしが直接、むき出しの岩盤や地面を更に温めて夜間まで冷えず、地表の結露を妨げ、乾燥化を加速します」(ペシャワールの会前掲)


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ペシャワールの会 会報

中村医師がアフガンで行った治水は、日本で育まれた治水技術のアフガンでの応用だったと思います。
彼は用水路を堀り、溜め池を建設していきました。

「こうした地域が生き残るには、二つの方法しかないと私は思います。①大河川に近い平野であればその上流からの取水、②標高がより高い地域なら多数の貯水池を作ることです。樹林造成は何れの場合でも必須です」(ペシャワールの会前掲)

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ペシャワールの会 会報

「貯水池は単に用水を貯めるだけではありません。中小河川の水を引き込むことによって、地表水の滞留時間を延ばせます。
例えば、一回の集中豪雨の水が数時間、数日の短期で下り去るとします。いくら降水量が多くとも、水が土に浸み込む時間のゆとりを与えません。あっという間に地表から消えてしまいます。

だが、沢山のため池があれば、かなりの水が池に引き込まれて地表に留まり、地下に浸透水を送ります。たとい池が乾いても、その分地下水になって地中の浸潤線を上げることになります。滞留水の総量が増えれば増えるほど、流下時間を延ばして地下水が増します。数日で消える一回の地表水を数週間かけて下るようにすれば、土地の湿潤性が上がってきます。即ち貯水力・保水力を高めるということです」(ペシャワールの会会報 前掲)

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ペシャワールの会

中村医師は、病人のためには清潔な飲料水を、貧困を生む農業破綻を食い止めるためにも豊富を水をと、生活用水を確保するために井戸を堀り、さらにはその水源を確保するために用水路と溜め池を作って行きました。
根気のいる果ての見えない仕事です。
その方法も、掘削にこそ土木機械を使いましたが、コンクリートと鉄筋に頼らずに、完成した後も現地の人
々が、後々自分の手で修繕が出来るように針金を編み、石を積み上げ、柳の根を張り巡らせたといいます。
これもまた日本の治水術の粋だった信玄堤の現代的応用です。(下写真)

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またすべての資金を日本からの募金で賄いましたが、できるだけ公的資金は遠慮しました。

それはたんなる国に頼らないいきがりではなく、ODAは必ず定量的な成果を求めて、失敗を許さないからです。

しかし氏の井戸事業がそうであったように、発展途上国援助において試行錯誤はあたりまえであって、新たな挑戦をすればそうとうの事例は失敗に終わるものなのです。

そして中村医師が大事にしたのは、建設方法のローテク化による現地化と同時に、事業の運営もまた現地化したことです。
現地スタッフに日本人はたったの二人。現場監督も兼ねる中村さんと会計・事務の責任者のみで、あとの140人を越える現地職員と500人を越える作業員はすべてアフガンの人々です。
ヒトを現地化する
ことによって、日本人がいなくなったらなにもできないのではなく、現地の人たちだけで運営することが可能です。
また技術の継承も可能となります。
用水・溜め池事業はその意味で「中村学校」でもあったのです。

私は中村医師のした事業を感嘆の念をもって見ます。
まさに尊敬よくあたわざる人でした。

だからこそ、このような下卑た政治利用はお止め下さい。中村氏の痛ましい死と安倍氏はなんの関係もありません。

医師の中村哲さんが現地で殺戮され死亡しました。悲しみは国境を超えて拡がっています。この国の愚かな為政者達とは次元の違う誇り高い生き方を貫いた中村さんのご冥福を心からお祈り申し上げます 」(報道特集・金平茂紀 )

今日は長くなりましたので次の機会に回しますが、中村医師は第9条を心のよりどころにする人たちにとってのアイコンでした。
中村医師の有名になってしまったこういう言葉が残されています。

「向こうに行って、9条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感がありますよ。体で感じた想いですよ。
武器など絶対に使用しないで、平和を具現化する。それが具体的な形として存在しているのが日本という国の平和憲法、9条ですよ。それを、現地の人たちも分かってくれているんです。だから、政府側も反政府側も、タリバンだって我々には手を出さない。むしろ、守ってくれているんです。9条があるから、海外ではこれまで絶対に銃を撃たなかった日本。それが、ほんとうの日本の強味なんですよ」
マガジン9〜この人に聞きたい『中村哲さんに聞いた』〜

失礼ですが、あまりにも悪い意味で日本的な言葉です。
結局、9条は中村医師を守りませんでした。
ただし、安全地帯にたむろする凡百の9条の輩と違い、中村医師は自らの実践においてそれを証明しようとしたのです。

また彼はタリバンをイスラム神学生集団として支持し、テロに対するISAF(国際治安支援部隊)などの国際警察活動を否定しました。
彼から見れば、国際警察活動はかえって外国人憎しを生み治安を悪化させるものだとして、用水路建設と対立するものだと考えたようです。
それは反面は事実でしたが、多くのアフガン人にとって国際警察活動は国内のタリバンやISを押さえ込んで平和をもたらたたものだったのです。

本来、中村医師が続けた民生事業と国際平和維持活動とは矛盾するものではなく、民生活動を守る「防風林」(小川和久氏)として後者はあるのです。
中村医師の地元の人々に対する深い信頼と愛情がそうさせたのですが、結果としてそれが彼の死を招き寄せたような気がしてなりません。

カカ・ムラド、ムラドおじさん、それが彼のアフガンでの呼び名でした。享年73歳。惜しい人をなくしました。

 

2019年12月 8日 (日)

日曜写真館 燃えるような空

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燃えるように太陽が沈みます

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燃えるように太陽が昇ります136

なぜか世界が静寂に包まれているようです

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渡し場の空は木星のようです147 

分厚い雲の底があぶられています

 

2019年12月 7日 (土)

宜野湾くれない丸様寄稿 「マンデラの夢と南アフリカ・スプリングボクス」を読んで

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大きなニュースが続いて掲載が遅れしました。まことに申しわけありませんでした。
                                                                            ブログ主

                                                            ~~~~~~

                 ■「マンデラの夢と南アフリカ・スプリングボクス」を読んで
                                                      宜野湾くれない丸

 

「マンデラの夢と南アフリカ・スプリングボクス」を拝読し、感慨深いものを感じました。
コメント欄にも入れましたが、80年代後期~90年代前期の南ア激動期に私は彼の地を度々訪れていたからです。

アパルトヘイト体制 (1948年ー1994年)が成立し、約半世紀にも及ぶ体制下のもので培われた差別潜在意識は、そう易々とは「払拭」できないだろうと思います。撤廃されてから早25年、ここまでの南アの苦難の歩みがそれをあらわしてます。
そもそもアパルトヘイト体制以前にも鉱山労働法、原住民土地法などいくつかの非白人への差別的な法律が存在していたわけですし、黒人部族間での様々な対立、ましてや白人同士の利害対立など含め単に「白人VS非白人」的な門切り型では説明できないことが南アには根深く存在します。

南アフリカ共和国は、資源大国、文化・観光・スポーツ大国、多民族国家で、アフリカ大陸最大の「先進国」です。
近代人類の歴史から鑑みると、ある意味「国民国家という体」がなしてきた様々な功罪が同時多発的に存在し、歪な社会現象として表面化してます。更に自ら「核」を「開発」し「実戦配備」した国でもあり、同時に「廃棄」した世界唯一の国でもあります(破棄した理由は様々な憶測や意見がある)。「世界の縮図」あるいは「人類の縮図」とも言えるかと思います。
換言すれば「南アを見れば、世界が見える」ような気がしてなりません。

ネルソン・マンデラの「まいた種」は、新生南アの誕生へ向け、確実に「発芽」しつつあると、今回のワールドカップまた本日の記事を読んでそう感じました。少なくとも今後の「国家(世界)の有り方」のひとつを示唆している。そのひとつの現象が「スプリングボクス」のあの姿ではなかろうか、と感じてます。

私は縁あって、87年頃から93年頃まで多くの南アの人たちと関わりました。
90年~92年にかけては、1回(だと思う)ですが、実際に南アへも行きました。
滞在期間の短い渡航が2,3回あったかもしれません
が、凡そ3週間くらいの滞在した時の記憶はハッキリと残ってます。仕事内容からして1回だけの渡航では無いと思いのですが・・・。あの頃はとてつもなく忙しくしていた時期で、年に何度も色んな国へ行ってましたし、使用済みのパスポートも当時の手帳もう手元には無いので、南ア渡航の正式な日付はいつなのか?何回行ったのか?もあやふやになってしまってます。国交がない国でしたので、渡航ビザを取る為に四苦八苦したのは、今となっては良い思い出になりました。

89年から世界の激動が始まり、日本では昭和から平成への世替わりがありました。彼の地、南アも同年にボタ大統領からデクラーク大統領へ政権が移りました。私が南アを訪れたのはアパルトヘイト最末期のこの時期でした。
90年2月にマンデラは釈放されましたが、私の記憶では私が南アへ行ったときはまだ釈放されていない時期だった思います(釈放時のTVニュースを東京の自宅で見た記憶があります)。南アではソウェト(
South Western Townships)へも行ったのですが、南アの仕事仲間たちは皆口を揃えたように「行かない方がいい。命の保証はないところだぞ」「地図もない地域なんだぞ」「内戦状態のところだぞ」と散々脅されました。

ホテルのスタッフに破格の金額でタクシーを手配してもらったのですが、手配するまでに何時間もかかりました。その日の夜、ソウェトのとある教会で開催されるミュージシャンの公演を観に行くためなのですが、タクシーへの条件は「そこまで行き、一緒に最後まで公演を見て、そしてホテルまで送り届ける」ことを条件としました。
だから「破格の金額」です。公演は無事観れましたが、驚いたのは公演終了直後に全観客が一斉に「蜘蛛の子を散らしたように会場から走り去る」その模様でした。

皆が皆、誇張はありません、全員なのです。「驚嘆」する以外なにものもない状態でした。
黒人ドライバー曰く「対抗勢力から襲撃を受けることがある」からだそうです。背筋に寒気がしました。なるほど公演は内容は、ずばり「反アパルトヘイト・アジテーション」だったからです。「反アパルトヘイト」を唱える黒人間でも意見の相違があり、複雑な運動・活動形態がありました。
「生死を賭けたアジテーション」と言っても大袈裟ではないものでした。実際その現場を離れた頃に遠くの方で機関銃の乱射音が聞こえました。再びドライバー曰く「あれだよ、あれ、聞こえる?また始まったよ。スピードあげるよ」と。「死」の恐怖を感じたのは、20代後半だった私の人生の中でこの時が初めてでした。

以下は私の体験ではないですが、当時の上司が南アの大企業のお偉さん宅での夕食会へ招かれた時の話です。
大豪邸での豪華な夕食をお偉さん家族とともに楽しくとっていた。給仕をするのは黒人女性数名。ふと隣の廊下を小走りする黒人の男の子がいた。
一瞬だったが男の子であることは分かった。夕食後にコーヒーなどを戴きながら、お偉さんのお子さん(男の子)に場繋ぎ話程度に声を掛け「〇〇ちゃん、さっきあそこに居た男の子の名前教えて?」と。お偉さんのご子息「・・・・・だれかな~、でも名前知らないよ。
・・・呼べば来るよ」と。上司はそれ以上あまり考えずにただ「ふーん、そうなの」で会話は終了。ところが、その後上司は驚嘆したという。あの給仕をしていた黒人女性らの中のひとりの子どもが「廊下を小走りしていた黒人男の子」だったらしいが、何とこの給仕家族はお偉さんの大豪邸に同居しており、その男の子も「この大豪邸の中で生まれた」ということである。
つまりお偉さんの子どもは「この家の中で生まれ育っている給仕さんの子どもの名前を知らない」のである。ましてや「呼べば来るよ」という・・・・。無理もないでしょう、親は人口の約1割に満たない白人社会のその中でも「超」が付く富裕層に属する。生まれた時から「不条理が刷り込まれている」のだから。

お偉さんの子どもにしてみれば、生まれた時から「黒人給仕の子どもは別次元の人たち」である。悪意も差別観も全く無くごくごく普通のこと。
この南アが多少なりとも「正常化」するにはだいぶ時間がかかるだろうな、と上司曰く。
このような上司の体験談に似たことは、私自身もいくつかありました。

80年代末、「ASINAMALI(アシナマリ)」という南アの黒人男性5名が演じる音楽劇の日本公演がありました。「アシナマリ」というのは「俺たちにはカネが無い!」という意味だそうです。囚人役を演じる5名の役者は、驚いたことにそれまでは役者経験の無い素人だったそうです。
「演じる」というより「そのままの南アの黒人たち」を表現したような印象を持ちました。
劇中、ひとりの役者が舞台から客席へ下りてお客さんへ激しく問いかけるシーンがありました。「あなたはどう思う?!」「ねぇ、あなただよ、あなたはどう感じる!?」と。問いかけられた日本人の客は薄ら笑いを浮かべハニカムばかり・・・そんな客を意識してか、しないでか役者は意にも解せずしつこく問いかける「オレはこんなに真剣なのに何であんたは笑うんだ?」「あんたはどう思う!?」と。
ピーンと張り詰める空気感・・・そして舞台へ戻った役者は声の限り歌い、激しく踊る。強靭な喉と体から発せられる「声」は見事なまでの役者たちのハーモニーと化し、張り詰めていた空気を一気に和ませる・・・・。肉体と精神を限界まで出し切る舞台は、それはそれは「素晴らしい」ものでした。「・・・・これが本物というものだな」と、その時私は思いました。

マンデラが「スプリングボクス」へ託した「希望」や「夢」を「再認識」させてくれたのが、今回のラグビー・ワールドカップ日本大会(まだ終了してませんが)であり、ブログ記事「マンデラの夢と南アフリカ・スプリングボクス」でした。勿論、日本チームの躍進ぶりと、肌も国籍も違うメンバー同士が「君が代」を声高らかに歌う姿にも同様のものを感じました。

さて、沖縄社会を舵取る人々に問いかけをしたい。
あなたたちはどう思うのか!?
あなたたちはどう感じるのか!?
そして、あなたたちは本気なのか、どう本気なのか、と。

 

 

2019年12月 6日 (金)

米国議会、ウイグル人権法案可決!

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なぜかわが国ではあまり報道されていないようですが、米国議会で香港人権法に次ぐ第2弾ウィグル人権法が可決されました。
ウィグルの人々のために心から祝福を送ります。やっと一筋の光明が見えてきました。

下院で反対1で(どうもこの反対1というのは前回の香港人権法にも反対した議員のようですが)、9月に上院から送付されたものを強化して修正し、上院で再可決されました。
あとは例によってなにを考えているのかよくわからない(というか、たぶん大統領選だけしか頭にないなんでしょうが)トランプが署名をするばかりとなりました。
といっても両院の3分の2で成立してしまいますし、10日間意思表示をせずに放置しても自然成立してしまいます。
米国は大統領権限が強いと思われていますが、大統領拒否権といってもこのていどのものなのです。
というわけで、署名
しようとしまいと同じなのですが、恥をかきたくなければするでしょう。

今回のウィグル人権法は香港人権法よりも手厳しい内容です。

「具体的には、共産党政治局委員で同自治区の党委員会書記を務める陳全国氏を制裁対象に指定するようトランプ大統領に求めている。成立すれば、政治局委員の制裁指定は初めてとなる。(略)
ウイグル人権法案はトランプ氏に対し、イスラム教徒への弾圧を非難し、新疆ウイグル自治区の北西部にある大規模な収容施設の閉鎖を呼び掛けるよう求めた。

また、トランプ氏に、法成立後120日以内に弾圧に関与した当局者のリストを議会に提出し、グローバル・マグニツキ―法に基づき制裁を科すよう要求。同法は査証(ビザ)の発給停止や米国内の資産凍結の根拠となる。
法案はさらに、ポンペオ国務長官に対し、自治区の再教育・強制労働施設に収容されている人数を推計するなど、弾圧の実態を報告するよう要求。顔・声認証技術など、個人の監視に利用可能な製品の中国への輸出も事実上禁止している
(ニューズウィーク12月4日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13533.php

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https://newsphere.jp/national/20190325-1

このNWの記事に出てくるグローバル・マグニツキ―法とは かねがねウィグル人権保護団体が米国政府に適用を求めてきたものです。
つい先だっても、中国人権活動家や宗教関係者がペンスに面会を求めてこの法律の実施を要求しています。

「ペンス米副大統領は8月5日、ホワイトハウスの副大統領執務室で、中国人権活動家や宗教団体の代表者らと会談した。出席者は、中国共産党高官ら人権侵害に関与する人物リストを直接手渡し、米国に人権グローバル・マグニツキー法を発動するよう要望した。
ペンス副大統領は、トランプ政権が中国を含む世界中のさまざまな国の宗教信仰者に協力すると強調した。米政府は、中国憲法で規定された信仰の自由を保障するよう中国政府に呼びかけ続けている」(フィスコ2019年8月7日)
https://minkabu.jp/news/2457652

前回の香港人権法や今回のウィグル人権法の元となったマグネツキー法について押えておきましょう。
この法案の冠となっているマグネツキーはロシアの汚職を告発した兄弟の名前です。

「今は亡きロシア人内部告発者の遺族の代理人を務めていたモスクワの弁護士が、ビルの上から転落し、重傷を負った。3月21日、出廷予定のわずか1日前のことだ。
ニコライ・ゴロコフ弁護士は、内部告発者セルゲイ・マグニツキー氏の家族の代理人を務める。マグニツキー氏もロシアの弁護士で、2009年モスクワの勾留施設で不審な死を遂げた。法執行機関と税務当局を舞台にした2億3000万ドル(当時のレートで約256億円)もの巨額横領事件を告発した後の出来事だった。マグニツキー氏の死は国際社会の怒りを招き、2012年、アメリカがロシア当局者数人に対して制裁を加える法案「マグニツキー法」可決へとつながった」(ハフィントンプレス2017年3月23日)
https://www.huffingtonpost.jp/2017/03/23/russia_n_15558736.html

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雪に覆われたロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の墓。2012年12月7日、モスクワの墓地にて ハフィントンプレス

マグネツキー兄弟の不審死はプーチンがやりまくっている暗殺政治のひとこまにすぎません。
この国では恒常的にプーチンの政敵や反政府ジャーナリストが不審死をとげており、みかねた米国はこの事件を受け2012年に事件に関与したと見られる関係者のビザ発給禁止や資産凍結を含むマグネツキー法を可決しました。

「この法律の主な意図は、セルゲイ・マグニツキーの死に対して責任があると考えられていたロシア当局者を、米国への入国と銀行システムの使用を禁止することで処罰することであった」
(Magnitsky Act ウィキ米国版原文英語)
https://en.wikipedia.org/wiki/Magnitsky_Act

この法案にはマグネツキーの死に関与した疑いがあるモスクワの税務調査官、裁判所裁判官などまで名前を公表され、米国入国を禁じられました。
グローバル・マグネツキー法は、2019年に作られたこの国際バージョンでしたが、とうとう世界最大の人権抑圧国家・中国に対して同法を適用することになったわけです。

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https://www.bbc.com/japanese/45859761

今回のウィグル人権法案が画期的なのは、今までチャイナマネーが欲しいあまり国際社会が無関心を決め込んでいたウィグルのエスニック・クレンジング(民族浄化)に対して、初めて有効な反撃が開始されたことです。
既に100万人以上にも及ぶとされるウィグル人が強制収容所に隔離されていることを思えば遅すぎたきらいがありますが、とまれ素晴らしい第一歩です。

ウィグル人権活動家は、さらにフランク・R・ウルフ国際宗教自由法の適用も求めています。
これはクリントン政権が1998年に作った国際宗教自由法(IRFA)をもとにして、オバマ政権が2016年に制定したものです。

「米国のバラク・オバマ大統領は16日、フランク・R・ウルフ国際宗教自由法案に署名した。これは米国の外交政策の一環として、世界中の宗教的少数派への迫害に対抗する米国の取り組みをさらに強化するものである。
「宗教的に少数派に属しているか多数派に属しているかにかかわらず、人々が宗教的信念に基づいて思考し、信じ、行動できるよう、世界のリーダーとして米国はあらゆる機会を通じて自由と基本的人権を擁護します」と、同法案の共同発起人である共和党のジェームズ・ランクフォード下院議員(オクラホマ州)は声明で述べた」(クリスチャンツデー2016年12月25日)https://www.christiantoday.co.jp/articles/22888/20161225/president-obama-signs-new-international-religious-freedom-bill.htm

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https://jp.wsj.com/articles/SB10387045459312313712...

同法も成立すれば、宗教弾圧に関係した者たちのビザの発給停止や米国内の資産凍結の法的根拠となります。
また今回は人権抑圧に関与した共産党政治局員に対しても制裁指定に入りましたが、これは民族浄化の現場関係者だけではなく、その責任者である「ウィグルのヒムラー」こと陳全国新疆ウィグル自治区党書記を名指ししたものです。

「中国政府による新疆ウイグル自治区での締め付けを指揮する陳全国氏は過去2年半、規模的にも技術的にも比類ない取り締まり体制を同地で構築してきた。チベット自治区など以前の管轄で用いていた技術の一部を投入し、新しい技術や手法で拡大したのだ。
 陳氏は新疆の数千カ所にハイテクな交番を設置し、秩序維持と市民監視のためにビッグデータを利用した。警察官は携帯デバイスを使って市民の携帯電話上の写真やメールなどのデータを検閲している。多くのウイグル人やその他のイスラム教徒が施設に強制収容され、多数派の漢民族への同化を目的とした政治教育を受けさせられている。

 中国政府のウイグル人対応は国際社会の非難を浴びている。一方で、陳氏の手法の一部は国内の他地域にも取り入れられている。背景にあるのは、共産党による社会支配をあらためて示そうとする習近平国家主席の動きだ」
(ウォールストリート2019 年4月8 日)
https://jp.wsj.com/articles/SB10387045459312313712904585229840564747902

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https://yutakarlson.blogspot.com/2019/06/blog-post...

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全人代に合わせて開かれた新疆ウイグル自治区の会議に出席する陳全国・共産党委員会書記(中央)とショハラト・ザキル主席(右)=12日、北京の人民大会堂(共同

WSJの記事にもあるように、陳はウィグルを「デジタル共産主義」の実験場としました。
まさにマッドサイエンティストの狂った実験場にウィグルを変えたのです。
ここで実現した人民監視網はそのまま全国にも応用されています。
この一部は既に香港にも導入されているという情報もあります。
香港のデモ隊が壊す標的にしているのが、町中にあふれる監視カメラなのはそのためです。

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は11月24日、ウィグルにおけるエスニック・クレンジングの実態を示す中国当局の複数の内部文書を入手し公開しましたが、この公開された一連の文書には、「一体化統合作戦プラットフォーム(一体化聯合作戦平台)」というシステムを使って人工知能(AI)による顔認証、スマートフォン使用者を監視するアプリ、通信傍受など、情報技術(IT)の徹底的利用が、中国当局視点で記述されています。
当局による個人情報への見境のないデータ収集によって、少しでも当局に怪しまれると、収容される理由となり、収容者は、思想と行動を変えたと認められなければ、まず釈放されることはありません。

既に米国の制裁対象となっているファーウェイは、これまで自社の技術が新疆ウイグル自治区住民の監視に利用されているとしても、それは第三者に提供したものにすぎず、自治区当局に監視技術を直接提供したのではないと主張してきましたが、ICIJが公開した文書にはファーウェイが直接に中国公安当局と共同事業している様が記述されています。

また、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)も、11月28日、「ファーウェイの新疆での活動は、5G(第5世代移動通信システム)におけるファーウェイの役割に関する議論において考慮すべきである」と述べています。

このウィグル人権法は、国民監視インフラである天網(スカイネット)関連企業に対する10月8日の制裁指定に法的根拠を与えるものになっています。
天網(スカイネット)とは、世界最大、かつ最悪の国民監視システムのことです。

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「世界最大の監視システム」を謳う「天網」。現在中国全土に設置する1億7000万台の監視カメラを4億台に増やすと発表しました。多くのカメラには顔を識別できる性能があり、中国の主要都市で使用されています。人権活動家は、顔識別による監視システムの使用目的は、社会統制のためであると指摘しています。
北京在住の人権活動家 胡佳氏:「デモや集会などが起きた時、全国に密集する数千万台のカメラから成る『天網』監視システムが収集した画像から、顔を識別できます。政府は誰がデモに参加したかなどを知るために、こうした情報を集めているのです。警察は監視用車でリモコンで操作できるビデオカメラでその情景を撮影し、即時にその映像を送って、彼らが誰なのか身元を判別し、取り締まるのです。」
イギリスBBCの記者は貴州で天網システムを試しました。記者は警察に自分の写真をブラックリストに入れさせた後、公安に指名手配されているようにシミュレーションを行いました。すると、警察は僅か7分で記者を見つけました」
(トイチャンネット2017年12月27日)
http://toychan.blog.jp/archives/52689069.html

監視カメラメーカーやAI顔認証メーカーなどのエンティティリスト入りは商務長官の職権によるものですが、これを法的根拠を与え、勝手に解除できなくしているわけです。

エンティティリストとは米国が貿易相手として不適格と判断した個人や企業、団体を登録するリストのことですが、ここでは中国の顔認証、ビデオ監視、人工知能などのハイテク企業8社を含む28の組織が登録されました。
このエンティティリスト入りすると、政府調達禁止に止まらず国外企業と国内の企業が協業したり、部品などの調達が禁じられます。

「今回登録された企業には、世界でも最大級のビデオ監視関連企業であるダーファとHIKVISIONが含まれ、いずれもが顔認識を特徴とする製品をラインナップしています。ほかの企業としては、AIスタートアップの先頭集団に位置すると言われるSenseTime、アリババが支援する顔認識およびディープラーニングソフトウェアのMegvii、やはり顔認識のYITU、音声認識のiFlytek、データフォレンジックのXiamen Meiya Pico Information、ナノテクノロジーのYixin Science and Technologyといった錚々たる顔ぶれが並んでいます」(engadget 019年10月8日)
https://japanese.engadget.com/2019/10/08/ai-28/

中国は例によって「内政干渉だ」などと寝ぼけたことを言っていますが、既に法律として成立した以上、米中交渉においていかにトランプが日和ろうともう覆せません。

 

2019年12月 5日 (木)

韓国、崩壊の兆し

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KOSPI(韓国総合株価指数)が急落しています。

KOSPIで外国人投資家の買い傾向がなかなか回復の兆しを見せずにいる。
韓国取引所によると、2日に外国人投資家はKOSPIで3922億ウォンを売り越した。機関投資家が3097億ウォンを買い越して支え、個人投資家も496億ウォンを買い越した。
外国人投資家の売り攻勢はこの日まで18取引日連続で続いている。先月7日から4兆3363億ウォン相当を売った。2015年末から2016年初めにかけた22取引日連続売り以降で最長だ。当時は米国の基準金利不確実性から新興国からの資金離脱の恐れがあり、中国証券市場も急落するなど目立ったイベントもあった。売り越し額も今回より少ない3兆7055億ウォンにとどまった」(中央12月3日)

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https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11301700/?all=1

この原因は外国人投資家が逃げ始めたからです。

「鈴置:韓国証券市場で外国人の売りが止まりません。11月7日から29日まで、17営業日連続で外国人は売り越しました。2015年12月2日から2016年1月5日まで、22営業日連続で売り越したのに次ぐ最長記録です。
 前回の――最長を記録した時の外国人の売り越し額は累計で3兆7055億ウォン(1ウォン=0・093円)。今回の局面では3兆9441億ウォンと、11月29日の段階で前回を超えました」(鈴置高史 半島を読む イリー新潮11月30日)

ではなぜ、外国人投資家が韓国マーケットに投資することを止め始めたのでしょうか。
それはMSCI(新興国株価指数)ファンドの算出方法が変更されたためで、韓国株の繰り入れが減ったからだと、当初見られていました。
事実、中国株のMSCIへの繰り入れは4倍になっています。

「株価指数を開発・算出する「MSCI社」は2月28日、同社が算出する「MSCI新興国株指数(MSCIエマージング・マーケット・インデックス)」において、中国A株の組み入れ比率を高めると発表しました。それによると、同社は2019年5・8・11月の3回に分けて組み入れ比率を高め、MSCI新興国株指数におけるA株の比率は11月に3.3%と、現行の約4倍となる見込みです」(楽天証券3月6日)

つまり韓国がMSCIにおいて比率を下げられたために起きた特殊な事情があったからだというのが、韓国の理解だったようです。

鈴置氏によれば当初この株価下落の原因はMSCI(新興国株価指数)の算出方法が変更されたためで、韓国株の繰り入れが減ったからだと説明されていたようです。
算出方法の変更という特殊事情が株価下落の原因ならば、短期的に下落に歯止めがかかるはずです。
ところがそうではないということが、上のKOSPIチャートを見てもわかります。

「MSCIの指数の組みかえが11月26日で終了するため、今後は外国人売りの勢いが弱まるとの展望が出ている。
 しかし、11月27日になっても外人売りは止まらず、29日まで続いているわけです」(鈴置前掲)

となると、これにはもっと大きな原因があるのではと、やっと韓国人の一部もかんがえ始めたようです。

証券市場で外国人の動向が尋常でない。外国人投資家は有価証券市場では、過去7日から22日までの12営業日連続で株式を売り越した。この期間の累積売り越し額は2兆2148億ウォンに達した。証券業界では、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)新興市場指数で韓国の比重縮小を控え関連資金が流出したことが、外国人売りを主導したとみている。
MSCI比重調整は、定期的に行われるように、外国人の「運命」の行進がこれに関連するものであれば、実際には大きな問題ではない。しかし、最近の株式市場の周辺には、あまりにも不確実な要因が多い。
外国人の売り理由を簡単に予断してはならない理由だ。韓日軍事情報保護協定(GSOMIA)終了が猶予されたが、今後の展開はまだ不透明だ。米中貿易交渉の展開の結果、香港人権法にドナルド・トランプ米国大統領の署名するかどうかも大きな変数だ」(韓国経済新聞11月24日 原文韓国語)

さて韓国経済は極端な中国輸出依存で成り立っていました。
一国にこれほど傾斜して輸出依存するのはたいへんに危険です。

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https://toukeidata.com/country/korea_boueki.html

韓国の製品は高品質・高価格の日本製を凌いで中国市場で売りまくっていた時期があって、実に総輸出額の3割前後を占めるまでになっていました。
しかも主要
輸出企業はサムスンなどの電子機器メーカーで、そのサムスンだけで韓国GDPの25%を占め、財閥系全体では76.5%という異常な数字となっています。
ということは韓国経済は対中輸出がささえて いるということにな ります。

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中央日報

ちなみにこの財閥系が雇用する割合はたった6.9%ですから、大卒の4割が即失業者となって当然です。

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それはさておき第2位の対米輸出11%をはるかに凌ぎ、これに日本への輸出6.2%を合わせても17%ていどですから、韓国からみれば中国様様といった気分だったことでしょう。
この時期から始まるのが、パククネ政権時から始まり、日米同盟には加わ らな いと中国に一札入れた「三不の誓い」に至るえげつな いばかりの媚中外交です。
中国も鼻を鳴らしてすり寄ってくる韓国を愛い奴よと、思し召したのか猫可愛がりします。
その頂点の時期がパククネが、天安門上でプーチンと並べてもらうという破格の待遇を受けた対日戦勝70周年式典でした。
それにしても習のこのやる気のない顔はなんだ(笑)。

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https://ironna.jp/article/2181

ところで韓国の対中の輸出品目はこのようなものです。

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これを見ると痛ましさすらかんじるほどですが、半導体、スマホなどことごとくいまや中国が得意とする分野で、見事に真正面からバッティングしているのがわかります。
低価格を売りものにして中国市場を一時席巻した韓国製品は、瞬く間に中国製品にコピーされ更に安い中国製品に追い抜かれていきます。
韓国という国のビジネスモデルは、「トレンドの商品を先行企業の技術をコピーし、安価で市場に出し、シェアを独占する」という手法でした。
でもこれって、中国も一緒なのですよね(苦笑)。
同じやり方で中国がやり返したのですが、しかもアチラは国有企業で国家全体が後押ししているのですから、サムスンがかなうはずがありません。

それに追い打ちをかけたのが、この間の中国経済の景気の低迷と、米中経済戦争による先行き不安でした。
そのあおりをもっとも強く受けた韓国の対中輸出額は見る見るうちに下落していきます。

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https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/0021...

そのような状況を背景にして起きたのが日韓冷戦の開始でした。
ムン閣下は韓国人が評するように「言葉は天下無敵、行動は天下無能」というご仁です。
政策の手持ちはありません。あるのは政策というより「やりたいこと一覧表」みたいもので 支持母体の民主労総という過激労組がよろこびそうなものばかりです。

そんなムン閣下の「やりたいこと一覧表」のトップにあったのが反日政策でした。
彼は楽観していました。徴用工判決で日韓基本条約をひっくり返そうと、慰安婦合意を踏みにじろうと、よもや日本がなにかするとはまったく思っていなかったからです。
ムンはいくらやり放題やって も、日本は、いままでどおり「大人の対応」でお茶を濁してくれるはずだと軽く考えていました。

ですから3品目輸出管理規制が始まっても、三歳児が泣き叫ぶように言い募るだけが外交と考え、交渉相手の分析もその対策も用意できていなかったのです。
要するに逆上しちゃったンですよ。

輸出管理規制など、ある意味でただのテクニカルな問題にすぎませんから、貿易管理体制を充実させればいいだけのことを、大げさに日本に報復せよとばかりに大統領が国民に「日本に二度と負けない」とアジるんですから処置なしです。
いくらアジっても具体策が欠落しているために、最後にヤケノヤンパチで切ったカードがこともあろうにGSOMIA廃棄でした。

あ~あ、やっちゃったというところです。私も記事でも書きましたが、ムンは米国が日本に圧力をかけて屈伏させることができるだろうと読んでいたのですから、かえって驚きます。
当然、面と向かって喧嘩を売られた形の米国は怒り心頭で、その怒りの矛先はすべて韓国に向かったのはいうまでもないことです。

ただそれに気がつかないのは韓国人だけ。

「鈴置:「米国の怒り」を多くの韓国人はちゃんと認識していないのです。ワシントンでは「韓国の裏切り」が常識となった。GSOMIAだけではなく、中韓軍事協力の進展など、その証拠がどんどんあがっています。
「離米従中」の国に、命の次に大事なカネを置いておく投資家はいません。というのに、韓国人は「裏切り」の自覚に乏しい。 米国や日本と外交摩擦を引き起こしても、韓国メディアは「トランプが変わり者だから」「安倍が極右だから」と他人のせいにします。だから、韓国人は自分が「憎まれ者」になっていることに気づかず、呑気に韓国株など買っているのです」(鈴置前掲)


韓国人と違って安全保障環境のアブナイ国にカネを投資しないというのが投資家の鉄則ですから、一斉に外国人による外資逃避が始まり、ウォン安が急激に進みました。
いまやかつての通貨危機に迫る勢いです。

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ウォンは 売り浴びせられ、株式市場は急落します。
そしてもっとも恐ろしいデフレが始まりました。
通貨の暴落、株価の暴落、そしてデフレという三重苦が始まったのです。
私はこの国が没落することは望みませんが、自ら地獄を引き寄せる如き人を大統領を国民がえらんでしまった以上、行くところまで行くのかもしれません。

大統領府にも検察が入るようですが、長くなるので今日はこのくらいに。

 

2019年12月 4日 (水)

香港人権法の本質と中国のしょぼい報復


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ホー、こんなもんか、これが中国が香港人権法に対してだしてきた「怒りの報復」についての私の感想です。
結論からいえば、たいへんにショボイ内容で、おいおいこのていどのカウンターしか出せないのかと、かえって心配になるほどです。

「中国外務省の華春瑩報道官は2日の記者会見で、米国で「香港人権民主法」が成立したことを受けた報復措置を発表した。米軍艦の香港寄港拒否や、米国の非政府組織(NGO)に制裁を科す。中国側は貿易協議の決裂を避けるため、米農産品の大量購入のとりやめといったトランプ米政権が強く反発する強硬措置はとらなかったとみられるが、米側の反応次第では米中関係が緊張するリスクもはらむ」(12月2日産経)
https://www.sankei.com/world/news/191202/wor1912020025-n1.html

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国は、他国の内政には厚顔無恥に口ばしを入れるくせに、こと自分の国のこととなると決まって言い出すのが、「中国の内政に対する干渉反対」ですが、今回もこのマジックワードを取り出した以上、もっとなにかやるのかと思っていました。
たとえば、締結間近だと見られていた米中経済戦争のチャブ台返していどはやると思っていました。

これが心配でトランプは香港人権法に署名するのを逡巡していたので、署名しても「尊敬する習近平閣下」なんて書いてしまって失笑を買っていました。
むしろ米国は好景気を背景にして強気で押しまくっています。

「ロス米商務長官は2日、中国との貿易交渉で15日までに合意できなければ「トランプ大統領は関税を引き上げると明確にしている」とけん制した。米政権は合意がなければ15日にほぼすべての中国製品に対象を広げる制裁関税「第4弾」の残りを発動する予定だ。関税の引き上げに改めて言及することで、中国に一段の譲歩を促した」(日経12月3日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52883920T01C19A2000000/

ここでヘタレては、もう米国の思うままに合意署名することになるのは決まったも同然です。
いかに今、中国経済が火の車なのか、自分から米国に教えてしまいました。

ちなみにまたまた中国が使った「内政干渉」という言いぐさは、国際社会ではまったく通用しない古い概念です。
たしかに、世界190カ国の主権は尊重されねばなりませんが、それは自ずと一定の縛りがあると考えられています。
というのは前世紀末まで各国の「主権」を重視する余り、ムチャクチャな国民に対する人権抑圧を国際社会が容認してしまい、国家による自国民大虐殺を招いたことが度々あったからです。

冷戦期は米ソ二大親分が世界を仕切って睨みを効かせていましたが、その終結と共にありとあらゆる災厄が吹き出してきました。
テロ、内乱、宗教紛争、民族浄化、人権抑圧などです。
その主犯は当該主権国家だからタチが悪い。

かつてのPKOは中立的存在として、武力衝突を仲裁し、平和を監視するという消極的立場で関わっていました。
そのために、PKO部隊の目の前で行われたのが大虐殺でした。
1990年代から始まるルアンダの80万~100万人、コンゴ民主共和国の540万人の犠牲者という途方もない犠牲者が積み上がっていったわけです。

PKO部隊は、「中立的立場による内政不干渉」を前提にしていました。
あくまでも武力行使、あるいは介入ではなく、文字通りピースキービング(平和維持)ですから仲介はしても、それ以上のことは禁じられていたのです。
ところが、
国民を保護すべき国家がまともに機能しておらず、国民を殺しまくっているのがその国の軍隊というケースが頻発します。
しかも常任理事国であるロシアや中国が自ら手を染めているケースも出ました。
ロシアはチェチェンで虐殺を続け、中国はウィグルやチベットで悪魔の所業を平然と行っていたのです。
これらの国が揃って言う台詞は決まって、「内政干渉をするな」、です。

ここでやっと国際社会は、この「内政干渉」という古い概念をなんとかしないと、住民保護もできないし、歴然とした人権侵害から当該国の国民の生命や人権を守れない、そう気がついたのです。
この考えは1993年、オーストリアのウィーンで開かれた世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画で、「すべての人権の伸長及び保護は国際社会の正当な関心事項である」と文書で国際的に確認され、定式化されました。
これが現代における「主権」に関しての国際法です。

つまり国際法は、香港における著しい人権侵害を看過せずに、なんらかの対処をすることを認めているのです。
ですから、米国議会が出した香港人権法はまったく国際法上瑕疵はありません。

さらにこの香港人権法にはもうひとつの隠し味が潜んでいます。
それが人権法第5条です。
Hong Kong Human Rights and Democracy Act of 2019

結論からいえば、この人権法は香港に対する輸出管理規制なのです。

香港人権法第5条(抄)

①香港で発生している合衆国輸出管理法・国連制裁に対する違反の性質や程度②可能な限り、香港から再輸出された品目、相手国、使途がどうなっているか
③米国法に基づく輸出管理上の転用可能物資が香港で積み替えられ、顔認証システムなど「中国における社会システム」に転用されているかどうか
④中国政府が香港の独立した税関システムという制度を悪用して、米国から中国への輸出禁止品を輸入していないかどうか
⑤香港政庁が国連制裁決議を適切に実施しているかどうか
⑥香港から次のような地域に物資が転送されることで、制裁決議違反がなされていないかどうか
・北朝鮮またはイラン
国際的なテロリズム、麻薬密売、大量破壊兵器拡散などに関与している地域
⑦香港政庁による輸出管理の欠陥に対し、香港の米国領事館、財務省、商務省、国務省の人員が対応しなければならないかどうか
 
※新宿会計士様サイトの和訳によりました。ありがとうございます。

一見して分かるとおり、この5条は香港が自由貿易港であることを使って、中国がやってきた大量破壊兵器の素材、部品、武器類などに対する輸出規制管理だとわかります。
2018年8月、米国は国防権限法(NDAA)を作ります。
ついで米国輸出管理改革法(ECRA)を登場させますが、これによって米国はいままでの輸出入管理ではカバーできなかった兵器転用技術や先端産業の部品、製造機械、関連技術、AIなどまで含んだ輸出管理規制措置が取れることになりました。

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日経https://www.nikkei.com/article/DGKKZO48390380Y9A80...

メディアは香港人権法が香港に与えていた特権を剥奪する可能性があると書いていますが、それが意味するのは米国が香港の輸出管理規制強化に乗り出すゾ、という意味なのです。
具体的には、香港の人権がおびやかされていることが調査の結果明らかになったら、今まで中国が香港を抜け穴にして北朝鮮やイランに拡散させていた兵器転用技術・部品・製造機械などをガッチリ規制しますよ、ということです。
米国がやる以上、ただの人権擁護に止まらず、国益に沿った中国への痛烈なひと刺しだとおわかりになるでしょう。

では話を冒頭に戻しましょう。
結局、冒頭にもふれましたが、
中国側が報復処置は香港への軍艦の寄港拒否やNGOへの制裁です。

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CNNhttps://www.cnn.co.jp/world/35146265.html

米艦艇はいまでも香港に寄港するのは年に2回ていどですから、痛くもかゆくもありません。
そもそも、この「報復」以前の
8月にも中国は米軍艦の香港寄港を拒否していますから、いまさらナニ言ってんのか、です。

ただし、これで中国は改めて「航行の自由」を脅かす措置をとった国にリストアップされることになりました。
「航行の自由」は、南シナ海での同名の作戦があるように、海洋国家米国にとって、自由貿易を守るための重要な概念です。
これをはっきりと
が明文化して自由貿易港を特定の対象に対して閉鎖するわけですから、米国に格好の批判材料を与えてしまいました。

更に今後、香港人権法が適用された場合(たぶんそうなるでしょうが)、米国の商船なども対象に加わる可能性があります。
そうした場合、
西側社会にとっては共産圏への入り口、中国にとっては西側自由主義社会への玄関だった香港の自由貿易は事実上終わります。

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https://www.bbc.com/zhongwen/simp/chinese-news-489...

また人権NGOや言論NGOに対して制裁をかけてしまうことは、モロに悪手です。
こんなことをすれば、自由主義国に見られたくないものが多くあると自白しているようなもので、いかに中国の人権状況が劣悪なのかを自分で証明してしまいました。
これは言論NGOの後ろ楯である民主党に戦争をしかけたも同然です。

このように香港人権法は、共和党系の国防権限法と民主党系の人権というふたつの側面を融合させたものでした。
それ故に、米国議会は全会一致で高速通過させたのです。

とまれあらゆる意味でこの中国の「報復」はヘタレの上に悪手です。

 

※タイトルを書き間違えました。すいません。

 

2019年12月 3日 (火)

ルトワックの朝鮮半島の4つの未来

 

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エドワード・ルトワックが面白い見方をしているのでご紹介します。(hanada12月号)
彼にかかると、今の混沌とした朝鮮半島情勢を整理してみることができます。 

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https://yutakarlson.blogspot.com/2018/11/e.html

まずルトワックは「朝鮮半島の未来」を4ツの象限に分けることから始めます。
2本の縦軸横軸を引きます。

・左右の軸・・・「核保有」と「非核(保有)」
・上下の軸・・・「統一朝鮮」と「分断朝鮮」

するとこのような分け方が可能です。

①北が核保有して統一
②北が非核化して統一
③北が核保有して分断
④北が非核化して分断

では現状はどうかといえば

・北のみが核保有している
・朝鮮半島は分断されている

では北がなぜ核保有をすすめるのでしょうか?
ルトワックはその理由を、「北朝鮮は核が中国からの自立と存続を保証している」からだ、としています。
したがって、このまま④のように朝鮮半島が分断されたまま非核化された場合、北は「中国に完全に取り込まれ、植民地になるだろう」と考えられます。

では逆に①のように核兵器を北が持ったまま統一されたらどうなるのでしょうか。
ルトワックは「日本は核武装した半島統一国家と対峙・直面する」ことになり、それは北一国よりも更に危険な敵性国家を誕生させてしまうことになると考えます。

逆に②の「非核化された統一朝鮮」というシナリオはどうでしょうか。
これは「米軍が韓国に駐留しないかぎり、統一朝鮮は中国に取り込まれる」ことになります。
なぜなら在韓米軍が撤退して力の真空が生じた場合、それを埋めるのは中国以外ないからです。
その場合、「朝鮮半島全体が中国の支配下に置かれたら、日本にとって大災厄になり、こめかみに銃をつきつけられた状態となる」でしょう。

朝鮮半島統一というのは、北が南に侵攻する可能性がなくなるということですから、DMZ(非武装地帯)はなくなり、在韓米軍の仮想敵国がなくなることですから、もういてもらう必要がなくなります。
すると
在韓米軍が消滅し、非核化された状態の「朝鮮半島統一」は、イコール中国圏への吸収だということになります。

日本の保守系のネット言論には、在韓米軍が撤退しようとすることをやんやの喝采で迎える風潮がありますが、それは大間違いです。
彼らは同時に北の非核化も支持していますから、つまりこれでは非核化+在韓米軍撤退=中国圏への吸収、という構図が成立してしまいます

それだけでは済みません。ルトワックは指摘していませんが、中国はロシアと戦後最良の関係を結んでいて、極東の軍事的連携を強めています。
すると、中国-統一朝鮮-ロシアという軍事同盟が作られる可能性が生まれます。
その場合、日本は南西方面からは中国、対馬側からは統一朝鮮、沿海州側からはロシアという三正面で対峙せねばならなくなります。
中国一国でも勝てる保証がないのに、その上に二つの核保有国がそれと同盟してしまった場合、もはや日本の運命は定まったようなものです。

話を戻します。
在韓米軍撤退という事態は、とりもなおさず韓国が米国の核の傘から抜けることを意味します。
では
、韓国はどこの核の傘に入るのでしょうか。

核の傘はいらないというローマ教皇の言っているような選択肢は無効とします。
いかに「核なき世界」を夢見ても、現代が核の均衡でなりたっている現実は変わらないからで、価値観の問題ではありません。
ですから現実に韓国が米軍撤退と朝鮮半島の非核化をセットで掲げる場合、次にどこの核の傘に入るかを選択せねばならなくなるのです。

世界の「核の傘」は基本的に2つしかありません。
核保有国はまだありますが、他国に核の傘を提供できるとなると米中の2国に限定されるからです。
ただし、韓国の場合もうひとつありそうです。それが北の核です。

そこで先の4つの象限を思い出してほしいのですが、米国の核の傘から抜けた場合、北の核の傘に入るのが最もスムーズでしょう。
多くの核兵器を持ち、多種多様な弾道ミサイルを保持する北は、韓国にとって憧れです。
北の核を「統一朝鮮の核」とすることができれば、これ以上いいことはない、これがムンの考えです。

では統一朝鮮はどの国と友好関係を結ぶのでしょうか。
同盟なしで自立した国をめざすという北の主体思想は、従属を続けた先祖に対する屈折した心理の産物でしかありません。
韓国にしても米国と喧嘩別れした状態でしか「統一朝鮮」は出来ませんから、自動的にその同盟の対象国は限られます。
いうまでもなく、それは中国です。

しかし中国は「核武装した統一朝鮮」を絶対に認めないでしょう。
そんなぶっそうなものを認めたら首都北京や、北方艦隊の根拠地青島、工業の中核都市天津が、「統一朝鮮」の核ミサイルの射程距離に入ってしまうからです。
統一朝鮮が国際的に承認されるためには、隣国であり常任理事国である中国の承認が必須ですから、「統一朝鮮」にとって核の存在は悩ましいこととなるでしょう。

ところでルトワックは韓国の行動の基本は、「従属相手を切り換える」点にあるとしています。
その時その時で、地域でもっとも強い相手に従属するのが、行動の基本パターンです。
かつては日本に従属し、その後には米国に従属し、そしていまは地域覇権国にして米国を凌ごうという野心を隠さない新興の中国に従属しようとしています。

ルトワックは日韓問題が外交では解消できない、韓国民族固有の心理的問題だとしています。
それは日本民族に対して「恨」を抱き続けているからで、一度も日本とまともに戦ったことがないというコンプレックスが原因だとしています。

ルトワックは、この韓国人の「恨」心理を、ドイツと戦った国と戦わなかった国の心理と重ね合わせています。
戦わずナチスドイツにむしろ「従僕のようにドイツに協力した」国、たとえばスウェーデン人オランダ人が「超がつくほどの反ドイツ感情を保持している」のと同じ心理構造だとしています。

戦後生まれの韓国人からすれば、かつて日本に従順だった父親や祖父の世代を「恥」だと思っていて、消し去りたい過去だと考えています。
この屈折心理が、日本とは交戦関係にあったという「1911年独立政府」というファンタジーを生み出したわけです。
ルトワックは、このような韓国人の屈折した心理は彼ら自身では解消できないので、日本による客観的な歴史研究を公的にするべきだとしています。

自分が代表をしてもいいとすら言っていますが、この部分は私は聞き流しました。
というのはかつてそのような試みは何度もされたからであり、ことごとく失敗しているからです。
いくらこちらがまともに資料を積み上げて、多方面から日韓の歴史を分析したとしても、かの国は聞く耳を一切持ちません。
ですからあの国は変わりません。百年たっても、千年たってもあのままだということを前提にして対応するしかないのです。

今日の韓国は、いやおうなしに李王朝の時代に逆戻りしようとしています。
李王朝とは、自立する国力を持たず、中華帝国の属国であることを自ら望んだ従属国家でした。
そして次に再現されるかもしれない「李王朝」もまた、中華帝国の辺境に位置する属国なのです。
ただし、その時に彼らが核を持つのか持たないのか、国際社会が持たせるのか持たせないのか、それによってもシナリオは変化していくことになるでしょう。

 

2019年12月 2日 (月)

正恩の恫喝は何に対してだろう


B

北朝鮮がまた弾道ミサイルを発射しました。いうまでもなく国連決議違反です。
日本は当然これを非難しましたが、北の言い分が罵倒の美学となっています。

「これを受けて朝鮮中央通信は30日、安倍首相が「遠からず、本当の弾道ミサイルがどういうものか、間近で見ることになる」と警告する政府談話を伝えた。
朝鮮中央通信はさらに、安倍首相を「完全な馬鹿者で、政治的小物」と呼び、「写真つき報道を見ておきながら、ロケット連射システムとミサイルの区別もつかない、史上最も愚かな男、世界唯一のまぬけだ」と罵倒した」(BBC11月30日)

なぁに言ってんだか。

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BBC https://www.bbc.com/japanese/50615720

北が口汚く罵倒してくれたので、アベガーまでもが、いやあれは大型ロケット弾だ、アベはバカだ、マヌケだと言い始めたのには失笑しました。
ロケットとミサイルの違いは一般的にこのように定義されています。

「ロケットとは、搭載した燃料と酸化剤を燃焼させて後方にガスを噴射することによって推進力を得る装置や、装置を搭載した機体のことです。
一方ミサイルとは、推進装置と誘導装置を持つ軍事兵器を指すことが多く、日本語では「誘導弾」や「誘導飛翔体」「誘導ミサイル」などとも呼ばれます」
https://lowch.com/archives/9159

ね、つまり誘導装置の有無がこの両者を分ける点なのです。
JSF氏によれば、今回の自称「超大型ロケット弾」は、先端に誘導装置がついているのが確認できます。

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誘導装置 https://twitter.com/rockfish31

発射装置は移動式発射装置(TEL)ですが、斜めに撃っても垂直に撃ってもミサイルはミサイルです。
今回のように一本が6t(推定)もあって、しかも先端部分には誘導装置までついていたらリッパな弾道ミサイルで、わが国だけではなく英独仏も同じ意見です。

「日本政府が超大型ロケット弾を弾道ミサイル扱いしているのは、単純に大きさと性能が短距離弾道ミサイルと同等以上だからです。並みの短距離弾道ミサイルの数倍の大きさを持つ以上、例え形状が典型的なロケット弾のスタイルであっても弾道ミサイル呼ばわりして全く構わないという判断です。なお日本以外では英独仏なども超大型ロケット弾を弾道ミサイル扱いにして北朝鮮の発射は国連安保理決議違反であると非難しています」(JSF 12月1日))
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20191201-00153142/

罵倒用語の宝庫であるコリアらしく、うちの国の首相をつかまえて「完全なバカ」とか「政治的小物」とか言っていますが、ジィ様を呼ぶ時に「鋼鉄の霊将」とつけねばならなかったように一種の枕詞みたいなもんですから無視しましょう。
むしろこういう表現に飛びついて膝を打ってしまう日本のヒダリのほうが「完全なバカ」です。

それはさておき、なぜこの時期にという疑問がわいてきます。
いくつか理由が考えられます。
まず考えられることは、米国に対する苛立ちです。
トランプに対して、「今年末までにいい回答だせよ、さもねぇとコワイぞ」と弱者の恫喝をした期限がそこに来ています。

先だっての10月初めストックホルムで米朝が実務者会談をしました。

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この実務者会談で米国は、従来のボルトン路線から軟化し、朝鮮戦争の終戦宣言、連絡事務所設置し、寧辺核施設を廃棄し、ウラン濃縮活動を中断すれば経済制裁を緩和してもよいと提案したようです。 (※内容については異説もあります)
私はよくここまで折れたな、やり方次第ではまずいな、と思ったような内容です。

ところが北はなんとこの米国提案を一蹴するのですな。
あくまでも先に
制裁を撤回しろ、さもなくば核交渉はできないという立場にしがみついています。
交渉担当官の
金明吉巡回大使に言わせると、「米国が対朝鮮敵視政策を撤回するための根本的な解決策を提示せず、情勢変化によって一瞬で反故になり得る終戦宣言や連絡事務所開設のような副次的な問題を持って我々を協議へ誘導できると打算するなら、問題解決はいつになっても見込みがない」ということのようで、はぁーとため息が出ます。

平和条約や連絡事務所が副次的ねぇ。朝鮮戦争集結宣言を出せば、次は国連軍解体・在韓米軍撤退を含んだ外国軍の去就の問題となるのは分かりきっているはずで、平和条約が出来上がってしまえば「連絡事務所」は大使館に格上げになりますから、決して北にとって悪い話じゃないはずですが。

米国が平和条約まで締結し国交を結んだら「一瞬で反故」になどしませんって。
自分がいままで約束を「一瞬で反故」にしまくってきたので、相手国もそうだと思っているだけです。
むしろ北からすれば、ここでへんに依怙地にならずに、平和条約の中身を詰めて在韓米軍撤収をなんらかの形で盛り込ませれば政治的勝利だと思うんですがね。
今のトランプなら、米国に届く長距離核の廃棄と核施設の一定の廃棄ていどのことで非核化したと認めますから、ここで制裁解除に固執すれば元も子もなくなると思うんですが、まぁ余計なお世話か。

しかし北はこの「悪くない話」までなにがなんでも制裁解除が先だ、とハードルを上げる始末ですから、逆にいえばよほどお困りのようです。
これだけ騒ぐのは、終戦宣言→平和条約→連絡事務所→大使館設置・国交回復という正常な手順を踏むだけの余裕が、今の北にはないのです。
というのは、
おそらくこの年末には、いろいろな意味でのタイムリミットが重なるからです。
北に持ち時間が限られてきたから、せっかちにミサイルをぶっ放し、直接に関係のない安倍氏を罵ってみせているのではないでしょうか。

ひとつには食糧事情の深刻化です。下の写真は北朝鮮黄海南道の子ども病院で、診察を受ける激しい栄養失調状態の子どもたちです。

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「実は近年、深刻な食料危機に陥り、国連の関係機関が世界に緊急支援を要請する事態に陥っている。 
在平壌のロシア大使館は4日、フェイスブックを通じ、ロシアによる人道支援食料約2000トンを積んだ貨物船が北朝鮮北東部清津の港に到着、先週週末に一部の荷降ろしが行われたことを明らかにした。貨物船は今後、同じ北東部の興南にも寄港し支援食料の積み降ろしを行う予定。 

北朝鮮に食料支援を行ってきた国連世界食糧計画(WFP、本部ローマ)の事業の一環で、食料は主に小麦。クッキーや混合食料に加工され子どもや妊婦向けに提供されるという」(デイリーNK2019年3月5日 太田清 写真も同じ)
https://dailynk.jp/archives/121833

また国連FAOによれば、干ばつや洪水で農業が壊滅状態なようで、食糧自給力はとうに破綻しているようです。

「国連食糧農業機関(FAO、本部同)が2月に発表した最新報告によると、北朝鮮では過去6年間、記録的な干ばつや洪水などの自然災害に加え、耕作地不足、近代的な農業設備や肥料の欠乏により食料危機が深刻化。毎年100万トン以上の穀物が不足するなど慢性的な食料不足が続いている。 
 FAOは、同国では現在、人口の43パーセントに当たる1090万人が食料不足に陥る可能性があるほか、5人に1人の子どもが「驚くべき」慢性的な栄養不良状態にあると指摘。日本も含むFAO加盟国に1000万ドル(約11億円)の緊急支援を求めている」(前掲)

北は基本的に国民がいかに飢えようと知ったことかという国柄ですが、冬から来年5月まで食糧底をつく「春窮」が約半年つづくわけですが、これを乗り切れるかどうかは、経済制裁解除一つにかかっているということです。

次に北朝鮮の財政はほぼカラッポです。
というのはちょうど
2年前、北はICBMと見られる火星15号を発射した報いで2017年9月と12月に国連安保理において対北追加制裁決議を受けました。
この賛成国には中露が入っていますが、内容的には下図にあるとおりです。

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日経

この制裁の中に「北出稼ぎ労働者の禁止」という一項があり、そこには「国外で働く北朝鮮労働者を2年以内に送還せよ」との趣旨が盛り込まれています。
国外で働く北朝鮮の労働者は、約10万人、年間数百億円の外貨を北朝鮮に送金していると見られています。
いまは石炭などの輸出も止められ、外国に売るものがなくなった北にとって唯一の外貨獲得源がこの北の出稼ぎ労働者なのです。
この出稼ぎ労働者を飢餓輸出して、上前をピンハネして北は核兵器や弾道ミサイルを作っているわけです。

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北朝鮮の隠された奴隷たち BBCパノラマ

「国連のマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権状況特別報告者は28日までに、北朝鮮当局が海外に派遣している出稼ぎ労働者の実態などをまとめた報告書を公表した。
派遣国数は17カ国前後に上り、本国に送金された額は年間あたり12億~23億ドル(約1440億~2760億円)とみられると指摘した。 同報告書によれば、出稼ぎ労働者の総数は少なくとも5万人。派遣国はロシアやポーランドに加え、中国、モンゴル、ミャンマーなどアジア地域、アルジェリアやクウェート、リビア、ナイジェリアなど中東・アフリカ地域。
 労働者は鉱山地帯や森林伐採場、裁縫工場、建設現場などで長時間労働を強いられ、月額給与は120~150ドルに抑えられ、その大半を北朝鮮当局に送金しているという。
 労働者の旅券は現地で北朝鮮政府関係者によって没収され、職務に就いている期間中は母国への帰国が禁止されている。健康・安全面の対策についても不十分という」(産経2015年10月30日)
https://www.sankei.com/world/news/151029/wor1510290035-n1.html

この出稼ぎが最も多く働いているのが中国です。
今でも遼寧省などの工場や、ロシアでの森林伐採、あるいは朝鮮料理店では女性が外貨獲得に貢献していますが、これらは追加制裁から2年、つまり今年12月22日までに本国に送還させねばなりません。

今年6月に正恩は訪中していますが、おそらくこの時に習に泣きついたとはおもいますが、習がなんと答えたのかはわかりません。
おそらくあたりのいいことを言ったと思われますが、だとすると中国は米国に対して制裁対象をまたひとつ加えることになりかねません。
その結果、米中妥結は更に遠のき、習は民主派が勝利した香港、民族浄化を暴露されたウィグル、スパイが亡命したオーストラリア、そして自立派が勝利しそうな台湾総統選、そのうえにこの北朝鮮問題まで頭痛の種を抱え込むことになります。

いずれにしても、日本はこの短距離弾道ミサイルでいかに北から口汚く罵られようと、わが国には無関係です。

 

2019年12月 1日 (日)

日曜写真館 晩秋点描

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樹の横にちいさな扉でもありそうです

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すすきが群青の夕暮れに溶けています

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もう紅葉もおしまいです。冬が゙始まりました

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晩秋の名残のような夕暮れです

 

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