香港版国安法草案がわかってきた
香港版国家安全法(国安法)がおもったより早く制定されるようです。
「中国全人代常務委員会が18日から20日の日程で開かれ、香港版国安法の草案がまとまった。新華社を通じてこの草案の大まかな中味が発表された。それによれば、中国は香港に国家安全公署を設置することを規定。目的は「国家安全保障情報の収集および分析、固化安全保障に関する犯罪事件の処理を法に基づいて行う」ことだ。
さらに、特定の状況下で”ごく少数の”国家安全を脅かす犯罪事件に対し管轄権を行使することは、中央政府の総合的な統治権の現れ、と定義した」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.98 2020年6月22日)
この国安法は香港の今までの法律と違って共産党政府から「押しつけられた」ものです。
香港の法律は「条例」と呼ばれているローカルロウですが、このような民主的プロセスに沿って作られてきました。
①香港政庁が原案を提出、②専門家委員会による草案を公表、③パブリックコメントの募集、④立法会に提出、⑤議会の審議、専門委員会の議論を経て修正、⑥全体審議が3回、⑦立法会議員の過半数の賛成票で可決、⑧行政長官が署名、という手続きを経て成立します。
これらの一見煩雑とも見える長い民主的プロセスがあって初めて司法の独立が尊重されるからこそ、香港は中国と一線を画した「法治に貫かれた民主社会」として認められてきたわけです。
だから外国資本は香港に安心して投資できました。
しかし、今回の香港版国安法は、これらを全部ふっ飛ばして、共産党政府が、いつまでもお前らでは決められねぇからオレらが作ってやるんだ、ありがたく頂戴しねぇか、とばかりに全人代常務委員権限で香港国安法をつくってしまいました。
これはいまさら言うまでもなく、中英が取り決めた国際条約違反で、その核心部分の一国二制度を形骸化し、香港民主化運動を叩き潰そうとするものです。今回この草案は全6章からなっています。
これは中国の国安法と一緒で、第1章総則、第2章香港特別行政区国家安全保障の職責と機構、第3章罰則行為と処罰、第4章管轄案件、第5章適用とプロセス、第6章中央人民政府駐香港国家安全機構、という構成です。
このうち焦点となるのは第3章罰則行為と処罰の部分で、これに違反すると刑事罰を課すことができます。
●香港国安法の取締対象とする国家安全事案
①国家分裂罪
②国家転覆罪
③テロ活動罪
④外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす犯罪
同時に法律だけではなく、それを執行する治安関係が強化されています。
その取り締まり機関として「国家安全公署」を新設しました。
「中央政府は香港に国家安全公署を設置。その職責は「香港特別行政区の国家安全保障情勢についての分析研究、判断を行い、国家安全の重大戦略と重大政策に対する意見、提案を行う」
「監督、指導、協調によって、香港特別行政区が国家安全保障の職責履行を支持する」「法に基づいて国家安全犯罪案件を処理する」という」(福島前掲)
行政長官をトップとする国家安全保障委員会が作られ、香港警務署内にも国家安全保障部門が新たに新設されました。
香港律政庁(司法機関トップ)にも国家安全犯罪事件を専門とする公安部門を新設されました。
これらの公安関係の著しい強化によって、行政-警察-検察が連携して前述した第3章事案(国家安全犯罪)を取り締まることになります。
ただし、行政長官や司法トップなどはしょせん共産党政府からみればただの飾り物でしかなく、実権はありません。
注目すべきクセモノは「国家安全公署」です。
「この国家安全公署は、その名前から考えても国家安全部の出先機関、つまり中央直属のインテリジェンス機関に近いものを香港に作る、ということだと私はみている」(福島前掲)
この国家安全公署は秘密の司令塔として、香港人ではなく共産党直々に命じられた治安関係者が就くはずです。
そして香港警察を手足にして香港の治安情勢の情報を収拾し、摘発対象を定め、それを引っくくるように香港政庁に命じると考えられます。
事実上、香港側には拒否権はありません。
ニューズウィーク
また外形的には、国際社会を意識してか、集会・デモなどの自由はあるとしていますが、付則には「香港特別行政区と中国本土の法律で一致しないものは、その法活用について、全人代常務委員会に解釈権が委ねられる」とあります。
つまり、なんのことはない結局は中国国内の法が、そのまま香港の法律に優先するわけです。
たしか中華人民共和国憲法にも、言論・集会・結社の自由があるなんて書いてありましたっけね(ウソこけ)。
つまりは書いてあってもただの空文。守るきも、守る保証もないただのお飾りです。
しかも国家安全事案を裁くのは、行政長官が指名する者です。
ここには大陸の息がかかった者しか選ばれませんから、判決は出す前から決まっているようなものです。
ちなみにこの香港版国安法では、大陸と同じ死刑が復活しました。
大陸への移送も、移送法が撤回されたにかかわらず、この間多くのデモ逮捕者が消えたという情報もありますから、違反者は密かに大陸に運ばれて死刑となるか収容所送りとなるわけです。
「香港浸会大学伝理学院の高級講師の呂秉権は「この香港国安法は、香港現地の法律と国安法が一致しない場合、国安法を適用し、国安法の解釈権は全人代常務委員会に属するとしており、これは香港法治にとって比較的大きな衝撃だ」という。「香港のもともとあった法律メカニズムが失効し、人権などの方面が保障されなくなる」とBBCに語っている」(福島前掲)
さてこの時期に国安法が押しつけられたのには理由があります。
それは来る9月6日に立法会選挙があるからで、共産党政府はなんとしてでも前回の選挙の大敗北の屈辱を避けたかったのでしょう。
そのためにこの国安法草案にはこのような一節が入っています。
「香港特別行政区のいかなる機構、組織、個人とも本法および香港特別行政区の国家安全保障関連のその他の法律を遵守するべし。
いかなるものも国家安全に危害を与える活動に従事してはならない。香港の住民は選挙に出馬する、あるいは公職に就くとき、法に基づいて、中華人民共和国香港特別行政区基本法を守ることを宣誓し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を誓うことを署名し、確認しなくてはならない」(福島前掲)
なんともエグイ。
共産党政府は立法会の立候補資格が欲しければ、この国安法の踏み絵を踏んでみせろと言っているのです。
民主派に国安法の踏み絵を踏ませ、事実上立候補ができないように企んでいます。
「呂秉権はこの条文が「来る立法会選挙(9月6日)で、(民主派候補の)出馬資格を取り消したり、公職者(民主派議員)をクビにしたりする根拠になりうる。もし候補者が国安法に反対したら、出馬資格が取り消されるだろう」と懸念をしめした」(福島前掲)
とりあえず踏んだふりをして当選してみても、その後に立法会で国安法に反対すればクビということです。
これで完全に香港の民主主義は息の根を止められることでしょう。
※ブログのデザインを梅雨らしくしました。いかがでしょうか。
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更にこの法は香港住民に適用という事で、在留外国人にも見るな聞くな喋るなという圧をかけるようです。
https://r.nikkei.com/article/DGKKZO60639810S0A620C2MM8000?s=5
恣意的運用に加担する外国人勢力を重用していく気でしょうが、無理筋過ぎますよね…。
投稿: ふゆみ | 2020年6月24日 (水) 09時28分
昨日は、我々が敵地攻撃能力を持とうと持たなかろうと、隠し放題の移動式発射台を見つけて始末するのは不可能な以上、敵の一撃は免れないことを考えながら、NHKの世論調査で、外出禁止や休業を強制できる法改正が、「必要だ」を選んだ人が62%あったというニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200623/k10012480041000.html
を見て、頭を巡らせてとっ散らかっていました。
あのNHKの質問に答えた人々は、それがどういうことか、どういう問題に相対しなければならないのか、分かって答えただろうか…
香港は、良くも悪くも恵まれた我々日本人には考えられないような私権の制限がかかっていくでしょう。
台湾やイギリスの香港からの移民受け入れに続いて、我が国政府も香港の人材受け入れの検討が始まり、東京の金融機能強化推進が掲げられ、日本取引所は祝日も金融派生商品の取引が行えるようにするといいます。
香港の人々も、香港の外の人々も、もう「その時」「その後」を見ている…
投稿: 宜野湾より | 2020年6月24日 (水) 22時59分