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2020年4月14日 (火)

米空母で感染爆発

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たぶん米海軍は、このような事態になるとはつい数カ月まえまで夢想だにしなかったのではないでしょうか。
米国の威信の象徴的存在であった原子力空母が同時に機能不全に陥りました。
しかも敵の正体は、米国が想定した敵対国家による攻撃、あるいはテロによるものではなくウィルスでした。たぶん軍事大国がウィルスに屈した初めてのケースだったはずです。

空母セオドア・ルーズベルトで 大規模な 感染爆発が起きました。
同艦は1月から太平洋でのパトロールを展開中でしたが、このような経過を辿ります。

・3月5~9日にベトナム・ダナンへ寄港時、新型コロナウイルスが持ち込まれた疑い濃厚。
・3月24日・発症例3件を報告。米国メディア報道。
・3月27日・予定どおりグアムに入港。
・3月30日・症例100名に増加。
同日・艦長ブレット・クロジアー大佐から緊急文書が海軍上級司令部に発信。艦長は感染拡大阻止対策を求めた。
・3月31日・グアムに感染者隔離。
・4月2日・海軍省、艦長解任。
・4月6日・艦長を解任した海軍省のトーマス・モドリー長官代行、艦長を批判演説。長官に世論の批判強まる。
・4月7日・長官代行辞任に追い込まれる。

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国防総省と海軍省は、新型コロナの脅威を認識しており、2月14日にインド太平洋地域で寄港した全艦艇に14日間の検疫を命令していました。
この時点で、ベトナムに寄港することのリスクは海軍上級司令部(太平洋艦隊)も艦長
も共有していたはずで、両者とも寄港を中止する権限を持っていましたが、行使しませんでした。
ウイ ルスを持ち込んだのは航空機乗員だという説がありますが、不明です。

持ち込まれたウィルスは、ウィルス感染拡大に絶好の環境である艦内で、指数関数的に増加したようで、600名もの感染者が出たとされています。

「アメリカ海軍は13日、声明を発表し、600人近い乗組員が新型コロナウイルスに感染したことが確認されている原子力空母「セオドア・ルーズベルト」で、初の死者が出たことを明らかにしました。
声明によりますと、死亡した乗組員は先月30日に感染が確認され、グアムの海軍基地内に隔離されていましたが、今月9日に症状が悪化し、海軍病院の集中治療室に搬送されていたということです。
およそ5000人を乗せた「セオドア・ルーズベルト」ではこれまでに乗組員585人の感染が確認されていますが、死者が出たのは初めてです」
(NHK4月14日 )
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200414/k10012385731000.html

クロジアー艦長は3月30日、艦内では患者を隔離できず、乗員が密集しているとして、乗員を下船させるための支援を上級司令部にメールで要請しました。
艦長は空母の「空間は元来、制限されている」ことに触れ、「感染症の拡大が続き、加速している」としたうえで、乗組員全員を船内にとどめておくことは「不必要なリスク」であり、原子炉要員を除く全員をグアムで下船させ隔離できるよう要請しました。

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AFP

この時、艦長は20から30人に宛てて秘密保護機能のないメールを送信したため、何者かがメールを漏洩したようです。
翌日のサンフランシスコ・クロニクル紙にスッパ抜かれましたが、海軍省モドリー長官代行も、艦内にいる空母打撃群司令も、この艦長発のメールを受け取っていなかったといわれています。

クロジア艦長のメールは説得力(支離滅裂な部分もあるとされていますが)があり、部下を思う内容だったために同情が集まりました。たとえばこの部分などは、艦長の真摯な気持ちがにじんでいます。

「我々は戦争状態になく、水兵らは死ぬ必要がない。直ちに行動を起こさなくては、我が軍の最も信頼のおける資源である水兵を適切に保護できなくなる」

しかし一方で、このメールは海軍指揮官が上官に行動を具申する体裁になっておらず、肝心の直属の空母打撃群司令官も受け取っていないことなど不可思議な点が多々あります。

そのために艦長(大佐)は既に発症していたために熱に浮かされていたのではないか、そのために当時同艦にいた空母打撃群司令(准将)、航空団司令(大佐)、駆逐隊司令(大佐)のいずれにも相談しないで執筆し、そのまま送信クリックを押してしまったと思われています。
しかしこの艦長の判断自体は正しいもので、このままなんの対策も講ぜずに感染を放置すれば、艦内では「社会的距離」をおくことは不可能であり、感染する機会や場所は無数にあります。
いったん作戦行動を中止しても、緊急に寄港し、
乗組員を艦内から避難させて、感染者に対する徹底したサーベイランスをし、感染者を隔離するべきだという艦長の判断は間違っていません。

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解任に当たって全乗員に挨拶をするクロージア艦長。 水兵は艦長の名を連呼して答えた。

これが絶対多数の乗員に支持されていたことは、解任されて艦を去るクロジアー艦長の演説に、水兵たちが熱狂的な声援を送ったことでもわかります。
しかし一方で、この支援要請を秘密保護機能のないメールで、指揮系統以外の多数の人に送って故意に公開をしてしまったこと、同乗していた他の指揮官たちに一切の相談をしなかったなど、独善的と言われてもいたしかたがない失敗もしています。

「海軍関係者たちからは、クロージャー大佐が指揮系統を乱した行為に関しては、批判せざるを得ないという声が大勢を占めている。なぜなら「艦隊や海軍に限らずあらゆる軍事組織にとって、指揮系統は万難を排しても守り抜かねばならないバックボーンである」という原則は曲げられないからである。
 また、クロージャー艦長が自ら騒ぎを引き起こしたことにより、南シナ海域におけるセオドア・ルーズベルト空母打撃群の位置を中国海軍に対して明らかにしてしまった情報管理に対しても、批判がなされている」(北村淳)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60070?page=2

結局、長官代行は辞任に追い込まれました。

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海軍省モドリー長官代行 日経

なお、太平洋ではUSSロナルド・レーガンでも2症例が見つかったとの報道があり、そうとう数の感染者が出ていると思われます。
ニミッツ級の両艦は米国の太平洋方面の空母打撃群の中核であり、米国の兵力投射能力の根幹です。
レーガンでも乗組員の退去という事態になれば、米国は太平洋の同盟国防衛と自国の国益の防護の象徴を喪失します。

米国政府は、今までパンデミックを甘くみていました。
いまのようなパンデミックになれば、その損害は大規模な戦争にも匹敵します。
国家安全保障担当補佐官だったジョン・ボルトンは、国家安全保障会議(NSC)でパンデミック脅威がなおざりにされており担当部署が格下げされたことに警告を出していました。
彼は、トランプ政権もオバマの前例を踏襲してしまい、パンデミックへの準備体制も予算も準備していなかったと批判しています。

「パンデミック関連の安全保障は通常型の脅威への準備と比べるといかにも劣勢だ。昨年も国防脅威削減庁の生物関連脅威に関る各国協力予算が極超音速ミサイル開発に流用されてしまった。国家核兵器安全保障部門は予算が2割増額で新型核兵器調達に向かう中で疾病制御予防センター(CDC)の予算は15%減らされた。2019年度の連邦予算で公衆衛生関連事業は136億ドルだったが、2021年度予算要求でトランプ政権は核兵器開発関連に460億ドルを計上している」(『NEWSを疑え!』第852号(2020年4月9日号)静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

とまれ、現在、太平洋方面で対中国抑止を担ってきた2隻の空母が同時に機能不全となってしまいました。
北アラビア海にいたハリー・トルーマンでも感染者がでています。

「より現実的な問題は、米軍の空母が南太平洋で悪い状況にあるらしいことを敵対勢力が認識したことだ。パンデミックに襲われるなか、中国とロシアは喜んで米国の弱みをつこうとするだろう。クロージャー艦長の書簡は、米国は戦争状態にあるわけではないが、だからといって脅威にさらされていないわけではないとしている」(ウォールストリートジャーナル 4月6日)
https://jp.wsj.com/articles/SB10645022620265424847104586306450145176400

 現在の米海軍空母打撃群は以下ですが、現況では東アジアに回せる空母はゼロとなってしまいました。

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「このうち最新鋭のジェラルド・フォードはいまだに各種の最終テスト中で実戦配備はまだ先である。そして、作戦行動中である3隻のうち2隻(ドワイト・アイゼンハワーとハリー・S・トルーマン)は北アラビア海での作戦に従事している。セオドア・ルーズベルトが新型コロナウイルスに感染してしまった現在、東アジア方面海域に緊急出動可能な空母は見当たらなくなってしまったのだ。中国海軍としては、まさにチャンスが到来したと笑みを浮かべていることであろう」(北村前掲)

中国の遼寧は米海軍の苦境を見透かすように、宮古海峡を通過していきましたが、おそらくこの艦にも多数の感染者がいるはずで、このような時、遼寧の艦長がどのような行動をとるか知りたいものです。

●世界の感染状況(4月13日現在) クリックすると大きくなります。

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コメント

朝日はここぞとばかりに「最強の防疫機関CDC敗れる!」ですからねえ。
あまりにも悪趣味です。

なんというディスクロージャー!

個人的には、少しくらい、
「もしコロナウイルスを無視して生活したら」
という実例が見たかったです。

きっと中国では実験済みなのでしょうけれど。

軍艦より乗員数も航行日数も少ないですが、往復1ヶ月以上かけて日本ーペルシャ湾を行き来するタンカーなども、洋上で発症者が出た場合のマニュアルを厳しく見直してそうです。船会社はきっと対策に追われて大変でしょう。
米国は、昔程にはいざという時に一つになりきれないもどかしさがあります。SNSの発達で、単純な図式で物事を長く括れなくなるのでしょうか。彼等らしいポジティブな力で乗り越えて欲しいです。

コロナ無視の実例‥ブラジルを見るに、ある程度の患者が出た時点でカオスになる地区が増え出すリスクをどうするかですね。中国で実証済みなのでしょうけど。

ふゆみさん
ありがとうございます。

ブラジルですね。
自分は、
https://www.worldometers.info/coronavirus/#countries
(worldometer 最終閲覧日2020年4月14日)
こちらで追っているのですが、
検査の頻度は日本より少ないです。
コロナ無視戦略は今のところうまくいっている印象ですが、
今後はふゆみさんの危惧の通りだと思います。


感染経路はどうなんでしょうね…
艦載機部隊かどうかは、もちろん私にはわかりません。
空母には郵便局があり、アメリカ本土との荷物や手紙のやり取りは輸送機で割と迅速にやるので、輸送機の乗員から、あるいは小包の品か補給品に付着して生き残ったウィルス…

船舶の衛生はまず、WHO憲章第21条に基づく公式世界基準である「国際保健規則(2005)」に従い、「船舶衛生ガイド(WHO 2011)」と「国際船舶医療ガイド(WHO 第3版)」を参照し準じるようになっています。
船舶衛生ガイドでは以下のように役割と責任を分担させています。
・船舶の設計者と建造者は、船舶が衛生的な状態で容易に運用できることを保証する必要があり、運用の仕方に依存し過ぎる設計では疾病の発生を招く恐れがある
・船主と運用者は、受け入れた船舶が、乗員乗客が許容できない健康リスクに曝されない設計と建造であることを確認する責任がある
また、船舶が安全な環境を提供する形で運用できることを確認する責任がある
・船長は、船上の安全のすべてについての責任を、運用者からの委任の形で負う
・港湾当局(港湾管理委員会)は、要求された設備、施設、技術と材料を提供し、船舶が衛生的に作業できるようにする責任がある

船舶における感染症の発生はこれまでに幾度もあり、得る知見から改訂されてきた規則やガイドですが、無症状のうちに知らずに感染させてしまいワクチンも治療薬も無い今回のコロナ・ウィルスで、世界中の海運業と軍と港湾は、使命と対価と衛生リスクの問題に苦悩しながら、対策の確認・改良や追加に進行形で取り組むことが必定となり、設計・造船も含めて、このウィルスが半ば強制的に齎す進歩はある、と思いたい…

2020.4.14 相模吾です。米国のそれも任務中の空母艦長の認識の
低さに驚きです。 (政治の延長上の)戦闘中の認識に欠けているし、直属の空母機動部隊司令官にも相談もなしとは。抑止力の要の責任者とは思えない。
米国では空母艦長は海軍軍人ではなく、戦闘機パイロットがなると聞いています。
この艦長がどちらかはわかりませんが、米軍内でも議論になるでしょう。
 テロリストからみれば、意外と簡単に米空母艦隊にダメージを与えられる
方法がばれたようなもので,ワクチンが開発される前にそんなことがないように願うばかりです。米軍抑止力は日本のそれでもあるからです。

吸血鬼ドラキュラのモデルになったルーマニアのブラド公は、敵陣地にペスト感染者を送りこみ、流行させ、大打撃を与えることに成功していますし、城攻めの際は、ペストで死んだ人間の死体を投石機で場内に放り込むような事をしていました。
バイオ兵器が経費が少なく、多大な被害を与えることができる攻撃方法であり、古来から使用されてきたのです。

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