海兵隊の新方針 沖縄に対艦ミサイル部隊を展開させる
アジアの哲人政治家だった李登輝氏が死去されました。
李先生なくては、今の自由で民主主義国家の台湾、いや東アジアはありえませんでした。
ご苦労様でした。あなたに学ばせていただいたことは、ここには書き切れないほどです。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
さて米国がまたもう一歩、尖閣について踏み込んだ発言をしています。
シュナイダー在日米軍司令官
[東京/北京 29日 ロイター] - 在日米軍のシュナイダー司令官は29日、尖閣諸島(中国名:釣魚島)周辺における中国公船による「前例のない侵入」の監視を米軍が支援することが可能との見解を示した。これに対し、中国外務省は、釣魚島は中国固有の領土であり、この地域で法執行活動を行う権利を有すると表明した。
日本と中国はともに尖閣諸島(釣魚島)の領有権を主張。日本は今月発表した防衛白書で、中国公船が領海侵入を繰り返していると指摘した。
この問題について、米国は中立な立場をとっているが、同盟国である日本が攻撃に対応する場合は支援する方針を示していた。
中国外務省の汪文斌報道官は29日の定例会見で、シュナイダー司令官の発言について問われ、関係当事者らが平和と安定のためにならない行動をとるのでなく、地域の安定維持により一層取り組むことを中国は期待すると述べた。
シュナイダー司令官はネット会見で、「現状に対する米国の日本政府支援へのコミットメントは100%確固たるもの」とし、中国船はこの海域に出入りしており、これは日本の統治に挑んでいるとみていると話した」
既報ですが、このシュナイダー発言の前の7月10日、 米陸軍ライアン・マッカーシー長官が、太平洋地域で中国に対し情報、電子、サイバー、ミサイル作戦を展開する2つの特別部隊を配備する計画を明らかにしています。
軍種として長官は、長距離精密誘導兵器、極超音速ミサイル、精密照準爆撃ミサイル、電子戦力、サイバー攻撃能力を備える可能性があると述べています。
関連記事 『米国、米軍尖閣に配備か?』
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2020/07/post-f711f8.html
そしてこの後にもうひとつ米軍がなにを考えているのかもっとよく判る発言は、今年3月のバーガー海兵隊総司令官のものでした。
「27年までに「新ミサイル部隊」 対中国、沖縄に展開―米海兵隊トップ会見
【ワシントン時事】米海兵隊トップのバーガー総司令官は23日、時事通信との電話会見で、2027年までに対艦ミサイルなどを装備した「海兵沿岸連隊(MLR)」を3隊創設し、沖縄とグアム、ハワイに配置する考えを明らかにした。総司令官は3月、海兵隊が今後10年間で目指す方針を示した「戦力デザイン2030」で、戦力構成を抜本的に見直し、対中国にシフトする姿勢を鮮明にしている」(時事7月25日)
なるほどね、このようにつなげると、この米軍の尖閣支援はただの同盟国支援ではないのがわかります。
今日あたり、やったぁ米軍が尖閣の日本の窮状を救ってくれる、という安易な見方が溢れそうですが、そうではなく米国の太平洋防衛シフトが転換したのだとわかります。
これが判るのは、「戦力デザイン2030」(“Force Design 2030”) という米軍の新たな展開について述べられた文書があるからです。
これは在沖縄海兵隊も大きく関わることがいくつかありますので、注目してください。
バーガー海兵隊総司令官 時事
「海兵隊の構想によると、沖縄を拠点とする第3海兵遠征軍傘下の海兵連隊を軸に再編成を行い、MLR3隊を創設する。バーガー総司令官は、既にハワイでは1隊目の編成が始まっており、沖縄とグアムに設置予定の残る2隊についても「27年までに完全な運用体制が整う見通しだ」と明言した。
MLRの設置時期が明らかになったのは初めて。既存の海兵連隊を再編するため、沖縄に駐留する総兵数が増えることはないという。
MLRは1800~2000人規模とみられ、長距離対艦ミサイルや対空ミサイルを装備する。有事の際には島しょ部に分散展開し、陸上から中国軍艦艇を攻撃して中国軍の活動を阻害。米海軍による制海権確保を支援するのが主な任務となる。
バーガー総司令官は、自衛隊が水陸両用車や輸送機オスプレイ、最新鋭ステルス戦闘機F35など相互運用性のある装備を保有していると指摘。「(海兵隊と)完全に補完し合う関係だ」と強調し、南西諸島での自衛隊との合同演習にも意欲を見せた。
今回の海兵隊再編が「日本に影響を与えるのは間違いない」と認め、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着くのを待って日本を訪問し、今後の改革などについて直接説明する考えを示した「(時事 7月25日 戦車全廃、内陸から沿岸部隊へ 中国にらみ変貌―米海兵隊 )
このように海兵隊のシフトが大きく変化します。
ひと言でいえば、いままで中東やアフガンに展開することに最適化された戦力配備から、中国との軍事衝突を真正面に据えた配備に転換します。
「バーガー司令官は「戦力デザイン2030」の中で「18年策定の国家防衛戦略は、海兵隊が中東での過激派対策からインド太平洋における大国間競争に任務をシフトするよう求めた」と説明。「内陸から沿岸、対テロ組織から同格の競合国。このような任務の根本的変化は海兵隊の組織や訓練、装備に大幅な変革を必要とする」と強調した」(時事前掲)
今の海兵隊シフトは中東と朝鮮半島危機に特化したもので、中国との対決局面は台湾ていどに限られてきました。
しかしこの間の中国の飛躍的軍拡は海洋にまで及び、米軍の介入を阻む接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略を打ち出し、ミサイル戦力を大幅に増強しています。
特に中距離弾道ミサイルは、米露が中距離核戦力(INF)全廃条約で縛られていることを横目に、射程程500~5500キロの地上発射型ミサイルを大量に配備してきました。
去年8月に米国がINFを廃棄したのは、表面的にはロシアの条約破りを口実にしていますが、真意は中国の中距離弾道ミサイルに対抗するためです。
では、具体的にそれはどこに配備されるのでしょうか。
もちろん日本です。もっと限定すれば沖縄から奄美を含む第1列島線であると思われます。
そのために海兵隊部隊と装備の再編が行われます。
①戦車部隊の全廃・砲兵部隊・オスプレイ・水陸両用車両・F35Bの削減
②1万2000人削減
③ロケット部隊(HIMARS) を7隊から21隊に増強し、「海兵沿岸連隊」(MLR)を沖縄島しょう部に配備
今までの海兵隊の任務は、彼らの合い言葉どおり"first to fight"(最初に戦う)、つまり空中や海上から真っ先に乗り込んで橋頭堡を築き、陸軍本体を迎えるという任務が与えられていました。
ところが実際には、緊急展開部隊の悲しさで一種の無任所部隊となっていました。
ですから海兵隊は最精強であるにもかかわらず定まった守備エリアを持たず、常に強襲揚陸艦に乗ってアチラコチラに助っ人に行くことを強いられてきました。
米軍4軍でも、差別化できていないために、最も予算配分が少なかったのがこのマリーンだったのです。
長期化するアフガンやイラクなどでは、陸軍の影でジっと耐え忍ぶ海兵隊の姿があったといいます。
しかし状況が変わりました。
今度この10年間で海兵隊に与えられる新任務は、東シナ海の尖閣諸島や南シナ海の南沙諸島・西沙諸島の周辺で中国艦隊を制する役目です。
いつでもどこでもではなく、今や米軍の主敵にまで成長した中国軍、特に海軍・海兵隊を対象としてその進出を阻止するのが新たな任務です。
それに伴い今までの任務で重要な装備だったオスプレイや榴弾砲、戦車はバッサリ切ってしまい、これは陸軍にまかせて、自分は対艦ミサイルを装備して中国と戦うということになります。
もちろん段階的に切り替わっていくでしょうし、いきなりオスプレイや戦車が全廃されるとは思えませんが、少なくとも今後10年で海兵隊は空中殴り込み部隊から、沿岸に拠点を定めて対艦ミサイルを持つ部隊に変貌するのです。
いうまでもなく、この海兵隊の再編は沖縄の第3海兵遠征軍がその中心となります。
1万3千人削減はちょうど1個師団の定員数ですので、米本土にいる第1海兵師団が解隊となり、第3海兵遠征軍は強化されると思われます。
そしてこの在沖海兵隊も再編成され、その中の3つの連隊が「海兵沿岸連隊」(MLR)として再編されます。
装備するのは対艦ミサイルを主装備とし、NSM地対艦ミサイルとトマホーク巡航ミサイルだと推測されます。
なお陸自が、現在、石垣島、宮古島、奄美大島に対艦ミサイル部隊の配備を進めていますが、当然これとの共同が前提のはずです。
自衛隊は沖縄本島に新装備の島嶼防衛用高速滑空弾の配備が予定されており沖縄本島から尖閣諸島までを防衛エリアにする予定ですが、なにぶん開発中であり現実に装備されるのはもう少し先の話となります。
それまでそれをカバーするのが、「海兵沿岸部隊」のトマホーク巡航ミサイル部隊になると思われます。
このように、尖閣や離島防衛は日本の単独の領分として突き放してきた米国の立場は大きく切り替わり、広く東シナ海防衛網は日米が協力して構築していく性格のものに変化していきます。
これで在沖海兵隊がグアムへと後退する可能性はほぼ消えました。
逆にむしろ沖縄本島・離島・奄美は米軍の最重要拠点としてむしろ強化されていくことになると思われます。
※タイトルを修正しました。
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