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2020年1月 8日 (水)

なんともややっこしいイラク


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速報
テヘラン=水野翔太】イランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」は8日、イラクにある米軍基地に地対地ミサイル数十発を発射したとの声明を発表した。米軍が革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のスレイマニ司令官を殺害したことへの報復だという。
 【ワシントン=蒔田一彦】米国防総省のホフマン報道官は7日、「イラクに駐留する米軍と有志連合軍に対して、イランが十数発以上の弾道ミサイルを発射した」との声明を発表した。少なくとも2か所の基地が標的になったという。被害状況については調査中としている。」(読売1月8日 9:31配信)

参考見解
「イランの最高指導者ハメネイ師とトランプ米大統領はいずれも強硬発言をしているが、双方とも全面戦争への関心を示しているわけではない。とはいえ、軍事衝突の可能性は排除できない。
ハメネイ師が自制を呼び掛ければ、国内や周辺国の親イラン組織から弱腰と受け止められかねない。このため同氏は小規模な報復を選ぶかもしれない。
カーネギー国際平和財団のシニアフェロー、カリム・サジャドプール氏は、ハメネイ師は対応を慎重に検討しなければならないと指摘する。「弱腰では面目を失うリスクがあり、過剰反応は自分の首が飛ぶリスクがある」という。
米国防総省情報局は昨年12月の報告書で、イランの主要な軍事力として(1)弾道ミサイル計画(2)産油国地域であるペルシャ湾全域の船舶航行を脅かし得る海軍(3)シリアやイラク、レバノンなど周辺国の親イラン民兵組織──を挙げた。
イランによれば、ペルシャ湾岸の米軍基地をたたくことができ、仇敵イスラエルに到達できる精密誘導ミサイルや巡航ミサイル、ドローン兵器がある」(ロイター1月7日)

                                                                  ~~~

予想どおりですが、トランプは各所から批判を浴びています。

「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのファワズ・ゲルゲス教授(国際関係)は「トランプ政権は、イランの策略にはまるという大きな誤算を犯した」とし、司令官殺害は 「イラクのほとんどの政治勢力を反米国で団結させ、イランのイラクでの立場を良くした」と分析した。
過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにも影響が出た。米主導の有志連合はイラクのISに対する作戦を中止し、最近攻撃を受けた基地の防御に集中する方針を明らかにした」(ブルームバーク1月6日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-01-06/Q3O7LMT1UM0W01

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ブルームバーク

イラク議会は既に5日に米軍撤退決議を出しており、法律化されていないために実効性こそないもの、この空爆事件で更に反米意識を強固にする結果を招いたようです。
5000名(300人増派)が駐屯する在イラク米軍にとって、敵の海の真っ只中に駐留しかねないことになり、イラク領内のIS掃討作戦にも影響がでるとおもわれています。

ただしブルームバークが報じるほど親イラン・反米で一枚岩というわけではありません。
日本ではまったくというほど報じられていませんが、コッズ部隊司令官カセム・スレイマニと同時に死亡した8名の中に、イラクのイスラム教シーア派武装勢力「人民動員機構PMF)」のアブ・マフディ・ムハンディス副司令官が含まれています。

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スレイマニ(左)とムハンズィス(右)

イラク情勢は複雑なので解説しておきます。そうとうにこみ入っていますからご用心。
このムハンディスが指揮していたPMFはカタイブ・ヒズボラ(神の党旅団)を抱えもつ過激派テロリスト団体で、イラン革命防衛隊のいわばイラク出張所といったところです
そして呆れたことには、イラク政府から予算を貰ってイラク内務省管轄の治安部隊におさまっています。
今やこの親イラン民兵組織が、イラク国軍へ指示を出すという倒錯した状況になっています。
一般の国では絶対にありえないことですが、イラクのように政府と軍が崩壊し、その後に内戦を経験し、その過程で外国から援助される強力な民兵組織がゴロゴロしている国にはままあることです。

そしてこの親イラン民兵組織を育成し、軍事訓練を行い、武器を与えてきたのが、他ならぬスレイマニ率いるイラン・コッズ部隊です。
昨日も書きましたが、コッズ部隊の最高指導者がハメネイ師で、スレイマニはナンバー2として直轄軍の革命防衛隊を率いていました。

スレイマニは亡くなる直前の会議で、イラクに対空ミサイルやロケットランチャーを移動させ、イラクの親イラン武装組織に本格的な米軍攻撃をすることを命じていたとロイターは報じています。

「この会合の2週間前、ソレイマニ司令官はイラン革命防衛隊に対し、2カ所の対イラク国境検問所を経由して、自走式多連装ロケットランチャーやヘリコプター撃墜能力のある携行式ミサイルなど先進的な兵器をイラクに移動させるよう命じた、と民兵幹部やイラク治安当局者は話した。
さらに同氏は、別荘に集まった幹部らに、イラク軍基地に駐留する米軍に対するロケット弾攻撃を実施できる新たな民兵グループを組織するようもとめた。米国側に顔の割れておらず、目立たないメンバーであることが条件だった。会合について報告を受けた民兵組織関係者によれば、ソレイマニ司令官は、ムハンディス氏によって設立されイランで訓練を受けた軍団「カタイブ・ヒズボラ」に、この新たな計画の指揮を執るよう命じたという」(ロイター1月7日)
https://jp.reuters.com/article/iraq-security-soleimani-idJPKBN1Z5111?rpc=122

革命防衛隊は、イラン国軍よりも優先的に予算や装備を支給され、命令系統もまったく別な「国家の中の国家」です。
ちなみに在日イラン大使館の駐在武官は国軍から派遣されているために、よく彼らのことはわからないそうです。

こんな国軍と別系列での「党の軍隊」は世界でも稀ですが、実は身近にもあります。
それがわれらが隣国中国の「人民解放軍」で、実は彼らは国軍ではなく共産党中央軍事委員会指揮下の「私兵」です。
ICBMや空母を持つ「私兵集団」ですから、コワイ。
ただしも別系列の軍隊がないために、国際的には国軍として遇されていますから、二本立て軍隊というのは世界でもおそらくイランだけではないでしょうか。

なお米国は革命防衛隊をテロ組織として指定しています。

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イラン革命防衛隊 日経

この親イラン派が引き起こしたのが、2019年12月31日にイラクの首都バクダッドで起きた米国大使館襲撃事件です。
デモ隊は大使館の外壁を突破し、「米国に死を!」と叫び声を上げながら占拠することを狙いました。
デモ隊といっても、明らかに組織されている「群衆」で、各所の検問を通過し大使館の壁に殺到し、内部に突入を企てました。
この時、イラク治安部隊はまったく大使館警備を放棄しました。
イラク治安部隊は前述したように親イラン派の命令で動いていますから、当然といえば当然です。
しかし米国側の素早い対応で、なんとか大使館は守り抜かれました。

このような警備側がデモ隊が癒着してその暴走を黙認するケースには、去年あった韓国の米大使公邸占拠事件があります。
ムン政権はこの事態を甘くみているようですが、米国はこの事件を境にして韓国政府を見離すようになってしまいました。

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大使館で神の党の旗を振るデモ隊

おそらくイランが考えそうなことは、1979年に起きたイラン大使館占拠事件の再現です。
当時米大使館を占拠したのは過激学生たちでしたが、実態は革命防衛隊の仕業でした。

実際にはこの学生らによる行動は、シーア派の原理主義者が実権を握った革命政府の保守派と革命防衛隊が裏でコントロールしていたため、原理主義者が実権を握る新政府のお飾りでしかなかった、穏健的なメフディー・バーザルガーン首相ら政府閣僚および、革命政府の指導下に入った警察はこれに対する制止活動は事実上できなかった」
イランアメリカ大使館人質事件 - Wikipedia


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イラン米大使館占拠事件 ウィキ

大使館員の拘束はじつに444日続き、ここからの脱出劇は映画『アルゴ』にもなっています。

米国がこの事態を重く見たのは、この直後の空爆後のトランプのツイッターに「52箇所を報復する」という」数字にも現れています。
「52」とはイランで捉えられた大使館員の数です。

このバグダッド米大使館占拠未遂事件の後の1月4日夜にも米大使館付近や市内2カ所にロケット弾が1発ずつ撃ち込まれ、バラド空軍基地にもロケット弾2発が発射されました。
これらの攻撃で米民間人が1名が死亡し、数名の米兵が負傷しています。

イラクでは、アブドルマハディ首相からしてバリバリの親イラン派、 政府機関や議会も親イランが強力、そして米軍が育てたはずの国軍もいまやテロリストの下回りと化していますが、ではイラク国内がそれで一枚岩かといえばそうでもなさそうです。
事実、スレイマニと一緒にイラクの親イラン派のボスが死ぬと、イラク国内の反イラン市民が街に出て歓声を上げたと言われています。

というのは同じシーア派であっても、イランのイラクへの介入に反対する組織が存在するからで、彼らの勢力は親イラン派と拮抗していると言われています。
この反イラン急先鋒は、ムクタダ・サドル師に率いられる 「行進者たち」と呼ばれるグループです。
彼らもまたご多分に漏れず自前の民兵組織「マハディ旅団・JAM」を抱えています。
どれもこれも似たような名前の上に、なんとか「旅団」、かんとか「軍」とついても、全部なんちゃって軍隊ですから念のため。

ただし彼らも反イランであっても親米というわけではなく、彼らの党派は議会多数派でありながら、米軍撤退決議では親イラン派と手を握ったようです。
しかしこれも当面の敵である米国と戦っている最中だからなだけで、緊張が緩和すればシーア派内部の親イラン派と反イラン派、さらにはシーア派とスンニ派まで巻き込んでの確執が再度表面化することでしょう。

これらすべての勢力は民兵組織を要していますが、戦闘にまで発展しなかったのは米軍という重しがあってこそでした。
ですから米軍撤退要求というのは、言い方を変えれば、重しの米軍をどかして好き勝手に内戦をさせろということであって、それがイラク国民にとって幸福かどうかとは別のことです。

それにしても表面を見ているだけでは中東情勢はわかりません。
ああ、ややっこしい。

 

 

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コメント

イラクに絞ったコメントできなくてすみません。
なぜかふと、2016年にバングラデシュのダッカにあるレストランで、クルアーン(コーラン)を暗唱できなかった日本人7名と、イタリア人9名、アメリカ人、インド人が殺害されたテロ事件を思い出しました。
おさらいしようとグーグルの検索窓に「ダッカ レストラン」と入れた時点で、最初のサジェストに「テロ」と出たのに少し驚き。
Wikipediaの記述によれば、2013年以来バングラデシュで増えたイスラム原理主義者による襲撃の対象は、宗教的少数派、世俗的ないし無神論的著作家やブロガー、LGBT運動の活動家、ラディカルでないイスラム教徒にも広がっている、とある。
我々がこれを極端な例だと理解するとしても、テロを行った側にとってはそれが極めて当然やるべき、やり続けるべきことであり、そういう人は一人二人の話ではないということに、暗い気持ちになります。

もちろん原理主義者が「イスラム世界」の多数ではないでしょうし、どの国に住んでいても信仰を守りながら穏健を望むイスラム教徒が多いでしょう。
それでも、信じるものや守り拡めるべき価値への忠誠と、国際社会で生き抜くための妥協や腹芸、その間の遊び、許容度が国、組織、人によって違う「イスラム世界」を理解するのは容易くなく、我々「非イスラム世界」との違いによる争いの数々を、個別国間でも地域間でも、両者ともにダメージ無しで永続的に解決できる具体的な方法が分かる人って地球上にいるのか?と考えてしまいます。

一昨日の革命防衛隊についての疑問に答えていただいてありがとうございます。
山形さんにも、遅ればせながらありがとうございました、を言わせてください。

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