北のどん詰まりの恫喝と日本がすべきこと
朝鮮半島は南北ともどん詰まりのようです。
北朝鮮は長距離弾道ミサイルのエンジン・テストとおもわれる実験を再開しました。
「CNNは5日(現地時間)、「北朝鮮の西海衛星発射場(東倉里発射場)で、以前はなかった動きが見られる」として、「人工衛星や大陸間弾道ミサイル(ICBM)を打ち上げるためのエンジンの燃焼実験を北朝鮮が再開することもあり得る」と報じた。CNNは、民間衛星企業「Planet Labs」が撮影した衛星写真で、東倉里ミサイル発射場の前で新たに大型の船積みコンテナが捕捉されたことを活動再開の根拠として提示した。米国ミドルベリー研究所で東アジア核不拡散プロジェクトのディレクターを務めるジェフリー・ルイス氏は「これは、今後長距離ミサイルや人工衛星の発射に乗り出すこともあり得ることを示す深刻な兆候」と、CNNに語った」(朝鮮日報12月5日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191207-00080007-chosun-kr
朝鮮日報
「政府高位当局者は9日、「北朝鮮は3日、イ・テソン外務省米国局長名義で『クリスマスプレゼントが何になるかは米国の選択にかかっている』と威嚇した」とし「イ氏の談話から4日後に北朝鮮がエンジン燃焼実験を行ったが、これは予想よりも速いペース」と話した。
この当局者は「北朝鮮は2017年にも3月18日エンジン〔白頭(ペクトゥ)〕燃焼実験から4日後にミサイルを発射したことがある」とし「北朝鮮が今年初めに東倉里ミサイル発射場〔北朝鮮は西海(ソヘ、黄海)衛星発射場〕を整備し、先月から人工衛星打ち上げ準備を進める様子を見せており、韓米の対応によっては北朝鮮が予告したクリスマス以前に『行動』に出る可能性があり」と付け加えた」(中央12月10日)
人工衛星だろうか、ICBMだろうが区別する必要はありません。
どちらもほぼ同じ技術で作られていますし、再突入するかしないか、目標に誘導できるか否かだけの差しかありません。
今回のエンジンテストに使ったロケットエンジンは、その双方に使えますし、そもそも国民にメシをくわすことすらできない国が宇宙開発もなにもあったもんじゃありません。
これは米国東海岸を射程とする「火星15」(射程1万3000キロ)ミサイルに搭載するための白頭山エンジンのテストです。
ロイター
上の写真は2016年に行われた西海での新型エンジン実験の写真ですが、北は今回のエンジンテストで、「火星15」に匹敵するロケットエンジンを準備しているぞと恫喝したいようです。
同時に米朝交渉を放棄するぞ、とも言い出しています。
「北朝鮮の金星(キム・ソン)国連大使は7日、非核化は米国との交渉のテーブルから外されていると主張するとともに、北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難した欧州連合(EU)加盟国を「米国の飼い犬の役割」を果たしていると批判した。
金大使は声明で、米国が北朝鮮に求めた「持続的かつ実質的な対話」は国内の政治的アジェンダを都合よくすり替えるための時間稼ぎだと断じた」(ブルームバーク12月8日 上写真も)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-12-08/Q269R3DWRGG701
もはや痛々しいですね。
普通の外交官は、本国がメチャクチャなことを言ってきてもなんとか最後まで外交交渉を継続できるように図るのが仕事なんですが、「もう交渉テーブルからはずれた」のだそうで、ならばもう外交官なんかいりませんから、さっさと荷物をまとめて帰ることです。
ちなみに正恩が白馬で白頭山を駆けると重大発表だそうで、いったいいつの時代だって、古代かって(苦笑)。
こういう神格化がいかにもいかにもです。
https://www.sankei.com/world/news/191016/wor1910160019-n1.html
分析する必要もありませんが、これは北の「最後のお願い」です。
これ以上ボクを追い詰めるとキレちゃうぞ、ICBM発射しちゃうぞということのようで、とんだ困ったくんですね。
米国はそんなことは百も承知で、このていどの恫喝は頭から無視しています。
「オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は8日、CBSのインタビューで、北朝鮮が核実験の再開を準備している可能性があるかとの質問に対し、「そうだとすれば過ちだ」と指摘。「(核実験を再開すれば)同国にとって良い結果にはならないだろう。北朝鮮が約束と違う道を選択すれば、米国には多くの手段がある」と述べた」(ニューズウィーク12月9日)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13561.php
トランプは、うるせぇなと言わんばかりに、「すべてを失う」とツイートしました。
分かりやすくていい。
そもそも年内と勝手に期限を切ったのは北であって、米国はまったく合意していないのですから、一方的に設定された期限なんぞ守る義理はありません。
それに今回使われた西海発射場は、米朝首脳会談で6月に廃棄すると合意した施設ですから、明白な合意違反です。
「トランプ米大統領は昨年6月に開いた金委員長との初会談後、北朝鮮がミサイル施設1カ所の廃棄を約束したと記者団に述べた。その後、米当局者の話から、廃棄を約束したのは西海衛星発射場であることが分かった。
首脳会談後、専門家らは衛星写真を基に、同発射場で一部の主要設備が廃棄されているとしていたが、物別れに終わった2回目の米朝首脳会談後、北朝鮮が同発射場の復旧を進めていることを示す映像が明らかになっていた」
(ニューズウィーク前掲)
もちろん、いまさら言うのも野暮ですが、国連制裁決議違反なのはいうまでもありませんが、米国は短距離に関しては容認する姿勢を見せていました。
しかし、これが日本・グアムを標的とする中距離、あるいは米本土を攻撃する長距離となると話は違います。
トランプは12月3日、ロンドンで開催中の北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加してこんなことをのたまうています。
「わが国の軍事力は強力だ。私はこれを使用する必要がないことを望むが、必要なら使用する」
(韓国聯合ニュース日本語電子版12月4日 )
まぁ常識的にはやらないでしょうね。
というかいまの大統領選しか頭にないようなトランプにはなにもできません。
彼は海外米軍の撤退を公約にしていましたから、なにがなんでも海外展開している米軍部隊を米国に引き上げたいのです。
そのために独裁者アサドにシリアを明け渡し、クルド族を裏切ってシリア撤退を決め込んだのですから。
そんなトランプが、航空攻撃だけで決着がつくはずがない北への攻撃なんぞ、するわきゃありません。
そもそも山中の洞窟陣地に隠蔽されているミサイル基地をどうやって潰す気でしょうか。
偵察衛星は万能ではありませんよ。
やるなら、かつての中東・シリア戦争と同じように特殊部隊を降下させて、目標をひとつひとつ指示せねばなりません。
となると新たな地上軍の派遣につながりますが、今のトランプにそこまで踏みきれるでしょうか。
思えば、ボルトンを右腕にしていた頃のトランプには凄味がありました。
ほんとうにやるかもしれない、ひょっとしたら軍事攻勢をするのではないか、コイツはクレージーだからやりかねん、これが彼のディールのチップだったわけです。
右腕にこん棒を持っていてこそディールは成立するもの。
いまの腰抜けトランプがいくら軍事攻撃をほのめかしても誰も信じません。
となるとなんのことはない、かつてのマッドマンセオリはもはや無効で、北が弱者の恫喝なら、トランプも強者の恫喝をしているだけのことにすぎないのです。
米空軍偵察機RC-135S コブラボール。計測機器の関係で片方の主翼が黒く塗装されている(写真:MDAA)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55985
米国が今できることは米軍の核兵器監視用偵察機・RC-135S コブラボールとRC-135V/Wリベットジョイントを飛ばして警戒監視を強めていくていどのことです。
「コブラボールが作戦中に収集するデータは、国家安全保障問題担当大統領補佐官、国防長官、戦略軍司令官に直接伝達され、アメリカの安全保障における最高レベルの意思決定に直接反映される最重要情報の1つとみなされている」(北村淳)そうです。
さらに北がこれ以上の恫喝を続けて、実際に火星ミサイルを撃つか、核実験を強行した場合、次のステップである海上封鎖にすすむと思われます。
このていどはできます。しかしこのていどならオバマだってやりましたがね。
仮に海上封鎖した場合、世界最大の北への密輸ルートがある日本に対して強い圧力がかかるはずです。
元国連制裁パネルだった古川勝久氏はこう述べています。やや長いですが、一部を引用します。
日本の対北朝鮮政策 - 日本国際問題研究所
「北朝鮮の非合法ネットワークには日本も関わっており、日本企業や日本国内居住者が関与した国連制裁違反容疑事案が複数、確認されている。
北朝鮮の非合法活動の深化
「最大限の圧力」にもかかわらず、北朝鮮による制裁逃れは依然、継続している。米政府の発表資料や国連専門家パネルの2019 年3 月5 日付け年次報告書(S/2019/171)等によると、制裁にもかかわらず、北朝鮮は今日に至っても、世界各地で石油や石炭など、国連制裁で禁輸物資に指定された物品の密輸を大規模に展開しており、中国やロシアなど海外に設けた北朝鮮の拠点を通じた資金洗浄などの不正行為も続いている。
さらに世界各地で北朝鮮はサイバー攻撃も展開しており、制裁網を回避しながら大量の物資の不正な輸出入行為を繰り返しているうえ、大量の外貨を獲得している模様である。
国連専門家パネルは、北朝鮮によるグローバルな非合法ネットワークを用いた制裁逃れの数々の事件について報告している。一連の制裁違反事件を分析すると、これらの事件は主に次の分野に類型できる。
① 海運・企業ネットワークを用いた密輸の巧妙化と世界規模の資金洗浄の継続
② サイバー攻撃による巨額の外貨奪取
各々について、北朝鮮による制裁逃れの具体的な手法について以下に整理する。
海運・企業ネットワークを用いた密輸・資金洗浄の巧妙化
北朝鮮は今日においても数多くの国々と政治・経済・軍事面で協力関係を維持するのみならず、中国とロシア、東南アジアをはじめ、欧州、日本、韓国などにも活動拠点や外国人協力者を確保している」「また、瀬取りは大規模に展開されていたようでもある。国連専門家パネルは、一度に5万7 千バレル強もの大量の石油製品(取引額は6 億円以上)が瀬取りされた大胆な密輸事件についても報告している。
以上の情報を総合するならば、日本の海上自衛隊をはじめ、欧米などの多国籍の海軍艦船による監視にもかかわらず、瀬取りは絶えることなく行われ、北朝鮮は大量の石油製品を調達してきた模様である。
事実、アジアプレス・ネットワークのデータによると、北朝鮮国内のガソリンやディーゼル油等の価格は、2018 年を通じてほぼ安定しており、2019 年1 月~ 4 月初めまでの間、ガソリンやディーゼル油のキロ当たりの市場価格はむしろ低下したことすら報告されている。
北朝鮮が他にも不正調達を行っていた可能性を考えれば、国連制裁にもかかわらず、北朝鮮は一定規模の経済活動を維持できるだけの石油製品を不正に取得したものと推測される。日本や欧米等の艦船が瀬取り容疑の現場を写真に収めて、関係国が国連安保理などに報告するだけでは、制裁違反に対する抑止効果は限られていた、ということになる」
古川レボートは長いですが、ぜひご一読をお勧めします。
このような実態について日本の公安当局・外事警察は知っていると思われますが、拉致被害者を人質にとられている状況で、手がだせないでいました。
しかしことここに至って、日本が北朝鮮の延命装置の一部と化しているのは明白で、これ以上の放置は国際社会に対しての背信行為です。
長年に渡って北の工作拠点であった朝鮮総連の処分も含めて決断すべき時でしょう。
これができるのは強い保守政権だけであって、今をおいてないと思われます。
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