金正恩死亡説を探る
北朝鮮の金正恩になんらかの異変が起きているようです。
一昨日あたりから情報が錯綜していますので、整理しておきます。
私が知るかぎりソースは三カ所からでています。
ひとつは篠原常一郎氏、ひとつは河添恵子氏、そして近藤大介氏です。
いずれの方も揃って「正恩死亡説」を唱えています。
失礼ながら、このお三人は、私から見れば情報の信頼性がいまひとつの方ばかりです。
篠原氏は最も詳細な情報を発信していますが、すべての情報がソース不明ですから判断のしようがありません。
河添氏はおそらく篠原氏をソースにしていると思われます。
三人目の近藤氏は、週刊現代の記者だったせいもあってか、週刊誌情報的でウラをとらずに中国当局からのリークをそのまま流しているフシが見られますので、情報の信頼性が最も低い人物です。
正直言って、近藤氏が死亡説をだした瞬間、私は眉に唾をつけ始めました。
いずれの方も共通するのは、情報源がわからないために、こちらがクロスチェックしようがないことばかりです。
このような場合に私が警戒するのは、当局の意図的リークをまるで自分の取材によって得た情報のように発信してしまうことが多々あることです。
当局がリークする理由は、いわゆるディスインフォメーション(偽情報)と呼ばれる情報攪乱活動です。
こういう情報が欲しいというジャーナリストにうってつけの情報を与えてやることで、それを流布させて相手国に混乱を引き起こすことを目的としています。
近藤氏などは中国の喜びそうなことよく書いていますが、その情報源は中国当局でしょう。
さて、今回の場合、篠原氏がもっとも詳しく情報を出しています。ユーチューブなどで見られたかたも多いと思います。
篠原氏の場合、内部情報ルートとされていますが、まさにこれほど裏どりが不可能なものはありません。
篠原氏の正恩死亡説整理するとこのような内容です。
●篠原常一郎氏情報要旨
①金正恩は脳死状態である。
②公開情報によると、中国鉄路瀋陽局集団は、「4月28日から5月20日まで大連と北朝鮮の国境町、丹東を含む列車20本以上を一時的に運休する」と発表した。
③中国北東戦区に兵力の移動が確認された。
さらに河添氏は、①の死亡説の詳細をこうツイートしています。
「北朝鮮の金正恩は死去した可能性がある。24日、香港衛星TV総合局副局長の秦?女史(元香港フェニックス衛星TV時政記者)がWeiboで「金正恩氏は死去した」とほのめかした。 秦女史は中国共産党の元外務大臣でバリバリ江沢民派の李肇星の姪。江沢民派の軍は金王朝とツーカー。脳死という話も出ている。
北朝鮮の金正恩は、死去した可能性が高い(前のツイッター内容)の続き。金正恩の死去に関する中国語メディアの内容。金正恩が(平壌の)郊外を視察している最中に心筋梗塞で倒れた。
北朝鮮が中国に連絡。中国医学院の国立循環器病センターと人民解放軍301病院から50人近い医療チームが平壌に派遣されることに。
医療チームが来るのを待つ間、北朝鮮の医師が緊急の心臓ステント手術を行った。執刀した医師は中国で医療を学んだ北朝鮮の外科医。
「心臓ステント手術」は本来、難易度の高い手術ではないが、オペを担当する外科医は非常に緊張し、何よりも金正恩ほどの肥満の人のオペをした経験がなくステントを入れるまでに8分かかった。
この間、金正恩は植物人間になった。 中国の医師チームは到着後、金正恩を診療したが結論的になす術がなかった」
https://twitter.com/kawasoe0916
これと同じ内容のことは篠原氏もユーチューブで発信していますが、素朴に考えてどうしてそんなことまでわかるんだ、という疑問が頭をもたげるほど見てきたようなナンジャラです。
正恩が倒れて応急処置をした北の医者がステントンを挿入に失敗したことなど、北の同行した者か、あるいはそれから聞いた中国の医師団しか知りようがないはずです。
北関係者は自分が処刑されるかもしれないのにそんなことを一般に漏らすはずがないので、出るとすれば中国の医師団か随行員からしかありえません。
それも当局の意図の下に出されたと考えられます。
つまりはほんとうかもしれませんが、意図的リークの疑いが濃厚です。
この時期中国当局がそれをするとすれば、北の体制崩壊のアドバルーンを上げて、関係諸国のリアクションを見たかったのかもしれません。
すべてを嘘とまで決めつけようとは思いませんが、近藤氏までまったく同内容のことを書いているので大いに白けました。
(4月24日『金正恩は「植物状態」に…? 関係者らが明かした「重病説」最新情報』
https://gendai.ismedia.jp/articles/72122
なるほど去年暮れから正恩は消息不明で、新年の辞もせず、とうとう北の最も重要な祭祀である金王朝開祖を祭る太陽節まで欠席するにおよんで、深刻な病状悪化が憶測されてきたというのは確かでしょう。
しかし倒れた状況の詳細などはその場にいたものしか知りようがないはずで、あえて憶測すればこれをリークしたのは中国当局のリークだと考えられます。
ですから、私は情報の確度に疑いを持っています。
ではどこまで正恩の動向が分かっているのでしょうか。現時点で公式な報道で確認できるのはここまでです。
「キム委員長は、2週間近く動静が途絶えていて、アメリカのCNNテレビが重篤な状態になっているという情報があると報じましたが、トランプ大統領は、「不正確な報道だ」と述べました」(NHK4月26日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200426/k10012406091000.html?utm_int=news_contents_news-main_005
ここでトランプが公式に否定したことの意味は大きく、おそらく別の情報を握っているとみられます。
韓国東亜日報ですが、これは38ノースの分析を下にしています。長いですが引用します。
「健康不安説が流れていた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、新型コロナウイルスの感染を避けて、元山(ウォンサン)に滞在しているという。米当局は、正恩氏が歩いている姿を確認したと明らかにした。
米政府関係者は22日(現地時間)、「正恩氏が先週ずっと元山に滞在していたことが確認された」とし、「15日から20日の間に歩いている姿が捉えられた」と明らかにした。正恩氏の車両や側近の動きも共に確認され、正恩氏は支えられたり車椅子などを利用したりせず歩いていたという。米当局は、偵察機などを投じて電波や映像情報を分析し、このような内容を把握したとみえる。
正恩氏が11日以降、公式の席に現れなかった背景については、「正恩氏の一部補佐陣と高位職の人々が新型コロナウイルスに感染し、正恩氏が予防のために人口が密集する平壌(ピョンヤン)を離れたようだ」と同関係者は伝えた。
また米政府は、医療施設が整っている元山の別荘で、正恩氏が医療施術を受けた可能性に重きを置いているという。同関係者は、「正恩氏が現在どんな状態なのか具体的な内容を確認中」と話した。北朝鮮事情に詳しい別の複数の消息筋は、「何か医学的な措置があったと聞いた」としつつも、「現在では『金正恩危篤説』は可能性が低い」と明らかにした」(東亜日報4月25日)
また同様の報道をNHKも出しています。
「アメリカの研究グループ「38ノース」は25日、北朝鮮東部ウォンサン(元山)にあるキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の別荘だとする施設周辺の最新の衛星写真の分析結果を公表しました。
それによりますと、今月21日と23日に別荘の近くにある鉄道の駅を撮影した写真に、今月15日にはなかったおよそ250メートルの列車が停車しているのが確認できるとしています。
分析を行ったジェニー・タウン氏はNHKの取材に対し、「この駅はキム委員長だけのための駅で、一般の人は利用できない。写っているのはキム委員長の特別列車の可能性が高い」と述べ、キム委員長が別荘に滞在していることを示唆しているという見方を示しています。
キム委員長は、2週間近く動静が途絶えていて、アメリカのCNNテレビが重篤な状態になっているという情報があると報じましたが、トランプ大統領は、「不正確な報道だ」と述べました」(NHK4月26日)
上の写真が38ノースが撮った正恩の車列と思われます。これは38ノースのサイトで確認できます。
https://www.38north.org/2020/04/wonsancompound042520/
米国は無人偵察機や衛星で正恩を監視し続けており、彼が元山に側近と共に避難したことを確認したようで、トランプ発言はこれが根拠のようです。
ちなみに日本政府にも伝達されたようで、河野防衛相は質問について言下に「デマだ」と切り捨てています。
というわけで、公式情報からは死亡説は確認できませんでした。
では視点を変えて、中国が国境周辺に軍を移動しているという公開情報をどう考えるかです。
中国が瀋陽車両区に丹東までの区間の車両運行を停止したのは、旧瀋陽軍区の命令があったとしか思えないわけで、その理由は中国側の国境封鎖です。
この区間の鉄道を軍がおさえて、兵員と軍需物資の輸送に使うということを意味します。
その軍集結の理由としては、コロナ対策もありえますが(既に北はコロナを理由に国境封鎖をしていますので)、それ以上になんらかの混乱が北の内部で発生したと推測するのが自然です。
では、北朝鮮内部の権力構造はどのようになっているのでしょうか。
これには5つの柱があるといわれています。
●北朝鮮の権力構造(強い順から)
①白頭山の革命の血統
②朝鮮労働党
③朝鮮人民軍
④行政院(政府)
⑤国家保衛部(秘密警察)
詳細は省きますが、要は①の「白頭山の血脈」、つまりは金一族を頂点とする王朝だと思って下さい。
唯一の統治者は金一族からしか出ません。それは永遠の世襲です。
ですから国号の「朝鮮民主主義人民共和国」というのは、「朝鮮」という地名だけホントであとは全部ウソという珍しいものです(笑)。
②の労働党(共産党)は政府の上に屹立しています。
この統治形態はすべての共産国家やナチスドイツに見られるもので、国の統治機関である政府よりエライのが労働党です。
労働党内部の指導機関である政治局がすべてを決定します。
したがって④の行政院は形だけで、なんの権限も力もありません。
③の人民軍は一頃は先軍政治と言って優遇されていましたが、正恩は軍のクーデターを恐れて部隊の指揮権を取り上げているうえに、飢餓と石油不足により通常兵器部隊は開店休業状態で、唯一ミサイル部隊だけが優遇されているようですから、いまはかつての力はありません。
その上、たぶんあの衛生状態では軍内部にも新型コロナが蔓延しているはずですから、もはや形だけのものになり下がっています。
最後に⑤の国家保衛部ですが、これは秘密警察です。ナチスドイツでいえばゲシュタポに相当する拷問専門部隊です。
彼らは系統図からいえば政府機関ですが、実態は直接に「白頭山の血脈」からの命令で動きます。
彼らは今や治安維持にとどまらず、正恩の権力の両脇を固めているというところです。
トランプへの親書などの外交関係すら、国家保衛部がしているという話すら伝わってきています。
金元弘国家安全保衛部長
話を戻します。
中国軍集結の理由でもっともありえるのが、北からの難民の流出をブロックすることです。
よく日本海を渡って日本に来るという人がいますが、そんな船がなくてはできないルートを使えるのはごく一部で、大部分は中国国境へと逃げるでしょう。
中国はそれでなくても朝鮮系が多いこの国境付近地域に、難民が流入し、少数民族問題がからんだ治安問題となることを恐れています。
その予防措置だというのが常識的な線です。
そこでなぜ内部的混乱が起きていると中国は考えているのかですが、それはやはり北の支配体制が崩壊に向かって進んでいると読んでいるからでしょう。
中国と北は犬猿の仲です。
中国は、北が韓国に対するバッファ(緩衝地帯)であり続けるかぎりその有用性は認めていても、中国中枢に届く核ミサイルを持つに至ってこの大バカヤローめと苦々しく思っています。
その上に、正恩が生粋の親中派だった正恩の叔父である張成沢を高射砲で惨殺するなどという狂気の沙汰を見て、いつか潰してやるこの小僧と思っていても不思議ではありません。
ですから、中国が国境付近に軍を集結させるのは、いつ何どき政変があっても、中国は国境を封鎖するか、状況次第では「平和維持軍」として領内に進駐する用意があるというポーズをみせて置くことになります。
逆にいえばここで北朝鮮が中国を頼れば、中国の属国に転落するということです。
というわけで、現時点で正恩の死亡を確認できる情報はありませんでした。
死亡説のすべてがソース不明のものか、それに基づいた憶測の域を出ません。
ただし、正恩が健康不安をかかえており、元山にいるらしいことまでは確かです。
また中国が国境付近に軍を移動したというのも事実だと考えられます。
とりあえず、今日の時点でわかるのはここまでです。
●国内感染者(4月26日正午)
国内感染者14343
退院2815
入院中11180
軽中度・無症状5616
人工呼吸/ICU 296
確認中617 待機中317 症状有無確認中4334
死亡348
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裏の取りようがありませんからねぇ、何とも言えませんが。
地下で物凄い情報戦になっていることだけは確かですね。
トランプが正恩からの親書を受け取ったと言ったり、それを北朝鮮が否定したり。
白頭山血統の妹の与正がやたら前面に出てきた(だから政権委譲)と報じられる一方で、あの北朝鮮で女性がトップに座ることなどありえないという論評がほとんど同時に出てきたり。
また、米国からは北朝鮮のTELが大量に移動しているとも。
もはや何を信じていいのか分からない状態ですので、今は「何も信じないで警戒しておく」しかないでしょう。
IFで言ったら・・・兄弟で最もマトモそうだったが行方不明だった次男のジョンチョルが政権掌握したけど、国の有り様に絶望して焼けを起こして取り敢えずミサイルを向けて威嚇してるんじゃね?
なんて推論すらできますから。。
投稿: 山形 | 2020年4月27日 (月) 08時04分
篠原氏は一連のYoutubeを見ていると、金正恩死亡説に伸るか反るかの大博打を打っている、そんな雰囲気が私には感じられます。
これが当たれば今後「彼の情報ソースはガチだ。金正恩死亡説を2019年年末の時点から知っていた」となり、今後大きな発言力を持つのは間違いないでしょう。
間違っていた場合の保険的発言もほとんどしていないようですし、正直ご高齢でもありますので、最後の博打のつもりで打っているのかもしれないな?とちょっと穿った見方をしてしまいます。ちなみに私は篠原氏は嫌いですはないです。
投稿: TK | 2020年4月27日 (月) 08時26分
そんなことよりアベノマスク調達先の四社目「株式会社ユースビオ」が正体不明のペーパーカンパニーだと発覚して話題になってますね。
明日からこっちの火消しが忙しくなって北朝鮮どころではないと思うゾ(笑)。
投稿: ビーバー婆さん | 2020年4月27日 (月) 17時25分
ユースビオについては下記の記事を参照。癒着とかはないと代表が明言していますね。
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/mask
投稿: クチナシ | 2020年4月27日 (月) 21時01分
比較的信頼している半島関係の論者としては、私のばあいは李相哲さんや朴斗鎮氏、山口敬之氏などですかね。新聞では読売です。
重体説はともかく、死亡はちょっとないと思われますが、何らかの身体的問題が発生している可能性は大きいと思っています。
金日成の生誕記念行事に出席していない背景をふくめ、従来にはない不可解な点が多すぎます。
CNNはCIAと北朝鮮対応当局者をソース元として重体説を報道しましたが、トランプさんは否定して見せました。
その前にはトランプさんは正恩から親書を受け取ったと言い、北朝鮮側は送った事そのものを全否定してます。
衛星から確認できるのは30センチ単位の映像でしかなく、韓国政府発表も根拠も薄いと思いますね。
最も信頼できないのはやはり朝日新聞で、中共派遣の医師団の目的を「コロナ対策のため」とした点で、そんなの、なぜ今頃に?という疑問しかありません。やはり、中・半島御用達との感が拭えません。
いづれはっきりするのでしょうけど、独裁者の世代替わりにはありがちな混乱のように見え、国民にさえ死亡時日が隠される事が通例です。どのような事実があっても不思議ではありませんね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年4月28日 (火) 00時25分
ビーバー婆さんさん。
なんでここのブログ主がアベノマスクの火消し対応などしなきゃならんのやら。全く意味が分かりませんね。
投稿: 山形 | 2020年4月28日 (火) 05時30分