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2020年1月 4日 (土)

ゴーン逃亡事件は人権ではなく主権問題です

 

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カルロス・ゴーン被告の国外逃亡事件についてかんがえてみたいと思います。
ゴーンは自らの逃亡について、「正義から逃げたのではなく、不公平と政治的迫害から逃げた」、あるいは、「日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されています」 といういかにもフランスで高等教育を受けた者らしい修辞で、近代的人権と未開な日本の司法制度との戦いであったと主張しています。

このゴーンの言い分を支持する人たちは、この問題を日本の法制度がロシアや中国並に遅れたシステムに原因がある人権問題であると捉えています。
特にこのような意見は欧米メディアに強く、「近代的人権vs前近代的日本の法制度」という図式で捉えているようです。
おそらく8日に予定されているゴーンの会見もこのトーンで押し通すことでしょう。

さて私は日本の法制度の礼賛論者ではありません。
弁護人ぬきの取り調べ、可視化の遅れ、常態化している検察リーク、そして今回問題となっている長期拘留のあり方などについて、別途日本国民が議論を重ねるべき点だとかねがね思ってきました。

日本の司法制度に矛盾があるなんて、言っちゃナンですが、常識の範疇です。
たとえば沖縄で問題となって久しい日米地位協定が変えられない一番の理由は、米国が日本の司法制度に対して不信感があるからです。
日本は日米地位協定第17条5(C)により、日本で裁判を受けるべき被疑者であっても、米国が先にその身柄を拘束した場合は、1次裁判権は米国がもっています。

では先に日本の警察が犯人を押さえても、犯罪を犯した米兵が留置場から脱走したとしたどうでしょうか。
そしてどこかの外国でシャラっとして、「弁護人ぬき取り調べを強要された。ビデオも回っていなかった。正義から逃げたのではなく、不公平と政治的迫害から逃げたのだ」なんてヒーローヅラして言えば、大部分の日本人はふざけるなと思いますね。
それはこの男が日本の法制度から逃げたのではなく、刑罰から逃げたにすぎないことが見え見えだからです。

ゴーンのケースも同じです。
彼は日本の法制度と戦いたくて逃げたのではなく、己の罪による裁きから逃げたかっただけなのです。
彼が狙っているのは、レバノンが引き渡し条約がないことにつけ込んで、裁判それ自体をさせない事にあります。

なるほど日本の法制度には修正が必要です。
ただしここが重要なのですが、あくまでもそれは「別途」であって、そして主語は「日本国民が」、です。
ここをゴッチャにして、ゴーンという一外国人が犯した法制度からの脱走を許容してしまうなら、日本はもはやまともな主権国家とはいえません。

「国家」という概念は、なんとなくある「日本人のあつまり」ではありません。いい機会ですからおさらいします。
国家の要件は、1933年の「国家の権利義務に関するモンテビデオ条約」で定められています

①永続的国民
②明確な領土
③政府
④その政府が外国との交渉能力を持つこと
"The state as a person of international law should possess the following qualifications: a ) a permanent population; b ) a defined territory; c ) government; and d) capacity to enter into relations with the other states"

さらに「国家」の属性である「国家主権」についても押えておきます。これには三要素があります。

①国家の統治権(国民および領土を統治する国家の権力)
②他国の支配に服さない最高独立性(対外主権)
③国家の政治のあり方を最終的に決める権利

ですから、国民と領土を保護するために国家は軍と法を持たねばなりません。これが国家の自然権と呼ばれる概念です。
9条は、そもそもこの国家の国家たる自然権の自己否定なわけで、憲法が自国民を保護することを放棄したと宣言するに等しいトンデモ条項です。
したがって「軍隊を持つことができる」という権利ではなく、「持たねばならない」義務なのです。
おっと、こっち行くと長くなる(汗)。
それはさておいて、司法制度はこの中の重要な柱ですから、外国からとやかくいわれる筋合いではありません。

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ロイター

ところで前置きが長くなりました。
まず前提となるゴーンの逮捕容疑から洗っておきます。

①報酬額の過小記載で金融証券取引法違反で2018年11月19日
②別期間の金融証券取引法違反で同年12月10日
③私的投資損失の日産への付け替えによる会社法違反で同年12月21日
④日産の支出を私的流用したことによる同法違反で2019年4月4日

ここで興味をひくのは、③④の私的投資の日産への付け替えの舞台となったのが、いずれも中東であることです。
中東はマネーロンダリングの世界的ハブであり、ゴーンはオマーンルートと呼ばれる資金貫流ルートも持っていました。

「起訴状によると、ゴーン元会長は2017年7月~18年7月、日産子会社「中東日産会社」(アラブ首長国連邦)からオマーンの販売代理店「スヘイル・バウワン・オートモービルズ」に計1000万ドルを送金させ、うち計500万ドル(約5億5500万円)を元会長が実質保有する預金口座に還流させたとされる。
元会長の不正をめぐる起訴は今回が最後となる見通し。ただ、検察幹部は「すべての不透明な支出の解明に至っていない」としており、公判に向けた証拠の収集は今後も継続する。資金はゴーン元会長の妻や息子が関与する会社にも流れたとされ、特捜部は中東各国や米国に関係者の聴取などで捜査共助を要請している」(日経 2019年4月22日)

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日経

時系列を追っていきます。

まず2018年のこと、ゴーンは新生銀行との間で金融派生商品で約18億5千万円という巨額損失を出しました。
ゴーンは本業以外に金融通貨取引に手を出していました。それば巨額のカネが動くスワップ取引でしたが、これが08年9月のリーマンショックで破綻します。
このために新生銀行側は追加担保を求めました。

ここでゴーンは、新生銀行に対して「取締役会で契約の移転を決議する」というウソの約束をしました。
まったくヒドイ話で、自分の私的取引の失敗を会社に被せて、オレは日産に独裁権があるから会社にケツを拭かせるさ(下品で失礼)、と言ったのです。
そして実際に
、同年10月、評価損を抱えた金融派生商品を日産に移転させてしまいました。
会社の私物化そのもので、このようなことができてしまう日産という会社が、いかにコンプライアンスもナニもない「カルロス・ゴーン商店」と化していたかわかります。

ところが会社にツケてホッとしたのもつかのま、監視機関である証券取引委員会から付け替えの違法性を指摘されてしまいます。
仕方なしに翌年の09年2月、ゴーンは自身に渋々再移転しますが、新生銀行側はその際に追加担保を求めました。

さてここから中東が登場します。
ゴーンは、知人のサウジアラビア人実業家ハリド・ジュファリに約30億円の「信用状」を外資系銀行から新生銀行へ送らせて、追加担保とします。
ゴーンはこのサウジ人のジュファリに対して、日産から30億円の融資を出させようと目論みますが、さすがに社内承認が得られず頓挫しました。
そこでゴーンは、09年6月~12年3月の期間に、自らの判断で使うことのできる「CEO予備費」から「販売促進費」の名目で、ジュファリ氏が経営する会社に1470万ドル(16億円)を振り込みました。
「販売促進費」と称するもののジュファリにはそんな実態がなく、追加担保提供に協力した見返りです。

つまりは、ゴーンは自分の私的バクチで大損をこき、その焦げ付いた個人投資の損金を知人に保証させ、そのツケを日産に肩代わりさせた、ということになります。

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国際裏金融に詳しい猫組長こと菅原潮氏はこのように述べています。


「 最初の疑義は、評価損を抱えた金融派生商品を、ゴーン氏→日産→ゴーン氏と短期間で目まぐるしく移転できたことだ。何よりこの金融派生商品は、追加担保を求められる(マージンコール)ほどの負債の場合、ロスカット(負債額の強制決算)を行うのがルールだ。マージンコールされるほどの負債額を抱えながら、所有者(ポジション)を移転するというのは、通常では考えられない」
「こうしてひもといていけば、ゴーン氏が行ったことが単なる「特別背任」でないことが理解できるだろう。ジュファリ氏が額面よりはるかに安い金額で入手したSBL/Cをゴーン氏に差し入れ、ゴーン氏が日産の「名前」と「資金」を利用できるだけ利用し、最終的には決裁権を持つ予算から1470万ドル(現在のレートで16億円)を振り込む──。これは「マネーロンダリング」の構造そのものだ」
(菅原 『ゴーン事件を「壮大なマネーロンダリング」ではないかと疑う理由』)

菅原氏が指摘するように、この事件はただの「特別背任」という経済事件ではなく、国際金融を舞台にした大規模マネーロンダリングだと思われます。
検察もその線で捜査しており、複雑な構造を解明するために長い期間を要しているようです。
長期拘留となって原因はそのへんにもあり、それを「人質拘留」のひとことでかたづけるのは乱暴です。

ですからただの私企業に検察がクチバシを突っ込んだというものではなく、国際的金融犯罪なのです。
レバノンはマネーダリングのハブですが、フランス司法当局は既にゴーンの金融犯罪の捜査には着手しているようです。
なお、ゴーンの犯罪についての詳細な分析は、菅原氏のダイヤモンドオンライン記事をお読みになることをお勧めします。
ゴーン事件を「壮大なマネーロンダリング」 - ダイヤモンド・オンライン

ゴーン逃走劇について触れる余裕がなくなりましたが、それは次の機会に譲ります。

※タイトルを替えました。すいません。

 

 

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コメント

私も日産のファンでしたが、
20年前には救世主でした。コストカッターだからと恐れられましたが、経営が上向いたら切った社員を即座に呼び戻したりしましたしね。
また、とにかく欧米型で決定が速いという利点もありました。

が、トップダウンで素早い決定が出来るということは、政治で言うと独裁主義な訳で民主主義とは根本的に異なります。
民主主義が腐敗して独裁者が産まれるという歴史的なお約束を巨大企業でやってしまいました。独裁も数年で止めておけば良かったのに。。
なんというか、30年前のアニメ「銀河英雄伝説」が示唆に飛んでたなあ・・・と。

ゴーンさんが来てから、日産のクルマは本当につまらなくなりました。国内市場はどうでもいいんだな、と。

それにしても20年は長すぎましたね。
10年で辞めておけばそれこそ「名将・名経営者」として称賛の中で去ることが出来たでしょうに。
ルノー代表も兼務して権力が集中し過ぎて腐敗しました。

彼はただの金持ち経営者ではなくいわゆる「社交界のセレブ」になりたかったんでしょうなあ。ヴェルサイユ宮殿での結婚式なんかがハイライト。

日産ファンだった私は20年前の「日産ルネッサ~ンス!」の広告の新聞を今でも保管してます。。

ゴーンいわく、「日本の司法制度は、国際法・条約下における自国の法的義務を著しく無視しており、有罪が前提で、差別が横行し、基本的人権が否定されています」 。
これ、前段も後段も間違ってますよね。

逮捕から見た日本の有罪率は63%にすぎないし、フランスやレバノンよりも外国人差別が横行しているという事実はありません。
むしろレバノンのイスラエル差別やフランスのイスラム差別の方が、よほど激烈です。

くわえて、国際世論は「逃亡者」としてのゴーン氏の主張には冷たいようです。これまでの安倍外交の成果でしょうが、だいたい日本の主張に反していない論調の方が強くなりつつあるように感じます。

身柄引き渡しまではどうかと思いますが、フランスでは別件でどんどん叩かれ起訴されるでしょうし、レバノンでは小数富裕層だけが味方で、一般人から見た場合、ゴーンはあきらかな「敵」です。両国とも対日配慮をにじませているように感じます。

なお、「日産車がつまらなくなった」という山形さんの意見には同感で、国際社会で一時的にもてはやされても長続きしません。
国際評価は水ものですから、足元の日本で売れないと厳しいですね。これは三菱にも言えることです。

司法制度に矛盾が全く無い国というのは世界中探してもないでしょうね。
もしあれば日本がマネすればいいわけですが。

リーマンショックの時に損失付け替えなんて、そんなこと出来ずに涙を飲んだ大多数の庶民にとっては激しい憎悪の対象です。
彼はそこで人生を誤ったのかなあ、と思いますが、自業自得です。

しかし明るみになるまでに時間が掛かっただけに、証拠も少なかったのかもしれません。訴追された件だけでもしっかり裁判を受けてほしいですね。

新年一発目から濃い長文記事ありがとうございます。
猫組長氏のマネロン考察記事、ほぼ一年ぶりに再読しました。
弘中弁護士らの弁護団には正直荷が重いのではと思ってしまう、複雑な国際金融犯罪。
先程出た速報では、弁護団辞めるそうですね。うーん…気楽な商売やのう。

なんと言うか、気が付けば、ただ一人のゴーン派として書きます。
(反論が多そうで気が重いですが、お正月ということで長々と)

彼も人の子ですから、日本の司法のようにエエ加減で独断的で
あり、完全無欠ではありません。まあ、ゼニはいくらあっても困ら
ないですから、「ごっちゃんです、おかわりまだぁ?」と貰えるモン
は全てもらっておこうとするのは理解できます。多分に法のグレ
ー(ブラック?)ゾーンをつくのも、又理解できます。トヨタなど多く
の国際企業はオフショアの金融機関を使って節税していて、時々、
国税より「そらアカンでぇ、それは脱税やで」と言われ、「見解の
相違ですわ、そんなら払いますわ」と追加で納税してたりします。

まあゴーンさんに限らず、お金持ちの連中はやってる事で、彼
だけトコトン叩かれるのはどうかと思います。もちろん、彼が正
しいと言っているわけではありません。

そもそも、日産の旧経営陣(西川さんら)が検察にタレ込んだの
が発端で、司法取引として?ゴーンさんの行いを是認していた
に違いない(ゴーンさんが日産の公休日に会社に忍び込んで、
財務のコンピュータ端末を操作していたとは思えない)旧経営陣
らは今のところ逮捕されていません。これはゴーンさんから見て、
日本の司法に対して不信感を抱いても仕方ないと思います。

公平な裁きなど期待できず、人治的にガイジンが叩かれると思
い、「中共のように死刑にされるかも知れん?、家族とはもう会
えないんだ、ウソの自白でもしないと永久に帰れないんだぁー」
と悲観し、そんなら国外逃亡してもいいんじゃね?と判断したと
しても、個人の自由をなにより尊重する私は同情します。

確かに日本の主権は蔑ろにされましたが、会社の権力争いに
司法が出て来て、一方の日本人達は何の咎めもなく、自分だけ
がガイジンとして悪者扱いされては、自白(強制)によって自分
だけ塀の中へ落とされるのなら、日本の主権など馬に蹴られろ!
と思うのは、ガイジンとして当然のことですわ。

日産の時価総額は、2,684,797百万円(12/30) です。あの時、
日本国内からはホワイトナイトは現れずに、日産も山一証券の
ように「社員は悪くありましぇーん、労組やズボズボの下請けが
悪いんでーす」と社長が叫んでツブれるハズでした。そこに外資
としてルノー(フランス政府)がカネを出してくれて、辣腕経営者の
ゴーンさんが来た。そして、日本人には出来ないカッターぶりを
発揮して、とにかくも日産を蘇らせたのは事実です。その報酬と
して1000億円ぐらい支払っても、日産株主としては御の字では?

いやいや、私もゴーンさんはズルイ奴とは思いますが、極悪人
みたいな扱いはどうかと思うし、はたして日本の遅れたダメ司法
を「悪法でも法は法」として振り回すのはどうかと・・・莫大な報酬
を受け取ってもいい仕事をしたと思っています。あの時、日本人
の誰もが日産に手を付けなかったんだし。「ただのコストカッター
じゃん、あんなの誰でも出来たじゃん」は結果論にすぎませんわ。

ゴーンの業績も、告発された行為で有罪か無罪かも、日産のだらし無さも、日本の司法の問題点も、今回のゴーンの入管法違反を仕方ないとする理由にはならない別な話だと分かっていての、アホンダラ1号さんのご意見と理解。
あれがまかり通るなら、金とか脅しのうまい組織とかがあれば、日本人であれ外国人であれ、日本から出国できない立場の人が密出国して「悪いのは私じゃなくて日本の法だ」と言抜けし放題になり、それを認めることになりますから。

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