台湾は尖閣問題で日本と同じ立場に立っている
メディアが今回の石垣市の尖閣字名追加について、中国、台湾が同じように「強い抗議」をしていると報じています。
「(環球時報の)記事は、「台湾宜蘭市の民衆が激烈な抗議を行い、同県の林姿妙県長は釣魚島(日本名:尖閣諸島)に上陸して街区表示板を掲げるとの意思を示した。しかしながら、日本政府が着々と迫りくる中で、蔡英文当局の態度は一貫して冷却期間を置くというもので、台湾民衆の激しさとは明らかな対比を成している」と指摘した。掲載された動画には、中国国旗を手に抗議活動に参加する市民の様子が映っている」(レコードチャイナ6月10日)https://news.goo.ne.jp/article/recordchina/world/recordchina-RC_812597.html
これだけでは、まるで台湾をあげて石垣市の改名に怒り狂っているように見えますが、ほんとうでしょうか。
日本では台湾に特派員を置いていないメディアも多く、ともすればこういう尖閣といえばお約束で登場する国民党系の団体のデモなどを大きく取り上げてしまいがちです。
そのうえに、台湾メディアの大部分は大陸系が占めているために、きちんと台湾政府がなにを言っているのか、背景まで見ずに字ヅラで追いかけてしまっています。
台湾政府はこのように述べています。
「釣魚台字名めぐる争議「発端は中国公船の行動」=台湾の対日窓口機関 (台北中央社)台湾の対日窓口機関、台湾日本関係協会は24日、釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)に関する報道資料を発表し、沖縄県石垣市が同列島の字名変更に踏み切った件に言及した。同協会は、発端は中国海警局の船が同海域の航行を繰り返し、さらには日本漁船を追尾したことにあるとの認識を示し、地域の緊張を高める一方的な行為を停止し、慎重に対処して共に地域の平和と安定を維持するよう各方面に呼び掛けた。
同協会は、釣魚台が中華民国の固有の領土であることは疑いの余地がなく、一方的な主張によってこの事実を変えることはできないとする姿勢を改めて強調。主権の一部である漁業権を守るため、海洋委員会海巡署(海上保安庁に相当)が台日双方の排他的経済水域(EEZ)が重なる水域に巡視船・艇を派遣し、漁船の保護に当たっているとし、台湾漁船が日本の公船に妨害・拿捕されるケースが2016年以降大幅に減少したのは、これらの対策が奏功したことの表れだとする見解を示した。
その上で、同海域における台日間の漁業問題が解決するまでは漁船を保護する任務を同署が続行するとした」(フォーカス台湾台湾6月24日)
http://japan.cna.com.tw/news/apol/202006240010.aspx
尖閣諸島 フォーカス台湾
お分かりでしょうか、台湾は確かに領土問題においては台湾の領有だいうことを前提にしていますが、ポイントはそこにはありません。
台湾の「強い抗議」が向けられているのは、日本ではなくむしろ「中国海警局の船が同海域の航行を繰り返し、さらには日本漁船を追尾したこと 」です。
つまり、台湾は石垣市がどうして字名変更をしたのかについて、完全に日本側と認識が一致しているのです。
日台は尖閣海域の平穏でなければならないことにおいて認識が一致し、今、それを乱しているのは他ならぬ中国の海警の傍若無人な行動に原因がある、としています。
実は日本メディアはこれもスルーしていますが、市議会の投票前に中山石垣市長は直接に電話で台湾に改名理由の説明をしているのです。
「(台北中央社)釣魚台列島(日本名:尖閣諸島)の領有権問題で、「尖閣」を明記した字名変更に向けて動いている沖縄県石垣市の中山義隆市長は、中国をけん制する意味があると台湾に説明した。外交部(外務省)が15日明らかにした。(略)
外交部によれば、日本側に対し深い関心をすでに表明。また、台北駐日経済文化代表処那覇分処(領事館に相当)から中山市長に2度電話したところ、同氏は中国公船の同列島周辺海域への侵入が相次いでいることに言及し、地元民から不満の声が上がっていたために同案を改めて提出したと説明した。
蘇貞昌行政院長(首相)は15日、政府は同列島の主権を堅持するとし、適切な対応を取る姿勢を示した」(フォーカス台湾6月15日)
http://japan.cna.com.tw/news/apol/202006150003.aspx
これだけでは分かりにくいのですが、詳細は福島香氏が伝えています。
「また台湾は、日本の登野城名称の変更のニュースが最初に出たとき、むしろ台日友好を強調して、石垣市議会に対して「地方の事務が台湾と日本の全面的な友好パートナーシップに影響を与えないように望む」と、比較的穏当な表現で呼び掛けている。
極めつけは大使として日本に派遣されている謝長廷・台北駐日経済文化代表が23日、フェイスブックで、尖閣が沖縄が米国から日本に返還されて以降、日本の実効支配下にあることを認めて「これは歴史の一ページである。しかしこの時政府がどのような抗議をしたのか、だれも私に教えてくれなかった」と発言したことだ」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.100 2020年6月24日)
うーん、謝代表(大使あるいは領事に相当)、踏み込みましたね。
ここで謝氏は「沖縄返還後一貫して実効支配は日本がしている」としています。
台湾は、公式には尖閣の領有権は台湾にあることが前提だが、実効支配を日本がしている以上、これを変更させることは難しいと認識しているということです。
それは今後も日台漁業協定という形で互いに摩擦を最小限にするべく努めよう、という立場を堅持するということです。
ウィキ
もちろん、日台漁業協定には問題があります。地元の反対をおさえて、クロマグロの一番の漁場を台湾に譲っていますし、また尖閣を含む沖縄本島南西の排他的経済水域で台湾の漁を認めていることも、日本側に不利な協定だという指摘もあります。
台湾の漁船は大型で、グループで操業することも多く、日本の零細漁業者を圧迫していることも事実でしょう。
しかしここで大事なことは、日本と台湾との間には領有権を切り放して経済的な棲み分けを大事にしていこうという国際海洋法に基づいた共通の利害が存在することです。
このことは国際法を無視して、ひたすら海警を侵入させている中国とは大きな違いです。
ちなみに中国海警は台湾の漁船も尖閣水域で「取り締まり」をしているようで、日台双方にとっての共通の敵が誰なのか、自ずと明らかでしょう。
このような台湾政府の態度に対して、中国は日本以上に強い怒りを持っているようで、「冷淡」、「軟弱」、「媚日」という批判を浴びせています。
「こうした台湾の反応に、中国は怒り心頭だ。かりにも同じ中華民族で、領土問題に関しては、日本に共同で当たっていける、と中国側は思っていたからだ」(福島前掲)
中国は台湾を「同族」とみていますから、なおさら日本の立場に理解を示す蔡英文政権を締め殺したいくらいに憎んでいるようです。
同じくいまや誰の眼にもただの中国の手先とみられている国民党も、口調まで一緒に蔡英文政権をこう批判しています。
「国民党は、蔡英文に漁民に対して尖閣上陸を求めているが、民進党としては、これに回答をさけている。台湾民進党政権が、領土問題を傍らにおいて日本とのパートナーシップを重視する姿勢をとったことで、国民党はここぞとばかりに蔡英文政権を批判している」(福島前掲)
その上、国民党は尖閣に上陸するとまで息巻いています。デモ行進で五星紅旗をふりまわしているのはみんな国民党の息のかかった手合いばかりです。
下写真は今回のものではありませんが、今年もまた五星紅旗が登場したようです。
やれやれ、反日で国民党と中国はピタリと一致しますからね。こんなことをすればするほど国民党が中国の手先だとバレちゃうのにね。
朝日
前回選挙でボロ負けして、中国政府の使い走りと見られている国民党ですが、領有権という国家主権に関わることで、蔡政権が日本寄りの態度を鮮明にしたことには大きな覚悟が必要だったはずです。
ではこの蔡政権のスタンスは、どのような危機感からくるのでしょうか。
おそらく蔡英文の頭にあるのは、米中が直接軍事的衝突する可能性です。
その場合、米国は中国包囲網の同盟を募ります。米国を盟主とするか、中国に従属するのか、周辺国はすべて旗幟を明らかにすることを求められるでしょう。
そしてそのきっかけは中印国境かもしれないし、香港かもしません。
あるいは南シナ海の人工島かもしれないし、尖閣をめぐる東シナ海かもしれません。
いずれにせよその場合、台湾ははっきりと自由主義陣営につくという態度を明確にしたのです。
この大きな流れの中で尖閣をめぐる日台中の綱引きを見ないとわからなくなります。
« 石垣市 登野城尖閣に改名の英断 | トップページ | ムン閣下、日本とボルトンを恨む »
明らかに国民党は中共の傀儡となって台湾国民のナショナリズムをあおり、日台分断を図っています。
けれど、台湾の国民はナショナリズムに対して抑制的で、中・韓の国民の大勢に見られるような浅慮的ではありません。「何が国益か」という事も分かっていて、これは、台湾に「より成熟した民主主義」が根着いている証拠です。
日本はこれまで台湾に対して漁業区域では大きな譲歩していて、日台間においては「問題を適切に管理する」ことが可能となる土壌が出来上がっています。報道とは明らかに違い、この問題で中国と台湾を同列に並べる事は不適切です。
なお、石垣市では、尖閣に上陸して植生やヤギなどの繁殖状況を調査する決議を数年前に可決させていますが、実行には至っていません。さらに日台間の結びつきが強くなってこそ、台湾の理解が得られる機会が訪れるものと思います。
なお、全くの蛇足ですが、2019年度の外国人観光客の来訪トップは日本全体で見れば中国人が29.6%とトップですが、沖縄では台湾人が32.%で不動の一位であり、中国は21%と一割以上台湾のほうが多いのです。
報道では中台を一緒くたにして流されてしまいますが、台湾と沖縄の結びつきは歴史的にも非常につよく、この数年で変化したのは国民党だけです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2020年6月26日 (金) 15時40分
昨日の記事に対して、
民主党の岡田のように、
「台湾の許可は得たんですか?得てないでしょう?」
と心配していましたが、杞憂でした。
改めて、マスコミのミスリードや分断工作は酷いですね。
投稿: プー | 2020年6月26日 (金) 16時28分
尖閣について台湾が日本と同じ立場?とはごく控えめな言い方をしても、個人による希望的観測でしかありませんね。あるいはプロパガンダ。
石垣市と姉妹都市である台湾の都市はこれが原因で交流イベントを中止にしたとか。
これから様々な形で影響は出てくるでしょう。
名称を変えてやった!ドヤ!などとイキれば地元漁師を守れるとでも思っているならおめでたい限りです。
投稿: 島の人 | 2020年6月29日 (月) 12時02分
「島の人」とやら、あ、そうですか。もう少し丁寧にしゃべったらどうですか。
私がプロパガンダですか?参ったな。話にならん。
台湾は一枚岩じゃないってかきませんでした?
今の蔡英文政権が私たち日本と「同じ立場」に近いのであって、馬英九政権の時は中国べったりでした。
台湾の中も複雑ですよ。だからとりあえず「今の政権は」です。
そして蔡政権の言うことをしっかりと読めば、抗議の矛先は中国に向かっているとわかるはずです。
それは香港移行流れが大きく変化したからです。中国がいかに民主主義をようしゃなく奪うか判ったからです。
大陸追随の馬たち国民党はいまや落ち目です。いかなる選挙にも勝てない。
国民党総統候補者の韓高雄市長ですら、失脚しました。
東シナ海をめぐる流れは大きく変化しています。
また石垣市長は事前に台湾に説明をして理解を求めるなど、丁寧な気くばりも忘れてはいません。
その時に台湾側からどのような回答をえたかも書いてあるはずです。
今後、尖閣をめぐって平和に漁業を続けたい台湾と日本、それに対して海警で両国の漁船を追い回す中国という構図はより鮮明になるはずです。
私はそれを「日台の利害の一致」と書いたのです。希望的観測でもなんでもありません。
あえて言えば「領有権」という頑固にならざるを得ないテーマからいったん離れて、この尖閣領域の経済利権で考えてみればいいのです。
日台はすでに漁業協定を結んで棲み分けができています。日本魚民に文句があるのはわかっていますが、少なくとも中国のように公船で追い回し妨害をされるよりはるかにましです。
台湾にしてもそうです。領有権は日本に実効支配されていると認めているのですからそうそう簡単に動かない、ならば実利でシェアしたほうがよほどいい、字名については建前だから文句はいうが、これで決裂するわけにはいかない、本来平穏であるべき尖閣水域の環境を乱す共通の敵は中国だ、そう考えています。
このように経済的実利で日本と台湾はガッチリと既に手を組んでいるのです。
領有権ばかりに目を奪われるからみえないこともあります。
投稿: 管理人 | 2020年6月29日 (月) 17時27分