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2020年6月

2020年6月30日 (火)

米国の紅衛兵・アンティファ

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昨日のアンティファについて続けます。
実は中国は最大の主敵である米国と戦うために、ありとあらゆる手練手管を使っています。
そのひとつが、なんとソ連に対抗して米国と統一戦線を組んでみせるという離れ業でした。

これは中ソ対立といういわば国際共産主義運動の内ゲバが背景にありました。
元来が「世界革命」に消極的で、ともすれば各国共産党を自国の国境警備隊としてみているソ連に対して、第3世界(発展途国)の代表を任じていた中国は不満を持ち続けていました。
毛からすれば、後にフルシチョフとのモスクワ会談での発言のように、「東風が西風を圧倒している」社会主義陣営は資本主義陣営よりも強大になったとの認識がありました。

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まったく夜郎自大もいいところです。ろくに国民を食わせられず、鉄鋼生産すらままならぬ発展途上国の分際で、ナニ言っていやがると、フルシチョフは内心思ったことでしょう。
当時のフルシチョフは、スターリンを批判するという思い切った開放路線に踏み切っており、外交においても米国と共存していこうという平和共存路線に踏み出していたからです。
ところが中国はこの時期を世界革命の好機と捉え、一方ソ連は待て待て今米国と対決すれば核戦争になる恐れがあると認識していました。

1957年11月、共産国家首脳会議での毛沢東の脳みそのヒューズが飛んだとしか思えない発言が残されています。

「われわれは西側諸国と話し合いすることは何もない。武力をもって彼らを打ち破ればよいのだ。核戦争になっても別に構わない。世界に27億人がいる。半分が死んでも後の半分が残る。中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億がいる。われわれは一体何を恐れるのだろうか」
(人民網2011年1月17日)

おいおい、毛のおっさん大丈夫か。核戦争で世界の半分が死んでも、最後には共産主義陣営のほうが人口が多いから勝つんだというトンデモ理論です。
人の命なんぞ塵芥。日本の護憲派の皆さん、中国ほど平和憲法の精神に反した国はありませんぜ。
それはさておきさすがの各国首脳も凍りつき、ソ連は絶対にこんな国に原爆サンプルなんぞやってたまるものか、と思ったことでしょう。
毛沢東信者で、毛の生霊のようだと称されている習近平がここまで極端な核戦争待望論を持っているかどうかわかりませんが、潜在的にはこれが中国の核戦略の基調にあることをお忘れなきように。

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さてこの中国がなんとソ連憎しのあまり、敵の敵である米国と手を組むという仰天の裏技をしてみせたのが、1969年のニクソン政権時の米中国交正常化でした。
ニクソンの意図はこのようなものでした。

「ニクソンは、毛沢東思想に支配され鎖国している核保有国は、このままでは周辺諸国にとって脅威となる、だから米中接近によって、鎖国に風穴を開け国際社会へ引きずりこむ、それが太平洋国家であるアメリカの国益を守ることになる、と考えたのだ」(土野繁樹の21世紀探訪)

ちなみにトランプが外交の師と仰いでいるのは、レーガンであるよりニクソンだと思われます。
ニクソンは、当時泥沼化していた北ベトナムの背後に中国という存在があることを見抜いていました。
だから、ベトナムの泥沼から抜け出すためには、中国を取り込まねばならず、そのことによってソ連を孤立させることもできると考えたわけです。
今、トランプが北朝鮮との直接会談という思い切った手を打ったのも同じ理屈で、北を中国から引き離し、核を手放させることで国際社会に復帰させることでした。

ところで、こうして中国は米国の支持の下に国連常任理事国となったわけですが、革命輸出を諦めたわけではありませんでした。
いやむしろ表向きかつてのように大ぴらに左翼ゲリラへの武器援助ができないぶん、より陰湿な浸透工作を図っていくようになります。
特に力を注いだのがやはり永遠の主敵である米国でした。

中国が目をつけたのが、アフロアメリカン、すなわら黒人階層でした。
1966年にブラックパンサー党という黒人最初の武装闘争組織が誕生しました。
今まで公民権運動とかブラックムスリムなどといったものはあったのですが、ガチガチにマルクスレーニン主義で身を固めた革命党が生まれたのは最初です。

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彼らブラックパンサーが手にしていたのは毛沢東語録で、それを売りさばいたカネで銃を買ったという話もあるくらい、毛沢東主義に頭の先から爪先まで染まっていたようです。
ブラックパンサーはこの後、ベトナム戦争の終結と共に、よくある左翼分裂劇を演じて自然消滅していきます。
ただし、その後は中国はこのような先鋭な革命党建設路線から、米国リベラル層に浸透していく政策に転じます。
それは米国民主党政権が、鄧小平が掲げた開放改革経済による自由経済路線に過大な期待を寄せたことも背景にあります。
彼らは安価な労働力と14億市場のニンジンをぶらさげられて中国におびき寄せらたあげく、ミイラ取りがミイラになっていきます。

米国リベラルは、中国が経済発展すれば中間層が誕生し、民主主義を望むようになっていくだろうといううすら甘い幻想を持っていました。
今、問題になっている香港の一国二制度も、そもそも50年間の内に中国が民主化されて、香港と同じ二なるだろうという当時の自由主義陣営の甘い見通しがあったから出来たのです。
そしてその甘い夢は、ブレジンスキーに象徴されるように中国を戦略的パートナーとまで考え、世界を米中二国で仕切っていこうとするG2路線すら生み出しました。
中国はこの甘い幻想に酔って、トランプに太平洋を二分割しようと真剣に提案したほどです(笑)。

この米中蜜月時代を代表するのがクリントンとオバマという民主党親中政権でした。
中国はチャイナロビーを使って米国政治に介入し、その筆頭はかつての米中国交正常の立役者のキシンジャーでした。
こうして中国は米国政治に大きな影響力を持つようになっていきます。

2014年3月、オバマはなんと大統領夫人と子供たちを中国に差し出すということまでやってのけましした。
オバマ夫人は習という超大国の「皇帝」に叩頭しにきた敵国皇后として、
習が用意した中国皇帝のプレステージ(威信)を拝謁しました。
初日の午後には黒い豪華な中国古来の衣装に身を包んだ彭麗媛「皇后」に案内されて、一般観光客をすべて締め出した皇帝の宮殿を堪能させました。(上写真参照)
この
政治的寓意は露骨なまでに明らかです。
世界の中心、すなわち「中華」はどの国なのか、そしてその中華帝国の富と権力を独占しているのが誰なのか、を米国大統領に見せつけたのです。

またクリントン夫妻の中国利権はあまりにも有名です。
クリントン夫妻は人民解放軍系の企業から献金を受けていました。

「中国共産党と人民解放軍は、クリントン夫妻に対して多額の贈賄をするパイプとして、インドネシア・香港・中国に拠点を持つリッポ・グループ(力宝集団)を使用した。
リッポ・グループはインドネシアの華僑財閥・リアディ家が所有する企業集団であり、銀行業・不動産業・流通業・観光業等を経営している」
ヒラリー夫人が上級パートナーを務めるアーカンソーの法律事務所は、この時期から、リッポグループの「顧問」として高額の報酬を得ている。FBIは、「クリントン夫妻と人民解放軍スパイ機関との協力関係が始まったのは、たぶんこの頃だろう」と推定している。
クリントン夫妻は1992年の大統領選に出馬したとき、リアディから少なくとも(後に判明しただけでも)125万ドルの賄賂(違法な政治資金)を受け取っている。
1996年の大統領選挙では、リアディ(リッポ・グループ)からクリントン夫妻へ、はるかに巨額な賄賂が動いた」
(伊藤貫『中国の「核」が世界を制す』)

1992から96年にわたるFBIとNSAの盗聴活動により、中国政府が米国政界に対して大規模な贈賄工作を実行してきたことが暴露されましたが、国務省・ペンタゴン・司法省・CIAはこの大規模な贈賄工作を取り締まることさえできませんでした。
それほど米国政界官界におけるチャイナマネー汚染はひどかったのです。

また米国文化にも浸透し、ハリウッドのプロダクションでチャイナマネーから自由な所は絶無なほどです。

「財源(制作費)と収益(観客動員)をちらつかされたハリウッド大手のディズニー、パラマウンド、マーブルなどは対中接近にのめり込んだ。 中国の思惑は、一にも二にも世界に広がる中国に対するネガティブ・イメージの払拭にハリウッド映画を利用することだった。
当初は露骨な手法はとらなかった。ハリウッドが作る作品から中国に対する偏見や誤解をやんわりと消そうとした。
これが成功すると、徐々に作品の筋書きやキャラクターの選定にも口を挟んできた。
ハリウッドが知らず知らずのうちに中国のプロパガンダ・エンターテインメントになっていくことに米議会をはじめ、各分野から批判の目が強まってきたのはここ数年だ」(20105月2日高濱賛 『JBpress米国で最も中国と濃密な関係にあるハリウッド コロナ禍で変化訪れるか』)

今や米国映画会社で中国資本なしで経営できるところはないありさまです。
そういえばやたらとハリウッド映画に中国人が善玉ヒーローで登場しませんか。
なんと米国文化のプロパガンダ装置だったハリウッドは、いまでは中国の宣伝機関となっていたのです。

このように全身を覆い尽くすガン細胞と化した中国が、トランプが仕掛ける中国包囲網に対して仕掛けたのがBLM・アンティファです。
私はこの時期に黒人差別問題が爆発したのは偶然ではないと考えています。
なぜなら、黒人牧師もいうようにオバマ時代にも白人警官に殺された黒人は多数いたからです。

「黒人でもあるオバマ前大統領が在任中、シカゴだけでも、数千人の黒人が亡くなった。なのに、BLMの抗議デモを見たこともないし、メディアも報道していなかった。しかし今回、黒人が白人に殺されたとなると、BLMが活発に抗議運動を始めるのだ」(大紀元6月25日)
https://www.epochtimes.jp/p/2020/06/58678.html

BLMグローバルネットワークの共同創設者であるパトリッセ・カラーズはこう述べています。

「カラーズ氏は過去、ネットメディアのインタビューの中で、BLM運動について「私たちは実際にイデオロギー的な枠組みを持っている」と語っている。カラーズ氏によると、彼女自身や他の組織管理者は「訓練されたマルクス主義者」と付け加えた」(大紀元2020年6月22日)
https://www.epochtimes.jp/p/2020/06/58466.html

「ブラック・ライブズ・マターにおける思想的方向性がことによると欠如しているために、立ち消えになってしまうのでは」というものだ。その質問に答えてカラーズは、同団体には「思想的な骨組み」があると述べた。
「特に私とアリシアは熟練の組織者です。我々は熟練のマルクス主義者なのです。我々はまあ言ってみれば思想的な理論に精通しています」と彼女は話し、同団体の創設者は、「非常に数多くの黒人に役立つような運動を作り上げ」ようとしたのだと続けた」
JustTheNews 2020.6.20

ここでカラーズは、BLMには思想がないじゃないかという批判に答えて、いや自分たちBLMの思想の核心にはマルクス主義があり、われわれ中心メンバーは「マルクス主義で教育された者たち」だと堂々と認めています。
ここて彼女が口にする「マルクス主義」とは、オーソドックスなそれではなく、かつて黒人活動家に深く浸透した毛沢東主義であることは疑い得ません。
ですから、彼らの毛沢東風にいえば「作風」がきわめて文化大革命に酷似しているのは当然なのです。

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米国在住の中国人ジャーナリストの何清漣はこう語っています。

「私は最近、自分の原稿の中に、この運動(BLM運動)と中国文革にはよく似たDNAがあると書いた。なにかって?みなさんご存じのように中国の文革の核心はマルクス主義であり、マルクス主義の核心理論は暴力革命。
既存の国家メカニズムを破壊し、新たな国家メカニズムを打ち立てること。これはなぜ民主党が首長の各州で警察機構がマヒしているかの理由でもあろう。
文革期の公安、検察、裁判所で同様の打ちこわしがあったことと同じだ。このようにして初めて、法執行機関の介入なしに、すべての“四旧”を好きなようにできるのだ」(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ) NO.103  2020年6月28日)

BLMは米国版文革運動であり、アンティファは紅衛兵だ、そうかんがえると分かりやすいのではないでしょうか。
もちろんこの紅衛兵たちを仕掛けた者がいるのです。竹のカーテンの向こう側に。

 

2020年6月29日 (月)

アンティファの三つの歴史的刻印とは

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アンティファ(Antifa) は昨日今日できた組織ではありません。
その起源は、なんとまぁ100年ちかく前1922年の「アンチファシスト委員会」です。アンチファシスト、つまりアンティファですね。
いちおう当時は「アンチファシズム」といっても実体がありました。目の前にホンモノのファシズム政権が独伊で成立する前夜だったからです。

1928年9月の頃のアンティファを撮った貴重な写真があります。
ドイツのアンチファシスト委員会が握りこぶしを上げて宣誓式をしています。
彼らが宣誓している相手はドイツ共産党で、当時はモスクワにあるコミンテルンの指令でコントロールされていました。
だからドイツ人なのに、彼らが着ているユニフォームまで、当時のソ連の人民服そっくりです。

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Fox Photos/Getty Images

コミンテルンは有名だからご存じでしょうが、ソ連共産党を中心として作られた「革命の輸出」組織です。
各国の共産党はコミンテルンの支部として作られました。
中国共産党もそして日本共産党も、このドイツ共産党もぜんぶソ連共産党の支部として生まれたのです。
カソリックのバチカンと司祭の関係と同じで、司祭には方針を決める権限は持たされていません。
すべてが世界共産党(コミンテルン/コミュニスト・インターナショナル)の合議で決める建前ですが、もちろん決定する権限をもつのはソ連共産党、つまりロシアです。

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このアンチファシスト委員会が作ったのが、今、百年の眠りから醒めた「アンティファ」でした。
1932年には、「アンチファシズム統一戦線」が出来あがり、その時の旗が下の旗です。
これを作ったのは、共産党員だった革命的視覚芸術家協会のマックス・キルソンとマックス・ゲップハルトです。
黒旗(アナーキスト)と赤旗(共産主義者)が並んで行進しているのをデザイン化したものです。

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しかし実体は、誕生したときから共産党の隠れ組織でした。
これは誹謗中傷しているわけではなく、自ら堂々と言っています。少し説明しますね。
当時、コミンテルンは「統一戦線方式」という戦略をとっていました。
これはむき出しで共産党がぶつかってもどうせ負けるから、ファシズムに反対する有象無象の人たちを集めて「アンチファシズム統一戦線」を作って、「反ファシズム世界戦争」をしようという考え方でした。

そしてそのような人たちが広く集まりやすいように「統一戦線」を作り、その指導部を裏で握ってやがては共産主義革命にもっていくんだ、そうスターリンは考えたのですね。
今の日本共産党が作る反安保なんじゃらと一緒で、表向きは誰でも入れるようにしてありますが、入っていくと実は民商や新日本婦人や民医連などの共産党の隠れ組織ばかりの集まりで、中心は全員共産党員ばかり、というなんちゃって「統一戦線」です。

この統一戦線が出来た国際事例としては、スペイン人民戦線や中国の2回に渡る国共合作などが代表的です。
戦う相手は、ヒトラーだったり、ムッソリーニだったり、はたまた日本だったりします。
ここでなんでファシズムでもない日本が入ってくるのかと言えば、世紀の大失敗であった日独伊三国同盟なんてバカ丸出しのものを結んでしまったからですが、今日は触れません。

ところでこのアンティファが掲げたのは、統一戦線だけではなく、もう一つが武力闘争でした。
下の写真はドイツ共産党の暴力部隊である「共産党赤色戦線戦士同盟」(すごいネーミング)ですが、この連中はナチの突撃隊を相手に、軍隊から盗んだ機関銃を撃ち合い、爆弾を投げ合うというような血みどろの「戦争」をしていました。
左翼全体主義と右翼全体主義のガチンコ対決でした。
結局、ナチスが勝利し、左翼は収容所送りとなってしまいました。

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ここで初代アンティファが暴力闘争を公然と掲げていることに注目下さい。
暴力礼賛と、アナーキスト、共産主義者、急進的社会民主主義者など有象無象がたむろする統一戦線、そして敵対する考えを持つ人たちを一括して「ファシスト」とレッテリングするやり方こそが、アンティファの常套手段です。

当時ドイツ最大のアンティファ団体だった「オートノーム・アンティファ」の幹部だったベルント・ランガーは、自身の回想録の中でこのように述べています。

「反ファシズムは一つのイデオロギーではなく、一つの戦術である。ドイツ共産党が統一戦線政策のもと、反資本主義を「反ファシズム」として対抗した。
そして、このレトリックを使って、他のすべての敵対政党にも「ファシズム」というレッテルをつけた」
(ランガー『80年の反ファシズム運動』)

この敵対する勢力を一括して「ファシズム」と呼ぶのはいまも変わらず、ドイツ連邦憲法保衛局(BfV)は2016年の年次報告書で、アンティファを極左暴力集団と定義したうえで、彼らが主張する「ファシズム」というレッテルは、ドイツで一般的に使われるアンチヒトラーではなく、資本主義とその文化、歴史すべてを否定する用語だと述べています。
アンティファは、このドイツ連邦憲法保衛局がいうとおり資本主義の経済政治の否定だけではなく、その歴史・文化まで含めて総体を否定する文化大革命の要素をもっています。
だから、米国アンティファは、独立の父ワシントン像を破壊し、コロンブス像を倒すのです。
アンティファはこう主張しています。

「歴史家ダニエル・E・ウォーカー氏や活動家ケビン・パウエル氏らが、アメリカ合衆国の国歌「星条旗」を変更すべきだと提唱している。国歌変更の理由について両氏は、「星条旗」の作詞家が奴隷所有者であると指摘。
1814年に「星条旗」の歌詞を書いた白人弁護士、フランシスコ・スコット・キー氏は奴隷を所有する裕福な家庭に生まれており、また法廷では奴隷制廃止主義者を起訴してきた経歴を持つようだ。「にも関わらず、アメリカ国民は国歌を口ずさみ彼の功績を称えている」と二人は問題視している」 

スゴイですね(ため息)。歴史の重みなんて言うだけ野暮。一切合切、全否定、まさしく米国版文化大革命です。

整理すれば、初代からいまに至るアンティファは三つの特長をもっています。

①暴力闘争至上主義。ともかく見境なく暴れる。火をつける爆弾を投げる。
②闇鍋軍団。有象無象のゴッタ煮の統一戦線。ただし中心は共産党がグリップ。
③レッテル主義。敵対する対象はぜんぶひっくるめて「ファシズム」。保守主義者でも自由主義者でもみんなまとめて「ファシスト」。

この3点は、今の米国アンティファを見ると、100年前の性格をそのまま継承し続けているのがおわかりでしょう。

さて彼らアンティファは、イタリアやフランスでは共産党系パルチザンという形で残り、中国では日本との戦争を回避して温存した軍隊で国共内戦に勝利し、戦後は堂々と連合国勝利者の殿堂に名を連ねることができました。
中国の場合、彼らの伝統志向の中華意識と混合し、赤い中華帝国の再興をめざすようになって、いまに至ります。

ここでできたのが「民主主義vsファシズム」という便利な史観です。
本来は民主主義を根っこから否定しする左翼全体主義も、なんと「民主主義」陣営の一角として公認されてしまったのです。

中国は当初から「革命の輸出」にすこぶる熱心でした。
アジアの国々で、中国共産党による「革命輸出」攻勢に合わなかった国は皆無といえるくらいです。
たとえば、カンボジア・クメールルージュは中国がフランス留学生を組織して作らせた組織で、数百万と言われる大虐殺を演じました。
インドネシアも危うく共産党に支配されかかって、クーデターで事なきを得ました。
マレーシアも共産党との内戦を経て、やっと安定した国づくりができるようになっています。
フィリピンはいまでも中国は共産党軍が支配している地域があります。
ネパールに至ってはいまでは中国派共産党に支配されてしまっています。
ベトナムだけは中国からの独立を勝ち取っただけに表面はニコニコ、裏では熾烈な争いをしていましたが、とうとうベトナム戦争後に直接侵攻される憂き目にあっています。

日本共産党もご多分に漏れず、一時期完全に中国派に支配されてしまい、朝鮮戦争の後方攪乱を目的とした爆弾と火炎瓶が乱れ飛ぶ「反戦闘争」を引き起しました。
そのための武装組織として「中核自衛隊」を作ったほど、暴力闘争にのめり込んでいきます。
いまでも共産党が公安調査庁から破防法監視団体となっているのは、こういう黒歴史があるからです。

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インドですら、文革中、北京の「昌平軍事学校」にインド共産党中国派を招集し、爆破技術とか手製手りゅう弾の作り方やゲリラ戦のノウハウを教えて込み、金と武器を持たせて帰国させて、1967年のダージリン・ナクサルバリの農民武装反乱を起こさせています。
このことは特に秘密ではなく、当時の「人民日報」にデカデカと「インドの春雷」と大宣伝しています。
このインド共産党はインド国内最大の武装勢力として、2004年から07年の間だけでも実に6215件の武力闘争事件を起こし、2617人を殺しています。

中国という「革命輸出国家」がアジアになければ、戦後のアジアはどんなにか平和だったことか。
そして中国が「革命の輸出」に最も力を注いだのが米国でしたが、長くなりますので別稿とします。
とまれ、このような「中国による革命の輸出」との関係で、米国のアンテファをみると別の見方ができるでしょう。

 

 

2020年6月28日 (日)

日曜写真館 われらみな蘭の花

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  ある時は淋しき花と蘭を活け 稲畑汀子
 

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こてふ蘭花の盛りの長きかな 芦苅 タマキ

Img_5545 われ等みな名もなき山の蘭の花 会津八一

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こんなふうにひと老いゆくか蘭の花 西山逢美

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星空も生者の側に蘭溢れ 花谷和子

2020年6月27日 (土)

ムン閣下、日本とボルトンを恨む

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 おいおい、日本を引き合いに出さないでくれよ、いえなに、韓国で日本批判が盛り上がっているそうで、それもボルトンの暴露本のせいだそうです。
暴露本ですか。つい先日まで現職閣僚、しかも国際社会にまで大きな影響を与える安全保障補佐官がやるこっちゃありませんな。
私は比較的ボルトンには点が甘かったのですが、これでいきなりマイナスに振れました。

彼のホワイトハウスの中での位置は、オーソドックスな同盟重視派のマティスの対極として、武力行使も厭わない原則的強硬論をブチ上げることで、うまくバランスしていました。
敵対する陣営から見れば、ボルトンがいるからトランプは本気だと、正恩などに思わせたはずで、マッドマンセオリの本気度の担保のような男でした。
ボルトンの直接の解任理由となったハノイ会談の際のガンコな態度でした。

その時、安易な妥協に傾きかかったトランプの耳を引っ張るようにして席を蹴ったのがボルトンだったわけで、ややもすれば政治的レジェンドを得たさに日和ってしまいかねないトランプのよい重し役だったことは評価されるべきでしょう。
まぁ、だからトランプからうっとおしがられたんでしょうがね。
結局、トランプ親分の不興を買って更迭となったのですが、その時私は彼のようなタイプがホワイトハウスから去ることを大いに惜しんだものです。
これでマッドマンの牙は抜かれた、もう世界の誰も彼を怖がらなくなった、とね。

その「本気の担保男」が今になって後出しジャンケンのような暴露本を書くんですから、まったくもう。
書きたいなら、せめてトランプが辞めてから10年後くらいに書きなさい。
この時点でホワイトハウスの内幕を暴露することが、敵対陣営に手の内をさらす利敵行為だと気がつかなかったとすれば、とんだ安全保障補佐官があったものです。

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と、ここまではともかくとして、またまた韓国が日本を恨んでいるとか。それもボルトン本絡みです。

「だが韓国で同書が起こした波紋はそれだけではない。回顧録の中身として、米朝首脳会談をめぐる日本の否定的な態度や、米朝間の終戦宣言を安倍晋三首相が引き止めたという内容があると報じられたことで、韓国の与党やメディアは連日、ボルトン氏はもちろん、日本に対する激しい糾弾が続いているのだ。「ネオコン・ボルトンの手管や日本の妨害によって、70年間の分断を終え、韓半島統一への歴史的転換となる千載一遇の機会が消えたという、実に嘆かわしい真実が残念だ」」(李正宣6月25日『ボルトン回顧録で韓国民の怒りが日本に向かう理由「南北統一を邪魔して回る日本」、韓国高官が次々と批判の声』
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61063

この李氏の記事はタイトルを見ただけで読む気が失せるようなものですが、ここで書かれているのはいつもの韓国の平常モードである「なんでも悪いのは倭奴」ということの新バージョンにすぎません。
これだけではナニを日本が妨害したのかよくわからないのですが、韓国の東京新聞・ハンギョレが解説してくれています。

「トランプは朝米終戦宣言を望んだが、安倍が反対した
米国のジョン・ボルトン前国家安保担当大統領補佐官の主張によると、ドナルド・トランプ米大統領は2018年6月にシンガポールで開かれた第1回朝米首脳会談の直前、朝鮮戦争の終戦を宣言することに大きな関心を示していたが、日本の安倍首相はこれを阻止するために努力したという。
当時、米国と北朝鮮の両首脳の初の会談を控え、「朝鮮戦争終了」宣言が出るという見方が少なくなかったが、宣言は行われなかった。 22日、ボルトン前補佐官の回顧録『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』93~94ページを確認すると、シンガポール首脳会談を1週間後に控えた2018年6月5~6日のトランプ大統領と日本の安倍晋三首相、ボルトン前補佐官らの会談の記述がある。
トランプ大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と会談し終戦宣言を行おうとしたが、ボルトン前補佐官はこれを阻止するため心を砕いていた。安倍首相は、北朝鮮にあまり大きな譲歩をしてはならないとトランプ大統領を説得した」(ハンギョレ6月23日)
http://japan.hani.co.kr/arti/international/37018.html

なになに安倍氏がボルトンとグルになって、トランプに北朝鮮に妥協してはならない、朝鮮戦争終結宣言は尚早だと説得したことが、「南北統一の千載一遇のチャンスを破壊した」とお怒りを被っているようです。
でも、たしか当時日本のメディアと野党は、韓国こそが北朝鮮の非核化を導くリードオフマンで、安倍なんぞ「蚊帳の外」だってさんざんバカにしていたことをお忘れでしょうか(遠い眼)。
ニューヨークタイムスまでが韓国の言説に乗って、こんなポンチ絵まで掲載していました。

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朝鮮半島の非核化に向かうトランプと正恩に取り残されたはずの安倍氏が、なんでいまさら米朝会談のキイマンとして暗躍して、南北統一を妨害していたなんて、恨まれにゃあならんねん(苦笑)。

鈴置氏がこのように冷徹に評しています。

「――朝鮮半島で今、起きていることは「南北」ではなく「米朝」の争いなのですね。
鈴置:その通りです。ボルトン(John Bolton)前米大統領補佐官が回顧録『The Room Where It Happened』で明かしたように、半島を巡る外交ゲームは基本的には米国と北朝鮮の闘いなのです。韓国も主要プレーヤーであるかのごとくに見えますが、文在寅(ムン・ジェイン)政権がそう装っているに過ぎません。
ことに日本では、「文在寅は安倍よりも外交が上手い」「安倍のせいで日本は蚊帳の外だ」といった、韓国政府の宣伝を鵜呑みにした言説がテレビやネットで出回って「韓国主役説」が広がりました。本当は韓国は「蚊帳の外」、せいぜい、「脇役」なのです。
今回も韓国が、北向けのビラを禁止するといくら約束しても北朝鮮は姿勢を硬化させるばかりでした。というのに米軍が脅したら即、すごすごと引き下がった。これが何よりの証拠です。北朝鮮が怖いのは米国であって韓国ではないのです」(鈴置高史 6月25日『朝鮮半島は「2017年」に戻った 米朝の駆け引きの行きつく先は「米韓同盟消滅 )
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/06261500/

当時、野党とメディアが韓国の言い分を鵜呑みにして言っていた「日本の孤立化」どころか、安倍氏はトランプに対して北を信じるな、朝鮮戦争終結宣言はまだ早いと釘を指しており、それに沿って米国が動いていたことがわかります。
私はトランプの東アジア外交の軍師は安倍氏だと書いて、さんざんバカにされたもんですが、あながちハズレでもなかったようです。

ボルトン本でもわかりますが、実はこの「仲介役」を自認していたムン閣下こそが最大のクセモノでした。
ムンは典型的な二枚舌外交の徒だったのです。
正恩に対しては、「ねぇ首領様、すこしばかり非核化やったふりすれば、トランプは経済制裁緩和に乗ってきますよ」と教え、実際に北はムンの口車に乗ってプンゲリの核実験場の爆破などをしてみせ、非核意志のジェスチャーをしてみました。

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プンゲリ核実験場爆破は三流の政治ショーにすぎませんでした。 
それどころか、当時、北の幹部はこううそぶいていていました。


「北朝鮮政府のある幹部は20日、この実験場について、「すでに廃棄されていたもの」だと指摘。爆破については「金正恩時代の核戦略システムの完成を宣言するイベントでしかない」と述べたという」
(2018年5月18日
「8月までに戦争準備が完了する」北朝鮮幹部が語る )

またボルトンもこう見ていました。

「ハノイの首脳会談の数日後、米韓安保室長の対話で、鄭室長は、『金正恩氏が代案なしに一つの戦略だけ持ってきたことに驚いた。
米国側が行動対行動方式を拒否したのは正しい』といいながらも、『寧辺廃棄は意味ある最初の措置であり、これは(このような提案を出したのは)北朝鮮がすでに取り返しのつかない非核化の段階に入ったことを意味する』という、文在寅大統領の統合失調症的なアイデア(Moon Jae-in’s schizophrenic idea)を伝えた」
」(李正宣6月24日JBプレス)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61048?utm_source=editor&utm_medium=email&utm_campaign=weekendemail&utm_content=20200627

日本のメディアはこの安直な政治ショーにまんまと引っかかって、朝日など一面に大きく「北、核実験放棄」と書き立てました。まったく馬鹿としかいいようがありません。
北は核のない平和な世界を望んでいる。そして圧力一辺倒の日米に対して平和攻勢をしかけている。この核実験場爆破は、この平和外交そのものなのだ。日本も平和と話し合いのバスに乗り遅れるなぁ(棒)。 
これに似た解説は、うんざりするほどメディアでお聞きになったことでしょう。 
こういう「非核化」三文芝居の振付師はムン閣下です。

ボルトン本は、韓国が北に非核化の意志があると言い続けてきたと述べています。

「「2018年5月4日、鄭室長は3度目のワシントン訪問で、(4月27日の南北首脳間の)板門店会談に関する具体的な内容を提供した。韓国は金正恩氏にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)に同意するよう強要し、金正恩氏はこれに従っているように見えたと述べた」

ムン閣下がどこまで自分の言ったことを信じていたのかはわかりません。
たぶん詐欺師が自分言った釣りを自分で信じ込んでしまうようなもんじゃないでしょうか。

一方、ムン閣下はトランプに対してはこう言っていました。
「大統領閣下、正恩氏は非核化にまっすぐな平和的人物です。戦争を望んでいません。直ちに米朝両国の障害となっている朝鮮戦争を終結させ、朝鮮半島に恒久的平和をもたらそうではありませんか。そのためにはまずは米朝会談の場で経済制裁の中止を提案しましょう」、チャンチャン。
ま、このくらいは吹いたかもね。

で、トランプもひょっとしてひょっとするか、ひとつ乗ってみても面白いかも、ていどには考えた可能性は残りますが、ボルトンはまったく信じていませんでした。
それをアドバイスしたのが安倍氏で 、彼は北に非核化の意志はない、朝鮮戦争終結宣言などしたら最後北の思うつぼだ。かつての六カ国協議の二の舞となるに決まっている、と判断していたからです。

ボルトン本はこう述べています。

「すべての外交的ファンダンゴ(スペインの男女ペアで踊るダンス)は韓国の創作物で、これは金正恩氏やわれわれ(米国)の真摯な戦略よりも、韓国の統一議題により関連したものだった」
「文在寅大統領は2018年4月28日の米韓首脳間の電話会談で、『金正恩氏が豊渓里核実験場の閉鎖を含めて完全な非核化を約束した』『金正恩氏に1年以内に非核化することを要請したが、金正恩氏が同意した』と話した」」(李前掲)

こんなムン閣下の二枚舌外交を、日韓のメディアは「外交天才」「外交王」「ノーベル平和賞最有力候補」なんて激賞していましったっけね(またまた遠い眼)。
野党とメディアからすれば、ムン閣下の外交こそ、あるべき「平和憲法外交」だったんでしょうが、愚者は見たいように見るという典型です。

やがて二枚舌は双方かうろんな眼でみられはじめました。それは直接に米朝が会話をする機械が増えたからです。
ムン閣下が熱望した米朝接近によって、彼のウソがバレるというのも皮肉です。

「最初の終戦宣言が北朝鮮のアイデアだと思っていたが、その後、これが自分の統一アジェンダを裏付けるための文大統領のアイデアだと疑い始めた。
北朝鮮はそれを文大統領が望むものと見て、『自分たちは気にしていない』と述べた。
私は文大統領がこのような悪いアイデアをトランプ大統領に勧めることについて懸念したが、結局それを止めることができなかった」(李前掲)

なるべくして詐欺師はダマしたつもりの双方から嫌悪の眼でみられはじめます。
板門店会談の内幕についてボルトンはこう書いています。

「金正恩氏とトランプ大統領との会談に干渉しようとする文大統領の試みも相手にしなければならなかった。
トランプ大統領は文大統領が近くにいないことを望んだが、文大統領は(トランプ大統領と金正恩氏との会談に)強く出席しようとし、できれば3者会談にしようとした。
(自分は米朝首脳会談に乗り気でなかったので)文大統領との紛争がすべてを台無しにしかねないという一縷の希望を抱いた。なぜなら、金正恩氏も文大統領が近くに来ることを望まないことは明らかだからだ」(李前掲)

もはやムン閣下は米朝にとって仲介者どころか、ただの邪魔者。

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というわけで、実際にどちらが正しかったのかは、既に歴史が答えを出しています。
北朝鮮には1ミリも非核化をする気はなく、それを見抜いた米国はとりあえず首脳同士のホットランインは命綱として残しつつも、新たな進展はみられぬまま、今度は北内部の権力交代の前触れが始まっています。
もはやムン閣下をかつてのように「外交天才」なんて言う奴は韓国国内にも皆無です。
残ったのは、正恩の「あの野郎の言うことを信じてとんだ目にあったぜ。絞め殺してやりたい」という憎悪のまなざしと、そして米国の「こんなコウモリのような国は信じるに値せん。そのうち同盟解消だな」という深~い軽蔑の目です。

それをわが国の首相のせいにして、ボルトンとアベが悪いと恨まれてもねぇ。
なにもかもムン閣下の猿芝居がバレただけじゃないですか。

気の毒な言い方をすれば、詐欺師の末路。恨むならどうぞご自分を。

 

 

2020年6月26日 (金)

台湾は尖閣問題で日本と同じ立場に立っている

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メディアが今回の石垣市の尖閣字名追加について、中国、台湾が同じように「強い抗議」をしていると報じています。

「(環球時報の)記事は、「台湾宜蘭市の民衆が激烈な抗議を行い、同県の林姿妙県長は釣魚島(日本名:尖閣諸島)に上陸して街区表示板を掲げるとの意思を示した。しかしながら、日本政府が着々と迫りくる中で、蔡英文当局の態度は一貫して冷却期間を置くというもので、台湾民衆の激しさとは明らかな対比を成している」と指摘した。掲載された動画には、中国国旗を手に抗議活動に参加する市民の様子が映っている」(レコードチャイナ6月10日)https://news.goo.ne.jp/article/recordchina/world/recordchina-RC_812597.html

これだけでは、まるで台湾をあげて石垣市の改名に怒り狂っているように見えますが、ほんとうでしょうか。
日本では台湾に特派員を置いていないメディアも多く、ともすればこういう尖閣といえばお約束で登場する国民党系の団体のデモなどを大きく取り上げてしまいがちです。
そのうえに、台湾メディアの大部分は大陸系が占めているために、きちんと台湾政府がなにを言っているのか、背景まで見ずに字ヅラで追いかけてしまっています。
台湾政府はこのように述べています。

釣魚台字名めぐる争議「発端は中国公船の行動」=台湾の対日窓口機関 (台北中央社)台湾の対日窓口機関、台湾日本関係協会は24日、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)に関する報道資料を発表し、沖縄県石垣市が同列島の字名変更に踏み切った件に言及した。同協会は、発端は中国海警局の船が同海域の航行を繰り返し、さらには日本漁船を追尾したことにあるとの認識を示し、地域の緊張を高める一方的な行為を停止し、慎重に対処して共に地域の平和と安定を維持するよう各方面に呼び掛けた
同協会は、釣魚台が中華民国の固有の領土であることは疑いの余地がなく、一方的な主張によってこの事実を変えることはできないとする姿勢を改めて強調。主権の一部である漁業権を守るため、海洋委員会海巡署(海上保安庁に相当)が台日双方の排他的経済水域(EEZ)が重なる水域に巡視船・艇を派遣し、漁船の保護に当たっているとし、台湾漁船が日本の公船に妨害・拿捕されるケースが2016年以降大幅に減少したのは、これらの対策が奏功したことの表れだとする見解を示した。
その上で、同海域における台日間の漁業問題が解決するまでは漁船を保護する任務を同署が続行するとした」(フォーカス台湾台湾6月24日)
http://japan.cna.com.tw/news/apol/202006240010.aspx

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尖閣諸島 フォーカス台湾

お分かりでしょうか、台湾は確かに領土問題においては台湾の領有だいうことを前提にしていますが、ポイントはそこにはありません。
台湾の「強い抗議」が向けられているのは、日本ではなくむしろ「中国海警局の船が同海域の航行を繰り返し、さらには日本漁船を追尾したこと 」です。
つまり、台湾は石垣市がどうして字名変更をしたのかについて、完全に日本側と認識が一致しているのです。
日台は尖閣海域の平穏でなければならないことにおいて認識が一致し、今、それを乱しているのは他ならぬ中国の海警の傍若無人な行動に原因がある、としています。

実は日本メディアはこれもスルーしていますが、市議会の投票前に中山石垣市長は直接に電話で台湾に改名理由の説明をしているのです。

「(台北中央社)釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)の領有権問題で、「尖閣」を明記した字名変更に向けて動いている沖縄県石垣市の中山義隆市長は、中国をけん制する意味があると台湾に説明した。外交部(外務省)が15日明らかにした。(略)
外交部によれば、日本側に対し深い関心をすでに表明。また、台北駐日経済文化代表処那覇分処(領事館に相当)から中山市長に2度電話したところ、同氏は中国公船の同列島周辺海域への侵入が相次いでいることに言及し、地元民から不満の声が上がっていたために同案を改めて提出したと説明した
蘇貞昌行政院長(首相)は15日、政府は同列島の主権を堅持するとし、適切な対応を取る姿勢を示した」(フォーカス台湾6月15日) 
http://japan.cna.com.tw/news/apol/202006150003.aspx

これだけでは分かりにくいのですが、詳細は福島香氏が伝えています。

「また台湾は、日本の登野城名称の変更のニュースが最初に出たとき、むしろ台日友好を強調して、石垣市議会に対して「地方の事務が台湾と日本の全面的な友好パートナーシップに影響を与えないように望む」と、比較的穏当な表現で呼び掛けている。
極めつけは大使として日本に派遣されている謝長廷・台北駐日経済文化代表が23日、フェイスブックで、尖閣が沖縄が米国から日本に返還されて以降、日本の実効支配下にあることを認めて「これは歴史の一ページである。しかしこの時政府がどのような抗議をしたのか、だれも私に教えてくれなかった」と発言したことだ」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.100 2020年6月24日)

うーん、謝代表(大使あるいは領事に相当)、踏み込みましたね。
ここで謝氏は「沖縄返還後一貫して実効支配は日本がしている」としています。
台湾は、公式には尖閣の領有権は台湾にあることが前提だが、実効支配を日本がしている以上、これを変更させることは難しいと認識しているということです。
それは今後も日台漁業協定という形で互いに摩擦を最小限にするべく努めよう、という立場を堅持するということです。

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もちろん、日台漁業協定には問題があります。地元の反対をおさえて、クロマグロの一番の漁場を台湾に譲っていますし、また尖閣を含む沖縄本島南西の排他的経済水域で台湾の漁を認めていることも、日本側に不利な協定だという指摘もあります。
台湾の漁船は大型で、グループで操業することも多く、日本の零細漁業者を圧迫していることも事実でしょう。

しかしここで大事なことは、日本と台湾との間には領有権を切り放して経済的な棲み分けを大事にしていこうという国際海洋法に基づいた共通の利害が存在することです。
このことは国際法を無視して、ひたすら海警を侵入させている中国とは大きな違いです。
ちなみに中国海警は台湾の漁船も尖閣水域で「取り締まり」をしているようで、日台双方にとっての共通の敵が誰なのか、自ずと明らかでしょう。

このような台湾政府の態度に対して、中国は日本以上に強い怒りを持っているようで、「冷淡」、「軟弱」、「媚日」という批判を浴びせています。

「こうした台湾の反応に、中国は怒り心頭だ。かりにも同じ中華民族で、領土問題に関しては、日本に共同で当たっていける、と中国側は思っていたからだ」(福島前掲)

中国は台湾を「同族」とみていますから、なおさら日本の立場に理解を示す蔡英文政権を締め殺したいくらいに憎んでいるようです。
同じくいまや誰の眼にもただの中国の手先とみられている国民党も、口調まで一緒に蔡英文政権をこう批判しています。

「国民党は、蔡英文に漁民に対して尖閣上陸を求めているが、民進党としては、これに回答をさけている。台湾民進党政権が、領土問題を傍らにおいて日本とのパートナーシップを重視する姿勢をとったことで、国民党はここぞとばかりに蔡英文政権を批判している」(福島前掲)

その上、国民党は尖閣に上陸するとまで息巻いています。デモ行進で五星紅旗をふりまわしているのはみんな国民党の息のかかった手合いばかりです。
下写真は今回のものではありませんが、今年もまた五星紅旗が登場したようです。
やれやれ、反日で国民党と中国はピタリと一致しますからね。こんなことをすればするほど国民党が中国の手先だとバレちゃうのにね。

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朝日

前回選挙でボロ負けして、中国政府の使い走りと見られている国民党ですが、領有権という国家主権に関わることで、蔡政権が日本寄りの態度を鮮明にしたことには大きな覚悟が必要だったはずです。
ではこの蔡政権のスタンスは、どのような危機感からくるのでしょうか。

おそらく蔡英文の頭にあるのは、米中が直接軍事的衝突する可能性です。
その場合、米国は中国包囲網の同盟を募ります。米国を盟主とするか、中国に従属するのか、周辺国はすべて旗幟を明らかにすることを求められるでしょう。
そしてそのきっかけは中印国境かもしれないし、香港かもしません。
あるいは南シナ海の人工島かもしれないし、尖閣をめぐる東シナ海かもしれません。
いずれにせよその場合、台湾ははっきりと自由主義陣営につくという態度を明確にしたのです。

この大きな流れの中で尖閣をめぐる日台中の綱引きを見ないとわからなくなります。

 

 

2020年6月25日 (木)

石垣市 登野城尖閣に改名の英断

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6月22日、石垣市議会が尖閣諸島の字名を「登野城」から「登野城尖閣」に変更することに決まりました。
10月1日から正式に地名変更となります。
こういうニュースを聞くと、石垣島という小さな島に尖閣という重い課題をおしつけてきてしまった、国や県に対してなんともやりきれないきがします。
いうまでもないことですが、このようなことは政府や、デニー県政がやるべきことです。

石垣市議会議決の翌日23日、沖縄戦終結の日の国や政府の発言にひとことでも「尖閣」があるかと思ったのですが、だんまりを決め込みました。
慰霊の日は、誰しもが口を開けば「平和」を唱えますが、日本でもっとも隣国からあからさまに平和を犯されているのは「尖閣」であり、それを行政区とする石垣市と近隣地域の宮古島なのです。
尖閣を見ない「平和」談義のなんと虚しいことよ。

日本政府は菅官房長官がすげなく「市町村区域内の字の名称変更は、地方自治法で市町村の長が、市町村議会の議決を得て行う事項だと承知しており、政府としてコメントすべきではない」とスルーを決め込みました。
彼に言わせれば、ただの地方自治体字名の変更などに国が口バシを突っ込むべきことではないという理屈なのでしょうか。

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NHK

一方鈍い日本側と対照的に、「たかだか地方自治体の字名変更」に激しく反応したのが中国でした。
決議された当日の22日には、早くも海警が公船4隻を尖閣諸島沖に派遣、約4時間にわたって領海侵犯を行いました。

「22日午後、沖縄県の尖閣諸島の沖合で、中国海警局の船4隻が、およそ4時間にわたって日本の領海に侵入し、第11管区海上保安本部が再び領海に入らないよう警告と監視を続けています。
海上保安本部によりますと、尖閣諸島の南小島の沖合で、中国海警局の船4隻が、22日午後3時半ごろから相次いで日本の領海に侵入しました。
4隻はおよそ4時間にわたって領海内を航行した後、午後7時半ごろまでに領海を出たということです。
4隻は、午後7時40分現在、久場島の北東およそ27キロから31キロの領海のすぐ外側にある接続水域を航行しているということで、海上保安本部が再び領海に入らないよう警告と監視を続けています。
尖閣諸島の沖合で中国海警局の船が領海に侵入したのは、今月8日以来、ことしに入って11回目です」(NHK6月22日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200622/k10012480141000.html

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なんと中国は6月22日時点で実に連続70日間ぶっ通しで、海警を尖閣諸島周辺に侵入させ続けています。
これは2009年秋の尖閣諸島の国有化以降の最長記録で、コロナがあろうと、はたまた習の国賓訪日予定されていようと、雨にも負けず風に負けず、ただひたすら侵入を繰り返してきたというわけです。

しかも2009年当時と大きく異なるのは、今や海警局は6月20日に改正されたばかりの人民武装警察法改正によって、正式に人民解放軍指揮下の準軍隊になっているということです。
つまりこれは「公船」(中国語ですが)という警察機関の侵入ではなく、軍隊の侵入と捉えることも可能だということになります。

【北京=西見由章】中国の全国人民代表大会全人代)常務委員会は20日、中国国内の治安維持などにあたる人民武装警察部隊(武警)の指揮系統を明確化した「人民武装警察法」改正案を可決した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域で活動を活発化させている武警傘下の中国海警局が、有事や合同演習の際に、人民解放軍海軍と同じ指揮系統の下で一体的に行動することが可能となる」(産経6月20日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/1f1c638b5e43c6f6afa2fbb2a4e983978f3ca298

今まで日本の海上保安庁は中国海警を同類のコーストガードとして取り扱ってきましたが、この中国の法改定によって、海警は「軍隊に準じた武装組織」として遇さねばならなくなりました。
なんせ海警は一見日本の巡視船と同じスマートな白い船を装っていますが、実は既に2018年には国務院(政府)の管理下から切り離され武警に編入され、さらに今回6月の法改正で人民解放軍指揮下に編入された立派な「軍隊」なのです。
そして平時に海警が担う任務は、「海上での権益保護や法執行」で、戦時には最高軍事機関である中央軍事委員会(主席・習近平)指揮下の人民解放軍「戦区」の下で軍事行動を行います。
尖閣に侵入した海警は、東シナ海を管轄する「東部戦区」に編入され、中国海軍と共に作戦行動をとることでしょう。

おまけにそれだけでは溜飲が下がらぬとばかりに24日には、中国自然資源部がこんな「地名変更」の発表をしています。

「中国政府は、(外交ルートを通じた)口頭および(中国海警局の艦艇編隊による尖閣諸島海域の)巡航で警告したのに続き、23日には釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺海域の海底地形50カ所に名称を付けたことを公表し、日本側の改名の動きに反撃した」と報じた。
記事は、中国自然資源部が23日、「地名の使用を一層規範化するため」として、東シナ海の海底地形50カ所に「釣魚窪地」や「釣魚海底峡谷群」などの名称を付けた一覧表を、公式サイトを通じて公表したことを取り上げた。
尖閣諸島付近の海底地形に「釣魚」と中国語で尖閣を指す言葉を使った地名を含む50の新地名を発表。尖閣諸島および周辺の海底の領有権を主張。新たに発表された海底地形名には「釣魚窪地」「釣魚海底峡谷群」「釣魚水道」などがある」((レコード・チャイナ6月24日)
https://news.so-net.ne.jp/article/detail/1998365/

レコードチャイナは「中国、日本の尖閣字名変更に倍返しで反撃」とタイトルをつけていますが、これは自分らがよくやる中華帝国風侵略の手口を石垣市に逆手にとられたことへの腹いせです。
勝手に他国の領土・領海に自分らの名をつけ、行政区に正式に「編入」してしまって、それを実効支配の法的根拠とするのが、中国が南シナ海でとってきた常套手段でした。
今回の石垣市の措置は、同じ「登野城」という字名が市内にあるので区別するために「尖閣」を入れただけなのですが(もちろん本意は違いますが)、中国からすれば、オレの専売特許をパクりしやがって、ということのようで、お怒りも激しいようです。

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「北京=羽田野主、ハノイ=大西智也】中国政府は19日までに、各国が領有権を主張する南シナ海に新たな行政区を設置すると発表した。中国民政省が海南省三沙市に行政区の「西沙区」と「南沙区」を新たに設けることを承認した。南シナ海の実効支配を強める中国にベトナムが反発しており、緊張が高まっている。南シナ海の諸島について、中国政府はこれまで海南省三沙市が管轄すると主張してきた。今後は三沙市に、南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島とその海域を管轄する「西沙区」、南沙(同スプラトリー)諸島とその海域を管轄する「南沙区」を新設する。行政組織も設ける。
西沙区政府の所在地は永興(英語名ウッディー)島、南沙区政府の所在地は永暑(英語名ファイアリクロス)礁となる。いずれも中国が軍事拠点化を進めている 」(日経2020年4月20日 上図版も同じ)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58248150Q0A420C2EAF000/

このように勝手に他人様の土地にドカドカと土足で押し入り、ロープを張って「永興」とか「永暑」などと札を立て、ここオレんちと言い出すのですから、まるで田舎のヤクザです。
そして正当な住民が裁判所に提訴して勝訴を勝ち取ろうもんなら、「そんなものは紙屑だ」とうそぶくのですから、もうやくざ以上です。
ホントにホントに一国の外務次官がそう言ったんですからスゴイね。

「中国・劉振民外務次官:「フィリピンは判決が紙くずにすぎず、執行できないと認識して、判決を棚上げして対話のテーブルに戻るよう希望する」(テレ朝2016年7月13日)

なにが「対話のテーブルに戻ることを希望」ですか、きれいごとを。
中国は国際海洋法は守る意志がない、国際仲介裁判所の判決もゴミ扱い。
そして小国フィリピンとはあくまでも二国間「対話」、つまりは札束で頬を叩く外交で処理しようや、ということです。

これもまたいかにもいかにもチャイナのやり方です。
中国が狙っているのは、尖閣を「係争地」と国際的に認識させることです。
そのために牛のヨダレのように、海警を領海侵犯させ続け、そこでやっているのが「違法な日本漁船の操業の取り締まり」という「海上での権益保護や法執行」です。
侵犯行為?とんでもない。あたしらがしているのは自国領海の通常どおりのパトロールですぜ、というわけです。
今や中国海警は、尖閣海域で日本の海保に対して堂々と「日本の海警、いつまでもそこにとどまっていれば実力で排除せざるをえない」なんて退去命令を発しているそうで、盗人猛々しいというか、なんちゅうか、唖然となりますね。
どこの世界に泥棒が警官に逮捕スッぞと脅かすんですか。

中国は日本側が尖閣を係争地だと認めていないのを充分知っていて、ならば波風、いやなんなら台風の一発も送り込んでろろうか、そうすればイヤでも係争地になるだろうという目論見です。
係争地と国際的に認識されればしめたもの。そこで日本漁船をおおっぴらに拿捕しまくり、日本政府が抗議しようもんなら一気に海警を押し退けて海軍を出す、これが南シナ海でやったことです。

そういう意図があるのを日本政府は充分に分かっていますから、菅氏がああいう言い方をしてしまうのですが、デニー氏のほうは単にボケているだけです。
しかし日本が真面目に尖閣を守る気なら、今までのような挑発には乗らないだけでは通用しない時期に差しかかっています。
そのためには、最低でも尖閣に灯台や船着場を建てるていどの漁業支援整備が必要なはずです。
それは尖閣周辺の漁業を守ることが、そのまま実効支配のなによりもの証となるからです。

それを知っている中国は執拗に日本漁船を追い回す「警備行動」しています。

「海保などによると、尖閣周辺を航行中の中国公船4隻が8日午後4時ごろから相次ぎ領海に侵入した。そのうち2隻が与那国島の漁船「瑞宝丸」=金城和司船長(48)=に接近して追尾したため、瑞宝丸は海保の指示を受け、いったん領海の外に出た。日本政府は8日に複数のルートで中国側に抗議した。 
追尾は8日だけでなく、瑞宝丸が領海内に戻ると再び中国公船が現れ、9日から2日間にわたり領海内で瑞宝丸を追尾・監視した。電光掲示板で瑞宝丸に「退去」を命じ、約30メートルの距離まで接近することもあった。中国公船は領海内に約26時間滞在。瑞宝丸は10日午後7時ごろに漁を終えて与那国島に向かったが、中国公船の追尾は11日午前0時ごろまで続いたという。
 中国公船は「退去命令」にあたり、無線やスピーカーは使わず、放水なども行わなかった。瑞宝丸の乗員3人にけがはなかった」(産経5月24日)
https://www.sankei.com/politics/news/200524/plt2005240006-n1.html

海保もその実情を判っていて漁船の出漁に随伴しています。
今後、中国は激しく反発するでしょうが、それを折り込んで毅然として対応せねば拿捕どころか遠からず尖閣に赤旗が翻り「「釣魚」と呼ぶことになることでしょう。
そして彼らは必ず尖閣の実効支配の方法として、軍事拠点を建設するはずです。それも沖縄に向けて。
これらはすべて、南シナ海で実際に彼らがやってきたことです。

このような状況においては、石垣市のような直球勝負が正しいのです。
改めて石垣市の英断に拍手します。

 

2020年6月24日 (水)

香港版国安法草案がわかってきた

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香港版国家安全法(国安法)がおもったより早く制定されるようです。

「中国全人代常務委員会が18日から20日の日程で開かれ、香港版国安法の草案がまとまった。新華社を通じてこの草案の大まかな中味が発表された。それによれば、中国は香港に国家安全公署を設置することを規定。目的は「国家安全保障情報の収集および分析、固化安全保障に関する犯罪事件の処理を法に基づいて行う」ことだ。
さらに、特定の状況下で”ごく少数の”国家安全を脅かす犯罪事件に対し管轄権を行使することは、中央政府の総合的な統治権の現れ、と定義した」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.98 2020年6月22日)

この国安法は香港の今までの法律と違って共産党政府から「押しつけられた」ものです。
香港の法律は「条例」と呼ばれているローカルロウですが、このような民主的プロセスに沿って作られてきました。
①香港政庁が原案を提出、②専門家委員会による草案を公表、③パブリックコメントの募集、④立法会に提出、⑤議会の審議、専門委員会の議論を経て修正、⑥全体審議が3回、⑦立法会議員の過半数の賛成票で可決、⑧行政長官が署名、という手続きを経て成立します。

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これらの一見煩雑とも見える長い民主的プロセスがあって初めて司法の独立が尊重されるからこそ、香港は中国と一線を画した「法治に貫かれた民主社会」として認められてきたわけです。
だから外国資本は香港に安心して投資できました。
しかし、今回の香港版国安法は、これらを全部ふっ飛ばして、共産党政府が、いつまでもお前らでは決められねぇからオレらが作ってやるんだ、ありがたく頂戴しねぇか、とばかりに全人代常務委員権限で香港国安法をつくってしまいました。

これはいまさら言うまでもなく、中英が取り決めた国際条約違反で、その核心部分の一国二制度を形骸化し、香港民主化運動を叩き潰そうとするものです。今回この草案は全6章からなっています。
これは中国の国安法と一緒で、第1章総則、第2章香港特別行政区国家安全保障の職責と機構、第3章罰則行為と処罰、第4章管轄案件、第5章適用とプロセス、第6章中央人民政府駐香港国家安全機構、という構成です。

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このうち焦点となるのは第3章罰則行為と処罰の部分で、これに違反すると刑事罰を課すことができます。

●香港国安法の取締対象とする国家安全事案
①国家分裂罪
②国家転覆罪
③テロ活動罪
④外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす犯罪

同時に法律だけではなく、それを執行する治安関係が強化されています。
その取り締まり機関として「国家安全公署」を新設しました。

「中央政府は香港に国家安全公署を設置。その職責は「香港特別行政区の国家安全保障情勢についての分析研究、判断を行い、国家安全の重大戦略と重大政策に対する意見、提案を行う」
「監督、指導、協調によって、香港特別行政区が国家安全保障の職責履行を支持する」「法に基づいて国家安全犯罪案件を処理する」という」(福島前掲)

行政長官をトップとする国家安全保障委員会が作られ、香港警務署内にも国家安全保障部門が新たに新設されました。
香港律政庁(司法機関トップ)にも国家安全犯罪事件を専門とする公安部門を新設されました。
これらの公安関係の著しい強化によって、行政-警察-検察が連携して前述した第3章事案(国家安全犯罪)を取り締まることになります。

ただし、行政長官や司法トップなどはしょせん共産党政府からみればただの飾り物でしかなく、実権はありません。
注目すべきクセモノは「国家安全公署」です。

「この国家安全公署は、その名前から考えても国家安全部の出先機関、つまり中央直属のインテリジェンス機関に近いものを香港に作る、ということだと私はみている」(福島前掲)

この国家安全公署は秘密の司令塔として、香港人ではなく共産党直々に命じられた治安関係者が就くはずです。
そして香港警察を手足にして香港の治安情勢の情報を収拾し、摘発対象を定め、それを引っくくるように香港政庁に命じると考えられます。
事実上、香港側には拒否権はありません。

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ニューズウィーク

また外形的には、国際社会を意識してか、集会・デモなどの自由はあるとしていますが、付則には「香港特別行政区と中国本土の法律で一致しないものは、その法活用について、全人代常務委員会に解釈権が委ねられる」とあります。
つまり、なんのことはない結局は中国国内の法が、そのまま香港の法律に優先するわけです。

たしか中華人民共和国憲法にも、言論・集会・結社の自由があるなんて書いてありましたっけね(ウソこけ)。
つまりは書いてあってもただの空文。守るきも、守る保証もないただのお飾りです。
しかも国家安全事案を裁くのは、行政長官が指名する者です。
ここには大陸の息がかかった者しか選ばれませんから、判決は出す前から決まっているようなものです。
ちなみにこの香港版国安法では、大陸と同じ死刑が復活しました。
大陸への移送も、移送法が撤回されたにかかわらず、この間多くのデモ逮捕者が消えたという情報もありますから、違反者は密かに大陸に運ばれて死刑となるか収容所送りとなるわけです。

「香港浸会大学伝理学院の高級講師の呂秉権は「この香港国安法は、香港現地の法律と国安法が一致しない場合、国安法を適用し、国安法の解釈権は全人代常務委員会に属するとしており、これは香港法治にとって比較的大きな衝撃だ」という。「香港のもともとあった法律メカニズムが失効し、人権などの方面が保障されなくなる」とBBCに語っている」(福島前掲)

さてこの時期に国安法が押しつけられたのには理由があります。
それは来る9月6日に立法会選挙があるからで、共産党政府はなんとしてでも前回の選挙の大敗北の屈辱を避けたかったのでしょう。
そのためにこの国安法草案にはこのような一節が入っています。

「香港特別行政区のいかなる機構、組織、個人とも本法および香港特別行政区の国家安全保障関連のその他の法律を遵守するべし。
いかなるものも国家安全に危害を与える活動に従事してはならない。香港の住民は選挙に出馬する、あるいは公職に就くとき、法に基づいて、中華人民共和国香港特別行政区基本法を守ることを宣誓し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うことを署名し、確認しなくてはならない」(福島前掲)

なんともエグイ。
共産党政府は立法会の立候補資格が欲しければ、この国安法の踏み絵を踏んでみせろと言っているのです。
民主派に国安法の踏み絵を踏ませ、事実上立候補ができないように企んでいます。

「呂秉権はこの条文が「来る立法会選挙(9月6日)で、(民主派候補の)出馬資格を取り消したり、公職者(民主派議員)をクビにしたりする根拠になりうる。もし候補者が国安法に反対したら、出馬資格が取り消されるだろう」と懸念をしめした」(福島前掲)

とりあえず踏んだふりをして当選してみても、その後に立法会で国安法に反対すればクビということです。

これで完全に香港の民主主義は息の根を止められることでしょう。

 

※ブログのデザインを梅雨らしくしました。いかがでしょうか。

 

 

2020年6月23日 (火)

勇ましい敵地攻撃論は空論にすぎない

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イージス・アショア計画は、一時「停止」して修正案を出すのではなく、完全な撤回と決まったようです。
ふー、なんなんですかね。
このイージスアショア・システムは、既に日本のミサイルディフェンス(MD)計画の一部として動き始めていたのですよ。
撤回した理由は実にナンセンスでした。
だって、理由に事欠いてブースターが演習場敷地内に落ちるの落ちないのって、あーた原爆が頭に落ちて来る時に、空ッポのブースターのほうが心配で、全部止めるってんですから、力なく笑うしかありません。

もう少しその辺から説明します。
結論からいいますが、その時には周辺市街地は無人なのですよ。
頭の中でシミュレーションしてみて下さい。イージス・アショアからSM-3ブロック2Aが発射されるのはいつでしょうか。
それは日本に対して弾道ミサイルが飛来すると予測された時点ですね。
突然いきなり飛来するということは考えられません。それは日本に対して武力攻撃が行われるという事態が発生したときです。
軍事攻撃、特に核攻撃はこういった段階を踏んで始まるとされています。

●国民保護法が準備される段階。
①国際情勢の緊迫化。
②警戒している対象国が軍事行動の準備に入ったと確認。
③日本に対しての攻撃が予想。

これらの条件が認められれば、日本政府は国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)などに基づいて、攻撃を受けるおそれがある都道府県の知事に対して住民の避難措置を命じます。

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内閣官房 国民保護ポータルサイト 武力攻撃事態などにおける国民保護の仕組み

さて、この国民保護法は国民全体にかけたいところですが、極度の混乱を招きますし、そもそも一般人向け防空施設がないわが国ではむりです。
したがって限定的なものになりますが、その中に攻撃が予想される防衛施設周辺は当然入るでしょう。
ね、もうお分かりでしょう。このイージスアショアが使われる時は、予定地の周辺市街地は無人なのですよ。
つまり、仮に約70㎏のMk72ブースターが敷地外に落ちても、落ちる場所は無人で誰もいないのです。
こういうことを反対の理由に上げる方も方ですが、それを「いや使われる時には市街地は人はいませんから、だいいち原爆が落ちてくるのとどちらがいいんですか」と説明できない防衛官僚もバカです。防衛官僚は御用聞きなんでしょうか。

こんなくだらない理由でMD計画を潰してしまえば、副作用があらわれます。
ひとつめは、日本に核ミサイルの照準を合わせている3カ国(中朝露)は、ほー我々がイヤな防衛施設を潰すにはやっぱり住民運動がいちばん効きますか、いいこと聞いたと膝を打つでしょう。
で、今後、こんな専守防衛の施設であっても、住民運動が突き上げる首長が最大の障壁となります
これは既に沖縄で、飽きるほど見てきた風景ですが、本土も同じことになるというわけです。やれやれ。

ふたつめは、あらたな仕切り直しが不可能になりかねないことです。
いったん計画を持ち帰って新たに候補地選びから始めるのではなく、完全撤回な以上、ブースターが落下するすべての迎撃ミサイルもまたアウトです。
THAADもダメですし、欧州のMBDA社が開発したSAMP/T地対空ミサイルシステムもSM3より大きなブースターが落下します。
というか、現行のMDミサイル数あれど、ブースターを落下させないものはこの世にありません。
したがって下のようなことを撤回理由にした場合、代替案はきわめて限られることになります。

「しかしながら、その後、引き続き米側との協議を行い、検討を進めてきた結果、本年5月下旬、SM-3の飛翔経路をコントロールし、演習場内又は海上に確実に落下させるためには、ソフトウェアのみならず、ハードウェアを含め、システム全体の大幅な改修が必要となり、相当のコストと期間を要することが判明した。出典:イージス・アショアの配備について:防衛省(令和2年6月15日)」

ところで撤回に賛成する人が多いので驚きました。
左翼の皆さんが喜ぶのはわかるとしても、そうでもない人まで歓迎しています。
その理由はどうやら、このまま敷地内にブースターを落とすためにミサイル本体の改修までし始めたら、いつになったら配備できるのか、またカネかどれだけ食うのかわからんし、そもそもイージスアショアなんて金喰い虫のおかげで、他の装備まで圧迫されているんだから、止めてもらってけっこうというものです。

この考えは、現役時代ミサイル屋だったはずの田母神閣下までが口にしているようで、彼は敵地攻撃能力を増強することで抑止になると仰せです。
右サイドの人たちは「敵地攻撃」と聞いただけで、いきなり軍事強国に躍進したような気分になるようで困ったものです。
また、いやレーザー砲のほうが一発ナン百円だから、こちらのほうがいいなんて、できてもいない未来兵器に胸躍らせる人も出ました。
こちらのほうはただの空論で、できてもいないものをナニ言ってんだか。

問題は前者の敵地攻撃能力の獲得のほうです。これは前々から存在し、いちおう可能という建前になっています。
ですから首相が口にしたこともあって、自民党でも具体化の議論し始めたようです。
それにしてもいったいどうやってやるつもりなんでしょうか。

方法としてはひとつめは、巡航ミサイルです。これは時速800キロと低速ですから、本土から発射しても届く頃には、相手の弾道ミサイルは10分で着弾してしまいますから、ギリギリまで朝鮮半島沿岸に寄せて潜水艦から発射せねばなりません。
これでは、相手がミサイル発射台に弾道ミサイルを乗せたのを確認してからでは遅すぎます。

そもそもトマホークは保有していませんし、それを発射する潜水艦もありません。したがって空論です。

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ノドン(朝鮮名「火星6号」)中距離弾道ミサイル

そもそも論で言えば、今の北朝鮮の日本に向けた中距離弾道ミサイルは、固体燃料を使用していますから、発射台上でトロトロと燃料注入なんてやりゃしません。
山中の移動式発射装置の上で倒立させて直ちに即発射可能ですから、どうやって破壊すべき発射基地の場所を見つけるのでしょうか。

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火星15

そりゃあ発射すれば、米国のミサイル監視衛星がキャッチして通報してくれるでしょうが、その時には残り時間わずか数分で日本上空に到達しています。
しかし現実には、険しい山林の山腹に隠匿してあって、使う時だけ引き出して使用するのですから、まず事前に見つかる可能性は限りなくゼロです。

そしてこんなに数があるんですぜ。日本に向いているだけで約200基。
そのうち核弾頭をつけているのは推測するしかありませんが50発はくだらないでしょう。
ということは50箇所の発射拠点を探さねばならないのです。

Photo_3 (出典 Military and Security Developments Involving the Democratic People’s Republic of Korea 2012 - U.S. Depertment of Defense
邦訳 http://obiekt.seesaa.net/article/358829852.html

これらひとつひとつが山中で孤立して発射拠点をもっていると考えられますから、充分なペイロードを持つノドンだけで50箇所を索敵せねばなりません。
どうしてもやりたいなら、これらの発射基地を見つけ出すために、陸自の虎の子・特殊作戦群を事前に潜入させておくことが必要です。
1箇所に1個分隊10人として500人。
予備・潜入・帰還支援まで加えると、陸自の特殊作戦能力1000人の大部分を投入せねばなりません。
そんな使い方をすると、北が同時期に日本国内でゲリコマをしかけてきた場合、陸自に対処能力がなくなってしまいます。
しかも北朝鮮という収容所国家が相手ですから、彼らが生還することはきわめて困難です。
私が指揮官ならこんな片道キップのような作戦には部下を出しません。

百歩譲って発射基地が判明したとしても、空自には北朝鮮に対するサージカルストライク(精密爆撃)能力がありません。
勇ましい議員諸公には、何編隊かで飛んでいけばいいんだろう、燃料は空中給油機を準備すればいいんだし、ていどで考えておられる人もいそうですが、とんでもありません。
現実に敵地攻撃をするには、まず強力な電波攻撃をかけてレーダー基地を目つぶしする電子戦機がいり、容赦なく打ち上げて来る対空ミサイル陣地を破壊するワイルド・ウィーゼル部隊がいり、攻撃部隊の上空をカバーする制空部隊がいり、さらにそれらを統括するAWACS(早期警戒管制機)と空中給油機が必要です。
通常このストライクパッケージは約60機ほどで編成されます。複数あった場合、数百機のパッケージが必要で、今の空自の能力を全部を傾けねばなりませんから非現実的です。

あとの可能性としては、F35にワイルドウィーゼルをさせて、F15MISIPに射程900㎞の長距離巡航ミサイルJASSM-ERを乗せて攻撃するというのも理屈では可能ですが、結局移動発射機の場所がわからなければ手も足もでません。
というわけで、最大のネックは山中に隠匿されている北朝鮮の発射基地の所在がわからないという所に行き着くのです。
ハッキリ言って、このように勇ましい敵地攻撃論は空論にすぎません。

また日本が北朝鮮と交戦関係に入ってしまうと、日米同盟の関係上、米国も巻き込まれてしまいます。
左翼が半世紀言ってきた「巻き込まれ論」の逆バージョンが実現してしまうわけです。
このようなことを米国が手放しで歓迎するはずがありません。
米国は、常に戦争するかしないかは自分の判断で決定したい国だからです。
ですから米国は日本が敵地攻撃能力をもつことを、日米同盟からの離脱と解釈するかもしれません。

このように考えると、北朝鮮が撃ってくるのを落すに徹する現行のミサイルディフェンスが一番合理的なのです。
現実性がある解決法はまだ残されています。
それは唯一イージスアショア計画の焼き直しか存在しません。
発射基地と発射司令部をわけて、遠隔発射する方法には現実性があります。
たとえば、どこかの無人島、ないしは海沿いの過疎地、なんだったらメガフロートの上に発射装置を置き、そこになんらかの手段で発射命令を送ることができるシステムがあればなんとかなります。

とまれ、緊急に代替案を策定せねば、緊迫する朝鮮情勢に追い越されてしまいます。
そのためには、勇ましいだけの大風呂敷はかえって有害なのです。

 

2020年6月22日 (月)

米FOX、米国のサイレントマジョリティは沈黙しているが、11月を見ていろ

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CNNなど見ていると、トランプは全身火ダルマで再選など夢のまた夢のようにしか見えません。
実際に、米国のメディアはFOXのメディア調査担当ノーヤーズによれば、3月4日から5月末までのABC、CBS、NBCの夜のニュースのうち、実に94%がトランプに否定的だったそうです。
また寄せられた474件のコメントのうち445件が否定的なものをとりあげていたそうです。
どうやら今の日本のメディアのアベ憎し報道とそっくり同じようなものが米国メディアを覆っているようです。

それにしても、太平洋をまたいだ二国のリベラルたちの、なんと非寛容なことよ。
口では自由を叫び、差別を糾弾し、多様性を訴えながら、異見にはいっさい耳を貸うとせず、ろくな議論もせずに圧殺しようとします。
しかも今や米国リベラルたちは、言論のみならず暴力と流血を厭わないアンティファやシアトル「自治区」という鬼っ子まで生み出してしまいした。
彼らモッブたちは、現在の異論だけを取り締まるのではあきたらず、過去にまで遡って文化大革命をしようとしています。

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https://blackasia.net/?p=13873

本来このような暴力と略奪は治安要件のはずなのですが、それを阻んでいるのが、民主党系首長とその議会、リベラルメディアです。
この人たちはトランプが「平和なデモに軍で鎮圧する」と言っていると歪曲して報じていますが、そのようなことを言ってはいません。
トランプは平和的デモとアンティファの放火・略奪をわけて発言しており、州兵を出すことを拒む州には連邦軍を出さざるを得ないと言っているにすぎません。
このどこが問題なのでしょうか。

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アンティファはこのような集団です。

「なぜこの「アンティファ」という集団がテロ組織に指定されるのか。
それは、トランプ大統領が言うように、彼らは自分の主張を通すためには暴力を振るうこともまったく躊躇せず、それこそ「無抵抗な人々の頭部を野球のバットで殴る」ような凶暴な行動をする集団だからである。
トランプ大統領支持の集会があると、場がかなり荒れる。なぜか。アンティファがやってきてトランプ支持派を襲撃するからである。
彼らは身元を特定されないために、黒い服を着てヘルメットやゴーグルやサングラスで顔を隠し、保守派を罵倒し、殴りつけて、場をめちゃくちゃにして去っていく。飲み物を相手にぶっかけたり、拳で女性を殴りつけたり、野球のバットで相手の頭部を打ったりすることも厭わない。
「多様性を守れ!」「差別反対!」と叫びながら自分の主張とは相反する保守派を襲撃し、暴力で叩きのめしていく。言って見れば暴力団やギャングと同じだ。暴力団やギャングなのだが、標的が保守派なのである。
それがアンティファのやっていることだ。
アンティファはリベラルに属しており、リベラルの人間たちとアンティファのつながりは深い。リベラルの中でも急進派の考え方をする人間たちがアンティファに合流している。そのため、実態はリベラルと言っても過言ではない」
(鈴木傾城『「アンティファ」リベラルから派生した過激暴力集団がテロリスト扱いに』 6月1日)
https://blackasia.net/?p=13873

アンティファを歴史的に類例を探すとすれば、第1次大戦後のドイツ・ワイマール時代にドイツ共産党が作った暴力部隊の共産党赤色戦線戦士同盟、あるいはその対戦相手のナチス突撃隊のようです。
このような相互依存関係は現代日本の社民党としばき隊にも見られます。
違う考え方には「ヘイト」とレッテルを貼りつければ、後は街頭でしばき隊のようなハネ上がりが殴ってくれます。

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この既成リベラルとメディアは、トランプ憎しのあまりモッブたちの行為まで肯定しているありさまです。
というか、思想的にはまったくまったく同じで、暴力を肯定するかしないかだけの差しかないのですから、当然ではあります。
かくして今やモッブを守る守護神に成り下がったのが、米国リベラルメディアだ、とFOXは言っています。
FOXを読むと、CNNやニューヨークタイムスが伝えるだけが、米国民の声のすべてではないとわかってホっとします。
おそらく過半数の米国人がFOXと似た意識を持って、強い嫌悪感をもってアンティファやシアトル「自治区」を眺めているようですが、彼らの口は開かず、沈黙に徹しています。
いったん口を開いてほんとうに思うことを言えば、この記事にあるように、レイシストとして糾弾されて暴行を受けたり、時には職さえ奪われるからです。
トランプが東部紳士が眉をしかめる言い方をするのは、彼が「普通のアメリカ人」の言えない本音を代弁しているからです。

「アンティファはトランプ支持者をパイプで殴りつけたり、ツバを吐いたり、トランプ支持の人々に卵を投げつけたり、水をかけたりするようなことを日常的に行っている。
そして、リベラルなマスコミがそれを擁護するのである。保守派はすべて「ナチス」呼ばわりされており、「ナチスには何をやってもいい。もっと殴れ」とアンティファは叫ぶ。
アメリカのマスコミはトランプ大統領をナチスになぞらえるのが好きで、トランプ大統領はヒトラーの再来で、トランプ支持者はナチスの親衛隊に似ているとか、そんな話をよく引き合いに出して、トランプ大統領の支持が危険であることをしばしば訴えている。
こうした状況から見ても分かる通り、今後も保守派はアンティファの暴力の標的になり続けるだろう」(前掲)

日本ではほとんど紹介されることのないこのFOXは、有名な20世紀FOXが作った会社ですから、影響力は巨大です。
「ウォーキングデッド」をつくった会社といえばおもいだす方もいるでしょう。
ただしその影響力のわりに露出度は低いメディアで、いわば平均的米国人を象徴するようなところですが、国外でその論調が紹介されることは稀です。
今日はバランスをとる意味でご紹介しておきます。
やや長いですが、全文を訳出しておきます。読みやすくするために、随時意味をそこねない限りで編集し意訳しておりますのでご了承下さい。
原文は下からどうぞ。

                                             ~~~

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"Liz Peek: Left silences silent majority – but watch for this in November"
『リズ・ピーク『サイレントマジョリティーは沈黙しているが、11月を見ていろ』)
https://www.foxnews.com/opinion/left-silences-silent-majority-watch-november-liz-peek

仮訳
静かなる多数派はいっそう静かになっている。
何千万人ものアメリカ人が私たちの国で起こっていることに驚いてい る。
怒れる暴徒たちやアナキストらによってシアトルの全区間が「占拠」され、公園の記念碑や彫像は破棄された。

しかし、ミネアポリス市議会が警察署を排除するといった好意的な態度を示しているため、法執行は拒否された。
そして彼らの「ほとんど平和な抗議行動」の最中に700人もの警官が負傷した。

ほとんどのアメリカ人はこれらの犯罪に恐怖を感じ恐れている。
しかし多くのアメリカ人は、左翼の暴力に反対し、異議を唱えると危険だと知っている。
私たちの国では、いったん彼ら暴徒から「人種差別主義」であると告発されれば、あなたを恥ずべき存在だとして解雇を要求するだろう。

バイデン、ペロシ、およびシューマー(※民主党大統領候補者と幹部たち)はこの悪夢に立ち向かうどころか、誰ひとりあなたを守らない。
だから、黙っている方が安全なのだ。
1969年、リチャード・ソンは「サイレントマジョリティ」に、アメリカのベトナムへの関与に抗議する反戦活動家に抗議するよう呼びかけた。
トランプ大統領は最近これらの言葉をツイートし、国民の大部分が自分たちの街の混乱に反対していることを正しく示唆した。
ところが、CNNのハリー・エンテンは、サイレントマジョリティについての大統領の言及を否定し、当時ニクソンが地滑り的に勝利したのは幅広い支持が反映したにすぎないとしている。

Maxresdefult

https://www.youtube.com/watch?v=vkYIFkhaXRM

あるいはニューヨーク・タイムズのおかしな経営者は、暴力的な暴動を鎮圧するために必要に応じて州兵の使用を求めるトム・コットン上院議員を支持した編集者を解雇した。
しかし、アメリカ人の大多数はコットン議員に同意している。
国民の大多数は、左翼が唱える警察予算の打ち切りに((ABCニュース/イプソス世論調査によると64%) が反対している。
最近の調査への回答者の約82%は、平和的な抗議行動が警察による非武装の黒人男性の殺害に対する「適切な対応」であることに同意した。
しかし、デモ参加者が「平和的」である必要がないと最近主張した元CNNアンカーのクリス・クオモ(現ニューヨーク州知事)とは異なり、暴力的な抗議が適切な対応であると認めた者は22%にすぎない。
 「強く同意しなかった」58%を含めると、「同意しなかった」のは72%だった。

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https://note.com/newsus/n/na45f2c898e72

アメリカ人の大多数は公の場所で南軍の旗を飛ばすことを認めていないが、同時に、現在全国で起こっている南軍の指導者たちの像や記念碑が取り壊されたり取り除かれたりすることを望んではいない。
なぜ人々は声を出さないのだろうか?
それは安全ではないからだ。

 

2020年6月21日 (日)

日曜写真館 空中のフィギュアスケート

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空中をスケートリンクとしたフィギュアスケートといわれます。

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透明なキャノピーの中で、風景が猛烈に天地逆転し、強烈なGに押し付けられます。

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最高速度440km/h、旋回時における遠心力は「プラス・マイナス10G」以内。体重の10倍です。

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高いGが継続して身体に掛かり続けるという感覚は、「自分の体の上に巨漢力士がのし掛かる」ようだといいます。

2020年6月20日 (土)

米国第二波到来と「自治区」騒ぎ

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米国が第2波の感染拡大を迎えています。

「アメリカ 経済活動を早期再開した州中心にコロナ感染者急増
アメリカでは、経済活動を早い時期から再開した南部や西部の州を中心に新型コロナウイルスの感染者が急増していて、一部では人工呼吸器が足りなくなるおそれが指摘されるなど、再び感染拡大が深刻化する懸念が強まっています。
このうち、南部テキサス州では17日に報告された新たな感染者数が3129人と、1日当たりとしてはこれまでで最も多くなっています。
また、西部アリゾナ州ではおよそ1800人と、先月の同じ時期と比べおよそ4倍の水準にまで増え、これにともなって、医療機関の集中治療室の利用率が83%にまで上昇し、人工呼吸器などが不足するおそれが出ています。
さらに南部アラバマ州では、地元のメディアが一部の地域で集中治療室の利用率が96%に達したと報じています。
アメリカでは、先月以降、すべての州で経済活動が再開されていますが、人の移動が活発になったことが感染者が急増している理由の一つとされています」(NHK6月19日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200619/k10012476181000.html

米国は既に症例数は約225万5000件、 死者12万で、世界最大の感染拡大の発信源となっています。
この数字は米国が経験した戦後最大の米国人の死亡事件で、ベトナム戦争や朝鮮戦争をはるかに凌いでいます。
つい先日、経済上の理由で都市封鎖などの対抗措置を緩和したとたんテキサス、フロリダ、アリゾナ各州をはじめとする20州以上で新規症例数が記録的水準で増加しました。
特に激烈なのはテキサス州で、6月17日に過去最高の3129人、アリゾナ州でも先月の4倍の1800人の新規感染者数が報告されています。
ICU利用率をみると、アリゾナ州で83%、アラバマ州でも96%というまったく余裕がない状況のようです。

規制緩和で州境を開放したためか、いままでの感染拡大の中心だった北東部から中西部、南部、西部へと移動しているようです。
下図(COVIDトラッキングプロジェクト)を見ると、ニューヨークなどを中心とする北東部が3月に感染爆発をした時には、他の地域はさほどのことはありませんでしたが、ここが4月にピークアウトしたとたん中西部が徐々に増加し5月にピークを迎えています。
そしてまるでリレーのバトンを手渡されたように、南部と西部が1カ月ズレで6月にピークを迎えようとしています。
北東部、中西部はほぼ終わったようですが、南部、西部はまだピークアウトしていません。

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上図の感染の山を見るとわかるように、感染がピークに達すると、ほぼ1カ月間でピークアウトしますから、まだ感染拡大が続いているとはいっても南部、西部も6月下旬から7月初旬にかけてピークアウトし、その後は急激に終息に向かうと思われます。

ただし、ここで注意せねばならないのは、今は重症患者の快方期のようなもので、慎重な取り扱いが必要です。
日本のように段階を経てゆっくりと業種別に規制緩和を積み重ねていき、危険な兆候が見られれば直ちにアラートを発して規制を再び強化していきます。
これがハンマー&ダンスと呼ばれる防疫の手法です。
日本はよく外国から異端だといわれますが、なんのまさに王道を通って終息に向かいつつあるのです。

ところで米国ではまた第2波どころか第1波すら終わったかどうかわからないこの時期に、呆れた事態が引き起こされています。
なんとシアトルで「独立」騒ぎが起きました。すいません、私、耳を疑いました。
大規模デモもこんな三密時期に非常識だと思いましたし、アンティファの火付け強盗に至っては呆れ果てましたが、こともあろうにとうとう「独立」ですぜ(苦笑)。

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シアトルのデモ隊が一街区を占拠して打ち建てた「自治区」のエントランス(6月13日) Goran Tomasevic-REUTERS

「黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に暴行された事件をきっかけに広がった抗議デモの一部は11日、ワシントン州シアトル市の一角に「キャピトル・ヒル自治区」を発足させたと宣言した。
これはシアトル市のイースト・パイン・ストリートを中心とする一帯で、周辺からこの区画に入る地点には、「これよりキャピトル・ヒル自治区」といった立て看板などが置かれている 。
現地を取材した米NBCニュースによると、「ノー・コップ・コープ(無警察組合)」と名づけられた配給所で食料が無償で配られ、警察の施設には「シアトル人民の資産」という横断幕が掲げられている。その他、コロナ対策としてマスクなどが配布され、診察所なども設けられているという」(ニューズウィーク6月15日)
https://www.newsweekjapan.jp/mutsuji/2020/06/post-92.php

これを主導している連中は、ひとことでいえば極左無政府主義者らが集まった烏合の衆です。
これ自体は、私のような70年代ブラックパワー運動を知っている人間から見れば、珍しくもなんともありません。
こんなものは日常的風景で、そこかしこの黒人コミュニティは銃を持ったブラックパンサー党が支配していたものです。(また復活したとか?)
この米国社会の深層に眠っていた過激思想がフロイド事件を奇貨として復活を狙っているだけのことで、あの時代をもう一回繰り返すなら、結果も自ずと同じとなります。

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70年代のブラックパンサー党

もっとも彼らは「独立」したわけではなく、国の一部をなすの「自治区」だと言っているようです。
これも特に新しい考え方ではありません。
歴史的にはフランス帝政末期の1871年のパリ・コミューンの頃から存在するコミューン思想です。
コミューンは直訳すれば共同体ていどの意味ですが、国が自分たちの手にないときに、人民は自らの力でその支配をはねのけて自分たちで物事を決める力を持つとする考え方です。
この延長にコミューン主義、つまりコミュニズムが誕生しました。

この過去の亡霊が蘇るには二つの条件が必要です。
ひとつは、自分たちの意志を表現する場が閉ざされている非民主的な政治環境。
ふたつめは、国民の生命を危機にさらす大義なき対外戦争。

この二つの条件がなければ、仮にいったんは蘇ったとしても短命に終わることでしょう。
結論を言えば、現在このようなコミューン思想が蘇るチャンスは皆無です。
なぜなら米国は、かつてのフランス帝政と違って、自分たちの意志を選挙を通じて実現することが可能だからです。
なんせ大統領なんか、実に2年間にも及ぶ長期の選挙戦を戦った後に選ばれるのです。

トランプがイヤなら、間近の大統領選で別な者を選べばよいだけのことです。
選択は自由です。大統領選には社会主義者からリベラリスト、そしてトランプまで多彩な候補が並びます
この選択の幅があること、そしてそれを自由に誰にも強制されずに投票できること、これが民主主義の基本なのです。

この「自治区」の連中も、国民の一人である以上同じ土俵に乗っているはずです。
ブラックマターでも、警察解体でも好きに主張するばよい。
ただし国民に自らの主張を説得してからにしてください。

ところがこの暴力で作られた「自治区」は、自分と意見が異なる人への説得をあらかじめ放棄しています。
民主主義とは、うんざりするほどの手間暇をかけて他人と意見をすり合わせるプロセスのことです。
それがいかに不毛に見えようと、このプロセスが欠落した民主主義はありえません。
自分好みの「自治区」を都市の一角に勝手に非合法手段で作って警察と行政といった公権力を追い出す、そのような彼らの方法自体が民主主義とは根本的に相いれません。
つまり彼らが今していることは民主主義とは無関係な「革命」なのです。

ところで、ふたつめの復活の条件が戦争ですが、かつてのパリコミューンも、プロシアがパリ城外に攻めてきているという事態を背景にしていました。
また、かつて70年代のヒッピー文化全盛期のコミューン思想もベトナム戦争という背景がわからないと理解できません。
しかも当時は徴兵制であって、若者がその腐敗しきった戦争にいつ駆り出されるかわからない恐怖が支配していました。

仮に今「戦争」があるとしたら、コロナとの戦争ですが、トランプが引き起こしたわけではありません。
むしろ中国がその原因を作り、世界に拡散 させました。
その中国は、ウィグルや香港で暴虐の限りを尽くし、国境の南北両端で、他国の領土を侵略しています。
もし「戦争」と戦いたいならば、どうぞ中国という全体主義国家と思う存分戦って下さい。

コロナとの「戦争」ならば、いっそうの国民の団結が必要なはずで、それを阻害する「自治区」など論外なはずです。
にもかかわらず、このようなことが頻繁に起きるのは、市長が暴動や「独立」騒ぎに行政官として的確に対応できないばかりか、むしろこれを政治的に助長しているからです。
その意味で今回のコロナ禍は、気がつけば米国リベラルの病巣も同時に暴いてしまったようです。
ブラックマター通と改名したワシントンDC市長、州兵投入を拒否したニューヨーク州知事、警察解体を主張しているミネアポリス市長、そしてこのシアトル市長は黒人女性警察所長の反対をおしきって警察署をこの「自治区」から撤収させてしまいました。
まさに彼らが言うように「ノーコップ」、無法地帯です。
黒人差別の解決が無警察・無行政ですって。黒人差別とはまったく無関係です。
罪が重いのは、それをやった者らより、それを肯定した首長に、です。
彼らは市民の安全を守るという職務を放擲したばかりか、暴徒を助けてさえています。

これらの首長は全員民主党系です。
なんのことはない、彼らは自分たちが「自治区」と地下茎でつながっていますと白状したようなものです。
まぁ考えてみれば、彼らアメリカのリベラルが黒人差別をなくすと言ってとってきたポリティカルコレクトやアファーマティブ・アクションが生み出した鬼っ子が、今のアンティファや「自治区」ですから、当然といえば当然かもしれません。

トランプはこの「自治区」がミニ「革命」である以上、断固とした態度で対応することでしょう。
民主党系の州知事・市長の頭越しに反乱法を適用し、州兵と連邦軍を投入すると思われます。
それも長引けば長引くほどやっかいになりますから、そう遠くない時期に決断するはずです。

 

2020年6月19日 (金)

種苗法改正の目的は、新品種の違法な海外流出の阻止です

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種苗法改正が流れました。
まともな議論もないままファシスト・アベガーの「空気」とコロナで葬られてしまったようなものですが、とりあえず継続審議なので、次回国会ではもう少しまともな議論をしてほしいものです。
それにしても柴崎コウさんの「気分は自然派」といったようなツイートのひとこでふっ飛ぶんですから、いかに国民にとって農業なんて浮世離れした分野かわかろうというものです。

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私は一般論としては芸能人が政治向きをしゃべるのは好きではありません。
別に国民としてしゃべるぶんにはどうぞご自由になんですが、ならば自分が提起した問題に最後までつきあうのかといえば、しない。
言ったきりで、マスコミに有名人のなんとかさんはこんなご立派なことをおっしゃられていましたぁ、ていどのことで世論形成が出来ると思う軽さがイヤです。
有名人というアドバンテージでしゃべっているのですから、芸能人も言論に関わるなら責任を負え、というだけのことです。

それはさておき、柴崎さんのご心配とは裏腹に、有機農業をやらせないための法律じゃないし、農水はこの分野に対して冷淡だったとしても敵対するほど悪趣味ではありません。
JA系、特に果樹系は諸手をあげて賛成ですし、農業界で反対しているのは共産党の息がかかったようなところばかりです。
あとは農業とは無関係な人たちばかり。
いつもエキセントリックに叫ぶ三橋貴明御大や、思いこんだら命懸けの頑固親父・山田正彦氏くらいなもんです。
窮地におちいると柴崎さんが心配する、かんじんの「日本の農家さん」はまったく反対していないというのが、何よりもの答えだと思いますが。

では、なにがこの種苗法改正の目的なのでしょうか。

ひとことでいえば、育種者が作り出した野菜や果物、花の新品種の知的財産権を保護するための法律だから、農業界は好意的なのです。
日本は農業の知的財産権の重要性にようやく目覚め始めていて、従来のままでは「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPOV条約)に対応して、日本の知的所有権を守りきれないからです。

さて、新品種を作った育成者の権利のことを「育成者権」と呼びますが、これは一般の特許法で付与される特許権などと同様な知的財産権であり、権利の形態も特許権などを想像してもらえばいいと思います。
ちなみに「育成者権」が成立する条件は以下です。めんどうだったら読み飛ばして下さい。

●育成者権が認められる要件
種苗法3条,4条,11条
①区別性
優先権。品種登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた他の品種と特性の全部又は一部によって明確に区別されること。つまり、出願時点で新しい品種しか登録できません。ただし、UPOV条約の締約国で外国出願し、その翌日から1年以内に日本に出願した場合には、この外国出願時点で新しければよいことになります。
②均一性
同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似していること。つまり、個体差が大きい品種は登録できません。
③安定性
繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと。つまり、繁殖させて変化するような品種は登録できません。
④未譲渡性:
日本国内において品種登録出願の日から1年さかのぼった日前に、
外国において当該品種登録出願の日から4年(永年性植物は6年)さかのぼった日前に、
業として譲渡されていないこと。ただし、試験若しくは研究のため又は育成者の意に反する場合を除く。
⑤名称の適切性:
出願品種の名称が既存品種や登録商標と紛らわしいものでないこと

まぁ、あたりまえのことばかりで、明確に他の品種と区別でき(できなきゃ新品種じゃありませんもんね)、一定の安定した品種で(植えるたびにバラバラだったらシャレになりません)、誰がどこで育てても再現性がある(うたったようにできてあたりまえですから)、ということですな。
なおこの育種権は品種登録から25年間(永年性植物では30年)存続させることが可能です。

この権利によって育成者は正当な利用者に登録品種の利用許諾を与えて、見返りに利用料を得ることができます。
反対に権利を犯された場合には、不正利用者に対して侵害行為として民事訴訟による損害賠償を請求できます。

図1ただし、この育成者権の効力は、「一般品種」には及びません。

●一般品種とは、
①登録されていない在来種
②登録されていたものの登録料が支払われずに登録が取消された品種
③品種登録の日から25年が経過した品種

よく世情騒がれた自家採取するのは、すべてこの一般品種に属しますから、自分の家で種採りしてもなんの問題もありません。
今回の法改正でも、この一般品種は改正の対象に入っていませんから、どうぞ今後も自家採取をお続け下さい。
原種がどうのと一知半解なことを言っていた人もいましたが、農業の世界でいう「原種」とはそこらの山野に生えている自生種じゃなくて、あくまでも農業利用可能な在来種、つまり法区分でいうこの「一般品種」のことですから、念のため。
自家採取ができなくなるぅ、なんて叫んでいた人たちは、よく法律読んでから反対していただきたいもんです。
なお、日本ではこの一般品種が種苗市場の9割近くを占めます。

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さて、今回改正される目的は、育成者権の盲点を埋めるためです。図2
農林水産省:種苗法の一部を改正する法律案について
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html

従来の種苗法では、仮に登録品種であっても、農業者による自家増殖には育成者権は及ばず、農業者が収穫物の一部を次期の種苗に利用できます。

●種苗法の盲点とは
種苗法21条
2. (略)登録品種の種苗を用いて収穫物を得、その収穫物を自己の農業経営において更に種苗として用いる場合には、育成者権の効力は、その更に用いた種苗、これを用いて得た収穫物及びその収穫物に係る加工品には及ばない。ただし、契約で別段の定めをした場合は、この限りでない。
3. 前項の規定は、農林水産省令で定める栄養繁殖をする植物に属する品種の種苗を用いる場合は、適用しない。

条文はほとんど暗号ですが、市民語で書けば、現行法では特許登録された登録品種でも、種苗、収穫物には及ばないのです。
なんと人がいいというか、日本人らしく性善説丸出しの法律です。
近年、このようなことでは対応できなくなる事態が生じました。

その最たるものが、わが国の種苗家や農業試験場が丹精こめて長年の努力で作り上げた優良品種が海外に流出して、勝手に栽培されていることが判ったのです。
そしてその国、あえて名は秘しますが仮にK国、あるいはC国としますが、それらの国は日本に来て種を苗、時には銘柄牛の精液を国外に持ち出し、それをせっせと増産し、あまつさえそれを自国特許で保護させて第三国どころか、わが国に逆輸出するなんてことを堂々とやってのけていることが常態化したことです。

有名な事例では、2018年に韓国のピョンチャン五輪で、カーリング女子日本代表選手たちがハーフタイムにイチゴなどを頬張る「もぐもぐタイム」が話題になりましたね。
あそこで彼女たちがおいしいーと食べていたのは、韓国でポピュラーなイチゴ品種の「雪香」で、これは日本の登録品種の「章姫」あるいは「レッドパール」のコピーだと推測されています。
宮崎などの銘柄牛の種も盗まれたという噂が絶えません。
韓国人が不正に持ち出し、韓国で掛け合わされて生まれた品種で、自分の国だけで消費すればまだしも、ウリナラ・イチゴとしてアジア各国に輸出されて大儲けをしています。

こういう違法輸出により、日本農業はあり得るべき市場を奪われています。
農水の試算では、日本産いちごが被った被害額は最大で220億(2017年林水産省「農林水産省における知的財産に係る取組」)と見られています。
こんなことは氷山の一角で、やりたい放題です。
柴崎さん、日本農業がそんなに心配なら、日本の誇る特産種を守れと言っていただきたいもんです。
ところがなぜかそれを守ろうという法改正に反対なんだから困ります。

いやまったく、K国やC国の傍若無人ぶりは、たまったもんじゃありませんでした。
汗もかかずに優良品種を盗み、勝手に増やして、外国に輸出までされたら、馬鹿馬鹿しくってやっちゃいられません。
いったい、一つの優れた品種を作るのにどれだけの時間と手間と多くの人々の知見がいるのか分かっていてやっているのか、と怒鳴りたくなります。
そのうえにこちらが提訴するとなると、育成者権侵害の立証のために、品種登録時の種苗との比較栽培が必要とされる判決が出てしまいました。
特許侵害されたことを、こちらが証明するためには手間隙かけねばならない育種者に不利な判例がでてしまいました。

これではそれでなくても、元々さほど新品種を作っても儲からない育種者は減り続けていました。
今や県試験場が品種改良の主力となっているのは、民間の育種者がいなくなりつつあるからで、このほうがよほど日本農業の危機です。
農林水産省「農林水産省における知的財産に係る取組(平成29年12月)」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/sangyou/dai2/siryou3-3.pdf

このように今回の種苗法改正は、従来の法の盲点だった「自家増殖に関する例外規定」を廃止し、特許権の侵害を阻もうとするものです。
自家増殖に関する例外規定の廃止によって、登録品種の自家増殖を育成者権の許諾によってのみ行えるようにし、農業者によって自家増殖されている登録品種の実体の把握を可能にします。
そしてそれによって登録品種の種苗の不正な海外持ち出しの抑止を可能としています。
農林水産省食料産業局「種苗法の一部を改正する法律案について」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-2.pdf

このどこが改悪なのかさっぱり私にはわかりません。
反対している人たちが眼目にしている「自家採取が禁止される」というのは、この登録品種についてであって、在来種を含む一般品種に関しては今までどおりどうぞおやり下すってかまわないのです。
こういう意図的なのか、ただ読まなかっただけのかわかりませんが、一部を切り取って歪曲したような批判が一人歩きして、増幅していくのですからイヤになります。

柴崎さん、反対するのはけっこうですし、農業を愛していただけるのは嬉しいのですが、もっと農業の現実を見てしゃべって下さい。
お気持ちだけ頂戴しておきます。

蛇足ですが、三浦環は藤田嗣治と同棲していたというのはNHKのフィクションです。
同時期にパリにいましたが、環には三浦氏という夫がいました。

2020年6月18日 (木)

イージスアショア あくまでも「停止」であって「中止」ではないと思いたい

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イージスアショアの配備計画中止は後引きするでしょう。
なぜなら理由は、つまるところ地元の説得にやくたいもない理由で失敗したからです。
いままでいろいろな配備計画や基地建設計画はありましたが、ここまで重要、かつ緊急度がある計画がこんな馬鹿げた理由で失敗するのを見たのは初めてのようなきがします。

理由についてはおととい書きましたので、繰り返しになりますが、こんなくだらないことです。
①防衛官僚の杜撰な計画と、地元説明の失敗。
②ブースターを陸自演習場内に落下させる約束が守れなくなった。

なんだ、両方とも防衛省の官僚の度し難いミスじゃないですか。
結論だけ評せば、河野氏がこのイージスアショアの現行計画を「停止」したこと自体は誤りではなかったと思います。
山口県も秋田県も、ここまでこじれにこじれて地元自治体から呆れられ、その上に背広組がいい加減な約束をした挙げ句の失敗ですから、もうどうにもリカバリー出来る余地はありませんから。
ブースターが無誘導なのは当たり前で、あんな燃え尽きた殻に誘導装置をつける馬鹿はいません。
しかも数トンもなるならいざ知らず、たかだか75キロのものですから、人に直接当たらない限り被害は限定的です。

それをブースターを敷地内に落とすためにSM-3を全面的に作り直すなんて、バカ丸出しのことをするなら、いっそうやり直したほうがよいかもしれません。
それにしてもコメントにも何人か書かれていましたが、頭の上に原爆が落ちて来るときに、たかだかブースターがどこに落ちるか気にして計画中止したなんて、ハッキリ言って頭のネジが緩んでいるとしか思えません。

「イージスアショアと比較する候補になっていた弾道ミサイル防衛システムのTHAAD迎撃ミサイルは推進部分は一段式ですが弾頭分離式で、迎撃弾頭を切り離したらブースターが落ちてきます。
これもやはりブースター落下の問題が出てきますが、アメリカでは問題視する声がありません。 また欧州メーカーのMBDA社が開発したSAMP/T地対空ミサイルシステムのアスター迎撃ミサイルは二段式で大きなブースターが投棄されますが、配備が進むフランスやイタリアなどでブースター落下が大きな問題になったという話は聞きません」(JSF6月16日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/obiekt/20200616-00183562/

では、なぜ日本だけがブースターの落下場所が大問題になるようなことになったのでしょうか。
その理由は市街地に近い場所を選定してしまったからです。

理由はふたつあります。
①イージスアショアの管轄を陸自にしてしまったために、陸自施設に限定されてしまったこと。
②選定された用地が、市街地に接していたこと。

候補地の秋田県陸自新屋演習場を見てみます

Photo

秋田県 陸自新屋演習場

防衛官僚はひと眼この航空写真を見たただけで、諦めるべきでした。
柵の外には住宅地が密集しており、こんな場所に作ったら反対運動が起きて当然です。

米国が海外に設置しているイージスアショアはこんな場所にあります。
ルーマニアの首都ブカレストの西140kmにあるデベセルにあるイージスアショアの施設です。 
ここはルーマニア空軍の基地施設の中にあります。見る限りは畑のど真ん中という印象です。

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ルールニア デベセルにあるイージスアショアの施設

結局、日本は陸自管轄にした都合上、陸自施設に限定してしまいました。
しかしなぜ、イージスアショアの管轄に陸自を選んだのか、さっぱり理由がわかりません。
防衛省は、抽象的に「弾道ミサイル防衛は陸海空の全てが担当して行うべき」といっていますが、意味不明です。
というのは、自衛隊における防空任務は今まで広域をカバーする長射程地対空ミサイルが空自、イージスシステムを運用してきたのが海自、そして陸自は移動可能な野戦防空の中射程の地対空ミサイルを担当してきました。

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防衛省

上図が現行ですが、ズラリと日本海に高価で人員を割くイージス艦を並べているのが分かりますね。
元々機動力を発揮できるのが艦艇の利点のはずですが、尖閣が緊張しているこの時期でも、日本海に3隻も最新鋭艦を張り付けているのですから、なんともかとも贅沢というかなんというか。
それはさておき、上図に陸自の名前が入っていないことを確認してください。
この陸自に日本全国の広域ミサイル防衛をやらせようという無理をしたのがこの計画でした。

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陸自には長距離・広域の防空任務の経験がなく、ましてやイージスシステムについての知見はゼロでした。
にもかかわらず、陸自管轄にしてしまった理由がわかりません。
そのために素人集団の背広組がしゃしゃり出てしまう余地を与えたのです。

スッキリと初めから米軍のように、海軍が運用して習熟しているから、イージスアショアもとうぜん海軍としていたらこんなスッタモンダはおこらなかった可能性があります。
空自管轄にしておけば、秋田県の男鹿半島や新潟県の佐渡島といったレーダーサイトが候補地に登っていたのですが、いつのまにやら立ち消えて陸自の演習場に併設することになってしまいました。

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航空自衛隊加茂分屯基地

山中にあるレーダーサイトならば、後に問題とされたイージスシステムが出す電磁波問題や、ブースター落下問題などはまったく問題にならなかったはずです。
この山中のレーダーサイトが候補からはずされたのは、山のてっぺんなために大規模な土木工事がいるというのがハネられた理由とされていますが、いまにして思えばSM3の全面改修なんて馬鹿げたことをするより、はるかに簡単で費用もかからなかったと思われます。
よく比較される辺野古と違って候補地選定は容易だったはずでした。
地元土木業者との利害のすり合わせなどの手間がいらないからです。
それを自分で火種を作ってしまい、実行不能な約束を安易にしたあげく、計画全体を破綻させてしまうのですから処置なしです。

特に河野氏が「中止」する決断をしたことまでは、それ自体は理解できてもその仕舞い方が最悪でした。
こともあろうに、なぜブースター落下問題を理由にしてしまったのでしょうか。痛恨のミスです。
これにより、他の選択肢までもが自動的に消滅してしまいました。

たとえば同じ理由で、他の弾道ミサイル迎撃システムであるTHAADもダメです。

「SM-3迎撃ミサイルのMk72ブースター落下が問題だとされてしまったので、THAAD迎撃ミサイルのブースター落下問題も解決できない以上、THAADの調達はむしろ困難になってしまいました。
ブースターを空中で爆破処理したとしても残骸の破片は降ってきます。そもそも爆破処理で解決するならMk72ブースターもそうすればよいことになってしまいますが、これまでの防衛省の説明経緯では納得してもらうことは難しいでしょう」(JSF前掲)

秋田と山口を候補地にすることが困難ならば、いったんその知事に詫びを入れてから、仕切り直しすればよかっただけのことです。
この両県が不可能なのは誰が見てもわかりますし、いったん今までの積み上げをサンクコスト(回収できない投資)としてしまって、自由な眼で見直せばやりようはまだ残っていると思います。
あくまでその含みを残しての「停止」であって、計画の全面「中止」ではないと考えたいものです。

なぜなら核を使うことにためらいがない指導者によって核武装化が進んでいて、ほぼ完成の域になっている国が隣にあるからです。
一般的に「核兵器は使えない兵器」の最たるものです。いったん使えば倍返しの核報復を喰って国土が壊滅するからです。
ですから、まともな神経を持っている国は核兵器は神棚に祭って、現実的には封印してきました。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-f46e.html

中国ですら、日本に核攻撃をすればどんな結果になるのか、わかっているふしがあります。
ところが世界で唯一、本気で使用を考えている国があります。いうまでもなくわれらが隣国の北朝鮮です。
東アジアの核問題の専門家である防衛大学教授・倉田秀也氏はこう述べています。


「米国がこれらの基地を使用し、北朝鮮に-非核手段であっても-空爆などの武力を行使した場合、危殆(きたい)に瀕した北朝鮮が、これらの弾道ミサイルの使用を最後まで自制するか。
第2撃の核戦力が核による第1撃を受けない限り使用されないのに対して、軍事作戦に組み込まれた核ミサイルは、第1撃を受ける以前に使用される可能性を孕む」(産経3月17日正論)

一般的に核兵器は、巨大な「防御兵器」という性格を持っています。
核兵器は第1撃を受けた場合、直ちに報復するためにあるわけで、それによって「撃つなよ、撃つなよ。撃たれるのがイヤだったら撃つなよ」と言っているわけです。

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これが「最小限抑止」という考え方です。


「だが近年、北朝鮮は「最小限抑止」の構築を目指す一方で、それとは相いれないレトリックが目に余る。「核先制不使用」とは逆行する「核先制打撃」はその最たる例だが、それは単なるレトリックだけではない。
3月6日、弾道ミサイルの連射は、北朝鮮が目指す抑止態勢がもはや「最小限抑止」だけでは説明できないことを装備の面から改めて示した」(倉田 同)

倉田氏が指摘しているのは2017年3月6日の4発の弾道ミサイル実験です。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/03/post-9d96.html

 

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この時、朝鮮中央通信は「朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊による、日本駐屯米帝侵略軍基地への攻撃」が目的であると宣言しました。
また2015年2月の朝鮮労働党政治局会議の決定書には、「現代戦の要求に即した精密化、軽量化、無人化、知能化されたわれわれ式の威力ある先端武力装備をより多く開発する」としています。
しかも、「昨年9月の第5回核実験の際に「核兵器研究所」は核弾頭の「標準化・規格化」に触れ、核弾頭の量産化を示唆していた」(倉田 同)とされます。

第1撃のみを目的とする核兵器ならば、「東京のどこか」に落ちればいいわけで、平均誤差半径(半数必中命中界・CEP)が数㎞でもかまわないわけです。
平均誤差半径 - Wikipedia
しかし、日本の軍事基地にピタリと着弾させる「核先制打撃」ためには、「精密化」が必須です。
この2017年
3月の北朝鮮の弾道ミサイル実験は、北がとうとうこの「精密化」に成功したことを意味しています。

そしてこのような日本に対する弾道ミサイルを「標準化・規格化・量産化」すると北朝鮮は述べているわけです。
北朝鮮が目的とするものは、もはや一部の外交評論家がいうような政治的デモンストレーションという甘いものではなく、「軍事作戦に組み込まれた装備」(倉田)による核先制打撃を目指したものなのです。

こういう脅威が厳然としてあることを忘れて、イージスアショアを語ってはなりません。

2020年6月17日 (水)

新しき女王、ヨジョンの誕生か?

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いきなり北朝鮮が南北連絡事務所をチュドーンと爆破してしまいました。事務所といっても建て替えた後にはリッパなビルですから、なかなかどうして。動画もあるようです。
https://www.youtube.com/watch?v=GRKEnWIe5oI

「北朝鮮が開城の南北連絡事務所を爆破 韓国統一部
南北共同連絡事務所は2018年4月の南北首脳会談での「板門店宣言」に基づき、同年9月に開城工業団地内に開所した。
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)の妹、金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長は13日の談話で、「遠からず北南(南北)共同連絡事務所が跡形もなく崩れる光景を目にするだろう」と建物の爆破を予告しており、それから3日で実行に移したことになる。
 韓国側でも同日、開城工業団地の方面から爆発音が聞こえ、煙が上がっているのが目撃された。
 軍当局は爆破後、南北軍事境界線での突発状況に備え、北朝鮮への監視を強化している。
 北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部はこの日、南北の合意によって非武装化された地域に再び軍隊を投入する可能性を予告していた」(聯合6月16日)

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場所は開城工業団地の一角にあり、そもそもこの団地自体がそうであるように「南北融和」の象徴的存在でした。
それをヨジョン(与正)様は、爆破するとおっしゃってからわずか数日で本当に爆破してしまいました。
パチパチ有言実行。思わず、いよ、男前!と掛け声をかけたくなります。
有言不実行のムン閣下とはえらい違いです。

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ヨジョンは、肩書は党第1副部長のままですが、いまやすべての対外的声明は彼女の名で出されていて、「正恩代行」といった格です。
正式に正恩の後継者となるかどうかは、現時点では不明です。
だって、肝心の正恩が生きているか、死んでしまったのか、はたまた重症なのかわからないからです。
このことはテーマからはずれるのでここまでとしますが、いずれにせよ、正恩ひとりではどうにもならない権力構造の揺らぎが見え始めたことは確かです。
ヨジョンしか「白頭山の革命の血脈」は残っていませんから、正恩は元気だということにしてこの女性が当面は仕切ることになるのでしょう。

ヨジョンの物腰が柔らかく洗練されているので、韓国は妙に期待していたふしがあったようです。

「(韓国統一大臣)趙氏が語ったところによると、金与正氏ら北朝鮮の高位級代表団が平昌冬季五輪の開幕に合わせて訪韓した際、趙氏は同代表団と「睡眠時、朝食時間を除き、ほぼ24時間一緒にいた」という。そして、そこで接した金与正氏について「こちらをとても楽な気持ちにさせてくれた」とし、「非常に重要な時期に重要な責務を負って(韓国に)来て、用心深くなったりつらかったりしたはずなのに、そんなそぶりは見せず常に笑顔で接していた」と述べている」
(高英起3月6日 デイリーNK)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20200306-00166258/

コロリと見かけでダマされるのはいかにも外見が命の韓国人らしいですが、この甘い幻想はすぐに破られることになります。
度重なる「飛翔体」の発射に対して、韓国がおどおどと抗議すると返ってきたヨジョン様の鞭打つようなお言葉がこれ。

「青瓦台を、「非論理的で低能な思考」「行動と態度が三歳の子ども」「怖気づいた犬ほど騒々しく吠える」などと激しく罵倒した」(高前掲)

そういえば近頃はムン閣下のことを「人間のクズ」なんて呼んでいましたっけね。
ヨジョンは性格的にも強いらしく、兄貴が妹に怒られて「そんなこと急に言うなよ」とたじたじだったシーンも目撃されています。微笑ましいですね。

それはさておき、今回ヨジョンが、お怒りなのは、ムン閣下がいつものとおり約束をまったく履行しなかったからです。
北が韓国に「約束を守れ」と言うとすれば、ひとつしかありません。
それは2018年4月27日に署名した板門店宣言です。
正恩がムン閣下を腹でガブっている写真も残されていて、たいそうこの時は仲がよかったようです。

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宣言を抜粋しておきます。

■板門店宣言抜粋
南と北は、地上と海上、空中をはじめとするあらゆる空間で、軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面的に中止することにした。
 
 差し当たって、5月1日から軍事境界線一帯で拡声器(宣伝)放送やビラ散布をはじめとするあらゆる敵対行為を中止し、その手段を撤廃し、今後非武装地帯を実質的な平和地帯としていくことにした。 

後に南北鉄道も作るなんてこともムン閣下は言っていましたが、例によってなにひとつ手をつけていません。
そりゃそうだ、そもそもこんな共同宣言自体が国連制裁決議違反なんですから。
それを承知でこんな宣言に署名するのは、いつものムン閣下の健忘症、あるいは出たとこ勝負で言い散らすという癖の発露というだけのことです。
ムン政権のみならず、歴代の韓国の政権は日韓関係に於いて、約束はその場かぎり、政権が変わるたびに連続性を維持する努力もなく、すぐにチャブ台返ししてきました。

特にムン政権となってからは、韓国の大衆受けする場当たり的政策に終始してきましたが、その毒が回って日韓関係は氷河期の真っ最中です。
韓国にとっては対日関係なんぞぶっ壊れようとどうしようとかまわないと下目に見ているからいいのでしょうが、同胞の北からも同じような眼で見られ始めたのでハレホレというところです。

国際社会から見ればどっちもどっちのライヤーですが、ムン閣下は国家間合意は破るためにあるていどに認識していますから、結局、合同軍事演習はやるわ、南北鉄道はレール一本敷かないわ、脱北団体のビラは飛ばすわ、といった具合でした。
特にヨジョンがカッとなったのは、このビラの中身が風俗週刊誌みたいだったからです。

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https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200615/for200615...

「そして最近、脱北者団体・自由北韓運動連合が北に向けて飛ばしたビラには、北朝鮮の一般国民が決して知ることのできない金一族の「秘密」が書かれている。ビラは、金正恩党委員長には異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏がおり、同氏は「浮気者の金正日」が既婚者であるソン・ヘリム氏と不倫関係となって生まれたと説明。
金正恩氏の母で日本生まれの高ヨンヒと金正日氏も正式な夫婦ではなく「不倫関係」だったとしている。 そして、金正男氏が2017年2月、弟である金正恩氏が放った暗殺団により、マレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害されたことを暴露。その動機は、日本出身の母を持つ金正恩氏に対し、長男である金正男氏こそが本物の「白頭の血統」だったことにあるとしながら、「稀代の殺人鬼」である金正恩氏を「全民族の名にかけて必ずや処断する」と宣言している」  (デイリーNK6月15日)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200615/for2006150003-n2.html

ビラはとうぜん徹底的に回収しまくったことでしょうが、全体主義社会はうわさ社会。ビラの中身は、口コミで驚く速度で下々の間を駆けめぐったはずです。
さぞかしこれを読んだヨジョンは怒り狂ったことでありましょう。
実母が日本生まれだから「富士山血統」だとか、父親の愛人にすぎなかったとか、実兄や叔父を殺しただろうとか、全部ホントだから腹が立つ。
あの顔で怒るとコワイだろうな(笑)。

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しかし、ひととおり怒った後に、ヨジョンはこう思ったのでしょうね。
これは使える。板門店宣言に対する重大な違反行為ではないか、ってね。
今彼女は、事実上の兄の「引退」に際して、次にその座にすわるのは自分以外にいないと覚悟しています。
父親からお前が男だったらってなんど言われたことか。
ならば、ヨジョンは権力を完全に掌握した証拠を、党と大衆に見せつけねばなりません。

北において王朝交代に際して行われる通過儀礼はなんらかの軍事行動でした。
2010年3月には、韓国海軍哨戒艦「天安」を撃沈して見せ、同10月には延坪島の韓国軍基地にロケット弾を雨あられと浴びせました。

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ウィキ

こういう南のヘナチョコ政権に対する断固とした軍事攻撃こそが、金王朝の新しき王の誕生宣言となるというのが、金家の家訓です。
このご遺訓に従って、ヨジョンはまず警告を与えました。
6月4日からヨジョンは数回に渡ってこう言っています。

「南朝鮮当局が応分の措置をとらなければ、金剛山観光廃止に続き、開城工業地区の完全撤退になるのか、北南共同連絡事務所の閉鎖になるのか、あってもなくても変わらない南北軍事合意の破棄になるのか、しっかりと覚悟はしておかなければならない」
「開城の南北共同連絡事務所が形なく崩れる悲惨な光景を見ることになるだろう」
「「問題は、人間の値打ちのないクズどもが、みだりにわれわれの最高尊厳(金委員長)に手を出し、『核問題』をめぐって無礼に振る舞ったことである」
「バカ者ども」「野獣にも劣る人間のクズ」「悪臭を放つ口の手入れもできず、吠え立てる者ども」「トンケ(駄犬)と言わざるを得ない」
(西岡省二6月4日)

いやー、参りました。
ほとばしるような悪口雑言の想像力。こき下ろし、蔑み、唾を吐きかけ、踏みつけ、さすがは親日派の墓暴きをする国だけあります。
この時点で既にヨジョンは、「南北連絡線を遮断する」、つまり電話にはでないというだけのことですが、と言っていたのに加えて南北融和の象徴的建物だった連絡事務所の爆破も予告しており、実際そのとおりにしたわけです。

口だけの韓国と違って実際に軍事力を行使したというのがキモで、たぶんもう一回北の軍隊を使ってなんらかの攻撃をしかけるはずです。
たとえば、南北境界線近辺の韓国軍基地をロケット攻撃するとか、非武装地帯に軍を入れて監視所を爆破するとか、なんでもありでしょう。
いくら好き放題やっても韓国が手出しできないことを充分に北は知り尽くしていますから。

だって、ムン閣下はこれだけ足蹴にされてもこんな寝言を言っているんですから。

「文大統領、6・15宣言20周年に「北朝鮮は対話の窓を閉じないでほしい」
くねくねと流れても最後には海に向かう川の水のように、南北は楽観的な信念を持って民族の和解と平和統一の道を一歩ずつ進まなければなりません、 北朝鮮の激しい“言葉の爆弾”攻勢の中で迎えた6・15南北共同宣言20周年記念日。 これ以上の事態悪化を防ぎ、北朝鮮を再び対話の場に呼び戻そうとする韓国政府と与党の努力が一日中続いた」(ハンギョレ6月16日)
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/36956.html

なぁに寝ぼけてるんだか。河は最後に海に向かうって、自分じゃいいこと言ったとおもっているんでしょうが、内陸で止まっちゃう河なんていくらでもありますし、途中で消滅する河なんて珍しくもありません。
くねくねしているのはお前のほうだ、とヨジョンは思ったことでしょう。
まともな主権国家なら、こういうことを一方的にやられたらガツンと原則的に応じねばならないんですが、ま、言うだけ無理か。
それがやっと分かってきたのがわが国政府ですが。

北の目的はまたもや瀬戸際外交の完全復活です。
情勢を常に破滅寸前まで追い込んで、相手をビビらせて、食料や燃料、時には原発までもむしり取ることに成功してきました。
これが金家のお家芸ですが、歴代使いすぎて足元を見られ、トランプが仕掛けた直接会談の甘い罠にはまってしまいました。
米朝関係ではこの罠をはずすのは難しいし、最後の命綱として保存しておきたい色気もあるかもしれません。
しかし、韓国ならかまうことはありません。お家芸の大復活です。

最後にトランプがどう出るかですが、実際に本格的軍事攻撃をしかけた場合、報復措置としてなんらかの軍事オプションを選ぶ可能性もないわけではありません。
空母も3隻太平洋にいますし、物理的には可能ですが、なんとも言えません。
分裂しかかって見える国内を引き締めるために一発パンチをかますこともありえないわけではありませんが、それをすると米朝会談はこれでもう開かれなくなり、それではトランプの外交的実績のセールスポイントを自分で壊すことになりかねません。

いずれにしても、ヨジョンはもう一回軍事攻撃をしかけてきます。
ムン閣下がふ抜けなのは分かりきっていますが、この時、トランプがどうでるのかに注視しましょう。
それ次第では一気に朝鮮半島情勢はきな臭くなります。

こじれれば北はなにをするかわかりません。
こんなときにイージスアショアを中止すんなよ。
実際に使うかどうかは別にして、あれは日本に対する核攻撃をためらわせるに充分な抑止力なんですから。

 

2020年6月16日 (火)

納得できない突然のイージスアショア「停止」発表

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まったく理解できない防衛省の決定です。
河野大臣は昨日、突然、イージスアショアの配備を「停止」すると発表しました。

「河野防衛大臣は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。これにより日本のミサイル防衛計画の抜本的な見直しが迫られることになります。
イージス・アショアは、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました」
(NHK6月15日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200615/k10012471181000.html

「停止」?はて、なんのことやら。
ロジカルな物言いを好む河野氏とは思えないあいまいさですが、計画そのものを「中止」したのか、配備計画を「停止」したのかどちらなのでしょう。
たぶん完全に配備計画を放棄するということだと思われます。

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NHK

理由は、要するに地元の説得に失敗したのです。

「「イージス・アショア」は、アメリカ製の新型迎撃ミサイルシステムで、政府は、山口県と秋田県にある、自衛隊の演習場への配備を計画していました。
このうち、山口県の演習場への配備について、河野防衛大臣は15日夕方、記者団に対し、迎撃ミサイルを発射する際に使う「ブースター」と呼ばれる推進補助装置を、演習場内に落下させると説明していたものの、確実に落下させるためには、ソフトウェアの改修だけでは不十分だと分かったことを明らかにしました」(NHK前掲)

防衛省は迎撃ミサイルのブースターを演習場敷地に落とすことを地元と約束していました。
そしてこれを守るためには、ミサイルそのものを作り直す必要があり、そのコストと手間が無視できないまでにふくらんだから「停止」するということのようです。
馬鹿な約束をしてしまったもんです。ブースターなんて無誘導なんですから、演習場敷地に落せる確証なんてあろうはずがありません。元々無理な約束をしていたのです。
それは、ハッキリ言って、防衛省の役人(背広組)がイージスについてよく知らなかったから起きたことです。
管轄を、長年イージスを運用してきた海自の管轄にしておけばよいものを、なぜかMD(ミサイル防衛)の経験がない陸自管轄にするようなことをするからこんな事になるのです。

候補地選定の最初のボタンの掛け違いが、ここに来て計画全体の中止にまで及んでいます。
防衛省は秋田市内にある陸自新屋演習場を候補地としましたが、素人の防衛官僚が杜撰な調査をし、それに基づいていいかげんな地元説明をしてしまったために一気に泥沼化しました。

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NHK

新屋演習場をめぐっては、今年1月に秋田県の佐竹知事が河野大臣に対し、「地元の理解を得るのは難しい」と伝えるなどと事実上の受け入れ拒否を通告しています。
佐竹さんは、なにもわからずにとまれ反対してみる県知事が多い中、東北大学工学部で精密工学を専攻していた人物で、ミサイルなどの軍事技術や誘導技術について専門家はだしの知識を持っている首長でした。
たぶんそこいらのボンクラ防衛省官僚より詳しいでしょう。
ですから、佐竹氏と対談したことがある小川和久氏が、「弾道ミサイル防衛の重要性、イージス・アショアの立地についても、きちんとした知識を持っています」と折り紙をつけた人だったわけです。

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佐竹知事 NHK

今回の「停止」発表について佐竹氏はこう述べています。

「ミサイルのブースターの落下地点を正確にコントロールすることは周辺地域の安全確保に不可欠な重要な要素だ。この点に関し、ソフトウェアのみならずハードウェアとしてのミサイル本体の改修も必要となれば、さらに多額の費用と相当の期間が必要となり、改修が成功したとしても、その間の他のミサイル類の技術的進歩を考えれば、そもそも能力的な問題が生じる。したがって、プロセスの停止、現行配備計画を停止することは賢明な判断だと考える」(NHK前掲)

おお、なんと首長とは思えない詳しさ。こんな地元説得で手間食っていると後継のミサイルステムのほうが進化して、配備できる頃には陳腐化しちゃいますよ、との佐竹知事のコメントです。
まことにそのとおりで、他の首長のコメントが「めんどうなものが来ないで助かった」ていどなことと較べると、この佐竹氏すら説得できなかったことが失敗の最大の原因だと思えてきます。

そもそも最初のボタンから掛け違っています。
佐竹氏は小川氏に対して、「あとは周辺住民の皆さんの不安を払拭するだけの説明を防衛省がしてくれればよい」と伝え、それは小川氏経由で防衛省に届いていたと思われます。
ところが、防衛省のボンクラ官僚は、実地測量もせずに(!)地元説明会を行い、こともあろうになんとGoogle Earthで大雑把なデータを出してしまいまったために、現実の地形とは大きく異なった説明をしてしまいました。

どこの世界に、設置計画を実地測量もしないでGoogle Earthで済ませるバカがいるんだつうの。
民間企業でこんなプレゼンをしたら、立派な左遷事由になりますが、官僚には選挙もクビもありませんから、うらやましい稼業です。
そしてまだ続きがあるのですから、さすがは見上げたボンクラ官僚です。

この不始末が地元紙に報道されたために一気に問題化し、再度開かれた住民説明会で、防衛省の役人がガーガーと昼寝をしていたことが発覚。
これが全国に放映され、地元は完全に硬化してしまいました。
どんなに徹夜したのかしらないが、こんな重要な説明会で寝ていたら即刻クビです。
こいつらから既に4、5人担当は代わっていて、もう誰の責任なのやら藪の中ですから、なんともかとも。

そもそも論で言えば、住宅地に近いところに候補地を持ってくれば、必ずこういうことになります。
結果この5月には、新屋演習場を正式に断念し、再調査の対象を増やすことも含めて、引き続き秋田県内を中心に新たな候補地を検討することにしました。
実は、防衛省は失態を挽回しようと、地元対策としてブースターを民間地域に落とさないミサイル改修計画を検討していたようです。
すると今度は、ソフトの改修だけでは済まず、ミサイル本体の作り直しまでになり、もう一回新たに作るより手間がかかることが判ったようです。

「そのうえで「ソフトに加えて、ハードの改修が必要になってくることが明確になった。これまで、イージスアショアで使うミサイルの開発に、日本側が1100億円、アメリカ側も同額以上を負担し、12年の歳月がかかった。新しいミサイルを開発するとなると、同じような期間、コストがかかることになろうかと思う」と述べました」(NHK前掲)

ここまで来ると、その馬鹿さかげんに唖然となります。
いいかげんな立地選定をしてしまい、事前に実地測量を怠り、Google Earthでお茶を濁そうとして失敗し、地元に不信感を植えつけ、その上に決定的な説明会で居眠りをしてしまい、演習場敷地内にブースターを落とすという実現不可能な約束までするという二重三重四重の大ポカ。ここまで無能だとかえって爽快なくらいです。

とまれ、これでイージスアショア計画はお流れとなりました。
しかし日本を取り囲む状況はいささかも変化がなく、正恩の統治体制が揺らぎ始めた北朝鮮はいっそう不安定となり、新型コロナや米中経済戦争を受けて中国は日米同盟に牙をむき出しています。
このような時期の中止。最悪のタイミングでした。

中朝の弾道ミサイルを迎撃する装備が絶対に必要な以上、直ちにMD(ミサイル防衛)計画を抜本的に練り直さねばなりません。
それも早急に。

ちなみに辺野古と同列に比較する人がいますが(小川氏もそうですが)、防衛省官僚が満足に辺野古の水深と工事の難しさを調べていなかったのは同じですが、辺野古には代替基地が現存しています。
一方イージスアショアには、代替がありません。
防衛省はイージス艦で代行させると言っていますが、それは現況をそのまま言い換えただけです。
現況では多くの隊員が乗るイージス艦を、常に日本海にそのためだけに張り付けておかねばならず、海自は加重な負担に耐えてきました。
そもそもイージス艦艇とちがって少ない隊員で、広く日本全土をカバーできるから陸上イージス配備を決めたはずで、イージス艦では代替とはなりえません。

代替案も提示せずに、こんな重要計画を突然「停止」するなんて、河野さん無責任すぎます。

 

 

2020年6月15日 (月)

なぜ米国で暴動が止まらないのか?

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米国のブラックマター暴動が止まりません。
シアトルでは一部のアンティファが「独立」を宣言し、アトランタではハンバーガーショップが焼き討ちに会いました。

米アトランタで警官が黒人男性を射殺、地元警察トップが辞任
米ジョージア州アトランタで12日夜、ハンバーガー店「ウェンディーズ」のドライブスルーで飲酒運転の取り締まりを行っていた警官が黒人男性を射殺する事件が発生した。地元警察のエリカ・シールズ本部長は13日、この事件を受けて辞任した。アトランタ市のケイシャ・ランス・ボトムズ市長は記者団に「正当な武器の行使とは思わない」と述べた。
  殺害されたのはレイシャード・ブルックスさん(27)で、自分の車の中で眠っていた。飲酒検査でアルコールが検出されたという。事件を撮影した携帯電話の映像によると、ブルックスさんは警官2人ともみ合いとなり、その後逃走しようとした際に射殺された」
(ブルームバーク6月14日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-06-14/QBW662DWLU7R01

このブルームバークの記事ではなぜか意図的に隠されていますが、この人物は、泥酔してハンバーガー店のドライブスルーで寝てしまい、通報を受けて駆けつけた警官と揉み合って奪ったティーザー銃を持って逃げ、警官にそれを向けたところを撃たれました。
ちなみにこのティーザー銃はスタンガンで殺傷能力はありませんが、ほんものの銃と酷似しており、銃口を警官たちに向けている映像が残っています。

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これに驚いてアトランタ警察のトップが辞任し、この警官は解雇されたのですから、現場警官たちとしてはやっちゃいられないでしょう。
私はこの警官を擁護する気はありませんが、今の米国社会の通念では、警官に銃、ないしは銃のようなものを向けただけで射殺されても文句はいえないはずです。
これには黒人も白人も関係ないはずですし、それに怒って群衆が、通報しただけのハンバーガーショップを焼くに至っては狂気の沙汰です。

撃った警官も撃たれた側も、焼いた連中まで含めて、なぜ、米国ではこのような狂気の沙汰が止まらないのでしょうか。
原因はひとことではいえませんが、「社会の分断」が今回の感染爆発で露わになってしまったからのようなきがします。

今回の感染爆発で、医療を受けられる者と医療に拒否されている者の生命の値段に差がつきました。

「コロナ生還の男性に1億2000万円の請求書、米国
【6月14日 AFP】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で一度は命が危ぶまれた米国人男性が、治療費として110万ドル(約1億2000万円)の請求書を受け取っていたことが分かった。米紙シアトル・タイムズが13日、報じた。
 心臓が止まりそうになる請求書を受け取ったのは、米北西部シアトルの病院に3月4日から62日間入院したマイケル・フロルさん(70)。一時は、妻や子どもたちに別れを告げられるようにと看護師らが電話の受話器をフロルさんの耳に当てたほど、死が間近に迫っていた。
だが、フロルさんは回復。5月5日に看護師らから声援を受けて退院したものの、その後181ページにわたる総額112万2501ドル4セント(約1億2051万1712円)の請求書を受け取ったという。
 同紙によると、フロルさんは高齢者向け公的医療保険制度メディケアMedicareの対象であるため、請求額を支払う必要はない。フロルさんは、この費用の大部分を納税者が負担することに「罪悪感」を覚えると語った」
( )
https://www.afpbb.com/articles/-/3288215

新型コロナの治療をしてもらったら1億2千万円の請求書が来たというのですから、国民健保で守られている日本人には想像を絶します。
この患者は幸運にもメディケアに加入していたために、全額払わないでも済んだそうですが、入っていなかったら、生命は助かったが、請求書を見て自殺したくなったことでしょう。

このメディケアは、いわゆるオバマケアのひとつとして生まれたもので、65歳以上の高齢者と一般障害者向けに連邦政府が運営する制度です。
メディケアは既にオバマ以前からあった制度でしたが、オバマはそれを改良して使いやすくしました。

オバマケアの主な改革
①公的医療保険がカバーする範囲を拡大する。
②民間の医療保険に対する規制を強める。
③医療保険に入ることを「義務化」する。

これまでも、貧困層の人向けに国が運営する公的な医療保険があったのですが、その加入要件をゆるめ、より多くの人が入れるようにしました。

では65歳以下の人たちはどうするかと言えば、低所得者層向けの公的医療保険制度(メディケイト)があります。
これが強いていえば、米国版国民健保のようなものですが、月々の支払が250ドルは年金から天引きされますが、メディケイトが負担してくれるのは医療費のごく一部に限定されます。

ですから、貧困層はまずこんなオバマケアには入らないし、入りたくてもそもそもその資格がありません。
なぜなら、彼らの多くは「国民」あるいは「市民」ではないからです。
こう言われても、日本人で無国籍者はまずありえませんから、これまた想像を絶するのですが、米国は投票に行くためには市民権を得ねばならず、そうすると税金を払わねばならないので、まぁいいか、としてしまう無国籍階層が膨大に存在するのです。

だって「市民」は登録制ですから。
日本ではオギャーと生まれればすぐに市役所で出生届を出すのが義務で、血統が日本人ならば自動的に日本国民となるのですが、この米国という国はどこまでも「自由」なのです。
「国民」となるためには、自分で役所に行って資格審査を経てIDを作ってもらい、ここで初めて納税の義務と投票権が与えられる仕組みです。
裏返せば、それをしないと「国民」にはなれないことになります。
というわけで、オレは絶対に税金なんか払わない、だって不法移民だもん、という奴もいるでしょうし、先祖代々貧しいから市民登録しなかったというアフリカ系もいるようです。
彼らは揃って無国籍者、「見えない階層」となってしまいます。

ですから、米国南部を襲うハリケーンで大量の死亡者がでても、そのうち誰かと判明できるのは一部だとか。
多くが名無しのゴンベイのまま無縁墓地に集団埋葬されることとなります。
スゴイ国だね、米国って。

その「見えない階層」は推定で約2750万人、全人口の8.5%と1割弱はいるとおもわれますが、はっきりした統計数字自体がありません。
それは国勢調査に「国籍」項目を入れることに、リベラルが反対したからです。
ここでリベラルが反対する理由がふるっていて、そんなことを調査すると、彼らの票田の黒人・ヒスパニックが国勢調査に協力しなくなるぞ、ってことのようです。
なんだか逆転した理屈ですが、これが連邦最高裁でも認められて、以後、堂々と無国籍のまま放置されることになりました。

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日経

「アメリカのトランプ政権は2日、2020年の国勢調査で、米市民権(国籍)の有無を尋ねる質問を追加する計画を取りやめると表明した。人権団体は、マイノリティー(人種的少数派)世帯の回答率が低下する可能性があると批判していた。国勢調査は選挙区割りや、連邦資金の分配などの指標となるもので、来年の大統領選に向けて、与党・共和党に有利な選挙区割りにすることが政府の目的ではないかと言われていた。
米連邦最高裁判所は先月27日、マイノリティー保護の強化のためだとする政権側の主張は「不自然」で、政府は十分な根拠を示していないとして、市民権に関する質問追加を一時保留する判断を賛成5、反対4で示していた。
アメリカの国勢調査は10年ごとに行われる。ここに国籍質問を加えると、主にラテン系やアフリカ系が回答に消極的になり、その結果、数百万人が人口に含まれなくなるのではないかと、野党・民主党は人権団体は懸念していた」(日経2019年7月3日)
https://www.bbc.com/japanese/48850294

というわけで、米国には生命に値段がついているのです。
これがハッキリしたのが今回の新型コロナだったわけです。
今回の感染拡大でもっとも悲惨だったのがこの無登録階層で、彼らにはまったく救いがありません。
彼らは公共の検査を受けることはできますが、仮に陽性になっていたとしても病院に並ぶことは出来ても、医療事務でハネられるか、幸運にも救急治療が受けられても、その後に目の玉が飛び出るような治療請求書が届くことになります。
冗談かもしれませんが、病院のセュリティは院外からの不法侵入より、脱走患者がでないか見張っているのだとか。おいおい。

このような社会的分断が既に米国社会にパックリ開いていて、今回のフロイド事件による暴動はそれに対する怒りだったのでしょう。
しかし彼らはやりすぎました。いくら正当な理由があろうと、火付け強盗をしていい道理はありません。

CNNは55%対41%でバイデン有利を伝え、NBCニュースとウォールストリート・ジャーナルの共同調査でも49%対42%でバイデン氏がリードしているようです。
では逆転されてトランプが動揺しているかといえば、いかがなもんでしょうか。
たぶんまったくしてないでしょうね。
おおかたのリベラルの願望を裏切って、今回のことで「法と秩序」を主張したトランプに暴動を嫌悪する中間層の支持が集まると私は見ます。

彼らは表面的にはCNNの世論調査には、「デモに軍隊を出すといったトランプは支持しない」と答えつつ、実際は腰抜けバイデンじゃあ怖くって生活できない、と感じているはずです。
それはかつてトランプが初当選したときの、中間層の表裏ある投票行動で既に実証されていることです。

「選挙の世論調査も同様なのかもしれない。電話や対面調査では「トランプ支持」を胸を張って言うのは「ちょっと抵抗がある」ような人も、カーテンやボックスに囲まれた「投票の秘密」が守られる場では、「トランプ」に入れてしまうということがあったのだろう。
 中には、妻には「ちゃんとヒラリーに入れるよ」と言っておきながら、夫が土壇場で投票所では「トランプ氏に変えた」と事後に告白して夫婦げんかになったという話もアチコチから聞こえてきている」
(冷泉彰彦『なぜ予想を間違えたのか?トランプ当選を読めなかった「三つの間違い」』2016年11月11日)
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2016111000004.html

かくして、皮肉にも反トランプを掲げるデモが激化すればするほど、トランプの再選は固まることになるのです。

アンティファは今や建国の父たちも標的にし始めていますし、英国では予想どおりチャーチル像が破壊に瀕しています。
ガンジーすらも「人種差別主義者」だとか。
このような「正義の暴走」が、社会の分断をよりいっう深くすることは火を見るより明らかです。

 

 

 

2020年6月14日 (日)

日曜写真館 白鷺の止まればつぼみ飛べば花

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白鷺の止まればつぼみ飛べば花  鷹羽狩行

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白鷺や皺のよせくる水鏡 小堀寛

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白鷺のすつくと佇てり思案げに  佐藤俊雄

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白鷺の降りたち青田色増しぬ   閑田梅月

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白鷺の飛翔見たさに添ひ歩く  寛節子

3枚目はほんとうはアオサギ゙ですけど、お許しを。

2020年6月13日 (土)

山路敬介氏寄稿 沖縄県議選を振り返って その2

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山路氏寄稿2回めです。今回で完結となります。

                                                              ~~~

■ 自民党はなぜ嫌われるのか?
 自民党は最初からたった19人と、候補者擁立を絞っていました。このことは同時に最初から県議会において過半数を奪取する意志がなかった事を意味します。オール沖縄側の当選者から引き抜きを行うかのような報道が見られますが、そういう事が当初から念頭にあったワケではありませんし、実際上も困難でしょう。

沖縄では今回、4選挙区もの地区が無投票で当選者が決定しました。これは全国的にもめずらしい現象のようで、コロナ禍での特殊事情があるとはいえ、沖縄政界独特の閉鎖的な実態を示していると思います。
むしろ自民党は無投票で済ませられるものならば、逆にその方が良いとの考え方を持っていたと言えます。他の市も同様の趣きですが余所の事を言うのは憚られるので、ローカルな話になり申し訳ありませんが、以下で我が宮古島市の候補者擁立までの事情を明らかにする事で参考にして頂きたいと思います。

私は下地現市長支持の者で、いわゆる下地市長派です。
しかし、今回は予想どおり保守が割れ、私は落選した反市長派の座喜味一幸氏の側に付きました。
座喜味氏を応援した理由は単に4期の実績からだけではなく、県議会において尖閣や辺野古関連の知事への質問も論理的で鋭く、議員として抜群の能力を有している事が明らかだからです。
座喜味氏ももちろん自民党所属議員ですが、先の市長選で市長の対立候補の側に立った事もあって地元の主流から外れました。

市長派候補は当初、市議のT・Y氏でした。
T・Y氏は市議としてトップ当選を果たすなど、市長派には順当な人選に考えられたものです。
私はしかし、個人的な怨恨もあってこの人物が人間として大嫌いです。上の者には媚へつらい、選挙の時期を除けば下の者には辛辣な仕打ちを平気でする傾向があり、酒癖も尋常ではないからです。まるで沖縄県人の欠点をそのまま地で行く人物です。

ある時、私の後輩がレストランバーを開店し、私はカウンターで飲んでいました。
そこへT・Y氏が支持者や同僚市議たちとワイワイやってきて、一人あたり三千円で飲ませろとゴネ始めました。後輩であるマスターは「申し訳ないですが、ウイスキーまで入れて三千円では無理です」というと、「オマエ、おれが誰だかわからんのか? そういう態度で商売出来るんか!」と怒鳴るものですから、気の短いこちらとしても「この●●やろう、表に出ろ!」と自然になります。

市職員からも度々聞きますが、支持者からの陳情や苦情をカサにきて高圧的な態度に出る事もあるようです。実はこういう勘違い甚だしい田舎っぺ議員はわけて自民党系に多く、行政の現場は与党であるだけに、新聞をさわがせるような極左人士よりもタチが悪いとウワサしているのです。

ですが、私らはT・Y氏の県議選擁立に賛成でした。T・Y氏を県議にして追い出してしまえば、T・Y氏には今後市長の目が無くなると考えたからです。
しかし、T・Y氏は直前になって体調不良を理由にして立候補を辞退しました。代わりには人柄はいいが実績も当然なく、演説も下手くそな建設部長の下地康教氏が急遽たち、予想どおりトップ当選を果たしました。今後、T・Y氏が市長候補として色気を出すなら、私らは全力で阻止します。

実際、地方議員にT・Y氏のような保守系の人物というのは、全国的にも多いのかも知れません。行政能力に長けた下地現市長にも同様の傾向があるし、それを温厚で市民にも人気のあるちょび髭の長濱副市長がカバーしているのが実際です。
オール沖縄・革新側の候補擁立も難儀でした。
実績も実力も人気も抜群の現職亀濱玲子氏をおろし、國仲昌二氏が立って二位当選を果たしました。
この交代劇にも全く必然性がなく、前回市長選で亀濱と遺恨のある最左派系のO氏が「亀濱が降りない限り、俺も立候補する」と言って脅したのです。候補者を是が非でも一本化しなければ共倒れするしかないオール沖縄側としては、代わりに國仲氏を擁立する有権者無視をあえてやりました。
國仲はそのまま左翼的な容貌に似合わず明るい性格で、人柄も融和的で悪くはありません。しかし、県議ともなれば明らかに荷が勝ちすぎている事は明らかです。

このような事情で、県政の場ですでに有力な位置にある現職県議が両陣営とも苦杯を飲まされ、右も左もわからぬひよっこ二人が代わって新県議となる事に決定しました。
革新側についてはどうでもいいのですが、沖縄の保守自民党においても既得権益者の発言権が強く、有権者も当然それに従うものとして考えられていて、実際にそのとおりになってしまっています。

そうであれば、自民党は落選者を多数生む可能性のある議会勢力交代を目指すだけの候補者擁立などする必要はなく、大事に現有勢力を温存する道をたどった方が得策といえ、結果的にじり貧にならざるを得ません。
今回の選挙戦の場合は運動が不十分にしか出来ない事から、公明党の力に比例して守りを固める方向に傾いた感じもあります。
ですが、運動が不十分にしか出来ず投票率が低下する事は明らかだったのですから、その事で組織票への比重が重くなり有利に働く事は明らかだったはずです。

沖縄自民党にも弁が立つ島袋幹事長をはじめ、那覇の西銘啓史郎氏のように本土の大企業で鍛えられた抜群に頭のいい議員が多数います。一人ひとりの能力を見るならば、オール沖縄のへっぽこ議員など及びもつきません。しかし、自民党議員として立候補するには、その門戸が狭すぎるし、組織自体閉鎖的でさえあるのです。

■ 依田啓示氏と江崎孝氏の事 (余談です・・)
 依田啓示は1400票あまりの得票で落選しました。しかし、仮に当選したところで沖縄のためには決してならなかったでしょう。
事業の不振から差押えされ、そのような状態で県議選に出馬するなどまるで漫画です。事業規模を考えれば個人保証をしていないとは考えづらく、そうであれば仮に県議になったとしても道義的責任ではすまない事になりかねません。

それと、当確ラインにはるかに及ばないので、その原因が我那覇真子氏や江崎孝氏らとのトラブルにあったとは思いません。
ただ、江崎氏らとの確執は依田氏が原因です。江崎氏のブログは最近依田氏への誹謗中傷や罵詈雑言であふれていて、その事から逆に江崎氏を嫌う向きもありましょう。

しかし、双方からの雑音を取り除いてみれば依田氏の不実は隠しようもなく、江崎氏側が湯気をたてて怒るのも無理はないです。
理念保守運動家の江崎・我那覇氏と、実際家の依田氏が方針を異にして決別するのは仕方のない事です。ですが、多額の金員まで含めて援助を得ながら、文句を言われると返す刀で切りつけるようなやり方には江崎氏でなくとも納得できません。
やるべき事をやり、金銭的にもけじめをつけてきれいに袂を分かつべきだったのです。

依田氏は循環農法にかける熱意など志は立派にみえ、かつてここのブログでも取り上げられたように高江の暴力沙汰にも同情的な評価でした。
しかし、彼の周りにはトラブルが多すぎ、いちいち全てが彼本人が理屈で言うような事情であるはずがありません。昨日、近隣トラブルから別件の暴力事件で逮捕されたようですが、もう何をかいわんやです。

                                                                                                      (了)


                                                                                                 文責 山路 敬介

2020年6月12日 (金)

山路敬介氏寄稿 沖縄県議選を振り返って その1

048 

待望の山路氏より寄稿を頂戴しました。ありがとうございます。
いつもながらの深い洞察に感嘆します。

2回完結で掲載します。

                                          ~~~~~

                                           沖縄県議選を振り返って
            ~石橋を叩いても渡らない沖縄自民党は進歩したか?  
                                                                                       山路敬介

 6/7に行われた沖縄県議選翌8日の二紙の朝刊見出しは「玉城与党、過半数」「25議席 県政へ信任」「県議選 新基地反対に民意」「(安倍)政権、過半届かず痛手」(沖縄タイムス)、「与党25 過半数維持」「辺野古反対29人」(琉球タイムス)となっていて、概して「知事の県政運営に好意的な評価がなされた結果」との論調でした。
「自民が議席伸ばす 知事派辛勝も求心力低下」と打った産経新聞と好対照のようですが、二紙も二面以下では「知事、県政運営厳しく」「与野党の対立激化へ」(琉球新報)、「県政与党 薄氷の勝利」(沖縄タイムス)と本質的な事を伝えています。

当の知事本人はと言うと、さえない表情で会見に応じ「予想したよりも、非常に厳しい結果」「議席を減らした結果をふまえ、真摯に県政運営に当たりたい」として、事実上の「敗戦の弁」を漏らしています。
沖縄二紙への疑義は常のように、6/7投票日当日の朝刊にあります。争点を、沖縄タイムスは「与野党過半数焦点」とし、琉球新報は「県政・基地に審判」としていました。
しかし、これはどちらもミスリード相当でしょう。自民党や公明党は初めから今回選挙での過半数などねらってはおらず、それは候補者擁立時点で明らかでした。

自民はたった19名しか擁立せず、公明は4名でした。そこへ2名の野党系無所属を足して全員当選したとしても、ようやく過半数ギリギリの25議席に届くという体でした。
公明は結果2議席を得ましたが、下馬評では代表の金城勉氏一人しか当選出来ないだろうとされていました。
また依田啓示氏のような泡沫的な候補でも、保守つながりで潜在的自民党候補として警戒するむきがマスコミにはありましたが、末端党員レベルの思惑はともかくも、県連として選挙後の糾合策を考えての動きはしていません。

また、今回の有権者の関心事は基地問題などにはなく、他の多くの国民と同じように「コロナ禍による経済や生活への影響や心配」です。沖縄県人は恰好をつけて良く「反対」をいいますが、実態は常に「困った時の本土頼り」ですから、安倍政権とのつながりが深い自民党が好感されたのは当然の結果です。

■ 「辺野古容認」を明確に打ち出した沖縄自民党
 二紙や知事、オール沖縄などの県政与党は結果を受けて「辺野古反対の信任を得た」などと、今だに県民をしてあたかも「辺野古阻止」が可能であるかのように誤信させ続けています。
これは韓国において慰安婦問題や徴用工問題を介して反日感情をあおり、そうした問題を拡大再利用しつつ、自派への支持につなげる目標を達成して来た文政権と構図はそっくり同じです。

いいかげん、彼らの十年一日のごとく周回遅れの言論にはうんざりします。この事の決着はとうに付いているのです。県民として恥ずかしいので、ここらでもうバカな主張は止めて頂きたいものです。
これまで沖縄自民党はこうした無意味な言論に対して臆病であって、あるいは公明党への配慮もあり、辺野古移設に関して玉虫色の応答しかして来ませんでした。

しかし、昨年11月に仲井眞元知事を最高顧問にむかえ、そこから風向きがハッキリ変わりました。5/11には今回県議選の政策として、正式に「辺野古容認」を打ち出したのです。
この事は公明党に縛られた過去からの脱却を意味し、おおいに評価して良いでしょう。
菅官房長官は5/8午前の会見で、県議選で自民党が辺野古移設容認を掲げて戦った事の意義を問われ、「辺野古移設に対する県民の理解がすすんでいると思う」と答えています。
コロナで中断していた工事も今週末か、来週始めには再開出来る見通しとなっています。

■ 沖縄公明党の退潮
 公明党は今回の県議選において、ウイルス拡散などの心配から「コロナ禍においての県議選は順延されるべき」との主張をしていましたが、それはお家の事情によるものです。
お得意の創価学会員によるド派手な人海戦術を打つ事も出来ないからで、現職を含め二名が立候補を断念せざるを得ませんでした。
「ひょっとすると誰も当選できないのではないか?」との噂も飛び交い、それでもようやく二議席を確保しましたが、池田大作氏の「第二のふるさと」といわれる沖縄でのこの体たらくは中央の公明党本部にとっても痛恨事であったでしょう。

しかし沖縄公明党にとって最大の痛手は、自民党が辺野古容認を掲げつつ議席を伸ばした事です。同時に自民党は創価・公明党の力を借りずとも票を伸ばす事が出来た、この大事件の教訓は国政レベルでこそ達成して頂きたい課題です。
公明党は池田大作氏が国交正常化に道筋を着けたとして自負するゆえに、いまだに習近平国賓来日に拘泥し、山口代表は「習近平国賓来日に努力を」と頓珍漢な事を言っています。
公明党は事実上、憲法改正をはばむ最大のガンでもあります。
小池百合子都知事を裏側から強力に支えているのも公明党婦人部であるのが周知で、公明党の政策を就任後いの一番に達成してみせ、ついには二階=山口ラインで自民党からの対立候補擁立断念まで実現しました。
どのみち公明党という存在は常に政権側にいなくてはならない特殊な事情を有していて、それだけに多少邪険にされても、フンは金魚にくっついているより仕方のないものなのです。
「選挙区は自民党、比例は公明」などという馬鹿げた標語はもう金輪際見たくもなく、自公相あいのり選挙など効用は限定的なのだという事実に自民党は気づくべきです。

                                                                                                                               (続く)

2020年6月11日 (木)

おぞましい黒人差別版「文革」を始める気か

    105

やっぱりここまで来たかという気分です。
フロイド氏殺害事件は全米から欧州に飛び火し、さまざまな歴史的な記念物が破壊されようとしているようです。

英国ブリストルでは6月7日、エドワード・コルストンの像が台座からもぎ取られて、河に叩き込まれました。
やれやれ、黒人版文革でもやる気でしょうか。しかもやっているのは下の写真を見ると白人ばかりです。

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はい、確かにコルストンは人殺しの人買いであり、しかも偽善者です。
経歴を一瞥するだけで憂鬱な気分にさせられる人物です。

「エドワード・コルストン(Edward Colston, 1636年11月2日 - 1721年10月11日)はイギリス商人トーリー党の国会議員、篤志家奴隷取引家である。1340年代からブリストルに住む商人の家系に生まれ、長じてから自身も商人となり、当初はスペイン、ポルトガル、その他のヨーロッパの港を中心に、ワイン、果物、布などの貿易を行った。1680年には、イギリスのアフリカ奴隷貿易独占していた王立アフリカ会社に加入したことで、奴隷貿易に大きく関与するようになった。彼は1689年に会社の最高職である副総督に就任した。彼の資産のうちどの程度奴隷貿易に由来していたのか正確な所は不明であるが、彼が奴隷貿易に関与して財を成したことは事実である
コルストンは奴隷貿易で得た資産を元手に、ブリストルロンドン、その他の場所で学校病院救貧院教会を支援し、寄付した。彼の名前は、ブリストルのいくつかのランドマーク、通り、3つの学校、そしてコルストンパンによって記念されている。彼が設立した慈善財団に触発されて設立された財団は現在でも存続している」(Wikipedia)

ただし、彼は悪人の多くがそうであったように、篤志家として多額の寄付で学校、病院、救貧院、教会を建て、ブリストルにはいまでもその名が多く残っています。マフィアが教会に寄付するのが好きみたいなもんです。
この善行を顕彰して銅像があるわけですが、これが黒人虐殺・奴隷売買の象徴としてやり玉にあがったようです。
ブリストル市のマーヴィン・リース市長は声明を出してこんなことを言っています。

「銅像の撤去について賛否が分かれるのは承知している。この銅像は人道への侮辱を表すものだと、そう感じた人たちの声を聞くのは大事なことだ」

私はこういうリース市長の言い方は時の空気におもねった言い方だと思います。
市長は統治者であって、市民を守る法と秩序の擁護者でなければなりません。
ここで市長に問われているのは自分の価値観ではありません。
撤去するか否かを決定する権限は市長にはないし、あるとすれば銅像撤去問題について改めて市民に議論を呼びかけることくらいなものです。
というのは、ブリストルには多くの「コルストン」の名を冠した施設や地名が残っているからで、その名を残すかどうかの議論はもう何年間も続けられています。

2017年4月、コルストン・ホールを運営する慈善団体であるブリストル・ミュージック・トラストは、2020年に改装を終えて再開場する際、コルストンの名称を除く事を発表した。名前の変更を求める抗議や嘆願があり、一部の聴衆やアーティストはコルストンの名前を理由に会場をボイコットしていた。 この決定を受けて、コルストンの名前を維持するよう求める嘆願は1万人近くの署名に達したが、慈善団体は名前変更が行われる事を確認した」」(Wikipedia)

ブリストルを代表するホールである「コルストン・ホール」の改名議論では、1万の反対署名を受けながら、結局は「コルストン」の名は削られたようです。
それならそれでいいでしょう、決めるのは地元市民だからです。
問題は歴史的遺物、ないしはそれに付帯する名称変更に関しては、慎重な議論が必要で、それをスルーして暴力的に撤去するのは「黒人差別反対」という名の破壊行為にすぎません。

そのようなことをひとたび許してしまえば、世界の文明国のほぼすべてが人種差別と虐殺、そして奴隷売買といった闇の歴史を持っています。
有色人種差別は、特に米国に限ったことではなく、英国、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツなど、例外を探すのに苦労するほどです。
時には民族や住民をまるごと抹殺しようとさえしました。
たとえば、オーストラリアのタスマニア人は植民者によって「狩猟」の対象にされて絶滅に瀕しました。
なにせ白人は、つい17世紀まで、有色人種を人間と考えていなかったのです。

これはいわば先進文明国の「闇の歴史」とでもいえるもので、白い手の国は皆無です。
人種差別主義に真正面から反対したのは、有色人種として自力で唯一独立を維持した日本だけでした。
その時、米国の黒人解放運動の指導者デュボイスは、日本人に深く感動したそうです。

その日本の息の根を止めたのが2発の核兵器でしたが、それを準備したのは白人のルーズベルト、そして投下命令を下したのも白人のトルーマン、支持を与えたのはこれまた白人のチャーチルでした。
原爆投下を命令したのはすべて白人、一瞬で虫ケラのように大量虐殺されたのは有色人種です。
以後、この悪魔の兵器は人類の頭上にのしかかっていますが、それが3度目の使用を免れたのは、日本人がその全身で原爆の悲惨さを受け止めたからです。

今、白人至上主義を糾弾する人たちにお聞きしたい。
日本人が有色人種でなければ、たとえばドイツ人やイタリア人のような白人であったなら、原爆を投下しましたか?
なぜ、あなた方は、史上最大規模の有色人種虐殺を糾弾しないのでしょうか?
黒人だけが有色人差別の対象だったのでしょうか?
黒人だけが歴史の被害者だったのでしょうか?

奴隷商人の像を破壊して嬉々とするなら、ぜひ、ルーズベルト、トルーマン、チャーチルの像を河に投げ込んでからにしてください。
ただし、暴力を伴う破壊で「正義」を叫び始めたら、それは歴史を破壊する世界規模のおぞましい「文革」となることをお忘れなく。

私たち日本人は広島・長崎の大虐殺を糾弾しましたか。
ましてや力ずくで命令したものたちの像を破壊しましたか。
ただ祈っただけです。
そして亡くなられた者たちに赦しを乞い続けただけです。

歴史は光と暗黒の両面によって成り立っています。
どちらもあって今の世界を作っているのです。
その片側を切り捨ててしまえば、それはただの意識の上の歴史の浄化でしかなく、差別は温存されるだけなのではないでしょうか。

2020年6月10日 (水)

共同通信の陰険な「誤報」

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共同通信がなんとも陰険な「誤報」をやってくれました。
内容もさることながら、うんざりするのはこの共同発が世界に配信されてしまっていることです。
共同は「日本を代表する通信社」ですから、各国の新聞、通信社に配信しています。
国内では主要紙や特に地方紙の7割は、共同の記事を無検証で載せています。

ロイターはこうです。

「【ワシントン共同】香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していたことが6日分かった。複数の関係国当局者が明らかにした。中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示したが、米国など関係国の間では日本の対応に失望の声が出ている。
 新型コロナウイルス感染拡大で当面見合わせとなった中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる。ただ香港を巡り欧米各国が中国との対立を深める中、日本の決断は欧米諸国との亀裂を生む恐れがある」(ロイター6月7日)
https://jp.reuters.com/article/idJP2020060601002104

この記事で共同はこう書いています。

●共同通信記事の要約
①日本政府は、米英から中国の国安法への共同非難声明に名を連ねることを打診されたが「拒否」した。
②米政府には日本の対応に「失望の声」がでている。
③日本政府のこの配慮は、習近平の訪日実現に向けた配慮である。
④日本は欧米諸国の抗議を分断した。

通信社のブルームバークも同じ内容で配信してしまっていますから、各国の新聞、テレビに影響がでるでしょう。
これは共同が誤報だったと認め、訂正をうたない限りそのままとなります。
つまり日本が、習の訪日実現のために中国の国安法を容認し、自由主義諸国の連帯から離脱した、ということがあたかも既成事実となってしまったわけです。

当初は共同の配信を掲載した産経ですが、直ちに当該記事を削除し、このような菅官房長官の会見記事を掲載しました。

「菅義偉官房長官は8日の記者会見で、香港に対する中国の国家安全法制導入をめぐり、日本政府が米英などから中国を批判する共同声明への参加を打診されたが拒否したとの一部報道について「わが国は強い立場を直接、ハイレベルで中国側に直ちに伝達し、国際社会にも明確に発信をしている」と述べた。「米国や英国など関係国はわが国の対応を評価しており、失望の声が伝えられたという事実は全くない」とも語った。
 菅氏は、5月28日に中国の全国人民代表大会(全人代)で国家安全法が採択された際、「(日本は)他の関係国に先駆けて、私や茂木敏充外相から深い憂慮を表明した」と強調。「秋葉剛男外務次官が孔鉉佑(こうげんゆう)駐日中国大使を呼び出し、わが国の立場を明確に申し入れを行った」と改めて説明した。
のうえで「基本的価値や考え方を共有する先進7カ国(G7)などの関係国と緊密に連携していくことが重要と考えている。G7などを含めて適切なメッセージの発信などを行っていくべく、関係国と連携をしていきたい」と述べた」(産経6月8日)https://news.yahoo.co.jp/articles/628791cececd2612e70c636ff95b9507ccb2805f

これは外務省のプレスリリースにも乗っています。くどいようですが確認しておきます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008458.html

■秋葉剛男外務事務次官から孔鉉佑駐日中国大使への申入れ         令和2年5月28日

1 5月28日,秋葉剛男外務事務次官は,孔鉉佑(こう・げんゆう)駐日中国特命全権大使を召致し,以下を申し入れました。
(1)我が国は,今般,全国人民代表大会において,香港特別行政区に関する議決が,国際社会や香港市民が強く懸念する中でなされたこと及びそれに関連する香港の情勢を深く憂慮していること。
(2)香港は,我が国にとって緊密な経済関係及び人的交流を有する極めて重要なパートナーであり,「一国二制度」の下に,従来の自由で開かれた体制が維持され,民主的,安定的に発展していくことが重要であるというのが我が国の一貫した方針であること。

2 これに対し,孔大使から,本件は中国の国家安全に関わる事項である等,中国側の立場を述べたことを受け,秋葉次官から改めて我が国の懸念を伝達しつつ,中国側の適切な対応を求めました。

同じ5月28日の外務省プレスリリースにはこうあります。これもしつこいようですが、押えておきます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_005159.html

香港情勢について(外務報道官談話)   令和2年5月28日
1 我が国は,今般,全国人民代表大会において,香港特別行政区に関する議決が,国際社会や香港市民が強く懸念する中でなされたこと及びそれに関連する香港の情勢を深く憂慮しています。

2 香港は,我が国にとって緊密な経済関係及び人的交流を有する極めて重要なパートナーであり,「一国二制度」の下に,従来の自由で開かれた体制が維持され,民主的,安定的に発展していくことが重要であるというのが我が国の一貫した方針です。

3 中国側にはこのような我が国の考えを伝えてきており,引き続き状況を注視するとともに,関係国と連携しつつ,適切に対応していきます。

時系列で見れば歴然としているように、外相次官は駐日中国大使を呼び出して、直接に「深く憂慮する」として、「一国二制度を維持することが重要」と伝えたのが5月28日のことです。

ちなみに「憂慮は」外交プロトコルではこのような強さです。

■外交プロトコルによる非難の表現の度合い
断固として非難する
非難する
極めて遺憾
遺憾
深く憂慮する
憂慮する
強く懸念する
懸念する

「懸念」するより強く、「遺憾」するよりは弱いのが「憂慮」です。
一国の政府が外交表現で「非難」するなどと言い始めたら、実力行使一歩手前だと思って下さい。
現時点では国安法は全人代で成立しただけで、法律化されていません。
たぶん9月になると言われていますが、その時点でどこまで中国への抗議のレベルを上げていくのかが注目されます。
また中国が実際に国安法を適用し、香港市民の拘束や殺害を開始した場合、「極めて遺憾」で済ますのか、「非難」までいくのか、私にもわかりません。

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現時点で日本政府は「憂慮」レベルでいることは確かで、これが英米加豪の4カ国共同「非難声明」に参加することをためらわせた一因であることは確かでしょう。

「(4カ国共同声明では)声明では、中国が「これまで自由のとりでとして繁栄してきた」香港に国家安全法制を導入する決定を下したことを「深く憂慮」すると表明。新法制は「香港市民の自由を抑圧し、香港の繁栄を築いた自治や制度を著しく損なう」ほか、香港の高度の自治を明記した、法的拘束力を伴う「中英共同宣言」に直接抵触すると非難した」(ロイター5月29日)

 微妙なところですが、共同声明は「深い憂慮」ですが、非難声明であることを隠していないわけで、こちらのほうが日本の示した「憂慮」より一段と強いレベルの対応であることは間違いありません。
ですから、日本は外務次官がいうように「急にいわれてとまどった」というの半分はほんうとかもしれませんが、現段階では「憂慮」の線から出たくなかったのかもしれません。

この隙間を突いたのが共同で、おそらくワシントン特派員が国務省の誰が「がっかりしたなぁ」と口にしたのを聞いた可能性はあります。
それを共同記者は、日本も外務次官が中国大使を呼びつけて、「憂慮」の念を述べたことを知っていて、あえて無視したのでしょう。
ちなみに、外務次官が大使を呼びつけるのは強い「怒り」の外交表現です。

共同はこの時点で、日本政府が中国の国安法に対して日本が「憂慮する」態度を「直接伝えた」ことを知り得たはずです。
そして、共同が特ダネとして日本が共同声明からはずれて、失望をかったとしたのは、6月6日ですから実に10日後です。
更にこの時点で、すでに日本政府は訪日の無期延期を決めていました。

「日中両政府が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期した中国の習近平国家主席の国賓としての来日について、年内の実施を見送ることが5日、分かった。習氏の来日は来年以降も無期延期状態が継続するとみられ、事実上、白紙となる公算が大きい。中国のコロナ対応や香港問題などへの強硬姿勢をめぐっては、米国をはじめ世界各国で批判が高まっており、政府高官は「習氏は来日できないし、来ないだろう」との見通しを明らかにした」(産経6月6日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/70c0f9accfc3e7c51fd3bfecd868de12847d51cd

常識的に考えても、G7直前に日本が習の国賓招待は諦めていません、なんて言い出すわきゃないでしょう。
コロナと香港の後にんなことを言ったら、外交感覚ゼロですから。
こんなことはワシントンの日本大使館に一本電話すれば確認できたことです。

それとも、共同の番記者が大マヌケで、訪日が無期延期となったことをつかんでいなかったのでしょうか。
訪日へ色気があって中国に媚を売ったと、「中国の習近平国家主席の国賓訪日実現に向け、中国を過度に刺激するのを回避する狙いがあるとみられる」なんて、日本政府側の裏もとらずに書くのですから、二重にタチが悪い。

とまれ、このいい加減な取材を下に裏も取らずに、日本政府が中国にひれ伏して自由主義諸国の共同戦線のケツを割ったように書いたわけで、これではフェークニュースといわれても仕方がないでしょう。
仮に米国政府の誰かがそう言ったのなら、共同の記者はその場で「いや、そうは言っても、日本も憂慮していることは直接伝えていますし、とっくに訪日は諦めてますから」と教えてやればよかっただけのことです。

米国務省はこの共同電が出た翌日に直ちに否定しました。菅氏と同日ですから、日米両政府がいかに共同電を「憂慮」しているかわかります。

この共同声明に日本が参加しなかったことについて、アメリカ国務省のオータガス報道官は8日、コメントを出し、「日本は共同声明に参加していないが、中国の国家安全法制に対して強く発言してきた」と述べました。
また、「日本とアメリカは同盟国で民主主義国の仲間であり、香港情勢について強い懸念を共有している」としたうえで、「香港の民主的な価値観や自由で開放的なシステムを維持すべきだという日本の鋭い呼びかけを歓迎する」と表明し、今後も連携していきたいという考えを示しました」(6月9日NHK) 
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200609/k10012463621000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_019

やれやれ、恥さらしなことよ。
こういう共同記事のように、「嘘は言っていないが、ほんとうのことは言っていない」というバイアス記事が最も危険です。
自分の強い主観を、事実の中に紛れ込ませて勝手に色付けするからです。
これだったら初めから慰安婦をまったく別物の「勤労挺身隊」として報じた植村記者の捏造報道のほうが、すぐにバレるだけにまだましです。

今後ですが、たぶん共同はシカとし続けるでしょうね。
いやあれはそう聞いたのだ、聞いたことをそのまま報じたまでだ、ニュースソースは明かせないと言い張ればいいだけのことですから。
ただしこのような共同の記事は、中国が今やっている自由主義諸国の分断工作にまんまと、意識的か無意識かわかりませんが、乗っていることは確かです。

気をつけよう、暗い夜道とフェーク記事。

 

2020年6月 9日 (火)

デニー知事、辛うじて逃げきる

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デニー知事がかろうじて逃げきったようです。
あれだけ無内容な県政を続けてきて、談合疑惑で百条委員会に引っ張りだされる寸前に、首里城炎上で逃げきったのですから、まことに運がいい人です。
前任者がキャラ立ちしていたために、特にデニーカラーというコジャレたもんはなく、ただ側近の副知事と県幹部に護送船団されてここまで泳いできただけのことです。

県政与党応援団の琉球新報すらこんな調子です。

「玉城知事は選挙結果を受け「過半数を維持できたのは県民に一定の評価は頂いたのかと思う。議席を減らすという状況を踏まえて、真摯(しんし)に県政運営に当たっていきたい」と述べた」(6月8日)

なんとまぁ弱々しい「勝利宣言」ですこと。エイエイオーと勝どきのひとつも上げたかったのでしょうが、妙にかしこまって「真摯に県政運営に」ときたもんです。

「米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設に反対する議員は中立の公明、保守系無所属を含めて29人となった。新基地建設に反対する勢力は2008年の県議選以降、多数を占めており、今県議選でも建設反対の民意が改めて示された」(琉新前掲)

あのね、琉新さん、そう言うしかないんでしょうが、今回辺野古なんてぜんぜん争点になっていなかったことは、自分だってお分かりでしょうに。
だから本土のネット言論空間において、今回の県議会選結果を取り上げるところは右も左も皆無。
沖縄の移転問題はもう関心の対象にならないのです。

だってもう県は、移設反対でこれ以上やることが残っていません。
実は県民投票をしかけたところで、「闘争」としてはお終いなのです。
あれだけの税金を使った大宣伝を打ち、5割の投票率のうちの7割勝ったから「7割の県民が反対」じゃないのです。
数字のトリックで、実際の反対は5割の7割ですから35%程度にすぎません。

しかもその「反対」は県内の別の候補地案も含めた数字ですから、オール沖縄のように「あらゆる県内移設反対」となると、さらにそれから数を割り引いて考えねばなりません。
ですから
なんのことはない、共産党や地元紙のように「いかなる移設も全部反対」なんて、たぶん2割いるかどうかですので、こんなことなら県民投票なんかせにゃよかったとデニー氏は思ってるんじゃないですか。

県民投票が移設反対派の究極の奥の手でしたから、後はもう打つ手なしです。
かといって引っ込めるとオール沖縄が怒りますから、土砂搬入の港を使わせないとか、工事方法の改変にダメ出しをしたり、なんてイヤガラセをするしかないのです。

かといって、政府側も元々あんな難工事を予想される場所に作ってしまったツケを今になって払っているわけで、完成はいつになるのやら。
最初のボタンを掛け違っているのですから、後になるほど苦しくなります。
やれやれですが、もうここまで来るとやるしかないでしょうね(ため息)。

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http://www.kokuta-keiji.jp/blog/39053/

いちおう結果としてはこのようなところです。

「任期満了に伴う第13回県議会議員選挙(定数48)は7日、無投票当選が決まった、うるま、浦添、名護、石垣の4市区(12議席)を除く9選挙区で投票され、即日開票の結果、玉城デニー知事を支える県政与党が25議席を獲得し、過半数を維持した。島尻・南城市区などで現職が落選するなど現有議席を1減らした。一方、野党の自民や公明、保守系無所属候補の「非与党」は23議席となった。自民は現有14議席から17に伸ばした。投票率は46・96%と県議選の過去最低を記録した」(琉新前掲)

元来県議選は、もろに地区の利害をめぐる市議会選とも違い、かといってイヤでも燃える国政選挙や知事選とも違ってその位置が曖昧なために、放っておけば白ける存在です。
ですから、デニー県政を問う気迫がなければ、自ずと組織票を持った党だけが手堅く勝つしかありません。
組織票を持っているのは自民、共産、公明ですが、選挙前まで自民系は保守を一本化できなかったり、公明がしこっていたりと不調を伝えられていました。
にもかかわらず、14から17議席3議席も伸ばしたのですから、よくがんばりましたといえるでしょう。

政党としては社民が普天間基地の地元宜野湾で落とし、移設問題が有権者の選択に入っていないことを印象づけました。
一方共産党だけは地道に議席を伸ばしており、オール沖縄がかねてから言われてきたことですが、共産党支配がほぼ完成したことを印象づけました。

議席には関係しあませんが、在野保守勢力は醜悪の極みのような内部抗争に明け暮れているのですから、デニー氏を追い詰めるもクソもありませんでした。
ちなみに沖縄の在野保守は自滅です。元々大衆的な根っこがなかった上にこの抗争ですから、当分再起は難しいと思われます。猛省を促します。

投票率は最低といいますがあえていえば、県政野党がデニー氏の談合疑惑をどれだけ追及しきれるのか、この間のスーダラ県政をどれだけ締め上げられるか、だったのでしょうが、争点としきれませんでした。

お忘れになっちゃ困りますが、デニー知事は百条委員会のお白州に引き出される寸前だったのです。
知事の側近である徳森りま女史が企画したのが万国津梁会議でしたが、それを受託したのも氏の関係者でした。
しかも応募したのはたった一社。
これだけでよくある談合の手口で、出すのも受けるのも同じ団体です。
しかもその会社は公募の少し前に県外から移転したばかりのペーパーカンパニーと来ているんですからもうモロに談合です。
その疑惑を上書きするように、知事はこの側近や受託業者と契約日前夜に祝宴を開いていたのですから、なんて脇が甘いこと。

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上の写真がその談合風景ですが、手なんか振ってる場合じゃないでしょうに(笑)。

デニー知事は「知らなかった」と記者会見でいい、それと口裏を合わせるようにして総務部長も「契約日前夜であったことを知事に教えていなかった」などと見え透いたことを言っていますが、ありえません。

あの酒席には、側近でこの疑惑の中心人物であるこの徳森女史自身が顔を出していて、彼女はある左翼系政治団体の代表格で、自分の団体に3400万の公金をころがしていたわけです。
この側近の談合の舞台をしつらえたのがデニー知事ですから、これが立場が逆だったらさぞかし地元紙や共産党は色めき立って首を取りにきたことでしょう。

それがあの知事の右往左往ぶりを見せつけられた首里城炎上で雲散霧消してしまったのですから、デニー氏はさぞかし内心「やったね」と思ったことでしょう。ラッキーな男です。
張り切りすぎて、直ちにカネをせびりに官邸にまで駆けつけたら、寄付金があつまりすぎて使い道に困るというお粗末。

あとはすかし屁のような県政運営です。
副知事と官僚におんぶに抱っこして、豚コレラも新型コロナもみんなやり過ごして、破綻だけはしなかったが、リーダーシップもなければ理念もなし。
取柄は歌とギターがうまいことだけで、これだけ存在感が希薄な知事も全国でも珍しいのではないでしょうか。

ラッキー男といえば、まったく候補にも登っていなかったのに、オール沖縄の内部調整失敗で突然降って湧いたように候補者に。
それも翁長氏の「遺言」で決めたというんですから、ユタさんの占いみたいなもんです。
それでも勝てたのは、「翁長氏の弔い合戦」だったからで、実力でもなんでもありはしません。
特に県政でやりたいこともなければ、移設問題なんか真面目に考えたことすらなかったでしょう。

県知事なんかやらせるのは論外だし、そもそも政治家なんてやるべきじゃなかった、ただのタレント政治家だったのです。
とまれ、これで信任を得たということになるのかどうか、はなはだ疑問ではあります。

 

 

2020年6月 8日 (月)

ニューヨーク市とワシントン市長の愚行をトランプが無視できるわけ

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あんなアチャラカ県政をしていても、デニー派が勝てたようです。明日に回します。

さてフロイド氏の弟による再度の平和デモの呼びかけで、暴動・略奪行為は鎮静化したようです。
ひとまずはめでたいことではあります。
一方、ワシントンには全米から20万人のデモが集まったそうです。

「白人警官による黒人暴行死事件を受け、12日連続となる抗議デモが6日、全米各地で行われた。米メディアによると、首都ワシントンでは事件発生以来、最大規模のデモに発展した。ロンドンなど米国外でもデモが相次ぎ、人種差別への抗議が世界で勢いを増している。警備強化や逮捕で略奪などの暴力行為は沈静化しつつあるが、デモで訴える内容は広がっており、長期化する可能性もある」(日経6月7日)

詳しいことはまだわかりませんが、同日にはニューヨークで同時多発的集会が開かれており、ワシントンに合流したのかもしれません。
日経も書いていますが、大統領選挙を目前にして長期化する可能性が高くなり、世界の人の眼から、6月4日の天安門事件31周年で立ちあがった香港の民主派デモもどこかに蒸発してしまいました。
北京のほくそえむ顔が目に浮かびます。

偶発的に起きたフロイド事件と違って、中国が香港の民主主義を根こそぎ奪う国安法をかけようとしているのですが、これに対して20万人の人が全米から集まるかどうか。
中国がトランプを「香港のデモは支持して、てめぇの国のデモには軍隊をだすのか」と言ったのとは別の意味で、米国リベラルの「二重基準」ではあります。
中国ならずともデモ参加者に聞きたいのですが、解決不能の人種間対立と、根こそぎ700万人を超える人たちが民主主義を奪われるのとどちらが重いのでしょうか。

米国民主党などのリベラル派は、「虐殺者白人=トランプvs虐殺される黒人」という単純化された図式を作りたいようで、二つほど民主党左派の首長による象徴的な動きが出ました。
州兵トップの話として、6月3日のロイターによれば、「1万8000人規模の州兵が全米29の州で地元警察などの支援に当たっており、米国防総省がも2日、ワシントン首都圏に陸軍兵士約1600人を配置した」ことを明らかにしました。
ひとつめは゛この動きに対して、州兵の動員をめぐって ニューヨーク州知事と市長が対立しています。
ふたりとも民党左派出身でゴリゴリの反トランプですから、そうとうにヘンな風景です。

「今後の対応を巡ってニューヨーク市のデブラシオ市長と、クオモ州知事の対立が表面化している。デブラシオ市長はマンハッタンに州兵を展開することに反対し、代わりに地元の代表者に行動を呼び掛けていた。
デブラシオNY市長
 「NYには3万6000人の警察官がいる。州兵は不要だ。地域社会における真のリーダーたちに先頭に立ってもらうことで、事態を打開したい。地域社会の代表者や、市民の代表者、聖職者や選挙で選ばれた代表者など、本当に地域社会を代弁する人たちだ」
 一方、クオモ知事は市長とニューヨーク市警の対応は不十分だと批判した。
 ニューヨーク州 クオモ知事
 「NY市警と市長の昨夜の仕事ぶりは不十分だった。 映像を見よ、ひどいありさまだ。市長は問題を軽んじているのではないか。問題が長引いていることを深刻に受け止めていないのではないか。事態の対応に十分な警察力を動員したとは思えない」(6月3日ロイター)

思わず失笑してしまいました。
市長は連邦軍はおろか州兵すらノーと突っぱね、放火・略奪がマッハッタンで起きても州兵すら動かすのを拒否しました。
その反面、数万規模の三密集会を容認しています。
集会の中には相当数の感染者がいるはずです。
だって米国は100人万あたり2000人の感染者数ですから、20万人集まれば400人はいるって見当ですからね。もうどうなっても知りませんよ。

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/33037

たぶん遠からず、デモを原因とする「デモ・クラスター」が発生し、ニューヨークやワシントンは再び都市封鎖の再開となるでしょう。
結果、都市封鎖が長期化し、経済はさらに崖っぷちとなり、失業者は倍増することとなります。
そして、「黒人を殺すな」と叫ぶ黒人下層階級を直撃し、警官の膝ではなく経済が彼らを殺します。

為政者としてバカ過ぎます。無責任の極みです。
今の時期、野放図に大規模集会を認めること自体が非常識です。
主宰者が集まった人たちを管理しきれる規模の小規模集会に抑え、三密を徹底的に抑制すべきでした。
それを州外から何者ともしれぬ者たちが流入し、火付け強盗まで働くのを黙ってみていろ、という市長が米国最大の都市の首長に座っているとは驚きです。

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https://www.nishinippon.co.jp/image/196533/

また、ワシントンD.C市長は、ペンシルバニア通りを「ブラック・ライブズ・マター・ストリート」(黒人の命は大切通り)とすると発表し、道路のデカイ字でペイントまでしてしまったようです。
勝手に市長が独断で決めたことですから、議会の追認がいるでしょうが、バウザー市長は黒人で民主党左派のようです。

「米首都ワシントンのホワイトハウスに向かって延びる通りに5日、黒人差別の解消を求めるスローガン「BLACK LIVES MATTER(ブラック・ライブズ・マター、黒人の命は大事だ)」が巨大な黄色の文字で描かれた。米中西部ミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性暴行死事件の抗議デモが連日行われている場所で、ワシントンのバウザー市長は通りの一角にスローガンの名前を付けた」(毎日6月6日)

この路はホワイトハウスを真正面に見る街路ですから、この市長の意図はわかりやすすぎるほどです。
ここでも登場するのが、「黒人・リベラルvs白人・トランプ」の人種対立の図式です。
首都の首長が人種対立をみずから率先して煽っているのですから、まったくもう。

ちなみにこのハウザー市長も連邦軍の動員も拒否したかったのでしょうが、あいにくここは特別区ですから大統領の命令で連邦軍を入れてしまいました。
ニューヨークのようなパーフォーマンスができなくて、道路に巨大スローガンを描いたということのようです。あんた子供か。

これを日本のメディアは「黒人の死を痛む人々の連帯の意志」といった美談調で報じていますが、私にはこれでまた一段と人種間対立が深まったようにしか見えません。
場所が場所だけにワシントンDCや市議会や、米国連邦議会がどのように反応するのかが注目されます。

ところで、世論調査が出始めてきています。

●ニュースサイトのアクシオスと調査会社イプソスによる「自分や家族が警察に守られているとの信頼感」の調査結果
・信頼感を持つ69%(白人77%、黒人36%)

●モンマス大学2日、「デモ隊が示している怒りについて」の調査結果
・少なくとも一部は正当だと考える78%
・デモ隊による行動の少なくとも一部は正当である54%

●CBSニュースと調査会社ユーガブによる「警察は黒人より白人に甘いか」の調査結果
・甘い57%、公平に対応している39%(白人に甘いと感じる白人は52%、黒人は78%。党派別では、公平と答えた人は共和党支持者の61%に対し、民主党支持者では17%)

●同上「事件や抗議デモへのトランプの対応」の調査結果
・支持する32%
・支持しない19%

●同上「トランプが白人を優遇しているか」の調査結果
・していない4分の3

●ロイターによる「軍の動員について」の調査結果
・「大いに」と「ある程度」を含めた支持58%(軍隊の派遣に「大いに賛成」33%、「ある程度賛成」25%)
・反対30%(大いに反対19%、ある程度反対11%)
・政党支持者別共和党支持者の77%が賛成・民主党支持者の48%が賛成・無党派層の52%が賛成

要約
①警官への不信感やデモ隊の怒りには支持が強い
②トランプの黒人への差別イメージについては厳しい評価
③連邦軍の動員については支持が58%の高率
④共和党支持者の77%が動員に賛成・民主党支持者の48%が賛成

なかなか渋い回答です。
フロイド事件について白人警官のとった行為について、人種を超えて国民は強く批判するが、4分の3がトランプ政権が白人を優遇しているとは思っておらず、トランプの連邦軍動員については58%が賛成しているということになりました。
一見トランプが政治的に追い詰められているように米国メディアは報じていますが、実はトランプが強気でいられる理由もしっかりとあるということです。

 

 

2020年6月 7日 (日)

日曜写真館 梅雨入り前の水の郷

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あやめあざやかな 水をのまう    種田山頭火

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野あやめの 離れては濃く 群れて淡し 水原秋桜子

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ほととぎす 鳴くや五月の あやめ草 あやめも知らぬ 恋もするかな
       よみ人しらず(古今集)

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2020年6月 6日 (土)

フロイド事件は黒人差別問題ではなく人種間対立問題だ

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BBCが、フロイド氏を殺害した白人警官に対する量刑について報じています。

「ミネソタ州法では、第3級殺人罪は殺意の証明が不要だが、第2級と第1級殺人罪では必要となる。第1級殺人罪は多くの場合、計画的犯行だったことを示す必要がある。
第2級殺人罪の最も重い刑は禁錮40年で、第3級殺人罪より15年長い。
一方、これまで訴追されていなかった他の3人の元警官は、第2級殺人ほう助罪および第2級故殺ほう助罪で起訴された。」(BBC6月4日)
https://www.bbc.com/japanese/52916375

これは現在、白人警官の主犯は第3級殺人で起訴されていて、これは殺人の意志の証明が不要な代わりに、禁固刑が15年短い25年となるからです。
日本はよく死刑という非人道的な刑罰があると欧米から批判されていますが、その代わりに量刑が短くなっていてバランスをとっています。
今回のフロイド事件で日本において、25年の禁固刑が求刑されることはまず考えられません。

それはさておき、フロイド事件が現実に公判に持ち込まれた場合、この白人警官に計画的にフロイド氏を殺害する意志があったか、なかったかが争われることになりますが、それを立証することはそうとうに困難です。

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ミネソタ州キース・エリソン司法長官

新たな起訴を発表したミネソタ州のキース・エリソン司法長官は、このように述べています。

「正義を求める考えを表明。元警官を訴追し有罪にするのは困難との見方にはとらわれていない、と述べた。
有罪判決を勝ち取るのは難しいだろう。困難が待ち受けているのは歴史が示している。
ミネソタ州で現職の警官が民間人を殺したとして有罪となった事案は、これまで1件しかない」(BBC前掲)

州司法長官さえ、量刑が重い第1級や第2級にすることは簡単だが、それをするとたぶん公判が維持できずに、無罪となってしまうとみています。
だから殺意の立証が要らない第3級殺人にしたのですが、そうなると遺族や抗議する側が軽すぎると怒ることになります。
有罪に問える可能性が高い方を選ぶのか、さもなくば罪名は重いが無罪となる可能性が高い方を選ぶのか、ミネソタ司法当局は難しい判断を迫られることになります。
つまり第3級殺人とすれば黒人層とリベラルから怒りを買い、第2級に格上げすれば白人層と保守層から反発を食ってしまいます。

しかも、警官の過剰な暴力については弁護の余地がありませんが、これも全米で職務執行中に殺害される警官があまりにも多いことを考えると、一概に第2級に格上げすれば済むこととも思えません。
というのは、警官は米国においてもっとも危険な職業のひとつだからです。

「今年8月26日までに射殺された警官38人の中には、最初の勤務日に被害に遭った28歳の女性警官や退職直前に射殺された65歳の保安官らがいる。38人目となったのは今月25日、家庭内暴力の通報を受けて出動し民家近くで射殺されたテネシー州メリービルの32歳の警官だった。
米国社会では最近、警官によるアフリカ系(黒人)住民の射殺事件が相次いで発生。この仕打ちの背景には人種差別があるなどとして黒人による抗議も多発し、警官を狙い撃ちする発砲事件も起きている」(CNN2016年8月27日)
https://www.cnn.co.jp/usa/35088108.html

このような背景が、警官を過剰な暴力による逮捕に向かわしているのであって、一般的に黒人差別に結びつけるのは短絡的ともいえます。
弁護人はとうぜんそこを突いてくるでしょうから、そもそも今回の事件がフロイド氏が偽札を使用していたことで発生したわけで、警官は彼をならず者と見てあの挙に及んだと弁護すれば、「殺人の意図をもって計画的に遂行した」ことが要件の第2級殺人罪では敗訴する可能性があります。

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ニューズウィーク

さて抗議デモは世界的にひろがっています。

「3日にはオーストラリア、フランス、オランダ、イギリスでデモが起きた。イギリスではロンドン中心部で大規模な抗議行動が開かれた」
(BBC前掲)

各国のデモも自分の国の人種問題に引っかけていますが、人権問題一般としてフロイド事件に抗議するのはいいとして、各国で様相が異なる人種問題までトランプが悪いみたいな言い方をするのはいかがなものでしょうか。
トランプは確かにマティスが批判するように国の分裂を食い止めようとしていないのは事実ですが、今回の平和的デモについては批判していません。
あくまでも彼が批判しているのは、アンティファの暴力と略奪に対してなのであって、それに軍を出すと言っているにすぎません。

特に黒人がいない国(たとえばオーストラリアなど)までもが尻馬に乗るとなると、失礼ながら中国の国際的分断工作に乗っているようにすら見えてしまいます。
まして在日クルド人までもが職質を振り切って逃げてつかまったことまでギャギャーいうなど、調子にのんなって。 

なにを隠そう、世界でもっとも黒人差別がひどい国の筆頭は、実は米国ではなく中国です。
アフリカ人は、中国のエネルギー爆喰い進出と共に拡大し続け、広州を中心にして数千人から1万人が入国しているといわれています。
彼らの中には相当数の不法入国者がいて、闇の底辺労働者となっています。 
 
いかなる統計にも登場せず、「いない人」となっていて、最低辺の労働階級として国家の保護の外にいます。
つまり国民扱いされていないのですから、差別以前の問題です。
こんな国では黒人差別問題が年中発生していますから、その中国の手の平の上で「黒人を殺すな」デモするなんてまるで悪い冗談です。

連帯デモをするのは勝手ですが、残念ながら、米国の黒人問題には解決の方法がありません。
なぜなら、これは前の記事にも書きましたが、「米国の歴史が生んだ固有の問題」だからです。
ですから他国の人間が人権問題一般で語っても、なんの意味もありませんし、トランプを「差別の張本人」扱いしてもなにひとつ解決されません。

これは香港問題と米国黒人問題を比較するとわかります。
香港問題は解決可能です。民主主義をまともに運営すればいいだけのことです。
香港に自由選挙と言論・結社・示威行進の自由を認め、香港市民自らに、自分たちの進む方向を選択する自由を与えれば解決するからです。

では米国黒人にこれらの民主的諸権利が与えられていないのでしょうか。
いえ、与えられています。しかも過剰なほどに。

米国は、残存する黒人の差別待遇を解消するためと称して、アファーマティヴ・アクションを長年行ってきました。
白人青年より遥かに低い点でも黒人は入学できるようになり、やがて機会均等という米国民主主義の根幹を侵し始めました。
黒人の逮捕要件の緩和や裁判での酌量余地を広げたことも同じく、法の下の平等を棄損しました。
黒人層に向けた社会保障の重点配分もまた白人貧困層に怒りを生み出し、結局、かえって黒人と白人の人種対立を深めてしまう結果となってしまいました。
これらのことは、米国民主党政権下で行われ、特にオバマ時代に顕著になったことです。

トランプ政権はこの逆差別に怒る白人層を背景に誕生しています。
だ からトランプが米国リベラルの神経を逆撫でするようなことを言えば言うほど人気がでることになりました。
つまり皮肉にも、リベラル流の黒人差別解決法によっては、かえって人種対立が激化し、トランプのような「白人の本音」をズバズバ言える政権が生まれてしまうのです。
その意味で、トランプを生みだしたのは、このリベラル政策の失敗だったともいえるわけです。

つまるところ、このリベラルの失敗は、本来人種対立問題として捉えねばならない問題を、黒人問題として狭く切りとってしまった結果、ただの黒人優遇政策に終わってしまったからです。
今回のフロイド事件も、これを黒人差別問題として捉えるリベラルの見方でみるからおかしくなるのであって、本来は白人と黒人の人種間対立・抗争として捉えるべきなのです。
言い換えれば、米国という多数の人種で構成されているモザイク国家の「統合」の失敗問題なのです。

では、どうすればよいのでしょうか。
正直に分からないと答えておきます。
アレコレ具体的に考えれば考えるほど、いっそう分からなくなりました。
無責任に他人の国のことに「黒人を殺すな」なんて言っているほうがよほど気楽というものです。

 

 

2020年6月 5日 (金)

トランプは軍を投入できるか?

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トランプが軍を暴動に投入すると言い出しましたが、これを白人市場主義者だから黒人暴動を力で鎮圧するつもりなんだ、というメディアの声を聞きますが、それは違うと昨日書きました。
あのトランプの軍投入発言は、その妥当性は別にして、彼が白人至上主義(この言い方自体がリベラルが作ったもので、バイアスがかかっていますが)だとしても本当にできるのかということについて考えてみます。

結論から言えば、軍を暴動に投入することは法的には可能です。
おっと、この場合の「軍」とはあくまでも狭義の「軍」、すなわち連邦軍ですから、そのつもりで。
米国はその国の成り立ちから、まさに「国家の集合体」であって、日本の自治体とは比較にならない強い権限を持っています。
地方政府(州政府)は州軍(州兵・National Guard) という軍隊さえ持っていて、なんと戦車もあればF22なんて最新鋭スティルス戦闘機まで持っていて、そんじょそこらの中規模国家並の力をもっています。

州軍は、連邦軍、いわゆる「米軍」とは補完関係にありますが、指揮権は州知事にあって、大統領にはありません。
州知事の指揮下で、郷土防衛をするのが仕事です。
具体的には、州内におけ治安維持、今回のような暴動鎮圧や災害派遣をおこなっています。

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ウィキ

上の写真はニューヨーク・ペンシルバニア駅で警備を行う州兵ですが、見た目はまったく「米軍」とかわりません。

では郷土防衛しかしないのかといえば、そうではありません。
ホワイトハウスは米国同時多発テロの直後に国家緊急事態宣言を出しましたが、連邦政府の要請があれば州の指揮下で行う連邦任務」(State active duty )をすることができます。

このように連邦に協力することができるというのが分かりにくくしているところで、連邦軍と州軍の境がぼやけて、一緒に作戦行動をしているうち、なんとなく一体化してしまってみえてしまいます。
たとえば、かつてのロサンジェルス暴動でも、当初は純然とカリフォルニア州軍として出動していましたが、情勢悪化にともなって連邦軍が出動すると、実態としては一体となってしまっています。

そのうえに、州軍は連邦軍の予備役を担っています。
大統領は州軍を「連邦政府の指揮下で行う連邦任務」(Federal active duty)として動員することが可能です。
ですから、大統領は遠慮なく州兵をアフガンやイラクに動員しています。

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上の写真はアフガンで警備に当たるインディアナ州兵ですが、外国においても州軍は「米軍」と一体化して活動しています。

以上を頭に入れた上で、今回のアンティファ暴動事件を考えてみます。
まず一義的にこれに動員されるのは連邦軍ではなく、州軍です。
いきなり連邦軍が、州の縄張りを荒らしてはマズイのです。
ですから、トランプは6月1日に、「住民の生命財産を守るため必要な行動を拒否する市または州があれば、米軍を派遣して早急に解決する。ワシントンDCには数千人の重武装兵や警察官を展開しているところだ」と述べましたが、いきなり州に連邦軍を投入するとは言っていません。

大統領が州にいきなり連邦軍を入れることができるのは、コロンビア特別区(DC)だけの特例であって、他の州は知事の承認をえねばなりません。
実はすでに20の州で数千人の州兵が出動しています。

では、先ほどのトランプが言った、「住民の生命財産を守るため必要な行動を拒否する市または州があれば」どうする気でしょうか。
州知事の承認がなくては手も足もでないのかといえばそうではなく、1807年の反乱法(正確には「反反乱法」Insurrection Act) で可能となります。

「反乱法は、大統領が州の状況について連邦法の執行が不可能と判断した場合や、市民の権利が脅かされているとみなした場合、州知事の承認は不要だと定めているのだ。この法律は1807年に制定された。大統領に対し、「インディアンの敵対的襲撃」への防御として、国民軍の出動命令を認めるものだった。その後、国内の騒乱対応や市民権を守る目的でも連邦軍を活用できるよう、権限が拡大された」
(BBC News6月3日)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19821

また、米議会は2002年、議会の制定法によらなくても、「戦争、反乱またはその他の重大な緊急事態に即応する憲法上の義務を果たすため、軍隊の使用が必要だと大統領が判断した場合」には、法執行を含めて国内で行動させることができる、という決議(合衆国法典第6編第466条)を制定しています。

実際にこの反乱法は使われたことが何度もあります。
大統領が反乱法を用いることができるのは以下の場合です。

①反乱が起きている州の議会(州議会を開くことができない場合は知事)が大統領に支援を要請した場合。
②反乱のため、通常の司法により連邦法を執行することができない場合。
③反乱もしくは暴動によって法執行が妨げられ、州の住民が憲法上の権利を剥奪されており、その権利を守る意思または能力を州が失った場合。

いままで使われた有名なケースとしては、ケネディのメレディス事件やリトルロック高校事件の例があります。
これは黒人学生が人種分離を定めた大学や高校に通学しようとして阻まれたことに対し、州政府の能力喪失だとして、③の「憲法上の権利を剥奪された」州住民(学童)を保護するために連邦軍を派遣しました。
これなどは州知事の意志と大統領の意志が真っ向から対立する場合において、州を従わせる目的で連邦軍を投入した例となりました。

また、暴動鎮圧に対して連邦軍は反乱法を法的根拠にして何度か投入されています。
ジョンソン大統領は1967~68年の都市暴動に対して、パパブッシュが1989年のバージン諸島ハリケーン被災後の治安悪化や、1992年のロサンゼルス暴動に際して、①の知事の要請に応じて連邦軍を派遣しています。

なお、連邦軍は出動に当たっての武器使用は、軍隊としての交戦規定(ROE)ではなく、警察の「実力行使規定(RUF)」ですから、実際は「軍」という言葉から想像するよりはるかに警察に近いものとなるはずです。

しかしそうであったとしても、ひとたび連邦軍を介入させるとその後始末が大変ですので、国防長官は否定的なようです。 

 [ワシントン 3日 ロイター] - エスパー米国防長官は3日、全米で激化する白人警官による黒人男性暴行死を巡る抗議デモの鎮圧に向けて反乱法を発動し、軍を動員することは現時点で支持しないとの認識を示した。
エスパー長官は「現役部隊を投入する選択肢は最終手段であり、最も緊急かつ切迫した事態にのみ限られるべきで、現在はそのような状況にはない」と説明。「反乱法の発動を支持しない」と述べた」(ロイター6月3日)
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN23A2YV.html

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ホワイトハウスを警備する連邦軍兵士と激励するエスパー国防長官 産経

また、前国防長官のマティスもこう発言しています。

「マティス氏は「我々の都市を戦場と見なすいかなる考えも拒まねばならない」と主張。「トランプ氏は私の人生で米国民を一つにまとめようとしない初めての大統領だ。団結させようと見せかけることもしていない」と非難した。」(毎日6月4日)

このふたりとも軍籍から離脱していても、米軍幹部の意見として聞いたほうがよいでしょう。
すると軍人の多くは、暴動鎮圧に投入されることをよしとしないようです。
なぜなら、それはマティスがいうように自分の国を「戦場」とし、自国民を「敵」としかねないからです。
というのも、暴動の大部分は穏健でまともな市民によってなされる、正当なデモであって、それに軍を使ういかなる理由もないからです。
そして夜になされるアンティファの放火・略奪行為と、昼の平和的デモを完全に切り離して鎮圧するのは難しいと考えているのかもしれません。
切り離しに失敗した場合、連邦軍までもが市民の敵となりかねませんからね。
アンティファの取り締まりと撲滅は、州警察とFBIの仕事なのです。

もっともトランプもそのあたりは判っているようで、言っただけで具体的にはなにも進展していません。
国防長官の発言も、横で言わしているのですからある種の容認で、例によって「高めのボールを投げた」だけなのかもしれません。

 

 

2020年6月 4日 (木)

トランプが守ろうとしているのは白人至上主義ではなく「秩序」です

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もう少しアンティーファ(ANTIFA・アンチファシズム) について続けることにします。
あれはいったいなんだったんでしょうね。

ミネアポリスで亡くなったフロイド氏の弟が、「お前ら何やってんだ!こんなことやっても俺の兄貴は帰ってこない」と言った時点で、穏健なデモに切り替わると思うのが普通です。
白人警察官の殺人行為について抗議することは国民の正当な権利です。いやむしろ市民の義務と呼んでもかまいません。
あのような過剰な警備を放置すれば、警察に対する信頼が崩壊し、「無秩序への渇望」が生まれるからです。

しかし治まる気配もなく、むしろ、ワシントンDCや、都市封鎖が明けやらぬニューヨークにまで暴動が拡がってしまいました。
暴動といっても、商店を略奪して火を着けるんですからタチが悪い。
ただの無届けデモでもなければ、警官とやり合ったなどというレベルではなく、完全な破壊活動です。
これも警官の暴行と別の意味で、「無秩序への渇望」です。

つまり警察権力と破壊分子が一対になって平和な市民社会を破壊して無秩序のカオスを作ろうとしているのです。
これに対してトランプが軍を投入するといったのは、この暴力沙汰に対してであって、平穏なデモに対してではありません。
トランプのツイッターです。

「悪党らはジョージ・フロイド氏への追悼をおとしめており、許せない。たったいまウォルツ・ミネソタ州知事と話し、軍は知事を全面支援すると伝えた。私たちは事態を掌握するだろうが、略奪が始まれば発砲が始まる」

トランプの軍投入発言に対して批判しつつもウォールストリートジャーナルは、一定の理解も見せています。

「ドナルド・トランプ米大統領は1日、全米各州の知事らに対し、店舗での略奪、建物への放火、警察への襲撃などの不法行為をしている人々により厳しく対処し、彼らを「制圧」すべきだと叱咤(しった)した。トランプ氏の言葉はいつも通りに直接的で非同情的なものだったが、州政府や自治体にとって公共秩序の回復が最優先という点では彼は正しい。
州知事や市長は、何の罪もない人々を守る必要がある。そうしないのであれば、連邦政府は、市街地をパトロールするため軍の出動を要請せざるを得なくなる」WSJ6月2日 『米暴動鎮圧、軍の出動は避けるべき』)
https://jp.wsj.com/articles/SB11497985399940914732104586421160438668264

このへんの感覚は日本人には理解するのは難しいかもしれません。
日本ではデモが略奪に及ぶことはぜったいにないからです。
日本にも少数ながらアンティファがいますが、彼らにできるのは首相の頭の人形をひき潰す趣味の悪い遊びていどのことで、略奪・放火などをやる凶暴さはありません。

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日本でアンティファのような運動を探すには、50年ほど前の連合赤軍事件まで遡らねばなりませんが、米国の場合、左の暴力を放置すると、対抗的に右を繰り出す可能性があります。
米国のアンティファが誕生したのは、2017年、アトランタにあったリー将軍像を撤去した事件に対して白人至上主義と呼ばれる人々が抗議し、これに後にアンティファと自称するようになった極左勢が殴り込んだからです。
誕生の当初から暴力で反対派を黙らせようとする性格は変わらなかったようです。
この凶暴な暴力性がアンティスァの第1の性格です。

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ではなぜ、リーの銅像が撤去されたのでしょうか。それは南軍の将軍だったリーが奴隷を所有していたからだとされています。

「トランプ氏はこの日、ツイッターで「美しい像や記念碑が撤去され、われわれの偉大な国の歴史と文化が引き裂かれるのを見るのはつらい」と述べた。また「歴史は変えられないが、そこから学ぶことはできる」と続けた。(略)
 トランプ氏は今週に入り、リー将軍像の撤去が、歴史からジョージ・ワシントン元大統領やトーマス・ジェファーソン元大統領を削除しようとする動きにつながりかねないとの見方を示していた。この2人の元大統領は奴隷を所有していた」(ウォールストリートジャーナル2020年6月4日)。

これは今回、ミネアポリスで歴史的遺産とされた教会が焼き討ちにあったことと重ね合わせるとアンティファの2番目の顔が見えてきます。
それは歴史の抹殺です。
歴史をありのまま見ることを拒み、自分の考える「正義」で歴史を断ち切ろうとします。
奴隷を所有していたリーの銅像を撤去することも、白人教会に放火することも、間違った歴史は抹殺されるべきだと考えているからです。
おそらくこの考えを煎じ詰めていくと、トランプがいうようにワシントンもジェファーソンも奴隷所有者としてなで斬りにせねばならず、大統領就任宣誓式で聖書に手を置くことすらできなくなることでしょう。

そうそう、米国でリークリスマスを言うのももうダメだってトランプが嘆いていましたっけね(笑)。
えてしてこの「行き過ぎた正義」は、中庸と常識を憎悪し、伝統を破壊します。
アンティファは装いこそ目新しいものの、今、米国を覆っているポリティカルコレクトネスの鬼っ子にすぎないのです。
ちょうどかつての社会党・共産党といった既成左翼と、そこから生まれた過激派との関係のようなものです。

アンティファは、その時代において奴隷が合法だったことを無視して、現代の眼で過去を批判し、歴史の上から抹殺しようとします。
これは慰安婦時の日本のリベラルの発想と同じで、過去をその時代に腰を落として見ることを拒み、今の価値観でバサバサと斬っていきます。
当人は気持がいいでしょうが、やられた側はその歴史の上に自分が今生きていると考えていますから、とうぜん反発します。

リーの銅像の場合なら南部諸州にもたっぷりと言いたいことははあるわけで、今になって差別主義者なんてレッテルを貼られたらたまったもんじゃないでしょう。
しかも米国社会は極端な銃社会で、今回のコロナで銃の売り上げが6倍になったというようなぶっそうな国ですから、この両極端の抗争には必ず暴力と死が登場します。
今回の黒人暴動が更に燃え盛れば、まだなりを潜めている白人至上主義者も銃をもった「自衛」に乗り出すことでしょう。
かくして白人vs黒人の対立に、左右の対立が加わり、米国社会は銃を乱射し合うジャングルに変わっていくかもしれません。
トランプが止めたいのは、このような状況なのです。

リベラル・メディアは、トランプを白人至上主義者と決めつけていますから、この抗議活動を軍で頭から潰そうとしているように描いていますが、これは間違いです。
彼が守ろうとしているのは、あくまでも民主主義社会の基盤である「秩序」なのです。

そこで考えていただきたいのですが、昨日暴動が拡大した場所はどでしょうか。
米国中枢のマッハッタンやワシントンDCです。

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ブルームバーグ

「ミネアポリスの白人警官に膝で首を押さえつけられて死亡したフロイドさんの殺害事件を巡って全米で各地で抗議デモが続く中でこの警官は第3級殺人罪で起訴された。この事件は、過剰な警察力の行使に対する非難を再燃させ、黒人の命の尊重を訴える「ブラック・ライブズ・マター」運動に拍車をかけている。
ニューヨーク市のデブラシオ市長は、1日に発令した夜間外出禁止令を7日までは継続すると2日明らかにした。開始時間は午後8時に早め、翌朝午前5時まで実施する」(ブルームバーグ6月4日)

ニューヨークでは6月1日には五番街があるタイムズスクエアで暴動が起き、以下点々と市内で発火し、夜10時にはブルックリンまで拡大しました。
ワシントンにも暴動が及び、トランプがホワイトハウスの地下に避難したほどです。

トランプがアンティファを名指ししてテロ団体指定すると言ったのは、一般の平和的デモと極左を切り放すのが目的でした。
どこまで本気でテロ団体指定できるのかは未知数で、今まで国内の勢力をテロ団体指定したことはなく、あくまでも外国勢力の紐付きでなければ難しいとされています。
一方トランプは、アンティファが中国からいくつかのペーパーカンパニーを通して資金提供を受けているとにらんでいると思われます。
その可能性はあるかもしれませんが、どこまで証拠だてられるかは別です。
ただし、今の米中新冷戦のさなかに起きた事件ですので、中国の紐の線が徹底的に洗われることは間違いありません。
先ほどのウォールストリートジャーナルはこのように報じています。

「ビル・バー司法長官が説明したように、連邦政府には、法律違反者を追及するための別のより良いツールがある。バー氏は31日、「外部の急進主義者や扇動者の団体がこの状況を利用して、自分たちの分離的、暴力的かつ過激主義的な計画を遂行しようとしている」と述べた。同氏は極左グループ「アンティファ」にも触れた。アンティファは米国のシステムが腐敗していると考え、暴力が警察や財産と敵対するための正当なツールだと信じている自称無政府主義者のネットワークだ。
ニューヨーク市警察で情報・テロ対策の責任者を務めるジョン・ミラー副本部長は31日、暴力が組織化され、細かいところまで計画されていたことを示す類似の証拠を持っていると述べた」(WSJ前掲)

このニューヨーク市警察の情報・テロ対策責任者のいう「暴力が組織化され、細かいところまで計画されていたことを示す類似の証拠を持っている」というのが、具体的になにを指すのかは不明ですが、全米規模の同時多発破壊行動がなんの連絡も統制もなくなされるはずもありません。
「州外から来た」と当局者に言われている一定規模の部隊編成が必要で、その頭脳に当たる司令部や資金を提供する兵站も備わったグループである可能性があります。

その頭脳と兵站の先に中国の長い手がついているかどうかは、今後の捜査によるしかありません。
その証拠がみつかるかどうかはわかりませんが、今回の「行き過ぎた正義」であるアンティファに対してトランプが軍隊を出動させると述べたことに対しての世論調査の数字が出ています。

「米調査会社モーニング・コンサルトは、5月31日から6月1日にかけて世論調査を実施。その結果、回答者の58%が、全米で発生している抗議活動や暴動の取り締まりについて、警察とともに軍隊を動員することに賛成と回答した。反対は回答者の30%にとどまった。
さらに、回答者の3分の1の33%が軍隊の派遣に「大いに」賛成、4分の1の25%が「ある程度」賛成、と回答した。一方、米軍の動員に「大いに」反対するとした回答者は全体の19%、「ある程度」反対するとした回答者は11%にとどまった。この調査の誤差範囲は、プラスマイナス2ポイントとなっている。
軍隊を派遣する案を支持する割合は共和党支持者の間で高く、77%が賛成している。民主党支持者でも48%が賛成と答えた。また、無党派層も52%が賛成している」(ニューズウィーク6月3日『【世論調査】アメリカ人の過半数が米軍による暴動鎮圧を支持』)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93583.php

約6割がトランプの軍出動発言を支持ですか、少し驚きましたね。
アンティファが調子に乗ってニューヨーク、ワシントンを破壊した時点で終わったのです。

 

●お断り 大幅に加筆しました。

 

2020年6月 3日 (水)

米国の黒人暴動は民主主義とは別次元だ

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なんだか米国がひどいことになっています。
新型コロナで世界一の感染国となって一日1500人見当の死亡者を出しているときに、今度は黒人暴動です。
もう「三密」もへったくれもありません。密密です。

米国はせっかくの好況による失業率の低下が一気にコロナで暗転して、貧困層の持って行き場のない怒りが溜まっていたのでしょうか、日本では考えられない事態ですが、少し整理してみることにします。

まず、亡くなられた黒人のジョージ・フロイド氏の死因ですが、白人警官のデレク・ショービンによる窒息死です。
白人警官は「苦しい。息ができない。ママ」と叫ぶフロイド氏の首を膝で押さえつけ、咽喉を押しつぶしています。

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少しでも柔道や合気道をやったことのある者ならわかりますが、5分にわたって喉を体重をかけて押しつぶせば、死に至って当然です。
おおよそ警官の所業とは思えず、言い逃れができない犯罪行為です。
なおこの警官は地元検事により第3級殺人で訴追され、その場にいた複数の警官も訴追されるようです。

では、なぜこのような事件が起きたのでしょうか。
それはフロイド氏がコンビニで偽20ドル紙幣を使ったと通報され、車にいた彼を拘束しようとして発生したようです。
これについては動画が残っています。
https://www.youtube.com/watch?v=EKV7Mi9YUAQ

そして、その後ミネアポリスだけではなく、全米で暴動と略奪が勃発しました。

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問題とされるのは、これが平和的デモではなく、あるいは一定の暴力を伴うデモではなく、無関係なスーパーや店舗を襲撃し、略奪に走る行為まで頻発したことです。

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ここに至ってトランプはこの暴動を強く批判し、軍の投入も辞さないと演説しています。
これに対して米国のCNNなどのリベラルメディアは、トランプが民主主義の危機をもたらしていると報じています。

中国は得たりとばかりに反米宣伝の材料にとりあげ、一党独裁国家よりも民主主義国の方が、国家運営が差別的であり、拙劣だと決めつけました。
中国外務省の趙立堅副報道局長は、記者会見の席で、「どうして米国は香港警察を非難し、一方で自国の抗議活動の参加者を銃で脅すのか。典型的な二重基準だ」と述べたようです。
もちろんこの中国の反応は、香港に対する国安法を押しつけて「一国一制度」にしようと企んでいることを帳消しにしたいからにすぎませんが、香港問題とミネアポリス事件はもちろんまったく別次元です。

というのは、ミネアポリス事件は、CNNや中国が言うような民主主義の問題ではないからです。
米国が歴史的に抱え込んだ人種問題は、民主主義では解決しないからです。
米国は黒人差別問題を民主主義で解決しようとして、60年代に公民権を与えました。
これにより外形的には「平等」となったのですが、問題は残り続けました。

今回の事件は、新型コロナによって貧困層が多い黒人が働けなくなったために恨みが溜まって爆発したのだという説明もできますが、失業したのは黒人ばかりではありません。
ヒスパニックも貧しい白人も同様に失業しています。

リベラルはここで貧困層は爆発して当然である、いや爆発しないほうがおかしい、とまるで大義があるような擁護の仕方をします。
これは一種の暴力革命待望論で、貧しい者は略奪や破壊行為をしても正当化される、なんでもしてよいのだ、ということになりかねません。
これは、保守白人層がいう、貧しいのはお前ら黒人が怠け者だからだ、全部お前らの自己責任だ、という考え方の裏返しです。
どちらも私には正しいとは思えません。

リベラルは理由を大義にまで誇張していますが、略奪に一切の大義はありません。
貧しい者が略奪・暴行を行い、街を破壊してもかまない、革命はお茶を飲むことではないと言ったのは毛沢東ですが、天災や伝染病が革命のきっかけとなる考えるのは、社会主義革命への幻想にすぎません。
トランプはANTIFA(アンティーファ)を名指ししてテロ集団指定すると息巻いていますが、私はここまでの力量はないと思っています。
また中国を黒幕のように言う人もいますが、一概に否定はしませんが、一定の資金面での工作はあったとしたら米国は巨大な中国工作員組織抱え込んでいることになります。
いずれにしても、あまり黒幕にこだわると陰謀論二なってしまうので気をつけましょう。
ただしANTIFAがやったかやらないかは別にして、テロ組織に指定された以上、これに関わる立憲民主や共産党の議員諸氏は、今後米国に渡航できなくなりますので、お気をつけ下さい。

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ではここで仮に、黒人警官が黒人市民を過剰な暴力で死亡させたとしたら、あるいは白人警官と白人の犯罪者、さらには黒人系が白人を殺害した、またはその逆という組み合わせだったらと考えてみましょう。
これで同じように暴動や略奪が起きたでしょうか。
おそらく起きなかった可能性があります。
つまり「白人が黒人を殺した」という単純化された構図が作られてしまった結果、暴動が起きたのです。
キイワードは、「黒人」「白人」という人種対立なのです。

この人種対立をどのように解決したらいいのでしょうか。
リベラルの言うようにトランプの独裁に抵抗して民主主義を守ればいいのでしょうか。
暴動は行き過ぎだが、話あいと選挙で解決しろというわけです。
ただ、そう言ったCNNが焼き討ちにあっているのですから、やや説得力に欠けます。

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一方、米国のコンサバは、こんな暴動は軍隊を入れてでもねじ伏せ、行き過ぎた差別是正政策はやめろ、というでしょう。
今の米国は単純な白人=支配階級ではありません。
白人層からみればむしろ黒人は大学入学などにおいてアファーマティブ・アクション(積極的是正枠)すら与えられることから、黒人のほうが白人より優遇されている感じる者も多いのです。
特にラストベルト(錆びた地帯)と呼ばれる工業地帯の白人労働者たちにとって、黒人に与えられる差別是正政策は逆差別に写っていることでしょう。
しかも、黒人やヒスパニック系、あるいは中国系が、年を追うごとに人口増加し、いまや米国は白人の国ではなくなりかかっているのですから、いっそう危機感を募らせています。

なぜなら民主主義は詰まるところ数の論理ですから、人口的マジョリティを奪われれば、それは政治的マジョリティの喪失にもなりかねないのです。
そして今までマジョリティがマイノリティにしてきた如く、その歴史、文化、言語が奪われたり、改竄されていくかもしれません。
実際に今回の暴動では歴史遺産の教会も、白人文化のシンボルとして焼き討ちにあっています。

このように見てくると、民主主義は黒人問題の特効薬たり得なかったどころか、むしろ国民統合を妨げたともいえるのです。
自由選挙を禁じられた香港ならば、選挙によって民主主義を守ることで自分の意志を政治に反映させることが可能でしょうが、米国は既に半世紀以上前から自由選挙が与えられていることをお忘れなく。
しかし毎年のように黒人暴動は頻発しているのです。

ですから、中国がトランプにダブルスタンダードというのはあたっておらず、黒人問題は民主主義とは別の次元の問題なのです。
え、解決方法が書いてないって?あるわきゃないでしょう、そんなもん。
リベラルの方法をとってもオバマのようになにもできないことは自明ですし、逆にトランプ流でやっても分裂は深まる一方なのです。
とどのつまり、私たち外国人は、黒人暴動はあの国の歴史の歪みが生み出した固有の現象として突き放して見るしかないのです。

 

 

2020年6月 2日 (火)

専門家会議議事録騒動について

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昨日に続き専門家会議の分析と提言を転載いたします。欄外を覧下さい。長いので分割しました。

さて議事録があるとかないとかで内閣支持率がまた下がったようですが(やれやれ)、たぶんメディアは「自分に有利な者だけを呼んでいるので議事録がみせられないんだ」と言いたいのでしょうね。
またもや大好きな陰謀論です。陰謀論は便利なツールで、だれそれがアベに「忖度」しているというのを雰囲気だけで追及できてしまいます。
状況証拠にもならない空気を集めただけで、それをワイドショーのキャスターが賢しげに「またもや疑惑が浮上しましたね」とやれば効果テキメンですから、常に陰謀論だけで政府を追及できてしまいます。
綿密な証拠集めもいらないし、報告書を丹念に読んで検証する必要もありません。
ただないないと揚げ足取りをしていればいいだけのことで、これでは脳みそが退化してとうぜんです。

ですから、記者らしいまともな足を使った取材もなければ、専門家会議の文書などメンドーだから一行も読みはしません。
副座長の尾身さんが、いくら記者会見で、読んでくれといっても読まない。
結局、肝心の専門家会議の中身ではなく、議事録のあるなしだけで質問が終わってしまいますが、新型コロナの政府対策なんかより政権追及のほうが大事だから、これでいいんです。

メディアにとって必要なのは、あくまでも政権をくさすための「忖度している雰囲気」。
なまじ中身に入られると政権にポジティブなことが多いので(そりゃうまくいってますからね)、ディスるためには不要なんです。
かくして、いくら防疫に成功しつつあっても、政権支持率は下落の一途という珍現象が起きます。
まぁ支持率が下がったほうが、老害太郎ちゃんが危機感をもって財務省の財布の紐をゆめるので、それはそれでけっこうなんですけどね。
あの人から「税収を上げることで財源を作るんだ」なんてマトモな言葉を聞くとは思いませんでしたよ。
というわけで、2次補正はよくできました。日銀の大金融緩和も上等。この調子で2回目の給付金にいきましょう。

それにしてもこんなことばかりモリカケ以来、延々と飽きずに何年もやってくりゃ、そりゃメディアが劣化してもあたりまえだわさ。

「菅義偉官房長官は、29日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症対策を検討する政府専門家会議の議事録を残していないと説明した。発言者が特定されない形の『議事概要』で十分だとし、発言者や発言内容を全て記録した議事録は作成していないとした。政府は今年3月、新型コロナウイルスを巡る事態を、行政文書の管理のガイドラインに基づく『歴史的緊急事態』に指定し、将来の教訓として通常より幅広い文書の作成を行うと決めていた」
(5月30日付毎日新聞)

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毎日

朝日は大喜びでこんな記事を書いています。

新型コロナウイルス感染症への対応を検討する政府の専門家会議の議事録が残されていないことに、批判が集まっている。政府対応を事後的に検証することができなくなる可能性があるためだ。改めて安倍政権の公文書管理への姿勢が問われる事態となっている」(朝日5月29日)

それに対しては菅官房長官はこのように答えています。

「新型コロナウイルス対策を話し合う政府の専門家会議について、菅官房長官は、発言者や発言内容をすべて記録した議事録を作成していないことを明らかにしたうえで、行政文書の管理に関するガイドラインに沿って適切に対応しているという認識を示しました。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は、行政文書の管理に関するガイドラインに基づき、国家や社会として記録を共有すべき「歴史的緊急事態」に初めて指定し、政策の決定または了解を行う会議などでは発言者や発言内容を記録し、それ以外は活動の進捗(しんちょく)状況などを記録するとされています。
これに関連して、菅官房長官は閣議のあとの記者会見で、記者団が「政府の専門家会議で議事録が作成されておらず、こうした消極的な姿勢で後世の検証にたり得るのか」と質問したのに対し、「専門家会議は、ガイドラインの『政策の決定または了解を行わない会議』に該当する」と述べ、議事録を作成していないことを明らかにしました。
そのうえで「専門家に自由かつ率直に議論していただくために、発言者は特定されない形だが、議事概要は作成して公表している」と述べ、ガイドラインに沿って、適切に対応しているという認識を示しました」(NHK5月29日)

どうやらこの「専門家会議の議事録をつくらなかった」という問題を、かつての稲田氏の防衛庁日誌改竄事件のように仕立てたてたいようですが、政府は政策の意思決定に関わらない自由な意見交換である今回の会議は自由で闊達な一見を取り入れるために発言者名は入れていないと答えています。

法的には官房長官のいうことで間違っていません。

■『行政文書の管理に関するガイドライン』平成23年4月1日内閣総理大臣決定
https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/kanri-gl.pdf
② 政策の決定又は了解を行わない会議等
国民の生命、身体、財産に大規模かつ重大な被害が生じ、又は生じるおそれがある緊急事態に関する各行政機関の対応を円滑に行うため、政府全体として情報交換を行う会議等であり、政策の決定又は了解を行わないもの(作成すべき記録活動期間、活動場所、チームの構成員、その時々の活動の進捗状況や確認事項(共有された確認事項、確認事項に対して構成員等が具体的に採った対応等)を記載した文書、配布資料 等

専門家会議は「政策の決定、又は了解を行わない情報交換を行う会議」にすぎません。
したがって、発言者をいちいち書かず「活動の進捗状況や確認事項の概括した文書」だけでなんら問題ありません。

一方、専門家会議のメンバーはこのように言っています。

「これに対し会議メンバーの岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は『事務局が「議事概要を出す」と答えたので、ああそうですねということで終わった。(賛否の)手を挙げたわけじゃないから分からないが、全てではないが別に発言者名が出ても構わないというのが委員の意見だと思う』と記者団に語り、『僕は自分の発言に責任を持ちたいから発言は出ても構わない』と述べた。
会議座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は29日夜の会見で『一番大事なのは我々がどのように議論し、考え、どのような提言を政府にしているかを(記者会見などで)しっかり伝えることだと思う。議事録に関しては政府がお決めになっていることだ』とした上で、公開について『個人的にはどちらでも構わない』と言及。
尾身茂副座長は同日の会議でメンバーから政府に公開検討を求める声があったと説明し、『政府が決めて名前を出すということになれば私自身は全然問題ない』と述べた。」(5月30日毎日新聞)

毎日は、専門家会議に出席した識者は「名前をだして記録に残すことに問題ない」と言っている人が大勢を占めるような書きぶりです。
そりゃそうです。なにも「悪の陰謀」を巡らしているわけじゃあるまいし、国民から感謝されてしかるべき結果を出したのですから、むしろ議事録なんて出してほしいという人が大勢を占めてもおかしくはありません。

しかし名前をだされたくない人もいたはずです。
それは今回のメディア取材のやり方を見ればわかるように、本質からまったく逸脱した愚問に拘泥し続け、しかも答えを恣意的に切り取るからです。
尾身氏がペーパーを読めというのも、こういうメディア取材にうんざりしているからのようにみえます。

また意見の対立もあったはずで、それはありえることです。
あのような緊迫した状況で、日々刻々と変化する中での判断ですから、対立があって当然なのですが、後にお前はこんなことを言っていたのか、なんて後に言われたくない研究者がいても当然です。

それをメディアは「首相に忖度して議事録を隠蔽している」と、ナニカ大事なことをあえて政府が隠蔽しているかのように報じるのですから、参ったね。
ビョーキですね、この人たち。

詐欺師だった籠池氏が首相夫人とかかわったら「忖度」(籠池氏は最近脱洗脳したみたいですが)、加計学園代表が若き日に首相と友人だから「忖度」、専門家会議のメンバーも首相に「忖度」、検事長も「忖度」、郵便ポストが赤いのも、電柱が高いのも、みんな「忖度」。

なるほど官邸の会議や、各省庁の審議会委員を人選するのは政府側です。
そりゃ当たり前です。選考委員会をその都度作るわけにはいかないのですから、官庁がリストアップした人選がほぼ通ります。
官庁は一種の官製シンクタンクの側面がありますから、そつがないというか、面白くないというか、当然一定の水準のことを言ってもらえる人を選びます。
政府の能力を超えた実現不可能なことをいいそうな人物もハネられるでしょう。
50兆円以上かけて国民皆PCRをしろなんていう岡田某などは、お声もかからないでしょう。

そこに官庁のじめついた意志があるかないかは、その時次第です。
ですから省益中心の人事かどうかはその都度判断すればいいことですが、今回の専門家会議のメンバーの人選において、SARSでWHOの指揮を執った尾身氏や、日本の感染症研究の第一人者である押谷氏が招集されたのはしごくまっとうな人選でした。

むしろ私は今回の緊急事態宣言の延長などを見ると、「忖度」したのは政府・首相側だったと思っています。
政府は経済が凍結状態に危機感をもって短期で宣言を終わらせたかったはずで、それを延長したのは専門家会議の強い提言が背景にあったと思います。
このようにむしろ主導権は初期から専門家会議が掌握しており、首相サイドは従属的な立場であったような気さえします。

問題がでるとすれば、政府の姿勢に「最初に結論ありき」があった場合です。
官庁側が初めから結論を決めており、専門家会議はただの「民主的プロセスを踏んだ」という言い訳にしてしまう場合です。
ないとはいいません。今の官僚機構だとやるでしょう。

ならばそう言われたくなければ、官庁側はしっかりと議事録を残すべきです。
特に今回は国民の生命を直接に左右する感染症対策ですから、いかに専門家会議が沸騰したのか、その緊張した局面を国民に開示するべきです。
それも簡単です。だって速記録があるのですから、文字起こしして、まとめればいいだけのことです。
今回も遅くはないから、速記録から議事録を起こして下さい。興味があります。

それはさておき、まずはオリジナルな原文にあたりましょう。その労を惜しむと低俗なワイドショー政治に巻き込まれてしまいます。
原発事故の時もそうでしたか、私たちが知りたいことのほとんどすべては公式文書で公開されています。
日本は中国ではないのです。

難解な専門用語を使わず、非常に平明な文章で書かれていますから読みやすいと思います。

                                               ~~~~~

コロナウイルス感染症対策の
状況分析・提言(2020/5/29)
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

新規感染者数・死亡者数の動向に関する現段階の評価
①日本の対策は、欧米の先進諸国と比較して、感染者数の増加を抑制し、死亡者数や重症者数を減らすという観点から一定の成果。
なお、韓国をはじめ東アジアの死亡者数は総じて少ない。中でも台湾が非常に低位。

【台湾で死亡者数等が低位である主な理由】
・SARS等の経験を基に、従前から、日本に比べて準備ができていたこと
・欧米等から人の移入の規模が日本より小さく、より早く水際対策による対応を
講じていたこと(2/6:中国全土の入国禁止。3/19:全外国人の入国禁止)
※ 日本では、2/1に中国湖北省からの入国を禁止したが、イタリアの全域、ドイツ、フランス等欧州
の大部分の入国を禁止したのは3/27。米国や英国、中国全域等からの入国禁止は4/3からであった。

新規感染者数・死亡者数の動向に関する現段階の評価
②欧米諸国と比較して、日本が死亡者数や重症者数を低位に留められた要因は、・国民皆保険による医療へのアクセス、地方でも医療レベルが高いこと、
・全国に整備された保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高いこと、・市民の衛生意識の高さ、元々の生活習慣、政府からの行動変容の要請に対する協力の度合い等がよく知られている。
一方で、一般的に知られているわけではないが、我が国で感染者数・死亡者数が低位に留められた要因として、次の2点についても詳細に説明。
(1)中国由来・欧州等由来の感染拡大の早期検出
(2)我が国のクラスター対策

我が国のクラスター対策
①日本は、早い段階で『新型コロナウイルス感染症の伝播の特徴』を認識。
この感染症は、クラスターを形成することで感染拡大。特に感染初期ではクラスターを制御できれば、感染拡大を一定程度制御できる、という戦略。

我が国のクラスター対策
②我が国のクラスタ―対策(さかのぼり接触者調査)の特徴。
(1)共通の感染源を特定し、その場の濃厚接触者に網羅的な接触者調査を実施。
感染者が確認されれば、入院措置等により感染拡大を防止。
(2)「3密」などのクラスターが発生しやすい場の特徴を指摘することができ、
これにより、初期の段階から、市民に対して注意喚起。

緊急事態宣言(4月7日)の効果
報告日ベースでは、新規感染者数のピークは4月10日頃。
推定感染時刻ベースでは、感染時期のピークは4月1日頃。
緊急事態宣言前(3月末)から、市民の行動変容等により、
新規感染者は減少傾向。
緊急事態宣言後は、実効再生産数が再反転せず、宣言期間中を通じて1を下回り、低位で維持。

(参考)東京の実効再生産数(専門家による分析)
なお、専門家による東京のデータ分析では、緊急事態宣言後に、実効再生産数が、更に低下している。

次なる波に備えた「検査体制」の更なる強化

課題
▶ 4月上旬から中旬の感染者数増大が見られた時期に、検査が必要な者に対し、PCR等検査が迅速に行えなかった。
今後の方向性
▶ 前駆症状や初期症状の解明を含む早期診断により、早期の医療提供・感染拡大防止につなげていく検査体制の拡充。
▶ これまでの対策をさらに進め、迅速かつスムーズな検査体制を構築。
相談から検査までの日数を短縮。
▶ 抗原検査とPCR等検査の役割分担の明確化。
感染力の高い人を探知できるという特性を生かし、2次感染が起こる可能性が高い院内、施設内での感染の防止に向けて、積極的に活用。

(続く)

2020年6月 1日 (月)

「日本の奇跡」の理由を専門家会議自らが語り始めた

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今度は専門家会議の議事録がないと騒いでおります、メディアってただの馬鹿クラスターですか。
議事録はあればあるに越したことはありませんが、決定的なものではありません。
それが必要となるのは、後世の歴史家にとってであって、今、求められているのは防疫責任者の生の知見です。
尾身茂座長が報告書を読んでくれと言っているだから、まずはそちらを熟読してからディスりなさい。

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世界の感染症対策の第一人者である尾身茂氏

専門家会議の報告書のP36から38までを抜粋して欄外にアップしておきましたので、ぜひご覧下さい。
『新型コロナウイルス感染症対策専門家会議  新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言 』
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635389.pdf

それにしてもメディアは感染初期から一貫してそうでしたが、連中がやったことといえば、ケチツケと足を引っ張ること。そして政局化です。
連れてきた「識者」といえばPCR真理教の岡田尊師や上センセ。
既に彼らの言っていたことは事実をもって否定されていますが、メディアは彼らの間違った言説を積極的に拡散したことに対しての責任はおろか、訂正のひこともありません。
日本のメディアが政府の感染対策をディスり、それを受けた海外メディアが増幅し、それを海外はこう言っていると嬉しげに権威づけに使って騒ぎたてます。
モリカケ、桜ならまだしも、生命に関わることでえげつないことをしなさんな。
原発事故のときもそう思いましたが、日本のメディアはもはやただの無責任と笑って済ませられるレベルではなく、今や反社会的存在一歩手前です。

医師の村中璃子氏はこう書いています。

「当初は1日数百件しか実施されていなかったPCR検査はピーク時には1日8000件超にまで増え、日本のPCR検査キャパシティーは短期間で大きく向上したといえる。 しかし、メディアには「PCRが足りていない!」と煽(あお)る“専門家”が多数登場し、検査の必要はないが検査を希望する人たちが医療施設や保健所に殺到。医療現場は逼迫(ひっぱく)し、危うく医療崩壊を起こしかけた。イタリア、米国、スペインなど、重症患者が多数出て医療崩壊を起こした国はあったが、PCR信仰による人災ともいうべき医療崩壊が起きかけた国は世界でも日本くらいのものだろう」(ZAKZAK 5月26日『医療崩壊危機はPCR信仰煽ったメディアの“人災” 』 )
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200526/dom2005260005-n1.html

さて、メディアは盛んに海外の同業者らが「日本の奇跡」を怪しんでいることを報じています。
そりゃそうです。圧倒的に感染者も死亡者も桁違いで少ないんですから。
感染阻止とは医療が生命を守ることです。
ですから、感染が終了して、その国の死亡者数、重症者数が少なければ少ないほど、その国の防疫対策が成功したことの動かぬ証なのです。

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https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/

ご覧になれば一目瞭然のように累計感染者数、10万人あたりの感染者数、死亡数、重症者数、すべての項目において日本は主要国最低水準です。
これを「偶然」「まぐれ」でかたづけようというのですから、厚顔無恥にもほどがあります。

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すると日本のメディアが言うには、PCRをしなかったから真の感染者数が分からないからだ、死亡数が少ないのは今後爆発的に増加するに決まっているると言い出す始末です。
この人達は、きっと日本が地獄になって10万人くらい死ねば本望なのでしょう。

すると素直に「日本の奇跡」を認めたくない海外メディアは、日本の感染対策は全部デタラメだったが、日本の民族習慣が救ったのだと説明し始めました。
たとえば、日本人は握手をしないとか、ハグが嫌いだとか(苦笑)、靴を履いて室内に入らないとか、はたまた国民が政府の言うことを羊のように聞く民族だからだ、と評しました。
感染初期にアジア人特有の感染症だと言っていたことを都合よくお忘れのようで、なんともかとも。

こんな生活習慣で片づける説明は、保守論客である有本香氏も同じで、「国民の総合力」なんて言っておられるようでため息がでます。
有本さん、なんですか、それ?
感染初期に中国と遮断しなかったことを百田氏とあれだけ騒いでおいて、うまくいきそうだと今度は「国民の総合力」ですか。
その「総合力」には、きっと政府の防疫戦略なんぞ入っていなんでしょうね。

さすがヨーロッパの感染症専門家は「日本の奇跡」の秘密に気がつき始めました。
第2波をかぶっているドイツの専門家は、「日本の奇跡」の正体が日本の優れた感染症研究者が戦略を立てていて、クラスター対策に重きを置いたことによる成功だと気がつき始めています。

『ドイツのコロナ対策班がクラスター対策の重要性を訴え始めた』は、このようにドイツの動向を紹介しています。
ショーンKY  https://note.com/kyslog/n/n658e17e8500b

「日本の専門家会議・クラスター対策班が依拠してきたデータは、世界中で再現され、特にドイツチームがクラスター対策の重要性に気づきつつある、という状況である。
もちろん彼らは、日本が対策を先取りしていたということを理解している。日本のクラスター対策が単なる接触者追跡以上である理由、すなわち予防策へのフィードバックについても氏は理解している」(ドイツのコロナ対策 前掲)

ドイツに学べという者が異常に多い日本であるにもかかわらず、ドイツは感染者の追跡に失敗しています。
そこに力点を置かずに感染遮断に力を入れていたからです。
たとえば、国境の封鎖や都市封鎖などが、欧米のとった一般的方法でした。
結果として、発生動向調査(サーベイランス)がおろそかになり、クラスターについての資料が欠落することにつながっていったようです。
science誌はこう述べています。

「早期に被害を受けたが、流行を抑えている日本では、COVID-19の戦略をクラスターを避けることに重点を置いて構築し、閉鎖空間や混雑した状況を避けるように市民に助言している」――Science

またドイツ人医師のドロステンはこう言っています。

「日本の例を見ると、SARS-CoV-2がクラスター追跡戦略でどこまでできるかがわかる。
そこでは、死者数は少なく、発生件数はゆっくりと、しかし着実に減少している。
これは、防疫責任者がSARS-1で「火の洗礼」を受けたという事実に起因している、とドロステンは説明する。日本は自分の経験や意見をもとに、関連資料を持たずに行動していた。「"勇気"があって、うまくいったようですね。そして、これは我々が今、近い将来のために絶対に手本にしなければならないものです」とドロステンは言う」
Japan bestes Beispiel: Drosten jagt die Superspreader. NTV. 29. MAI 2020

こういった「日本の奇跡」を評価しようとする動きがやっとヨーロッパで生まれたことに呼応するように、専門家会議が自分たちの防疫戦略を対外的に語る文書を出しました。

抜粋しておきます。

①中国由来の感染拡大(第 1 波)及び欧州等由来の感染拡大(第2波 )の 検出が早期になされていたこと 。
②我が国で早期に感染を確認できた背景には、日本では地方においても医療アクセスが良く、発熱、呼吸器症状などコロナを含め、感染症が疑われる場合に医師は、胸部X線、CT検査、検査、PCR検査を行った結果、早期に感染を探知できたこともあげられる。
③効果的なクラスター対策がなされたこと 。
④初期の積極的疫学調査の分析から、クラスターが発生しやすい場の分析が可能となり、諸外国では認識されなかった「3密」を避けるという効果的な対応策の発見につながった。

日本の特徴は、「さかのぼり」の接触者調査の結果、感染源に立ち返って、その後の感染連鎖を見逃さないようにすることが心がけられた。
・早期に感染源を特定すること
・早期に感染源の関係者を特定すること
・早期に医療につなげること
・早期の感染拡大に向けた取組につなげていくこと

このような素晴らしい対策を取った尾身先生と押谷先生たちに心からの感謝を捧げます。
この当事者の報告を外国に発信せずに、ただの偶然と言わしてしまっている外務省や厚労省の神経を疑います。

                                                               ~~~~~~~

   新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」      
補論:クラスター対策について         (令和 2 年 5 月 29 日)


●我が国のクラスター対策について

本論の中でも述べたとおり、クラスター対策とは、積極的疫学調査を実施することで、クラスター(集団)感染発生の端緒(感染源等)を捉え、早急に対策を
講ずることにより今後の感染拡大を遅らせたり、最小化させたりするためのものである。我が国では、「効果的なクラスター対策」の実施によって、次のような効果が得られたと考えられる。

①クラスターの連鎖による大規模感染拡大を未然に防止できた。
②初期の積極的疫学調査から、共通の感染源となった「場」(3密)を指摘 し、歌うことや大声で話すことといった+αの要素とともに周知に努めたことにより、クラスター(集団)感染が生じやすい環境をできるだけ回避することを市民に効果的に訴えることができた。
③クラスターを中心とした感染者ごとのつながり(リンク)を追うことにより、地域ごとの流行状況をより正確に推計することができていた。

つまり、リンクが追えない「孤発例」が増加することは地域で感染拡大を示すものと判断することができ、地域での早期の対応強化につながった。

 こうした中で、特徴的なことを 2 つ指摘しておきたい。

(1)中国由来の感染拡大(第 1 波)及び欧州等由来の感染拡大(第2波 )の 検出が早期になされていたこと

1 月から2 月にかけて 中国 を起点とする第1波の流行については、保健所によるクラスター対策などの効果により、 2月25 日までには クラスター(集団)感染を含め、 国内で 149 例の感染事例が報告されていた。(図表略)

このように早期の報告がなされてきた背景には、オリンピック・パラリンピックに向けて、未知の感染症等の早期探知のための疑似症サーベイ
ランスの基準を見直した上で、あらかじめ、前広な事例の報告を求めていたことも一因として挙げられる。

他方、同時期にすでに深刻な地域内流行が始まっていたイタリア以外の欧州、アメリカなどの先進諸国では「 諸外国の新規感染者数の動向」でも示したように、同時点では国内感染事例があまり見つかっていなかった。

 実際には、これらの国々では、水面下で相当の感染拡大が起きていたと考えられるが、この時期には感染が探知されず、気が付いた時には、欧州、アメリカなどでは3月中旬以降、急激な感染拡大が起きてしまった。

このように我が国で早期に感染を確認できた背景には、日本では地方においても医療アクセスが良く、発熱、呼吸器症状などコロナを含め、感染症が疑われる場合に医師は、胸部X線、CT検査、検査、PCR検査を行った結果、早期に感染を探知できたこともあげられる。

実際、11月16日に確認された国内での第1例は、こうした医師の判断で感染が疑われPCR検査が行われて、確認されたものである。

(2)効果的なクラスター対策がなされたこと

 (1)で述べたとおり、日本では、諸外国と比べ、より早く新規感染者やクラスターの検知が可能であった。
これらの事例の集積を通じて、本専門家会議では、この感染症については3月22日の見解でも述べたように、感染が確認されたうち重症・軽症に関わらず約8割方は他の人に感染させない特徴を有しており、感染者の多くが他の人に感染させるインフルエンザウイルスとは明確に違う特性を有していることを早い時期から認識していた。

すなわち、この感染症は主にクラスターを形成することで感染拡大が起きており、クラスターを制御することができれば、(クラスター対策が実施できている範囲において)感染拡大を相当程度制御できるという見通しを持っていた

 また、初期の積極的疫学調査の分析から、クラスターが発生しやすい場の分析が可能となり、諸外国では認識されなかった「3密」を避けるという効果的な対応策の発見につながった

 諸外国における接触者調査では、新規に確認された「感染者」を起点として、その人が接触した濃厚接触者を洗い出し、将来の感染者を探し出すための「前向き(Prospective Prospective))」の調査が行われている。

こうした調査は日本でも行われているが、日本国内においてはそれだけに留まらず、この感染症の特徴も踏まえ、特に、複数の「感染者」を見た場合には、それぞれに共通する感染源があるかを集中して見ていくことにあった。
つまり、「感染者」を発見したときに、時間的に過去に「さかのぼり」(Retrospective Retrospective)」、共通の感染源となった「場」を特定し、これらの場に共通する通する「3密」の概念を早期に発見するに至った。

また、その場にいた者についても積極的疫学調査を網羅的に実施することに早期から力点が置かれたことにあったと言える。
ちなみに、こうした「さかのぼり」の接触者調査は、保健所が従来から結核患者などに対して行ってきた調査方法が一つの土台となっている。

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すなわち、日本の特徴は、「さかのぼり」の接触者調査の結果、感染源に立ち返って、その後の感染連鎖を見逃さないようにすることが心がけられた。
この結果

①早期に感染源を特定すること
②早期に感染源の関係者を特定すること
③早期に医療につなげること
④早期の感染拡大に向けた取組につなげていくこと

ことに力点が置かれていた。

なお、これまでに述べてきたとおり、日本ではクラスターを中心とした感染者ごとのつながり(リンク)を追うことにより、地域ごとの流行状況をより正確に推計することができていた
つまり、リンクが追えない「孤発例」が増加することは地域で感染拡大を示すものと判断することができ、地域での早期の対応強化につながった。

諸外国からの輸入例は、遺伝子解析によって国内の感染拡大に大きな影響を及ぼしてきたことが分かっている。
すなわち、我が国でも欧州等由来の第2波として、より大規模な輸入例が生じた結果、地域において孤発例が多発することとなった。

新規感染者数が急増していく中で、こうしたつながり(リンク)が見えない孤発例が急増していく中で、4月7日には、緊急事態宣言による対応を余儀なくされることとなった。

 

※原文PDFのため、忠実に転載されていない部分があります。いやー参った。

 

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