緊急事態法でできることとは
今や緊急事態宣言を出せという人は掃いて捨てるほどいます。
その理由が医師会のような医療崩壊を未然に防ぐためのものならわかりますが、国家的マッチョイズムへの願望のようなものが多くて辟易します。
この人たちにかかると「国の形がみえない」とか「戦争状態だと分かっているのか」などという言葉がポンポンと飛び出してきます。
え、うちの国は今「戦争」をやっていたんですか、とびっくりしました。
このての人たちの口から、非常事態宣言を一刻も早く出せなどといわれるとドン引きします。
ああ、きっと国家がこぶしをふりあげるのを期待しているだろうなぁと感じました。
たぶん果断にバサバサと叩き斬るような国であって欲しいと思っているんだろうなぁ。
だから初期の入国禁止措置について、いまだに「こんなこともできない奴に憲法改正なんかできやしない」と、まったく別次元のことを一緒にしている始末です。
結局、強い事を言ったほうが勝ち、過激なことを叫ぶ方が受けがいい、ただそれだけのことで、後先を考えない知的頽廃の香りすらします。(言いすぎたかな)
さて、新型コロナについての緊急事態宣言に戻りましょう。
たぶん政治的マッチョの人達が思うようにはなりません。
首相はのらりくらりとやるともやらないとも言っていませんが、それは施行してもこの法律名が仰々しいわりにできることが限られているからです。
結論から言ってしまいましょう。この法律が定めているのは、国がやることではなく地方自治体ができること、もっと有体にいえばできる「お願い」を決めたものなのです。
多くは「要請」にすぎないんですよ。法律のものものしい響きにだまされないで、じっくり条文を読んでみればわかります。
●新型インフルエンザ等対策特別措置法
(平成二十四年法律第三十一号)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=424AC0000000031
●第三十二条
一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域
三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要
2 前項第一号に掲げる期間は、二年を超えてはならない。
この条文を読めば、首相(政府対策本部長)が絶対的権限を持っているのではなく、「どうしても必要な場合」に都道府県の首長に「要請できる」だけにすぎません。
たとえばこうです。
時事
●第三十三条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等緊急事態において、第二十条第一項の総合調整に基づく所要の措置が実施されない場合であって、新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があると認めるときは、その必要な限度において、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに第十九条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員及び当該指定地方行政機関の職員、都道府県知事等並びに指定公共機関に対し、必要な指示をすることができる。
つまり新型コロナの緊急事態法が可能としていることは、自治体首長に対してこれこれをしてくれと頼むことで、ミギの人達が漠然とかんがえているような政府が全権を掌握することでもなんでもないのです。
たとえば今予防効果があるとして話題となっているBCGワクチンも、「推奨」できるだけのことで「全国民に接種できる」などとは一行も書かれていないのてす。
朝日
参考までに、いちおうできることを書き抜いておきます。長いので、面倒な方は下の整理に飛んで下さい。
●【新型インフルエンザ等緊急事態で可能となる措置】
①都道府県知事は、期間と区域を限定して、生活の維持に必要な場合を除き居宅から外出しないことその他感染防止に必要な協力を要請できる。(第45条1)
②都道府県知事は、期間を限定して、学校、社会福祉施設、興行場その他の政令で定める多数の利用施設(劇場・映画館・体育館など)の管理者・催物主催者に、施設使用や催物開催の制限・停止などを要請できる。(第45条2)
③政府対策本部は、臨時の予防接種の対象者と期間を定める(実際におこなうのは市町村)。(第46条)
※医療関係者の実費は国と都道府県が弁償。(第62条)予防接種の実施などの地方公共団体が支弁する費用は国が財政上の措置を講じる。(第70条)
④病院などの医療機関・医薬品等製造販売業者である指定公共機関及び指定地方公共機関は、それぞれ業務計画で定める医療・医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造・販売を確保するため必要な措置を講じなければならない。(第47条)
⑤都道府県知事は、病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認めるときは、医療施設を臨時に開設し医療を提供しなければならない。(第48条)
⑥都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため土地・家屋・物資を使う必要があるときは、所有者や占有者の同意を得て使うことができる。正当な理由なしに同意が得られないときは、同意を得ずに使うことができる。(第49条)。
⑦都道府県知事は、必要な物資(医薬品、食品その他の政令で定める物資に限る)で生産・集荷・販売・配給・保管・輸送業者が取り扱うもの(特定物資)の所有者に、その売渡しを要請できる。正当な理由なしに要請に応じないときは、収用することができる。(第55条)
※損失は国と都道府県が補償。(第62条) 特定物資を隠匿・損壊・廃棄・搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金。(第76条)
⑧厚生労働大臣は、政令の定めにより、期間を限定して、墓地・埋葬等に関する法律が規定する手続の特例を定めることができる。埋葬・火葬ができないときは、厚生労働大臣の定めにより、埋葬・火葬しなければならない。(第56条)
⑨内閣は、国会が閉会中か衆議院が解散中であり、臨時会の召集や参議院の緊急集会でその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払いと、その支払のためにする銀行など金融機関の預金などの支払いを除く)の延期・権利の保存期間の延長について必要な政令を制定することができる。(第58条)
⑩厚生労働大臣は、厚生労働省令の定めにより、対策の実施に必要な医薬品その他の物資を無償か時価よりも低い対価で譲渡・貸し付け・使用させることができる。(第64条)
整理しておきます。
緊急事態法は政府が自治体首長に対する「要請」(お願い)にすぎません。
可能なことは以下です。
●緊急事態法で可能なこと
①外出の制限
②イベント・集会などの制限
③施設使用の制限
④医薬品・医療器材の確保・隠匿の罰則化
⑤医療施設の臨時開設
⑥医療施設開設目的の土地・施設の収容
⑦墓地・埋葬の特例
⑧金銭債務の延期
⑨医療品・医療物資の対価よりも安い提供
どうですか。あまりに常識的なのでびっくりなさったのではないでしょうか。
政治的マッチョイズムの皆さん、がっかりしましたか。
憲法がらみで議論されている有事における緊急事態法とは本質的にまったく異なるのです。
今、小池都知事が緊急事態宣言をだしたがっているのは、指定感染症になったことで陽性ならばベタで軽・無症状者も隔離病床に収容しなければならなかったために、もはや東京都はこれ以上の感染拡大には対応できなくなりかかっています。
ですから、上の⑤の臨時医療施設を開設して、軽症・無症状者をそちらに移して、重症者のスペースを確保したいのです。
また、知事が名指してでクラブ、キャバクラ・風俗店の自粛を要求したのを受けて、さらに厳しい要請することも念頭にあるようです。
いずれにしても、国がこぶしを振り上げるのではなく、実行するのは地方自治体です。
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橋下徹さんなどは、せっかくのチャンスなんだからインフル特措法改正なんて生温いものではなくより強権的な新法を作るべきだったと、改正直後に言ってましたね。
が、それはちょっと乱暴な話で日本国憲法の元で許されることなのかという微妙な問題をはらんでいると思います。
当地でも観光客減少で有名老舗温泉旅館やホテルの休業が相次いでいます。
また、昨日出た県内2例目は地元のおっちゃんで温泉宿(すごく評判の良いところです)の料理人。23日にはダルさで休みながら、翌日からは治ったと思って出勤して27日に急変するまで普通に業務していたとのこと。
つまり、10日前には市中に普通にウイルスが存在していたことになります。。
投稿: 山形 | 2020年4月 2日 (木) 06時38分
このコロナ騒動で判明したことは皆んながいかに感覚で喋っているか。法律はすでにあるのだから調べればどんなことが出来るのかわかりそうなものなのに。
地方は地方で国がやらないからだとか、要請に文句言ったりして、お前がそこの首長だろ、その地域を守る覚悟と責任があるのかと思う。
投稿: 銀 | 2020年4月 2日 (木) 07時43分
インフル緊急事態法の骨子は「地方への権限移譲」ですが、地方自治法等と合わせ読めば、それを受けた地方が出来る事はそうとう多岐にわたり、事実上の強制力をともなう分野もずいぶんあります。
また、解釈に不分明な部分もありそうです。
外出禁止や百貨店や映画館などの建物の使用禁止についても要請に過ぎないですが、法的根拠が付されます。
応じない場合は「是正の支持」を出せる事になるので、罰則がなくても日本人の特性から現状より実効性が出ると見るのが妥当です。
さらに緊急の必要があると認められた場合には、知事が建物の封鎖や立ち入りを制限できるようになっていて、こっちは従わない場合には罰金まで科すことが出来ます。
くわえて知事は72時間を限度に道路封鎖を出来る権限さえ持つことになります。
ですので、決して軽々しく考えるべきものではないし、一旦宣言してしまえば地方の色が濃厚に出過ぎてしまう懸念もあって、政府としては「ギリギリ」とか、「「宣言要件に近づいている」とか言って、国民の啓蒙に使いたい事情があるのですね。
小池さんや、あるいは石原元知事のようなタイプですと、権限に裏打ちされた実効性を担保したい意志が強いですから、そこは現政府のようなぬるいやり方とはバッテッングして直会談になりましたが、そこは、「まだそのような段階ではない」とする政府の見解が正しいと思います。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年4月 2日 (木) 09時04分
今朝の記事と山路さんのコメントを拝読して感じたのは、おそらく地方自治体首長の中に
どんどんご当地に沿って決断したい人と、自分の責任になるから決めたく無い人がいるだろうということです。
投稿: ふゆみ | 2020年4月 2日 (木) 13時24分
緊急事態法が要請にすぎないものだとしても、「じゃあ今、緊急事態宣言しても問題ないよね?」と感じます。
宣言することで、自治体首長も「国が言ってるんだから」という名目で外出制限などを強められるなら、むしろ宣言したほうが、最悪の事態を避ける可能性が高くなるのではないでしょうか。
投稿: hatsu | 2020年4月 2日 (木) 13時55分
書き方悪かったかな。
宣言は今すぐにでもだしたほうが良いと思います。
出しても、実行における解釈はそれぞれの自治体の首長次第ですが 、東京の場合、山路さんがいうように小池さんのキャラからいうとけっこう締めつけるきでしょうし、やる以上そうあるべきです。
こういう時には彼女のいい面が出ますね。
政府専門家会議は5都府県で医療態勢が切迫した状況であると言っていますし、おそらく早晩破綻する可能性が大です。
いまからそれに備えねばなりません。
たとえば、重症者の隔離施設、軽傷者・無症状者の一時隔離施設、人口呼吸器などの医療機器、薬剤等々の備蓄を緊急にするべきです。
ですから緊急事態宣言は今すぐにでも出していいのです。
今日、私が言いたかったことは、緊急事態宣言に対する懐疑ではなく、国家的マッチョイズムと混同していませんか、ということにすぎません。
欧米の緊急事態宣言・都市封鎖とはまったく異質なのです。
日本の場合、主語は国ではなく地方自治体で、しかも強制性が薄いのですが、非常事態宣言だの都市封鎖だのとモノモノしい言葉がひとり歩きしている気がします。
私は欧米並のものを作っても良いとおもっています。
それにしても、政府から「思い切った、前例のない措置」としてマスクを2枚も頂けるとはさめざめと歓喜しております。
投稿: 管理人 | 2020年4月 2日 (木) 14時45分
マスクは特に医療現場での不足が激しいですが、手製の布マスクを着用している患者さんが来たら、全力で褒めるようにしています。
「みんな、布マスクを作ってね。見本はこれだよ。」
というための2枚配布なのではないかと、最大限好意的に解釈してみます。
投稿: プー | 2020年4月 2日 (木) 15時05分
https://www.jsicm.org/news/statement200401.html
集中治療医学会からの声明です。
北大の西浦教授も戦争状態を覚悟という発言をされました。
都市封鎖にマッチョなイメージを私は持っていませんでしたが、軽症無症状の人達を病院からどけて自由に放つのではなく隔離場所を設けられるのは、大変有効というか、早よやってくれです。
投稿: ふゆみ | 2020年4月 2日 (木) 17時14分
マスクはどこにも売っていませんが、布製マスクを作る材料は有り余る程に売っていますね。
私はまだ使い捨てマスクを持ってはいますが、布製マスクを作って使用していますよ。
誰か作ってメルカリとかで売ればいいのになどと考えてます。
投稿: ゆき | 2020年4月 2日 (木) 18時37分
ゆきさん、マスク作り出すと案外簡単で洗いにも耐えますよね。
布製マスクは2ヶ月前からメルカリやミンネ等ネット上で多数出品され、物によっては異常高値でした。それにより生地や材料の買い
占めが起きて、規制されました。
私はその関係の仕事と関わりあるのですが、ホントに転売屋だとしか思えない買いが当時入りました。
ガーゼ生地はネット上に余ってはいません。
常にフル回転でメーカーの在庫を各社がかき集めて出品していますが、無地は数時間、オーソドックスな柄も半日以内に売り切れです。物流もひーひー言いながら梱包出荷しているはずです。
ただ、それを見て政府が2枚配布を決めたとは、一切思えないです。
マスク材料は喫緊ならばガーゼでなくともハンカチやシャツ生地で作っても良いものです。
半月も経てば汗ばむ日が増えます。
長引くとマスクに拘って熱中症になる人が出るのではと心配しています。
投稿: ふゆみ | 2020年4月 2日 (木) 21時28分
管理人様、コメンターの皆様いつも良質な議論をありがとうございます
マスク2枚?
私もアホか思わず呟いてしまましたが次の記事が経緯であれば納得だな
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2004/02/news133.html
要はマスクの生産体制は頑張っているが、まずは医療機関等を優先します
その結果、一般の方々にはまだまだ行き届かないのでどうか洗い直しのきく布マスクで頑張って、市場に出るまでお願いしますとの事ですが
記事の真偽は置いといて、そう言われれば頑張るかって思いますよね
もし本当なら首相にはキチンとしたスピーチライターを雇った方が良いでしょう
スピーチについては首相を引いてからわけわからん(あくまで個人の感想)小泉さんには敵わないのかな
投稿: スナフキン | 2020年4月 2日 (木) 21時41分
こちらの記事やコメントを読ませてもらっていると、意見の相違は
あるにせよ、つい、日本人ってのはカシコイよなぁ、我が同胞達は
信頼できるよなぁ、と錯覚してしまいますわ。しかし、さもありなん、
あにはからんや、実態としての日本人には馬鹿モノが思いのほか
多く交じっていたのでした・・ ヘタすりゃ自他共に生死に関わるの
に、横着なのか、本当に馬鹿なのか、世をスネているのか、敵国
の工作員にカネで雇われたのか、それは知らんけど、馬鹿モノと
しか言えない人々があまりに多くてガックリしましたわ。
私は3月始めの1・2週間の自粛が効いて、4月の今頃はもうピーク
を越して、ヤレヤレだぜ、とホッとしているつもりでいました。ところ
が今頃「危機感を持って!」なんて言ってる始末で、あの専門家
会議のセンセイ達の顔に、なんやらこのところ、「お前ら、ワシらの
言う事を聞いてないやろ、自粛せい言うたのに春分の日連休のとき
騒ぐもんやさかい、それまで皆んなで積み上げてきた努力がワヤ
や、この馬鹿モノどもが!!」と書いてあるように見えて仕方ありま
せんわ。なんか、センセイ方からヤル気が失せたようです、馬鹿は
死ななきゃ治らないと思われたのでしょうか?(愛知県知事さん含む)
で、非常事態宣言でも、戦時下宣言でも、何でもいいので、皆の者
がビシッ!と締まるような宣言を出して欲しいです。私事ながら、老
父が、「もう、いつ死んでもかまわんわい」とパチンコに出掛けるのに
は閉口していますので、もう何でもいいので早幕でお願いします。
投稿: アホンダラ1号 | 2020年4月 2日 (木) 22時29分
管理人様は、非常事態宣言に賛成なのですね。
勘違いしてしまい、申し訳ありません。
政府は「ギリギリ持ちこたえている」と言っていますが、そんなにあと少しでアウトになる状況ならば、ますます非常事態宣言を急ぐ必要があるのではないかと感じています。
投稿: hatsu | 2020年4月 3日 (金) 00時54分