山路敬介氏寄稿 「自粛」はしても、「委縮」する必要なし! その1
山路敬介氏から寄稿を頂戴しました。
氏の論考を読むと、私がなまじ毎日感染推移を追っているために、視野狭窄になっていることを改めて感じました。
おもえば、ポストコロナの時期には悪いことばかりではないわけです。
たとえば、内政的には各省庁の岩盤規制が急速に崩壊し、その根幹をなす財務省の緊縮財政もまた倒壊の危機にありますし、外交的にも自民や財界の中に根強くあった中国傾斜が払拭されつつある、という見立ても成り立ちます。
改めて感謝いたします。
ブログ主
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「自粛」はしても、「委縮」する必要なし!
~「新しい生活様式」から経済活性化へ~
山路敬介
はじめに
安倍総理は現行の緊急事態宣言について、5月14日の専門家会議の分析のもと2月15日からでも要件を満たしている場合は、各個都道府県毎の段階的解除を行う意向を示しました。また、15日に解除される分以外でも31日を待たずに、解除出来るものは随時解除するとしています。
当初の緊急事態宣言はもちろん、医療体制づくりと経済活動再開までの助走期間としての「延長」が無意味だったワケではありません。
ただ、ちょうど日本と同程度の感染状況と死亡者数であった米ノースカロライナ州では、すでに半月以上前からさながら経済活動再開にカジを切っています。
事情が異なるため容易に比較する事は出来ませんし、近視眼的に「日本政府の判断が遅かった」という事は単純にすぎ、「異なる事情」のその中身の方が恨めしく感じます。
コロナ禍にまつわる経済問題と見通しは、次の二つに分けて論じる必要があるように思います。
一つは現在の緊急事態宣言中から宣言解除を経てワクチンなり特効薬が開発される時期までで、この時期は「新しい生活様式」が必要な時期です。医療環境がゆるす限り医療機関においてのPCR検査も増やしていく必要があるでしょう。
もう一つは、コロナ後の経済見通しです。1~2年先にコロナ騒動が沈静化したときから、世界経済はコロナ以前にも増して活力を高めているはずであり、日本国もまたそのけん引役のひとつになっていなければなりません。この事は決して自国ひいきの感情論を含むわけではなく、コロナ後の自由主義社会の変化をリードする緊急経済政策を日本政府がきちんと取っている事に由来します。
安倍政権のコロナ経済政策は米のそれと平仄があっていて、他の先進自由主義社会も同じ方向性でありながら、これよりむしろ強力で広範に行き届かせています。
本稿の目的は先の一つ目を書く事でしたが、当座をしのぐための今の緊急経済対策の中にこそ、コロナ禍終結後の日本経済の方向性が含まれいると思われるので、長めになって申し訳ないですが取り上げていきます。
順不同になりますが、まず二つ目の観点から論じてみたいと思います。従来から安倍政権のスタンスに近い(必ずしもそうは思わないですが)と言われる、エコノミストの武者陵司の言説を借りて説明してみます。
巷間、二つ目の時期に関しての新聞やテレビの経済専門家の見通しとしては、まだ不十分で部分的な域を出ていません。
お茶の間で人気者の三浦瑠璃氏は「コロナ後の世界は中国の一人勝ち」といった、誤った見立てをしています。
また、保守論客と言われる方々はいつから日本的リベラルに早変わりしたものか、悲観的に「今現在の苦境をどうしのぐか」しか議論しません。
こうした物言いのほとんどの原因は、世界経済の復活を「元の鞘にもどる」という地点からしか見られず、コロナ後に「どう変化するか」の見通しを持たないからであろうと考えます。
私とて「すべて納得」という事はできませんが、この点で武者氏の着眼と論点整理は明快です。何よりも、政府の現在の緊急対策がポピュリズムでないとすれば、その方向性が示しているのは武者氏の言説的な「変化」であると思います。
■ コロナ後の世界
「この歴史的な惨事を前に、人々が悲観にとらわれ、後ろ向きになるのは自然のことである。しかしよく考えれば、コロナパンデミックは障害物・抵抗勢力によってせき止められていた歴史の流れを一気に推し進め、経済と株価を押し上げる方向に働くことが分かる。コロナという稀有な天災が奇しくも引き起こす、大きな機会(チャンス)を見過ごすことはあまりにももったいない。」 武者陵司
武者氏は、コロナ禍が始まる以前から世界の趨勢としてこれらのことをあげています。
ひとつめは「社会の全分野をつなげてカバーするIT・ネット化」、ふたつめは「財政・金融の拡大を目的とした大きな政府への企図」、三つ目は「現在の中国依存の国際分業体制の再構築」そして最後に「自由主義的な株価を軸とする経済・金融運営への動き」です。
これらが渇望されていた事は明らかで、それを阻害する要因として、既存の習慣・制度・システム、健全財政化信仰・緊縮金融信仰、対中協調習慣、バブル批判・資産価値軽視指向があったと言っています。
これらの弊害がもたらした結果として、デフレがあり、ゼロ金利政策(=資本余剰)、格差拡大など、社会や経済に与え続けてきた「負の影響」は甚大だとし、「コロナ禍がこうした阻害要因をことごとく壊し、歴史的趨勢を加速させるだろう」と見立てています。
本来なら既得権者の反対やとめどもない議論や失敗を経て、途方もなく時間のかかるこれらの「是正」をコロナ禍は舜時にして成し遂げてしまうだろう事の意義は大きい、と言っています。
一定人口当たりの死者数が他国に比して著しく低い我が国において、安倍政権は積極的に警鐘を鳴らし、マスコミは過ぎた報道で不安を煽り続けています。
私見であり、お叱りを受けるかもしれませんが、この程度の被害で当初宣言はともかく、その延長に踏み切ったり、緊急経済対策を通じてここまで国民に大盤振る舞いをするとは、他国では考えられないと思います。
下火になりつつある今も家賃補助だとか、学生に新規10万円案など対策の拡大は引きも切りません。これは批判ではなく、そのように出来た理由の方が知りたいと考えた次第です。
財務省悪玉論をとなえる保守言論人は多いですが、このような湯水の如くの財政出動は一旦でも財務省的緊縮財政論を突破したと言えるレベルにあると思えます。
金融のさらなる拡大も用意されていて、資金でじゃぶじゃぶになった銀行から既に自動車各社は製造の滞りと販売低迷に資するためとして、「向こう一年分の巨額の運転資金を借入済」との報道がされています。
これまでの金融緩和の問題点として財務省シンパ側からは、市中でマネーが活用されない点を反論材料としていましたが、これを一気に払拭した恰好になるし、「国民への支援」名目では従来の論法も通じにくくなっているようです。
池上彰氏はテレビ番組で、「このような財政出動の結果としては、国民の借金として増税などを通じて返す事になる」と気持ちの悪い言っています。
しかしそうではなく、安倍政府はそのような事は視野に入れていないと思われます。
この池上発言について、MMT理論提唱者の西田昌司議員は自身のビデオレターにて真っ向から否定しています。
私は財政規律派ではないですが、上念さんの言うように円札はいくら刷っても国民の借金にはならないとは思わないし、MMT理論にもちょっとは懐疑的です。
ドル交換に制限のない日本のような国の金融の拡大には、おのずと他の国際決済通貨を有する先進諸国の了解が必要との立場です。
で、今回のコロナ禍においての金融緩和は日本だけでなく、アメリカをはじめ他のハードカレンシーを持つ国々はすべて行っているので、一気に緩和了解の枠組みが拡大したケースと言っていいのだと思います。
つまり、先に武者氏の言うように巨大な政策を通じて国家の「大きな政府」へのカジ切り、財政・金融緩和への変化が先進民主主義国の間で世界的に起こっているという事が言えます。
また、安倍政権の対策では中国からの日本企業の撤退について、国内回帰する場合や東南アジアなどの国々へ移転させる場合において2500億円の補助金を支給する決定をしました。
安倍総理はその趣旨を三月初旬には国会で答弁しています。
2500億ではちょっとしょぼい感じですが、この事は米国や台湾・欧州においてかなり大きなトピックとして報道されました。
日本での報道の扱いはほぼなく、中共がこれに反発して日本政府を非難した段階でようやく記事として扱われたのみです。このような変化は世界的なもので、日本の報道のように「米中対立」だけに話を矮小化する事は出来ません。コロナ禍はここでも、岩盤の「対中協調」という従来の路線を突き崩すチカラを持っていると言えます。
そのほかにも安倍総理はしつこくテレワークを言い、はんこ行政からの転換、緊急支援にITやテレワーク導入補助金を設けるなど、コロナ対策を奇貨とした「コロナ後の変化」を念頭に入れ目論んででいると言っていいのではないでしょうか。
(続く)
国内感染者の退院数が、患者数を上回っています。大変に素晴らしい傾向です。
・累計死者数633(+9)
・累計退院者数 8,293(+166)
・現在患者数 6,896(▲105)
●国内感染状況(5月10日0:00 )
国内感染者15747
退院8293
入院治療を要する者6399
重症者267
死亡613
確認中442
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コメント
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大変示唆にとんだ記事で目鱗でした。
経済についてはまったくの素人なので、きちんと理解できているかは甚だあやしいのですが、コロナの死者数の少なさで、日本はよくやっているのにどうしてこうも安倍さんにたいする批判が多いのか、とかなり腹を立てていたので、コロナ後の見通しの肯定的な意見が聞けて少しほっとしました。
投稿: ゆん | 2020年5月11日 (月) 07時39分
山路様 誠にありがとうございます。
医療環境が「ゆるす限り」PCR増加ですね。とにかくPCRなどという自称識者と違ってありがたいです。
仰ったことと関連すると思われる記事がありました。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200511-00236792-diamond-bus_all (Yahoo!ニュース DIAMOND online 最終閲覧日 2020年5月11日)
日本は去年から半導体の国内回帰に動いていたとのこと。きっかけは韓国w
コロナ禍は、その流れを促進することになりますね。
自分は世の中で悪であるコンセンサスの得られている存在(他人との雑談の際、意見が異なる際には、とりあえずこいつが悪いということで話をまとめる)として、北朝鮮、最近は中国と財務省が加わったと思っています。
しかしこ財務省については、山路さんの仰る、国際協調の枠組みという制約があるわけですね。
今の日本「程度」の事態は大したことないと思われても仕方ないと。
リーマンショックの際に与謝野さんが「蜂に刺された程度」と発言して批判を浴びましたが、今回も世界的には日本はその程度との認識ですね。
今月末発表の失業率が重要な指標となるでしょうけれど。アメリカは14.7%なんて世界恐慌以来です。
あとは、中国がどんな手を打ってくるか、気になります。
こんな大変な時期に尖閣諸島に出張ってきています。この話だけでも何を企んでいるか透けて見えます。
一方で、終息しているはずなのに上海ディズニーランドを開園できずにいるなど、第二波に苦しんでいるようにも見受けられます。
投稿: プー | 2020年5月11日 (月) 09時15分
コロナ後の世界についての記事ありがとうございます。明日の続きを楽しみにしております。
本日の内容にあるように、地震や洪水との違いは世界規模で被害を受けリセットが必要になる点です。
そして、米中対立の行方次第で分量は変われども、アフターコロナの世界でのチャイナの物理的な生産力購買力は減り、あの国の成長分で盛っていた地球上の経済が失われる中でどう生き抜くかが工夫のしどころなのだと思います。
記事中にあるような物理的でない情報管理やサービスで付加価値をつけながら各産業が、ヒトの暮らす街や国の富とインフラを守る点に相当な配慮を強いられながら新たな供給形態へ移っていく。
中々辛い作業になりそうですが、半年前までの飽和しきったヒトモノの動き様に対して改革をするのは無理だったろうな、と記事を読みながら考えていました。
秋冬に流行っても安いイベルメクチンがめっちゃ効くことがわかって風邪の仲間になっているかもしれませんが、欧米に溢れた墓地の数と壊れた経済は「あー良かったね」と歳納めをまとめてはくれないでしょう。
日本が「いや、もういいじゃん、治るしさ」とかうっかり言わないことを切に願います。
投稿: ふゆみ | 2020年5月11日 (月) 23時26分
私も政府の思い切った補正予算に従来にない姿を見ています。
一次補正予算25兆円に続き、二次補正予算の審議が始まっています。
昨日の、NHK日曜討論でも西村大臣、加藤厚生労働大臣も出来ることは全てやると発言されていました。近年にない政府の姿です。
二次補正では、雇用調整助成金の倍増、東京のタクシー会社の解雇問題に絡み、会社を辞めなくても雇用保険を適用する。大学生への補助などが盛り込まれるようです。国がスピード感を持って進めても、私が住む町もそうですが例の10万円の書類の発送は来週以降になるそうです。直接窓口での申請も受け付けるが混雑しています。
保健所の問題もそうですが、業務繁忙で詰まるところが必ず出る。民間の金融機関に委託するなどして、必要なところに一日も早く届ける。そこまで踏み込んで欲しい。。
投稿: karakuchi | 2020年5月11日 (月) 23時43分
山路さん、投稿ありがとうございます。
凄くスケールは小さいですが、最近身近で似たようなことがあったので、少々ニヤッとしていまいました。
私は勤務先で地方の拠点長をしています。コロナウィルスが話題になり始めた2月頃に、在宅勤務について本社の人事部長に打診したところ、出欠や勤務時間の確認ができない在宅勤務なんてとんでもない、と言ってかなりの勢いで怒られてしまいました。ところが、3月半ばから在宅勤務が始まり、先月末の社内TV会議では、同じ人物がさらに在宅勤務を進めるための方策を一生懸命説明していたのです。
お書きになっているように、コロナウィルスを奇貨として官邸は財務省的緊縮財政論を突破しているので、そのうち池上彰さんも「このような財政出動の結果、GDPの増大とインフレを通じて国民の借金を実質的に帳消しにしてしまうだろう。」なんて言い出すことになるのではないかと思っています。
続きも楽しみにしております。
投稿: 都市和尚 | 2020年5月11日 (月) 23時58分