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2020年7月

2020年7月31日 (金)

海兵隊の新方針 沖縄に対艦ミサイル部隊を展開させる

       060    

アジアの哲人政治家だった李登輝氏が死去されました。
李先生なくては、今の自由で民主主義国家の台湾、いや東アジアはありえませんでした。
ご苦労様でした。あなたに学ばせていただいたことは、ここには書き切れないほどです。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

さて米国がまたもう一歩、尖閣について踏み込んだ発言をしています。

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シュナイダー在日米軍司令官

[東京/北京 29日 ロイター] - 在日米軍のシュナイダー司令官は29日、尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺における中国公船による「前例のない侵入」の監視を米軍が支援することが可能との見解を示した。これに対し、中国外務省は、釣魚島は中国固有の領土であり、この地域で法執行活動を行う権利を有すると表明した。
日本と中国はともに尖閣諸島(釣魚島)の領有権を主張。日本は今月発表した防衛白書で、中国公船が領海侵入を繰り返していると指摘した。
この問題について、米国は中立な立場をとっているが、同盟国である日本が攻撃に対応する場合は支援する方針を示していた。
中国外務省の汪文斌報道官は29日の定例会見で、シュナイダー司令官の発言について問われ、関係当事者らが平和と安定のためにならない行動をとるのでなく、地域の安定維持により一層取り組むことを中国は期待すると述べた。
シュナイダー司令官はネット会見で、「現状に対する米国の日本政府支援へのコミットメントは100%確固たるもの」とし、中国船はこの海域に出入りしており、これは日本の統治に挑んでいるとみていると話した」

既報ですが、このシュナイダー発言の前の7月10日、 米陸軍ライアン・マッカーシー長官が、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サイバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画を明らかにしています。
軍種として長官は、長距離精密誘導兵器、極超音速ミサイル、精密照準爆撃ミサイル、電子戦力、サイバー攻撃能力を備える可能性があると述べています。
関連記事 『米国、米軍尖閣に配備か?』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-f711f8.html

そしてこの後にもうひとつ米軍がなにを考えているのかもっとよく判る発言は、今年3月のバーガー海兵隊総司令官のものでした。

「27年までに「新ミサイル部隊」 対中国、沖縄に展開―米海兵隊トップ会見
 【ワシントン時事】米海兵隊トップのバーガー総司令官は23日、時事通信との電話会見で、2027年までに対艦ミサイルなどを装備した「海兵沿岸連隊(MLR)」を3隊創設し、沖縄とグアム、ハワイに配置する考えを明らかにした。総司令官は3月、海兵隊が今後10年間で目指す方針を示した「戦力デザイン2030」で、戦力構成を抜本的に見直し、対中国にシフトする姿勢を鮮明にしている」(時事7月25日)

なるほどね、このようにつなげると、この米軍の尖閣支援はただの同盟国支援ではないのがわかります。
今日あたり
、やったぁ米軍が尖閣の日本の窮状を救ってくれる、という安易な見方が溢れそうですが、そうではなく米国の太平洋防衛シフトが転換したのだとわかります。
これが判るのは、「戦力デザイン2030」(“Force Design 2030”) という米軍の新たな展開について述べられた文書があるからです。
これは在沖縄海兵隊も大きく関わることがいくつかありますので、注目してください。

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バーガー海兵隊総司令官 時事 

「海兵隊の構想によると、沖縄を拠点とする第3海兵遠征軍傘下の海兵連隊を軸に再編成を行い、MLR3隊を創設する。バーガー総司令官は、既にハワイでは1隊目の編成が始まっており、沖縄とグアムに設置予定の残る2隊についても「27年までに完全な運用体制が整う見通しだ」と明言した。
 MLRの設置時期が明らかになったのは初めて。既存の海兵連隊を再編するため、沖縄に駐留する総兵数が増えることはないという。
 MLRは1800~2000人規模とみられ、長距離対艦ミサイルや対空ミサイルを装備する。有事の際には島しょ部に分散展開し、陸上から中国軍艦艇を攻撃して中国軍の活動を阻害。米海軍による制海権確保を支援するのが主な任務となる。
 バーガー総司令官は、自衛隊が水陸両用車や輸送機オスプレイ、最新鋭ステルス戦闘機F35など相互運用性のある装備を保有していると指摘。「(海兵隊と)完全に補完し合う関係だ」と強調し、南西諸島での自衛隊との合同演習にも意欲を見せた。
 今回の海兵隊再編が「日本に影響を与えるのは間違いない」と認め、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着くのを待って日本を訪問し、今後の改革などについて直接説明する考えを示した「(時事 7月25日 戦車全廃、内陸から沿岸部隊へ 中国にらみ変貌―米海兵隊 )

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このように海兵隊のシフトが大きく変化します。
ひと言でいえば、いままで中東やアフガンに展開することに最適化された戦力配備から、中国との軍事衝突を真正面に据えた配備に転換します。

「バーガー司令官は「戦力デザイン2030」の中で「18年策定の国家防衛戦略は、海兵隊が中東での過激派対策からインド太平洋における大国間競争に任務をシフトするよう求めた」と説明。「内陸から沿岸、対テロ組織から同格の競合国。このような任務の根本的変化は海兵隊の組織や訓練、装備に大幅な変革を必要とする」と強調した」(時事前掲)

今の海兵隊シフトは中東と朝鮮半島危機に特化したもので、中国との対決局面は台湾ていどに限られてきました。
しかしこの間の中国の飛躍的軍拡は海洋にまで及び、米軍の介入を阻む接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略を打ち出し、ミサイル戦力を大幅に増強しています。
特に中距離弾道ミサイルは、米露が中距離核戦力(INF)全廃条約で縛られていることを横目に、射程程500~5500キロの地上発射型ミサイルを大量に配備してきました。
去年8月に米国がINFを廃棄したのは、表面的にはロシアの条約破りを口実にしていますが、真意は中国の中距離弾道ミサイルに対抗するためです。

では、具体的にそれはどこに配備されるのでしょうか。
もちろん日本です。もっと限定すれば沖縄から奄美を含む第1列島線であると思われます。

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産経

そのために海兵隊部隊と装備の再編が行われます。

①戦車部隊の全廃・砲兵部隊・オスプレイ・水陸両用車両・F35Bの削減
②1万2000人削減
③ロケット部隊(HIMARS) を7隊から21隊に増強し、「海兵沿岸連隊」(MLR)を沖縄島しょう部に配備

今までの海兵隊の任務は、彼らの合い言葉どおり"first to fight"(最初に戦う)、つまり空中や海上から真っ先に乗り込んで橋頭堡を築き、陸軍本体を迎えるという任務が与えられていました。
ところが実際には、緊急展開部隊の悲しさで一種の無任所部隊となっていました。
ですから海兵隊は最精強であるにもかかわらず定まった守備エリアを持たず、常に強襲揚陸艦に乗ってアチラコチラに助っ人に行くことを強いられてきました。
米軍4軍でも、差別化できていないために、最も予算配分が少なかったのがこのマリーンだったのです。
長期化するアフガンやイラクなどでは、陸軍の影でジっと耐え忍ぶ海兵隊の姿があったといいます。

しかし状況が変わりました。
今度この10年間で海兵隊に与えられる新任務は、東シナ海の尖閣諸島や南シナ海の南沙諸島・西沙諸島の周辺で中国艦隊を制する役目です。
いつでもどこでもではなく、今や米軍の主敵にまで成長した中国軍、特に海軍・海兵隊を対象としてその進出を阻止するのが新たな任務です。

それに伴い今までの任務で重要な装備だったオスプレイや榴弾砲、戦車はバッサリ切ってしまい、これは陸軍にまかせて、自分は対艦ミサイルを装備して中国と戦うということになります。
もちろん段階的に切り替わっていくでしょうし、いきなりオスプレイや戦車が全廃されるとは思えませんが、少なくとも今後10年で海兵隊は空中殴り込み部隊から、沿岸に拠点を定めて対艦ミサイルを持つ部隊に変貌するのです。

いうまでもなく、この海兵隊の再編は沖縄の第3海兵遠征軍がその中心となります。
1万3千人削減はちょうど1個師団の定員数ですので、米本土にいる第1海兵師団が解隊となり、第3海兵遠征軍は強化されると思われます。
そしてこの在沖海兵隊も再編成され、その中の3つの連隊が「海兵沿岸連隊」(MLR)として再編されます。
装備するのは対艦ミサイルを主装備とし、NSM地対艦ミサイルとトマホーク巡航ミサイルだと推測されます。

なお陸自が、現在、石垣島、宮古島、奄美大島に対艦ミサイル部隊の配備を進めていますが、当然これとの共同が前提のはずです。
自衛隊は沖縄本島に新装備の島嶼防衛用高速滑空弾の配備が予定されており沖縄本島から尖閣諸島までを防衛エリアにする予定ですが、なにぶん開発中であり現実に装備されるのはもう少し先の話となります。
それまでそれをカバーするのが、「海兵沿岸部隊」のトマホーク巡航ミサイル部隊になると思われます。

このように、尖閣や離島防衛は日本の単独の領分として突き放してきた米国の立場は大きく切り替わり、広く東シナ海防衛網は日米が協力して構築していく性格のものに変化していきます。
これで在沖海兵隊がグアムへと後退する可能性はほぼ消えました。
逆にむしろ沖縄本島・離島・奄美は米軍の最重要拠点としてむしろ強化されていくことになると思われます。

 

※タイトルを修正しました。

 

 

2020年7月30日 (木)

「バイデン政権」の外交を考える

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世界各国は急速に進む「米中戦争」の予感に震えています。
もちろんこう書いたからといって、明日明後日に南シナ海で戦争が勃発するわけではありません。
ひとつのシナリオとしては、「南シナ海の人工島からいついつまでに撤退せよ」と警告してからおもむろに一定の戦争開始のためのプロセスに移行していきます。
その後は海上封鎖・空域封鎖を行っていくのが通例で、このへんは北に対する制裁と同じです。

しかし中国が実力で海軍を使って海上封鎖を破ろうとすればそこで戦闘が発生します。
その時に、人工島まで爆撃されて破壊される可能性はありえます。
しかし双方共に核を持っていますから、それを局地的戦闘に止めようとするでしょう。

このように明日あさってにも核を撃ち合う全面戦争など起きることなどありえません。
ただ読みきれないのは、トランプが大統領選の真っ最中であって、ここで小規模戦闘をして勝つことが選挙戦に有利だと判断したケースです。
その場合、通常のステップを省いて、いきなり人工島に手をかけることもないとはいえません。
人工島は中国領土ではなく、国際法上ただの海ですから、かりに攻撃しても海に向けてミサイルを撃ったということになります(笑)。

いずれにせよ、この戦争プロセスに入るには大義を高々と掲げる必要がありました。
法治社会とはなにか、民主主義とはなにか、全体主義とは何故悪なのかを明らかにして、旗幟を鮮明にせねばならないのです。
司法長官、FBI長官が共に演説で述べたことはこの法治であり、そしてポンペオが言ったのはそれが「平和で安定した開かれた国際社会」にとって最も重要な理念であって、合衆国はそのために戦うという大義でした。

そして国際社会、なかんずく同盟諸国に対して、きみはどちらにつくのかのか、専制政治か自由主義かと態度を迫りました。
特に太平洋をとりまく当事国であるオーストラリア、NZ、日本には厳しい選択が迫られるはずです。

さて米豪2プラス2が開かれ、南シナ海問題での連携が改めて確認されました。

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「米国とオーストラリア両政府は28日、ワシントンで開いた外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の終了後に共同声明を出し、中国による南シナ海での広範な領有権主張は「国際法に照らして無効だ」とそろって批判した。米中対立が激化する中、閣僚レベルで一致した見解を明確に打ち出し、中国の反発は必至とみられる。 米豪は共同声明で、中国政府による香港国家安全維持法(国安法)施行や、新疆ウイグル自治区での少数民族に対する人権抑圧にも「深刻な懸念」を表明した。
ポンペオ米国務長官は「オーストラリアと連携し、南シナ海での法の支配を重ねて主張していく」と強調した」
(徳島新聞7月29日 上写真も同じ)

「ポンペオ長官は共同記者会見で、オーストラリアが中国の圧力に立ち向かっていると称賛。中国が海洋権益を主張している南シナ海で法の支配を取り戻すため、米豪両政府は今後も協力していくと述べた。
ペイン外相は、米豪が法規範に対するコミットを共有したと指摘。中国による香港の自治への侵食のような行為に対して責任を負わせると改めて主張した」(朝日7月29日)
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN24T2U2.html

また、対中制裁で出遅れていたNZも、オーストラリアに続いて香港との犯人引き渡し条約を破棄、軍事転用可能な民製品(デュアルユース)に対する輸出管理強化に踏み切りました。
これでまだ態度が未定なカナダを除いて、いわゆる「ファイブアイズ」(5ツの目・英語圏同盟)の足並みは揃ったわけです。
大英連邦諸国と米国は香港へ輸出管理強化を進めており、いままで中国がとってきた香港経由でのデュアルユースの輸出は閉ざされることになります。

米国にとってアジア戦略の策源地である日本の位置は、ある意味で「ファイブアイズ」以上の重要性があるはずで、まだ直接の要請はないようですが(水面下では当然来ているはずですが)、中国との犯人引き渡し条約の廃棄、デュアルユースの輸出管理強化は避けて通れないはずです。
おそらく与党内部の親中派の必死の抵抗に合うでしょうが、もし拒否するなら日本もまた同等の2次制裁に合うことになります。
これがなされた場合、日本企業は米国政府調達から排除され、民間企業もそれに追随することになります。
首相の決断が迫られることになります。

ただし、この米豪2+2でオージーが盛んに自分たちは中国と直線的に対決する意図はないということでした。
それはこういう表現に現れています。

「ただ、オーストラリアのペイン外相は、豪中関係は重要であり、害を及ぼすつもりはないと強調した。(略)
一方、豪政府は中国や米国とあらゆる問題で合意しているわけではないとし、「対中関係は重要で、害を及ぼすつもりはない。ただ、われわれの利益に反することを行うつもりもない」と述べた。
ペイン外相は、米側との意見の相違に関する詳細な言及は避けたが、豪政府は国益と安全保障に基づき、独自に判断しているとし、「中国への対応も同様だ。われわれは経済や他の面でも強い結びつきがあり、両国の利益につながっている」とした」(朝日前掲)

朝日の報道だからというわけではありませんが、オージーは中国との強い経済的結びつきをもっています。
特に主要輸出品の鉄鉱石、石炭、LNG、農産品の大きな市場です。

Fahlutvq

中国経済と“運命共同体化”するオーストラリア 鉄鉱石、石炭、LNGなど ...

メルボルン、シドニーでは中国資本が不動産を買いあさり、マンションは中国人で満杯。
オージーは日本以上に中国に強依存した経済構造を作ってしまっており、中国が風邪を引けば、オージーも風邪を引くと自嘲するような状況だったようです。
しかし日本と同じように 、オージー投資ファンドは今後も中国の発展は7%を超えて続き、中国の繁栄は未来永劫続くだろうといわんばかりの予測をして投資を勧誘していました。
2014年には、メルボルンの投資アナリストはこう楽観していました。

「中国にはまだまだ発展していない地域も多く、これから成長が期待できるのびしろは十分あります。2014年は7.25%前後、2015年は7%前後の成長が続くと見ています。短期的に見ても長期的に見ても、中国経済を過度に悲観する必要はないと私は考えています」(『中国経済と“運命共同体化”するオーストラリア)
https://president.jp/articles/-/12673?page=2

今、ぜひこのメルボルンのアナリスト氏に同じことが言えるかどうかお聞きしたいものです。
これとそっくりなことを日本の投資ファンドのアナリストはつい先日まで口にしていたことを思い出します。
それは日本も似た貿易構造を持っているからです。

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 NHK

それはさておき状況は劇的に変化しました。
にもかかわらず、オージーのペイン外相のように「対中関係は重要で、害を及ぼすつもりはない。ただ、われわれの利益に反することを行うつもりもない」(朝日前掲)と言うのは、この貿易構造だけのも問題ではなく、もしトランプが負けてバイデンにでもなったら、またドンデン返しが待っているのではないかというためらいがあるからです。

そして現在の状況では、来年1月にバイデンが大統領になるか確率はフィフティフィフティです。
バイデンが首ひとつ抜けているでしょう。
特にマスクも拒否し続けたようなトランプの感染対策の失敗が響いているようです。

では、もしバイデンが時期大統領となった場合、どのようなことになるのか考えてみましょう。
まずはトランプ外交のプラスとマイナスです。

プラス面としては
①中国に厳しい態度を取り続け、自由主義陣営の結束を呼びかけた。
②安倍氏と良好な関係を保ち、友好関係を作った。
③北朝鮮と非核化交渉を現実化させた。

一方トランプ外交のマイナス面として
①反同盟的態度が目立ち、従来の同盟関係を破壊するような言動が目立った。
②日米同盟についても金銭勘定で量るような根本的な認識に疑問がつく言動が目立った。
③衝動的、かつ感情的な言動が日常的になされた結果、トランプ劇場に世界は振り回された。
④国連などの国際機関と敵対した。(これはプラスかマイナスか立場によってわかれるでしょうか)

以上まとめてみると、立場によって藤井厳喜氏ならここで私がマイナスとしてあげたものはことごとくプラスに得点するでしょうし、逆に宮家邦彦氏ならプラスなんかひとつもないデタラメ野郎だと吐き捨てるかもしれません。
まぁこれほどまでに立場によって大きく評価が別れる大統領は初めてなのは確かです。

バイデンが大統領となった場合にはどのようなことになるか、考えてみましょう。
私は従来どおり同盟各国と、なかでもNATO諸国とは協調的な関係に戻るのは確実だろうと思います。
したがって、トランプが覆した国際的合意の数々、パリ協定やイラン核合意の廃棄は見直されるでしょう。
国連やWHOとも協力的な関係に復帰するかもしれません。
TPP復帰については、民主党内部の反対もありますが、進めたのがバイデンが副大統領をしていた時に決めたことなので、なんともいえません。

日本おの関係は同盟重視政策をとる以上、良好な関係が保たれるとは思います。
ただし、かつてのオバマ時代が口ではアジア回帰という言い方をしながら、内実はなにひとつしなかったことを考えると警戒する必要はあります。

とここまではかなり読めるのですが、決定的な中国との対応については、結論から言えば微妙と言っておきましょう。
素直に考えれば、オバマ時代は惨憺たるものでしたので、当時の副大統領だったバイデンはこの遺伝子を大量に持っているはずです。
オバマは米中で世界を管理していこうというG2構想にかなり乗り気でした。

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オバマとスーザンライス安全保障補佐官 WSJ

「スーザン・ライスはオバマ政権二期目に国家安全保障担当大統領補佐官を務めていたが、2013年11月に「アジアにおけるアメリカの将来」と題するアジア政策演説を行った際、対中国政策に関しては、「(中国が提案した)『大国間関係」という新しいモデルを円滑に運用(operationalize)すべく模索中である」と述べて、日本政府関係者を狼狽させた。このような発想が、民主党系外交専門家の根の部分に存在することは否定しがたい。ちなみに、彼女もバイデン候補の副大統領候補の一人である」(久保文明 東京大学大学院法学政治学研究科教授)

この「中国が提案した大国間関係という新しいモデルを円滑に運用する」というのが、G2路線、すなわち超大国2国で世界を管理運営するという対中融和の極みのような政策でした。
政権末期になって、オバマはやっと中国に警戒心を持ち始めたようですが、またスーザン・ライスが入閣するようなことがあると、眼も当てられない対中融和が再開されるかもしれません。
ポンペオ演説は捨て去られ、言葉ヅラだけの対中非難はあるものの実効性ある制裁は手控えられます。

「アシュトン・カーターはオバマ政権の最後にして4人目の国防長官であるが、前任者同様、自分の以前のボスに厳しい言葉を浴びせている。すなわち、彼は南シナ海での航行の自由作戦の着手について何度もホワイトハウスに打診しながら、そのたびにオバマ大統領とライス補佐官に拒否されたことを、批判的に語っている。それはようやく2015年終わりに実行に移された7。人権や通商でいくら強い態度を示しても、最終的かつ本質的には力の論理に依拠した言動でないと、中国に対しては迫力を持たないであろう」(久保前掲)

ですから、トランプの激に乗ってしまった諸国は、二階に上がってはしごをはずされた形になってしまいます。
これが最悪シナリオですが、たぶんオージーや東南アジア諸国や、あるいはわが自民党内親中派の諸氏は皆これを心配しているであろうことは想像に難くありません。
なにぶんポンペオ演説は、政権末期のどたんばでしたから、これが政権初期なら大分様相は違ったはずです。

一方、必ずしもそうとは限らないという見方もあります。
この中国に対する強硬姿勢は議会で全会一致で決めたことであって、香港やウィグル人権法などの制定には民主党は大いに賛同したわけです。
特に新型コロナにおける中国の情報隠蔽には、民主党も強い非難をしていました。

「バイデン政権の対中外交も、トランプ政権の対中政策同様強硬なものになるであろう、という推測をする者もいる。現在アメリカでは、超党派で中国についての見方が厳しくなっている。とくに今回の新型肺炎の問題では、中国の隠ぺい体質が党派を超えて強く批判されている。
 トランプ政権の対中政策はその強硬姿勢で目立っているが、最近制定された中国関連の法案は、ほとんどが超党派で、すなわち民主党が多数党となっている下院も同調し、多数の民主党議員の賛成のもとに可決されていることは事実であり、議論の前提として確認しておく必要がある」(久保前掲)

またバイデンの外交チームに入ると予想されているカートキャンベル前米国務次官補(東アジア・太平洋担当)とイーライ・ラトナー 前米副大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)は、米国外交専門誌「フォーリンアフェア」(2018年4月号) に共同執筆した『対中幻想に決別した新アプローチを。中国の変化に期待するのは止めよ』の中でこう述べています。

「リベラルな国際秩序も、期待されたように中国を惹きつけることも、つなぎ止めることもできなかった。中国はむしろ独自の道を歩むことで、アメリカの多方面での期待が間違っていることを示した。さまざまな働きかけで中国が好ましい方向へ進化していくという期待に基づく政策をとるのはもう止めるべきだ。中国を変化させるアメリカの力をもっと謙虚に見据える必要がある」
https://www.foreignaffairsj.co.jp/articles/201804_campbell/

この論文にはこのようなタイトルが並びます。貿易による経済開放の試みと挫折・実現しない政治の自由化・平和的台頭への決別・独自の秩序構築へ、そして末尾には希望的観測の排除をと締めくくっています。
つまりカートキャンベルは、米国が中国を国際社会に迎い入れようとした試みはすべて失敗したと総括しており、オバマ政権の二の舞はしないと述べているようにも見えます。

ただし全会一致といっても、民主党には強力な左派が存在しているのはご承知のとおりです。
そしてバイデンは20以上にも分裂した民主党候補を自分に一本化するために、社会主義者と自称しているバーニーサンダースなどの左派に大きな譲歩をしたことは知られています。

「かりに副大統領候補にエリザベス・ウォーレン上院議員、あるいは似たようなイデオロギー傾向をもつ政治家を選べば、いかに外交・安全保障チームに対中タカ派が抜擢されたとしても、政権全体は左派色を強める。たしかに民主党左派も通商や人権では中国に厳しい批判を展開するが、トランプ以上に踏み込むであろうか。とくに人権では、それほど実体のない制裁で終わる可能性はないであろうか。同時に、バーニー・サンダースらは、国防費の大幅削減を一貫して要求している。彼らは、大統領の戦争権限を制約することにも熱心であり、中国に対して軍事的に対峙しようとする意志をもっているであろうか」
(久保前掲)

特に警戒すべきは頑固なG2論者であり、地球温暖化などで中国と協調するためには多くの妥協を厭わないとされるスーザンライスが副大統領になった場合、人権非難は口さきだけのものに終り、米中融和の新段階が始まる可能性も否定できません。

 

2020年7月29日 (水)

結局、日本の旗幟は選挙で決着するしかないのか

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7月13日のマイク・ポンペオ国務長官の演説を機に、米中は新たな対立のステージに突入しました。
昨日の記事でもかきましたが、米国は同盟国に対して旗幟を鮮明にするように要請しています。

既に米国は英国を力でねじ伏せるようにして、既決事項であった5Gのファーウェイ導入を止めさせました。

「この5G技術でファーウェイは世界をリードしており、この規格に従う携帯基地局など通信機器のコスト・パフォーマンスも良いことから、英国をはじめ欧州諸国はすでに自国で構築中の5Gネットワークに同社製の通信機材を採用している。
これに対し米国政府は「ファーウェイの通信機器にはバックドア(裏口)と喩えられるセキュリティ・ホールが仕掛けられており、これを介して西側同盟諸国の機密情報が中国政府に筒抜けになる」などとして、ファーウェイ製品の排除を同盟諸国に求めてきた」
(小林雅一『英国が5Gで「ファーウェイ排除」に180度方向転換した理由』7月16日)

ヨーロッパ諸国が中国との関係が深いのはよく知られていますが、この英国もごたぶんに漏れず大変に深い関係をもっていました。
今の英国は製造業は衰退し、シティの金融業で食っている国となっていますが、この通信分野においてもファーウェイとの関係は抜き差しならないまで深いものでした。

ファーウェイがヨーロッパで最初の拠点を置いたのは、2005年の英国が初めてでした。
以後英国はファーウェイの海外最大の市場に成長し、今や研究機関を1300億円もの巨額を投じて建設しています。
また、社会的にも各種の研究資金を研究所や大学に提供するなど、彼らなりに精一杯西欧化する努力は払ったようです。

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朝日

一方、英国にとってもシティを通じてチャイナマネーを仕切るうまみがあり、宝飾品、ウィスキー、あるいは医療機器、発電設備などの工業製品も気前翌買ってくれるのが、この中国でした。
ここだけ見るなら、中英関係はウィン-ウィンだったわけです。

米国は「バックドア」がついていて中国政府に情報がダタ漏れとなりますよ、と言う理由で各国にファーウェイ排除を呼びかけましたが゛、言葉だけではなく制裁を化すことで、事実上ファーウェイを使えなくする措置もとっていました。
それが今年5月の米国によるファーウェイ制裁措置(発動されるのはは9月)ですが、その内容はファーウェイへの核心技術移転阻止でした。

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ロイター

「この制裁では、ファーウェイから受託生産をしている台湾のTSMC社などメーカーに対し、米国発祥の技術で製造した半導体部品などをファーウェイに販売することを事実上禁止している。
特に半導体の設計技術は米国が中枢特許を所有しているため、この制裁措置が発動された暁には、ファーウェイは5Gに関する中核部品の供給を受けられないなど致命的な打撃を被ると見られている」(小林前掲)

米国が中枢特許を握っている半導体技術をファーウェイに提供させないことで、生産技術の背骨をへし折ってしまうというやり方です。
するとどうなるのかといえば、ファーウェイはいくらヨーロッパ各国から御用達があっても、5Gネットワークに重大な欠陥ができてしまうことになります。

これで英国がグラついたところに、習近平は自分で墓穴を掘ってしまいました。
それが香港国安法の押しつけです。
このことはいやがおうでも、同時進行していた中国の新型コロナ対策の異様な全体主義的手法の数々、失態を事前で糊塗するかのようなマスク外交(しかも粗悪品で返品)が重なってきます。
香港国安法は、新型コロナ以前から、「欧米の議会関係者らは所詮、価値観の違う陣営(中国)につくことはできない、と述べていた」(小林前掲)という元々のベースのうえに、改めて民主主義の理念問題を喚起させてしまったわけです。
完全な習の状況の読み間違えです。
つまり英国は中国市場からの報復というリスクを承知でファーウェイ排除・中国包囲網に参加を決意したのです。

では翻ってわが国の状況はどうでしょうか。
本来、この「日本は米中どちらにくつくのか」という設問自体がナンセンスなはずです。
理由はいうまでもありませんが、選ぶも選ばないも日本は日米同盟という軍事同盟を結んでいて、それを外交政策の機軸に置いているからです。

尖閣諸島に対して中国は100回を超えて侵入を継続しており、ここで彼らがしていることはまぎれもなく実効支配行為です。
べつの言い方をすれば、彼らは既に尖閣諸島海域を押えており、残るは尖閣諸島の島だけだと考えているのです。
それに対して遺憾としか言えない、尖閣諸島に船溜まりひとつ作れない、灯台ひとつ建てられない。
こんなていたらくでは、仮に沖縄に米軍というプレゼンスがなければ、中国は今頃尖閣はおろか八重山・宮古の線まで侵し、日本は沖縄本島防衛を真剣に構築していなければならなかったことでしょう。

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ニューズウィーク

こんな時期にどちらを選ぶもクソもないわけで、それをあえて問わねばならない情けない空気が現政権には漂っています。
極め付きは習の国賓訪日でした。
私は安倍氏の対韓国方針を支持しましたが、それは国益の原則を誤っていなかったからです。
ところが、こと中国となると、自民党はまるで親中派の巣窟と化したかのような空気が漂っています。

あえて名指ししますが、親中派の震源は、菅・二階・今井・公明ラインにあります。
このような官房長官-幹事長-首相補佐官、公明という包囲網を敷かれてしまっては、首相の力などたかがしれています。
しかも4期めはないと自ら明言してしまった以上、与党内部ではその次だけが関心事なのです。
対中政策にかぎらず、この間の首相の指導力の衰退の大きな原因は、このような者たちに政権を仕切られてしまったからです。

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産経

安倍氏が個人としていかなる中国に対する思惑があるのかは、今、問いません。
たぶん言葉にすれば親中派のお歴々とはそうとうに違った塩辛いものだと推察しますが、しかし政権中枢にここまで多くの親中派を抱えこむ陣容を作った時点で安倍氏は敗北していました。

このまま日本政府が韓国じゃあるまいに「戦略的あいまい路線」を続けるならば、かならず米国は英国に対して使った手段を行使するでしょう。
たとえば日本企業が中国企業に高度技術製品を販売したことをもって、米国市場へのアクセスを禁止するセカンダリーボイコットなどです。

私たち国民にできることは限られています。選挙で親中派を落とし、二階の顔を青ざめさせることです。
総選挙があるやに聞いていますが、その政策の争点の一番目に「米中いずれかを選ぶのか」を置くことです。
そのことによって自民党親中派や公明党候補が多数落選して過半数割れを引き起こしたとしても、親中派議員には退場願いましょう。

あるいは、安倍氏と麻生氏がまともな対中意識をおもいだすか、いずれかです。
さもないと日本は米国から英国のように締め上げられることになりますよ。

 

 

2020年7月28日 (火)

「宣戦布告」としてのポンペオ演説

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ポンペオ演説はいままで3回あった中国非難演説のトリにあたる4回目であり、かつ、2年前の2018年10月4日のペンス演説と対になっています。
※関連記事『ペンス副大統領による「新冷戦」宣言演説』1・2
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-307a.html

2年前のペンス演説が「警告」だとするなら、このポンペオ演説はまさに「宣戦布告」です。
共通している認識は中国が今や「人類共通の敵」となったという厳しい認識です。
今回の領事館閉鎖命令に至る流れは、ただの米中経済摩擦でもなければ、ましてやトランプの再選運動などではなく、自由主義と専制主義との戦いの狼煙なのだ、とポンペオは述べています。
外務大臣としては異例なことに、ポンペオは習近平を名指しして「破綻した全体主義イデオロギーの信奉者」と呼んでいます。
そして更に彼が率いる中国共産党は、「世界覇権への野望」を長年持っていたとしています。

「中国共産党の習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない」(日経前掲)

米国がこのように「イデオロギーの違い」だと言い切るのは、宣戦布告を意味します。
かつての大戦開戦時に、わが国を全体主義と呼んだのとまったく同じ文脈です。
ですから、ポンペオは演説の最後をこう締めくくっています。

「中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。ニクソンは1967年に「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない」 (日経7月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61896140U0A720C2000000/

ポンペオはこの中国との戦いを人類にとって「現代の使命」だと言いきり、その理由はこの国は世界を支配し、世界を専制主義に変化させようとしている邪悪な存在だからだ、と言っています。
したかって「中国が変わらねば、世界に安全はない」のです。

「この形の中国を他国と同じような普通の国として扱うことはできない。中国との貿易は、普通の法に従う国との貿易とは違う。中国政府は、国際合意を提案や世界支配へのルートとみなしている」(日経前掲)

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産経

では普通の国でなくてなんなのでしょうか。
ポンペオは、かつて米中国交回復によって国際社会に中国を導いたニクソンの言葉を引いて、「我々はフランケンシュタインを作ってしまった」とまで中国を評しています。

「ニクソン元大統領はかつて、中国共産党に世界を開いたことで「フランケンシュタインを作ってしまったのではないかと心配している」と語ったことがある。なんと先見の明があったことか。今日の中国は国内でより独裁主義的となり、海外ではより攻撃的に自由への敵意をむき出しにしている。トランプ大統領は言ってきた。「もうたくさんだ」と。

フランケンシュタイン!言い得て妙です。
中国はまさに資本主義と共産党独裁の混血のキメラであり、荒々しい19世紀的帝国主義の身体に、古めかしい共産党の頭がついた怪物なのです。
今までの歴代政権のとった対中政策は根本的にまちがっていた、民主党の融和敵政策はいうまでもなく、そもそも中国共産党を国際社会に招待したのは共和党のニクソンだったのです。
そしてこのモンスターを作ったのは我々米国、しかも共和党だったと言っています。
ポンペオが、この演説を他ならぬニクソンゆかりの地でおこなったのは、そういう意味がこめられているのです。
ただのトランプ再選目的なら、ここまで踏み込まないはずです。
なぜならトランプの政治の師はニクソンですから。

「中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。
米国や他の自由主義諸国の政策は中国の後退する経済をよみがえらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついただけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう強要しただけだった」(日経前掲)

ポンペオは今回の領事館閉鎖命令がこのようなことに中国が手を染めているからだと述べています。

「中国の学生や従業員の全てが普通の学生や労働者ではないことが分かっている。中国共産党やその代理の利益のために知識を集めている者がいる。司法省などはこうした犯罪を精力的に罰してきた」(日経前掲)

スっと読み過ごさないで下さい。ホンペオは中国人学生・研究者を「一般のそれではないと言っているのです。
ではなんなのかと言えば、それは2年前ペンスが言ったこのようなことを平気でする者なのです。

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ペンスは4ツばかりあげています。

中国の米国の内政への干渉。
中国による為替操作、強制的技術移転、知的財産の剽窃、不正な補助金などの方法による不正な貿易。
中国による世界先端産業の9割を支配への野望。
中国による剽窃した民間技術の軍事技術への転用。 

①の中国による米国内政への干渉は、今回のBLMやアンティファ騒動で一気に明るみにでようとしています。
もちろん、それは長年に渡る中国による連邦議会や地方政府に対する浸透工作の賜物でもあったわけです。

その司令部があったのが中国領事館であるとポンペオは言っています。

「今週、我々は(テキサス州)ヒューストンの中国領事館を閉鎖した。スパイ活動と知的財産窃盗の拠点だったからだ。南シナ海での中国の国際法順守に関し、8年間の(前政権の)侮辱に甘んじる方針を転換した。国務省はあらゆるレベルで中国側に公正さと互恵主義を要求してきた」(日経前掲)

中国は国家の情報工作として、全米の領事館を通じてアンティファやBLMを支援してきたと大統領や司法長官は発言しています。
米国報道では一部の中国人学生が中国大使館の命令で動いたことを自白したとの報道もあります。
※関連記事『米国の紅衛兵・アンティファ』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-6216dd.html

この背後関係が明らかになれば、もはや致命的です。
米国は直ちに中国を米国で最も重大な敵に与える「テロ支援国家」に指定し、輸出管理の米国原産割合を25%から10%にまで引き下げ、米国製部品を中国が利用するのは極めて困難になります。
またハイテク関連製品などの輸入はほぼできなくなり、米国との金融取引も事実上不可能になります。
今の北朝鮮が「テロ支援国家」指定を受けていますが、これは軍事オプションなしの敵国扱いに他なりません。
なおこれには2次制裁も入っていますので、破れば他国企業であろうと同様の制裁を課せられます。

新型コロナが武漢P4ラボからの流出ならば、これもテロ支援国家に指定されることは確実で、今や中国は時限爆弾を二つ抱えてしまったことになります。
現時点ではまだ決定的なことはいえませんが、中国が「テロ支援国家」に指定された場合、中国市場にズブズブに浸っているトヨタ、パナソニック、伊藤忠、サントリーなどの大手企業も同様の制裁対象になりますので、心して下さい。

それはさておき、こういう重大犯罪に職業的工作員だけではなく中国人の一般留学生や研究者、労働者が関わっているのは、国防動員法という中国にしかない法律が存在しているからです。
これは平時において、国民すべてを国家目的に動員可能できるという全体主義国家でなくてはありえないものでした。
つまり中国は、米国の知的財産や個人情報、そして軍事情報にいたるまで、ただの留学生や研究員を使って盗ませていた異常国家だったのです。

米国は再三に渡って、あらゆる機会を捉えて警告しその是正を要求し続けてきました。
そして
そのつど制裁法を作ってきました。
いまや香港の国安法施行を受けて、米国の制裁は「テロ支援国家」という切り札を除いて完成に近づいています。
一覧表を作ってありますのでご覧下さい。
※関連記事『米国の中国制裁は本気だ』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-a7c193.html

しかし、中国はなんの反省の色もなく、いささかも今までどおりのやり方を変えようとはしなかったのです。

「対話は続ける。しかし最近の対話は違う。私は最近、ハワイで楊潔篪(ヤン・ジエチー中国共産党政治局員)と会った。言葉ばかりで中国の態度を変える提案はない、相変わらずの内容だった。楊の約束は空っぽだった。彼は私が要求に屈すると考えていた。私は屈しなかった。トランプ大統領も屈しない」(日経前掲)

かくしてポンペオは中国政府に対する批判だけにとどまらず、自由主義諸国への決起を強く呼びかけています。

「現時点では我々と共に立ち上がる勇気がない国もあるのは事実だ。ある北大西洋条約機構(NATO)同盟国は、中国政府が市場へのアクセスを制限することを恐れて香港の自由のために立ち上がらない。
過去の同じ過ちを繰り返さないようにしよう。中国の挑戦に向き合うには、欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要になる。
いま行動しなければ、中国共産党はいずれ我々の自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。1国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる。
志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう」(日経前掲)

このことは腰が重いNATO諸国、とりわけドイツに対してのものですが、現在進行形で100回を超える領海行為を受け続けている日本に対してもストレートに向けられています。
日本の「確かめず信頼」してきた対中政策について抜本的に見直すべき時期にきているのは明白です。

そのような時期に米国のCSISの報告書は、安倍氏側近の今井補佐官を対中融和派と名指ししたようです。

「米国の有力政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)が米国務省の支援で7月下旬に作成した報告書に安倍晋三首相の対中政策を大きく動かす人物として今井尚哉首相補佐官の名前が明記されていることが明らかになった。報告書は、今井氏が長年の親中派とされる自民党の二階俊博幹事長と連携し、「二階・今井派」として首相に中国への姿勢を融和的にするよう説得してきたと指摘。米側の日本の対中政策への認識として注視される(略)
「今井とは首相補佐官で経済産業省出身の今井尚哉氏のことで、同氏は安倍首相が中国や中国のインフラ・プロジェクト(巨大経済圏構想「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行=AIIB)に対する姿勢をより融和的にするように説得してきた。
この記述は今井氏が安倍首相の対中政策に関して二階氏と同等の影響力を有しているという認識であり、今井氏の安倍首相への説得についても「すでに説得した」という意味の完了形を使っていた。
(産経7月27日古森義久)
https://www.sankei.com/world/news/200727/wor2007270014-n1.html

安倍氏も中国に対してある時は保守の顔をして強硬なことを言ってみたかと思うと、ある時は二階と対中融和に走って国賓訪日を言う、このような二枚舌は止めたほうがいい。もうそのような態度が許される時は終わったのです。
米国は旗幟を問うているのですから。

「レーガン元大統領は「信頼せよ、しかし確かめよ」(trust but verify)の原則にそってソ連に対処した。中国共産党に関していうなら「信頼するな、そして確かめよ」(Distrust and verify)になる。
世界の自由国家は、より創造的かつ断固とした方法で中国共産党の態度を変えさせなくてはならない。中国政府の行動は我々の国民と繁栄を脅かしているからだ」(日経前掲)

このように米国は事実上の宣戦布告をしました。
それを朝日のようにトランプの再選戦略だと矮小化するのは勝手ですが、もはやそんな時期はとうに過ぎているのです。

 

 

2020年7月27日 (月)

ポンペオの中国への決別演説

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今日は歴史的演説とも言えるポンペオ国務長官の演説をアップしておきます。
まことに見事な演説で、自由主義世界の盟主としての旗を高々と掲げたものになっています。

以下、日経(7月24日)がもっとも原文に近いものを掲載していますので、引用いたします。
私の分析などは明日にいたします。まずはじっくりお読み下さい。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61896140U0A720C2000000/

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日経

■「共産主義の中国 変えなければ」 米国務長官の演説要旨     

中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。

米国や他の自由主義諸国の政策は中国の後退する経済をよみがえらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついただけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう強要しただけだった。

中国は貴重な知的財産や貿易機密を盗んだ。米国からサプライチェーンを吸い取り、奴隷労働の要素を加えた。世界の主要航路は国際通商にとって安全でなくなった。

ニクソン元大統領はかつて、中国共産党に世界を開いたことで「フランケンシュタインを作ってしまったのではないかと心配している」と語ったことがある。なんと先見の明があったことか。

今日の中国は国内でより独裁主義的となり、海外ではより攻撃的に自由への敵意をむき出しにしている。トランプ大統領は言ってきた。「もうたくさんだ」と。

対話は続ける。しかし最近の対話は違う。私は最近、ハワイで楊潔篪(ヤン・ジエチー中国共産党政治局員)と会った。言葉ばかりで中国の態度を変える提案はない、相変わらずの内容だった。楊の約束は空っぽだった。彼は私が要求に屈すると考えていた。私は屈しなかった。トランプ大統領も屈しない。

(中国共産党の)習近平総書記は、破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ。中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴付けているのはこのイデオロギーだ。我々は、両国間の根本的な政治的、イデオロギーの違いをもはや無視することはできない。

レーガン元大統領は「信頼せよ、しかし確かめよ」(trust but verify)の原則にそってソ連に対処した。中国共産党に関していうなら「信頼するな、そして確かめよ」(Distrust and verify)になる。

世界の自由国家は、より創造的かつ断固とした方法で中国共産党の態度を変えさせなくてはならない。中国政府の行動は我々の国民と繁栄を脅かしているからだ。

この形の中国を他国と同じような普通の国として扱うことはできない。中国との貿易は、普通の法に従う国との貿易とは違う。中国政府は、国際合意を提案や世界支配へのルートとみなしている。中国の学生や従業員の全てが普通の学生や労働者ではないことが分かっている。中国共産党やその代理の利益のために知識を集めている者がいる。司法省などはこうした犯罪を精力的に罰してきた。

今週、我々は(テキサス州)ヒューストンの中国領事館を閉鎖した。スパイ活動と知的財産窃盗の拠点だったからだ。南シナ海での中国の国際法順守に関し、8年間の(前政権の)侮辱に甘んじる方針を転換した。国務省はあらゆるレベルで中国側に公正さと互恵主義を要求してきた。

自由主義諸国が行動するときだ。全ての国々に、米国がしてきたことから始めるよう呼び掛ける。中国共産党に互恵主義、透明性、説明義務を迫ることだ。

現時点では我々と共に立ち上がる勇気がない国もあるのは事実だ。ある北大西洋条約機構(NATO)同盟国は、中国政府が市場へのアクセスを制限することを恐れて香港の自由のために立ち上がらない。

過去の同じ過ちを繰り返さないようにしよう。中国の挑戦に向き合うには、欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要になる。

いま行動しなければ、中国共産党はいずれ我々の自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。1国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる。

志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。

中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。米国は建国の理念により、それを導く申し分のない立場にある。ニクソンは1967年に「中国が変わらなければ、世界は安全にはならない」と記した。危険は明確だ。自由世界は対処しなければならない。過去に戻ることは決してできない。

2020年7月26日 (日)

日曜写真館 朝もやの川辺を歩くと

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水鳥の声しか聞えません。093_2

川辺に沿って下っていきましょう。

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川を下ると大きな湖に出ました。これが北浦です。

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もやの中から火球が上昇してきます。朝です。

2020年7月25日 (土)

大戦直前の日本にそっくりになった中国

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まずは米国の領事館であらたな動きがありました。
米国はおなじくスパイ容疑でサンフランシスコ領事館の閉鎖も進めているようです。

7月24日、司法省は在サンフランシスコ中国領事館の研究員・唐娟がすでに米国当局によって逮捕、起訴されていると発表しました。
この女性研究員と3人の中国籍公民が、ニセのパスポートを使って軍人の身分を隠してビザをとって入国したことが理由です。
唐娟は外交官ではないので不逮捕特権はもたず、裁判が開かれたようです。

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唐娟はバイオテクノロジーの専門家で、第4軍医大学に所属していました。
この軍装の写真を発見したFBIが尋問する約束をとりつけると、唐娟はサンフランシスコ領事館に逃げ込んでしまったということのようです。
それ以外にも、米司法省によれば、FBIはすでに在米25か市で、ビザ入国中の中国人に対し、軍人の身分を隠している疑いのあるものを特定し、尋問を進めているところだそうです。
ロイターによれば、このような中国軍人の身分を隠蔽したビザ取得者の摘発行動は米中国交正常化以来最大規模だそうです。

「米司法省は23日、中国軍との関係を隠してビザを不正に取得したとして、中国人4人を訴追したと発表した。
訴追されたのは、王新被告、宋晨被告、趙凱凱被告、唐娟被告の4人。唐被告を除く3人はすでに逮捕されている。
米連邦捜査局(FBI)はカリフォルニア州サンフランシスコの中国総領事館にいるとされる唐被告の逮捕を目指している。
司法省によると、FBIは中国軍との「関係を申告していない」複数の人物の事情聴取をアメリカの25都市で行った。
検察側は、こうしたビザの不正取得は、中国軍の科学者をアメリカへ派遣するための中国の計画の一端だとしている。
米司法省のジョン・C・デマーズ次官補(国家安全保障担当)は、中国人民解放軍(PLA)のメンバーが軍との「本当の関係」を隠し、研究者用のビザを申請したと、プレスリリースで述べた。
これもまた、我々の開かれた社会を利用して、学術機関につけ入ろうとする中国共産党の計画の一環だ」
(BBC 7月24日)

「今年5月、米国メディアは、米政府が3000人前後の中国軍関連教育機関を背景にもつ研究生と研究院のビザを取り消す予定であることを明らかにしていた。
中国人民解放軍はその傘下に国防大学、国防科技大学はじめ40以上の大学、高等教育研究機関をもつ。こうした教育機関の背景をもつ研究員の米国からの排除が進んでいる」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO,123 2020年7月25日)

このような事実が発覚すれば、中国は中国人学生や研究員に日常的に大学や研究所の情報に窃盗をさせている疑いがあるために、彼らに対して一斉に退去勧告が出る可能性があります。
なおすでに米政府は研究施設からの中国人排除を進めています。
ああ、スパイ防止法がある国がうらやましい。
うちの国なんか、そこからですか、だもんね(号泣)。

気を取りなおしましょう。このところよく言われることですが、今の中国の姿には猛烈な既視感があります。
わが国が満州事変の国際的解決であったリットン調査団の勧告を拒否し、国際連盟の枠組みから自ら脱退をしたあたりから大戦突入までの時期と、今の中国の置かれた状況はあまりに似すぎていてコワイほどだからです。

かつて安倍氏は2015年8月15日に行った戦後70周年談話でこんなことを述べていました。


「満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。
そして七十年前。日本は、敗戦しました」

ここで安倍氏が言う、「経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去」というのは、当時の世界を覆ったブロック経済化と、日本も遅れて乗り出した「大東亜共栄圏」を指します。
そして、満州事変や国際秩序の仕組みだった国際連盟からの脱退が、「国際秩序への挑戦者」に日本をさせていったのだと述べています。

20100912155832リットン調査団

日本が戦争に転がり込むきっかけを作ったリットン調査団報告は、満州における日本の権益そのものは認めており、日本は国際社会に対して妥協してみせることで孤立化の道は選ばずに済んだはずでした。
満州事変において日本がしたことは、現代の言葉でいえば「国際社会秩序の武力による変更」そのものだったからです。

日本がリットン勧告に対してなすべきだったのは、元の線まで戻る原状回復以外なかったのです。
ところが日本の世論に流れていたのは、メディアが作った「それでは日露戦争で満州の地で死んだ多くの英霊に申し訳が立たない」という空気でした。
この空気は日本民族の感情を代弁しているだけであって、国際社会にはそんなものを認める義理はなかったにもかかわらず、です。

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そして日本は更に悪手に走ります。
退会を勧告されたわけでもないのに、みずから進んで当時の国際連盟から脱退したのです。
この際、国際連盟が未熟な機関であったことはここでは問題となりません。
国際世論に背を向けて「国際秩序への挑戦者」となってしまったこと、それが重要なのです。

そして今、「国際的協調からの脱落」あるいは「国際秩序への挑戦」という非難を中国が浴びています。
中国は香港から自由を奪い、新型コロナ発生の原因を隠蔽し、さらには南シナ海での軍事膨張を止めるそぶりすらみせません。

E61d4d38南シナ海の中国が強行する埋め立て基地

上の写真は南シナ海の埋立風景ですが、このようなことはこの20年間続いてきたことであり、なおかつ国際司法裁判所の裁定が下ったにもかかわらず、それを実効化できずに既成事実化してしまいかけていました。
中国にとってのリットン調査団勧告は国際司法裁判所裁定に相当するはずでした。
そしてそれを「紙屑」と切って捨てた中国は、今、急速にかつてのABC包囲網に酷似した動きに包囲されてしまいました。

その包囲網の盟主は米国でした。
いまや本来もっとも敵対してはならないはずの米国と正面衝突コースに突入しました。

そして英国と英連邦諸国は、香港の国家安全維持法制定を受けて、香港返還協定調印国としてこの包囲網に参加しました。
英国は5Gをファーウェイに委託する決定を覆すことを決定し、豪州、カナダに次ぐ形で中国との犯人引き渡し条約を破棄しました。
その上で、香港の在外市民権を香港返還前からの香港市民とその家族に与えることとしました。
これにより、英国において香港市民の長期の滞在と将来の市民権獲得、そして就労が可能となったはずでした。

ところが中国はこの英国の措置に激怒し、英国の在外市民権を無効にし、在外市民パスポートでの出国を認めない方針を発表しました。
この目的は、香港市民が台湾や英連邦である英国・豪州・カナダ・NZに逃げないようにするためです。
こんな移住権など認めても実害はないのであって、うるさいやつらか出て言ってもかまわないくらいの鷹揚な態度ができなかったものかと、呆れます。

英国からすれば国安法をなんの事前協議もないまま施行され、そのうえわずかな救済策すら否定された英国のメンツは丸潰れとなりました。
英国からみれば、このような香港市民の移動の自由を強権的制限をすればするほど、「英連邦市民の自由」を守る大義が作られ続けている事になりました。
もはやキャメロン時代の中国すり寄り時代ははるか昔のものとなりました。
英国は米国が主導する中国包囲網に積極的に参加し、空母クイーンエリザベスをシンガポールに常駐させる方針に切り替えました。
移住権さえ認めない硬直した態度が招いたことです。

またフランスの国家情報システムセキュリティー庁(ANSSI)は、今月に入り国内通信業者に対してファーウェイ製を新たに採用することは避けるよう呼び掛けました。
これは今までフランスがファーウェイの使用免許の更新を拒否したからで、これで事実上フランスからもファーウェイは排除されることになりました。
フランスはやっと南シナ海の人工島が、ロシアのウクライナ侵略と同質であることに気がついたようです。
フランスも南シナ海に空母シャルル・ドゴールを派遣する意志を示しています。

そして英連邦国家であるオーストラリアとの関係も悪化の一途を辿っています。
今までの労働党政権において中豪関係は蜜月でしたが、今年4月にオーストラリアのモリソン首相が新型コロナの発生源に関する独立した調査を訴えると、中国は逆切れして、5月以降豪州産の大麦の輸入に法外な制裁関税をかけたり、オーストラリア旅行の自粛を中国人に呼びかけるなど陰湿な手段を使っての「豪州いじめ」を始めました。
なんと大人げない。中国は新型コロナは「米軍が散布したのだ」と言っているのですから、積極的に国際査察に応じればいいだけのことです。
こういう低次元の報復をするから、かえって武漢ラボ流出説を自分で裏書きする形になります。

こうして一気に中豪関係が冷却化したところに、6月末に中国が香港国安法を強引に成立させると、オーストラリア政府は香港との犯罪人引渡し条約を停止したため、中国側は更に逆切れしてしまいました。
そしてオーストラリア政府も負けじと、香港からの移民受け入れの検討に入ったといいます。
オーストラリア海軍は南シナ海で日米豪三カ国共同演習をするに至っています。

ご承知のように、インドとの関係は前に記事にしましたとおり、もはや一触即発状態です。
まさにまんべんなく中国は周辺国を敵にしてしまったことになります。

というわけで今や国際社会で中国の側に立とうという奇特な連中は、遠く離れたアフリカ諸国と自民党二階派だけといった様子です。 
そのアフリカ諸国ですら一帯一路で借りさせられた巨額負債が支払い不能となってしまったために、支払い免除を求めている情けなさです。

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つくづく習は外交が下手ですね。
あんた何様といわれそうな傲岸さ。
一度その方向に走り出すと止まらない融通の効かなさ。
そしてすぐにキレる情緒不安定。
これではなるべくして四面楚歌になったのはとうぜんです。

中国にわずかでも知性が残っていれば、こんな手の打ちようがない四面楚歌になる前に、このゲームから降りるしかなかったのです。
ちょうどかつての日本にも、泥沼の中国戦を終わらせるチャンスが何回かあったのと同じように、です。

たとえば去年の夏前に香港には移送法を早期に撤回し、一国二制度を保証してやることで市民を落ち着かせることも可能だったはずです。
懸案の南シナ海の人工島に関しても、領有権問題には手を触れずに軍事利用ではなく海洋調査目的であるとして非軍事化を実行することも、その気にさえなればできたはずです。
一帯一路については権益放棄して当該国に譲渡し、負債を棒引きしてやるなど、やりようは多少はあったのです。
しかしそれを阻んだのは、それをしてしまえばこの数十年の中国の努力が水の泡と消えるばかりか、それを「中華の夢」とまで言って登場した習皇帝の自己否定となってしまうからでした。

日本もそうでしたが、その気になればこれらの妥協をサンクコスト(回収不能なコスト)としていったん白紙にして、最低限守るべきは守るという姿勢に変わればなんとかなったのかもしれません。
しかし、政権自らが煽っているのですから、どうにもなりません。
そして既に妥協カードを切るには遅すぎました。

新型コロナの感染拡大前なら、習が降りて李克強に暫定政権をまかせるといった選択肢もないわけではありませんでしたが、いまやそんなシッポ切りくらいでは国際社会は許さないでしょう。
なにせ巨額な賠償金を検討しているくらいですからね。

そして最後の救いだった国賓訪日も蹴飛ばされ、もはや習の眼前には残された道はごくわずかとなってきました。
習皇帝におかせられましたは、戦前の日本の失敗をわがこととして振り返ることを心からお勧めします。
妥協カードを出し遅れたために利子がかさんでいますから、返済は計画的に。

 

 

 

 

2020年7月24日 (金)

ヒューストン領事館閉鎖命令

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ヒューストンの中国総領事館が閉鎖を命じられました。
一般論としての流れでは、外交の強硬化は以下の流れとなります。

遺憾声明→非難声明→経済制裁→経済封鎖→大使館(領事館)などの外交施設の閉鎖(今ここ)→大使召還→国交断絶

ですから領事館閉鎖は、断交をのぞく最も強い外交措置です。
国交断絶の後になにが来るのかは、為政者と情勢によって異なるので一概には言えませんが、通常なら戦争です。
戦争も段階があります。

戦闘(今この直前)→局地戦争→通常兵器による限定戦争→核兵器を含む全面戦争

ただし現代では国際的歯止めがありますから、このように進行するとはかならずしもいえません。

さて領事館閉鎖命令を受けた中国側は慌てふためいて大量の書類の焼却を始めて火事になったそうです。
これは72時間以内に退去を命じられたためです。
やれやれ、お前ら盗んだろうといわれるとすぐに証拠隠滅を始めちゃ、当局の心証真っ黒でしょうに(苦笑)。

「ヒューストンの地元メディアによると、現地時間21日午後8時(日本時間22日午前10時)中国総領事館で書類を焼却する際、火災が発生し、警察と消防が出動したが、建物への立ち入りを拒否された。
ヒューストン警察はFOX26に、中国領事館は現地時間24日午後4時(日本時間25日午前6時)までに建物から撤去するよう命じられたため、機密文書を燃やしていたと伝えた」(大紀元7月22日)

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「チャイナ・ウォッチャーたちの推測によれば、領事館内で燃やされていたのは、おそらく偽パスポートや偽の身分に関する書類、留学生や科学研究員の中に潜り込ませているスパイに関する資料ではないか、とみられている。
これら資料は駐米大使館や各国総領事館にまだ存在していると思われ、もし米国側の手に渡れば、中共が長年米国に打ち立てた広大なスパイネットワークがいったんつぶされることになりそうだ」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO,123 2020年7月24日)

ではなぜヒューストンなのでしょうか。
BBC(7月23日)を読むと、もう少し背景が浮かび上がってくるはずです。
https://www.bbc.com/japanese/53509288

「米政府、ヒューストンの中国総領事館の閉鎖を命令
米政府はテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖を命令した。米国務省が22日、明らかにした。中国政府は「政治的挑発」として反発している。
マイク・ポンペオ国務長官は22日、中国がアメリカの知的財産を「盗んでいる」ことを受けた決定だと述べた。
一方、中国外務省は、「誤った決定」だと非難。首都ワシントンの中国大使館に殺害予告が届いているとツイートした。
閉鎖命令に先立ち、ヒューストンの中国総領事館の中庭では21日、何者かがゴミ箱内の紙を燃やす様子が録画されていた。
録画では、身元不明の何人かが紙とみられる物を複数のゴミ箱に投入していた。その後、ゴミ箱に水をかける人たちの姿も映っている。
ヒューストンの警察は、「総領事館に立ち入る許可は与えられなかった」が、煙を確認したとツイートした。
アメリカと中国の間ではこのところ、緊迫した関係が続いている。米政府は、貿易や新型コロナウイルス、香港国家安全維持法などをめぐってたびたび中国と衝突している。
21日には米司法省が、COVID-19(新型ウイルスの感染症)のワクチン開発研究所を狙ったハッキングを支援したとして、中国政府を非難した。同省は中国人の男2人を、諜報活動をした罪で訴追した。
ドナルド・トランプ大統領は22日の記者会見で、別の中国領事館の閉鎖を命じることは「いつでもできる」と述べた」

その理由は二人の中国人スパイ容疑者が、「新型コロナワクチンの開発研究所を狙ったハッキング」をしたからだとされています。
7月21日に、米司法省は新型コロナワクチン開発の研究所を狙ったハッキングを行った元中国人留学生李嘯宇被告と董家志被告を中国政府が支援している、と非難しており、このようなスパイ行為を働く中国人留学生や在米華人の諜報活動支援の拠点がヒューストンの領事館だったようです。
共和党保守派のマルコ・ルビオ議員は22日のツイッターで、ヒューストン領事館を「スパイセンター」と呼び、「ヒューストン領事館は外交機関ではなく、中共が米国に配置した強大なスパイネットワークと影響力行使の拠点であり、閉鎖されるべきだ。スパイたちは72時間以内に撤退しなければ逮捕される」と書き込みました。

では、なぜヒューストンなのでしょうか。
トランプは他の領事館の閉鎖も示唆していますが、まずヒューストンだったのには理由があります。

中国は米国にある領事館を5ヶ所(サンフランシスコ、シカゴ、ヒューストン、ニューヨーク、ロスアンゼルス)設置していますが、このヒューストンにしかない施設があります。
BBC(7月22日)はこう説明しています。
https://www.bbc.com/japanese/53495141

「米司法省、中国人ハッカー2人を起訴 新型ウイルスのワクチン研究など狙う
米司法省は21日、新型コロナウイルスの研究をする米企業に対して諜報活動を行った疑いで、中国人の男2人を訴追したと発表した。同省は、COVID-19(新型ウイルスによる感染症)ワクチン開発に取り組む研究所を標的にするハッカーを、中国が支援していると非難している。
企業秘密の窃盗や通信詐欺を共謀したなどとして訴追されたのは、大学で電子工学を学んだ元学生の李嘯宇被告と董家志被告。
アメリカはこのところ、中国のサイバースパイ活動に対する取り締まりを強化している」

またこの二人の訴状についてはこのように伝えられています。

「ワシントン・ポストが入手して公開した起訴状には、彼らが中国の国家安全部(MSS)との連携の下、先端技術企業や製薬会社、反体制人物などを狙った広範囲なハッキングを行なってきたと書かれている。特に彼らは、新型コロナワクチンと治療薬、検査技術に関する研究をしていることで知られる生命工学企業などのネットワークの脆弱性についての調査を行なっていたと、起訴状は説明している」(ハンギョレ7月23日)

BBCは「新型コロナのワクチン開発に取り組む研究所」としていますが、それは世界最大規模の医学研究所のテキサス医療センターを指します。
そもそもヒューストンは医療ラボが軒を連ねている米国有数の医療研究集積地です。

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テキサス医療センター

いわばこのヒューストンは49箇所も医療研究所が集積する「医療研究のシリコンパレー」で、その中でもとりわけウィルス研究に強いのが世界最大規模の医療ラボであるテキサス医療センターなのです。
そう見てくると、中国がわざわざテキサスの州都に総領事館を置いた理由が見えてきます。

今、テキサス医療センターは新型コロナのワクチン研究に能力を傾注していると言われています。
とうぜんのこととして、FBIなどの防諜機関はテキサス医療センターを中心して、中国人の不審な行動を綿密に追跡していたはずです。
その網にひっかかったのが中国人留学生2名で、彼らは当局から追跡されていることを知ると慌ててヒューストンの領事館に逃げ込みました。
おそらく彼らに狙われたのは、武漢ラボからのウィルス流出の証拠文献、ワクチン製造に関わる情報などだと推測されますが、現時点での発表はありません。

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 大紀元  閉鎖命令語の ヒューストン総領事館前の様子

しかも同時期、中国領事館員が「中国からの訪問客」を偽の身分証を使ってエアチャイナのチャーター便に乗せて逃がそうとして逮捕されています。
この「訪問客」が、スパイ容疑者と同一人物かどうかわかりませんが、なにかしらの関連が疑われます。

「デイビッド・スティルウェル国務次官補はニューヨーク・タイムズ紙に対して、在ヒューストン中国総領事館の蔡偉総領事と中国人外交官2人を、このほどヒューストン空港で現行犯逮捕したと明かした。総領事らは、偽の身分証明書を使って、中国人訪問客を中国国際航空(エアチャイナ)の中国行きチャーター機に乗せようとした。
スティルウェル国務次官補は、在ヒューストン中国総領事館は、中国軍のスパイ活動の拠点だと指摘した。中国軍が中国人留学生を米大学に送りこみ、情報を窃盗している。さらに、同氏は、過去6カ月、中国当局による米科学分野の研究での窃盗が加速化していると述べ、中共ウイルス(新型コロナウイルス)のワクチン開発と関連していると推測した」(大紀元7月22日)

推測の域を出ませんが、中国は長年ヒューストンの医療研究所にハッキングを行うだけではなく、内部に情報網と協力者を植え込んでいたと考えられます。
そもそも中国のウィルス研究は、武漢ラボの研究者の多くは米国の大学かフランスで博士号を取得していた連中によって占められてきました。
彼らが高給で迎えられたのが武漢P4ラボで、その時に米国のウィルス研究の資料を大量に持ち帰ったと考えられます。
ある意味で新型コロナウィルスは、米国が間接的に手助けしてしまったともいえるわけで、米国が既に確保したと言われる武漢ラボからの流出の証拠とされる文献を精査して愕然となったはずです。
その大部分は米国の大学や研究所から盗まれたものだったからです。02yg9nz5

中国は超限戦という他国にない特殊な戦略を持っています。
旧来からあった人民戦争論を近代化したものです。

「超限戦」は人民解放軍の新戦略で、これからの戦争は「戦争と非戦争、軍事と非軍事のすべての境界がなくなる」「戦争の主体も戦場も手段もあらゆる限界・限定を超えた戦争」であるとして貿易戦、金融戦、新テロ戦、生態戦、心理戦、密輸戦、メディア戦、麻薬戦、ハッカー戦、資源戦、経済援助戦、法律戦等々これらの戦法を組み合わせ無限大の方法で戦うべきであるとしている」(長谷川忠 『政府・企業等の情報保全の現状と対策 』)
http://www.jpsn.org/lecture/5779/

つまり軍事をミリタリーに限定せずに、政治・経済・文化・法律その他あらゆる要素を総合して構築しようという考えです。
自由主義諸国も有事においては民間の力を動員する総力戦体制をとるのですが、中国の場合は常日頃から社会総動員で戦うわけですから、有事と平時の区別はありません。
したがって平時においても民間人は軍の指令に従う義務があります。
全体主義国家でなければ到底不可能な戦略、それが超限戦なのです。

「国防動員法(2010.7施行)は、あらゆる民間の経済力を後方支援と位置づけ「軍民結合」「全国民参加」「長期準備」(平素から動員準備指示)によって人員と物資をスムーズに徴用するための法律であるが、この法律の問題点は「本法が発令される有事の規定が極めて曖昧なこと」「在中の外国民間企業、社員等も解放軍に協力する義務を生ずる懼れがあること」と、特に大きな問題点は「海外に居住する18歳から60歳の男子、18歳から55歳の女子は所定の国防動員任務を完遂しなければならず、平時には国防動員準備任務を完遂しなければならないと規定していること」である。現在、在日中国人約68万人の約80%は30歳代の反日教育世代である」(長谷川前掲)

そしてこの超限戦の下に米国へ、留学生、研究者、あるいは商用ビジネスマン姿のスパイを大量に送り込んできました。
特殊工作員が学生に化けて潜入しているわけではなく、一般の留学生がスパイをかねて米国の機密情報や技術をせっせと盗むのですからタチが悪い。
今や米国の一流大学の外国人留学生数は中国人がトップです。
かくして彼らが盗んだIT技術によって、中国は驚くべき短期間で今のIT大国になりえたのです。

「米国における中国人留学生は約32万人。中国の技術情報収集活動は活発化の一途にあり、FBIは中国人留学生が最も危険な対象として警戒し、逆に中国人留学生を獲得して活動の実体解明に努めている。CIAは留学生の8割はスパイと見ている。英国情報機関も「技術系の大学院に留学している中国人学生の学費は国家安全部から支払われ、卒業後も英国に留まって兵器の開発や生産に関係が深く、軍事機密を扱っているハイテク関連企業に就職するよう勧めて技術情報等の入手を図っている」と注意喚起している」(長谷川前掲)

とまれ現在、水面下では激しい米中の情報合戦が戦われているはずですが、はしなくもその一端がかいま見られたようです。
中国は報復措置として、成都、瀋陽、広州、武漢、上海、香港の六ケ所にある米国総領事館のうち、わざわざ新型コロナの震源地である武漢を標的にして閉鎖命令をだしました。成都領事館の閉鎖命令をだしました。
これはただの面当てでなく、武漢で米国が各種の新型コロナにまつわる情報工作をしていた「スパイ活動の拠点」だと目されたからです。
互いに自分がやっていることは敵国もやっているものとして考えるものですからね。

今後ですが、どうなるとは明確に言い切るだけの情報がありませんが、いわゆる一触即発状況であるのは疑いえないことです。
ではその発火点となりえるのはどこでしょうか。
いうまでもなく、中国の南シナ海における不法占領人工島です。

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日米豪三カ国共同訓練

国際仲介裁判所の裁定がとうに下っている以上、これを排除することに反対の主要国はいないはずで、おそらくその時期、方法が各国の合議では決定できないためにズルズルと問題解決が延びてしまってきました。
この海域で海軍力を有する米国、オージー、日本、そして近い将来には英国などが加わって何らかの国際的中国制裁のアクションをする時期に差しかかっているのかもしれません。
あたかも今、南シナ海で日米豪三カ国海軍の合同演習が行われて いるのは偶然ではありません。 

 

2020年7月23日 (木)

南シナ海、天気晴朗なれども波高し

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日本のメディアはのほほんGOTOがどうしたなどとやっていますが、南シナ海の軍事緊張が急速に高まっています。
昨日の記事で尖閣に米軍基地を置くことを米陸軍長官が言明しましたが、これも大きな絵のごく一部だったかもしれません。
米国は本気で中国との間合いを詰める気のようです。

米国が2個の空母打撃群を南シナ海に投入しました。

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今日は南シナ海紛争の当事者であるベトナムの通信社の一報を見てみましょう。

「米海軍の「ニミッツ(USS Nimitz、CVN-68)」と「ロナルド・レーガン(USS Ronald Reagan、CVN-76)」のニミッツ級航空母艦(原子力空母)2隻が17日、南シナ海で再び軍事演習を行った。
これに先立ち、米海軍は今月4日にも南シナ海で軍事演習を行っている。空母2隻には兵士ら1万2000人が乗艦し、空母に随行するイージス艦複数隻も演習に参加した。米海軍の一連の動きは、中国をけん制することが狙いとみられる。
 なお、マイク・ポンペオ米国務長官は13日、中国が南シナ海ほぼ全域の領有権を主張していることについて「完全に不法」とする声明を発表した。その直後の14日、米海軍はチュオンサ諸島(英名:スプラトリー諸島、中国名:南沙諸島)の付近を航行し、「航行の自由作戦」を行った。
ベトナム外務省のレ・ティ・トゥー・ハン報道官は先日開かれた定例記者会見で、各国が南シナ海の平和と安定を維持するために努力し、国際法に従い対話やその他の平和的手段によって紛争を解決すべきとした。2020/07/21 ベトジョー)

なるほどスプラトリー諸島はベトナムも領有権を主張しており、「チュオンサ諸島」と呼称しているのですね。
1972年、当時の南ベトナムはパラセル諸島を、中国に奪われました。
中国はベトナムから米軍が地上撤退して、米国にベトナム近海に関与する意思がないことを見計らって、これを強奪しています。

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上の写真は侵攻してくる中国軍と戦う旧南ベトナム軍ですが、中国は戦闘機、軍艦まで繰り出しました。
米国の庇護を失って、亡国の道を滑り落ちていく南ベトナム政権には止める手だてはありませんでした。
中国は泥沼のベトナム戦争から足抜きしたいという米国の意志を見抜いて、領土拡張に走ったのです。
当時の北ベトナム(今の現政権)は、中国に支援を受けていたために沈黙していましたが、後に深く後悔することになります。
なぜなら、ベトナムの前庭に拡がる西沙諸島は中国の内海となってしまったからです。
かつての沈黙の代償に、ベトナムは統一後の1988年に、
南沙諸島のファイアリー・クロス礁を中国によって奪われています。

また1995年、南沙諸島のミスチーフ礁を中国が占拠していますが、これも1992年から米軍がフィリピンから撤退したのを見計らって奪取し、そのまま居すわって軍事基地を建設したものです。
国際海洋法で否認されている水面下の岩礁を建て増しして、いまや完全な軍事基地と化しています。
このミスチーフ礁の中国軍事基地のグロテスクな成長ぶりのビフォア・アフターです。
いい機会ですから一挙公開してみます。

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1995年頃。満潮時には水面下に隠れる岩礁に乗った岩礁三勇士。よほど悪いことしたんだろうな。

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1990年代終わり頃か。岩礁からパイルを打ち込んで、海上石油基地もどきの海上基地に成長しました。

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2000年代初頭。海底の泥を汲み上げて陸地化させる埋め立て技術で、立派な島になりました。既に大型貨物船がつく桟橋もあるようです。

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ジャーン、2017年頃。ほぼ完成しました。長距離爆撃機が発着できる滑走路、軍港、商用港、対空ミサイル陣地、兵舎、グラウンドも設置されています。

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こちらはスビ礁。ビルと工場が立ち並び、工場写真手前には数千メートル級の滑走路もあります。
岩礁を埋め立てて作った基地なんて言うと小規模なものを連想しがちですが、とんでもなくバカデカイものだとお分かりになったでしょうか。
ヘノコを埋め立てるとジュゴンがぁ、なんて言っている人。どうぞこっち来て言って下され。

こうして一気に時系列で並べると、水面下の岩礁から一大軍事要塞を作ってしまうというまさに毛沢東の「愚公、山を移す」の教えに沿って着々と岩の上にも三年をやっているようです(褒めてんじゃねぇぞ)。
おそらく尖閣諸島を中国が奪った場合、彼らは島々の間を埋立て、大規模軍事基地建設をするんでしょうね。

フィリピンは、いまでは死ぬほど後悔していますが、途上国が溺れやすい反米民族主義に陥った結果、よせばいいのに米軍のクラーク空軍基地と、スービック海軍基地を追い出してしまったからです。
このような悲惨な事態になって、新たに米比相互防衛条約を締結したようてすが、この「失われた20年」はあまりにも大きかったようで、フィリピンも前庭の南沙諸島を中国の軍事要塞に変えられてしまいました。
若い頃に毛沢東思想にかぶれていたドテルテも、やっと昨今目が醒めたようです。

島だけならまだしも、そこを領土して領海、接続海域、EEZを設定されてしまいますから、今や南シナ海全域が中国の海と化してしまっています。
中国の南シナ海領有の目的は、ひとつには中国の一帯一路の海上ルートが南シナ海からインド洋に伸びているためです。
ならば国際海洋法を遵守して公海としてその安定に協力すればよさそうなものですが、彼らの発想の影には常に軍事がちらつきます。
中国はこの海域一帯を軍事基地として利用し、SLBMを搭載する戦略原潜を配備可能な自分だけの海、つまり内海にしたいのです。
この南シナ海を軍事的に我が物とできればビンの蓋の役割を果たしてきた日本列島・南西諸島・台湾を迂回して南シナ海ルートで太平洋の深く広大な海へと戦略原潜を放つことが可能となります。
これにより、中国が建国以来追及してきた核の三本柱(戦略原潜・地上発射弾道ミサイル・長距離爆撃機)の最後の一枚である戦略原潜が完成します。

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また近年、中国は南太平洋諸島諸国に急接近し、アフリカ諸国と同じようにことごとくチャイナマネーで頬を叩くようにして従属化に成功しました。
パラオだけが長年の日本との友誼を大事にていてくれているにすぎません。
そして南太平洋の先にあるオーストラリアは、米国と同じような長期の浸透戦略にあった結果、一時は大のパンダハガー国家に転落しかかりましたが、スパイ事件やコロナ禍で、一気に中国と距離を置きはじめました。

そして今や隠そうともしない全方位膨張戦略に対して国際社会はあまりに無力でした。
もちろん常設仲裁裁判所や国際司法裁判所が設置され、国際司法制度を整える方向に進んではいるのですが、そこには大きな欠陥がありました。
これらの国際司法裁判所で下された判決は国際法の判例としてとして取り入れられるのですが、それを実現する術が欠落しているのです。
つまり、判決が出てもその罰則を実行する主体が不在なために、原状回復命令も出来なければ、中国が拒もうとも強制執行もできないという「紙切れ」と化してしまっています。

この国際法の執行をするべき主体は、国連安保理が機能不全なため、世界を見渡してもヘゲモニックステート(派遣国)である米国以外存在しないにもかかわらず、当の米国が屁タレていました。
2016年常設仲裁裁判所の南シナ海の中国主張を退ける判決があった時点で、米国と国際社会はその現状回復を中国に強く迫るべきでした。
しかしオバマは「世界の警官を止める」と公言しており、一切の制裁措置ももとらなかったのです。

「オバマ政権は、南シナ海における中国の活動に対して軍事力を行使せず、国際法違反だとして非難するだけであった。オバマ政権は、南沙諸島の人工島から戦闘機等が運用されることに警戒感を高めてきたにもかかわらずである。
中国は、南沙諸島に建設した人工島の軍事拠点化を否定した。習近平主席は、2015年9月の訪米時、オバマ大統領との米中首脳会談後の記者会見において、「南沙諸島で進めている造成工事は、他国を標的にしたり、他国に影響を与えたりする活動ではない。軍事化を追求する意図は中国にはない」と述べたのである。
中国を信用できないオバマ政権は、中国外交部に習近平主席の発言の真意を再確認している。「中国の見解に変更はないか」と念押ししたのだ。中国外交部が「変更ない」と回答したことにより、南沙諸島の非軍事化は、事実上、中国の公式見解と認められるようになった。
しかし、習近平主席が南沙諸島の非軍事化を約束した2015年9月には、すでに、ファイアリー・クロス礁に3000メートル級の滑走路が建設されていることが確認されていた」(小原凡司 ニューズウィーク2017年7月3日)

この米国の失敗によって、中国は南シナ海の軍事要塞化を進める貴重な時間を得ました。
オバマの対応は、いわばヒトラーのズデーテン地方侵攻に対する融和政策に等しい歴史的過ちでした。
自由主義諸国は、中国に好き勝手にやっていいよ、われわれはあんたらの領土拡張に無関心だから、なにもしないから安心してね、という信号を送ってしまったのです。

そしてとうとう現在の習近平による戦狼戦略です。
米国はこの第2のミュンヘン融和によって、中国が南シナ海の領有化を進めた結果、それが完成の域に達したと判断しました。
2018年5月、中国は南シナ海の軍事基地に長距離爆撃機の配備を開始しました。

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CNN

「人民解放軍は18日、核の搭載が可能な「H6K」を含め、複数の爆撃機の離着陸を成功させたと発表した。どこの島で行ったのかは明らかにしていない。今回の作戦について、地域的リーチの拡大、機動力の向上、攻撃能力の強化を目指す一環と位置付けている。
中国共産党の機関紙、人民日報のツイッターには、長距離爆撃機が島から発進して飛行し、着陸する映像が掲載された」
(CNN 2018年5月21日)

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しかしオバマに継ぐトランプも似たような落とし穴にはまってしまいました。
北朝鮮というジョカーがICBMをちらつかせて米国を挑発したため、中国に助力を要請したために、その代償として南シナ海を目こぼししてしまったのです。

「北朝鮮の核開発を止めさせるために協力すれば、米国は、その他の問題において中国を強く責めることをしなくなった。元々、朝鮮半島に核兵器が存在することに反対の中国は、自らの国益に合致する範囲内で、米国に対して積極的に協力する姿勢を見せた。トランプ政権が中国の実質的な南シナ海の領海化及びそのための軍事拠点化に時間的余裕を与えたのは、オバマ政権と同様である」
(小原前掲)

中国を震源とするコロナの大感染、そして竹のカーテンの向こうに操られているアンティファの「蜂起」を受けて、やっとトランプは米国にとっての南シナ海問題の扱いの失敗が身に沁みたようです。

こうして米国の重い腰が上り、米海軍の空母打撃群が2セット派遣されます。
一方、これがただのプレゼンスの示威でもない証拠として、米国は中国と危機発生時の対話体制を作ろうと呼びかけています。

「 米国のエスパー国防長官は21日、年内に初訪中する意向を示した。危機時の対話体制改善のほか、両国が共有する問題に対応したいとしている。
エスパー長官は「年末までに国防長官として初めて中国を訪問したい。米中が共有する問題における協力の推進、危機時の対話体制の構築、国際システムの中で開放的な競争を実施する米国の方針の強化などを図りたい」と述べた。
米国は長らく中国の南シナ海での海洋権益を巡る主張に反対。エスパー長官は、中国は過去半年間で「望ましくない態度」を増大させたと指摘し、「中国の威圧的な態度を抑止したい」とも述べた」(ロイター7月21日)

裏返せば、危機発生時の対話システムが必要な時期となったと米政府が判断しているということになります。
仮に南シナ海で人口島の排除を米海軍が行った場合、中国本土からの増援は大陸からあまりに遠いのために不可能です。
中国の手元にあるのは、空母もどきの「遼寧」と、戦力化できていない2番艦、そして3隻めの電磁カタパルト装備の原子力空母の実践配備はまだ数年先だといわれています。

南シナ海人工島ビッグ3のファイアリー・クロス礁、ミスチーフ礁・スビ礁を今の時期に叩いておかねば、米海軍にとって数年後にはこの海域には中国による接近阻止・領域拒否( A2/AD)の阻止線がはりめぐらされ、文字通りの聖域と化してしまうことでしょう。
今の時期ならば、戦闘で終了し、全面戦争はおろか局地戦にも発展しないかもしれない、トランプはそう考えているかもしれません。
もちろん劣勢を伝えられる11月の大統領選を横目で見てのことであるのはいうまでもありません。
まぁ、強気のトランプさんですから負けを前提にしていないとは思いますが、万が一負けた場合、屁たれオバマの番頭が大統領に就くことになってしまいます。
そうなると残る3カ月で南シナ海のみならず中国制裁をやり切って、簡単に後戻りできないようにしておかねばなりません。

このように考えてくると、米国が矢継ぎ早に打ち出した中国に対する制裁強化のひとつひとつが、大きな一枚の絵の中にハマっていくような気がするのですが。

 

 

2020年7月22日 (水)

米国、米軍尖閣に配備か?

  
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この間の米国の尖閣についての兆候をふたつほどみておきます。
ひとつめはマッカーシー米陸軍長官の7月10日の講演の発言です。

[ワシントン 10日 ロイター] - 米陸軍のライアン・マッカーシー長官は10日、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サイバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画を明らかにした。
部隊の展開は今後2年にわたる見通しだとし、「中国が米国の戦略的脅威として台頭する」ため、米陸軍は太平洋地域でプレゼンスを改めて拡大するとした。
新たな部隊の配備は中国とロシアがすでに備える能力の無効化に寄与する見通し。マッカーシー長官は、部隊が長距離精密誘導兵器や、極超音速ミサイル、精密照準爆撃ミサイル、電子戦力、サイバー攻撃能力を備える可能性があると述べた。具体的な配備場所には触れなかった。
また、公海や宇宙などの「グローバル・コモンズで中国は軍事化を進めている」と述べ、中国が行っている南シナ海の島での埋立てや軍事拠点化に言及した」(ロイター7月10日)

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米陸軍長官ライアン・マッカーシー   ロイター

米陸軍長官が東シナ海の米軍部隊の配備の新たな2箇所の候補地としてなんと尖閣諸島をあげたのですから、ビックリしないわけにはいきません。
この「陸軍長官」(Secretary of the Army )は、国防長官の指揮下にあり陸軍省を管轄する責任者です。
制服組ではなく文民が選ばれ(元軍人の場合は退役後5年以上)、作戦指揮ではなく、軍政を担当しています。

そして畳みかけるように、河野太郎氏のツイートにはこんなエスパー国防長官のツイートが乗っていましたから、またまたビックリ。
しかもご丁寧にも、アメリカ大使館の和訳つきです。

Dr. Mark T. Esper "Standing up for what’s right: @konotarogomame calling out China’s relentless attempts to change the status quo in the #EastChinaSea#JapanUSAlliance remains vigilant and together we will maintain a free and open Indo-Pacific. mod.go.jp/e/publ/w_paper "

正しいことのために立ち上がる:河野防衛相は東シナ海の現状を変えようとする中国の執拗な試みを非難している。日米同盟は今後も警戒を怠らず、共に自由で開かれたインド太平洋を維持する」とツイートしました。

ちなみにマッカーシー陸軍長官の前任者は現国防長官のエスパーです。

 この二つをつなぎ合わせると、米国のメッセージはこのようになります。
①米国は東シナ海の現状変更を企む中国を批判し、それに対する日本政府の立場を支持する。
②米陸軍は尖閣諸島に軍事基地を置く用意がある。
③日米同盟を機軸にしてインド太平洋地域の航行の自由を守っていこう。

う~ん、とりあえずこれで決まりじゃないですか。
なにが決まりかといえば、いままでの尖閣に対しての煮え切らない米国の立場がキチっと定まったのです。
いや定まったどころか、一歩踏み出して「基地を置いてもいいぜ」というのですから大きな前進です。
そもそも尖閣諸島のうち久場島、大正島は米軍提供施設・区域であることは1972年5月15日の日米合同委員会においても確認されているんで、米軍基地を作る法律上の障壁はありません。

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 尖閣諸島手前から 南小島、北小島、魚釣島 2010年11月撮影
https://abhp.net/geography/Geography_Senkaku-Islands_100000.html

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しかし中国となぁなぁまぁまぁでやっていきたい、国賓で習を招きたいという輩が与党にも残るわが国のほうが追い詰められたことになります。
二階なんか真っ青になって「オレは聞いていないぞ」なんて当たり散らしたんじゃないでしょうか。

そしてこのあいまいさは米国も似たようなものだったのです。
実は米国は東シナ海に浮かぶ尖閣諸島の領有権について、いままで言質をとられることを大変にイヤがっていました。
それは米国が尖閣は日本領土だと言えば、中国をいたずらに刺激することになると思っていたからで、言い方としては「合衆国は二国間関係の領土紛争には介入しない」なんて一般論で逃げていました。

ですから、日本はぜひとも尖閣は日米同盟第5条の範囲内だといわせたくて、オバマを銀座の寿司屋につれていったりしたものです。
この時、TPPに前のめりになっていたオバマは、なんとか日本の妥協を引き出そうとしてこのようなことを言っています。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-e0a4.html


日本の安全保障に対する米国のコミットメントは絶対的であり、(日米安保条約)第5条は尖閣諸島を含む日本の施政権下にあるすべての領域を対象としている

実は似たことを国務長官時代のヒラリーも言っていました。
2010年9月23日、訪米した前原外務大臣に対する、ヒラリー国務長官の発言。


「(尖閣諸島)は明らかに日米安保条約(第5条)が適用される

 2008年から国務長官を務めた、ヒラリーの側近だったカート・キャンベルの発言。


「日本の施政権下にある領域(=尖閣諸島)で、いずれか一方に対する武力攻撃があった場合、共通の危険に対処するように行動することを宣言する」

この言葉を聞いてホっとしてはいけません。裏があります。
1990年代、クリントン政権時の駐日大使ウォルター・モンデール(元副大統領)の発言。 


尖閣諸島が第三国に攻撃を受けても、米軍は防衛には当たらない 

ほぼ同時期の、マイケル・グリーン元大統領補佐官の発言。 


同盟国間であっても領土紛争には不介入・中立の立場をとる

つまり、米国は、民主党政権時において尖閣の一件についてはあくまで不介入がベーストーンで、日本側からあえて聞かれれば渋々「いちおう日米安保第5条の枠内ですがね」ていどのニュアンスだったのです。

それが判るのは、日本が野田政権時に、米国になんの協議も行わないまま国有化をしてしまった時です。
米国は激怒しました。
2012年9月、野田政権の尖閣国有化後の日中冷戦についてのヒラリー国務長官の2014年6月の発言です。


センカクの自衛のために、なにが必要なのかということについて、検討を進める際には、「もし我々がこのように行動したら、結果はどうなるのか」とか、「どのようなメッセージを送ることになるのか」と絶えず自問してほしい

米国と中国から見れば、尖閣問題の微妙なバランスを破壊する徴発行為が、あろうことか日本側からあったと理解したようです。
旧民進党諸雑派の皆さん、あなた方が政権にいたころのこの唐突な国有化によって、日中関係を冷え込ませただけではなく、米国との関係もこじらせ、今や日常的に中国の尖閣海域への進出を合理化する口実を与えてしまったのですからね、お忘れなきように。

あ、そうそう、同時期にバカバトが移設は「国外。最低でも県外」なんて言い出して、日米同盟は深刻な危機に突入していましたので、この野田の国有化がその追い打ちをかけたということになります。

それはさておき、このように米国は東シナ海で中国を刺激することを避け続け、態度を保留し続けてきたのです。
尖閣と目と鼻の先にある沖縄現地に駐屯する海兵隊としては大いにワジワジ したことでしょう。
仮に中国の尖閣への侵攻があった場合、当時の米政権は日本を突き放しかねず、そうした場合日米同盟の信頼が根底から瓦解するのは目に見えていたからです。

そのへんの空気が判るのは、2010年ヒラリーが国務長官の初期に日本を訪問した際の、米軍のとある司令官のインタビューです。
実名、階級、職名などはわかりませんが、おそらく海兵隊の高位の司令官と思われます。 

中国が尖閣を侵略した場合、第3海兵遠征軍はなにをするのでしょうか? 
わかりません。それは政府が決めることです
尖閣は日本の領土ですよ。 
「 それはアメリカ政府にとって議論の余地あるところです。そうとはいわないまでも、すくなくとも明確になっていません 
 では司令官は、自衛隊が尖閣を守るのを、第3海兵遠征軍を支援するかどうか分からないということでしょうか?
そのように命令されれば、第3海兵遠征軍は必ずそうします 

そして今。南シナ海の中国の侵略によって状況はまったく変化しました。
7月13日、マイク・ポンペオ国務長官は、南シナ海問題に関して中国を痛烈に批判する声明を発表しました。

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日経 ポンペオ国務長官

「ポンペオ米国務長官は13日、南シナ海での中国の海洋進出に関して声明を出し「南シナ海の大半の地域にまたがる中国の海洋権益に関する主張は完全に違法だ」と批判した。米国が南シナ海での中国の権益などに関する主張を公式に否定するのは初めてとみられる。ポンペオ氏は南シナ海を巡る中国の主張を否定した2016年7月のオランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決を支持する考えを示した」(日経7月14日)

各国政府が新型コロナウイルス禍の対応に忙殺される中、発信源でありながら情報を隠蔽し続け、第三国の調査団も拒み続け、そのくせ一早く危機を脱した中国は、感染拡大で国際社会が地獄の日々を送っているその最中に、こともあろうに東シナ海を侵し続け、インドと国境紛争に興じるという傍若無人ぶりです。
もう見逃しにはできない、それが今の米国政府の判断です。
そしていままで明らかにしてこなかった南シナ海、東シナ海の領土、領海の権利がどの国にあり、そのために米国は何をするのかを明らかにし始めました。

というわけで、米国はいままで日本が投げ続けてきた尖閣は日米安保第5条ですよね、などという弱々しい問いかけを大きく超えて、尖閣を守りたかったら、米軍と共に戦うことだ、と言い始めたようです。

 

 

2020年7月21日 (火)

米政府、ハリウッドの中国「忖度」にメス

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チベットに対する人権擁護で知られるリチャード・ギアが、ハリウッドを告発しています。
ギアは、2020年6月30日、米国上院で証言しこう述べました。

「中国共産党の情報統制やエンターテイメント産業に対する検閲は非関税貿易の壁になっている」
「米国の映画スタジオは中国市場に進出したいがために中国の検閲制度に合わせて、自己検閲制度を発展させた。かつて素晴らしい米国映画は自己検閲制度によりその存在意義を見失わせ、社会問題に良い作用を果たせなくなっている」

ギアは、ハリウッドがこの10年間、利益を得るために中国共産党の意向を汲んで、映画撮影や制作において自己検閲をしてきたと告発し、最新作『北京のふたり』(原題『レッドコーナー』)に主演しています。
この映画は、中国の司法の闇を描いていますが、北京でゲリラ的に撮影されたものとカリフォルニアに作ったオープンセットげで撮ったようです。
これによって前からチベットの野蛮な弾圧に抗議し続けてきたギアは、今後、中国共産党が政権の座から下りない限り、中国入国はできなくなると見られています。
またこの映画も中国国内での上映は禁止されました。

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ハリウッドは、かねてから今や世界一とさえいわれる中国映画市場の魔力にとりつかれ、企画・制作段階から中国マネーを浴びるように受け入れてきました。
中国のやり方は、多くの映画プロダクションの企画段階から、巨額の資金提供と引き換えに中国の代理人を入れさせます。
たとえば中国資本は、映画会社レジェンダリー・ピクチャーズを35億ドルで買収し、ハリウッドの大作映画製作に加わるためにソニー・ピクチャーズとの戦略的提携を結びました。

「万達集団による米映画会社レジェンダリー・ピクチャーズの買収調印式が12日に北京で行われた。万達によると、買収金額は35億ドル(約4139億円)以内で、中国企業による海外での文化企業の合併買収(M&A)としては過去最大規模になる。レジェンダリーのトーマス・タル取締役会代表兼最高経営責任者(CEO)は留任して、引き続き日常業務に責任を負うとともに、万達の成功発展プロセスにさらに積極的に関与していくことになる。人民日報が伝えた。
レジェンダリーは米国の有名な映画製作会社で、映画、テレビ、デジタルメディア、漫画・アニメーションなどを手がける。「バットマン」シリーズや「インセプション」など世界的に影響力のある一連の大作映画を世に送り出し、累計興行収入は120億ドル(約1兆4193億円)を超える」
人民網日本語版 2016年01月13日11:11

カネに弱いハリウッド人種は喜びいさんで、気前のいい中国に走っていったようです。
米国大統領の映画を3本も作ったリベラル作風の映画監督オリバー・ストーンは、2014年に訪中した際、興奮してこんなことを言ったと言われています。

「中国映画市場は「金鉱ではなくダイヤモンド鉱山だ」

彼の反権力姿勢のバックに中国がいるというのは微苦笑させられます。
彼が歓喜したように2013年には、8本のハリウッド映画の中国興行収入が米国での興行収入を上回りました。
コンサルティング世界大手のプライスウォーターハウスクーパースは、中国は2020年に世界最大の映画市場となり、2023年の興行収入は155億ドルを超えると予測しています。

こうしてハリウッドの川上を押えると、次には川下の映画チェーンを資本傘下に収めました。
2012年には中国のワンダ・グループ(万達集団)は26億ドル(約2780億円)で米国の4大映画館チェーンの一つであるAMCシアターズ を買収し、2016年にはもう一つの映画館チェーン大手マイクシネマも買い取り、これにより米国内映画館チェーンはほぼ中国の掌中に入ってしまいました。

こうしてハリウッドの川上と川下を押えた中国は、わずか10年に満たない期間で米国の映画市場を支配する新たなる「帝王」に君臨したのです。
その結果、昨年度のタイム誌に掲載されたトップ10作品中の過半数には中国資本が入り、今やハリウッドの映画人たちは、「ハリウッドはもう中国なしでは生きられない時代となってきた」と語っています。

ハリウッドはアメリカン・ドリームであることを自ら止め、チャイナドリームの忠臣となってしまったのです。
そして忠臣たちは、常に中国の代理人を通じて伝えられる中国共産党の意向を「忖度」し、脚本は書かれる前に中国様がお怒りにならぬように、中国様がお喜びになるように、中国の観客様が見てくれるように、と書き換えられました。

有名な例では、 2012年制作のMGM『若き勇者たち』の中国の侵略者は中国が不快感をみせるやいなや脚本を変更し、大枚な追加投資をして朝鮮兵に変更しました。
このような冷戦の相手国が悪役で登場することは、かつてもよくあったことですが、旧ソ連はこのような映画に圧力をかけて変更させるということはなかったし、当時のハリウッド映画人はもう少し気骨があったものです。
まぁ、旧ソ連は今の中国と違ってカネがなく、しかもプロレタリア芸術論から一歩も出られなかったためにハリウッドに関心がなかっただけですがね。

それはさておき、もうひとつ有名になった「忖度」のいち例としては、トムクルーズ主演の『トップガン マーベリック』」で、主人公が着用するフラントジャケットから日本と台湾の国旗が消滅しました。
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この背中の国旗など露骨すぎて、かえってプロデューサーのトムクルーズが反骨したのではないか思ったほどです。
これ以外にも『パシィフィックリム』は続編となるや、第1作の主人公であった日本人女性は冒頭で死んでしまい、代わって登場するのが上海美人、どこをみても漢字ばかりで、東京はカイジューと巨大ロボの決闘シーンで廃墟と化すという素晴らしさ。
なお、ハリウッド映画で描かれる近未来は絶対に米中協調世界です。

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「この興行収入の中で、唯一アメリカ国内の興行収入を上回ったのが、ほかでもない中国なのだ。日本での興行収入が約1,450万ドル(約15億円)であったのに対し、中国での興行収入は約1億1,200万ドル(約129億円)となっている。まさに桁違い。
アメリカの約1億180万ドル(約117億円)を上回り、総興行収入の4分の1以上を占める大ブレークであった。
このヒットも受けてか、2016年には中国のワンダ(大連万達)グループが製作会社のレジェンダリー・ピクチャーズを買収。正式に中国資本のハリウッド映画会社となった。
中国人俳優を起用し、中国を舞台にしたハリウッド映画が増えていく中、英フィナンシャル・タイムズ紙のジョン・ガッパー記者は、レジェンダリーが米国内での観客を取り逃がしていると指摘した。
だが、レジェンダリー制作の『グレートウォール』(2016)は、アメリカでの興行成績約4,550万ドル(約52億3,000万円)に対し、中国では4倍近くの約1億7,000万ドル(約195億5,000万円)を記録。『パシフィック・リム』と同様、中国が“主戦場”となった。アメリカ国内を中心としたマーケティングの意義は失われつつあるのだ」(『最高収益は中国! パシフィック・リムをおさらい』
https://virtualgorillaplus.com/movie/pacific-rim-china-hollywood/

あるいはヒット作を作り続けているアメリカンコミックのマーベルはこんなことをしています。

「例えば、映画製作会社、マーベル・スタジオが人気のアメリカ漫画(アメコミ)を下敷きにした「ドクター・ストレンジ」で、原作のチベットの僧侶を別の国籍に改編したほか、アップルは中国語版アップストアからニュースアプリ「クオーツ」を削除した、と批判している。これらは、米国のIT業界や映画業界が中国のために行ってきたことのごく一部に過ぎない。
巨大な中国市場において、当局をなだめるための措置と、現地の好みに合わせたサービスを展開することの間には明確な一線が存在する。アップルにとって中国は、1─3月の総売上高580億ドルの16%を生み出した。中国の映画興行収入は、今や世界最大規模に迫りつつある」(ロイター7月17日)
https://jp.reuters.com/article/us-china-breakingviews-idJPKCN24I0GP

マットデイモンの『オデッセイ』は、彼を救助する善玉を中国宇宙局としましたし、後に彼は『グレートウォール』で中国にゴマをスリまくっています。

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このように米国文化の顔をチャイナに支配されてしまった米政府は、遅まきながらこのサイレントインベーション(静かな侵略)に手をつけ始めました。
これはハリウッドばかりではなく、中国当局のネット規制を受け入れることで中国進出を許してもらったGAFAにも及んでいます。
ある意味で、軍事力を用いた直接侵略よりも、このような娯楽コンテンツやネットによる影響、あるいは電子マネーの浸透などのほうが脅威だといえるのですが、やっと米司法当局もそのことに気がついたようです。

7月16日、米バー司法長官は、ディズニーやアップルなど多数の企業を実名で名指しし、『中国に忖度する企業』は、『外国代理人登録法』の対象になりうると警告を発しました。

「米企業に「中国忖度」の転換迫る司法省
アップルなど中国で事業を展開する米国企業にとっては、もう何年も前から「郷に入っては郷に従え」が確固としたルールとして定着している。だが、その事態は今、変わろうとしているのかもしれない。これまで多くの米企業は、中国当局の要求に沿うような方向に製品をしつらえてきており、アップルも例外ではない。 
しかし、米司法省は、中国共産党に近過ぎるとみなす企業を「外国代理人」として扱う可能性を示唆した。中国側への微妙な忖度(そんたく)を働かせながら利益を得ようとする行為は、制限されることになるだろう。
バー米司法長官は16日、ウォルト・ディズニーからアルファベット子会社・グーグルに至るさまざまな米企業を、目先の利益のために中国の意向で動いていると名指しした。(略)
バー長官の警告で、米企業はそうした問題に関する情報開示を強制される恐れが出てきた。同氏の理屈では、中国政府に「利用」されている米企業は、外国代理人登録法の対象になり得る」
(ロイター前掲)

この外国代理人登録法は、このような法律です。

「外国代理人登録法(Foreign Agents Registration Act、FARA)は1938年に可決された米国の法律で、「政治的または準政治的権能を持つ」 外国勢力の利益を代表するエージェント(外国のエージェント)が、その外国政府との関係および活動内容や財政内容に関する情報を開示することを義務付けたものである。
その目的は、「米国政府とアメリカ国民によるそのような人物の発言と活動の評価」を容易にすることである。この法律は司法省の国家安全保障局 (NSD)のスパイ対策室(CES)のFARA登録ユニットによって管理されている[1]。米国司法省は2007年の時点で、米国議会ホワイトハウス連邦政府には、100カ国以上を代表する約1,700人のロビイストがいると報告した」

外国代理人登録法 - Wikipedia

実はアップルも株式提案として、中国に忖度して自主規制しているのではないかという提案がありましたがあえなく否決されています。

「今年2月、アップルに対し表現の自由に関するより詳しい方針を開示するよう求めた株主提案は、41%というかなり高い支持を得たものの、最終的には否決された」(ロイター前掲)

このように自浄できなっかたアップルなどコンテンツ企業は、この外国人登録法の指定を受ければ、営業活動に大きな打撃を受けるにとどまらず、米金融機関や投資家から投資対象として排除される可能性がでてきました。

バー司法長官がアップルとディズニーをあげたのは、中国に静かに侵略されているGAFAとハリウッドに対する強い警告なのです。

 

 

2020年7月20日 (月)

米国の中国制裁は本気だ

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米国が息もつかせず中国への制裁を連打していますので、時系列で整理しておきます。
2019年度米国防権限法(NDAA2019) 、 香港人権法以外すべて2020年です。
トランプ政権が渾身の力で中国と対峙しているのがわかります。
米国市場に依存していながら安価なファーウェイを使ってきた日本企業もこれで眼が醒めないと、中国と共に排除されることになります。

■2010年以前の米国の中国制裁

2019年度米国防権限法(NDAA2019)
中国のIT高度化戦略の「中国製造2025」を潰す目的で作られ、20年8月13日から実施予定。

「2019年度米国防権限法(NDAA2019) ファーウェイi、ZTE等の米政府機関との取引からの排除
米上下両院は2018年8月、華為技術(Huawei)や中興通訊(ZTE)と、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(HIKVISION )、浙江大華技術(Dahua Technology)、海能達通信(Hytera)の計5社への締め付けを大幅に強化することを盛り込んだ「2019年度米国防権限法(NDAA2019)」を超党派の賛成で可決し、8月13日にトランプ大統領が署名、成立した。
米国では議会が2012年頃から「Huawei と ZTEの通信機器が中国のスパイ活動に利用され、米国が開発した軍事技術が流出している」として米企業に2社の製品を使わないよう呼びかけを始めた。
2017年には国防総省による2社の製品調達を禁止する法律 (National Defense Authorization Bill ) が成立した。
2018年5月に国防総省は世界中の米軍基地の携帯電話販売店で HuaweiとZTE製のスマホの販売を禁止した。
背景には、米国による「中国製造2025」潰しもある。(略)

第2段階(発効日の2年後=2020年8月13日以降)
5社の製品を社内で利用している世界中の企業との取引を禁止
(米政府機関に収めている製品・サービスが通信機器とは一切関係のない企業でも、5社の製品を使っておれば禁止)
既に世界の企業で多くの中国製通信機器が利用されている。企業が米国政府と取引を続けたい場合には、問題視されている機器の利用を一切やめ、その旨を米政府に報告・誓約しなければならなくなる。
中国国内に工場を持ち製品を作っている企業の多くは、中国製の通信機器を使わざるをえない状況にあるケースが多いという。これらの企業にとっては、「米政府と取引を続けるか、中国での生産活動を続けるか」という事実上の踏み絵を突き付けている
日本でも多くの企業がHuaweiなどの製品を使っている」
(化学業界の話題2018年12月111日)
http://blog.knak.jp/2018/12/2019ndaa2019.html

②2019年11月27日
香港人権法

「トランプ米大統領は27日、香港での人権尊重や民主主義の確立を支援する「香港人権・民主主義法」に署名し、同法は成立した。ホワイトハウスが発表した。香港に高度な自治を認める「一国二制度」が機能しているかどうか米政府に毎年の検証を義務付けるのが柱。成立を受け、中国政府は28日に発表した声明で「重大な内政干渉だ」と反発。報復措置を発動する考えを示した」(日経2019年11月28日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52701890Y9A121C1000000/

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■2020年以降の中国制裁(関税引き上げをのぞく)

①7月1日
米国国務次官によるウイグル問題ビジネスレター
https://bit.ly/2VZmyow

「ポンペオ米国務長官は1日、中国政府による新疆ウイグル自治区の少数民族への弾圧問題で、各国の企業に対し、強制労働を利用した生産や製品に関与しないよう警告を発した。米政権は声明で、取引自体が「人権侵害に加担する行為」に当たると指摘し、世界的なサプライチェーン(部品供給網)の「脱中国」化を促した。
国務、財務、商務、国土安全保障の各省は共同声明を発表し、強制労働が確認された17の産業分野として農業、食品、電子部品、繊維、アパレルなどを挙げた。ポンペオ氏は会見で「企業の経営陣は風評被害、経済損失、法的リスクを認識すべきだ」と各国に注意喚起した」
(時事7月2日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070200358&g=int

※ウィグルのエスニッククレンジングに加担している米国企業に対して国務省は「法的リスク」を示唆した。ウィグルの強制収容所で作られる農業、電子部品、繊維製品などを米国企業が扱うと、説明を求められ政府納入の停止などの制裁に合う可能性が出た。

②7月10日
中国5社からの米政府機関調達規制開始

「トランプ米政権は今週、米政府が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]など中国5社の製品を使った企業のモノやサービスを発注することを禁止する規制を完成させる予定だ。米当局者が明らかにした。
対象企業はファーウェイのほか、同業の中興通訊(ZTE)<000063.SZ>、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)<002415.SZ>、同業の浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)<002236.SZ>、無線通信機器の海能達通信(ハイテラ)<002583.SZ>の5社。日々の業務で5社の機器やサービスを使っている企業は、免除を認められない限り政府と取り引きすることができなくなる」(ロイター7月10日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/474be559f02474d569cd215942eb7b196b643bfd

※ファーウェイなどの中国IT企業はすべて米政府調達から排除される。米政府に納入している民間企業も追随を迫られる。なお英国はすでに決まっていた5Gからファーウェイを排除することに決めた。

③7月14日
米国公開会計監督委員会は中国企業の会計の不透明性を指摘し、上場廃止の可能性示唆
15日、中国との会計に関する覚書破棄を決定

「中国企業の会計監査状況、今後も把握は困難=米当局
「米証券取引委員会(SEC)傘下で監査法人の監督を担う米公開会社会計監督委員会(PCAOB)は9日、中国企業の会計監査が適切に行われているかを把握することは今後も難しいとの見方を示した。米政権や議会からは、米国の投資家が中国企業に投資する際のリスクを抑えるための対策を講じるべきだとの声が強まっている。
PCAOBのウィリアム・ドゥンケ会長は、他の米規制当局者とのオンライン会議で、米国に上場する中国企業の監査の質を確保するため、アクセスが限られる中でこれまで4大会計事務所と取り組んできたと説明。「我々は信頼し、そして検証する必要があるが、中国では検証することが不可能で、今後もそれが変わる可能性は低い」と述べた。」(ロイター7月10日)
https://jp.reuters.com/article/usa-sec-china-idJPKBN24B0AR?il=0「クドロー氏、中国投資「賢明ではない」と米投資家に忠告 米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は、中国への投資は「賢明ではない」と米投資家に忠告した。
クドロー氏は10日にFOXビジネス・ネットワークのインタビューで、「こうした中国企業には現在、あまりにも多くの経済的リスクがみられる。さらにその多くは国家安全保障を脅かしている」と発言。投資家は可視性を確保し、不正の可能性から保護されなくてはならないと続けた」(ブルームバーク7月13日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-12/QDCZW2T1UM0W01?srnd=cojp-v2

※米政府の公開監査機関は米民間企業に、中国企業の会計監査が不透明で恣意的だとして中国への投資を不適当とした。

④7月15日
米政権、中国の南シナ海をめぐる主張は不法

「米政権、中国の南シナ海巡る権利主張は「不法」と公式に非難
米国は問題の海域で「航行の自由」の保護を呼び掛けながらも、個別の領海争いについては立場を取ってこなかった。  海洋覇権の争いの激化は、貿易や技術、サイバーセキュリティーなどの問題や、新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)となった責任は中国にあるとトランプ大統領が主張していることを巡る米中対立をさらに悪化させる可能性がある」(ブルームバーク7月10日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-13/QDF7MRT0G1L8011x1_20200720053301

⑤7月16日
すべての共産党員の入国拒否を示唆

「トランプ政権、全ての中国共産党員の米渡航禁止を検討=関係筋
トランプ米政権が全ての中国共産党員とその家族による米国への渡航禁止を検討していることが16日、関係筋の話で分かった。米中間の緊張が一段と高まる恐れがある。関係筋によると、この問題を検討している政府高官は大統領令の草案を準備し始めた。ただ、検討はまだ初期の段階にあり、トランプ大統領にはまだ諮られていないとしている。
検討には複数の連邦機関が関与。中国共産党員の子どもが米国の大学などに在籍することを拒否するかどうかも検討されている」(ロイター7月17日)
https://jp.reuters.com/article/usa-china-travel-idJPKCN24H2TI

※これを米政府が実施すれば、米国内の主要な中国企業、政府関係者、研究者、技術者、学生などはことごとく共産党員であるために国外追放処分に等しい扱いを受けるか、一回出国すると再入国ができなくなる。

⑥7月14日
香港への優遇撤廃の大統領令と香港自治法成立

香港の特別な地位はく奪開始と香港の自治を阻害したものに対して、米国制裁を決定、銀行も制裁対象に

トランプ大統領が香港の優遇措置撤廃、対中制裁法署名-中国反発 
トランプ米大統領は14日、香港への優遇措置を撤廃する大統領令に署名したと発表した。また、香港民主派弾圧の責任を負う中国当局者に制裁を科す法律に署名したことも明らかにした。中国はこれに反発し、強力な対抗措置を講じるとともに米当局者らに制裁を科す方針を表明した。(略)
大統領の署名で成立した法律は香港国家安全維持法(国安法)制定に関与した中国当局者と取引を行う銀行に制裁を科すほか、国務省に香港の「一国二制度」を形骸化しようとする当局者に関する報告を毎年行うよう義務付ける内容。さらに、こうした当局者の米国への入国阻止や、資産を接収する権限を大統領に付与する」(ブルームバーク7月15日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-14/QDH4ZJT0G1LF01?srnd=cojp-v2

※香港の特別な地位の剥奪と、国安法に関わった中国当局の取引がある中国銀行に制裁を課す。
一年ごとに一国二制度の報告を国務省が行い、さらなる制裁を準備する。
米国の銀行は1年猶予つきで、香港の自治侵害の「主違反者」と認定する組織や個人と取引を打ち切るよう求められ、違反すれば制裁対象となる。

⑦7月15日
米政府、中国IT企業にビザ発給制限

「米、ファーウェイ含む中国IT企業にビザ発給制限の公算=国務長官
ポンペオ米国務長官は15日、米政府は華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]などの中国企業に対するビザ発給を制限する可能性があると述べた。ポンペオ長官は記者会見で、米国務省は「人権侵害に関与している政府に物質的な支援を提供しているファーウェイなどの中国IT企業について、特定の従業員に対するビザ発給を制限する可能性がある」と表明。世界中の通信機器メーカーは、ファーウェイとの取引は「人権侵害を行っている企業との取引」になるため「警告を受けたと認識する必要がある」と述べた」(ロイター7月16日)
https://jp.reuters.com/article/usa-china-huawei-idJPKCN24G2MC?il=0

※NDAA2019で指定された企業の従業員に対してもビザ制限の可能性を示唆した。

※国防権限法は来月2020年8月13日以降実施されます。
それとこの間の各種制裁が重なると、これらすべてが発動されると米国市場の中国系企業、それと金融取引をしている銀行、部品の納入企業、そして中国系企業の社員、研究者、米大学にいる中国人研究者は国外退去となる可能性があります。

いかに中国がトランプ政権に恐怖しているかわかるでしょう。
中国としては、パンダハガーだったオバマの副大統領バイデンになってもらうしか逃げる道はありませんね。

※改題しました。すいません。

 

2020年7月19日 (日)

日曜写真館 どうぞ善き場所でありますように

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一すぢに勝たんと思ふ角力かな     正岡子規

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呼び出しのこゑ水平に五月場所  鷹羽狩行

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くらがりに聲を力の角力哉     正岡子規

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夏場所へ砂にまみれし眉勁き  久田澄子

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五月場所贔屓力士はみなこぶり  松村多美


2020年7月18日 (土)

東京アラートではなく高齢者アラートを出せ

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GOTOキャンペーン、東京都をはずすとかで、記者会見した公明党の赤羽国交大臣は涙目でした。
なにか村役場の助役さんのような風貌の人で、こういうときのスポークスマンには気の毒でした。
河野太郎氏あたりにニベもない顔で、「小池さん、文句あるなら風俗クラスターを規制してからいいなさい」くらい言わせたらよかったのにね。

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読売 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20200717-OYT1T50...

さて、メディアはこぞって「GOTOに国民激怒」と報じていますが、私は鈍いのかいっかな腑に落ちません。
だって東京都が連日200人超えだぁ、また大流行が始まるぅとメディアは大騒ぎしていますが、頭を冷やして下さい。
あの数字は、あくまでもPCR検査で陽性判定受けた人のことで、感染者そのものじゃありませんからね。

そもそもPCR検査は、宿命的に3割も誤判定を出す結果、偽陽性を大量に生み出す性格の検査なのです。
だから仮に200人出たとすれば60人見当はハズレ。実際は140人ていど陽性が出たというだけのことです。
しかも陽性判定を受けても即発症ということではなく、まったく熱も出ないという無症状か、あるいは出ても極軽微に終わる人が大部分です。
後述しますが、発症して重症化するのは持病がある高齢者が9割以上を占めます。

ではなんで厚労省が騒いでいるかといえば、それは無症状者が高齢者にうつす可能性があるからです。
ならば、東京アラート(小池さん、ホント横文字好きだね。いっそエジプト語でやったら。あ、できないんだっけ)じゃなくて、「高齢者アラート」を出せばよかったのです。
保護すべき年齢層を絞って、その方たちの外出を制限し、なんらかの方法で行政がケアをする方法もあったんじゃないかと思っています。

それをいきなり東京都全体にアラートを出すという大網をかけてしまうから、まるで他県から見れば「東京から来る奴はみんな危ない」なんて間違った感想をもたれるのです。
ああ、この特定地域を不浄のものとして遠ざける空気感って、かつての福島事故時の被曝地ヘイトを思いだしますな(遠い目)。
私もやられました。
東日本は人が住めない、東日本の農民はテロリストだ、なんて言われましたからね。
ああ、思い出すだけで、腹が煮えくり返る。武田や早川をハリ倒したい。
今の東京都を不浄のものして敬遠する空気は、早急になんとかしないと東京の規模が規模だけに大変に危険です。

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高橋泰教授 https://toyokeizai.net/articles/-/363402?page=2

さて国際医療福祉大学高橋泰教授の「7段階モデル」というものがあるので、ご紹介しておきます。
高橋氏は公衆衛生の専門家です。
高橋氏はこの7段階モデルを作った理由をこう述べています。

「新型コロナは、全国民の関心事ながら「木を見て森を見ず」の状態で全体像が見えてこない。そこで、ファクト(事実)を基に、全体像が見通せ、かつ数値化できるモデルを作ろうと思った」
(東経7月17日) 『新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化』
https://toyokeizai.net/articles/-/363402

木をみて森を見ない、いやまったくそのとおりです。
私は今のナーバスに過ぎて、アツモノに懲りて膾を吹くような日本のコロナ世論に抵抗感をもっていました。
煽っているのはメディアですが、彼らが報じるのは陽性判定者数だけで、その内訳まで踏み込みません。
陽性判定者のうち発症が何人いたのか、重症者は増えているのか、死亡者は出たのか、ベッドの充足率は、隔離施設の充足率は、というような伝えるべきツボをことごとく外して、ただただ200人を超えたぁぁぁ(悲鳴)みたいな現象面をセンセーショナルに報じるだけです。

また感染拡大期から私は感染の拡大を比較するときには、単位人口当たりの重症者・死亡者を見ねばならないと書いてきました。
一般の県の人口は300万人前後で、東京都は1400万人ですから、約5倍弱もあるウルトラマンモス自治体です。
だから通常サイズの県と比較する場合、5分の1で比較するべきなですから、東京で200人なら他の県に直せば40人ていどにすぎないのです。

また現在やっているPCR検査は、メディアが感染拡大隠しだなんてデマをしつこく飛ばすもんですから、医療崩壊を免れたと判断できた今やっているわけです。
おそらく3月、4月時点の数十倍の数は検査しているわけで、そりゃその分検査数が増えるんですから増えて当然ですがな。
覚えてますか、この春にPCRやってもらうためには、37.5度以上あることが条件で、それもまずは保健所に行けと言われていましたよね。
一回保健所で捌いてから病院に回し、そこでも最初はCTスキャンで肺を検査して、おかしな影があったらやっとPCRが受けられたのです。(ああ、まだるっこい)
この時、メディアに植えつけられた国に対する不信感が、感染拡大防止に成果を上げたにもかかわらず安倍政権の支持率低迷につながっているのでしょうかね。

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朝日

それはさておき、ヘソ曲がりな私は「今は8合目」説を立てて、もう頂上は見えている、あの3月の感染拡大フェーズは二度と来ないと言っているのですが、素人の悲しさでゴマメの歯ぎしり、蟷螂の斧でした。

ああ、いかん高橋先生の7段階説に行き着かないぞ(汗)。
高橋氏は新型コロナウィルスはこういう性格だと述べています。

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「新型コロナウイルスは、初期から中盤までは、暴露力(体内に入り込む力)は強いが、伝染力と毒性は弱く、かかっても多くの場合は無症状か風邪の症状程度で終わるおとなしいウイルスである。しかし、1万~2.5万人に1人程度という非常に低い確率ではあるが、サイトカイン・ストームや血栓形成という状況を引き起こし、肺を中心に多臓器の重篤な障害により、高齢者を中心に罹患者を死に至らせてしまう」
(東経前掲 図も同じ)

これは新型コロナウィルスが、「自身が繁殖するために人体に発見されないように毒性が弱くなっている」という性格のためです。
ですから、「一定量増殖しないと人体の側に対抗するための抗体ができない」のです。
そのために初期には98%の人が無症状か軽症で済んでいます。

高橋氏は、インフルエンザのほうがある意味恐ろしいと言っています。その理由は毒性が強いからです。

「インフルエンザの場合は、ウイルス自体の毒性が強く、すぐに、鼻汁、咳、筋肉痛、熱と明らかな症状が出る。暴れまくるので、生体(人の体)はすぐに抗体、いわば軍隊の発動を命令し、発症後2日~1週間で獲得免疫が立ち上がり、抗体ができてくる」(東経前掲)

逆に新型コロナのほうは初期の侵入期には弱毒なために、抗体が出にくいのです。
ですからこの時期にPCR検査と抗体検査を同時におこなった場合、PCRでは陽性判定が出ますが、抗体検査では陰性となってしまうという違った判定結果となります。

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「国民の少なくとも3割程度がすでに新型コロナの暴露を経験したとみられる。暴露率はいろいろやってみたが、30~45%が妥当だろう。そして、暴露した人の98%がステージ1かステージ2、すなわち無症状か風邪の症状で済む。すなわち自然免疫までで終了する。
獲得免疫が出動(抗体が陽性になる)するステージ3、ステージ4に至る人は暴露者の2%程度で、そのうち、サイトカイン・ストームが発生して重症化するステージ5に進む人は、20代では暴露した人10万人中5人、30~59歳では同1万人中3人、60~69歳では同1000人中1.5人、70歳以上では同1000人中3人程度ということになった」(東経前掲)

このように高橋氏は、感染ステージを0から6までの7つのステージに分けて、ステージ0は無症状、1はほぼ無症状、2は風邪程度ですから、98%の人にとって新型コロナはタダの「肺炎になる可能性が0.2%ていど残る風邪」で済んでしまいます。

こわいのはサイトカイン・ストーム(※)が発生して重症化するステージ5に進む場合ですが、その率はこのようなものです。
※サイトカイン・ストーム・ 免疫システムの暴走。免疫細胞の制御ができなくなり、正常な細胞まで免疫が攻撃して死に至ることもある。(東経前掲)

●新型コロナステージ5以上に進む年齢別比率
20代・・・暴露した人10万人中5人
30~59歳・・・同1万人中3人
60~69歳・・・同1000人中1.5人
70歳以上・・・同1000人中3人

このように感染全体の「森」を見た場合、現在の状況の「木」がどの程度の脅威か、自ずとわかりそうなものです。

 

2020年7月17日 (金)

四方八方の国と領土紛争をする中国

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今、世界広しといえど、中国ほど四方八方の周辺国と紛争を起こし続けている国はありません。
このなりふりかまわぬ戦狼ぶりはほとんど病気の域に達しています。
今度はとうとう国民幸福指数で有名な非武装国家ブータンに食指を伸ばし始めました。
国際環境会議で、国境付近のドクラム野生動物保護区をオレのものだと主張し始めたのです。

「中国が6月以降、ヒマラヤの小国ブータン東部の領有権を新たに主張している。ブータンと、その後ろ盾のインドは激しく反発する。中国の動きには、国境地帯で軍同士が衝突するインドに対し、揺さぶりをかける狙いがあるとの見方が強い。
中国が領有権を主張し始めたのは、途上国の環境保護を支援する国際基金「地球環境ファシリティー」の6月上旬のテレビ会議だった。議事録によると、ブータンが助成を申請した同国東部「サクテン野生生物保護区」を巡り、中国代表が「保護区は中国とブータンの国境画定協議で議題になっている紛争地域だ」として、異議を訴えた。
 これに対し、会議でブータンの利益を代弁する南アジア諸国代表は「保護区はブータン固有の領土。過去に中国側が領有権を主張したことはない」と反論した」(読売7月13日)

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ドクラム地域 https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E4%B8%AD%E5%...

このドクラム野生動物保護区はブータンと中国の国境地帯に位置する高原で、広さ650平方キロメートル、ヒマラヤの生態系がそのまま残る貴重な地域となっています。
ここはインドが実効支配していますが、中国も「蔵南」(南チベット)と呼んで自国領土と主張しているようです。
2017年、中国がこの地域に一方的に道路建設を開始し、ブータンの要請を受けたインドが派兵しました。
ブータンは独立国ですが、インドと安全保障条約を締結して防衛を委託していますので、このようなブータンの要請となったわけです。
その結果、中印両軍が約70日間、戦闘準備状態でにらみ合っていまに至っています。

中印はつい先だっての6月15日、ヒマラヤ高地のギャルワン渓谷で衝突し、双方とも銃器は使用しなかったものの石とこん棒での乱闘となり双方に数十人の死者が出たようです。

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ギャルワン渓谷

「【6月16日 AFP】(更新、図解追加)インド軍は16日、ヒマラヤ地域にある中国との係争地で中印両軍が衝突し、インド兵士少なくとも20人が死亡したと発表した。核保有国同士である両国の間で起きた武力衝突としては過去40年以上で最多の犠牲者を出すものとなった。
衝突は15日、中国・チベット自治区(Tibet Autonomous Region)に接する印ラダック(Ladakh)地方にあるガルワン(Galwan)渓谷で発生。
AFPの取材に応じたインド軍筋は、銃器の発砲はなく、「暴力的なつかみ合いの乱闘だった」と述べた。中印両国が領有権を争う国境地帯では頻繁に小競り合いが起きているが、1975年以降、死者は出ていなかった。 インド軍は当初、死者数を3人と発表。だがその後の発表で、衝突により重傷を負った17人が「高高度地域で氷点下の気温にさらされ、けがが原因で亡くなった」と説明した」(AFP6月17日)

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このギャルワン渓谷における衝突は、政権がいままできわどい均衡を保ってきたインドに対しても領有権を主張する牙を剥いたためと解釈されています。
中国がこの地域にまで道路を延長しようとして緊張を高め、双方のパトロール隊がぶつかったようです。
日本人にはわかりにくいのですが、係争地につながる大規模な道路建設は兵員・武器弾薬集積が目的だと相手国に理解されます。
インドからみれば立派な戦争準備行為です。
中印融和時代に作られた信頼醸成措置のために共に武装していなかったのが幸いしましたが、通常装備だったなら今頃は局地戦にまで発展していたはずです。
このような流れの中で起きたのが、今回のブータン領ドクラム地域の領有主張です。

かつて私もこの地域を踏査したことがありますが、かつての細く狭いシルクロード北路を拡張して、大型車両が交通出来るようにする工事の真っ最中でした。

「世界で最も海抜の高い幹線道路」を20台の車列が流れるように走る。今回の衝突の現場となったパンゴン湖を通過し、海抜4000メートルの盆地をひたすら北進する。荒涼たる月面世界のような“無人の地”に、中国のインフラ開発で舗装された道路が貫通し、北京とアクサイチン、ついにはカシュガル市にまで到達したことに度肝を抜かれる。(略)
「このエリアは電子機器、遠距離武器を配置しやすい」とか「道路を通して大兵団を送ることができる」など、専門的なコメントが挿入されている。「戦争になればこの情報が役に立つだろう」――などという言葉さえもが刻まれていたが、中国はまさに「その日」のために、1950年代から着々と準備を進めていたということなのか」(姫田小夏6月26日『中印国境紛争で垣間見えた、中国「一帯一路」の真の目的とインドの本気』)
https://diamond.jp/articles/-/241426?page=2

中国の目的はチベットの中国化だけではなく、軍事物資や兵員、エネルギーや商品を欧州・地中海方向に運ぶ一帯一路のための縦貫道を作ることです。

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朝日

この一帯一路構想を阻むのが、ヒマラヤで国境を接し、インド洋に権益を有する南アジアの軍事大国インドです。
インドと中国は陸と海で対立する構造をもっているわけです。
数十年中印協調路線を歩んでいたインドが、一転してモディ政権が中国に厳しい態度を見せ始めたのは、この急速に進む一帯一路の攻勢と無関係ではありません。
その一端が見えたのが、このギャルワン渓谷での衝突だったわけです。

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朝日

この中国の陸海の一帯一路構想はアジア地域で壮大にからみあって構想されており、わが国に対する尖閣侵犯や南シナ海の軍事要塞化もその一部と見ることができます。
東シナ海では、とうとう中国海警が93日間連続で日本領海と接続水域を侵犯するという「偉業」を達成しました。

「沖縄県・尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で15日、中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは93日連続。平成24年9月の尖閣諸島国有化以降で、最長の連続日数を更新した。 第11管区海上保安本部(那覇)によると、1隻は機関砲のようなものを搭載。領海に近づかないよう巡視船が警告した」(産経7月15日)

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産経

また5日には実に2~3日間という長期間領海にとどまり、偶発的な行動ではなく、一定の意志をもっていることを示しています。

「第11管区海上保安本部(那覇)は5日、沖縄県・尖閣諸島周辺で4日に領海侵入した中国海警局の船2隻が引き続き領海内にとどまっていることを確認、3日に記録した30時間17分を超え、2012年9月の尖閣国有化以降、過去最長となったと明らかにした。 尖閣周辺での領海侵入は今年16日目。2隻は4日午前2時25分ごろから相次いで領海に侵入。近くで操業中の日本漁船に接近しないよう、海保の巡視船が安全を確保している。2隻は2~3日も領海内に長時間とどまり、操業中の日本漁船に接近しようとする動きを繰り返した」(産経7月5日)

では一体この尖閣水域で彼ら海警はなにをしているのでしょうか?
意志的的に侵犯を繰り返すことで係争地にするためというのが、今までの大方の日本側の見方でしたが、今やそれだけでは説明できないのがこのような中国海警察の行動です。

「尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺でロシア海軍艦艇が領海外側にある接続水域に入り、中国海警局の公船がロシア艦艇に対して領有権を主張する事案が相次いでいることが17日、政府関係者への取材で分かった。日本政府は常態化を懸念し、中露両政府の意図などを分析。中露は軍事面で連携を強めており、中国は、「他国軍艦への対応」を尖閣領有権主張の補強材料にするためロシアを巻き込み、協調した動きを取っている可能性がある」(産経6月17日)
https://special.sankei.com/a/international/article/20200617/0001.html

なんと、中国は尖閣の接続水域に侵入したロシア海軍艦艇に対して「ここは中国のものだから退去しろ」と命令したようです。
日本に対してなら示威行為と受けとることも出来ますが、第三国に対する退去勧告は実効支配を完了しているということを意味しています。
中国にとって尖閣水域は既に中国領海であって、海警は平常どおり淡々と警備行動をしている「だけ」ということになります。
だから中国は平常の業務として日本漁船を追い出し、ロシア海軍にも退去命令を出すのです。

中国は尖閣水域の領有は既に完成させた、後は尖閣諸島の陸の実効支配だけ、と判断しているのです。

 

 

2020年7月16日 (木)

第2波?そんなに恐れることはないと思いますが

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GOTOナンジャラがもめています。やれやれ、またですか。
ではハッシュダグ祭りをしている人にお聞きしたいのですが、GOTOキャンベーンが今できなきゃ、いつやるんでしょうか。
ワクチンが出来てから、特効薬が出来たら、はたまた感染者がゼロになったら?
それとも第2波が終了したら、でしょうか。
じゃあ第2波の後に第3波が来たらいかがいたしましょう。

いつまでもアレが来たらコレが来たら、東京が悪い、いや政府が悪い、アベが一番悪い、山形県芳村知事ガンバレ、なんて言っていても始まらないじゃありませんか。
どこかで一定のバランスが取れた判断をせねばならない時期なのですよ。
今、経済を再起動せねば、今度は経済が枯れ死んでしまい、大量の失業者、やがては自殺者の多発という形で感染による死者の数十倍の犠牲者を出してしまうのです。
GOTOキャンペーンという狭い視野に捕らわれずに見たらどうなんでしょう。

まず、第2波が来たらぁ、みたいな恐怖があるようですが、いえ、ある意味でそんなもんとっくに来ていると私は思っています。
誤解を恐れずにいえば、今、私たちが体験しているのが第2波です。
あるいは3月のヨーロッ型来襲を第2波とすれば第3波でしょうか。
第2波が来るとまた今年3月のようなことになると考えている人がいるようですが、まずそうはならないはずです。

今なにかと騒がれる東京都ですが、感染者数急増したのは7月からで、感染者の見た目は2桁ですが重症者数は8人ていどでです。
※都内の最新感染動向
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

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東京新聞

重症者が増えて死亡者が増えるので、今のところメディアが緊急速報や1面トップで「東京都で感染者100名を超える」なんてデカデカとやる時期ではありません。
メディアはパニック産業なのかって(修辞疑問)。
いきなり増えたのは検査会社のコンタミじゃないかとも言われており、もう少し重症者の傾向を見ないとほんとうのところはわかりません。

ところで思い出して欲しいのですが、1月当時私たちは新型コロナを「謎のウィルスX」と考えて怯えていました。
そして無症状者が多いという情報が流布されると、今度自分が罹っているかどうか心配になる人が激増しました。
それを煽った者がいたからです。

原発事故の時の武田邦彦役を努めたのが、この岡田晴恵といういかがわしい人物でした。
元感染症研研究員と名乗りながら、感染症研とは真逆なことを言い散らし、しかもその時その時の風向きで全く違うことを専門家の名で言うのですからひどいもんです。もはや芸人。TBSはまだこの人を使っていますね。

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彼らが一斉に叫んで政府を糾弾したのが、政府は感染者を隠しているんだ、もっと大々的にPCR検査をしろ、というネガキャンでした。
なぜかこの連中は、左翼メディアと野党の分布とピタリと重なります。
危なかったといえば、この1月時期に政府がこのPCR検査圧力に屈してしまった場合でした。
その場合、まちがいなく日本も欧米と同じに医療崩壊を起こして、死亡者も欧米並みとなったかもしれません。
医師の村中璃子氏はこう書いています。

「当初は1日数百件しか実施されていなかったPCR検査はピーク時には1日8000件超にまで増え、日本のPCR検査キャパシティーは短期間で大きく向上したといえる。 しかし、メディアには「PCRが足りていない!」と煽(あお)る“専門家”が多数登場し、検査の必要はないが検査を希望する人たちが医療施設や保健所に殺到。医療現場は逼迫(ひっぱく)し、危うく医療崩壊を起こしかけた。イタリア、米国、スペインなど、重症患者が多数出て医療崩壊を起こした国はあったが、PCR信仰による人災ともいうべき医療崩壊が起きかけた国は世界でも日本くらいのものだろう」(村中璃子 ZAKZAK 5月26日『医療崩壊危機はPCR信仰煽ったメディアの“人災” 』 ) https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200526/dom2005260005-n1.html

日本政府がかつてのハトカン政権のようなポピュリストによって占められていたらと思うとゾっとします。
首相は支持率が低下することをおそれずに、尾身氏や押谷氏たち専門家会議の言うことに耳を傾けました。

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東北大学大学院医学系研究科の押谷仁教授
https://news.yahoo.co.jp/feature/1582

この専門家会議は、自らの防疫戦略を対外的に語る文書を出しています。
※新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」    
補論:クラスター対策について (令和 2 年 5 月 29 日)

①中国由来の感染拡大(第 1 波)及び欧州等由来の感染拡大(第2波 )の 検出が早期になされていたこと 。
②我が国で早期に感染を確認できた背景には、日本では地方においても医療アクセスが良く、発熱、呼吸器症状などコロナを含め、感染症が疑われる場合に医師は、胸部X線、CT検査、検査、PCR検査を行った結果、早期に感染を探知できたこともあげられる。
③効果的なクラスター対策がなされたこと 。
④初期の積極的疫学調査の分析から、クラスターが発生しやすい場の分析が可能となり、諸外国では認識されなかった「3密」を避けるという効果的な対応策の発見につながった。

日本が世界で稀な医療崩壊を起こさなかった国となったのは、マスクが好きだとか、ハグの習慣がないとか、家に上がるときに靴を脱ぐとか、握手をしないなんて日常習慣だけのことじゃありません(笑)。
元々世界有数の医療インフラと国民皆健保制度を持っていたために、国民がどこででも安価に医療アクセスができ、PCRをする前段でCTスキャンなどの事前検査を受けられたからです。
医師は肺に怪しい影をCT検査で見つけると、その段階でPCRを実施しました。
この二段仕立ての検査体制が一時に病院にPCR検査を求めて殺到するパニックから、医療機関を守ったのです。

また、日本はクラスターの「さかのぼり」調査を徹底しました。
感染者が集団で出た場合などは、その感染者の接触者調査をさかのぼり感染源に立ち返って、その後の感染連鎖を見逃さないように努力しました。
今、東京都で大規模発生がでている業種は限られています。夜の街関係の飲食店・風俗などです。
ここで発生したなら、この業態を徹底してさかのぼらねばなりません。
それができないでいるのが小池知事で、この人は悪いのは国だろうとばかりに、GOTOOキャンペーンのほうに矛先を転化してしまいました。
こういう言い方得意だよな、この人。

ではここまで来れば安全だと言えるいちおうのメドはなんでしょうか。
いろいろなメドの取り方がありますが、こんなところではないでしょうか。

①新型コロナウイルスが弱毒化する。
②日本人に集団免疫が発生する。
③ワクチンないしは治療薬の開発。

①の弱毒化ですが、実は新型コロナはわが国ではだんだんと弱毒化し、季節性インフルエンザに近いものに修練していく傾向を見せています。

「東京都医師会の幹部は「ワクチンが完成し、重症化しない治療法ができれば、新型コロナウイルスもありきたりの『はやりかぜ』となり、人類と穏やかに共生していくことになる」と語っている」(7月10日藤和彦『新型コロナが「はやりかぜ」になる日は近いのか』)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61217。

かつて感染初期に季節性インフルと混同している見方もありましたが、今は大規模な感染を経て、再び季節性インフルエンザに近いものに落ち着いていく過程にあるという仮説もあります。
季節性インフルの年間感染者数はなんと約1000万人も存在し、1日当たりの感謝数に換算すると約3万人も発生しています。
新型コロナよりも2桁も大きく、死者も2018年から2019年の死者数が約3300人。
ね、こんなオットロシイ感染症を私たちは日常的に体験していたのです。

しかしなぜ騒がれないかといえば、理由は二つです。
①インフルエンザウィルスの正体が知られていたこと。
②多くの人が体内に抗体を持ち、それを高めるワクチンもあったこと。

では新型コロナはどうでしょうか。
①の新型コロナウィルスのゲノム解析は既に終わってその正体は暴露されています。
②の抗体ですが、日本人は新型コロナに罹りにくい特殊な抗体を持っているという仮説が登場しました。

「ドイツやスウェーデンでも同様の事実が判明しており、抗体が新たに作られなくても、既存の免疫システムで多くの人々は新型コロナウイルスを退治できるということがわかってきている。「抗体保有率が低い」といたずらに心配する必要はないのである。
また日本などアジア地域では「交叉反応性メモリーT細胞を有する人の割合が多いことから死亡率が低い」という仮説が成り立つ。世界各地の人々のT細胞の免疫反応が調査されれば、「ファクターX」の正体が明らかになるのは時間の問題だろう」

「人間の免疫システムは様々な免疫細胞が連携して機能している。大括りにすれば、自然免疫(生まれながらに身体に備わった免疫機能)と獲得免疫(病原体に感染することによって後天的に得られる免疫機能)に分かれるが、新型コロナウイルスに対処できるのは獲得免疫の方である。獲得免疫も2種類に分かれ、「抗体という武器をつくる」B細胞と「ウイルスに感染した細胞を破壊する」T細胞がある。(略)
新型コロナウイルスが出現する前から、SARSやMERSの他に4種類のコロナウイルス(風邪の一種)が見つかっているが、半数以上の人のT細胞は、過去のコロナウイルスに感染した経験を生かして新型コロナウイルスに対応できることがわかったのである」
(藤前掲 太字は原文ママ)

つまり日本人の多くは、新型コロナの前からSARSやMERSの他に4種類のコロナウイルスに罹っていたために、半数以上の人のT細胞は過去のコロナウイルスに感染した経験を生かして新型コロナウイルスに対応できることがわかったということのようです。
ウイルスに感染した細胞を破壊するT細胞が中国型新型コロナに対応して活性化したのかもしれません。
そしてラッキーにも、中国型はヨーロッパ型と比較してより弱毒性で、重症者や死亡者が桁違いにすくなかったというわけです。
皮肉にも、武漢からの観光客が持ち込んだ中国型ウィルスが、日本人にとって幸いだったという逆説。
言っておきますが、まだ仮説ですからね。

ワクチンは各国がポストコロナの利権も絡んで必死の形相で取り組んでいますが、治験もあるのでもうしばらく時間はかかるはずです。
それにワクチンは万能じゃありません。抗体が上がらない人もいるのです。
ですから治療薬が本命なのですが、これやれデキサメタゾンだなんだかんだともいろいろニュースが入っていますが、落ち着いてながめていましょう。

とまれ日本はこれから大規模な第2波が来るとは到底思えません。
今の時期は頂上直前の8合目のようなものです。
山頂はそこに見えますが、まだ多少の強風や雨があるかもしれないので慎重に天候を観察している時期です。
今まで登ってきた知恵と経験がありますから、ここから一気に登山口にまで転落擦る可能性はありません。
この時期に少しずつ経済を元通りにして、身体を鍛え直すことの何が悪いのでしょうか。
第2波は来たとしても、だからといってそれを恐れて逆戻りする必要はないのです。

規制すべきは規制したらよろしい。
たとえば、クラスターとハッキリした夜の街は規制したからといって、東京都全体を緊急事態宣言時に戻す必要はまったくないし、他の地方の方は東京のなにが危ないのかを見極めたらいかがでしょうか。

 

 

2020年7月15日 (水)

予備選挙に61万人 香港市民は諦めていない

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私は絶望しかけていましたが、香港市民は絶望していませんでした。
香港民主派はまだ諦めていません。

【香港=藤本欣也】9月6日の香港立法会(議会)選に向けた民主派の予備選が12日、2日間の日程を終えた。主催者によると、投票者数は有権者全体の約13%に当たる61万人を超えた。市民は投票を通じて、中国が導入した「香港国家安全維持法」(国安法)への反対を表明した形だ。 今回の投票は、香港政府高官が「予備選は国安法違反の疑いがある」と警告する中で行われた。
 12日、400人以上の行列ができた新界地区で投票をした女性(39)は、「もし投票することが罪になるなら、今ここで整然と並んでいる全員を、そして香港で投票した数十万人全員を逮捕すればいい」と憤っていた。投票の権利までも国安法で規制しようとする政府の対応に反発する市民は多かった。
 民主派は投票者数の目標として、昨年の区議会選で獲得した票数の1割に相当する17万人を掲げていた。実際には3倍以上の市民が投票した。2日目の投票者数は初日(約23万人)を上回る約38万人だった」(産経7月13日)

この予備選挙は、この9月の立法議会選挙の民主派候補の共倒れを防ぐ目的で、民主派が独自に開催したものです。
この約61万人という投票者数が意味するのは、民主派が圧勝した昨年の区議選で獲得した票の約3分の1に相当し、立法会選の有権者全体の14%にあたります。
民主派は目標を達成し国安法以降初めての勝利をもぎ取りました。

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AFP 香港民主派の予備選に投票するため並ぶ人々(2020年7月12日撮影)。(c)ISAAC LAWRENCE / AFP 

この民主派の動きに対して、中国当局は露骨に不快感をしめしました。

「【7月14日 AFP】香港の立法会(議会)選挙に向けて民主派が先週末に実施した予備選について、中国は13日、「深刻な挑発行為」だと表現し、選挙運動の一部が香港に新たに導入された国家安全維持法に違反した可能性があると指摘した。
 中国政府の出先機関である香港連絡弁公室は13日夜、声明を出し、「これは現行の選挙制度に対する深刻な挑発行為だ」と非難した」(AFP7月14日)

飼い主がお怒りになると、飼い犬どもも遅れてはならじと一緒に吠えだすという風情です。
今や完全に中国当局の出先機関であることを隠そうともしない香港行政庁は、選挙に行くのは国安法違反だなどと、出来たばかりのメイドインチャイナ直輸入の法律をちらつかせてみたようですが、かえって逆効果だったようです。
キャリーラムは、かつてのような香港市民の代表といったポーズすらかなぐり捨てて、中国とやることなすこと一緒です。やれやれ。

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「これに対し、林鄭氏は13日夜、緊急に記者会見し、民主派の予備選について、政府の施政を阻むために立法会選で過半数の議席を獲得することを目的にした選挙であれば、国安法違反の可能性があると指摘した。 また、新型コロナウイルスの感染が拡大しているとして、集会制限措置を再び強化するとし、5人以上の集会を禁止すると発表した。政府は同日、「予備選が選挙の秩序を乱した」などとする市民らの訴えを受けて、調査を開始したことも明らかにした」(産経前掲)

結果、よせばいいのにこういう時に圧政者たちがやる常套手段をとってしまい、かえって香港市民の怒りを買ったようです。
かつて台湾で初めての総統選に対してミサイルを撃って威嚇した結果、民主派に勝たせてしまった故事を思い出します。
こう言うときは口先だけでも融和的なことを言っておくものです。本当にかの国の外交下手が光りますね。

「予備選の直前には、警察が電子投票システムを担う世論調査機関を捜索するなど当局による締めつけが強まった。だが、こうした動きが逆に市民の反発や関心を高めた可能性がある」(朝日7月13日)

既に香港当局はこの6月7日から、国安法を使って逮捕状なしの家宅捜査を始めています。
この予備選挙についても事後弾圧が開始されると予想されます。
その場合、このようなことが可能となります。

①特定の状況で、警官に捜査令状なしでの家宅捜索などを認める。
②捜査対象者のパスポートを没収できる。
③海外逃亡を事前に防止できる。
④インターネット上で国家安全に危害を加えるような情報があれば、プロバイダーにアクセス制限措置を求め、したがわない場合、罰金10万香港ドル、禁固2年以下の刑に処すことができる。
⑤台湾、外国の政治組織に対する必要な資料提供を求めることができる。

これは中国流の思想警察政治が香港で始まったことを意味します。
中国共産党は国安法の施行をにらんで、この2月に香港担当の人事を変更 しています。

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産経 キャリーラムの左が駱恵寧「総督」

「中国政府の香港出先機関である連絡弁公室(中連弁)主任が王志民氏から前共産党山西省委員会書記の駱恵寧氏に交代する人事が1月4日、発表された。
王氏は在任2年3カ月。年齢は62歳で、閣僚級の定年(65歳)には達していない。過去の同主任は平均で約5年務めていたので、更迭であることは明らか。香港返還から20年以上たつが、中国政府出先機関のトップがクビになるのは初めてだ[(産経2月1日)

王は習派閥であるにも関わらず不手際を責められて更迭され、代わって中聯弁のトップとなったのが駱恵寧(らく けいねい) です。
この人事はいわゆる大物人事で、駱は青海省の省長(知事に相当)と省党委書記、山西省党委書記を歴任した(いずれも閣僚級)を歴任して、今回香港中聯弁主任という「総督」に就任したことになります。

「重量級の党官僚である駱氏の就任で、香港中連弁主任のポストは事実上、大幅に格上げされた。もし同氏が今後、議会形式の統一戦線組織である人民政治協商会議(政協)の副主席もしくは上級閣僚の国務委員を兼務した場合、その地位は閣僚の上に位置する「国家指導者」となる」(産経前掲)

この男は、香港とはまったく無関係な人脈で、王と違って親中派で占められている香港財界とのしがらみが薄く、共産党中央の意志をダイレクトに香港で実施すると見られています。

一方米国はこのキャリーラムの発言に即座に反応しています。

ポンペオ米国務長官は14日、非常に憂慮しているとした上で、香港情勢を注視する考えを示した」(ロイター7月15日)

米国は独自に、香港国安法に関わるすべての人物に対する制裁、及び彼らが使うすべての金融機関に対してドル決済を行わせないという制裁を検討しています。

「6月9日のポンペオの声明では、HSBCのアジア区主席執行官のピーター・ウォンを名指しで「中国政協委員(参院議員に相当?)でもあるピーター・ウォンが北京の災難のようなひどい決定『香港国安法』支持の請願書に署名し、この法律による香港の自治権破壊、中英連合声明に基づく合意破壊の決定を支持した」と批判。(略)
ポンペオは「こういう忠誠の表明の仕方は、HSBCにとって北京において尊重されることにはならないし、むしろ北京がHSBCの中国業務を、ロンドン英国政府に対するコントロールの道具として利用し続けることになるだけだ」と批判していた」(福島香織)

この香港HSBCのマーク・タッカーは、もし英国首相ボリスジョンソンとの面談で、ファーウェイを英国5G建設から締め出したら中国から厳しい報復措置をうけるだろうと訴えており、国安法にも賛成していた銀行です。

またブルームバーグによれば、トランプ政権はすでに香港ドルの米ドルに対するペッグ制を外す検討を始めていると伝えています。

「別の消息筋によれば、ドルペッグ外しは、目下の対中共制裁案リストの優先順位の中では比較的後の法にあり、まず香港と米国の間の犯罪人引渡条約の撤廃、香港警察との協力関係の停止があり、そのた香港への優遇政策の撤廃が続く。だが、米国国務省で、香港ドルペッグを外すことが議題にあがったのは初めてだ。
香港のドルペッグに関しては1983年以来続いており、目下1ドル7.8香港ドルでほぼ固定されてきた。このことが香港ドルの国際的信用の裏付けとなっている。もしドルペッグが外されれば香港の経済競争力が一気に崩れるだけでなく、香港を通じて米ドルを調達していた中国企業の競争力も潰える結果となる」(福島香織)

これらが実施された場合、今まで香港を通じてドルを調達していた中国系企業のドル決済の道は断たれることになり、関係者らの関わっていた中国5大銀行もまたドル市場から締め出されることになります。
これが中国経済に致命的影響を与えることは必至です。
にもかかわらず、習は最強硬派と呼ばれる駱恵寧を「総統」に派遣し、国安法を押しつけたのです。

中国はそれがいかなる結果を自らにもたらすのか、判っていてやっているのでしょうか。
中国系企業や銀行は、このような国際経済に疎い指導者をもったことを呪うことです。

 

 

2020年7月14日 (火)

飽きずに繰り返されるオスプレイデマ

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木更津に陸自のオスプレイが暫定配備されただけで大騒ぎです。

「陸自オスプレイ 住民の理解欠く配備だ
防衛省が導入した垂直離着陸輸送機オスプレイの陸上自衛隊木更津駐屯地への配備が始まった。五年以内の暫定措置とされるが、周辺住民や地元自治体の理解を十分に得られているとは言い難い。
オスプレイは開発段階から墜落事故を繰り返し、実戦配備後も安全性への懸念が指摘されてきた軍用機だ。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に二十四機配備された米海兵隊MV22オスプレイも、空中給油訓練中にプロペラが破損して海岸に不時着、大破したり、海外への遠征訓練中に海上に着水する事故を起こしている。(略)
 首都圏にオスプレイが集中し、飛行が恒常化する可能性は高い。首都圏周辺は住宅が密集し、事故が起きれば大惨事になりかねない。空軍オスプレイでは部品紛失も起きている。空域が入り組み、民航機への影響も心配だ。
安全性に疑問がある軍用機が、人口が密集する首都圏を飛び交うのはとても尋常とは言えない」(東京7月14日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/42317

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映像では何人かの周辺住民が繰り返し「事故を繰り返すオスプレイ」と言っていましたね。
はいはい(ため息)、その方にお聞きしたいのですが、オスプレイが「頻繁に事故を起こす」とはなにが根拠なんでしょうか、教えてもらえませんか。
たぶんあなたを取材した当のテレビ、新聞がそう報じていたからではありませんか。
メディアは印象を国民に刷り込んで、「だから周辺住民が拒否しているのだ」という「世論」を作ってしまいます。
メディアによるデマの自給自足。

ほんとうに「繰り返されたオスプレイ事故」なのかどうか、ひとつ具体的にみてみましょう。

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散々流布された片方に沈んで壊れるオスプレイの画像は、1991年6月11日に、試作5号機がグァシャーンとやった時のものですが、軽傷者2名で済んでいます。
そもそも 試験機は欠陥を洗い出すためですから、事故を起こしたと言って欠陥機呼ばわりはいかがなものですが、この事故は配線を逆につないだという凡ミスです。
最終調整工程で、飛行制御システムの3系統あるロールレイト・ジャイロのうち、2系統を逆に配線してしまったためです。
理由はすぐに判明して、この事故の5日後には別な試作機でテストが再開されています。 

実用化されてからの事故としては、2012年4月11日のモロッコの事故があります。
事故原因はわかっていて、むしろ機体と大気との相対速度である対気速度が不足したためでした。
このモロッコ事故はちょうど普天間に配備する前後に持ち上がったために、大騒ぎになりましたが、原因は特定されています。

国防総省はこの事故について公式の報告書を出しています
Command Investigation into the Facts and Circumstances Surrounding the Class "A" Mishap Involving the MV-22B Crash That Occurred Near Cap DRA'A Morocco On 11 April 2012

ひとことでいえば、パイロットの操縦ミスです。
パイロットは操縦マニュアル違反で、重大な過失を3つしています。

①追い風の中に入って転換飛行に入った。
②機首下げ姿勢を直さず転換飛行に入った。
③速度不足のまま転換飛行に入った。

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オスプレイは離陸する時に、プロペラ(正確にはプロップ・ローター・回転翼)がついているナセルと呼ばれる部分を徐々に傾けていきます。
上の写真で翼の先端についているものがナセルです。
オスプレイはヘリのように垂直に上がって、ナセルをぐるりと前に回して、固定翼機のように前進飛行するわけてす。
このグルリと回す間のことを、「転換飛行」と呼びます。

この時、前進して飛行するためには、一定のスピードに達していなければなりません。
これはオスプレイに限らず、すべての航空機も同じです。
固定翼機は、滑走路を走って離陸速度にまで速度を上げて揚力を得ています。
オスプレイの場合、この大気との相対速度(対気速度)が40ノット以上でなければなりません。
航空機の速度はノットで計測します。1ノット=1.852㎞/hですから40ノットは約74㎞です。

 

Photo_4防衛省 

 

しかしこの落としたパイロットは、わずか5ノット(約9キロ)しか出していない時に、ナセルを倒して、無理矢理に転換飛行しようとしたのです。
特に③の速度不足がこのモロッコ事故の主原因です。

オスプレイデマがナイアガラ瀑布よろしく降り注いだ地域が沖縄でした。発信元は沖縄地元紙です。
普天間に旧式ヘリと交代で
オスプレイが配備された時には、「構造的欠陥機を沖縄に配備したのは沖縄差別だ」とまでいいだしたのにはたまげました。
故翁長氏が突如として左翼に転向したきっかけはこのオスプレイ配備でしたね。

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たしかに普天間移設とオスプレイ配備が時期的に重なったのが刺激的だったとは思いますが、オスプレイは世界的な配備計画の一環であって、かねてから決まっていたことです。
とくに
「沖縄差別」をしたくて、オスプレイを配備したわけではありません(あたりまえだ)。

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北部訓練場の大規模返還の代わりに、高江につましいヘリパッドをつくろうという計画があった時にも言われたのが「高江に危険機オスプレイパッドを作らせない」とという論法でした。

この人たちはオスプレイの枕詞に「欠陥機」「ひんぱんに事故を繰り返す」という言葉をつけないと気が治まりません
もはや
一種の脅迫神経症です。
どうしてこうまで牽強付会するのか、理解に苦しみます。

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国内では、「事故をひんぱんに繰り返す」といいますが、めだった事故は2016年の不時着水の一回きりです。
この事故は事故報告書によれば、気流の突然の乱れによって給油機側のホースを、オスプレイのプロペラ(ローターブレード)が切断してしまい、それがプロペラにダメージを与えたうえにホースがブレードに絡みついてしまったために、左右の回転が不均等になり、強い振動が発生したためのようです。
オスプレイのプロペラは左右が連結されていますから、すごい振動だったと推測されます。

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このような事故は今までも他機種で起きていますから、オスプレイ特有のものではありません。
もちろんオスプレイはすべての双発機がそうであるように、片肺といって片一方のエンジンだけで飛行もできますし、着陸もできます。
現にこの事故で片肺になった当該機も普天間の目前まで飛んでいます。
※参考資料
http://booskanoriri.com/archives/2565
http://kinema-airlines.cocolog-nifty.com/blog/2014/02/ceo-11d5.html

沖縄配備後のものとしては、2017年のオーストラリアで強襲揚陸艦ボノム・リシャールを発艦し、ドック型輸送揚陸艦グリーン・ベイへの最終進入中にデッキに衝突した事故です。
これなどは艦艇が大きく波で揺さぶられたために起きたもので、構造的欠陥とはまったく無関係に起きたものです。

「今回の事故は、陸上への着陸よりはるかに複雑な、海上を移動中の艦船への着艦の最中に発生したものであること、米軍が事実関係及び事故発生までの状況を初期調査で確認し、MV-22の飛行は安全であると結論付けていること、MV-22に安全な飛行を妨げるような機械的、構造的及びシステム上の欠陥はないと米軍が認識している」
(防衛省『オーストラリアで発生した第31海兵機動展開隊所属のMV-22オスプレイによる事故について』)

沖縄以外の事故としては、2015年5月ハワイ事故があります。
原因は、砂塵による「ブラウン・アウト」現象と、同じく砂塵によるコンプレッサー・ストール(失速)です。
 
いずれも機体の構造欠陥ではありません。
ブラウンアウトとは、濃密な砂塵に包まれて自分の機体の位置がパイロットにわからなくなくなる現象です。

002http://news.mynavi.jp/column/airplane_it/056 

上の写真は米国のユマ訓練場でのオスプレイのものですが、これがブラウンアウト現象です。
 
この時事故機のパイロットは操縦ミスをしています。
本来マニュアルで60秒で完了せねばならない着陸操作を110秒もかけてしまって、さらに多くの砂塵を吸い込む結果になったようです。 

当然のことですが、このようなブラウンアウト現象は特にオスプレイ特有の事故ではなく、2003年にイラクでわずか1カ月間に17機のAH64アパッチが、同じブラウンアウトで墜落しています。
ヘリでもジェットのような固定翼機でも、このような砂塵の中を飛べば視界が妨げられ、エンジンに異物が吸い込まれて危険に決まっています。

オスプレイのほうが、ブラウンアウトの原因となるダウンウオッシュ(※下向きに吹きつける強い風のこと)が大きいという説もありますが、CH46のような大型ヘリとほとんど一緒か、やや強いていどです。 
これについても共産党は「ネパールでオスプレイは民家を飛ばした」と嬉しげに報道していますが、2005年のスマトラ沖地震の救援の際、自衛隊のCH47もインドネシアで民家の屋根を飛ばしたことがあります。

このハワイ事故において墜落した機体のエンジンは、ファンブレードが破損してコンプレッサー・ストール(失速)を起こしていました。Dfv22crash1_usnavyRR, US Navy

エンジンのファンブレードが破損した原因物質は、これも「砂塵」です。
ブラウンアウト現象と同じ原因で、パイロットがマニュアル以上に長時間濃厚な砂塵の中に機体を置いたために、砂塵をエンジンが吸い込んでコンプレッサーストールを起こしたのです。

このハワイ事故と似た、砂塵が原因の事故が2010年4月にアフガニスタンで起きています。
空軍型は特殊作戦機なので、陸自や普天間に配備された輸送機型と違って、危険を承知の飛行をしたり、不整地に着陸するために事故が多いのです。
国内で飛行するかぎり砂塵による事故はほとんど無視できると思います。

オスプレイの事故について米軍の統計がでています。1376321535


  出典 防衛省 下も同じ

上のグラフは米軍機全体で見た飛行10万時間あたりの事故率です。最少から二番目です。
グラフ中程にCH-46とありますが、これがオスプレイに代わってスクラップになった大型ヘリです。 1376321536_2

 

上図は米軍全機種の中でのオスプレイの事故率ですが、平均より下です。

続いて、今回も地元住民が「ヘリよりうるさい」等といっていた静粛性です。 

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  (図 Final Environmental Impact Statement for the West Coast Basing of the MV-22※リンク切れ

飛行中は全ての高度でオスプレイはCH-46より5~9dB(デシベル)静かなことがわかります。
私は百里や土浦でひんぱんに軍用ヘリの音を聞いていますが
ヘリはローターから出る特有のバラバラという空気を叩くような音(スラップ音)がかなり遠方から聞えます。
オスプレイは水平飛行時は通常の航空機並の静穏性を持っていて、ヘリより6倍静かだと言われています。
ちなみに現物のオスプレイが来て意外なまでの静粛性に驚いた沖縄地元紙は、「いや、低周波でノグチゲラが死んだ」というトンデモ説を言い出しましたっけね(笑)。
もちろん否定されていますが。

というわけで、もはやオスプレイ・デマは種切れなのですが、いったん刷り込まれてしまったオスプレイデマはなにかというと「繰り返される事故」として蘇ってきます。
繰り返されるのは事故ではなく、デマのほうです。

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なおオスプレイが米国で都市上空を飛べないとか言っている人がまだいますが、まったくのデマです。
事実は、まったく普通に都市上空を飛行しています。
なんせ大統領専用機になっているくらいですから、都市上空を飛べない「未亡人製造機」だったらどうします。

 

 

 

 

2020年7月13日 (月)

日米同盟の双務化ってなに?

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minさんからコメントを頂戴しています。このかたへのコメントというわけでもなく広く考えていくことにします。

まず我那覇氏グループと依田氏との争いについて責任をとれということですが、私のような部外者が彼らの抗争について「責任」をとりようがありませんから、無茶いいなさんなというところです。
山路さんも言っていますが、支持できる部分は支持しますが、支持できねば遠くからながめているしかない、ただそれだけのことです。
言論というものの性質上それは当たり前のことで、一回支持したら地獄の底まででは、言論という行為自体が成立しません。

どうやら言いたいことは、沖縄の自立と日米同盟の双務化ということのようです。
沖縄の自立とは日本の自立のことだと私は思っているので、分けて考えないことにします。
というのは、このかたも言うような米軍基地の管理権とか一次裁判権など、ことごとく一つの地域で議論していても始まらない、日本全体の問題だからです。
抽象的に話してもしかたがないので、具体的に進めます。

さて、つい最近ボルトンが暴露本を出しました。おおむね日本には好意的に記述されていますが、唯一あれあれという部分が話題になりましたね。

「ボルトン氏は昨年7月の訪日時、在日米軍駐留経費の日本側負担について、トランプ氏が年間80億ドル(約8500億円)を求めていると日本政府高官に伝えたと記している。帰国後、トランプ氏から、全ての米軍を撤退させると脅せば、『交渉上とても有利な立場になる』と迫られたことも明らかにした」(6月24日読売)

河野防衛相は即座に、「駐留経費の交渉はまだ始まってもいないし、日本政府として、アメリカからこの件について何か要求があったことはない」と否定したようですが、たぶん本当に言ったのでしょう。あの人ならいいそうです。
アジャパーという発言で、トランプさんがそこらの米国人と同じていどの安全保障知識しかないことがバレてしまいました。
彼は中国に対する姿勢などでは直感的に図抜けたものがありますが、周りの専門家が支えてやらないと基礎知識が欠落しているひとなのです。

米国にとって日本は唯一無二の最重要同盟国です。
こういうとびっくりする人もまだ多いのですが、それは日本列島の位置が中国の海洋進出に蓋する位置に存在していること、そして朝鮮半島の直近にあること、また日本の艦船修理能力が米国本土並かそれ以上の力を備えているからです。
とくに宮古海峡は中国海軍が太平洋に進出する時に必ず通らねばならない門に位置しています。

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環日本海・東アジア諸国図(通称:「逆さ地図」)』 富山県
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1510/kj00000275.html

「米軍は日本を守ってやるために駐留している」なんて、安全保障の専門家でそんなことを信じていたらもぐりです。
結果として日本を守ることにもつながってはいますが、アジア全域と太平洋の半分、インド洋全域、そしてはるかアフリカ近海までの範囲を、日本の基地で支えてもらっているから駐留しているのです。

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日本に依拠している米軍の能力は全体の実に80%に達しますから、日本なくして米が世界の覇権国(ヘゲモニックステート)であり続けるることはできません。
日本から「撤退」する時とは、米国が二度目のモンロー主義を取る時以外ありえませんから、その時は日本だけの問題ではなく世界秩序が根底から覆ることを意味します。
ですからメディアが言うように、たかだか前線基地にすぎない韓国には負担増を言ったゾ、日本も言われると騒ぐこと自体がナンセンスなのです。

本気で「負担額を4倍にしてければ撤退」などと口にしたとしたら、トランプはバカです。
そういうコストで換算仕切れないものを日本は提供していることを、このシロート大統領は忘れています。
ついでにそれをたしなめられなかったボルトンも愚かです。
マティスならこんなことを言おうもんなら、素人は黙っていて下さい、とたしなめたことでしょう。

では本気で米国が日本から「撤退」した場合、これは自動的に日米同盟の解消ということになりますが、日本はどうしたらよいでしょうか。
選択肢はふたつしかありません。
一つは、中国と安保条約を結ぶこと。
ふたつめは、日本が安全保障で自立すること。

ひとつめの中国との同盟が論外なのは、特に説明する必要はありませんね。日本では二階とハトさん以外やりたい人はいないでしょう。
中国と紛争にならないていどに浅く友好を維持するのは大事ですが、間違っても軍事同盟など結べばどうなるかは考えないでもわかります。
問題は、ふたつめの日本が安全保障で自立ができるか否かです。
結論からいえばまったく不可能です。

米軍なき防衛力整備のためには、ある試算で20兆円以上かけて20年近い期間をそれにあてねばならないはずです。
それを見越して日本を脅してみろと言ったならば、いいでしょう、その代わり米国は太平洋の反対側に軍事強国を持つことになりますが、かまわないのでしょうか、と答えてやるべきです。
いや、かつてのドイツの首相のように、「もう一回強い日本兵をみたいのか」とタンカの一つでも切ってみたらどうですか。

では、日本は自前で自立した防衛力を構築できるのでしょうか。
「自立した国防力」には空母打撃群、核兵器、MDが必須です。
日本が独力でこれらを調達することは不可能です。
核兵器とMDまで論じると長くなるので、空母打撃群だけに絞って考えましょう。

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クイーン・エリザベス級空母
https://grandfleet.info/military-trivia/lease-queen-elizabeth-class-aircraft-carrier-to-the-british-and-us-navy/

米国以外の空母打撃群としては英国海軍が2017年に就役させたクイーン・エリザベス級空母2隻がありますので参考にみてみます。
英会計検査院は、今年6月26日に空母打撃群に必要な艦載機、護衛艦、補給艦の不足や、早期警戒ヘリコプターの開発の遅れを警告する報告書(『空母打撃――展開の準備』)を公表しています。

「英海軍は、今年12月に空母打撃の初期作戦能力(IOC=任務を遂行できる最小限の能力)、2023年12月に空母打撃の完全作戦能力(FOC=調達の目的の能力)であるF-35B 2個飛行隊(24機)の運用、26年3月に空母による戦力投射の完全作戦能力を達成することを目標としている。
しかし、英政府は空母2隻の建造に64億ポンド(9000億円)を費やした後、空母打撃群に必要な艦載機、護衛艦、補給艦の調達費が不足している」
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

空母打撃群は空母だけではなく多くの支援艦艇が不随します。それを構築する力が英国海軍にはないのです。

「空母を潜水艦から守るフリゲートは、23型(13隻)の退役が2023年に始まる。後継艦には26型と31型があり、対潜水艦戦(ASW)能力の高い26型は、2027年以後8隻しか就役しない。
戦闘艦に弾薬、部品、食料などを補給する貨物弾薬補給艦は、英海軍(補助艦隊)には1隻しか残っておらず、その「フォート・ビクトリア」も2028年に退役が予定されている。会計検査院によると、後継艦の調達が遅れており、「フォート・ビクトリア」の退役に間に合わないおそれがある。
さらに、空母による戦力投射のためには、空軍のチヌーク輸送ヘリや陸軍のアパッチ戦闘ヘリの運用能力を強化する改修が必要だが、その予算も計画されていない。英国はクイーン・エリザベス級空母のヘリ運用能力を当てにして、揚陸艦「オーシャン」をブラジル海軍に売却したので、当面、ヘリを搭載運用する揚陸艦を保有しないことになる」(西前掲)

そして英国会計検査院の結論はこうです。

「国防省は、空母打撃の将来の運用維持費について十分な理解を得つつある」という会計検査院報告書の表現は、国防省と歴代政権がそれを理解しないまま空母2隻を建造したことへの憤慨を、英国流に控えめに表現したともとれ、空母を建造中の各国への警告にもなっている」(西前掲)

日本はヘリ空母の改修で手一杯です。
6万トン規模の通常型空母を建造することは技術的には可能であっても、それを3セット(打撃群は常に3隻でローテーション配備されていますので)保有することは夢想にすぎません。すべての防衛予算を注ぎこんでもパンクします。
まして核兵器など保有しようとすれば、世界を敵に回すことになります。これについてはさんざん論じましたからもういいですね。
関連記事『独自核武装はやってやれなくはないが、そう簡単なことではない』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2019/02/post-b0b9.html

結論をいえば 、日本が軍事的に自立しようとするのは、戦前の日米、あるいは日中全面衝突コースを想定してやることです。
それは地獄の路です。絶対に避けねばなりません。

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嘉手納基地

ここまでを頭に入れたところで、基地管理権を考えてみます。
これについては沖縄県が『他国地位協定調査について - 沖縄県』(Adobe PDF) をだしています。
日米地位協定3条による空域管理権、施設管理権などが与えられていますが、検索してもこのテーマで出てくるのはすべてがヒダリ方向のものばかりです。
min氏も「日米安保の双務化」というわりにはこのトーンですので、私は違った角度から考えてみましょう。

米軍が死活的に重要だと考えている在日米軍基地は横須賀を筆頭にして、横田、嘉手納などです。
普天間やシュワブは前方展開基地ですから、撤収も情勢次第ですが、この三つは仮に「撤退」しても基地機能は保全したままで、有事対応のための弾薬・燃料・資材・保守要員は残していくでしょう。
それはまた政策が変更された場合に、すぐに使えるようにするためです。

嘉手納の基地管理権を日本が一元的に握るというのは、このような「撤退」、ないしは「撤退可能な状況」に陥った時のことです。
米軍は自衛隊と基地管理の共同化を進めてきました。その意味では双務化は国民が思う以上に進んでいます。
たとえば海自は米海軍と一体化しているといっても言い過ぎではありませんし、陸自の水陸機動団は海兵隊に訓練を受けて育てられています。
好むと好まざるとにかかわらず、自衛隊と米軍との関係は今までになく有機的に統合されているのです。

しかし沖縄だけは、米軍が単独で統制しているという印象があるのは確かです。
なぜでしょうか。それは左翼が言うように沖縄を差別しているからでもなく、先ほど述べたように米軍の世界規模の戦略の重要拠点だからです。
沖縄における最大の基地である嘉手納は有事には3倍近くの米本土からの支援機を入れて、巨大な策源地となります。
有事には、海兵隊だけで航空機300機、数万人規模の地上部隊を受け入れねばなりませが、これは普天間の43%のキャパしかない辺野古には収容しきれずに、嘉手納にご厄介になるしかありません。

こんなハンチクなものを巨費と長期間の工事をして作るのは愚劣ですので、政治的ないきさつがなければここまでこじれる前に白紙化してしまうべきでした。
といってもここまで政治案件になると、もう双方とも引っ込みがつかないでしょうがね(ため息)。、

それはさておき、この嘉手納にも同程度の空軍機が来援するので、たぶん収容しきれなくなるかもしれません。
だから、嘉手納は一見広々としているように見えても、空自との共同使用は拒否されているのです。
なんせ移転先に統合案が浮上したとき、空軍はマリーンとの共同使用もイヤがったんですからね。

こういうことまで考えて「相互防衛条約化」をいうなら、有事において問答無用で自衛隊もその一部として機能することが大前提です。
もっと具体的にいえば、米中が全面戦争に突入した場合(その可能性はありますが)、自衛隊は丸ごと米軍と歩調を合わせて共同作戦に入らねば「双務化」は不可能です。
というわけで現況では不可能です。理由はいいですよね。憲法をどうにかしないかぎり出来っこありません。
尖閣防衛だけなら集団的自衛権でどうにかなりますが、それ以上のことは不可能ですし、現況ではやるべきではありません。
これが米国が全面的に日本に管理権を譲らないほんとうの理由です。
むこうにはメリットがないからです。

日米地位協定については、もちろん一次裁判権は必要ですし、持つべきです。
では逆になぜ米国は渡さないのでしょうか。
それは米国は取り調べの可視化を望み、拘留期間の長期化を嫌っているからです。
ゴーン事件の時にも出ましたが、日本の司法はそのように国際的に見られていて米国もそう見ています。
ここを変えるとなると検察・警察を相手に大変な国内的なテーマとなります。たかだか検事の定年くらいであの騒ぎですからね。

長々と書いてしまいましたが、「日米同盟の双務化」とは、沖縄だけの問題ではなく日本全体のことで、日本は派手さはありませんが、集団的自衛権の容認や専守防衛の見直し、南シナ海のパトロール、中東の海賊対処などでゆっくりと歩を進めているのです。
私からみれば、日米同盟はよくぞここまで双務化が進んだもんだと思えるくらいまで進行しており、たぶん憲法が作った戦後的枠組みの極限にまで達しています。安倍さんが改憲をいうと、すぐに政治的レガシーにしたいからだというようなことを言う手合いがいますが、集団的自衛権や特定非密法などを積み上げてきた彼からすれば、憲法解釈でやることはもう無理だと考えているからです。
トランプが言っているのは好意的に解釈すれば、世界の安全保障について応分の負担をしていないという不満でしょうが、これ以上の「双務化」を望まれても憲法変えないかぎりむりなのです。

実は沖縄の自立は日本の自立と同義語だということに気がつかないことには仕方がありません。
min氏は「日米安保を変えて」と簡単に書いていますが、どこをどう変えるのでしょうか。
具体的にひとつひとつ詰めていかないと議論にはなりませんよ。なぜなら安全保障論とは具体論の塊だからです。

 

 

2020年7月12日 (日)

日曜写真館 昭和行きのバス

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昭和行きのバスが発車します。

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あたりまえに現役です。

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鳥居をくぐるとちいさな祠があります。

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すべてが止まっているような午後です。

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そば屋のご主人自慢の盆栽です。

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今日の午後は床屋に髯でもあたってもらいましょうか。

2020年7月11日 (土)

ダムについて本気で再検討したほうがよい

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今回60人以上の死者・行方不明者を出した熊本県をはじめ、九州各地を襲った豪雨災害は、日本の治山治水が今の異常気象にまったく対応できていないことを示しています。

地球規模で有意な海水温の上昇が観測されています。

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海面水温の平均年差  気象庁

日本近海の海水温上昇をみると、真っ赤です。海水温は無視できないほど上昇しています。

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2019年9月8日の海水温度の分布図

 地球の7割を占める海水は、目に見えにくいけれど地球気候に大きな影響を与えています。
水は温まりにくく冷えにくいという特性があるので、いったん温暖化トレンドに入ると長期に渡って地上の気象にも影響を与え続けます。

その結果、海面から上昇する水蒸気量を増やし、降雨となって地上に降り注ぎます。Gouukaisuu

1000地点あたりの豪雨・洪水の年間発生回数 気象庁

台風や洪水の激増ぶりは、かつて「大災害はめったに起きない」という日本人の観念を根本から変えてしまいました。
大災害は日常的に起き続けているので す。
ざっと上げるだけで、

2015年 茨城北部の鬼怒川が決壊し、住宅3000戸以上が浸水。
2016年 北海道を3個の台風が直撃し、「北海道に台風は来ない」という気象観測の常識が覆った。
2017年 九州北部の豪雨災害。降雨量が観測史上最大(9時間で780mm)を記録して大きな爪痕を残した。
2018年 西日本(中国・四国地方)をゲリラ的な豪雨が直撃、220名以上の犠牲者。
2019年 千曲川大水害。

かつては大災害は一生に一回の経験則が覆って、毎年数百人が死ぬような事態が頻繁に起きるようになったことを現しています。
そしてこの気候条件の変動に日本は対応できていません。
今回の大災害をもたらした球磨川支流の川辺川ダム建設計画は、2008年に蒲島知事が、治水目的を含んだ川辺川ダム計画に反対を表明し、翌年に前原誠司国土交通相(当時)によって計画が中止されました。
これは共産党が起こしたダム反対運動を朝日などのメディアが熱狂的に応援した「成果」でした。

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民主党政権に定まった治水政策があったとは思えませんが、財務省が主導する緊縮財政の従順な僕である彼らにとって、大規模ダム工事をストップすることはシンボル的な「戦果」だったはずです。
だからムード的な「コンクリートからひとへ」などという意味不明なスローガンをかかげて、まさにコンクリートの固まりにしか素人には見えないダムをバッサリ斬って見せたというわけです。
ムードで斬られちゃ、治水はたまったもんじゃありません。

ダムを中止した理由はカネがかかるということや、環境破壊だというものでしたが、中止以降、国と県、流域12市町村はダムによらない球磨川治水策を協議し、でてきた代案は河道掘削や堤防かさ上げなどの10案で、そこからの絞り込みをする予定だったようですが、その前に球磨川が氾濫してしまったわけです。

ではなぜこの代替案10案がすんなり決まらなかったのでしょうか。
それは代替案のほうがダム案よりはるかにカネも時間もかかることが判ったからです。
川辺川ダムが中止に追い込まれたのは、総工費が、立ち退き費用などがかさんだために350億円から2650億円にはね上がったためだと、熊本県は説明しています。
http://kawabegawa.jp/zougaku/futanritsu.html
しかしこの代替10案の概算事業費額は、最大で1兆2千億円とダムを作るよりよほど膨大なうえに、工期に至っては最大で200年という、笑うに笑えないような超長期になるという見通しがでてしまったからです。
これでは決まるわけもないし、かといってダム原案に戻るのはダム反対で当選した知事のメンツがあってできない、多分そんなところです。

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蒲島知事

それについてダム反対の音頭をとったはずの蒲島知事はこう言っています。

「多額の資金が必要で、この12年間で実現できなかったことが非常に悔やまれる。気候変動は予測できず、ダムによらない治水策が未来永劫続く保証もない。次の世代が考えることもある』とも述べた」(7月6日付熊本日日新聞)

蒲島さん、遅いよ。ナニをいまさら。
ただ、彼がダムを斬った12年前から気象変動が加速化したのはほんとうです。
そして残ったのは、12年間鳩首協議してなにも決まらなかった無駄な時間と、大災害という冷厳な現実だったわけです。

ひとこと言っておくと、ダムの建設費用を単純に堤防などと較べるのは適当ではありません。
なぜなら、ダムは発電という利益を生産し続けるからです。
国交省によれば、川辺川ダムの年間可能発生電力量は約85,000MWHであり、 人吉・ 球磨郡の約60%に相当する電力量の供給が可能です。
川辺川ダムの概要 - 国土交通省
たぶん売電量だけで年間十数億円に達したのではないでしょうか。
ですから20年も運転すれば、建設費のかなりの部分は回収できてしまいます。
しかも法定償却年数は実に100年。その間黙々石油も原子力も使わずにカネを稼ぎだし、そのうえに治水の要となるという優れモノを、「コンクリートからひとへ」なんていうムードで斬られてたらたまったもんじゃありません。
ヒトを守るコンクリートをつくろうとしていたのですからね。

脱ダム運動はまだ地球全体の気候変動が明確に姿を現さない前世紀末に出来ました。
ところがそれから20年、気候変動は、日常的な大水・洪水という形で、私たちを襲い続けています。

関東学院大学名誉教授(河川工学)の宮村忠氏はこう述べています。

「今回の氾濫で『ダムがあれば』と考えた人は当時の反対派にも少なくないのではないか。問題は記録的な豪雨だけでなく、豪雨に備える体制にもあった。人吉周辺は以前は人も少なく、ある程度の氾濫を受け入れて立ち上がることができた。しかし、現在は、交通インフラも整い、施設も増え、氾濫を受け入れる選択肢はない。だとすれば、ダムによる治水が必要だった。それぞれの時代に合った技術を適用すべきだということだ」(7月6日ZAKZAK)

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https://livecam.asia/kumamoto/mizukami/ichifusa-dam-kouzuibaki.html

今回も球磨川上流の市房ダムが満水状態となるまで支えたこともわかってきました。
川辺川ダムが存在していれば、状況はまったく違っていたはずです。

「4日に起きた熊本県・球磨川流域の水害で、上流の市房ダム(水上村)は事前の放流で降雨103ミリ分に相当する容量を確保したが、
実際には1日で約420ミリ降り、4日午前11時ごろには緊急放流まで約10センチに迫る水位280・6メートルのほぼ満水状態だったことが、角哲也京都大教授(水工水理学)らの分析で8日分かった。 国土交通省などのデータからダムの操作を分析した。
下流への流出量を最大で毎秒560トン分減らしたが、本流に匹敵する規模の支流・川辺川にはダムがなく、合流する人吉市付近やその下流域で水があふれたという」(東京7月9日)

また民主党政権で工事が中断された群馬県八ッ場(やんば)ダムは、工事を再開し、試験貯水中だった昨年10月の台風19号で治水効果を発揮しました。
ダムについてかつてなされたマイナスの議論、たとえば大規模建設による環境破壊、水質・水温の変化、土砂の堆積、生態系の変化などは、もう一回治水という巨大なベネフィット(利益)と比較衡量される時期に入ったと思います。

これは建設予定地の自治体だけではなく、政府が本腰を入れて考えるべきテーマではないでしょうか。

 

2020年7月10日 (金)

「先制攻撃」について考える

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イージス・アショアの撤退が決まってから、その対案として敵基地攻撃問題が浮上したようです。
私は何回か書いているとおり、イージス・アショアの代替案として敵基地攻撃能力を考えることには反対です。
だって別次元の問題ですからね、このふたつ。

イージス・アショアは現在存在するミサイル防衛(MD)の中でもっとも合理的なものです。
これについては小野寺五典防衛大臣がこう答えています。

「相手国がミサイル攻撃をする時、防衛するのが最も易しいのは発射する前か発射した直後のブーストフェーズ です。目的が把握しやすいですし、スピードも遅いですから。一方、防衛するのがいちばん難しいのは落下してくるターミナルフェーズ。速度が非常に速い。
次に難しいのはミッドコース。弾道の最も高いところです。 
なので、発射する前、発射した直後に打ち落とすのが最も好ましいわけです」(日経ビジネス『ロシアのクリミア併合から戦い方が変わった』
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/082800235/111400011/?P=2

ごもっともな意見です。ミッドコースとかターミナルフェーズとかなんのこっちゃと思われるでしょうから、図でみてみましょう。

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上図で中間段階というのがミッドコースで、終末段階がターミナルフェーズです。
日本語で言えよなと思いますが、なにぶんシステムが全部丸ごとメイドインUSAのものなんで。
イージス・アショアはこの一番高く上がっている弾道の頂点を目標にしています。
なぜなら、弾道ミサイルは弾道の頂点から一目散に落下してくる終末段階が一番加速されているために速いからです。

イージス・アショアはもっともハズしにくい時を狙って撃ちますから、落とせる確率が飛躍的に高いのです。
しかしそれでも、今回撤回賛成論者が指摘しているように、昨今北朝鮮は落下してくるときに微妙に機動をスライドさせるという小憎らしい小業を使うものを開発してきました。
すると、弾道軌道で落下すると思って迎撃予定点に向けて撃ってもスルリと逃げられてしまうかもしれない、だからイージスアショアなんか時代遅れさ、というわけです。
それは確かに一理ありますが、全部が全部このタイプに切り替わるわけでもあるまいし、たかだか一回実験しただけのことでここまで長い時間をかけて積み上げてきたイージス・アショア計画全部を御破算にするのはいかがなものかと思います。

いきなり全部を白紙撤回するという乱暴なことを河野さんがしたので、とりあえずはイージス艦を2隻増やそうとか、いや足りない人員は地上警備部分は陸自にやらせようとか、おいおいな対案もでているようです。
なにを考えているのか。イージス艦は船です(当たり前だ)。
それを日本海の一定海域に常に3隻プカプカ浮かべておくなんて、なんともったいない使い方。
しかも米国以外はほとんど保有していない最新鋭艦を、プカプカ浮かべておいてどうするんですか。
海自はそのために艦艇のやりくりや人員で大きな負担を強いられているのです。
海自はそれでなくてもスマホが使えない、洋上勤務が長くてデートもできないというので志願者が激減しているのに、なんつう無駄なことを。

そこででてくるのが、敵地攻撃能力を獲得しろという議論です。
前もってお断りしておきますが、私は自衛隊が敵地攻撃能力を持つことには賛成です。
ただ、イージス・アショアの代替案にするな、と言っているだけのことです。

敵地攻撃で発射準備に入っている敵ミサイルを撃破しようというのは一見分かりやすいようですが、現実的ではありません。
だって、一体どれだけ潰さねばならないと思っているんでしょうか。
日本に照準していると思われるノドンなどを、北朝鮮はおおよそ500発保有していると思われます。
これらがどこに配備されているのかわかりません。
自衛隊は衛星情報からおおよその場所については当たりをつけてはいるとは思いますが、大部分が深い山中の洞窟というもっとも手ごわい場所に貯蔵してあるはずです。

しかも個体燃料で発射するために、移動式発射台から打ち上げるまで短時間しか余裕がありません。
短時間に場所を特定し、攻撃部隊を出すのは不可能です。
そしてよしんばそれに成功しても、残存したミサイルの第2撃を考えねばなりません。
元海将の香田洋二氏はこう述べています。

「虎と戦うならば、食い尽くさなければなりません」。虎に余力を残せば、手傷を負った虎は死に物狂いで反撃(第2撃)を仕掛けてきます。その際は、もともと日本向けではなかった弾道ミサイルを日本向けに転換使用する可能性もあります。
その場合、攻撃を受けた北朝鮮の反撃は、必ず核弾頭を搭載したミサイルとなるでしょう。それがたった1発でも、迎撃できなければ日本の大都市で数百万規模の犠牲者が生じるのです」(日経ビジネス6月30日)
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/062900180/

敵地攻撃能力を議論することは有益ですし、まったく反対する気はありませんが、イージスアショアの代替としてかんがえるのはあまりに非現実的です。

さて敵地攻撃能力が現実問題として議論され始めると、やはりでてくるのが9条の守護神・朝日です。
朝日はこう書いています。

「敵基地攻撃能力』高い壁 陸上イージス断念で衆院委議論へ
どういう状況を『敵が武力攻撃に着手した』とするのか明確に定義するのは難しい。日本に対する武力攻撃が着手されていない状況で行えば、国際法で認められていない『先制攻撃』にもなりかねない」(7月6日朝日)

朝日は知っていて混同しているのか、ただの無知なのかわかりませんが、「先制攻撃」という言葉を漠然と使っています。
まるで日本がまた真珠湾作戦をもう一回やるみたいな書き方ですが、そんなこと今の日本にできるわきゃありません。
武力攻撃をまったく受けていないのに、先制攻撃をすることは国際法上認められていません。
ですから「先制攻撃」はこのように定義されています。

「自衛を名目としているが、武力攻撃がまだ発生していないので、国際法で認められない武力の行使」

可能なのは、国連憲章第51条にある「自衛権の行使の要件」を満たした場合です。

「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」

この安保理の決議というのがクセモノで、ご承知のように今の安保理は使い物になりません。
世界の三大紛争国である米露中が安保理で拒否権を行使して、自分の国が関わることには全部ノーだからです。

ただし、武力攻撃が差し迫っていれば、自衛権の行使として先制攻撃も国際法で認められるます。
朝日がいう「国際法上みとめられていない先制攻撃」というのは、予防(preventive)戦争のことです。
これはこのように定義されています。

「武力攻撃の脅威が現在ないのに、将来発生するおそれを理由に行われる。仮想敵国との力関係がいずれ不利になると考えた政権が、不利な条件で戦うことになることを防止する目的で、領土割譲などの講和条件を相手に強制できる見込みがあるうちに始める戦争である」
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

こういう極端な例を出して「国際法で認められていない」と書くのが朝日の狡猾なところです。
では国際法上認められている先制攻撃はどのようなものでしょうか。
これには三つあります。

一つ目は消極的攻撃論で、日本政府の公式見解です。
やられると分かっている、いわば相手が銃を向けて引き金に手をかけたという場合に自衛手段として先制攻撃することです。

1)世界各国政府の多数説は、国連憲章第51条「武力攻撃が発生した場合」を文字通り、武力攻撃への着手を確認後(損害の発生より前の時点でもよい)と解釈する、消極説である。
日本政府は自衛権の行使が可能になる時点について、1970年にこの定義を採用した。
「武力攻撃による現実の侵害があってから後ではない。武力攻撃が始まった時である。(略)始まったときがいつであるかというのは、諸般の事情による認定の問題になるわけです」(高辻正己内閣法制局長官、昭和45年3月18日、衆議院予算委員会)」(西前掲)

敵が明らかに攻撃の準備をしたことをもって先制攻撃を可能にするというかんがえ方です。
たとえば、弾道ミサイルを発射台に立てて燃料を注入しようとしている場合などを政府は上げています。

下の写真はムスダンの発射のものですが、これだとすぐに監視衛星に熱感知されてしまいます。
また液体燃料は長期間充填したままにすると酸化して使い物にならなくなるために、発射直前に充填せねばなりませんから、早くから察知が可能です。
そりゃそうでしょう。ジッと発射台で座り込んでいたら、いい目標です。
こんなことをじっくりやっていたら、本番では一瞬で爆撃されます。

というわけで一見轟音をたてて打ち上げられる弾道ミサイルは威勢はいいのですが、じっさいにはいい標的にしかなりません。
ですからこのようなものばかりなら、ある意味怖くはありません。

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また中国が尖閣湖侵略のために海軍艦艇を周辺海域に終結させたり、空軍基地に航空機を終結させていることが明らかである場合にも、「先制攻撃」が可能であると解釈することもできます。
先ほどの真珠湾作戦のたとえでいえば、ただ米国太平洋艦隊がそこにいるというだけでは不十分で、それが日本攻撃の意志を持って準備していることが明らかでなければなりません。

今の日本の場合、実際は急迫性を国際的にアピールするために、「一発目は相手に撃たせる」可能性が高いでしょうが、いずれにしてもこのような条件下では先制攻撃の権利を行使しても国際法上問題がありません。
ただ、このような図式にはまってくれるかどうかは未知数です。

二つ目は積極的自衛です。

「2)先制(anticipatory)自衛は、「武力攻撃が発生した場合」を積極的に解釈する。軍事的反撃の必要性(重大な自衛の必要が差し迫っており、平和的手段を選ぶ余地も熟慮の時間もないこと)、均衡性(反撃が相手の攻撃と釣り合うこと)、即時性(反撃が即座のものであること)を要件としている」(西前掲)

これは第二次世界大戦におけるドイツの戦争犯罪を裁いたニュルンベルク裁判で、国際慣習法として確認されています。
米英はこの立場をとっています。
またまた真珠湾作戦を例に取れば、日本は米国との戦争を「平和的手段を選ぶ時間的余裕がない」と判断したわけですから、あながちこの法理論で武装できないことはなかったかもしれません。
それを封じるために、米国はリメンバーパールハーバーだとかスネークアタックとか言って米国民を煽ったのです。
なお、私は真珠湾作戦はやるべきではなかったと思ってますので、念のため。

三つ目は、脅威の急迫性です。

「3)先制的(preemptive)自衛は、必要性の原則の一部をなす、武力攻撃の脅威の急迫性(どれだけ差し迫っているか)の要件を、2002年に米国が緩和したもので、いわゆるブッシュ・ドクトリンの主な要素の一つである。同年の米国家安全保障戦略は、この立場を次のとおり説いた。
「脅威が大きいほど、行動しないことのリスクは大きく、敵の攻撃の時と場所が確実にわかっていなくても、自衛のため予測に基づく(anticipatory)行動をとることの説得力が強い。大量破壊兵器によるテロ攻撃よりも大きな脅威はほとんどない。そうした敵の行為を回避(forestall)または予防(prevent)するため必要な場合、米国は先制的(preemptively)に行動して固有の自衛権を行使する」(西前掲)

この見解は、オバマを経て今のトランプまで引き継がれている米国の公式の立場です。
英国はテロ組織に対してはこの解釈を認めています。

このように国際社会では、一定の条件をつけて先制攻撃を認めています。
朝日が言うように、なにもかも国際法で認められていないと解釈すると、日本は核ミサイルの一発目を受けて数十万人が死ぬまで指をくわえて見ていろ、ということになりかねません。
とまれいわゆる専守防衛論は、いきなり本土決戦となって国民が多く死んでやっと自衛権が成立する、という恐怖の論理です。
一見平和的なようですが、実はこの論理に従うと、国民がいくら死んでもかまわない恐ろしいロジックなのです。

 

 

2020年7月 9日 (木)

日本のウルトラパンダハガー 二階と小澤

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七夕の日、自民党政調審議会はやっと習国賓来日中止決議を了承したそうです。

「自民党は7日、中国による香港国家安全維持法の制定を受け、習近平国家主席の国賓来日を中止するよう日本政府に求める対中非難決議を決定した。政府内でも習氏の来日に慎重論が高まり、年内の実現は困難との見方が強まった。
 自民党外交部会などの決議は、国安法制定を受けて「部会として訪日中止を要請せざるを得ない」と指摘した。当初案では「中止を要請する」としていたが、党内の異論を踏まえて表現を弱めた。自民党外交部会の中山
 親中派として知られる二階俊博幹事長は記者会見で「日中問題に関わった先人の苦労を思えば、慎重の上にも慎重に対応すべきだ」と決議に不快感を示した。茂木敏充外相は記者会見で習氏来日について「具体的な日程調整をする段階にはない」と述べた。泰秀部会長が近く菅義偉官房長官に提出する」(東京7月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/40760

東京によれば「年内は困難」だそうですが、この新聞の希望的観測にすぎません。
なぜなら、外交部会の決議は香港国安法の施行を理由としている以上、中国が改心して、悪うございました、香港市民様。白紙撤回させていただきます、とでも言わないかぎり状況に変化がないからです。

自民党は外交、農業、安全保障など14もの部会があり、その結論を集約して政務調査会に上げ、政府に回されます。
つまりいったん部会で決定すれば、これが変更されることはほぼありえません。
このような民主的なシステムは自民党が腐っても鯛でいられる底力です。
ちなみに日頃なんの勉強もしない野党にはこんな部会すらありませんから、週刊誌片手のスキャンダル探ししかやることがなくなります。

と、ここまでは褒めておきますが、なぜか原案が修正されています。

・原案・・・「中止を要請する」
            「自民党は」
・修正案・・・「中止を要請せざるをえない
              「党外交部会・外交調査会として」

骨抜きになったとまではいいませんが、原案が「自民党は中止を要請する」から、「自民党外交部会は中止を要請せざるを得ない」に書き換えられたわけで、トーンダウンしたことは否めません。
これではまるで自民党としては国賓来日を継続したいが、外交部会がうるさいことを言っていてね、という意味になります。

なぜでしょうか、二階派がゴネたのです。
外交部会で、二階派5人が原案の撤回・修正を求めたのですが、13対5で却下されました。
日韓議員連盟幹事長で、去年さんざん韓国絡みで恥さらしな言動をした二階派の河村建夫議員はこんなことを言ったそうです。

「日中関係を築いてきた先人の努力を水泡に帰すつもりか」(産経7月8日)

はて、「先人の努力」ですか。美しい言い方を。
それは角栄が井戸を堀り当て、田中派の金城湯池のカネのなる樹だった中国金脈のことを指すのでしょうか。
外交部会がこんなものを蹴飛ばして、決議に持ち込んだとは評価に値します。
と、いいたいところですが、なぜか修正に応じてしまって、しまらないものになったのが残念です。
自民党はボス猿がお怒りになると、多数決原則ですら曲げられという前近代性があることもバレてしまいました。やれやれです。

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日経

もちろん、この背景に中国様の激怒があったことは想像に難くありません。
二階という怪しげな政治家が政権で大アグラをかいていられるのは、彼の個人的能力ではなく、中国という超大国がバックにいるからです。
中華帝国は二階を冊封体制下での「国王」と認定しているからで、王は超大国の権威とパワーを背景に支配権を得ることができました。
いわば中国という宗主国による間接統治です。

では、安倍氏の存在はどう反映しているのでしょうか。
安倍氏の自民党内のポジションはいわば「会長」職です。
会長は「株式会社自民党」を人格的に代表しますが、直接の党運営のガバナンスは「社長」の幹事長に一任しています。
多くの大会社の会長がそうであるように、安倍氏は政府という経団連のような場所に出向している人にすぎないともいえます。

安倍氏自身は個人的には中国に対して塩辛い意見をもっており、彼の外交政策は米国と協力して中国包囲網の形成をめざしています。
しかしそれと同時に、安倍氏は実利的な対中関係改善の流れを使い分けています。
ですから親中・反中のどちらから見ても味方に見える、という奇妙なスタンスを取り続けてきました。

そのために安倍政権は中国に対抗する外交政策をとる一方で、中国と緊張緩和するために習を国賓訪日させるという分裂的という批判すら受けかねないことを政治日程に乗せていました。
安倍氏がこの「現実主義外交」の中国担当をやらしていたのが、二階「社長」です。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/2019042...


第2次安倍政権は、第1次と違って大変に現実主義的な政権ですが、改憲ひとつとっても強硬に突破するのではなく、だましだまし刺を抜いていく処方を選択しています。
やりようによっては政権が倒れかねない改憲の正面突破はひとまず置いて、第9条の大きな制約だった集団的自衛権の容認や専守防衛の見直しから外堀を埋めていくことに精力を傾けました。
このようなまだるっこい方法をとっているのは、ひとえに中国からの圧力を最大限やり過ごしたいためです。
国内世論だけならば、寸頓狂な野党と、日々古紙を量産しているメディアだけが相手であり、過半数の国民はとうに改憲に納得しているのです。
ですから最大の改憲反対派はむしろ中国であり、中国経済に深入りしすぎた日本財界です。
この二大勢力の手代が二階であって、彼にとって国賓招待こそ政治人生の最後を飾るにふさわしいレガシー作りだと信じて疑いませんでした。

書いていて、かつて二階以上に身も世もないパンダハガーがいたことを思い出しました。
小澤一郎です。
数ある利権の中で、最大規模、かつ深い闇に包まれていたのが中国ODA利権でした。
この中国利権は伝統的に、田中角栄が「井戸を掘った」(中国側の表現)ことにより、旧田中派が一元的に握ってきました。
田中-金丸-橋本と連綿と続く中国ODAの利権のやり口を、田中の愛弟子、金丸の腰巾着としてもっとも知悉していたのは、他でもない直系本流の小澤一郎 でした。

この男が政権を奪取するやまずやったことは民主党の現職議員160人による北京詣と、当時まだ国家首席になる直前の習を天皇陛下に無理矢理面会させたことでした。

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下の写真を見ると、右端の胡は惜しいことに消えてしまっていますが、もう嬉しさ一杯で笑み崩れている小澤チルドレン諸君が写っています。

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滑稽を通り越してなにやらもの哀しくなってくるような光景ですが、一国の与党がここまで自尊心と羞恥心を捨てて堕ちるのはなかなか難しいことです。 
この北京詣を小澤は「長城計画」と名付けていたそうですが、長城とは中国を夷狄から守るためのもの、ならば彼は何を何から護ろうとしていたのでしょうか。
ですから、この国内では傲慢そのものの小澤が日本ではゼッタイに見せない追従笑いを浮かべて、揉み手をせんばかりにして「(人民解放軍)野戦軍司令官として頑張っています」などと殊勝なことを、胡に伝えたようてす。
「野戦軍」という呼称は方面軍をのことですが、その統帥権者は中国共産党軍事委員会主席たる胡です。
つまりは、「胡総司令官様。私、小澤一郎めは、あなた様の部下でございます。よしなにお使いくださいませませ」ということです。
ついでにこの男は「解放の戦いはこれからです」なんて言っているのですから、よく日本がこの民主党政権時に「解放」されずに済んだな、とすら思います。


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 おそらく胡は、「日本の議員なんぞ、皇帝に使える奴婢のようなもの。写真一枚で大喜びする。手応えひとつない卑屈な奴らだ」と内心思ったことでしょう。 
ちなみにこの民主党議員ご一行様の「修学旅行」に立ち会った中国政府の下級官僚から、「オザワは胡錦濤主席にじゃれつく子犬」とまで言われたそうで、このような奴婢外交をすれば皇帝からどう見られるのかが判ろうというものです。

とまれ、この日中の戦後最大のイベントとなったであろう国賓招待が、中国の新型コロナと香港国安法という二大失策で自滅したのは慶賀の至りでした。

 

 

2020年7月 8日 (水)

球磨川水害は充分に予想されていたはずだ

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熊本県と大分県で大きな災害が発生しています。
亡くなられました方々、また被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。
人吉は私の母の故郷で、母方の先祖の墓地もある地域なので、胸が痛みます。

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毎日

状況は現在も進行しており、なにか結論めいたことを書くには早いとおもわれますが、現時点でとお断りして進めていきます。
まずもっとも被害がひどかった人吉を中心とする熊本南部の降水量です。

「7月3日(金)0時から4日(土)24時にかけての3時間、6時間、12時間、24時間、48時間の各雨量および土壌雨量指数(土砂災害危険度を表す指標)の最大値を図1に示します。球磨川流域を含む熊本県南部では、6時間雨量最大値で200~500ミリ、12時間雨量で300~600ミリの雨量、24時間雨量で400~600ミリ超となりました」(日本気象協会7月6日)
https://www.jwa.or.jp/news/2020/07/10378/


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上図は、7月3日(金)0時~7月4日(土)24時の各指標最大値(国土交通省解析雨量より作成)で、緑色の線で囲った範囲が球磨川流域、太い青線が球磨川です。
この球磨川流域に降った雨は、過去の最大値を100とした場合、150%となります。

「また、これまでの観測データの既往最大値(過去の最大値)を100%として、今回の各時間雨量最大値との比較を行ったところ、ほとんどの降雨継続時間の雨量で既往最大を超過する100%以上の範囲が球磨川流域と重なることがわかりました(図2)。とりわけ、6時間雨量や12時間雨量では、既往最大比が150%以上となっている領域が見られ、記録的な雨量であったことがわかります」(日本気象協会前掲)

この降雨量のすさまじさは、人吉市など球磨川の流域を中心に実に400~500mm近い72時間降水量が記録されている事でもわかります.
体験的に100㎜を超える降雨があった場合、屋外で活動することは困難となりますので、400~500㎜という数字がいかに巨大なものだったのかご想像下さい。
またもうひとつの特徴として、大きな降水量が見られた範囲(上図赤色)は比較的狭く、周辺の熊本県北部、大分県、鹿児島県南部などでは72時間降水量が200mm以下、ところによっては100mm以下のところも見られます。上図の黄色部分です。

「今回の雨は,3日昼前から4日昼前までのほぼ24時間,特に雨が強かったのは3日夜遅くから4日朝までの12時間程度だったようです」
( 牛山素行 | 静岡大学防災総合センター教授)
https://news.yahoo.co.jp/byline/ushiyamamotoyuki/20200705-00186715/ 

つまり、12時間という短時間に人吉を中心とする球磨川流域に、今までの最大値を5割も超える膨大な雨が降ったということになります。
その結果、球磨川流域は各所で決壊しました。

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200704/k1001249

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「浸水は球磨川周辺の比較的標高の低い地域に集中し、浸水が最も深かったのは、熊本県球磨村の渡(わたり)地区のうち畑や森林が広がる場所で、深さは8メートルから9メートルほどに達しているとみられるということです。
JR人吉駅周辺にも浸水が広がっていて、深さも1メートルから2メートルほどに達しているとみられます」(NHK7月7日)

上図のハザードマップを見ると球磨川の屈曲点に決壊箇所が現れており、このような箇所から氾濫を起こすことは充分に想定可能だったはずです。
というのは、今まで日本の各地を襲った大規模水害はことごとくこのような川の屈曲点で起きているからです。
たとえば2019年に起きた千曲川水害を見てみましょう。

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上の地図を見ていただくとわかるように山岳地帯に源流をもつ千曲川と犀川は長野市で合流し、信濃川と名前を変え日本海まで流れています。
2019年に起きた千曲川水害において決壊が発生した長野市穂保(ほやす)は、犀川との合流地点近くの屈曲して狭くなっている手前の場所で、河川事務所が洪水の危険性がある場所として警戒をしていた地点でした。
この穂保には電柱に、「5・0メートル以上想定浸水深 この場所は千曲川が氾濫すると最大10・0メートル浸水する可能性があります」と書かれたプレートがつけられているほど、かつて何回も洪水を起こした地点として知られていました。

千曲川水害では、この地点に記録的大雨が降り、この大量の水の運動エネルギーは千曲川屈曲部を経て犀川との合流点に向かいました。

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「今回は千曲川の上流域に当たる、東信で記録的な大雨になりました。13日(日)9時までの48時間雨量は北相木で411.5mm、佐久で311.5mm、鹿教湯で327.5mmなどいずれも観測史上1位の記録を更新、軽井沢の332.5mmも10月としては1位の記録です」(ウェザーニュース10月13日)
https://article.auone.jp/detail/1/2/2/150_2_r_20191013_1570937583887204

上図をみると300㎜を示す紫色の丸が、千曲川屈曲部右岸周辺にに集中しているのがお判りになると思います。
千曲川の特徴は、屈曲と盆地が連続することで、特に今回洪水を引き起こした穂保周辺は大きく曲がって犀川と座右流するすぐ手前に当たっています。
このような二つの河川が合流する地点は、バックウォーター(背水)現象の起きる特徴的地形です。
かつての倉敷市真備の洪水でも典型的なバックウォーター現象が起きています。

2018年の倉敷真備水害でも支流が本流に合流する屈曲点から決壊しています。

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真備水害概念図

千曲川と犀川の合流点においても似た現象が起きたと推定されます。

①記録的大雨で両河川の水位が著しく上昇。
②犀川に対して比較水量が少ない千曲川は、犀川の水量が多いために合流を阻まれて流れにくくなる。
③合流を阻まれたために千曲川が滞留し水位が更に上昇する。
④水が堤防を越水し決壊する。

今回も球磨川にも多くの支流が流れ込んでおり、特に大きな支流である川辺川は人吉の手前で合流しています。

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さて、川辺川ダムが民主党政権によって中止されたことはよくとりあげられていますが、現時点でこの災害とダムの因果関係は専門家の調査を待たないとわかりません。
この川辺川ダム反対運動の主役のひとりだった朝日はのどかにこんなことを書いていました。

「川辺川ダム中止表明10年 明るい兆し、残る不安ー
 川辺川ダム計画に蒲島郁夫県知事が「白紙撤回」を表明してから、11日で10年となった。清流が残された熊本県五木村では豊かな自然環境にひかれて観光客が増えるなど明るい兆しもあるが、水没予定地からの移転を機に多くの住民が村外に出て、残った住民は将来に不安を募らせる。ダムに代わる流域の治水対策の策定も難航する中、ダム建設計画復活があるのではないかと懸念する声もある」(朝日2018年9月15日)
https://digital.asahi.com/articles/ASL9F00YVL9DTLVB00P.html?iref=pc_ss_date

ここで朝日が「残る不安」と言っているのは、今回のような多数の死者を出す激甚災害が起きる「不安」ではなく、「建設計画の復活」のことのようです(笑)。
ぜひ朝日におかれましたは、今回の大災害の後も、同じことを書き続けていただきたいと思います。

一方、熊本県首長はこう述べています。

「熊本県南豪雨による球磨川の氾濫を受け、蒲島郁夫知事は5日、報道陣の取材に応じ、球磨川支流の川辺川ダム建設計画に反対を表明した過去の対応について「反対は民意を反映した。私が知事の間は計画の復活はない。改めてダムによらない治水策を極限まで追求する」と述べ、従来の姿勢を維持する考えを示した。
 蒲島知事は2008年9月、治水目的を含んだ川辺川ダム計画に反対を表明。翌年の前原誠司国土交通相(当時)による計画中止表明につながった。国と県、流域12市町村はその後、ダムによらない球磨川治水策を協議。河道掘削や堤防かさ上げ、遊水地の設置などを組み合わせた10案からダム代替案を絞り込む協議を本格化させる予定だった」(熊本日々新聞7月6日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/12b54692c4fa2aa2ab75ef2ae92e3e056e9a7fc8

なんと県知事は「民意」で決まったことだからダム計画は見直さない、考慮にも値しないというご意見のようです。

災害県の首長をとやかく言うのはいかがなものかと思いましたが、正直呆れました。
「ダムによらない治水」を言うのは簡単ですが、ならば民主党政権が中止に追い込んだ川辺川ダムに代わる代替案を出す責務が首長にはあります。
蒲島知事が反対を掲げて、当時の前原建設相と中止に追い込んだのは2008年、なんとすでに12年もたっています。
この12年間、蒲島氏は一体なにをしていたのでしょうか。

蒲島知事が代案はどうやら川の底を深く掘る河川掘削と堤防の嵩上げのようですが、この人が全国で頻繁に起きた水害を少しでも研究したかはなはだ疑わしくなります。
倉敷真備川の時もそうでしたが、反対運動の主力となった共産党の川辺川ダム反対の時の代案も河道の掘削でした。
この共産党の反対論は、水利の常識に反しています。
共産党の言い分は、ただ河道を深くするだけということで済ませようとしているわけですが、これでは水量がかえって増してしまい、川辺川の水の運動エネルギーはそのままの勢いで球磨川に突入してしまうことになるからです。 
つまり、共産党案はかえって水害をひどくする愚案にすぎないのです。

かさ上げも、このような前代未聞の大雨が恒常化する場合には役に立ちません。
いったんバックウォーター現象を起こして一箇所から決壊すれば、その地域全体の堤防が連鎖反応を起こしたヨウニなります。
バックウォーターを防止すると言われるフロンティア堤防にするのは有効だとおもいますが、技術的に確立しているとは言えないというのが国交省の見解です。
私はダムかフロンティア堤防かという二者択一ではなく、川上の点をダムで守り、川下の危険地域の線をフロンティア堤防で守るのがベストのようなきがします。

老婆心ながら蒲島さん、川辺川ダム計画はペンディングなのですから、それを含めてトータルに再考されたほうがよいと思うのですが、いかがでしょうか。
これだけの生命を奪う大水害が起きてなお、ダムなど一顧だに値しない、これが「民意」だというあなたの姿は非常に見苦しい。

 

 

2020年7月 7日 (火)

香港 静かな抵抗が始まる

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香港に対する国安法の施行によって民主活動家の海外脱出がすこしずつ伝えられるようになってきました。

「14年に起きた民主化デモ『雨傘運動』を主導した民主活動家、羅冠聡(らかんそう)氏(26)は2日深夜、SNSに『深刻な身の危険を感じている』と投稿し、既に海外に脱出したことを明らかにした。1日に米下院外交委員会の公聴会にオンラインで出席、中国の習近平指導部を批判し、『光復香港 時代革命!』と叫んだばかりだった。
羅氏の行為は、国安法が刑罰の対象とする『中央政府転覆』や『外国勢力との結託』に問われる恐れが浮上していた。羅氏は脱出先を明かしていないが、国際社会を舞台に活動を続ける意向を示した。在香港英総領事館の現地職員だった鄭文傑(ていぶんけつ)氏も1日、英国に政治亡命が認められたことを明かすなど、民主活動家らの海外脱出が続いている」(7月4日毎日)

「民主化運動の女神」と呼ばれてきた周庭(アグネス・チョウ)さんも6月30日、「生きてさえいれば希望はある」というツイートを最後に民主化団体「デモシスト(香港衆志)」の解散を表明し、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏も共に記者会見に立っています。
おそらく、水面下では多くの民主化運動の若者たちがさまざまな経路で、脱出を試みていると思われます。

このような国外脱出の動きに対して早くも中国当局は規制を開始し始めました。

「また捜査対象者に当局がパスポートの提出を命じるなど、移動の自由を制限する措置も盛り込まれた。罰則も設けられ、当局に虚偽の資料を提出すれば、10万香港ドル(約140万円)以下の罰金と2年以下の禁錮刑を科すとしている」(朝日7月6日)

また、令状なし捜査の適用を開始しました。

「香港政府は6日、反体制活動を取り締まる香港国家安全維持法(国安法)に基づく政策策定の司令塔となる国家安全維持委員会の初会合を開き、捜査手続きを定めた施行規則を決定した。緊急時などの「特殊な状況下」では、警察官に捜査令状なしでの立ち入りや証拠収集活動を認めるなど、捜査機関に強い権限を与える内容だ。7日から適用される」(朝日前掲)

つまり、今後香港において今のような「特殊な状況下」では、公安がパスポート提出を求めて本人確認をするということになりました。
これは当局が自由由に令状なしで恣意的な捜査・逮捕が可能都なり、かつその場でパスポート提出を要求し、偽造したものだったりした場合、即刻拘束すると二なります。
これは民主主義の重要な要件の一つである「移動の自由」を制限したもので、事実上の戒厳令下に置くことを意味します。

さて素朴な質問ですが、ここでなぜ香港民主派は国外に脱出せねばならないのかもう一回考えておきます。
国安法に対して、いやあんなものは日本にもあると言い切った阿呆がいたので念のため。
国安法の核心は第23条です。

●国安法第23条
他人がこの法律第二十二条の罪を犯すように扇動、幇助、教唆、又は金銭その他の財産をもって出資した場合も犯罪とし、懲役、拘留又は管制下に処する。悪質な場合は5年以上10年以下の懲役、状況が軽い場合は、5年以下の有期懲役、拘留または管制下に処する。

ここで中国当局は、「国家転覆」にかかわった者は「煽動・幇助・教唆」という概念で゙処罰すると言っています。ここが重要です。
煽動・幇助・教唆とは、国安法の対象は言論活動も含むということを意味します。
国安法に類似した法律に刑法第77条「内乱罪」があります、迂遠ですが、押えておきます。

●日本国刑法第77条
国の統治機構を破壊し,又はその領土において国権を排除して権力を行使し,その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は,内乱の罪とし,次の区別に従って処断する。
一首謀者は,死刑又は無期禁錮に処する。
② 外患誘致
(刑法)
第81条外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者

わかりますか、日本国刑法は「行使」「壊乱を目的とした暴動」だけを処罰対象にしているのであって、その「煽動・幇助・教唆 金銭的協力」はそもそも対象外なのです。
だから言論手段で革命を呼びかけても、言論の域を出ない限り罪には問われません。
犯罪教唆という概念はありますが、それは爆破や殺害などのテロ行為に対しての具体的指示の場合の話です。
一国民の言論活動や、ましてや学者が学説で反政府的なことを発言したくらいでは絶対に拘束されることはありえません。
そんなことでいちいちパクっていたら、日本の私立文系の先生たちはみんな牢獄行きです。
ここが自由主義国と中国の決定的違いです。

また政府批判の旗を持っていたくらいで逮捕・拘束されることはなどかんがえられもしません。
そんなもんで逮捕していたら、赤旗祭りなんて出来ません。

しかし香港ではすでに「香港独立」の旗を持っていただけで国安法逮捕第1号となっています。

「6月30日夜から施行された香港国安法がどのように運営されるかは、まだ見定められていない。少なくとも現在までには、「香港独立」や「光復香港 時代革命」といった言葉を掲げたり、所持していると香港独立派として国家分裂を画策している、あるいは香港の法的地域を変更している、あるいは国家政権の転覆をたくらんでいる、といった容疑で国安法を根拠に逮捕されることはわかっている。(略)
言葉だけを対象に、刑事犯として逮捕、起訴される法律は、言論の自由を基本的人権としてみとめている西側法治国家では目下、存在しない。言論の自由がなければ、被疑者に対する弁護士も被疑者弁護のために言論を駆使できず、メディア、ジャーナリズムも存在できず、文芸・芸術などの活動も行えなくなる」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.110 2020年7月6日)

では、どのていどの言論が国安法の処罰対象となるのでしょうか。
それがわかるのが、7月6日に起きた清華大の許章潤教授の拘束事件です。

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清華大教授・許章潤
https://www.epochtimes.jp/2019/04/41602.html

「中国指導部の政治路線を批判してきた北京の名門大学、清華大の許章潤(きょしょうじゅん)教授が2020年7月6日、公安当局に拘束された。許氏は2019年3月に大学から停職処分を受けるなど当局の圧力にさらされていた。「香港国家安全維持法」の施行によって、中国の言論統制に厳しい目が注がれる中、共産党への異論を許さない強権的な体質が改めて浮き彫りになった形だ。
許氏の友人の証言によると、6日朝、20人ほどの公安当局者が、北京市内にある許氏の家にやって来て、本人を連行した。許氏の友人によると、警察と名乗る男性が、大学の住宅で別居している許氏の妻に電話を掛け、許氏が同国南西部に位置する四川省(Sichuan)成都(Chengdu)で買春を持ちかけた疑いで逮捕されたと伝えたという。友人は、許氏に対する容疑は「ばかげており恥知らず」だと述べている。 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、許教授は自宅に踏み込んだ警官によって拘束され、同教授のコンピューターや文書なども押収された。北京のどの警察部門が許教授を拘束したかは不明。
中国外務省の趙立堅(ちょうりつけん)副報道局長は7月6日の定例記者会見で「提供できる情報はない」と述べるにとどめた。(略)
許氏は中国を代表する改革派の法学者。18年7月、インターネット上に論文を発表し、指導部が憲法を改正して国家主席の任期上限を撤廃したことを批判し、天安門事件の再評価を要求した。
その後に停職となっても言論活動を続け、今年2月に発表した文章では、新型コロナウイルスの対応を巡って、習近平国家主席への過度な権力集中が「組織的な秩序の喪失」を引き起こし、情報隠しや感染拡大の原因になったと指摘し、国民の監視や言論統制を批判した。
6月22日に新刊を米国の出版社から出版したばかりで、当初は香港で出版する計画もあったが、政治的な内容のために実現しなかったという。
 中国では、大学教員などの知識人が中国共産党の価値観と異なる発言をしたとして処分される事例が後を絶たない。最近も、新型ウイルス対策を巡って率直な意見をネット上につづった湖北省武漢市の女性作家、方方さんが個人攻撃を受け、方方さんを支持した大学教員が共産党籍剥奪の処分を受けた」(毎日7月6日)

逮捕された許教授が言ったことは、習が永世国家首席になろうとする憲法改正や、今回のコロナウィルス対応が過度な権力集中によって感染拡大の原因となったなどといった、私たちから見れば至って穏健な政府批判にすぎません。
許教授は国安法がいう内乱幇助をしたわけでもなんでもなく、言論統制について批判したにすぎないわけで、これで拘束するならほぼすべての民主派の言論は違法とみなされるでしょう。
しつこいようですが、こんなていどの言論で逮捕されるなら、朝日や毎日なと即刻死刑です。

すでに香港の図書館では民主派の本が撤去されました。

「香港01など香港紙によれば、香港公共図書館で、民主化運動関係が執筆したり編集したりした書籍が、閲覧棚から一斉に撤去されている。図書館のネット検索でも、こうした本の図書名は検索できなくなっているという。
少なくともオンラインで目下閲覧、検索不能となっている本は9冊。香港反送中運動参加者のバイブルと言われる陳雲・嶺南大学中文学部元教授助理の著書「香港城邦論」「香港城邦論2」ほか4冊と、香港自決派の政治団体デモシスト事務局の黄之鋒の著書「我不是英雄」「我不是細路:十八前后」、元公民党立法会議員の陳淑庄の「辺走辺喫辺抗争」などだ。
 この9冊は人気があるので、香港各地の図書館の中であわせて400冊以上、収蔵されていたという」
(福島前掲)

香港人はこのような圧政にしぶとく戦おうとしています。
さきほどの「香港独立」の旗も、実は「香港独立」の前に非常に小さい字で「不要」(いらない)と書いてあり、全体としては「香港独立(いらない 小声)」みたいなニュアンス」(福島前掲)だそうです(笑)。
私は好きだな、こういう抵抗。

小川和久氏は第2次天安門事件当時上海にいたそうですが、こんな光景にでくわしたそうです。

「このとき、上海市内のあちこちを上海国際問題研究所のC研究員の案内で歩き回っていた私は、おもしろいことに気づきました。大通りの交通を完全に遮断しているかに見えるバリケードでしたが、なんと、バリケードの両脇が、車一台が通り抜けられる幅だけ空けてあり、自転車を無造作に積んでバリケードの体裁を整えていたのです。そして、公安(警察)の車両が来ると、自転車をどけて通過させ、また自転車を積み上げることを繰り返していました。
私が、「それではバリケードの意味をなさないじゃないか」と言うと、バリケードの傍らで政治集会をしていた何人かが言いました。「上海人は頭を使うからケガをしないのです。北京の連中は頭を使わず、身体で勝負するから死ぬのです」。警察車両をフリーパスで通すのは、頭を使った上海流の「戦術」だと言いたいようでした」(小川和久 『NEWSを疑え!』第876号(2020年7月6日特別号)

上海も香港もしたたかに生きてきた商都です。
たとえばこんな思わず笑ってしまうような抵抗もあります。

「ほかにも「香港独立」の代わりに「香港独特」、「奪回香港」のかわりに「奪回香焦(バナナ)」と別の言葉に言い換えて、意味を込めるやり方などがある。
 香港市民が民主化の願いをポストイットに書いてはる、レノンウォールは国安法施行後、すべて撤去されたが、とあるカフェの中などには、のこっている。だが、その場合、ポストイットには何も書かれていない。これは「大事なものは目に見ない」というメッセージが込められている、とか。
中国、華人社会は長い歴史のいろんな王朝で言論弾圧、焚書が行われてきたが、庶民はそれに耐えながら、批判精神を込み入った暗喩、暗号などで周囲に伝えよう、後世に残そう、と工夫をこらしてきた」(福島前掲)

そして爆笑ものの抵抗は、中国国歌「義勇軍行進曲」のこのワンフレーズだけ歌うことだそうです。

「起来!不願做奴隷的人們!
(立ち上がれ! 奴隷になるのを望まぬ人々よ)」

香港はかんたんには北京の言うとおりにはなりません。
香港人は静かな抵抗で、この冬の時代を生き抜いていこうとしています。
ある者は国外へ脱出し、海外で運動を継続し、ある者は「香港独立」の願いを「香港香焦」と言い換えることで。
そして周庭のように獄中で。


 

2020年7月 6日 (月)

つまらなかった都知事選

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小池氏が再選だそうです。
まぁなんというのか、あまりに典型的なデキレースで、ゲソっとします。

選挙結果です。

●東京都知事選挙結果
▼小池百合子、無所属、現。当選。366万1371票。
▼宇都宮健児、無所属、新。84万4151票。
▼山本太郎、れいわ新選組、新。65万7277票。
▼小野泰輔、無所属、新。61万2530票。
▼桜井誠、諸派、新。17万8784票。
▼立花孝志、諸派、新。4万3912票。

やる前から結果はわかりすぎていて、私はせめて第2位に維新推薦の小野泰輔候補に来てほしかったのですが、4位でした。
組織票を持たず、知名度もない小野は、山本候補に伯仲している奮戦ぶりでした。
おそらくどーしようもない自民都連、いや自民党そのものに対する批判票の受け皿になったのでしょう。
自民がいまのような戦わずに負ける、初めから出来レースを組んでしまう、といったことを繰り返すなら、かならず自民の唯一右に位置する現実主義政党の維新が票を伸ばすということがわかりました。

宇都宮候補は票は伸ばしたといいますが、言っていることが万年一日の如き手垢の着いた左翼の寝言ですから、小池にかすり傷ひとつ負わせられませんでした。
野党は山本太郎に一本化できず、その理由は消費減税反対でまとまらなかったというのですから、ここで既に負けが決まったようなものです。
野党に勝つつもりがあるなら、せめて消費税凍結くらいは言わなければ負けるに決まっています。
といっても、仮に山本を野党統一候補にできたとしても合計で150万票ていどですから、それでも小池にダブルスコアで負けなんですがね。

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NHK

そもそも圧倒的に現職が強いのが自治体首長選挙です。
再選を狙う現職は、よほどのスキャンダルを起こさないかぎり、ほぼ9割で勝利するというのが常識です。
しかも女性現職は、山形県の吉村知事のようなその資質が疑われるような無能の人でも再選されています。

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今回も女性票を確実に小池が押えました。

「NHKの出口調査では、小池さんは、
▽男性の50%余り、
▽女性の60%台半ばから支持を集めました」(NHK 7月6日 グラフも同じ)

年齢別では

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30代、40代で維新(オレンジ)が宇都宮(青)山本(ピンク)より支持を集めています。
維新に票が流れるのは、政権与党の自民が対立候補すら立てず、安倍と小池とのツーショット写真をバラ撒くという愚行への批判票のようなきがします。
政党色を鮮明にした議会選挙では、自民が手堅く勝利しています。

一方、小池が率いる都民ファーストは低迷しました。

「選挙戦の最中にNHKが公表した都民向けの政党支持率でも、都民ファーストの会はわずか0.2%と、NHKから国民を守る党と並んで最下位に沈んでおり、都知事選で圧勝した小池氏とあまりの落差が浮き彫りになった形だ」(アゴラ7月6日)

さて、小池は信任されたと言うでしょうが、その都政はお世辞にも褒められたものではありませんでした。
ともかく公約は言い散らすだけ、はなから守る気はないのですから。

今回、小池を勝たせたのは、誰もが同じことを言うでしょうが、二階が小池を熱烈支持したからです。
二階は自民独自候補がいないとか言っているようですが、そんなことはただの言い訳。
そもそも真面目に探そうともしていません。
選挙が1年先の時点で「小池支持表明」なんですから、なんともかとも。

1年前の時点では、都議会自民は小池に対立候補を立てる気満々で、小池の「築地跡地」の活用法が公約違反であるとして激しく迫っていた時のことでした。
それを都連が小池都政の汚点である豊洲移転で真っ向から噛みついている真っ最中に、他でもない中央の大ボスがそれを裏切るのですからまったく話にもなりません。
どこの世界に前線が戦っているときに、背後から味方を殴りつける大将がいるのですか。

小池は、都知事に就任後、あろうことか共産党とつるんで移転阻止運動を始め、公約として「築地において市場機能を維持する」としながら、現実には築地についての再開発方針には市場機能維持」などの文言は消えています。
そりゃそうだ。あれほど執拗に移設に反対し、開場を伸びに伸ばしたくせに、いったん移設すれば老朽化が激しかった築地より豊洲のほうが、はるかに衛生的で近代的だったからです。

この都知事が旗ふりをした移設阻止闘争でオリンピック道路もできず、IOC相手の開場変更も全部失敗。
結果的には、五輪延期で救われる、というなんちゃってジャンヌぶりでした。
こういう支離滅裂ぶりを都議会で追及されるとこの人は、元キャスターらしくお得意の言葉で逃げます。
いわく「方針を変えたわけではない」、「築地ブランドを支えてきた食文化を生かすという意味で述べた」などと意味不明な言い訳に終始しています。

また、小池はかつての都知事選挙では、自民党員でありながら自民党と自民党都連を悪玉にしました。
その時に吐いた台詞が、「自民党が主導してきた都政」「ブラックボックス」といった、まるで悪の伏魔殿が自民都連で、自分は正義の旗を戴くジャンヌダルクだと大見得を切ったもんでした(あーバカバカしい。)
そのプロパガンダに熱狂した都民によって圧勝すると、悪玉に仕立てた自民党に「言い過ぎた」と陳謝し、それどころか古い自民党政治の代名詞のような二階にすり寄るのですから節操がないにもほどがあります。

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「自民党の二階俊博幹事長は9日の記者会見で、任期満了に伴う東京都知事選(18日告示、7月5日投開票)に小池百合子都知事が立候補を表明すれば速やかに推薦する方針を重ねて示した。「最善、最適の候補だ。直ちに推薦し、積極的に応援する」と述べた。小池氏は都議会会期末の10日にも、再選を目指して立候補を表明する方向で調整している」(6月6日山陽新聞)

こんな二階の裏切り行為で、自民支持者は投票すべき候補を失ってしまいました。
それは政党支持ごとの候補者分布をみればわかります。

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こういう国民をナメたまねをしくさったことをしているから、安倍政権の支持率はまたもや30%台のようです。
このまま推移すると、自民は次回に想定される参院選・衆院選ダブル選挙で過半数割れを引き起こす可能性が濃厚です。
かろじて維新を入れて過半数を取れるか取れないかていどに伸び悩み、安倍と二階が揃って退陣・引退というシナリオすら現実味を帯びてきました。

自民は沖縄県議会選挙で、なぜ全国最弱と言われた自民沖縄県連が一定の勝利ができたのか、それはあいまいな野党的与党の公明を切り捨てて、自民党らしい移設容認をバンっとうちだしたからだということを思い出すべきです。

 

 

2020年7月 5日 (日)

日曜写真館 嵐がやって来る

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香港、それは中国大陸で唯一の自由の灯台でした。

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やませ吹く日も灯台は在りつづけ 阿部流水

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海怒る日は 髪いかり 灯台守る 伊丹三樹彦

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今、香港は暗雲に飲み込まれようとしています。

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さようなら香港、とは言いません。 

2020年7月 4日 (土)

中国ほど外交が下手な国は珍しい

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今週は香港に対しての国安法一色になってしまいました。
私も記事を書きながら、どうしてここまで中国という国は外交が下手くそなのかと微苦笑してしまったほどです。

なにもよりによって今でなくても、国際世論は中国にモーレツに批判的です。
そりゃそうです。世界中に感染者1086万人、死者52万人。
感染地域は東アジアから始まり、欧米に拡大し、今やアフリカ、南米にまで拡大していっかな終息の気配もありません。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/
はて、この出火元はどこだったんでしょうね。
武漢ラボから発生していたら致命的ですが、自分の初期隠蔽が原因で感染拡大したことをころりと忘れて、自分はコロナのファーストウィナーだと言いふらしているのですから、鉄面皮にもほどがあります。

もらい感染をした国々は、都市封鎖で経済はガタガタ、コロナ恐慌すら始まってしまいました。
さぁ、この始末どうつけてくれるだ、というのが国際社会の大勢の声です。
それをまたなにも好き好んでかこんな時期に、香港の自由まで摘み取る必要はなかったはずです。
火に油を注ぐとはよくいったもんで、ブレーキを踏みつつ慎重運転すべき時期に、アクセルを目一杯吹かして火の壁に敢然とに突っ込もうというのですからたいしたもんです。
おもわずガンバレーと声援を送りたくなるほどです(送らねぇよ)。

こういう時期を読み間違える、空気を読まないというのが、この中国という「幼児のような大国」の特長です。
外交の上手下手の分け方にこんなものがあるそうです。

・大国で外交が上手な国・・・英国
・大国で外交が下手な国・・・米国・中国
・それ以外の国で外交が上手な国・・・タイ・ベトナム
・同じく           下手な国・・・日本
・自分は天才だと思っているが論外な国 ・・・韓国

中国の立場になって考えてやると、今回の香港情勢でも、去年の夏以前になんらかの手打ちを民主派としておくべきでした。
この段階では民主派は後の5大要求をまとめておらず、自由選挙まで要求していませんでした。ましてや独立などという声はまだ少数派。
妥協するなら、この時点しかなかったのです。
この時点で移送法をいったん白紙にしてしまえば、民主派は戦う対象をなくします。
決断をズルズル引き延ばし、警察暴力だけで制圧しようとするから、一挙に市民全体を敵に回すことになります。
100万ものデモが毎週行われるまで状況がヒートしてから、やっと移送法は止めますと言ってみても、なにをいまさらです。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/miyazakinorihide/2...

こういう拙劣な対応になったのは、一にも二にも習のメンツが大事だったからです。
この男は自分の党内権力維持だけで考えるから、判断が全部後手後手に回って、結局、こんな下策中の下策の国安法を拙速で作って強権支配するしかテがなくなってしまうのです。
あまつさえ38条みたいな外国人も処罰対象に入れてしまえば、国際社会にケンカを売っているに等しいと見なされます

おっと、その前に新型コロナについてけじめをつけておくべきでしたね。
せめて世界最初の発生国として、第三国の調査団を入れて武漢を調査してもらうくらいをするのが常識です。
その報告書に沿って責任関係を明らかにしするていどのスマートさが欲しいのに、あてつけのように「制圧宣言」を得意そうに出すんですからため息がでます。
その理由があろうことか「自由主義の敗北」なんて神経を逆撫ですることを言ってしまい、おまけに恩着せがましく送ったマスクも検査キットも全部粗悪品ときては、挑発しているのか、こるらぁという気分にさせて当然です。

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ここまで中国が外交が下手だと、逆に制裁をしてほしいのかと勘繰ってしまいますが、とりあえず制裁には、3種類あります。

第1に、本来王道は国連安保理での制裁決議です。
ただしもちろんお分かりのように中国が拒否権を発動するでしょうから、使えません。
ですから人権委を使うという変則なことをしていますが、ここには実効性のある制裁はできません。

第2に、人権委での非難声明に賛成国した国々で国際制裁決議をだすことです。
ここにはほぼすべての主要国で入っていて、今回入っていないイタリア、米国はすでにG7外相による共同声明で批判声明に署名していますから、自由主義陣営は批判で結束しました。
韓国が予想どおり脱落したようですが、放っておきましょう。やがてまとめてツケを支払うことになるはずです。

第3に、独自制裁です。
思えば第2次天安門事件の時に、自由主義陣営は国際制裁をかけましたが、約一国だけ脱落しました。
なにを隠そううちの国です。当時もっとも密接な関係を持つわが国が制裁から脱落したために、国際制裁はスッポ抜けました。
今と違って、当時の中国は発展途上国からテイクオフしている時で、わが国の経済援助や技術力に依存していました。
ですから、今と違って第2次天安門事件当時のわが国の制裁はかなり効いたはずです。
それを中国にたぶらかされて脱落してしまうのですから、どうしようもありません。まさに外交下手。
そして当の中国からはいささかも感謝されるどころか、その後反日暴動というお礼をしっかり頂戴しております。
二度と金輪際、この轍を踏まないようにしましょう。

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この苦い教訓を覚えていたのか、自民党が中国非難決議を政府に提出するそうです。

「自民 習国家主席の国賓訪日中止求める方針 「香港傍観できず」
中国が「香港国家安全維持法」を施行させたことを受けて、自民党は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期されている習近平国家主席の国賓としての日本訪問を中止するよう政府に求める方針を固めました。
香港で反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」の施行を受けて、自民党は、中国を非難する決議案をまとめました。
決議案では「法律の施行と同時に大量の逮捕者が出るなど、懸念していた事態が現実のものとなった現在、この状況を傍観することはできず、重大で深刻な憂慮を表明する」としています」(NHK7月3日)

この自民党決議案には

①習国賓訪日の中止。
②香港現地の邦人保護の対応。
③脱出を希望する香港市民への就労ビザの発給など、必要な支援を検討すること。

久しぶりに自民が保守党らしい意地を見せました。
「政治人生の一大事」「私たちは習主席と共に、新しい日中関係を構築したいと願っています」なんて眠いことを言っていた二階氏はさぞ苦々しい顔で聞いていたことでしょう。
ライフワークだった習の訪日も頓挫したことですし、早く引退してください。

2020年7月 3日 (金)

「中国本土から来た男」が仕切る香港行政政府

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やるとは思っていましたが、ここまでとは思っていませんでした。中国が香港に押しつけた国安法です。
内容的には先日来、お伝えしたとおりまさに「ザ・ファシズム」の名に恥じないないようですが、中国はやりすぎました。
よせばいいのに、否が応でも国際社会の神経にヤスリをかけるような第38条を突っ込んでしまったからです。

ご存じのとおり、外国人であっても国安法で摘発できるとする条項です。

●国安法 第六節 有効性の範囲
第38条
本法は、香港特別行政区の永住者の資格を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区に対してこの法律に基づく犯罪を犯した場合に適用される。

昨日記事を書いていて、いくらなんでもオレの読み違いだろうとおもったほどイっちゃっています。
国安法に違反すれば、香港の中はもちろん、香港の外でも国安法を適用でき、しかも外国人でも拘束できるというのですからなんともかとも。

ただし一般論としては、国外における犯罪でも、国内法に抵触すれば逮捕は可能です。
それが国外であったとしても、建前ではできます。それは刑法第2条があるからです。
押えておきます。

●刑法第2条
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。

そして国外においても適用する条項としていくつか事例を上げています。

●刑法第2条
2 第77条
から第79条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
3第81条(外患誘致)、第82条(外患援助)、第87条(未遂罪)及び第88条(予備及び陰謀)の罪
4第148条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪

このように日本の刑法第2条が国外においてなされたことであっても国内法を適用する対象は、内乱罪、通貨偽造罪、有価証券偽造罪など、国家の存立そのものを危うくするような重大な犯罪行為です。
この場合、日本人であろうと外国人であろうと、また犯罪地がどこであろうとも、海外でこのような重大犯罪を犯したすべての者に対して日本の刑法を適用するのがこの刑法第2条なのです。
つまり、あくまでも日本の存立そのものを守るというがこの第2条の主旨です。

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ビジネスインサイダー

一方、今回、中国が国安法に国際社会の声を無視して38条を入れたのは、二つ理由があります。
ひとつは、外国勢力が香港騒乱の背後にいるという確信です。
中国政府は、人が自律して思考し、自らの考えに基づいて権力に戦いを挑む、ということを信じません。
共産党の経験では、革命とはあくまでも党エリートが無知蒙昧な大衆に過激思想を「外部注入」するものだからです。

共産党は香港の民主化人士は、必ずどこかの外国からカネをもらって、その指令に従っているにちがいないとしか発想できません。
彼ら共産党はその「外部勢力」を、米国か台湾だとみています。
ですから、香港民主派人士の背後にいるはずの「外国勢力」を国安法の処罰の対象としたのです。

ふたつめに、共産党は香港問題の収拾を誤ると(既に充分誤っていますが)、対岸の深センや上海に飛び火するかもしれないと恐れています。
またウィグルに飛び火すれば、資源と広大な土地を失います。
チベットが燃え上がれば、中印国境がおびやかされます。
農民が立ち上がれば、そのときはほんとうに共産党国家の終焉です。
共産党は、香港をこれら火薬庫の短い導火線にはしないと決意しています。
怖くて怖くてしかたがない、いつ自分らが暴力でもぎ取ったこの政権が倒れるか分からない、そのときは自分が敵に対してやってきたことを自分がやられる、そう恐怖しています。

だから初期の段階では移送法を白紙撤回するていどで済んだものを頑強に拒み続け、泥沼にして延べ数百万人をデモに立ち上がらせてしまいました。
それは共産党からみれば、市民の要求にひとつでも屈すればすべてを失うと考えているからです。
香港という中国唯一の金融センターを手放すことになろうと、金のたまごを生むガチョウをしめ殺すことになろうと、自分たちの身の安全のほうが大事なのです。
この融通の聞かない頑迷な姿勢が、香港問題を国家の成立案件にまでもちあげてしまい、国安法を生んだわけです。
なんという狭い視野。硬直した政治姿勢。そしてなんというくだらない脅迫観念。

たぶん中国当局が想定しているのは、台湾人、英国籍を持った香港人、あるいは日本などの自由社会に居住する香港人などでしょう。
彼らが香港民主化や独立を叫ぶなら、どの国に居住していようが犯罪とみなします。

具体的には、香港民主活動家が日本で香港支援のビラ撒きをしたり、日本政府に中国に圧力をかけてくれと請願したりすれば、間違いなく国安法違反に問われます。
もちろん外国に居住している者に、中国司法機関がいかに中国人であろうと拘束することはできません。
やれば重大な主権侵害行為として原状復帰を要求されます。
したがって、他の主権国に司直を派遣して拘束することまではしないでしょうが、いかにトランジットてあろうと中国主権範囲に立ち入れば、直ちに拘束される可能性があります。

これを外国人にも適用するというのが国安法の恐ろしいことです。
香港の民主化を支援する外国人が、一歩中国領内に立ち入れば、国安法違反で内偵していた公安に逮捕されるかもしれません。
これは中国本土や香港に駐在する商用渡航者が、このリスクにさらされるかもしれません。

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たとえばここに商社員Aさんという日本人がいるとします。流暢に中国語を操ります。
彼は、かねがね中国の基本的人権状況に強い批判を持っていました。
彼は上海駐在ですが、たまたま香港に遊びに行った時に、民主活動家の大学生と知り合いとなり、いろいろな話も聞いていました。
以来、メールのやりとりていどはしていました。
その時から彼は自分が公安に尾行監視されているようなきがしてならなくなりました。明らかに盗聴されているかんじがします。
家族にも警戒するようにと言っていましたが、いちおうは平和な日々が続きました。
しかしそのときは急にやってきました。
彼が日本に一時帰国する際に、たまたま香港に立ち寄ってから香港空港に入ったところで、香港警察の公安に逮捕されてしまいます。
国安法違反容疑だそうです。

連行された警察署の取調室には、香港公安より明らかに上位にいると思われる正体不明の男もいましたが、訛りから保香港人ではないと気がつきます。
後に判ったことですが、この男は中国本土からきた国家安全維持公署の人間でした。
この国安維持公署の男が、お前は国家分裂団体の活動家と連絡をとっており、資金援助をしているだろう、と言います。
そして読み上げた国安法の条文にこう書いてありました。

● 国安法第29条
(2)香港政府または中央政府による法律や政策の策定・実施を著しく妨害し、重大な結果をもたらすおそれのあるもの
(5)様々な不法な手段を用いて、香港の住民の間で中央人民政府または香港政府に対する憎悪を募らせ、重大な結果をもたらす行為。

お前は反政府分子と接触し、中華人民共和国政府に対して「政策の実施を困難にさせ」、「憎悪を募らせる」文書を受け取っていたではないか。
国家転覆罪の共犯だ。

びっくりしてAさんがなぜ外国人の私を逮捕するのか、主権侵害じゃないかと抗議すると、この男は国安法では外国人でも裁けるんだ、なんならもっとしゃべりやすい環境に連れて行ってやろうかと言います。
本土に移送して、中国公安に引き渡そうか。本土の同僚はオレのように優しくはないから覚悟しておくんだな。
大使館を呼べと言うと、上海にいるお前の家族までを同罪にしたいなら呼んでやる。
家族を人質にされてがっくり折れたAさんは、取調官が言うとおり自分は米国のスパイに情報をわたしていましたという供述調書を書かされました。

これは現時点ではフィクションにすぎませんが、事実に基づいています。
外国人でも国安法で逮捕拘束できるのは事実です。
いったん逮捕してしまえば容疑者を中国大陸に送致して中国の裁判所で裁くこともできるとも規定されています。

「第56条には、中国の最高人民検察院が関連する検察機関を指定して検察権を行使し、最高人民法院が関連する裁判省を指定して司法権を行使する、とある。その場合、中国国内の刑事起訴法を適用することになる。つまり、被疑者を中国に送致して、中国の法律で中国の検察と司法が裁く、ということだ」
(福島香7月2日『香港を殺す国家安全法、明らかになった非道な全文』)

また、「中国からの男」がすべてを決定するのも事実です。

「第5章では、中央政府が香港に設立する国家安全維持公署(国安公署)の機能などが詳しく説明されているが、はっきりと「国家安全犯罪を法に基づき処理すること」と規定し、香港の要請と中央政府の承認を得て管轄権を行使することもできるとある。つまり中国当局が香港内で執法行為を堂々と行えるのであり、一国二制度の完全な否定である。また、中聯弁や解放軍香港駐留部隊と連携をとり共同で任務にあたる、ともいう」
(福島前掲)

国安法で、香港警察の上位組織として新たに国家安全維持委員会も作られ、この委員会は香港政府長官を飾り物にして、中国政府からの「顧問」が一人派遣され、「助言する」ことになっています。
この委員会は非公開で、なにがどのように決定されたのか分からない仕組みとなっています。
たぶんこの「中国政府からの顧問の助言」が一切を牛耳ることになるはずです。

かくして香港は死にました。

 

 

2020年7月 2日 (木)

香港国安法を読む

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国案法が施行され、1万人が勇気あるデモが行い、国安法最初の逮捕者を出しました。

「香港=木原雄士】香港警察は1日、6月30日に施行された「香港国家安全維持法」に違反した容疑で男女あわせて10人を逮捕した。施行から1日足らずでの初の逮捕者で、香港の統制強化を進める中国当局の姿勢が鮮明になった。違法集会や武器所持など同法以外の容疑も含めて逮捕者は約370人に上った。警察は逮捕した10人の一部が「香港独立」や2019年の大規模デモのスローガンだった「光復香港 時代革命」の旗やプラカードを所持していたと発表した。街頭での荷物検査でかばんなどの中から見つかり、逮捕されたケースもある。
警察によると、最初に逮捕された男は香港島の繁華街、銅鑼湾(コーズウェイベイ)で取り調べを受けた。香港メディアによるとバックパックの中に「香港独立」と書かれた旗を持っていた。
「国家の安全を脅かすごく少数の者にとって国家安全法は鋭い剣になる」。中国政府の出先機関トップの駱恵寧氏は香港が中国返還23年を迎えた1日午前、記念式典でこう演説した。法施行前は欧米など国際社会の批判や市民の懸念を意識して慎重に運用するとの観測もあったが、さっそく法律の威力を見せつけた。
詳しい容疑は分かっていないが、国家分裂を企てた罪に問われる可能性がある。特定の旗やプラカードを持っているだけで逮捕されるのはこれまでの香港では異例だった。言論の自由が損なわれ、民主派の政治活動を萎縮させる懸念が早くも現実になった」(日経7月1日)

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https://article.auone.jp/detail/1/4/8/6_8_r_202007

逮捕の様子を動画でみるとデタラメで、暴力行為があろうとなかろうとランダムに逮捕できるということです。
象徴的なのは国安法逮捕第1号が、ただ「香港独立」の旗を所持していただけの人が逮捕されたことです。
どこの世界に旗を持っていただけで捕まえる国があるのか!

これで判るように今後、いかなるデモもすべて国安法で処罰できます
まさに無抵抗の人たちになぶるように襲いかかるというかんじです。
言うも愚かですが、権力の濫用の極みです。
これがファシズムでなくて、なにがファシズムなのか。

民主派は地下に潜って先鋭化する部分と、海外に脱出する部分に別れるでしょう。
胸が潰れる思いです。

さて国安法がやっと公開されました。といっても、施行と同時というひどさです。
しんじられないような民主主義の逸脱です。今まで香港は行政が発起し、専門家で詰めて内容を市民に開示し、立法院に3回審議を重ねた後に、最終的にはパブリックコメントをもらって施行するというのがルールでした。
それを本土にもっていってしまい、全人代というイカサマ「国会」の短時間の審議で決議し、即日施行というのですから、すさまじいかぎりです。

この国安法の意図について中国外交部の趙立堅報道官は 5月29日の記者会見でこう述べています。

「分離独立活動や国家の安全を脅かす活動を認めるような国は世界のどこにもない」

中国の意図は、これに尽きるでしょう。
つまり香港の自由主義陣営への接近をいかなる形でも許さないということです。
今回の国安法冒頭の第1条はこう書いています。

●国安法
第1章総則
第1条
「一国二制度」、「港人治港」、「香港人が高度の自治を行使する」という原則を揺るぎなく完全かつ正確に実行し、国家利益を守るために、 香港特別行政区に関する国家分裂、国家政権転覆、組織的テロ、外国・域外勢力との結託による国家安全危害などの犯罪を予防し制止し、懲罰し、香港特別行政区の繁栄と安定、住民の合法的権益を中華人民共和国憲法と香港基本法、全人代の香港版国安法制に関する決定に基づいて保護するため、本法を制定する。

この冒頭の第1条に中国がやりたいことのすべてが詰まっています。
国家転覆をさせない、外国勢力と接近させない、そのためにあらゆることを可能とする、これが国安法の意図です。
このような脅迫じみた行間から、中国政府がいかに香港民主化デモに怯えきっていたのか、これが内陸のウィグルやチベットに、あるいは続発する農民暴動に飛び火することを恐怖したことが透けて見えます。

そして、このような香港民主化デモは「外国や外部の勢力の干渉」だと言い切っています。
これは中国が散々やってきた浸透工作を白状するようなもので、内部の騒乱は「外部勢力の工作」にしか見えないのです。
香港市民が100万人立ち上がろうと、共産党の目には「外部勢力」に操られて、カネをもらってやっているんだろうということです。
やれやれ、蟹は甲羅に合わせて穴を掘るとはよくいったもんで、それは米国に対して今あんたらがやっていることです。

国安法が取り締まり対象とした4点
①国家の分裂
②中央政府の転覆
③テロ活動
④外国勢力などとの結託

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おいおいなんだこれは、全部自分が権力を奪取した時にやってきたことばかりじゃないですか(苦笑)。
そもそも共産党政権は、当時の国際的に正統政権として認知されていた中華民国から「国家分裂」させてできたものです。
しかも「統一選戦線術」というコミンテルンの方針に沿って国共合作という融和路線をとるふりをしながら、国民党軍に浸透し骨抜きにしていきました。
そして大戦が終結するや、国民党に戦争をしかけて国土を二分する血なまぐさい内戦を引き起こしています。

仮に当時国安法があれば国家分裂罪の条項が適用となり、重罪です。

●国安法
第20条
国家分裂、国家統一破壊の組織、計画、実施に参与したいかなる者も、武力を使用、あるいは武力を使用すると脅したか否かにかかわらず、すなわち犯罪である。
一) 香港または中華人民共和国のその他の部分を中国人民共和国から分離させようとすること。
二) 香港または中華人民共和国のその他の部分の法的地位を不当に変更すること。
三)  香港または中華人民共和国の一部を外国統治下に移すこと。
 前項の罪を犯した者は、その主犯、あるいは重大な罪の場合、無期懲役又は十年以上の懲役、積極的に参与した者は三年以上十年以下の懲役に、それ以外は三年以下の懲役、拘留又は行動制限におかれる。

この第20条の主語を入れ換えてパロディを作ってみましょう。

●中華民国版国安法があったら
第20条
中華民国に対して国家分裂、国家統一破壊の組織、計画、実施に参与したいかなる者も、武力を使用、あるいは武力を使用すると脅したか否かにかかわらず、すなわち犯罪である。
一) 中華民国の部分を分離させようとすること。
二) 中華民国の法的地位を不当に変更すること。
前項の罪を犯した者は、その主犯、あるいは重大な罪の場合、無期懲役又は十年以上の懲役、積極的に参与した者は三年以上十年以下の懲役に、それ以外は三年以下の懲役、拘留又は行動制限におかれる。

ね、モロに自分らがやったことは国安法に真正面から違反する行為であって、その結果、今共産党は政権に着いているのです。
ならば遡及法で自分らを死刑にしたらどうですか。
まぁ冗談はさておき、革命でできた政権は革命におびえるということがよくわかります。

キモは武力行使と暴力です。
共産党がいかに赤色テロをやり捲くったのかは、中国革命の歴史を少しひもとけばわかるはずです。
テロこそ共産党の代名詞と言っていいほどえげつないテロを仕掛けました。
それは中華民国政府機関だけにとどまらず、協力者、資金提供者、果ては支配した地域の地主、富農に至るまでをようしゃなく虐殺しました。
「反動分子」だけに限らず、内ゲバで大量の粛清者までだしています。

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1930年代、中国で地主を銃殺しようとしている八路軍(Public Domain)

とまれ、中国革命ほど無辜の民が大量に殺された革命はありません。
また政権奪取後も、暴力街道まっしぐらで、文化大革命に代表される恐怖政治で人民を縛りつけました。
 犠牲者数については、中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(第十一屆三中全会)において「文革時の死者40万人、被害者1億人」 としていますが、外国の研究では死者2千万人という説も存在します。
また中国革命全体では、6千万人が殺されたとされる説もあります。
これは第1次大戦(3700万)と、第二次世界大戦(6600万)の死亡者数をうわまわっています。

しかし思えば共産党は、思想からしてマルクス主義という外来のものですし、共産党組織といえばソ連共産党に作ってもらってもの、指導はコミンテルンから派遣されたロシア人、という丸ごと「外国勢力の干渉」だったのですから、いまさら「外国勢力の干渉」を罪に問うなんて片腹痛い。

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中国政府当局は香港市民から、私たちのデモとあなた方が権力奪取した中国革命とどこが違うのですか、あなたがたが国安法で罪としていることすべてそれを数百倍する形であなた方がやってきたことばかりじゃないですか、と問われればなんと答えるのでしょうか。

民主的なルールによってできた私たちの政府ならいくらでも答えようがあるでしょう。
では選挙で与党以外を選んでくれ、その投票数で決めようと言えばよいだけですから。

小学生に聞いてもいい。
選挙で自分が好きな政党を選んで、そこにがんばってもらいましょうって公民の教科書に書いてあるよとこたえるでしょう。
中国にはそうこたえられないのです。ここにこそ本質があります。

中国は自由選挙を否定したところで、政権を作り上げてしまっているから、香港市民に民主化デモを起こされました。
作られかたに重大な矛盾があったのです。
中国革命のような暴力革命は暴力故に否定されるのではなく、それによって出来た政権が政権選択の自由を閉ざすが故に否定されねばならないのです。

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国安法を読んで、親中派の人間はなんだこんなものは日本にだって内乱罪や外患誘致罪があるゾ、なんてうそぶいていますがまったく違います。
自由主義諸国と同じようにみえる内乱罪すらも、これらの国では言論・結社の自由が保証されており、なにより選挙という体制選択の自由が保証されていて、初めて暴力で政権を倒すことに内乱罪を適用すると言っているのです。
それらをすべて否定し、体制選択の道を初めから閉ざしている国とでは、根本的に別次元なのです。混同してはいけません。

●第2章 国家政権転覆罪
第22条 武力、武力による恫喝、その他の不法な手段により国家政権を転覆させるために、次の行為を組織し、計画し、実施し、これに参与することを犯罪とする。
一) 中華人民共和国憲法が定める中華人民共和国の基本的な体制を転覆させ、又は弱体化させること。
二 )中華人民共和国又は香港特別行政区の中央機関を転覆させること。
三) 中華人民共和国または香港特別行政区の中央当局の機関が法律に基づきその機能を発揮することを著しく妨害し、妨害し、または弱体化させること。
四) 香港特別行政区の権力機関がその機能を行使する場所及びその施設を攻撃し、又は損傷させ、通常の機能を発揮することができないようにすること。前項の罪を犯した者は、主犯、重大な犯罪については、無期懲役又は十年以上の懲役、積極的に参加した者は、三年以上十年以下の懲役、その他参加した者は、三年以下の有期懲役、拘留又は管制下に処する。

第23条
他人がこの法律第二十二条の罪を犯すように扇動、幇助、教唆、又は金銭その他の財産をもって出資した場合も犯罪とし、懲役、拘留又は管制下に処する。悪質な場合は5年以上10年以下の懲役、状況が軽い場合は、5年以下の有期懲役、拘留または管制下に処する。
第三節 テロ行為の罪

第24条
中央人民政府、香港特別行政区政府、国際機関を脅迫したり、政治的思想を実現するために国民を脅迫するために、次のようなテロ行為を組織し、計画し、実行し、参加すること、あるいは実行すると脅迫して、社会に重大な危害を与えるか、または与えることを目的とするテロ行為を行うことを、犯罪とする。
一 )人に対する重大な暴力。
二 )爆発、放火又は毒性、放射性、感染性病原などの放出
三 )交通手段、交通インフラ、電気インフラ、ガスインフラ、その他可燃性、爆発性の設備の破壊
四) 水道、電気、ガス、交通、通信、ネットワーク等の公共サービス及び管理の電子制御システムに重大な支障を与える、または破壊すること。
五) その他危険な手段で公衆衛生又は安全を著しく脅かすこと。
前項の罪を犯して、人に重傷を負わせ、若しくは死亡させ、又は公私の財産に著しい損害を与えた者は、無期懲役若しくは十年以上の懲役、状況が比較的軽い場合は、三年以上十年以下の有期懲役に処する。

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読んだとおり「国家転覆」にかかわった者は「煽動・幇助・教唆」という概念で゙処罰されます。
自由主義諸国においての教唆は因果関係のある具体行為に適用されますが、中国にあっては「デモにいこう」「移送法反対」「警察は暴力をやめろ」といった言論一般まで含んでいます。
つまり、解釈ひとつで、なんでも引っかけられるのです。
こういういくらでも当局の思惑で拡張可能な法文ほど悪用されるものはありません。
また資金援助をした者まで摘発対象としていることから、カンバした者、あるいは多くあるデモを支援する民間企業も取り締まり対象となります。

つまり拡大解釈で中国政府に反対するものは全員拘束し処罰できるというすさまじい法律なのです。

そして第38条では、外国人が海外で行った行為も処罰の対象としているというトンデモぶりです。

●第六節 有効性の範囲
第38条
本法は、香港特別行政区の永住者の資格を有しない者が、香港特別行政区の外で香港特別行政区に対してこの法律に基づく犯罪を犯した場合に適用される。

この38条を使えば、外国人が「香港行政区の外で」、つまり日本で香港民主派支援を言えば処罰対象とするということになります。
おいチャイナ、正気か。どこの国の法律に、外国人がその主権国でしたことを処罰する法律なんてあるんでしょうか。
あんた、外国で国案法に抵触することをした「香港永住権を有しない者」、つまり外国人が国案法反対を反対をさけんだら、適用するってことを言っているんです。もはや笑うしかありません。
では、今私が書いているこの記事も、「中国の分裂」を教唆煽動しているわけですから、さぁどうぞ捕まえて下さい。

 

 

 

2020年7月 1日 (水)

香港の終り

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香港という自由都市が消滅しました。
地図上には残っていますが、それも内実は「香港自治区」にすぎません。
自由都市から「自由」を奪えば、それは単なる地図上の記号にすぎませんから。

香港国家安全法が成立し、即日施行されました。

中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は30日に開いた会議で香港に導入する「香港国家安全維持法」を全会一致で可決・成立させた。習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が公布。香港政府は同日午後11時(日本時間7月1日午前0時)に施行した。英国から中国に香港の主権が返還されて23年となる7月1日に合わせた形だ。高度な自治を返還後50年間にわたって保障した「一国二制度」が形骸化されることになり、香港は歴史的な岐路に立った。(略)
法案の概要によると、香港において国家の分裂や政権の転覆、テロ活動、海外勢力と結びついて国家の安全に危害を加える行為を処罰するのが柱だ。治安維持の出先機関「国家安全維持公署」も香港に新設する。
全人代は5月下旬、香港での抗議デモの取り締まりを狙い、国家安全法制の香港への導入を決めた。全人代の常務委会議は、通常2カ月に1度のペースで開くと定められているが、今回は6月中に2度も開くという異例のスピード審議で可決へとこぎつけた(産経7月1日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/f3fab9c25cf796dfd86625b110b29cac5f09ecdb

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これを受けて香港民主化団体は一斉に解散し始めました。
戦いを止めたわけではなく、国安法の下では、このような反政府団体自体が取り締まりの対象となるからです。

「香港の民主派団体、解散相次ぐ=黄之鋒氏の「香港衆志」も
香港の主要な民主派団体「香港衆志」は30日、解散すると発表した。「香港国家安全維持法」制定を受け、民主派や独立志向の団体の解散・活動停止表明が続出。同法施行によって当局の取り締まりが強化されることを警戒しての動きだ。
 香港衆志はフェイスブックを通じて「団体の運営継続は困難となった。より柔軟な方法で抗争を続けるべきだ」と解散を発表。香港衆志は2014年の民主派による大規模デモ「雨傘運動」の中心メンバーによって結成され、国際的に著名な活動家の黄之鋒氏や羅冠聡氏、周庭氏らが率いてきた」
(時事7月1日)

また、民主化運動の中心メンバーの逮捕拘束は決まっていることで、今日からでも民主人士の大規模な逮捕が始まると予想されます。
天安門事件で米国に逃げている王丹によれば、具体的に現時点で名が上がっているのは、蘋果日報創始者の黎智英(ジミー・ライ)、香港自決派政党事務局長・黄之鋒(ジョシュア・ウォン)などで、すでに逮捕が決まっているそうです。
いままで反骨の報道姿勢を取り続けてきた蘋果日報のジミー・ライは、既に覚悟を決めておりこのようにコメントしています。

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ジミー・ライ ブルームバーク

「 どこにも行かない。(7月1日逮捕の情報)を信じようと信じまいと、関係ない」
(福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.105 2020年6月30日)

またジョシュア・ウォンもこのように述べています。

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ジョシュア・ウォン( 黄之鋒)右と周庭(アグネス・チョウ)

「生きるか死ぬかの瀬戸際だけど、私の対応は変わらない。あらゆる手段を駆使して、私たちの愛する香港をまもっていきたい」
(福島前掲)

この覚悟は立派ですが、私は一刻も早く台湾や米国、ヨーロッパに脱出してほしいと思います。
逮捕された場合、中国本土に送致され、以後まったく消息がつかめなくなる可能性が高いからです。
中国本土に送られた場合、ブラックボックスに入れられたのと同然で、自由主義国は一切救援ができなくなります。
殺害されても何の証拠も残りません。今までどれだけ膨大な人々がこうして抹殺されたことか。
しかし、彼らのパスポートは既に取り消されていると考えたほうが妥当ですから、密航するか、米国の外交施設に逃げ込むしかないでしょう。

彼らを先駆けとして、ほぼすべてのデモ参加者が拘束されることになると思われます。
王丹はこう言います。

「もし、二人がたやすく逮捕されてしまえば、反送中デモに参加していたすべてのデモ参加者がブラックリストに乗り、同様に逮捕されうるということだよ。
香港の若者は逮捕され、拷問され、長く交流され、その運命がどうなるかわからなくなる。
もし中共が香港でこういう悪法をあえて執行しようとしたら、私は香港人がみんなで立ち上がって最後の抵抗を行うように望む」
(福島前掲)

私は「最後の抵抗」は望みません。それは死を意味するからです。
死ではなく生き残って、香港以外の土地で闘争を継続されることを望みます。

この国安法は法律の名に値しません。
現時点では、香港版国安法全6章66条の条文は未公開ですから、いかなる罪に問われるのか、誰がどのようにどれだけの期間、なんの権限で拘留できるのか、一切不明です。
このような法律の内容が一切市民に知らされていない中で、これほどの強権法を通すのですから、民主党議員で弁護士のジェームズ・トゥが言うように「これは、まともな政権のすることではない」のです。
そうです、これを仕掛けているのは、人権という概念自体を持たない暗黒政府であることを忘れないでください。
これこそが現代のファシズムです。アンチファシズムというならば、これこそファシズムそのものではありませんか。

しかもなんと遡及法です。
法律が出来てから法に沿って取り締まると言うならまだしも、過去に遡って違反行為を取り締まることが出来るのですから唖然となります。
これは香港区代表で全人代常務委員の譚耀宗率が、出発前にこのように言い放ったことから発覚しました。

「一定の遡及期間は必要で、刑罰も軽すぎてはいけない、という意見が常務委員からでており、法案はそれを反映するだろう」
(福島前掲)

また量刑については、重罪適用があるだろうといわれています。

「一部流れている情報によれば最高終身刑もあるという。また、人民代表の一人、葉国謙によれば刑罰は低すぎることはない。政権転覆や国家分裂などの罪を抑止できるくらいの重罰が適当であるとして、「終身刑がなぜだめなんだ?」という。「牙が必要だ、なかでも鋼鉄の牙が!」と強調した。(略)
マカオには、基本法23条に基づいた国家安全条例があるが、それでは政権転覆罪、国家分裂罪は、懲役10-25年、複数の罪に問われると最高懲役30年になりうる。また中国本土の刑法第105条の国家政権転覆の組織化、画策、実施の罪、103条の国家分裂・国家統一破壊の組織化、画策、実施の罪は、主犯は無期懲役あるいは10年以上の懲役となっている」(福島前掲)

つまり、おそらく今日からでも民主人士は逮捕拘束される可能性が極めて高く、しかも遡及して民主化デモ発生以来のすべてのデモ参加者に対して何らかの罰則が加えられる可能性が濃厚です。
恐ろしい風景ですが、半年、一年後には香港の青少年層は根こそぎ消滅するかもしれません。

一方、国際社会はコロナとBLM一色であり、残念ながら民主人士を救援するに至っていません。
米国は6月25日、香港人権法(Hong Kong Accountability Act) を作って、香港弾圧に関与する人や組織のビザ廃止する方針を決めました。
ポンペオ国務長官は26日、中国の香港国安法施行をけん制する目的で、香港の自由を侵害する責任者の中国共産党の当局者に対するビザ(査証)を制限すると発表しています。
福島氏によれば、「具体的に名指しはしていないが、今のところ政治局常務委員の中で、香港、マカオ、統一戦線担当の汪洋と韓正、駱恵寧(中聯弁主任)の名前がとりざたされている」そうです。
しかし、最大の責任者であるはずの習近平、今回の法案成立を作った習側近の全人代常務委員長の栗戦書がリストアップされているかは不明です。

香港人権法はこの香港の自治侵害の責任者だけにとどまらず、彼らと取引のある金融機関などに制裁を科すセカンダリーボイコットを定めています。
どのように運用されるかまだ不明ですが、適用方法によっては厳しい制裁となりえるかもしれません。

いずれにしても、米国は国安法が適用されれば香港の特恵待遇を廃止するとしていますから、これで香港の国際経済都市の生命は根底から破壊され、ただの中国の一地方都市となることに決まりました。
また今まで香港が果たしてきたアジアの金融センターの機能は、上海に行くはずもないので、自動的に東京に来ることになるかもしれませんが、少しも嬉しくはありません。

香港の民主人士がひとりでも多く脱出することを祈っています。

 

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